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UR賃貸住宅の魅力ある屋外空間及び屋外環境評価

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UR賃貸住宅の魅力ある屋外空間及び屋外環境評価
UR賃貸住宅の魅力ある屋外空間及び屋外環境評価に関する報告
(※本稿では、屋外環境の経済的評価について報告する)
技術調査室
都市再生設計チーム
三浦
友美
本調査では、団地屋外についてのお客様の評価を把握し、屋外環境の価値向上業務に資す
るデータを取得することを目的として、団地屋外の改修前後の評価について一般の方々への
アンケート調査を行った。本稿では、アンケート調査より導き出した各種屋外改修について
の改修価値、及び、お客様が評価する屋外改修項目について報告する。
本調査の内容は、下記のとおりである。
1.
団地屋外の改修に関するアンケート調査
2. コンジョイント分析結果
3. 費用対効果分析
はじめに
スの「どこ」を「どの程度」変更すれば消費者に
団地の屋外空間は近年、緑豊かな憩いの場、市
気に入ってもらえるのかをアンケート調査する
街地の中の貴重な広場空間など、地域資産として
手法である。掲示した商品ごとに、顧客の買いた
の評価が高まっている。また、その魅力を向上さ
い気持ちの度合(効用値)を算出し、それを金額
せることは、団地そのものの商品価値を高めるこ
換算することによって、経済的価値を把握するこ
とに他ならない。
とが可能である。コンジョイント分析は、WEB 調
現在、UR都市機構では、団地の価値向上、環
査会社と連携して行った。
境改善を目的として、各団地において総合的団地
アンケート調査概要は図1のとおりである。予
環境整備事業や外壁・エントランス修繕事業等に
備調査で対象者絞り込みの後、本調査を実施し、
取組んでいる。限られた予算の中で、費用対効果
割付表のとおり 1500 票の有効票を回収した。な
の高い整備計画の立案が求められているところ
お割付は、近年の UR 賃貸入居者構成との近似性
であるが、屋外空間の改修価値については、顧客
に配慮しつつ、今後の主要なターゲット層として
の評価も含め、これまでに十分な調査がなされて
30 代の割合を高く設定した。
いない。
本調査では、団地の屋外改修についてアンケー
ト調査を実施し、顧客にとっての経済的価値を分
方
法:
調査時期:
インターネット 調査会社を利用した WEB 調査
2012年2月
対象者の抽出
WEB 会社のモニターから一都三県、年
収 300 万円以上の約5万人を絞込み
予備調査の実施
年齢、世帯型、年収、居住形態 、転居
予定、希望家賃などから約 3,000 人の
調査対象者を抽出
本調査の実施
割付表に従い、1,500 サンプルが収集
できた時点で終了
析することにより、費用対効果の高い改修計画に
資することを目的とした。経済的価値については、
コンジョイント法を用いた分析を行った。
1.団地屋外の改修に関するアンケート調査
1)調査手法
本調査で用いたコンジョイント分析とは、マー
ケティング分野で発展した手法で、商品やサービ
割付表
~20代
単身
8%
単身以外
12%
計
20%
(有効 1500 票の内訳)
30代
15%
28%
43%
図1
40代
7%
15%
22%
50代 60代~
3%
1%
7%
4%
10%
5%
アンケート調査概要
計
34%
66%
100%
2)コンジョイント分析の流れ
択する(段階ウとエの設問は図4を参照のこと)。
図1に示した本調査の流れは、図2のとおりで
これらの設問を繰り返した結果から、回答者の
ある。まず準備段階として、図3のとおり10項
各改修項目に対する評価を数値化し、「効用値」
目の改修項目と、各項目毎に2つの水準(現状の
を算出するというプロセスでコンジョイント分
まま)及び(改修後)を設定した。改修項目の設
析を行った。
定にあたっては、近年の屋外改修において実施し
準備
改修項目・水準の設定
ているものから代表的なものを採用した。
アンケート(図2のア~エ)のうち、段階アは
回答者の改修項目に対する選好度の測定、段階イ
は回答者にとって最も魅力的な仮想改修の作成
を意図している。段階ウでは複数の仮想改修を掲
アンケート
ア.改修項目の絞り込み
改修項目 10 項目から改修
したい項目 5 つを絞り込み
イ.改修水準の選択
選んだ 5 項目について、望
ましい改修水準 を選択
ウ.考慮段階
提示された改修水準と、そ
の改修に伴う家賃上昇額の
組み合わせから 、望ましい
ものを選択
示し、
「これは必要」
「これがあると改修して欲し
くない」といった要素を確認する。段階エでは、
エ.選択段階
複数の仮想改修の中から最も望ましい改修を選
図3
分析の対象とする改修項目
(10)と、その水準(2)を設定
改修項目と改修水準
図2
コンジョイント 分析の流れ
どちらかを選択
