...

『カジノ資本主義』、Susan Strange著、1988年

by user

on
Category: Documents
5

views

Report

Comments

Transcript

『カジノ資本主義』、Susan Strange著、1988年
2001 年 10 月 24 日
『カジノ資本主義
−国際金融恐慌の政治経済学−』(ストレンジ著、1988、岩波書店)
技術班
井上さやか
右近修一
上栗秀幸
本山純
第一章 カジノ資本主義
・金融システム≒巨大なカジノ⇒金融世界を支配する不確実性が個人、政府、国、国家間関係に影響
☆混沌
・現在の混沌をもたらす変化←①15 年という短い期間に生じる②基軸価格に同時に影響
【国際金融システム内】基軸価格の不確実性⇒他の価格の不確実性と変動性を↑
・国際金融的不確実性⇒国政政治経済の不確実性へ・・・
例)発展途上国の国際債務、米ソ関係
では、「金融の確実性と安定性を取り戻すことは、問題の解決に繋がるのではないか?」
☆いかにして始まったのか(変化の始まり)
・国際通貨システムの変化(1973 年)―変動相場(フロート)制への移行、石油価格上昇等
→システムの不確実性上
☆変動相場制の効果
・変動相場(政府の市場介入をやめた)→市場の変動性↑(自由な通貨市場の見えざる手は機能しな
かった)
⇒より多くの外貨準備が必要(不確実性による)、市場への参加者増大、コスト移転(公→民間
→消費者)
・国際貿易の成長と生産の国際化による影響(民間企業のリスクヘッジ戦略、発展途上国の金融的運命)
☆金利の変動性
・1970 年代半ば以降利子の著しい変動(金利の上昇と変動性の増大)により為替市場の不安定性↑
(原因)ユーロカレンシー市場の金利変動
・60 年代後半以降銀行貸付金利に含まれるインフレ予想の要素が「貨幣の価値」という要素より重要
⇒1970 年代には金利は大規模市場であるアメリカ市場がリードした
外国為替市場におけるドルの変動→金利変動へ伝播・・・
☆石油価格
・70 年代と 80 年代の実質石油価格の変動→通貨と金利の変動性を増幅
(第一次石油価格の引き上げ)金融市場と金融機関の重要性↑+石油消費国の国際収支に影響
・(結論)①石油価格が為替相場の不安定の一因
②石油価格の安定または石油が重要でなくなるまでは為替相場の安定は難しい
・OECD 諸国―世界貿易のほとんどを占める
⇒国際金融システム最大の混乱は OECD 諸国の為替相場の不均衡による
しかし、石油輸入発展途上国にとって石油価格の引き上げも重要な要素
・石油価格の問題―金利と同様に価格が予想できず非常に不安定であるという点
⇒巨大な金融カジノに石油先物取引というゲームを生み出す
・まとめ―為替相場の不安定性→石油市場の不安定化→石油市場のギャンブル化
☆強い市場か弱い国家か
・第一の問題「過去 15 年間に政府が弱くなったのか、市場が強くなる方向に経済が動いたのか??」
第二の問題「全ての国家が市場との関係で弱くなったのか、重要な政府のうち少数のみが弱くなっ
たのか??」
⇒(説明)世界経済における覇権権力の自滅的行動、「覇権国のジレンマ」、「アメリカは特殊な
意味で弱い国家である」という主張、
「アメリカの内と外の非対称性」
第二章 重要決定とその帰結
・「重大決定とは何を意味しているのか?」
・①通貨システムでの決定―市場と国家(あるいは他の政治権力)との間での力バランスに左右される
・非決定が積極的決定よりも一般的←①市場のグローバリゼーション化②技術変化の加速
「重大な決定を理解するには」―起源を突き止める、アメリカを考慮する、国内政策を考慮
☆遠い昔の五つの「非決定」
・現在の諸困難をもたらした政策策定の根は過去深くにある→遠い昔の五つの「非決定」
-1-
(例)①1950 年代初めの NATO 加盟ヨーロッパ諸国のアメリカへの対応の失敗←「非決定」の例
⇒アメリカが提供する安全への依存という習慣
②1950 年代の「非決定」←信用供与と負債管理のシステム、プロセスについて合意に到達できなかった
(例)不良債権を処理する標準方法を作成することの集団的拒否
②英貿易省大臣による国際取引のためのロンドン商品市場の再開→産業界に最悪の影響
・70 年代にける世界の通貨・金融システムの共同管理の方向転換←アメリカの影響力大
