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P to P型高品質ライブ配信技術
P to P ブロードバンドストリーム配信技術の動向と大規模ストリーム配信・放送サービスの取り組み ライブ映像配信 ダブルバッファ P to P型高品質ライブ配信技術 インターネット放送は,ブロードバンドサービスの普及に伴い,アーティ ストのコンサート,市況情報・証券ニュース,ラジオなど,さまざまな利用 み う ら のり ひ ろ は な の し ん や 三浦 則宏 /花野 真也 形態がみられるようになりました.ここでは,Bフレッツ回線にSTBを配置 うしじま しげ ひ こ し,TVをつなげることにより,手軽に店舗・街頭向けライブTV配信を提供 牛島 重彦 /三上 博英 み か み ひろひで できる業界初のB to B向けライブ型高品質映像配信システムについて紹介し NTT情報流通プラットフォーム研究所 ます. することを特徴としています.信頼性 報を持つ通信相手を発見し,サーバを を保障するトポロジ制御技術と,ブロー 介さずにファイルなどをやり取りしま インターネットによるライブ映像配 ドバンド回線上でのパケット損失によ す.この1対1の情報配信を繰り返す 信は,主にB to C向けにADSL回線 る映像品質劣化を抑える品質制御技 ことにより,同一情報を逐次的に多数 をターゲットとし,300 kbit/s∼1 Mbit/s 術を中心に紹介します. の端末へリレー式に配送することがで B to B向け高品質ライブ配信 でエンコードされたコンテンツをPCに 配信する形態が一般的です.一方,B きます.この方式は,ネットワーク内 P to P型配信技術の応用 にサーバを配置するクライアント/サー P to P技術は,図1に示すように端 バ型の情報配信に比べ,データセンタ ン,コンビニ店,ファーストフード店, 末どうしが直接通信する情報共有・発 コストが大幅に削減できる特長があり 街頭,喫茶店などでは,プラズマディ 信形態で,通常ネットワーク内のディ ます. スプレイやTVに映像ストリーミングを スカバリ機構に問い合わせ,目的の情 to B向けの映像配信として,レストラ B to Bモデルの映像配信ビジネス例 配信する形態が増えています. 従来よりB to Bモデルの映像配信 ディスカバリ 機構 質を保証した専用サービスを用いるか, 高いスケーラビリティを実現する衛星 配信サービスを用いて提供されていま した.前者は,伝送コストが割高とな り,特定の需要への展開に限定されて P to P 型 CDN の形態 P to P 型利用 は,映像伝送サービスのような伝送品 ネットワーク ネットワーク 放送型配送 へ応用 端末 ディスカバリ 機構 リレー 端末がディスカバリ機構により目的に 合致した通信相手を発見し,サーバを 介さず直接端末どうしが通信する 端末 コピー 配送トポロジも考慮したディスカ バリにより,同一情報を逐次的に 多数の端末へリレー式に配送可能 いました.また,後者は配信規模が約 1 000拠点以上ないと地上回線よりも 低コストにならないため,中小規模の クライアント / サーバ型 サーバ メリット ハウジング / 回線コスト 配信領域で有利な展開ができませんで した. 今回紹介するシステムは,P to P データ センタ 端末 ネットワーク 対比 クライアント / サーバ型に比べ, データセンタコストが不要でか つネットワークサービスに独立 な配信系を実現できるため,ソ リューション的価値が高い (ピア・ツー・ピア)型配信技術を映 像配信に応用することによって配信規 模によらず一定のサービス料金を実現 12 NTT技術ジャーナル 2003.8 図1 P to P 技術のコンテンツ配信への応用 特 集 B to B モデルのビジネス領域 (bit/s) メディア得失比較 プロットはビジネス例を示します ターゲット P to P 型はコスト優位 (千円 / 拠点) メディア配信コスト 1000 クライアント / サーバ型 月 額 100 配 信 10 コ 1 ス ト 0.1 映 10 M 像 配 信 帯 域 1M CS 衛星 P to P 型 1 10 100 1000 10 000 同時配信拠点数 (秒) 10 100 1000 配信拠点数 10 000 最 大 遅 延 時 間 :ブロードバンド回線 :第一種映像伝送 :衛星 :ダウンロード中心 :ダウンロード+ライブ 10 8 6 4 2 0 メディア遅延品質 P to P 型は中継遅延増 P to P 型 クライアント / サーバ型 1 CS 衛星 10 100 1000 10 000 同時配信拠点数 参考 ネットワーク P to P 型 配信 ネットワーク クライアント / サーバ 型 配信 ネットワーク 衛星 配信 ( N ×ユニキャスト) (2×2×2×・・・・・) (マルチキャスト) 図2 B to B 映像配信の現状とメディア得失比較 とメディアの得失を図2に示します. 