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国内企業立地の動向と今後の課題
国内企業立地の動向と今後の課題 ~グローバル競争下で進展する海外進出~ 経済産業委員会調査室 柿沼 重志 1.低迷が続く国内企業立地 バブル崩壊後の長引く景気低迷や急速に進む円高の影響等により、 国内企業立地件数は低迷を続けている。具体的な件数を「工場立地動 向 調 査 1」 ( 経 済 産 業 省 )で 見 る と 、2010 年 の 工 場 立 地 件 数 は 786 件 で 、 同 調 査 が 開 始 さ れ た 1967 年 以 降 最 低 の 件 数 と な っ た 。こ れ は 、ピ ー ク 時 で あ る 1969 年 の 5,853 件 と 比 較 す る と 7 分 の 1 以 下 、リ ー マ ン シ ョ ッ ク 以 前 に 当 た る 2007 年 の 1,791 件 と 比 較 し て も 2 分 の 1 に も 満 た な い 水 準 で あ る 。2011 年 は 3 月 に 東 日 本 大 震 災 、福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 事 故 に よ る 大 打 撃 を 被 っ た も の の 、過 去 最 低 で あ っ た 2010 年 を 若 干 上 回 り 869 件 と な っ た が 、 依 然 と し て 低 水 準 の ま ま で あ る 2 。 こうした国内企業立地件数の低迷は、雇用者数や各自治体の税収を 通じて地域経済に大きな影響を及ぼし、マクロ経済で見た場合にはG DP(国内総生産)や税収の減少、雇用環境の悪化につながる。 図表1 7,000 国内企業立地件数の推移 件 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 1967 71 75 79 83 87 91 95 99 03 07 11 暦 年 (注)研究所は除く (出所)経済産業省『工場立地動向調査』 1 工 場 立 地 件 数 と 企 業 立 地 件 数 は イ コ ー ル で は な い が 、本 稿 で は 類 似 の 統 計 と し て 、 同調査による工場立地件数を代替的に用いることとする。 2 2012 年 上 期 は 469 件 。 27 経済のプリズム No109 2013.2 政府としても国内企業立地件数の低迷や国内産業空洞化への懸念を 強 め 、2007 年 4 月 に「 企 業 立 地 促 進 法 3 」が 成 立 し 、地 域 の 強 み と 特 性 を踏まえた個性ある地域の産業集積の形成、活性化を目指すとした。 ま た 、2010 年 10 月 に は 国 内 投 資 促 進 円 卓 会 議( 議 長:経 済 産 業 大 臣 ) が「日本国内投資促進プログラム」を策定し、企業の立地や投資の障 壁を除去し、企業の負担を軽減すること等が打ち出されたほか、特に 2011 年 3 月 の 東 日 本 大 震 災 の 発 生 以 後 、国 内 企 業 立 地 を 促 進 す る 各 種 予 算 措 置 4も 順 次 講 じ ら れ て お り 、 国 内 立 地 減 少 の 下 支 え を し て い る 。 一方、企業としては、グローバルな競争下での合理的な選択の結果 として、国内から海外、とりわけ賃金の安い新興国へ生産をシフトす る動きが続いている。こうした動きも踏まえ、国や地方自治体の公的 部門を始め、地域金融機関等も企業の海外展開を支援する姿勢を示し て い る 。こ う し た 動 き の 背 景 に は 、 「 企 業 の 海 外 進 出 が 増 え る と 、国 内 は空洞化するどころか、中長期的には投資収益増加等の恩恵を受けて 国 内 の 雇 用 も 増 加 さ せ る 」と い う 考 え 方 が 実 証 分 析 の 結 果 5 を 基 に 支 持 されてきたことがあるが、①海外進出した企業が本社機能や研究開発 部門を国内に残し、海外で稼いだ利益を国内に還流させて国内で投資 する、②日本企業の海外工場での最終製品の生産が増えるほど、それ を賄う先端部材の日本からの輸出が増加する構造が今後も維持される と い う 2 つ の 前 提 が 必 要 に な る 6。 本稿では、まず国内企業立地件数と経済変数との定量的な関係を見 た後で、海外進出、海外生産の動きや国内企業立地を阻害している要 因について整理する。さらには、海外需要及び国内需要の中長期的な 動向についても統計的な確認を行い、日本企業が国内と海外の2つの 市場を両にらみし、合理的な立地選択、機能的なすみ分けを行わざる を得ないことを示した上で、どのような政策が求められているのか若 干の考察を加えることとしたい。 3 正 式 名 称 は 、「 企 業 立 地 の 促 進 等 に よ る 地 域 に お け る 産 業 集 積 の 形 成 及 び 活 性 化 に関する法律」 4 例 え ば 、「 国 内 企 業 立 地 推 進 事 業 」、「 が ん ば ろ う ふ く し ま 産 業 復 興 企 業 立 地 支 援 事 業 」、「 イ ノ ベ ー シ ョ ン 拠 点 立 地 推 進 事 業 」 等 に 関 す る 予 算 措 置 。 5 例 え ば 、 樋 口 ・ 松 浦 ( 2003) で は 、「 海 外 に 製 造 子 会 社 を 持 つ こ と で 労 働 生 産 性 や 付 加 価 値 額 が 高 ま り 、雇 用 の 減 少 率 も 低 下 す る 」こ と に つ い て 実 証 分 析 が 行 わ れ ている。 