⇒(裏付け)1971 年∼現在までの共同管理についての五つの「非決定」・・・
☆市場に任せる、1972 年
・外国為替市場で通貨当局が影響力を行使しないという最初の「非決定」←第一の重要な非決定
⇒外国為替市場のみならず、ほかの市場にも投機的熱狂をもたらす
☆規則のない体制、1972 年
・1971 年の金・為替本位制(「ブレトン・ウッズ体制」)の修正形態には戻らない
又、そのシステムが解決しようと試みた国際収支の調整や対外準備の保有、為替相場の管理の問題
について一連のルールを持たない
←第二の重要な「非決定」
⇒国際通貨システムの共同管理と多数国参加の交渉方式から離れていく第一歩
より一層の無政府性と片務主義へ向かう第一歩
☆OPEC との没交渉、1937 年
・1937 年の OPEC の石油価格引き上げに対して、石油輸入途上国に生じる巨額な赤字を考慮して、世
界銀行と IMF の資力を大幅に増やすべき、との英仏の提案をアメリカが拒否したこと(感情的対応)
←二つの「非決定」 ①産油国に対してとられた対決的な姿勢
②石油消費発展途上国にたいしてとられた無関心な姿勢
☆最後の貸し手の不在
・1974 年の銀行破産に対する対応←五つの誤った転機の最後の一つ
⇒境通貨システムにおいて非常に重要な最後の貸し手の不在に対処するには・・・最終章へ
☆国内的要因
・重大な決定についての三番目の仮説
「世界の金融市場は加速的に統合されているので、自国の銀行、国内金融市場及び国内経済運営に関
するアメリカの国内決定のいくつかは、世界システムのための基本的決定として含められなければな
らない」
←(理由)アメリカの国内決定は国境をこえて影響力がある
・アメリカの国内政策は世界の貨幣・金融システム全体に広範な影響を与えているといえる
第三章 世界経済をめぐるさまざまな解釈
世界経済の混乱は貨幣的、金融側面が重要な要素ではないとの傾向が強い
→経済学の過度の専門家が原因的→貨幣関係よりも貿易関係へ興味が集中
職業的要因…貿易理論の方が安易に説明が可能
歴史的要因…保護主義の強調する必要性
政治的要因…アメリカの責任逃れ
☆決定論主義の技術的説明
技術的歴史的決定論的主義:経済的変化、技術的変化に直面する政治組織の相対的無力を想定
長期波動の要因は何か
問題点
クーン
科学的発明から商業利用までのタイムラ
グ
コンドラチェフ
景気の長期波動を確認
シュンペーター
技術革命(蒸気機関、鉄道、化学)
何故、何時かが曖昧
ロストゥ
市場経済
政府の過剰介入
→問題点:長期波動の決定的な要因は何かといった意見の食い違い
☆政治決定主義
背景…①アメリカ喪失が原因②国家サークル間権力配分
世界経済の混乱の要因は何か
-2-
アメリカの市場に対する権力の衰退
コヘイン
覇権的経済権力の空白
世界経済覇権を前提
キンドルバーか
ギルピン
アメリカと英国との比較−経済コストの負担
オルソン
アメリカ国内の挑戦者、ドイツ、日本の存在
『基本的強制モデル』(構造的権力による支配)による解釈
☆決定論主義の他の変遷
共通点:石油危機から混乱は始まり、崩壊されるために生まれてきた外生的要因である
☆その他の解釈
政府の過剰介入を非難=市場重視型(マネタリスト)
政府の消極的な態度が問題
マネタリスト:
賃金やマネーサプライに国家が介入することに批判
国家の意思の無能力さを非難
問題点:ⅰ国民経済は世界から完全に孤立しているⅱ世界の他の部に対して平等に開放
ⅲ金融機関と市場の性格に対する考察をしてない
☆マルクス主義とマネタリストとの共通点:
①アメリカは世界銀行に対する責任放棄、そして金融市場がシステムを崩壊②1965-70までの
インフレをデフレの前触れとしてみている
ケイジアン…消費と投資の関係に注 国際経済の混乱の要因は何か
目
ミンスキ
資金の流れに注目システムの内部構造を分析
ルイス
発展途上国の購買力の低下
世界マネタリスト…世界市場における信用の拡大に注目
マッキンノ
景気循環と貨幣循環が相互に増殖的効果
ギルバート
米の巨額な赤字/一時的なコントロールの停止
マルクス主義者…問題点:労働者側の革命的対応への期待
ウォーラスティン
搾取状態の国際経済
アミン
国際資本の本国と第三世界の政府との関係
ローソン(例外的)
銀行信用の役割を重視
☆結論
市場の国際化