最も望ましい改修を選択
改修水準 と家賃上昇額 を
ランダムに組み合わせて
回答者に掲示する。
改修水準と家賃上昇額 をランダムに 組み合わせ、3つセットで
回答者に掲示する。この3セットには 、水準を同じくした 改修
項目が 1 つ以上含まれる(地色グレーの部分)
同様の設問を、30 回程度
繰り返す。
同様の設問を、10 回程度繰 り返す。
図4
設問ウとエ
2.コンジョイント分析結果
1)実施したい改修項目の選択
設問アにより、実施したい改修項目について、
2)効用値
コンジョイント分析により算出した効用値は
表2のとおりである。効用値は、水準1(現状の
10項目からを5つを絞り込んでいただいた結
まま)から水準2(改修後)への改修実施が、回
果は表1のとおりであった。
答者に与える効用を数値化したものであり、回答
〈住棟入口付近・駐輪場・ゴミ置き場〉及び〈住
者の“改修したい気持ちの度合い”といえる。
棟の入口〉が約 85%と最も高く、居住者共用の屋
〈住棟入口付近・駐輪場・ゴミ置き場〉の改修実
外空間のうち、自らの住まいに最も密接な住棟の
施に対する評価が群を抜いて高く、次いで〈住
入口を改修すべきであると、多くの回答者が選択
棟の入口〉というように、住棟入口まわりの改修
したと言える。〈団地内通路〉は最も低く、改修
評価が高いという結果となった。住棟玄関は我が
したい項目としてあまり選択されなかった。
家の構えとして重要な商品価値を形成する要素
表1
改修項目の絞り込み結果(設問ア)
表2
改修項目の効用値
(効用値)
※各改修項目毎に、
有効回答数 1500 を 100%とした際の割合を示す。
であり、空間の清潔さや快適さ、安心感などの向
表4
改修価値 と改修コスト
上によって満足度を大きく高める可能性が示さ
れた。次いで効用値が高い〈道路沿い・街角〉
、
〈広
場〉及び〈住棟の入口〉では、改修内容として示
したイメージに、ベンチ・遊具等の設置による居
場所づくりの要素が共通して含まれている。団地
はパブリックな屋外空間を持っているが、このこ
とは、誰のものでもない空間が多く存在し、その
価値が顕在化していないとも言える。今回の調査
から、団地ならではの憩い・ふれあいの場の改善、
※改修コストの算定の考え方は以下のとおり
・アンケートで示した写真で見える範囲の費用に相当するものとした。
・改修の償却年数を 20 年とし、利用想定世帯数で負担するものとした。
居住者が団地ならではの空間を享受できる仕掛
けを伴う改修が評価を高めると考察できる。
〈住棟入口付近・駐車場・ゴミ置場〉が最も費用
3.費用対効果分析
対効果が高い結果となった。比較的改修価値の高
アンケート設問ウやエにおいては、仮想改修項
い〈住棟の入口〉は、中層階段室型であり利用世
目と合わせて改修に伴う追加家賃額を設定して
帯が限られるため、費用対効果としては若干コス
おり、この回答結果から追加家賃額の効用値が導
トが上回る結果となったことから、コストを抑え
き出される。この追加家賃額と効用値の線形関係
た効率的な改修が必要であると考察できる。また、
を表したものが表3である。この傾きを利用して
〈団地のメインの入口〉〈団地内通路〉〈案内板・
効用値を貨幣価値に換算することが可能であり、
看板等〉は、それぞれ単独の改修価値としては高
表2の効用値を金額換算したものを改修価値と
くなかったが、お客様の主動線を優先する等、空
呼ぶ。
間のつながりによる相乗効果や費用対効果も念
ここで、10の改修項目について、これまでの
頭に入れ、単に改修価値のみを指標とするのでは
改修実績等から、おおよその妥当性があると思わ
なく、団地毎の特色に合わせた改修項目の選定が
れる改修コストを設定し、上述の改修価値と比較
必要である。
したものが表4である。
まとめ
表3
効用値と貨幣価値の関係
本調査で各改修項目における効用値を得、経済
的評価に数値換算したことは一定の成果と言え
る。ただし今回の分析結果については、回答者の
属性・調査票の表現・回答プロセス等による偏り
が少なからずあること、改修の効果や費用は団地
毎に個別性があること等を考慮する必要がある。
今後も、屋外改修に関するお客様の評価の把握
に努め、団地全体の価値向上につながる費用対効
※3000 円を基準とした際の、貨幣価値の差分と効用値の差分
をグラフ化した。
果の高い屋外改修実施へと結びつけたい。
団地の屋外空間は、時間をかけて醸成した緑豊かな環境、ゆとりある広場空間等、地域の重要
な社会資本であると同時に、団地そのものの商品価値を左右する。改修においては、限られた予
算の中で、団地毎の特色を生かしつつ、費用対効果の高い改修が求められている。
本調査において、一般の方々へのアンケートによるコンジョイント分析の結果、住棟の入口ま
わり及び、憩いやふれあいの場として活用できる改修価値が高いという結果が示された。
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