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博士学位請求論文 指導教員 石原 宏 准教授 箱庭制作者の主観的体験

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博士学位請求論文 指導教員 石原 宏 准教授 箱庭制作者の主観的体験
博士学位請求論文
指導教員 石原
宏
准教授
箱庭制作者の主観的体験に対して多元的方法を用いた質的研究
― M-GTA に よ る 促 進 機 能 に 関 す る 理 論 生 成 と
単一事例質的研究による系列的理解を中心に ―
佛教大学大学院
教育学研究科臨床心理学専攻
楠本
和彦
目
次
Ⅰ章.本研究全体の問題および目的
Ⅰ -1.目 的
1
Ⅰ -2.用 語 の 定 義
1
Ⅰ -3. 第 1 研 究 お よ び 第 2 研 究 に 共 通 す る 研 究 内 容 に 関 す る 検 討
2
1)箱 庭 制 作 過 程 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験
2
2)継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接
8
Ⅰ -4. 第 1 研 究 お よ び 第 2 研 究 に 共 通 す る 調 査 ・ 分 析 に 関 す る 検 討
9
1)箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 先 行 研 究 に お け る 調 査 ・ 分 析 方 法
9
2)多 元 的 方 法 ・ ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン
9
3)本 研 究 に お け る 多 元 的 な 調 査 ・ 分 析 方 法 の 採 用
11
第1研究
M-GTA に よ る 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に 関 す る 研 究
Ⅱ章.問題および目的
Ⅱ -1.第1研究の研究内容に関する検討
1)箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能
12
12
Ⅱ -2. M-GTA に よ る 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 主 観 的 体 験 に
焦点を合わせた研究
12
1)M-GTA を 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 研 究 に 採 用 す る 際 に 検 討 す べ き 論 点
13
2)M-GTA に よ る 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て の 先 行 研 究
14
Ⅱ -3.M-GTA を 採 用 す る に 当 た っ て 検 討 す べ き 他 の 論 点
18
1)単 一 事 例 修 正 版 グ ラ ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ
18
2)同 一 調 査 参 加 者 に 対 す る 複 数 回 の イ ン タ ビ ュ ー 実 施
18
Ⅲ章.方法
Ⅲ -1.調 査 参 加 者 ・ 調 査 方 法
20
1)箱 庭 制 作 面 接
21
2)ふ り か え り 面 接
21
3)全 過 程 の ふ り か え り 面 接
22
Ⅲ -2. 分 析 方 法
23
1)基 礎 資 料 の 作 成
23
2) M-GTA に よ る 分 析
23
Ⅳ章.第 1 研究の結果の概要
Ⅳ − 1.促 進 要 因 間 の 交 流 の 全 体 像
25
Ⅳ − 2.カ テ ゴ リ ー ,概 念 ,具 体 例 等 の 表 記 に つ い て
26
Ⅴ 章 . M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ① 【 内 界 と 装 置 の 交 流 】 の 結 果 お よ び 考 察
Ⅴ -1.「装 置 」か ら 「内 界 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
1)[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
Ⅴ -2.「内 界 」か ら 「装 置 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
27
27
35
1)< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > の 結 果 お よ び 考 察
35
2)[不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]の 結 果 お よ び 考 察
40
Ⅴ -3.「内 界 」と 「装 置 」と の 双 方 向 の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
1)[ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ]の 結 果 お よ び 考 察
42
43
2)[ミ ニ チ ュ ア に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 へ の 気 づ き ]の
結果および考察
46
Ⅵ 章 . M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ② 【 内 界 と 構 成 の 交 流 】 の 結 果 お よ び 考 察
Ⅵ -1.「構 成 」か ら 「内 界 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
1)[構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
Ⅵ -2.「内 界 」か ら 「構 成 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
51
51
61
1)[構 成 に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
61
2)[内 的 プ ロ セ ス の 構 成 へ の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察
67
Ⅵ -3.「内 界 」と 「構 成 」と の 双 方 向 の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
70
Ⅵ -3-1. ≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ と ,そ の 中 の カ テ ゴ リ ー ,
概念の結果および考察
1)≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ の 結 果 お よ び 考 察
70
70
Ⅵ -3-2. < イ メ ー ジ の 自 律 性 > と [作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]の
結果および考察
75
1)< イ メ ー ジ の 自 律 性 > の 結 果 お よ び 考 察
75
2)[作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]の 結 果 お よ び 考 察
77
Ⅵ -3-3.< イ メ ー ジ の 自 律 性 > に 含 ま れ な い 2 概 念 の 結 果 お よ び 考 察
80
1)[イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
81
2)[非 意 図 的 な 構 成 を 基 に ,意 図 的 に 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]の
結果および考察
83
Ⅵ -3-4.< 創 造 を め ぐ る 肯 定 的 感 情 と 否 定 的 感 情 > 内 の 2 概 念 の 結 果
および考察
85
1)[創 造 の 歓 び ]の 結 果 お よ び 考 察
85
2)[作 品 に 対 し て ,否 定 的 な 感 情 や 感 覚 を も つ プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
87
Ⅵ -3-5.内 界 と 構 成 と の 双 方 向 の 影 響 を 示 す ,他 5 概 念 の 結 果 お よ び 考 察
91
1)[構 成 に よ る 表 現 の 多 義 性 ]の 結 果 お よ び 考 察
91
2)[他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察
95
3)[ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ な い 領 域 に つ い て の 意 図 や 感 覚 ]の 結 果 お よ び 考 察 98
4)[構 成 に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 の 表 現 ]の 結 果
および考察
5)[不 明 瞭 な 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
100
103
Ⅶ 章 . M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ④ 【 内 界 と 装 置 と 構 成 の 交 流 】 の 結 果 お よ び 考 察
Ⅶ -1. 「装 置 」が 中 心 と な る 概 念 群 の 結 果 お よ び 考 察
110
1)[砂 や 砂 箱 の 底 の 色 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]の 結 果
および考察
110
2)[ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察 115
3)[ミ ニ チ ュ ア の 他 領 域 と の 関 連 ]の 結 果 お よ び 考 察
Ⅶ -2. 「構 成 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー ・ 概 念 群 の 結 果 お よ び 考 察
119
121
Ⅶ -2-1.< ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > と [構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス
の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ],[代 替 と し て の ミ ニ チ ュ ア 選 択 や
装 置 の 利 用 ]の 結 果 お よ び 考 察
1)< ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > の 結 果 お よ び 考 察
121
121
2)[構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察 123
3)[代 替 と し て の ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 の 利 用 ] の 結 果 お よ び 考 察
125
Ⅶ -2-2.< ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > に 含 ま れ な い [作 ら れ な か っ た
構 成 ]と [説 明 過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ ス ]の 結 果
および考察
128
1)[作 ら れ な か っ た 構 成 ]の 結 果 お よ び 考 察
128
2)[説 明 過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
132
Ⅶ -3.「内 界 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー ・ 概 念 群 の 結 果 お よ び 考 察
137
Ⅶ -3-1.< ぴ っ た り 感 の 有 無 > と [ぴ っ た り 感 の 照 合 ],[ミ ニ チ ュ ア と の
出 会 い ]の 結 果 お よ び 考 察
137
1)< ぴ っ た り 感 の 有 無 > の 結 果 お よ び 考 察
137
2)[ぴ っ た り 感 の 照 合 ]の 結 果 お よ び 考 察
139
3)[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]の 結 果 お よ び 考 察
143
Ⅶ -3-2. < イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > と [箱 庭 に 入 る ],[枠 外 の
イ メ ー ジ ]の 結 果 お よ び 考 察
146
1)< イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > の 結 果 お よ び 考 察
146
2)[箱 庭 に 入 る ]の 結 果 お よ び 考 察
149
3)[枠 外 の イ メ ー ジ ]の 結 果 お よ び 考 察
152
Ⅶ -3-3. 上 記 カ テ ゴ リ ー 外 の 概 念 の 結 果 お よ び 考 察
157
1)[身 体 感 覚 ・ ボ デ ィ ー イ メ ー ジ ]の 結 果 お よ び 考 察
157
Ⅷ 章 . M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ⑪ 【 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 と 作 品 の 連 続 性 や
変化の交流】および⑫【箱庭制作面接のプロセスと心や生き方の変化・
成長の交流】の結果および考察
1)⑪ 【 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 と 作 品 の 連 続 性 や 変 化 の 交 流 】 の
[以 前 の 作 品 と の 関 連 ],[作 品 の 変 化 ]の 結 果 お よ び 考 察
165
2)⑪ 【 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 と 作 品 の 連 続 性 や 変 化 の 交 流 】 の
[連 続 性 と イ メ ー ジ 特 性 と の 関 連 ]の 結 果 お よ び 考 察
3)⑫ 【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化 ・ 成 長 の 交 流 】 の
167
[自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き ],[心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ]の 結 果
168
および考察
4)⑫ 【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化 ・ 成 長 の 交 流 】 の
[面 接 内 外 を 貫 い て 内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]の 結 果 お よ び 考 察
第 2 研究
171
質的研究による系列的理解
Ⅸ章.問題および目的
178
Ⅸ -1.質的研究による系列的理解
Ⅹ 章 .方 法
Ⅹ -1. 分 析 方 法
179
Ⅹ -2. 質 的 研 究 に よ る 系 列 的 理 解 に お け る 具 体 例 等 の 表 記 に つ い て
179
Ⅺ章.箱庭制作面接の質的研究による系列的理解
―箱庭制作者 A 氏―
Ⅺ -1. A 氏 の 主 な 箱 庭 制 作 過 程 と 主 観 的 体 験 の 詳 細
180
1)第 1 回 箱 庭 制 作 面 接
180
2)第 2 回 箱 庭 制 作 面 接
181
3)第 3 回 箱 庭 制 作 面 接
183
4)第 4 回 箱 庭 制 作 面 接
184
5)第 5 回 箱 庭 制 作 面 接
185
6)第 6 回 箱 庭 制 作 面 接
186
7)第 7 回 箱 庭 制 作 面 接
187
8)第 8 回 箱 庭 制 作 面 接
190
9)第 9 回 箱 庭 制 作 面 接
191
10)第 10 回 箱 庭 制 作 面 接
192
Ⅺ -2.A 氏 の 主 観 的 体 験 の 変 容 と 面 接 の 展 開 に 関 す る 考 察
194
1)主 な テ ー マ と 自 己 像 の 変 遷
194
2)宗 教 性 (命 ,守 り ,神 聖 な 場 所 ・ 生 き 物 )
197
3)女 性 性 ,母 性
197
4)自 己 の 多 様 性 と 能 動 性 の 獲 得 ,他 者 と の 関 係 性 の 変 容
198
5)受 動 性 と 能 動 性 , 面 接 内 外 で の 深 い 関 与
199
Ⅻ章.箱庭制作面接の質的研究による系列的理解
―箱庭制作者 B 氏―
Ⅻ -1.B 氏 の 主 な 箱 庭 制 作 過 程 と 主 観 的 体 験 の 詳 細
201
1)第 1 回 箱 庭 制 作 面 接
201
2)第 2 回 箱 庭 制 作 面 接
204
3)第 3 回 箱 庭 制 作 面 接
207
4)第 4 回 箱 庭 制 作 面 接
210
5)第 5 回 箱 庭 制 作 面 接
211
6)第 6 回 箱 庭 制 作 面 接
213
7)第 7 回 箱 庭 制 作 面 接
214
8)第 8 回 箱 庭 制 作 面 接
216
Ⅻ − 2. B 氏 の 主 観 的 体 験 の 考 察
218
1)宗 教 性 を 中 心 と し た 心 や 生 き 方 の 変 容 の 考 察
218
2)心 の 多 層 性 の 観 点 か ら の 考 察
225
XIII 章 . 総 合 考 察
XIII-1. 本 章 の 目 的 と 構 成
228
XIII-2. 本 研 究 の 調 査 方 法 ・ 分 析 方 法 に つ い て の 考 察
229
1)調 査 方 法
229
2)分 析 方 法
231
XIII-3. 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 に つ い て の 総 合 考 察
232
XIII-4. 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 連 続 性 に 関 し て
239
1) M-GTA に よ り 見 い だ さ れ た 連 続 性
239
2) 単 一 事 例 質 的 研 究 に よ り 見 い だ さ れ た 連 続 性
240
XIII-5. 今 後 の 課 題
241
注
243
謝辞
245
引用文献
246
初出一覧
251
資料
資料 1
252
資料 2
253
資料 3
254
資料 4
265
Ⅰ章.本研究全体の問題および目的
Ⅰ -1.目 的
本 研 究 は ,第 1 研 究 と 第 2 研 究 か ら 成 る 。 第 1 研 究 は ,a.継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る
箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 (subjective experience)を 精 緻 に 分 析 し ,概 念 化 す る こ と を 通 し て ,
箱 庭 制 作 面 接 が 箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 を ど の よ う に 促 進 す る の か ,そ の 機 能 に
つ い て 検 討 す る こ と を 目 的 と す る 。目 的 a は ,以 下 の 2 つ の 下 位 目 的 か ら 成 る 。a-1.箱 庭 制
作 面 接 の 中 心 的 過 程 で あ る 箱 庭 制 作 過 程 に 主 に 焦 点 を 合 わ せ ,箱 庭 制 作 過 程 に は ど の よ う
な 促 進 機 能 が あ る の か を 考 察 す る 。そ の 結 果 お よ び 考 察 を Ⅴ 章 か ら Ⅶ 章 に 亘 っ て 記 述 す る 。
a-2.箱 庭 制 作 面 接 の 継 続 性 ・ 連 続 性 は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 を ど の よ う に 促 進
するのかを検討する。その結果および考察をⅧ章に記述する。
第 1 研 究 は ,目 的 a を 達 成 す る た め ,2 名 の 箱 庭 制 作 者 の 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る
主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 の デ ー タ を 修 正 版 グ ラ ウ ン デ ッ ド・セ オ リ ー・ア プ ロ ー チ (M-GTA)
に よ っ て 分 析 し ,理 論 生 成 す る 。
第 2 研 究 は ,b.継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 面 接 の
展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 を 検 討 す る こ と ,を 目 的 と す る 。 目 的 b を 達 成 す る た め に ,2 名 の 箱 庭
制作者の継続的な箱庭制作面接における主観的体験の語りや記述のデータを質的研究によ
る系列的理解によって分析する。その結果および考察をⅪ章とⅫ章に記述する。
両 研 究 に お い て ,主 に 分 析 ・ 検 討 し た デ ー タ は ,箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 箱 庭 制 作 者 の 主 観
的 体 験 の 語 り や 記 述 で あ る 。 そ の デ ー タ は 主 に 箱 庭 制 作 に つ い て 説 明 す る 過 程 (説 明 過 程 )
における語りや箱庭制作過程についての内省報告によって得られた。
Ⅰ -2.用 語 の 定 義
本 研 究 で は ,十 分 に 一 般 化 さ れ て い な い 用 語 を 使 用 す る た め ,そ の 定 義 を 以 下 に 記 す 。
本 研 究 で は ,箱 庭 作 品 を 制 作 し ,そ の 後 ,そ れ に つ い て 箱 庭 制 作 者 が 説 明 を 行 う 面 接 を 箱 庭
制 作 面 接 と 記 す 。 箱 庭 制 作 面 接 は 箱 庭 療 法 と ほ ぼ 同 義 の 面 接 で あ る が ,本 研 究 は ,厳 密 に は
箱 庭 制 作 者 に 対 す る セ ラ ピ ー を 目 的 と し て い な い た め ,こ の よ う に 記 す 。
箱 庭 制 作 過 程 と は ,箱 庭 制 作 者 が 作 品 を 制 作 し て い く 過 程 で あ る 。 説 明 過 程 と は ,箱 庭 制
作 過 程 に つ い て ,箱 庭 制 作 者 が 説 明 す る 過 程 で あ る 。 本 研 究 の 説 明 過 程 に は ,自 発 的 説 明 過
程 と 調 査 的 説 明 過 程 が あ る 。 自 発 的 説 明 過 程 は ,通 常 の 箱 庭 療 法 と 同 様 に ,箱 庭 制 作 後 ,箱 庭
制 作 者 が 自 発 的 に ,箱 庭 制 作 過 程 や 作 品 に つ い て 語 る 過 程 で あ る 。 調 査 的 説 明 過 程 は ,本 研
究 の 調 査 目 的 の た め に ,自 発 的 説 明 過 程 直 後 に 追 加 さ れ た 。調 査 的 説 明 過 程 は 自 発 的 説 明 過
程 に 比 べ ,調 査 者 が よ り 積 極 的 に 対 話 や 質 問 を 行 い ,箱 庭 制 作 過 程 と 自 発 的 説 明 過 程 に お け
る箱庭制作者の主観的体験の言語化を促す説明過程である。
ふ り か え り 面 接 は ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 を ,調 査 者 と 共 有 し ,内
容 を 明 確 化 す る た め に 行 わ れ た 面 接 で あ る 。 ふ り か え り 面 接 で は ,箱 庭 制 作 面 接 の VTR を
視 聴 し 作 成 さ れ た ,箱 庭 制 作 者 の 内 省 報 告 を デ ー タ と し て 用 い た 。
内 的 プ ロ セ ス と は ,箱 庭 制 作 面 接 に お い て 生 じ る ,意 図 ,感 覚 ,感 情 ,イ メ ー ジ ,連 想 ,意 味 ,記
憶 ,直 観 な ど の 心 理 的 プ ロ セ ス で あ る ,と 定 義 す る 。主 観 的 体 験 と は ,箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,
-1-
生 じ る 事 象 や そ れ に 伴 う 内 的 プ ロ セ ス を ど の よ う に 体 験 し ,そ の よ う な 体 験 を ど の よ う に
感 じ ,把 握 す る の か と い う 主 観 で あ り ,意 識 化 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス で あ る 。
こ の よ う に 定 義 す る と し て も ,内 的 プ ロ セ ス と 主 観 的 体 験 と い う 両 概 念 は 非 常 に 似 通 っ
た 意 味 を も っ て い る 。 内 的 プ ロ セ ス ,主 観 的 体 験 ,語 り や 内 省 報 告 の 記 述 と の 関 連 を 以 下 の
よ う に 考 え る こ と が で き る だ ろ う 。箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,箱 庭 制 作 者 に は 様 々 な 内 的 プ ロ
セ ス が 生 起 す る 。し か し ,そ の 中 に は 意 識 化 さ れ な い プ ロ セ ス も 存 在 す る 。内 的 プ ロ セ ス の
中 で 意 識 化 さ れ た も の が ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 と な る 。そ の 主 観 的 体 験 は あ く ま で も 箱
庭制作者の意識内のものであるため, 調査者はそれを直接的に把握することはできない。
箱庭制作者の主観的体験が表現されてこそ, 調査者は箱庭制作者の主観的体験を理解する
こ と が 可 能 に な る 。箱 庭 制 作 面 接 に お け る 表 現 に は ,箱 庭 制 作 過 程・箱 庭 作 品 に よ る 非 言 語
的 表 現 と ,制 作 過 程 ・ 箱 庭 作 品 を 言 語 化 し た 語 り ・ 内 省 報 告 が あ る 。 そ こ で 本 研 究 で は ,箱
庭 制 作 面 接 に お け る 非 言 語 的 表 現 の 理 解 を 補 う も の と し て ,語 り や 内 省 報 告 の 記 述 を 利 用
し た 。そ れ に よ っ て ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 を よ り 適 切 に 理 解 す る
ことを目指した。
本 研 究 の デ ー タ は ,主 観 的 体 験 の 語 り や 内 省 報 告 で あ る た め ,本 研 究 で 示 す 「内 界 」と は 基
本 的 に は 意 識 化 さ れ た 心 的 内 容 で あ る 。 本 研 究 で は ,砂 箱 ,砂 ,ミ ニ チ ュ ア を 「装 置 」と 記 す 。
「構 成 」に は ,ミ ニ チ ュ ア を 選 択 す る 行 為 ,砂 や ミ ニ チ ュ ア で 作 品 を 作 り 上 げ て い く 構 成 行 為 ,
その結果としての構成内容が含まれる。
第 1 研 究 で は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る 箱 庭 制 作 面 接 の 機 能
を 「促 進 機 能 」,そ れ に 関 与 す る 要 因 を 「促 進 要 因 」と す る 。 ま た ,『 交 流 』 と は ,促 進 要 因 同 士
が 相 互 作 用 に よ り ,相 互 に 影 響 を 及 ぼ し 合 う プ ロ セ ス を い う 。 交 流 は ,相 互 作 用 と ほ ぼ 同 義
で あ る 。デ ー タ に 示 さ れ た ,要 因 間 の interaction の 力 動 感 を 含 め 表 す た め ,こ の 語 を 用 い た 。
な お ,交 流 と い う 用 語 は ,箱 庭 療 法 の 論 述 に ,以 下 の 使 用 例 が あ る 。
「こころにあるぴったりす
る も の は ,置 か れ た も の と の 交 流 を 形 成 す る 」(東 山 ,1994,p.38),「 イ メ ー ジ と 意 識 の 交 流 性 」
( 伊 藤 ,2005,p.63) ,「意 識 と 無 意 識 の 交 流 」(近 田 ・ 清 水 ,2006,p.54),他 。
第 2 研 究 は 事 例 研 究 と 類 似 点 を も っ て い る 。第 2 研 究 で は ,継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 に お け
る テ ー マ に つ い て の 系 列 的 理 解 を 行 っ た が ,こ の 研 究 で は デ ー タ 収 集・デ ー タ 分 析 に お い て
多 元 的 方 法 を 用 い た 点 で ,一 般 的 な 事 例 研 究 と 異 な っ て い る 。そ の た め ,こ こ で は ,こ の 研 究
を質的研究による系列的理解と呼ぶこととする。
Ⅰ -3.第 1 研 究 お よ び 第 2 研 究 に 共 通 す る 研 究 内 容 に 関 す る 検 討
本 研 究 の 第 1 研 究 と 第 2 研 究 で は と も に ,1)箱 庭 制 作 過 程 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的
体 験 ,2)継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に 焦 点 を 合 わ せ る 。 そ れ ぞ れ の 観 点 に つ い て ,先 行 研 究 を レ
ビ ュ ー し ,先 行 研 究 と 本 研 究 と の 関 連 性 を 明 ら か に す る と と も に ,本 研 究 に お い て 上 記 2 観
点に焦点を合わせる意義を確認する。
1)箱 庭 制 作 過 程 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験
本 項 で は ,ま ず ,箱 庭 制 作 過 程 に 焦 点 を 合 わ せ る こ と の 意 義 に つ い て 検 討 す る 。
箱 庭 療 法 研 究 に お い て ,箱 庭 療 法 過 程 の 事 例 研 究 は 中 心 的 な 研 究 法 で あ り ,多 く の 知 見 が
-2-
積 み 重 ね ら れ て い る 。箱 庭 療 法 過 程 を 扱 う 事 例 研 究 で は ,箱 庭 作 品 の 内 容 の 系 列 的 な 把 握 と
治 療 展 開 を 追 う 視 点 が 中 心 と な る (伊 藤 ,2005,p.52)。箱 庭 療 法 過 程 に 関 す る 膨 大 な 数 の 事 例
研 究 を 積 み 重 ね る こ と に よ っ て ,箱 庭 療 法 は 心 理 療 法 と し て 有 効 で あ る こ と が 明 ら か に な
っている。
そ の よ う な 箱 庭 療 法 過 程 の 事 例 研 究 に 加 え ,近 年 ,箱 庭 制 作 過 程 を 精 緻 に 分 析 す る 実 証 研
究が報告されるようになった。箱庭制作過程の研究はミクロな視点から箱庭制作者やセラ
ピ ス ト が 体 験 し て い る 世 界( 箱 庭 制 作 過 程 )の 理 解 の 深 化 を 目 指 し て い る (伊 藤 ,2005,p.52)。
伊 藤 (2005)は ,箱 庭 療 法 に お い て ,一 つ の 箱 庭 作 品 が 完 成 に 至 る 過 程 そ の も の に ,セ ラ ピ ス ト
が ど の よ う に 参 与 し ,付 き 添 っ て い く の か が 重 要 な 問 い で あ る と す る 。 さ ら に ,以 下 の よ う
に 指 摘 し て い る 。実 際 の 箱 庭 療 法 場 面 で は ,箱 庭 作 品 全 体 と し て の イ メ ー ジ や テ ー マ に 思 い
を は せ る と 共 に ,棚 か ら 取 り 出 さ れ ,置 か れ た り ,取 り 除 か れ た り す る ミ ニ チ ュ ア や 砂 の 動 き ,
その際に感じる箱庭制作者の息遣いや言葉などにセラピストは心を細やかに働かせつつ時
を す ご す 。こ の よ う な ミ ク ロ な 視 点 か ら ,箱 庭 制 作 者 と セ ラ ピ ス ト が ど の よ う な 世 界 を 体 験
し て い る の か を 理 解 す る こ と が 箱 庭 療 法 の 実 践 に は 非 常 に 重 要 で あ る (pp.51-52)。 本 研 究
に お い て も ,伊 藤 が 指 摘 す る ミ ク ロ な 視 点 を 重 視 し た い と 考 え る 。
次 に ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 焦 点 を 合 わ せ る こ と の 意 義 に つ い て 検 討 す る 。 石 原
(2008)は 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 焦 点 を 合 わ せ る 意 義 と し て 以 下 の 四 点 を 挙 げ る 。 箱 庭
療 法 に お い て ,a.表 現 内 容 で は な く ,制 作 者 の 主 観 的 で 内 面 的 な 感 覚・感 情 体 験 の 研 究 が 必 要
で あ る こ と ,b. ミ ニ チ ュ ア に 意 味 を 見 出 し て い く 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 本 質 が あ る と 考 え
ら れ る こ と ,c. セ ラ ピ ス ト が 制 作 者 の 体 験 そ の も の に 注 目 す る こ と が 重 要 で あ る こ と ,d.箱
庭療法に関する事柄を理論的にニュートラルな観点から位置づけなおすことが可能となる
こ と ,と し て い る 。a と し て ,石 原 は ,心 理 療 法 に お い て ,問 題 に し な く て は な ら な い の は ,ク ラ
イ エ ン ト の 主 観 で あ る と の 言 及 ( 河 合 隼 雄 ,1991,p.10) や , 心 理 臨 床 の 営 み の 本 質 的 照 準 が ,
ク ラ イ エ ン ト の 感 覚・感 情 体 験 あ る と の 言 及 (藤 原 ,2001,p.178)を 引 用 し つ つ ,箱 庭 療 法 に お
い て も ,表 現 内 容 で な く ,箱 庭 制 作 者 の 「 主 観 的 で 内 面 的 な 感 覚 ・ 感 情 体 験 」 に 焦 点 を 合 わ
せ た 研 究 が 必 要 で あ る と し て い る 。 b と し て ,石 原 は ,箱 庭 療 法 で は ,施 設 ・ セ ラ ピ ス ト に よ
り ,用 意 さ れ て い る ミ ニ チ ュ ア が 異 な り ,バ ラ エ テ ィ ー に 富 ん で い る こ と に 着 目 す る 。 も し
も ,ミ ニ チ ュ ア そ の も の に 本 質 的 意 味 が あ る と す れ ば ,特 定 の ミ ニ チ ュ ア が な い こ と に よ っ
て ,治 癒 の 機 会 を 逃 す こ と が 起 こ り う る は ず だ が ,実 際 に は ,そ の よ う な こ と が 起 こ ら な い こ
と を 指 摘 す る 。 そ し て ,箱 庭 療 法 で は ,ミ ニ チ ュ ア そ の も の に 本 質 的 意 味 が あ る の で は な く ,
ミ ニ チ ュ ア に 意 味 を 見 出 し て い く 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 本 質 が あ る と 考 え ら れ る ,と
し て い る 。c と し て ,セ ラ ピ ス ト が 箱 庭 を 見 る と き に ,単 な る 表 現 や 体 験 の 潜 在 的 可 能 性 と し
て で は な く ,箱 庭 制 作 者 の 生 き た 体 験 そ の も の を 見 る よ う に 心 が け る よ う に な っ た と い う
言 及 (Bradway,1997) な ど を 引 用 し つ つ ,箱 庭 に 表 現 さ れ た も の の 意 味 を 考 察 し て い く よ り
も ,セ ラ ピ ス ト が 箱 庭 制 作 者 の 体 験 そ の も の に 注 目 す る こ と に 意 義 が あ る こ と を ,石 原 は 指
摘 し て い る 。 d と し て ,石 原 は ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 そ の も の は ,特 定 の 理 論 に 依 拠 し て
い る も の で は な く ,理 論 的 に ニ ュ ー ト ラ ル な も の で あ る と し て い る 。 そ こ で ,箱 庭 制 作 者 の
主 観 的 体 験 か ら 箱 庭 を 見 直 す こ と に よ っ て ,箱 庭 療 法 に 関 す る 事 柄 を 理 論 的 に ニ ュ ー ト ラ
-3-
ル な 観 点 か ら 位 置 づ け な お す こ と が で き る の で は な い か ,考 え て い る (p.7-9)。
岡 田 (1984)は 「制 作 中 の 制 作 者 の 心 の 動 き は 大 切 で あ り ,こ れ こ そ が 箱 庭 療 法 の 核 心 で も
あ る 」と 指 摘 し て い る (p.6)。 河 合 隼 雄 (2003)は ,「主 観 的 体 験 の 客 観 化 」と い う 節 の 中 で ,「臨
床 心 理 学 に お い て 心 理 療 法 の 問 題 を 考 え る 場 合 ,ま ず 対 象 と な る の は ,ク ラ イ エ ン ト の 主 観
的 体 験 で あ る 。 [中 略 ]ク ラ イ エ ン ト に 接 す る と き に 大 切 な の は ,ク ラ イ エ ン ト の 主 観 の 世 界
で あ る 」と 述 べ て い る (pp.36-37)。そ し て ,深 層 心 理 学 で は ,個 人 的 体 験 を 基 礎 と し て ,そ れ を
可 能 な 限 り の 客 観 化 ,普 遍 化 す る 努 力 が な さ れ て い る と 指 摘 し ,そ れ を 明 確 に 自 覚 す る こ と
に よ っ て こ そ ,臨 床 心 理 学 は 有 用 に な る と 言 及 し て い る (p.37)。本 研 究 の 研 究 対 象 は ,主 に 箱
庭 制 作 者 の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 で あ る 。本 研 究 は ,箱 庭 制 作 面 接
における箱庭制作者の主観的体験を客観化する一つの試みと位置づけることができる。
以 下 に ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 す る 先 行 研 究 を 概 観 す る 。
第 1 研 究 は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 の 検 討 を 目 的 と し て い る 。促 進 機 能 は 単 一 の 機 序 に
よ る の で は な く ,多 岐 に 亘 る 機 序 が 関 連 し て い る と 考 え ら れ る 。そ の た め ,ま ず は , 研 究 開 始
時 点 で ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 検 討 に 焦 点 を 合 わ せ ,よ り 詳 細 な
研究テーマを設定していない先行研究について概観する。
箱 庭 制 作 過 程 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 す る 調 査 研 究 の う ち ,最 も 体 系 的 な
研 究 は ,石 原 (2008)で あ る 。 石 原 (2008)は ,同 一 調 査 参 加 者 が ,2 回 に 亘 っ て ,一 つ の ミ ニ チ ュ
ア を 選 び ,置 く 箱 庭 制 作 過 程 の 調 査 研 究 を 行 っ て い る 。箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ を
M-GTA を 準 用 し て 質 的 に 分 析 し た 。 そ の 分 析 に よ り ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 を 検 討 す る
た め の 大 枠 と し て ,【 A.砂 箱 と い う 前 提 と の 間 で 】
【 B.モ ノ と イ メ ー ジ の 交 錯 】
【 C.ミ ニ チ ュ
ア を 置 く 】の 3 つ の カ テ ゴ リ ー に 到 達 し た 。そ れ ら カ テ ゴ リ ー の 中 に は ,複 数 の 概 念 が 含 ま
れ て い る 。そ れ ぞ れ の カ テ ゴ リ ー ,概 念 お よ び そ れ ら が 生 成 さ れ る デ ー タ と な っ た バ リ エ ー
シ ョ ン が 詳 述 さ れ ,分 析 さ れ て い る 。さ ら に ,臨 床 事 例 が 提 示 さ れ ,最 後 に ,調 査 研 究 の 結 果 と
臨 床 事 例 と を 包 括 し た 考 察 が な さ れ て い る 。こ の 研 究 は ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ
に 密 着 し た 理 論 生 成 が な さ れ て お り ,砂 箱 の 制 限 が 制 限 と し て 意 識 さ れ な い 主 観 的 体 験 ,
モ ノ と イ メ ー ジ の 交 錯 に お け る 同 時 性 ,感 覚 や イ メ ー ジ を 大 切 に す る こ と に 内 包 さ れ た 箱
庭 に お け る 身 体 性 な ど 独 自 で ,新 た な 視 点 が 提 示 さ れ た と て も 興 味 深 く ,意 義 深 い も の と な
っている。
石 原 は ,こ の 研 究 に 先 立 ち ,異 な る 方 法 を 用 い た 研 究 (石 原 ,1999)や ,石 原 (2008)に つ な が る
探 索 的 な 数 量 的 デ ー タ の 検 討 (石 原 ,2003)を 行 っ て い る 。 石 原 (1999)は ,PAC 分 析 を 用 い て ,
箱庭制作過程に関する箱庭制作者の主観的体験を明らかにしている。
近 田 ・ 清 水 (2006)は ,10 回 に 亘 る 継 続 的 試 行 箱 庭 療 法 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験
に 焦 点 を 合 わ せ ,そ の 変 遷 の 分 析 を 行 っ て い る 。2 名 の 箱 庭 制 作 者 に 対 し て ,以 下 の よ う な 調
査 や 分 析 が な さ れ た 。箱 庭 制 作 過 程 は 録 画 さ れ た 。各 回 の 制 作 直 後 に ,a.作 品 の 説 明 を 調 査
者 が 箱 庭 制 作 者 に 求 め た 。 b.ビ デ オ 録 画 を 視 聴 し 半 構 造 化 面 接 に よ る イ ン タ ビ ュ ー が 行 わ
れ た 。 c.10 回 の 箱 庭 制 作 終 了 後 ,振 り 返 り 面 接 が 行 わ れ た 。 振 り 返 り 面 接 で は ,10 回 分 の 箱
庭 作 品 の 写 真 を 提 示 し な が ら ,箱 庭 制 作 者 に 制 作 体 験 を 振 り 返 る こ と を 求 め た 。
-4-
収 集 さ れ た デ ー タ は 以 下 の よ う に 分 析 さ れ た 。 a.作 品 の 説 明 の 逐 語 録 が 作 成 さ れ た 。 b.
語 り の デ ー タ の 文 節 化 と オ ー プ ン コ ー デ ィ ン グ が 実 施 さ れ た 。 c.箱 庭 制 作 過 程 と 語 り の デ
ー タ の 対 応 表 が 作 成 さ れ た 。そ の 対 応 表 に は ,制 作 経 過・質 問 ,語 り ,コ ー ド 名 ,制 作 過 程 の 映
像 が 記 載 さ れ た 。d.コ ー ド の グ ル ー ピ ン グ が な さ れ た 。そ の 結 果 ,〔 玩 具 を 選 択 す る 際 の 経
験 〕〔 砂 箱 に 表 現 す る 際 の 経 験 〕〔 意 識 的 に と っ て い た 構 え 〕〔 意 図 せ ず に 生 じ た 経 験 ,心 理
状 態 〕〔 箱 庭 表 現 や 制 作 体 験 に 対 す る 評 価 〕〔 箱 庭 制 作 が 日 常 生 活 に 及 ぼ し た 影 響 〕 の 6 つ
の カ テ ゴ リ ー が 抽 出 さ れ た 。 e.2 事 例 に 対 し て ,6 カ テ ゴ リ ー に 属 す る コ ー ド が ど の よ う に
生 じ て い る か 分 析 さ れ た 。 f.e で 作 成 さ れ た 資 料 を 基 に ,2 事 例 の 制 作 体 験 過 程 が 記 述 さ れ
た 。そ れ ら の 分 析 を 通 し て ,箱 庭 表 現 過 程 で 起 こ る こ と に つ い て 考 察 が な さ れ た 。そ し て , 1.
箱 庭 表 現 に よ っ て 内 的 な 体 験 ,感 情 に よ り 深 く 触 れ ,気 づ き を 深 め る , 2.箱 庭 表 現 過 程 で ,意
識 と 無 意 識 の 交 流 が 深 ま り ,内 界 に 存 在 す る 要 因 の 影 響 を 受 け て ,自 我 の あ り 方 に 変 化 が 生
じ る , 3.表 現 の 展 開 に 伴 っ て ,意 識 と 無 意 識 の 間 の 対 立 ,葛 藤 が 強 ま り ,停 滞 や 抵 抗 の 動 き が
生 じ る こ と が あ る ,の 3 点 に 関 す る 知 見 が 得 ら れ た 。
近 田 ・ 清 水 (2006)は ,a.10 回 に 亘 る 継 続 的 な 調 査 研 究 で あ る 点 ,b.全 箱 庭 制 作 面 接 終 了 時
点 で , 全 面 接 過 程 を ふ り か え る 面 接 を 採 用 し て い る 点 , さ ら に ,c. 分 析 に お い て , 箱 庭 制 作 過
程 と 語 り の デ ー タ の 対 応 表 が 作 成 さ れ ,制 作 経 過 と 箱 庭 制 作 者 の 語 り の 関 連 を 捉 え よ う と
し て い る 点 に お い て ,オ リ ジ ナ リ テ ィ ー の あ る 意 義 深 い 研 究 で あ る と 考 え ら れ る 。
上 田 (2012)は ,1 回 の 箱 庭 制 作 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 一 連 の 制 作 体 験 を 包 括 的 に 抽 出 し ,
箱 庭 制 作 者 の 体 験 プ ロ セ ス の モ デ ル 化 を 目 指 し た 研 究 を 行 っ て い る 。18 名 の 箱 庭 制 作 者 に
対 し て ,箱 庭 制 作 後 に 半 構 造 化 面 接 を 行 っ た 。そ の イ ン タ ビ ュ ー デ ー タ を M-GTA に よ り 分
析 し た 。そ の 結 果 ,「箱 庭 制 作 時 の 心 的 内 容 」と 「作 品 の 構 成 」,「つ く り あ げ ら れ た 箱 庭 作 品 に
対 す る 評 価 」と の あ い だ に 相 互 作 用 が あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。 ま た ,そ の 相 互 作 用 に
も と づ く 循 環 的 な プ ロ セ ス の な か で ,箱 庭 制 作 者 の 不 安 が ワ ー ク ス ル ー さ れ て い く こ と が
重要であるとしている。
花 形 (2012)は ,初 回 箱 庭 制 作 に お け る 内 的 プ ロ セ ス に つ い て ,M-GTA を 用 い て 分 析 し て い
る 。 こ の 研 究 は ,研 究 開 始 時 点 か ら ,初 回 制 作 に の み 限 定 し て い る も の の ,そ れ 以 外 は よ り 詳
細 な 研 究 テ ー マ は 設 定 せ ず ,デ ー タ に 密 着 し て 理 論 生 成 を 試 み て い る 。 そ し て ,【 事 前 イ メ
ー ジ 】 ➩ 【 戸 惑 い 】 ➩ 【 体 験 過 程 の 変 化 】 ➩ 【 制 作 意 欲 】 と い う ,初 回 箱 庭 制 作 に お け る 箱
庭制作者の内的プロセスのモデルを構築している。
上 田 (2012) と 花 形 (2012) で は , 理 論 的 サ ン プ リ ン グ に よ る 追 加 デ ー タ の 収 集 を 実 施 し て
い る 点 で ,M-GTA の 手 続 き と の 整 合 性 を 高 め て い る 。
朝 比 奈 (2013)は ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 体 験 過 程 の 理 論 化 を 目 的 と し て ,箱 庭 制 作 者 の イ ン タ
ビ ュ ー デ ー タ を グ ラ ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ (GTA) に よ っ て 分 析 し て い る 。 そ
し て ,箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 循 環 二 重 表 象 化 モ デ ル ,構 成 的 表 象 化 過 程 に 関 す る 連 関 過 程 モ
デルを提唱している。循環二重表象化モデルには, 棚からミニチュアを選ぶ選択的表象化
過 程 , 砂 箱 に ミ ニ チ ュ ア を 配 置 し た り ,砂 を 造 形 す る 構 成 的 表 象 化 過 程 ,ミ ニ チ ュ ア を も っ
て 砂 箱 に 向 か う ,あ る い は ,砂 箱 に ミ ニ チ ュ ア を 配 置 後 棚 に 向 か う 移 行 象 徴 化 過 程 の 3 つ の
過 程 が あ る 。違 和 判 定 ル ー プ を 含 め た 構 成 的 表 象 化 過 程 に 関 す る 連 関 過 程 モ デ ル で は ,構 成
-5-
的 表 象 化 過 程 を 連 関 草 案 リ ー ド ,連 関 操 作 ,連 関 照 合 ,連 関 表 象 化 と い う 4 段 階 の 連 続 的 な 過
程 で あ る と す る 。そ し て ,「連 関 照 合 に よ る 違 和 判 定 に よ っ て ,連 関 操 作 が 継 続 さ れ ,照 合 枠 に
よ り 適 合 し ,精 緻 化 さ れ た 表 現 形 が 探 索 さ れ る 」と す る (pp. 751-755)。
上 田 (2012),花 形 (2012),朝 比 奈 (2013)は ,と も に 箱 庭 制 作 者 の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 語 り
を デ ー タ と し て ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス を 明 ら か に し た 点 で 意
義 深 い 。 し か し ,当 該 の 語 り の デ ー タ に 関 す る ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 行 動 の
デ ー タ が 明 示 さ れ て い な い 。そ の た め ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 箱 庭 制 作 者 の ど の よ う な 行 動
を 巡 っ て ,デ ー タ と な っ た 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り が 生 じ た の か を 比 較 検 討 で き な
い点が惜しまれる。
箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 を デ ー タ と し ,研 究 開 始 時 点 で ,研 究 者 が 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る
よ り 詳 細 な 研 究 テ ー マ に 焦 点 を 合 わ せ た 調 査 研 究 に は ,平 松 (2001),後 藤 (2004),清 水 (2004),
伊 藤 (2005),片 畑 (2006),大 石 (2010),中 道 (2010),花 形 (2014)な ど が あ る 。 本 研 究 の 目 的 と 関
連 が 深 い ,伊 藤 (2005), 後 藤 (2004),片 畑 (2006),大 石 (2010)を 概 観 す る 。
伊 藤 (2005) は , 箱 庭 制 作 過 程 に お け る イ メ ー ジ と 意 識 の 関 係 性 の 位 相 と そ の 推 移 の 検 討
を 研 究 テ ー マ と し て い る 。 そ の た め に ,制 作 中 と 制 作 後 の 内 観 の デ ー タ を 収 集 し ,分 析 を 行
っ て い る 。4 事 例 の 分 析 を 通 し て ,箱 庭 制 作 過 程 で は ,イ メ ー ジ と 意 識 の 関 係 性 の 力 動 的 な 位
相 が 様 々 に 推 移 し , そ の 中 で 箱 庭 作 品 が 展 開 す る こ と , ま た , そ れ に は ,a. イ メ ー ジ と 意 識 の
主 従 関 係 ,b.イ メ ー ジ に 対 す る 意 識 の 方 向 性 ,c.イ メ ー ジ と 意 識 と の 交 流 性 ,の 3 点 が 関 わ っ
てくることが示された。
後 藤 (2004)は ,箱 庭 制 作 に お け る ぴ っ た り 感 に 焦 点 を 合 わ せ ,箱 庭 制 作 者 の
箱 庭 体 験 過 程 の デ ー タ を PA C 分 析 に よ り 分 析 ・ 検 討 し て い る 。 箱 庭 療 法 に お け
る 「 ぴ っ た り 感 」 を ,関 係 性 が 開 か れ ,主 体 が 身 体 感 覚 に 導 か れ 「 さ ぐ り 」 の 動 き を す る こ
と ,主 体 が 再 発 見 さ れ る こ と ,つ ま り 自 ら の 存 在 の 本 質 に 関 わ る 体 験 を す る こ と だ ,と し て い
る。
片 畑 (2006)は ,箱 庭 制 作 に お け る ア イ テ ム の 位 置 を 決 め る 体 験 の 中 で ,触 覚 を 含 め た 箱 庭
制 作 者 の 身 体 感 覚 に 関 す る 制 作 プ ロ セ ス に 焦 点 を 合 わ せ ,検 討 し て い る 。 調 査 参 加 者 28 名
の 内 ,一 人 の 報 告 が 主 に 取 り 上 げ ,考 察 さ れ た 。 そ し て ,a.イ メ ー ジ の 中 で 感 じ ら れ た 内 的 起
源 性 を も つ よ う な 主 観 的 な 感 覚 (ど の 感 覚 器 官 に も 属 さ ず ,身 体 全 体 で 感 じ る よ う な ,よ り 未
分 化 な 「 身 体 の 感 じ 」 )が ,実 際 に 置 く と き に も 反 映 さ れ る プ ロ セ ス ,b.実 際 の 知 覚 に よ っ て
目 の 前 に あ る 箱 庭 か ら 感 じ と ら れ た 感 覚 に よ っ て ,未 分 化 で 主 観 的 な 内 的 感 覚 が 修 正 さ れ
た り ,強 ま っ た り す る プ ロ セ ス ,の 2 つ の プ ロ セ ス が 存 在 す る と 考 え て い る 。 さ ら に は ,こ の
ような 2 つの視点で見られる「身体感覚」が相互作用しつつ箱庭制作プロセスが構成され
る ,と し て い る 。
大 石 (2010) は , 箱 庭 制 作 に お け る 砂 に ま つ わ る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 焦 点 を 合 わ せ
て い る 。 箱 庭 に 砂 を 敷 い た 場 合 (砂 条 件 )と 板 を 敷 い た 場 合 (板 条 件 )の 2 条 件 に お け る ,箱 庭
制 作 者 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ を 収 集 し ,そ の デ ー タ を KJ 法 に よ り 分 類 し て い る 。砂 条 件 で
は ,砂 ・ 玩 具 ・ 箱 庭 制 作 者 の 循 環 的 ・ 連 鎖 的 作 用 に 巻 き 込 ま れ る 形 で ,箱 庭 制 作 者 が 箱 庭 と
-6-
一体的に制作に関与していくことを見出した。砂との関わりは箱庭制作者の主体性への取
り組みであるとしている。
箱 庭 制 作 過 程 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 す る 研 究 の 内 ,面 接 目 的 が 調 査 だ け
で な く ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 の 促 進 を も 目 的 と し た ,箱 庭 制 作 面 接 を 取 り 上 げ
た 研 究 が あ る 。 先 に 挙 げ た 近 田 ・ 清 水 (2006)も こ の タ イ プ の 研 究 の 一 つ で あ る 。
中 道 (2010)に は ,中 道 が ク ラ イ エ ン ト と し て 体 験 し た 教 育 カ ウ ン セ リ ン グ に お け る , 主 観
的 体 験 の デ ー タ に 基 づ い た 研 究 が あ る (pp.200-223)。あ る セ ラ ピ ス ト と の 間 で 行 わ れ た 30
回 の 箱 庭 制 作 の 内 ,第 8 回 面 接 が 取 り 上 げ ら れ ,分 析 さ れ て い る 。こ の 研 究 に 関 し て ,中 道 は ,
教 育 カ ウ ン セ リ ン グ の 枠 組 み の 中 で ,箱 庭 療 法 を 体 得 す る た め に 箱 庭 療 法 面 接 を 希 望 し た
も の で あ り ,箱 庭 を 制 作 し た 際 に は ,研 究 目 的 で 置 く と い う 発 想 は ま っ た く な か っ た と 述 べ
て い る 。 本 研 究 の 箱 庭 制 作 面 接 は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 が ,面 接 目 的 の
一つとなっている。箱庭制作者の自己理解・自己成長の促進を目的とした面接における,
箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 を デ ー タ に し て い る 点 で , 中 道 (2010) の こ の 研 究 と 本 研 究 は 共 通
点がある。
こ の タ イ プ の 研 究 は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解・自 己 成 長 の 促 進 を 目 的 と し た 箱 庭 制 作 面 接
に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に つ い て 焦 点 を 合 わ せ て い る 点 に お い て ,意 義 深 い ,希 少
な 研 究 で あ る ,と 考 え ら れ る 。
こ こ ま で ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 焦 点 を 合 わ せ る こ と の 意 義
の 検 討 と ,こ の 領 域 に お け る 先 行 研 究 に つ い て 概 観 し て き た 。こ こ で , 箱 庭 療 法 以 外 の 学 問
領 域 に お け る 主 観 的 体 験 に 関 す る 研 究 に つ い て ,概 観 し て お き た い 。 そ の こ と を 通 し て ,主
観的体験に焦点を合わせることの意義をより広い視野から検討したい。
subjective experience は ,主 観 的 体 験 ま た は 主 観 的 経 験 と 翻 訳 さ れ て い る 。 森 (2008)は ,
近 年 ,社 会 認 知 の 領 域 で ,人 間 を 単 純 な コ ン ピ ュ ー タ ー ・ メ タ フ ァ で 捉 え る こ と の 限 界 が 指
摘 さ れ ,そ の 限 界 を 示 す 一 つ の 現 象 と し て ,主 観 的 経 験 が 関 心 を 集 め て い る と す る 。 そ し
て ,2000 年 に 出 版 さ れ た 『 秘 め ら れ た メ ッ セ ー ジ : 主 観 的 経 験 が 社 会 的 認 知 と 行 動 に 果 た
す 役 割 (The Message Within :The Role of Subjective Experience in Social Cognition and
Behavior)』 (Bless & Forgas,2000)の 中 で ,Wegner & Gilbert(2000)が 「主 観 的 経 験 の 理 解
こ そ が ,現 代 の 社 会 心 理 学 の 中 心 課 題 」だ と 述 べ て い る こ と に 言 及 し て い る 。 遠 藤 (2007)も
社会心理学における主観的経験の研究の意義について指摘している。人は単なる知識の収
蔵 庫 で は な く ,あ る 時 空 間 に 身 体 を 置 い て い る 者 で あ り ,そ こ に 世 界 が 立 ち 現 わ れ ,圧 倒 的 迫
力 で そ の 人 に 迫 り ,そ の 人 は そ う と し か 思 え な い や り 方 で 世 界 や そ こ で 起 き て い る こ と を
経 験 す る 。そ の 主 観 的 経 験 に お い て ,人 は 世 界 を 理 解 す る と す る 。大 脳 の 活 動・ 自 動 的 処 理
過 程 の 上 に 形 を 結 ぶ 主 観 的 理 解 こ そ が ,人 が ど の よ う に 社 会 を 理 解 し て い る の か を 明 ら か
に す る 鍵 で あ る ,と し て い る (p.37)。
Solms & Turnbull(2002 平 尾 訳 2007)は ,『 脳 と 心 的 世 界 』 に お い て ,神 経 科 学 の 知 見 と
心 理 学 的 知 見 の 融 合 を 目 指 す 試 み を 行 っ て い る 。そ の 中 で ,精 神 分 析 学 の 知 見 と 神 経 科 学 と
-7-
の 知 見 と の 融 合 に 多 く の ペ ー ジ を 使 っ て い る 。そ の 著 作 の 中 で ,主 観 的 経 験 と い う 用 語 が 使
用 さ れ て お り ,主 観 的 経 験 の 一 例 と し て ,情 動 ,感 情 ,思 考 ,記 憶 ,直 感 な ど が 取 り 扱 わ れ て い る
(pp.38-39,p.57,pp.256-259,な ど )。
他 に も 看 護 学 ,社 会 福 祉 学 ,認 知 科 学 ,障 害 児 教 育 学 , 文 化 人 類 学 , 医 学 , 建 築 学 , デ ザ イ ン 学
な ど 様 々 な 領 域 で ,主 観 的 体 験 の デ ー タ を 用 い た 研 究 が な さ れ て い る 。
箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 は ,箱 庭 療 法 が セ ラ ピ ー と し て 機 能 す る 上 で 重 要 な 要 因 で あ り ,
箱 庭 療 法 を 理 論 的 に 検 討 す る 上 で も ,そ れ を 詳 細 に 検 討 す る こ と に は 意 義 が あ る ,と 考 え ら
れ る 。箱 庭 療 法 に お い て ,感 覚 ,感 情 ,イ メ ー ジ ,意 味 な ど の 内 的 プ ロ セ ス を 箱 庭 制 作 者 自 身 が
ど の よ う に 体 験 す る の か と い う こ と 自 体 が ,心 の 治 癒 力 や 成 長 力 が 賦 活 す る 重 要 な 要 因 の
一 つ と な る と 考 え ら れ る 。 ま た ,そ の よ う な 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 対 し て ,セ ラ ピ ス ト
が 理 解 を 深 化 さ せ て い く こ と に よ っ て ,箱 庭 療 法 に お い て セ ラ ピ ス ト が セ ラ ピ ー の 場 に 存
在 す る 意 義 を 高 め ,ク ラ イ エ ン ト の 治 癒 に 貢 献 で き る 。 こ の よ う な 意 味 で ,箱 庭 制 作 者 の 主
観 的 体 験 の 研 究 は ,箱 庭 療 法 研 究 の 一 分 野 と し て ,意 義 が あ る と 考 え ら れ る 。
2)継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接
本 研 究 は ,箱 庭 制 作 面 接 の 継 続 性・ 連 続 性 に 焦 点 を 合 わ せ る 。箱 庭 制 作 面 接 の 継 続 性 ・ 連
続 性 が ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 を ど の よ う に 促 進 す る の か の 検 討 を ,目 的 の 一 つ
と し て い る 。 ま た ,継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 面 接
の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 を 検 討 す る こ と ,も 目 的 の 一 つ で あ る 。 箱 庭 療 法 で は ,面 接 が 継 続 さ
れ る 中 で ,ク ラ イ エ ン ト の 心 に 変 化 や 成 長 が 生 じ て く る 。 そ の た め ,箱 庭 療 法 で 継 続 的 に 箱
庭 制 作 が 成 さ れ た 場 合 ,そ の 作 品 を 系 列 的 に 理 解 し よ う と す る セ ラ ピ ス ト の 態 度 が 重 視 さ
れ て い る (河 合 隼 雄 ,1969,p,15,p.31,他 )。箱 庭 療 法 過 程 を 扱 う 事 例 研 究 は ,ま さ に こ の よ う な
態度に従ってなされる研究法である。
そ れ に 対 し て ,箱 庭 制 作 過 程 を 精 緻 に 分 析 し よ う と す る 実 証 的 研 究 で は ,継 続 的 な 箱 庭 制
作 に 焦 点 を 合 わ せ て い る 研 究 が 希 少 で あ る 。 1)に 挙 げ た よ う に ,近 田 ・ 清 水 (2006)は ,10 回
に 亘 る 継 続 的 試 行 箱 庭 療 法 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 焦 点 を 合 わ せ ,そ の 変 遷 の
分 析 を 行 っ て い る 。 平 松 (2001)で は ,12 回 に 亘 る 継 続 的 な 箱 庭 制 作 の 面 接 が な さ れ ,そ の 事
例 研 究 が 行 わ れ て い る 。 そ し て ,そ れ ら の 事 例 に つ い て ,箱 庭 療 法 面 接 の た め の 体 験 過 程 ス
ケ ー ル を 用 い た 実 証 的 な 研 究 を 行 っ て い る 。 し か し ,そ の 実 証 研 究 は ,説 明 過 程 に お け る 体
験 過 程 を 評 定 す る も の で あ り ,箱 庭 制 作 過 程 で の 体 験 を 直 接 的 に 評 定 し た も の で は な い 。
上 記 研 究 以 外 の 箱 庭 制 作 過 程 を 精 緻 に 分 析 し よ う と す る 実 証 的 研 究 で は ,調 査 ま た は 分
析 す る 同 一 調 査 参 加 者 の 箱 庭 制 作 回 数 を 1 回 ま た は 2 回 に 限 定 す る 研 究 が 多 い (清 水 ,2004;
伊 藤 ,2005;石 原 ,2008;大 石 ,2010;他 )。そ こ で ,本 研 究 で は ,箱 庭 制 作 面 接 が 継 続 す る こ と に よ
っ て 生 じ る 連 続 性 に 焦 点 を 合 わ せ る こ と に し た 。 第 1 研 究 で は ,a-2.箱 庭 制 作 面 接 の 継 続
性 ・ 連 続 性 は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 を ど の よ う に 促 進 す る の か を 検 討 す る ,を
下 位 目 的 の 一 つ と す る 。 第 2 研 究 は ,b.継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観
的 体 験 の 変 容 や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 を 検 討 す る こ と ,を 目 的 と す る 。
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Ⅰ -4. 第 1 研 究 お よ び 第 2 研 究 に 共 通 す る 調 査 ・ 分 析 方 法 に 関 す る 検 討
1)箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 先 行 研 究 に お け る 調 査 ・ 分 析 方 法
本 項 で は ,本 研 究 と 同 様 に ,箱 庭 制 作 過 程 に 焦 点 を 合 わ せ た 先 行 研 究 の 調 査 方 法 と 分 析 方
法 に つ い て 検 討 す る 。以 下 に 詳 述 す る が ,そ れ ら の 先 行 研 究 で は 多 元 的 方 法・方 法 の ト ラ イ
ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン を 採 用 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。本 研 究 に お い て も ,多 元 的 方 法・方
法のトライアンギュレーションを採用することが妥当であろう。
近 田 ・ 清 水 (2006)は ,以 下 の よ う な デ ー タ 収 集 法 を と っ て い る 。 a.箱 庭 制 作 過 程 を 録 画 し
て い る 。 b.作 品 の 完 成 後 ,作 品 の 説 明 を 求 め て い る 。 c. 続 い て ,ビ デ オ 録 画 が 再 生 さ れ ,半 構
造 化 面 接 に よ る イ ン タ ビ ュ ー が 行 わ れ て い る 。 d.10 回 の 箱 庭 制 作 終 了 後 ,振 り 返 り 面 接 が
行われている。
清 水 (2004)で は ,調 査 Ⅰ に お い て ,a.制 作 過 程 を ビ デ オ 録 画 し て い る 。 b.制 作 終 了 後 , 制 作
者 と 立 会 人 か ら ,質 問 紙 に よ る デ ー タ 収 集 を 行 っ て い る 。質 問 項 目 は ,1.制 作 過 程 全 体 と 箱 庭
作 品 に 対 す る 印 象 ,2.制 作 体 験 /立 会 い 体 験 /箱 庭 制 作 を ビ デ オ 記 録 で 見 る 体 験 ,3.最 初 の 玩 具
を 選 ぶ ま で ,4.最 初 の 玩 具 を 置 い た 時 ,5.作 品 完 成 時 ,の 感 想 で あ っ た 。c.調 査 Ⅰ の 翌 日 に 行 わ
れ た 調 査 Ⅱ で は ,制 作 者 に 箱 庭 制 作 の ビ デ オ 記 録 を 見 せ ,そ の 中 の 注 目 場 面 に 関 し て ,自 由 な
語 り を 求 め て い る 。ま た ,質 問 紙 の 記 述 内 容 の 補 足 説 明 を 求 め て い る 。そ の イ ン タ ビ ュ ー を
録 音 し て い る 。 そ し て ,分 析 に お い て は ,d. 注 目 場 面 毎 に ,制 作 者 ・ 立 会 人 ・ 非 立 会 人 の 主 観
的 体 験 を 一 覧 表 化 し ,そ の 資 料 を 基 に プ ロ セ ス 研 究 を 行 っ て い る 。
朝 比 奈 (2013)は ,a.箱 庭 制 作 過 程 を ビ デ オ 録 画 し て い る 。b.制 作 終 了 後 ,ビ デ オ 録 画 が 再 生
さ れ ,半 構 造 化 面 接 に よ る イ ン タ ビ ュ ー を 行 っ て い る 。c.そ の イ ン タ ビ ュ ー を 逐 語 録 化 し て ,
分 析 デ ー タ と し て い る 。d.ビ デ オ 映 像 や 観 察 さ れ た 行 動 を 補 足 的 な 分 析 デ ー タ と し て い る 。
上 記 先 行 研 究 で は ,調 査 に よ る デ ー タ 収 集 方 法 に お い て ,複 数 の 方 法 が 組 み 合 わ さ れ て い
る。
平 松 (2001)は ,a.箱 庭 療 法 面 接 の た め の 体 験 過 程 ス ケ ー ル (EXPsp)を 用 い た 数 量 的 調 査 研
究 を 行 っ て い る 。 b.2 事 例 に 対 し て ,事 例 研 究 と EXPsp に よ る 評 定 と の 総 合 的 研 究 を 実 施
している。
石 原 (2008)は ,M-GTA を 準 用 し た 調 査 研 究 の 成 果 と 臨 床 事 例 と を 総 合 的 に 検 討 ・ 考 察 し
て い る 。 ま た ,M-GTA の 調 査 手 続 き に お い て ,a.箱 庭 制 作 過 程 を ビ デ オ 録 画 し て い る 。 b.制
作 終 了 後 に 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 す る 質 問 紙 に よ る デ ー タ 収 集 を 行 っ て い る 。 c. 質 問 紙
の 回 答 に 対 し て ,イ ン タ ビ ュ ー を 行 い ,そ れ を 録 音 し て い る 。
平 松 (2001) と 石 原 (2008) で は , 複 数 の 研 究 法 を 組 み 合 わ せ た 総 合 的 な 分 析 が な さ れ て い
る 。 そ れ に 加 え , 石 原 (2008)で は 調 査 に よ る デ ー タ 収 集 方 法 に お い て ,複 数 の 方 法 が 組 み 合
わされている。
2)多 元 的 方 法 ・ ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン
1) で 検 討 し た 先 行 研 究 で は , 複 数 の 調 査 方 法 の 組 み 合 わ せ や 複 数 の 研 究 方 法 の 組 み 合 わ
せ た 研 究 計 画 が と ら れ て い た 。 こ の よ う な 研 究 計 画 は ,調 査 方 法 ,分 析 方 法 に お け る 多 元 的
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方 法 (multiple methods),方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン と 捉 え る こ と が で き る 。
ま ず は ,多 元 的 方 法 と ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン の 定 義 に つ い て 確 認 し た い 。多 元 的 方 法
と は ,「 同 じ 研 究 デ ザ イ ン の 中 で 異 な る 方 法 を 組 み 合 わ せ る こ と 。方 法 を 組 み 合 わ せ る 目 的
は 主 に 2 つ に 分 か れ る 。一 つ は 加 法 的 な も の で ,異 な る (し ば し ば 一 連 の )下 位 ト ピ ッ ク ス を
そ れ ぞ れ 異 な っ た 方 法 で 扱 い ,こ れ ら の 方 法 を 組 み 合 わ せ る こ と で あ る 。 も う ひ と つ は ,相
互 作 用 的 な も の で ,同 じ 下 位 ト ピ ッ ク ス に 対 し 異 な る 角 度 か ら ア プ ロ ー チ す る も の で あ る 」
(Bloor & Wood,2006 上 淵 他 訳 2009,p.132)。 ま た ,ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン と は ,「 ひ と
つ の 現 象 に 対 し て さ ま ざ ま な 方 法 ,研 究 者 ,調 査 群 ,空 間 的 ・ 時 間 的 セ ッ テ ィ ン グ あ る い は 異
な っ た 理 論 的 立 場 を 組 み 合 わ せ る こ と を 意 味 す る 」 (Flick,1995 小 田 他 訳 2002,p.282)。
次 に ,質 的 研 究 に お い て ,多 元 的 方 法 と ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン と い う 方 略 を と る こ と
の 意 義 に つ い て 確 認 し た い 。 Flick(1995 小 田 他 訳 2002)は ,「 ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン
は 質 的 方 法 で 得 ら れ た 知 見 を 基 礎 づ け る ひ と つ の 手 段 で あ る 。こ の 場 合 に は ,基 礎 づ け は 研
究 結 果 を テ ス ト す る こ と で は な く ,認 識 の 可 能 性 を 系 統 的 に 広 げ 完 全 な も の に す る こ と で
達 成 さ れ る 。 こ の 点 で ,ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン は ,研 究 の 結 果 と 手 続 き と を 妥 当 化 す る
戦 略 と い う よ り も ,調 査 手 続 き の は ば の 広 さ ,深 さ ,一 貫 性 を 高 め る 妥 当 化 の 一 戦 略 と い え る 」
と し て い る (pp.282-283)。ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン に 対 す る 同 様 の 評 価 は ,他 の 研 究 者 に
よ っ て も な さ れ て い る 。 Denzin & Lincoln(2000 平 山 訳 2006)も ま た , ト ラ イ ア ン ギ ュ レ
ー シ ョ ン に 対 し て , Flick(1995 小 田 他 訳 2002) と 同 様 の 評 価 を 下 し て い る 。 Blo or &
Wood(2006 上 淵 他 訳 2009)は ,「 多 元 的 方 法 の 使 用 に は ,相 互 作 用 的 な 多 元 的 方 法 を 使 え ば ,
分析結果の妥当性を保証できるといった誇張気味の主張がつきまとう。これは事実ではな
い 。 [中 略 ]し か し ,多 元 的 方 法 (加 法 的 ,相 互 作 用 的 の 両 方 )を と る こ と は 厳 密 な 研 究 デ ザ イ ン
の 証 と な っ て い る 」と 評 価 し て い る (p.133)。ま た ,ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン に 関 し て ,「 異
な る 方 法 か ら 導 き 出 さ れ た 結 果 か ら の 補 強 で ,妥 当 化 を 成 し 遂 げ ら れ な い こ と は 明 ら か で
あ る 。し か し ,異 な る 方 法 か ら 得 ら れ た デ ー タ の 比 較 は 役 に 立 た な い わ け で は な い 。逆 に そ
う し た 比 較 が 分 析 を 深 め ,広 げ る こ と に な る だ ろ う 。 実 際 に ,上 記 の 比 較 が 多 元 的 方 法 を 用
い る リ サ ー チ デ ザ イ ン が 人 気 の あ る 主 な 理 由 の ひ と つ で あ り ,そ れ が 分 析 を 刺 激 し て い る 」
と の 結 論 に い た っ て い る (Bloor & Wood,2006 上 淵 他 訳 2009,p.154)。 も と も と ト ラ イ ア
ン ギ ュ レ ー シ ョ ン は ,個 別 の 方 法 で 得 ら れ た 研 究 結 果 を 妥 当 化 す る 方 略 ,人 間 の 意 識 と は 関
係なく一つの客観的事実を明らかにするために発想・使用されはじめたものであるが
(Flick,1995 小 田 他 訳 2002,p.283,Bloor & Wood,2006 上 淵 他 訳 2009,p.152),現 在 で は ,そ
の よ う な 意 味 で の 方 略 で は な く ,質 的 研 究 に 厳 密 さ ,広 が り ,精 緻 さ ,豊 潤 さ ,深 み ,一 貫 性 を 付
加する研究戦術と理解されていることがわかる。
続 い て ,Flick (1995 小 田 他 訳 2002,pp.282-283)の 記 述 か ら ,Denzin(1989)の ト ラ イ ア ン
ギ ュ レ ー シ ョ ン の 4 つ の 分 類 を 取 り 上 げ ,方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン に つ い て ,確 認
する。
a.デ ー タ の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン
異 な っ た デ ー タ を 用 い る こ と で あ る 。 [ 中 略 ] こ の 下 位 タ イ プ と し て ,デ ン ジ ン は 時 間 ,空 間 ,人
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を 分 け て 考 え て い る 。 そ し て ,あ る 現 象 に つ い て 異 な っ た 時 点 や 場 所 で 調 べ た り ,ま た さ ま ざ ま
な人からデータをえることが勧められている。
b.調 査 者 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン
研 究 者 の 個 人 的 傾 向 が 研 究 に 与 え る 歪 み を 明 る み に 出 し た り ,ま た 最 小 限 に 抑 え た り す る た
め に ,異 な っ た 複 数 の 観 察 者 や イ ン タ ビ ュ ア ー を 研 究 に 参 加 さ せ る と い う も の で あ る 。 [中 略 ]
異なった研究者が調査対象や研究結果に対して及ぼす影響を系統的に比較することに重点が
ある。
c.理 論 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン
この出発点は「さまざまな視点や仮説を考慮に入れてデータにアプローチすることであり,
そ の 際 に さ ま ざ ま な 理 論 的 立 場 を ,そ れ ら の 有 用 性 と 説 明 力 と を 検 証 す る た め に 並 行 し て 用 い
る こ と で あ る 」 (D enzin,1978, p.29 7) 。 こ の タ イ プ の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン に よ っ て 認 識
の可能性を基礎づけたり拡大したりすることが目指される。
d.方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン
ひ と つ の 方 法 内 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン と ,異 な っ た 方 法 間 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ
ン と い う 2 つ の 下 位 タ イ プ に 区 別 さ れ る 。 前 者 (方 法 内 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン )の 例 は ,
あ る 質 問 紙 の 内 部 で ひ と つ の 事 象 を 測 る た め に さ ま ざ ま な 質 問 項 目 を 用 い る こ と で あ る 。そ の
質 問 紙 を 半 構 造 化 イ ン タ ビ ュ ー と 併 用 す れ ば 後 者 (方 法 間 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン )の 例
となる。
先 に も 記 し た よ う に ,ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン は ,質 的 研 究 に お い て ,重 要 な 方 略 で あ る 。
Bloor & Wood (2006 上 淵 他 訳 2009)は ,こ の 4 つ の タ イ プ の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン の
う ち ,「 一 般 的 に は 方 法 論 的 ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン が 最 も 着 目 さ れ て お り ,ト ラ イ ア ン
ギ ュ レ ー シ ョ ン を 通 し て 妥 当 性 に 耐 え う る も の と す る た め に は ,多 元 的 方 法 調 査 デ ザ イ ン
に よ っ て 方 法 論 的 な 厳 密 さ を 示 す こ と が ,質 的 研 究 者 に と っ て 研 究 を 計 画 す る 際 に ,ほ と ん
ど 義 務 的 な も の と な っ て い る 」と 述 べ て い る (p.152)。方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン や
多 元 的 方 法 調 査 デ ザ イ ン が 質 的 研 究 に お い て ,有 意 義 な も の で あ る こ と が わ か る 。
3)本 研 究 に お け る 多 元 的 な 調 査 ・ 分 析 方 法 の 採 用
以 上 検 討 し て き た よ う に ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 先 行 研 究 で は ,調 査 方 法 ,分 析 方 法 に お い
て 多 元 的 方 法 ,方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン が 採 用 さ れ て い た 。そ し て , 多 元 的 方 法 や
方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン は ,調 査 手 続 き の は ば の 広 さ ,深 さ ,一 貫 性 を 高 め る 妥 当 化
の 一 戦 略 と し て ,質 的 研 究 に お い て 重 要 な 研 究 方 略 で あ る こ と が 一 般 的 な 知 見 と な っ て い
る 。 そ こ で 本 研 究 に お い て も ,複 数 の 調 査 方 法 を 併 用 す る こ と が ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 箱
庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 精 緻 な デ ー タ を 包 括 的 に 収 集 す る た め に ,重 要 で あ る と 考 え る 。さ
ら に ,分 析 方 法 に お い て も ,本 研 究 の 目 的 に 適 っ た 複 数 の 分 析 方 法 を 採 用 す べ き で あ る と 考
える。
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第1研究
M-GTA に よ る 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に 関 す る 研 究
Ⅱ章.問題および目的
第 1 研 究 は ,a. 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 (subjective
experience)を 精 緻 に 分 析 し ,概 念 化 す る こ と を 通 し て ,箱 庭 制 作 面 接 が 箱 庭 制 作 者 の 自 己 理
解 や 自 己 成 長 を ど の よ う に 促 進 す る の か ,そ の 機 能 に つ い て 検 討 す る こ と を 目 的 と す る 。目
的 a は , 以 下 の 2 つ の 下 位 目 的 か ら 成 る 。 a-1.箱 庭 制 作 面 接 の 中 心 的 過 程 で あ る 箱 庭 制 作
過 程 に 主 に 焦 点 を 合 わ せ ,箱 庭 制 作 過 程 に は ど の よ う な 促 進 機 能 が あ る の か を 考 察 す る 。
a-2.箱 庭 制 作 面 接 の 継 続 性 ・ 連 続 性 は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 を ど の よ う に 促 進
するのかを検討する。
Ⅱ -1. 第1研究の研究内容に関する検討
1)箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能
第 1 研 究 の 目 的 a.と 下 位 目 的 a-1.,a-2.は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に 焦 点 を 合 わ せ て い
る 。第 1 研 究 で は ,制 作 者 の 自 己 理 解 ,自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る 箱 庭 制 作 面 接 の 機 能 を 「促
進 機 能 」,そ れ に 関 与 す る 要 因 を 「促 進 要 因 」,と 定 義 す る 。
石 原 (2013) は , 箱 庭 表 現 に つ い て , ク ラ イ エ ン ト 個 人 に 属 す る も の と し て 捉 え る
intrapersonal な 視 点 や 要 因 と ,ク ラ イ エ ン ト と セ ラ ピ ス ト の 関 係 性 と い う interpersonal
な視点や要因との 2 つの視点や要因があることを指摘する。そして, 箱庭表現がその 2 つ
の 要 因 の 掛 け 合 わ せ た と こ ろ に 現 れ て く る と い う 仮 説 に 基 づ き ,ク ラ イ エ ン ト の 箱 庭 表 現
を 考 察 し て い る (pp.16-17)。 intrapersonal な 視 点 の 場 合 ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 世 界 と 箱 庭 作
品 と い う 外 的 世 界 の 交 流 に 焦 点 が 合 わ さ れ る 。 石 原 (2013)は , interpersonal な 視 点 や 要 因
と し て , ク ラ イ エ ン ト と セ ラ ピ ス ト の 関 係 性 に 焦 点 を 合 わ せ て い る 。本 研 究 で は ,箱 庭 制 作
者 と 見 守 り 手 と の 関 係 性 に 焦 点 を 合 わ せ て い な い 。 し か し , interpersonal な 要 因 と し て ,
箱庭制作者の日常生活での人間関係や出来事を含めることができるだろう。箱庭制作にお
い て ,箱 庭 制 作 者 の 日 常 生 活 で の 営 み や 生 き 様 が 反 映 し た 箱 庭 作 品 が 作 ら れ る こ と は 少 な
く な い 。 箱 庭 制 作 面 接 で は ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 世 界 と ,箱 庭 作 品 や 箱 庭 制 作 者 の 日 常 生 活 と
い う 外 的 世 界 と が 相 互 に 密 接 な 関 連 を も ち ,交 流 す る 中 で ,箱 庭 作 品 が 構 成 さ れ て い く 。 こ
の よ う に ,内 的 世 界 と 外 的 世 界 の 交 流 が ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 の 重 要 な 一 因 で あ る ,と 考
え る こ と が で き る 。 第 1 研 究 で は ,箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 「内 界 」,「装 置 」,「構 成 」と い う 促 進
要 因 間 の 交 流 や , 継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 に お け る ,「作 品 の 連 続 性 や 変 化 」 ,「心 や 生 き 方 の 変
化・成 長 」と い う 促 進 要 因 が 関 与 す る 箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 に つ い て ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的
体 験 の 語 り や 記 述 の デ ー タ を 精 緻 に 分 析 ・ 概 念 化 し ,そ の 促 進 機 能 に つ い て 考 察 す る 。
Ⅱ -2.M-GTA に よ る 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 主 観 的 体 験 に 焦 点 を 合 わ せ た 研 究
第 1 研 究 の 目 的 a.を 達 成 す る た め に は ,分 析 お よ び 理 論 生 成 の 方 法 に お い て M-GTA を 採
用 す る こ と が 適 切 で あ る と 考 え る 。詳 細 は 以 下 で 検 討 す る が ,端 的 に 言 え ば ,M-GTA は デ ー
タ に 密 着 し た 理 論 生 成 に 優 れ て い る と 同 時 に ,分 析 手 順 が 明 確 で あ る た め ,恣 意 的 な 分 析 に
陥ることを防ぐことが可能なためである。
- 12 -
そ こ で ,本 節 で は ,ま ず ,M-GTA を 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 研 究 に 採 用 す る 際 に 検 討 す べ き
論 点 に つ い て 確 認 す る 。 そ の 後 , 箱 庭 療 法 に 対 し て ,M-GTA に よ っ て 分 析 を 行 っ た 先 行 研
究 つ い て 検 討 す る 。と こ ろ が ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 主 観 的 体 験 を M-GTA に よ っ て 分 析 し
た 公 表 さ れ て い る 研 究 は ,石 原 (2008),花 形 (2012),上 田 (2012)の み で あ る 。そ こ で ,本 節 で は ,
考 察 の 対 象 を や や 広 げ , M-GTA に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 お よ び そ れ と 密 接 に 関
連 し た デ ー タ に 対 し て 分 析 を 行 っ た 研 究 も 含 め ,考 察 し た い 。
1)M-GTA を 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 研 究 に 採 用 す る 際 に 検 討 す べ き 論 点
本 研 究 で は ,分 析 お よ び 理 論 生 成 の 方 法 と し て ,M-GTA を 採 用 す る こ と が 適 切 で あ る と
考 え ら れ る 。 本 研 究 も 含 め ,箱 庭 制 作 過 程 の 研 究 に お い て ,M-GTA を 採 用 す る の で あ れ ば ,
検 討 が 必 要 な 論 点 が あ る 。 そ れ は 研 究 計 画 に よ っ て は , M-GTA が 求 め る 手 続 き を 完 全 に
実 行 す る こ と が 困 難 な 場 合 が あ る た め で あ る 。そ こ で 本 項 で は ,デ ー タ 収 集 と 理 論 的 サ ン プ
リ ン グ と 理 論 的 飽 和 化 に 関 す る 問 題 を 中 心 に 取 り 上 げ ,確 認 す る 。
ま ず ,デ ー タ 収 集 と 理 論 的 サ ン プ リ ン グ に つ い て 考 え る 。 木 下 (2003)を 参 照 す る と ,デ ー
タ 収 集 と 理 論 的 サ ン プ リ ン グ と の 関 連 性 は ,2 種 に 大 別 で き る 。つ ま り ,a.デ ー タ 収 集 と 分 析
の 同 時 並 行 ,理 論 的 サ ン プ リ ン グ に よ る 新 た な デ ー タ の 収 集 と い う 方 法 ,b.ベ ー ス・デ ー タ と
追 加 デ ー タ へ の 2 方 向 へ の 理 論 的 サ ン プ リ ン グ ,の 2 種 で あ る 。
a.は ,GTA の オ リ ジ ナ ル 版 な ど で 説 明 さ れ る 方 法 で あ り ,フ ィ ー ル ド ワ ー ク に よ る 調 査 方
法 と 適 合 的 で あ る 。こ の 場 合 ,「 最 初 の デ ー タ は 関 連 し そ う な も の で あ れ ば よ い の で あ っ て
要 は そ こ か ら 分 析 を 開 始 し ,理 論 的 サ ン プ リ ン グ を 作 動 し て い く と い う こ と に な る 」。
「明ら
か に な り つ つ あ る 解 釈 に 基 づ き そ の 適 否 を 見 極 め ,解 釈 を 確 定 す る た め に ,比 較 思 考 に 立 脚
する理論的サンプリングにより次に収集すべきデータが何であるか判断する」ことになる
(木 下 ,2003,pp.114-116)。
そ れ に 対 し て ,b.は ,M-GTA で 提 唱 さ れ て い る 方 法 で あ り ,面 接 (イ ン タ ビ ュ ー )型 調 査 へ
の 適 用 が 強 く 意 識 さ れ て い る 。 M-GTA は ,デ ー タ に 基 づ い た (grounded-on-data)分 析 で あ
り ,デ ー タ と の 関 係 は デ ー タ か ら (from data)と デ ー タ に 向 か っ て (toward data)の 2 方 向 に
分 か れ ,相 互 に 関 連 さ せ て 分 析 が 進 め ら れ る と し て い る 。 そ の 後 者 は ,「 概 念 を 比 較 材 料 と
し て そ れ と 類 似 あ る い は 対 極 の 概 念 の 可 能 性 を 考 え ,デ ー タ に 向 か っ て 実 際 に そ う で あ る
かどうかの検討」を行うことである。その自分の解釈に照らして目的的にデータに向かう
流 れ を ,理 論 的 サ ン プ リ ン グ と 呼 ぶ と し て い る (木 下 ,2007,pp.50-51)。 M-GTA で は ,「 理 論
的 サ ン プ リ ン グ と 継 続 的 比 較 を 行 う が ,デ ー タ の 収 集 と 分 析 の 同 時 並 行 性 に 関 し て は 最 初
に ま と め て 収 集 し た デ ー タ (こ れ を 『 ベ ー ス ・ デ ー タ 』 と 呼 ぶ )と 分 析 過 程 に も と づ き 追 加
収 集 さ れ た デ ー タ (同 様 に 『 追 加 デ ー タ 』 と 呼 ぶ )の 二 段 階 に 分 け て 進 め る 」 (木
下 ,2003,pp.123-124)。 そ し て ,理 論 的 サ ン プ リ ン グ は ,ベ ー ス ・ デ ー タ と 追 加 デ ー タ に 対 す
る 二 方 向 で 行 い ,そ の 基 本 は ,ベ ー ス ・ デ ー タ に 対 す る 理 論 的 サ ン プ リ ン グ で あ る と す る 。
ま た ,す で に ,収 集 が 終 わ っ て い る デ ー タ を 分 析 す る 場 合 は ,方 法 論 的 限 定 と し て ,ベ ー ス・デ
ー タ と 追 加 デ ー タ を は っ き り 2 段 階 に 区 別 す る 方 法 の 変 形 で あ り ,以 下 の よ う な 点 に 留 意
す る 必 要 が あ る こ と を 指 摘 す る 。追 加 デ ー タ は 収 集 で き な い た め ,a.ベ ー ス ・ デ ー タ に 対 す
る 限 定 を い っ そ う 明 確 に 提 示 す る こ と ,b. デ ー タ と の 確 認 が 不 十 分 な 概 念 や 理 論 的 サ ン プ
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リ ン グ に よ り 確 認 す べ き デ ー タ が わ か っ て も 実 際 に で き な か っ た 部 分 に つ い て ,論 文 に そ
の 旨 を 明 示 す る 必 要 が あ る ,と し て い る (木 下 ,2003,pp.128-129)。
次 に ,理 論 的 飽 和 化 に つ い て ,検 討 す る 。GTA に お い て ,分 析 の 終 了 は 理 論 的 飽 和 化 を も っ
て 判 断 す る 。つ ま り ,「 継 続 的 比 較 分 析 に よ り 分 析 を 進 め て い っ た と き に デ ー タ か ら 新 た に
重 要 な 概 念 が 生 成 さ れ な く な り ,理 論 的 サ ン プ リ ン グ か ら も 新 た に デ ー タ を 収 集 し て 確 認
す べ て (マ マ )問 題 点 が な く な っ た と き を も っ て ,飽 和 化 し た と 判 断 す る と さ れ て い る 」。 木
下 (2003)は ,こ の よ う な 説 明 で は ,ど の よ う に 理 論 的 飽 和 化 の 判 断 を 行 う の か 難 し い こ と を
指 摘 し て い る (pp.220-221)。そ こ で ,M-GTA で は ,grounded-on-data が 成 立 し や す い よ う に
分 析 対 象 と す る デ ー タ を 限 定 的 に 確 定 し た 上 で ,a. 分 析 の 最 小 単 位 で あ る 概 念 に つ い て 分
析 ワ ー ク シ ー ト の 完 成 度 で 「 小 さ な 理 論 的 飽 和 化 」 の 判 断 を 下 し ,次 に ,そ う し て 確 認 的 に
判断された概念によって構成される分析結果全体に対して「理論的飽和化」の判断を下す
(木 下 ,2007,p.52)。ま た ,理 論 的 飽 和 化 は ,理 想 的 な 形 で あ り ,完 璧 に 実 践 し な く て は な ら な い
も の で は な く ,そ の 意 味 を 理 解 し た 上 で ,そ れ ぞ れ の 分 析 に お い て 収 斂 化 と 拡 大 化 と の 現 実
的 な 最 適 バ ラ ン ス で 判 断 し ,そ の 判 断 根 拠 を 明 示 す る ,と し て い る (木 下 ,2 003 ,pp .22 1 -222 )。
2)M-GTA に よ る 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て の 先 行 研 究
M-GTA も し く は GTA に よ っ て ,箱 庭 制 作 過 程 の 主 観 的 体 験 に つ い て 分 析 し た 先 行 研 究 に
は ,石 原 (2008),花 形 (2012), 大 石・高 橋・森 崎・浅 田・井 芹・千 秋・加 藤 (2011), 朝 比 奈 (2013),
花 形 (2014)が あ る 。 以 下 に 本 研 究 の 方 法 と 関 連 の 深 い 先 行 研 究 を 概 観 す る と 共 に , 先 に 挙
げ た M-GTA を 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る 研 究 に 採 用 す る 際 に 検 討 す べ き 論 点 に つ い て 検 討 す
る 。花 形 ( 2 0 1 2 ) , 上 田 ( 2 0 1 2 ) , 朝 比 奈 (2013)は Ⅰ -3.1)で 検 討 し た た め ,本 節 で は 割 愛 す る 。
本 項 で は ,ま ず ,石 原 (2008)を M-GTA の 分 析 手 続 き の 観 点 か ら 検 討 し ,続 い て 大 石 他 (2011)
について概観する。
「 Ⅰ -3. 第 1 研 究 お よ び 第 2 研 究 に 共 通 す る 研 究 内 容 に 関 す る 検 討 」 に 記 し た よ う に ,
石 原 (2008)は ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 し て ,M-GTA を 準 用 し て ,独 創 的 な 研 究 を 行 っ
て い る 。「 準 用 し て 」と し た の は ,石 原 が 自 身 の 研 究 に 対 し て ,以 下 の よ う に 記 し て い る た め
で あ る 。 そ の 部 分 を 直 接 引 用 す る 前 に ,そ の 記 述 の 前 提 と な る 部 分 を ま ず 記 す 。
石 原 (2008)は ,木 下 (2003,p.35)を 参 照 し ,GTA と 呼 び う る 研 究 法 の 満 た す べ き 5 要 件 を 挙
げ ,自 己 の 研 究 法 を そ の 要 件 か ら 検 討 し て い る 。 そ の 5 要 件 は ,a.デ ー タ に 密 着 し た 分 析 か
ら 独 自 の 理 論 を 生 成 す る 質 的 研 究 法 で あ る こ と ,b.分 析 に お い て ,コ ー デ ィ ン グ 方 法 と し て
の オ ー プ ン・コ ー デ ィ ン グ と 選 択 的 コ ー デ ィ ン グ ,c.基 軸 と な る 継 続 的 比 較 分 析 ,d.そ の 機 能
面 で あ る 理 論 的 サ ン プ リ ン グ ,e.理 論 的 飽 和 化 の 5 点 で あ る 。そ し て ,自 己 の 研 究 を 検 討 し ,a.
