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ICT と薬剤師の役割

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ICT と薬剤師の役割
2006 年 2 月 10 日放送
ICT と薬剤師の役割
山形大学医学部附属病院
副薬剤部長・助教授
白石 正
□ICTには、実際の業務を行っている薬剤師が参加すべき
感染対策は、チーム医療の一環として、職種の異なったスタッフがそ
れぞれの専門性を生かし、連携を取り合いながら実施すべき業務のひと
つです。そのため、薬剤部門のスタッフも積極的に参加しなければなり
ません。各部門の責任者から構成される感染対策委員会は、病院全体の
感染管理について決定する組織であるため、薬剤部門からは薬剤部長が
委員となっているのが一般的です。一方、実際の医療現場で感染防止に
取り組んでいる ICT、すなわち感染制御チームには、実際の業務を行っ
ている薬剤師が参加すべきであると考えています。
ICT は、病院感染の発生および拡散を防止するために、病院内の巡回
や医療スタッフの教育を実施し、また医療現場の感染情報を把握して万
一アウトブレイクが発生した場合には、迅速な行動を取ることができる
体制を取っていなければなりません。このチームの中で、感染制御薬剤
師はどの部分にかかわっていかなければならないかについてお話しし
たいと思います。
□巡回に参加して、薬剤師の視点で確認する
先ず巡回指導ですが、病棟だけではなく中央診療部門、例えば手術部、
輸血部、材料部、検査部、放射線部、病理部その他、外来、給食部門な
ど感染に関連する多くの部門を巡回する必要があります。この巡回では、
感染対策がマニュアルに従って実施されるように指導することや、病棟
での意見を聞き入れることが重要です。そして ICT 検討会で改善策な
どについて話し合います。巡回は医療施設の規模によって異なりますが、
通常は 3~4 名の医師、看護師から構成された ICT スタッフによってな
されています。これに、薬剤師もぜひ参加してください。医師や看護師
に比較して ICT の薬剤師は 1~2 名程度と少ないため、毎回の巡回には
参加できないかもしれませんが、できる限り参加して病棟での感染対策
の現状を把握し、抗菌薬の使用状況や消毒薬の適正使用などについて薬
剤師の視点から確認することが重要です。
感染対策の上で重要とされる消毒薬については、使用濃度、使用期限
のチェック、手洗いおよび手指消毒の指導がポイントとなります。また、
抗菌薬が適正に使用されているか否かについて、カルテを閲覧し、医師
とともに抗菌薬の投与期間が適切であるか、検査部から報告される抗菌
薬感受性試験の結果を反映した抗菌薬の選択がなされているか、投与量
は適切であるか、また、抗 MRSA 薬やアミノグリコシド系抗生剤につ
いては TDM がなされているかなどをチェックしてください。
□抗菌薬や消毒薬の使用統計を作成・把握
また感染制御薬剤師は、ICT 検討会や感染対策委員会に報告する資料
を定期的に作成しなければなりません。そのひとつとして抗菌薬の使用
統計があります。各病棟で使用された抗菌薬の種類および使用量は、薬
剤部から各病棟に払い出される薬品使用統計から知ることができます。
毎月使用された抗菌薬の統計を一覧表として作成することにより、各病
棟での抗菌薬使用傾向が把握できます。また、これら毎月の統計を蓄積
することによって、年次使用割合を知ることができます。さらに、これ
らのデータから月毎の系統別抗菌薬の使用割合も算出することができ
ますし、さらに年間の系統別抗菌薬の使用割合の動向も知ることができ
ますので、抗菌薬使用と耐性菌の関連についての重要な資料となります。
ICT では薬剤部で作成した資料と検査部から提出される病棟別分離
菌情報をもとに、抗 MRSA 薬の適正使用を監視することもできます。
例えば、ある病棟でその月に MRSA が分離されていないにもかかわら
ず抗 MRSA 薬のオーダーがなされていれば、予防投与の可能性が疑わ
れます。また、MRSA が分離されていても、抗 MRSA 薬のオーダーが
なされていなければ、保菌者からの分離のため、抗 MRSA 薬が投与さ
れていないことが推測できます。このように感染制御薬剤師は、薬剤部
