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詳細 - 日本心理学会
日心第70回大会(2006)
定年退職者の社会参加と夫婦関係
~濡れ落ち葉の功罪~
片桐恵子
(日本興亜福祉財団社会老年学研究所)
Key words: 社会参加、濡れ落ち葉忌避、定年期夫婦
接的な影響というのは、夫婦のために定年後の夫が社会参加
もせず、家にいるのはお互いのためによくないという認識が
共有され、夫が家で濡れ落ち葉の状態になることを避けたい
という意識が社会参加への動機へとつながっているというこ
とである。つまり、表 1 の動機の欄にあるように、社会参加
の動機として、純粋にボランティア活動により社会参加をし
たいというより、濡れ落ち葉になるのがいやだから、とりあ
えず外出するために社会参加をするという動機付けが根底に
あり、濡れ落ち葉に陥る状況を回避したいという動機づけが
見られたということである。これを「濡れ落ち葉忌避」動機
と名づけた。
また社会参加活動の契機にかかわる以上のようなコメント
のほかに、社会参加活動を継続するための配偶者からの支援
の有無についての言及も見られた。支援というのは具体的に
は妻の社会参加活動を行いやすくするよう夫が家事を分担す
る、あるいは、夫の社会参加活動に伴うメンバーとの連絡の
やり取りなどを補助するといったものであった。
このように定年期の男女の社会参加活動の契機と継続には
配偶者の影響が様々な態様をとって現れることが判明した。
表 1 インタビューの結果とコメント内容
コメント
インタビュー協力者
インタビュー形態
発
言
者
人
数
1
人
グ
ル
ー
状就
況業
性
別
男 女 現
性 性 役
引
退
プ
直
接
的
働
き
か
け
間 支
接 援
的 あ
働 り
き
か
け
対
言
動
象
及
機
者
支 本 他 積 濡
援 人 者 極 れ
的 落
な
参 ち
し
加 葉
忌
避
34
6
4
働きかけ
参
加
に
促
進
参
加
に
阻
害
参
加
に
関
係
な
し
方
向
性
→
コ
メ
ン
ト
総
数
→
目 的
世界トップの長寿国になった日本において、定年退職後に
いかに生きるかということは大きな社会問題である。これは
ひいては、幸福な老いをいかに達成するか、という問いにつ
ながる。本研究では、Rowe &Kahn (1997, 1998) のサクセス
フル・エイジング理論における基準「人生への積極的関与」の
二つの下位概念、「生産的活動の維持」と「他者との交流の維
持」を実現することが幸福な老いの実現であるとの主張のも
とに、社会参加活動がその二つの基準を満たす方策であるこ
との考えのもとに社会参加に関わる社会関係的要因を探索的
に検討することを目的をしている。
これまでの高齢者の社会参加に関わる要因としては、心理
的要因やネットワーク要因等が検討されてきた。しかし、定
年期に影響が大きいと想像される夫婦相互の影響はこれまで
ほとんど検討されてこなかった。配偶者がいることは社会参
加活動への参加に影響があるのか、またあるとしたらどのよ
うな形での影響がありうるのかを探索的に検討することが本
研究の目的である。
方 法
調査方法:イン・デプス・インタビュー及びグループ・イン
タビュー(半構造化面接)
被面接者:神奈川県、東京都、千葉県在住の 50 歳代から 70
歳代の男女でシニア・グループや NPO 参加者 26 名
面接時期:2001 年~2002 年
面接場所:公共施設や喫茶店、グループの活動場所
面接方法:インタビューは平均約 2 時間。インタビュアー1,2
名、書記 1,2 名で実施。
面接内容:最初に調査の目的と、答えたくない質問には答え
なくてかまわないことを説明し、研究の分析のために録音の
許可をとった。インタビューの開始前に、基本的属性、健康
状態、経済状態、社会参加の状況の内容からなる簡単な調査
票に記入を求め、それからインタビューを実施した。
分析方法:インタビューをテープ起こしし、グループ参加に
関連する部分を取り出し、コーディングを実施。3 人のコー
ダーのコーディングの一致率は 90.7%。木下( 2003)の提案す
る M-GTA の分析方法をもとにして、コード毎に理論的メモ
を付した分析ワークシートを作成し、第一次コード、第二次
コードを作成し、配偶者がどのように社会参加活動の生起に
関わっているかを整理した。
結 果
インタビューの結果は表 1 にまとめたとおりである。コメ
ントは社会参加に関連するとみなされたものだけを取り出し
ている。全インタビュー協力者 26 名のうち 3 名は離・死別し
ているおり、
有配偶者 23 名だけでみると 8 割弱の人が自分の
社会参加活動への参加に配偶者の影響があったと答えた。そ
の影響の方向は妻→夫がその逆の 1.7 倍となっていた。コメ
ントの内容は多くが参加に促進的であったことを勘案すると、
夫の社会参加に妻の果たす役割が大きいことが推察される結
果となった。
また配偶者の働きかけは、参加を誘ったり、グループのセ
ミナーなどに妻が夫に代わって加入を申し込んだりという直
接的な働きかけだけではなく、間接的な影響も見られた。間
妻 夫
夫 妻
18/26 11/18 7/8 15
3
4
14
56 41
4
11
33
20
10
42
14
3
8
考 察
本研究では、夫婦の社会参加行動を取り巻く状況について
質問を行ったが、回答が得られたケースというのは、そもそ
も仲のいい夫婦だけの可能性を否定できない。しかし、本研
究により、社会参加をめぐる夫婦間のダイナミクスの一部を
明らかにし、量的調査における配偶者の有無の変数が社会参
加にプラスに有意に効くという意味を掘り下げることが可能
となった。今後夫婦関係の質と社会参加活動の関係などにつ
いてさらに検討していく必要があろう。
1)
2)
3)
4)
引用文献
木村好美(1999). 高齢者の社会活動への参加規定因-社
会活動に参加する人、しない人-. 年報人間科学(大阪大
学大学院人間科学研究科社会学・人間学・人類学研究室),
20, 309-323.
木下康仁(2003). グラウンデッド・セオリー・アプロー
チの実践―質的研究への誘い 弘文堂.
Rowe, J. W., & Kahn, R. L. (1997). Successful aging.
Gerontologist, 37, 433-440.
Rowe, J. W., & Kahn, R. L. (1998). Successful Aging: The
MacArthur Foundation Study. NY: Pantheon Books.
(KATAGIRI Keiko)
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