の「 デ ー タ に 密 着 し た 分 析 」と b.と c.に 関 し て は ,そ れ ら が 該 当 す る と 考 え て い る 。し か し ,
自 己 の 研 究 が ,a.の「 分 析 か ら 独 自 の 理 論 を 生 成 す る 質 的 研 究 」と は ,お そ ら く 呼 べ な い と し
て い る (pp.16-19)。
石 原 (2008) が そ の 理 由 と し て 挙 げ て い る 部 分 を 長 く な る が , 以 下 に 直 接 引 用 す る
(pp.17-18)。
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本 研 究 で 得 ら れ る デ ー タ は ,一 つ の ミ ニ チ ュ ア を 選 び ,置 く と い う 箱 庭 制 作 過 程 に お け る 制 作
者 の 主 観 的 な 体 験 ( の 語 り ) で あ る 。そ こ か ら 記 述 で き る の は ,制 作 者 が 制 作 過 程 で ど の よ う な 体
験 を し て い る の か と い う こ と で あ り ,デ ー タ に 密 着 し た 分 析 に よ っ て ,さ ま ざ ま な 体 験 の ヴ ァ リ
エ ー シ ョ ン を 描 く こ と が で き た と し て も ,そ こ か ら 「 独 自 の 理 論 」 を 生 成 す る と こ ろ ま で 至 る
の は お そ ら く 困 難 で あ ろ う 。 こ の こ と は ,「 理 論 的 サ ン プ リ ン グ 」 や 「 理 論 的 飽 和 化 」 と い う
問題ともつながってくる。
「 理 論 的 サ ン プ リ ン グ 」 と は ,デ ー タ の 分 析 を 行 う な か で ,さ ら な る デ ー タ を 収 集 す べ き 必 要
が 出 て き た と き に は ,分 析 経 過 か ら 見 え て き た 必 然 性 に 基 づ い て 対 象 ( サ ン プ ル ) を 決 定 し て
い く こ と を 指 す 。 そ し て ,こ の 「 理 論 的 サ ン プ リ ン グ 」 は ,こ れ 以 上 新 た な デ ー タ を 収 集 す る 必
要 が な い と 判 断 さ れ る ,つ ま り 「 理 論 的 飽 和 化 」 す る ま で 繰 り 返 さ れ る 。 こ の 考 え 方 自 体 は ,研
究 を 緻 密 に 遂 行 し て い く う え で ,欠 か せ な い も の で あ る 。
さ て ,本 研 究 で 扱 う の は ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 制 作 者 の 主 観 的 な 体 験 で あ る 。た と え ば ,は じ
め に い わ ゆ る 適 応 し た 大 学 生 を 対 象 に 調 査 研 究 を 行 い ,デ ー タ を 集 め る と し よ う 。 そ こ か ら 得
ら れ る デ ー タ を 一 通 り 分 析 し て い っ た と し て ,次 に 必 要 な デ ー タ と は ,ど の よ う な デ ー タ と な る
だろうか。
こ こ で ,本 研 究 が 心 理 臨 床 学 の 立 場 か ら 行 う 研 究 で あ る こ と が ,大 切 に な っ て く る 。 心 理 臨 床
の 研 究 は ,心 理 臨 床 の 実 践 か ら 乖 離 し て し ま っ て は な ら な い 。 制 作 者 の 主 観 的 な 体 験 に 目 を 向
け る こ と で ,本 来 照 準 を 当 て た い の は ,心 理 臨 床 の 実 践 に お い て 出 会 う ク ラ イ エ ン ト が ,箱 庭 制
作 過 程 に お い て ど の よ う な 体 験 を し て い る の か と い う こ と で あ る 。 し た が っ て ,い わ ゆ る 適 応
し た 大 学 生 を 対 象 に 行 っ た 調 査 の 次 の 段 階 で ,そ の デ ー タ を 充 実 さ せ て い こ う と す る と ,今 度 は ,
実 践 場 面 で の ク ラ イ エ ン ト の 体 験 に 目 を 向 け て い く 必 要 が 出 て く る の で あ る 。つ ま り「 理 論 的
サ ン プ リ ン グ 」 を 行 う な ら ば ,臨 床 実 践 に お け る ク ラ イ エ ン ト の 主 観 的 体 験 を 「 サ ン プ ル 」 と
しなければならない。
こ こ に ,心 理 臨 床 の 実 践 に 照 準 を 合 わ せ た 心 理 臨 床 学 の 研 究 が ,M-G TA の 手 法 に 馴 染 ま な い
局 面 が 立 ち 現 わ れ て く る よ う に 思 う 。 心 理 臨 床 学 に お い て は ,当 然 の こ と な が ら ,心 理 臨 床 の 実
践 が 最 優 先 事 項 と な る 。 臨 床 実 践 の 場 を 訪 れ る ク ラ イ エ ン ト は ,ク ラ イ エ ン ト 自 身 の 意 思 で 来
談 す る の で あ っ て ,セ ラ ピ ス ト が ク ラ イ エ ン ト を 選 ぶ の で は な い 。 心 理 臨 床 学 の 研 究 者 は ,ま ず
何 よ り も 心 理 臨 床 の 実 践 家 な の で あ り ,研 究 者 か ら 能 動 的 に 「 理 論 的 サ ン プ リ ン グ 」 を 行 っ て
い く と い う よ う な あ り 方 は ,心 理 臨 床 の 実 践 家 と し て の あ り 方 と 両 立 し な い 。 し た が っ て ,一 通
り 分 析 を 終 え た デ ー タ を 臨 床 事 例 に よ っ て ,充 実 さ せ て い こ う と す る た め に は ,そ れ に 適 し た 臨
床事例に出会うという偶然を頼りにするより他ないということになる。
臨 床 事 例 に よ っ て デ ー タ を 充 実 さ せ て い く こ と が で き な い か ら と 言 っ て ,い わ ゆ る 適 応 し た
大 学 生 の デ ー タ を ど ん ど ん 増 や し て い く と い う よ う な 研 究 を 行 う と し て も ,ど こ ま で 行 っ て も
そ れ は ,非 臨 床 事 例 で あ る 大 学 生 の デ ー タ で あ っ て ,臨 床 実 践 で 出 会 う ク ラ イ エ ン ト の 体 験 に 直
接的に迫ることにならない。
以 上 の よ う な 心 理 臨 床 学 の 研 究 の 独 自 の 問 題 と 深 く 関 連 し て ,臨 床 実 践 に 照 準 を 当 て る 心 理
臨 床 学 の 研 究 で は ,M-G TA で 言 う と こ ろ の 「 理 論 的 飽 和 化 」 に 達 す る の は 非 常 に 困 難 で あ る と
考えられる。
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こ の よ う な わ け で ,本 研 究 で も ,お そ ら く 「 理 論 的 飽 和 化 」 を 達 成 す る と こ ろ ま で デ ー タ を 充
実 さ せ る こ と は ほ ぼ 不 可 能 と 考 え ら れ ,「 独 自 の 理 論 」 を 生 成 す る と こ ろ ま で 到 達 す る こ と は
困難だと考えられる。
長 い 引 用 の た め , 整 理 す る と ,石 原 が 挙 げ て い る 論 点 は ,a.理 論 的 サ ン プ リ ン グ ,b.理 論 的
飽 和 化 ,c.デ ー タ の 質 (適 応 し た 調 査 参 加 者 と 臨 床 事 例 の ク ラ イ エ ン ト ),d.心 理 臨 床 学 に お け
る独自の理論生成となるだろう。
こ れ ら の 論 点 を 検 討 す る に は ,さ ら に ,M-GTA の 分 析 テ ー マ と 分 析 焦 点 者 と【 応 用 者 】の
観 点 が 加 え ら れ る 必 要 が あ る と 考 え る 。ま ず は ,こ れ ら の 用 語 に つ い て ,確 認 し た い 。M-GTA
で は ,分 析 テ ー マ と 分 析 焦 点 者 の 2 つ の 視 点 に 絞 っ て ,デ ー タ を み て い き ,解 釈 を 行 う (木
下 ,2007,p.143)。
「研究テーマをデータに即して分析していけるように絞り込んだものが分
析 テ ー マ 」 で あ る (木 下 ,2007,p.144)。 研 究 テ ー マ を grounded on data の 分 析 が し や す い
と こ ろ ま で 絞 り こ む 必 要 が 生 じ る た め に , 分 析 テ ー マ が 設 定 さ れ る (木 下 ,2003,p.131)。 分
析 焦 点 者 は ,M-GTA の 方 法 論 的 限 定 の 一 つ で あ る 。
「分析結果として提示するグランウンデ
ッ ド ・ セ オ リ ー の 適 用 可 能 範 囲 ,一 般 化 可 能 範 囲 は 分 析 焦 点 者 で あ る ,『 人 (限 定 集 団 ) 』 か
ら 示 す こ と に な る 」(木 下 ,2007,p.157)。ま た ,【 応 用 者 】は ,発 表 さ れ た グ ラ ン ウ ン デ ッ ド ・
セ オ リ ー の 評 価 と 関 連 す る 。 M-GTA は ,「 発 表 さ れ た グ ラ ン ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー は ,応 用
さ れ て ,つ ま り ,デ ー タ が 収 集 さ れ た 現 場 と 同 じ よ う な 社 会 的 な 場 に 戻 さ れ て ,そ こ で の 現 実
的問題に対して試されることによってその出来ばえが評価されるべきとする立場である。
応 用 が 検 証 で あ る と い う 視 点 と ,そ れ か ら ,応 用 者 が 必 要 な 修 正 を 行 う こ と で 目 的 に 適 っ た
活 用 が で き る こ と を 重 視 す る 。だ か ら ,こ こ で い う 応 用 と は 提 示 さ れ た グ ラ ン ウ ン デ ッ ド ・
セ オ リ ー を た だ 機 械 的 に 当 て は め る と い う 意 味 で の 応 用 な の で は な く ,ま た ,調 査 が 行 わ れ
た の と ま っ た く 同 一 の 場 面 で 当 て は め る と い う 意 味 で も な く ― そ れ は 不 可 能 で あ る ― ,応
用者がそのときの自分の状況特性と目的に基づき必要な修正をしながら用いていくのであ
る 」 (木 下 ,2003,pp.20-30)。
石 原 (2008)は ,自 身 の 研 究 に 対 し て 「 分 析 か ら 独 自 の 理 論 を 生 成 す る 質 的 研 究 」 と は ,お
そ ら く 呼 べ な い と し て い る が ,筆 者 に は ,そ れ は 厳 し す ぎ る 自 己 評 価 に 思 え る 。 先 に 挙 げ
た ,(1) 理 論 的 サ ン プ リ ン グ ,(2) 理 論 的 飽 和 化 ,(3) デ ー タ の 質 (適 応 し た 調 査 参 加 者 と 臨 床 事
例 の ク ラ イ エ ン ト ),(4) 心 理 臨 床 学 に お け る 独 自 の 理 論 生 成 , の 4 点 に つ い て 検 討 し て い き
たい。
(1)理 論 的 サ ン プ リ ン グ に つ い て
石 原 (2008)が ,理 論 的 サ ン プ リ ン グ に 関 し て 述 べ て い る こ と は ,「Ⅰ - 5 . M - G T A に よ る 箱
庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 す る 研 究 」 で 確 認 し た ,デ ー タ 収 集 と 理 論 的 サ ン プ リ ン グ
と の 関 係 の 問 題 で あ る 。石 原 の 説 明 は ,「 a.デ ー タ 収 集 と 分 析 の 同 時 並 行 ,理 論 的 サ ン プ リ ン
グ に よ る 新 た な デ ー タ の 収 集 と い う 方 法 」 (p.13 参 照 ) に 準 じ た も の と な っ て い る 。 し か
し ,M-GTA の 場 合 ,理 論 的 サ ン プ リ ン グ は ,ベ ー ス・デ ー タ と 追 加 デ ー タ に 対 す る 二 方 向 で 行
い ,そ の 基 本 は ,ベ ー ス ・ デ ー タ に 対 す る 理 論 的 サ ン プ リ ン グ で あ る と 考 え る わ け で あ る か
ら ,石 原 の 研 究 の 場 合 ,ベ ー ス ・ デ ー タ に 対 す る 理 論 的 サ ン プ リ ン グ は 実 施 さ れ て い る と 考
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え て よ い の で は な い か 。 そ し て ,追 加 デ ー タ を 収 集 で き な か っ た 場 合 の 留 意 点 に 関 し て ,明
示 す る こ と で ,一 定 の 要 件 を 満 た す と 考 え て よ い の で は な い か 。
(2)理 論 的 飽 和 化 に つ い て
こ の 論 点 は ,M-GTA に お け る 理 論 的 飽 和 化 に つ い て の 考 え 方 ,分 析 焦 点 者 と 関 連 し て い
る と 考 え ら れ る 。 石 原 (2008)の 場 合 ,分 析 焦 点 者 は ,例 え ば ,「 適 応 し た 箱 庭 制 作 者 」 と な る
だ ろ う 。そ の よ う な 限 定 を 行 っ た 上 で ,理 論 的 飽 和 化 に 関 し て は ,や は り 本 研 究 の p.16 で 検
討 し た 木 下 の 考 え に 従 う こ と で ,解 決 さ れ る の で は な い だ ろ う か 。 つ ま り ,概 念 に つ い て 分
析 ワ ー ク シ ー ト の 完 成 度 で 「 小 さ な 理 論 的 飽 和 化 」 の 判 断 を 下 し ,次 に ,そ う し て 確 認 的 に
判断された概念によって構成される分析結果全体に対して「理論的飽和化」の判断を下す
(木 下 ,2007,p.52)。理 論 的 飽 和 化 は ,理 想 的 な 形 で あ り ,完 璧 に 実 践 し な く て は な ら な い も の
で は な く ,そ の 意 味 を 理 解 し た 上 で ,そ れ ぞ れ の 分 析 に お い て 収 斂 化 と 拡 大 化 と の 現 実 的 な
最 適 バ ラ ン ス で 判 断 し ,そ の 判 断 根 拠 を 明 示 す る と の 考 え で あ る 。
(3) デ ー タ の 質 ( 適 応 し た 調 査 参 加 者 と 臨 床 事 例 の ク ラ イ エ ン ト ) と (4) 心 理 臨 床 学 に お
ける独自の理論生成について
こ の 両 論 点 は ,密 接 に 関 連 し て い る 。 こ の テ ー マ に 関 す る 石 原 (2008)の 論 は ,確 か に 納 得
で き る 点 が あ る 。し か し ,c.に 関 し て ,M-GTA の 研 究 手 法 で 言 え ば ,分 析 テ ー マ と 分 析 焦 点 者
の 限 定 を 行 う と い う 方 法 で ,解 決 可 能 だ と も 考 え ら れ る 。 つ ま り ,「 箱 庭 制 作 の 過 程 に お け
る 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 焦 点 を 当 て ,こ の 観 点 か ら 箱 庭 療 法 に つ い て 検 討 す る 」 (石
原 ,2008,p.20) こ と を 分 析 テ ー マ と し , 先 ほ ど の 分 析 焦 点 者 の 限 定 を 加 え る と い う こ と で あ
る 。こ れ で は ,確 か に ,M-GTA の 分 析 に お い て ,臨 床 事 例 に お け る ク ラ イ エ ン ト の 主 観 的 体 験
を 包 含 す る こ と に は な ら な い 。 し か し ,だ か ら と 言 っ て ,筆 者 に は ,石 原 の 研 究 の 価 値 が 著 し
く低下するように思えない。
そ し て ,心 理 臨 床 学 に お け る 独 自 の 理 論 生 成 に 関 し て は ,【 応 用 者 】 に よ る 評 価 を 待 つ と
い う こ と に な ろ う 。 つ ま り ,石 原 (2008)で 得 ら れ た 知 見 が ,臨 床 事 例 に お け る ク ラ イ エ ン ト
の 箱 庭 制 作 に 関 す る 主 観 的 体 験 と ,ど の 点 で は 合 致 し ,ど の 点 で は 違 い が あ る の か は ,多 く の
箱 庭 療 法 家 に よ る 実 践 や 生 成 さ れ た 理 論 の【 応 用 】や 事 例 研 究 な ど に よ り ,評 価 さ れ て い く
べ き だ と い う こ と で あ る 。 臨 床 事 例 に は ,確 か に ,そ の 独 自 性 が 存 在 す る 。 し か し ,臨 床 事 例
の ク ラ イ エ ン ト の 心 性 と 心 理 的 に 健 康 な 人 々 の 心 性 の 間 に は ,隔 絶 さ れ た 溝 が あ る の で は
な く ,「 ス ペ ク ト ラ ム 」 と 表 現 で き る よ う な 連 続 性 も あ る 。 そ れ ゆ え に ,心 理 的 に 健 康 で ,適
応 し た 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 か ら デ ー タ に 密 着 し て 生 成 さ れ た 理 論 に は ,臨 床 事 例 に も
適応可能な理論が存在する可能性は十分にあると考えられる。
石 原 自 身 ,臨 床 事 例 と 調 査 事 例 の 比 較 を 行 っ て い る 。 そ し て ,砂 箱 が 制 作 者 に ど の よ う に
体 験 さ れ る の か を 検 討 し て い る 。そ こ に は ,a.両 者 に 共 通 す る 体 験 と し て ,空 間 を 限 定 す る 現
物 の 砂 箱 と ,b.調 査 事 例 に の み 見 ら れ た , ま る で 枠 な ど な い か の よ う に ど こ ま で も 広 が る イ
メ ー ジ の 中 で 背 景 に 溶 け 込 む 砂 箱 体 験 が あ っ た (pp.219-226)。ま た ,箱 庭 療 法 が ,臨 床 事 例 だ
け で な く ,心 理 的 に 健 康 な 人 々 の 自 己 実 現 や 自 己 理 解 の 促 進 の た め に 行 わ れ る こ と も あ る 。
そ れ ら を 総 合 的 に 勘 案 し て ,研 究 内 容 が 評 価 さ れ る 必 要 が あ る だ ろ う 。
以 上 ,検 討 し て き た が ,石 原 (2008)が M-GTA に よ る 調 査 研 究 お よ び 事 例 研 究 か ら 総 合 的
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に 得 た 知 見 に は ,確 か に 石 原 自 身 が 述 べ る 一 定 の 限 界 を も ち つ つ も ,単 な る 調 査 研 究 を 超 え ,
心 理 臨 床 に つ な が っ た 独 自 な 理 論 が 存 在 す る ,と 考 え る 。
M-GTA に よ る 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て の 先 行 研 究 と し て ,次 に ,大 石 ・高 橋・森 崎・浅 田 ・
井 芹 ・ 千 秋 ・ 加 藤 (2011)の 研 究 に つ い て 検 討 す る 。 大 石 他 (2011)は ,M-GTA に よ り ,特 別 養
護老人ホーム入居者の箱庭制作における制作者と箱庭とのかかわりを分析している。この
「 か か わ り 」 に 関 す る デ ー タ と し て ,調 査 者 が 記 録 し た ,制 作 者 の 箱 庭 と の か か わ り の 様 子
や 周 囲 の 状 況 が 用 い ら れ て い る 。 概 念 の 具 体 例 を 見 る と ,制 作 者 の 発 言 に 加 え て ,調 査 者 の
観 察 記 録 が 用 い ら れ て い る 。本 研 究 と の 関 連 で い え ば ,制 作 者 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ に 加 え
て ,箱 庭 制 作 者 の 行 動 や 周 囲 の 状 況 に 関 す る 観 察 デ ー タ が 含 ま れ て い る 点 で 異 な っ て い る 。
大 石 他 (2011)で は ,こ の よ う な デ ー タ が M-GTA で 分 析 さ れ ,「 Ⅰ .『 鮮 や か さ 』 に 触 発 さ れ
る 感 情 ,Ⅱ . ア イ テ ム と の や り と り を 通 し た 『 鮮 や か 』 と の か か わ り ,Ⅲ . か か わ り の な か
で 浮 か び 上 が る 『 鮮 や か さ 』 ,Ⅳ .『 鮮 や か さ 』 か ら 距 離 を 置 く 動 き ,と い う 四 つ の 大 カ テ ゴ
リ ー が 生 成 さ れ た 」 (p.317)。そ し て ,「 入 居 者 と 箱 庭 と の か か わ り と は ,両 面 的 な 感 情 ,さ ま
ざ ま な 距 離 感 や 濃 淡 の な か ,『 鮮 や か さ 』 と の か か わ り を 積 み 重 ね る こ と で ,揺 さ ぶ ら れ つ
つ ,そ こ に 自 身 の 存 在 感 が 織 り 込 ま れ ,新 た な 『 鮮 や か さ 』 と し て 浮 か び 上 が る プ ロ セ ス で
あ っ た 」 と の 結 論 を 得 て い る (p.326)。 こ の よ う に ,大 石 他 (2011)は ,デ ー タ に 密 着 し た 分 析
か ら ,独 自 の 理 論 を 生 成 し た ,興 味 深 い 研 究 と な っ て い る 。
Ⅱ -3.M-GTA を 採 用 す る に 当 た っ て 検 討 す べ き 他 の 論 点
1)単 一 事 例 修 正 版 グ ラ ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ
第 1 研 究 に お い て M-GTA に よ る 分 析 を 採 用 す る に あ た り ,M-GTA の 変 法 で あ る 単 一 事
例 修 正 版 グ ラ ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ 法 (Single Case Modified Grounded
Theory Approach:SCM-GTA)に つ い て の 確 認 が 必 要 で あ る 。SCM-GTA は ,斎 藤 (2005)が 痛
み を 主 訴 と し た 一 事 例 に 対 し て ,M-GTA に よ っ て 分 析 し た オ リ ジ ナ ル な 分 析 法 で あ る 。 そ
の 分 析 法 に つ い て ,斎 藤 (2014)は ,単 一 事 例 (実 践 1)か ら 生 成 さ れ た 理 論 が ,似 て い る が 異 な
っ た 特 性 を も つ 別 の 事 例 (実 践 2)へ 継 承 さ れ る こ と に つ い て 以 下 の よ う に 述 べ て い る 。 実
践 2 に お い て ,実 践 1 か ら 生 成 さ れ た 理 論 が 必 要 最 小 限 の 修 正 に よ っ て 有 効 に 作 用 し ,改 変
さ れ た 理 論 が 明 示 知 と し て 記 述 さ れ る な ら ば ,理 論 は 継 承 さ れ た こ と に な り ,理 論 の 有 効 性
が あ る 程 度 検 証 さ れ た こ と を 意 味 す る 。臨 床 の 知 の 生 成 と 応 用 と い う モ デ ル に お い て ,実 践
者 ,研 究 者 ,応 用 者 と い う 個 別 性 を も っ た 人 間 を 設 定 し ,人 間 と デ ー タ ,人 間 と セ オ リ ー ,人 間
と 事 例 と の 相 互 交 流 す る プ ロ セ ス は ,臨 床 に お け る 明 示 知 と 暗 黙 知 を 有 効 に つ な ぎ 合 わ せ
る 循 環 的 な プ ロ セ ス と し て 機 能 す る (pp.131-133)。
2)同 一 調 査 参 加 者 に 対 す る 複 数 回 の イ ン タ ビ ュ ー 実 施
Charmaz(2006 抱 井 他 訳 2008)は , GTA に お い て ,同 一 の 調 査 参 加 者 に 複 数 回 イ ン タ ビ
ュ ー す る こ と の 意 義 に つ い て 言 及 し て い る 。本 研 究 で も ,同 一 調 査 参 加 者 に 対 す る 複 数 回 の
イ ン タ ビ ュ ー 実 施 を 予 定 し て い る 。 Charmaz の 言 及 を 確 認 す る 。 Charmaz は ,同 一 の 調 査
- 18 -
参 加 者 に 複 数 回 イ ン タ ビ ュ ー す る こ と を 行 っ て い る 。そ れ は ,a.デ ー タ の 深 さ と 範 囲 の 広 さ
に よ り 違 い が 生 じ る 研 究 の 質 や 信 用 ( 憑 ) 性 (credibility) を 高 め る た め の 一 方 法 で あ り
(pp.24-25),b. 理 論 的 サ ン プ リ ン グ の た め の 一 方 法 で あ る , と 説 明 し て い る
(pp.116-117,p.120)。本 研 究 で ,同 一 調 査 参 加 者 に 対 し て ,複 数 回 面 接 が 実 施 さ れ た の は ,理 論
的 サ ン プ リ ン グ の た め で は な く ,継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス を 研 究 対 象 に し た た め
で あ る 。 し か し ,継 続 的 な 面 接 は ,調 査 参 加 者 か ら 得 ら れ る デ ー タ が 深 さ と 広 さ を も っ た も
の と な る こ と に 寄 与 す る ,と 考 え る こ と が で き る 。
- 19 -
Ⅲ 章 .方 法
Ⅲ -1. 調 査 参 加 者 ・ 調 査 方 法
本 調 査 の 箱 庭 制 作 者 は 以 下 の 2 名 で あ っ た 。両 調 査 参 加 者 と も ,心 理 的 問 題 の セ ラ ピ ー の
た め に 箱 庭 制 作 面 接 を 希 望 し た の で は な い 。A 氏 は ,40 歳 代 女 性 ,夫 と の 二 人 家 族 。女 性
性 と キ ャ リ ア 形 成 に 課 題 を 感 じ ,自 己 理 解 ,自己成長のために面接を希望した。B 氏
は ,40 歳 代 男 性 ,独 身 。 心 理 療 法 家 と し て の 教 育 分 析 の た め に 面 接 を 希 望 し た 。 そ の よ う な
申 し 出 が あ っ た 際 ,筆 者 は 一 つ の 選 択 肢 と し て ,本 調 査 参 加 者 と し て 箱 庭 制 作 を 10 回 程 度 継
続 的 に 実 施 す る こ と が で き る こ と を 伝 え ,両 氏 が そ れ を 選 択 し た 。調 査 開 始 前 に 当 該 研 究 に
関 す る 説 明 を 行 っ た 。 そ こ で ,研 究 目 的 ,研 究 計 画 ,内 省 報 告 の 項 目 な ど に 関 す る 説 明 を 文 書
と 口 頭 で 行 う と 共 に ,調 査 参 加 者 か ら の 質 問 に 答 え た 。 説 明 終 了 後 ,調 査 参 加 者 か ら ,研 究 参
加 に 関 す る 同 意 文 書 を 得 た *1。
本 調 査 は ,以 下 の 1)箱 庭 制 作 面 接 ,2)ふ り か え り 面 接 ,3)全 過 程 の ふ り か え り 面 接 を 複 数 回
行 う 契 約 で 実 施 さ れ た (図 1)。こ れ ら の 面 接 は す べ て 調 査 者 (= 筆 者 )の 研 究 室 で 実 施 さ れ た
(図 2)。 A 氏 は ,箱 庭 制 作 面 接 お よ び ふ り か え り 面 接 各 10 回 ,全 過 程 の ふ り か え り 面 接 4 回
を 実 施 し た 。B 氏 は ,箱 庭 制 作 面 接 お よ び ふ り か え り 面 接 各 8 回 ,全 過 程 の ふ り か え り 面 接 1
回 を 実 施 し た 。B 氏 の 場 合 も ,箱 庭 制 作 面 接 お よ び ふ り か え り 面 接 を 各 10 回 ,全 過 程 の ふ り
か え り 面 接 を 複 数 回 行 う 契 約 で あ っ た が ,B 氏 の 勤 務 地 が 遠 方 に な っ た た め ,上 記 の 実 施 形
態となった。
( 最 終 回 )
全過程のふりかえり面接
( 1 回 または 数 回 )
1 ヶ 月~数か月
ふりかえり面接
- 20 -
ビデオ視聴・ 内省報告作成
( 最 終 回 )
調査の流れ
約 2 週間
箱庭制作面接
中略
( 第 2 回 )
( 第 2 回 )
ビデオ視聴・ 内省報告作成
ふりかえり面接
約 2 週間
箱庭制作面接
約 2 週間
( 第 1 回 )
( 第 1 回 )
ビデオ視聴・ 内省報告作成
ふりかえり面接
約 2 週間
箱庭制作面接
図 1
1)箱 庭 制 作 面 接
こ の 面 接 で は ,通 常 の 箱 庭 療 法
面接と類似の箱庭制作が実施され
以下、
面接スペース
ついたて
た 。 調 査 の た め ,筆 者 は ,三 脚 に 備
え付けられたビデオカメラの位置
砂箱
や 方 向 を 操 作 す る 以 外 は ,通 常 の
約3m
移 動 に 合 わ せ て 筆 者 も 移 動 し ,箱
約2.6m
約2m
庭 制 作 を 見 守 っ た 。 A 氏 第 10 回
箱庭制作面接以外の箱庭制作にお
い て ,両 箱 庭 制 作 者 は ,砂 箱 の 長 辺
ビデオカメラ
ミ ニチ ュア の 棚
見 守 り 手 と 同 様 の 形 で ,制 作 者 の
制作者の
立ち位置と向き
ドア
が自分の正面になるように砂箱を
使 用 し た (図 2)。 両 箱 庭 制 作 者 は ,
無言で箱庭を制作する場合が多か
図 2
研究室内の面接スペースのセッティング
った。制作者が無言で箱庭を制作
し て い る 時 に は ,筆 者 も 無 言 で 箱 庭 制 作 を 見 守 っ た 。砂 に 水 を 含 ま せ る な ど の 依 頼 が 制 作 者
か ら あ っ た 場 合 に は ,筆 者 は そ れ に 応 え た 。
箱 庭 制 作 過 程 終 了 後 ,通 常 の 説 明 過 程 を 経 て ,さ ら に 調 査 目 的 の た め の 言 語 化 の 過 程 が 追
加 さ れ た 。 そ の た め ,説 明 過 程 は 以 下 の 2 つ の 過 程 か ら 構 成 さ れ た 。
(1)自 発 的 説 明 過 程
箱 庭 制 作 後 ,通 常 の 箱 庭 療 法 と 同 様 の 説 明 過 程 (自 発 的 説 明 過 程 )が 実 施 さ れ た 。 自 発 的 説
明 過 程 で , 箱 庭 制 作 者 は ,制 作 中 と 制 作 終 了 時 点 で の 意 図 , 感 覚 ,感 情 ,イ メ ー ジ ,連 想 , 意 味 な
ど を 自 発 的 に 語 っ た 。 筆 者 は ,そ れ を 傾 聴 す る こ と を 基 本 的 な 態 度 と し て 臨 ん だ 。
(2)調 査 的 説 明 過 程
自 発 的 説 明 過 程 終 了 後 ,続 け て ,調 査 目 的 の た め ,調 査 的 説 明 過 程 が 実 施 さ れ た 。 調 査 的 説
明 過 程 で は ,筆 者 は ,よ り 積 極 的 に 対 話 や 質 問 を 行 い ,箱 庭 制 作 過 程 と 自 発 的 説 明 過 程 に お け
る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 言 語 化 を 促 し た 。
箱 庭 制 作 面 接 の 時 間 は ,制 作 過 程 ・ 両 説 明 過 程 を 含 め て お よ そ 1 時 間 ∼ 1 時 間 30 分 で
あ っ た 。 こ の 過 程 は VTR 録 画 さ れ た 。 三 脚 に 備 え 付 け ら れ た ビ デ オ カ メ ラ は 箱 庭 制 作 者
が 砂 箱 に 向 い た 場 合 に ,視 野 に 入 ら な い よ う に 設 置 さ れ た 。 箱 庭 制 作 過 程 で ,箱 庭 制 作 者 が
砂 箱 に 向 か っ て 箱 庭 作 品 を 制 作 し て い る 時 に は ,箱 庭 制 作 者 か ら ド ア 側 に 約 2m 離 れ た 位 置
に 置 か れ た 。箱 庭 制 作 者 が 棚 に 移 動 し ,棚 に 向 か い ,ミ ニ チ ュ ア を 選 択 し て い る 時 に は , 箱 庭
制 作 者 の 行 動 を 撮 影 で き る よ う に ,筆 者 が 三 脚 に 備 え 付 け ら れ た ビ デ オ カ メ ラ の 位 置 や 方
向 を 変 え ,箱 庭 制 作 者 の 後 方 か ら 撮 影 し た 。 説 明 過 程 で は ,三 脚 に 備 え 付 け ら れ た ビ デ オ カ
メ ラ は ,箱 庭 制 作 者 ら ド ア 側 に 約 2m 離 れ た 位 置 に 固 定 し て 置 か れ た 。
2)ふ り か え り 面 接
(1)内 省 報 告 作 成
- 21 -
箱庭制作面接のビデオを箱庭制作者・筆者が視聴し内省報告を書き綴った。箱庭制作面
接 終 了 後 ,筆 者 は ビ デ オ を DVD に コ ピ ー し ,箱 庭 制 作 者 の 自 宅 宛 に 簡 易 書 留 で 郵 送 し た 。 A
氏 は 自 宅 の リ ビ ン グ ま た 書 斎 で ,パ ソ コ ン の 動 画 再 生 ソ フ ト で DVD を 再 生 し ,各 回 約 3∼ 4
時 間 か け て ,エ ク セ ル フ ァ イ ル に 内 省 報 告 を 書 き 綴 っ た 。 B 氏 は 自 宅 の 書 斎 で ,パ ソ コ ン の
動 画 再 生 ソ フ ト で DVD を 再 生 し ,各 回 約 2 時 間 ∼ 2 時 間 30 分 か け て ,エ ク セ ル フ ァ イ ル に ,
内省報告を書き綴った。
内 省 報 告 の 内 容 ,様 式 を 表 1 に 示 す 。 筆 者 が 設 定 し た 「 意 図 」「 感 覚 ・ 感 情 ・ イ メ ー ジ 」
「連想」
「 意 味 」の 4 カ テ ゴ リ ー (表 1 参 照 )に つ い て , 箱 庭 制 作 過 程 で は 5 要 因 (a.ミ ニ チ ュ
ア の 選 択 ,b.ミ ニ チ ュ ア の 配 置 ,c.砂 の 造 形 ,d. ミ ニ チ ュ ア・造 形 の 変 更 ,ミ ニ チ ュ ア の 位 置 や
方 向 の 変 更 ,e. 見 守 り 手 の 存 在 ・ 行 動 ) に 関 し て ,説 明 過 程 で は 箱 庭 制 作 者 や 筆 者 の 言 動 に
関 し て ,内 省 報 告 を 記 述 し た 。 こ れ ら の カ テ ゴ リ ー や 項 目 は ,清 水 (2004) ,伊 藤 (2005),近
田 ・ 清 水 (2006)な ど の 先 行 研 究 の 質 問 項 目 ,イ ン タ ビ ュ ー 内 容 , コ ー ド 名 な ど を 参 照 し て 決
定した。箱庭制作過程や説明過程における箱庭制作者の主観的体験をできる限り網羅的に
報 告 で き る こ と と ,カ テ ゴ リ ー 分 け が あ ま り に も 複 雑 に な ら な い こ と を 考 慮 し て ,決 定 し た 。
箱 庭 制 作 過 程 全 体 を , 箱 庭 制 作 者 は 任 意 に 区 切 り ,そ の 箱 庭 制 作 過 程 毎 に 内 省 報 告 し た 。例
え ば ,A 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 を 17 過 程 に 区 切 り ,内 省 報 告 し た (表 1 に 一 部 抜 粋 を 例 示 ,
詳 細 は 資 料 1 参 照 )。
(2)ふ り か え り 面 接
ふ り か え り 面 接 は ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 を ,筆 者 と 共 有 す る と
と も に ,そ の 内 容 を 明 確 化 す る た め に 行 わ れ た 。 ふ り か え り 面 接 は ,箱 庭 制 作 面 接 の 約 2 週
間 後 に 実 施 さ れ た 。 ふ り か え り 面 接 で は ,箱 庭 制 作 者 の 内 省 が 報 告 さ れ ,筆 者 は そ れ を 傾 聴
し た 。 筆 者 は ,意 識 化 が 過 度 な 知 性 化 と な ら な い よ う に 考 慮 し つ つ ,明 確 化 し た い 点 に 関 し
て ,質 問 や 対 話 を 行 っ た 。 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス へ の 影 響 を 考 慮 し て ,筆 者 の 内 省 報 告
は 控 え た 。 そ の 会 話 は IC レ コ ー ダ ー で 録 音 さ れ た 。
ふ り か え り 面 接 の 約 2 週 間 後 に ,次 の 箱 庭 制 作 面 接 が 実 施 さ れ た 。
3)全 過 程 の ふ り か え り 面 接
ふ り か え り 面 接 の 最 終 回 終 了 後 に ,全 面 接 過 程 を ふ り か え る た め の 面 接 を 実 施 し た 。ふ り
か え り の 内 容 ,形 式 は ,調 査 参 加 者 に 委 ね ら れ た 。全 過 程 の ふ り か え り 面 接 は IC レ コ ー ダ ー
で録音された。
(1)A 氏
第 10 回 ふ り か え り 面 接 終 了 約 3 ヶ 月 後 に ,全 面 接 過 程 を ふ り か え る た め の 面 接 を 開 始 し
た 。全 過 程 の ふ り か え り 面 接 は ,ほ ぼ 1 ヶ 月 に 1 度 ,計 4 回 行 わ れ た 。第 1 回 で は ,箱 庭 制 作
面 接 全 10 回 に お け る ,各 回 の タ イ ト ル ,印 象 的 な ミ ニ チ ュ ア ,連 想 ,制 作 前 後 の 箱 庭 制 作 者 の
現 状 な ど が , 箱 庭 制 作 者 か ら 報 告 さ れ た 。 第 2 回 で は ,「10 回 の 箱 庭 制 作 を 終 え て 感 じ る 今
の 私 」に つ い て 報 告 さ れ た 。第 3 回 で は ,作 品 の 構 成・自 己 像 の 変 化 と ,サ ポ ー タ ー 役 ,見 守 り
手 (= 筆 者 )の イ メ ー ジ ,宗 教 的 要 素 な ど に つ い て ,報 告 さ れ た 。予 定 時 間 内 で 報 告 を 終 了 で き
な か っ た た め ,続 き を 10 日 後 の 第 4 回 面 接 で 行 っ た 。
- 22 -
(2)B 氏
第 8 回 ふ り か え り 面 接 終 了 約 1 ヶ 月 後 に ,全 面 接 過 程 を ふ り か え る た め の 面 接 を 1 回 実 施
し た 。B 氏 の 全 過 程 の ふ り か え り 面 接 で ,B 氏 は ,各 箱 庭 制 作 面 接 に つ き ,「 作 る 」
「語る」
「影
響 」 に 関 す る 主 観 的 体 験 を 自 発 的 に 一 覧 表 化 し ,そ れ に 基 づ い て 報 告 し た 。
Ⅲ -2. 分 析 方 法
1)基 礎 資 料 の 作 成
す べ て の 面 接 の 終 了 後 ,筆 者 が VTR を 視 聴 し ,制 作 過 程 内 容 を で き る 限 り 事 実 に 忠 実 に 記
述した。箱庭制作面接の両説明過程とふりかえり面接での会話を逐語録化した。
そ の 後 ,箱 庭 制 作 面 接 各 回 の 箱 庭 制 作 過 程 ,自 発 的 説 明 過 程 ,調 査 的 説 明 過 程 ,内 省 報 告 の
各 デ ー タ の 関 連 を 探 る た め に ,各 過 程 の デ ー タ を 箱 庭 制 作 者 が 任 意 に 区 切 っ た 箱 庭 制 作 過
程 毎 に ,一 覧 表 に 再 構 成 し ,比 較 可 能 と し た (表 2 に A 氏 第 2 回 面 接 の 一 部 抜 粋 を 例 示 ,詳 細
は 資 料 1 参 照 )。 た だ し ,B 氏 の 場 合 ,内 省 報 告 が 単 語 で 記 さ れ て い る 場 合 も 少 な く な か っ た
た め ,そ の 主 観 的 体 験 を よ り 明 確 に 把 握 す る た め ,該 当 箇 所 に 関 す る ふ り か え り 面 接 で の 言
及の逐語録を一覧表に追加した。
箱 庭 制 作 者 の 内 省 報 告 に 記 さ れ た ,各 箱 庭 制 作 過 程 に お け る 制 作 行 為 を ,制 作 過 程 の 〔 〕
内 に 記 し た 。 制 作 過 程 内 容 を 筆 者 が 一 部 追 加 し た 。 両 説 明 過 程 ,内 省 報 告 ,ふ り か え り 面 接
の〔〕内の言葉は筆者が記述した。筆者の発言は<>で示した。両説明過程で説明が複数
過 程 に 亘 る 場 合 ,適 切 と 思 わ れ る 箱 庭 制 作 過 程 に 分 類 し た 。
2) M-GTA に よ る 分 析
第 1 研 究 の 目 的 で あ る ,a.継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 を 精 緻
に 分 析 し ,概 念 化 す る こ と を 通 し て ,箱 庭 制 作 面 接 が 箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 を ど
の よ う に 促 進 す る の か ,そ の 機 能 に つ い て 検 討 す る こ と を 達 成 す る た め に ,基 礎 資 料 と し て
整 理 さ れ た 各 箱 庭 制 作 者 の デ ー タ に 対 し て ,M-GTA に よ っ て , デ ー タ に 密 着 し た 理 論 生 成
を目指した。
A 氏 と B 氏 の 自 発 的 説 明 過 程 と 調 査 的 説 明 過 程 の 逐 語 記 録 , 内 省 報 告 を ,木 下 (2003) の
M-GTA に 従 い ,質 的 に 分 析 し た 。M-GTA で は 分 析 テ ー マ と 分 析 焦 点 者 の 2 点 か ら 分 析 を 進
め る 。 分 析 テ ー マ を 「継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 」と し た 。 グ ラ ウ ン デ ッ ド ・
セ オ リ ー の 適 用 可 能 範 囲 を 示 す 分 析 焦 点 者 を 「自 己 理 解 ,自 己 成 長 を 目 的 と し て ,継 続 的 な
箱 庭 制 作 を 実 施 し た 心 理 的 に 健 康 な 制 作 者 」と し た 。
表 1 箱庭制作過程に関する内省報告例(A 氏 第1回面接 制作過程(13)一部抜粋)
経 過
制作過程内容
意図
感覚・感情・イメージ
壷を選び,波打
ち際奥の方に
半分うずめ,砂を
かける。
サンゴを棚に戻しに行ったら,
壷が視野に入った。「あ,これ
も置こう」と思った。ガラスの
壷の蓋をあけようか迷ったが,
閉まったままにした。(後略)
青い壷とガラスの壷。青いのは色と
形はいいが大きすぎる。ガラスの壷
は大きさは手ごろだが,透明で中が見
えてしまうのがちょっと引っかかって
いた。(後略)
連想
意味
時間
27:00
- 23 -
制作終了後の話し
合いで,th から「そう
いう物があるって気
づいてるんだ」と言
われ,(後略)
表 2
A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 主 な 主 観 的 体 験 (一部抜粋)
制作過程
自発的説明過程
調査的説明過程
内省報告
(3)〔川によっ
〔制作中の苦しさ〕(3)し
(3)[制作・感覚]大地もいま
て二つに分
ばらく作ってて,苦しいで
だ生命がなく,乾燥していて,
けられた土
すよ。なんか<はぁ,苦
荒涼としたイメージが私に
地を見てい
しい>うん。苦しいって
迫ってきた。「こんなに広い
る〕
いうかね。人気がない
川を作ってしまってどうしよ
というか。寂しいという
う」「生命のない大地がおそ
か。二つに分かれちゃ
ろしい」と感じていた。
ふりかえり 面 接
ったなと思って。(後略)
(11) 〔 白 い 石
〔石と土偶,埴輪〕(11)こ
〔土偶,埴輪〕(11) なん
(11)[制作・感覚]土偶もい
〔土偶,埴輪〕(11)土偶はだ
を左の陸地
の辺の手前のほうには
か命なんだけど,命を持
のちの表現だと思っていた
いぶ神様の方に近い。象
奥 ,川岸 に置
ちょっと置けない。手前
ってる人として持ってき
が,ふもとに置いたことで,命
徴的になってしまってい
く。左手前の
のほうにいる生き物と
たんですけどね。半分
としての人間の代わりのよ
る。深く土の中にもぐって
山を奥に移
はちょっと違う生き物の
命じゃないものになって
うでもあるし,山の番人のよ
何世紀も経って命の感覚
し,ふもとに土
よ うな 気が して置 け な
いるっていうか。何てい
うな気もしてきた。[制作・意
がひどく微かになってしま
偶と埴輪を
かったですね。
って言うんでしょうね。
味]石は「かたまり」。自然
っている。
人間ではない命になっ
の造形物だけれども,生命
〔お山〕(11)信仰の対象に
てるというか。そういう
感は薄くて,動き出すことが
なるようなお山のイメージ
感じがして,こう動物や
ないもの。私が左側に置き
がありましたね。そうする
人の世界には,ちょっと,
たかった命とは,そのような
と,お山のふもとに土偶達
いけないんだな,入って
ものだったのではないか。
はいかにもふさわしい。ち
きちゃっていう。そうい
はっきりとした形をまだ持
ょうど山と平地とのちょうど
う感じですかね (後略)
たない,抽象的なものがよ
境目辺りに居てくれると,ち
かったのだと思う。
ょうどころあいがいい。
置く〕
自 発 的 説 明 過 程 ,調 査 的 説 明 過 程 ,内 省 報 告 そ れ ぞ れ の 独 自 性 と 共 通 性 を 確 認 す る た め ,概
念 生 成 は そ れ ら の 過 程 毎 に な さ れ た 。1 概 念 に つ き ,1 分 析 ワ ー ク シ ー ト を 作 成 し ,デ ー タ か
ら 概 念 を 生 成 し た 。ワ ー ク シ ー ト に は ,概 念 名 ,概 念 の 定 義 ,具 体 例 ,分 析 中 の 思 考 の 記 述 で あ
る 理 論 的 メ モ を 記 し た (資 料 2)。類 似 例 の 確 認 だ け で な く ,対 極 例 の 比 較 を 行 う こ と に よ り ,
概 念 の 解 釈 が 偏 る 危 険 を 防 い だ 。各 過 程 で ,調 査 参 加 者 の デ ー タ か ら の 概 念 生 成 と 修 正 が 終
了 し た と 判 断 し た 段 階 で ,主 観 的 体 験 に 関 す る 各 過 程 ( 自 発 的 説 明 過 程 , 調 査 的 説 明 過 程 , 内
省 報 告 )の 概 念 を 総 合 的 に 検 討 し た 。 そ し て ,同 一 で あ る と 判 断 さ れ た 概 念 は ,具 体 例 を 統 合
し ,一 つ の 概 念 と し て 扱 っ た 。 概 念 相 互 の 関 係 を 検 討 し ,カ テ ゴ リ ー を 生 成 し た 。
そ の デ ー タ を 基 に ,結 果 図 (図 3,p.25 参 照 )を 作 成 し た * 2 。
恣 意 性 を 極 力 排 除 す る た め ,論 文 を ま と め る 過 程 で 箱 庭 療 法 や 質 的 研 究 を 実 践 し て い る
研 究 者 に 指 導 を 受 け た 。 ま た ,調 査 参 加 者 に 原 稿 の 内 容 確 認 を 依 頼 し ,若 干 の 字 句 修 正 を 行
った。
- 24 -
Ⅳ章.第 1 研究の結果の概要
Ⅳ − 1.促 進 要 因 間 の 交 流 の 全 体 像
箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 要 因 間 の 交 流 の 全 体 像 を 示 す 。 分 析 テ ー マ ,分 析 焦 点 者 に 照
ら し て , カ テ ゴ リ ー や 概 念 に 基 づ い た 適 切 な モ デ ル か 検 討 し , 結 果 図 ( 図 3) を 作 成 し た 。
M-GTA の 分 析 結 果 か ら ,促 進 要 因 が 単 独 で ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 自 己 理 解 ,自 己 成 長 に 寄
与 す る の で は な く , そ れ ぞ れ の 促 進 要 因 同 士 が 交 流 し , 影 響 を 及 ぼ し 合 う 過 程 に お い て ,促
進 機 能 が 働 く と 捉 え ら れ た 。そ こ で ,本 研 究 で は ,箱 庭 制 作 面 接 の 中 心 的 な 促 進 機 能 を ,箱 庭
制 作 面 接 の 促 進 要 因 間 の 『 交 流 』 で あ る と 解 釈 し た (図 3)。 図 3 に 描 か れ た 双 方 向 の 矢 印
は ,促 進 要 因 間 の 『 交 流 』 を 示 す 。
相 互 に 交 流 し あ う 促 進 要 因 と し て ,以 下 の 要 因 が 見 い だ さ れ た 。
『 制 作 過 程 』,そ の 内 の 「内
界 」,「装 置 」,「構 成 」と ,『 単 一 回 の 制 作 過 程・ 作 品 』,そ の 内 の 「作 品 」と ,『 箱 庭 制 作 面 接 の プ
ロ セ ス 』 ,そ の 内 の 「説 明 過 程 」,「見 守 り 手 」,「作 品 の 連 続 性 や 変 化 」と ,『 制 作 者 の 生 活 ・ 人
生 ・ 環 境 』 内 の 「外 界 ・ 日 常 生 活 」,「内 省 」,「心 や 生 き 方 の 変 化 ・ 成 長 」で あ る 。
図 3 に 示 し た よ う に ,促 進 要 因 間 の 交 流 を 示 す 12 個 の コ ア カ テ ゴ リ ー が 見 い だ さ れ た 。
『 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 』 内 の 『 制 作 過 程 』 で は 「内 界 」と 砂 箱 ,砂 ,ミ ニ チ ュ ア と い う 「装
置 」と 「 構 成 」と が 交 流 し て い る (① ,② ,③ ,④ )。 さ ら に ,『 制 作 過 程 』 は 「作 品 」と 交 流 し (⑤ ),
そ れ ら が 総 合 し て ,『 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 』 の 促 進 機 能 と し て 働 く と 考 え ら れ た 。
『 制 作 過 程 』は『 制 作 者 の 生 活・人 生・環 境 』内 の 「外 界・日 常 生 活 」と 交 流 し て い る (⑥ )。
『 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 』 は 『 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス 』 内 の 「説 明 過 程 」 ,「見 守 り 手 」
と 交 流 し て い る ( ⑦ ,⑧ )。 「 説 明 過 程 」と 「見 守 り 手 」 は 交 流 し て い る (⑨ )。 「内 省 」は 『 箱 庭
制 作 面 接 の プ ロ セ ス 』 と 交 流 し て い る (⑩ )。
上記促進要因
間の交流の総合
制作者の生活・人生・環境
箱庭制作面接のプロセス
的効果により,
単一回の制作
「作 品 の 連 続 性
作品
過程・作品
⑤
や 変 化 」や 箱 庭
制作過程
制作面接の最終
的目標で あ る
「心 や 生 き 方 の
変 化・成 長 」が 生
まれる。その変
外
界
・
日
常
生
活
内界
⑥
①
装置
④
③
⑪
作品の
連続性
や変化
⑫
②
心や生
き方の
変化・
成長
構成
化は『箱庭制作
面接のプロセス』
⑦
⑧
や『制作過程・
説明過程
作品』にフィー
⑨
⑩
見守り手
内省
ドバックされる
と考えら れ た
(⑪ )(⑫ )。
図 3
箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 要 因 間 の 交 流 (楠 本 ,2012 を 一 部 修 正 )
- 25 -
①【 内 界 と 装 置 の 交 流 】に は ,カ テ ゴ リ ー 1 個 と 概 念 4 個 が あ っ た 。②【 内 界 と 構 成 の 交
流 】 に は ,カ テ ゴ リ ー 3 個 と 概 念 13 個 が あ っ た 。 ③ 【 装 置 と 構 成 の 交 流 】 に は 具 体 例 が な
か っ た 。装 置 と 構 成 と の 関 連 に は ,内 界 も 同 時 に 関 与 し ,④ に 分 類 さ れ る た め と 考 え ら れ る 。
④ 【 内 界 と 装 置 と 構 成 の 交 流 】 に は ,カ テ ゴ リ ー 3 個 と 概 念 12 個 が あ っ た 。 ⑪ 【 単 一 回 の
制 作 過 程 ・ 作 品 と 作 品 の 連 続 性 や 変 化 の 交 流 】 に は ,概 念 3 個 が あ っ た 。 ⑫ 【 箱 庭 制 作 面
接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化 ・ 成 長 の 交 流 】 に は ,概 念 3 個 が あ っ た 。
具 体 例 に 基 づ か ず ,理 論 的 に 生 成 し た カ テ ゴ リ ー は ,② 【 内 界 と 構 成 の 交 流 】 内 の < 創 造
を め ぐ る 肯 定 的 感 情 と 否 定 的 感 情 > の み で あ る 。 2 概 念 [創 造 の 歓 び ]と [作 品 に 対 し て ,否
定 的 な 感 情 や 感 覚 を も つ プ ロ セ ス ]を 包 括 す る カ テ ゴ リ ー と し て ,< 創 造 を め ぐ る 肯 定 的 感
情と否定的感情>を生成した。
Ⅳ − 2.カ テ ゴ リ ー ,概 念 ,具 体 例 等 の 表 記 に つ い て
具 体 例 の 記 し 方 に つ い て ,< 貝 殻 っ て や っ ぱ り そ う い う 女 性 的 な っ て 言 う イ メ ー ジ あ
る ? > こ の 辺 の は‘ 砂 箱 の 左 上 を 指 し て ’そ う い う 感 じ が あ り ま す ね
< あ ,こ の 辺 の は >
こ っ ち の は‘ 右 上 の 貝 を 指 し て ’も う ち ょ っ と 違 っ た 感 じ で す ね 。< あ ぁ ,な る ほ ど ね 。>
え ぇ っ と ,何 て い う ん だ ろ ,自 然 の も の ,海 の も の ,ん と ,< う ん , そ っ か > う ん ,自 然 界 の も
の っ て い う 感 じ で す ね < な る ほ ど ,タ コ が 隠 れ て る と こ ろ は 自 然 界 > う ん そ う で す そ う で
す ( A 氏 調 査 ,3‐ 6) ,を 例 と し て 説 明 す る 。 カ テ ゴ リ ー ,概 念 の 具 体 例 と そ の 前 後 の 箱 庭 制
作 者 の 言 葉 を 網 掛 け ,ゴ シ ッ ク 体 で 示 し た 。概 念 の 具 体 例 に 当 た る 部 分 に
を 付 し た 。箱
庭制作者の行動や様子を‘’内に記述した。具体例内の筆者の言葉を<>内に示した。具
体 例 の 最 後 の ()内 に デ ー タ の 出 処 を 記 し た 。
( A 氏 調 査 ,3-6)は ,「A 氏 」の 「調 査 的 説 明 過 程 」
に お け る 言 葉 で あ り ,そ れ は 「第 3 回 面 接 」の 「6 番 目 の 制 作 過 程 」に お け る 言 動 に 関 す る 主
観 的 体 験 の 語 り で あ る 。ま た ,(B 氏 内 省 ,2-4,制 作 ・意 図 )は ,「B 氏 」の 「内 省 報 告 」に 記 さ れ た
主 観 的 体 験 の 記 述 で あ り ,「第 2 回 面 接 」の 「4 番 目 の 制 作 過 程 」に お け る 「制 作 過 程 」の 言 動 に
対 す る 「意 図 」で あ る 。
促進要因間の交流を示すコアカテゴリーを【】に統一した。カテゴリーは<>→≪≫の
順 に 抽 象 度 が 高 い 。 概 念 は []で 示 し た 。 概 念 ,カ テ ゴ リ ー 名 は ,ゴ シ ッ ク 体 で 示 し た 。
カ テ ゴ リ ー ,概 念 の 具 体 例 の 詳 細 や 検 討 に お い て ,デ ー タ を 補 足 す る た め に ,ふ り か え り 面
接における調査参加者の言葉を記載する場合がある。ふりかえり面接における調査参加者
の 言 葉 は []内 に 明 朝 体 で 示 し た 。ふ り か え り 面 接 に お け る 言 葉 で ,考 察 し て い る 具 体 例 に 関
係する箇所に
を 付 し た 。考 察 の 中 で ,他 概 念 の 具 体 例 を 示 す 場 合 が あ っ た 。そ の よ う
な 場 合 に は ,考 察 し て い る 概 念 の 具 体 例 と 区 別 す る た め に ,検 討 す る 部 分 に
- 26 -
を付した。
Ⅴ 章 . M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ① 【 内 界 と 装 置 の 交 流 】 の 結 果 お よ び 考 察
本 章 で は , M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ① 【 内 界 と 装 置 の 交 流 】 の 結 果 お よ び 考 察 を 記 す 。
①【 内 界 と 装 置 の 交 流 】は ,『 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 』内 の『 制 作 過 程 』に お け る 「内 界 」
と 「 装 置 」 と の 交 流 に 関 す る コ ア カ テ ゴ リ ー で あ る (図 4)。 「内 界 」と 「装 置 」は ,交 流 し ,双
方 向 で 影 響 を 与 え あ っ て い る 。 そ れ に は ,1)「装 置 」か ら 「内 界 」へ の 影 響 ,2)「内 界 」か ら 「装
置 」へ の 影 響 ,3)双 方 向 の 影 響 が あ っ た 。 1)に は ,概 念 [ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ
ロ セ ス ]が あ っ た 。2)に は ,カ テ ゴ リ ー < ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > ,そ の 中 に
概 念 [不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]が あ っ た 。 3)に は ,概 念 [ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ],
[ミ ニ チ ュ ア に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 へ の 気 づ き ]が あ っ た 。
2) < ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > と [不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]と
で は ,意 識 化 の 明 瞭 度 に ,差 が あ っ た 。 < ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > の 具 体 例
で は ,箱 庭 制 作 者 は ,そ の 内 的 プ ロ セ ス を か な り 明 瞭 に 意 識 化 し て い た 。 そ れ に 対 し て ,[不
明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]で は ,ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 は 明 瞭 に は 意 識 化 さ れ て い
な い 部 分 が あ っ た 。 以 下 に ,カ テ ゴ リ ー ,概 念 ,具 体 例 を 挙 げ ,① 【 内 界 と 装 置 の 交 流 】 で 見
いだされた促進機能について考察する。
Ⅴ -1.「装 置 」か ら 「内 界 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
1)[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
「装 置 」か ら 「内 界 」へ の 影 響 に は ,概 念 [ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]が 見
い だ さ れ た 。[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]は ,「ミ ニ チ ュ ア を 見 た り ,触 れ る
こ と に よ り 喚 起 さ れ る 感 覚 ,イ メ ー ジ ,感 情 ,考 え な ど の 内 的 プ ロ セ ス 」,と 定 義 さ れ た 。
本 概 念 の 具 体 例 を 比 較 す る と ,喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス が 比 較 的 シ ン プ ル な も の か ら ,複
雑 ・ 多 様 な も の ま で ,さ ま ざ ま で あ る こ と が わ か る 。
◆ 具 体 例 1: B 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1
例えば, B 氏
は第 8 回箱庭制
作面接の箱庭制
[ミニチュアにより喚起される内的プロセス]
作 過 程 1 で ,船
を選んだ。その
箱庭制作過程に
ついて内省報告
[ミニチュアの多義性]
[ミニチュアによる自己
のイメージや心理的状
況や特性への気づき]
装置
に船出をしてい
内界
くイメージが湧
く(B 氏内
<ミニチュアに付与された内的プロセス>
図 )と 記 し た (写
[不明瞭なミニチュアの意味や特性]
真 1)。 こ れ は ,
棚に船を見つけた
図 4
①【内界と装置の交流】
時に船出のイメー
- 27 -
高
低
意識化の
明瞭度
省 ,8-1,制 作・意
ジが喚起されるというシンプルな内
的 プ ロ セ ス で あ る ,と 捉 え ら れ る 。
そ れ に 対 し て ,一 つ の ミ ニ チ ュ ア
から複数の内的プロセスが生まれる
やや複雑な具体例もあった。
◆ 具 体 例 2:A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面
接制作過程 5
A 氏 は ,第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱
庭 制 作 過 程 5 で ,白 い 女 性 の 人 形 を
選 ん だ 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,
内省報告に白い陶器の肌が床に伏せ
ている義母の弱々しい感じをイメー
写真 1
B 氏第8回作品
ジさせる。それで大切に扱わなけれ
ば と い う 気 持 ち が 私 の 中 に お き て き た (A 氏 内 省 ,8-5,制 作 ・ 感 覚 )と 記 し た (写 真 2)。
こ の 具 体 例 で は ,白 い 陶 器 の 女 性 の ミ ニ チ ュ ア か ら ま ず 義 母 の イ メ ー ジ が 喚 起 さ れ , そ れ
に伴ってイメージされた現実の人物に対する感情が展開されていくという内的プロセスが
見いだされた。
◆ 具 体 例 3: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11
A 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,ベ ル と マ リ ア 像 を 棚 か ら 選 び ,砂 箱 左 上
の 家 が あ る 領 域 で そ の 2 つ の ミ ニ チ ュ ア を 置 き 比 べ た 。 マ リ ア 像 を 選 び ,砂 箱 左 奥 に 置 き ,
ベ ル は 棚 に 戻 し た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 金 色 の ベ ル の ,あ の 金 色
の 感 じ は ,あ れ ,素 敵 だ な と 思 っ た ん だ け ど ,で も ,ち ょ っ と ,ま ,な ん だ か ,ち ょ っ と 頼 り な
く っ て 。< ふ ー ー ん ,頼 り な か っ た > 頼 り な か っ た 。< ふ ー ー ー ん > な ん か < ベ ル で は > う
ん ,ベ ル で は ( A 氏 調 査 ,1-11) と 語 っ た (写 真 3)。 こ の 語 り の 前 半 部 は ,ベ ル と い う ミ ニ チ
ュアの色から素敵な感じが喚起さ
れたことについての語りであり,
本 概 念 の 具 体 例 と な る 。後 半 部 は ,
構成における置き比べによって喚
起 し た 感 覚 で あ る た め ,本 概 念 の
具 体 例 と は 言 い 難 い 。し か し ,同 じ
ミニチュアからアンビバレントな
感じが喚起される主観的体験の語
りであることは確かである。
こ の よ う に , 箱 庭 制 作 で は ,現
物 の ミ ニ チ ュ ア に よ っ て ,様 々 な
内 的 プ ロ セ ス が 触 発 さ れ ,喚 起 さ
れ る 。藤 原 (2002)は ,「 実 際 手 続 き
写真 2
を つ う じ て ,現 物 と し て の 箱 庭 が ,
- 28 -
A 氏第 8 回作品
はたして現物としての<もの>か
らどのように内的なイメージの世
界 の こ と に な っ て い く の か ,ま た
箱庭がどのように<こころのこと
>として機能をもつようになって
い く の か と い う こ と 」が ,箱 庭 療 法
における基本的な課題であるとす
る (p.128) 。 [ ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚
起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]に よ っ て ,
ミニチュアは単なるモノではなく
な り ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス
がミニチュアに重なりあっていく。
こ の 内 的 プ ロ セ ス は ,ミ ニ チ ュ ア
写真 3
が<こころのこと>になっていく
A 氏第1回作品
過 程 に 関 す る 促 進 機 能 で あ る と 考 え る こ と が で き る 。[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ
ロ セ ス ]は ,現 物 の < も の > が < こ こ ろ の こ と > に な っ て い く 過 程 を 促 す 促 進 機 能 を も つ こ
と が 確 認 さ れ た ,と 考 え る 。
さ ら に ,多 様 な 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ る 場 合 が あ っ た 。
◆ 具 体 例 4: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 4∼ 6
A 氏 は ,第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 4 で ,砂 箱 中 央 で ベ ン チ と 家 を 置 き 比 べ た 。
制 作 過 程 5 で ,砂 箱 中 央 で ベ ン チ と 貝 殻 を 置 き 比 べ た 。 箱 庭 制 作 過 程 6 で ,最 終 的 に 鳥 の 巣
を 置 い た (写 真 4)。そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 ら れ
た。
‘ ’内 の 記 述 は 箱 庭 制 作 者 の 行 動 や 様 子 を 示 す 。ベ ン チ は 空 っ ぽ で な ん だ か さ み し い ん
で す よ ね 。< ふ ぅ ん う ん >( A
氏 調 査 ,4-4)で ,貝 殻 も う ー ん ,
棚に行った時は貝殻が目に留
ま っ て ,あ ,こ れ い い か も と 思
って持ってきたんですけど,
置くとなんとなく周りとそぐ
わ な い 感 じ も す る し ,< ふ ん ,
ふん>やっぱり空っぽだし,
< う ん ,う ん > な ん か さ み し
いなって<ふん>(A氏調
査 ,4-5)で ,も う ベ ン チ や 貝 殻
を 見 て い る と き か ら ,< ふ ん ,
ふん>鳥の巣は目に入ってい
たんです‘見守り手の顔を見
な が ら ’。< ふ ん ,う ん ,う ん >
写真 4
で ,で も ,な ん だ ろ う こ う 素 直
- 29 -
A 氏第4回作品
に 手 が 伸 ば せ な く っ て < ふ ぅ ん > ベ ン チ や ら 貝 殻 に し て た ん で す け ど ,( A 氏 調 査 , 4-複 数
過 程 に 亘 っ て ) < ふ ぅ ん > や っ ぱ り 鳥 の 巣 を 置 い て み よ う と 思 っ て 。 で 持 っ て 来 て ,あ の ,
そ い で ,卵 も な く て も い い か も 知 れ な い と 思 っ て ど け た ら ,や っ ぱ り す ご く さ み し く な っ て ,
‘ 見 守 り 手 に 顔 を 向 け て ’ < ふ ん ,な る ほ ど ね > こ れ は 卵 は い る ん だ と 思 っ て ,置 き ま し た
ね 。< 素 直 に ,手 が 伸 ば せ な い っ て 言 う の は ,も う 少 し 言 う と ど ん な 感 覚 > う ー ん ,な ん と な
く ね ,こ う ( 間 8 秒 ) な ん で し ょ う ね ,素 直 に 手 が 伸 ば せ な い ( 間 7 秒 ) こ れ ,あ の , 貝 殻 も
そ う で し た け ど < う ん > 貝 殻 も ,こ の ,巣 も ,< う ん > 卵 を 抱 え た 巣 も そ う な ん で す け ど ,<
うん>すごくその女性のことを<うん>意識させる感じが<うん>私にはあるんですよ。
< う ん ,う ん ,う ん > 特 に こ れ は ‘ 巣 を 指 差 し な が ら ’ こ う 子 ど も を か え す っ て い う ね 。 <
そうだね>うん私は<ふん>子どもがいないというところで<ふん>何か引っかかってい
る 様 な 気 も < う ん > し ま す ね ( A 氏 調 査 ,4-6) 。ベ ン チ や 貝 殻 か ら ,空 っ ぽ な の で ,さ み し
い と い う 感 情 が 喚 起 さ せ ら れ た 。ま た ,鳥 の 巣 か ら ,素 直 に 手 を 伸 ば せ な い と い う 思 い ,女 性
や 子 ど も を 意 識 さ せ ら れ る 感 じ ,自 分 に は 子 ど も が い な い と い う 現 状 ,そ の こ と に よ る 何 か
引 っ か か っ て い る よ う な 気 持 ち と い う 多 様 で ,輻 輳 す る 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ て い る 。
A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 鳥 の 巣 に 関 す る 主 観 的 体 験 の 語 り に つ い て ,イ メ ー ジ の 集 約
性 ,直 観 的 な 意 識 ,図 と 地 ,気 づ き に 関 す る 層 の シ フ ト ,前 概 念 的 体 験 の 観 点 か ら 考 察 す る 。
◆ 具 体 例 5: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 6
◆ 具 体 例 4 に 続 く 調 査 的 説 明 過 程 で A 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。‘ ’ 内 の 記 述 は 箱 庭 制
作 者 の 行 動 や 様 子 を 示 す 。 た ぶ ん 持 た ず に 一 生 生 き て 行 く だ ろ う な っ て い う の は ( 間 28
秒)
( 小 さ な 声 で )そ れ で 手 が 伸 ば せ な か っ た ん で し ょ う ね 。(中 略 )ち ょ っ と な ん だ か つ ら
い よ う な 切 な い よ う な 気 分 に な り ま す ね 。( 中 略 )‘ ハ ン カ チ で 目 の 下 を ぬ ぐ っ て ’ で も ,
い い も ん だ な と 思 い ま す ね ,や っ ぱ り こ う や っ て 見 て < う ん > ( 間 15 秒 ) す ご い で す ね ,
そ う い う 風 に 考 え る と 。こ の 箱 庭 の 意 味 っ て 何 か 全 然 違 っ て く る‘ 声 が 震 え て ’,作 っ て る
最 中 は < う ん > も う ち ょ っ と ね < う ん > な ん か ,あ の ぉ ,( 間 )自 己 実 現 じ ゃ な い で す け ど ,
そ ん な よ う な 社 会 的 役 割 を 果 た す と か ,自 分 の 成 長 と か < う ん > そ う い う こ と な の か し ら
と 思 っ て い た け ど ,< ふ ん ,う ん > ふ ふ ふ ( 笑 ) ね 。 卵 が ,巣 だ と 思 う と < ふ ん > ね , 全 然 意
味 が ,置 い て る 最 中 は ち ょ っ と そ う い う 感 覚 で は 見 て い な か っ た の で < う ん > ち ょ っ と な
んだかつらいような切ないような気分になりますね。
‘ 声 が 震 え て ’< そ う だ ね 。そ う だ ね
> ‘ 箱 庭 を 見 つ め な が ら ,黙 っ て ,時 折 ハ ン カ チ で 涙 を ぬ ぐ っ て い る ’( 間 45 秒 )( A 氏 調
査 ,4-6)。
こ の よ う に 鳥 の 巣 か ら 喚 起 さ れ る ,女 性 や 子 ど も を 意 識 さ せ ら れ る 感 じ は ,調 査 的 説 明 過
程 で 初 め て 明 示 的 に 語 ら れ た 。 説 明 過 程 で 新 た に 生 起 し た 内 的 プ ロ セ ス は ,本 来 で あ れ ば ,
⑦【単一回の制作過程・作品と説明過程の交流】や⑨【説明過程と見守り手の交流】で取
り 上 げ る べ き で あ る 。し か し ,こ の 鳥 の 巣 を 巡 る 調 査 的 説 明 過 程 で 生 ま れ た 箱 庭 制 作 者 の 内
的 プ ロ セ ス は ,制 作 時 で の 内 的 プ ロ セ ス が ど の よ う な も の で あ る か を 吟 味 す る 上 で 重 要 で
あ る た め ,本 章 で 検 討 し て お き た い 。
箱 庭 制 作 過 程 で は ,鳥 の 巣 は ,自 己 実 現 や 自 分 の 成 長 と い う 内 的 意 味 を 表 す の か ,と A 氏
は 思 っ て い た 。 こ の よ う に 鳥 の 巣 は ,自 己 実 現 や 自 分 の 成 長 と い う 側 面 と ,調 査 的 説 明 過 程
で初めて語った女性のことを意識させる感じという異なる内的意味やイメージが集約され
- 30 -
て い た 。こ れ は ,河 合 隼 雄 (1969)が 述 べ る イ メ ー ジ の 集 約 性 に 関 す る 主 観 的 体 験 が 示 さ れ て
い る と 考 え ら れ る (pp.17-18)。 素 直 に 手 が 伸 ば せ な い と い う 身 体 感 覚 の 再 度 照 合 を 通 し て ,
鳥の巣に多義的なイメージが集約されていたことに A 氏が気づいたことで, A 氏は鳥の巣
の ,自 分 に と っ て の 意 味 に つ い て 理 解 を 深 め る こ と が で き た 。 ま た ,湧 き 上 が っ て い る 様 々
な 感 情 と と と も に ,自 分 の 女 性 性・母 性 に 関 す る 気 づ き を え た と 考 え ら れ る 。こ の よ う に [ミ
ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 の 促 進 に 寄 与 す る 。
A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 鳥 の 巣 に 関 す る 主 観 的 体 験 の 語 り は ,「直 観 的 な 意 識 」の 観 点
か ら も 考 え る こ と が で き る 。 本 研 究 で は ,直 観 的 な 意 識 を 「 意 味 の 認 知 は 伴 わ な い が ,ぴ っ
た り だ と 感 じ る こ と が で き る 意 識 」と 定 義 す る 。直 観 的 な 意 識 は ,光 元 (2001)の 下 記 の 言 及
と ほ ぼ 同 義 で あ る 。 光 元 (2001)は ,ミ ニ チ ュ ア を 選 び ,そ れ を 置 く 過 程 に お け る 箱 庭 制 作 者
の 認 識 に 関 し て ,木 を 選 び ,置 く こ と を 例 に 挙 げ て 以 下 の よ う に 記 し て い る (pp.24-25)。
こ の と き 私 は 自 覚 的 に は「 木 を 1 本 ,箱 の 中 に お い た 」と い う 感 覚 を い だ い て い ま
す 。し か し な が ら ,私 た ち は こ の 木 が 含 意 的・ 象 徴 的 意 味 を 担 っ て い る で あ ろ う こ と
を 知 っ て い ま す 。と い う こ と は 私 は こ の 木 が い っ た い 何 を 意 味 し て い る の か ,含 意 し
て い る の か , 自 分 自 身 で 必 ず し も わ か っ て い な い と い う こ と で す 。 と こ ろ が ,私 の 内
奥 の 何 か が 「 そ う ,そ こ で い い ん だ 」 と 答 え て く れ ま す 。 [中 略 ] し か し な が ら ,た だ
一つはっきりしていることがあります。
「 理 由 は わ か ら な い が ,こ の 木 は ,箱 庭 の 中 の
こ こ に あ る こ と で ,な ぜ だ か ピ ッ タ リ し て い る 」 と い う こ と ( = 認 識 の 成 立 ) ,こ の
ことだけははっきりしているのです。
光 元 は こ の よ う な 意 識 の 有 り 様 の 概 念 名 を 記 し て い な い 。 そ こ で ,本 研 究 で は ,直 観 的 な
意 識 と い う 概 念 名 を 採 用 す る * 1 。光 元 (2001)で は ,ミ ニ チ ュ ア を 選 び ,置 く と い う 構 成 に 関
す る 箱 庭 制 作 者 の 認 識 に つ い て 言 及 さ れ て い る が ,直 観 的 な 意 識 は ,さ ら に 広 範 な 場 面 や 過
程 ,例 え ば ,本 節 で 検 討 し て い る ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス に も 関 連 し て い る 可 能 性 が
ある。以下にこの観点から考察する。
鳥 の 巣 が も つ 箱 庭 制 作 者 に と っ て の イ メ ー ジ や 意 味 の 一 側 面 で あ る ,自 己 実 現 や 自 分 の
成 長 と の 内 的 意 味 や イ メ ー ジ は ,制 作 時 に 意 識 さ れ て い る 。 そ れ に 対 し て ,も う 一 方 の 側 面
で あ る 女 性 の こ と を 意 識 さ せ る 感 じ に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で ,な ん だ ろ う こ う 素 直 に 手
が 伸 ば せ な く っ て と 語 っ て い る こ と か ら 判 断 す る と , 箱 庭 制 作 者 は 制 作 時 に は ,素 直 に 手
が 伸 ば せ な い と い う 身 体 感 覚 と し て 捉 え ら れ て い た こ と が わ か る 。そ し て ,筆 者 の < 素 直 に ,
手 が 伸 ば せ な い っ て 言 う の は ,も う 少 し 言 う と ど ん な 感 覚 > と い う 質 問 を 受 け て ,う ー ん ,
な ん と な く ね ,こ う( 間 8 秒 )な ん で し ょ う ね ,素 直 に 手 が 伸 ば せ な い( 間 7 秒 )と ,そ の 身
体 感 覚 を 再 度 照 合 し た 後 に ,女 性 の こ と を 意 識 さ せ る 感 じ が 明 確 に な り ,語 ら れ た 。つ ま り ,
そ の 鳥 の 巣 か ら 触 発 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス に つ い て ,制 作 時 に ,少 な く と も ,素 直 に 手 が 伸 ば
せ な い と い う 身 体 感 覚 は 存 在 し て い た 。箱 庭 制 作 過 程 で は ,鳥 の 巣 か ら 触 発 さ れ た 内 的 プ ロ
セ ス の 内 的 意 味 や イ メ ー ジ を 明 確 に 意 識 す る こ と は な く て も ,ミ ニ チ ュ ア に よ っ て 触 発 さ
れ た 自 己 へ の 影 響 を 身 体 感 覚 と し て 捉 え ,鳥 の 巣 を 手 に と る こ と を 留 保 す る と い う 行 動 を
と っ て い た こ と に な る 。 鳥 の 巣 を 手 に と る こ と を 留 保 す る と い う 行 動 を ,こ の 時 点 で は ,ぴ
っ た り だ と 感 じ ら れ な か っ た 内 的 プ ロ セ ス の 現 れ と 考 え る な ら ば ,鳥 の 巣 を 手 に と る こ と
- 31 -
の 留 保 を 巡 る 一 連 の 内 的 プ ロ セ ス や 行 為 は ,直 観 的 な 意 識 の 表 れ と 解 釈 す る こ と が 可 能 で
あ ろ う 。[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]に は ,直 観 的 な 意 識 と い う 心 理 的 機 制
が 関 与 し て い る 場 合 が あ る こ と が 見 い だ さ れ た 。◆ 具 体 例 4 で は ,意 味 の 認 知 は 伴 わ な い が ,
A 氏 が ミ ニ チ ュ ア か ら 喚 起 さ れ た 自 分 の 身 体 感 覚 に 従 い ,箱 庭 制 作 面 接 に 臨 ん で い る 例 が
示 さ れ た 。 先 に み た よ う に , A 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で ,鳥 の 巣 の 意 味 や 自 己 へ の 気 づ き を え
た 。こ の よ う に 箱 庭 制 作 面 接 で は 箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た 表 現 が 生 じ ,そ れ が 箱 庭 制 作 者
の 自 己 理 解 の 促 進 に 寄 与 す る 場 合 が あ る 。 ◆ 具 体 例 4 と 5 は ,[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ
る 内 的 プ ロ セ ス ]の 促 進 機 能 の 一 端 を 示 し て い る と 考 え る こ と が で き る 。
さ ら に ,◆ 具 体 例 4 と 5 の 自 己 実 現 や 自 分 の 成 長 と の 内 的 意 味 と ,女 性 の こ と を 意 識 さ せ
る 感 じ を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス を ,「 図 と 地 」 (Perls,1969
倉 戸 監 訳 2009,p.73;倉
戸 ,2011,pp.20-21;氏 原 ,1990,pp.65-78),「 図 地 反 転 」 (Perls,1973 倉 戸 監 訳 1990,p.1 7;倉
戸 ,2011, p p. 20-21 ) ,気 づ き に 関 す る 層 の シ フ ト ,前 概 念 的 体 験 の 観 点 か ら 検 討 し た い 。
A 氏 第 4 回 ふ り か え り 面 接 で は ,調 査 的 説 明 過 程 に お け る 上 記 の 会 話 に 関 し て ,以 下 の よ
う に 語 ら れ た 。考 察 す る 部 分 に
を 付 し た 。[あ の 時 は ,あ の こ と を 思 い 出 す と , す ぐ う
るうるとくるのはなんでかな。あの時はね。私の声が震えだしたのは自分でもわかって,
思わぬところから自分の何か大事なところが明らかになってきたっていう驚きのような,
戸 惑 い の よ う な 気 持 ち も あ っ た ん で す ね ]。
◆ 具 体 例 4 と 5 と 第 4 回 ふ り か え り 面 接 で の 会 話 を 総 合 的 に 捉 え る と ,鳥 の 巣 に 関 す る
箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 を ,「 図 と 地 」 (Perls,1969,倉 戸 ,2011;氏 原 ,1990,pp.65-78)と い う
観 点 か ら 捉 え る こ と が で き る 。 つ ま り ,箱 庭 制 作 時 に は ,自 己 実 現 や 自 分 の 成 長 と の 内 的 意
味 や イ メ ー ジ の 側 面 が 主 に ,意 識 の 前 景 に 出 て い た ( 図 ) と 考 え ら れ る 。 し か し ,調 査 的 説
明 過 程 で ,自 ら が 語 る 中 で ,ま た ,筆 者 と や り と り す る こ と を 通 し て ,鳥 の 巣 の も う 一 方 の 側
面 で あ る 女 性 の こ と を 意 識 さ せ る 感 じ が ,図 と な っ て い く 。 こ の よ う に 「 図 地 反 転 」
(Perls,1973,倉 戸 ,2011)が 起 こ る 。こ の「 図 地 反 転 」は ,[思 わ ぬ と こ ろ か ら 自 分 の 何 か 大 事
な と こ ろ が 明 ら か に な っ て き た っ て い う 驚 き の よ う な ,戸 惑 い の よ う な 気 持 ち ]を 引 き 起 こ
さ せ る ,箱 庭 制 作 者 に と っ て 大 き な イ ン パ ク ト を 伴 っ た 主 観 的 体 験 で あ っ た ,と 捉 え ら れ る 。
こ の よ う に ,ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス に は ,多 様 な 意 味 や イ メ ー ジ の う ち ,あ る 時 に
は そ の 一 つ の 側 面 が 図 と な る が ,別 の 場 面 で は ,図 地 反 転 が 起 こ り 他 の 側 面 が 図 と な る と い
う 特 性 を も つ 場 合 が あ る と 考 え ら れ る 。 図 地 反 転 す る こ と に よ り ,箱 庭 制 作 者 は ,ミ ニ チ ュ
ア の 多 様 な 意 味 や イ メ ー ジ に 関 す る 気 づ き や ,自 己 へ の 気 づ き を え る こ と が で き る と 解 釈
で き る 。 こ の よ う に [ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ] に お い て ,「 図 地 反 転 」
が 起 こ る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己 理 解 を 深 め る こ と が で き る と 考 え ら れ る 。
ま た ,鳥 の 巣 を 巡 る 感 覚 に つ い て ,制 作 時 に は ,素 直 に 手 が 伸 ば せ な い と い う 身 体 感 覚 と
し て 捉 え ら れ て い た が ,筆 者 の 質 問 を 受 け て ,そ の 身 体 感 覚 を 再 度 照 合 し た 後 に ,女 性 の こ
と を 意 識 さ せ る 感 じ が 明 確 に な り ,語 ら れ た こ と に つ い て ,気 づ き の 観 点 か ら 検 討 す る こ と
が で き る 。ゲ シ ュ タ ル ト 療 法 で は ,気 づ き に は ,a.内 層 ,b.外 層 ,c.中 間 層 の 3 つ が あ る と す る 。
内 層 の 気 づ き と は ,身 体 内 部 で 起 き て い る こ と の 意 識 化 ,外 層 の 気 づ き は ,身 体 の 外 側 ,外 界
で 起 き て い る こ と の 意 識 化 ,中 間 層 の 気 づ き と は 内 層 と 外 層 の 中 間 に あ る フ ァ ン タ ジ ー の
世 界 で の 想 像 ,空 想 ,思 い 込 み ,評 価 ,コ ン プ レ ッ ク ス な ど の 意 識 化 で あ る (Perls, 1973, 倉 戸
監 訳 1990p.79,p.148,倉 戸 ,2011, p p.17-19)。 こ の 考 え を 参 照 す れ ば ,鳥 の 巣 を 巡 る A 氏 の
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主 観 的 体 験 は ,制 作 時 の 内 層 の 気 づ き で あ っ た も の が , 調 査 的 説 明 過 程 で 中 間 層 の 気 づ き
に シ フ ト し た の だ と ,解 釈 す る こ と が で き る 。 ◆ 具 体 例 5 で は ,調 査 的 説 明 過 程 で 中 間 層 の
気づきにシフトしたことによって, A 氏は鳥の巣の意味や自己への気づきをえることがで
き た と 考 え ら れ る 。こ の よ う に [ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ] に お い て , 中
間 層 の 気 づ き に シ フ ト す る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己 理 解 を 深 め る こ と が で き る と
捉えられる。
ここで検討している A 氏第 4 回箱庭制作面接での鳥の巣に関する主観的体験の語りは,
弘 中 (2014)の 指 摘 と も 深 く 関 連 し て い る 。 弘 中 (2014)は 箱 庭 療 法 な ど 非 言 語 的 ・ イ メ ー ジ
的 表 現 が 中 心 と な る 面 接 の 治 療 メ カ ニ ズ ム を 検 討 し て い る 。そ の 中 で ,Gendlin の 考 え を 参
照 し つ つ ,前 概 念 的 体 験 の 重 要 性 に つ い て 述 べ て い る 。前 概 念 的 体 験 は 情 緒 性 や 身 体 感 覚 が
優 位 な 「! 」と で も 表 さ れ る べ き 体 験 で あ り ,箱 庭 制 作 は ク ラ イ エ ン ト に 言 葉 で は 表 現 し 尽
せ な い 感 情 や 身 体 感 覚 を 伴 う 体 験 を 引 き 起 こ す ,と 指 摘 し て い る (pp.188-190)。鳥 の 巣 に 関
す る A 氏 の 主 観 的 体 験 は ,箱 庭 制 作 過 程 で は で も ,な ん だ ろ う こ う 素 直 に 手 が 伸 ば せ な く っ
て と い う 身 体 感 覚 が 優 位 で ,言 語 化 し に く い 体 験 で あ っ た 。 こ の 主 観 的 体 験 は ,前 概 念 的 体
験 で あ っ た ,と 考 え る こ と が で き る 。調 査 的 説 明 過 程 で ,筆 者 と や り と り す る 中 で ,[私 の 声 が
震 え だ し た の は 自 分 で も わ か っ て ,思 わ ぬ と こ ろ か ら 自 分 の 何 か 大 事 な と こ ろ が 明 ら か に
な っ て き た っ て い う 驚 き の よ う な ,戸 惑 い の よ う な 気 持 ち も あ っ た ん で す ね ]( A 氏 第 4 回
ふ り か え り 面 接 で の 語 り ),と 感 情 が 湧 き 出 て く る と 共 に ,自 分 の 思 わ ぬ と こ ろ か ら 自 分 の
何か大事がところが明らかになってきたという意識化のプロセスを経ていった。そのよう
な 内 的 プ ロ セ ス を 通 し て ,鳥 の 巣 が す ご く そ の 女 性 の こ と を (中 略 )意 識 さ せ る 感 じ が (中
略 )私 に は あ る ん で す よ や 特 に こ れ は‘ 巣 を 指 差 し な が ら ’こ う 子 ど も を か え す っ て い う ね 。
(中 略 )う ん 私 は (中 略 )子 ど も が い な い と い う と こ ろ で (中 略 )何 か 引 っ か か っ て い る 様 な 気
も (中 略 )し ま す ね と い う 自 己 へ の 気 づ き が 生 じ た ,と 理 解 す る こ と が で き る 。
ここまで, 第 4 回箱庭制作面接での鳥の巣に関する主観的体験の語りに関する, A 氏の
気 づ き を 図 と 地 ,図 地 反 転 ,気 づ き に 関 す る 層 の シ フ ト ,前 概 念 的 体 験 の 観 点 か ら 検 討 し て き
た 。 こ れ ら の 検 討 を 通 し て , [ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]の 促 進 機 能 の 一
端 を 確 認 で き た ,と 考 え る 。
こ こ で ,[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ] に つ い て ,心 理 療 法 に お け る 他 の 概
念 と 比 較 検 討 す る こ と を 通 し て ,本 概 念 の 特 徴 を 明 ら か に す る 。
概 念 名 の う ち 「内 的 プ ロ セ ス 」と い う 用 語 に つ い て 考 え る 。 ミ ニ チ ュ ア の 治 療 的 要 因 の 一
つ と し て ,弘 中 (2002)は ,「 ミ ニ チ ュ ア が ク ラ イ エ ン ト の 潜 在 的 イ メ ー ジ を 引 き 出 す 役 割 」
を 挙 げ て い る (pp.84-85)。 例 え ば ,◆ 具 体 例 4 に あ っ た ,女 性 の こ と を 意 識 さ せ る 感 じ は , 箱
庭 制 作 中 に は 意 識 化 さ れ て い な か っ た た め ,「 ミ ニ チ ュ ア が ク ラ イ エ ン ト の 潜 在 的 イ メ ー ジ
を 引 き 出 す 役 割 」に 近 接 し た ,無 意 識 的 要 素 を 含 ん だ 主 観 的 体 験 に つ い て の 語 り と 考 え ら れ
る 。 た だ ,鳥 の 巣 か ら 触 発 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス に つ い て ,制 作 時 に ,少 な く と も ,素 直 に 手 が
伸 ば せ な い と い う 身 体 感 覚 は 存 在 し て い た 。こ の 主 観 的 体 験 の 場 合 ,そ の 内 的 意 味 や イ メ ー