同じ段の上流端末に 接続するよう制御 典型的な例である店舗のTVに映像配 信するビジネスは,10∼1 000拠点の 店舗への高品質映像のライブ映像配 親 子 孫 ひ孫 親 1 段目 2 段目 3 段目 子 孫 ひ孫 信・ダウンロード配信に対する需要が 伸びています.この領域について従来 のクライアント/サーバ方式,P to P方 式,衛星方式の3つの方法を比較す ると,P to P型はコスト面で優位です が,端末を用いた多段中継となるため, 遅延が増加してしまいます.P to P方 (a) ピラミッド型(従来) 式は,遅延量を低く抑えることができ (b) 二重配送路型(本提案) 図3 P to P 型の配信トポロジ れば,他方式に比べ一定・最小コス トでB to Bモデルの映像配信サービス を提供できる可能性があり,非常に魅 障害,および上流端末の電源断です. 力的です. 例えば,上流の端末障害が発生すると 信頼性を保障するトポロジ制御技術 一方,P to P方式では映像ストリー その下流すべての端末へ配信が停止し P to P方式の欠点である上流端末 ムを多くの端末に中継すると映像品質 てしまいます.有料配信を前提とした の障害・電源断,ネットワーク障害な が劣化します.そのため,段数を抑制 B to Bモデルでは,上流障害が発生し どの影響が下流端末に伝播していくこ するために各端末がピラミッド型のト ても映像配信を継続できる仕組みが必 とによるサービスの安定性低下を防ぐ ポロジ(図3(a))を構成し,配信され 須です. る形態が一般的です.その際,大きな 問題となるのがネットワークや端末の ため,二重配送路トポロジ制御方式 (ダブルバッファ方式)を考案しまし た.この方式は図3(b)に示すように, NTT技術ジャーナル 2003.8 13 ブロードバンドストリーム配信技術の動向と大規模ストリーム配信・放送サービスの取り組み すべての端末(配信サーバ直下の端末 を除く)が2つの同じ段数の上流端末 管理サーバによって,C1,C2 と同じ段数の C3 が新たな上流 S 端末として C4 に通知される から同内容の映像データを受信するよ う制御します.片方の上流端末の故 一段目 C1 障・電源断・ネットワーク障害が発生 しても,もう一方の上流端末から映像 二段目 映像ストリームが無中断で転送されま 合には,代替の上流端末に接続するよ う制御しますので,速やかに安定性の 高いダブルバッファ接続に復旧するこ とができます.障害発生時のトポロジ C2 C3 C4 の上流端末は C1 と C3 となり,ダブル バッファ接続に復旧 C4 C1 管理サーバによって,空きが C2 あり,より段数の少ない C1 と C2 が C7 に通知される C4 C5 すので,上流の障害が下流に伝播する 端末の片方から受信できなくなった場 C1 (a) 片方の上流端末に障害が発生した場合のトポロジ制御動作例 は発生しません.下流端末に対しても ことがありません.また,2つの上流 C3 端末 C2 に障害発生 C4 の 上流端末は C1 のみとなる C4 データを受信しているので映像の中断 C2 S C3 ①端末 C3,C4 に障害発生 C7 C1 ②下流端末との接続を切断 C2 C5 C6 C7 C6 C7 の上流端末は C1 と C2 となり,ダブル バッファ接続に復旧 (b) 両方の上流端末に障害が発生した場合のトポロジ制御動作例 図4 障害発生時のトポロジ制御動作例 S:配信サーバ Cn:端末 制御方式の概要を図4に示します. トポロジ制御技術は,NTT情報流 パケット補償技術は,あらかじめ え,リアルタイム性を向上させる必要 通プラットフォーム研究所が開発した データを冗 長 化 して送 信 するF E C があります.本システムでは,パケッ CDN( Content Delivery Network: (Forward Error Correction)方式 ト再送待ち時間を1秒以内とし,パ コンテンツ配信網)プロダクトMDS- と,パケット再送方式があります.実 ケット再送を1回しか実行しない代わ Dome のコンテンツルーチング装置 網でのパケット損失は確率的な事象で りに,確実性を二重配送路トポロジで である「スマートディレクタ」を応用 あり,パケット損失率が一定しません. 補償する方式をとっています.片系の しています.スマートディレクタの特 FEC方式は,パケット損失率が高い領 パケット再送でパケット補償できない 徴であるサーバの状態や負荷情報に基 域では,冗長符号化量が増加し,伝 場合は,別系で受信したパケットを選 づく,きめ細かでかつ高速なサーバ選 送効率が低下します.