で作成した資料に基づき、または自ら資料作成にかかわって、これらの
資料を抗菌薬の適正使用に生かすことができます。
さらに、当該病院における抗菌薬の使用指針などの作成についても、
感染制御医師とともに薬剤部のデータや TDM の知識を生かして参画す
ることも必要と考えます。
次に、消毒薬の使用統計についてですが、消毒薬の使用統計を作成し
ている医療施設は少ないと思います。消毒薬使用統計から、病棟ごとや
手術部、光学診療部などでの消毒薬使用動向が把握でき、病棟などの感
染対策状況を知ることができます。例えば、他の病棟と比較してある病
棟で特定の消毒薬が異常に多く払い出されていれば、何らかの感染が発
生したことが推測されるか、適正な使用がなされていない可能性もあり
ます。そのような場合、感染制御薬剤師は、病棟へ出向いて消毒薬の使
用調査を行う必要があります。
2003 年に米国の CDC から公表された「医療施設における環境感染管
理のためのガイドライン」が、我々の消毒薬の使用にも影響をおよぼし
ています。このガイドラインには、病棟などの床消毒の必要性について、
血液などが付着した場合は次亜塩素酸ナトリウム液を使用した消毒を
推奨し、通常の床は清掃によって清潔を保つことと記載されています。
このガイドラインを参考としている医療施設は多く、これまでは清掃消
毒に第四級アンモニウム塩や両性界面活性剤を使用していましたが、消
毒薬は使用せず、清掃のみで対処する医療施設が増加しています。その
結果、これらの消毒薬の使用量が減少しています。
2003 年の CDC ガイドラインの公表を契機に、当院でも感染対策マニ
ュアルを変更し、通常の床などの清掃に消毒薬を使用しないことにしま
した。その結果、第四級アンモニウム塩や両性界面活性剤の使用量が激
減しています。しかし、毎月の病棟ごとの消毒薬統計から、ある病棟だ
けがこれらの消毒薬使用量が増加していれば、感染対策マニュアルに反
して清掃消毒を行っていることも推測できるため、ICT の介入による調
査が開始されることになります。毎月の統計から系統別消毒薬の年次推
移も明らかとなります。
このように消毒薬の使用統計からも感染対策に介入ができるため、抗
菌薬の使用動向と併せて消毒薬の使用動向の把握は、感染制御薬剤師の
業務のひとつとなります。
□感染対策マニュアルの作成や改定にも参加
感染対策マニュアルの作成や改訂にも、薬剤師はぜひ参加すべきです。
ほとんどの医療施設では、当該施設独自の感染対策マニュアルを作成し、
それに沿った感染対策が実施されていると思いますが、感染対策はエビ
デンスに基づいて日々変化しているため、改訂することなく数年前の感
染対策マニュアルを使用していては意味がありません。2~3 年で改訂
する必要があります。改訂に際しては CDC ガイドラインや、国立大学
医学部附属病院感染対策協議会で編集した病院感染対策ガイドライン
などが参考になります。これらのガイドラインをコピーするのではなく、
当該医療施設に適合するよう、ICT などで十分検討する必要があります。
当該医療施設で採用になっていない消毒薬や、設置していない消毒・滅
菌機器を記載しても全く意味がありませんし、医療現場に混乱を招きま
す。感染制御薬剤師は、感染対策マニュアルの改訂に際して、特に消毒・
滅菌についての項目を積極的に担当し、薬剤部の医薬品情報室の協力を
得ながら、エビデンスに基づく記載および経済効果も念頭に入れた改訂
作業に取り組まなければなりません。
□教育にも関与していく
最後に教育への関与ですが、病院内の感染対策勉強会では、抗菌薬や
消毒薬の使用上の注意点、副作用などを踏まえた適正使用などについて
院内のスタッフに注意を喚起してください。また、薬学実習生に対して
病院感染対策についての講義を受け持つことも重要な業務のひとつで
す。薬学教育 6 年制を見据え、病院実習期間の延長に伴って、薬剤師の
専門性にかかわる講義として、よき実践教育の場となるに違いありませ
ん。
薬剤師の業務が多様化している中で、医療チームにおいて薬剤師の専
門性を十分に発揮できる感染制御専門薬剤師の活躍に期待したいと思
います。
http://medical.radionikkei.jp/jshp_sp/program.html
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