ジ を 明 確 に 意 識 す る こ と は な く て も ,ミ ニ チ ュ ア に よ っ て 触 発 さ れ た 自 己 へ の 影 響 を 身 体
感 覚 と し て 捉 え ,鳥 の 巣 を 手 に と る こ と を 留 保 す る と い う 行 動 を と っ て い た こ と に な る 。す
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る と ,こ の 主 観 的 体 験 は ,よ り 厳 密 に は 前 概 念 的 体 験 と 考 え た 方 が よ い だ ろ う 。
本概念には他にも以下のような具体例があった。
◆ 具 体 例 6: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2
B 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,砂 箱 中 央 で 砂 を 掘 り ,水 源 を 作 っ た (写 真
5)。そ れ は ,B 氏 に と っ て ,命 と か 生 活 と か い う ,こ の 中 心 に 湧 き あ が る も の( B 氏 自 発 ,1-2)
で あ り ,核 に な る 中 心 の 部 分 ( B 氏 調 査 ,1-2) で あ っ た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,調 査
的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 ら れ た 。実 際 に そ れ を 表 わ す の に ,十 字 架 を 置 く と か , マ リ ア
像 を 置 く か と い う と , そ れ に は ,抵 抗 が あ っ た わ け で す 。 < な る ほ ど > で ,つ ま り , そ れ が ,
あ の ,い か に ,そ の ,表 現 し つ く せ な い 人 為 的 な ,そ の ,形 っ て い う ん で し ょ う か 。シ ン ボ ル っ
て い う か ,う ん ,で ,そ れ を 置 く と か え っ て , そ の , 自 分 が 感 じ て い る と か ,思 っ て い る , そ
の , こ ん こ ん と わ き 出 る よ う な 躍 動 感 と か い う 意 味 で な ん か ,表 わ す に は ち ょ っ と み す ぼ
ら し す ぎ る と い う か 。 う ん ,で ま あ ,そ れ は 逆 に 選 ぶ 気 に な れ な か っ た ( B 氏 調 査 ,1-2 ) 。
実 際 に は 選 ば れ な か っ た 十 字 架 や マ リ ア 像 は ,置 く に は 抵 抗 感 が あ り ,躍 動 感 を 表 す に は ,
み ず ぼ ら し す ぎ る と い う 感 覚 が あ っ た こ と が 語 ら れ た 。 ま た ,そ れ ら の ミ ニ チ ュ ア は ,人 為
的 な 形 ,シ ン ボ ル で あ り ,自 分 が 感 じ て い る も の を 表 現 し つ く せ な い と の 考 え が 喚 起 さ れ た
こ と が 語 ら れ た 。 こ の 具 体 例 で は ,イ メ ー ジ の 躍 動 感 と ミ ニ チ ュ ア と の 照 合 が な さ れ ,ミ ニ
チュアから喚起されたみすぼらしい感じが明瞭に意識されている。
こ の よ う に 本 概 念 の 具 体 例 に は ,明 瞭 な 意 識 化 を 伴 う 例 や 直 観 的 な 意 識 と い う 部 分 的 な
意 識 化 を 伴 う 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 が 共 に あ っ た 。そ の た め ,触 発・喚 起 さ れ る も の は「 潜
在 的 イ メ ー ジ 」よ り も 幅 広 い「 内 的 プ ロ セ ス 」と し た 方 が ,本 概 念 の 具 体 例 で 示 さ れ た 主 観
的体験の語りや記述のデータに適うと考えた。
本 概 念 を ,河 合 隼 雄 の い う 「 外 在 化 さ れ た イ メ ー ジ 」 と の 関 連 か ら 考 え る こ と も で き る 。
河 合 隼 雄 (1977)は ,こ こ ろ の 中 に イ メ ー ジ が 存 在 し ,そ れ を 表 現 す る の で は な く ,「 最 初 か ら ,
絵 画 な り 箱 庭 な り を 表 現 の 手 段 と し て 用 い ,そ こ に 表 現 し た も の を 頼 り に し な が ら , イ メ ー
ジをつくりあげていくような
方 法 も あ る 」 と し て ,そ れ を
「外在化されたイメージ」と
し て い る (p.39)。 ま た ,こ の よ
うなできる限り自由な表現活
動 に よ っ て ,「 作 っ て い る う ち
に自分でも思いがけない表現
が 生 じ て き た り ,作 っ た イ メ
ー ジ に 刺 戟 さ れ て ,お も い が
けぬ発展や変更が生じたり」
する場合があるとしている
( 河 合 隼 雄 ,1991,p.26 ) 。 こ の
よ う な こ と が 生 じ る の は ,箱
庭作品と制作者との相互作用
に よ る 効 果 と 考 え ら れ る (岡
写真 5
- 34 -
B 氏第1回作品
田 ,1984, pp .19-20,p. 36)。 木 村 (1985)も , 箱 庭 制 作 に お い て ,箱 庭 作 品 と 制 作 者 の 相 互 作 用
が 頻 繁 に 起 こ る こ と を 指 摘 し て い る 。そ し て ,そ の 中 で 視 覚 的 体 験 の フ ィ ー ド バ ッ ク の 効 果
に つ い て も 触 れ ,箱 庭 作 品 が 目 に 見 え る 形 で 目 前 に 展 開 し ,極 め て 具 体 的 な 様 相 を 呈 す る こ
と に よ り ,制 作 者 自 身 が そ こ か ら 気 づ く こ と が 多 い ,と 指 摘 し て い る (p.15,pp.22-23)。 さ ら
に ,岡 田 (1984)は ,フ ァ ン タ ジ ー グ ル ー プ の イ メ ー ジ 涌 出 法 に 触 れ ,刺 激 に よ り ,無 意 識 に 刺
激 を 与 え ,無 意 識 か ら イ メ ー ジ が 沸 き 出 て く る こ と を 期 待 す る と し て い る (pp.24-25)。河 合
の「 外 在 化 さ れ た イ メ ー ジ 」に 関 す る 記 述 ,岡 田 や 木 村 の 箱 庭 作 品 か ら の 作 用 ・ フ ィ ー ド バ
ッ ク は ,必 ず し も ,ミ ニ チ ュ ア だ け を 指 し た も の で は な い 。 し か し ,こ れ ら の 指 摘 は , イ メ ー
ジ 涌 出 法 の 刺 激 の よ う に ,箱 庭 制 作 に お い て 現 物 の ミ ニ チ ュ ア に 刺 激 さ れ て 内 的 プ ロ セ ス
が 喚 起 さ れ る 様 相 に も 当 て は ま る ,と 考 え ら れ る 。
こ こ ま で 本 概 念 を 様 々 な 観 点 か ら 考 察 し て き た 。[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ
セ ス ]は ,現 物 の < も の > が < こ こ ろ の こ と > に な っ て い く 過 程 に 関 す る 促 進 機 能 で あ る と
考 え る こ と が で き た 。 さ ら に ,[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]の 促 進 機 能 を ,
イ メ ー ジ の 集 約 性 ,直 観 的 な 意 識 ,図 と 地 ,気 づ き に 関 す る 層 の シ フ ト ,前 概 念 的 体 験 の 観 点
か ら 考 察 し た * 2 。こ の よ う に [ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]は 箱 庭 制 作 者 の
自己理解の促進に寄与すると考えられる。
Ⅴ -2.「内 界 」か ら 「装 置 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
「内 界 」か ら 「装 置 」へ の 影 響 に は ,カ テ ゴ リ ー < ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > ,
そ の 中 に 概 念 [不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]が あ っ た 。
カ テ ゴ リ ー < ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > は ,M-GTA の 分 析 当 初 は ,デ ー タ
に 密 着 し て 生 成 さ れ た 概 念 で あ っ た 。そ の た め ,基 礎 デ ー タ と し て の 具 体 例 を 内 包 し て い る 。
そ の 後 ,概 念 相 互 の 関 係 を 検 討 す る 中 で ,< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > は ,カ
テ ゴ リ ー に 移 行 し ,[不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]が こ の カ テ ゴ リ ー に 包 含 さ れ る こ
と に な っ た * 3 。 そ の た め ,ミ ニ チ ュ ア に 内 的 プ ロ セ ス が 付 与 さ れ る と い う 特 性 に お い て は ,
上記カテゴリーおよび概念は共通性をもっている。
し か し ,< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > と [不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特
性 ]と で は ,意 識 化 の 明 瞭 度 に 関 し て ,差 が あ っ た 。< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス
> の 具 体 例 で は ,箱 庭 制 作 者 は ,そ の 内 的 プ ロ セ ス を か な り 明 瞭 に 意 識 化 し て い た 。 そ れ に
対 し て ,[不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]で は ,ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 は 明 瞭 に は 意 識
化されていない部分があった。
以 下 に ,本 カ テ ゴ リ ー お よ び 概 念 が ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し て ど の よ う な 特 性 を も
っているか,考察していく。
1)< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > の 結 果 お よ び 考 察
< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > は ,「意 図 ,感 覚 ,イ メ ー ジ ,感 情 ,連 想 ,意 味 と
い う 内 的 な プ ロ セ ス が ミ ニ チ ュ ア に 対 し て 付 与 さ れ る 様 」と 定 義 さ れ た 。以 下 に そ の 具 体 例
を 挙 げ ,次 の 4 観 点 か ら 考 察 す る 。 a.現 物 の モ ノ を ○ ○ と し て 見 た て る ,見 な す と い う 内 的
プ ロ セ ス ,b.箱 庭 制 作 過 程 に お い て 一 定 の 意 識 化 を 伴 っ た ミ ニ チ ュ ア が 作 品 の テ ー マ に お
い て 重 要 な ミ ニ チ ュ ア と な る 場 合 ,c.意 識 と 無 意 識 の 相 互 作 用 ,d.内 的 プ ロ セ ス を ミ ニ チ ュ
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アに付与する過程の前後
に ,別 の 内 的 プ ロ セ ス が
存 在 し ,そ れ ら が 連 動 し
ている場合。
◆ 具 体 例 7: A 氏 第 6
回箱庭制作面接制作過程
12
A 氏 は ,第 6 回 箱 庭 制 作
面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 12
で ,島 の 下 方 ,砂 箱 手 前 側
に ,イ ン パ ラ を 置 い た (写
真 6)。イ ン パ ラ に つ い て ,
自発的説明過程で以下のよ
写真 6
うに語った。自分の乗り物
A 氏第6回作品
と し て < は ぁ ,ペ ン ギ ン が ? > え ぇ ,置 き ま し た 。え ,あ の ,仲 間 と 言 う か 子 分 と 言 う か ,乗 っ
け て も ら っ て 移 動 す る < な る ほ ど > も の で す ね( A 氏 自 発 ,6-12)。A 氏 に は ,イ ン パ ラ を 自
己 像 で あ る ペ ン ギ ン の 乗 り 物 ,仲 間 ,子 分 を 表 す も の で あ る と の 明 確 な 意 図 が あ っ た こ と が
わ か る 。 こ の 語 り に は ,置 き ま し た と の 構 成 に 関 す る 語 り が あ る 。 し か し ,語 り 全 体 の 文 脈
を 考 え た と き ,こ の 語 り を ,イ ン パ ラ と い う ミ ニ チ ュ ア に ,ペ ン ギ ン の 乗 り 物 ,仲 間 ,子 分 と
いう内的プロセスを付与したと理解することが適当であると考えた。
そ れ は ,こ の 語 り が ,イ ン パ ラ の 位 置 や 方 向 な ど の 構 成 に 関 す る 要 素 に つ い て の 語 り で は
な く ,イ ン パ ラ と い う ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た ペ ン ギ ン と の 関 係 性 に つ い て の 語 り で あ る
と考えられたためである。
◆ 具 体 例 7 は ,本 カ テ ゴ リ ー の 特 性 を よ く 表 し て い る と 考 え ら れ る 。 ◆ 具 体 例 7 は ,a.現
物 の モ ノ で あ る イ ン パ ラ と い う ミ ニ チ ュ ア を ,自 分 の 乗 り 物 と し て ,見 た て て い る ,見 な し
て い る ,と 捉 え る こ と が で き る 。 こ れ は ,子 ど も の ご っ こ 遊 び と 同 じ 心 の 機 能 と い え る 。 人
形 を 親 や 自 分 に み た て た 遊 び を 通 し て , 子 ど も は 内 的 ス ト ー リ ー を 表 現 す る 。こ の , 現 物 の
モ ノ を ○ ○ と し て 見 た て る ,見 な す と い う 内 的 プ ロ セ ス が ,箱 庭 制 作 面 接 で も 生 起 し て い る ,
と 考 え る こ と が で き る 。 こ の 見 た て る ,見 な す と い う 内 的 プ ロ セ ス は ,投 影 と 類 似 点 が あ る
も の ,異 な っ た 点 を も つ と 考 え る こ と が で き る 。◆ 具 体 例 7 は ,投 影 と は 異 な り ,そ の プ ロ セ
スが明瞭に意識されている。この点に内的プロセスの付与と投影の差異がある。しかし,
内 的 プ ロ セ ス の 付 与 は ,モ ノ と 内 的 な プ ロ セ ス が 重 な り あ い ,< こ こ ろ の こ と > と な る 内 的
プ ロ セ ス で あ り ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 の 一 側 面 と 考 え る こ と が で き る 。
<ミニチュアに付与された内的プロセス>に見いだされた箱庭制作者の意識的な体験の
促 進 機 能 に つ い て ,別 の 観 点 か ら 考 察 し た い 。
◆ 具 体 例 8: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11
例 え ば , A 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,砂 箱 左 上 隅 に 白 い 石 を 二 個 置
い た (写 真 7)。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程 で ,そ う い う ち ょ っ と 意 味 の 分 か
- 36 -
らないものが置きたかった
( A 氏 自 発 ,2-11)と 語 っ た 。
内 省 報 告 に は ,以 下 の よ う
に 記 さ れ た 。 石 は 「か た ま
り 」。自 然 の 造 形 物 だ け れ ど
も ,生 命 感 は 薄 く て ,動 き 出
すことがないもの。私が左
側に置きたかったいのちと
は ,そ の よ う な も の だ っ た
のではないか。はっきりと
し た 形 を ま だ 持 た な い ,抽
象的なものがよかったのだ
と 思 う ( A 氏 内 省 ,2-11,制
作 ・ 意 味 )。石 に ,生 命 感 は 薄
写真 7
く て ,動 き 出 す こ と が な い も
A 氏第2回作品
の ,は っ き り と し た 形 を ま だ
持 た な い ,抽 象 的 な も の な ど 多 様 な 意 味 が 付 与 さ れ て い た 。
こ の 考 察 を 深 め る た め に ,石 と そ の 内 的 意 味 に つ い て ,A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 に お け る
他 の ミ ニ チ ュ ア や 構 成 に つ い て の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 も 含 め ,考 察 す る 。A 氏 第 2 回 箱
庭 制 作 面 接 で は 様 々 な 様 相 の 命 が 構 成 さ れ た 。石 は ,A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の い の ち と い
うテーマに関する重要なミニチュアの一つであった。
A 氏 は 「 生 命 の な い 大 地 が お そ ろ し い 」と 感 じ て い た (A 氏 内 省 ,2-3,制 作 ・ 感 覚 )。 A 氏
は こ の 土 地 に 命 を 必 要 と し て い る と 考 え ら れ る 。A 氏 は ,箱 庭 制 作 過 程 12 で ,棚 に 青 い 鳥 を
見 つ け て ,白 い 石 の 上 に の せ た 。 青 い 鳥 を 見 つ け る ま で ,A 氏 は 苦 し さ を 感 じ て い た 。 と こ
ろ が 青 い 鳥 が た ま た ま 目 に 入 っ た 時 ,「 あ あ ,こ れ だ 」と 感 じ た 。そ れ を 置 く こ と で ,苦 し さ
が な く な っ た 。 青 い 鳥 は ,意 図 を 超 え て い る よ う な 感 じ も あ り ,箱 庭 や 自 分 の 心 の 調 子 を 変
え る 大 き な 影 響 を 及 ぼ し た こ と が 自 発 的 説 明 過 程 で 語 ら れ た (p.51 ◆ 具 体 例 20 参 照 )。 そ
し て ,も う 少 し 命 を 感 じ た い と 思 っ た 制 作 者 は ,鴨 を 見 つ け 置 く こ と が で き た 。A 氏 は ,土 偶
や 埴 輪 が 半 分 い の ち で は な い も の ,人 間 で は な い 神 様 の 方 に 近 い 存 在 ,信 仰 の 対 象 に な る お
山のふもとの番人であるとも感じていたことが調査的説明過程や内省報告で報告された
(p.42 ◆ 具 体 例 12,pp. 44-45 ◆ 具 体 例 14 参 照 )。
A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 に は ,ま だ 形 を も た な い 抽 象 的 な 命 (石 ),生 命 感 を 感 じ さ せ る 命 ,
半 分 命 で は な い 神 様 に 近 い 命 と い う よ う に ,命 の 多 様 な 様 相 が 表 現 さ れ て お り ,こ の 回 の 作
品 の 主 な テ ー マ は 命 で あ る と 捉 え ら れ た 。 そ の よ う な テ ー マ の 中 で ,石 は ,命 の 表 現 な の で
あ る が , 生 命 感 は 薄 く て ,動 き 出 す こ と が な い も の , は っ き り と し た 形 を ま だ 持 た な い ,抽
象 的 な も の と い う ,常 識 的 な 命 の イ メ ー ジ を 超 え た 独 特 の 意 味 が 付 与 さ れ て い る 。こ の よ う
に 石 は ,A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の テ ー マ を 構 成 す る 重 要 な ミ ニ チ ュ ア の 一 つ で あ っ た 。ま
た , 命 が 主 な テ ー マ と な っ た A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,A 氏 の 10 回 に 亘 る 箱 庭 制 作 面 接
全 体 の テ ー マ の 一 つ で あ る ,宗 教 性 (命 ,守 り ,神 聖 な 場 所 ・ 生 き 物 )に 関 す る 面 接 の 展 開 に お
いて重要な回でもあった。
- 37 -
以 上 ,確 認 し て き た よ う に ,A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,b.石 に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ
セ ス は ,箱 庭 制 作 過 程 に お い て も 一 定 の 意 識 化 が な さ れ て い る が ,語 り や 内 省 に よ っ て , さ
ら に 明 瞭 に 意 識 化 さ れ る と い う 過 程 を 経 た も の で あ っ た 。ま た 上 述 の よ う に ,石 は A 氏 第 2
回箱庭制作面接における重要なテーマを構成するミニチュアの一つであった。<ミニチュ
ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > は 意 識 的 な も の で あ る が ,そ う で あ る か ら と い っ て 一 概 に
箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,意 義 の 小 さ い 内 的 プ ロ セ ス と は い え ず ,ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内
的 プ ロ セ ス が 箱 庭 に 表 現 さ れ る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 の 促 進 に 寄 与 す る こ
と が で き る ,と 考 え ら れ る 。
さ ら に ,< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > の 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 意 義 に つ い
て ,イ メ ー ジ の 特 性 の 面 か ら 検 討 す る 。Jung(1921 林 訳 1987)は ,イ メ ー ジ 関 し て 以 下 の よ
う に 定 義 し て い る (pp.447-448)。
内 的 イ メ ー ジ は ,さ ま ざ ま な 由 来 を も つ 多 種 多 様 な 素 材 か ら 構 成 さ れ た ,複 合 体 で
あ る 。 た だ し ,こ れ は 寄 せ 集 め で は な く ,そ れ 自 体 で ま と ま り を 持 っ た 産 物 で あ り ,
それ自身の独立した意味を備えている。イメージは心の全般的状況を凝縮して表す
も の で あ っ て ,単 に ・ あ る い は 主 と し て ・ 無 意 識 内 容 だ け を 表 す も の で は な い 。た し
か に そ れ は 無 意 識 内 容 を 表 し て い る が ,し か し そ の す べ て を 表 し て い る わ け で は な
く , そ の 時 々 に 布 置 さ れ て い る 内 容 だ け を 表 し て い る 。こ の 布 置 は 一 方 で は 無 意 識 の
独 特 の 活 動 に よ っ て 生 じ ,他 方 で は そ の 時 々 の 意 識 状 態 に よ っ て 生 じ る 。こ の 意 識 状
態 は つ ね に 識 閾 下 に あ る 素 材 の う ち 関 係 の あ る も の の 活 動 を 促 す と 同 時 に ,関 係 の
ないものを抑制する。したがってイメージはその時々の無意識の状況と意識の状況
を 表 し て い る 。そ れ ゆ え あ る イ メ ー ジ の 意 味 を 解 釈 す る こ と は ,意 識 と 無 意 識 の ど ち
ら か の み か ら 出 発 す る の で は な く ,両 者 を 互 い に 関 連 さ せ る こ と に よ っ て 初 め て 可
能になる。
こ の よ う に イ メ ー ジ は ,意 識 と 無 意 識 と の 両 方 か ら の 影 響 を 受 け ,そ の 心 の 全 般 的 状 況 が
凝 縮 さ れ た も の で あ る 。そ し て ,そ の 時 々 に 布 置 さ れ た 内 容 だ け を 表 す と さ れ て い る 。ま た ,
箱 庭 制 作 は , 意 識 と 無 意 識 と が 相 互 に 作 用 し あ う ,意 識 と 無 意 識 の 協 働 作 業 で あ る 。 c.< ミ
ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > は ,イ メ ー ジ の ,あ る い は 意 識 と 無 意 識 の 協 働 作 業 の ,
意識的側面により比重のある主観的体験についてのカテゴリーであるといえよう。このよ
う な 主 観 的 体 験 で あ る < ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > は ,上 記 2 具 体 例 に 示 さ
れ た よ う に ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し て 働 く 。
箱 庭 療 法 に お い て ,意 識 が 勝 ち す ぎ る こ と の 弊 害 が 指 摘 さ れ る 場 合 が あ る (河 合 隼 雄 ,
1991,pp .132-134;他 )。 < ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > に 示 さ れ た ,意 識 的 な 過
程 が 強 く 働 い て 作 ら れ た 箱 庭 作 品 は ,意 識 が 勝 ち す ぎ た も の と な る 可 能 性 を は ら ん で い る
と も 考 え ら れ る 。そ の た め ,< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > に 示 さ れ た 箱 庭 制 作
者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 に つ い て ,さ ら に 吟 味 す る 必 要 が あ る 。箱 庭 制 作 が 意 識 と 無 意
識 と の 協 働 作 業 と な る た め に は ,こ の カ テ ゴ リ ー で 示 さ れ た 特 性 と は 異 な る ,< も の > か ら
< こ こ ろ の こ と > に な っ て い く 過 程 も 必 要 に な る と 考 え ら れ る 。 こ の 点 に つ い て は ,別 に
[不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]で 考 察 す る 。
- 38 -
こ こ で は 以 下 の こ と を 指 摘 す る に と ど め る 。本 カ テ ゴ リ ー 内 の 具 体 例 に は ,内 的 プ ロ セ ス
を ミ ニ チ ュ ア に 付 与 す る 過 程 の 前 後 に ,別 の 内 的 プ ロ セ ス が 存 在 し ,そ れ ら が 連 動 し て い る
場合があった。
◆ 具 体 例 9: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2
例 え ば , B 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で ,棚 を 見 て ,ミ ニ チ ュ ア を 探 し た 。
箱 庭 制 作 過 程 2 で ,砂 箱 中 央 に 仕 切 り を ,左 右 を へ だ て る よ う に 置 い た (写 真 8)。 そ し て ,箱
庭 制 作 過 程 1 に 関 し て ,何 か 重 い も の を 感 じ て 蓋 が さ れ た 感 じ( B 氏 内 省 ,2-1,制 作・感 覚 ),
壁 ( B 氏 内 省 ,2-1,制 作 ・ 連 想 ) と い う 主 観 的 体 験 を 内 省 報 告 に 記 し た 。 「心 苦 し い 思 い を
表 現 す る 仕 切 り を 見 つ け る 」と B 氏 が 名 づ け た 箱 庭 制 作 過 程 2 に 関 し て ,気 持 ち を 重 た く さ
せ る 重 さ を 表 現 し た い ( B 氏 内 省 ,2-2,制 作 ・ 意 図 ) ,壁 ( B 氏 内 省 ,2-2,制 作 ・ 意 味 ) と い
う 主 観 的 体 験 を 内 省 報 告 に 記 し た 。 第 2 回 ふ り か え り 面 接 で は ,こ れ ら の 内 省 報 告 に 関 し
て ,以 下 の よ う に 語 ら れ た 。以 下 に 検 討 す る 部 分 に
を 付 し た 。[重 い も の を 感 じ て ,気 持
ち に 蓋 を さ れ た よ う な 感 じ と い う の が あ っ て 。(中 略 )仕 切 り を 見 つ け て ,そ の も の は ど う い
う も の な の か っ て い う の を ,な ん か ,そ こ か ら 掘 り 起 こ す よ う な も の が 始 ま っ て い ま し た 。
そ の 仕 切 り と い う こ と で ,蓋 や 壁 や 仕 切 り ,見 え な い 壁 み た い な 。そ う い っ た も の を , 手 に と
る こ と に な り ま し た 。< こ こ は ,さ き ほ ど お し ゃ っ て く だ さ っ た よ う な「 何 か 重 い も の を 感
じ て ,蓋 が さ れ た 感 じ 」っ て い う の に ,わ り と ぴ っ た り な 仕 切 り だ っ た > そ う で す ね ]。つ ま
り ,B 氏 は , 箱 庭 制 作 過 程 1 で ,自 ら の 内 面 に ,重 い も の を 感 じ て ,気 持 ち に 蓋 を さ れ た よ う
な感じをキャッチした。その感じから壁を連想した。それらに基づいてミニチュアを探し
始 め た 。 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,仕 切 り が 見 つ か り ,そ れ が ,ど う い う も の な の か っ て い う の を ,
な ん か ,そ こ か ら 掘 り 起 こ す よ う な 内 的 作 業 を 行 っ た 。 そ の 内 的 作 業 に よ っ て ,仕 切 り は ,
何 か 重 い も の を 感 じ て 蓋 が さ れ た 感 じ ( B 氏 内 省 ,2-1,制 作 ・ 感 覚 ) ,壁 ( B 氏 内 省 , 2-1,制
作・連 想 )に ぴ っ た り で あ る こ と が 照 合・確 認 さ れ ,気 持 ち を 重 た く さ せ る 重 さ を 表 現 し た
い ( B 氏 内 省 ,2-2,制 作 ・ 意
図 ) と い う 意 図 ,壁 ( B 氏 内
省 ,2-2,制 作・意 味 )と い う 意
味 が 付 与 さ れ た ,と 捉 え ら れ
る 。壁 と い う 言 葉 は ,箱 庭 制 作
過 程 1 で は ,今 ,自 分 が 感 じ て
いる内的プロセスから連想さ
れた言葉であった。それが,
箱 庭 制 作 過 程 2 で は ,仕 切 り
というミニチュアの意味とし
て 付 与 さ れ た ,と 理 解 で き る 。
こ の よ う に ,今 自 分 に 生 じ
ている内的プロセスをキャッ
チ し ,そ れ ら を 付 与 で き る ミ
ニチュアを探すという行為
写真 8
(コ ア カ テ ゴ リ ー ④ の < ミ ニ
- 39 -
B 氏第2回作品
チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > ),ミ ニ チ ュ ア と 内 的 感 覚 の 照 合 (コ ア カ テ ゴ リ ー ④ の [ぴ っ た
り 感 の 照 合 ]),ミ ニ チ ュ ア へ の イ メ ー ジ の 付 与 と い う 複 合 的 な 内 的 プ ロ セ ス が 報 告 さ れ た 。
そ の よ う な 複 合 的 プ ロ セ ス に よ っ て ,ぴ っ た り な ミ ニ チ ュ ア が 選 択 さ れ ,そ れ 用 い た 構 成 を
可 能 に し た ,と 考 え る こ と が で き る 。d.< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > に 示 さ れ
た 内 的 プ ロ セ ス に 関 連 し て こ の よ う な 複 合 的 な 内 的 プ ロ セ ス が 生 じ て い る 場 合 に は ,意 識
(内 界 )⇒ 装 置 と い う 一 方 向 の 影 響 に 止 ま ら ず ,内 界 と 装 置 と ミ ニ チ ュ ア 選 択 が 相 互 に 交 流
し あ い ,丁 寧 な 照 合 作 業 が 伴 う 内 的 プ ロ セ ス と な る た め ,箱 庭 作 品 が ,意 識 が 勝 ち す ぎ た も
の と な る 可 能 性 は 軽 減 す る ,と 考 え ら れ る 。 ◆ 具 体 例 9 に も 示 さ れ た よ う に ,ミ ニ チ ュ ア に
付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス が 箱 庭 に 表 現 さ れ る こ と に よ っ て ,箱 庭 作 品 は < こ こ ろ の こ と >
と な り ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 の 促 進 に 寄 与 す る こ と が で き る ,と 考 え ら れ る 。
< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > を 様 々 な 観 点 か ら 考 察 し て き た 。 a.現 物 の モ
ノ を ○ ○ と し て 見 た て る ,見 な す と い う 内 的 プ ロ セ ス ,b.箱 庭 制 作 過 程 に お い て 一 定 の 意 識
化 を 伴 っ た ミ ニ チ ュ ア が 作 品 の テ ー マ に お い て 重 要 な ミ ニ チ ュ ア と な る 場 合 ,c.意 識 と 無
意 識 の 相 互 作 用 ,d.内 的 プ ロ セ ス を ミ ニ チ ュ ア に 付 与 す る 過 程 の 前 後 に ,別 の 内 的 プ ロ セ ス
が 存 在 し ,そ れ ら が 連 動 し て い る 場 合 か ら 考 察 し て き た 。こ れ ら は ど れ も < も の > か ら < こ
ころのこと>になっていく過程を示している。<ミニチュアに付与された内的プロセス>
に よ っ て , < も の > で あ る ミ ニ チ ュ ア は ,自 己 の 内 界 が 表 現 さ れ た < こ こ ろ の こ と > に な
っ て い き ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し て 働 く ,と 考 え ら れ る 。
2)[不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]の 結 果 お よ び 考 察
[不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]は ,「ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 が ,箱 庭 制 作 者 自 身 に
と っ て 不 明 瞭 で あ る 様 」と 定 義 さ れ た 。 こ の 概 念 は ,< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ
ス > と は 異 質 の 側 面 を も つ 。あ る 種 の 内 的 プ ロ セ ス が ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ て い る 点 で は ,
上 記 カ テ ゴ リ ー と 本 概 念 と で は ,共 通 点 を も つ 。し か し ,上 記 カ テ ゴ リ ー は ,そ の 内 的 プ ロ セ
ス が 明 瞭 に 意 識 化 さ れ て い た の に 対 し て ,本 概 念 で は ,ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 に 明 瞭 に は
意識化されない部分が残る。
◆ 具 体 例 10: A 氏 第 3 回 箱
庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10
A 氏 は ,第 3 回 箱 庭 制 作 面
接 の 箱 庭 制 作 過 程 10 で ,砂 箱
右 上 隅 に ,貝 殻 で 半 身 が 隠 れ
る よ う に タ コ を 置 い た (写 真
9)。内 省 報 告 に ,タ コ に つ い て ,
以下のように記された。タコ
は ,私 に と っ て ,人 目 に さ ら し
たくない私自身のある側面な
の か も し れ な い 。で き れ ば 本
当は自分でも気がつかずにい
写真 9
た い 。で も ,確 か に あ る と 認 め
- 40 -
A 氏第3回作品
ざ る を 得 な い 自 分 の 中 の 欲 求 や 傾 向 。そ ん な も の が 自 分 の 中 に 確 か に あ る と 気 が つ い て い
な が ら ,し か も ,時 に 半 身 さ ら す よ う な 状 態 で い な が ら ,あ え て 見 な い よ う に し て い る 。そ れ
が 何 な の か ,そ の 全 体 像 を 私 自 身 把 握 で き て い な い か ら ,言 葉 に な ら な い の か も し れ な い
( A 氏 内 省 ,3-10,自 発 ・ 意 味 ) 。A 氏 に と っ て ,タ コ は 意 味 が 把 握 し が た い ,不 明 瞭 な 特 性
を も っ た ミ ニ チ ュ ア で あ る 。い く つ か の 推 測 は で き る の だ が ,タ コ が も つ 自 分 に と っ て の 意
味 の 全 体 像 を 自 分 自 身 が 把 握 で き て い な い た め に ,言 語 化・意 識 化 が 難 し い の か も し れ な い
と 考 え て い る こ と が 示 さ れ た 。 A 氏 は ,タ コ に ,自 分 の 人 目 に さ ら し た く な い 部 分 を 付 与 し
た の だ ろ う と 考 え つ つ も ,同 時 に そ の 全 体 像 を 把 握 し き れ て い な い 状 態 に 気 づ い て い る 。
◆ 具 体 例 11: B 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 4∼ 5
B 氏 は ,第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 4 で 赤 い 橋 を 選 び ,制 作 過 程 5 で 砂 箱 中 央 に
赤 い 橋 を 置 い た (写 真 10)。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で ,筆 者 の こ の 中 で ,
現 実 の 風 景 と は 違 う な と い う と こ ろ は あ り ま す か と い う 質 問 に 対 し て ,B 氏 は ,以 下 の よ う
に 語 っ た 。今 も ,今 ,ち ょ っ と 質 問 受 け て ,改 め て ,ど う し て だ ろ う と か っ て 思 っ た の は ,な ん
で 赤 い 橋 を 選 ん だ の か ,っ て い う の が 。 実 際 に は ,普 通 の ,あ り が ち な ,コ ン ク リ ー ト ス テ ン
の 支 柱 で 作 ら れ た 橋 な ん だ け ど も ,最 初 ,橋 も っ て き た 時 に ,こ の 赤 の ,こ の 橋 っ て い う の が ,
そ の ,気 に な っ た と い う か 。 印 象 に 残 っ て 。 で ,ま あ ,あ の 橋 が あ る ん だ け ど も 。 な ん で ,こ
の 赤 の 橋 。 現 実 と は 全 然 違 う な 。 な ん で だ ろ う っ て い う の は ,私 も わ か ら な い で い ま す ね 。
(中 略 )大 き さ 的 に も ,ま あ ,こ の 大 き さ が し っ く り 来 て て 。 で も ,こ の 赤 の 色 の こ の , や つ に
実際自分自身が動いてたっていうのは確かなんです。<そうなんですね。なかなかちょっ
と ど う い う 動 き か は 言 葉 に し に く い け れ ど ,確 か に な に か 動 い て た ,と い う 感 じ な ん で す ね 。
> は い ( B 氏 調 査 ,4-4) 。B 氏 は ,現 実 の 風 景 の 中 に あ る 橋 と は 違 う 赤 い 橋 を 選 ん だ こ と に
対 し て ,そ れ が な ぜ な の か ,わ か ら な い と 語 っ た 。 し か し ,同 時 に ,大 き さ が し っ く り き た こ
と や , 制 作 中 こ の 赤 い 橋 に 自 分 の 心 が 動 い た こ と が 確 か だ と 認 識 し て い る 。B 氏 は ,こ の 橋
を 選 ん だ 内 的 プ ロ セ ス の 一 部 は 意 識 さ れ て お り ,一 部 は 不 明 瞭 で 意 識 化・言 語 化 し 難 い こ と
に気づいている。
◆ 具 体 例 10 と 11 は ,ミ ニ
チュアに意味を付与する際,
部分的な意識化が伴うとい
う 過 程 を 示 し て い る ,と 考
えられる。逆の方向から言
え ば ,ミ ニ チ ュ ア を 手 に 取
っ た り ,置 い た り す る 過 程
に お い て ,無 意 識 的 な 要 因
が作用してその過程が進め
ら れ ,そ の 内 の 一 部 の 内 的
プロセスが部分的に意識化
されるという様と考えられ
る 。[不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の
意 味 や 特 性 ]は ,箱 庭 制 作 面
写 真 10
- 41 -
B 氏第4回作品
接 に お け る ,こ の よ う な 意 識 と 無 意 識 と の 関 係 性 を 示 し て い る ,と 捉 え ら れ る 。
本 概 念 を 直 観 的 な 意 識 の 観 点 か ら 考 察 す る こ と も で き る 。直 観 的 な 意 識 と は ,「 意 味 の 認
知 は 伴 わ な い が ,ぴ っ た り だ と 感 じ る こ と が で き る 意 識 」で あ る 。◆ 具 体 例 11 で は ,橋 の 大
き さ が し っ く り き た 上 に ,ミ ニ チ ュ ア に 自 分 の 心 が 動 か さ れ る ,と い う 主 観 的 体 験 が 語 ら れ
て い た 。 こ の よ う に 直 観 的 な 意 識 に 従 っ て 赤 い 橋 の ミ ニ チ ュ ア を 選 択 し ,構 成 し た た め ,B
氏 は 現 実 の 風 景 を 意 識 し て 構 成 し た 作 品 の 中 で ,現 実 と は 異 な る 赤 い 橋 を 選 ん だ 理 由 を 明
瞭 に 意 識 化 し ,言 語 化 す る こ と が で き な か っ た の だ ,と 捉 え る こ と が で き る だ ろ う 。
< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > に 関 す る 考 察 の 中 で ,< ミ ニ チ ュ ア に 付 与 さ
れ た 内 的 プ ロ セ ス > に 示 さ れ た ,意 識 的 な 過 程 が 強 く 働 い て 作 ら れ た 箱 庭 作 品 は ,意 識 が 勝
ち す ぎ た も の と な る 可 能 性 を は ら ん で い る こ と に 触 れ た 。そ し て ,こ の カ テ ゴ リ ー で 示 さ れ
た 特 性 と は 異 な る ,< も の > か ら < こ こ ろ の こ と > に な っ て い く 過 程 に 関 し て ,別 に 検 討 す
る と し た 。 [不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]は ,ミ ニ チ ュ ア に 意 味 を 付 与 す る 際 ,部 分 的
な 意 識 化 が 伴 う 過 程 ,と 考 え ら れ た 。 ま た ,直 観 的 な 意 識 の 観 点 か ら も 考 察 し た 。 < ミ ニ チ
ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > の 具 体 例 は ,意 識 と 無 意 識 の 協 働 作 業 の 意 識 的 側 面 に よ
り 比 重 の あ る 主 観 的 体 験 で あ っ た 。 そ れ に 比 べ ,本 概 念 は ,無 意 識 的 な 内 的 プ ロ セ ス に よ り
比 重 の あ る 主 観 的 体 験 の 一 様 相 で あ る ,と 考 え ら れ る 。[不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]
は ,無 意 識 的 な 要 因 が 作 用 し て そ の 過 程 が 進 め ら れ ,そ の 内 の 一 部 の 内 的 プ ロ セ ス が 部 分 的
に 意 識 化 さ れ る と い う 内 的 プ ロ セ ス で あ る 。[不 明 瞭 な ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や 特 性 ]は ,箱 庭 制
作 面 接 に お い て 箱 庭 制 作 者 の 意 識 を 超 え た 作 品 が 生 ま れ る 一 つ の 要 因 と な り ,そ の よ う な
表 現 や 表 現 に つ い て の 語 り や 内 省 を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 が 促 進 さ れ る と 考 え ら
れる。
Ⅴ -3.「内 界 」と 「装 置 」と の 双 方 向 の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
「内 界 」と 「装 置 」の 双 方 向 の 影 響 に つ い て 結 果 お よ び 考 察 を 記 す 。 「内 界 」と 「装 置 」の 双 方
向 の 影 響 に は , 概 念 [ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ],[ミ ニ チ ュ ア に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状
況 や 特 性 へ の 気 づ き ]の 2 つ の 概 念 が あ っ た 。 こ の 概 念 に は ,内 界 か ら 装 置 へ の 影 響 と ,装
置 か ら 内 界 へ の 影 響 の 双 方 向 の 影 響 関 係 が 見 い だ さ れ た 。以 下 に 具 体 例 を 挙 げ ,こ の 概 念 が ,
内 界 か ら 装 置 へ の 影 響 と ,装 置 か ら 内 界 へ の 影 響 の 双 方 向 の 影 響 関 係 と 考 え た 根 拠 を 示 す 。
[ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ]の 具 体 例 に 以 下 の よ う な 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り が あ っ
た。
◆ 具 体 例 12: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11
A 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,砂 箱 左 上 に 土 偶 や 埴 輪 を 置 い た (A 氏
の 箱 庭 作 品 の 写 真 は 資 料 3 を 参 照 )。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で ,な ん か ,
い の ち な ん だ け ど ,い の ち を 持 っ て る 人 と し て 持 っ て き た ん で す け ど ね < ふ ん ふ ん う ん >
半 分 い の ち じ ゃ な い も の だ っ て い っ て い う か (中 略 )人 間 で は な い い の ち に な っ て る と い
う か < ふ ん ー ん > そ う い う 感 じ が し て ( A 氏 調 査 ,2− 11) と 語 っ た 。 い の ち を 持 っ て る 人
と し て 持 っ て き た ん で す け ど ね は ,2)の 内 界 → 装 置 の 影 響 で あ り ,内 的 プ ロ セ ス を ミ ニ チ ュ
ア に 付 与 す る 様 相 で あ る と 考 え ら れ る 。と こ ろ が ,半 分 い の ち じ ゃ な い も の だ っ て い っ て い
う か (中 略 )人 間 で は な い い の ち に な っ て る と い う か < ふ ん ー ん > そ う い う 感 じ が し て
- 42 -
は ,1)の 装 置 → 内 界 へ の 影 響 で あ り ,ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス と 捉 え ら れ
る 。こ の よ う に ,一 つ の ミ ニ チ ュ ア に 対 し て ,1)と 2)の 両 方 の 方 向 性 を も っ た 内 的 プ ロ セ ス
がともに生起している。ミニチュア⇔内界という双方向の影響関係となっている。
こ の よ う な 具 体 例 を 根 拠 と し て ,[ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ],[ミ ニ チ ュ ア に よ る 自 己 の イ メ
ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 へ の 気 づ き ]は ,3 )内 界 と 装 置 と の 双 方 向 の 影 響 の 概 念 だ と 考 え た 。
1)[ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ]の 結 果 お よ び 考 察
[ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ] は , 「ミ ニ チ ュ ア の 象 徴 的 意 味 や イ メ ー ジ が 多 義 的 で あ る こ と 」 と
定 義 さ れ た 。 た だ し ,こ の 概 念 の 中 に は ,タ イ プ の 異 な る 具 体 例 が あ り , (1) イ メ ー ジ の 集 約
性 ,(2)箱 庭 制 作 者 と ミ ニ チ ュ ア と の 関 係 性 に お け る 多 義 性 の 2 タ イ プ に わ け る こ と が で き
ると考えられた。
(1)イ メ ー ジ の 集 約 性 の 結 果 お よ び 考 察
(1)の 具 体 例 で は ,ミ ニ チ ュ ア の 意 味 や イ メ ー ジ が 多 義 的 で あ っ た 。そ の 具 体 例 を 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 13: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 6
A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 6 で は ,ミ ニ チ ュ ア を 探 す 中 で ,白 い 天 使 を 一 旦
手 に 取 っ た 。制 作 過 程 7 で 乳 白 色 の 陶 器 の イ ル カ を 見 つ け ,ゴ ム の イ ル カ と 比 べ た 。制 作 過
程 8 で ,砂 箱 で 陶 器 の イ ル カ と 白 い 天 使 を 置 き 比 べ ,イ ル カ を 海 に 起 き ,白 い 天 使 を 棚 に 戻 し
た 。 天 使 に 関 し て , A 氏 は 内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 し た 。 船 の 代 わ り だ っ た け れ ど ,「天
使 」で あ る こ と も 重 要 だ っ た 。何 か 聖 な る も の が よ か っ た の だ と 思 う 。白 い 鳥 で は い け な い
し ,白 い ウ ル ト ラ マ ン で も い け な い 。 神 の 使 い と い う 要 素 が 私 の 心 に 響 い て い た 。 だ か ら ,
俗 世 間 的 な も の で は い け な か っ た の だ と 思 う ( A 氏 内 省 ,1-6,調 査 ・ 感 覚 )。 天 使 は ,神 の
使 い と い う 聖 な る も の と い う 特 性 と ,船 の 代 り と し て ,進 ん で い く と い う 特 性 の 両 方 を
兼ね備えたミニチュアであることが示された。
次 に ,「 白 」と い う 色 に つ い て の A 氏 の 主 観 的 体 験 に つ い て の 内 省 を 記 す 。帆 船 の 玩 具
は あ っ た が ,帆 が 張 っ て い な い 。 白 い 色 ,真 っ 白 な 帆 が 風 を は ら ん で 進 む と こ ろ が 作 り た い
の に そ れ が な い ( A 氏 内 省 ,1-6,制 作 ・ 意 図 ) , 白 い 帆 ,真 っ 白 な も の が 今 の 私 に は ぴ っ た
り く る の に 。白 い 天 使 に は 羽 が あ り ,空 を 飛 ん で い る よ う な 形 。飛 ん で い る よ う な そ の 様 子 ,
進 ん で い く 様 子 に 心 が 引 か れ る ( A 氏 内 省 ,1-6,制 作 ・ 感 覚 )。 箱 庭 制 作 過 程 6 で A 氏 は ,
白い帆を備えた船を探していた。白い帆が風をはらんで進むところが作りたかった。しか
し ,そ の よ う な 船 が な か っ た た め ,白 と い う 色 と 飛 ん で 進 ん で い く 様 子 を 兼 ね 備 え た 天 使 を
代 り に 選 ん だ 。 白 い 色 に つ い て ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 し た 。 「白 」い 色 を 求 め て い た 。
白 は 始 ま り の 色 。 準 備 し て い な い ,こ れ か ら い ろ い ろ な 色 に 変 わ っ て い く 可 能 性 の あ る 色 。
い つ も は い ろ い ろ な こ と を 準 備 し た り ,前 も っ て 備 え た り し て い る 私 が ,今 日 は 何 も 準 備 を
し な い ,ま っ さ ら な 気 持 ち で こ の 製 作 の 場 に 臨 ん で い る 。そ の こ と が 私 に は 新 鮮 に 感 じ ら れ
た ( A 氏 内 省 ,1-6,調 査 ・ 意 味 )。 白 い 天 使 が も つ 属 性 の 中 で , 「 白 」 と い う 色 も A 氏 に と
っ て 重 要 で あ っ た こ と が 記 さ れ て い る 。天 使 の 白 い 色 に 関 連 し て ,箱 庭 制 作 面 接 の 初 回 を
迎 え る ま で の 自 分 の 心 境 や 行 動 が 記 さ れ た 。 そ し て ,い つ も と は 違 う 自 分 の 心 境 や 行 動
を 新 鮮 に 感 じ た 。 い つ も と は 違 う 心 境 や 行 動 へ の 気 づ き を 通 し て ,A 氏 は 自 己 理 解 を 深
め て い っ た ,と 捉 え る こ と が で き る 。 ま た ,こ れ か ら い ろ い ろ な 色 に 変 わ っ て い く 可 能 性
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の あ る 色 と い う 記 述 に は ,こ れ か ら 進 ん で い く 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 自 分 の 変 化 へ の
期待が伺える。
上 記 A 氏 の 主 観 的 体 験 の 記 述 を 総 合 す る と ,白 い 天 使 は ,a.神 の 使 い と い う 聖 な る も の と
い う 特 性 と ,b.進 ん で い く と い う 特 性 c.始 ま り の 色 で あ り ,こ れ か ら い ろ い ろ な 色 に 変 わ っ
ていく可能性のある色という特性が重ね合わされたミニチュアであることがわかる。その
内 ,b と c と を 考 え あ わ せ る と ,初 回 の 箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,ま っ さ ら な 気 持 ち で ,始 ま り を
迎 え た A 氏 が ,こ れ か ら の 箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,進 ん で い く 中 で ,こ れ か ら い ろ い ろ な 色
に変わっていく可能性を感じたという内的プロセスが集約されていると解釈することがで
き る 。ま た は ,白 い 天 使 か ら そ の よ う な 一 義 的 で な い 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ た 。A 氏 が 多
義 的 に 意 味 づ け た と 捉 え る こ と も で き よ う 。 [ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ]が 関 与 す る 構 成 や そ の
語り・内省を通して, A 氏は初回を迎えた自己の内的プロセスへの理解を深めることがで
きたと考えることができる。
先 に 記 し た よ う に , 白 い 天 使 は ,実 際 に は 選 ば れ な か っ た 。す る と ,白 い 天 使 の ,a.神 の 使
い と い う 聖 な る も の と い う 特 性 と ,b.進 ん で い く と い う 特 性 c.始 ま り の 色 で あ り ,こ れ か ら
いろいろな色に変わっていく可能性のある色という特性はどのように表現されたのだろう
か ? こ の 点 に つ い て , A 氏 の 直 接 的 な 言 及 は な い た め ,以 下 は 筆 者 の 推 測 で あ る 。
A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,砂 箱 左 奥 に ,制 作 過 程 10 で 「白 と あ わ い 青 色 の 家 」(「」内 は
内 省 報 告 の 箱 庭 制 作 過 程 の 内 容 に 関 す る A 氏 の 記 述 )が ,制 作 過 程 11 で 淡 い 青 と 白 の マ リ
ア 像 が 置 か た 。 そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 内 省 報 告 に ,青 白 く か す ん だ よ う な 色 が ,森
の 奥 深 く の ひ そ や か な 家 と そ れ を 守 る 聖 母 の よ う ( A 氏 内 省 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て , 自 発 ・
感 覚 ),私 の 中 に は 意 外 に 宗 教 性 が 根 付 い て い る の か も し れ な い( A 氏 内 省 ,1-11,調 査・意
味 ) と 記 さ れ た 。 白 い 天 使 の ,a.神 の 使 い と い う 聖 な る も の と い う 特 性 は , 宗 教 性 の 特 質 を
もつ淡い青と白のマリア像によって表現されたと考えることができるかもしれない。
また, 箱庭制作過程 8 で置かれた乳白色のイルカについての内省報告にイルカの位置は,
い よ い よ 始 ま っ た 箱 庭 制 作 に 取 り 組 む 私 の 心 と 同 調 し て い る よ う だ 。 現 実 (陸 )か ら の 距 離
はまだそんなに離れていない。イルカの進む方向はまだしっかりと定まったわけではない
よ う に も 感 じ る ( A 氏 内 省 ,1-8,制 作 ・ 連 想 ) と 記 さ れ た 。 白 い 天 使 の ,b.進 ん で い く と い
う 特 性 c.始 ま り の 色 で あ り ,こ れ か ら い ろ い ろ な 色 に 変 わ っ て い く 可 能 性 の あ る 色 と い う
特 性 は ,乳 白 色 の イ ル カ に よ っ て ,表 現 さ れ た と 考 え る こ と が で き る か も し れ な い 。
白 い 天 使 の 多 義 的 な イ メ ー ジ が ,淡 い 青 と 白 の マ リ ア 像 と 乳 白 色 の イ ル カ に よ っ て 表 現
さ れ た か も し れ な い と い う の は ,あ く ま で も 筆 者 の 推 測 に す ぎ な い 。 し か し ,こ の 推 測 が 的
を 射 て い る な ら ば ,実 際 に は 選 ば れ な か っ た あ る ミ ニ チ ュ ア に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス が ,他 の
複 数 の ミ ニ チ ュ ア に よ っ て 分 担 さ れ 表 現 さ れ る ,あ る い は ,箱 庭 制 作 者 の 多 面 的 な 内 的 プ ロ
セスが複数のミニチュアに分け与えて表現される場合があることが示唆されたと解釈でき
る。
◆ 具 体 例 14: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11
A 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,砂 箱 左 上 に 土 偶 や 埴 輪 を 置 い た 。 調
査 的 説 明 過 程 で , A 氏 は ,土 偶 や 埴 輪 は ,い の ち な の だ が ,半 分 い の ち で は な い も の で も あ
り ,人 間 で は な い い の ち に な っ て い る ,語 っ た (p.42 ◆ 具 体 例 12 参 照 )。 ま た ,内 省 報 告 に ,
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土 偶 も い の ち の 表 現 だ と 思 っ て い た が ,ふ も と に 置 い た こ と で ,い の ち と し て の 人 間 の 代 わ
り の よ う で も あ る し ,山 の 番 人 の よ う な 気 も し て き た( A 氏 内 省 ,2-11,制 作 ・ 感 覚 )と 記 さ
れ た 。第 2 回 ふ り か え り 面 接 で は ,[土 偶 は だ い ぶ 神 様 の 方 に 近 い ],と 語 っ た 。ま た , 山 に 関
し て 第 2 回 ふ り か え り 面 接 で ,[信 仰 の 対 象 に な る よ う な お 山 の イ メ ー ジ が あ り ま し た ね 。
そ う す る と ,お 山 の ふ も と に 土 偶 達 は い か に も ふ さ わ し い 。ち ょ う ど 山 と 平 地 と の ち ょ う ど
境 目 辺 り に 居 て く れ る と ,ち ょ う ど こ ろ あ い が い い ],と 語 っ た 。
こ の よ う に 土 偶 や 埴 輪 は ,多 義 的 な イ メ ー ジ を も っ た ミ ニ チ ュ ア で あ る こ と が 語 り , 記 さ
れ た 。命 が 主 な テ ー マ と な っ た A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,A 氏 の 10 回 に 亘 る 箱 庭 制 作 面
接 全 体 の テ ー マ の 一 つ で あ る ,宗 教 性 (命 ,守 り ,神 聖 な 場 所 ・ 生 き 物 )に 関 す る 面 接 の 展 開 に
お い て 重 要 な 回 で も あ っ た 。A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 に は ,◆ 具 体 例 14 以 外 に も ,ま だ 形 を
も た な い 抽 象 的 な 命 (石 ),生 命 感 を 感 じ さ せ る 命 ,半 分 命 で は な い 神 様 に 近 い 命 と い う よ う
に ,命 の 多 様 な 様 相 が 表 現 さ れ て お り ,こ の 回 の 作 品 の 主 な テ ー マ は 命 で あ る と 捉 え ら れ た
(pp.36-37 ◆ 具 体 例 8 参 照 )。 土 偶 や 埴 輪 は ,A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の テ ー マ を 構 成 す る
重 要 な ミ ニ チ ュ ア の 一 つ で あ っ た 。土 偶 や 埴 輪 を 巡 る 制 作 中 の 内 的 プ ロ セ ス ,説 明 過 程 で の
語 り ,内 省 報 告 と そ の 語 り を 通 し て , A 氏 は 自 分 の 中 に あ る 多 義 的 な イ メ ー ジ や 重 要 な テ
ー マ に つ い て ,理 解 を 深 め て い っ た 。こ の よ う に A 氏 は [ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ]の 表 現 ,そ の
表 現 に つ い て 語 り や 内 省 を 通 し て ,自 己 理 解 を 深 め て い っ た と 考 え る こ と が で き る 。
こ の よ う に (1)の 具 体 例 は ,イ メ ー ジ の 集 約 性 に 関 す る 主 観 的 体 験 が 示 さ れ て い る と 考 え
ら れ る (河 合 隼 雄 ,1969,pp.17-18)。A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 天 使 は , a .神 の 使 い と い う 聖
な る も の と い う 特 性 と ,b.進 ん で い く と い う 特 性 c.始 ま り の 色 で あ り ,こ れ か ら い ろ い ろ な
色に変わっていく可能性のある色という特性が集約されていた。A 氏第 2 回箱庭制作面接
の 土 偶 や 埴 輪 に は ,土 偶 や 埴 輪 は ,い の ち を も っ て い る 人 ,半 分 い の ち で は な い も の , 人 間 で
は な い い の ち に な っ て い る 存 在 と い う よ う に ,い の ち を 巡 る 多 義 的 な イ メ ー ジ が 集 約 さ れ
て い た 。河 合 隼 雄 (1967)は , イ メ ー ジ の 特 性 の 一 つ と し て ,集 約 性 を 挙 げ , 一 つ の イ メ ー ジ
が ,そ れ を 取 り ま く 様 々 な 感 情 を 伴 っ て ,多 く の 事 柄 を 集 約 し て い る 例 を 挙 げ て い る
(pp.117-119)。(1)の 具 体 例 は ,河 合 が 述 べ る イ メ ー ジ の 集 約 性 を 箱 庭 制 作 者 が 体 験 し て 語 っ
た も の で あ る ,と 考 え ら れ る 。 あ る い は ,一 義 的 で は な い 内 的 プ ロ セ ス が ミ ニ チ ュ ア か ら 喚
起 さ れ た り ,一 義 的 で は な い 内 的 プ ロ セ ス を 箱 庭 制 作 者 が ミ ニ チ ュ ア に 付 与 し た と 解 釈 す
ることもできる。
(2)箱 庭 制 作 者 と ミ ニ チ ュ ア と の 関 係 性 に お け る 多 義 性 の 結 果 お よ び 考 察
(2)の 具 体 例 は , 箱 庭 制 作 者 と ミ ニ チ ュ ア の 関 係 性 に つ い て の 多 義 性 が 示 さ れ た 。 以 下 に
具体例を挙げる。
◆ 具 体 例 15: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1
A 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で ,棚 に 置 か れ た 鳥 の 巣 を 手 に と り ,12 秒
ほ ど じ っ と 見 る が ,そ れ を 選 ば ず ,棚 に 戻 し た 。そ の 卵 が 入 っ た 鳥 の 巣 に つ い て ,内 省 報 告 に ,
自 分 は 巣 の 中 で 守 ら れ て い る よ う な 気 も す る し ,巣 を 守 っ て い る 存 在 の よ う に も 感 じ る( A
氏 内 省 ,1-1,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 自 分 自 身 と 鳥 の 巣 と い う ミ ニ チ ュ ア と は ,守 り ・ 守 ら
れ る と い う 両 方 の 意 味 が と も に あ て は ま る よ う な 関 係 で あ る と ,A 氏 は 感 じ て い る こ と が
記された。この具体例の場合,守られるという感覚は,鳥の巣の中にある卵のことを指し
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て い る ,と 捉 え ら れ た 。こ の 具 体 例 で ,多 義 的 で あ る の は ,箱 庭 制 作 者 と ミ ニ チ ュ ア の 関 係 性
で あ っ た 。 こ の よ う に (2)で は ,多 義 性 が ミ ニ チ ュ ア と 制 作 者 自 身 と の 関 係 性 に お い て 語 ら
れ て い る 点 に お い て ,(1)と の 差 異 が あ っ た 。イ メ ー ジ に 集 約 さ れ た 多 様 な 事 柄 の 内 ,ミ ニ チ
ュ ア と 箱 庭 制 作 者 自 身 の 関 係 に 焦 点 化 さ れ た ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り で あ る と 捉
えられる。
こ の 鳥 の 巣 は ,A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で も 使 用 さ れ ,A 氏 が 自 分 の 女 性 性 ・ 母 性 に つ い
て 大 き な 気 づ き を え る 重 要 な ミ ニ チ ュ ア と な っ た (pp.29-30 ◆ 具 体 例 4 と 5 参 照 )。第 1 回
箱 庭 制 作 面 接 で は ,海 の 構 成 が 主 要 な テ ー マ の 一 つ と な り ,そ の よ う な 構 成 の 中 で ,ぴ っ た
り こ な い と A 氏 は 感 じ た た め ,鳥 の 巣 は 選 ば れ な か っ た が (pp.125-126 ◆ 具 体 例 90 参 照 ),
◆ 具 体 例 15 は ,A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 を 経 て ,後 か ら ふ り か え れ ば ,A 氏 が 自 分 の 女 性 性・
母性を重要なテーマとしていった萌芽であったと解釈できる。この萌芽が継続的な箱庭制
作 面 接 を 通 し て ,発 展 し , A 氏 の 自 己 理 解・自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 し た と 解 釈 す る こ と が で
き よ う 。 こ の よ う に 箱 庭 制 作 者 と ミ ニ チ ュ ア と の 関 係 性 に お け る [ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ]は
箱庭制作面接の促進機能として働く。
2)[ミ ニ チ ュ ア に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 へ の 気 づ き ]の 結 果 お よ び 考 察
[ミ ニ チ ュ ア に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 へ の 気 づ き ]に つ い て ,結 果 お よ
び 考 察 を 記 述 し て い く 。 [ミ ニ チ ュ ア に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 へ の 気 づ
き ]は ,「あ る ミ ニ チ ュ ア か ら ,自 己 イ メ ー ジ ,自 己 の 心 理 的 状 況 や 特 性 に 気 づ く 内 的 プ ロ セ
ス 」と 定 義 さ れ た 。 [ミ ニ チ ュ ア に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 へ の 気 づ き ]は ,
両 氏 の 語 り に 頻 出 す る と と も に ,A 氏 の 「質 的 研 究 に よ る 系 列 的 理 解 」(Ⅺ 章 )で 示 さ れ る よ う
に ,自 己 像 の 変 遷 が 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス や 箱 庭 制 作 面 接 の 展 開 に 重 要 な 意 味 を も っ
た た め ,独 立 し た 概 念 と し て 生 成 す る こ と と し た 。
◆ 具 体 例 16: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 13
A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 13 で ,砂 箱 奥 中 央 に あ る 亀 の 頭 を 陸 に 向 か う
向 き か ら 沖 に 向 か う 向 き に 置 き 換 え た 。 A 氏 は ,そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,調 査 的 説 明 過
程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。1 回 目 の イ ル カ が 亀 に な っ た な っ て い う 感 じ (中 略 )そ っ ち の 方
が ,イ ル カ ,ま ,イ ル カ は ,ま ,私 だ っ た ん で す け ど ね ,前 も 。 こ れ も 亀 は 私 だ ろ う な と 思 い ま
す け ど ,こ の ほ う が 等 身 大 の 感 じ が し て ,は ぁ ,ぴ っ た り き ま す( A 氏 調 査 ,3-13)。内 省 報 告
に 泳 い で い く も の ,進 ん で い く の は わ た し だ と 感 じ て い る 。で も そ れ が イ ル カ で な く な っ て ,
な ぜ 亀 に な っ た の か ,よ く 分 か ら な い ( A 氏 内 省 ,3-13,調 査 ・ 感 覚 ) ,イ ル カ か ら 亀 に , 何
が 変 化 し た の か ,と 思 う 。箱 庭 制 作 も 3 回 目 に な り , あ ま り 自 分 を 飾 ら な く て も い い と 思 え
る よ う に な っ た の か 。陶 器 の イ ル カ は ち ょ っ と 作 り 物 っ ぽ く て ,ち ょ っ と い た い け な 感 じ が
し て ,か わ い ら し く 装 っ て い る よ う な 気 が し て ,置 け な か っ た 。置 き た く な か っ た ? 今 は こ
の 亀 が 頼 も し い ( A 氏 内 省 ,3-13,調 査 ・ 意 味 ) と 記 し た 。 等 身 大 ,泳 い で い く も の ,進 ん で
い く も の と い う イ メ ー ジ が ,現 在 の 自 己 の イ メ ー ジ と し て 明 確 に 語 ら れ ,記 さ れ て い る 。 ま
た ,亀 が 頼 も し い と 明 確 に 語 ら れ て い る 。 亀 と い う ミ ニ チ ュ ア を 巡 る ,箱 庭 制 作 中 の 内 的 プ
ロ セ ス や そ の 語 り ,内 省 を 通 し て ,A 氏 は 現 在 の 自 己 イ メ ー ジ へ の 理 解 を 深 め る こ と が で き
た ,と 捉 え る こ と が で き る 。
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し か し ,イ ル カ か ら 亀 に 変 化 し た 理 由 は わ か ら な い ,と も 記 さ れ て い る 。 自 分 を 飾 ら な く
て も い い と 思 え る よ う に な っ た か ら か ,と 自 己 像 が 亀 に 変 わ っ た こ と の 要 因 に 関 し て ,曖 昧
さ が 残 る 記 述 と な っ て い る 。 こ の 具 体 例 に お い て ,自 己 像 は ,等 身 大 の 感 じ と い う ぴ っ た り
感 に 基 づ い て 選 択 さ れ た た め ,自 己 像 の 変 化 の 意 味 は A 氏 に と っ て 明 確 に な ら な か っ た の
だ と 理 解 で き る 。 変 化 の 理 由 は 明 確 で な い も の の ,自 己 を 表 す ミ ニ チ ュ ア の 変 化 は , 自 己 イ
メ ー ジ ま た は ,自 己 の 装 い 方 の 変 化 が 関 与 し て い る ,と 捉 え る こ と が で き よ う 。
◆ 具 体 例 17: B 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1,18∼ 20
B 氏は第 8 回箱庭制作面接の箱庭制作過程 1 で砂箱左側に船出しようとしている船を置
い た 。制 作 過 程 17 で 頭 を か く 人 形 を 選 び ,制 作 過 程 18 で 砂 箱 中 央 左 寄 り に そ れ を 置 い た 。
制 作 過 程 19 で 天 使 に 導 か れ る 子 ど も を 選 び ,制 作 過 程 20 で そ れ を 置 い た (B 氏 の 箱 庭 作 品
の 写 真 は 資 料 4 を 参 照 )。 そ れ ら の ミ ニ チ ュ ア に つ い て ,B 氏 は ,こ の 船 と (B 氏 自 発 ,8-1)こ
の 人 形 と (B 氏 自 発 ,8-18)こ の ま あ ,こ こ で は 子 ど も な ん で す け ど ,人 ,人 は , (B 氏 自 発 ,8-19)
今 の そ の ,自 分 の ,そ の ,自 画 像 っ て い う か ,そ の よ う な と こ ろ が あ っ て (B 氏 自 発 ,8- 複 数 過
程 に亘 って)(中 略 )船 で 航 海 し て い く っ て い う こ と ,な ん で す け ど も (B 氏 自 発 ,8-1)と 語 っ た 。
ま た ,先 に 何 が あ る の か な と か っ て い う と こ ろ を ,の ぞ き 見 る っ て い う と こ ろ な ん だ け ど も ,
や あ あ ,困 っ た こ と に な っ た な ー と い う 自 分 自 身 も あ る し ,(B 氏 自 発 ,8-19)(中 略 )心 配 せ ず
に ,( 中 略 ) 導 か れ る ま ま に 行 き な さ い っ て い う よ う な ,あ の , そ う い っ た も の も 感 じ る し っ
て い う 中 で (B 氏 自 発 ,8-19)と 語 っ た 。第 8 回 ふ り か え り 面 接 で は ,制 作 過 程 1 に つ い て ,[船
出 を し て い く イ メ ー ジ と い う も の が ,船 を 見 た 中 で 湧 き ま し た ]と 語 ら れ た 。 制 作 過 程 17∼
制 作 過 程 19 に つ い て 以 下 の よ う に 語 ら れ た 。[人 を 導 く 天 使 の 人 形 を 選 ぶ っ て い う こ と で ,
迷 い と い う と こ ろ か ら ま た 広 が っ て い っ た こ と に よ る ん で す け ど も ,意 図 と し て ,不 思 議 な
導 き と 信 頼 っ て い う こ と で ,( 中 略 ) 連 想 と し て は , い ろ い ろ 迷 っ て て も し ょ う が な い と い う
こ と で ,委 ね る っ て い う ]。
船 ,ル ー ペ を 覗 く 頭 を か く 人 形 ,天 使 に 導 か れ る 子 ど も が 自 己 像 の 表 現 で あ っ た 。 こ の よ
う に ,一 つ の 箱 庭 作 品 の 中 に ,複 数 の 自 己 像 が 置 か れ る 場 合 が あ る 。河 合 隼 雄 (1969)は ,箱 庭
表 現 に お け る 自 己 像 の 問 題 は 複 雑 で あ る と す る 。自 己 像 に は ,意 識 的 に 明 確 に 把 握 さ れ た も
の ,理 想 像 や 未 来 像 ,無 意 識 的 に 生 じ て く る 面 な ど を 含 む 場 合 が あ り ,ま た ,そ れ ら が 関 連 し
て い る た め に 複 雑 に な る と す る (p.42)。 こ の 具 体 例 で は , 自 発 的 説 明 過 程 と 第 8 回 ふ り か
え り 面 接 の 語 り を 総 合 す る と ,船 を 見 る 中 で ,自 分 が 船 出 を し て い く イ メ ー ジ が 喚 起 さ れ た ,
と理解できる。船はミニチュアによって喚起された自己イメージであることがわかる。ル
ー ペ を 覗 く 頭 を か く 人 形 に 関 し て は ,イ メ ー ジ が 付 与 さ れ た の か ,喚 起 さ れ た の か は 明 確 で
は な い が ,少 な く と も そ の よ う な 自 己 イ メ ー ジ が あ る こ と は 明 確 に 認 識 さ れ て い る 。 第 8
回 ふ り か え り 面 接 の 語 り に よ る と ,人 を 導 く 天 使 の 人 形 は ,迷 い を 表 す 頭 を か く 人 形 か ら ,
イ メ ー ジ が 広 が っ て い き ,選 ば れ た こ と ,い ろ い ろ 迷 っ て て も し ょ う が な い と い う こ と で ,
委 ね る と い う 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ た こ と が わ か る 。B 氏 は こ の 複 数 の 自 己 像 の 表 現 と ,
そ れ ら を 自 己 像 と し て 認 識 す る こ と を 通 し て ,自 己 を 多 面 的 に 理 解 す る こ と が で き た ,と 捉
えることができる。
◆ 具 体 例 18: A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 調 査 的 説 明 過 程 で の 置 き か え
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第 7 回箱庭制作面接の調
査的説明過程で,A 氏は,
作品に愛着が湧かないと語
った。A 氏の残念な思いが
筆者に伝わってきたため,
筆 者 は ,そ の 思 い を 共 感 的
に理解すると共に, 愛着が
湧く作品に修正できないか
と思い, A 氏が残したいミ
ニ チ ュ ア を 残 し ,他 は 片 付
ける再構成の提案をした。
A 氏はそれに合意した。A
氏は調査的説明過程での置
き か え の 最 後 に ,砂 箱 右 側
の岬に置かれたカメの頭の向
写 真 11
A 氏第 7 回再構成後の作品
き を 変 え た り ,内 陸 部 や 海 に
置 い て み た り ,カ メ を 取 り 除 い た り し た (写 真 11)。 そ し て ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 う ん 。 や
っ ぱ り 今 日 は 休 憩 。< う ん ,休 憩 し よ か > う ん で も ,あ の 亀 ,割 と い い で す 。< あ ,ほ ん と
> う ん 。 あ れ は あ れ で い い ん で す け ど , あ は は ( 笑 ), 休 憩 中 っ て い う 感 じ 。 < あ ぁ , 亀 。
亀 が > そ う そ う 。< あ あ ,ほ ん と > 多 分 私 も そ う な ん で し ょ う ね 。そ う い う 感 じ( A 氏 ,7調 査 ,調 査 的 説 明 過 程 で の 置 き か え )。カ メ の 位 置 や 向 き ,亀 を 置 く か 置 か な い か を 照 合 す る
こ と を 通 し て ,亀 は 休 憩 中 で あ り ,多 分 今 の 自 分 も そ う な ん だ ろ う と い う A 氏 の 心 理 的 状 況
が 喚 起 さ れ た 。 こ の 具 体 例 で は , A 氏 は 亀 の ミ ニ チ ュ ア を 通 し て ,今 の 自 分 の 心 理 的 状 況 を
理 解 で き た ,と 考 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 19: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11
A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,海 に ,サ メ (砂 箱 右 上 )や シ ャ チ (砂 箱 中
央 右 寄 り )を 置 い た 。 こ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程 で は 以 下 の よ う に 語 ら れ
た 。こ の 辺 の 生 き 物 た ち は 全 部 こ う 海 の 中 で こ う ゆ ら ゆ ら 泳 い で い る っ て い う か ,何 気 な ー
い 風 に ,置 い た つ も り な ん で す け ど ( A 氏 自 発 ,3‐ 11)。 そ し て ,調 査 的 説 明 過 程 で は ,食 物
連 鎖 で い う と 上 の ほ う に な る と 思 う ん で す け ど ,割 と ,< そ う だ ね ,そ う だ ね > そ ん な の 意
識 し て ,< は ぁ ん > 海 に も い る し ,< ふ う ん > 私 の 中 に も あ る し と 思 っ て ,い ま す ね( A 氏 調
査 ,3‐ 11) と 語 っ た 。 調 査 的 説 明 過 程 の 語 り で は , 食 物 連 鎖 の 割 と 上 の 方 に な る と い う 特
性 は ,サ メ や シ ャ チ の 特 性 で も あ り ,同 時 に 自 分 の 特 性 で も あ る と い う 認 識 が 語 ら れ た 。 こ
の 具 体 例 で は ,A 氏 は こ の 構 成 を 行 い ,調 査 的 説 明 過 程 で 構 成 に つ い て 語 る こ と を 通 し て ,自
己理解を深めることができたと考えられる。
◆ 具 体 例 18 と 19 で は ,ミ ニ チ ュ ア と 自 己 は 同 一 視 さ れ て い な い 。◆ 具 体 例 18 は ,休 憩 中
の カ メ と い う 感 じ か ら ,自 分 の 心 理 的 状 況 が 連 想 さ れ た と 理 解 で き る 語 り で あ る 。◆ 具 体 例
19 の 自 発 的 説 明 過 程 の 語 り で は ,サ メ や シ ャ チ は ,ま さ に 海 の 生 き 物 と し て 認 識 さ れ て い
た 。 こ の 具 体 例 で は ,サ メ や シ ャ チ は 自 己 と 同 一 化 し て 捉 え ら れ て い る の で は な く , そ の 特
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性 は サ メ に も 自 分 に も あ る と し て ,別 箇 の 存 在 で あ り つ つ ,共 通 性 を も つ も の と し て ,箱 庭
制 作 者 に 捉 え ら れ て お り ,ミ ニ チ ュ ア は 自 己 と 同 一 視 さ れ な い 。 こ の 点 は ,自 己 イ メ ー ジ の
具 体 例 と し て 示 し た A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 亀 の ◆ 具 体 例 16 や B 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面
接 の ◆ 具 体 例 17 と の 差 異 と 言 え よ う 。
A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の ◆ 具 体 例 16 で は ,変 化 の 理 由 は 明 確 で な い も の の ,自 己 を 表 す
ミ ニ チ ュ ア の 変 化 は ,自 己 イ メ ー ジ ま た は ,自 己 の 装 い 方 の 変 化 が 関 与 し て い る ,と 捉 え る
こ と が で き た 。 ま た ,本 項 の ◆ 具 体 例 16∼ 19 で は ,箱 庭 制 作 者 が ミ ニ チ ュ ア を 通 し て ,自 己
イ メ ー ジ ,自 己 の 心 理 的 状 況 や 特 性 へ の 自 己 理 解 を 深 め る こ と が で き た ,と 考 え る こ と が で
き た 。 こ の よ う に [ミ ニ チ ュ ア に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 へ の 気 づ き ]は ,
箱庭制作面接の促進機能として働くと考えられる。
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Ⅵ 章 . M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ② 【 内 界 と 構 成 の 交 流 】 の 結 果 お よ び 考 察
本 章 で は , M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ② 【 内 界 と 構 成 の 交 流 】 の 結 果 お よ び 考 察 を 記 す 。
②【 内 界 と 構 成 の 交 流 】は ,『 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 』内 の『 制 作 過 程 』に お け る 「内 界 」
と 「 構 成 」 と の 交 流 に 関 す る カ テ ゴ リ ー で あ る (図 5)。 「内 界 」と 「構 成 」は ,交 流 し ,双 方 向
で 影 響 を 与 え あ っ て い る 。 そ れ に は ,1)「構 成 」か ら 「内 界 」へ の 影 響 ,2)「内 界 」か ら 「構 成 」へ
の 影 響 ,3)「内 界 」と 「構 成 」と の 双 方 向 の 影 響 が あ っ た 。
1)に は ,概 念 [構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]が あ っ た 。 2)に は , 概 念 [構 成 に 付 与
さ れ た 内 的 プ ロ セ ス ], 概 念 [内 的 プ ロ セ ス の 構 成 へ の 影 響 ]が あ っ た 。
3)に は ,3 カ テ ゴ リ ー と 10 概 念 が あ っ た 。 カ テ ゴ リ ー ≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫
内 に ,カ テ ゴ リ ー < イ メ ー ジ の 自 律 性 > が あ り ,そ の 中 に 概 念 [作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧
い て く る ]が あ っ た 。< イ メ ー ジ の 自 律 性 > と は 別 に , ≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ 内
に は 2 概 念 [イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス ],[非 意 図 的 な 構 成 を 基 に ,
意 図 的 に 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]が あ っ た 。
ま た , カ テ ゴ リ ー < 創 造 を め ぐ る 肯 定 的 感 情 と 否 定 的 感 情 > 内 に ,2 概 念 [ 創 造 の 歓
び ],[作 品 に 対 し て ,否 定 的 な 感 情 や 感 覚 を も つ プ ロ セ ス ]が あ っ た 。< 創 造 を め ぐ る 肯 定 的
感 情 と 否 定 的 感 情 > は 2 概 念 [創 造 の 歓 び ]と [作 品 に 対 し て ,否 定 的 な 感 情 や 感 覚 を も つ プ
ロ セ ス ]を 包 括 す る カ テ ゴ リ ー と し て ,理 論 的 に 生 成 し た 。
そ れ ら の カ テ ゴ リ ー と は 別 に ,「 内 界 」と 「構 成 」と の 双 方 向 の 影 響 と し て ,5 概 念 [構 成 に
よ る 表 現 の 多 義 性 ],[他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 ],[ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ な い 領 域 に つ い て の
意 図 や 感 覚 ],[構 成 に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 の 表 現 ],[不 明 瞭 な 点 を 残 し
つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ],が あ っ た 。
②【内界と
構成の交流】
内の具体例の
一 部 は ,④【 内
界と装置と構
[構成により喚起
される
内的プロセス]
≪創造における受動性と能動性≫
<イメージの自律性>
[作品の今後のイメージが湧いてくる]
成の交流】を
重複している
場合がある。
そ れ は ,箱 庭
制作面接にお
ける構成では
構成
[イメージや感覚が出てくるのを待つ内的プロセス ]
[非意図的な構成を基に,意図的に構成する
内的プロセス]
内界
<創造をめぐる肯定的感情と否定的感情>
[創造の歓び]
[作品に対して、否定的な感情や感覚をもつプロセス]
装置を用いる
ためである。
構 成 に は ,a.