各国での官僚機構や国家予算の負担が過大
首尾一貫とした経済理論はなく、混乱状態である。
第四章 暗闇の中の賭
☆投機
・投機により進んで引き受けてくれる者に不確実性を負担してもらう事によって社会の専門化が進め
られる
・世界の貿易システムが効率的に機能する3つの必要条件
①貸付基金が投資の為に利用できる事
②投機資金がある事
③財産を作る為最新の機会を利用するのに熱心な若者がいる事
・投機市場とは⇒通常市場と区別され将来の価格予想に従い価格が動く市場
(競馬場に似ているが異なる点は人々が非自発的に市場にいる所)
先物取引については
-3-
ヨーロッパ−各国市場の管理によって価格の安全が保障されている
アメリカ−商品市場では価格変動が激しい、よって農民自身が先物取引へ参加
・1980年代には金融先物取引が商品先物取引に取って代わる
・先物市場は市場システムの効率性を高める重要な貢献である
第五章 推測ゲーム
☆ユーロ市場はインフレ的か
ユーロカレンシー市場の信用構造がもたらすインフレの意味について⇒
「多段階銀行業」アプローチ「当初預金」アプローチ「世界貨幣ストック」アプローチ…
これらにはユーロカレンシー取引の内銀行間市場の規模と影響についての手抜かりがある
☆貨幣の流通速度
貨幣の流通速度が一定であるかどうか−急激な技術変化の影響をうけて明らかにされず無知の領域
があり議論の余地がある
☆無知の領域
金融システムをコントロールする方法
●金融機関が独自のイニシアチブで信用を創造する自由を厳しく制限する⇒東ヨーロッパ
●金融機関が行う対外業務の種類について厳しい規則を設け侵犯に罰則を設ける⇒スイス
イギリスのシステム−機能分離の原則(顧客の利益の為ではなく専門家が私欲の為に市場で活動する
動機を取り除く。このような規則が無いと専門職は地位を悪用しがち。)
アメリカのシステム−規制権限が連邦制度を通して中央政府からここの州へ分散していた。(銀行は
州内の業務に制限される)これはやがて時代錯誤の状態になる。
☆ハイエク ケインズ ジンメル
・ハイエク−政府が貨幣供給の責任を負うている、負いたいと望むのは錯覚。貨幣は市場の規律に従
うべきで他の商品と同じように誰もが販売する自由を持つべき。
・ケインズ−資本主義体制は恐慌や不況を免れない。政治的に実行可能な変化は限られており、金融
政策はそれほど力を持たない。
・ジンメル−貨幣の管理は政治の他の部分から切り離された問題としてでなく、社会についての哲学
に不可分の部分としてみる。
第六章 処方箋
☆不可能な治療法
・原理を実践に移すことの出来る方法の無い主要国政府にとって受け入れ可能と考えられる限度を
超えた、各国の経済政策の強調策や国際組織の「改革」策ばかりが存在する
☆各国の政策協調
・システムが健全であるための鍵は20ないし100にも及ぶ様々な政府間での多角的協定にある
のではなく、主な貨幣強国の間での親密な共同にある…ロナルド・マッキノン
・主要工業国の間での三国ないし国際的なマクロ経済政策の強調がかんがえられている
・統合は多くの不安定性を伴うので、解決のためには「分割された意思決定」を追求すべきである…
ジャック・ポクラ
☆ブラントの解決策
・貧しい国が経済的に発展するのを助けることは豊かな国にとっての長期的利益であり、また、投資
のための資本と技術、消費のための財貨とサービスが相対的に自由に国境を超えて移動する世界市
場経済を支え崩壊させないことは貧しい国にとっても長期的利益である
・上記の目的の為にブラント報告は、世界銀行よりもはるかに大規模で野心的な世界開発基金を通じ
ての発展途上国への大規模かつ即時の資源移転を勧告した
① 武器の売却や防衛政策は資源の無駄遣いであり、削減しなければならない
② 資源は民間の開発に向けられなければならない
③ 国際大企業は大きな力をもっているのでコントロールされなければならない
④ 各国の出資への依存から脱却するために、国際機関に徴税権が与えられるべきである
⑤ 事情システムの失費と不平等を矯正するための拮抗的政治力が必要
・これらの考えはヨーロッパでは十分に支持されるけれども、アメリカでは決して一般には支持され
ないし、豊かで力のある国以外でも支持されないことがあった
☆改革案
-4-
・信用と金融の管理の問題に向けられた三つの改革案