6 増 田 ( 2012.9) 10~ 13 頁 。 経済のプリズム No109 2013.2 28 2.国内企業立地件数と主な経済変数との関係 国 内 企 業 立 地 件 数 は 、 高 度 経 済 成 長 期 に 当 た る 1960 年 代 後 半 か ら 1973 年 ま で は 年 間 3 千 か ら 5 千 件 台 と い う 高 水 準 で 推 移 し 、前 年 末 か ら の 石 油 危 機 に よ る 打 撃 を 受 け た 1974 年 は 前 年 の 半 減 以 下 ま で 減 少 し た 。そ の 後 、1970 年 代 は 2 千 件 以 下 の 水 準 が 続 き 、1980 年 代 前 半 も 伸 び 悩 み を 続 け た が 、1984 年 以 降 に 増 加 傾 向 を た ど り 、バ ブ ル 景 気 に 沸 い た 1988 年 か ら 1991 年 に は 再 び 3 千 か ら 4 千 件 台 に ま で 達 し た 。 こ の 間 、1985 年 の プ ラ ザ 合 意 後 の 円 高 も あ り 、1980 年 代 後 半 に は「 産 業空洞化」に懸念が表された時期があったが、企業努力やバブル景気 の 恩 恵 に よ り 、国 内 企 業 立 地 件 数 は 好 調 を 保 っ て き た 。し か し な が ら 、 バ ブ ル 崩 壊 以 後 、1993 年 に 2 千 件 を 割 り 込 ん で か ら は 低 迷 が 続 い て お り 、 特 に 2009 年 以 降 は 、 千 件 に も 満 た な い 水 準 が 続 い て い る 。 産業インフラが整備され始めた高度経済成長期に企業立地件数が右 肩上がりで増加するのは自明であるが、その後の企業立地件数を決定 す る の は 、① 景 気 や 企 業 収 益 、② 為 替 レ ー ト 等 の 動 向 等 7 で あ ろ う 。以 下 で は 、1994 年 以 降 8 の 年 次 デ ー タ を 用 い て 、国 内 企 業 立 地 件 数 と 前 述 の①及び②に関する経済変数との計量的な関係を順次見てみる。 図表2-a 国内企業立地件数 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 国内企業立地件数と名目GDPとの関係 y = 14.378x - 5938.5 R² = 0.3846 460 470 480 490 500 510 520 530 名目GDP(単位:兆円) (注)図中のR2は決定係数 7 こ れ ら に 加 え て 、経 済 の グ ロ ー バ ル 化 の 進 ち ょ く 度 合 い や 海 外 生 産 を 選 択 す る こ と に よ る 企 業 の メ リ ッ ト の 多 寡 も 国 内 企 業 立 地 に 影 響 を 及 ぼ す と 思 わ れ る が 、こ こ では割愛する。 8 1994 年 以 降 と す る こ と で 、 G D P ( 国 内 総 生 産 ) も 同 一 基 準 の デ ー タ が 活 用 で きるため、今回はこのような方針を採用した。 29 経済のプリズム No109 2013.2 まず、図表2-aは、縦軸に国内企業立地件数、横軸に名目GDP をとり、それぞれのデータをプロットしているが、名目GDPが増え れば、国内企業立地件数も増える傾向があるという関係が計量的にも 読 み 取 れ る 9 。た だ し 、国 内 企 業 立 地 件 数 が 近 似 曲 線 よ り も 大 き く 上 振 れまたは下振れしている年もあり、為替や企業行動の変化あるいは政 府や自治体による政策の影響等の様々な要因が複合的に絡んでいると 推察される。 図表2-b 国内企業立地件数 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 国内企業立地件数と企業収益との関係 y = 11.955x + 792.59 R² = 0.1680 2011 2010 20 30 40 50 60 70 企業収益(単位:兆円) (注1) 企業収益は『法人企業統計調査』の経常利益(全産業)のデータ (注2) 図中のR2は決定係数 次に、図表2-bは、縦軸に国内企業立地件数、横軸に企業収益 をとり、それぞれのデータをプロットしているが、名目GDPと同 様、企業収益が増えれば、国内企業立地件数も増えるという傾向が 緩 や か な が ら 読 み 取 れ る 10。 た だ し 、 決 定 係 数 を 比 較 す れ ば 分 か る とおり、国内企業立地件数と企業収益との関係は名目GDPとの関 係 よ り も 更 に 弱 い 。 例 え ば 、 2010 年 及 び 2011 年 の デ ー タ は 近 似 曲 線から大きく下振れしているが、これらの年は急速な円高の影響を 強く受けていると推察される。また、バブル崩壊以後、企業は投資 行動に慎重な傾向を続けており、企業収益の伸びが国内企業立地件 数の伸びに必ずしもつながっていない年が少なくないと思われる。 さらに、企業の選択として国内ではなく海外への企業立地を選択す 9 10 逆の因果関係(企業立地の増加によるGDPの増加)も成り立ち得る。 脚注9と同様、逆の因果関係も成り立ち得る。 経済のプリズム No109 2013.2 30 る企業が徐々に増えていることも近似曲線からの乖離を生じさせて いる要因ではないかと推察される。 