内界からイメ
[構成による表現の多義性]
[他の領域の構成への影響]
[ミニチュアが置かれない領域についての意図や感覚]
[構成による自己のイメージや心理的状況や特性の表現]
[不明瞭な点を残しつつ構成する内的プロセス]
ージや感覚な
どが湧き上が
っ て き て ,そ
れに基づいて
図 5
②【内界と構成の交流】
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[構成に付与された
内的プロセス]
[内的プロセスの
構成への影響]
形 作 り た い ,形 作 ろ う と す る 段 階 と ,b.ミ ニ チ ュ ア や 砂 と い う 装 置 を 用 い て 実 際 に 形 作 っ て
い く 段 階 が あ る 。a の 場 合 ,基 本 的 に は 内 界 と 構 成 の み が 交 流 し て い る 具 体 例 が 多 い 。し か
し ,[構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]の 場 合 ,構 成 に 含 ま れ る 装 置 か ら の 影 響 が ま っ た
く な い と は 言 え な い 。ま た ,b の 場 合 ,装 置 を 用 い て 構 成 を 行 っ て い く た め ,よ り 装 置 と の 関
連 性 は 深 ま る 。 そ こ で ,② 【 内 界 と 構 成 の 交 流 】 内 の カ テ ゴ リ ー ,概 念 ,具 体 例 で は ,構 成 の
要 因 に 強 調 点 を 置 き ,そ の 点 を 中 心 に し て 理 論 生 成 さ れ た 。 つ ま り ,装 置 の 要 素 が 前 面 に く
る の で は な く ,構 成 の 要 素 が 前 面 に く る 主 観 的 体 験 の デ ー タ を 具 体 例 と し て 取 り 上 げ ,そ れ
を 基 に 理 論 生 成 し た 。し か し ,先 に も 述 べ た よ う に ,一 部 の 具 体 例 や そ の 検 討 で は ,装 置 に 関
する記述が含まれる場合がある。
以 下 に ,カ テ ゴ リ ー ,概 念 ,具 体 例 を 挙 げ ,② 【 内 界 と 構 成 の 交 流 】 で 見 い だ さ れ た 促 進 機
能について結果および考察を記す。
Ⅵ -1.「構 成 」か ら 「内 界 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
1)[構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
1)「 構 成 」 か ら 「内 界 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察 を 記 す 。 1)に は ,概 念 [構 成 に よ り 喚 起
さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]が 見 い だ さ れ た 。[構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]は ,「構 成 に よ
っ て 喚 起 さ れ た 感 覚 ,イ メ ー ジ ,感 情 ,考 え な ど の 内 的 プ ロ セ ス 」,と 定 義 さ れ た 。本 概 念 に は ,
非常に多くの具体例があった。データの一部が他の概念の具体例と重複している例も多々
あ っ た 。 本 節 で は ,で き る 限 り ,他 の 概 念 と 重 複 し て い な い 内 容 と 具 体 例 を 取 り 上 げ る 。
本 概 念 の 具 体 例 を 以 下 の 観 点 ・ テ ー マ ご と に 示 す 。 (1)あ る 構 成 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の
気 持 ち や イ メ ー ジ な ど の 内 的 プ ロ セ ス が 大 き く 変 化 す る 主 観 的 体 験 ,(2)構 成 さ れ た 位 置 や
向 き を 巡 る 主 観 的 体 験 ,(3)区 分 ,区 画 に 分 け る こ と を 巡 る 主 観 的 体 験 に つ い て の 具 体 例 を 示
し ,考 察 し て い く 。
(1)あ る 構 成 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 気 持 ち や イ メ ー ジ な ど の 内 的 プ ロ セ ス が 大 き く 変 化
する主観的体験の結果および考察
(1 )あ る 構 成 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 気 持 ち や イ メ ー ジ な ど の 内 的 プ ロ セ ス が 大 き く 変
化 す る 主 観 的 体 験 に つ い て ,具 体 例 を 以 下 に 記 す 。
◆ 具 体 例 20: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 12
A 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で 制 作 当 初 ,土 地 を 二 つ に 分 け た こ と に よ っ て ,苦 し さ や 寂
し さ を 感 じ た 。 ま た ,川 が 思 っ た 以 上 に 広 い こ と へ の 戸 惑 い や ,荒 涼 と し た 命 の な い 大 地 か
ら お そ ろ し さ を 感 じ て い た 。そ の 後 , A 氏 は ,箱 庭 制 作 過 程 12 で ,棚 に 青 い 鳥 を 見 つ け て ,白
い 石 の 上 に の せ た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て ,A 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語
っ た 。 実 は ず っ と 作 っ て る 最 中 な ん か ,こ う ,ど う し て い い ん だ ろ う と か ね < う ん > す ご い
苦 し い ん で す よ ね 。 < ふ ぅ ん > で ,あ の 青 い 鳥 を 見 つ け て ,置 い た 時 に あ あ よ か っ た と 思 い
ましたね。<ふぅん苦しさは>なくなりましたね<なくなった>はいほっとしました。あ
れ も ,何 か 他 の も の を 探 し に 行 っ て た ま た ま 眼 に 入 っ て 。 青 い 鳥 が あ あ ,こ れ だ ぁ ( 不 明 )
< ふ ぅ ん う ん う ん > も う ,で ,あ の 青 い 鳥 を 置 い た 段 階 で ほ と ん ど も う こ れ で い い か な ,完
成 に し て も い い か な 思 っ た ん で す け れ ど も( A 氏 自 発 ,2-12)。制 作 中 ,ず っ と 苦 し さ を 感 じ
て い た が ,青 い 鳥 を 見 つ け ,置 い た こ と で ,苦 し さ は な く な り ,ほ っ と し た こ と ,こ の 段 階 で
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完成にしてもいいかなと思ったという主観的体験が語られた。
◆ 具 体 例 21: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10,14,16
A 氏 は ,第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 制 作 開 始 後 26 分 58 秒 ∼ 29 分 36 秒 に か け て ,砂 箱 の 枠 に
両 手 を つ き ,砂 箱 を じ っ と 見 つ め て い た( 箱 庭 制 作 過 程 10)。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て 内
省 報 告 に ,こ の 箱 庭 が 私 の 作 り た か っ た も の な の か 。い っ そ こ れ を 壊 し て 初 め か ら や り 直 し
たいような気持ちもわいている。亀がまだ水路のごく始めにいることに違和感を抱く。ま
だ そ ん な と こ ろ に い る の か ,も っ と 進 ん で い か な い の は な ぜ か と ,責 め る よ う な い ら だ ち を
感 じ て い た ( A 氏 内 省 ,4-10,制 作 ・ 感 覚 ) と い う 主 観 的 体 験 を 記 し た 。
そ の 後 ,箱 庭 制 作 過 程 14 で は ,A 氏 は ,亀 が い る あ た り の 川 幅 を 広 げ て ,亀 を も っ と 進 め た 。
そ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て ,A 氏 は ,自 発 的 説 明 過 程 で だ け ど ( 間 6 秒 ) 亀 の 位 置 を 変 え
た ら 楽 に な り ま し た ね ( A 氏 自 発 ,4-14) と 語 っ た 。 内 省 報 告 に は な ん と な く ふ っ と , そ う
だ 亀 の 位 置 を 変 え た ら い い ん だ と 思 い つ く 。そ し て 少 し 進 め る と ,ち ょ っ と ほ っ と す る 。あ
ぁ ,こ こ ま で 進 ん で い る ん だ と い う( A 氏 内 省 ,4-14,制 作 ・ 感 覚 )と 記 し た 。ふ と ,亀 の 位 置
を 変 え る こ と を 思 い つ き ,亀 を 進 め る と , こ こ ま で 進 ん で い る ん だ と 感 じ ,楽 に な っ た こ と
が示された。
箱 庭 制 作 過 程 16 で ,A 氏 は ,亀 を も っ と 進 め て ,渦 巻 き の 全 行 程 の 6 割 ほ ど の 位 置 (右 側
中 央 部 )に 置 い た 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 16 に 関 し て ,A 氏 は ,自 発 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に
語 っ た 。 あ そ こ か ら こ こ に 移 す の は だ い ぶ 冒 険 だ っ た よ う な 気 が し て ま す 。 (中 略 )動 か し
て み た ら < ふ ん > 結 局 こ こ ま で 来 て し ま っ た し (中 略 )と に か く 亀 が 動 か せ た の で ,そ れ が ,
ち ょ っ と こ う ,ホ ッ と し た か な と い う 感 じ で す ね( A 氏 自 発 ,4-16)。ま た 調 査 的 説 明 過 程 で
は ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 だ か ら ,本 当 に 不 思 議 な ん で す け ど ,こ う ,箱 庭 の ア イ テ ム が 増 え
て い く と ,こ こ ま で や っ と 進 め ら れ た と い う か 。 < は ぁ ぁ ,ふ ん > 渦 だ け の 形 で ,そ の ,こ こ
だ け で き た 状 態 で < ふ ん ,ふ ん > 動 物 入 れ た と 思 う ん で す け ど ,そ こ で い き な り 亀 を こ こ に
は 置 け な か っ た ん で す よ ね 。 < ふ ん ,ふ ん > ( 間 4 秒 )( A 氏 調 査 ,4-8) 今 は こ の 辺 ,無 理 な
く こ の 辺 ,ひ ょ っ と し た ら も う ち ょ っ と こ う 向 こ う の 方 ま で 行 け る の か も っ て い う く ら い
( A 氏 調 査 ,4-16)。さ ら に 内 省 報 告 に ,亀 を 進 め る こ と に 抵 抗 が な く な っ て い る 。亀 は 自 分
で 進 ん で い く ( A 氏 内 省 ,4-16,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 A 氏 に と っ て ,亀 を 右 側 中 央 部 ま で
進 め る の は ,冒 険 だ っ た が ,こ の 位 置 に 移 動 し た こ と で ,A 氏 は ホ ッ と し た 。 そ の 移 動 は ,箱
庭 に ミ ニ チ ュ ア が 増 え た こ と に よ っ て ,可 能 と な っ た 。さ ら に ,亀 は 自 ら 進 ん で い き , も う ち
ょっと向こうまでいけるかもしれないという感覚をもつことができた。制作者が亀を進め
る と い う 感 覚 か ら ,亀 が 自 分 で 進 む と い う 感 覚 に 変 わ っ た こ と が 示 さ れ た 。
◆ 具 体 例 20 と 21 に は ,あ る 構 成 が き っ か け に な り ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 大 き く
変 化 す る 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 が あ っ た 。◆ 具 体 例 20 と 21 に 共 通 し て い る の は ,箱 庭 制
作 者 が 箱 庭 制 作 過 程 の あ る 時 点 ま で ,苦 し さ や い ら だ ち と い う よ う な 否 定 的 な 感 情 を 抱 い
て い る こ と で あ る 。箱 庭 制 作 過 程 に は ,意 識 が 関 与 し て い る 。し か し ,だ か ら と い っ て ,制 作
者 が 自 分 の 思 い 通 り に 作 品 を 構 成 し て い け る と は 限 ら な い 。A 氏 は ,◆ 具 体 例 20 で は ,ど う
し て い い ん だ ろ う と 考 え ,◆ 具 体 例 21 で は ,い っ そ こ れ を 壊 し て 初 め か ら や り 直 し た い よ う
な 気 持 ち が 湧 い て い た 。 し か し ,A 氏 は ,否 定 的 な 気 持 ち か ら 解 放 さ れ る 安 易 な 方 法 を と っ
て い な い 。A 氏 は ,自 分 が 作 っ た も の で あ り な が ら ,自 分 を 苦 し め た り ,い ら だ た せ た り す る
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構 成 に 対 し て も 真 摯 に 向 き 合 っ て い る と 考 え る こ と が で き る 。そ れ は A 氏 が 箱 庭 制 作 や 自
己 の 心 に 強 く ,真 摯 に コ ミ ッ ト し て い た ,と 解 釈 す る こ と が で き る だ ろ う 。 河 合 隼 雄 (河 合 ・
中 村 1984)は 箱 庭 制 作 者 の コ ミ ッ ト メ ン ト に つ い て 述 べ て い る 。 河 合 は 不 登 校 で あ る と 同
時に相当奇妙な行動をとる小学生男子が「骸骨城の戦い」というテーマの箱庭作品を置い
た 後 ,す ご く 改 善 さ れ た 事 例 を 示 す 。 そ し て ,そ の よ う な 表 現 が 可 能 と な っ た 一 因 と し て ,箱
庭 制 作 者 が「 髑 髏 の 手 が 動 く の を 感 じ た と い う く ら い の コ ミ ッ ト メ ン ト が あ っ て こ そ 可 能 」
と な っ た ,と 考 え て い る (pp.49-51)。A 氏 は ,箱 庭 制 作 や 自 己 の 心 に コ ミ ッ ト す る こ と に よ っ
て ,安 易 な 解 放 に 頼 ら ず ,そ の 状 況 に 直 面 で き た ,と 考 え る こ と が で き る 。
こ の よ う な コ ミ ッ ト メ ン ト を も っ て 箱 庭 制 作 や 自 己 の 葛 藤 に 向 き 合 う 中 で ,あ る 時 , 展 開
が 生 ま れ て く る 。そ し て ,展 開 を 生 ん だ き っ か け は 箱 庭 制 作 者 の 意 図 的 行 為 で は な い 。A 氏
第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,た ま た ま 眼 に 入 っ た 青 い 鳥 を 白 い 石 の 上 に の せ る こ と に よ っ て ,
A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,な ん と な く ふ っ と ,そ う だ 亀 の 位 置 を 変 え た ら い い ん だ と 思
い つ く こ と に よ っ て ,展 開 が 生 ま れ た 。 こ の よ う に ,ミ ニ チ ュ ア の 偶 然 の 発 見 や ふ と し た 思
い つ き が ,そ れ ま で の 否 定 的 な 感 情 を 大 き く 変 え る き っ か け と な っ て い る 。 A 氏 は ,そ の よ
う な き っ か け を と ら え て ,今 度 は ,意 図 的 に ,青 い 鳥 を 白 い 石 の 上 に の せ た り ,亀 を 進 め る と
い う 行 為 を 行 っ た 。 そ れ ら の 行 為 の 結 果 ,構 成 が 変 化 し た こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 内 的
プ ロ セ ス に も ま た ,大 き な 変 化 が 生 ま れ て い る 。
◆ 具 体 例 22: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 13
A 氏 は ,第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 13 で ,回 遊 し て い る シ ャ チ ,イ ル カ ,亀 を 見
つ め ,亀 の 頭 の 方 向 を 陸 側 か ら 海 の 沖 合 の 方 向 に 変 え た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て ,自 発
的 説 明 過 程 で ,い ろ い ろ 試 そ う と 思 っ て ,ふ っ と 亀 の 置 き 方 を 変 え た ら ば < う ん > あ ー ,急
に な ん か 違 う 感 じ に な っ て ,が ら り と 。 あ の あ ぁ ,沖 へ 出 て 行 く の も 気 分 が い い な と 思 っ て
< う ん う ん > 沖 へ 出 て 行 く 風 に 決 め ま し た ね ( A 氏 自 発 ,3-13) と 語 っ た 。 ま た ,内 省 報 告
に は ,そ れ ま で の ,亀 ・ イ ル カ ・シ ャ チ が 頭 を つ き 合 わ せ な が ら 回 遊 す る 形 は , な ん だ か ぬ る
ま 湯 に つ か っ て い る よ う な ,ぬ く ぬ く し て 幸 せ だ け れ ど ,で も あ え て 言 え ば 居 心 地 が 悪 い ,
落 ち 着 か な い 形 だ っ た 。 い つ ま で も 回 遊 し て ,3 頭 は 親 し そ う だ け れ ど も 先 に 進 め な い , 発
展 し な い ,自 分 た ち の 領 域 か ら 広 い 場 所 へ 出 て 行 け な い よ う な 感 じ 。凡 庸 さ に 埋 没 さ せ よ う
と す る よ う な ,お 互 い が お 互 い の 動 き を 規 制 し て い る よ う な ,輪 か ら は ず れ て 独 自 の 道 に 進
み 出 す の を 牽 制 し て い る か の よ う な 不 自 由 さ を 感 じ た 。そ の 輪 か ら は ず れ て ,自 分 の 道 を 進
み た い と 思 っ て い る ,独 自 性 を 発 揮 し た い と 思 っ て い る ,そ れ が 今 の 私 な の だ ろ う か ( A 氏
内 省 ,3-13,制 作 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。
A 氏 は ,第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,い ろ い ろ 試 そ う と 思 い ,ふ っ と 亀 の 向 き を 沖 合 の 方 向 に 変
え た 。す る と ,急 に ,が ら り と 違 う 感 じ に な っ た こ と ,沖 に 向 か う の も 気 分 が い い な と 思 っ た
こ と を 報 告 し て い る 。こ こ で は ,い ろ い ろ 試 そ う と す る 意 図 性 と ふ っ と と い う 言 葉 で 表 さ れ
る 非 意 図 性 の 両 方 が 構 成 の 変 化 に 影 響 し て い た ,と 考 え ら え る 。 そ れ ま で の 構 成 は ,ぬ く ぬ
く し て 幸 せ な 反 面 居 心 地 が 悪 い ,ま た ,親 し そ う な 反 面 お 互 い が お 互 い の 動 き を 規 制 し て い
る よ う な ,輪 と い う よ う に ,A 氏 に と っ て ア ン ビ バ レ ン ト な 感 覚 や 意 味 を 感 じ さ れ る も の で
あ っ た 。 構 成 の 変 化 に よ っ て ,輪 か ら は ず れ て ,自 分 の 道 を 進 み た い と い う 内 的 プ ロ セ ス が
生 じ た 。 こ の 具 体 例 で は ,構 成 の 変 化 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 生 き 様 の 変 化 に つ い て 気 づ き
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が も た ら さ れ た ,と 考 え る こ と が で き る 。 沖 へ 出 て 行 く の も 気 分 が い い な と 思 っ て (中 略 )
沖 へ 出 て 行 く 風 に 決 め ま し た ね と い う 語 り は ,主 語 が 途 中 で 変 化 し て い る ,と 読 み 取 る こ と
も で き る 。気 分 が い い な と 思 っ た の は 亀 で あ り ,沖 に 出 て い く 風 に 決 め た の は 箱 庭 制 作 者 で
あ る と 考 え る こ と も で き よ う 。 す る と ,こ の 構 成 は ,箱 庭 制 作 面 接 中 の 構 成 の 決 定 と 箱 庭 制
作者の生き方の選択とが密接に関連した主観的体験だと理解できる。
こ の よ う に ,構 成 に よ っ て 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 大 き く 変 化 す る 展 開 は ,「意 識 と
無 意 識 の 相 互 関 係 」(河 合 隼 雄 ,1967,p.114),「意 識 と 無 意 識 の 相 互 作 用 」(河 合 隼 雄 ,1967,
p.146),「意 識 と 無 意 識 ,内 界 と 外 界 の 交 錯 す る と こ ろ に 生 じ て き た も の 」(河 合 隼 雄 ,1969,
p.17),意 識 と 無 意 識 の 協 働 の 顕 れ と 考 え る こ と が で き よ う 。河 合 (1967)や 河 合 (1969)は ,イ
メ ー ジ や 夢 に つ い て の 言 及 で あ る 。 し か し ,こ れ ら の 言 及 は ,構 成 に よ っ て 箱 庭 制 作 者 の 内
的 プ ロ セ ス が 大 き く 変 化 す る 展 開 に つ い て も 当 て は ま る と 考 え ら れ る 。例 え ば ,A 氏 が 第 2
回 箱 庭 制 作 面 接 で ,偶 然 発 見 し た ミ ニ チ ュ ア に あ あ ,こ れ だ ぁ と 感 じ た こ と や ,第 3 回 箱 庭
制 作 面 接 で の ,亀 の 向 き の 非 意 図 的 変 更 と い う 構 成 の 変 化 に よ っ て そ の 領 域 へ の 感 覚 が 大
き く 変 わ っ た 内 的 プ ロ セ ス は ,「意 識 と 無 意 識 ,内 界 と 外 界 の 交 錯 す る と こ ろ に 生 じ て き た
も の 」と 考 え て よ い だ ろ う 。こ れ ら の 内 的 プ ロ セ ス は 意 識 的・意 図 的 行 為 に よ っ て 生 じ た も
の で は な い 。偶 然 や 非 意 図 的 要 素 に よ っ て 喚 起 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス で あ り ,そ の 内 的 プ ロ セ
スが生じるまでは箱庭制作者に気づかれていなかった。それが一つのきっかけによって意
識 化 さ れ る と と も に ,外 界 で あ る 砂 箱 内 に 構 成 さ れ る こ と に な っ た ,と 理 解 で き る 。
構成によって箱庭制作者の内的プロセスが大きく変化する場合があることが示された。
箱 庭 制 作 面 接 の 作 品 は ,完 成 さ れ た も の だ け を 見 る と ,そ れ は 物 理 的 に は ,動 き の な い 静 止
し た 物 体 で あ る 。 し か し ,箱 庭 制 作 過 程 で は ,構 成 は 動 き を も っ て 変 化 し て い く 。 そ し て ,
そ れ に 伴 っ て ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に も ま た 大 き な 変 化 が 生 ま れ て い る 。箱 庭 制 作 面 接
は ,こ の よ う に 構 成 お よ び 内 的 プ ロ セ ス の ダ イ ナ ミ ッ ク な 変 化 を 伴 っ た 心 理 面 接 で あ る 。河
合 ・ 中 村 (1984)の Ⅱ 章 の「 風 景 が 一 変 す る ― 日 常 と 非 日 常 」と い う 節 で ,場 面 緘 黙 児 の 母 親
が 縦 横 ま っ す ぐ に す べ て の も の を 置 い た 中 に ,も う 一 人 の 母 親 が ち ょ っ と 斜 め の も の を 置
い た 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 述 べ ら れ て い る 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 で 起 こ っ た 出 来 事 に つ い て ,
中 村 は「 決 ま り き っ た パ タ ー ン の な か に 新 し い 着 眼 に 基 づ く 要 素 が 一 つ 入 っ て く る と ,全 体
の 風 景 が 一 挙 に 変 わ る と い う こ と で す ね 」 と 応 え て い る (河 合 ・ 中 村 1984,pp.61-62)。 本
項 の ◆ 具 体 例 20∼ 22 で は ,箱 庭 制 作 者 の 気 持 ち や イ メ ー ジ な ど の 内 的 プ ロ セ ス が 大 き く 変
化 す る 主 観 的 体 験 が 示 さ れ た と 考 え る こ と が で き る 。そ れ は ,そ れ ま で の 否 定 的 な 気 持 ち が
大 き く 変 わ る 主 観 的 体 験 で あ っ た り ,箱 庭 制 作 者 自 身 の 生 き 方 に つ い て の 選 択 と 意 思 決 定
がなされるような内的プロセスの変化であった。
こ こ ま で , (1)あ る 構 成 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 気 持 ち や イ メ ー ジ な ど の 内 的 プ ロ セ ス が
大 き く 変 化 す る 主 観 的 体 験 に つ い て ,a.箱 庭 制 作 や 自 己 の 心 へ の コ ミ ッ ト メ ン ト ,b.意 図 性
と 非 意 図 性 ,c.意 識 と 無 意 識 の 相 互 作 用 の 観 点 か ら 考 察 し て き た 。箱 庭 制 作 者 の 箱 庭 制 作 や
自 己 の 心 へ の 真 摯 な コ ミ ッ ト メ ン ト の 下 ,構 成 の 変 化 に 関 与 す る 非 意 図 的 な き っ か け が 生
ま れ ,続 け て 意 図 的 な 構 成 を 行 う 場 合 が あ っ た 。 こ の よ う な 非 意 図 性 と 意 図 性 と の 協 働 は ,
箱庭制作面接における構成および内的プロセスのダイナミックな変化を生む要因の一部で
あ っ た 。こ の よ う に [構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し
て働くと考えられる。
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(2)構 成 さ れ た 位 置 や 向 き を 巡 る 主 観 的 体 験 の 結 果 お よ び 考 察
次 に ,(2)構 成 さ れ た 位 置 や 向 き を 巡 る 主 観 的 体 験 に つ い て の 具 体 例 を 示 す 。
◆ 具 体 例 23: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 8
A 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 8 で ,砂 箱 中 央 の 浜 辺 近 く の 海 に ,砂 箱 右 上 隅
の 方 を 向 け て イ ル カ を 置 い た 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程 で ,イ ル カ は ど こ
に 置 こ う か な ,も う 少 し 沖 の 方 に し よ う と 迷 っ た ん だ け ど あ ま り 陸 か ら 離 れ て い る の が ,い
や だ っ た ん で < は ー ー そ う い う 感 じ だ っ た ん だ > う ん う ん う ん 。ま あ こ の へ ん か な あ ,っ て
い う 。ま あ こ の へ ん か っ て 思 い ま す ね 。あ と ア タ マ は ど っ ち ,ア タ マ は 一 体 ど っ ち 向 い て る
ん だ ろ う と 思 い な が ら ,こ の イ ル カ の ね 。 そ ん な に ま だ こ う は っ き り し て な く て ,ま こ の へ
ん が い い か な と ( A 氏 自 発 ,1-8) と 語 っ た 。 内 省 報 告 に は ,イ ル カ の 位 置 は ,い よ い よ 始 ま
っ た 箱 庭 制 作 に 取 り 組 む 私 の 心 と 同 調 し て い る よ う だ 。 現 実 (陸 )か ら の 距 離 は ま だ そ ん な
に離れていない。イルカの進む方向はまだしっかりと定まったわけではないようにも感じ
る ( A 氏 内 省 ,1-8,制 作 ・ 連 想 ) と 記 さ れ た 。 イ ル カ の 置 く 位 置 に 迷 っ た が ,陸 か ら あ ま り
離 れ て い る の が 嫌 だ っ た の で ,そ の 感 覚 に 基 づ い て 位 置 が 決 め ら れ た ,と 捉 え ら れ る 。 さ ら
に ,内 省 報 告 に よ る と ,そ の 位 置 は 陸 ( 現 実 ) か ら そ ん な に 離 れ て い な い と い う 面 で 自 分 の
心 と 同 調 し て い る よ う に も 考 え て い る 。 ま た ,イ ル カ の 向 き ,進 む 方 向 は ま だ は っ き り 定 ま
っていないことも示された。
こ の 具 体 例 で は ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス と 構 成 が 密 接 に 関 連 し て い る 。こ の 具 体 例 で
は ,初 回 面 接 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス と 自 己 像 の 位 置 や 向 き が 同 調 し て い る ,と
考 え ら れ る 。 初 回 面 接 で あ る た め ,心 の 旅 は 始 ま っ た ば か り で あ り ,心 は 現 実 か ら そ ん な に
離 れ て い な い 。 そ し て ,そ の 旅 の 進 む 方 向 も ま た 定 ま っ て い な い ,と い う 心 理 的 状 況 で あ っ
た 。そ の 心 理 的 状 況 は ,自 己 像 の 位 置 や 向 き に ぴ っ た り な 形 で 表 現 さ れ た ,と 理 解 で き る 。A
氏 は ,イ ル カ の 位 置 や 向 き を 巡 る 箱 庭 制 作 中 の 内 的 プ ロ セ ス や そ の 語 り ,内 省 を 通 し て ,自 己
の 心 理 的 状 況 の 理 解 を 深 め る こ と が で き た ,と 考 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 24: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11
A 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,砂 箱 左 上 に 土 偶 や 埴 輪 を 置 い た 。 土
偶 や 埴 輪 は ,人 間 で は な い い の ち に な っ て い る た め ,動 物 や 人 の 世 界 に は 入 っ て は い け な い
と い う 感 じ が あ り ,山 の ふ も と に 配 置 さ れ た ,と 捉 え る こ と が で き る 語 り が 自 発 的 説 明 過 程
と 調 査 的 説 明 過 程 で あ っ た (p.42 ◆ 具 体 例 12,pp.44-45 ◆ 具 体 例 14 参 照 )。内 省 報 告 に ,土
偶 も い の ち の 表 現 だ と 思 っ て い た が ,ふ も と に 置 い た こ と で ,い の ち と し て の 人 間 の 代 わ り
の よ う で も あ る し ,山 の 番 人 の よ う な 気 も し て き た( A 氏 内 省 ,2-11,制 作 ・ 感 覚 )と 記 さ れ
た 。ま た ,第 2 回 ふ り か え り 面 接 で ,[信 仰 の 対 象 に な る よ う な お 山 の イ メ ー ジ が あ り ま し た
ね 。そ う す る と ,お 山 の ふ も と に 土 偶 達 は い か に も ふ さ わ し い 。ち ょ う ど 山 と 平 地 と の ち ょ
う ど 境 目 辺 り に 居 て く れ る と ,ち ょ う ど こ ろ あ い が い い ]と 語 っ た 。
こ の 具 体 例 で は ,あ る ミ ニ チ ュ ア の 位 置 が ,作 品 全 体 あ る い は 作 品 内 の 他 の 構 成 と の 関 連
に お い て ,決 定 さ れ た 。 こ の 具 体 例 で は ,土 偶 や 埴 輪 が も つ イ メ ー ジ ・ 感 覚 ・ 意 味 が 他 の 構
成 と 関 連 し ,配 置 さ れ る 場 所 に 大 き な 影 響 を 与 え て い る こ と が 示 さ れ た 。人 間 で は な い い の
ち に な っ て い る 土 偶 や 埴 輪 は ,動 物 や 人 の 世 界 (平 地 )に は 入 っ て は い け な い 存 在 ,信 仰 の 対
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象 で あ る 山 と 平 地 の 境 目 で 山 の 番 人 を す る 存 在 と し て 構 成 さ れ た 。A 氏 は ,土 偶 や 埴 輪 の 構
成 を 巡 る 制 作 中 の 内 的 プ ロ セ ス や ,そ れ に つ い て の 語 り や 記 述 を 通 し て ,土 偶 や 埴 輪 の 構 成
が 自 分 に と っ て ど の よ う な 意 味 を も つ の か 理 解 を 深 め て い っ た ,と 考 え ら れ る 。 そ し て ,そ
の 構 成 に つ い て の 理 解 の 深 化 は ,そ の よ う な 構 成 を 行 っ た 自 分 へ の 理 解 の 深 化 で も あ っ た ,
と推測できる。
上 に 挙 げ た ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス と 構 成 と の 関 連 と ,ミ ニ チ ュ ア の 位 置 の 他 の 構 成
との関連とが複合的に表れる場合もあった。
◆ 具 体 例 25: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 14∼ 15
A 氏 は ,第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 14 で ,亀 2 匹 と イ ル カ を 棚 か ら 持 っ て き て ,
既に置かれていた大きな亀の周囲で以下のような行為を行った。
28 分 37 秒 ∼
小 さ な亀 を 砂 箱 中 央 奥に あ る 大 き な 亀 の 目 の 前 に(砂 箱 の 奥 に )移 動 する。
28 分 40 秒 ∼
小 さ な 亀 を ,イ ル カ と 置 き 換 え ,し ば ら く 見 つ め る 。
2 8 分 54 秒 ∼
イ ル カ を 大 き な 亀 の 後 ( 砂 箱 の 手 前 に ) 移 動 し ,見 つ め る 。
29 分 8 秒 ∼
イ ル カ を 手 に と り ,小 さ な 亀 を 大 き な 亀 の 目 の 前 に ( 砂 箱 の 奥 に ) 置 く 。 そ
れも手にとる。
29 分 24 秒 ∼
陸 の 真 ん 中 辺 り で ,2 匹 の 亀 を 置 き 比 べ る 。 陸 の 亀 を 見 た り ,沖 の 亀 を 見 た
りする。小さな頭をもたげた亀を置く。
この箱庭制作過程について, A 氏は自発的説明過程で以下のように語った。一頭だとな
ん か 心 も と な い よ う な 気 も し て ,い ろ い ろ 前 後 に 置 い て み た り し て た ん で す け ど ,< そ う だ
っ た ね ,イ ル カ も 置 き 直 し た し 。 > は い は い ,こ ,こ の 亀 も ,も う ひ と つ の 亀
<もうひとつ
の 亀 > リ ア ル な 亀 を 前 後 に 置 い て み た り し た ん で す け ど ,で す け ど ,う ー ん ,ち ょ っ と そ の ,
そ う い う 感 じ じ ゃ な い な と 思 っ て < ふ ー ん ,う ん > ま ,一 頭 で 行 く の ね と ,一 頭 だ け で 行 か
せ よ う と 思 い ま し た ね 。 < な る ほ ど > だ け ど ,ま , ま っ た く 一 頭 っ て い う ん じ ゃ な く っ て ,
こ の こ は 見 ,見 て い る と い う か < な る ほ ど 。波 打 ち 際 か ら > そ う で す ね 。こ こ が い い や と 思
っ て ,そ ,す ぐ ,す ぐ 前 と か 後 ろ と か じ ゃ な く っ て( A 氏 自 発 ,3-14)。こ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ
い て ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。砂 浜 の 亀 は ,沖 に 向 か う 亀 を 見 送 っ て い る 。い つ か
そ の 亀 が 帰 っ て く る の を 待 っ て い る ? 心 の 中 は 心 配 な よ う な ,安 心 な よ う な ,頼 も し い よ う
な ,淋 し い よ う な ,複 雑 な 気 持 ち 。で も ,心 の 奥 で ,何 と か な る さ と 思 っ て い る ,… 沖 に 向 か う
亀 を 信 頼 し て い る よ う だ ( A 氏 内 省 ,3-15,制 作 ・ 連 想 ) ,近 す ぎ ず ,で も ち ゃ ん と 見 て い る
と い う 距 離 が よ か っ た ( A 氏 内 省 ,3-15,自 発 ・ 感 覚 )。
A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,大 き な 亀 1 頭 だ け で ,沖 の 方 に 向 か わ せ よ う と 思 っ た 。 そ
し て ,そ の 大 き な 亀 を 小 さ な 亀 が 波 打 ち 際 か ら 見 て い る よ う な 形 に 配 置 し た 。前 項 で 取 り 上
げ た よ う に ,沖 に 向 か う 大 き な 亀 は ,A 氏 自 身 の 生 き 方 に つ い て の 選 択 と 意 思 決 定 が 反 映 し
て い た (p.46 ◆ 具 体 例 16 参 照 )。そ れ は ,第 3 回 ま で 面 接 が 進 ん で く る こ と に よ っ て 生 じ た
内 的 プ ロ セ ス の 変 化 で あ る ,と 考 え る こ と が で き る 。箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス と 構 成 と が
関 連 し て い る 。ま た ,波 打 ち 際 の 小 さ な 亀 と 沖 に 向 か う 大 き な 亀 と の 距 離 は ,近 す ぎ ず ,な お
かつ沖に向かう亀を浜辺の亀がちゃんと見ているという距離感覚が反映していた。また,
波 打 ち 際 の 亀 の 位 置 は ,沖 に 向 か う 亀 を 心 の 奥 で は 信 頼 し て い る と い う 感 覚 を も 反 映 し た
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構 成 で あ っ た 。こ の 具 体 例 で は ,箱 庭 制 作 面 接 が 継 続 す る こ と に よ る 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ
セ ス の 変 化 が 構 成 に 反 映 さ れ た ,と 理 解 で き た 。
石 原 (2008)は ,ミ ニ チ ュ ア を 置 く 際 の 主 観 的 体 験 と し て ,「 こ こ だ 」 と い う 位 置 が 直 観 さ
れ る 例 を 挙 げ て い る 。 そ し て ,そ の 下 位 カ テ ゴ リ ー と し て ,「 こ こ だ 」 と と も に 「 こ こ で は
な い 」 が 直 観 さ れ る 例 を 挙 げ て い る (pp.140-149)。 本 項 の ◆ 具 体 例 23∼ 25 に も ,こ の 両 者
が 見 い だ さ れ た と 考 え ら れ る 。 そ し て ,そ の 直 観 に 関 連 す る 要 因 が 示 さ れ た と 捉 え ら れ る 。
そ の 要 因 と し て ,a.面 接 の 進 み 具 合 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 が 自 己 の 内 面 に 向 か お う と す る 準
備 性 が あ っ た 。 こ れ は ,◆ 具 体 例 23 と 25 の 自 己 像 が 置 か れ る 位 置 や 向 き ,自 己 像 の 変 化 に
示 さ れ た 。 b.ミ ニ チ ュ ア の 位 置 は ,作 品 全 体 あ る い は 作 品 内 の 他 の 構 成 と も 関 連 し て い た 。
◆ 具 体 例 24,◆ 具 体 例 25 の 2 つ の 亀 の 構 成 に 示 さ れ た 。 (2)構 成 さ れ た 位 置 や 向 き を 巡 る
主 観 的 体 験 の 具 体 例 か ら ,内 的 プ ロ セ ス と 構 成 と が 密 接 に 関 連 し て い る こ と や ,内 的 プ ロ セ
ス の 変 化 が 構 成 に 影 響 す る こ と が 示 さ れ た 。◆ 具 体 例 23∼ 25 の 分 析 か ら ,[構 成 に よ り 喚 起
さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る と 考 え る こ と
ができる。
(3)区 分 ,区 画 に 分 け る こ と を 巡 る 主 観 的 体 験 の 結 果 お よ び 考 察
(3)区 分 ,区 画 に 分 け る こ と を 巡 る 主 観 的 体 験 に は ,1.砂 の 構 成 に よ る 区 分 と ,2.柵 に よ る 区
分の 2 種類があった。
(3)-1.砂 の 構 成 に よ る 区 分 の 結 果 お よ び 考 察
砂の構成による区分の具体例を示す。
◆ 具 体 例 26: B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1∼ 5,7,21,31,全 体 的 感 想
B 氏 は 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で , 10 数 秒 ,砂 箱 を 見 つ め た 。制 作 過 程 2 で ,B
氏 は ケ ー ス の 蓋 (真 珠 を 収 納 し て い る ケ ー ス の 蓋 。9cm×6cm 大 の プ ラ ス チ ッ ク 製 )を 取 り ,1
分 間 ,ケ ー ス で 砂 を な ら し た 。 制 作 過 程 3 で ,B 氏 は ,約 20 秒 か け て ,ケ ー ス の 蓋 で 右 か ら
左へ溝を作った。制作過
程 4 で ,約 20 秒 か け て ,
ケースの蓋で上から下へ
溝を作った。制作過程 5
で, 中央部に十字形に水
源様の水を深く掘った
(写 真 12)。 こ れ ら の 箱 庭
制 作 過 程 に つ い て ,B 氏
は 自 発 的 説 明 過 程 で ,以
下のように語った。ここ
に 立 っ た 時 に ,こ の 箱 庭
の中を4つに分けたくな
り ま し て 。そ れ で ,そ の 4
つという。4つができる
だけ均等にっていうこと
で 。そ れ で ,砂 を な ら す も
写 真 12
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B 氏第7回作品
の は な い か っ て い う こ と で ,ケ ー ス の カ バ ー を 使 っ て ,そ の ,大 ま か に で す け ど ,な ら し て ,
4 つ に な り ま し た 。 で ,4 つ に 割 っ た ん で す け ど ,完 全 に 4 つ の 区 画 っ て い う よ う な 風 で も
な く っ て 。 で ,真 ん 中 も ,真 ん 中 と し て あ っ て ,つ な が り が あ り つ つ も ,4 つ の 区 切 り っ て い
う と こ で( B 氏 自 発 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て )。こ の 語 り か ら ,砂 を な ら す , 4 つ の 区 画 を 作 る ,
中 央 の 十 字 形 を 作 る と い う 構 成 行 為 は ,砂 を 見 つ め る こ と で 喚 起 さ れ た イ メ ー ジ で あ る こ
と が わ か る 。4 つ の 区 画 と 真 ん 中 の 十 字 形 は ,十 字 形 に よ っ て つ な が り が あ る と 同 時 に , 独
立した区分である。
B 氏 は ,箱 庭 制 作 過 程 5 で 構 成 さ れ た 中 央 の 十 字 形 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で ,や っ ぱ り
真 ん 中 は ち ゃ ん と 真 ん 中 で ,は っ き り 設 け た か っ た み た い な と こ ろ が あ っ て ( B 氏 調 査 ,7全 体 的 感 想 )と 語 っ た 。 別 に ,こ の 十 字 形 と 4 つ の 区 画 に つ い て ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 な
ん か 。少 し だ け ,こ の と こ ろ を も っ と こ の ,円 形 状 に ,こ う い う 風 に や っ て ,丸 こ く ,池 み た い
な と こ を ,作 ろ う か な ,と か っ て 思 っ た ん で す 。 で も ,あ の ,そ ん な に ,こ う 前 面 に ,な ん か ,
こ の 部 分 が あ る っ て い う よ り か ,ま あ ,そ の ,背 後 と か ,根 底 と か に あ っ て ,っ て い う よ う な
と こ ろ と ,あ と ,自 分 自 身 作 っ て て 思 っ た の は ,こ の ,一 つ 一 つ が ,ま あ ,自 分 に と っ て は ,ま
あ ,小 さ な 箱 庭 っ ぽ い よ な っ と か っ て い う < あ あ 。な る ほ ど > 4 分 割 で 。そ ん な よ う な 感 じ
も し て て ( B 氏 調 査 ,7-全 体 的 感 想 )。
B 氏 は ,同 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 7 で ,箱 庭 左 上 の 区 画 に 花 を 植 え た 。 そ の
後 ,制 作 過 程 21 で 左 上 の 区 画 に リ ス を 置 き ,制 作 過 程 31 で 鳥 を 左 上 の 区 画 に 置 い た 。そ の
よ う な 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。四 季 を 作 り た く な っ
た ん で す け ど も 。そ の 四 季 を 作 り た く な っ て ,っ た と こ ろ も ,あ る ん で す け ど 。同 時 に ,そ れ
が ,あ の 巡 っ て る っ て い う ん で し ょ う か‘ 手 を 空 中 で 左 周 り に 円 を 描 き つ つ ’
( B 氏 自 発 ,7複 数 過 程 に 亘 っ て )。 巡 る と い う 時 間 感 覚 が ,四 季 と い う 内 的 イ メ ー ジ と 反 時 計 回 り に 腕 を
動かすという行為によって表された。
こ の 動 き と , 4 つ の 区 画 の 形 や 性 質 と の 関 連 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で ,こ れ は ど っ ち か
と い う と ,出 発 も な く , あ の ,終 点 も な く っ て い う こ と の , こ の , が ,も っ と ,う ん ,だ か ら , な
ん か も っ と 均 等 か な と 。 こ の 4 つ が ( B 氏 調 査 ,7-全 体 的 感 想 )と 語 っ た 。 出 発 や 終 点 が な
い 時 間 に つ い て の イ メ ー ジ が , 4 つ の 区 画 は 均 等 で あ る と い う 形 態 と 関 連 し て い る ,と 捉 え
られる。
さ ら に ,中 央 の 十 字 形 と 4 つ の 区 画 に 表 現 さ れ た 巡 る と い う 動 き を も つ 四 季 と の 関 連 に
つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。中 心 は あ る っ て い う 感 じ は す る ん で す け ど
ね 。 こ う い う 動 き の 中 と か ,こ う い う も の を 意 識 し て る ,あ の ,自 分 っ て い う も の の 中 に も ,
う ん ,な ん か ,そ う い う 意 味 で は 核 に な っ て い る も の み た い な も の が あ っ て ,こ う い う 動 き
も あ る だ ろ う し 。ま た ,自 分 の ,な ん か ,ま あ ,ま た ,そ の 春 か ら 数 え て な ん だ け ど ,ま た ,1 年
を 始 め る ぞ ,と か い う と こ の ,う ん , 動 き の 中 に も , う ん , 真 ん 中 に 来 る な ん か , う ん , 核 に な
る よ う な も の が あ っ て( B 氏 調 査 ,7-全 体 的 感 想 )。B 氏 は ,4 つ の 区 画 を 構 成 し て い く 中 で ,
真 ん 中 の 部 分 も は っ き り 設 け た い と 感 じ た 。そ れ は ,巡 る と い う 動 き の 中 心 や 核 に な る も の
で あ り ,同 時 に ,動 き を 意 識 し て い る 自 分 の 核 で も あ る , と い う 多 義 的 な 意 味 が あ る こ と が
報告された。
B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で 作 ら れ た 区 分 は ,多 義 的 で ,様 々 な 内 的 プ ロ セ ス が 複 合 さ れ た
表現であることが示された。
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a.平 面 と し て は , 4 つ の 区 画 と 真 ん 中 の 十 字 形 は ,十 字 形 に よ っ て つ な が り が あ る と 同 時
に , 4 つ の 小 さ な 箱 庭 と し て 独 立 し た 区 分 で あ る 。 垂 直 方 向 と し て ,十 字 形 の 部 分 は 背 後 ,
根 底 に あ る も の で あ り , 4 つ の 区 画 よ り も 深 み に あ る も の と ,捉 え ら れ る 。
描 画 法 が 二 次 元 的 で あ る の に 対 し て ,箱 庭 療 法 は ,三 次 元 的 表 現 が 可 能 で あ り ,そ れ が 多
様 な 表 現 を 可 能 と す る (河 合 隼 雄 ,1969,p.2 2)。B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 砂 の 区 分 に
お い て ,中 央 部 分 の 砂 を 掘 っ た 砂 箱 の 底 の 水 色 の 表 現 と 4 つ の 区 分 と に よ っ て ,三 次 元 的 な
表 現 が な さ れ て い る 。 中 央 の 十 字 架 状 の 部 分 は ,根 底 と い う イ メ ー ジ を も ち ,イ メ ー ジ の 中
では実際の構成よりもさらなる深みをもった表現であることがわかる。箱庭療法における
三 次 元 的 表 現 は ,現 実 的 ・ 物 理 的 制 限 を う け つ つ も ,イ メ ー ジ の 力 に よ っ て ,は る か に 広 く ,
深 い 表 現 を 可 能 に し て い る 。 石 原 (2008)は ,ミ ニ チ ュ ア の 置 く 位 置 に よ っ て ,「 ズ ー ッ と ,
壁 と か も 取 り 払 っ て 向 こ う ま で ,先 に は 海 が あ る 感 じ が す る 」と い う 箱 庭 制 作 者 の 語 り か ら ,
砂箱の枠がないかのように無限の広がりを感じさせる場合があることを報告している。そ
し て ,こ の 主 観 的 体 験 を 「 モ ノ と イ メ ー ジ の 交 錯 」 に よ っ て ,単 な る モ ノ 以 上 の イ メ ー ジ が
展 開 し た と 考 察 し て い る (pp.102-108)。 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で の B 氏 の 三 次 元 的 な 主 観 的
体験も同様の機能によるものと考えてよいだろう。
b.時 間 の 要 因 と し て は , 4 つ の 区 画 は 四 季 を 表 し ,そ れ は 巡 っ て い る 。 巡 る と い う イ メ ー
ジ を ,B 氏 は 腕 を 反 時 計 周 り に 動 か す こ と で 説 明 し た 。 石 原 (2008)は ,箱 庭 制 作 者 が 「 時 間
の 流 れ を 生 み 出 す 」例 を 紹 介 し て い る 。そ し て ,「 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 中 で 三 次 元 空 間 の
表 現 に『 動 き 』と『 空 間 の 移 動 』の イ メ ー ジ が 交 錯 す る こ と で ,そ こ に 時 間 の 体 験 が 生 ま れ ,
制 作 者 は 四 次 元 的 に 世 界 を 体 験 す る こ と が 可 能 に な る の で あ る 」と し て い る (pp.115-121)。
B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 場 合 ,四 季 と い う 内 的 イ メ ー ジ に ,時 間 の 流 れ が 包 含 さ れ て い る 。
同 時 に そ れ は ,腕 を 反 時 計 周 り に 動 か す と い う 行 為 と し て も ,4 つ の 区 画 を 移 動 す る 動 き が
表された。
c.十 字 形 の 部 分 は ,巡 る と い う 動 き の 中 心 や 核 に な る も の で ,同 時 に ,動 き を 意 識 し て い
る 自 分 の 核 で も あ っ た 。つ ま り ,客 観 的 時 間 と そ れ を 意 識 す る 内 的 な 核 と い う 多 義 的 な 表 現
で あ っ た 。 ま た ,そ の 巡 る 動 き は ,出 発 や 終 点 が な く ,そ れ ゆ え に 4 つ の 区 画 は 均 等 に 構 成
さ れ た 。時 間 の 均 等 性 と 形 態 の 均 等 性 と い う 時 空 間 が 一 体 的 に 表 現 さ れ た 。中 村 は ,箱 庭 療
法の時間性について語る中で「
, ト ポ ス で は ,空 間 と 時 間 が 一 体 化 し て い る 」と 述 べ て い る 。
そ し て ,そ の 典 型 的 な 例 と し て ,ゲ ニ ウ ス ・ ロ キ (場 所 の 精 霊 ,土 地 の 精 霊 )と い う 言 い 回 し が
あ り ,そ れ は 独 特 の 雰 囲 気 が あ る 歴 史 的 な 空 間 で あ る と し て い る 。 河 合 隼 雄 は そ れ に ,箱 庭
療 法 の 場 所 ,世 界 は ,ゲ ニ ウ ス ・ ロ キ を も っ て い な い と い け な い と 応 え て い る (河 合 ・ 中 村
1984, pp.139-140)。 B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 に 表 現 さ れ た 時 間 と 空 間 は ,中 村 や 河 合 が 述
べ て い る ,空 間 と 時 間 が 一 体 化 し た 独 特 の 雰 囲 気 を も っ た 時 空 間 だ と ,理 解 す る こ と が で き
よう。
d.こ の よ う な 多 義 的 ・ 複 合 的 表 現 は ,構 成 か ら あ る 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ ,次 の 構 成 が
生 ま れ る と い う 箱 庭 制 作 過 程 の 連 続 性 ,連 動 性 が 関 与 し た も の で あ っ た 。
箱 庭 制 作 面 接 に お け る 区 分 の 表 現 に は ,上 記 の よ う な 多 義 的・複 合 的 な 内 的 プ ロ セ ス が 関
連 し て い る こ と が 示 さ れ た 。 上 記 a か ら d の 観 点 を 総 合 し て 考 え る と ,◆ 具 体 例 26 の 構 成
は ,あ る 構 成 か ら 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ ,次 の 構 成 が 生 ま れ る と い う 箱 庭 制 作 過 程 の 連 続
性 ,連 動 性 が 関 与 す る こ と に よ っ て ,生 じ た 。 ◆ 具 体 例 26 の 四 次 元 的 表 現 は ,四 季 と い う イ
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メ ー ジ の 内 容 と ,「制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 中 で 三 次 元 空 間 の 表 現 に『 動 き 』と『 空 間 の 移 動 』
の イ メ ー ジ が 交 錯 す る こ と で ,そ こ に 時 間 の 体 験 が 生 ま れ ,制 作 者 は 四 次 元 的 に 世 界 を 体 験
す る こ と が 可 能 に な る 」(石 原 ,2008)こ と に よ っ て 生 じ た 。 そ し て ,こ の 構 成 は ,時 間 の 均 等
性 と 形 態 の 均 等 性 と い う ,独 特 の 雰 囲 気 を も っ た 時 空 間 が 一 体 的 に 表 現 さ れ た 。 ◆ 具 体 例
26 は ,こ の よ う な 構 成 に つ い て の 語 り と 解 釈 で き よ う 。
十 字 形 の 部 分 は , 神 様 や 仏 様 と い う 直 接 的 な 宗 教 的 イ メ ー ジ に と ど ま ら ず ,巡 る と い う
客 観 世 界 の 動 き の 中 心 や 核 に な る も の で あ り ,動 き を 意 識 し て い る 自 分 の 核 で も あ っ た 。客
観 的 時 間 の 中 心 で も あ り ,時 間 の 変 化 を 見 さ せ , 新 し い 年 度 へ の 気 持 ち を 起 こ さ せ る よ う
な感覚の奥に存在する自分の内的な核でもあるという多義的な表現であった。このように
第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 砂 に よ る 区 分 の 構 成 は ,B 氏 に と っ て 重 要 な 内 的 プ ロ セ ス の 表 現 で あ
っ た (pp.57-58 参 照 )。
箱 庭 制 作 面 接 で ,箱 庭 制 作 者 は 砂 箱 を 「自 由 に 区 分 可 能 な 空 間 」と し て 使 用 で き る 。そ し て ,
そ の 「自 由 に 区 分 可 能 な 空 間 」で ,本 項 の 具 体 例 で み た よ う に ,多 義 的 で ,様 々 な 内 的 プ ロ セ ス
が 複 合 さ れ た 表 現 を 構 成 す る こ と が で き る 。「自 由 に 区 分 可 能 な 空 間 」と い う 特 性 を 生 む [構
成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ] は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 の 深 化 に 寄 与 す る こ と が で き
る ,と 考 え ら れ る 。
(3)-2.柵 に よ る 区 分 の 結 果 お よ び 考 察
次 に ,柵 に よ る 区 分 の 具 体 例 を 示 す 。
◆ 具 体 例 27: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 6,13 な ど の 複 数 過 程 に 亘 っ て
A 氏 は ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 13 で ,牛 と 豚 の エ リ ア を 柵 で 区 切 っ た 。 そ の
箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,A 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。ぜ ん ぜ ん そ ん な ん 意
識 し て な か っ た で す け れ ど も , えっ と, 柵 を , 置 く時 に, <う ん ,う ん > あ のー ,あ , 境 界 線 を 私 作 るん だ
なっていうのは思 いましたけどね。あの,棲 み分 けると言 うか, (中 略 )< 柵 だ っ た り だ と か ,っ て 言 う
よ う な も の が ,あ る い は ま ぁ ,そ う い う 人 間 く さ い も の っ て 言 っ て も い い の か も 知 れ な い け
ど ,> う ん < そ う い う も の は ,あ ん ま り ,特 に 意 識 し て わ ざ わ ざ 置 い た わ け で は な い > う ん ,
わ ざ わ ざ 置 い た わ け で は な い で す 。 (A氏 調 査 ,6-13)だ け ど ,作 り な が ら ,そ う 言 え ば こ れ ま
で と 違 っ て ,い る な っ て い う の は 感 じ て い て ,何 が 違 っ て い る か っ て 言 う と ,う う ,え ー っ と
ー ,( 間 9 秒 )洞 窟 が で き た 段 階 で ,で も 違 っ て い る っ て 言 え ば 違 っ て る (A氏 調 査 ,6-6)‘ 小
声 で ’ な ん だ ろ 。 ん ー ん と ,( 間 9 秒 ) 違 っ て る の か な ,‘ さ さ や く よ う に ’( 間 6 秒 ) 私 ,
が ,< う ん > っ て い う の を は っ き り 意 識 し て 作 っ て ま し た 。 < は ぁ > 私 が 食 べ る 物 た ち ,私
が 食 べ る 動 物 た ち っ て 言 う 風 で( A 氏 調 査 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て )。こ の 具 体 例 で は ,柵 を 置
く 時 に ,A 氏 に 境 界 線 を私 作 るんだ, 棲 み分 けると い う 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ た 。ま た ,作 り
な が ら ,こ れ ま で と 違 っ て い る と い う 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ て い た こ と を 想 起 し た 。さ ら
に ,他 の 箱 庭 制 作 過 程 に 思 い が 及 び ,「 私 」 を は っ き り 意 識 し ,私 が 食 べ る も の と い う 風 な 感
じ で 構 成 し て い た こ と が 語 ら れ た 。 本 具 体 例 で は ,構 成 や そ の 語 り を 通 し て ,こ の 構 成 を 行
う 自 己 の 内 的 プ ロ セ ス へ の 気 づ き が も た ら さ れ た ,と 理 解 で き る 。
A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で の ,牛 と 豚 の エ リ ア を 柵 で 区 切 る 構 成 に つ い て ,筆 者 は ,調 査 的
説 明 過 程 で ,< 柵 だ っ た り だ と か ,っ て 言 う よ う な も の が ,あ る い は ま ぁ ,そ う い う 人 間 く さ
い も の っ て 言 っ て も い い の か も 知 れ な い け ど ,> う ん < そ う い う も の は ,あ ん ま り ,特 に 意
- 60 -
識 し て わ ざ わ ざ 置 い た わ け で は な い > と 質 問 し て い る 。そ れ は ,自 己 像 が 直 接 的 に 関 与 す る
も の と し て は ,初 め て 人 工 物 が 置 か れ た よ う な 感 覚 を 筆 者 が も っ た た め で あ っ た 。自 己 像 は
ペ ン ギ ン と い う 動 物 と し て 表 現 さ れ て い る が ,そ れ ま で の 自 己 像 で あ っ た イ ル カ や 亀 に 比
べ て ,家 畜 を 柵 で 囲 む と い う 人 間 的 な 行 動 を と る 特 性 を も っ た 自 己 像 に 変 化 し た よ う に ,筆
者 に は 感 じ ら れ た 。 ◆ 具 体 例 27 で は ,自 己 像 の 特 性 の 変 化 が 柵 に よ っ て 区 分 を 作 る と い う
構 成 を 生 ん だ の だ と ,理 解 す る こ と が で き る 。
こ の 自 己 像 の 変 化 の 意 味 に つ い て 検 討 す る 。A 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 ま で は ,イ ル カ や 亀
という動物のミニチュアを自己像とした内的世界の表現であった。A 氏第 7 回箱庭制作面
接 で A 氏 は ,半 島 を 作 り ,そ こ で 暮 ら す 男 女 の 人 形 ,家 ,家 畜 ,船 な ど を 置 き ,人 が 登 場 す る 世 界
を 作 っ た (資 料 3
A 氏 第 7 回 作 品 の 写 真 を 参 照 )。 し か し , A 氏 は そ の 作 品 に 愛 着 を も つ こ
と が で き な か っ た 。調 査 的 説 明 過 程 で 再 構 成 さ れ た 作 品 で は ,男 女 の 人 形 ,家 ,家 畜 ,船 は 取 り
去 ら れ ,人 が 登 場 し な い 世 界 と な っ た (資 料 3
A 氏 第 7 回 再 構 成 後 の 作 品 の 写 真 を 参 照 )。
A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 以 降 ,人 間 の ミ ニ チ ュ ア を 自 己 像 と し た 内 的 世 界 へ と 移 行 し て い っ
た (pp.185-191 参 照 )。 そ の よ う な 箱 庭 制 作 面 接 の 展 開 の 中 に , A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 は
位 置 づ け ら れ る 。A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で は , 自 己 像 は 動 物 の ミ ニ チ ュ ア で あ る が ,家 畜
を柵で囲むという人間的な行動をとる特性をもった自己像に変化したと解釈できた。つま
り , A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 柵 で 区 分 を 作 る と い う 構 成 は ,今 後 の 箱 庭 制 作 面 接 の
展 開 ,内 的 世 界 の 移 行 の は じ ま り を 示 唆 し て い る ,と 解 釈 で き る 。[構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内
的 プ ロ セ ス ]の 具 体 例 に は ,◆ 具 体 例 27 の よ う に ,自 己 の 特 性 の 変 化 と 構 成 と が 密 接 に 関 連
し , 構 成 の 変 化 が 生 じ , さ ら に は ,そ の 構 成 か ら 自 己 へ の 気 づ き が 生 ま れ る 場 合 が あ る こ と
が 示 さ れ た 。 こ の こ と も ,[構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]が ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機
能 と し て 働 く こ と を 示 し て い る ,と 考 え ら れ る 。
こ こ ま で ,[構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]の (3)区 分 ,区 画 に 分 け る こ と を 巡 る 主 観
的 体 験 の 具 体 例 を 考 察 し て き た 。 (3)-1 で 取 り 上 げ た B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の ◆ 具 体 例
26 に は ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス と 構 成 と の 連 動 性 か ら 生 じ た ,三 次 元 空 間 の 表 現 と 「 動
き 」・ 「空 間 の 移 動 」と の イ メ ー ジ の 交 錯 に よ る ,時 空 間 の 一 体 化 が 見 い だ さ れ た 。 そ の よ う
に し て 構 成 さ れ た 区 分 は , B 氏 の 内 的 プ ロ セ ス の 重 要 な 表 現 で あ っ た 。(3)-2 で 取 り 上 げ た
A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の ◆ 具 体 例 27 で は ,自 己 像 の 特 性 の 変 化 に 示 さ れ た A 氏 の 内 的 プ
ロ セ ス の 変 化 が ,構 成 の 変 化 を も た ら し た と 捉 え ら れ た 。両 具 体 例 か ら 見 い だ さ れ た 内 界 と
構 成 の 交 流 は ,箱 庭 制 作 面 接 が 箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 の 深 化 を 促 進 す る 機 能 の 一 側 面 で あ
ると考えることができる。
Ⅵ -2.「内 界 」か ら 「構 成 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
「内 界 」か ら 「構 成 」へ の 影 響 に つ い て ,詳 述 し ,検 討 す る 。Ⅵ -2 に は ,概 念 [構 成 に 付 与 さ れ
た 内 的 プ ロ セ ス ],概 念 [内 的 プ ロ セ ス の 構 成 へ の 影 響 ]が あ っ た 。
1)[構 成 に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
[構 成 に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス ]に つ い て 詳 述・検 討 す る 。[構 成 に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ
セ ス ]は ,「意 図 ,感 覚 ,イ メ ー ジ ,感 情 ,連 想 ,意 味 と い う 内 的 な プ ロ セ ス が 構 成 に 対 し て 付 与
さ れ る 様 」,と 定 義 さ れ た 。 本 概 念 に は , 非 常 に 多 く の 具 体 例 が あ っ た 。 ま た ,デ ー タ の 一 部
- 61 -
が 他 の 概 念 の 具 体 例 と 重 複 し て い る 例 も 多 々 あ っ た 。 こ こ で は ,で き る 限 り ,他 の 概 念 と 重
複 し て い な い 具 体 例 を 挙 げ る 。本 節 で は ,(1)構 成 に よ る 時 空 間 の 表 現 ,(2)明 示 さ れ な い 境 界
線 の テ ー マ を 取 り 上 げ ,結 果 を 示 し ,考 察 す る 。
(1)構 成 に よ る 時 空 間 の 表 現 の 結 果 お よ び 考 察
B 氏 は 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 冒 頭 ,こ の 回 テ ー マ が 思 い つ か な か っ た た め ,棚 に あ る ミ ニ
チ ュ ア に よ っ て 気 持 ち が 動 か な い か な と 思 っ て ,箱 庭 制 作 を 開 始 し た (自 発 的 説 明 過 程 で の
語 り )。箱 庭 制 作 過 程 3(制 作 開 始 後 2 分 13 秒 ∼ 2 分 19 秒 )で ,ロ ッ キ ン グ チ ェ ア を 砂 箱 の 左
上 隅 に 置 い た 。 そ し て ,海 や 陸 の 構 成 を 行 っ て い っ た 。 B 氏 は ,制 作 を 続 け る 中 で 構 成 さ れ
た 風 景 か ら ,確 か こ ん な 風 景 あ っ た ぞ ( B 氏 調 査 ,4-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と ,か つ て 行 っ た こ
とのある土地やそこにいた人々のことを思い出した。
そ の 後 ,意 図 的 に ,そ の 土 地 や そ こ に い る 人 々 に 関 連 す る 構 成 を 行 っ て い っ た (pp.210211 参 照 )。
◆ 具 体 例 28: B 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 14∼ 40
人 と 人 の つ な が り で あ っ た り と か 。 ま あ ,そ の ,自 然 っ て い う で し ょ う か 。 そ う い う 風 景
だ と か ,と い う と こ で 。あ あ い う 世 界 と か ,そ の ,人 と の 関 係 と っ て い う の が ,自 分 に と っ て ,
あ の ,ま あ ,心 地 よ い っ て い う か ,そ う い う 世 界 な ん だ な ( B 氏 自 発 ,4-複 数 過 程 に 亘 っ て )。
こ の 具 体 例 で は ,か つ て B 氏 が 訪 れ ,そ の 土 地 や そ こ に い る 人 々 か ら 受 け た 心 地 よ さ が 構 成
に付与されていた。
◆ 具 体 例 29: B 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 42
制 作 過 程 42(制 作 開 始 後 22 分 37 秒 ∼ 22 分 45 秒 )で ,ロ ッ キ ン グ チ ェ ア に 星 の 王 子 様 を
置 い た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 42 に つ い て ,B 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。 ど
ち ら か っ て い う と ,少 し 小 高 い と こ ろ と い う こ と で 言 え ば ,私 の そ の 位 置 か ら 言 っ た ら ,今 ,
現 在 っ て と こ ろ の 部 分 か ら ,鳥 瞰 し て い る っ て い う か 。 そ う い う よ う な と こ ろ で ,こ の 場 面
(?)に な っ た と 思 い ま す 。 だ か ら ,あ の ,こ の 風 景 の 中 に あ っ て ,実 際 ,あ の ,ま あ ,実 際 は ,箱
庭 の 外 に あ っ て , ‘ 砂 箱 左 上 中 央 ,左 上 ,左 上 隅 の 砂 箱 の 枠 に 手 を も っ て い き ,3 か 所 を 示 し
つ つ ’こ う い う 風 に 見 て い る よ う な も の っ て い う か 。そ の よ う な と こ ろ で し ょ う か < 鳥 瞰 。
鳥 瞰 し て る > で , ま あ , ほ ん と に , そ う い う 意 味 で は ,ち ょ っ と 一 息 つ け る よ う に な っ た ら ,
ま た ,遊 び に い き た い な ー 。 っ て い う 風 な ,そ う い う よ う な 自 分 の 姿 も 含 め て ( B 氏 調
査 ,4-42)。 ま た ,内 省 報 告 に ,く つ ろ い で 概 観 す る 人 ( B 氏 内 省 ,4-42,制 作 ・ 意 図 ) ,ゆ っ た
り と し た 気 持 ち( B 氏 内 省 ,4-42,制 作 ・ 感 覚 ),現 在 ,今( B 氏 内 省 ,4-42,調 査 ・ 連 想 )と 記
し た 。第 4 回 ふ り か え り 面 接 で は , [箱 庭 を 作 っ て い る 現 在 と か ,今 現 在 と か と い う も の で 。
で き あ が っ た も の を 眺 め て る 自 分 っ て い う ん で し ょ う か ]と 説 明 し た 。自 己 像 で あ る 星 の 王
子 様 は ,現 在 と い う 時 点 か ら , で き あ が っ た も の を く つ ろ ぎ ,ゆ っ た り と し た 気 持 ち で 眺 め
て い る と い う イ メ ー ジ が 付 与 さ れ た ,と 捉 え る こ と が で き る 。 ま た ,一 息 つ け る よ う に な っ
た ら ,ま た ,遊 び に い き た い な ー と い う 将 来 の 希 望 も 語 ら れ た 。
B 氏 第 2 回 お よ び 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 13)で は , 日 常 生 活 の 中 で の 攻 撃 的 な 人 々 や
そ れ に 苦 し ん で い る 自 分 の 心 情 の 表 現 や ,山 あ り 谷 あ り ,障 壁 も あ り と い う 生 き 様 が 中 心 的
な テ ー マ と な っ た (pp.204-210 参 照 )。 そ の よ う な 箱 庭 制 作 面 接 の 流 れ の 中 で , 第 4 回 箱 庭
- 62 -
制 作 面 接 は ,第 2 回 お よ び 第 3
回箱庭制作面接とは雰囲気の
違うと筆者が感じるような構
成 が な さ れ た 。B 氏 は ,人 と 人
のつながりや自然が自分にと
って心地よい場所を思い出し,
そ の 心 象 風 景 を ,く つ ろ ぎ ,ゆ
ったりとした気持ちで自己像
である星の王子様が眺めてい
るという構成を行った。星の
王 子 様 は ,自 分 に と っ て の 大
切な場所を砂箱の外から俯瞰
するという空間の構成を行っ
た。その構成は同時に, 過
去 の 思 い 出 ,現 在 の 自 分 ,将
写 真 13
B 氏第3回作品
来の希望という過去−現在−未来に亘る時間の表現でもあった。このような時空間の構成
に は ,自 分 自 身 が い た い と い う 雰 囲 気 ( B 氏 調 査 ,4-全 体 的 感 想 ) と い う B 氏 に と っ て 大 切
な人間関係や場についての内的プロセスが付与されていた。
こ の よ う な 時 空 間 の 構 成 は ,確 か こ ん な 風 景 あ っ た ぞ と 気 づ き が 構 成 か ら 喚 起 さ れ ,そ の
後 ,B 氏 が 意 図 的 に 構 成 に 内 的 プ ロ セ ス を 付 与 し て 制 作 さ れ て い っ た も の で あ る 。内 的 プ ロ
セ ス を 構 成 に 付 与 す る こ と に よ っ て ,B 氏 は 自 分 が 大 切 に し た い も の を 再 確 認 す る こ と が
で き た 。 ま た ,こ れ ら の 構 成 を 通 し て ,B 氏 は 現 在 の 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス や 希 望 に 気 づ き ,表
現 し て い っ た 。こ れ ら の 構 成 に よ っ て ,B 氏 は 自 己 へ の 理 解 を 深 め る こ と が で き た と 考 え ら
れる。
◆ 具 体 例 30: B 氏 第 6 回
箱庭制作面接複数過程に亘
って
B 氏 は ,第 6 回 箱 庭 制 作 面
接の箱庭制作過程 5 でイル
カを左上隅の海に置いた。
制作過程 7 で島の中央やや
上のあたりから中央に樹木
を 置 い た 。制 作 過 程 9 で 海
草を島の下方の浜辺に置き,
針葉樹を島に点在させた。
制 作 過 程 11 で 鳥 の 巣 を 島
の中央の林の横に置いた。
制 作 過 程 13 で 島 の 左 側 に
石 仏 を 埋 め た 。制 作 過 程 20
写 真 14
- 63 -
B 氏第6回作品
で 埴 輪 を 島 中 央 の 上 の 部 分 に 埋 も れ さ せ た 。制 作 過 程 22 で ,埴 輪 の 右 横 に ガ ラ ス 片 ,真 珠 の
一 部 が 埋 ま る よ う に 置 い た 。 制 作 過 程 24 で 亀 ,魚 を 右 側 の 海 に 置 い た 。 制 作 過 程 28 と 30
で ,島 中 央 の 樹 木 を 増 や し た (写 真 14)。 そ の よ う な 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,B 氏 は 自 発 的 説
明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。 ど ち ら と い う と ,気 持 ち 的 に は ,再 生 し て い く ,と い う 印 象 ,
気 持 ち が あ っ て 。 だ か ら ,そ う い う よ う な と こ ろ で は ,そ う い う 木 々 が 生 え て き て ,草 が ,実
の (? ),生 え て き て ,多 少 な り と も ,実 の な る も の を こ う や っ て つ い て い る よ う な 状 況 の 中
で ,鳥 も や っ て き て ,巣 を 作 っ た り と か と い う も の を ,そ の ,こ の 中 心 に 置 き た か っ た と 。(中
略 )ま あ ,そ の 再 生 と い う こ と を い っ た ん で す け ど ,そ う い う 意 味 で は ,昔 ,い ろ い ろ , 人 が 住
ん だ り ,な ん か や っ て た と い う 。 そ う い う 痕 跡 み た い な も の が 。 そ の ,そ う で す ね 。 こ の 遺
跡 に 近 い よ う な 。遠 い 昔 に そ う い う 風 に あ っ た け れ ど も ,な ん ら か の 理 由 で う ち 捨 て ら れ て 。
で も ,し ば ら く 経 っ て ,ま あ ,あ の ,自 然 み た い な も の ,環 境 も 落 ち 着 い て ,草 木 が 萌 え 出 て ,
鳥 も や っ て き て 。 そ の 周 り で は ,こ の 陸 地 の こ と や 状 況 と 関 係 な く ,ま あ ,そ の ,海 に 生 き る
も の は ,そ れ ま で 通 り ,ず ー ー と そ の ,生 活 を し て る 。そ う い う 営 み が あ っ て っ て い う 。そ う
い う ,状 況 を 作 り ま し た ね ( B 氏 自 発 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て )。
調 査 的 説 明 過 程 で は ,B 氏 と 筆 者 と の 間 で 以 下 の よ う な や り と り が あ っ た 。私 の 印 象 で は ,
な ん か ,例 え ば で す ね 。 ど で か い ,そ の ,小 高 い ,こ の 木 が ど ー ー ん と 1 本 あ る っ て い う よ う
な イ メ ー ジ は な く て 。 と に か く ,低 い ,背 が 低 く て ,広 が っ て い る 。 そ の ,で も 緑 が 深 く あ る
っ て い う よ う な 。だ か ら ,ち ょ っ と ,ほ ん と は ,広 葉 樹 を も っ と ぐ あ ー ー と し き つ め た よ う な
感 じ と か 。 (中 略 )< だ か ら こ こ は イ メ ー ジ と し て は ,低 い > こ ん な 高 さ の イ メ ー ジ の ,は い 。
< ぐ ら い の 木 が , な ん て ,い う の か な ,み っ し り と > わ り あ い ,そ の ,は い ,広 が っ て て , < 広
が っ て ,っ て い う こ と な ん で す ね 。わ か り ま し た 。了 解 で す 。そ う い う 空 間 ,そ し て ,そ こ は ,
再 生 ,今 ,し て る と い う こ と な ん で す よ ね 。
( は い )ま あ ,島 の 中 心 が 緑 で 再 生 し て い る 。
(は
い ) > ( B 氏 調 査 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て )。
箱 庭 制 作 過 程 13 で の 島 の 左 側 に 石 仏 を 埋 め た 構 成 の 内 省 報 告 に つ い て ,第 6 回 ふ り か え
り 面 接 で 以 下 の よ う に 説 明 し た 。 [意 味 と し て は ,死 と 再 生 と い う 言 葉 を 意 図 し た ん で す け
ど も ,た と え ば ,ま あ ,人 が 生 き て ,い ろ ん な 出 来 事 が あ っ て ,そ の ,つ ら い 思 い を し た り と か ,
苦 労 し た り と か ,で も ,そ こ か ら な に か ま た 取 り 組 み 始 め る と か ,立 ち 上 が っ て い く と か っ て
い う 。 こ う い う ,そ の も の の 繰 り 返 し っ て い う の は ,人 が 続 け て き た っ て い う よ う な ,そ う い
う と こ ろ で ,繰 り 返 し っ て い う ]。
ま た ,こ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て の 調 査 的 説 明 過 程 に お け る ,海 の 生 き 物 が 陸 で の 営
みとは関係なく生きているという説明について, 第 6 回ふりかえり面接で以下のように説
明 し た 。[遺 跡 の( 中 略 )ガ ラ ス の も の と か ,真 珠 と か っ て い う の は , (中 略 )人 あ っ て の 価 値 ,
価 値 づ け ら れ た も の っ て い う 。(中 略 )内 的 現 実 。で も ,そ の ,内 的 現 実 だ け が 現 実 じ ゃ な い っ
て い う か 。外 的 な な ん か ,そ う い う 自 然 の 営 み が あ っ て ,ま あ ,世 界 っ て い う の は ,自 分 ば っ か
りの思いで見ている世界がすべてで出来上がっているわけじゃないとかっていうところも
含 め て ,全 体 的 っ て い う か ]。
こ の 具 体 例 で は ,島 の 中 央 の 木 々 ,周 辺 部 の 木 々 ,鳥 は ,再 生 と い う イ メ ー ジ が 付 与 さ れ た ,
と 捉 え る こ と が で き る 。 再 生 が 中 心 部 か ら 周 辺 へ 広 が っ て い っ た 。 そ し て ,海 の 生 き 物 は ,
石 仏 や 埴 輪 に 表 さ れ た 人 の 営 み の 遺 跡 や 陸 地 の 状 況 と は 関 係 な く ,そ れ ま で 通 り に ず っ と
生 活 し て い る と い う イ メ ー ジ が 付 与 さ れ た ,と 考 え ら れ る 。つ ま り ,こ の 構 成 に は ,中 央 か ら
- 64 -
周 辺 へ と い う 空 間 的 広 が り と ,過 去 ,現 在 ,未 来( 再 生 の 継 続 )と い う 時 間 軸 ,ま た ,陸 地 と は
関係なくずっと続いている海の営みという時間という多様な時間の流れが表現されている,
と捉えられる。
過 去 の 遺 物 は ,過 去 に も 人 が 生 き て ,つ ら い 思 い や 苦 労 な ど 様 々 な 出 来 事 が あ っ て も ,ま た
取 り 組 み 始 め る と か ,立 ち 上 が っ て い く と い う 生 き 様 を 示 し て い た 。 そ し て ,そ れ は 繰 り 返
し ,人 が 続 け て き た も の で あ る こ と が 表 現 さ れ た も の で あ っ た 。 遺 跡 は ,人 に よ っ て 価 値 づ
け ら れ ,人 あ っ て の も の で あ る 。 し か し ,世 界 に は 海 の 生 物 の よ う に 人 の 価 値 観 や 感 情 と は
関 係 な く 生 き て い る も の が あ る 。そ れ ら を す べ て 含 め て ,世 界 の 全 体 で あ る と ,B 氏 が 感 じ ,
考 え て い る ,と 理 解 で き る 。
B 氏 第 2 回 ∼ 5 回 箱 庭 制 作 面 接 ま で の 作 品 は ,B 氏 の 現 実 の 状 況 や 個 人 的 体 験 を 反 映 し た
作品であった。第 6 回箱庭制作面接の作品は, 今までの作品と非連続的な作品と筆者が感
じ ら れ る ほ ど ,構 成 が 大 き く 異 な っ て い た 。そ の よ う な 作 品 に な っ た 一 因 は ,◆ 具 体 例 30 に
示 さ れ た 多 様 な 世 界 の 表 現 で あ っ た 。 こ の 多 様 性 の 表 現 は ,「(3)-1.砂 の 構 成 に よ る 区 分 の
結 果 お よ び 考 察 」 (pp. 57-60 参 照 )で 検 討 し た 空 間 と 時 間 が 一 体 化 し て い る ト ポ ス , 空 間 と
時 間 が 一 体 化 し ,独 特 の 雰 囲 気 を も っ た 時 空 間 の 構 成 だ と ,理 解 す る こ と が で き よ う 。 こ の
ような時空間構成によって, B 氏は第 2 回∼5 回箱庭制作面接の作品とは異なる自己の内界
を 表 現 で き た と 考 え ら れ る 。B 氏 が 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,第 2 回 ∼ 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 作
品 と は 異 な る 自 己 の 内 界 を 表 現 で き た こ と は ,B 氏 の 自 己 理 解・自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 で き
たと考えられる。
◆ 具 体 例 28∼ 30 に は 構 成 に よ る 時 空 間 の 表 現 が 示 さ れ た 。 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 に お け
る 時 空 間 の 構 成 に よ っ て ,B 氏 は 自 分 が 大 切 に し た い も の を 再 確 認 す る こ と こ と が で き た 。
ま た ,こ れ ら の 構 成 を 通 し て ,B 氏 は 現 在 の 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス や 希 望 に 気 づ き ,表 現 し て い
っ た と 捉 え ら れ た 。第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 時 空 間 の 構 成 に よ っ て ,B 氏 は そ れ ま で の
回 と は 異 な る 内 界 の 表 現 が 可 能 に な っ た と 解 釈 で き た 。こ の よ う に し て , [構 成 に 付 与 さ れ
た 内 的 プ ロ セ ス ]は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る と 考 え ら れ る 。
(2)明 示 さ れ な い 境 界 線 の 結 果 お よ び 考 察
以 下 の 具 体 例 は ,[構 成 に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス ]の や や 特 殊 な 主 観 的 体 験 を 示 し て い
る 。そ れ は ,境 界 線 が 構 成 と し て 明 示 的 で は な い が ,箱 庭 制 作 者 に と っ て は ,あ る ラ イ ン か ら
領域が異なると感じる具体例である。
◆ 具 体 例 31: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 6
A 氏 は ,第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 6 で ,貝 殻 (巻 貝 ・二 枚 貝 ),サ ン ゴ を 右 奥 隅 に
置 き ,左 奥 の 海 藻 の 脇 に も 二 枚 貝 や 他 の 小 さ な 貝 殻 を 置 い た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い
て ,A 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 貝 殻 と か ,珊 瑚 と か が あ っ て 豊 か な 海 で す ね 。<う ん ,そ う だ ね >
う ん ,き れ い な も の も あ る な ぁ っ て 印 象 で す ね ,貝( A 氏 自 発 ,3− 6)と 語 っ た 。調 査 的 説 明
過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 < 貝 殻 っ て や っ ぱ り そ う い う 女 性 的 な っ て い う イ メ ー ジ あ
る ? > こ の 辺 の は‘ 砂 箱 の 左 奥 を 指 し て ’そ う い う 感 じ が あ り ま す ね
< あ ,こ の 辺 の は >
こ っ ち の は‘ 右 奥 の 貝 を 指 し て ’も う ち ょ っ と 違 っ た 感 じ で す ね 。< あ ぁ ,な る ほ ど ね 。>
え ぇ っ と ,何 て い う ん だ ろ ,自 然 の も の ,海 の も の ,ん と ,< う ん ,そ っ か > う ん ,自 然 界 の も
の っ て い う 感 じ で す ね < な る ほ ど ,タ コ が 隠 れ て る と こ ろ は 自 然 界 > う ん そ う で す そ う で
- 65 -
す( A 氏 調 査 ,3− 6)。ま た ,内 省 報 告 に ,以 下 の よ う に 記 し た 。右 側 の 部 分 は 自 然 の 造 形 。左
側 は ,自 然 の 造 形 で も あ る け れ ど ,そ れ だ け で は な い ,私 の 内 側 の 何 か だ と 思 う ( A 氏 内
省 ,3-6,制 作 ・ 意 味 ) ,そ う 言 え ば ,左 側 の 貝 と ,右 側 の 貝 で は 意 味 合 い が 違 っ た わ ,と 思 う ,
気 づ く( A 氏 内 省 ,3-6,調 査 ・ 意 味 )。同 じ 箱 庭 制 作 過 程 で 置 か れ た 貝 殻 で あ る が ,右 奥 の 貝
殻 は 自 然 の 造 形 と し て 置 か れ ,左 奥 の 貝 殻 は 女 性 的 な 感 じ を 表 現 し た も の で も あ っ た こ と
が 語 ら れ た 。内 省 報 告 で は ,左 側 は A 氏 の 内 側 の 何 か だ と 思 う と 記 さ れ た 。し か し ,右 奥 と
左 奥 と の 違 い は ,箱 庭 制 作 中 に は ,明 確 に は 意 識 化 さ れ ず ,調 査 的 説 明 過 程 で 語 る こ と を 通
し て ,気 づ い た こ と で あ っ た 。
◆ 具 体 例 32: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10
ま た ,同 回 の 箱 庭 制 作 過 程 10 で A 氏 は ,エ ビ を い ろ ん な 角 度 か ら 見 て ,左 上 隅 の 海 藻 の と
こ ろ に 置 い た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て の 説 明 の 中 で ,貝 殻 に つ い て の 説 明 と 同 様 に ,左
上 の 領 域 と 右 上 の 領 域 と で は 異 な っ て い る こ と を ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 < う ん ,な る ほ ど
そ れ が ま ぁ ,こ の 領 域 と い う か ,あ る 種 ,ち ょ っ と ,こ こ ま で と は こ こ か ら と は ち が っ た > そ
う で す ね (中 略 )こ の 辺 の と こ ろ か ら‘ 左 奥 の 領 域 を 区 切 り な が ら ’こ う ,ち が う < そ う だ ね ,
こ の 辺 か ら ね > は い ,は い ( A 氏 調 査 ,3-10)。 こ の 具 体 例 で も ,砂 箱 の 左 奥 の 領 域 と 右 奥 の
領域では性質が異なることが語られた。
A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,境 界 線 が 構 成 と し て 明 示 的 で は な い が ,箱 庭 制 作 者 に と っ
て は ,あ る ラ イ ン か ら 領 域 が 異 な る と 感 じ る 主 観 的 体 験 が 報 告 さ れ た 。A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作
面 接 の 語 り や 内 省 報 告 に は ,ど の よ う な 機 序 に よ っ て ,左 側 の 貝 殻 に 女 性 的 な 感 じ が 付 与 さ
れ た の か を 確 定 で き る デ ー タ が な い 。 そ の た め ,そ の 機 序 に 関 し て は 推 測 の 域 を で な い が ,
以下に検討したい。
橋 が つ い た 岩 や 金 色 の 貝 殻 の 領 域 は ,右 側 の 貝 殻 の 領 域 よ り も 後 に 構 成 さ れ た 。橋 が つ い
た 岩 や 金 色 の 貝 殻 の 領 域 を 構 成 す る 時 点 で は ,そ れ ら が 大 切 で 特 別 な 領 域 で あ る こ と が 明
確 に 意 識 さ れ て い た が ,右 側 の 貝 殻 の 領 域 を 構 成 す る 時 点 で は ,箱 庭 制 作 者 は 異 な る 意 識 の
状 態 で あ っ た ,と 推 測 で き る 。 同 回 の 箱 庭 制 作 過 程 2 の 内 省 報 告 に 海 の 生 き 物 に 気 持 ち が
惹 か れ る と 記 さ れ た 。 A 氏 は ,こ の よ う な 感 覚 に 基 づ い て , 意 味 の 認 知 は 伴 わ な い が ,ぴ っ
た り だ と 感 じ る こ と が で き る 直 観 的 な 意 識 に よ っ て ,制 作 過 程 6 で 貝 殻 を 選 択 し , 右 側 の 貝