①ジョン・ウィリアムソンの計画…IMF 特別引き出し件の巨額の発行
②マイケル・リプトンとステファニー・グリフィスの提案…「国際的最後に貸し手」
③ハーバード・グリュ−ベル…国際銀行の救命胴衣としての国際預金保険公社の示唆
・ウィリアムソンは債務問題は支払不能の問題ではなく流動性の問題であると考えている
・IMF における最大の投票権を有すアメリカの同意なしに SDR の配分は出来ないという問題がある
・中央銀行が最後の貸し手として機能することが一層難しくなっている
☆国際的支援システム
・システムが依然として非常に傷つきやすいことから、何とかして国際的最後の貸し手を創設する必
要がある
・代替的な考え方の一つに保険という考え方がある
→しかしながら世界信用システム全体の健全性と生存力を心配する世界政府は存在しない
・もう一つの考えに「金利上限」という考え方がある、これは貸付全体の元利支払い負担は債務者が
支払いできる額を超えているので、貸付全体を不良債権として償却するショックよりも、そのギャ
ップを橋渡しするために必要な補助金を見つける方が好ましいという考え方に基づく
→システムを全発展途上国にへ拡大することは難しい
☆債務の危険
・「債務問題」の多くは、経済発展のために長期的資金を調達する困難が無く、また短期資金を借り
ることが相対的に容易でなかったならば、決して起きなかったであろう
・短期もしくは要求払で預金された大量の資金供給があることが、世界の金融システムに今日存在す
る多くの不確実性をもたらした
☆シナリオの選択
①アメリカ政府がシステムを統治する
②金融戦略におけるアメリカの片務的な傾向を緩和するよう、ヨーロッパがアメリカに圧力をかける
③「コントロール」された解体に向かう
④「何とか凌ぎつづけていく」
第七章 カジノを冷やすこと
☆アメリカが行動しなければならない
・アメリカが自国の国内経済管理に安定性と予見性を取り戻すことが必要
☆銀行業の問題
・ドルは国際通貨システムの中で唯一無二の国際通貨であるばかりでなく、アメリカには最大で最も
活発な金融市場が存在する
・ニューヨークでの取引は今日高度に機械化されたニューヨーク手形交換システムを通じて決済さ
れる。これによってアメリカに国際的最後の貸し手としての特別な機会を与えている
・バーゼル協定のような中央銀行間での協定は、単独の最後の貸し手に取って代わることの出来るよ
うな十分に広範にわたり効率的な代替手段ではない
・銀行はいかなる貸し手に対しても貸し出し限度額を設定するべきであり、また他の銀行の行動につ
いて可能な限り情報に照らして決定を行えるような立場に置かれるべきである
・アメリカの通貨当局は主要な国際銀行に協定を申し出るべきである
・現代の世界では通貨ごとの権力が一層の意味をもつ
☆債務問題
・債務国の金利支払いの負担を部分的に軽減するために、IMF が設立した基金と同様、保障ファイナ
ス基金を作ること⇒「金利上限」の考えに基づいた建設的な改革措置
・債務問題解決への大きな貢献となる改革で一番有望な提案は、保険の考えに基づくものである
☆防衛問題
・軍事問題ではお互いの強調の欠如に憤激しあっている同盟国の間では通貨問題でも協調関係を発
展させるのが非常に難しい
・アメリカはラテン・アメリカにおける現在の汚れたイメージを変え、もう一度役割を果たさなけれ
ばならないがそれを不可能にしているのは、アメリカの防衛予算である
☆ヨーロッパからの突き上げ
・アメリカはいつもドルが何らかの形で脅かされるとき、国際的通貨取り決めを変えようとする
-5-
・ヨーロッパはアメリカに対して、自国の経済をもっと安定的にかつ責任をもって管理する、そして
外国為替市場でのドル動揺にもっと懸念を示すような手段を取るよう軽い突き上げを試みている
☆代替策はないのか
①時計の針を戻すこと
・「コントロールされた解体」すなわち世界経済の分裂を主張することである
・1950 年代への復帰を描くえん曲的な方法であり、国際信用・金融構造の規模と能力を著しく縮小さ
せることであり、世界経済に大変なショックを与え現在のシステムのリスクと不安定性を減らすた
めに非常に高い価格を払うことになると考えられる
②何とか凌ごうと試みつづける
・その帰結に経済的に耐えられるとしても、自由社会にとって政治的に受け入れられない
-6-
Fly UP