図表2-c 国内企業立地件数 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 国内企業立地件数と為替レートとの関係 y = 7.0956x + 488.69 R² = 0.0847 2010 2009 2011 70 80 90 2002 100 110 120 130 140 為替レート(単位:円/ドル) (注)図中のR2は決定係数 さらに、図表2-cは、縦軸に国内企業立地件数、横軸に為替レー トをとり、それぞれのデータをプロットしているが、円高になると国 内企業立地件数が減るという傾向がかなり緩やかではあるものの読み 取 れ る 。 た だ し 、 決 定 係 数 は 0.1 を 割 り 込 ん で お り 、 国 内 企 業 立 地 件 数 と 為 替 レ ー ト を 単 相 関 で 見 れ ば 、為 替 だ け で は 説 明 力 が 非 常 に 弱 く 、 そ の 他 の 複 合 的 な 要 因 が 絡 ん で い る と 言 え る 。例 え ば 、2009 年 、2010 年 及 び 2011 年 の デ ー タ は い ず れ も 近 似 曲 線 よ り も 下 に 位 置 し て い る が、これは円高の影響に加えて、企業が海外生産シフトを積極化して い る 結 果 で は な い か と 推 察 で き る 。ま た 、2002 年 の デ ー タ は 近 似 曲 線 よりも大幅に下振れしているが、同時期には金融機関の不良債権問題 が深刻化する等により、期待成長率が大きく落ち込み、企業の投資マ インドが冷え込んだためと思われる。 3.企業戦略として強まる海外進出、海外生産の動き 「 失 わ れ た 20 年 1 1 」 と も 言 わ れ る 我 が 国 経 済 の 長 引 く 低 迷 や 人 口 減 少に起因した国内需要の伸び悩み、激しさを増すグローバルな企業間 11 「 失 わ れ た 20 年 」 に 関 す る 分 析 に つ い て は 、 例 え ば 深 尾 ( 2012) を 参 照 。 31 経済のプリズム No109 2013.2 価格競争、あるいは成長著しい新興国市場での需要獲得の必要性等を 背景に、各企業は競争に勝ち抜き、生き残るための戦略として海外進 出の動きを強めている。なお、海外進出を行う企業は大企業ばかりで は な く 、 近 年 は 中 小 企 業 も 海 外 進 出 の 動 き を 活 発 化 さ せ て い る 12。 以下では、日本企業の海外進出や製造業の海外生産比率の推移につ いて統計的な確認を行うこととしたい。 まず、近年の日本企業の海外進出についてであるが、図表3の海外 現地法人数の推移を見れば分かるとおり、ほぼ一貫して増加を続けて お り 1 3 、 2010 年 度 末 に は 、 1 万 8,599 社 ( 製 造 業 8,412 社 、 非 製 造 業 1 万 187 社 ) と な っ て い る 。 こ の 推 移 か ら も 、 日 本 企 業 が 海 外 進 出 を 積極化させていることが読み取れるが、海外の安価な人件費を始めと したコスト面での優位性から、海外での企業立地を選択したことや国 内需要が伸び悩む中で新興国等の旺盛な需要をいかに獲得するかとい うことを企業が重視した結果であると思われる。 図表3 海外現地法人数の推移 社 20,000 18,000 非製造業 16,000 製造業 14,000 12,000 10,000 7,527 5,954 8,000 6,404 6,748 8,414 9,511 9,802 7,210 8,083 10,187 7,802 8,048 8,287 8,318 8,147 8,399 8,412 05 06 07 08 09 10 6,000 4,000 7,464 6,522 6,918 7,127 7,786 2000 01 02 03 04 2,000 0 年度末 ( 出 所 )『 各 年 度 版 海 外 事 業 活 動 基 本 調 査 』 よ り 作 成 次に、図表4で、海外現地法人の分布を見てみると、アジア、とり 12 中 小 企 業 政 策 審 議 会 企 業 力 強 化 部 会 の 資 料 ( 2011.9.6) に よ れ ば 、 海 外 に 子 会 社 を 持 つ 中 小 企 業 の 数 は 、2001 年 の 4,143 社 か ら 2009 年 に は 5,663 社 に ま で 増 加 している。 13 2001 年 度 に つ い て は 、 組 織 再 編 ・ 経 営 資 源 の 見 直 し に 伴 う 拠 点 の 統 廃 合 や 製 品 需 要 の 見 誤 り に よ る 販 売 不 振 や 収 益 悪 化 等 を 要 因 と し て 、大 幅 な 減 少( 対 前 年 度 比 ▲ 16.8% ) と な っ て い る (『 海 外 事 業 活 動 基 本 調 査 』 に よ る )。 経済のプリズム No109 2013.2 32 わけ中国の割合が年々高くなっている一方で、北米やヨーロッパの割 合が年々低くなっているという顕著な動きが読み取れる。 図表4 海外現地法人の地域別分布比率 (単位:%) 2000 年 度 末 全地域 2005 年 度 末 2010 年 度 末 100.0 100.0 100.0 北米 22.1 17.8 15.4 アジア 48.3 57.9 61.8 中国 16.9 25.6 29.9 ASEAN4 16.5 17.1 16.3 NIEs3 12.7 12.9 11.6 2.2 2.3 4.0 ヨーロッパ 17.9 15.0 13.6 その他 11.7 9.3 9.2 その他アジア ( 注 )ASEAN4 と は 、タ イ 、イ ン ド ネ シ ア 、マ レ ー シ ア 、フ ィ リ ピ ン の こ と で あ り 、 NIEs3 と は 、 韓 国 、 台 湾 、 シ ン ガ ポ ー ル の こ と で あ る 。 ( 出 所 )『 各 年 度 版 海 外 事 業 活 動 基 本 調 査 』 よ り 作 成 さらに、図表5に示すとおり、製造業の海外生産比率も年々上昇傾 向 を 続 け 、リ ー マ ン シ ョ ッ ク が あ っ た 2008 年 度 は 大 き く 落 ち 込 ん だ も の の 、2010 年 度 に は 、国 内 全 法 人 ベ ー ス で 18.1% 、海 外 進 出 企 業 ベ ー ス で 31.9% と な っ て い る 。 図表5 35 30 25 20 15 10 5 0 海外生産比率の推移(製造業) % 29.0 29.1 29.7 29.9 30.6 14.3 14.6 15.6 16.2 16.7 31.2 33.2 31.9 30.4 30.5 17.0 17.0 18.1 09 10 24.2 11.8 国内全法人ベース 2000 01 02 03 04 18.1 19.1 海外進出企業ベース 05 年度 06 07 08 ( 注 ) 国 内 全 法 人 ベ ー ス の 海 外 生 産 比 率 = 現 地 法 人 ( 製 造 業 ) 売 上 高 /( 現 地 法 人 ( 製 造 業 ) 売 上 高 + 国 内 法 人 ( 製 造 業 ) 売 上 高 ) ×100.0 海 外 進 出 企 業 ベ ー ス の 海 外 生 産 比 率 = 現 地 法 人 ( 製 造 業 ) 売 上 高 /( 現 地 法 人 ( 製 造 業 ) 売 上 高 + 本 社 企 業 ( 製 造 業 ) 売 上 高 ) ×100.0 ( 出 所 )『 各 年 度 版 海 外 事 業 活 動 基 本 調 査 』 よ り 作 成 33 経済のプリズム No109 2013.2 4.国内企業立地を阻害している要因 国内の事業コストの高さが、国内企業立地を阻害している一つの大 き な 要 因 で あ る こ と に は 想 像 に 難 く な い 14。 図表6に示すとおり、アジア各国との立地コストを比べると、日本 は事業を運営していく上で極めて高いコストがかかっており、経済界 か ら は 、「 法 人 実 効 税 率 の 更 な る 引 下 げ や 港 湾 政 策 の 見 直 し 等 を 通 じ 、 政策的に可能な立地コストについて他国と比べ遜色のない水準にまで 思い切って引き下げることで産業の立地競争力を高めていくことが求 め ら れ る 15」 と の 指 摘 が な さ れ て い る 。 図表6 立 地 コ ス ト の 比 較 ( 日 本 を 100 と し た 場 合 ) 日本(横浜) タ イ( バ ン コ ク ) 中国(広州) シンガポール 法人実効税率 100 74 61 42 労働コスト 100 7 7 32 物流コスト 100 82 63 38 土地 100 5 5 7~ 22 ( 注 ) 小 数 点 以 下 切 り 捨 て 。 2011 年 2 月 時 点 の 為 替 で 換 算 。 労 働 コ ス ト は 一 般 工 職 の 月 額 賃 金 、物 流 コ ス ト は ロ サ ン ゼ ル ス 港 向 け 40ft コ ン テ ナ の 輸 送 コ ス ト 、 土地は工業団地の土地購入価格(平方メートル当たり) (出所)日本経済団体連合会産業問題委員会『日本の産業競争力』より抜粋 近 年 で は 、 ① 円 高 1 6 、 ② 高 い 法 人 実 効 税 率 ( 次 頁 の 図 表 7 を 参 照 )、 ③厳しい労働規制、④温暖化ガスの排出抑制、⑤外国との経済連携の 遅れ、⑥東日本大震災後の電力供給の不安を指す「六重苦」という言 葉が頻繁に用いられているが、日本企業を苦しめているこれらの障害 をいかに取り除いていけるかが、今後の国内企業立地を増やすことが できるか否かの鍵を握ると思われる。 14 例 え ば 、経 済 産 業 省 が 2011 年 9 月 に 実 施 し た「 企 業 の 地 方 税 負 担 等 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 」 に よ れ ば 、 投 資 地 を 判 断 す る 際 、 考 慮 す る 要 素 に 対 し 78.6% の 企 業が事業コストを挙げている。 15 日 本 経 済 団 体 連 合 会 産 業 問 題 委 員 会 『 日 本 の 産 業 競 争 力 』( 2011.4) 36 頁 16 円高については特に経済界等から負の影響を指摘する声が根強い一方で、 「円高 は 輸 出 を 不 利 に す る た め 、従 来 は マ イ ナ ス の 面 が 強 調 さ れ て き た 。し か し 、グ ロ ー バルに投資することで海外から成長の果実を得ることで生き残っていく道が今後 の 日 本 に と っ て 現 実 的 で あ る と す れ ば 、 円 高 は む し ろ 望 ま し い こ と に な る 。」 と の 意 見 も あ る ( 米 山 ( 2012) 18 頁 )。 経済のプリズム No109 2013.2 34 図表7 法人実効税率の国際比較 (注1 )上 記の実 効税 率は、法人 所得に 対す る租税 負担 の一部 が損 金算入 され ること を 調 整した上で、それぞれの税率を合計したものである。 (注2)日本の地方税には、地方法人特別税を含む。