殻 の 構 成 を 行 っ た の か も し れ な い 。あ る い は ,制 作 過 程 11 で 砂 箱 左 奥 に ,大 事 な も の な ん だ
よねと思って置いてましたねと自発的説明過程で語られる金色の貝殻の領域が構成された
こ と に よ っ て ,同 じ 砂 箱 左 奥 に 先 に 置 か れ て い た 貝 殻 に も ,女 性 的 な 感 じ が 後 か ら 付 与 さ れ
ていったのかもしれない。
◆ 具 体 例 31 で ,筆 者 の 問 い に A 氏 が す ぐ に 答 え て い る こ と か ら ,左 奥 の 貝 殻 に 女 性 的 な
感 じ が 付 与 さ れ て い る こ と に A 氏 は 箱 庭 制 作 中 に 気 づ い て い た と 推 測 で き る 。 し か し ,右
奥 と 左 奥 と の 違 い は ,箱 庭 制 作 中 に は ,明 確 に は 意 識 化 さ れ ず ,調 査 的 説 明 過 程 で 語 る こ と
を 通 し て ,初 め て 気 づ い た こ と で あ っ た と 捉 え ら れ る 。 こ の よ う に ,部 分 的 に 明 確 な 意 図 を
伴 わ な い 表 現 が 構 成 さ れ ,そ の 構 成 に つ い て 語 る こ と を 通 し て 気 づ き が 生 ま れ て い る 。◆ 具
体 例 31 と 32 の よ う に ,箱 庭 制 作 面 接 で は ,明 確 に 意 図 さ れ た わ け で は な い 構 成 が 生 じ る 場
合 が あ る 。明 確 な 意 図 を 伴 わ な い 表 現 が な さ れ る こ と は ,箱 庭 制 作 面 接 が 箱 庭 制 作 者 の 意 図
を 超 え た 表 現 と な る こ と の 一 因 で あ る と 考 え ら れ る 。明 確 な 意 図 を 伴 わ な い 表 現 を 生 む [構
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成 に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス ]は ,構 成 と そ の 構 成 に つ い て の 語 り を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 の
自己理解の深化に寄与すると考えられる。
2)[内 的 プ ロ セ ス の 構 成 へ の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察
概 念 [内 的 プ ロ セ ス の 構 成 へ の 影 響 ]は ,「感 覚 や 感 情 や イ メ ー ジ な ど の 内 的 プ ロ セ ス が 及
ぼ す 構 成 へ の 影 響 」,と 定 義 さ れ た 。 本 概 念 の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 33: A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
A 氏 は 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,今 回 の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 以 下 の よ う
に 語 っ た (写 真 15 )。 作 る と き に (中 略 )明 け 渡 し て 作 っ た と 言 っ て た 時 が あ っ た で す よ ね 。
あの,あの,雰囲気をちょっと思い出して,あの,あんまり考えずに作ろう。で,わから
なくなったら玩具を見に行けばいいやと思って,ま,迷ったら玩具を見に行って,ピンと
来たものを持ってきて,というのを繰り返したんですね。そうすると,こういうつくり,
こ れ に な っ た (中 略 )ど う す る ど う す る っ て 考 え て , こ う , 固 ま っ ち ゃ う よ り は , ふ ぁ ∼ っ
て ,( 間 3 秒 ) 何 で も い ら っ し ゃ い じ ゃ な い け ど ( 笑 ) あ の , そ う い う 風 に し て 作 る の も ,
あ の ぉ , 気 持 ち い い も ん だ な ∼ っ て ( A 氏 調 査 ,9-全 体 的 感 想 )。
A 氏 は 第 8 回 ふ り か え り 面 接 で ,第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で は [自 分 自 身 を ね 。 あ け は な す と
い う か 。 (中 略 )あ け は な す 。 手 放 す 。 そ ん な 感 じ で 作 っ て い た よ う な 気 が し ま す ]と 語 っ て
い た 。 今 回 の 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,そ の 雰 囲 気 を 思 い 出 し て ,あ ま り 考 え ず に 作 ろ う と
し た 。 そ の よ う な 雰 囲 気 や 考 え に 従 っ て ,ミ ニ チ ュ ア を 選 択 し ,構 成 し た 。
◆ 具 体 例 34: A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 6
同 回 で ,A 氏 は ,砂 箱 右 中 央 に あ る 建 物 を 制 作 途 中 ま で は ,ふ つ う の 建 物 と し て 置 い て い た
が ,最 後 の 箱 庭 制 作 過 程 6 で ,そ の 建 物 を 教 会 に す る こ と に し た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い
て調査的説明過程で以下の
ように語った。私いっちば
ん最後に,あのー,マリア
様か十字架が,どこかに欲
しいなと思ったんですよね。
<ほー,うんうん>あのそ
ういうのが何にもない箱庭
って,私作ったことがない
ような気がして,さてどう
しようかと思ったんですけ
どね。まぁ,これ‘右端の
建物を指差しながら’が教
会という事にして,あえて
置かなくていいや今日は,
と思って終わりましたね。
(中 略 )あ え て 置 か な く て も
写 真 15
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A 氏第 9 回作品
い い や ,こ の ,こ の 建 物 の 中 に あ る で し ょ う‘ 笑 ’っ て い う ,そ う い う 感 じ で す ね 。(中 略 )
最後に,ないなーと思った。ない,ないなと思ったときに,あ,そうだ,教会の建物にし
てしまって,この中にそういう神社の鳥居だとか,あのマリア像だとか,キリスト像に当
たるものがこの中にあるんだということで私は,納得して,あの,これまでのマリア様や
神社とは違う性格の教会ですね,これは<そうだね>もっと,もっとちゃんと現実の世界
に降りてきてるもの。<うん。うん。うん。なるほどね。現実の世界に降りてきてるもの
っていうことでもあるし,意識して,だから,そういう教会的なもの,マリア様的な物,
意識して今回置かなかった,ってことなんだね,今回ね,選んでる途中に>ちょっとうれ
し い で す ね ,何 か 。< ふ ー ん ,う れ し い > う ん ,
なんか私の内側にそういうものが根付い
た よ う な そ ん な 感 じ が し ま す ( A 氏 調 査 ,9-6) ,と 語 っ た 。 ま た ,内 省 報 告 に 表 に 出 な く て
い い ,表 に 出 さ な く て い い ,そ ん な 感 じ 。 大 事 な も の だ か ら ,自 分 の 中 に あ っ て ,そ れ を 自 分
が わ か っ て い た ら い い ん だ( A 氏 内 省 ,9-6,調 査 ・ 意 味 ),と 記 し た 。今 ま で の 回 と 違 っ て ,
マ リ ア 像 や 十 字 架 や 鳥 居 は 置 か れ て い な い が ,A 氏 は 教 会 に し た 建 物 の 中 に 宗 教 的 な も の
が あ る と い う こ と で 納 得 し ,も と も と あ っ た 建 物 を 教 会 に す る と い う 構 成 を 行 っ た 。そ し て ,
宗 教 的 な も の が 外 に 表 れ て い な い こ と に つ い て ,そ れ は 大 事 な も の だ か ら ,表 に 出 さ な く て
よ い ,自 分 の 中 に あ る こ と を 自 分 が わ か っ て い た ら い い と 考 え た 。A 氏 の 宗 教 性 に 関 す る イ
メ ー ジ や 考 え が こ の よ う な 構 成 に 反 映 さ れ た ,と 捉 え ら れ る 。 そ し て ,こ の よ う な 構 成 と こ
の 構 成 の 自 分 に と っ て の 意 味 を 納 得 し て い く こ と を 通 し て ,宗 教 性 が 自 分 の 内 側 に 根 付 い
たような歓びを感じた。
第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で , A 氏 が と っ た 明 け 渡 し て 置 こ う と す る 態 度 は ,構 成 に 大 き な 影 響
を 与 え て い る ,と 捉 え ら れ る 。 明 け 渡 す と い う 態 度 は ,教 会 に し た 建 物 の 中 に 宗 教 的 な も の
が あ る と い う こ と で 納 得 し ,も と も と あ っ た 建 物 を 教 会 に す る と い う 構 成 に も 影 響 し た と
推 察 で き る 。 ま た , 宗 教 的 な も の は 大 事 な も の だ か ら ,表 に 出 さ な く て よ い ,自 分 の 中 に あ
る こ と を 自 分 が わ か っ て い た ら い い と い う 考 え も ,こ の 教 会 の 構 成 に 影 響 し て い る 。そ し て ,
こ の 教 会 は ,こ れ ま で の マ リ ア 様 や 神 社 と は 違 い ,現 実 の 世 界 に 降 り て き て い る も の と い う
よ う に , A 氏 の 宗 教 的 イ メ ー ジ の 変 化 を 表 現 す る こ と と な っ た 。こ の よ う な 構 成 を 通 し て ,
A 氏 は 自 分 の 変 化 や 成 長 に 気 づ き ,歓 び を 感 じ る こ と が で き た 。 こ の よ う に し て [内 的 プ ロ
セ ス の 構 成 へ の 影 響 ]は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し て 働 く と 考 え る こ と が で き る 。
◆ 具 体 例 35: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1∼ 3
B 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で ,「イ メ ー ジ を 引 き 出 し て く れ そ う な 人 形
を 探 す 」た め ,棚 に あ る ミ ニ チ ュ ア を 見 た 。「」内 は ,B 氏 が 内 省 報 告 の 箱 庭 制 作 過 程 内 容 と し
て 記 し た 言 葉 で あ る 。制 作 過 程 2 で ,「心 苦 し い 思 い を 表 現 す る 仕 切 り を 見 つ け 」た 。制 作 過
程 3 で ,仕 切 り を 砂 箱 中 央 に 置 い た 。 そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に B 氏 は 以
下 の よ う に 記 し た 。 何 か 重 い も の を 感 じ て 蓋 が さ れ た 感 じ ( B 氏 内 省 ,2-1,制 作 ・ 感 覚 ) ,
壁 ( B 氏 内 省 ,2-1,制 作 ・ 連 想 )。 自 発 的 説 明 過 程 で で ま あ ,自 分 自 身 の 今 日 の ,今 の 気 持 ち
の 中 核 に な る よ う な 感 じ も し た こ と が あ っ て ,真 ん 中 に 置 く と い う の が し っ く り , あ の , し
ま し た ( B 氏 自 発 ,2-3) ,と 語 っ た 。 こ の 回 の 最 初 の 箱 庭 制 作 過 程 で ,B 氏 は ,重 い も の を 感
じ て 蓋 が さ れ た 感 じ が し て お り ,そ の 感 覚 か ら 連 想 さ れ る も の は 壁 で あ っ た 。 そ し て ,そ の
感 覚 に 合 っ た 仕 切 り を 見 つ け ,そ れ を 砂 箱 中 央 に 置 い た 。 そ の 構 成 に は ,重 さ や 壁 と い う 感
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覚 や イ メ ー ジ ,心 苦 し い と い う 思 い が 今 の 気 持 ち の 中 央 に あ る と い う 主 観 的 体 験 が 反 映 し
たものであったことが示された。
◆ 具 体 例 36: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 24∼ 25,30∼ 31
同 回 の 箱 庭 制 作 過 程 19 で B 氏 は 砂 箱 左 中 央 に イ グ ア ナ を 置 い た 。 制 作 過 程 24 で , B 氏
は ,砂 箱 中 央 手 前 に 水 の 道 を 作 っ た 。 制 作 過 程 31 で ,2 体 の 天 使 を テ ー ブ ル の 前 に 置 い た 。
そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て ,B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で こ の 水 の 部 分 な ん で す け ど ,亀 が
生 き 生 き と し て 泳 ぐ と か ,そ の ,ま あ ,そ の ,そ の ,進 ん で い く 道 の り と か ,泳 い で い く 道 の り
と い う と こ ろ の , そ う い っ た も の に 向 か っ て は ,あ の , 進 ん で い く と か い う と こ ろ を , ま あ ,
表 現 し た く て ( B 氏 自 発 ,2-25) と 語 っ た 。 調 査 的 説 明 過 程 で B 氏 は ,イ グ ア ナ と し て 表 現
された攻撃的な人に自己像である亀は足を引っ張られている感覚があると語った
(pp.161-162 ◆ 具 体 例 129 参 照 )。そ れ に 続 い て ,筆 者 は ,水 の 道 の 構 成 に つ い て ,「 水 を 作 っ
て い く 中 で ,な に か 感 覚 的 な 変 化 み た い も の が あ っ た か 」と 質 問 し た 。そ の 質 問 に 対 し て , B
氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。 こ こ に 天 使 ,置 い て っ て い う と こ ろ も ,繋 が る よ う な 気 が す る ん
で す け ど も 。( B 氏 調 査 ,2-31) そ の ,そ う で あ っ て も ,ま あ ,ま あ ,生 か さ れ て る っ て い う ん
で し ょ う か ね 。そ の 水 と い う と こ ろ の (中 略 )そ う い っ た 中 で 自 分 自 身 も ,そ の ,そ の , 道 の り
と い う と こ ろ で は ,砂 漠 を 歩 い て い る わ け じ ゃ な く て , そ う い う 中 で , う ん , そ の ,た ど っ て
る っ て い う か ,た ど り き っ た っ て い う ,そ う い っ た こ と じ ゃ な ん だ け ど ,そ う い う 実 感 も 確
か に あ る 。 あ る な ー と 。 そ ん な 感 じ を し た ん で す よ ね ( B 氏 調 査 ,2-25)。 内 省 報 告 に 乾 き
と 寄 る べ き 者 ,道 筋 の 存 在 に 気 づ く ( B 氏 内 省 ,2-24,制 作 ・ 意 図 ) ,ど う に か 支 え ら れ て き
た こ と を 思 い 返 す( B 氏 内 省 ,2-24,制 作 ・ 感 覚 ),神 ,仲 間( B 氏 内 省 ,2-24,制 作 ・ 連 想 )と
記 し た 。攻 撃 的 な 人 物 に 足 を 引 っ 張 ら れ て い る よ う な 状 況 が 確 か に あ る 中 で も ,亀 が 生 き 生
き を 泳 ぎ ,進 む 道 と し て ,ま た , 砂 漠 を 歩 い て い る わ け で は な く , 自 分 は 生 か さ れ ,道 を た ど
っ て い る と い う 実 感 が 反 映 し た 構 成 と し て ,B 氏 は 水 の 部 分 を 構 成 し た 。 水 の 道 の 構 成 は ,
神や仲間にどうにか支えられて歩いている道筋の存在を B 氏が気づくという内的プロセス
を 反 映 し た も の で も あ っ た ,と 理 解 で き る 。
B 氏は第 2 回箱庭制作面接の冒頭では, 重いものを感じて蓋がされた感じがしており,
そ れ が 気 持 ち の 中 核 に あ る と 感 じ が し た た め , 仕 切 り を 砂 箱 中 央 に 置 い た 。そ の 後 ,攻 撃 的
な 人 物 に 足 を 引 っ 張 ら れ て い る よ う な 感 覚 が あ り ,イ グ ア ナ や 亀 の 構 成 を 行 っ た 。そ の よ う
な 苦 し い 状 況 が 構 成 さ れ た 後 ,水 の 道 が 構 成 さ れ た 。 水 の 道 は , 砂 漠 を 歩 い て い る わ け で は
な く ,亀 が 生 き 生 き を 泳 ぎ ,進 む 道 で あ っ た 。 ま た ,自 分 は 生 か さ れ て お り ,自 分 が 神 や 仲 間
にどうにか支えられて歩いていることに気づくという B 氏の内的プロセスを反映したもの
で も あ っ た 。 ◆ 具 体 例 35 と 36 に は ,B 氏 が 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス に 従 っ て ,構 成 し て い る こ
と が 示 さ れ た 。 そ の よ う な 構 成 は ,現 在 の 苦 し さ を 表 現 す る こ と を 可 能 に す る と と も に ,そ
の よ う な 構 成 の 後 に ,亀 が 生 き 生 き を 泳 ぎ ,進 む 道 が あ る こ と や 神 や 仲 間 の 支 え に 気 づ く と
い う 内 的 プ ロ セ ス の 変 化 を 生 む も の で も あ っ た ,と 解 釈 で き る 。
◆ 具 体 例 33∼ 36 に は ,[内 的 プ ロ セ ス の 構 成 へ の 影 響 ]が 示 さ れ て い た 。Kalff(1966 大 原
他 訳 1972) は ,箱 庭 療 法 で は ,内 か ら 外 へ の 変 化 が 自 然 な 仕 方 で 生 ま れ る と す る (p.ⅳ -ⅴ )。
[内 的 プ ロ セ ス の 構 成 へ の 影 響 ]は ,こ の よ う な 内 界 か ら 構 成 と い う 外 界 へ の 影 響 に 関 す る
概 念 で あ る ,と 考 え ら れ る 。A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 明 け 渡 す と い う 感 覚 ,態 度 や ,今 ま
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でとは異なる宗教的な構成の意味を納得していく内的プロセスは構成に影響を及ぼしてい
た 。そ し て ,構 成 を 通 し て , A 氏 は 自 分 の 変 化 や 成 長 に 気 づ き ,歓 び を 感 じ る こ と が で き た 。
B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で , B 氏 は 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス に 従 っ て ,構 成 し て い た 。 そ し て ,
水 の 構 成 は , 蓋 が さ れ た 感 じ や 攻 撃 的 な 人 に 苦 し む と い う 内 的 プ ロ セ ス か ら ,亀 が 生 き 生
き 泳 ぐ 道 が あ り ,自 分 は 生 か さ れ て い る こ と に 気 づ く と い う 内 的 プ ロ セ ス の 変 化 を 生 む も
の で あ っ た と 解 釈 で き た 。こ の よ う に し て [内 的 プ ロ セ ス の 構 成 へ の 影 響 ]は ,箱 庭 制 作 面 接
の促進機能として働くと考えられる。
Ⅵ -3.「内 界 」と 「構 成 」と の 双 方 向 の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
3)「内 界 」と 「構 成 」と の 双 方 向 の 影 響 に は ,3 カ テ ゴ リ ー と 10 概 念 が あ っ た 。 こ れ ら の 概
念 に は ,「内 界 」か ら 「構 成 」へ の 影 響 と ,「構 成 」か ら 「内 界 」へ の 影 響 の 双 方 向 の 影 響 関 係 が 見
いだされた。
カ テ ゴ リ ー ≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ 内 に ,カ テ ゴ リ ー < イ メ ー ジ の 自 律 性 > が
あ り ,そ の 中 に 概 念 [作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ] が あ っ た 。 < イ メ ー ジ の 自 律 性
> と は 別 に ≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ 内 に ,概 念 [イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待
つ 内 的 プ ロ セ ス ],[非 意 図 的 な 構 成 を 基 に ,意 図 的 に 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]が あ っ た 。
カ テ ゴ リ ー < 創 造 を め ぐ る 肯 定 的 感 情 と 否 定 的 感 情 > 内 に ,2 概 念 [創 造 の 歓 び ],[ 作 品
に 対 し て ,否 定 的 な 感 情 や 感 覚 を も つ プ ロ セ ス ]が あ っ た 。
そ れ ら の カ テ ゴ リ ー と は 別 に 独 立 し て ,「 内 界 と 構 成 と の 双 方 向 の 影 響 」 と し て ,5 概 念
[構 成 に よ る 表 現 の 多 義 性 ],[他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 ],[ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ な い 領 域 に
つ い て の 意 図 や 感 覚 ],[構 成 に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 の 表 現 ],[不 明 瞭 な
点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]が あ っ た 。
Ⅵ -3-1. ≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ と ,そ の 中 の カ テ ゴ リ ー ,概 念 の 結 果 お よ び 考
察
≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ 内 に カ テ ゴ リ ー < イ メ ー ジ の 自 律 性 > が あ り ,そ の 中
に [作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]が あ っ た 。 ま た ,< イ メ ー ジ の 自 律 性 > と は 別
に ,2 概 念 [イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス ],[非 意 図 的 な 構 成 を 基 に ,意
図 的 に 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]が あ っ た 。
1)≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ の 結 果 お よ び 考 察
≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ は ,「創 造 に お い て ,箱 庭 や イ メ ー ジ が 主 体 と な っ て そ
れ を 自 己 が 受 け と め る と い う 受 動 性 と ,意 識 的 に 構 成 す る と い う 能 動 性 と の 両 側 面 に つ い
て の 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。 以 下 に そ の 具 体 例 を 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 37: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2∼ 3
A 氏 は 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 と 3 で ,砂 箱 左 上 隅 か ら 反 時 計 周 り に 渦 を 作
っ た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程 で A 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。 こ な い
だ 私 。(中 略 )博 物 館 で ,あ の 曼 荼 羅 の 展 示 会 を や っ て い た の で < は ぁ ぁ > 観 て 来 た ん で す よ
ね < あ あ ,な る ほ ど > そ い で あ の 丸 い 図 形 と か ,お も し ろ い な と 思 っ て ,ま ,で も ,ね , そ ん な
の を 作 り た い と 思 っ て い る わ け で も な く 。 で も 砂 を 見 て い た ら ,う ,渦 巻 き だ と い う ふ う に
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思 っ た の で ,す ー ‘ 息 を 吸 う 音 ’ ち ょ っ と ど う な る か わ か ら な か っ た ん だ け ど ,渦 巻 き が 浮
か ん で き て ど う も 消 え な い か ら ,う ん じ ゃ ぁ 作 っ て み て み よ う と 思 っ た の が ,今 日 の ‘ 筆 者
に 顔 を 向 け て ’ 作 品 な ん で す ね ( A 氏 自 発 ,4-2)。 A 氏 は 砂 を 見 て い た ら ,渦 巻 き だ と 思 っ
た 。 先 日 ,曼 荼 羅 を 博 物 館 で 観 た が ,そ れ を 作 り た い と 思 っ て い た わ け で は な か っ た 。 A 氏
が 渦 を 意 図 的 に 作 成 し よ う と 思 っ て い た わ け で は な い た め ,こ の 過 程 は 受 動 的 な 過 程 と 捉
え る こ と が で き る 。A 氏 は ,渦 巻 き の イ メ ー ジ が 浮 か ん で き て 消 え な い の で , ど う な る か わ
か ら な か っ た が ,渦 巻 き を 作 る こ と に し た 。こ の 過 程 は 能 動 的 な 過 程 と 考 え る こ と が で き る 。
こ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,A 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 丸 い 形 を こ
こ に 見 た っ て 言 う か ね 。 見 た の は 丸 だ け ど ,私 は 渦 を 作 っ た ん で す よ ね 。 < ふ ん ,な る ほ ど
ね > 何 か そ の え っ と 丸 と か ,渦 が 見 え る と 思 っ た と き に < ふ ん う ん > そ の ,流 れ を 作 り た い
と か ,何 か や っ ぱ り 何 か 動 き の あ る も の が 作 り た く な っ た ん で す ね 。< う ん う ん う ん > そ れ
で 渦 に し た ら 動 く か も し れ な い と 思 っ た の か も し れ な い ( A 氏 調 査 ,4-2)。 こ の 説 明 で ,A
氏 は ,丸 と か 渦 が 見 え る と 思 っ た 時 に ,流 れ や 動 き の あ る も の が 作 り た い と い う 思 い が 湧 い
た こ と を 語 っ た 。こ の 説 明 も ,創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 に 関 す る 主 観 的 体 験 の 語 り で あ
る ,と 捉 え る こ と が で き る 。
本 カ テ ゴ リ ー は 受 動 性 と 能 動 性 と い う 2 つ の 方 向 性 を 併 せ も ち ,そ れ ら が 協 働 す る 内 的
プ ロ セ ス で あ る と 考 え ら れ る 。 ◆ 具 体 例 37 で は ,曼 陀 羅 展 で 見 た よ う な 丸 い 図 形 を 作 り た
い と 思 っ て い た わ け で は な か っ た が ,A 氏 は 砂 に 丸 い 形 を 見 て ,渦 が 浮 か ん で き て 消 え な い
と い う 主 観 的 体 験 に つ い て 語 っ た 。そ の よ う な 受 動 的 な 過 程 を 尊 重 し ,A 氏 は 渦 を 作 る と い
う 能 動 的 な 行 為 を 行 っ て い る 。実 際 に 制 作 さ れ る こ と に よ っ て ,浮 か ん で き て 消 え な か っ た
渦 は 砂 箱 の 中 に 形 を え る こ と が で き た 。 受 動 性 と 能 動 性 と い う 2 つ の 方 向 性 に つ い て ,箱
庭 療 法 と 関 連 さ せ て 記 さ れ て い る 言 及 を 確 認 す る 。 河 合 隼 雄 (1969) は ,「 治 療 の 場 合 は ,ま
ず 自 我 の 防 衛 を 弱 め て ,無 意 識 内 の 心 的 内 容 を い わ ば 受 動 的 に 表 出 さ せ る 作 業 と ,次 に そ れ
を 積 極 的 に 自 我 に 統 合 し て い こ う と す る 働 き が 行 わ れ ね ば な ら な い 。 こ の 点 箱 庭 は [中 略 ]
この両者の作業が適当に行われる方法であると考えられる。これは『心像の表現』に重点
を 置 く 方 法 と し て ,水 島 恵 一 ら の 行 っ て い る『 イ メ ー ジ 面 接 』の 手 法 と 類 似 の 面 を 多 く 持 っ
て い る が ,ク ラ イ エ ン ト が 自 ら 外 的 に 作 品 と し て 作 り あ げ て い く 点 が 箱 庭 の 特 徴 で あ る と
い う こ と が で き る 」と 指 摘 し て い る (pp.23-24)。こ の よ う に 河 合 は ,箱 庭 療 法 で は ,無 意 識 の
心 的 内 容 を 受 動 的 に 表 出 さ せ る 作 業 と ,そ れ を 積 極 的 に 自 我 に 統 合 し て い く 作 業 の 両 方 の
作業が適当に行われるとしている。本項で検討する受動性は河合の記述と同義である。し
か し ,本 項 で い う 能 動 性 は ,自 我 に 統 合 す る 働 き を 直 接 的 に 指 し て い る わ け で は な い 。 本 項
の 能 動 性 は , 河 合 の 「ク ラ イ エ ン ト が 自 ら 外 的 に 作 品 と し て 作 り あ げ て い く 点 」 に 主 に 焦 点
を 合 わ せ る 。 本 項 の 能 動 性 は , 以 下 に 示 す Kalff の 指 摘 と 関 連 が 深 い , と 考 え ら れ る 。
Kalff(1966 大 原 他 訳 1972) は ,無 意 識 的 内 容 が 外 的 現 実 的 世 界 に お い て は っ き り し た 形 を
と る こ と を 箱 庭 療 法 の 長 所 の 一 要 因 と し て 挙 げ て い る 。 そ し て ,箱 庭 療 法 に お い て は ,無 意
識 的 内 容 が 箱 庭 の 中 に 一 つ の 形 を 見 出 し て お り ,そ の よ う に 一 つ の 形 を 与 え ら れ る と き 無
意 識 の 内 容 は ,意 識 に よ っ て 把 握 さ れ る 前 に ,夢 よ り も も っ と 集 約 さ れ ,幾 分 明 瞭 に な る 。 そ
の よ う な 内 か ら 外 へ の 変 化 は ,内 的 内 容 が 外 的 形 態 を 見 出 す と い う 遊 び の 本 質 で あ る た め ,
自 然 な 仕 方 で 生 ま れ て く る ,と し て い る (p.ⅴ )。◆ 具 体 例 37 と 河 合 (1969)や Kalff(196 6 大
原 他 訳 1972)を 総 合 す る と ,浮 か ん で き た 内 的 な イ メ ー ジ を 無 視 す る こ と な く ,尊 重 し ,砂 箱
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の 中 に 形 作 る こ と は ,箱 庭 制 作 者 の 内 界 を 表 現 す る こ と で あ り ,そ の よ う な 表 現 活 動 で あ る
≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解・自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る と
考えることができる。
◆ 具 体 例 38: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2
A 氏 は 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,両 手 で ざ く ざ く と 砂 を か き 混 ぜ ,砂 を 固
め る と い う 行 為 を 行 っ た 。 そ の 行 為 に つ い て ,内 省 報 告 に ,手 を 動 か す う ち に 気 分 が 高 揚 し
て く る 。何 を 作 ろ う ,何 が 出 て く る だ ろ う ,ど う な っ て い く の か な と い う 気 分 。何 で も い い の
で ,そ れ に の っ て い こ う ( A 氏 内 省 ,6 -2,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。何 が で て く る だ ろ う か ,ど
う な っ て い く の か と い う 内 的 プ ロ セ ス は ,イ メ ー ジ が 出 て く る の を 待 つ 受 動 性 で あ り ,そ れ
に 乗 っ て い こ う と い う 内 的 プ ロ セ ス は 能 動 性 で あ る ,と 捉 え る こ と が で き る 。
◆ 具 体 例 38 に 関 し て ,ま ず ,受 動 性 に つ い て 検 討 す る 。こ の 具 体 例 に は 何 が 出 て く る だ ろ
う ,ど う な っ て い く の か な と い う 気 分 と い う 報 告 が あ っ た 。 織 田 は ,箱 庭 療 法 を 基 礎 づ け て
いる想像力を検討している。想像力を用いて自身のこころに向き合う行為を瞑想と呼び,
瞑 想 の 定 義 と し て ,10 項 目 を 挙 げ て い る 。 そ の ④ に 「 瞑 想 の た め に は 必 ず し も 想 念 を 集 中
させる必要はない。むしろ想念に自由を与えるこということである。わたしたちのこころ
の 奥 か ら 自 然 発 生 的 に ,何 ら の 思 い が 浮 か び 上 が る の を 待 つ と い う こ と で あ る 」と 記 し て い
る (織 田・ 大 住 ,2008,pp.40-41)。ま た ,田 嶌 (1992)は ,「 イ メ ー ジ 面 接 で も っ と も 大 切 な こ と
は ,患 者 の 内 的 イ メ ー ジ の 流 れ を 活 性 化 さ せ ,か つ そ れ に 対 し て な る べ く 受 容 的 な 構 え を 向
け る よ う に 援 助 す る こ と あ る 。 [中 略 ] 大 事 な こ と は ,意 識 的 ・ 能 動 的 に 『 浮 か べ よ う 』『 見
よ う 』 と い う 感 じ で は な く ,『 待 っ て い れ ば 浮 か ん で く る か も し れ な い と い う 態 度 で 待 つ 』
『 眺 め る 』と い う 受 動 的・受 容 的 態 度 で イ メ ー ジ を 浮 か べ ,体 験 す る こ と で あ る 」と し て い
る (p.46)。 こ の 具 体 例 の 何 が 出 て く る だ ろ う ,ど う な っ て い く の か な と い う 気 分 は , イ メ ー
ジ が 出 て く る の を 待 つ 受 動 的 ・ 受 容 的 態 度 で あ る と ,考 え ら れ る 。
織 田 (2008) や 田 嶌 (1992) の 考 え を 参 照 す る と , 本 項 で 検 討 し て い る 受 動 性 は , 箱 庭 制 作 面
接 に お い て ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 心 の 奥 か ら 自 然 発 生 的 に 浮 か び 上 が る の を 待 つ
態 度 で あ り ,そ の よ う な 態 度 を 基 盤 と す る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 表 現 は 箱 庭
制作者の内的プロセスにぴったりとしたものになると考えることができる。
次 に ,◆ 具 体 例 38 を 創 造 に お け る 能 動 性 の 側 面 か ら 考 察 す る 。箱 庭 制 作 面 接 で は ,浮 か ん
で き た イ メ ー ジ を と ら え る こ と ,そ し て ,そ れ を 砂 箱 の 中 に 形 作 っ て い く と い う 過 程 が 生 じ
る 。創 造 に お け る 能 動 性 は そ の よ う な イ メ ー ジ を と ら え ,形 作 る と い う 過 程 に 関 連 し た 箱 庭
制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 で あ る と ,考 え ら れ る 。 A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,A 氏
は ,何 が で て く る だ ろ う か ,ど う な っ て い く の か と い う 気 分 を 感 じ た 後 に ,何 で も い い の で ,
そ れ に の っ て い こ う ( A 氏 内 省 ,6-2,制 作 ・ 感 覚 ) と い う 感 じ を も っ た 。 こ の 具 体 例 で は ,
自 分 の 心 の 中 か ら 何 が 出 て く る の が わ か ら な い に も 関 わ ら ず ,そ れ が 何 で あ れ ,そ の 出 て き
た も の に ,の っ て い こ う と す る A 氏 の 思 い が 記 さ れ て い る 。こ の 場 合 の の っ て い こ う は ,出
て き た も の を 尊 重 し ,そ れ を 形 づ く っ て い こ う と い う 意 味 だ と 推 測 で き る 。
織 田 は ,瞑 想 の 定 義 ⑤ に は 「 瞑 想 は 自 然 発 生 的 な こ こ ろ の 動 き ,つ ま り こ こ ろ の 思 い に ゆ
だ ね ら れ る べ き も の で あ る が ,同 時 に ,わ た し た ち が 浮 か び 上 が っ て く る 思 い を 捉 え よ う と
し な け れ ば な ら な い 」 と 記 し て い る (織 田 ・ 大 住 ,2008,pp.40-41) 。 こ の 態 度 は ,イ メ ー ジ を
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意 識 が 能 動 的 に 「捉 え よ う 」と す る 積 極 的 な 態 度 と 考 え ら れ よ う 。 A 氏 の そ れ に の っ て い こ
う と い う 言 葉 は ,織 田 の 「 思 い を 捉 え よ う 」 と す る 能 動 性 を 示 し て い る ,と 考 え ら れ る 。
ま た ,田 嶌 (1992)は ,イ メ ー ジ 療 法 に お い て ,自 分 の 内 界 の イ メ ー ジ に 対 し て ,受 容 的・探 索
的 構 え を と る こ と に よ っ て ,イ メ ー ジ の 体 験 様 式 の 変 化 を 引 き 出 す こ と が で き る と し て い
る 。 受 容 的 ・ 探 索 的 構 え の 探 索 的 構 え に つ い て ,以 下 の よ う に 述 べ て い る (pp.112-113)。
「 こ こ の と こ ろ を 味 わ っ て み よ う 」 と か ,「 こ れ に は 今 は と て も 取 り 組 め そ う に な
い 」 と か ,「 も う 少 し は 感 じ つ づ け ら れ そ う だ 」 な ど と い っ た 具 合 に ,自 分 の 心 的 構 え
に つ い て の 判 断 を 本 人 自 身 が 行 え る こ と が 必 要 で あ り ,さ ら に は 「 こ こ の と こ ろ は こ
ういうふうにしてみよう」などと決定したりすることが必要である。
探 索 的 構 え は ,イ メ ー ジ へ 働 き か け る 際 の 安 定 し た 心 的 構 え で あ り ,そ れ が 必 要 と な る と ,
田 嶌 は 考 え て い る 。A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 何 で も い い の で ,そ れ に の っ て い こ う( A 氏
内 省 ,6-2,制 作 ・ 感 覚 ) と い う 感 じ は ,田 嶌 の 探 索 的 構 え で あ る と も 考 え ら れ る 。
織 田 (2008) や 田 嶌 (1992) の 考 え を 参 照 す る と , 本 項 で 検 討 し て い る 能 動 性 は , 浮 か ん で き
た 内 的 プ ロ セ ス を 「捉 え よ う 」と す る 積 極 的 な 態 度 で あ り ,さ ら に 捉 え た 内 的 プ ロ セ ス を 実
際 に 形 作 り ,表 現 し て い こ う と す る 能 動 的 な 内 的 プ ロ セ ス で あ る と 考 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 39: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1
B 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で ,砂 箱 中 央 付 近 の 砂 を 指 先 で 触 れ た 。 箱
庭 制 作 過 程 2 で ,砂 箱 中 央 に 水 源 を 創 っ た 。 箱 庭 制 作 過 程 1 に つ い て ,内 省 報 告 に ,制 作 す る
気 持 ち を 高 め る( B 氏 内 省 ,1-1,制 作・意 図 ),何 か を 沸 き 立 た せ る ,か き ま ぜ る イ メ ー ジ( B
氏 内 省 ,1-1,制 作 ・ 感 覚 ) ,呪 術 ( B 氏 内 省 ,1-1,制 作 ・ 連 想 ) ,集 中 ( B 氏 内 省 ,1-1,制 作 ・
意 味 ) と 記 し た 。 そ し て ,第 1 回 ふ り か え り 面 接 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 [砂 の 感 じ を 探
る っ て と こ ろ か ら な ん で す け ど ,さ あ 実 際 作 る ぞ ,っ て い う と こ ろ で ,ま あ ,自 分 自 身 気 持 ち
を 集 中 さ せ る と か , 湧 き 立 た せ る と か ,実 際 砂 を さ わ る と い う と こ ろ で ,そ の 作 業 が か き ま
ぜ る っ て い う よ う な イ メ ー ジ で あ っ た わ け で す 。 そ う い っ た と こ ろ で ,連 想 と し て は ,呪 術
(笑 )っ て い う よ う な ,そ ん な ,呪 術 っ て 言 っ て も 自 分 が な に か で き る わ け じ ゃ な い ん だ け れ
ど も ,そ ん な ,そ う い っ た 気 持 で し た ね 。そ う い っ た 中 で ,何 か を 湧 き あ が ら せ る と い う と こ
の 中 で ,真 ん 中 に 水 源 を 作 る < (中 略 )呪 術 っ て い う こ と で ,も う 少 し 言 葉 を 加 え ら れ る こ と
っ て あ り ま す か ? > そ れ は ,な に か ,そ の ,ま あ ,あ の ,そ の ,自 分 で ,頭 で ,意 識 の 中 で 作 る と
い う よ り も ,呼 び 起 こ す と か ,そ の ,顕 わ さ せ る っ て い う ん で し ょ う か 。そ ん な よ う な 気 持 ち
が 動 い て た っ て い う ん で し ょ う か 。 だ か ら ,そ れ は ,変 な 感 じ か も し れ な い ん で す け ど 。 例
え ば ,自 分 の 無 意 識 下 に あ る も の っ て 言 え ば ,自 分 の も の に な る し ,も し く は ,そ の , イ メ ー
ジ を 受 け る っ て い う 意 味 で は , な ん か , そ う い う 作 業 に 自 分 自 身 が 委 ね る と か ,任 せ る と か
そういう意味で] 。
B 氏 の 内 省 報 告 に 記 さ れ た 制 作 す る 気 持 ち を 高 め る ( B 氏 内 省 ,1-1,制 作 ・ 意 図 ) ,何 か
を 沸 き 立 た せ る( B 氏 内 省 ,1-1,制 作 ・ 感 覚 ),集 中( B 氏 内 省 ,1-1,制 作 ・ 意 味 )は ,創 造 に
お け る 能 動 性 と 考 え る こ と が で き る 。B 氏 は ,砂 箱 中 央 付 近 の 砂 を 指 先 で 触 れ る こ と を 通 し
て ,制 作 に 集 中 し ,気 持 ち を 沸 き 立 た せ ,制 作 す る 気 持 ち を 高 め よ う と し た の だ と 捉 え る こ
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と が で き る 。初 回 の 箱 庭 制 作 面 接 の 開 始 に あ た っ て ,B 氏 が 自 分 の 内 面 に 真 摯 に 向 き 合 お う
とする姿勢が感じ取れる。
織 田 は ,箱 庭 療 法 の 本 質 の 一 つ は ,箱 庭 と い う 方 法 が 心 理 療 法 的 な 想 像 活 動 に 実 体 的 な 形
を 与 え る 技 法 と な っ て い る 点 で あ る と 指 摘 す る (織 田 ・ 大 住 ,2008,p.9)。 さ ら に ,「箱 庭 療 法
の 場 合 に は ,わ た し た ち の 手 が 砂 や ア イ テ ム に 触 れ て ,実 体 と し て 箱 庭 表 現 を 行 う と と も に ,
そ の 表 現 の 作 業 に は 必 ず 想 像 力 が 働 い て い る の で あ る 。結 局 ,想 像 力 と い う あ い ま い な 世 界
と ,実 体 的 な 箱 庭 の ア イ テ ム に 触 れ る 体 験 と を つ な ぐ も の と し て は ,わ た し た ち が い か に し
て 心 理 的 に ,さ ま ざ ま な 経 験 を 切 実 に 体 験 で き る の か と い う こ と で あ ろ う 」と 述 べ て い る
(織 田 ・ 大 住 ,2008,p.51)。 織 田 の 指 摘 は ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 形 作 っ て い く こ と の 重 要 性
に つ い て 述 べ て い る と 考 え ら れ る 。 そ し て ,そ の 形 作 る 際 に ,箱 庭 制 作 者 が 心 理 的 に 真 摯 で ,
切 実 な 体 験 し て い る こ と が 必 要 で あ る と の 指 摘 で あ る ,と 捉 え ら れ る 。
織 田 (2008)を 参 照 す る と ,制 作 す る 気 持 ち を 高 め る( B 氏 内 省 ,1-1,制 作・意 図 ),集 中( B
氏 内 省 ,1-1,制 作 ・ 意 味 ) は ,B 氏 が 指 先 で 砂 箱 中 央 付 近 の 砂 を 触 れ る と い う 行 為 を 行 う こ
と に よ っ て ,自 分 の 中 の 何 か を 沸 き 立 た せ る と と も に ,沸 き 立 っ て く る 何 か を 形 に し よ う と
し て い る 切 実 で ,能 動 的 な 態 度 と 理 解 す る こ と が で き る 。 砂 に 触 れ る と い う 行 為 に よ っ て ,
かきまぜるイメージが喚起される。そのイメージは砂をかきまぜると同時に内界をかきま
ぜ る と い う 両 方 の 意 味 が あ っ た と 推 測 す る こ と が で き よ う 。そ う で あ る な ら ば ,砂 に 触 れ る
行 為 は ,外 界 と 内 界 と つ な ぎ ,イ メ ー ジ に 実 体 的 な 形 を 与 え る 重 要 な 準 備 と な っ た ,と 解 釈 す
ることができるだろう。
次 に ,呪 術 ( B 氏 内 省 ,1-1,制 作 ・ 連 想 ) と い う 具 体 例 に つ い て 考 察 す る 。 第 1 回 ふ り か
え り 面 接 で の 説 明 に よ る と ,呪 術( B 氏 内 省 ,1-1,制 作 ・ 連 想 )は ,受 動 性 と い う 能 動 性 の 両
面が含まれていると考えることができた。
先 に ◆ 具 体 例 38 で 考 察 し た よ う に ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 心 の 奥 か ら 自 然 発 生 的
に浮かび上がるのを待つ受動性は箱庭制作面接の促進機能と考えることができる。また,
河 合 俊 雄 (2002)は ,箱 庭 療 法 と 主 体 に つ い て 述 べ る 中 で ,「 主 体 で あ る と い う こ と は , む し ろ
自 分 を 何 か に 委 ね て し ま い ,い わ ば コ ン ト ロ ー ル を 失 う こ と で あ る 。 [中 略 ] む し ろ 箱 庭 の
方 が 主 体 の よ う に な っ て ,自 分 は で き て い く 作 品 の も つ 必 然 性 に い わ ば 従 っ て い る よ う に
な っ て く る 。 だ か ら 主 体 的 で あ ろ う と す る こ と は ,で き て い く 箱 庭 に 主 体 を 委 ね ,主 体 を い
わ ば 逆 に 捨 て る こ と な の で あ る 」 と し て い る 。 [イ メ ー ジ を 受 け る っ て い う 意 味 で は ,な ん
か , そ う い う 作 業 に 自 分 自 身 が 委 ね る と か , 任 せ る ]と い う 具 体 例 は イ メ ー ジ が 自 然 に 浮 か
び 上 が っ て く る こ と に 委 ね ,任 せ ,意 図 的 ・ 意 識 的 に 作 品 を 構 成 す る こ と を 敢 え て 放 棄 し よ
うとする受動的態度だと解釈できる。
[自 分 で ,頭 で ,意 識 の 中 で 作 る と い う よ り も ,呼 び 起 こ す と か ,そ の ,顕 わ さ せ る っ て い う
ん で し ょ う か ]は ,能 動 的 な 態 度 で あ る が ,箱 庭 を 意 図 的・意 識 的 に 構 成 し よ う と す る も の で
は な い 。 意 識 下 に あ る で あ ろ う イ メ ー ジ に B 氏 が 呼 び か け ,意 識 に 顕 れ て い く こ と を 促 そ
うとする態度と解釈できよう。イメージが顕れてくるように意識的な働きかけは行うが,
構成する内容を意識的に作ることを敢えて放棄しようとする能動性だと考えることができ
る。
◆ 具 体 例 39 の 受 動 性 と 能 動 性 と の 協 働 は ,B 氏 の 意 図 を 超 え た 箱 庭 作 品 が 作 り あ げ ら れ
る可能性をはらんでいると理解できる。
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ここまで, ≪創造における受動性と能動性≫の具体例について様々な観点から考察し
て き た 。a.河 合 隼 雄 の 箱 庭 療 法 に お け る 受 動 的 に 表 出 さ せ る 作 業 と ,積 極 的 に 自 我 に 統 合 し
て い く 作 業 ,b.Kalff の 箱 庭 療 法 で は 無 意 識 的 内 容 が 外 的 現 実 的 世 界 に お い て は っ き り し た
形 を と る と い う 指 摘 ,c.織 田 の 瞑 想 や 心 理 療 法 的 な 想 像 活 動 に 実 体 的 な 形 を 与 え る 技 法 ,d.
田 嶌 の 受 容 的 ・ 探 索 的 構 え ,e 河 合 俊 雄 の 主 体 ,と 関 連 さ せ ,◆ 具 体 例 37∼ 39 に つ い て 考 察
し た 。 こ れ ら の 考 察 を 通 し て ,≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ の も つ 箱 庭 制 作 面 接 と し
ての促進機能について確認できたと考える。
Ⅵ -3-2. < イ メ ー ジ の 自 律 性 > と [作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]の 結 果 お よ び
考察
1)< イ メ ー ジ の 自 律 性 > の 結 果 お よ び 考 察
≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ の 中 に ,カ テ ゴ リ ー < イ メ ー ジ の 自 律 性 > を 位 置 づ け
た 。< イ メ ー ジ の 自 律 性 > は ,「イ メ ー ジ が 自 律 的 に 動 い た り ,イ メ ー ジ に よ っ て 思 い が け な
い 感 情 や 感 覚 が 生 ま れ る 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。< イ メ ー ジ の 自 律 性 > 単 独 で は 「
, 構
成 か ら 内 界 へ の 影 響 」を 表 す 具 体 例 の み で あ っ た 。し か し ,カ テ ゴ リ ー の 意 味 と し て は , ≪
創造における受動性と能動性≫の創造における受動性と考えるのが適切であると考え, ≪
創造における受動性と能動性≫の中に位置づけた。<イメージの自律性>について考察す
る。
◆ 具 体 例 40: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10
A 氏 は ,第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,白 い 女 性 の 人 形 の 周 囲 に ペ ン ギ ン (大 ・ 小 ),イ ン パ ラ ,羊 ,
牛 ,豚 ,亀 な ど 置 い た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て ,調 査 的 説 明 過 程 で ,だ か ら す ご く 不 思 議
な ん で す け ど ,こ れ 作 っ て い る 最 中 ,こ の 辺 の 動 物 を ,な じ み の 動 物 を 置 く 時 に ,な ん か こ れ
が 母 で は な く な っ て 私 に な っ て い く な っ て い う よ う な 感 覚 が 少 し あ っ て ,< あ ,な る ほ ど >
う ん ,あ れ あ れ あ れ と 思 い な が ら( A 氏 調 査 ,8-10)と 語 っ た 。内 省 報 告 に は ,義 母 と そ れ を
見 守 る 人 た ち と い う つ も り で 作 っ た 作 品 だ け れ ど ,義 母 の 周 囲 に こ れ ま で に 使 っ た 動 物 達
を 置 く こ と で ,白 い 人 形 は 自 分 で も あ る の だ ろ う か と い う 気 分 に な っ た( A 氏 内 省 ,8 -10,調
査 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。 白 い 女 性 の 人 形 は ,義 母 と し て 置 か れ た の だ が ,そ の 周 り に こ れ ま
で 使 っ た な じ み の 人 形 を 置 く 中 で ,そ の 人 形 が 自 分 に な っ て い く よ う な 感 覚 が 生 ま れ た 。そ
し て ,そ れ は A 氏 に と っ て ,不 思 議 な 感 覚 で あ り ,意 外 な こ と だ っ た と 捉 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 40 に 続 い て ,A 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。 私 に も 母 に も 共 通 す る 何 か が あ る な
っ て い う ,あ の ,女 性 と い う ,う ん ,
( 間 3 秒 )女 性 っ て い う 命 が 持 っ て い る 何 か ,意 味 の
よ う な も の を 感 じ る と 言 う か ね (中 略 )家 族 み ん な に 囲 ま れ て い る (中 略 )母 を 作 っ て い る う
ちに,動物を置いて,これがなんとなく私の私のようにも思えてきたときに,あ,あれ,
私にもこんな風に周囲にいろいろ人がいるのかしらとかね,何か(間 9 秒)そうであれば
う れ し い し( A 氏 調 査 ,8-10)。白 い 人 形 が 自 分 に な っ て い く こ と を 通 し て ,自 分 と 義 母 に 共
通 す る 女 性 と い う 命 が も っ て い る 意 味 を 感 じ た 。そ し て ,自 分 の 周 囲 に い ろ い ろ な 人 が い る
こ と に う れ し さ を 感 じ た 。 ◆ 具 体 例 40 の イ メ ー ジ 体 験 を 通 し て ,A 氏 は 自 己 の 女 性 性 に 関
す る 気 づ き と ,自 分 の 周 り に い ろ い ろ な 人 が い る こ と の 歓 び を 感 じ た ,と 理 解 で き る 。
A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で 置 か れ た 白 い 女 性 の 人 形 は ,現 物 の ミ ニ チ ュ ア と し て は 着 物
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をきたまっしろな女性像である。このミニチュアはミニチュアに固定的な属性が少なく,
一義的な意味やイメージに限定されにくいと考えることができる。このようなミニチュア
の 特 性 に よ っ て ,A 氏 は 白 い 女 性 の ミ ニ チ ュ ア が 義 母 で も あ り ,私 で も あ る か の よ う な 主 観
的 体 験 を し ,そ れ を 語 っ た と 解 釈 で き る 。 そ し て ,自 分 と 義 母 に 共 通 す る 女 性 と い う 命 が も
っ て い る 意 味 や ,自 分 の 周 囲 に い ろ い ろ な 人 が い る こ と に う れ し さ を 感 じ ,自 己 へ の 理 解 を
深めることができたと理解できる。
◆ 具 体 例 41: A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 4
A 氏 は ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 3 で 洋 館 を 持 っ て き て ,砂 箱 に 仮 置 き し た 。
制 作 過 程 4 で ,砂 箱 中 央 寄 り や や 奥 の あ た り に ,左 側 か ら 右 側 へ 川 を 作 り ,川 に 橋 を 2 本 渡 し
た 。制 作 過 程 5 で 洋 館 を 川 向 こ う の 土 地 に 1 軒 ,川 の 手 前 の 砂 地 に 3 軒 置 い た 。そ れ ら の 箱
庭 制 作 過 程 に つ い て , 自 発 的 説 明 過 程 で , 作 っ て る 途 中 に こ の 川 が ,あ の ,小 川 に な っ た り ,
あ の ,山 の 渓 流 に な っ た り < ふ ー ん > あ る 時 に ,あ の ベ ネ チ ア の 水 路 の よ う な ,そ ん な イ メ
ー ジ も あ っ て 。一 体 こ の 川 は 何 か し ら と 思 い な が ら ,結 局 は こ ん な 風 に な り ま し た ね( A 氏
自 発 ,9-4) と 語 っ た 。 制 作 中 ,川 の イ メ ー ジ は 変 遷 し ,A 氏 自 身 が こ の 川 は ど の よ う な 川 な
の か 確 定 し な い 内 的 プ ロ セ ス が 報 告 さ れ て い る と 捉 え ら れ る 。こ の 制 作 過 程 に つ い て A 氏
は調査的説明過程で以下のように語った。映画館と学校を同じ,土地に置けなかったんで
す よ ね 。 ま ぁ ,あ の 学 校 は 多 分 ,私 が い つ か 行 き た い と 思 っ て る 学 校 な ん だ ろ う な と 思 う
ん で す け ど ,そ れ は ま だ な ん か ,や っ ぱ り 遠 い な ぁ っ て い う 感 じ が あ っ て 。で ,遠 ざ け た ,
か な 。だ け ど ,川 向 こ う に し ち ゃ う と あ ま り に も 遠 く な っ て し ま う の で ,そ れ も 嫌 だ か ら ,
橋を二本掛けて,これはその,人が通れる,あの,川の上にある町というか,なんですけ
ど ,そ れ で 川 を 作 り ま し た ね( A 氏 自 発 ,9-複 数 過 程 に 亘 っ て )。ま た ,内 省 報 告 に 以 下 の よ
う に 記 し た 。私 自 身 が 希 望 し て い る の は ,い つ か 大 学 院 へ 進 学 す る こ と 。私 が た ど り 着 き た
い学校は川の向こうにある。そしてその川はある時は小川のようにひょいと飛んで渡れる
ほ ど の も の に 思 え た り ,流 れ が 急 峻 な 渓 谷 だ っ た り す る 。ベ ネ チ ア の 水 路 の よ う に い ろ い ろ
な 建 物 の 間 を 縫 い ,狭 い 路 地 ,建 物 の 裏 側 を か す め ,海 に 注 ぐ 。私 が ま だ 渡 っ た こ と の な い 川
( A 氏 内 省 ,9-4 自 発 ・ 意 味 )。
こ れ ら の 語 り や 記 述 を 参 照 す る と ,川 の イ メ ー ジ が 変 遷 し ,こ の 川 は ど の よ う な 川 な の か
確 定 し な い 内 的 プ ロ セ ス が 生 じ た 一 因 は ,A 氏 が 大 学 院 へ の 進 学 に つ い て ,小 川 の よ う に ひ
ょ い と 飛 ん で 渡 れ る ほ ど の も の に 思 え た り ,流 れ が 急 峻 な 渓 谷 の よ う に も 感 じ る と い う よ
う に 難 易 に 関 す る イ メ ー ジ が 揺 れ て い た た め ,と 捉 え る こ と が で き る 。川 向 う の 学 校 は や っ
ぱ り 遠 い な ぁ っ て い う 感 じ が あ っ て 。 で , 遠 ざ け た が ,あ ま り に も 遠 く な っ て し ま う の で ,
そ れ も 嫌 だ と い う 気 持 ち が 箱 庭 制 作 過 程 で 生 じ て い た こ と が わ か る 。こ の よ う に ,箱 庭 制 作
過 程 に お け る 大 学 院 進 学 の 難 易 に つ い て の 内 的 プ ロ セ ス は ,川 の イ メ ー ジ が 意 図 せ ず 変 遷
することの一端であると考えることができる。A 氏はこの箱庭制作とその語りや内省を通
し て ,自 己 の キ ャ リ ア に 関 す る 思 い を 再 確 認 あ る い は よ り 明 確 に で き た と 解 釈 す る こ と が
できる。
◆ 具 体 例 40 と 41 は ,意 図 と は 関 係 な く イ メ ー ジ が 移 り 変 わ る 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 や ,
そ れ に よ っ て ,不 思 議 ,意 外 に 感 じ る 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 で あ る 。 こ の よ う な 主 観 的 体
験 は ,イ メ ー ジ の 自 律 性 で あ る と 捉 え る こ と も で き る 。あ る い は , 一 義 的 に イ メ ー ジ や 意 味
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が固定されにくい構成から箱庭制作者は多様なイメージを喚起されるとも考えることがで
き る 。 ま た ,箱 庭 制 作 者 が 構 成 を 認 知 し ,意 味 づ け る 際 に 意 図 し な い 変 遷 が 生 ま れ る と 捉 え
る こ と も で き る 。 河 合 隼 雄 (1991)は , 箱 庭 な ど の 表 現 活 動 に お い て ,作 っ て い る う ち に 自 分
で も 思 い が け な い 表 現 が 生 じ て き た り ,作 っ た イ メ ー ジ に 刺 戟 さ れ て ,思 わ ぬ 発 展 や 変 更 が
生 じ た り ,な ぜ そ う し た の か わ け の わ か ら ぬ う ち に 作 品 が で き あ が る 場 合 が あ る と 述 べ て
い る (p.26)。 ◆ 具 体 例 40 と 41 や 河 合 隼 雄 (1991)の 指 摘 に も あ る よ う に ,< イ メ ー ジ の 自 律
性 > は 箱 庭 制 作 面 接 で 箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た 作 品 が 作 ら れ る 一 因 で あ り ,箱 庭 制 作 者
の自己理解・自己成長の促進に寄与すると考えられる。
2)[作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]の 結 果 お よ び 考 察
< イ メ ー ジ の 自 律 性 > の 中 に ,[作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]が あ っ た 。こ の 概 念
は ,「現 在 の 作 品 か ら 今 後 展 開 し て い く イ メ ー ジ が 湧 い て く る 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。
以下にその具体例を挙げる。
◆ 具 体 例 42: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
A 氏 は ,第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,渦 巻 き の 中 に い る 亀 を 中 心 に 向 か っ て 進 め た り ,戻 し た
り と い う 行 為 を 繰 り 返 し た 。そ の 制 作 過 程 に つ い A 氏 は ,調 査 的 説 明 過 程 で だ か ら ,本 当 に
不 思 議 な ん で す け ど , こ う ,箱 庭 の ア イ テ ム が 増 え て い く と ,こ こ ま で や っ と 進 め ら れ た と
い う か( A 氏 調 査 ,4-8)と 語 っ た 。箱 庭 制 作 過 程 16 で ,亀 を も っ と 進 め て ,渦 巻 き の 全 行 程
の 6 割 ほ ど の 位 置 (砂 箱 右 手 中 央 部 )に 置 い た 。 そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て , A 氏 は 調
査 的 説 明 過 程 で ,動 物 が い る 領 域 が 構 成 さ れ た こ と に よ っ て ,最 終 的 に 置 い た 位 置 に 無 理 な
く亀を進めることができた。亀は制作で最終的に置かれた位置よりもさらに先にまで行け
る か も し れ な い と 語 っ た (p.52 ◆ 具 体 例 21 参 照 )。
だ か ら ,本 当 に 不 思 議 な ん で す け ど ,こ う ,箱 庭 の ア イ テ ム が 増 え て い く と ,こ こ ま で や っ
と 進 め ら れ た と い う か と い う 語 り か ら も わ か る よ う に ,亀 が 進 む と い う 構 成 は ,A 氏 が 意 図
し た も の で は な く ,他 の 構 成 か ら の 影 響 が あ っ た こ と で ,や っ と 進 め ら れ た と い う も の で あ
った。亀が制作で最終的に置かれた位置よりもさらに先にまで行けるかもしれないという
語 り も ,語 り つ つ 自 然 に 湧 い て き た 感 覚 で あ る 。こ れ ら の 語 り か ら ,[作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ
が 湧 い て く る ]に よ っ て , A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 構 成 は A 氏 の 意 図 を 超 え た も の と な っ
たと理解できる。意図を超えた構成とその語りを通して, A 氏は自己への理解を深めるこ
と が で き た と 捉 え ら れ る 。 ま た ,自 己 像 で あ る 亀 が 先 ま で 進 ん で い く と い う イ メ ー ジ は ,A
氏の成長を示唆していると解釈できる。
◆ 具 体 例 43: B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,鳥 の 巣 を 島 の 中 央 の 林 の 横 に 置 い た 。
そ の 後 ,複 数 の 制 作 過 程 に 亘 っ て ,島 の 中 央 部 の 森 に 針 葉 樹 を 増 や し て い っ た 。 そ れ ら の 箱
庭 制 作 過 程 に つ い て B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 気 持 ち 的 に は ,再 生 し て い く と い う 印 象 ,気 持
ち が あ っ て ( B 氏 自 発 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た (pp.63-64 ◆ 具 体 例 30 参 照 )。
B 氏 は 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 に つ い て ,内 省 報 告 に 豊 か な 実 り の 予 感( B
氏 内 省 ,6-11,制 作 ・ 感 覚 ) ,発 展 の 予 感 ( B 氏 内 省 ,6-11,制 作 ・ 意 味 ) と 記 し た 。 第 6 回 ふ
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り か え り 面 接 で は ,そ の 内 省 報 告 に つ い て ,[陸 地 に 住 む 生 き 物 た ち が 増 え て く っ て い う 。こ
れ も ま あ ,こ こ の と こ ろ で ,発 展 の 予 感 っ て い う と こ で す ]と 語 っ た 。 豊 か な 実 り や 陸 に 住 む
生 き 物 が 増 え て い く と い う イ メ ー ジ を B 氏 は 明 確 に も っ た 。 そ れ は ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接
で 実 際 に お か れ た 構 成 よ り も ,も っ と 実 り が 豊 か で ,生 き 物 が 増 え て い る 世 界 で あ る と 推 測
できる。それを鳥の巣を置くという構成で表したと捉えられる。
複 数 の 箱 庭 制 作 過 程 に 亘 っ て ,島 の 中 央 部 の 森 に 針 葉 樹 を 増 や し て い っ た 箱 庭 制 作 過 程
に つ い て ,B 氏 は 内 省 報 告 に こ れ か ら も 生 い 茂 る 感 じ ( B 氏 内 省 ,6-17,制 作 ・ 感 覚 ) ,創 造
性 ( B 氏 ,6-17,制 作 ・ 意 図 ) ,再 生 と 発 展 ( B 氏 ,6-30,制 作 ・ 意 味 ) と 記 し た 。 そ し て ,第 6
回 ふ り か え り 面 接 で ,箱 庭 制 作 過 程 17 に つ い て ,[イ メ ー ジ と し て は ,こ れ か ら も 生 い 茂 る
感 じ で ,そ れ は ,創 造 性 っ て い う か ,ま あ ,な ん て い う ん で し ょ う か ね ,だ ん だ ん 森 っ て い う 生
態 系 が 出 来 上 が っ て ,広 が っ て い く っ て い う 意 味 で の ,そ う い う 意 味 で の 創 造 性 っ て い う と
こ ろ で ]と 語 っ た 。制 作 過 程 30 に つ い て ,[そ れ は 意 味 と し て は 再 生 で ,発 展 し て い く っ て い
う か 。そ う い う と こ ろ が 表 現 で き た か な っ て い う と こ ろ で ]と 説 明 し た 。島 の 中 央 部 の 森 が ,
今 後 , 実 際 に お か れ た 構 成 よ り も ,さ ら に 広 が り ,再 生・発 展 し て い く イ メ ー ジ を B 氏 が 明
確 に も っ て お り ,そ の 一 端 が こ の 箱 庭 制 作 過 程 で 表 現 さ れ た ,と 捉 え ら れ る 。
B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で は 再 生 が テ ー マ と な っ た 。 ◆ 具 体 例 43 は ,実 際 に お か れ た 構
成 よ り も ,も っ と 実 り が 豊 か で ,生 き 物 が 増 え て い く イ メ ー ジ や ,森 が 今 後 , 実 際 に お か れ
た 構 成 よ り も ,さ ら に 広 が り ,再 生 ・ 発 展 し て い く イ メ ー ジ を 示 し て い る と 理 解 で き る 。
第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で B 氏 は 再 生 を 表 す 木 々 の 構 成 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 自 然 の
状 態 。い わ ゆ る ,意 識 的 に で は な く ,っ て い う 感 じ で 置 き た か っ た( B 氏 調 査 ,6-複 数 過 程 に
亘 っ て ) と 語 っ た 。 島 の 貝 殻 に つ い て B 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で で き る だ け ,自 然 な 感 じ を
出 し た く て ,実 い う と ,貝 殻 と か ,こ の あ た り の も の が ,ほ ん と は 最 初 は ,ピ ー と 投 げ て ,偶 然
に ,な ん か ,し た か っ た ん だ け ど ( B 氏 調 査 ,6-3) と 語 っ た 。 こ の よ う に B 氏 は 島 の 木 々 や
貝 殻 の 構 成 を 意 識 的 で は な く ,貝 殻 を 投 げ る こ と に よ っ て 偶 然 の 配 置 に し よ う と 考 え る ほ
ど 自 然 な 感 じ を 出 し た い と 思 っ て い た 。こ の よ う な 自 然 な 感 じ を 出 し た い と い う B 氏 の 思
い を 踏 ま え る と ,島 の 中 央 部 の 森 が ,実 際 に お か れ た 構 成 よ り も ,今 後 さ ら に 広 が り , 再 生 ・
発 展 し て い く イ メ ー ジ は ,構 成 か ら 自 然 に 喚 起 さ れ た も の で あ り ,今 回 の 箱 庭 作 品 は , B 氏
の 意 図 を 超 え た も の に な っ た と 理 解 で き る 。 [作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]こ と に
よ る 意 図 を 超 え た 構 成 と そ の 語 り を 通 し て ,B 氏 は 自 己 の 内 的 プ ロ セ ス に つ い て 理 解 を 深
めることができたと捉えられる。
以 下 の ◆ 具 体 例 44 で は ,[作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]と い う 内 的 プ ロ セ ス が 調
査 的 説 明 過 程 で 生 じ た こ と が 明 示 的 に 語 ら れ て い る 。 そ の た め ,◆ 具 体 例 44 は 箱 庭 制 作 過
程 に お け る 促 進 機 能 で は な く ,語 り に よ る 促 進 機 能 と い う こ と に な る 。た だ ,[作 品 の 今 後 の
イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]の 具 体 例 と し て は ,わ か り や す い 例 で あ る た め ,以 下 に 挙 げ る 。そ し
て , 調 査 的 説 明 過 程 で [作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]と い う 内 的 プ ロ セ ス が 生 じ た
ことと箱庭制作過程における内的プロセスとの関連について考察する。
◆ 具 体 例 44: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 13
A 氏 は ,第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 13 で ,回 遊 し て い る シ ャ チ ,イ ル カ ,亀 を 見
つ め ,亀 の 頭 の 方 向 を 陸 側 か ら 海 の 沖 合 の 方 向 に 変 え た 。A 氏 は そ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て ,
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調査的説明過程で以下のように語った。説明し終わって感じることなんですけどね<うん
>( 間 11 秒 )カ メ が 早 く 出 て 行 き た が っ て い る と い う 感 じ が し て き ま す ね 。< は ぁ ん > 出
て 行 け ,出 て 行 く と い う か < ふ ん > 向 こ う の 方 に 進 み た が っ て る と い う ね (中 略 )こ れ は こ
れ で あ の ,私 の 箱 庭 で す け ど も う 一 個 で き そ う と い う か ね ,カ メ が < ふ ん > 沖 へ 進 ん で い く
と こ ろ が ,何 か そ ん な < は ぁ ん
まださらに沖へ進んでいきそうな場面ができそう>うん
< ま た 違 っ た と こ ろ な ん や そ し た ら そ れ は > そ う で す ね ,違 っ た と こ ろ で す ね 景 色 と し て
< ふ ん ふ ん >( 間 8 秒 )ふ ん へ ぇ( 笑 )へ へ < な に ? > へ ぇ ,自 分 で 面 白 い な と 。へ ぇ , あ ,
そ う な の と 思 っ て 。 へ ぇ ,あ ,そ う な の ,カ メ さ ん 早 く 行 き た い わ け ,へ ぇ ぇ
知らなかった
ぁ と 思 い ま し た ね ( A 氏 調 査 ,3-13)。
箱 庭 制 作 過 程 13 で 亀 の 頭 の 方 向 を 変 え る と い う 構 成 に つ い て の A 氏 の 語 り を 確 認 す る 。
A 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で ,い ろ い ろ 試 そ う と 思 っ て ,ふ っ と 亀 の 置 き 方 を 変 え た ら ば < う ん
> あ ー ,急 に な ん か 違 う 感 じ に な っ て ,が ら り と 。あ の あ ぁ ,沖 へ 出 て 行 く の も 気 分 が い い な
と 思 っ て < う ん う ん > 沖 へ 出 て 行 く 風 に 決 め ま し た ね( A 氏 自 発 ,3-13)と 語 っ た 。調 査 的
説 明 過 程 で ,本 具 体 例 の 少 し 前 に A 氏 は も う 亀 は ,そ う い う 意 味 で は 亀 は 好 き 勝 手 に 行 き ま
す 。 (中 略 )亀 は 好 き 勝 手 に 行 き ま す ね ( A 氏 調 査 ,3-13) と 語 っ た 。 そ の 後 ,本 具 体 例 が ,
調 査 的 説 明 過 程 の 終 盤 に 語 ら れ た 。自 発 的 説 明 過 程 の 語 り は ,今 回 の 箱 庭 制 作 過 程 に お け る
こ の 構 成 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス を 忠 実 に 語 っ て い る ,と 捉 え ら れ る 。調 査 的 説 明 過 程 で の 亀
は 好 き 勝 手 に 行 き ま す ね は ,亀 が 自 分 の 意 思 で 進 ん で い く か の よ う な 語 り に な っ て い る 。こ
の 時 点 で ,亀 が 自 律 的 に ,自 分 の 意 思 で 進 ん で い く と い う イ メ ー ジ の 展 開 が 生 じ た ,と 理 解 で
き る 。 さ ら に イ メ ー ジ が 展 開 し ,カ メ が 早 く 出 て 行 き た が っ て い る と い う 感 じ が し て ,今 回
の箱庭作品よりもさらに沖に亀が進んだ違った景色のもう一つの箱庭作品ができそうな感
覚 が 生 ま れ た と 捉 え ら れ る 。 そ し て ,そ の よ う に イ メ ー ジ が 展 開 し た こ と に つ い て へ ぇ ,自
分 で 面 白 い な 。へ ぇ ,あ ,そ う な の と 思 っ て と A 氏 は 意 外 さ や 面 白 さ を 感 じ た ,と 理 解 で き る 。
こ の よ う に ,◆ 具 体 例 44 は ,調 査 的 説 明 過 程 で 生 じ た と 考 え ら れ る 。で は ,◆ 具 体 例 44 は ,
箱 庭 制 作 過 程 と ま っ た く 無 関 係 な の だ ろ う か ? 箱 庭 制 作 過 程 13 に 関 す る デ ー タ を 確 認 す
る 。 A 氏 は 箱 庭 制 作 過 程 13 で 以 下 の よ う な 行 為 を 行 っ た 。
26: 16∼
砂箱の様々な領域を見つめる。
27: 02∼
カニが海に向くように方向を変える。
27: 03∼
砂箱を見つめる。
27: 29∼
亀の頭の方向を陸側から海の沖合の方向に変える。
27: 32∼ 27: 5 0
砂箱を見つめる。
箱 庭 制 作 開 始 26 分 16 秒 か ら 46 秒 間 ,A 氏 は 砂 箱 の 様 々 な 領 域 を 見 つ め て い た 。 そ し
て ,27 分 2 秒 で カ ニ が 海 に 向 く よ う に 方 向 を 変 え た 。 そ の 行 為 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で
カ ニ も 多 分 こ っ ち 向 い て た ん で す よ ね ,最 初 ,陸 側 を < う ん う ん う ん > う ー ん と ,ま , 海 か ら
上がってきてるものもいるんだな<ふぅーん>と思って置いたんですけど<うんうん>う
ー ん と ,置 き 直 し て み て ,海 に 帰 っ て 行 く と こ ろ < う ん ,う ん > も 悪 く な い な < う ん , う ん >
帰 っ て 行 く 方 に し ま し た ね( A 氏 自 発 ,3-13)と 語 っ た 。27 分 3 秒 か ら 26 秒 間 砂 箱 を 見 つ
め ,27 分 29 秒 で 亀 の 頭 の 方 向 を 陸 側 か ら 海 の 沖 合 の 方 向 に 変 え た 。
す る と ,い ろ い ろ 試 そ う と 思 っ て ( A 氏 自 発 ,3-13) い た の は , 箱 庭 制 作 開 始 26 分 16 秒
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か ら の 46 秒 間 と ,27 分 3 秒 か ら の 2 6 秒 間 ,砂 箱 を 見 つ め て い た 時 の こ と だ と 推 測 で き る 。
い ろ い ろ 試 そ う と 思 い ,ま ず カ ニ の 向 き を 海 の 方 に 向 け た 。そ の 構 成 の 変 化 に 海 に 帰 っ て 行
く と こ ろ (中 略 )も 悪 く な い な と 感 じ た 。そ う 感 じ た 後 に ,さ ら な る 試 み と し て , 亀 の 頭 の 方
向 を 陸 側 か ら 海 の 沖 合 の 方 向 に 変 え た ,と 推 測 で き る 。そ の 構 成 の 変 化 に つ い て , A 氏 は 自
発 的 説 明 過 程 で ,沖 に 出 て い く の も 気 分 が い い な と 思 っ て ,沖 へ 出 て い く よ う に 決 め た と 語
った。
箱 庭 制 作 過 程 13 で , A 氏 は カ ニ と 亀 を と も に 海 の 沖 合 を 向 く 方 向 に 変 え て い る 。そ の 構
成の変更は A 氏の内的プロセスの変化を反映していると考えられる。箱庭制作過程では,
陸からそれほど離れていないところで亀は向きを変えるという構成で終わっている。しか
し ,沖 へ 出 て 行 く 風 に 決 め ま し た ね と い う 自 発 的 説 明 過 程 の 語 り に は ,す で に 亀 が 沖 に 出 て
いこうとする動きが内包されていると解釈できる。箱庭制作過程と自発的説明過程のデー
タ を 総 合 す る と , A 氏 の イ メ ー ジ の 中 で は ,亀 は 沖 に 向 か っ た 動 き を 始 め か け て い る ,と 推
測 で き る 。 亀 に 進 み だ す 準 備 が 整 っ て い た こ と は ,調 査 的 説 明 過 程 で ,も う 一 つ の 箱 庭 が で
きそうという作品の今後のイメージが湧いてくる萌芽であったと推測できる。
[作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]は ,イ メ ー ジ の 自 律 性 の 特 殊 な 例 と 考 え ら れ る 。◆
具 体 例 42∼ 44 に は ,実 際 の 構 成 よ り も 展 開 さ れ た イ メ ー ジ が 顕 れ て い る 。◆ 具 体 例 42∼ 44
は ,自 律 的 に 動 く イ メ ー ジ に よ っ て ,最 終 的 に 作 品 に 表 現 さ れ た 構 成 か ら さ ら に 展 開 さ れ た
イメージが箱庭制作者にもたらされた主観的体験の語りや記述だと捉えられる。
東 山 (1994)は ,以 下 の よ う に 言 及 し て い る 。 「初 回 に 凝 縮 さ れ た 箱 庭 で 示 さ れ た 課 題 が ,次
回 か ら 別 々 な テ ー マ で 箱 庭 と し て 置 か れ る こ と は 珍 し く な い 」(p.19)。 「箱 庭 療 法 で は ,第 1
回 目 の 箱 庭 は ,初 回 夢 と 類 似 し て ,全 体 的 な テ ー マ や プ ロ セ ス の 予 測 ,目 的 地 な ど が 表 現 さ れ
る の に 対 し て ,次 回 か ら は ど の よ う な テ ー マ か ら 取 り か か る か と か ,テ ー マ の 一 部 分 が よ り
鮮 明 な 形 を と っ て 示 さ れ る こ と が 多 い 」(p.89)。 ま た ,河 合 隼 雄 (1 967)は ,夢 の 機 能 の 一 つ と
し て ,展 望 的 な 夢 を 挙 げ ,そ れ に つ い て ,遠 い 将 来 へ の プ ラ ン の よ う に 意 味 を も っ て 現 れ る も
の ,と し て い る (p.154)。 東 山 (1994)や 河 合 隼 雄 (1967)の 指 摘 を 参 照 す る と ,イ メ ー ジ は 現 時
点 よ り も 先 の 内 的 プ ロ セ ス や 面 接 の 展 開 を 展 望 す る 機 能 (以 後 ,イ メ ー ジ の 展 望 機 能 と 記
す )を も っ て い る と 考 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 42∼ 44 は ,イ メ ー ジ の 自 律 性 や イ メ ー ジ の 展 望 機 能 に よ っ て ,実 際 に 作 ら れ た
作 品 よ り も 先 の イ メ ー ジ が 生 じ る 場 合 が あ る こ と を 示 し て い る と 考 え ら れ る 。例 え ば ,A 氏
第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で は , 調 査 的 説 明 過 程 で ,亀 が 自 分 の 意 思 で 進 ん で い く と い う イ メ ー ジ
の 展 開 ,今 回 の 箱 庭 よ り も さ ら に 沖 に 亀 が 進 ん だ 違 っ た 景 色 の も う 一 つ の 箱 庭 作 品 が で き
そ う な 感 覚 が 生 ま れ た 。そ の よ う に イ メ ー ジ が 展 開 し た こ と に つ い て ,A 氏 が 意 外 さ や 面 白
さ を 感 じ た よ う に ,[作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]に は ,箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た
イメージの展開が示されたと捉えられる。箱庭制作者の意図を超えたイメージの展開によ
っ て ,箱 庭 作 品 は ,箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た 作 品 と な る 可 能 性 を も つ 。こ の よ う に し て ,[作
品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し て 働 く と 考 え ら れ る 。
Ⅵ -3-3.< イ メ ー ジ の 自 律 性 > に 含 ま れ な い 2 概 念 の 結 果 お よ び 考 察
≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ の 中 に は ,< イ メ ー ジ の 自 律 性 > に 含 ま れ な い 2 概 念
[イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス ],[非 意 図 的 な 構 成 を 基 に ,意 図 的 に 構
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成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]が あ っ た 。 [イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス ]は ,創
造 に お け る 受 動 性 と 考 え ら れ た 。[非 意 図 的 な 構 成 を 基 に ,意 図 的 に 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]
は ,創 造 に お い て 受 動 性 か ら 能 動 性 に 移 行 す る 内 的 プ ロ セ ス と 考 え ら れ た 。
1)[イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
創 造 に お け る 受 動 性 と 考 え ら れ た 概 念 [イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ
ス ]は ,「イ メ ー ジ や 感 覚 な ど が 自 発 的 に 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。
◆ 具 体 例 45: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2
A 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,以 下 の よ う な 行 為 を 行 っ た 。
4:0 7∼
右 手 指 先 で 砂 に 触 る 。一 つ か み し て 戻 す 。1 8 秒 間 右 手 甲 側 の 指 で 砂 を ゆ っ く り な
らす。
4:3 5∼
砂を見つめる
4:4 8∼
右 手 で 砂 を つ か み ,戻 す こ と を 繰 り 返 す 。
5:4 3∼ 6 :38
右手でつかんだ砂を左手にかける。
そ の よ う な 行 為 に 関 し て ,調 査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。さ て ,一 体 何 を つ く ろ
う っ て い う の で 。こ う ,ね え ,手 で 触 っ て る と ,あ の 作 り た い も の が 出 て く る か な あ < う ん う
ん > ほ ん と は ,も う 少 し こ う ,ね え ざ く ,ざ く っ て ,遊 ん で み よ う か な と 思 っ た ん だ け ど ,そ
う す る と 何 か 壊 れ ち ゃ う 気 も し た の で 。 < あ あ 。 な る ほ ど > で ,こ う ,さ ら さ ら と 遊 ん で み
ま し た ね ( A 氏 調 査 ,1-2)。
箱 庭 制 作 過 程 2 に お け る 砂 に 触 れ る 行 為 や 砂 を 見 つ め る 行 為 は ,作 り た い も の が 出 て く
る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス の 顕 れ ,と 捉 え る こ と が で き る 。ざ く ,ざ く っ て ,遊 ん で み よ う か な
と 思 っ た ん だ け ど ,そ う す る と 何 か 壊 れ ち ゃ う 気 も し た の で と い う 語 り が あ る 。 こ の 語 り
は ,A 氏 が と て も 丁 寧 に 自 分 の 内 面 に 触 れ て い た こ と を 示 す と 考 え ら れ る 。そ の よ う な 内 的
プ ロ セ ス は ,A 氏 の 砂 の 触 れ 方 に も 表 れ て い た 。 上 に 挙 げ た A 氏 の 言 葉 を 受 け ,筆 者 は ,<
優 し い ,柔 ら か く 触 れ る よ う な 感 じ の 触 れ 方 だ っ た な あ ,っ て 思 っ た > と 箱 庭 制 作 中 に A 氏
が砂に触れる様子を見て感じた筆者の主観的体験を語った。このように砂にも自分の内的
プ ロ セ ス に も 丁 寧 に 触 れ る こ と を 行 い つ つ ,A 氏 は イ メ ー ジ や 感 覚 が 顕 れ て く る の を 待 っ
て い た ,と 捉 え る こ と が で き る 。
◆ 具 体 例 46: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1∼ 2
また, ≪創造における受動性と能動性≫でも検討した A 氏第 6 回箱庭制作面接の具体例
で は ,砂 を か き ま ぜ る 行 為 に よ り ,A 氏 は ,気 分 が 高 揚 し て い く こ と を 感 じ ,構 成 の イ メ ー ジ
が 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス が あ っ た (p.72 ◆ 具 体 例 38 参 照 )。
◆ 具 体 例 45 と 46 は ,砂 に 触 れ る と い う 行 為 に 伴 っ た [イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待
つ 内 的 プ ロ セ ス ]に つ い て の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 で あ る ◆ 具 体 例 45 は ,砂 に も 自 分 の
内 的 プ ロ セ ス に も 丁 寧 に 触 れ る こ と を 行 い つ つ ,A 氏 は イ メ ー ジ や 感 覚 が 顕 れ て く る の を
待 っ て い た ,と 捉 え る こ と が で き た 。 A 氏 が 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 冒 頭 か ら ,こ の よ う に 丁
寧 に 自 己 の 内 的 プ ロ セ ス に 関 わ り ,イ メ ー ジ や 感 覚 が 顕 れ て く る の を 待 つ 姿 勢 は ,箱 庭 制 作
面接が A 氏の内的プロセスを反映した面接になるための重要な準備となったと理解できる。
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◆ 具 体 例 46 で は ,砂 を か き ま ぜ る 行 為 に よ っ て ,A 氏 は ,気 分 が 高 揚 し て い く こ と を 感 じ が
生 ま れ て い る 。こ の よ う な 砂 を か き ま ぜ つ つ 生 ま れ た 内 的 プ ロ セ ス は ,A 氏 が 箱 庭 制 作 に 強
く コ ミ ッ ト す る こ と を 促 し た と 解 釈 で き る 。こ の よ う に [イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待
つ 内 的 プ ロ セ ス ] は ,箱 庭 制 作 者 が 箱 庭 制 作 面 接 に コ ミ ッ ト す る こ と を 促 し た り ,丁 寧 に 自
己の内的プロセスに関わることに寄与すると考えることができる。そのようにして作られ
た 箱 庭 作 品 は ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス を 反 映 し た も の と な り ,そ の 制 作 を 通 し て , 箱 庭
制作者の自己理解の促進に寄与する可能性があるだろう。
◆ 具 体 例 47: A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2
A 氏 は 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,ど の 棚 も と ば さ な い で ,あ ち ら こ ち ら の
棚 の 玩 具 を 見 た 。 そ の 制 作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に 自 分 の 心 に 触 れ る 何 か を 探 し て , ゆ っ
く り 棚 を 見 る 。気 持 ち が 惹 か れ る の は 何 か し ら ,と( A 氏 内 省 ,9-2,制 作・意 図 )と 記 し た 。
ミニチュアを見つつ生じた内的プロセスについて, A 氏は調査的説明過程で今日は砂を触
らないですぐ玩具を見に行ったんですけど,<そうだったね,そうだったね>その時に,
あの,ザーッと玩具を見回して,今日は何か建物が気になるなと思ったんですね。うん,
で,他の見ててもぴんと来ないし,建物見てて,あのぉ,こういう,あの,なんていう,
洋風の建物を見たときに,何か,映画館,最近ちょっと映画,あれ観たいなこれ観たいな