これに比べ,パ 択することが可能です.また,それで 択機能を利用することで,高性能な ケット再送方式は,両方の事象に対し もパケット補償できない場合は,上流 二重配送路トポロジ制御を実現して て必要数だけ再送することにより効率 端末とのネットワーク品質が劣化した います. 的なパケット補償が可能です. と判断して,上流との接続状態をいっ (1) 品質制御技術 TV映像品質を実現するMPEG-2形 実網で運用する本システムでは,パ ケット損失率にかかわらず確実な補償 が求められているため,パケット再送 たん切断し,新たな上流端末に再接続 する再構成手法も持ち合わせています. 今まで述べた映像ストリームの品質 式ストリームは,パケット損失率が 方式を採用しています.具体的には, 制御技術には,NTT情報流通プラッ 0.1%を超えた領域で映像の主観的な パケットに付与された連続番号をリア トフォーム研 究 所 で 開 発 した 映 像 品質が急激に劣化する性質がありま ルタイムに監視し,抜けを検知すると ストリームを高品質にコピーして転送 す.したがって,品質保証のないブロー 即座に再送要求を行います.パケット するシステムであるL S S(ライブスト ドバンド回線を経由してTV品質の映 再送方式は,確実性と遅延時間がト リーミングスイッチ)(1) の技術を応用 像を端末へ配信するためには,パケッ レードオフの関係にあります.確実性 しています. ト損失を補償する技術が必須となりま を向上させるためには,再送待ち時間 す.パケット損失が映像主観品質に与 を増加させる必要があります.しかし, える影響は大きく,コマ落ち,音飛び, 本システムはライブ映像をP to P型で 本システムは,スプリッタ,STB ノイズの原因となります. 多段中継するため,逆に中継遅延を抑 (セット・トップ・ボックス:本システ 14 NTT技術ジャーナル 2003.8 システム構成 特 集 管理 サーバ :映像データ :網管理データ P to P 配送網を仮想的に構築し, その中で二重配送路トポロジを構成 ブロードバンドネットワーク(IPv4/v6) MPEG-2 サーバ P to P 仮想配送グループ スプリッタ リレー式分岐中継(リレーしながら コピー分岐)と,品質制御および トポロジ切替制御 サーバ 映像番組 STB STB ・・・ STB ・・・ 店頭 TV 店頭 TV 店頭 TV 図5 システム構成 ムの端末ソフトウェアとMPEG-2プレ 構築,および運用を簡便に低コストで イヤが内蔵されたPC),管理サーバに 実現することができます. より構成されます(図5) . いったん,映像受信を開始すれば, スプリッタは,MPEG-2サーバから トポロジ制御技術および品質制御技術 映像データパケットを受信し,STBか により,上流 STBの障害やネットワー らの接続要求に従って,映像データパ ク品質の劣化が発生しても,TV品質 ケットをSTBに配信します.STBは各 の映像を受信し続けることができます. 拠点に設置され,パケットを多段中継 本システムは,IPSec(IP Security します.また,映像出力インタフェー Architecture for the Internet Protocol) スを持ち,TVに映像を出力します. を用いた映像ストリームの暗号化や 管理サーバは,二重配送路型トポロ IPv6を用いたネットワークに対応して ジの 構 成 処 理 と, 障 害 監 視 および いますので,お客さまのニーズに合わ STBの制御を行います. 本システムを利用するためには,あ らかじめ端末 ID,およびIPアドレスが 設定されたSTBを,地域IP 網などの ブロードバンド回 線 に接 続 します. STBの電源を投入すると,STBは自 動的に管理サーバに配信に関する情報 を要求します.管理サーバでは,2つ の上流 STBを検索し,それらのIPア ドレスをSTBに通知します.STBで は,この情報を基に配信ネットワーク に参加し,映像受信を開始します.こ のように,本システムではシステムの せた高品質ライブ配信が実現できます. ■参考文献 (1) 山田・城下・牛島:“ B to E/B to C向け大 容量コンテンツ配信システム MDS-Dome / Megacast,LSS,” NTT技術ジャーナル, Vol.14,No.4,pp.44-49,2002. (左から)三浦 則宏/ 花野 真也/ 牛島 重彦/ 三上 博英 今後,実網(Bフレッツ網)を用いたフィー ルド実験を実施し,品質の評価を進めてい きます. ◆問い合わせ先 NTT情報流通プラットフォーム研究所 第一推進プロジェクト TEL 0422-59-4858 FAX 0422-37-7476 E-mail [email protected] NTT技術ジャーナル 2003.8 15