また、法人事業税及び地方法人特別 税 に つ い て は 、外 形 標 準 課 税 の 対 象 と な る 資 本 金 1 億 円 超 の 法 人 に 適 用 さ れ る 税 率 を用いている。なお、このほか、付加価値割及び資本割が課される。 ( 注 3 )日 本 の 改 正 後 の 実 効 税 率 は 、2012 年 4 月 1 日 以 後 開 始 す る 事 業 年 度 の も の で あ る 。 な お 、 2012 年 度 以 降 の 3 年 間 は 法 人 税 額 の 10 % の 復 興 特 別 法 人 税 が 課 さ れ る 。 ( 注 4 )ア メ リ カ で は 、州 税 に 加 え て 、一 部 の 市 で 市 法 人 税 が 課 さ れ る 場 合 が あ る 。ま た 、 一部の州では、法人所得課税が課されない場合もある。 ( 注 5 )イ ギ リ ス の 法 人 税 率 は 2013 年 4 月 よ り 23% 、2014 年 4 月 よ り 22% に 引 き 下 げ ら れる予定。 ( 注 6 ) フ ラ ン ス で は 、 別 途 法 人 利 益 社 会 税 ( 法 人 税 額 の 3.3%) が 課 さ れ 、 法 人 利 益 社 会 税 を 含 め た 実 効 税 率 は 34.43%と な る 。さ ら に 、別 途 、売 上 高 2.5 億 ユ ー ロ 超 の 企 業 に 対 す る 法 人 税 付 加 税 ( 法 人 税 額 の 5 % ) を 2012 年 よ り 導 入 し て い る ( 2 年 間 の 時限措置)。なお、法人所得課税のほか、国土経済税(地方税)等が課される。 ( 注 7 ) ド イ ツ の 法 人 税 は 連 邦 と 州 の 共 有 税 ( 50:50) 、 連 帯 付 加 税 は 連 邦 税 で あ る 。 な お 、営 業 税 は 市 町 村 税 で あ り 、営 業 収 益 の 3.5%に 対 し 、市 町 村 ご と に 異 な る 賦 課 率 を乗じて税額が算出される。 ( 注 8 ) 中 国 の 法 人 税 は 中 央 政 府 と 地 方 政 府 の 共 有 税 ( 原 則 と し て 60:40) で あ る 。 (注9 )韓 国の地 方税 におい ては 、上記 の地 方所得 税の ほかに 資本 金額及 び従 業員数 に 応 じた住民税(均等割)等が課される。 (出所)財務省資料 35 経済のプリズム No109 2013.2 5.海外需要及び国内需要の中長期的な動向 国内の事業コストの高さが国内企業立地の大きな阻害要因の一つに な っ て い る こ と は 事 実 で あ る が 、ア ン ケ ー ト 調 査 1 7 か ら も 分 か る と お り 、 企 業 が 立 地 戦 略 上 、海 外 を 選 択 す る 際 の 最 大 の 動 機 と し て は 、 「海外で の 需 要 の 増 加 」、す な わ ち 新 興 国 等 の 海 外 需 要 の 増 加 を に ら み 、そ の 取 り 込 み を 図 る こ と で あ り 、 そ れ に 続 い て 、「 国 内 で の 需 要 の 減 少 」、 す なわち人口減少等で国内需要の減少が見込まれる中で、海外に商機を 見 い だ す と い う も の が 大 き な 動 機 に な っ て い る 18。 以下では、 「 海 外 で の 需 要 の 増 加 」及 び「 国 内 で の 需 要 の 減 少 」に つ いて、それぞれ統計的な確認を行うことにしたい。 まず、 「 海 外 で の 需 要 の 増 加 」に つ い て で あ る が 、経 済 産 業 省 に 設 置 さ れ た 新 中 間 層 獲 得 戦 略 研 究 会( 座 長:戸 堂 康 之 東 京 大 学 教 授 )が 2012 年 7 月 に 公 表 し た 『 新 中 間 層 獲 得 戦 略 』 に よ れ ば 、「 2005 年 か ら 2010 年 の 5 年 間 に 、ア ジ ア・ア フ リ カ 1 9 の 新 興 経 済 国 の 経 済 規 模 は 2.2 倍 の 増加となっており、この発展の勢いはしばらくの間継続するものと見 込 ま れ て い る 。( 2005 年 : 4 兆 5,910 億 ド ル → 2010 年 : 10 兆 2,797 億 ドル) ( 中 略 )成 長 の 先 駆 者 と し て の 知 見 を 活 か し 、新 興 国 の 新 中 間 層 20 が 求 め る 商 品・サ ー ビ ス 需 要 に 応 え 、と も に 成 長 し て い く こ と が 重 要 で あ る 。」と し 、将 来 的 に も 増 加 が 見 込 ま れ る ア ジ ア を 中 心 と し た 新 興 国の需要を日本経済の成長に取り込んでいくことの重要性を説いてい る。なお、同戦略における新中間層に関する具体的な推計結果は、図 表 8 に 示 す と お り で あ り 、2010 年 の 16.6 億 人 か ら 、2030 年 に は 23.6 億人にまで拡大し、その内訳としては、中国、インド、インドネシア の上位3か国が約8割を占めている。これらの国々は、経済発展の伸 びしろが依然として大きいため、将来的な需要の伸びが確実視されて おり、こうした需要を獲得すべく、今後はグローバルな激しい企業間 17 日 本 貿 易 振 興 機 構 ( JETRO) が 実 施 し て い る 『 日 本 企 業 の 海 外 事 業 展 開 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 』( 2012 年 3 月 ) に よ れ ば 、「 海 外 で の 需 要 の 増 加 」 を 挙 げ る 企 業 が 66.7% 、 「 国 内 で の 需 要 の 減 少 」を 挙 げ る 企 業 が 43.3% と な っ て い る( 複 数 回 答 が 可 の た め 、 両 者 を 足 し 合 わ せ る と 100% 超 と な る )。 