ってのがあって,あの,映画を観に行きたいなっていうのがなんか思い出されて,あ,映
画を観に行くところにしようというのがその何か建物と結びついたんですよね(A氏調
査 ,9-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。 A 氏 は ミ ニ チ ュ ア を 見 回 す 中 で ,建 物 が 気 に な る こ と
に 気 づ き ,さ ら に 最 近 映 画 を 観 に 行 き た い と い う こ と を 思 い 出 し た 。
◆ 具 体 例 48: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1
B 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 の 内 省 報 告 に ,制 作 内 容 と し て 「イ メ ー ジ を
引 き 出 し て く れ そ う な 人 形 を 探 す 」と 記 し た 。そ の 制 作 過 程 に つ い て 内 省 報 告 に 事 前 の 制 作
意 図 が な く ,初 歩 が 踏 め な い( B 氏 内 省 ,2-1,制 作 ・ 意 図 )と 記 し た 。そ し て ,第 1 回 ふ り か
え り 面 接 で ,[ そ の 目 の 前 に あ る フ ィ ギ ャ ー か ら 気 持 ち が 動 か さ れ る も の に よ っ て , つ な が
っ て い こ う と い う 感 じ の 中 で ,始 ま り ま し た 。そ の 反 面 ,な ん か ,重 い も の を 感 じ て ,気 持 ち に
蓋 を さ れ た よ う な 感 じ と い う の が あ っ て 。 ま あ ,そ う い う ,そ の ,自 分 か ら ,っ て い う よ り も ,
他 動 的 な っ て い う か 。 他 か ら 動 か さ れ て ,制 作 を 始 め て い こ う っ て ,そ ん な 感 じ ]と 語 っ た 。
こ の 「つ な が ろ う 」の 目 的 語 は 不 明 で あ る が ,自 分 の 内 的 プ ロ セ ス に つ な が り ,そ れ を 受 け と
め る と い う こ と か も し れ な い し ,箱 庭 制 作 面 接 に 入 っ て い こ う と い う 意 味 か も し れ な い 。そ
の 後 , B 氏 は 重 い 感 じ ,気 持 ち に 蓋 を さ れ た よ う な 感 じ に あ う 仕 切 り を 見 つ け た 。
◆ 具 体 例 47 と 48 は ,棚 で ミ ニ チ ュ ア を 探 す 行 為 に 伴 う [イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を
待 つ 内 的 プ ロ セ ス ]に つ い て の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 で あ る 。◆ 具 体 例 47 で は ,気 持 ち が
惹 か れ る ミ ニ チ ュ ア を 探 し て い る 。そ し て , A 氏 は ミ ニ チ ュ ア を 見 て ま わ る 中 で ,建 物 が 気
に な る こ と に 気 づ き ,さ ら に 最 近 映 画 を 観 に 行 き た い と い う こ と を 思 い 出 し ,洋 風 の 建 物 を
選 ん だ 。 こ の 具 体 例 で は ,ミ ニ チ ュ ア を 見 て ま わ る こ と を 通 し て ,い ま ・ こ こ の 自 分 の 内 的
プ ロ セ ス に 気 づ い た 。 そ こ か ら 最 近 ,自 分 が 思 っ て い た こ と が 想 起 さ れ ,構 成 に つ な が っ て
い る 。◆ 具 体 例 48 で は ,ミ ニ チ ュ ア か ら 気 持 ち が 動 か さ れ る も の に よ っ て ,つ な が ろ う と い
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う 感 じ が あ っ た こ と が 語 ら れ て い る 。 ど ち ら の 具 体 例 も ,ミ ニ チ ュ ア を 探 す 行 為 を 通 し て ,
イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 っ て い る 内 的 プ ロ セ ス で あ り ,こ の よ う に し て 待 っ た 後
に 自 然 に 浮 か び 上 が っ て き た 内 的 プ ロ セ ス が 構 成 に 反 映 さ れ て い っ た 。 ◆ 具 体 例 47 と 48
に 示 さ れ た [イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 つ 内 的 プ ロ セ ス ] は , 構 成 が 箱 庭 制 作 者 の 内
的 プ ロ セ ス に ぴ っ た り な も の に な る こ と に 寄 与 し ,そ の よ う な 構 成 を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 は
自己への理解を深めることができると推測できる。
◆ 具 体 例 45∼ 48 は , ≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ で も 検 討 し た ,受 容 的 な 構 え , 受
動 的・受 容 的 態 度 (田 嶌 ,1992, p.46)や 織 田 が 瞑 想 に つ い て ④ に 記 し た ,こ こ ろ の 奥 か ら 自 然
発 生 的 に ,何 ら の 思 い が 浮 か び 上 が る の を 待 つ 態 度 で あ る ,と 考 え ら れ る (織 田・大 住 ,2008,
pp.40-41)。こ の よ う な 受 動 性 は ,箱 庭 療 法 で 必 要 と さ れ る「 自 我 の 防 衛 を 弱 め て ,無 意 識 内
の 心 的 内 容 を い わ ば 受 動 的 に 表 出 さ せ る 作 業 」 (河 合 隼 雄 ,1969,pp.23-24) で あ る と 理 解 で
きる。
ま た ,箱 庭 療 法 に お い て ,砂 に 触 れ る こ と が 適 度 な 退 行 を 引 き 起 こ す こ と が 多 く の 研 究 者
に よ っ て 指 摘 さ れ て い る (河 合 隼 雄 ,1969,p.22;木 村 ,1985,p.21 ;他 )。◆ 具 体 例 45 と 46 で も ,
箱 庭 制 作 者 は 砂 に 触 れ て い る 。砂 に 触 れ る こ と に よ っ て ,気 分 が 高 揚 す る 感 じ が 生 ま れ る こ
とが示された。
◆ 具 体 例 45∼ 48 や 先 行 研 究 に 示 さ れ た よ う に ,[イ メ ー ジ や 感 覚 が 出 て く る の を 待 つ 内
的 プ ロ セ ス ]は 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し て 働 く と 考 え ら れ る 。
2)[非 意 図 的 な 構 成 を 基 に ,意 図 的 に 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
創 造 に お い て 受 動 性 か ら 能 動 性 に 移 行 す る 内 的 プ ロ セ ス と 考 え ら れ た [非 意 図 的 な 構 成
を 基 に ,意 図 的 に 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]は ,「意 図 せ ず に で き た 構 成 に 触 発 さ れ ,そ れ を 基
に 意 図 的 に 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。
◆ 具 体 例 49: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 4∼ 5,10,13
A 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 4 で ,海 を 作 る に あ た っ て ,砂 を 砂 箱 左 上 の
領 域 に 運 び 移 し た 。 制 作 過 程 5 で , 砂 箱 中 央 奥 に 針 葉 樹 ,広 葉 樹 を 置 い た 。 制 作 過 程 10 で ,
家 を 砂 箱 左 上 に 置 い た 。制 作 過 程 13 で ,砂 箱 奥 に 花 を た く さ ん 埋 め た 。そ れ ら の 箱 庭 制 作 過
程 に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程 で , あ ち ら に こ う 自 然 に 山 に な っ て い た の で < そ う ね > ま あ ,
あ の ,緑 と 飾 る も の と ,な ん か ,お う ち が 欲 し く な っ た( A 氏 自 発 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て ),と
語 っ た 。 海 を 作 る た め に 運 ん だ 砂 に よ り ,砂 箱 左 上 に 意 図 せ ず ,自 然 に 山 が で き た 。 そ の 意
図 し な い 構 成 に 触 発 さ れ て ,そ の 領 域 に 緑 や 飾 る も の や 家 が ほ し く な り ,そ れ ら が 置 か れ た ,
と捉えられる。
◆ 具 体 例 50: A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1∼ 3
A 氏 は ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で ,砂 に 水 を 含 ま せ ,全 体 を よ く 混 ぜ た 。
手 の ひ ら で 砂 を 押 し 付 け た り ,握 っ た り し た 。 制 作 過 程 2 で は ,砂 を 力 強 く か き 混 ぜ つ つ ,
「 こ う や っ て 混 ぜ て ま す け ど ,さ て ど う し よ う と い う 感 じ で す ね 」 と 発 言 し た 。 制 作 過 程 3
で 左 側 に け わ し い 崖 の あ る 半 島 を 作 っ て い っ た (写 真 16)。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 調 査
的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。さ て じ ゃ ぁ ,ど ん な の が 出 て く る か な っ て わ く わ く し て ,
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いった部分があった。
(A 氏調
査 ,7-2)で ,何 も 決 め ず に や っ
て い る の で ,混 ぜ て い る 砂 が
な ん と な く こ う ,半 島 の よ う
な 形 と 言 う か ,< う ん 。 う ん 。
うん。>そんなふうに固まっ
て き た と き に ,そ う だ 半 島 ,陸
続 き の ,何 か ,岬 の よ う な 突 端
の部分を作るとおもしろいか
も し れ な い と 思 っ て ,や り 始
め て ,そ の 辺 ま で お も し ろ か
っ た で す ね ( A 氏 調 査 ,7-3)。
作 る も の を 決 め ず に ,A 氏 は
写 真 16
砂をかき混ぜていた。その砂
A 氏第7回作品
が半島のような形に固まってきたのを見た A 氏は半島の岬のようなものを作るとおもしろ
い か も し れ な い と 思 い ,そ の 時 点 か ら 意 図 的 に 半 島 を 作 っ て い っ た と い う 主 観 的 体 験 が 語
ら れ た ,と 考 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 49 と 50 は ,砂 の 構 成 に 関 す る も の で あ っ た 。次 の 具 体 例 は ,そ れ に 加 え て ,置 か
れ た ミ ニ チ ュ ア な ど も 含 め た 構 成 全 体 が ,連 想 や 記 憶 を 触 発 し ,意 図 的 な 構 成 が 始 ま る 例 で
ある。
◆ 具 体 例 51: B 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は ,第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,海 や 川 ,陸 地 に 橋 や 生 き 物 を 構 成 し て い っ た 。そ こ に 構 成
さ れ た 風 景 を 見 て ,箱 庭 制 作 過 程 14 で ,か つ て 行 っ た こ と の あ る 土 地 や そ こ に い た 人 々 の
こ と を 思 い 出 し た 。そ し て ,そ の 人 々 や そ の 土 地 の 風 景 を 構 成 し て い っ た 。そ れ ら の 箱 庭 制
作 過 程 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。 < 海 を 作 る 時 に ,少 し あ れ で し た
っ け( え ー )こ こ が 高 く な っ た ん で し た っ け ? > は い 。あ の ,そ れ も ,実 の と こ ろ ,ほ ん と に
偶 然 で き て き た と い う か 。こ う や っ て 作 っ て く 中 で ,砂 を 寄 せ る 。寄 せ る と そ こ の 部 分 が 小
高 く な る と い う こ と で ,ま あ ,こ の 部 分 を ち ょ っ と 脇 に 追 い や ら な き ゃ と い う こ と で 。 ポ ン
ポ ン ,こ っ ち が わ に 寄 せ た と こ ろ で , そ う い っ た 起 伏 も な ん か 連 想 を こ の , 確 か こ ん な 風 景
あ っ た ぞ み た い な と こ ろ で 。え え 。う ん 。は い 。あ の ,な ん か ,動 か さ れ て い っ た 。そ ん な ,
し よ う と 思 っ て と い う よ り ,こ う や っ て 置 い て い っ た ら ( B 氏 調 査 ,4-複 数 過 程 に 亘 っ て )。
B 氏 は ,海 を 作 る た め に ,砂 を 砂 箱 の 上 の 方 に 寄 せ た 。 そ れ に よ っ て そ の 部 分 が 小 高 く な っ
た 。そ れ は 意 図 し た も の で は な く ,偶 然 の 産 物 で あ っ た 。そ の 後 ,制 作 を 続 け る 中 で ,確 か こ
んな風景あったぞとかつて行ったことのある土地やそこにいた人々のことを思い出した。
こ の よ う に ,そ れ ま で の 制 作 で 作 ら れ た 構 成 か ら ,連 想 が 働 き ,こ こ ろ が 動 か さ れ ,そ の 後 ,
意 図 的 に ,そ の 土 地 や そ こ に い る 人 々 に 関 連 す る 構 成 を 作 っ て い っ た こ と に つ い て の 主 観
的 体 験 が 語 ら れ た ,と 捉 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 49∼ 51 は と も に ,構 成 か ら 非 意 図 的 に 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 刺 激 さ れ ,
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そ の 刺 激 に よ っ て 生 ま れ た 感 覚 や イ メ ー ジ に 基 づ い て ,意 図 的 に 構 成 を 始 め る と い う 場 合
が あ る こ と を 示 し て い る 。こ れ は ,箱 庭 制 作 過 程 が 「意 識 と 無 意 識 ,内 界 と 外 界 の 交 錯 す る と
こ ろ に 生 じ て き た も の 」(河 合 隼 雄 ,1969,p.17)で あ り ,意 識 と 無 意 識 の 協 働 に よ っ て 生 み 出
さ れ る も の で あ る こ と 示 し て い る ,と 考 え ら れ る 。 こ れ ら の 具 体 例 も ま た ,受 動 性 を 基 盤 に
し て ,能 動 性 が 発 揮 さ れ た も の と 考 え る こ と が で き よ う 。ま た ,こ の 能 動 性 は ,箱 庭 療 法 の 特
徴 の 一 つ で あ る ,ク ラ イ エ ン ト が 自 ら 外 的 に 作 品 と し て 作 り あ げ て い く (河 合 ,1969,p.24),
形 作 る こ と に 関 す る 能 動 性 で あ る 。 箱 庭 制 作 者 は ,浮 か ん で き た イ メ ー ジ を 受 容 的 構 え (田
嶌,
1992,pp .112-113)で 捉 え ,今 度 は そ れ を 砂 箱 の 中 に 能 動 的 に 形 作 っ て い く と い う 創 造 に お
け る 能 動 性 が 示 さ れ て い る ,と 捉 え ら れ る 。こ の よ う に [非 意 図 的 な 構 成 を 基 に ,意 図 的 に 構
成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]は 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し て 働 く と 考 え ら れ る 。
Ⅵ -3-4.< 創 造 を め ぐ る 肯 定 的 感 情 と 否 定 的 感 情 > 内 の 2 概 念 の 結 果 お よ び 考 察
3)内 界 と 構 成 と の 双 方 向 の 影 響 に 関 す る カ テ ゴ リ ー ,概 念 と し て ,Ⅵ -3-1.に 挙 げ た ≪ 創
造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ と は 別 に ,2 概 念 [創 造 の 歓 び ]と [作 品 に 対 し て ,否 定 的 な 感
情 や 感 覚 を も つ プ ロ セ ス ]が あ っ た 。そ し て ,そ れ ら を 包 括 す る カ テ ゴ リ ー と し て ,< 創 造 を
めぐる肯定的感情と否定的感情>を理論的に生成した。
1)[創 造 の 歓 び ]の 結 果 お よ び 考 察
[創 造 の 歓 び ]は ,創 造 を め ぐ る 肯 定 的 感 情 を 示 す 概 念 で あ る 。 本 概 念 は ,「制 作 を 通 し て ,
自 己 の 内 的 世 界 を 創 造 で き た こ と の 歓 び 」と 定 義 さ れ た 。
◆ 具 体 例 52: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 自 発 的 説 明 過 程 で ,作 り は じ め ,大 分 ,何 に も 気 持 ち の 上 で
も 用 意 し て こ な か っ た の で ,何 を つ く ろ う と 思 っ て た ん で す け ど 。 う ん ,ち ょ っ と 嬉 し い 。
< あ ,そ う ,ほ ん と ,作 品 ,満 足 ・・・ > う ん ,満 足( A 氏 自 発 ,1‐ 全 体 的 感 想 )と 語 っ た 。調
査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 こ ん な 世 界 が あ た し の 中 に あ っ た ん だ ,い い も の 見
つ け た ,っ て い う よ う な 感 じ か な 。( 中 略 ) 作 り 始 め た ら ,あ の ,ど ん ど ん こ う し た い っ て い
う の が 出 て き て < う ん > わ た し の 中 か ら ,こ ん な 世 界 が ,あ の ,出 て き て く れ た ん だ な あ ,っ
て 。 自 分 で こ う い う 世 界 を ,わ た し の 目 に 見 え る よ う に ,作 っ て あ げ ら れ て ,嬉 し い , っ て い
う 。 (中 略 )ど う だ 。 < ん ? > ど う だ っ て ,い や ,ち ょ っ と 自 慢 げ に 訊 い ち ゃ い ま し た ( A 氏
調 査 ,1-全 体 的 感 想 )。A 氏 は こ の 回 の 作 品 全 体 に つ い て ,制 作 で き た こ と へ の 歓 び を 語 っ た 。
こ の 具 体 例 に は 2 種 類 の 主 観 的 体 験 が 語 ら れ て い る 。 a.こ の 世 界 が 出 て き て く れ た こ と と
い う の は ,出 て き た イ メ ー ジ を 受 け 取 る 受 動 的 な 体 験 で あ る 。 そ れ に 対 し て ,b.い い も の を
見 つ け た ,目 に 見 え る よ う に 作 っ て あ げ ら れ た と い う の は ,イ メ ー ジ を 見 つ け ,さ ら に そ れ
を 創 造 し て い く 能 動 的 な 体 験 で あ る 。 そ の 両 者 が 共 に 語 ら れ ,そ れ に A 氏 は 歓 び を 感 じ て
いる。
ま ず ,a の 受 動 的 な 体 験 か ら 考 察 す る 。 A 氏 は ,作 り 始 め た ら ,あ の ,ど ん ど ん こ う し た い
っ て い う の が 出 て き て と 語 っ て い る 。 こ の 語 り は ,自 分 が 意 図 的 に 作 る の で は な く ,作 り た
い も の が 自 然 に 湧 き 出 て き た こ と ,そ し て ,そ の 湧 き 出 て き た も の に 満 足 し て い る 内 的 プ ロ
セ ス で あ る と 考 え ら れ る 。ま た ,こ ん な 世 界 が ,あ の ,出 て き て く れ た ん だ な あ と い う 語 り か
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ら は ,世 界 が 出 て き て く れ た こ と へ の 感 謝 が 感 じ 取 れ る 。
岡 田 (1984)は 創 造 に 関 す る Jung の 考 え を ,無 意 識 に 創 造 的 な も の が 内 包 さ れ て い る と 紹
介 し ,創 造 は 意 識 を い か に 弱 め ,無 意 識 的 な も の か ら の エ ネ ル ギ ー を 意 識 が 把 握 す る か に か
か っ て い る ,と 述 べ て い る (p.25) 。 河 合 隼 雄 (1991)も ま た ,「 心 の 深 い 層 が 関 連 し て く る と ,
自 分 で も 思 い が け な い も の を 作 っ た り ,作 っ て い る 過 程 に お い て ,『 や っ た 』 と い う よ う な
パ フ ォ ー マ ン ス の 快 感 を 感 じ る と き も あ る 」 と 述 べ て い る (p.127)。岡 田 (1984)や 河 合 隼 雄
(1991)の 考 え を 参 照 す る と ,◆ 具 体 例 52 の a の 受 動 的 な 体 験 は ,自 分 の 内 的 世 界 が 自 然 に 浮
か び 上 が っ て き て , そ の 内 的 世 界 に 対 し て ,A 氏 が い い も の と 感 じ ,そ れ に 満 足 す る こ と が
で き た 体 験 で あ る と 理 解 で き る 。そ し て ,そ の い い も の は ,自 分 で 作 っ た も の で は な く ,自 然
に 出 て き て く れ た も の で あ る た め ,そ の よ う な 内 的 世 界 を 与 え て も ら っ た こ と へ の 感 謝 の
歓びであるとも考えられる。
も う 一 方 の 側 面 b は ,箱 庭 制 作 者 が 自 ら 外 的 に 作 品 と し て 作 り あ げ て い く と い う 箱 庭 制
作 面 接 の 特 徴 に 関 連 し て い る と 考 え ら れ る (河 合 隼 雄 ,1969,p.24)。 織 田 も ま た ,「 箱 庭 療 法
が 心 理 療 法 技 法 の ひ と つ と し て ,ほ か の 技 法 と 違 う も っ と も 大 き な 特 徴 の ひ と つ は ,ク ラ イ
エ ン ト が こ こ ろ の 宇 宙 を 再 構 築 す る 過 程 に ,自 ら 身 体( 両 手 )を も っ て 参 加 で き る と い う 点
で あ ろ う 」 と 述 べ て い る (織 田 ・ 大 住 ,2008,p.34)。 A 氏 は ,こ ん な 世 界 が あ た し の 中 に あ っ
た ん だ ,い い も の 見 つ け た ,っ て い う よ う な 感 じ か な と 語 っ て い る 。 こ の 見 つ け る と い う 行
為 の 主 体 は , A 氏 で あ る 。A 氏 は ,出 て き た も の を ち ゃ ん と 見 つ け る こ と が で き た た め ,次 に
自 分 で こ う い う 世 界 を ,わ た し の 目 に 見 え る よ う に ,作 っ て あ げ ら れ た 。内 的 世 界 を A 氏 自
ら が 砂 箱 の 中 に ,目 に 見 え る も の と し て 形 づ く る こ と が で き た 。そ の よ う な 自 己 が 行 っ た 能
動 的 行 為 に 嬉 し い と 感 じ た 。こ の よ う に イ メ ー ジ を 見 つ け ,さ ら に そ れ を 創 造 し て い く 能 動
的な体験もまた箱庭制作面接の重要な過程の一つである。
◆ 具 体 例 52 で ,心 の 深 い 層 の イ メ ー ジ を 受 動 的 に 受 け 取 り ,そ れ を 能 動 的 に 構 成 し て い
く こ と が で き た ,そ の 両 方 に ,A 氏 は ど う だ と 言 い た く な る よ う な ち ょ っ と 自 慢 げ な 感 覚 を
も っ た と 理 解 で き よ う 。こ の 具 体 例 は ,a の 自 然 に 出 て き た 内 的 世 界 を 受 け と め る 受 動 的 な
体 験 と ,b の 箱 庭 制 作 者 が 自 ら 外 的 に 作 品 と し て 作 り あ げ て い く 能 動 的 な 体 験 の 協 働 に よ
る創造の歓びが示されていると解釈できる。A 氏は自己の内的世界を発見することを通し
て 自 己 理 解 を 深 め る こ と が で き た と 理 解 で き る 。そ し て ,A 氏 が [創 造 の 歓 び ]を 感 じ る こ と
が で き た こ と は ,以 後 の 箱 庭 制 作 へ の 動 機 づ け を 高 め る こ と に な っ た と 推 測 で き る 。◆ 具 体
例 52 の よ う に ,自 己 の 内 的 世 界 の 発 見 を 伴 っ た [創 造 の 歓 び ]は ,自 己 理 解 を 深 め る こ と や
箱 庭 制 作 面 接 に よ り 深 く コ ミ ッ ト す る こ と を 促 し ,継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 が A 氏 の 自 己 成
長を促進する創造的なものになることに寄与すると解釈できよう。
◆ 具 体 例 53: A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 6,全 体 的 感 想
A 氏 は ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,初 め て 日 常 世 界 に 近 い ,町 の 風 景 を 作 っ た 。 ま た ,今 回 の
教 会 に つ い て A 氏 は ,調 査 的 説 明 過 程 で こ れ は < そ う だ ね > も っ と , も っ と ち ゃ ん と 現 実
の 世 界 に 降 り て き て る も の (中 略 )ち ょ っ と う れ し い で す ね , 何 か 。 < ふ ー ん , う れ し い >
う ん ,な ん か 私 の 内 側 に そ う い う も の が 根 付 い た よ う な そ ん な 感 じ が し ま す( A 氏 調 査 ,9-6)
と 語 っ た 。今 回 の 構 成 を 通 し て ,A 氏 は 宗 教 的 イ メ ー ジ の 変 化 ,自 分 の 変 化 や 成 長 に 気 づ き ,
歓 び を 感 じ る こ と が で き た (pp.67-68 ◆ 具 体 例 34 参 照 )。
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A 氏 は ,今 回 の 作 品 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で ,制 作 中 に 感 じ た 気 持 ち よ さ に つ い て ,こ
の 作 品 が 10 回 の 最 終 回 の よ う な 気 持 ち が あ っ た と が 語 っ た 。 そ し て ,そ の 理 由 に つ い て ,
以 下 の よ う に 語 ら れ た 。自 分 の 中 で 思 い 描 い て い た 10 回 目 の 箱 庭 っ て ,何 か こ う ,幸 せ な 箱
庭 で 終 わ る と い う か ,現 場 に 帰 る よ う な 感 じ で 終 わ る と い う か ,そ ん な イ メ ー ジ が あ る ん で
す よ ね 。で ,こ れ 作 っ て い て 私 は と て も 気 持 ち が 良 か っ た の で ,あ ,も う ,こ の 気 持 ち よ さ は ,
と か ね ,あ , も う こ の 現 実 の 感 じ は ,あ の , え ー ,楠 本 先 生 の ド ア を 開 け た ら す ぐ 私 は な ん か
映 画 館 に 行 っ ち ゃ い そ う な ね ,そ ん な 感 じ が あ っ て ,作 っ て る 最 中 に (A 氏 調 査 ,9-全 体 的 感
想 )。面 接 室 の ド ア を 開 け た ら ,す ぐ に 映 画 館 に 行 っ て し ま い よ う な 感 覚 に つ い て ,内 省 報 告
で は ,ド ア を 開 け た ら そ の ま ま ,自 分 の 欲 求 の ま ま に 現 実 世 界 で 自 由 に 行 動 を 始 め そ う 。 足
が 軽 く な っ て い る と い う か ,か ら だ が 前 に 出 て い る と い う か , 頭 で あ れ こ れ 考 え な い で , ま
ず 体 が 行 動 し て い る ,そ ん な 感 じ ( A 氏 内 省 ,9-全 体 的 感 想 ,調 査 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。 A 氏
は ,こ の 作 品 が 第 10 回 の 最 終 回 の 作 品 の よ う に 感 じ た こ と や ,こ の 箱 庭 制 作 を 通 し て 感 じ
た 幸 せ や 気 持 ち よ さ を 語 っ て い る 。A 氏 が 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で 感 じ た 気 持 ち よ さ は ,足 が
軽 く ,か ら だ が 前 に 出 て ,ま ず か ら だ が 行 動 し て い る よ う な 身 体 感 覚 を 伴 っ た 自 由 さ で あ っ
たと捉えられる。
A 氏 が 今 回 の 箱 庭 制 作 面 接 で 感 じ た 歓 び に は a.自 分 の 宗 教 性 に 関 す る 変 化 や 成 長 に 気 づ
い た 歓 び と ,b.身 体 性 を 伴 っ た 自 由 さ ,気 持 ち よ さ ,の 2 つ の 要 素 が あ る 。
a.教 会 で 表 さ れ る よ う な 宗 教 性 が 自 分 の 内 面 に 根 付 い た こ と よ う な 感 じ に 気 づ い た こ と
を 通 し て ,A 氏 は [創 造 の 歓 び ]を 感 じ た 。こ の 歓 び は 自 己 の 変 化 や 成 長 に 気 づ い た 歓 び で あ
る。
b. A 氏 は ,こ れ 作 っ て い て 私 は と て も 気 持 ち が 良 か っ た と 語 っ て い る 。 ま た ,ド ア を 開 け
た ら そ の ま ま ,自 分 の 欲 求 の ま ま に 現 実 世 界 で 自 由 に 行 動 を 始 め そ う と も 語 っ て い る 。こ れ
ら の 語 り か ら ,A 氏 が 今 回 の 箱 庭 制 作 面 接 で 自 由 さ を 感 じ ,そ の 自 由 さ に 気 持 ち よ さ を 感 じ
て い た と 解 釈 で き る 。 Kalff(1966 大 原 他 訳 1972) は ,箱 庭 療 法 に お い て 遊 び を 重 視 し て い
る 。 そ し て ,遊 び の 一 要 素 と し て ,自 発 的 な 自 由 な < 喜 び > を 挙 げ て い る 。 A 氏 第 9 回 箱 庭
制 作 面 接 で 感 じ た 気 持 ち よ さ は ,一 つ に は ,こ の よ う な 箱 庭 制 作 面 接 が も つ 遊 び の 自 由 さ が
も た ら し た も の ,と 考 え ら れ る 。
足 が 軽 く な っ て い る と い う か ,か ら だ が 前 に 出 て い る と い う か ,頭 で あ れ こ れ 考 え な い で ,
ま ず 体 が 行 動 し て い る ,そ ん な 感 じ と あ る よ う に ,A 氏 は ,身 体 を も っ た 自 分 が 現 実 世 界 の
中 で ,自 由 に 行 動 で き る と い う 身 体 性 を 体 験 し た 。 こ の よ う な 身 体 性 の 言 及 は ,第 9 回 箱 庭
制 作 面 接 で 初 め て な さ れ た 。箱 庭 制 作 過 程 で こ の よ う な 構 成 を 行 い ,自 由 に 行 動 で き る 身 体
性 を 初 め て 体 験 し た A 氏 は ,そ の 構 成 や 体 験 か ら 自 己 の 変 化 ・ 成 長 を 実 感 し た と 理 解 で き
る。
こ の よ う に [創 造 の 歓 び ]に は 自 己 の 変 化 や 成 長 に 関 す る 歓 び が 表 現 さ れ て お り ,箱 庭 制
作面接の促進機能として働くと考えることができる。
2)[作 品 に 対 し て ,否 定 的 な 感 情 や 感 覚 を も つ プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
[作 品 に 対 し て ,否 定 的 な 感 情 や 感 覚 を も つ プ ロ セ ス ]は ,創 造 を め ぐ る 否 定 的 感 情 を 示 す
概 念 で あ る 。 本 概 念 は ,「自 分 の 作 品 に 対 し て ,否 定 的 な 感 情 や 感 覚 を も つ 内 的 プ ロ セ ス 」と
定義された。
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◆ 具 体 例 54: A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
以 下 に 示 す 具 体 例 は ,作 品 全 体 に 対 す る 否 定 的 感 情 が 制 作 中 の み な ら ず ,制 作 終 了 後 も 続
い て い た 例 で あ る 。A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 自 発 的 説 明 過 程 で ,A 氏 は 途 中 で 本 当 に 何 か
嫌 に な っ て し ま っ て ,こ れ 作 る の が ,作 り 続 け る の が (A 氏 自 発 ,7-全 体 的 感 想 )と 語 っ た 。調
査 的 説 明 過 程 で は ,ま ず ,こ の 島 と 半 島 と 灯 台 だ け で よ か っ た の か も し れ な い で す ね 。 < ふ
ん > そ れ と 他 の も の は も う 本 当 に ,な ん て い う ん で し ょ う ね ( 間 34 秒 ) 表 層 的 な も の に 感
じ ら れ て ,他 の も の が 。 愛 着 が 湧 か な い で す 。 < あ ,ふ ー ん > あ ぁ ,で も そ れ を 言 う の が す
ごく悲しい。自分が作っておきながら愛着が湧かないなんて。すごく悲しいですね(A 氏
調 査 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 ら れ た 。 そ し て ,こ の よ う な 構 成 に な っ た 要 因 の 一 つ と し
て ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。 成 り 行 き に 任 せ て 作 っ た こ と に 少 し 後 悔 の よ う な ,
残念なような気持ちがある。出来上がった作品を見ても喜べない。どこか白々しい感じを
抱 い て い る ( A 氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,自 発 ・ 感 覚 )。 さ ら に ,以 下 の よ う な 要 因 も あ
っ た 。私 自 身 が こ の 箱 庭 の 世 界 の 中 で ,生 き 生 き と し て ら れ な い 。想 像 を ふ く ら ま せ て 自 由
に 生 き る こ と が (飛 び 回 る こ と が )出 来 な い 。陸 地 の 形 状 が 出 来 た あ た り で ,こ ん な 世 界 を 作
ろ う と い う ア イ デ ア が 浮 か ん で き て ,そ れ に 従 っ て ,途 中 で 変 更 す る こ と も な く 作 り 上 げ て
しまった。あらかじめ出来上がったストーリーに玩具を当てはめて置いていったかのよう
で ,そ こ に は 私 の オ リ ジ ナ リ テ ィ が 感 じ ら れ な い 。自 分 自 身 の 気 持 ち を 常 に ス キ ャ ン し な が
ら作ったのではないような感じ。自分で作っておきながら愛着が湧かない部分がある(A
氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 意 味 )。 こ の 箱 庭 の 世 界 の 中 で ,自 分 が 想 像 を ふ く ら ま
せ て 自 由 に 生 き る こ と が で き い な い こ と ,出 来 上 が っ た ス ト ー リ ー に ミ ニ チ ュ ア を 当 て は
め て 作 っ た か の よ う で 自 分 の オ リ ジ ナ リ テ ィ が 感 じ ら れ な い こ と ,自 分 の 気 持 ち を ス キ ャ
ン し て 作 っ た の で は な い よ う に 感 じ ら れ る こ と が 記 さ れ た 。ま た ,作 品 を つ ま ら な い と 思 っ
て し ま う 要 因 の 一 つ と し て ,こ の 人 物 を 本 当 に あ の ,ぐ ,具 象 的 と い う か ,具 体 的 な 人 物 像 が
い か に も こ う あ ど け な い 女 の 子 と い う か ,そ う い う の が ,あ の ,バ ン と 出 て し ま う の で ,そ れ
が 気 に 入 ら な い と い う の も あ る ん で す ね( A 氏 調 査 ,7-12)と 語 ら れ た 。そ れ は 自 己 像 と し
て 置 か れ た 女 性 像 が あ ど け な い 女 の 子 で あ る こ と が 強 調 さ れ ,そ れ が 気 に 入 ら な い と 感 じ
て い た ,と 捉 え ら れ る 。
10 回 に 亘 る 箱 庭 制 作 面 接 の 中 で ,A 氏 が 自 分 の 箱 庭 作 品 に 愛 着 が 湧 か な い と い う よ う な
強 い 否 定 的 感 情 を 抱 い た の は ,こ の 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 だ け で あ る 。 A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作
面 接 に お け る 主 観 的 体 験 を 整 理 し て 記 す 。ま ず ,a.作 品 全 体 に 対 し て 生 ま れ た 否 定 的 感 情 ・
感 覚 は ,作 り 続 け る の が 嫌 に な っ た こ と ,作 品 に 愛 着 が 湧 か ず ,つ ま ら な い ,し ら じ ら し い と
感 じ る こ と ,自 分 の 作 品 に 愛 着 が 湧 か な い こ と を す ご く 悲 し く 思 う と い う こ と で あ っ た 。そ
し て b.否 定 的 な 感 情 が 生 ま れ る よ う な 箱 庭 制 作 過 程 に な っ た 要 因 は ,箱 庭 の 世 界 の 中 で , 自
分 が 想 像 を ふ く ら ま せ て 自 由 に 生 き る こ と が で き い な い こ と ,出 来 上 が っ た ス ト ー リ ー に
ミ ニ チ ュ ア を 当 て は め て 作 っ た か の よ う で 自 分 の オ リ ジ ナ リ テ ィ が 感 じ ら れ な い こ と ,自
分 の 気 持 ち を ス キ ャ ン し て 作 っ た の で は な い よ う に 感 じ ら れ る こ と ,成 り 行 き に 任 せ て 作
っ た こ と で あ っ た 。 そ の 結 果 生 ま れ た ,c.構 成 に 対 す る 印 象 は ,半 島 と 灯 台 以 外 の も の は 表
層 的 な も の に 感 じ ら れ る こ と ,自 己 像 と し て 置 か れ た 女 性 像 が 気 に 入 ら な い こ と ,で あ っ た 。
説 明 過 程 で の 語 り や 内 省 報 告 に は ,上 に 挙 げ た 以 外 の 要 因 も 報 告 さ れ た が ,主 な 要 因 は 上 記
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のものと考えられる。
こ こ で は ,主 に ,b.否 定 的 な 感 情 が 生 ま れ る よ う な 箱 庭 制 作 過 程 に な っ た 要 因 に つ い て ,
考 察 し た い 。b と し て ,1.箱 庭 の 世 界 の 中 で ,自 分 が 想 像 を ふ く ら ま せ て 自 由 に 生 き る こ と が
で き い な か っ た こ と が 挙 げ ら れ て い る 。[創 造 の 歓 び ]の 具 体 例 と し て 挙 げ た 作 り 始 め た ら ,
あ の ,ど ん ど ん こ う し た い っ て い う の が 出 て き て < う ん > わ た し の 中 か ら ,こ ん な 世 界 が ,
あ の ,出 て き て く れ た ん だ な あ ,っ て 。 自 分 で こ う い う 世 界 を ,わ た し の 目 に 見 え る よ う に ,
作 っ て あ げ ら れ て ,嬉 し い ,っ て い う( A 氏 調 査 ,1-全 体 的 感 想 )と い う 主 観 的 体 験 の 語 り に
あるように, A 氏は箱庭制作過程で想像を自由にふくらませて構成する場合が多かった
(p.85 ◆ 具 体 例 52 参 照 )。し か し ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で は そ の よ う な 心 理 的 状 況 で は な か
っ た こ と が わ か る 。 Rogers(1959 伊 東 編 訳 1967)は ,「経 験 に 対 し て 開 か れ て い る こ と
(openness to experience)」を 環 境 の 形 ,色 な ど の 感 覚 刺 激 や 過 去 の 記 憶 痕 跡 や 恐 怖 ,快 ,不 快
な ど の 内 臓 感 覚 な ど を 完 全 に 意 識 で き る 状 態 と し て い る 。 そ し て ,経 験 に 対 し て ,十 分 に 開
か れ て い る 人 間 を 仮 定 す る な ら ば ,そ の 人 の 自 己 概 念 は 経 験 と 完 全 に 一 致 す る よ う に 意 識
上 に 象 徴 化 さ れ た も の で あ る ,と し て い る (pp.199-200)。Rogers の 考 え を 参 照 す る と ,A 氏
第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 内 省 報 告 に あ る 私 自 身 が こ の 箱 庭 の 世 界 の 中 で ,生 き 生 き と し て ら
れ な い 。想 像 を ふ く ら ま せ て 自 由 に 生 き る こ と が (飛 び 回 る こ と が )出 来 な い( A 氏 内 省 ,7複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査・意 味 )と い う 具 体 例 は , A 氏 が 箱 庭 制 作 過 程 に お い て ,自 分 の 経 験
に 十 分 に 開 か れ て い る こ と が で き な か っ た 内 的 プ ロ セ ス に つ い て の 記 述 ,と 捉 え ら れ る 。ま
た ,Kalff(1966 大 原 他 訳 1972)が 指 摘 す る ,遊 び が も つ 自 由 さ を 感 じ る こ と が で き な か っ
た ,と 考 え ら れ る (p.ⅲ - ⅳ )。 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,イ メ ー ジ が 自 然 に 生 ま れ ,湧 い て く
る た め の 心 理 的 準 備 が 整 っ て い な か っ た ,と 捉 え る こ と が で き よ う 。
1.に あ る よ う な 心 理 的 状 況 で あ っ た た め ,2.自 分 の 気 持 ち を ス キ ャ ン し て 作 っ た の で は
ないように感じられるという心理的状況が生じたと考えることができる。自分の気持ちを
ス キ ャ ン し て 作 っ た の で は な い と い う よ う に ,自 分 の 内 的 プ ロ セ ス を 逐 次 照 合 す る こ と も
充分になされなかった。
1 と 2 に あ る よ う な 心 理 的 状 況 で あ っ た た め ,3.箱 庭 制 作 過 程 で ,成 り 行 き に 任 せ て 作 っ
て し ま い ,出 来 上 が っ た ス ト ー リ ー に ミ ニ チ ュ ア を 当 て は め て 作 っ た か の よ う で 自 分 の オ
リジナリティが感じられない作品になってしまったと捉えられる。一度思いついたストー
リ ー が い ま・こ こ の 内 的 プ ロ セ ス に ぴ っ た り し て い る の か の 照 合 作 業 が う ま く い か ず ,そ の
ままストーリーにミニチュアを当てはめて作ったかのようになってしまった。そのような
箱 庭 制 作 過 程 を 経 て ,生 ま れ た 作 品 の た め ,表 層 的 な も の ,自 分 の オ リ ジ ナ リ テ ィ が 感 じ ら
れ な い も の に な っ た ,と 理 解 で き る 。
こ の よ う に ,箱 庭 制 作 者 の 意 識 状 態 が , 箱 庭 を 制 作 す る に あ た っ て , 十 分 な 準 備 が 整 っ て
い な い 場 合 ,箱 庭 制 作 者 自 身 に と っ て ,愛 着 が 感 じ ら れ な い 作 品 と な っ て し ま う 場 合 が あ る
こ と が 示 さ れ た 。 ◆ 具 体 例 54 は ,箱 庭 制 作 面 接 に お い て 促 進 機 能 が 充 分 に 働 か な か っ た 例
で あ り ,促 進 要 因 が 充 分 に 働 か な い 場 合 の 要 因 が 示 さ れ て い る と 考 え る こ と が で き る 。◆ 具
体 例 54 で 示 し た 心 理 的 状 況 は ,箱 庭 制 作 面 接 に お い て 起 こ り う る も の で あ り ,見 守 り 手 は
箱 庭 制 作 者 の こ の よ う な 心 理 的 状 況 に つ い て 理 解 し ,必 要 な 配 慮 が あ れ ば そ れ を 行 う こ と
が心理臨床上重要だと考えられる。
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◆ 具 体 例 55: A 氏 第 5 回
箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 16
∼ 17
以 下 に 示 す 具 体 例 は ,特
定 の 箱 庭 制 作 過 程 ,作 品 の
ある部分に関する否定的な
感情や感覚についての主観
的 体 験 で あ る 。A 氏 は ,第 5
回箱庭制作面接の箱庭制作
過 程 16 で ,イ ン コ を 島 の 右
奥 ,山 の 中 腹 に 置 い た 。制 作
過 程 17 で ,焚 き 火 と キ ノ コ
を 島 の 左 手 前 に 置 き ,り ん
ご を 置 き 足 し た (写 真 17)。
それらの箱庭制作過程につい
写 真 17
A 氏第5回作品
て ,自 発 的 説 明 過 程 で は ,出 来
上 が っ た の こ ん な の で す け ど ,う ー ん と ,少 し 島 が さ み し い な と 思 う ん で す け ど ,こ れ し か
置 け な か っ た 。こ れ が 精 一 杯 か な っ て い う 感 じ で す ね( A 氏 自 発 ,5-17)と 少 し 島 が さ み し
い と い う 感 覚 が 語 ら れ た 。そ し て ,内 省 報 告 に 以 下 よ う に 記 し た 。こ れ か ら お き て く る こ と
のために残されている空間にしたかったというか。でもそうするとすごく不毛な感じがし
て ,そ れ が こ れ か ら 起 き て く る こ と の 厳 し さ を 予 想 さ せ て ,怖 か っ た 。 だ か ら あ え て イ ン コ
と 焚 き 火 な ど を 置 い た の だ と 思 う (A 氏 内 省 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て ,自 発 ・ 意 図 ),島 の 右 奥 ,
青 い イ ン コ の い る あ た り ,壷 を 置 こ う か ど う し よ う か 迷 っ た あ た り に ,戦 い の イ メ ー ジ が 漠
然 と あ る 。 動 物 同 士 ,も し く は 人 間 同 士 が 争 っ て い る よ う な ,不 穏 な 空 気 が か す か に あ る 。
そ れ が 今 思 い 返 す と 制 作 中 か ら ず っ と あ っ た( A 氏 内 省 ,5-16,自 発 ・ 感 覚 )。箱 庭 制 作 過 程
15 以 前 の 段 階 で は ,島 の 右 奥 や 手 前 側 に は ミ ニ チ ュ ア が 何 も 置 か れ て い な か っ た 。 自 発 的
説 明 時 に は ,島 が さ み し い と い う 感 覚 で 捉 え ら れ て い た 。し か し ,DVD 視 聴 に よ る 内 省 報 告
作 成 時 に ,箱 庭 制 作 過 程 を 思 い 返 し た 時 ,箱 庭 制 作 過 程 に も 感 じ て い た こ と が ,よ り 明 確 に な
っ た 。何 も 置 か れ な い 空 間 か ら ,A 氏 は 不 毛 な 感 じ が し た 。そ れ は こ れ か ら 起 き て く る こ と
の 厳 し さ を 予 測 さ せ ,怖 さ を 感 じ た 。 そ れ は よ り 具 体 的 に は ,動 物 同 士 や 人 間 同 士 が 争 っ て
い る よ う な 不 穏 な 空 気 で あ っ た 。そ の 不 穏 な 空 気 は か す か な も の で あ っ た が ,そ れ は 制 作 中
にも感じていたことがあったことが報告された。
◆ 具 体 例 55 に 示 さ れ た 否 定 的 感 情 は ,A 氏 に と っ て 怖 さ を 感 じ さ せ る イ メ ー ジ が 予 感 さ
れ た こ と に よ る も の ,と 捉 え ら れ る 。そ の 予 感 は ,箱 庭 制 作 過 程 中 に は ,不 穏 な 空 気 と し て か
す か に 感 じ る に と ど ま っ て い た 。 む し ろ ,島 が さ み し い と い う 感 覚 と し て 捉 え ら れ て い た 。
そ れ が 内 省 報 告 作 成 時 に ,動 物 同 士 や 人 間 同 士 が 争 っ て い る よ う な 不 穏 な 空 気 ,不 毛 な 感 じ
と し て 明 確 に 捉 え ら れ た 。こ の よ う な イ メ ー ジ は 箱 庭 制 作 過 程 中 の A 氏 に は 脅 威 を 与 え る
も の で あ り ,意 識 化 す る こ と に 心 理 的 防 衛 が 働 い た ,と 考 え る こ と が で き る だ ろ う 。 こ の よ
う な こ と も ま た ,作 品 や 構 成 が 箱 庭 制 作 者 に 否 定 的 感 覚 や 感 情 を 引 き 起 こ す 要 因 の 一 つ で
あ る こ と が 示 さ れ た 。本 具 体 例 は ,箱 庭 制 作 過 程 で 感 覚 的 に 捉 え ら れ て い た ,あ る い は ,心 理
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的 防 衛 が 働 き 充 分 な 意 識 化 が な さ れ な か っ た 内 的 プ ロ セ ス が ,内 省 に よ っ て ,よ り 明 確 に 意
識 化 で き た 例 と 考 え る こ と が で き る 。 ◆ 具 体 例 55 は ,◆ 具 体 例 54 と は 異 な り ,箱 庭 制 作 者
が 箱 庭 作 品 を 内 省 す る こ と に よ っ て ,自 己 理 解 が 促 進 さ れ る 主 観 的 体 験 に つ い て の 報 告 で
あると捉えられる。
ま た ,本 項 で は 取 り 上 げ な か っ た が ,A 氏 第 2 回 お よ び 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 に も ,特 定 の 箱
庭 制 作 過 程 ,作 品 の あ る 部 分 に 関 す る 否 定 的 な 感 情 や 感 覚 に つ い て の 主 観 的 体 験 が あ っ た 。
そ れ ら に つ い て は ,「 Ⅵ -1.「構 成 」か ら 「内 界 」へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察 」の 「(1)あ る 構 成
に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 気 持 ち や イ メ ー ジ な ど の 内 的 プ ロ セ ス が 大 き く 変 化 す る 主 観 的 体
験 の 結 果 お よ び 考 察 」で ,箱 庭 制 作 や 自 己 の 心 へ の 強 く ,真 摯 な コ ミ ッ ト メ ン ト と 関 連 さ せ ,
検 討 し た た め ,そ の 箇 所 を 参 照 し て い た だ き た い (pp.51-53 ◆ 具 体 例 20 と 21 参 照 )。
Ⅵ -3-5.内 界 と 構 成 と の 双 方 向 の 影 響 を 示 す ,他 5 概 念 の 結 果 お よ び 考 察
[構 成 に よ る 表 現 の 多 義 性 ], [他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 ],[ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ な い 領 域
に つ い て の 意 図 や 感 覚 ],[構 成 に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 の 表 現 ],[不 明 瞭
な 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]は ,≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ ,< 創 造 を め
ぐる肯定的感情と否定的感情>に包含されない, 内界と構成との双方向の影響を示す概念
である。
1)[構 成 に よ る 表 現 の 多 義 性 ]の 結 果 お よ び 考 察
[構 成 に よ る 表 現 の 多 義 性 ]は ,「構 成 に よ っ て 表 現 さ れ た も の の 意 味 が 多 義 的 で あ る こ
と 」と 定 義 さ れ た 。(1)構 成 の 意 味 の 多 義 性 ,(2)構 成 に 表 現 さ れ た 箱 庭 制 作 者 の 存 在 の 多 元 性
の 観 点 ・ テ ー マ ご と に ,具 体 例 を 挙 げ ,考 察 す る 。
(1)構 成 の 意 味 の 多 義 性 の 結 果 お よ び 考 察
◆ 具 体 例 56: A 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 4,9
A 氏 は ,第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 4 で ,島 (山 )の 左 奥 に 鳥 居 を 置 い た 。 制 作 過
程 9 で ,亀 を 島 の 右 手 前 の 浜 辺 に 置 い た 。 箱 庭 制 作 過 程 4 に つ い て ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う
に 記 し た 。 何 か お 守 り が ほ し い ,と 思 っ て 鳥 居 を 置 い た ( A 氏 内 省 ,5-4,制 作 ・ 意 図 ) , 鳥 居
を 置 い た こ と で ,島 に 命 が 芽 生 え た よ う な 安 心 感 が 湧 い た( A 氏 内 省 ,5-4,制 作 ・ 意 図 )。鳥
居 は ,お 守 り で あ り , そ れ を 置 い た こ と で , 島 に 命 が 芽 生 え る よ う な 安 心 感 を 抱 か せ る も の
で あ っ た 。同 じ 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,上 に 挙 げ た も の と は 異 な る 内 的 プ ロ セ ス も 報 告 さ れ
た 。A 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。こ の 具 体 例 に あ る (不 明 )は そ の 箇 所 の
語りの内容が聞き取れなったことを示す。また(?)はそのように聞こえるが言葉が違う
可 能 性 が あ る こ と を 示 す 。 < 鳥 居 を ,こ の 位 置 に 置 こ う と 思 っ た の は ? > ( 間 10 秒 ) う ー
ん ,何 で で し ょ う ね ,で も こ の 位 置 に 置 い た 時 に ,え ー っ と ,鳥 居 が 門 だ と し た ら ,そ の 時 に ,
こ っ ち か ら 入 る こ と に な る の か な と い う の は 思 い な が ら 置 い て ま し た ね 。だ け ど ぉ , だ け ど
ぉ ,< ふ ん ふ ん > だ け ど ぉ ,だ け ど ぉ ,( 間 16 秒 ) そ う で す ね ,一 瞬 思 っ た ん で す
私 も (不
明 ) こ っ ち に し ち ゃ っ た ( ? ) < う ん う ん > 何 か 多 分 手 前 に は 置 け な か っ た ん で ・ ・ ・( A
氏 調 査 ,5-4)。内 省 報 告 に は ,鳥 居 の 部 分 の 世 界 に ,私 は ま だ 足 を 踏 み 入 れ て い な い よ う な 気
が す る 。足 を 踏 み 入 れ る の が 怖 い ,恐 れ て い る よ う な 。島 全 体 に 鳥 居 の 影 響 力 は あ る け れ ど ,
島 の 裏 側 か ら な ら ば ,影 響 力 を 受 け な が ら も 徐 々 に 近 づ い て い け る か ( A 氏 内 省 ,5- 複 数 過
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程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 意 味 ) と 記 し た 。
◆ 具 体 例 56 で は ,鳥 居 の 構 成 に つ い て ,お 守 り と い う 意 図 ,島 に 命 が 芽 生 え る よ う な 安 心
感 が 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス と ,足 を 踏 み 入 れ る の が 怖 い と い う 感 覚 ,島 の 裏 側 か ら な ら ば
徐々に近づいていけるかという内的プロセスという複数の内的プロセスが報告されている。
こ の 多 様 な 内 的 プ ロ セ ス は ,イ メ ー ジ の 多 義 性 と 考 え る こ と も で き る だ ろ う し ,複 数 の 内 的
プ ロ セ ス を A 氏 が 構 成 に 付 与 し た り ,構 成 か ら 複 数 の 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ た と 理 解 す
ることも可能である。A 氏はこの鳥居の構成やその構成についての語りや内省を通して,
鳥居という構成の自己への多様な影響についての気づきを深めていったと理解できる。
◆ 具 体 例 57: B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 3∼ 5
B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 3 で ,B 氏 は ,約 20 秒 か け て ,ケ ー ス の 蓋 で 右 か
ら 左 へ 溝 を 作 っ た 。制 作 過 程 4 で は ,約 20 秒 か け て ,ケ ー ス の 蓋 で 上 か ら 下 へ 溝 を 作 っ た 。
こ の よ う に し て ,砂 箱 は 4 つ の 区 画 に 分 け ら れ た 。制 作 過 程 5 で は ,中 央 部 に 十 字 形 に 水 源
様 の 水 を 深 く 掘 っ た 。 制 作 過 程 7 で 箱 庭 左 上 の 区 画 に 花 を 植 え る な ど ,そ の 後 ,そ れ ぞ れ に
区 画 ご と に 一 つ の 季 節 を 表 現 し て い っ た 。そ の 構 成 に つ い て B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で こ こ
に 立 っ た 時 に ,こ の 箱 庭 の 中 を 4 つ に 分 け た く な り ま し て 。そ れ で ,そ の 4 つ と い う ,4 つ が
で き る だ け 均 等 に っ て い う こ と で 。(中 略 )4 つ に 割 っ た ん で す け ど ,完 全 に 4 つ の 区 画 っ て
い う よ う な 風 で も な く っ て 。 で ,真 ん 中 も ,真 ん 中 と し て あ っ て ,つ な が り が あ り つ つ も ,4
つ の 区 切 り っ て い う と こ で ( B 氏 自 発 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。 内 省 報 告 で ,非 連
続 と 連 続( B 氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,自 発・感 覚 ),区 分 が あ る が 繋 が り が あ る 感 じ( B
氏 内 省 ,7-7,自 発 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 こ の よ う に こ の 構 成 は ,一 見 相 矛 盾 す る 意 味 を 含 み こ
ん だ も の と し て 作 ら れ た ,と 捉 え ら れ る 。
ま た ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,B 氏 は 中 心 に あ る 十 字 形 の 部 分 は ,根 底 に
な る ,核 に な る よ う な も の で あ る と 語 っ た 。 そ の 後 ,全 体 的 な 感 想 と し て ,以 下 の よ う に 語 っ
た 。そ れ を ど う い う 風 に 表 現 す る か , っ て い う の は ,な ん か 微 妙 な ん で す け ど ね 。え え ,例 え
ば ,あ の ,宗 教 的 に ,そ の 神 様 と か 仏 様 と か っ て い う よ う な も の も 言 え る だ ろ う し 。 そ の ,そ
れ は ,そ の , あ の , い わ ゆ る も う 少 し , な ん か ,そ の ,地 球 を 動 か す よ う な ,そ う い っ た 力 だ と
か , 言 え る だ ろ う し 。 で も ,気 持 ち の ,内 的 に は ,そ う い う こ と を 見 さ せ る 自 分 の 中 に あ る ,
な ん か ,う ん ,さ あ ,ま た ,新 し い 年 度 を や っ て い く か ,と い う 気 持 ち を 起 こ さ せ る ,自 分 自 身
の な ん か ,内 に あ る よ う な も の を , な ん か , あ の ,現 実 の 四 季 と か じ ゃ な く て , こ う い う も の
を見させる。あの自分の感覚の奥にあるものみたいな。そういうものもあるしって。で,
そ う す る と ,な ん か 表 現 し が た い な っ て い う か( B 氏 調 査 ,7-全 体 的 感 想 )。こ の 十 字 形 の 部
分 は ,神 様 や 仏 様 と い う よ う な 宗 教 的 な も の と も , 地 球 を 動 か す よ う な 力 と も 言 え る し , 自
分 の 感 覚 の 奥 に あ る そ う い う も の を 見 さ せ る 力 ,新 し い 年 度 に 向 か う 気 持 ち を 引 き 起 こ す
内にあるものという表現しがたいものであると語った。
本 具 体 例 で は , a.砂 箱 が 4 つ の 区 画 に 分 け ら れ た 構 成 ,中 央 部 の 十 字 形 の 構 成 に ,つ な が
り が あ り つ つ も ,4 つ の 区 切 り , 非 連 続 と 連 続 , 区 分 が あ る が 繋 が り が あ る 感 じ と い う 通 常
は相矛盾する特性が喚起された。4 つの区画にはそれぞれの季節の人々の様子や自然など
地 上 の 四 季 が 表 現 さ れ た 。 十 字 形 は 中 心 ・ 深 部 ( B 氏 内 省 ,7-5,制 作 ・ 意 味 ) に あ る 根 源 的
な も の( B 氏 内 省 ,7-5,制 作 ・ 感 覚 )で あ っ た 。B 氏 に は ,地 上 の 世 界 と 深 部 に あ る 根 源 的 な
- 92 -
も の は ,そ れ ぞ れ 別 の 世 界 ,非 連 続 な も の で あ る と 同 時 に 繋 が り が あ る 世 界 や 存 在 で あ る と
感じられたのだと理解できる。
ま た ,b . 十 字 形 の 部 分 は , 神 様 や 仏 様 と い う よ う な 宗 教 的 な も の と も , 地 球 を 動 か す よ う
な 力 と も 言 え る し ,自 分 の 感 覚 の 奥 に あ る そ う い う も の を 見 さ せ る 力 ,新 し い 年 度 に 向 か う
気持ちを引き起こす内にあるものという多義的な表現であった。
B 氏は, 4 つの区画に分けられた構成と中央部の十字形の構成やその構成についての語
り や 内 省 を 通 し て ,こ れ ら の 構 成 の 自 分 に と っ て の 意 味 に つ い て 気 づ き を 深 め て い っ た と
理解できる。
◆ 具 体 例 56 と 57 で は ,一 つ の 構 成 に 多 重 の 意 味 が 含 ま れ て い た こ と が 見 い 出 さ れ た 。こ
れ ら の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 は ,イ メ ー ジ の 集 約 性 と 考 え る こ と が で き る 。あ る い は , 複
数 の 内 的 プ ロ セ ス を 箱 庭 制 作 者 が 構 成 に 付 与 し た り ,構 成 か ら 複 数 の 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起
さ れ た と 理 解 す る こ と も 可 能 で あ る 。こ の よ う な 多 義 的 な 構 成 や そ の 語 り・内 省 に よ っ て ,
箱庭制作者は自己理解を深めることができる。
(2)構 成 に 表 現 さ れ た 箱 庭 制 作 者 の 存 在 の 多 面 性 の 結 果 お よ び 考 察
前 項 の ◆ 具 体 例 56 と 57 は ,構 成 の 意 味 が 多 義 的 で あ る こ と に つ い て の 主 観 的 体 験 の 語 り
や 記 述 で あ っ た 。そ れ に 対 し て ,本 項 の 具 体 例 は , 構 成 に 表 現 さ れ た 箱 庭 制 作 者 の 存 在 の 多
面 性 に つ い て の 語 り や 記 述 で あ る と 捉 え ら れ た 。こ の 多 面 性 も ,イ メ ー ジ の 集 約 性 に 関 す る
事 象 で あ り ,一 種 の 多 義 性 と 言 え る が ,前 項 の 具 体 例 と は 異 な る 部 分 も あ る た め ,別 に 考 察 す
る 。 前 項 に は ,例 え ば , A 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で の ,鳥 居 の 構 成 の 意 味 の 多 義 性 や ,B 氏 第
7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 十 字 架 状 の 部 分 に 関 す る ,非 連 続 と 連 続( B 氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,
自 発 ・ 感 覚 ) ,区 分 が あ る が 繋 が り が あ る 感 じ ( B 氏 内 省 ,7-7,自 発 ・ 感 覚 ) が あ っ た 。 こ
れ ら は ,直 接 的 に は ,自 己 イ メ ー ジ に 関 す る 多 義 性 で は な い 。 そ の た め ,前 項 の 具 体 例 と 本 項
の 具 体 例 で は 異 な る 側 面 が あ る ,と 考 え た 。 前 項 の ◆ 具 体 例 57 に は ,神 様 や 仏 様 ,地 球 を 動
か す よ う な 力 ,自 分 の 感 覚 の 奥 に あ る そ う い う も の を 見 さ せ る 力 ,新 し い 年 度 に 向 か う 気 持
ちを引き起こす内にあるものという自己を超えたものと自分の特性が集約する多義性があ
っ た 。◆ 具 体 例 57 の 場 合 ,本 項 と の 類 似 性 が あ る 。し か し ,本 項 の 具 体 例 は 箱 庭 制 作 者 と い
う 人 間 存 在 の 多 面 性 (◆ 具 体 例 58 の 内 面 性 と 現 実 存 在 ,◆ 具 体 例 59 の 個 人 と し て の 生 と 歴
史 性 )に 焦 点 化 し た 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 で あ り ,自 分 以 外 の 存 在 ・ 力 と 自 己 の 多 義 性 と
は ,異 な る 側 面 を も つ と 考 え た 。
◆ 具 体 例 58: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,B 氏 は 左 周 り に 空 中 に 円 を 描 き な が ら ,こ
う い う 世 界 が 自 分 の 営 み の 中 に 回 っ て い る( B 氏 調 査 ,1-全 体 的 感 想 )と 語 っ た 。こ の 会 話
内 容 に 関 し て 内 省 報 告 に 回 っ て い る 世 界 ,移 り 変 わ っ て い る 世 界 と 記 さ れ た 。そ の 構 成 や 語
り に つ い て , B 氏 は 内 省 報 告 に 動 き の あ る 中 に 自 分 も い る 気 が す る ( B 氏 内 省 ,1-全 体 的 感
想 ,調 査 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 そ し て ,第 1 回 ふ り か え り 面 接 で は ,「回 っ て い る 世 界 ,移 り 変
わ っ て い る 世 界 」 の 話 の 中 で ,[ こ の 動 き の 中 に ,例 え ば ,そ れ は 私 自 身 の 内 面 の 中 で ,そ う い
う 風 に ,自 分 自 身 が 生 き て い る っ て い う 実 感 を も っ て い る っ て い う 言 い 方 も で き る し ,私 自
身 が ,そ の ,こ の 目 を 通 し て ,見 て る ,そ う い う 空 間 の 中 に ,自 分 も 生 き て る っ て い う か 。 そ う
い う 両 面 含 め て ,こ の 動 き の ,回 っ て る ,巡 っ て る っ て い う ( 不 明 ) 中 に 自 分 が い る ん だ っ て
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い う ,そ ん な 気 が す る っ て い う こ と ]と 述 べ た 。つ ま り ,作 品 に 表 現 さ れ た「 回 っ て い る 世 界 ,
移 り 変 わ っ て い る 世 界 」は B 氏 の 内 面 世 界 で あ る と 同 時 に ,外 的 世 界 の 中 で 生 き て い る 自 分
で も あ り ,こ の 構 成 は B 氏 の 内 面 と 現 実 存 在 と の 両 面 が 表 現 さ れ て い る 。
◆ 具 体 例 59: B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,B 氏 は ,島 の 中 央 に 樹 木 や 鳥 の 巣 を 置 き ,周 辺 部 に も 樹 木 を 置
い た 。ま た ,島 の 左 側 に 石 仏 を ,埴 輪 を 島 中 央 の 上 の 部 分 に 埋 も れ さ せ た 。そ し て ,自 発 的 説
明 過 程 で 樹 木 や 鳥 の 巣 は 再 生 と い う イ メ ー ジ が あ る こ と ,石 仏 や 埴 輪 は 人 が 住 ん で い た 痕
跡 ,遺 跡 に 近 い よ う な も の で あ る と ,語 っ た 。 調 査 的 説 明 過 程 で ,筆 者 が ,再 生 す る と い う こ
と に つ い て の 連 想 を 尋 ね る と ,B 氏 は 最 近 の 生 活 の 中 で 取 り 組 み は じ め た こ と や 気 持 ち の
回 復 に つ い て 述 べ た 。そ の 後 ,筆 者 が こ の 箱 庭 に お け る 再 生 は ど れ く ら い の 年 限 が か か っ て
起 こ っ て き た も の か を 尋 ね た 。す る と ,B 氏 は ,自 分 自 身 で も 矛 盾 す る よ う だ が と 言 い つ つ ,
中央部の再生は感覚的には 1 年と 2 年というわりと短い期間に起こったものであること,
し か し ,人 の 痕 跡 は ,何 十 年 ,何 百 年 前 に 自 分 と は 無 関 係 に 作 ら れ た も の が 風 に 吹 か れ ,波 に
洗 わ れ て 出 て き た も の と い う イ メ ー ジ が あ る と 語 っ た (pp.63-64 ◆ 具 体 例 30 参 照 )。 そ の
よ う な 構 成 や 語 り に つ い て ,内 省 報 告 に ,人 と し て の 自 分 ( B 氏 内 省 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て ,
調 査 ・ 意 味 ) ,人 の 歩 み の 歴 史 ( B 氏 内 省 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 意 味 ) と 記 し た 。 そ
し て ,第 6 回 ふ り か え り 面 接 で は ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 [矛 盾 す る が ,置 い た の は 昔 の も の
で あ る 。 近 代 的 な も の で は な い ]。 [感 覚 的 に は 1 年 と か ,割 合 身 近 な 感 覚 が あ る っ て い う こ
と で 。 ま あ ,片 っ 方 で は 自 分 自 身 の 変 化 の 兆 し か な と か っ て い う こ と だ け ど も ,も う 片 っ 方
で は ,昔 か ら 人 の 営 み は 変 わ ら な い の と ,こ う い う こ と を 繰 り 返 し て き た ん だ ろ う っ て い う 。
(中 略 )人 と し て の 自 分 と か ,人 の 歩 み の 歴 史 っ て い う と こ の 両 方 が ,な ん か ,そ こ に あ る か な
ー っ て ,意 味 と し て ]。 B 氏 は ,こ れ ら の 表 現 に つ い て ,意 欲 が 戻 り つ つ あ る 今 の 自 分 と ,昔 か
ら変わらないより普遍的な意味での人の歩みとの両方が表されていると捉えたのだと理解
で き る 。 つ ま り ,個 人 的 存 在 と し て の 自 分 と ,人 の 歴 史 の 中 に 位 置 づ い て い る 自 分 と の 両 方
の 側 面 が こ の 構 成 に 表 現 さ れ て い る ,と 考 え る こ と が で き る 。 B 氏 は ,こ の 構 成 や そ の 語
り ・ 内 省 を 通 し て ,自 己 の 多 面 性 へ の 理 解 を よ り 深 め る こ と が で き た と 推 測 で き る 。
◆ 具 体 例 58 と 59 に 示 さ れ た 主 観 的 体 験 は ,構 成 に 表 現 さ れ た 箱 庭 制 作 者 の 存 在 の 多 面 性 ,
と 捉 え ら れ る 。 ◆ 具 体 例 58 と 59 で は ,構 成 さ れ た も の は ,箱 庭 制 作 者 の 異 な る 側 面 を 表 現
し て い る 。B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で 構 成 さ れ た「 回 っ て い る 世 界 ,移 り 変 わ っ て い る 世 界 」
(◆ 具 体 例 58)は B 氏 の 内 面 世 界 で あ る と 同 時 に ,外 的 世 界 に 生 き て い る 自 分 で も あ る 存 在
の多面性に関する主観的体験についての記述や語りであった。
B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 再 生 と 人 が 住 ん で い た 痕 跡 の 構 成 に つ い て ,意 欲 が 戻 り つ つ あ
る 今 の 自 分 と ,昔 か ら 変 わ ら な い よ り 普 遍 的 な 意 味 で の 人 の 歩 み と の 両 方 が 表 さ れ て い る
と 捉 え て い た 。 人 は 内 的 世 界 を も ち ,そ こ に 生 き る と 同 時 に ,外 的 世 界 に お い て も 生 き る 存
在 で あ る 。 人 は ,個 人 の 生 を 生 き る と 同 時 に ,歴 史 の 中 に 生 き る 普 遍 性 を も っ た 存 在 で も あ
る 。そ の よ う な 様 々 な 次 元 の 中 で ,人 は 生 き て い る 。Jung (1921 林 訳 1987)は ,「 一 人 だ け
でなく大勢の人々に同時に備わっている・すなわち社会や民族や人類に固有の・あらゆる
心 的 内 容 を 集 合 的 と 呼 ぶ 」 と し て い る 。 そ し て ,「 集 合 的 の 反 対 は 個 性 的 [中 略 ]で あ る 」 と
す る (p.478)。◆ 具 体 例 59 に は ,人 の 心 の 個 性 的 特 性 と 集 合 的 特 性 の 両 者 が ,構 成 の 中 に 表 現
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さ れ て い る ,と 理 解 で き る 。◆ 具 体 例 59 は ,箱 庭 制 作 者 が 自 分 の 心 を 個 性 的 特 性 と 集 合 的 特
性とを関連させて理解しようとする主観的体験の記述や語りと解釈できる。
上 記 2 具 体 例 で , B 氏 は ,自 分 の 多 面 性 (◆ 具 体 例 58 の 内 面 性 と 現 実 存 在 ,◆ 具 体 例 59 の
個 人 と し て の 生 と 歴 史 性 )へ の 気 づ き を え た と 考 え ら れ る 。[構 成 に よ る 表 現 の 多 義 性 ]に 関
す る 構 成 や そ の 構 成 に つ い て の 語 り や 内 省 を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己 へ の 理 解 を 深 化 さ
せることができると捉えられる。
2)[他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察
[他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 ]は ,「あ る 領 域 の 構 成 が ,他 の 領 域 に 影 響 を 及 ぼ す 内 的 プ ロ セ
ス 」と 定 義 さ れ た 。 以 下 に そ の 具 体 例 を 示 す 。 本 概 念 に は ,(1)先 に 作 ら れ た 構 成 が そ の 後 の
構 成 に 影 響 を 与 え る 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て の 内 的 プ ロ セ ス ,(2)あ る 構 成 が 先 に 作 ら れ た 構
成の感覚や意味に影響を与える内的プロセスが見いだされた。
(1)先 に 作 ら れ た 構 成 が そ の 後 の 構 成 に 影 響 を 与 え る 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て の 内 的 プ ロ
セスの結果および考察
以 下 に 示 す 具 体 例 は , 一 つ の 領 域 の 構 成 が ,後 に 作 ら れ た 他 の 領 域 の 構 成 に 影 響 を 与 え ,
作品が形作られていく箱庭制作過程についての内的プロセスと考えられる。
◆ 具 体 例 60: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,中 央 の 砂 を 掘 り ,底 の 青 の 色 を 出 し て ,
泉 (水 源 )を 創 っ た 。制 作 過 程 2 に つ い て ,内 省 報 告 に は 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。生 命 の 源( B
氏 内 省 ,1-2,制 作・意 図 ),深 部 か ら こ ん こ ん と 湧 き で る ,つ き な い 泉( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・
感 覚 ) ,神 ,生 命 ( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 連 想 ) 。制 作 過 程 4 で 陶 器 の 魚 ,ブ タ 1 個 ,子 ブ タ 4
個 ,牛 を 選 び ,制 作 過 程 5 で そ れ ら を 泉 の 中 や 周 り に 置 い た 。
続 く 制 作 過 程 6 で , B 氏 は「
, 水 の 恵 み を 受 け て 育 つ 木 々 を 探 し ,水 源 周 り 」に 置 い た (「
」
内 は ,内 省 報 告 に 記 さ れ た ,当 制 作 過 程 の 内 容 を 示 し た B 氏 自 身 の 記 述 )。制 作 過 程 7 で ,「 木
が 足 り な い と 感 じ ら れ た の で 追 加 」 し た 。 制 作 過 程 6 に つ い て ,内 省 報 告 に は ,泉 の 生 命 が
周 辺 に 広 が る( B 氏 内 省 ,1-6,制 作・意 図 ),生 命 が 広 が り 及 ぶ( B 氏 内 省 ,1-6,制 作・感 覚 ),
育 み ( B 氏 内 省 ,1-6,制 作 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。 そ の 後 B 氏 は ,生 活 感 の あ る も の が ほ し い
と 思 い (制 作 過 程 8),棚 に 家 の ミ ニ チ ュ ア を 見 つ け (制 作 過 程 9),左 上 の 領 域 で ,針 葉 樹 の 位 置
を 少 し 上 に 移 動 し ,そ の 横 に ,わ ら ぶ き 屋 根 の 家 を 置 い た (制 作 過 程 10)。 そ れ ら の 箱 庭 制 作
過 程 つ い て ,第 1 回 ふ り か え り 面 接 で 以 下 の よ う に 説 明 し た 。[あ る 意 味 ,世 界 っ て ,な ん て い
う で し ょ う 。 広 が っ て い く っ て い う と こ ろ か ら ,少 し ,な ん て い う ん で し ょ う か 。 カ ル チ ャ
ー っ て い う ん で し ょ う か 。や や 自 然 発 生 的 に ,だ ー ー っ て 広 が っ て い く っ て い う と こ ろ か ら ,
人 の 営 み っ て い う よ う な と こ ろ の 部 分 が テ ー マ と し て ,自 分 自 身 ,そ の ,思 う よ う に な っ て き
た 。生 活 感 の あ る も の が ほ し い と い う こ と を 思 い 始 め て ,家 の 模 型 を 置 い て 。家 っ て い う こ
と の 中 に は ,そ こ に 生 活 し て い る 人 が い て っ て い う こ と で ],[木 が 増 え て っ て ,で ,そ こ か ら ,
急 に ,ほ ん と に 生 活 感 と こ の 方 に い っ て し ま っ た ん で す ね ,つ ま り ジ ャ ン グ ル を 作 っ て い く
っ て い う こ と じ ゃ な く ,い く っ て い う こ と じ ゃ な く 。 そ こ が こ う や っ て で き た 時 に ,次 は な
ん か そ う い っ た も の が ,置 き た い な と い う こ と で 。 そ れ が な ん だ ろ う と い う こ と で ,家 の 模
型 と か ,民 家 っ て と こ か ら ,そ れ が ,よ く 適 合 し た と い う か ]。
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こ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,説 明 過 程 ,内 省 報 告 ,ふ り か え り 面 接 に お け る 主 観 的 体
験 を 総 合 的 に 記 す 。 B 氏 は ,泉 が 生 命 の 源 で あ り ,豊 か で ,安 心 や 平 和 や 憩 い を も た ら し ,大
事 で ,中 心 に く る も の で あ る と 感 じ ,魚 や 動 物 を 置 く こ と で ,そ れ を 表 現 し た 。 そ し て ,泉 の
生 命 が 周 辺 に 広 が り ,木 々 が 育 ま れ る 様 を 表 現 し た 。 さ ら に 木 々 が 増 え た こ と か ら , 生 活 感
が ほ し い と 思 い や ,文 化 や 人 の 営 み と い う テ ー マ が 喚 起 さ れ ,そ の イ メ ー ジ に 基 づ い て 構 成
していった。
◆ 具 体 例 60 で は ,先 に 作 ら れ た 構 成 が 後 の 構 成 に 影 響 を 与 え る 主 観 的 体 験 が 示 さ れ て い
る 。 こ の よ う に 箱 庭 制 作 過 程 で は ,一 つ の 構 成 が 後 の 構 成 に 影 響 を 与 え ,連 動 し ,連 鎖 的 に 構
成 さ れ る 場 合 が あ る 。河 合 隼 雄 (1969)は ,「 ク ラ イ エ ン ト が そ の 内 的 な も の を ま と ま っ た も
の と し て 表 現 し に く い と き は 箱 庭 が 作 れ な い 」 と し て い る (p.21)。 内 的 な イ メ ー ジ を ま と
ま っ た も の と し て ,表 現 し ,作 品 と し て 作 り あ げ て い く た め に は 様 々 な 要 因 が 関 与 し て い る
だ ろ う 。 そ の 多 様 な 要 因 の 一 つ と し て ,こ こ で 取 り 上 げ て い る ,構 成 の 連 動 性 ,連 鎖 す る 構 成
と い う 要 因 が あ る ,と 考 え る こ と が で き よ う 。 一 つ の 構 成 に 刺 激 さ れ ,イ メ ー ジ が 浮 か び ,そ
れ を 構 成 と し て 砂 箱 内 に 表 現 す る と い う 過 程 が 連 動 す る こ と に よ っ て ,構 成 に 結 び つ き が
生 ま れ る 。 そ の よ う な 箱 庭 制 作 過 程 を 経 る こ と に よ っ て ,構 成 さ れ た も の が ,一 つ の 作 品 と
し て 表 現 さ れ る 場 合 が あ る ,と 考 え る こ と が で き よ う 。
こ の よ う に 複 数 の 制 作 過 程 が 連 動 し て ,構 成 に 結 び つ き が 生 ま れ る こ と に よ っ て ,箱 庭 制
作 面 接 に ,ス ト ー リ ー が 生 ま れ る と 考 え る こ と も で き る 。 河 合 隼 雄 (1991)は ,箱 庭 の 作 品 に
つ い て ,「一 瞬 に 見 ら れ る 一 枚 の ス ラ イ ド も ,そ れ を 時 間 的 に 展 開 す る と ,ひ と つ の 物 語 と し
て 表 現 さ れ る 可 能 性 を も っ て い る 」と 述 べ て い る (p.136)。 箱 庭 制 作 で 生 ま れ る ス ト ー リ ー
は箱庭制作者の内界の表現の一つの形である。
◆ 具 体 例 60 で は ,あ る 構 成 に 刺 激 さ れ ,他 の 領 域 と 関 連 し た ス ト ー リ ー が 生 ま れ ,そ の こ
と に よ っ て ,構 成 が 一 つ の ま と ま っ た も の と し て 構 成 さ れ て い く 内 的 プ ロ セ ス に つ い て の
主 観 的 体 験 の 記 述 や 語 り と 理 解 す る こ と が で き る 。複 数 の 制 作 過 程 が 連 動 し て ,構 成 に 結 び
つ き が 生 ま れ ,箱 庭 制 作 面 接 に ス ト ー リ ー が 生 ま れ る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己 の 内
的 世 界 を ま と ま っ た も の と し て 表 現 で き る と と も に ,そ の 構 成 は 自 分 の 物 語 が 表 現 さ れ た
も の と な る 。そ の よ う に し て 作 ら れ た 箱 庭 作 品 は ,◆ 具 体 例 60 の 泉 の 生 命 が 周 辺 に 広 が り ,
木 々 が 育 ま れ ,さ ら に は 文 化 や 人 の 営 み が 作 ら れ る と い う 構 成 の 連 動 に つ い て ,B 氏 が [よ
く 適 合 し た と い う か ]と 述 べ て い る よ う に ,箱 庭 制 作 者 の 内 界 の 表 現 と し て ,ぴ っ た り で ,豊
か な も の と な り う る 。 内 界 に ぴ っ た り で 豊 か な 表 現 を 可 能 に す る [他 の 領 域 の 構 成 へ の 影
響 ]は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 の 促 進 に 寄 与 す る と 考 え ら れ る 。
(2)あ る 構 成 が 先 に 作 ら れ た 構 成 の 感 覚 や 意 味 に 影 響 を 与 え る 内 的 プ ロ セ ス の 結 果 お よ
び考察
本 項 の 具 体 例 は ,あ る 構 成 が 先 に 作 ら れ た 構 成 の 感 覚 や 意 味 に 影 響 を 与 え る 内 的 プ ロ セ
ス で あ る 。 こ の 具 体 例 で は ,先 に 作 ら れ た 構 成 に 変 更 は 加 え ら れ ず ,内 的 な 感 覚 や 意 味 に 影
響を与えている。
◆ 具 体 例 61: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 13
A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 13 で ,A 氏 は 白 い 人 形 の 正 面 ,砂 箱 の 手 前 中 央 に
赤 い 鳥 居 を 置 い た 。そ の 制 作 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で A 氏 は ,以 下 の よ う に 語 っ た 。こ
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れ が な い と ,あ の ,( 間 3 秒 )う ん( 間 40 秒 )う ん ,こ れ が な い と ,こ う お 守 り が な い と い う
か ,な ん て 言 う ん で し ょ う ,ど う や っ て 言 っ た ら い い ん だ ろ 。‘ 玩 具 を 見 つ め て ,手 で 鳥 居 を
隠 し た り し な が ら 考 え て い る ’( 間 45 秒 ) 箱 庭 と し て こ れ が な い と こ う ,こ こ の 世 界 に ,命
っ て い う 意 味 を あ げ ら れ な い 感 じ が し て < ふ ん > 命 っ て い う( 間 18 秒 )
( A 氏 調 査 ,8 -13)。
そ し て , 内 省 報 告 に , 鳥 居 が な い 箱 庭 は , 殺 伐 と し て , 荒 涼 と し て い る ( A 氏 内 省 ,8-13, 調
査 ・ 意 図 ) ,赤 い 鳥 居 を 置 い た こ と で ,箱 庭 の 中 の 生 き 物 達 が い の ち を 持 っ た も の に 変 わ っ
た 気 が し た ( A 氏 内 省 ,8-13,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 こ れ は ,後 の 構 成 が そ れ ま で の 構 成 の
感 覚 や 意 味 に 変 化 を 引 き 起 こ す 可 能 性 に つ い て の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 で あ る ,と 捉 え
ら れ る 。 こ の 具 体 例 も 一 種 の 構 成 の 連 動 性 と 考 え ら れ る が ,こ の 具 体 例 は ,先 に 作 ら れ た 構
成 に 変 更 は 加 え ら れ ず ,内 的 な 感 覚 や 意 味 に 影 響 を 与 え て い る 点 が 特 徴 的 で あ る 。
ま た ,こ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て ,A 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 述 べ て い る 。 最
後 に こ う 鳥 居 と い う か ,こ う い う の を 置 い た ん で す ね 。あ の ,丁 度 こ う ,こ ち ら 側 が 人 を 置 か
ず に あ い て い た の で ,な に か こ う ,あ ,あ い て る な ,他 に も う 最 終 的 に 置 く 物 な い か し ら と 思
っ て ,< ふ ん ふ ん > 箱 庭 と 玩 具 を 見 回 し て い た と き に ,何 か こ こ が あ い て い る な 。 で も な ん
な ん だ ろ う ,空 け て お い て も い い し な と 思 っ て い た ら ば こ れ が 目 に 入 っ て < な る ほ ど > う
ん ,あ の ,あ ん ま り ,こ う ,い い 意 味 も 持 っ て な い と い う か ね ,こ う ,現 実 と ,そ の ,い の ち が な
く な っ て か ら の 世 界 の ,境 界 線 の ,え ー も の だ と 思 う の で 。こ の 説 明 に よ る と ,箱 庭 制 作 過 程
の 時 点 で は ,砂 箱 の 手 前 が 空 い て い る の で , 鳥 居 が 目 に 入 っ て 置 い た こ と と ,鳥 居 は 現 実 と
命がなくなってからの世界の境界線というイメージを A 氏がもっていたことが示されてい
る 。 手 前 の 空 白 部 分 に 鳥 居 が 置 か れ る 箱 庭 制 作 過 程 は ,意 味 の 認 知 は 伴 わ な い が ,ぴ っ た り
だ と 感 じ る こ と が で き る 直 観 的 な 意 識 に よ っ て 構 成 さ れ た ,と 考 え る こ と が で き る 。こ の 具
体 例 の 場 合 ,境 界 線 と い う 意 味 の 認 知 は 伴 っ て い る が ,鳥 居 を 置 く こ と で 箱 庭 の 中 の 生 き 物
が 命 を も っ た も の に 変 化 し た こ と に つ い て の 認 知 は 伴 っ て い な い 。そ の 後 ,調 査 的 説 明 過 程
で , 手 で 鳥 居 を 隠 し た り , 手 を 除 け て 玩 具 を 見 つ め た り し な が ら 考 え ,45 秒 の 沈 黙 後 ,箱 庭
と し て こ れ が な い と こ う ,こ こ の 世 界 に ,命 っ て い う 意 味 を あ げ ら れ な い 感 じ が し て < ふ ん
> 命 っ て い う と い う 語 り が 生 ま れ た 。鳥 居 が あ る こ と で ,砂 箱 中 央 の 世 界 に 命 と い う 意 味 が
与 え ら れ た こ と が ,こ の 時 点 で 初 め て 明 瞭 に な っ た 。そ し て ,内 省 報 告 で は ,赤 い 鳥 居 を 置 い
た こ と で ,箱 庭 の 中 の 生 き 物 達 が い の ち を 持 っ た も の に 変 わ っ た 気 が し た と 記 さ れ た 。こ の
よ う に ,鳥 居 は ,砂 箱 中 央 部 分 の 構 成 に 内 的 感 覚 や 意 味 の 変 化 を も た ら そ う と し て , 意 図 的
に な さ れ た 構 成 で は な く ,構 成 後 ,調 査 的 説 明 過 程 で 語 る 中 で , 砂 箱 中 央 に 置 か れ た 人 や 動
物 に つ い て の 内 的 感 覚 や 意 味 に 変 化 が 生 ま れ た ,と 捉 え ら れ る 。 こ の 点 も ◆ 具 体 例 61 の 特
徴的な点である。
こ の よ う に A 氏 の 構 成 へ の 理 解 は ,調 査 的 説 明 過 程 で 構 成 の 意 味 を 吟 味 す る こ と を 通 し
て 変 化 し て い る 。こ の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 は ,河 合 隼 雄 (1991)が「 箱 庭 は イ メ ー ジ に『 一
応 の お さ ま り 』を つ け て 表 現 す る の で ,言 う な ら ば ,そ の 作 品 そ の も の に 作 っ た 人 の『 解 釈 』
が 入 っ て い る の で あ る 」と い う 言 及 と 関 連 が あ る の か も し れ な い (p.130)。し か し ,続 く「 作
者 は 作 っ て ゆ き な が ら ,自 分 な り に 『 こ れ で は お さ ま り が つ か な い 』 な ど と 考 え て ,適 当 に
ア イ デ ア を 変 更 し た り し て ゆ く 」 と い う 点 は , ◆ 具 体 例 61 と 異 な る 部 分 で あ る ( 河 合 隼
雄 ,1991,p.130) 。 箱 庭 制 作 面 接 に お い て , 作 品 に 箱 庭 制 作 者 の 解 釈 が 入 る と い う 場 合 , 河 合
の 指 摘 に あ る よ う に ,意 図 的 ・能 動 的 に 構 成 を 行 っ て い く 場 合 に 加 え て ,◆ 具 体 例 61 に 示 さ
- 97 -
れ た よ う に 構 成 は 変 更 さ れ ず ,あ る 構 成 が 先 に 作 ら れ た 構 成 の 感 覚 や 意 味 に 影 響 を 与 え る
場 合 も あ る ,と 考 え て よ い の で は な い だ ろ う か 。
ある構成が先に作られた構成の感覚や意味に影響を与える内的プロセスをどのように理
解すればよいだろうか?