18 増 田 ( 2012.9) で は 、「 6 重 苦 の 解 消 は 、 も ち ろ ん 日 本 経 済 に と っ て 危 急 の 課 題 で あ る が 、仮 に そ れ が 実 現 し て も 企 業 の 海 外 進 出 の 流 れ は 止 ま ら な い と 考 え る 。ま た 、 そ れ を 止 め る べ き で も な い だ ろ う 。」 と 指 摘 し て い る 。 19 統計上の制約から、中国、インド、インドネシア、エジプト、パキスタン、タ イ 、フ ィ リ ピ ン 、ア ル ジ ェ リ ア 、南 ア フ リ カ 、モ ロ ッ コ 、ナ イ ジ ェ リ ア 、マ レ ー シ ア 、 ベ ト ナ ム 、 チ ュ ニ ジ ア 、 ケ ニ ア の 15 か 国 を 対 象 に し て い る 。 20 下 位 中 間 層( 家 計 所 得 5,000 ド ル ~ 15,000 ド ル )と 上 位 中 間 層( 家 計 所 得 15,000 ド ル ~ 35,000 ド ル ) の 2 層 を 合 算 し た 層 を 「 新 中 間 層 」 と し て い る 。 経済のプリズム No109 2013.2 36 競争が繰り広げられるものと思われる。 図表8 新中間層に関する推計結果 (単位:億人) 2010 年 2015 年 2020 年 2025 年 2030 年 中国 6.4 7.2 7.5 7.4 7.0 インド 5.5 6.7 7.8 8.8 9.6 インドネシア 1.2 1.5 1.7 1.7 1.8 その他 3.5 4.1 4.6 4.9 5.3 16.6 19.5 21.5 22.8 23.6 合計 (出所)新中間層獲得戦略研究会『新中間層獲得戦略』より抜粋 次に、 「 国 内 で の 需 要 の 減 少 」に つ い て で あ る が 、日 本 の 総 人 口 が 図 表9に示すとおり、将来的に大幅に減少する見込みであるため、国内 需要の減少を食い止めるのは容易なことではない。そうした人口減少 による国内需要の減少を補うためには、海外企業の誘致や対日直接投 資を増やしていくことを困難ではあるが追求していく必要があろう。 図表9 日本の総人口の推移 千人 140,000 130,000 120,000 110,000 100,000 高位 90,000 実績値 推計値 中位 80,000 低位 70,000 60,000 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 暦年 (注)図中の高位、中位、低位は出生仮定の違い、死亡仮定はすべて中位。 ( 出 所 )国 立 社 会 保 障・人 口 問 題 研 究 所『 日 本 の 将 来 推 計 人 口( 2012 年 1 月 推 計 )』 37 経済のプリズム No109 2013.2 人 口 減 少 に 加 え て 、日 本 の 人 口 動 態 で 特 徴 的 な の は 、図 表 10 に 示 す と お り 、 生 産 年 齢 ( 15 歳 か ら 64 歳 ) 人 口 及 び 年 少 ( 0 歳 か ら 14 歳 ) 人 口 の 大 幅 減 、 老 年 ( 65 歳 以 上 ) 人 口 の 大 幅 増 と い う 構 図 で あ り 、 企 業としては、需要の中身の変化(増加が見込まれる高齢者需要)への 対応が重要になってくる。具体的には、日本国内の高齢者需要が今後 高 ま っ て い く こ と が 予 想 さ れ る 中 で 、医 療・介 護 分 野 に つ い て み る と 、 過 去 10 年 間 で 、我 が 国 の 老 齢 人 口 は 欧 米 諸 国 よ り も 急 速 に 増 加 し た が 、 この間における医療・介護支出等の伸びは、相対的に低い伸びにとど ま っ て お り ( 図 表 11 を 参 照 )、 同 分 野 に 関 す る 将 来 的 な 需 要 創 出 の 余 地が非常に大きい点は注目に値する。 図 表 10 日 本 の 人 口 構 成 の 推 移 年少人口 生産年齢人口 老年人口 2010 年 1,684 万 人 ( 13.1% ) 8,173 万 人 ( 63.8% ) 2,948 万 人 ( 23.0% ) → → → 2030 年 1,204 万 人 ( 10.3% ) 6,773 万 人 ( 58.1% ) 3,685 万 人 ( 31.6% ) → → → 2060 年 791 万 人 ( 9.1% ) 4,418 万 人 ( 50.9% ) 3,464 万 人 ( 39.9) (注)出生、死亡ともに中位の推計値による。括弧内が総人口に占める割合。 ( 出 所 )国 立 社 会 保 障・人 口 問 題 研 究 所『 日 本 の 将 来 推 計 人 口( 2012 年 1 月 推 計 )』 図 表 11 高齢化と医療・介護関連支出の伸び 日本 65 歳 以 上 人 口 (2000 年 → 2010 年 の 変 化 率 ) 医療・介護支出等 (2000 年 → 2008 年 の 変 化 率 ) ドイツ 米国 フランス 33% 25% 16% 11% 11% 25% 74% 49% 英国 11% 85% ( 出 所 ) 桜 ほ か 「 日 本 の 人 口 動 態 と 中 長 期 的 な 成 長 力 」『 BOJ Reports&Research Papers』 日 本 銀 行 調 査 統 計 局 、 2012 年 8 月 よ り 抜 粋 さらには、 「 海 外 で の 需 要 の 増 加 」及 び「 国 内 で の 需 要 の 減 少 」の 両 面を示唆するデータとして、世界経済における日本経済の位置づけを 見 て お く 。例 え ば 、図 表 12 に 示 す O E C D( 経 済 協 力 開 発 機 構 )の 長 期予測結果によれば、日本や米国等の先進国経済の存在感が小さくな るのとは対称的に、中国やインドを始めとした新興国の存在感が増す という世界経済におけるパワーバランスの劇的な変化が読み取れる。 具 体 的 に は 、世 界 の G D P に 占 め る 割 合 が 、日 本 は 2011 年 の 7 % か ら 、 2030 年 は 4 % 、2060 年 は 3 % ま で 低 下 し 、米 国 も 2011 年 の 23% か ら 、 経済のプリズム No109 2013.2 38 2030 年 は 18% 、2060 年 は 17% ま で 低 下 す る 。そ の 一 方 、 中 国 は 2011 年 の 17% か ら 、 2030 年 は 28% に ま で 上 昇 し 、 2060 年 も 28% を 維 持 、 イ ン ド は 2011 年 の 7 % か ら 、2030 年 は 11% 、2060 年 は 18% ま で 上 昇 す る 。 つ ま り 、 2030 年 時 点 で も 中 国 と イ ン ド を 合 わ せ れ ば 、 世 界 の G D P の 約 4 割 に 迫 る 勢 い で あ り 、2060 年 時 点 で は こ れ が 5 割 弱 ま で 高 ま り 、 同 2 か 国 で O E C D 加 盟 国 全 体 を 追 い 越 す 21と 予 測 さ れ て い る 。 こうした予測結果については、幅を持って見る必要はあるが、日本企 業が国内需要だけではなく海外需要を積極的に取り込んでいく必要性 を示唆している。 図 表 12 世界経済におけるGDPのシェアの推移 2011 年 米国 (United States) 日本 ( Japan) ユーロエリア ( Euro area) その他OECD加盟国 (other OECD) OECD加盟国以外 (Other non-OECD) 2030 年 2060 年 23% → 18% → 17% 7% → 4% → 3% 17% → 12% → 9% 18% → 15% → 14% 11% → 12% → 11% 中国 17% → 28% → 28% (China) インド 7% → 11% → 18% (India) ( 注 ) 購 買 力 平 価 ( PPP) ベ ー ス の GDP ( 出 所 ) OECD“ Looking to 2060:Long-term growth prospects for the world” 6.今後の企業立地戦略を見据えた政策の在り方 「海外での需要の増加」及び「国内での需要の減少」という大きな 流れは既に動き出しており、中長期的にもそうした流れが続く可能性 が高い。そうした大きな流れを踏まえ、日本企業は国内と海外の2つ の市場を両にらみし、合理的な立地選択、機能的なすみ分けを行うこ とになり、その結果として、現状よりも海外進出、海外での企業立地 が 増 え て い く こ と は 不 可 避 で あ る 2 2 。近 年 、国 や 地 方 自 治 体 も 中 小 企 業 も 含 め た 日 本 企 業 の 海 外 展 開 を 支 援 す る 政 策 を 始 動 さ せ て い る 2 3 。し か 21 2060 年 時 点 の 中 国 ・ イ ン ド の 合 計 が 46% に 対 し 、 O E C D 加 盟 国 全 体 ( 米 国 + 日 本 + ユ ー ロ エ リ ア + そ の 他 O E C D 加 盟 国 ) は 43% 。 22 その一方で、①国内の生産拠点を失えば、ものづくり力が弱体化、②海外事業 展 開 の た め に は 国 内 マ ザ ー 工 場 が 不 可 欠 、③ 感 度 の 高 い 国 内 の 消 費 者 は 貴 重 等 を 理 由として国内生産にこだわる日本企業も少なくないと思われる。 23 例 え ば 、2011 年 6 月 に 政 府 が 取 り ま と め た「 中 小 企 業 海 外 展 開 支 援 大 綱 」で は 、 39 経済のプリズム No109 2013.2 しながら、政府が企業の海外進出を支援するだけでは各企業の体力は 強化されても、国内の空洞化回避には必ずしもつながらない。海外進 出支援を空洞化回避策として機能させるためには、日本国内の投資環 境やビジネス環境を企業にとって魅力のあるものに整備することが求 められており、 「 六 重 苦 」を 始 め と し た 国 内 の 事 業 コ ス ト の 高 さ を 解 消 す る こ と が 急 務 の 課 題 で あ る 2 4 。と り わ け 、過 度 な 円 高 の 是 正 、高 い 法 人実効税率の見直しは極めて重要であり、企業の立地選択にも多大な る影響を及ぼす政策課題である。ただし、高い法人実効税率の見直し と 言 っ て も 、国 税 部 分( 法 人 税 )・地 方 税 部 分( 道 府 県 民 税 、市 町 村 民 税、事業税、地方法人特別税)のどこをどの程度引下げ、それら引下 げ分を他の税目で増税するのか否か等、国や地方自治体の財政への影 響 等 を 踏 ま え つ つ 、税 制 全 体 を 見 据 え た 見 直 し が 必 要 に な っ て こ よ う 2 5 。 