a.箱 庭 制 作 過 程 で は 構 成 の 内 的 プ ロ セ ス は ,明 瞭 に 認 知 さ れ て い な か っ た 。し か し ,調 査 的
説 明 過 程 で , 手 で 鳥 居 を 隠 し た り , 手 を 除 け て 玩 具 を 見 つ め た り し な が ら ,こ の 構 成 を 巡 る
主 観 的 体 験 を 照 合 す る こ と を 通 し て ,そ の 内 的 感 覚 や 意 味 が 明 瞭 に な っ た と 考 え る こ と が
で き よ う 。 そ う で あ る な ら ば ,箱 庭 制 作 者 自 身 ,自 分 が 作 品 に 与 え た 解 釈 は 箱 庭 制 作 過 程 で
は , 意 識 化 さ れ て い な い が ,潜 在 的 に な さ れ た 解 釈 に よ っ て ,作 品 に お さ ま り が つ く と い う
場 合 も あ る こ と が 示 さ れ た ,と 考 え ら れ る 。
あ る い は ,b .説 明 過 程 で 構 成 に つ い て 丁 寧 に 吟 味 す る こ と を 通 し て ,構 成 の 自 分 に と っ て
の 意 味 が 喚 起 さ れ ,解 釈 が 入 っ た こ と 考 え る こ と も で き よ う 。
こ の ど ち ら の 場 合 で あ っ て も ,あ る 構 成 が 先 に 作 ら れ た 構 成 の 感 覚 や 意 味 に 影 響 を 与 え
る 内 的 プ ロ セ ス に よ っ て ,鳥 居 と 砂 箱 中 央 部 分 の 構 成 と の 関 連 に つ い て ,箱 庭 制 作 過 程 で は
気 づ い て い な か っ た 意 味 に A 氏 が 気 づ い た と い う こ と は で き る 。あ る 構 成 が 先 に 作 ら れ た
構 成 の 感 覚 や 意 味 に 影 響 を 与 え る 内 的 プ ロ セ ス を 伴 う [他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 ]は ,箱 庭
制 作 者 が 構 成 の も つ 自 分 に と っ て の 意 味 に 気 づ き ,そ の よ う な 構 成 を 行 っ た 自 己 へ の 理 解
を深めることに寄与すると考えられる。
3)[ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ な い 領 域 に つ い て の 意 図 や 感 覚 ]の 結 果 お よ び 考 察
[ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ な い 領 域 に つ い て の 意 図 や 感 覚 ]は ,「ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ な い 領 域
に つ い て の 意 図 や 感 覚 な ど の 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。 以 下 に そ の 具 体 例 を 示 す 。
◆ 具 体 例 62: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 17
A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 17 で ,A 氏 は 以 下 の よ う な 行 為 を 行 っ た 。
33 分 1 秒 ∼
棚 か ら 砂 箱 の 前 に 戻 り ,砂 箱 を 眺 め る 。
33 分 7 秒 ∼
砂箱左手前隅に低く砂を盛る。
33 分 24 秒 ∼
砂を盛った部分を見つめる。
33 分 37 秒 ∼
盛 っ た 砂 を な ら し ,平 ら に 戻 す 。
34 分 0 秒 ∼ 34 分 8 秒
構 成 を 確 認 し ,終 了 を 宣 言 す る 。
そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,A 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で ,こ の へ ん を も う ち ょ っ と ,こ の あ
た り で な ん か こ う ,平 坦 の ま ま に し て お く の も な ん か こ う 。も っ と 何 か あ る ん じ ゃ な い の と
思 っ た ん だ け ど 。 で も ま あ ,何 も な い 方 が ,今 は い い な ,ち ょ っ と 静 か に ,静 か に し て お き ま
し た ( A 氏 自 発 ,1-17)。 そ し て ,内 省 報 告 に ,以 下 の よ う に 記 し た 。 「静 か に し て 」お く と い
う の が ,そ の 時 の 私 の 心 の 状 態 を よ く 表 現 し て い る よ う な 気 が す る 。掘 り 起 こ そ う と 思 え ば
も っ と 掘 れ る か も 知 れ な い ,き れ い に 飾 ろ う と 思 え ば 飾 れ る か も し れ な い け れ ど ,触 れ な い
で お く こ と を 選 択 し た( A 氏 内 省 ,1-17,自 発 ・ 感 覚 ),「何 も な い 」の で は な く ,今 は 「静 か に
し て お い た 」だ け 。 多 分 ま だ 何 か あ る の だ ろ う け ど ,今 は 静 か に し て お き た か っ た ( A 氏 内
省 ,1-17,自 発 ・ 意 味 )。 砂 箱 左 下 隅 で ,砂 を 低 く 盛 っ た が ,そ の 後 平 ら に 戻 し ,何 も 置 か ず に
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終 え た と い う 行 為 は ,自 分 の 内 的 感 覚 と 照 合 し た 結 果 の 選 択 で あ る と 捉 え ら れ る 。そ こ の 部
分 を 掘 り 起 こ し た り ,き れ い に 飾 ろ う と す れ ば ,で き な く は な い が ,そ れ は そ の 時 の A 氏 に
は ,ぴ っ た り し な か っ た 。 む し ろ ,今 は 静 か に し て お く こ と を 積 極 的 に 選 択 し た 。 初 回 で あ
る 今 回 は ,そ の 空 間 を 静 か に し て お く と 同 時 に ,自 分 の 内 面 を 無 理 に 掘 り 起 こ し た り ,飾 っ
た り す る こ と な く ,多 分 ま だ 何 か あ る の だ ろ う と 感 じ ら れ る 内 的 プ ロ セ ス が ,今 後 自 然 な 形
で 表 現 さ れ る で あ ろ う ,そ の 時 を 待 っ た の だ と 解 釈 で き る 。そ の 時 の 私 の 心 の 状 態 を よ く 表
現 し て い る よ う な 気 が す る と あ る よ う に , A 氏 は こ の 構 成 と そ の 語 り や 内 省 を 通 し て ,自
己の内的プロセスへの理解を深めることができたと考えられる。
◆ 具 体 例 63: A 氏 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
A 氏 は 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た (写 真 18)。 何 が ぴ
ん と 来 る だ ろ う と 一 生 懸 命 探 し て 探 し て < う ん > で ,こ う , 確 認 し て た ん で す よ ね 。 あ の ,
作 る 世 界 が 割 り と こ う ,ア イ テ ム が 少 な い と い う か ,さ み し い 印 象 が ち ょ っ と ど う し て も あ
る の で ,ス ペ ー ス が 一 杯 あ っ て ,だ か ら ,入 れ て あ げ る と し た ら 何 が 入 る か な ー っ て , ず ー っ
と , は い る も の を ,も , 求 め て た わ け じ ゃ な い け ど ,確 認 し て た で す ね ,あ る か な ー っ て < な
る ほ ど > で も ぉ ,今 日 は ど れ も 響 か な い ,動 物 な ん か も 響 か な い し ,貝 殻 な ん か も ち ょ っ と
違 う し ,宗 教 的 な も の も ,見 た ん で す け ど , 置 か な く て も 大 丈 夫 だ っ た の で ,い い で す と 思
っ て ,は い ,い ま し た ね ( A 氏 調 査 ,10-複 数 過 程 に 亘 っ て )。 ス ペ ー ス が い っ ぱ い あ り ,さ み
し い 印 象 が あ っ た た め ,砂 箱 に 何 か を 入 れ る と し た ら 何 が 入 る か を A 氏 は 確 認 し た 。 そ の
結 果 ,ど の ミ ニ チ ュ ア も 心 に 響 か ず , こ れ 以 上 置 か な く て も 大 丈 夫 と 感 じ た た め , 置 か な い
こ と を 選 択 し た ,と 捉 え る こ と が で き る 。
A 氏 は ,第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で 私 の 中 の 奥 ま っ た と こ ろ の を 作 っ た
( A 氏 調 査 ,10-全 体 的 感 想 )と 語 っ た 。自 分 の 奥 ま っ た と こ ろ の 構 成 で あ り ,か つ 最 終 回 で
あ っ た た め ,A 氏 は 丁 寧 な
照 合 作 業 を 行 っ た ,と 考 え
ることができる。その照合
作 業 の 上 で ,敢 え て こ れ 以
上はミニチュアを置かない
選択を A 氏がしたのだと推
測できる。A 氏はこの構成
と そ の 語 り を 通 し て ,自 己
の奥まったところのあり様
と箱庭制作面接を終えてい
く今の自分の内的状況への
理解を深めることができた
と考えられる。
◆ 具 体 例 62 と 63 で A 氏
は自分の内的感覚と照合し
た 結 果 ,こ れ 以 上 置 か な い
ことを積極的に選択してい
写 真 18
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A 氏 第 10 回 作 品
る ,と 捉 え ら れ る 。◆ 具 体 例 62 と 63 で は 共 に ,砂 箱 に 空 白 が あ る が ,敢 え て ミ ニ チ ュ ア を 置
か ず に 終 え て い る 。 河 合 隼 雄 (1984) は , 「隠 す こ と も 高 次 の 表 現 」 と い う 節 の 中 で ,「 完 全 に
空 白 部 分 を つ く る と い う の も ,本 当 は そ こ に な に か あ る は ず な ん で す が ,そ れ を 何 も 置 か な
い こ と に よ っ て 表 現 し て い る わ け で す よ ね 」と 述 べ て い る (河 合・中 村
1984,p.94) 。ま た ,
河 合 隼 雄 (1982)は ,昔 話 「 見 る な の 座 敷 」 の 考 察 の 中 で ,「 何 も 起 こ ら な か っ た と は ,つ ま り ,
英語の表現
Nothing has happened を そ の ま ま 借 り て ,『 無 』 が 生 じ た の だ と 言 い か え ら
れ な い だ ろ う か 」 と 述 べ て い る (p.29)。 引 用 し た 河 合 の 二 つ の 言 及 を 重 ね て 考 え た と き ,箱
庭 制 作 面 接 に お い て ,何 も 置 か れ な い 領 域 が あ っ た と き ,一 つ の 可 能 性 と し て ,そ の 領 域 に 無
が 生 じ た ,と 考 え て も よ い 場 合 が あ る の で は な い だ ろ う か 。
ま た , 岡 田 (1993 ) は 「 箱 庭 療 法 で は 余 韻 を 大 切 に す る 」 と 述 べ て い る 。 そ し て ,「 筆 者 は
余 韻 と い う こ と で ,『 こ の よ う に し か ,作 品 が で き な か っ た が ,こ の 作 品 が 与 え る 意 味 や 解 釈
や 印 象 の ま だ 底 に は ,何 か が 響 い て い る 』こ と を 感 じ る 必 要 性 を 強 調 し た い 」と 指 摘 し て い
る (p.35-36)。 A 氏 第 1 回 お よ び 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,砂 箱 に 空 白 が あ る が ,敢 え て ミ
ニ チ ュ ア を 置 か ず に ,箱 庭 制 作 過 程 を 終 え て い る 。 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で A 氏 は ,自 分 の 内
面 を 無 理 に 掘 り 起 こ し た り ,飾 っ た り す る こ と な く ,空 間 を 無 の ま ま に し て ,余 韻 を 残 し た ,
と 捉 え る こ と が で き よ う 。そ し て ,今 は 静 か に し て お い た も の が ,時 が き て 自 然 に 孵 化 (イ ン
キ ュ ベ イ シ ョ ン ) す る の を 待 と う と し た , と 捉 え る こ と も で き よ う 。 (Meier,1948 秋 山 訳
1986,p.108,124;秋 山 ,1986,pp.189-190)。第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 は 最 終 回 で あ っ た か ら ,空 白
に ミ ニ チ ュ ア を 置 か な い 選 択 を し て ,箱 庭 制 作 面 接 を 終 了 し た こ と に な る 。 ◆ 具 体 例 62 と
63 に 示 さ れ た も の は ,空 白 と い う 余 韻 を 残 し て ,箱 庭 制 作 過 程 を 終 え る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的
体験と考えることができないだろうか。
◆ 具 体 例 62 と 63 を そ の 領 域 に 無 が 生 じ た と い う 観 点 ,余 韻 の 観 点 か ら 考 察 し て き た 。本
項 の 具 体 例 は ,構 成 す る 際 ,自 分 の 内 的 プ ロ セ ス と 照 合 し て ,あ え て ミ ニ チ ュ ア を 置 か ず に ,
空 間 を 残 そ う と す る 積 極 的 な 選 択 と 考 え ら れ る 。こ の よ う な 積 極 的 な 選 択 に よ っ て , 箱 庭 制
作 者 は 自 己 の 内 的 プ ロ セ ス に ぴ っ た り な 構 成 を 行 う こ と が で き る 。 ◆ 具 体 例 62 と 63 に 示
さ れ た よ う に [ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ な い 領 域 に つ い て の 意 図 や 感 覚 ] は , 自 己 の 内 的 プ ロ セ
ス と 構 成 と の 照 合 作 業 を 経 て な さ れ た 自 己 の 内 的 プ ロ セ ス に ぴ っ た り な 構 成 で あ り ,構 成
や そ の 構 成 に つ い て の 語 り や 内 省 を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 の 促 進 に 寄 与 す る と 考
えられる。
4)[構 成 に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 の 表 現 ]の 結 果 お よ び 考 察
[構 成 に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 の 表 現 ]は ,「あ る 構 成 が ,自 己 イ メ ー
ジ ,自 己 の 心 理 的 状 況 や 特 性 を 表 現 し た も の と な る 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。 以 下 に そ
の具体例を示す。
◆ 具 体 例 64: A 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 3,12 な ど 複 数 過 程 に 亘 っ て
A 氏 は ,第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 3 で , 砂 を 盛 り 上 げ て ,円 錐 状 の 山 か ら な る 島
を 作 っ た 。 そ の 後 ,そ の 島 に 鳥 居 ,亀 (自 己 像 ),鹿 ,イ ン コ ,焚 き 火 ,キ ノ コ ,り ん ご を 置 い て い っ
た 。 島 の 構 成 に つ い て ,A 氏 は ,自 発 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。 島 の ふ ち を わ り と
最 後 の 方 丁 寧 に 整 え た ん で す け ど ,< そ う だ ね > そ れ は ち ょ っ と 意 識 し て や っ て て < ふ ぅ
- 100 -
ん > あ の ぉ ,ま ,こ こ は 私 の 島 な の で 他 の 人 は 登 っ て 来 れ な い ,で す ね 。 (中 略 )と い う と こ
ろ で ち ょ っ と 境 界 を く っ き り さ せ て( A 氏 自 発 ,5-12)。ま た ,島 か ら 感 じ る 厳 し さ や し ん ど
さ に つ い て ,以 下 の よ う な 主 観 的 体 験 の 語 り が あ っ た 。A 氏 は ,自 発 的 説 明 過 程 で 最 近 ,あ の ,
( 間 7 秒 ) よ く 悩 む と い う か ,は は ( 笑 ) (中 略 )し ん ど い な ぁ ,で ,だ け ど だ け ど ,そ の し ん
ど さ は 乗 り 越 え な き ゃ い け な い ら し い と い う こ と も わ か っ て て ,逃 げ ら れ た ら 楽 な ん だ け
ど ,逃 げ ち ゃ い け な い な と い う と こ ろ で ,< ふ ん > そ ,そ れ が こ の 島 に な っ た よ う な 気 が し
ま す ね 。 (中 略 )そ う い う 風 に 思 っ て る 私 全 体 な ん で し ょ う け ど ね ,こ れ は ( A 氏 自 発 ,5-複
数過程に亘って)と語った。
A 氏 は ,こ の 島 を 「私 の 島 」と 捉 え て お り ,様 々 な 思 い を 抱 え て い る 自 分 全 体 が こ の 島 に な
っ た と 考 え て い た 。箱 庭 制 作 面 接 の 自 己 像 に つ い て 検 討 さ れ る 時 ,自 己 イ メ ー ジ が 付 与 さ れ
た ミ ニ チ ュ ア に つ い て 検 討 さ れ る こ と が 少 な く な い 。 し か し ,こ の 具 体 例 で は ,島 と い う 構
成 が ,一 つ の 自 己 イ メ ー ジ と し て 表 現 さ れ て い る 。 こ の 具 体 例 で は ,「私 の 島 」と い う 構 成 に ,
最 近 の 自 分 の 悩 み や し ん ど さ ,そ の し ん ど さ は 乗 り 越 え な い と い け な い ら し い ,逃 げ ら れ た
ら 楽 だ が 逃 げ て は い け な い と い う 風 に 思 っ て い る 自 分 全 体 が 付 与 さ れ た ,と 理 解 で き る 。
「私 の 島 」の 構 成 ,そ の 構 成 に つ い て の 語 り を 通 し て , A 氏 は ,自 己 の 心 理 的 状 況 を 再 確 認 ま
た は 認 識 し た ,と 理 解 で き る 。
A 氏 は , 同 回 の 内 省 報 告 に 反 り 返 っ た 傾 斜 だ け で は な く て ,島 の あ い て い る ス ペ ー ス 全
体 が ,私 に 問 い 掛 け て く る 。 突 き 詰 め て く る 。 私 を 試 そ う と し て い る 。 そ ん な イ メ ー ジ ( A
氏 内 省 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査・感 覚 ),と 記 し た 。こ の 島 自 身 が 意 思 を も っ て い る か の
よ う な 表 現 が な さ れ て い る 。 A 氏 に 問 い か け ,突 き 詰 め ,試 そ う と し て い る と い う イ メ ー ジ
が 島 か ら 喚 起 さ れ た 。こ の よ う に ,箱 庭 制 作 者 と 構 成 と の 交 流 が 生 じ て い る 。こ の 内 省 報 告
は ,「私 の 島 」の 特 性 の 一 端 を 示 す 記 述 で あ る 。 ま た ,島 に は も う 一 つ の 自 己 像 で あ る 亀 が 上
陸 し て い た り ,神 聖 な 生 き 物 で あ る 鹿 が 置 か れ て い る 。島 は , A 氏 の 様 々 な 心 理 的 状 況 や 特
性を表現する舞台のようにも構成されている。
こ の よ う に 島 は ,「私 の 島 」と い う 自 己 イ メ ー ジ や 最 近 の 自 分 の 心 理 的 状 況 が 付 与 さ れ た
構 成 で あ る 。 ま た ,島 自 身 が 意 思 を も つ か の よ う な 構 成 で あ っ た り ,A 氏 の 様 々 な 心 理 的 状
況や特性を表現する舞台ともなっている。A 氏はこの構成やその構成についての語りや内
省 を 通 し て ,多 様 な 自 己 の あ り 様 に 気 づ き ,自 己 理 解 を 深 め る こ と が で き た と 考 え る こ と が
できる。
◆ 具 体 例 65: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11
A 氏 は ,第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,ホ ウ キ に 乗 っ た 魔 法 使 い の 少 年 , 陶 器
の オ バ ケ を 砂 箱 右 上 隅 に 置 い た (写 真 19)。そ の 後 , A 氏 は ,複 数 過 程 に 亘 っ て ,川 に い る 亀 を
渦 の 中 央 に 向 か っ て 進 め た 。そ の ホ ウ キ に 乗 っ た 魔 法 使 い の 少 年 ,陶 器 の オ バ ケ の 構 成 に つ
い て ,自 発 的 説 明 過 程 で ,A 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。え ー っ と こ の 辺 の は ,ち ょ っ と お っ か
ないですよね。
( 中 略 )制 御 で き な い < ふ ん > こ ち ら の 意 志 で は な ん と も 制 御 で き な い よ う
な < ふ ー ん > 生 き 物 が ぴ ゅ ん ぴ ゅ ん 飛 ん で る よ う な ,そ ん な の を 置 き ま し た ね ( A 氏 自
発 ,4-11)。 調 査 的 説 明 過 程 で は ,制 作 者 と 筆 者 と の や り と り の 後 ,ホ ウ キ に 乗 っ た 少 年 が 置
か れ た 領 域 に 亀 が 向 か っ て い る 構 成 に つ い て ,以 下 の よ う に 語 ら れ た 。今 思 う ん だ け ど , あ
の あ た り は 私 が 日 常 生 活 で 見 せ な い よ う な ,あ の ,ち ょ っ と 奥 の 方 の 気 持 ち な ん だ ろ う な と
- 101 -
いう<ふぅん>気持ちがしますね。<ふ
ぅん>私はそのたぶんね極普通に人間な
の で ,例 え ば ネ ガ テ ィ ブ な 感 情 も 一 杯 持
っ て る と 思 う ん で す よ 。< そ ら そ や > で ,
そ れ を あ の ,そ れ を ,そ れ を あ ん ま り 出 し
てないような気がしていて。<なるほど
ね > で も 確 か に 自 分 の 中 に あ る ,出 し て
な く て ,ち ゃ ん と 見 て あ げ な き ゃ っ て 言
う 気 持 ち が あ り な が ら ,う ー ん ,あ の ち ゃ
んと見てあげなきゃいけないんだよねー
って。そういうつもりでたぶん向かって
写 真 19
る だ ろ う と 思 い ま す ね ,亀 が ( A 氏 調
キ に 乗 っ た 魔 法 使 い の 少 年 ,陶 器 の オ バ ケ )
A 氏 第 4 回 作 品 (砂 箱 右 奥 隅 に ,ホ ウ
査 ,4-11)。右 上 隅 の 領 域 は ,ち ょ っ と お っ
か な い と こ ろ で あ っ た 。 ホ ウ キ に 乗 り 飛 ん で い る 少 年 は ,好 き 勝 手 に 飛 ん で い て ,制 作 者 の
意 思 で は コ ン ト ロ ー ル で き な い 存 在 で あ る こ と も 語 ら れ た 。今 思 う ん だ け ど と あ る よ う に ,
制 作 者 と 筆 者 と の や り と り を 通 し て ,ホ ウ キ に 乗 っ た 少 年 は , A 氏 が 日 常 生 活 で は 見 せ な
い ,奥 の 方 に あ る ネ ガ テ ィ ブ な 気 持 ち で あ る こ と ,確 か に あ る そ の よ う な 気 持 ち を ち ゃ ん と
見 て あ げ な き ゃ い け な い と い う つ も り で ,自 己 像 で あ る 亀 は ,そ の 領 域 に 向 か っ て い る の だ
ろ う と 思 う と い う こ と に , A 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 初 め て 気 づ き ,語 っ た 。こ の よ う な 構 成
を 行 い ,そ れ に つ い て 語 る こ と を 通 し て , A 氏 は ,奥 の 方 に あ る ネ ガ テ ィ ブ な 気 持 ち や ,そ
れ を 見 て あ げ よ う と し て い る 自 分 の 態 度 に 気 づ き ,自 己 理 解 を 深 め る こ と が で き た 。
◆ 具 体 例 66: B 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は ,第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で 複 数 の 箱 庭 制 作 過 程 に 亘 っ て ,砂 箱 四 隅 に ,針 葉 樹 を 置 い た
(写 真 20)。そ の 構 成 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。つ ま り ,こ れ は よ く ,
こ れ ま で の 制 作 の 時 に ,私 自
身 ,傾 向 か な っ て 思 う と こ ろ
でもあるんですけど。この,
こうやって出てきたものを,
四隅までこの全面に張り巡ら
せ る っ て い う ほ ど の ,私 自 身
が ,馬 力 が な い で し ょ う か ね 。
と に か く ,こ こ ら 辺 の 世 界 で
ま あ ,そ れ 以 外 の ,そ の ,な ん
か ,部 分 と い う こ と で 。な ん か ,
う ん ,四 角 い 枠 を 森 を 作 る こ
と で ,丸 い 枠 に 限 定 し て ,う ん ,
世界を作ってるかなという<
なるほど。なるほど。なるほ
写 真 20
ど > う ん 。う ん 。た ぶ ん ,も っ
- 102 -
B 氏第5回作品
と ,そ の 馬 力 が あ れ ば ,こ の ,ガ シ ッ と も っ と 置 く 力 の あ る 人 も い る の か な と 思 う ん で す け
ど 。 ど う も 私 は ,う ん 。 四 隅 ぎ り ぎ り ま で も の を 置 く っ て い う ,そ の ,う ん ,強 さ が な い よ う
な 気 が し ま す ( B 氏 調 査 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て )。
B 氏 は ,第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で 複 数 の 箱 庭 制 作 過 程 に 亘 っ て ,砂 箱 四 隅 に ,針 葉 樹 を 置 い た 。
こ れ に 類 似 の ,森 に よ っ て 区 切 り が で き る と い う 構 成 は ,第 2 回 お よ び 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接
に も 表 れ て い た 。 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,自 分 の 馬 力 の な さ を 四 隅 に 森 を 作 る こ と で ,丸 い
枠 に 限 定 す る 構 成 を 行 い ,そ れ に つ い て 語 る こ と を 通 し て , B 氏 は ,四 隅 ぎ り ぎ り ま で も の
を置く強さがないという自分自身の傾向に気づいたと理解できる。
箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,砂 箱 全 体 を 使 わ な い 構 成 は ,珍 し い も の で は な い 。 そ の 場 合 ,あ る
領 域 に 何 も 置 か れ な い と い う 表 現 が な さ れ る 場 合 が 多 い 。 し か し ,こ の 具 体 例 の よ う に ,実
際 に は ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ て い る が ,そ れ は 箱 庭 制 作 に お い て 自 己 の 表 現 を 限 定 す る 目 的
と な る 場 合 も あ る こ と が ,示 さ れ た 。 B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 以 降 は ,四 隅 に 森 を 作 る こ と
で ,丸 い 枠 に 限 定 す る と い っ た 構 成 は 現 れ な い 。 こ の 変 化 は 一 種 の 「 領 域 の 拡 大 」 (河 合 隼
雄 ,1969,p.47),と 捉 え る こ と が で き る 。 こ の 領 域 の 拡 大 と い う 構 成 の 変 化 は , B 氏 の 内 界 の
変化を表していると推測できる。
◆ 具 体 例 64∼ 66 に は ,構 成 に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 の 表 現 が 見 い だ さ
れ た 。そ し て ,箱 庭 制 作 者 は そ の 構 成 を 行 い ,そ れ に つ い て 語 る こ と を 通 し て ,自 己 へ の 気 づ
き を え て い た 。 ま た ,自 己 の 心 理 的 状 況 を 表 す 構 成 の 変 化 は ,箱 庭 制 作 者 の 内 界 の 変 化 の 表
現 で あ る と 推 測 で き た 。 こ の よ う に [構 成 に よ る 自 己 の イ メ ー ジ や 心 理 的 状 況 や 特 性 の 表
現 ]は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 で き る と 考 え ら れ る 。
5)[不 明 瞭 な 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
[不 明 瞭 な 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]は ,「不 明 瞭 で あ い ま い 点 ,不 正 確 な 認 知 ,
記 憶 の 不 明 瞭 を 伴 い つ つ ,構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。[不 明 瞭 な 点 を 残 し つ つ 構
成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]に は ,(1)不 明 瞭 で あ い ま い 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ,(2)箱
庭制作者の不正確な認知や記憶の不明瞭に関する内的プロセスがあった。
(1)不 明 瞭 で あ い ま い 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス の 結 果 お よ び 考 察
不明瞭であいまい点を残しつつ構成する内的プロセスと考えられた具体例を以下に示す。
◆ 具 体 例 67: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 自 発 的 説 明 過 程 の 冒 頭 で A 氏 は ,作 品 の 説 明 と し て は ,う ー ん ,な
ん な の か よ く わ か ん な い で す ね 自 分 で も 作 り な が ら ( A 氏 自 発 ,4-全 体 的 感 想 ) と 語 っ た 。
ま た ,出 来 上 が っ た 世 界 は ,え ー っ と な ん で し ょ う ね ,こ れ ね( 笑 )な ん で し ょ う ね 。よ く わ
か ん な い 。 ほ ん と に 良 く わ か ん な い で す ね え ( A 氏 自 発 ,4- 全 体 的 感 想 ) と も 語 っ て い る 。
そ の 後 ,渦 に つ い て 以 下 の よ う に 語 っ た 。 一 番 最 初 渦 を 作 っ た 時 は ,別 に こ こ が ゴ ー ル だ
と も そ ん な こ と は 意 識 し て な か っ た ん で す け ど ,ま ど っ ち か な ,ゴ ー ル な の か ,も う ち ょ っ
と 他 の と こ な の か ,何 な ん だ ろ う と 思 っ た ん で す ね 。< ふ ん ふ ん > 特 に ベ ン チ や 家 の と き は ,
ま ,そ こ か ら 出 発 す る と 言 う こ と も あ り え る 形 だ っ た と 思 っ た の で ,< う ん う ん > ( A 氏 自
発 ,4-4) う ー ん と ,作 っ て い く 過 程 で な ん か ,亀 は あ っ ち 向 い て る し ,< な る ほ ど > う ん ,ど
う も そ の ゴ ,ゴ ー ル と い う か 行 き た と こ ろ と い う か ,< ふ ん ふ ん > そ う ら し い な っ て ふ う に
- 103 -
なってきましたね。それが今の自分に丁度いいのかどうかちょっと良くわからないんです
け ど ,< ふ ん > ( 間 6 秒 )( A 氏 自 発 ,4-16) ふ ん ,作 っ た ら こ ん な の で き ち ゃ い ま し た っ て
言う感じ。
‘ 見 守 り 手 に 顔 を 向 け て ’< な る ほ ど 了 解 し ま し た > ど う し た ら い い ん で し ょ う
て い う 感 じ で す ,私 。 < な る ほ ど ね ,な る ほ ど ね > と ま ,自 分 で 戸 惑 い ま す ,ほ < 戸 惑 っ て る
の ね > う ん う ん 作 り な が ら ね ,あ れ あ れ あ れ っ て い う 。< う ん う ん >‘ 見 守 り 手 に 向 か っ て ’
こ ん な に 戸 惑 う も ん な ん で す か ( A 氏 自 発 ,4-17)。 A 氏 は こ の 構 成 を 意 図 的 に 作 り 上 げ た
の で は な く ,自 分 の 感 覚 や イ メ ー ジ に 従 っ て 作 っ て い っ た 。そ の た め ,自 分 自 身 で も , 明 確 に
説 明 す る の が 難 し く 感 じ ,戸 惑 う よ う な 作 品 が 出 来 上 が っ た ,と 考 え ら れ る 。
し か し ,調 査 的 説 明 過 程 で A 氏 と 筆 者 が や り と り す る 中 で ,こ の 作 品 が も つ A 氏 に と っ て
の 意 味 が 部 分 的 に で は あ る が ,明 ら か に な っ て い く 。 ◆ 具 体 例 5 に 示 さ れ た よ う に ,鳥 の 巣
か ら 女 性 や 子 ど も を 意 識 さ せ ら れ る 感 じ が 喚 起 さ れ た (p.30 参 照 )。 ま た ,Ⅶ 章 で 後 述 す る ,
概 念 [身 体 感 覚 ・ ボ デ ィ ー イ メ ー ジ ]の ◆ 具 体 例 126 の よ う に ,調 査 的 説 明 過 程 で , A 氏 は 渦
の 幅 を 広 げ て い る 時 ,産 道 を 広 げ て る み た い っ て 思 い < は ぁ > ま し た ね , 広 げ て る 最 中 ね
( A 氏 調 査 ,4-16) ,と 語 っ た (pp.158-159 参 照 )。
こ の よ う に ,第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 自 発 的 説 明 過 程 で は ,出 来 上 が っ た 世 界 が 何 か よ く わ
か ら な い と A 氏 は 語 っ て い た が ,調 査 的 説 明 過 程 で の A 氏 と 筆 者 と の や り と り を 通 し て ,構
成の意味が部分的に明確になった。
◆ 具 体 例 67 が 示 す よ う に ,箱 庭 制 作 面 接 で は ,[不 明 瞭 な 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ
セ ス ]に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た 構 成 が 生 じ ,そ の 構 成 に つ い て 語 り ,そ の 構 成 を
再 確 認 す る こ と を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 が 自 己 理 解 を 深 め る こ と に 寄 与 す る 場 合 が あ る と 考
えられる。
そ れ に 対 し て ,以 下 の 具 体 例 で は ,箱 庭 制 作 過 程 だ け で は な く ,説 明 過 程 や 内 省 報 告 に お
い て も ,構 成 に 関 し て ,明 瞭 に は 意 識 化 で き な い 主 観 的 体 験 が 示 さ れ て い る 。
◆ 具 体 例 68: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 自 発 的 説 明 過 程 で ,B 氏 は ,一 つ の こ の ,こ れ は 一 つ の 流 れ な ん
だ と ,な ん と な く 感 じ る ん で す け ど ,こ う い う ,時 計 の 逆 周 り っ て い う ん で し ょ う か ね 。こ れ
は た ぶ ん 自 分 ,左 き き だ か ら ,こ う い う 風 に し ち ゃ っ た の か な と 思 う ん で す け ど 。ま あ ,こ う
い う 動 き の 中 で ,う ん ,な ん か ,表 現 し て ( B 氏 自 発 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。 中 央
部 を 作 っ た 後 の 制 作 の 順 番 が 砂 箱 左 側 か ら 始 ま り ,反 時 計 周 り に な っ た こ と に つ い て の 言
及 で あ る 。そ の 言 及 に つ い て ,内 省 報 告 に ,な ぜ 時 計 回 り で は な い の だ ろ う( B 氏 内 省 ,1-23,
自 発 ・ 感 覚 ) ,と 記 さ れ た 。 そ し て ,第 1 回 ふ り か え り 面 接 で は ,[ふ り か え り の と き の 話 の ,
言 語 的 な 話 の 部 分 で ,っ て い う 方 が 。 < わ か り ま し た 。 > は い 。 ま あ ,気 づ き と い え ば ,気 づ
き な ん で す ね 。 は い ]と 語 ら れ ,そ の 気 づ き が 自 発 的 説 明 過 程 で の も の で あ る こ と が 明 確 に
な っ た 。つ ま り ,B 氏 は ,制 作 後 の 自 発 的 説 明 過 程 で ,制 作 の 流 れ が 反 時 計 周 り だ っ た こ と に
気 づ い た 。 そ し て ,そ れ は 自 分 が 左 利 き だ か ら だ ろ う と 推 測 す る も の の ,説 明 過 程 で も 内 省
報 告 作 成 時 で も ,ど う し て そ う な の か わ か ら ず ,不 思 議 に 思 っ て い た ,と 考 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 67 と 68 で は ,そ の 構 成 や ミ ニ チ ュ ア 選 択 に つ い て ,制 作 者 自 身 に も 説 明 困 難 な
不 明 瞭 な 点 が あ る 。 そ し て ,そ の よ う な 不 明 瞭 な 点 が あ り つ つ も ,構 成 し て い く 過 程 に つ い
て の 主 観 的 体 験 が 示 さ れ た 。 ◆ 具 体 例 67 と 68 は ,意 味 の 認 知 は 伴 わ な い が ,ぴ っ た り だ と
感 じ る こ と が で き る 直 観 的 な 意 識 に よ り ,構 成 さ れ た こ と に つ い て の 語 り で あ る と 考 え る
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こ と が で き る 。直 観 的 な 意 識 に よ っ て 作 ら れ た 構 成 に は ,◆ 具 体 例 67 の よ う に ,後 続 の 語 り
を 通 し て ,構 成 の 意 味 が 部 分 的 に 明 確 に な る 場 合 と ,◆ 具 体 例 68 の よ う に ,構 成 に 関 し て 意
識的な説明の困難さが残る場合があることが見いだされた。
(2)箱 庭 制 作 者 の 不 正 確 な 認 知 や 記 憶 の 不 明 瞭 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス の 結 果 お よ び 考 察
次 に 示 す 具 体 例 は ,箱 庭 制 作 者 の 不 正 確 な 認 知 や 記 憶 の 不 明 瞭 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス に
ついての語りや記述である。
◆ 具 体 例 69: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 15
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 15 で 以 下 の よ う な 行 為 を 行 っ た 。
28 分 57 秒 ∼
イ ル カ を 見 て ,イ ル カ の 向 き を 変 更 し た 。
29 分 6 秒 ∼
作品を見つめた。
29 分 15 秒 ∼
砂 箱 右 手 前 あ た り の 砂 を 右 手 甲 側 指 先 で ,な で た 。
29 分 28 秒 ∼
陸 の 部 分 ,波 打 ち 際 の あ た り を 見 つ め た 。
30 分 19 秒 ∼
砂 箱 の 左 側 に 立 ち 位 置 を 変 更 し ,作 品 を 見 た
30 分 46 秒 ∼ 31 分 29 秒
立 ち 位 置 を 変 更 し ,砂 箱 右 手 前 隅 か ら 作 品 を 見 た 。
こ の よ う に A 氏 は イ ル カ の 向 き の 変 更 後 ,立 ち 位 置 を 変 え ,様 々 な 方 向 か ら 構 成 を 確 認 し
た 。そ の 後 ,自 発 的 説 明 過 程 で ,A 氏 と 筆 者 と の 間 で ,以 下 の よ う な や り と り が あ っ た 。最 終
的 に あ の 亀 を み つ け た と き に ,あ ,ど う も こ う 亀 の 方 を 見 て る 感 じ だ な ,っ て い う 。亀 を 見 て
る ん じ ゃ な い ん だ け ど , 亀 が 視 野 に ち ゃ ん と 入 っ て る な あ ,そ ん な 感 じ に な っ て , よ か っ た
な と 思 い ま し た ね 。< 少 し ,亀 を 置 い た あ と ,置 き 換 え ,あ の ,方 向 変 え た も ん ね > あ , そ う で
し た っ け < イ ル カ も 最 初 は も う 少 し こ ち ら の 方 に ,ち ょ っ と だ け ,ほ ん の ち ょ っ と だ け 沖 に
い た ん だ け ど 。 亀 の 方 に ( 不 明 ) て > ( A 氏 自 発 ,1-15)。 自 発 的 説 明 過 程 で は ,A 氏 は イ ル
カ の 視 線 に 対 し て ,亀 を 見 て る ん じ ゃ な い ん だ け ど ,亀 が 視 野 に ち ゃ ん と 入 っ て る ,と 捉 え
て い た 。ま た ,筆 者 の < 少 し ,亀 を 置 い た あ と ,置 き 換 え ,あ の ,方 向 変 え た も ん ね > と い う 言
葉 に ,あ ,そ う で し た っ け と 答 え ,明 確 に は 覚 え て い な い 様 子 が う か が え た 。 そ し て ,調 査 的
説 明 過 程 の 最 後 の 頃 ,A 氏 は 立 ち 位 置 を 移 動 し , イ ル カ の 目 線 を 確 認 し て , 以 下 の よ う に 語
っ た 。 そ れ は ,箱 庭 制 作 過 程 15 に 密 接 に 関 連 し て い た 。 具 体 例 に あ る ( ? ) は そ の よ う に
聞 こ え る が 言 葉 が 違 う 可 能 性 が あ る こ と を 示 す 。 も う い っ か い そ の 陸 (? )の 方 か ら み て い
い で す か ? < ど う ぞ 。ど う ぞ > ふ ー ー ー ん ? < ど ん な 感 じ が す る ? > い や ,こ っ ち か ら 見 る
と ほ ん と に こ う イ ル カ が あ の 亀 の 方 を 向 い て い る の で ,あ あ ,ば っ ち り 向 い て る な あ と 思 っ
て 。 (中 略 )< 今 は な ん か あ っ ち の 方 か ら 見 た く な っ た の は ? > イ ル カ の 目 線 に な り た か っ
た の か な あ 。< は ぁ ,イ ル カ の 目 線 か 。亀 の 方 見 て る 。ね 。亀 の 方 見 て る ね > 見 て ま す ね <
視 界 に は い っ て い る と い う よ り ,見 て い る と い う よ り 視 界 に 入 っ て い る っ て ,さ っ き い う て
た け ど ,な ん か ,ば っ ち り 見 て る よ ね > バ ッ チ リ 見 て ま す よ ね( A 氏 調 査 ,1 − 調 査 的 説 明 過
程 の 最 後 の 再 確 認 行 動 )。 調 査 的 説 明 過 程 で ,再 度 ,確 認 す る こ と で ,ほ ん と に こ う イ ル カ が
あ の 亀 の 方 を 向 い て い る ,ば っ ち り 向 い て る ,バ ッ チ リ 見 て い る こ と が A 氏 に 認 識 さ れ た 。
こ の 具 体 例 で は ,構 成 に 関 し て ,箱 庭 制 作 者 の 認 知 の 不 正 確 な 点 や 記 憶 の 不 明 瞭 な 点 が 示 さ
れ た と 考 え ら れ る 。亀 は イ ル カ に と っ て ,導 き 手 と し て の 重 要 な 意 味 を も っ て い た 。そ の よ
う な 関 係 で あ る に も 関 わ ら ず ,イ ル カ の 視 線 に 関 す る 実 際 の 構 成 と 箱 庭 制 作 者 の 認 識 が く
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い 違 う と い う 事 象 が 生 じ た 。 こ の よ う な 事 象 が 生 じ た の は ,イ ル カ の 向 き は ,直 観 的 な 意 識
に よ っ て 構 成 さ れ た こ と を 示 し て い る ,と 考 え る こ と が で き る 。 そ の 後 , A 氏 は 調 査 的 説 明
過 程 で イ ル カ の 目 線 を 確 認 す る こ と に よ っ て ,ほ ん と に こ う イ ル カ が あ の 亀 の 方 を 向 い て
い る こ と に 表 さ れ た イ ル カ と 亀 の 関 係 性 に つ い て ,よ り 明 瞭 に 把 握 し た と 理 解 で き る 。自 己
像 で あ る イ ル カ と 導 き 手 で あ る 亀 と の 関 係 性 を よ り 明 瞭 に 理 解 で き た こ と は ,自 己 の 内 的
プ ロ セ ス へ の 理 解 を 深 め る こ と に つ な が っ た と 考 え ら れ る 。本 具 体 例 で は ,直 観 的 な 意 識 が
関 与 し た [不 明 瞭 な 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ セ ス ]に よ る 構 成 を ,A 氏 が 調 査 的 説 明
過 程 で 再 確 認 し た こ と に よ っ て ,自 己 理 解 が 深 ま っ た と 考 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 70: A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 3,5,20
A 氏 は 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,左 側 に け わ し い 崖 の あ る 半 島 を 作 っ た 。そ こ に 花 や 果 物 が
な る 木 を 置 い た 。 そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。
こ ち ら ,こ ち ら 側 は あ の ,崖 ,な ん で す ね 。‘ 半 島 の 左 側 面 を 指 し な が ら ’ < う ん う ん > こ ち
ら 側 が 東 か な ‘ 半 島 の 左 側 面 を 指 し な が ら ’ ,と ,東 で ‘ 半 島 の 左 側 面 を 指 し な が ら ’ 南 か
な‘ 半 島 の 手 前 の 側 面 を 指 し な が ら ’と い う よ う な イ メ ー ジ で 置 い て い る ん で す け ど ,は い ,
は い ,< 東 で 南 ‘ 半 島 の 両 側 面 を 指 し な が ら ’ > ( A 氏 自 発 ,7-20) 南 っ 側 の ,こ の ,あ の ,日
当たりのいいところには果物のなる木があるっていう。
( A 氏 自 発 ,7-5)< 東 で 南 っ て あ り
う る ん か ? > あ れ ? な い で し た っ け ? ど う な る ,あ れ ? 東 だ と ぉ ,あ ,南 こ っ ち だ
あ ,本 当
だ ,< そ う だ よ な > 東 だ と あ ,こ っ ち 北 に な る ,あ ,< だ よ な > そ う で す そ う で す
<な>う
ん ,あ ぁ ,怖 い ‘ 明 る い 調 子 の 声 で ’。 < ( 不 明 ) だ よ な > そ う で す ,あ り え な い 。 < で も な
ん と な く イ メ ー ジ と し て は 東 で 南 っ て 感 じ だ っ た わ け ね 。 > そ う で す 。 わ ー ぁ ,こ わ 。 や ,
な ん か で す ね ,( A 氏 自 発 ,7-20) 朝 日 を 見 る 場 所 っ て 思 っ て ,こ ち ら 側 が 朝 日 で こ ち ら 側
が 夕 日 と 思 っ て た ん で す ね 。< ふ ん ふ ん ふ ん >( A 氏 自 発 ,7-3)で ,だ け ど 花 を 置 い た 段 階
で 北 じ ゃ な く な っ た ん で す よ ,こ < ふ ん ふ ん ふ ん > こ っ ち 側 は あ っ た か い と こ ろ と お も っ ,
< ふ ん ふ ん ふ ん > 北 で す ね ぇ 。 こ れ ね ぇ < ん ,ま ぁ で も ,う ん 。 箱 庭 の イ メ ー ジ の 方 を 大 事
に し よ う > は い 。 ま ぁ ん ,で も ,ん ,何 し ろ こ う ,崖 が あ っ て ,崖 の き わ に ,( A 氏 自 発 ,7-20)
果 物 と( A 氏 自 発 ,7-5)花 が 咲 い て い る と 言 う , う ん < な る ほ ど > で ,な か な か 取 り に 来 れ
な い の で ,た ま ぁ に や っ て 来 て ,( A 氏 自 発 ,7-20) 果 物 や ら ( A 氏 自 発 ,7-5) 花 や ら を 収 穫
し て 帰 る ,よ う な 場 所 だ と 思 っ て 作 り ま し た( A 氏 自 発 ,7-20)。A 氏 は ,半 島 の 左 側 面 を 東 ,
手 前 側 面 を 南 と イ メ ー ジ し て い た こ と を 説 明 し た 。 し か し ,半 島 の 左 側 面 が 東 な ら ば ,手 前
側 面 は 北 に な り ,現 実 に は あ り え な い 方 位 と な っ て い た 。そ の こ と を 筆 者 に 指 摘 さ れ る ま で ,
A 氏 は 気 づ い て い な か っ た 。 そ の 後 ,イ メ ー ジ の 中 で ,そ の よ う な 方 位 の 関 係 に な っ た 内 的
プ ロ セ ス が 語 ら れ た 。 半 島 の 左 側 面 は 朝 日 を 見 る 場 所 な の で ,東 だ っ た 。 そ の 後 ,手 前 側 面
に 花 を 置 い た た め ,そ の 場 所 は 暖 か い と こ ろ に な り ,イ メ ー ジ の 中 で は 南 と な っ た こ と が 語
ら れ た 。 構 成 中 ,浮 か ん だ イ メ ー ジ に 従 っ た た め ,実 際 に は あ り え な い 方 位 関 係 で あ る こ と
が 認 知 さ れ な い ま ま に な っ た ,と 考 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 70 か ら ,A 氏 が 半 島 の 左 側 面 と 手 前 側 面 の そ れ ぞ れ の イ メ ー ジ を 重 視 し ,そ の
方 位 上 の 関 係 に つ い て は 考 慮 し て い な か っ た こ と が 見 い 出 せ る 。A 氏 に と っ て は ,そ れ ぞ れ
の 領 域 に 付 与 さ れ た イ メ ー ジ の み が 重 要 で あ り ,方 位 は 考 慮 に 値 す る も の で は な か っ た の
で あ ろ う 。箱 庭 制 作 面 接 で 作 ら れ る 作 品 に は ,外 界 の 影 響 が 一 定 程 度 の 強 さ で 及 ぼ さ れ る 場
- 106 -
合 も あ る が ,そ れ で も 箱 庭 制 作 者 の 内 的 世 界 の 表 現 で あ る 。◆ 具 体 例 70 は ,箱 庭 制 作 面 接 の
作品が内界の表現であることの一例である。
A 氏 は ,第 7 回 箱 庭 作 品 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で は ,表 層 的 な も の に 感 じ ら れ て 愛 着
が 湧 か な い と 語 っ た 。 し か し ,ビ デ オ を 見 直 し て い る 時 点 で は ,出 来 上 が っ た 作 品 に つ い て
「つ ま ら な い 」と い う 印 象 は 薄 い ( A 氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,自 発 ・ 意 味 ) と 内 省 報 告
に 初 め て 記 さ れ た 。こ の よ う に A 氏 の 第 7 回 箱 庭 作 品 に 対 す る 感 じ や 作 品 の 意 味 は 単 純 で
は な い 。少 な く と も ,◆ 具 体 例 70 か ら わ か る こ と は ,A 氏 が 半 島 の 左 側 面 と 手 前 側 面 の そ れ
ぞ れ の イ メ ー ジ を 重 視 し ,方 位 と い う 現 実 的 な こ と を 考 慮 し て い な か っ た 内 的 プ ロ セ ス が
生 じ た こ と で あ る 。こ の よ う な 内 的 プ ロ セ ス を 伴 う [不 明 瞭 な 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ
ロ セ ス ]は ,箱 庭 作 品 が 箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た も の に な る こ と の 一 因 と な る と 考 え ら れ
る。
◆ 具 体 例 71: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 7
A 氏 は 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 7 で ,人 形 の 下 の 砂 を 少 し 掘 っ て ,人 形 の 周 囲
に 砂 を 少 し だ け 盛 っ た 。 調 査 的 説 明 過 程 で 筆 者 は ,制 作 過 程 7 で ,箱 庭 制 作 者 が 人 形 の 下 の
砂 を 少 し 掘 っ た こ と に つ い て 質 問 し た 。そ の 質 問 に つ い て 内 省 報 告 に ,砂 を 掘 っ た こ と は 何
気 な く や っ て い た こ と で ,忘 れ て い た 。 何 気 な く や っ た 事 柄 に 光 を あ て て く れ た こ と ,そ し
てそれがきっかけになって自分の中にある守りたいという気持ちに触れていくことが出来
た ( A 氏 内 省 ,8-7,調 査 ・ 意 味 ) と 記 し た 。 砂 を 少 し 掘 っ て ,人 形 の 周 囲 に 砂 を 少 し だ け 盛
る と い う 構 成 は ,A 氏 に と っ て 何 気 な く や っ た こ と で あ っ た た め に ,説 明 過 程 で は 忘 れ て い
た こ と が 示 さ れ た 。し か し ,調 査 的 説 明 過 程 で の 質 問 に 答 え ,語 ら れ た の は ,A 氏 の 義 母 に 対
す る 思 い で あ っ た 。 そ れ は ,少 し 下 に 置 く 事 で , こ の 人 形 を 守 る よ う な , 大 事 に ( 間 4 秒 )
保 護 す る よ う な , そ う い う 感 覚 が あ っ た ん だ ろ う な (中 略 )大 地 の 守 り , そ う で す ね , な ん
で し ょ う ね ,何 か 器 の よ う な 感 じ (中 略 )仏 像 が あ の ,ハ ス の 花 の 上 に 立 っ て ま す よ ね 。(中
略 )あ あ い う 感 じ も あ る か も し れ な い で す ね( A 氏 調 査 ,8-7)と い う 義 母 を 大 事 に 思 う 思 い
の 表 れ で あ る こ と が ,明 確 に 語 ら れ た 。
◆ 具 体 例 71 は ,箱 庭 制 作 過 程 で の 行 為 に つ い て 十 分 認 識 し て い な か っ た た め ,記 憶 の 不
明 瞭 さ が 生 じ た ,と 捉 え ら れ る 。し か し ,箱 庭 制 作 者 の 意 識 的 な 認 識 と は 異 な り ,そ の 行 為 が
実 は 重 要 な 内 的 プ ロ セ ス を は ら ん で い る こ と が あ る ,と 考 え ら れ る 。ま た ,こ の 具 体 例 で は ,
筆 者 が 質 問 し た こ と に よ っ て ,何 気 な く や っ た 事 柄 に 光 を あ て て く れ た こ と ,そ し て そ れ が
きっかけになって自分の中にある守りたいという気持ちに触れていくことが出来た。A 氏
は こ の 構 成 と そ の 構 成 に つ い て 語 る こ と を 通 し て ,自 分 の 義 母 へ の 気 持 ち を よ り 深 く 理 解
す る こ と が で き た 。箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,見 守 り 手 が 箱 庭 制 作 過 程 の 様 々 な 事 象 に つ い て ,
関 心 を も っ て ,注 意 深 く 観 た り , 感 じ た り , 味 わ っ た り し て い る こ と の 重 要 性 に つ い て も 示
さ れ た ,と 捉 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 70 と 71 に は ,箱 庭 制 作 者 の 不 正 確 な 認 知 や 記 憶 の 不 明 瞭 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス
が 見 い だ さ れ た 。◆ 具 体 例 70 と 71 に 示 さ れ た ,箱 庭 制 作 者 の 不 正 確 な 認 知 や 記 憶 の 不 明 瞭
は ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 構 成 が 箱 庭 制 作 者 の 明 瞭 な 意 図 に 基 づ く も の ば か り で は な い こ
と の 一 例 で あ る 。 こ の よ う に 箱 庭 制 作 面 接 で は ,[不 明 瞭 な 点 を 残 し つ つ 構 成 す る 内 的 プ ロ
セ ス ]に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た 構 成 が 生 じ ,そ の 構 成 を 再 確 認 し た り ,そ の 構 成
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に つ い て 語 る こ と を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 が 自 己 理 解 を 深 め る こ と に に 寄 与 す る と 考 え ら れ
る。
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Ⅶ 章 . M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ④【 内 界 と 装 置 と 構 成 の 交 流 】の 結 果 お よ び 考 察
④【 内 界 と 装 置 と 構 成 の 交 流 】 は ,『 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 』内 の『 制 作 過 程 』 に お け
る 「内 界 」と 「装 置 」と 「 構 成 」 と の 交 流 に 関 す る カ テ ゴ リ ー で あ る (図 6)。 「内 界 」と 「装 置 」
と 「構 成 」は ,交 流 し ,双 方 向 で 影 響 を 与 え あ っ て い る 。 こ れ ら の 促 進 要 因 の 交 流 に よ っ て ,
箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解・自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 が 生 じ
る。
①【 内 界 と 装 置 の 交 流 】と ②【 内 界 と 構 成 の 交 流 】で は ,影 響 の 方 向 性 に よ っ て 区 別 し て
カ テ ゴ リ ー や 概 念 の 結 果 お よ び 考 察 を 記 し た 。し か し ,④【 内 界 と 装 置 と 構 成 の 交 流 】で そ
れ を 行 う と ,あ ま り に も 複 雑 に な り ,か え っ て 理 解 を 困 難 に す る と 考 え ら れ る た め ,そ の よ う
な 影 響 の 方 向 性 に よ る 区 別 は 行 わ な い 。M-GTA に よ っ て 生 成 さ れ た カ テ ゴ リ ー・概 念 を 以
下 の 3 概 念 群 か ら 詳 述 し ,検 討 す る 。 本 コ ア カ テ ゴ リ ー は ,「内 界 」と 「装 置 」と 「 構 成 」 と の
交 流 で あ る が ,各 カ テ ゴ リ ー・概 念 に よ っ て ,3 者 の 比 重 に は 偏 り が あ っ た 。比 重 の 一 番 大 き
な要因を中心に 3 群にわけた。
1)「装 置 」が 中 心 と な る 概 念 群
「装 置 」が 中 心 と な る 概 念 群 が あ っ た 。こ の 概 念 群 内 の 概 念 は ,「装 置 」に 一 番 大 き な 比 重 が
あ り ,他 の 2 要 因 と 交 流 し て い た 。 こ こ に は ,[砂 や 砂 箱 の 底 の 色 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ
の 構 成 へ の 影 響 ],[ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ],[ミニチュアの他 領
域 との関 連 ]の 3 概 念 が あ っ た 。
2)「構 成 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー ・ 概 念 群
「構 成 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー・概 念 群 が あ っ た 。こ の カ テ ゴ リ ー・概 念 群 内 の 概 念 は ,
「構 成 」に 一 番 大 き な 比 重 が あ り ,他 の 2 要 因 と 交 流 し て い た 。 こ こ に は ,カ テ ゴ リ ー < ミ ニ
チュア選択の
内的プロセス
内界
> と ,そ の 中
に [構 成 を 巡
<ぴったり感の有無>
[ぴったり感の照合]
[ミニチュアとの出会い]
る内的プロセ
スのミニチュ
ア選択への影
<イメージや作品が主体となる>
[箱庭に入る] [枠外のイメージ]
[身体感覚・ボディーイメージ]
響 ],[代 替 と
してのミニチ
ュア選択や装
置 の 利 用 ]の
2 概念があっ
[砂や砂箱の底の色を巡る内的
プロセスやその構成への影響]
[ミニチュアを巡る内的プロセスや
その構成への影響]
[ミニチュアの他領域との関連]
た 。ま た ,そ の
カテゴリー外
に ,2 概 念 [作
<ミニチュア選択の内的プロセス>
[構成を巡る内的プロセスの
ミニチュア選択への影響]
[代替としてのミニチュア選択や
装置の利用]
[作られなかった構成]
[説明過程で,ミニチュアを
置きかえるプロセス]
構成
装置
られなかった
構 成 ]と [説 明
過 程 で ,ミ ニ
チュアを置き
図 6
④【内界と装置と構成の交流】
- 109 -
か え る プ ロ セ ス ]が あ っ た 。
3)「内 界 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー ・ 概 念 群
「内 界 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー・概 念 群 が あ っ た 。こ の カ テ ゴ リ ー・概 念 群 内 の 概 念 は ,「内
界 」に 一 番 大 き な 比 重 が あ り ,他 の 2 要 因 と 交 流 し て い た 。 カ テ ゴ リ ー < ぴ っ た り 感 の 有 無
> と ,そ の 中 に [ぴ っ た り 感 の 照 合 ],[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]の 2 概 念 が あ っ た 。ま た ,カ テ
ゴ リ ー < イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > の 中 に 2 概 念 [箱 庭 に 入 る ],[枠 外 の イ メ ー ジ ]が
あ っ た 。 上 記 カ テ ゴ リ ー の 外 に 独 立 し て , 概 念 [身 体 感 覚 ・ ボ デ ィ ー イ メ ー ジ ]が あ っ た 。
以 下 に ,カ テ ゴ リ ー ,概 念 ,具 体 例 を 挙 げ ,④ 【 内 界 と 装 置 と 構 成 の 交 流 】 で 見 い だ さ れ た
促進機能の結果および考察を記す。
Ⅶ -1. 「装 置 」が 中 心 と な る 概 念 群 の 結 果 お よ び 考 察
「装 置 」が 中 心 と な る 概 念 群 内 の [砂 や 砂 箱 の 底 の 色 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の
影 響 ],[ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ],[ミニチュアの他 領 域 との関 連 ]
の結果および考察を以下に記す。
1)[砂 や 砂 箱 の 底 の 色 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察
[砂 や 砂 箱 の 底 の 色 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]は ,「砂 の 触 感 や 温 感 や に お
い や 砂 箱 の 底 の 色 に ,感 覚 ,感 情 ,イ メ ー ジ な ど が 喚 起・付 与 さ れ ,そ れ ら が 砂 に 触 れ る こ と や
構 成 に 与 え る 影 響 」と 定 義 さ れ た 。 こ の 概 念 の 具 体 例 を (1)砂 に よ っ て 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ
セ ス ,(2)砂 の 構 成 へ の 影 響 ,(3)箱 庭 制 作 者 の 気 持 ち や 身 体 感 覚 が 砂 に 触 れ る こ と に 与 え る
影 響 ,(4)砂 箱 の 底 の 色 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や 構 成 へ の 影 響 ,の 4 観 点 か ら 考 察 す る 。
(1)砂 に よ っ て 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス の 結 果 お よ び 考 察
砂によって喚起される内的プロセスの具体例を以下に挙げる。
◆ 具 体 例 72: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,砂 箱 に 向 き 合 い ,手 で 砂 を な で た り ,そ
っ と つ ま ん だ り し な が ら ,砂 箱 を 眺 め て い た 。続 い て ,右 手 で 砂 を す く い ,左 手 に か け た 。そ
の 行 為 に つ い て ,内 省 報 告 に い ざ 置 こ う と な る と ,何 を 置 い た ら よ い の か わ か ら な か っ た 。
自 分 の 中 か ら 浮 か ん で く る も の が 見 つ け ら れ な い ,つ か ま え ら れ な い 。そ ん な 自 分 自 身 の 感
覚 を 目 覚 め さ せ た く て 砂 に 軽 く 触 れ た ( A 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 意 図 ) ,ひ ん や り と し た 砂 が
手 に 心 地 好 い 。さ ら さ ら と し た 感 触 で ,気 持 ち が 穏 や か に な っ て い く の を 感 じ て い た( A 氏
内 省 ,1-2,制 作 ・ 感 覚 ) ,砂 に 触 れ な が ら ,箱 庭 の 世 界 に 入 っ て い っ た の だ と 思 う ( A 氏 内
省 ,1-2,制 作 ・ 意 味 ) と 記 し た 。 こ の 具 体 例 で は ,砂 に 触 れ る こ と に よ っ て , A 氏 は 箱 庭 を
制作する心の準備が整っていったのだと理解できる。
◆ 具 体 例 73: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 4
A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 3 で 腕 時 計 と 指 輪 を 外 し ,制 作 過 程 4 で 中 央 の
砂 を よ け て ,砂 箱 奥 に 海 を 作 っ た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に 思 い 切 り 砂 に 触
れ て い こ う ,と い う 気 持 ち に な っ て い る 。「今 日 は い く ぞ 」と い う 気 分( A 氏 内 省 ,3-3,制 作 ・
感 覚 ) ,ざ く ざ く と 砂 を か き 分 け る の が 楽 し く 小 気 味 よ い ( A 氏 内 省 ,3-4,制 作 ・ 感 覚 ) と
記 し た 。 こ の 2 つ の 内 省 報 告 を 考 え あ わ せ る と ,A 氏 は ,砂 に 触 れ る こ と や 箱 庭 制 作 に 強 く
- 110 -
コ ミ ッ ト し よ う と す る A 氏 の 気 持 ち に な っ て お り ,そ の よ う な 気 持 ち の 勢 い の ま ま に ざ く
ざ く と 砂 を か き 分 け ,楽 し さ や 小 気 味 よ さ を 感 じ た と 捉 え る こ と が で き る 。
砂 を 巡 る 快 の 感 覚 は 多 く 報 告 ・ 言 及 さ れ て い る 。 石 原 (2008)で は ,全 40 セ ッ シ ョ ン (20
名 ,各 2 セ ッ シ ョ ン )中 ,14 名 の 箱 庭 制 作 者 の 16 セ ッ シ ョ ン で ,快 の 感 覚 が 報 告 さ れ ,箱 庭 制
作 者 に 「気 持 ち い い 」と い う 言 葉 で 表 現 し た く な る よ う な 快 の 感 覚 体 験 を 砂 が 引 き 起 こ す こ
と は か な り の 普 遍 性 を も つ と 言 え そ う で あ る ,と し て い る (p.75)。 中 道 (2010)で は ,9 名 中 8
名 の 箱 庭 制 作 者 が 砂 の 感 触 を 快 と 捉 え た (p.115)。
本 概 念 の ◆ 具 体 例 72 と 73 で も ,砂 に 触 れ る こ と や ,砂 を か き わ け る 作 業 に よ っ て 心 地 よ
さ ,気 持 ち が 穏 や か に な っ て い く 感 覚 ,楽 し さ な ど の 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ る 快 の 体 験 が
見 い だ さ れ た 。 A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,砂 に 触 れ る こ と が ,箱 庭 の 世 界 に 徐 々 に 入 っ
ていくことにも寄与していると考えることができた。A 氏第 3 回箱庭制作面接では, A 氏
は ,砂 に 触 れ る こ と や 箱 庭 制 作 に 強 く コ ミ ッ ト し よ う と し ,そ の 勢 い の ま ま に 砂 を か き 分 け ,
楽 し さ や 小 気 味 よ さ を 感 じ た と 考 え る こ と が で き た 。こ の よ う に 砂 に 触 れ ,箱 庭 の 世 界 に 入
っ て い っ た り ,箱 庭 制 作 に 強 く コ ミ ッ ト す る こ と に よ っ て ,箱 庭 作 品 は 箱 庭 制 作 者 の 内 的 表
現 と な っ て い く 。 箱 庭 制 作 者 の 内 界 が 表 現 さ れ ,展 開 す る こ と を 通 じ て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己
理 解 を 促 進 す る こ と が で き る 。砂 に 触 れ る こ と は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 の 基 礎 と し て 重
要であると考えられる。
(2)砂 の 構 成 へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
砂の構成への影響の具体例を以下に挙げる。
◆ 具 体 例 74: A 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2
A 氏 は 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,水 を 含 ま せ た 砂 を 混 ぜ た 。 そ の 箱 庭 制
作 過 程 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 水 を 入 れ て も ら っ て こ う , ざ く ざ く や っ て い る 最 中 は ,
しー,単純に心地よくって,においも立ち上ってくるし<そうだね>面白いなと思ってい
て , で 大 っ き な も の を 作 ろ う と い う 気 持 ち に な っ て ま し た ね ( A 氏 調 査 ,5-2) と 語 っ た 。
◆ 具 体 例 75: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2∼ 3,全 体 的 感 想
A 氏 は 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,両 手 で ざ く ざ く と 水 を 入 れ た 砂 を か き
混 ぜ ,固 め た 。 制 作 過 程 3 で ,水 が ほ ぼ 均 等 に 混 ざ っ た 砂 を 砂 箱 の 底 に ぐ い ぐ い と 押 し 付 け
た 。そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。ざ く ざ く 作 る
の も い い ‘ 笑 ’( 中 略 ) テ ン ポ 。 < テ ン ポ , は ぁ ぁ ぁ ん > 最 初 , こ う 砂 を 掻 き 分 け て る 時 ,
< ふ ん ふ ん ふ ん > か き 混 ぜ て る 時 は ま さ し く こ う ざ く ざ く の 感 じ で ,< う ん う ん う ん >( A
氏 調 査 ,6-2)手 で ギ ュ ッ ギ ュ ッ て 押 し た り ,< う ん う ん う ん > こ う ,ニ ギ ニ ギ し た り し て 。
そ れ ざ く ざ く で す し ,( A 氏 調 査 ,6-3) こ う 物 を 置 く 時 に , す ご く , こ う , あ , 次 こ れ 次 こ
れ次これって<早かったね確かにね>はい。私の中からいろいろ,それこそざくざく湧き
出 て く る っ て い う , < う ん う ん う ん > そ う い う 感 じ で す か ね ( A 氏 調 査 ,6-全 体 的 感 想 )。
砂 を ざ く ざ く と 勢 い よ く か き 混 ぜ ,手 で 砂 を 押 す と い う テ ン ポ が ,そ の 後 の 構 成 で イ メ ー ジ
が ざ く ざ く 湧 き 出 て ,次 々 に ミ ニ チ ュ ア を 置 く テ ン ポ に 影 響 し た ,と 捉 え ら れ る 。
中 道 (2010)に も ,砂 が 構 成 に 影 響 す る 主 観 的 体 験 が 報 告 さ れ て い る 。 例 え ば ,制 作 者 F は ,
「眠 り こ け る よ う な 田 園 風 景 」を 作 ろ う と 決 め て き て い た が ,砂 を 触 れ る う ち に イ メ ー ジ が
- 111 -
大 き く 変 化 し ,火 山 と カ ル デ ラ 火 山 を 作 っ た (pp.95-96)。 制 作 者 E は ,砂 を こ ね く り 回 し た
り ,両 手 で 握 っ た り ,擦 り 合 わ せ た り し て 砂 の 感 触 を 味 わ い 構 成 し て い っ た 。 砂 に 触 れ る こ
と で ,自 分 の 子 ど も 時 代 や 娘 時 代 や 自 分 の 子 ど も と 遊 ん で い た 時 代 が 「ド ワ ー ッ と 思 い だ さ
れ た 」。 そ の 体 験 に つ い て ,中 道 は 砂 に 触 れ る こ と に よ っ て 箱 庭 制 作 者 の 内 的 世 界 が 活 性 化
さ れ ,砂 は 箱 庭 制 作 者 が イ メ ー ジ に 入 っ て い く た め の 入 口 の 役 割 を 果 た し た と 考 察 し て い
る (p.120)。 本 概 念 の ◆ 具 体 例 74 と 75 で も ,砂 に 触 れ る こ と や 砂 の に お い な ど が イ メ ー ジ
を 喚 起 さ せ ,そ の イ メ ー ジ が 構 成 さ れ て い く 場 合 が あ る こ と が 示 さ れ た 。 ま た ,砂 を か き ま
ぜ た り ,押 し た り す る テ ン ポ も ,内 的 プ ロ セ ス に 影 響 を 与 え ,そ れ が 構 成 に 影 響 す る 場 合 が あ
ることが確認された。
◆ 具 体 例 75 を 違 う 観 点 か ら 検 討 す る 。◆ 具 体 例 75 で は ,か き 混 ぜ て る 時 は ま さ し く こ う
ざ く ざ く の 感 じ で , < う ん う ん う ん > ( A 氏 調 査 ,6-2) 手 で ギ ュ ッ ギ ュ ッ て 押 し た り , <
う ん う ん う ん > こ う , ニ ギ ニ ギ し た り し て 。 そ れ ざ く ざ く で す し ( A 氏 調 査 ,6-3) と 擬 音
語 が 使 わ れ て い る 。A 氏 の 他 の 語 り と 比 較 す る と ,こ の よ う に 擬 音 語 を 多 用 す る こ と は 珍 し
い 。握 る と い う 言 葉 を 使 わ ず ,ニ ギ ニ ギ し た り し て と い う 子 ど も っ ぽ い 言 い 回 し が 現 れ て い
る 。こ の 擬 音 語 の 使 用 は ,退 行 の 表 れ と 理 解 す る こ と が で き る だ ろ う 。箱 庭 療 法 に お い て 砂
に 触 れ る こ と が 治 療 的 に 意 味 の あ る 適 度 な 退 行 を 促 す こ と は ,よ く 指 摘 さ れ る (河 合 隼
雄 ,1969,p.22;木 村 ,19 85,p.21;他 )。A 氏 は ,こ の 言 葉 に 続 け て ,構 成 で イ メ ー ジ が ざ く ざ く 湧
き 出 て き た と 語 る 。 治 療 的 に 意 味 の あ る 適 度 な 退 行 に よ っ て ,イ メ ー ジ が 賦 活 さ れ , そ れ が
構成に繋がっていった主観的体験の語りと考えられる。
◆ 具 体 例 74 と 75 の よ う に ,砂 に 触 れ る こ と や 砂 の に お い な ど が イ メ ー ジ を 喚 起 さ せ ,そ
の イ メ ー ジ が 構 成 さ れ て い く 場 合 や ,砂 を か き ま ぜ た り ,押 し た り す る テ ン ポ も ま た ,内 的 プ
ロ セ ス に 影 響 を 与 え ,そ れ が 構 成 に 影 響 す る 場 合 が あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 ま た ,砂 に 触 れ
ることによる治療的に意味のある適度な退行を示すと考えられる具体例もあった。砂に触
れ る こ と に よ っ て 箱 庭 制 作 者 の 内 的 世 界 が 活 性 化 さ れ ,豊 か な 表 現 や イ メ ー ジ の 変 化 を 生
む 可 能 性 が あ る こ と が 示 さ れ た 。 こ の よ う に し て ,砂 に 触 れ る こ と は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進
機能として働くことが確認された。
(3)箱 庭 制 作 者 の 気 持 ち や 身 体 感 覚 が 砂 に 触 れ る こ と に 与 え る 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
箱庭制作者の気持ちや身体感覚が砂に触れることに与える影響の具体例を以下に挙げる。
◆ 具 体 例 76: A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1
A 氏 は 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,箱 庭 制 作 面 接 開 始 と 同 時 に 玩 具 棚 に 向 か っ た 。そ の 箱 庭 制
作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に こ の 日 は 北 風 が 強 い ,寒 い 日 だ っ た が ,研 究 室 内 は 暖 か く , 入 室
し た 途 端 ち じ こ ま っ て い た 体 が ふ っ と 解 放 さ れ る よ う な ,楽 な 気 分 に な っ た 。 そ の せ い か ,
な ん と な く 砂 に 向 き 合 い た く な い 。深 く 沈 ん で い く よ り も ,も う 少 し 軽 や か に 進 め て い き た
か っ た ( A 氏 内 省 ,9-1,制 作 ・ 意 図 ) と 記 し た 。
こ の 具 体 例 で は ,身 体 が 解 放 さ れ る よ う な 感 覚 や 楽 な 気 分 が 砂 に 向 き 合 う こ と を 避 け る
よ う に 働 い て い る 。こ の 回 の A 氏 に と っ て ,砂 に 向 き 合 う こ と は ,軽 や か さ と は 反 す る 感 覚
が あ っ た ,と 捉 え ら れ る 。 A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,最 終 的 な 作 品 と し て 初 め て 街 の 風
景が作られた。自己像である星の王子様は映画を観ようとして映画館の前に立っている。
そ の 制 作 過 程 の 内 省 報 告 に は ,現 実 の 世 界 で の 私 の 行 動 を 映 し て い る よ う 。少 し 楽 し い 気 分
- 112 -
に な り な が ら (A 氏 内 省 ,9-6,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 さ れ て い る 。 ま た ,A 氏 は 今 ま で の 箱 庭 制 作
面接では感じたことのない身体感覚やボディーイメージを感じた。その感覚やイメージに
つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で ド ア を 開 け た ら そ の ま ま ,自 分 の 欲 求 の ま ま に 現 実 世 界 で 自 由 に
行 動 を 始 め そ う 。 足 が 軽 く な っ て い る と い う か ,か ら だ が 前 に 出 て い る と い う か ,頭 で あ れ
こ れ 考 え な い で ,ま ず 体 が 行 動 し て い る ,そ ん な 感 じ( A 氏 内 省 ,9-全 体 的 感 想 ,調 査・意 味 )
と 語 っ た 。 こ の 具 体 例 で は ,外 に 向 か い ,現 実 世 界 で 自 由 に 動 こ う と す る 身 体 感 覚 や ボ デ ィ
ー イ メ ー ジ が 示 さ れ た 。 こ れ ら の 具 体 例 に 示 さ れ て い る よ う に ,A 氏 第 9 回 箱 庭 作 品 は ,自
分 の 内 界 に 深 く 向 き 合 お う と す る の で は な く ,外 に 向 か う 自 由 さ が 主 な テ ー マ と な っ た 。河
合 隼 雄 (1969)は ,砂 に ま っ た く 手 を 触 れ な い こ と の 要 因 の 一 つ と し て ,無 意 識 的 な も の に 対
す る 怖 れ を 挙 げ て い る (p.50)。 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で A 氏 が 無 意 識 に 対 す る 怖 れ を 感 じ て
い た か は 不 明 で あ る が ,少 な く と も こ の 日 の 傾 向 と し て ,無 意 識 的 な も の も 含 め た 内 面 に 深
く 向 き 合 っ て い こ う と す る も の で は な か っ た ,と 捉 え ら れ る 。
本 節 (1)や (2)の ◆ 具 体 例 72∼ 75 で 挙 げ た よ う に ,A 氏 は 砂 に 触 れ る こ と の 心 地 よ さ を 体 感
し て い る 。ま た ,以 下 の 具 体 例 の よ う に , A 氏 は 砂 を 用 い た 構 成 に よ っ て ,自 己 の 内 面 に 深 く
向き合う内的プロセスも体験している。
◆ 具 体 例 77: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2∼ 3
A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 と 3 で ,A 氏 は 砂 箱 左 上 隅 か ら 砂 箱 中 央 に 向
け て ,反 時 計 回 り の 渦 の 構 成 を 砂 で 行 っ た 。 そ の 構 成 に 対 し て ,第 4 回 ふ り か え り 面 接 で ,
以 下 の よ う に 語 っ た 。渦 巻 き は ,[根 源 的 な も の と い う か 。な ん か ,す べ て の 始 ま り だ っ た り ,
す べ て の 終 わ り だ っ た り 。そ の よ う な 意 味 が あ る な と い う は 前 か ら 思 っ て ,前 か ら 感 じ て い
て 。 (中 略 )世 界 の あ り と あ ら ゆ る も の を も り こ ん だ 図 形 と い う ,そ ん な 感 覚 が 私 に は あ っ て 。
(中 略 )マ ン ダ ラ の 意 味 と 同 じ よ う な 何 か こ う ,根 源 的 な も の と か 。 原 初 の も の っ て い う 。 そ
ん な 力 を 感 じ さ せ る 図 形 だ と ]。 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,自 己 像 で あ る 亀 は そ の 渦 の 中 心 に
向 け て ,苦 労 し て 進 ん で い っ た 。 こ の よ う に ,A 氏 は 砂 を 用 い た 構 成 に よ っ て ,自 己 の 内 面 に
深く向き合う体験をしている。
砂 の 様 々 な 影 響 を 体 感 し て い る A 氏 だ か ら こ そ ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,身 体 が 解 放 さ
れ る よ う な 感 覚 ,楽 な 気 分 ,軽 や か に 進 め て い き た い と い う 思 い に 沿 っ て ,そ れ を 大 切 に し て ,
深 く 沈 ん で い く こ と を 避 け ,砂 に 向 き 合 わ な い こ と を 選 ん だ ,と 理 解 で き る 。 第 9 回 箱 庭 制
作 面 接 の ◆ 具 体 例 76 は ,A 氏 が 自 分 の 身 体 感 覚 も 含 め た 内 的 プ ロ セ ス と 砂 に 触 れ る と い う
行 為 と を 照 合 し て ,砂 に 触 れ な い こ と を 選 ん だ 主 観 的 体 験 の 語 り だ と 考 え ら れ る 。 そ れ は ,
いま・ここの自分の内的プロセスを尊重した結果だと捉えられる。内的プロセスを尊重し
た こ と で ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,初 め て 街 の 風 景 が 作 ら れ ,外 に 向 か い ,現 実 世 界 で 自 由
に動こうとする身体感覚やボディーイメージが生じるという展開が生まれたと解釈するこ
とができる。
箱 庭 制 作 者 の 気 持 ち や 身 体 感 覚 が 砂 に 触 れ る こ と に 影 響 を 与 え る 場 合 が あ り ,そ の こ と
を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス を 箱 庭 制 作 者 が 尊 重 す る こ と は ,箱 庭 制 作 面 接 の 展 開 や そ の 展 開 に 伴
っ た 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス に 影 響 を 与 え る 場 合 が あ る こ と が 確 認 さ れ た 。こ れ は ,箱 庭
制作面接の促進機能の一側面であると考えられる。
(4)砂 箱 の 底 の 色 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や 構 成 へ の 影 響 の 結 果 お よ び 考 察
- 113 -
砂箱の底の色を巡る内的プロセスや構成への影響の具体例を以下に挙げる。
◆ 具 体 例 78: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 3∼ 4
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 3 で ,砂 箱 右 手 前 の 砂 を か き 分 け て ,底 の 青 い
色 を 出 し た 。 制 作 過 程 4 で ,右 手 前 の 水 の 領 域 を 広 げ ,右 半 分 を 海 に し た 。 そ れ ら の 箱 庭 制
作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 し た 。砂 に 触 れ る だ け で は ま だ 充 分 に 自 分 の 内
側 が 動 い て こ な い 。底 の 青 色 (水 )を 見 た ら も っ と 動 く も の が あ る だ ろ う か( A 氏 内 省 ,1-3,
制 作 ・ 意 図 ) ,水 の 色 を 見 て ,「悪 く な い な 」と 思 っ た 。 も っ と 水 の 領 域 を 増 や し た く な っ た
( A 氏 内 省 ,1-3,制 作 ・ 感 覚 ) ,水 色 が す が す が し く , 今 の 自 分 の 心 の 状 態 に フ ィ ッ ト す る 。
な ん だ か す っ き り と し た 気 分 に な り ,爽 快( A 氏 内 省 ,1-4,制 作 ・ 感 覚 )。砂 に 触 れ た だ け で
は ,自 分 の 内 側 が 充 分 に 動 い て こ な い と 感 じ た A 氏 は 砂 箱 の 底 の 青 色 を 見 た ら ,内 側 が 動 く
だ ろ う か と 考 え た 。そ し て ,砂 を か き 分 け て ,底 の 青 い 色 を 出 し た 。水 の 色 を 見 て ,「 悪 く な
い 」と 感 じ ,も っ と 水 の 領 域 を 増 や し た く な り ,右 半 分 を 海 に し た 。そ の 構 成 に よ っ て ,A 氏
は 水 色 を す が す が し く 感 じ ,自 分 の 今 の 心 の 状 態 に フ ィ ッ ト す る こ と ,す っ き り と 爽 快 な 気
分 に な っ た 。 A 氏 は 底 の 青 い 色 (水 の 色 )を 巡 る 感 覚 や 構 成 へ の 影 響 に 気 づ い て い る 。 こ の
よ う な 気 づ き は ,構 成 が 内 的 プ ロ セ ス に ぴ っ た り な 表 現 に な る こ と に 寄 与 す る と と も に ,い
ま・ここの自己の内的プロセスへの理解を深めることにも役立つと考えることができる。
◆ 具 体 例 78 か ら ,砂 箱 の 底 の 色 が 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス や 構 成 に 影 響 を 及 ぼ す 場 合
が あ る こ と が 示 さ れ た 。中 道 (2010)に ,砂 箱 の 底 の 色 が 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス や 構 成 に
影 響 を 及 ぼ す 例 が 報 告 さ れ て い る 。 制 作 者 F は ,「全 然 思 っ て い た の と 違 う も の が で き た 。
も っ と お だ や か な ,眠 り こ け る よ う な 田 園 風 景 を 思 っ て い た [中 略 ]の だ け ど ,こ の 水 (箱 の
青 )が 見 え た 途 端 ,が ら っ と 変 わ っ た 」,と 語 り ,驚 き を 表 現 し た (p.102)。
◆ 具 体 例 78 や 中 道 の 例 か ら ,砂 箱 の 底 の 色 が 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス や 構 成 に 影 響 を
及 ぼ す こ と が 見 い だ さ れ た 。 し か し ,こ れ ら の 具 体 例 で は ,砂 箱 の 底 の 色 の 影 響 力 の 機 制 が
充 分 明 確 に な っ た と は 言 い 難 い 。水 の 色 を 見 て ,「悪 く な い な 」と 思 っ た 。も っ と 水 の 領 域 を
増 や し た く な っ た( A 氏 内 省 ,1-3,制 作 ・ 感 覚 ),色 が す が す が し く ,今 の 自 分 の 心 の 状 態 に
フ ィ ッ ト す る( A 氏 内 省 ,1-4,制 作・感 覚 )と A 氏 が 内 省 報 告 に 記 し て い る よ う に , 一 つ の
可 能 性 と し て ,砂 箱 の 底 の 色 が 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス や 構 成 へ の 影 響 に は ,ぴ っ た り 感
が関連していると考えられる。
ぴ っ た り 感 以 外 の 要 因 の 可 能 性 を 探 る た め ,他 の 具 体 例 も 加 え ,検 討 す る 。
◆ 具 体 例 79: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2
B 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,中 央 の 砂 を 掘 り ,底 の 青 の 色 を 出 し て ,泉 (水 源 )を 作 っ た 。
泉 は B 氏 に と っ て ,核 に な る も の で あ っ た 。 そ の 核 と な る も の は 宗 教 性 の 表 現 で あ り , B 氏
に と っ て ,こ ん こ ん を 湧 き で る よ う な 躍 動 感 を も っ て い た (p.95 ◆ 具 体 例 60 参 照 )。 そ の 箱
庭 制 作 過 程 に つ い て B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。 水 っ て い う の は ,す ご
く生き物が生きる上でとても大切なものであろうように思うんですね。その湧きあがる水
を 表 現 し た か っ た 。 つ ま り ,も り あ が る 。 こ ん こ ん と わ き あ が っ て く る よ う な 。 そ れ を ,物
を 使 っ て 表 現 す る こ と が で き な か っ た の で ,そ れ を 真 ん 中 で こ の 下 地 の 青 を 利 用 し て と い
う と こ ろ で ,そ の し た ん で す け ど 。 気 持 ち と し て は ,そ の ,命 と か 生 活 と か い う ,こ の 中 心 に
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そ の 湧 き あ が る も の ,水 と い う も の が あ る 。 ま た ,そ れ が 大 切 で あ る と い う こ と を 思 い ま し
た ( B 氏 自 発 ,1-2)。 B 氏 は 砂 箱 の 底 の 青 色 に よ っ て ,こ ん こ ん と わ き 出 る よ う な 躍 動 感 ( B
氏 調 査 ,1-2)を 表 現 で き た 。モ ノ と し て の 砂 箱 の 底 は 静 止 し て い る が ,B 氏 は イ メ ー ジ の 中
で は ,躍 動 感 を 感 じ て い る と い う こ と に な る 。 石 原 (2008)に は ,「モ ノ を ア ニ メ イ ト す る 」と
い う イ メ ー ジ 体 験 が 報 告 さ れ て い る 。 ア ニ メ イ ト と は ,「単 な る モ ノ で あ る ミ ニ チ ュ ア を 生
命 や 意 思 を も つ か の よ う に 扱 い ,ミ ニ チ ュ ア が 動 い た り ,感 じ た り ,考 え た り す る か の よ う に
体 験 す る こ と を 指 す 」と し て い る 。 石 原 が 指 摘 し た こ の イ メ ー ジ 体 験 と 類 似 の 概 念 と し て ,
本 研 究 で は < イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > を 挙 げ た (pp.146-149 参 照 )。 < イ メ ー ジ や 作
品 が 主 体 と な る > は ,「イ メ ー ジ や 外 在 化 さ れ た イ メ ー ジ (作 品 ・ 構 成 ・ ミ ニ チ ュ ア )が あ た
か も 自 律 性 や 意 思 を も つ 主 体 と な り ,箱 庭 制 作 者 は そ れ を 受 容 す る 立 場 と な る 事 象 に つ い
て の 内 的 プ ロ セ ス 」,と 定 義 さ れ た 。 砂 箱 の 底 の 青 色 に こ ん こ ん と わ き 出 る よ う な 躍 動 感 を
感 じ る と い う 主 観 的 体 験 の 語 り は ,石 原 の 「モ ノ を ア ニ メ イ ト す る 」や 本 研 究 の < イ メ ー ジ
や作品が主体となる>という主観的体験と考えることができるのでないだろうか。この躍
動 感 は ,石 原 の い う 「ミ ニ チ ュ ア が 動 い た り 」と い う 部 分 と 共 通 性 を も っ た 動 き の イ メ ー ジ
の 主 観 的 体 験 で あ る ,と 捉 え ら れ る 。 イ メ ー ジ に 没 入 し ,「 モ ノ を ア ニ メ イ ト す る 」 や < イ
メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > と い う よ う な イ メ ー ジ 体 験 が 生 じ る こ と に よ っ て ,現 物 の 箱
の底の水色にこんこんとわき出るような躍動感が生まれたと考えられる。
このような機制によって, B 氏第 1 回箱庭制作面接における躍動感についての主観的体
験 の 語 り ,海 の 表 現 に 展 開 す る と い う 構 成 へ の 影 響 や 中 道 (2010)の 制 作 者 F の 驚 き と い う
内的プロセスへの影響を理解できるのではないだろうか。
◆ 具 体 例 78 と 79 か ら ,砂 箱 の 底 の 色 は ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス や 構 成 に 影 響 を 及 ぼ
す こ と が 示 さ れ た 。 そ の 影 響 の 内 実 と し て ,ぴ っ た り 感 ,「モ ノ を ア ニ メ イ ト す る 」(石 原 ,
2008)や 本 研 究 の < イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > と い う 主 観 的 体 験 が 関 係 し て い る 可 能
性 が 見 い だ さ れ た 。 砂 箱 の 底 の 色 は ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス や 構 成 に 影 響 を 及 ぼ し ,箱
庭 制 作 者 に と っ て 重 要 な 内 的 プ ロ セ ス に 形 を 与 え た り ,構 成 の 展 開 を 生 む 一 因 と な る 。こ の
よ う に し て ,[砂 や 砂 箱 の 底 の 色 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]は ,箱 庭 制 作 者 の
自己理解を促進することができる。
2)[ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察
[ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]は , 「 ミ ニ チ ュ ア に ,感 覚 , 感 情 ,イ
メ ー ジ な ど が 喚 起 ・ 付 与 さ れ ,そ れ ら が 構 成 に 与 え る 影 響 」と 定 義 さ れ た 。 そ の 具 体 例 を 以
下に挙げる。
◆ 具 体 例 80: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 8,13∼ 14
A 氏 は 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 8 で ,亀 を 砂 箱 左 奥 ,渦 の 始 ま り の あ た り に 置
い た 。制 作 過 程 13 で ,馬 ,牛 ,チ ー タ ー ,ゾ ウ 等 を 右 手 前 の 陸 地 に ,川 で 水 を 飲 む よ う に 置 い た 。
続 く 制 作 過 程 14 で ,A 氏 は 以 下 の よ う な 構 成 を 行 っ た 。
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36: 11∼
ワ ニ を 手 に と り ,砂 箱 左 側 の 渦 の 川 幅 を 広 げ た 。
36: 38∼
海 ガ メ を , 砂 箱 左 奥 隅 か ら ,左 側 真 ん 中 付 近 ま で 進 め た 。
36: 43∼
ワ ニ を 元 の 場 所 ( 渦 の 外 ,左 側 ) に ,右 向 き に 置 い た 。
36: 50∼
河 童 を 手 に と り ,左 手 に も っ た ま ま 河 童 の い る あ た り ( 砂 箱 中 央 手 前 ) の 川 幅 を
広 げ た 。 河 童 を 戻 し ,中 央 よ り 右 手 の 川 幅 も 広 げ た 。
37: 24∼
海ガメを手に取り, 砂箱左奥隅の最初にあった場所に戻した。
37: 28∼
一 度 ,海 ガ メ の 方 に 右 手 を の ば す が 止 め ,再 度 ,海 ガ メ を 手 に と っ た 。
37: 33∼
海 ガ メ を 一 旦 進 め た と こ ろ ま で ,再 度 進 め て ,置 い た 。 砂 箱 を 見 つ め た 。
箱 庭 制 作 過 程 15 で , A 氏 は 亀 が 通 り 過 ぎ た あ た り の 川 べ り に 樹 木 と 花 を 植 え た 。制 作 過
程 16 で ,亀 を も っ と 進 め て ,渦 巻 き の 全 行 程 の 6 割 ほ ど の 位 置 (砂 箱 右 側 中 央 部 )に 置 い た 。
A 氏は調査的説明過程でだから,本当に不思議なんですけど,こう,箱庭のアイテムが増
え て い く と ,( A 氏 調 査 ,4-複 数 過 程 に 亘 っ て )こ こ ま で や っ と 進 め ら れ た と い う か( A 氏 調
査 ,4-16) と 語 っ た 。 亀 を 進 め る こ と が な か な か で き な か っ た が ,渦 の 周 り の 動 物 な ど の ミ
ニ チ ュ ア か ら の 影 響 に よ っ て ,亀 の 現 在 の 位 置 ま で 進 め る こ と が で き た 。亀 以 外 の ミ ニ チ ュ
ア を 置 く こ と が ,亀 を 進 め る と い う 構 成 に 影 響 し た こ と が 示 さ れ た (p.52 ◆ 具 体 例 2 1 参 照 )。
こ の 具 体 例 で は ,亀 が 進 ん で い く と A 氏 が 体 験 し て い る こ と 自 体 が , A 氏 の 自 己 成 長 の 表 れ
と理解することできる。
ど の よ う な 内 的 プ ロ セ ス に よ っ て ,亀 は 進 む こ と が で き た の だ ろ う か ? 亀 を 進 め る こ と
が で き た こ と に 影 響 し た 他 の ミ ニ チ ュ ア に つ い て A 氏 は 明 確 に 語 っ て い な い 。他 の ミ ニ チ
ュ ア や 構 成 の 順 序 に つ い て A 氏 が 語 っ た こ と か ら 推 測 す る と ,一 つ に は ,a.箱 庭 制 作 過 程
13 で 右 手 前 の 陸 地 に 置 か れ た ,馬 ,牛 ,チ ー タ ー ,ゾ ウ と 思 わ れ る 。ま た ,b.制 作 過 程 14 で 触 れ
た 河 童 や ワ ニ は ,亀 を 「 見 守 る よ う な 励 ま す よ う な ,息 抜 き を さ せ て あ げ る よ う な 存 在 」 と
し て ,制 作 過 程 8 で 置 か れ た ミ ニ チ ュ ア で あ っ た 。 そ れ ら が 置 か れ た 場 所 の 渦 の 川 幅 を 広
げ た こ と を 考 え あ わ せ る と ,こ れ ら の 存 在 も 亀 に 進 む こ と に 寄 与 し て い た と 思 わ れ る 。 c.