最後に、海外での企業立地が今後増えていくことを言わば所与の条 件として、国内の企業立地件数をどう維持、あるいは増やしていき、 「産業空洞化」をいかに回避していくかについて政策的に考えられる ことを整理すれば、①海外で得た収益を国内に還流させ、国内の高付 加価値セクターへ投入されるような枠組み(税財政、規制改革、金融 政策等の政策ツールを活用)を整えること、②海外企業の誘致を図る とともに対日直接投資を増やすこと、③そしてより根本的には、国内 企業立地件数が名目GDPや企業収益等の影響を受けていることも踏 まえ、日本経済の期待成長率を高めるために、長引くデフレから脱却 するとともに新たな成長産業の育成を図ることの3点が極めて重要に なってくる。 ① 情 報 収 集 ・ 提 供 、② マ ー ケ テ ィ ン グ 、③ 人 材 育 成 ・ 確 保 、④ 資 金 調 達 、⑤ 貿 易 投 資 環 境 の 改 善 を 支 援 の 柱 と し て 挙 げ て お り 、今 後 、政 府 、関 係 機 関 、中 小 企 業 者 は 、 明 確 に 目 的 を 共 有 し つ つ 、協 働 し て 政 策 効 果 の 最 大 化 を 図 る こ と が 求 め ら れ る と し て い る ( な お 、 同 大 綱 は 、 2012 年 3 月 に 改 訂 )。 24 池 尾 (2012)は 、 「本社機能等まで完全に海外流出すれば空洞化による日本経済の 低 迷 は 取 り 戻 し が た い も の に な っ て し ま う 」 と し 、「 そ う し た 事 態 を 避 け る た め に は 、日 本 国 内 を 研 究 開 発 や 本 社 機 能 を 立 地 す る 場 所 と し て 魅 力 的 な も の に し て い か ね ば な ら な い 。そ の た め に 、政 策 的 に は 、円 高 、高 率 の 法 人 税 、厳 し い 労 働 規 制 な ど の い わ ゆ る「 六 重 苦 」の 解 消 を 図 っ て い か な け れ ば な ら な い 。」と 指 摘 し て い る 。 25 日 本 企 業 の 地 方 税 負 担 が 重 い 点 に つ い て 、 坂 田 ( 2004) は 、「 企 業 課 税 全 体 の 中 で 地 方 課 税 が 半 ば を 占 め る 課 税 構 造 は 、少 な く と も 先 進 国 の 中 で は 例 外 的 な も の で あ る 。ま た 、地 方 自 治 体 の 行 政 サ ー ビ ス の 中 身 は 、教 育 、介 護 、衛 生 と い っ た 対 住 民 サ ー ビ ス の 割 合 が 高 い こ と を 考 慮 す る と 、地 方 財 政 に お け る 受 益 と 負 担 の 関 係 を 曖 昧 な も の に す る 原 因 の 1 つ に な っ て い る 。」 と 指 摘 し て い る 。 経済のプリズム No109 2013.2 40 【参考文献】 池 尾 和 人 「経 済 低 迷 の 結 果 が デ フ レ 症 状 労働規制改革など抜本治療が不可 欠 」『 週 刊 エ コ ノ ミ ス ト 』( 第 90 巻 第 51 号 ) 毎 日 新 聞 社 、 2012 年 11 月 大 塚 哲 洋 「 製 造 業 の 海 外 展 開 に つ い て 」『 み ず ほ レ ポ ー ト 』 み ず ほ 総 合 研 究 所 、 2011 年 3 月 坂 田 一 郎「 経 済 活 力 の 視 点 か ら 見 た 税 制 改 革 」青 木 昌 彦 、鶴 光 太 郎 編 著『 日 本 の 財 政 改 革 』 東 洋 経 済 新 報 社 、 2004 年 12 月 桜 健 一 ・ 永 沼 早 央 梨 ・ 西 崎 健 司 、原 尚 子 、山 本 龍 平「 日 本 の 人 口 動 態 と 中 長 期的な成長力」 『 BOJ Reports&Research Papers』日 本 銀 行 調 査 統 計 局 、2012 年8月 日 本 経 済 団 体 連 合 会 産 業 問 題 委 員 会 『 日 本 の 産 業 競 争 力 』、 2011 年 4 月 樋 口 美 雄 ・ 松 浦 寿 幸 「 企 業 パ ネ ル デ ー タ に よ る 雇 用 効 果 分 析 」『 RIETI Discussion Paper Series』 独 立 行 政 法 人 経 済 産 業 研 究 所 、 2003 年 12 月 深 尾 京 司 『「 失 わ れ た 20 年 」 と 日 本 経 済 』 日 本 経 済 新 聞 出 版 社 、 2012 年 3 月 増 田 貴 司 「 製 造 業 の 海 外 シ フ ト と 国 内 立 地 の 意 義 」『 TBR 産 業 経 済 の 論 点 』 東 レ 経 営 研 究 所 、 2012 年 9 月 増 田 貴 司 「 企 業 の 海 外 進 出 に よ っ て 「 空 洞 化 の 回 避 」 は 本 当 か 」『 週 刊 エ コ ノ ミ ス ト 』( 第 90 巻 第 52 号 ) 毎 日 新 聞 社 、 2012 年 11 月 米 山 秀 隆 「円 高 と 競 争 力 、 空 洞 化 の 関 係 の 再 考 」『 研 究 レ ポ ー ト 』( No.391) 富 士 通 総 研 経 済 研 究 所 、 2012 年 3 月 ( 内 線 75265) 41 経済のプリズム No109 2013.2