制 作 過 程 15 で の ,亀 が 通 り 過 ぎ た あ た り の 川 べ り に 樹 木 と 花 を 植 え る と い う 構 成 に つ い て ,
内 省 報 告 に 亀 が 通 り 過 ぎ た と こ ろ に 何 が し か の 成 果 ,が 欲 し か っ た 。樹 木 や 花 は そ の 成 果 の
意 味 ( A 氏 内 省 ,4-15,制 作 ・ 意 図 ) と A 氏 は 記 し た 。 こ の 成 果 と い う 構 成 も ま た 亀 が 進 む
こ と に 影 響 し た と 推 測 す る こ と も で き る 。 こ の よ う に ,亀 が 進 ん で い く と い う 構 成 に ,他 の
様 々 な ミ ニ チ ュ ア や 構 成 が 関 与 し て い た ,と 推 測 で き る 。
箱 庭 療 法 の 治 療 的 要 因 の 一 つ に ,ブ リ コ ラ ー ジ ュ (器 用 仕 事 )が 挙 げ ら れ る (齋 藤 ,2002; 岡
田 ,1993)。 齋 藤 (2002)は ,ブ リ コ ラ ー ジ ュ に つ い て 「砂 箱 の 中 の 山 や 海 や 川 や 砂 漠 な ど ア イ
テ ム を 背 景 に ,そ れ ら が 様 々 に 重 ね 合 わ さ れ て い く と ,来 談 者 の 意 図 も 治 療 者 の 想 い も 越 え
て い く よ う な 自 律 的 な イ メ ー ジ 世 界 が 降 り 立 つ こ と に な る 」と 述 べ て い る 。A 氏 第 4 回 箱 庭
制 作 面 接 で は ,だ か ら ,本 当 に 不 思 議 な ん で す け ど ,こ う ,箱 庭 の ア イ テ ム が 増 え て い く と ,
( A 氏 調 査 ,4-複 数 過 程 に 亘 っ て )こ こ ま で や っ と 進 め ら れ た と い う か( A 氏 調 査 ,4-16)と
いうように構成の展開に箱庭制作者は不思議さを感じている。ミニチュアや構成の組み合
わ せ が ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス に 影 響 を 及 ぼ し ,箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 越 え た 構 成 の 展 開
が生まれる場合があることが見いだされた。
こ の よ う に ミ ニ チ ュ ア や 構 成 の 組 み 合 わ せ に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 越 え た 構 成 が
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生 ま れ る の は ど の よ う な 機 制 な の だ ろ う か ? そ の 要 因 の 一 つ と な る の は , 意 識 の 背 景 ,あ
る い は 前 意 識 に お け る 心 の 動 き に あ る の か も し れ な い 。亀 が 渦 を 進 ん で い く こ と を 巡 っ て ,
箱 庭 制 作 過 程 で 明 確 に 意 識 化 さ れ て い た の は ,箱 庭 制 作 過 程 15 の 亀 が 通 り 過 ぎ た と こ ろ に
何 が し か の 成 果 ,が 欲 し か っ た ( A 氏 内 省 ,4-15,制 作 ・ 意 図 ) の み で あ る 。 そ れ 以 外 の 制 作
過 程 11∼ 16 に は ,亀 が 進 ん で い く こ と が で き た 内 的 プ ロ セ ス に 関 す る 明 確 な 言 及 は な い 。
以 下 に 箱 庭 制 作 過 程 11∼ 16 に 亘 る A 氏 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 確 認 し て い く 。 箱
庭 制 作 過 程 11 で ,A 氏 は 砂 箱 右 上 隅 に ,ホ ウ キ に 乗 っ た 魔 法 使 い の 少 年 ,陶 器 の オ バ ケ を 置
い た 。砂 箱 右 上 隅 の 構 成 が ,ネ ガ テ ィ ブ な 感 情 も 含 ん だ 自 分 の 奥 の 方 の 気 持 ち で あ る こ と を
A 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 初 め て 気 づ い た 。そ し て ,自 己 像 で あ る 亀 が そ の 気 持 ち を ち ゃ ん と
見 て あ げ な い い け な い と い う 気 持 ち で 向 か っ て い る の だ ろ う と 思 う ,と 調 査 的 説 明 過 程 で
初 め て 語 っ た (pp.101-102 ◆ 具 体 例 65 参 照 )。 箱 庭 制 作 過 程 12 で ,A 氏 は 筆 者 に 「 今 で 何
分 く ら い 経 ち ま し た か ? 」と 尋 ね た 。そ の 行 為 に つ い て ,内 省 報 告 に な ん だ か す ご く 時 間 が
経 っ て い る よ う に 感 じ て い て ,残 り 時 間 を 確 認 し た か っ た( A 氏 内 省 ,4-12,制 作 ・ 意 図 )と
記 さ れ た 。 箱 庭 制 作 過 程 13 で 右 手 前 の 陸 地 に 馬 ,牛 ,チ ー タ ー ,ゾ ウ を 置 く が ,そ の 構 成 に つ
い て 説 明 過 程 で は 直 接 的 な 言 及 は な か っ た 。 箱 庭 制 作 過 程 13 の 構 成 に つ い て ,内 省 報 告 で
よ う や く 直 接 的 な 記 述 が 以 下 の よ う に な さ れ た 。渦 巻 き の 川 は ,単 に 進 路 と い う の で は な く
て ,他 の 生 き 物 達 の 命 の 支 え に も な っ て い る ら し い ( A 氏 内 省 ,4-13,制 作 ・ 意 味 )。 亀 を 砂
箱 左 側 真 ん 中 付 近 ま で 進 め た 制 作 過 程 14 に つ い て ,内 省 報 告 に な ん と な く ふ っ と ,そ う だ
亀 の 位 置 を 変 え た ら い い ん だ と 思 い つ く 。そ し て 少 し 進 め る と ,ち ょ っ と ほ っ と す る 。あ ぁ ,
こ こ ま で 進 ん で い る ん だ と い う( A 氏 内 省 ,4-14,制 作・感 覚 )と 記 し た 。制 作 過 程 16 で ,A
氏 は さ ら に 先 ま で 亀 を 進 め た 。 一 度 亀 の 位 置 を 進 め て い る の で ,ど ん ど ん ,自 分 に ぴ っ た り
す る 位 置 ま で 進 め れ ば い い ん だ と 思 う ( A 氏 内 省 ,4-16,制 作 ・ 意 図 ) と 内 省 報 告 に 記 さ れ
た 。 こ の 制 作 過 程 16 で 初 め て ,意 図 的 に 亀 を 進 め た 。
こ の よ う に ,箱 庭 制 作 過 程 14 で ,な ん と な く 亀 の 位 置 を 変 え た ら い い ん だ と 思 い つ く が ,
そ の 思 い つ き の 源 は 意 識 化 さ れ て い な い 。制 作 過 程 11 と 13 で の 構 成 に よ る 亀 を 進 め る こ
と へ の 影 響 は ,前 意 識 的 で ,意 識 の 背 景 で 起 こ っ て い た ,と 理 解 で き よ う 。 そ の 後 ,制 作 過 程
15 で ,意 図 的 に 進 ん だ こ と の 成 果 を 構 成 し ,続 く 16 で 初 め て 意 図 的 に 亀 を 進 め た 。A 氏 第 4
回 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 本 項 で 検 討 し た 箱 庭 制 作 過 程 の 場 合 ,亀 の 位 置 を 変 え る こ と に つ
な が る 構 成 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス が 意 識 の 背 景 で ,連 動 す る こ と に よ っ て ,亀 を 動 か す と い
う 思 い つ き が 生 ま れ ,そ こ か ら 意 図 的 な 構 成 が な さ れ た ,と 考 え る こ と が で き る だ ろ う 。
弘 中 (1995)は ,Gendlin の 体 験 過 程 理 論 の 前 概 念 的 な 意 識 水 準 ,F reud の 前 意 識 を 参 照 し
つ つ ,箱 庭 療 法 な ど の 非 言 語 的 ・ イ メ ー ジ 的 表 現 が 治 癒 的 な 要 因 と し て 働 く 機 序 に つ い て ,
独 自 の 考 察 を 行 っ て い る 。ク ラ イ エ ン ト に 内 的 な 変 化 を 引 き 起 こ す た め に は ,意 識 的・ 言 語
的 水 準 に お け る explicit な 洞 察 は 必 ず し も 必 要 な い 。 implicit な (前 意 識 的 ・ 前 概 念 的 )水
準 に お い て す で に ,そ の 水 準 に 止 ま っ た ま ま で も ,ク ラ イ エ ン ト の 内 的 な 変 化 は 生 じ 得 て ,こ
ちらの方が変化の過程としては本質的な部分であると考えることができる。表現を行うこ
と は ,ク ラ イ エ ン ト に 今 こ こ で の 体 験 を 引 き 起 こ し ,そ れ は 新 奇 な 生 々 し い 体 験 で あ る の で ,
前 意 識 的・前 概 念 的 な 性 質 を も つ 。そ の 前 意 識 的 体 験 は 非 言 語 的 性 質 を 維 持 し た ま ま ,前 意
識 的 洞 察 (「! 」 )と な り 得 て ,そ れ だ け で 人 は 内 的 な 変 化 を 引 き 起 こ さ れ る (p.59)。 箱 庭 な ど
の 非 言 語 的・イ メ ー ジ 的 表 現 の 場 合 ,「(! )」が 随 伴 的 に 生 じ る が ,こ れ ら の 表 現 自 体 が 原 体 験
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(前 意 識 的 体 験 )を 纏 め ,方 向 づ け る 核 と な る 象 徴 と し て の 要 素 を 濃 厚 に 具 備 し て い る 。 非 言
語 的 ・ イ メ ー ジ 的 表 現 に お い て は ,表 現 す る こ と と ,前 意 識 的 体 験 が 生 じ る こ と と ,表 現 自 体
が 象 徴 と し て 機 能 す る こ と と は ,ほ と ん ど 一 つ の 現 象 の 諸 側 面 と い っ て よ い ほ ど に 不 可 分
に 結 び つ い て 相 互 的 に 関 連 し た 心 理 的 過 程 を 作 り 出 し て い る (pp.63-64)。 弘 中 (1995) の 考
え を 参 照 す る と ,箱 庭 制 作 過 程 11 と 13 で の 構 成 に よ る 亀 を 進 め る こ と へ の 影 響 は ,意 識 の
背景で起こっていた前意識的体験と捉えることが可能である。そのような前意識的体験が
連 動 し て ,箱 庭 制 作 過 程 14 で ,な ん と な く 亀 の 位 置 を 変 え た ら い い ん だ と の 思 い つ き が 生 ま
れ た 。そ の 思 い つ き を 基 に し て ,制 作 過 程 15 と 制 作 過 程 16 で ,意 図 的 な 構 成 が な さ れ た ,と
理 解 で き る 。箱 庭 制 作 過 程 11∼ 16 ま で の A 氏 の 主 観 的 体 験 は ,前 意 識 的 体 験 と 意 識 的 体 験
との相互作用だと捉えることができる。
[ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]に お け る ,こ の よ う な 前 意 識 的 体
験 と 意 識 的 体 験 と の 相 互 作 用 は ,箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 越 え た 構 成 の 展 開 を 生 み ,箱 庭 制 作 者
の自己理解・自己成長を促進する機能の一つであると考えられる。
◆ 具 体 例 81: B 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1 ,全 体 的 感 想
B 氏 は 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,箱 庭 制 作 面 接 の 開 始 時 の 気 持 ち と , そ れ
が 変 化 し て い っ た 主 観 的 体 験 を 以 下 の よ う に 語 っ た 。 今 日 ,こ こ に き て ,実 際 作 り 始 め る ま
で は ,今 日 は ,ま た ,何 を 作 ろ う か と か ,そ う い っ た も の も な く ,作 れ る ん だ ろ う か っ て ,い う
気 持 ち が あ り ま し た 。 < あ あ 。 そ う な ん で す か > 実 際 最 初 ,こ の 砂 の と こ を 見 た 時 に で も ,
い や ー ,も し か し た 人 形 と か い ろ ん な も の を 置 け ず に ,砂 を ,こ う や っ て ,な で る だ け に な っ
ち ゃ っ た ら ,ど う し よ う か っ て い う ぐ ら い ,な ん か ,な か っ た ん で す ね 。( B 氏 調 査 ,5 -1) で
も , 実 際 ,ま あ ,そ の , 人 形 と か ,こ う い う や つ に 向 き 合 う 中 で , 結 構 , 目 に つ い た っ て い う で
し ょ う か ね 。 人 形 の 表 情 だ と か ,動 作 と か 。 そ う い っ た 中 で ,結 構 ポ ン ポ ン ポ ン っ と < そ う
で し た よ ね > は い 。あ の ,進 ん で る こ と が で き た と 。そ う い う 意 味 で は ,わ り あ い ,い っ ぱ い
い っ ぱ い の 中 で ,で き ち ゃ っ た か な ,と か い う 感 じ で す ね ( B 氏 調 査 ,5-全 体 的 感 想 )。
い っ ぱ い い っ ぱ い の 中 で ,で き ち ゃ っ た か な ,と か い う 感 じ で す ね と い う 言 葉 は , 当 初 の
危 惧 ,予 測 を 越 え て 「で き ち ゃ っ た 」と い う 意 外 さ を 示 し て い る と 捉 え ら れ る 。 B 氏 は 第 5
回 ふ り か え り 面 接 で [作 り 始 め て ,ま あ , 割 合 に ,勢 い よ く ,何 を 取 ろ う か と か っ て い う の が
出 て き て 。そ う い う 意 味 で は ,集 中 し て た と い う か ,凝 縮 し て た と い う こ と で ]と 語 っ た 。人
形 の 表 情 や 動 作 に B 氏 の 内 的 プ ロ セ ス が 触 発 さ れ ,ミ ニ チ ュ ア 選 択 が 勢 い よ く 行 わ れ ,制 作
に 集 中 で き た こ と が ,B 氏 が 最 初 に 危 惧 し た こ と と は 全 く 異 な る 構 成 の 展 開 が 生 じ た 要 因
だ と 捉 え る こ と が で き る 。B 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 構 成 は ,日 常 生 活 で の 苦 し い 状 況 が 色
濃 く 反 映 さ れ た も の で あ っ た 。 B 氏 は 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 奥 に 小 人 ,な げ き 悲 し む
人 ,か た つ む り な ど を ,砂 箱 中 央 に 星 の 王 子 様 と ル ー ペ を 置 い た 。ミ ニ チ ュ ア を 置 け ず ,砂 を
なでるだけになるのではないかと思うほど精神的にいっぱいいっぱいであった B 氏だった
が ,今 の 自 分 の 心 理 的 状 況 に ぴ っ た り な ミ ニ チ ュ ア を 発 見 す る こ と に よ っ て ,イ メ ー ジ が
次 々 に 喚 起 さ れ た た め ,テ ン ポ よ く 構 成 す る こ と が で き た ,と 理 解 で き る 。
そ し て ,構 成 に よ る 自 己 表 現 を 通 じ て ,当 初 感 じ て い た こ と と は 異 な る 感 覚 に B 氏 は 気 づ
い た 。 わ り あ い 冷 静 で い る と い う か 。 ひ ど く 落 ち 込 む と か ,怒 り 狂 っ て ,投 げ 出 し て や る っ
て い う 風 で は な く て 。ま あ ,あ の ,う ん ,あ の い ろ い ろ あ る け ど ,う ん ,し ょ う が な い な と い う
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部 分 と ,ま あ ,ち ゃ ん と 時 間 か け ら れ れ ば ,ま あ ,で き な い こ と な い わ っ て い う よ う な ,そ う
い う よ う な 感 覚 と か ,と い う こ と で あ っ て ,わ り あ い 冷 静 で い る っ て い う か( B 氏 調 査 ,5-全
体 的 感 想 )。 こ の 気 づ き は ,ミ ニ チ ュ ア が 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス や 構 成 に 影 響 を 及 ぼ
し ,B 氏 が 最 初 に 危 惧 し た こ と と は 全 く 異 な る 構 成 の 展 開 が 生 じ た か ら こ そ 生 じ た 気 づ き
で あ る ,と 考 え ら れ る 。 [ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]に よ っ て ,箱
庭 制 作 者 に 意 外 な 展 開 が 生 じ ,そ れ を 通 し て ,自 己 理 解 の 深 化 に 寄 与 す る こ と が 見 い だ さ れ
た。
3)[ミ ニ チ ュ ア の 他 領 域 と の 関 連 ]の 結 果 お よ び 考 察
[ミ ニ チ ュ ア の 他 領 域 と の 関 連 ]は ,「 ミ ニ チ ュ ア や そ の 要 素 が ,他 領 域 が も つ 意 味 や イ メ
ー ジ と 深 く 関 係 し て い る 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。 本 概 念 の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 82: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 5,18∼ 19,32∼ 35
B 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 5 で ,か ご を 2 つ ,仕 切 り の 左 側 に 配 置 し た 。
制 作 過 程 18 で ,仕 切 り 右 側 の 中 央 に バ オ バ ブ の 木 を 置 い た 。制 作 過 程 19 で ,仕 切 り 左 側 に
亀 と イ グ ア ナ を 置 い た 。 制 作 過 程 32 で ,チ ェ ン ソ ー と 斧 を も っ た 人 形 を 迷 い な が ら 選 び ,
続 く 制 作 過 程 33 で ,そ の 2 体 の 人 形 を イ グ ア ナ の 近 く に 配 置 し た 。制 作 過 程 34 で ,十 字 架
を 選 び ,続 く 制 作 過 程 35 で ,十 字 架 像 を ,自 己 像 で あ る 亀 の 背 中 に 乗 せ る よ う に 配 置 し た 。
これらの箱庭制作過程について B 氏は調査的説明過程で見守り手の質問に答えて以下のよ
う に 語 っ た 。 < 最 後 に , 十 字 架 を 亀 の 上 に 置 か れ た 。 こ の あ た り で ,ま た , 何 か ,感 覚 的 な ,
あ る い は 変 化 ,あ る い は ,思 い 。> う ー ー ん 。そ れ は た ぶ ん ,こ の 一 連 の 壁 と か ,籠 と か ,ト カ
ゲ と か の 出 来 事 と い う の が ま さ に ,(現 実 の 場 で の )出 来 事 で あ る が ゆ え に ,あ の ,う ん と ,よ
かみぞう
り ,う ん と ,意 識 化 さ れ た と こ ろ の ,そ の ,神 像 と い う ん で し ょ う か 。 今 回 な ん か っ て い う の
は ,こ の 十 字 架 の イ エ ス 。 キ リ ス ト と か ,と い う と こ ろ の 部 分 は ,と て も ,表 現 す る の に は 的
確 で ,的 を い て る 。と い う 感 じ が し た ん で す( B 氏 調 査 ,2-複 数 過 程 に 亘 っ て )。第 2 回 ふ り
か え り 面 接 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。[か ご と 葉 を つ け な い バ オ バ ブ の 木 よ う な も の だ と か ,
攻 撃 的 な も の と い う と こ と の 部 分 の や り と り が あ っ た と 思 う ん で す け ど も ,(中 略 ) そ う い
う 話 の や り と り の 中 で ,頭 の 中 で は 具 体 的 な 人 物 の 顔 な ん か が 思 い 浮 か ん だ り っ て い う こ
と で ,あ あ 疲 れ る な ー と い う 意 味 で の「 心 労 」っ て い う も の を 改 め て 感 じ た ]。イ グ ア ナ (ト
カ ゲ )や チ ェ ン ソ ー , 斧 を も っ た 人 物 は 現 実 の 攻 撃 的 な 人 々 の イ メ ー ジ で あ っ た 。 か ご や バ
オ バ ブ の 木 は そ の 攻 撃 に 曝 さ れ て い る B 氏 の 空 虚 さ や 心 労 を 象 徴 し て い た 。B 氏 が 被 っ て
いる攻撃やその心労は明確にイメージできる現実の場での出来事であった。十字架もまた
かみぞう
意 識 化 さ れ た 神 像 (神 の イ メ ー ジ )で あ っ た 。B 氏 は ,こ の よ う な 現 実 的 な 構 成 の 中 で ,十 字 架
は意識化された神像として的を射ていると感じた。十字架の表現が的を射ているという内
的 プ ロ セ ス は ,他 領 域 ( イ グ ア ナ や チ ェ ン ソ ー ・ 斧 を も っ た 人 物 , か ご や バ オ バ ブ の 木 ) の 表
現 と の 関 連 の 中 で 感 じ ら れ た も の で あ っ た 。 [ミ ニ チ ュ ア の 他 領 域 と の 関 連 ]で 的 を 射 た 表
現 が で き る こ と を 通 し て ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 作 品 は B 氏 の 内 界 を 反 映 し た も の と
なったと捉えることができる。その構成や構成について語りを通して, B 氏は自己への理
解が深まったと考えることができる。
- 119 -
◆ 具 体 例 83: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 5,11
A 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 5 で ,埴 輪 と 土 偶 を も っ て き て ,砂 箱 の 中 に 仮
に 置 い て い た 。 制 作 過 程 11 で , 白 い 石 を 砂 箱 左 奥 の 陸 地 ,川 岸 に 置 い た 。 左 下 隅 の 山 の
砂 を 左 奥 に 移 し ,そ の 山 の ふ も と に 埴 輪 や 土 偶 を 置 い た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,
自 発 的 説 明 過 程 で ち ょ っ と 奥 の 方 の 山 の 上 の 方 だ っ た ら ,あ あ い う 石 を 置 け る な と 思 っ て ,
石 を 置 い て < う ん う ん う ん > そ う し た 時 に ,こ の 人 た ち も ,山 の 奥 の ほ う だ っ た ら い て も ら
ってもいいな<はぁーー>この辺の手前のほうにはちょっと置けない<置けない>うん手
前のほうにいる生き物とはちょっと違う生き物のような気がして置けなかったですね(A
氏 自 発 ,2-11)と 語 っ た 。そ し て ,内 省 報 告 に は ,石 に ,生 命 感 は 薄 く て ,動 き 出 す こ と が な い
も の , は っ き り と し た 形 を ま だ 持 た な い ,抽 象 的 な も の な ど 多 様 な 意 味 が 付 与 さ れ て い た
こ と が 記 さ れ た (pp.36-37 ◆ 具 体 例 8 参 照 )。 A 氏 は 大 き な 石 を 山 の 奥 の 方 に 置 き ,山 を 砂
箱 左 奥 隅 に 移 動 し た 。 そ の よ う な 構 成 の 変 化 に よ っ て ,埴 輪 や 土 偶 も 山 の 奥 で あ れ ば ,い て
も い い と 思 っ た 。し か し ,そ れ ら は ,半 分 い の ち で は な い も の に な っ て い る た め ,動 物 や 人 と
は 違 う 生 き 物 で あ り ,動 物 や 人 の 世 界 に は 入 っ て き て は い け な い と 感 じ た ,と 捉 え ら れ る
(p.42 ◆ 具 体 例 12,pp.44-45 ◆ 具 体 例 14 参 照 )。 こ の 具 体 例 で は ,埴 輪 ・ 土 偶 は ,石 や 山 と
の 関 連 性 ・ 類 似 性 を も つ と 同 時 に ,動 物 や 人 と は 異 質 性 を も つ こ と が ,構 成 に 影 響 し た こ と
が 示 さ れ た 。類 似 性 や 異 質 性 が 充 分 に 照 合 さ れ ,埴 輪・土 偶 は 山 の ふ も と に 置 か れ た と 理 解
で き る 。[ミ ニ チ ュ ア の 他 領 域 と の 関 連 ]に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス が 充 分 に 照 合 さ れ ,構 成 さ れ
る こ と に よ り ,A 氏 は こ れ ら の ミ ニ チ ュ ア が も つ 自 分 に と っ て の 意 味 に つ い て 理 解 を 深 め
る と と も に ,そ の よ う な 構 成 を 行 っ た 自 分 へ の 理 解 を も 深 め る こ と が で き た と 解 釈 で き る 。
[ミ ニ チ ュ ア を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]で 検 討 し た A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面
接 の ,他 の ア イ テ ム が 増 え る こ と に よ っ て ,亀 が 進 む こ と が で き た と い う 主 観 的 体 験 の 語 り
(pp.115-116 ◆ 具 体 例 80 参 照 )は ,本 概 念 の 具 体 例 で も あ る 。
◆ 具 体 例 82,83 と ,◆ 具 体 例 80 は 共 通 点 と 相 違 点 を も っ て い る 。 ミ ニ チ ュ ア や 構 成 の 組
み 合 わ せ に よ っ て ,構 成 が 決 定 ,展 開 し て い く と い う 点 で は 共 通 し て い る 。し か し ,◆ 具 体 例
80 で は ,意 識 の 背 景 に お け る 連 動 が 大 き く 影 響 し て い た の に 対 し て ,◆ 具 体 例 82 と 83 で は
他領域からの影響が箱庭制作者に明瞭に意識化されているという点において異なっている。
本 概 念 に は ,[ミ ニ チ ュ ア の 他 領 域 と の 関 連 ]が 明 瞭 に 意 識 化 さ れ て い る 場 合 と そ う で は な
い場合の両方があることが示された。
[ミ ニ チ ュ ア の 他 領 域 と の 関 連 ]は ,複 数 の 領 域 が 関 連 性 を も っ た り ,ス ト ー リ ー が 生 ま れ
る こ と に 寄 与 す る と 考 え る こ と が で き る 。こ の よ う な 関 連 性 や ス ト ー リ ー に よ っ て , 箱 庭 作
品 は ,あ る ま と ま り を も っ た 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス ,心 的 状 況 の 表 現 に な る ,と 考 え る
こ と が で き る 。反 対 に そ の よ う な 関 連 性 が 生 ま れ な い 場 合 ,各 ミ ニ チ ュ ア や 領 域 が ま と ま り
を も た な い 羅 列 的 表 現 (木 村 ,1985,p.45)に な る ,と も 考 え ら れ る 。 そ し て ,箱 庭 作 品 の ま と
ま り や ス ト ー リ ー が 生 ま れ る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 は ,箱 庭 制 作 者 の こ こ ろ を 充 分 に
表 現 で き る 媒 体 と な る 。 ま た ,他 領 域 と の 関 連 性 は 明 瞭 に 意 識 化 さ れ て い な い 場 合 も あ り ,
箱 庭 作 品 が 箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 越 え た も の と な る 一 因 と も な り う る 。 こ の よ う に ,[ミ ニ チ
ュ ア の 他 領 域 と の 関 連 ]は ,箱 庭 作 品 の ま と ま り や ス ト ー リ ー を 生 ん だ り ,箱 庭 制 作 者 の 意
- 120 -
図 を 越 え た も の と な る 一 因 と な る 概 念 で あ り ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解・自 己 成 長 の 促 進 に 寄
与すると考えられる。
Ⅶ -2. 「構 成 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー ・ 概 念 群 の 結 果 お よ び 考 察
「構 成 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー・概 念 群 に は ,カ テ ゴ リ ー < ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ
ス > と ,そ の 中 に [構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ],[代 替 と し て の ミ
ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 の 利 用 ]の 2 概 念 が あ っ た 。 ま た ,そ の カ テ ゴ リ ー 外 に ,2 概 念 [作 ら れ
な か っ た 構 成 ]と [説 明 過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ ス ]が あ っ た 。 本 研 究 に お い
て ,ミ ニ チ ュ ア 選 択 と い う 用 語 は ,棚 に お か れ た ミ ニ チ ュ ア を 箱 庭 制 作 者 が 選 ぶ 行 為 だ け で
な く ,そ れ に 加 え て 砂 箱 内 で ,箱 庭 制 作 者 が あ る ミ ニ チ ュ ア を 置 い て み た り ,複 数 の ミ ニ チ
ュ ア を 置 き 比 べ た り し て そ の 構 成 と 内 的 プ ロ セ ス を 照 合 し た 後 に ,ミ ニ チ ュ ア を 選 択 す る ,
あ る い は ,選 択 し な い と い う 場 合 も 含 め て 使 用 す る 。
Ⅶ -2-1.< ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > と [構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選
択 へ の 影 響 ],[代 替 と し て の ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 の 利 用 ]の 結 果 お よ び 考 察
カ テ ゴ リ ー < ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > と , そ の 中 の 2 概 念 [構 成 を 巡 る 内 的 プ
ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ],[代 替 と し て の ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 の 利 用 ]の 結 果 お
よび考察を以下に記す。
1)< ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > の 結 果 お よ び 考 察
< ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > は ,「ミ ニ チ ュ ア を 選 択 す る 際 の 意 図 ,感 覚 ,感 情 ,イ メ
ー ジ ,意 味 な ど の 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。 本 カ テ ゴ リ ー の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 84: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 32
B 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,チ ェ ン ソ ー と 斧 を も つ 人 を 迷 い な が ら 選 ん だ 。そ の 箱 庭 制
作 過 程 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。人 形 を 選 ぶ と き に ,銃 を も っ た 人 を
選 ぶ か ,迷 っ た ん で す 。 で ,そ の ,そ れ か ,ま あ ,そ の ,チ ェ ン ソ ー と か オ ノ を 持 っ て い る 人 の
方 が ,そ の ,な ん て い う ん で し ょ う 。攻 撃 性 ,人 の 攻 撃 性 み た い な も の を ,そ の ,な ん か よ く 出
し て い る か な と 。そ の つ ま り ,銃 を も っ た り と か ,戦 争 を や っ て る 人 の 感 じ と い う の は ,明 ら
か に ,そ の ,し よ う と 思 っ て ,な ん か ,こ の ,そ れ に 取 り 組 ん で る み た い な 。 で も ,そ う じ ゃ な
く て ,ど ち ら か と い う と ,意 識 せ ず と も 御 し き れ な い ,そ の 暴 力 性 み た い な 部 分 だ と か ,っ て
い う と こ ろ の 部 分 を な ん か ,あ の ,ま あ ,却 っ て 銃 を も っ て い る 人 と か は ,表 わ し て な い よ う
な 気 が し た ん で す ね 。む し ろ ,な ん か ,こ れ は 働 く 人 の 人 形 だ と 思 っ た ん で す け ど ,こ っ ち の
方 が し っ く り く る か な 。そ の 攻 撃 性 ,暴 力 性 み た い な も の が む し ろ( B 氏 調 査 ,2-32)。こ の
具 体 例 で は ,銃 を も つ 人 を 選 ぶ か 迷 っ た が ,兵 士 は 意 図 的 に 攻 撃 に 取 り 組 ん で い る た め ,御
し き れ な い 人 間 の 暴 力 性 を 表 す に は ,チ ェ ン ソ ー と 斧 を も つ 人 の 方 が し っ く り く る た め ,選
ん だ こ と が 示 さ れ た 。こ の 選 択 は ,B 氏 が 迷 い つ つ も ,自 分 の 感 覚 と 照 合 し て ,意 図 的 に な さ
れ た こ と が 示 さ れ た 。こ の 具 体 例 か ら ,比 較 的 明 確 な イ メ ー ジ を も っ て ミ ニ チ ュ ア を 探 し に
行 き ,複 数 の 候 補 の 中 か ら 感 覚 と 照 合 し ,意 図 的 に ミ ニ チ ュ ア 選 択 が な さ れ る 場 合 が あ る こ
と が 示 さ れ た 。複 数 の 候 補 の 中 か ら 感 覚 と 照 合 し て な さ れ た ミ ニ チ ュ ア 選 択 は ,ぴ っ た り な
箱庭表現を可能にする。B 氏は本具体例に示された<ミニチュア選択の内的プロセス>に
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よ っ て ,自 分 の 内 的 プ ロ セ ス に ぴ っ た り な 表 現 を 行 う と と も に ,こ の 表 現 を 巡 る 自 分 の 内 的
プロセスへの理解を深めることができたと捉えられる。
◆ 具 体 例 85: B 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 18∼ 19
B 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 18 で 人 を 選 び ,続 く 制 作 過 程 19 で 祈 る 人 の
位 置 を 微 調 整 し つ つ ,砂 箱 中 央 右 寄 り に 2 体 ,左 斜 め 上 の 向 き に 置 い た (写 真 21)。 そ の 箱 庭
制 作 過 程 に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。気 持 ち 的 に は ,祈 り 心 な し に は ,
そ の ,つ な が っ て い け な い 。そ の ,あ ん ま り や っ ぱ り し っ か り と し た ,あ の ,基 盤 と か , そ う い
っ た も の が 見 通 し の 中 で ,そ の , う ん ,あ の ,誰 も 保 証 さ れ て は い な い だ ろ う け ど も , 厚 み と
か い っ た ら ,何 が 起 こ る か わ か ん な い 。な に か 一 つ 大 き な こ と が あ れ ば ,あ の ,と ん 挫 し ち ゃ
う よ な 。そ う い っ た ,な ん と い う ん で し ょ う 。(中 略 )じ っ く り 慎 重 に こ と を 構 え て と い う 意
味 で の ,祈 り 心 で( B 氏 自 発 ,3-18)。人 形 が 2 体 あ る 点 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 筆 者 と B
氏 の 間 で ,以 下 の よ う な や り と り が あ っ た 。< こ の 人 形 を 祈 り 心 と お っ し ゃ ら れ た ん で す け
ど ,こ の 2 体 で あ る の っ て い う の は 何 か ? > あ あ 。そ う で す ね 。そ う 言 わ れ て み る と , 特 に ,2
人 と い う こ と よ り も ,厚 み み た い な 。 こ の ,祈 っ て い る と い う と こ ろ の ,そ の ,思 い 入 れ み た
い な と こ ろ が ,う ん ,と い う と こ ろ で ,た ぶ ん そ ん な と こ ろ の と こ ろ を 感 じ て ,2 体 も っ て き
た ん だ ろ う と 感 じ て お り ま す ( B 氏 調 査 ,3-18)。 祈 る 人 は ,道 の り の 不 安 定 さ と 祈 り 心 ( B
氏 内 省 ,3-18,自 発 ・ 感 覚 ) と い う 感 覚 や イ メ ー ジ が 付 与 さ れ て い た 。
祈 る 人 の ミ ニ チ ュ ア に 関 し て ,B 氏 は ,何 が 起 こ る か わ か ら ず ,大 き な こ と が あ れ ば 頓 挫 し
て し ま う よ う な 人 生 に お い て ,祈 り 心 は 基 盤 で あ り ,慎 重 に こ と を 構 え る こ と が 必 要 だ と 考
え て い た ,と 捉 え る こ と が で き る 。こ の よ う に 祈 る 人 は B 氏 の 人 生 観 を 表 す 重 要 な ミ ニ チ ュ
ア で あ る 。 こ の 重 要 な ミ ニ チ ュ ア 選 択 を 行 い ,そ の 内 的 プ ロ セ ス を 意 識 化 す る こ と は ,B 氏
の自己理解の深化に寄与したと考えられる。
と こ ろ が ,祈 る 人 が 2 体 で あ る 点 に つ い て の ,筆 者 の 質 問 は ,B 氏 に は 意 外 な も の だ っ た よ
う で あ る 。 祈 り の 思 い 入 れ ,厚 み だ ろ う と 答 え て い る が ,「そ う 言 わ れ て み る と 」「だ ろ う 」と
あ い ま い な 点 が あ る 。祈 る 人 を 選 ぶ こ と 自 体 の 意 味 は 明 確 で あ る が ,2 体 で あ る こ と の 意 味
は 不 明 確 な 部 分 が あ っ た ,と 捉 え ら れ る 。◆ 具 体 例 85 で は ,ミ ニ チ ュ ア の 象 徴 的 意 味 は 明 瞭
で あ る が ,ミ ニ チ ュ ア の 数 に 関 し て ,数 に 意
味 が な い わ け で は な い に も 関 わ ら ず ,そ の
数の意味については不明瞭であるように,
部分的に意図が不明瞭な場合があることが
示された。
◆ 具 体 例 86: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制
作 過 程 10
A 氏 は 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,ペ ン ギ ン
の 近 く に 巻 貝 を 2 個 置 い た 。そ の 箱 庭 制 作
過 程 に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程 で こ の 貝 は ,
二つはエー,貝殻を漁っていたらば思いが
けなくきれいな貝が出てきたので,ちょっ
写 真 21
B 氏 第 3 回 作 品 (写 真 中 央 右 に 2
体の祈る人)
- 122 -
とうれしくなって<はぁ>何かこう,大事な物というかご褒美のような,なんかそんなつ
も り で , 浜 に 打 ち 上 げ ら れ て い る 物 と し て そ こ に 置 き ま し た ( A 氏 自 発 ,6-10) と 語 っ た 。
貝 殻 の 発 見 は 偶 然 で あ っ た が ,見 つ け た 時 の 内 的 プ ロ セ ス に 従 っ て ,特 別 な も の と し て 選 択
し た ,と 捉 え ら れ る 。こ の よ う に 偶 然 が 関 係 し た ミ ニ チ ュ ア 選 択 の パ タ ー ン が あ る こ と が 示
さ れ た 。偶 然 が 関 係 し た ミ ニ チ ュ ア 選 択 は ,箱 庭 制 作 面 接 で 非 意 図 的 な 構 成 が 生 じ る 一 因 と
なると考えることができる。
◆ 具 体 例 84∼ 86 か ら ,ミ ニ チ ュ ア 選 択 に は ,明 瞭 な 意 図 に 従 っ て な さ れ る 場 合 や 部 分 的
に は 意 図 が 不 明 瞭 な 場 合 や 偶 然 が 関 与 す る 場 合 の よ う に ,様 々 な パ タ ー ン が あ る こ と が 見
い だ さ れ た 。明 瞭 な 意 図 を も っ て ミ ニ チ ュ ア 選 択 が な さ れ ,そ の ミ ニ チ ュ ア を 用 い て 構 成 し
た 場 合 ,箱 庭 制 作 者 が 納 得 で き る 構 成 が な さ れ る だ ろ う 。 そ の 上 で ,部 分 的 な 不 明 瞭 性 や 偶
然 が 関 与 し た ミ ニ チ ュ ア 選 択 も 加 わ る こ と に よ っ て ,箱 庭 作 品 の 構 成 は 箱 庭 制 作 者 の 意
図 ・ 意 識 を 越 え た 構 成 に な り う る ,と い う こ と が で き る 。 河 合 隼 雄 (1991)は ,箱 庭 療 法 を 外
在 化 さ れ た イ メ ー ジ か ら 考 察 す る 中 で ,で き る 限 り 自 由 な 表 現 活 動 に よ っ て ,「 作 っ て い る
う ち に 自 分 で も 思 い が け な い 表 現 が 生 じ て き た り ,作 っ た イ メ ー ジ に 刺 戟 さ れ て ,お も い が
け ぬ 発 展 や 変 更 が 生 じ た り 」 す る 場 合 が あ る と し て い る (p.26)。 部 分 的 な 不 明 瞭 性 や 偶 然
が 関 与 し た ミ ニ チ ュ ア 選 択 は ,お も い が け ぬ 発 展 や 変 更 が 生 じ る 一 因 と 考 え ら れ る 。本 項 の
◆ 具 体 例 84∼ 86 と 河 合 の 考 え を 考 え 合 わ せ る と ,意 図 ・ 非 意 図 的 な 両 要 因 を 含 む < ミ ニ チ
ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る 。
2)[構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察
< ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > 内 の [構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ
の 影 響 ]の 結 果 お よ び 考 察 を 記 す 。 [構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ]
は , 「構 成 に ,感 覚 ,感 情 ,イ メ ー ジ ,意 味 な ど が 喚 起 ・ 付 与 さ れ ,そ れ ら が ミ ニ チ ュ ア 選 択 に 与
え る 影 響 」と 定 義 さ れ た 。以 下 の 2 具 体 例 (◆ 具 体 例 87 と 88)は ,Ⅵ -3-4.の [他 の 領 域 の 構 成
へ の 影 響 ]と 類 似 点 が あ る 。し か し ,本 項 の ◆ 具 体 例 87 と 88 は ,構 成 に 至 る 前 に ミ ニ チ ュ ア
を 置 き 比 べ る な ど の 照 合 作 業 を 伴 っ た ミ ニ チ ュ ア 選 択 に ,よ り 比 重 の あ る 具 体 例 で あ る 。そ
れ に 対 し て ,[他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 ]は ,形 づ く る と い う 過 程 や そ の 結 果 に よ り 比 重 の あ
る具体例によって生成された概念である。
◆ 具 体 例 87: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 9∼ 11
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,砂 箱 左 上 隅 で 金 色 の ベ ル と マ リ ア 像 を
森 に 置 き 比 べ ,マ リ ア 像 を 選 び ,置 い た 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 内 省 報 告 に 守 り に な る
も の が 置 き た か っ た 。 そ の 場 所 に 命 を 吹 き 込 み ,命 を 見 守 る も の が 欲 し く て ( A 氏 内
省 ,1-11,制 作・意 図 )と 記 し た 。A 氏 は 制 作 過 程 9 や 10 で ,砂 箱 左 上 隅 に 花 や 家 を 置 い た 。
そ の 構 成 を 受 け て ,そ こ に 命 を 吹 き 込 み ,命 を 見 守 る も の が 欲 し く な っ た 。そ し て ,金 色 の ベ
ル と マ リ ア 像 を 棚 か ら 選 び ,そ の 領 域 で 置 き 比 べ ,マ リ ア 像 を 選 択 し た ,と 捉 え ら れ る 。こ の
具 体 例 は ,a.前 に な さ れ た 構 成 が 内 的 プ ロ セ ス を 喚 起 し て ,次 の ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 構 成 が な
されるという連動性を示すものであると考えられる。A 氏はこのミニチュア選択と構成を
通 し て ,こ の 構 成 に 命 を 吹 き 込 み ,命 を 見 守 る も の を 必 要 と し て い る 自 己 の 内 的 プ ロ セ ス へ
の気づきをえたと考えられる。
- 123 -
◆ 具 体 例 88: A 氏 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10,全 体 的 感 想
A 氏 は 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 10 で ,2 匹 の 犬 と イ ン パ ラ を 女 の 子 の 人 形 の
周 囲 で 置 き 比 べ ,イ ン パ ラ を 選 ん だ (写 真 2 2)。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程
で以下のように語った。何がいけなかったんでしょうね,犬では。よくわからないんです
ね。犬はインパラの代わり,あの,現実世界でインパラをつれて散策するなんてのはちょ
っとな,ないので‘笑’<まあね>はい,あの,犬の方がいいのかしらと思って犬を持っ
てきたんですけど,やっぱりインパラじゃなきゃここの世界ではだめなんだ。あの,映画
館の時には,でも,犬でもよかったろうと思うんですけど,ここの世界インパラしかだめ
だ と 思 っ ち ゃ い ま し た ね ( A 氏 調 査 ,10-10)。 前 回 の 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で 構 成 さ れ た の
は ,現 実 的 な 世 界 だ っ た 。そ れ に 対 し て ,第 10 回 は 私 の 中 の 奥 ま っ た と こ ろ の を 作 っ た( A
氏 調 査 ,10-全 体 的 感 想 )。 現 実 的 な 世 界 で は 犬 で も よ か っ た だ ろ う が ,今 回 の 私 の 中 の 奥 ま
っ た 世 界 で は ,イ ン パ ラ で な い と だ め だ ,と A 氏 は 感 じ ,イ ン パ ラ を 選 択 し た と 捉 え ら れ る 。
こ の 具 体 例 は ,b .あ る 領 域 で は な く ,作 品 全 体 の 象 徴 的 意 味 が 内 的 プ ロ セ ス や ミ ニ チ ュ ア 選
択に影響を及ぼす場合があることを示すものであると考えられる。ただ, よくわからない
ん で す ね 。と い う 発 言 が あ る こ と を 考 え れ ば ,こ こ の 世 界 イ ン パ ラ し か だ め だ と 思 っ ち ゃ い
ま し た ね は ,調 査 的 説 明 過 程 に お け る A 氏 の ミ ニ チ ュ ア 選 択 に 対 す る 意 味 づ け と 判 断 す る
こ と も で き る 。 し か し ,こ の 具 体 例 全 体 の 文 脈 や 語 り 口 調 を 踏 ま え る と ,箱 庭 制 作 過 程 で の
ミ ニ チ ュ ア 選 択 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス か ら 大 き く 異 な る 語 り で は な く ,語 り を 通 し て ,ミ ニ
チ ュ ア 選 択 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス が よ り 明 瞭 に A 氏 に 捉 え ら れ た の だ ,と 理 解 で き る 。A 氏
は こ の 構 成 や 構 成 に つ い て の 語 り を 通 し て ,私 の 中 の 奥 ま っ た と こ ろ で 自 分 に 同 伴 す る の
に ふ さ わ し い 存 在 は イ ン パ ラ で あ る ,と い う 内 的 プ ロ セ ス に 気 づ い た と 考 え ら れ る 。
a と b の よ う な ,全 体 と 部 分 ,あ る 領 域 に お け る 関 連 性・連 動 性 に よ っ て ,あ る ミ ニ チ ュ ア
が 選 択 さ れ る 場 合 が あ る ,と 考 え る こ と が で き る 。 そ し て ,そ の よ う に し て 選 択 さ れ た ミ ニ
チ ュ ア を 用 い た 構 成 に 関 連 性 が 生 ま れ た り ,ス ト ー リ ー が 生 ま れ る 。ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 構 成
の 関 連 性 や 生 ま れ た ス ト ー リ ー に よ っ て ,箱 庭 作 品 は ,あ る ま と ま り を も っ た 箱 庭 制 作 者 の
内 的 プ ロ セ ス ,心 的 状 況 の 表 現 に な る ,と 理 解 で き る 。 こ の 構 成 の 関 連 性 は ,[他 の 領 域 の 構
成 へ の 影 響 ], Ⅶ -1 . の [ ミ ニ チ ュ ア の 他 領 域
と の 関 連 ]と と も に ,箱 庭 作 品 の ま と ま り や ス
トーリーを生む重要な要因の一つと考えるこ
とができる。箱庭作品のまとまりやストーリ
ー が 生 ま れ る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 は ,
各ミニチュアや領域がまとまりをもたない羅
列 的 表 現 (木 村 ,1985,p .45)で は な く ,箱 庭 制 作
者の内的プロセスを充分に表現できる媒体に
な る と 同 時 に ,箱 庭 制 作 者 は そ の 構 成 や 構 成
に つ い て の 語 り を 通 し て ,自 己 へ の 気 づ き を
写 真 22
えることができる。箱庭作品のまとまりやス
右 岸 に イ ン パ ラ ,女 の 子 ,青 い 鳥 。川 は 写
ト ー リ ー を 生 む [構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス の
真手前から奥の方向に流れている。)
ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ]は ,箱 庭 制 作 者 の 自
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A 氏 第 10 回 作 品 (写 真 中 央 の
己理解を促進すると考えることができる。
次 に ,一 義 的 で な い 内 的 プ ロ セ ス が ミ ニ チ ュ ア 選 択 に 影 響 し た 具 体 例 を 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 89: A 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 16∼ 17
A 氏 は 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 16 で ,イ ン コ を 島 の 右 奥 ,山 頂 の や や 下 に 置 い
た 。続 く 制 作 過 程 17 で ,焚 き 火 と キ ノ コ を 島 の 左 手 前 に 置 い た 。そ の 後 ,り ん ご を 置 き 足 し
た 。右 側 の ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ て い な い 空 間 に つ い て ,A 氏 は 一 義 的 で な い 主 観 的 体 験 の 語
り や 記 述 を 報 告 し た 。 そ れ ら を 以 下 に 記 す 。 a.こ れ か ら 起 き る こ と の た め に 残 さ れ た 空 間
か ? ,b.動 物 同 士 ま た は 人 間 同 士 が 争 っ て い る よ う な 空 気 が か す か に あ り ,厳 し さ を 感 じ ,怖
か っ た ,c.そ の よ う な 感 じ が あ っ た の で ,幸 せ を 連 想 す る イ ン コ ,暖 ま る こ と が で き る 焚 き 火 ,
食 べ 物 ( キ ノ コ ,り ん ご ) を 置 い た d. 何 か を 置 き た い が 置 け な い ア ン ビ バ レ ン ト な 気 持 ち が
残 っ た が ,こ れ が 精 一 杯 だ っ た (p.90 ◆ 具 体 例 55 参 照 )。 こ の よ う な 一 義 的 で な い 内 的 プ ロ
セ ス を 感 じ つ つ ,そ れ を 受 け て ミ ニ チ ュ ア を 選 択 し ,構 成 を 続 け た が ,不 充 分 な 感 覚 を 残 し つ
つ 構 成 を 終 え た 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 だ ,と 捉 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 89 に 示 さ れ た [構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ]は 一 義 的
で な く ,そ の 内 的 プ ロ セ ス を A 氏 が 充 分 に 理 解 し え た と は 言 い 難 い 。ま た ,充 分 に 納 得 で き
る 形 で 制 作 を 終 え た わ け で は な い 。 こ の よ う な 場 合 ,継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 で は ,そ れ が 箱
庭 制 作 者 の 今 後 の 課 題 と な っ て ,そ の 後 の 箱 庭 制 作 面 接 に お い て 理 解 が 進 ん だ り ,そ の 課 題
を乗り越えるということが起こる場合がある。A 氏第 5 回箱庭制作面接のテーマが攻撃性
や 異 質 な 他 者 と の 関 係 性 に 関 す る も の で あ る と す る な ら ば ,A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 や 第
10 回 箱 庭 制 作 面 接 に こ れ ら の テ ー マ に 関 す る 表 現 と そ の 課 題 の 乗 り 越 え が あ っ た ,と 捉 え
る こ と も で き る 。 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,自 己 像 で あ る ペ ン ギ ン は ,恐 ろ し い サ メ が い る 海
で ,漁 を す る 強 さ を 身 に つ け た 。 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で A 氏 は ,様 々 な 視 点 か ら 他 者 を 見
て ,他 者 の 多 様 性 を 知 っ た 上 で ,他 者 が 自 分 の 心 の 中 に 入 っ て く る こ と を 許 し ,違 和 感 を 抱 え
つ つ 共 に 生 き よ う と す る 関 係 性 の 変 化 が 生 ま れ た ,と 理 解 で き た 。 多 義 的 な [構 成 を 巡 る 内
的 プ ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ]は ,そ れ が 何 を 意 味 す る の か 理 解 す る こ と が 簡 単 で
は な い 場 合 が あ る 。 し か し ,箱 庭 制 作 者 が 多 義 的 な 内 的 プ ロ セ ス に 目 を そ む け ず ,自 己 の 課
題 に 面 と 向 か う こ と を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 で き る ,と 考
えることができる。
3)[代 替 と し て の ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 の 利 用 ]の 結 果 お よ び 考 察
[代 替 と し て の ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 の 利 用 ] は , 「他 の ミ ニ チ ュ ア の 代 り と い う 意 味 を
含 ん だ ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 利 用 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス 」,と 定 義 さ れ た 。 本 概 念 の 具 体 例
を以下に挙げる。
◆ 具 体 例 90: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1,12
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で ,棚 に 置 か れ た 鳥 の 巣 を 手 に と り ,12 秒 ほ
ど じ っ と 見 る が ,そ れ を 選 ば ず ,棚 に 戻 し た 。 そ の 後 ,砂 箱 右 側 に 海 を 作 っ た 。 制 作 過 程 12
で ,サ ン ゴ と 貝 殻 を ,砂 箱 右 下 隅 の 海 中 と 砂 箱 中 央 下 の 海 岸 線 に 置 い た 。 そ れ ら の 箱 庭 制 作
過 程 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。棚 を み て て ね ,あ ,こ れ 置 き た く な る
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か も ,と 思 っ た お も ち ゃ が あ る け ど , あ れ は ,今 回 , ぴ っ た り こ な く て ね え < ど れ ? > こ の ,
ひ な 鳥 が 巣 に 入 っ て い る よ う な ,< う ん う ん う ん > こ れ ,な ん か ,心 ひ か れ た ん で す ね 。< あ
あ 。な る ほ ど > 今 回 ,< か な り 最 初 の 頃 だ よ ね > そ う ,最 初 の と き か ら ,観 た と き か ら 目 に は
い っ て て 。 う ん ,あ の ,ひ ょ っ と し た ら 使 い た い な っ て 思 っ て た ん だ け ど 。( A 氏 調 査 ,1-1)
海 が で き て , 持 っ て き た 段 階 で ,あ あ こ れ は ま だ ,ま だ と い う か 今 ,今 日 は 違 う な 。 な ん か ,
そ の 代 わ り の 貝 ,と い う 感 じ な ん で す ( A 氏 調 査 ,1-12)。 こ の 語 り に つ い て ,守 る ・ は ぐ く
む と い う 女 性 的 な 面 を 私 は 自 分 の も の に し て い る 。 5・ 6 年 前 ,女 性 性 を 受 け 入 れ ら れ て い
な か っ た 頃 の 自 分 と の 違 い を 感 じ る ( A 氏 内 省 ,1-12,調 査 ・ 意 味 ) と ,内 省 報 告 で 初 め て ,
鳥の巣や貝を自分の女性性と明示的に関連づけて報告された。
こ の 具 体 例 で は ,象 徴 的 意 味 の 類 似 性 と 全 体 的 な 構 成 が ミ ニ チ ュ ア 選 択 に 影 響 し た ,と
捉 え ら れ る 。A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,海 の 構 成 が 主 要 な テ ー マ の 一 つ で あ っ た 。鳥 の 巣
は 置 き た い ミ ニ チ ュ ア で あ っ た が ,そ の よ う な 構 成 の 中 で ,ぴ っ た り こ な い と A 氏 は 感 じ ,
女 性 性 と い う 象 徴 的 意 味 に お い て 類 似 の 貝 を 選 び ,置 い た ,と 理 解 で き る 。 A 氏 第 1 回 箱 庭
制 作 面 接 の 全 体 的 な 構 成 の 中 で ,貝 は 鳥 の 巣 よ り も ぴ っ た り な ミ ニ チ ュ ア で あ っ た 。そ の よ
う な ぴ っ た り 感 の あ る [代 替 と し て の ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 の 利 用 ]が で き た か ら こ そ , A
氏は守る・はぐくむという女性的な面を私は自分のものにしているという自己への気づき
をえることができたと考えることができる。
◆ 具 体 例 91: B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,島 の 中 央 部 に 樹 木 を 横 に 倒 し て 置 い た 。そ れ ら の 箱 庭 制 作
過 程 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。私 の 印 象 で は ,な ん か ,例 え ば で す ね 。
ど で か い ,そ の ,小 高 い ,こ の 木 が ど ー ー ん と 1 本 あ る っ て い う よ う な イ メ ー ジ は な く て 。と
に か く ,低 い ,背 が 低 く て ,広 が っ て い る 。そ の ,で も 緑 が 深 く あ る っ て い う よ う な 。だ か ら ,
ち ょ っ と ,ほ ん と は ,広 葉 樹 を も っ と ぐ あ ー ー と し き つ め た よ う な 感 じ と か 。あ と ,漠 然 と し
た よ う な 感 じ で ,そ の ,緑 を ,そ の 出 し た か っ た ん で す け ど 。ど う も ,あ の ,そ う い う 形 で は な
か っ た の で ,ど う も ,そ う い う 感 じ で は ,< そ う で す ね ー 難 し い で す ね > な か っ た の で ,と り
あ え ず ,代 用 品 と し て ,あ の ,こ れ を 寝 か せ て ,ま ぶ す っ て い う 感 じ で ,ち ょ っ と 表 現( B 氏 調
査 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て )。 B 氏 の イ メ ー ジ は ,背 の 低 い 木 が 深 く ,広 が っ て い る と い う イ メ
ー ジ で あ り ,広 葉 樹 が も っ と た く さ ん あ れ ば ,そ れ を 敷 き 詰 め た い 感 じ だ っ た 。し か し ,そ の
表 現 が 現 在 あ る ミ ニ チ ュ ア で は 困 難 だ っ た の で ,そ の 代 り に 木 を 寝 か せ て ,ま ぶ す よ う な 感
じで構成した。横に寝かせておかれた木々は上に挙げたようなイメージの代替的表現であ
っ た 。 こ の 具 体 例 は ,実 際 に 構 成 す る 際 ,イ メ ー ジ に ぴ っ た り な ミ ニ チ ュ ア が な い 場 合 の 代
替 的 表 現 に つ い て の 主 観 的 体 験 が 語 ら れ た 。 石 原 (2008)は ,「イ メ ー ジ を 現 物 の モ ノ に よ っ
て 具 体 化 す る こ と と モ ノ を イ メ ー ジ 化 し て 体 験 す る こ と が ,同 時 的 に 絡 み 合 っ て 起 き て い
る 」状 態 を モ ノ と イ メ ー ジ の 交 錯 と 呼 び ,調 査 研 究 の 一 つ の カ テ ゴ リ ー と し て 見 い 出 し た
(p.34)。 そ の カ テ ゴ リ ー の 中 に ,「モ ノ < イ メ ー ジ 」の 体 験 を 挙 げ ,そ れ を 「現 物 の モ ノ そ の も
の が 前 景 に 出 て く る よ り も ,イ メ ー ジ が 体 験 の 前 景 に 出 て い る と 考 え ら れ る 一 群 の 体 験 」と
し て い る (p.93)。 本 具 体 例 の 主 観 的 体 験 の 語 り は ,石 原 の 「モ ノ < イ メ ー ジ 」の 体 験 と 考 え る
こ と が で き る 。 B 氏 は 背 の 低 い 木 が 深 く ,広 が っ て い る と い う イ メ ー ジ ,広 葉 樹 が も っ と た
く さ ん あ れ ば ,そ れ を 敷 き 詰 め た い 感 じ を ,木 を 寝 か せ て ,ま ぶ す よ う な 感 じ で 構 成 し た 。客
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観 的 に 見 る と 現 物 の 木 が 倒 れ て い る と い う 状 況 な の だ が ,B 氏 の イ メ ー ジ の 中 で は ,現 物 の
木 と 緑 が 深 く 広 が っ て い る と い う イ メ ー ジ が 交 錯 し て い る た め ,違 和 感 を 感 じ な か っ た ,と
理 解 で き る 。 こ の よ う に し て ,B 氏 は イ メ ー ジ の 幅 を 広 げ ,代 替 的 表 現 を 用 い て 柔 軟 に 構 成
す る こ と が で き た ,と 捉 え ら れ る 。
島 の 中 央 部 に 樹 木 を 横 に 倒 し て 置 く と い う 構 成 は , 再 生 し て い く と い う 印 象 ,気 持 ち ( B
氏 自 発 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て ) が 表 現 さ れ た も の で あ り ,B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 重 要 な
テ ー マ の 表 現 で あ っ た 。B 氏 が イ メ ー ジ の 幅 を 広 げ ,代 替 的 表 現 を 用 い て 柔 軟 に 構 成 す る こ
と が で き た か ら こ そ ,再 生 し て い く と い う 印 象 ,気 持 ち の 表 現 が 可 能 と な っ た 。 B 氏 は こ の
構 成 を 通 し て ,今 の 自 分 の 心 理 的 状 況 を 表 現 し ,そ の 表 現 を 通 し て , 自 己 へ の 理 解 を 深 め る
ことができたと考えられる。
次 の 具 体 例 は ,砂 箱 の 底 の 色 を 利 用 し た 装 置 に よ る 代 替 的 表 現 の 例 で あ る 。
◆ 具 体 例 92: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2
B 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 中 央 に 泉 を 作 っ た 。そ の 泉 は 生 命 の 源( B 氏 内 省 ,1-2,
制 作 ・ 意 図 ) ,神 ,生 命 ( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 連 想 ) と い う 多 様 な イ メ ー ジ や 意 味 を も っ た
構成であった。その箱庭制作過程について自発的説明過程で以下のように語った。水って
い う の は ,す ご く 生 き 物 が 生 き る 上 で と て も 大 切 な も の で あ ろ う よ う に 思 う ん で す ね 。そ の
湧 き あ が る 水 を 表 現 し た か っ た 。つ ま り ,も り あ が る 。こ ん こ ん と わ き あ が っ て く る よ う な 。
そ れ を 物 を 使 っ て 表 現 す る こ と が で き な か っ た の で ,そ れ を 真 ん 中 で こ の 下 地 の 青 を 利 用
し て と い う と こ ろ で ,そ の し た ん で す け ど( B 氏 自 発 ,1-2)。B 氏 は 生 命 の 源 ,神 と い う よ う
な 多 様 な イ メ ー ジ を も っ た 湧 き 上 が る 水 を 表 現 し た か っ た 。し か し ,そ れ を ミ ニ チ ュ ア で 表
現 す る こ と は 困 難 で あ っ た 。 そ の た め に ,砂 箱 底 の 青 色 を 利 用 し て ,泉 を 作 る こ と で 表 現 し
た。この構成がミニチュアの代替的要素もあったことが示された。
◆ 具 体 例 92 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で は ,さ ら に 詳 細 な 報 告 が な さ れ た 。 B 氏 は ,宗 教
的 な ミ ニ チ ュ ア は 大 切 な も の と い う 意 識 が あ り ,水 と し て 表 し た も の は ,そ う い う も の に つ
な が っ て い る よ う な と こ ろ が あ る と 思 う 。 し か し ,そ れ を 表 す の に ,十 字 架 や マ リ ア 像 を 置
く こ と に は 抵 抗 が あ っ た 。 十 字 架 や マ リ ア 像 は , 人 為 的 な 形 ,シ ン ボ ル で あ り ,自 分 が 感 じ
て い る も の を 表 現 し つ く せ な い ,と 語 っ た (p.34 ◆ 具 体 例 6 参 照 )。そ れ に 続 い て ,そ れ を 置
く と か え っ て ,そ の ,自 分 が 感 じ て い る と か ,思 っ て い る ,そ の , こ ん こ ん と わ き 出 る よ う な
躍 動 感 と か い う 意 味 で な ん か ,表 わ す に は ち ょ っ と み す ぼ ら し す ぎ る と い う か 。 う ん ,で ま
あ ,そ れ は 逆 に 選 ぶ 気 に な れ な か っ た ( B 氏 調 査 ,1-2) と 語 っ た 。 ◆ 具 体 例 92 で は , 内 的
イ メ ー ジ を あ る 種 の ミ ニ チ ュ ア で 表 現 す る こ と に 抵 抗 感 を 感 じ ,そ れ ら の ミ ニ チ ュ ア で は
表 現 し つ く せ な い こ と が 明 確 に 把 握 さ れ て い る 。そ し て ,そ の 内 的 イ メ ー ジ を 表 現 す る た め
に ,ミ ニ チ ュ ア を 使 用 す る こ と は せ ず ,意 図 的・積 極 的 に ,砂 箱 の 底 の 色 と い う 装 置 を 利 用 し
た 構 成 に よ っ て 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス に よ り ぴ っ た り な 表 現 を 行 っ た ,と 捉 え る こ と が で き
る 。 B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 泉 の 構 成 は ,ミ ニ チ ュ ア の 代 替 的 要 素 も あ っ た が ,生 命 の 源
( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 意 図 ),神 ,生 命( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 連 想 )と い う イ メ ー ジ や こ ん
こ ん と わ き 出 る よ う な 躍 動 感 と い う 感 覚 の 表 現 と し て ,よ り 本 質 的 な 表 現 に な っ た と 考 え
る こ と が で き る 。B 氏 は こ の 構 成 を 通 し て ,自 己 の 内 的 プ ロ セ ス を よ り 本 質 的 に 表 現 す る こ
と や そ の 構 成 に つ い て 語 る こ と を 通 し て ,こ の 構 成 の 自 分 に と っ て の 意 味 や ,そ の よ う な 表
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現 を 行 う 自 分 自 身 へ の 理 解 を 深 め る こ と が で き た ,と 考 え ら れ る 。
本 項 の ◆ 具 体 例 90∼ 具 体 例 92 に は ,ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 の 利 用 の お け る 代 替 的 表 現 が
見 い だ さ れ た 。箱 庭 制 作 面 接 室 に 準 備 さ れ て い る ミ ニ チ ュ ア に は 数 ,種 類 に 一 定 の 限 度 が あ
り ,自 分 の イ メ ー ジ そ の ま ま の ミ ニ チ ュ ア が な い 場 合 が あ る 。 そ の よ う な 場 合 に ,現 物 の モ
ノ を 使 っ て イ メ ー ジ を 表 現 す る に は ,ミ ニ チ ュ ア に 自 分 の イ メ ー ジ を 重 ね る 幅 広 さ や 柔 軟
性 が 必 要 に な る (東 山 ,1994,p.31)。 ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 装 置 の 利 用 の お け る 代 替 的 表 現 は ,装
置に自分のイメージを重ねる幅広さや柔軟性という心の特性に支えられていると言うこと
が で き る 。イ メ ー ジ を 重 ね る 幅 広 さ や 柔 軟 性 の 一 つ の 要 因 と し て ,「モ ノ < イ メ ー ジ 」 の 体 験
(石 原 2008)を 生 む 心 の 特 性 が あ る こ と が ,◆ 具 体 例 91 か ら 見 い だ さ れ た 。 こ れ ら の 心 の 特
性 に よ っ て ,現 物 の モ ノ を 用 い る 箱 庭 制 作 面 接 が , 「 < こ こ ろ の こ と > と し て 機 能 を も つ よ
う に な っ て い く 」 (藤 原 ,2002,p.128)と 考 え る こ と が で き る 。 箱 庭 制 作 面 接 が < こ こ ろ の こ
と > と な り ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 代 替 的 表 現 を 用 い て 柔 軟 に ,ぴ っ た り な 形 で 表 現
さ れ る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 が 働 く と 考 え ら れ る 。
Ⅶ -2-2.< ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > に 含 ま れ な い [作 ら れ な か っ た 構 成 ]と [ 説 明
過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
サ ブ カ テ ゴ リ ー < ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > に 含 ま れ な い 2 概 念 [作 ら れ な か っ
た 構 成 ]と [説 明 過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察 を 以 下 に 記 す 。
1)[作 ら れ な か っ た 構 成 ]の 結 果 お よ び 考 察
[作 ら れ な か っ た 構 成 ] は , 「 実 際 に は 作 ら れ な か っ た 構 成 や 行 わ れ な か っ た ミ ニ チ ュ ア 選
択 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス 」,と 定 義 さ れ た 。本 概 念 の 具 体 例 に は ,箱 庭 制 作 者 が (1)納 得 し て ,
積 極 的 に そ の 構 成 を な さ な い , ミ ニ チ ュ ア 選 択 を 行 わ な い 場 合 と ,(2)消 極 的 な 選 択 と し て ,
そ の 構 成 を な さ な い ,そ の ミ ニ チ ュ ア 選 択 を 行 わ な い 場 合 と が あ っ た 。
(1)納 得 し て ,積 極 的 に そ の 構 成 を な さ な い ,ミ ニ チ ュ ア 選 択 を 行 わ な い 場 合 の 結 果 お よ
び考察
ま ず ,納 得 し て ,積 極 的 に そ の 構 成 を な さ な い 場 合 の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 93: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10
A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 右 上 隅 で タ コ の 半 身 が 貝 殻 で 隠 れ る よ う に 構 成 し た 。
その箱庭制作過程について自発的説明過程で以下のように語った。あんまり,タコも全部
見 え る と な ん な の で ,少 し 隠 れ る よ う に し て < あ ぁ な る ほ ど ,な る ほ ど > し て は み た ん で す
け ど ね ,(中 略 )全 部 出 て き て も い い ん だ け ど ,と っ と こ う と い う 感 じ か も し れ な い で す ね 。
(中 略 )全 部 出 る の は も う ち ょ っ と あ と で っ て い う 。 そ ん な 感 じ か も し れ な い で す ね ( A 氏
自 発 ,3-10)。 こ の よ う に 構 成 し た 理 由 に は や や 曖 昧 さ も 残 る が ,タ コ の 半 身 を 隠 し ,全 身 を
出 さ な い 構 成 自 体 に は ,迷 い な く ,積 極 的 に そ れ を 選 ん で い る こ と が 示 さ れ た 。 こ の 箱 庭 制
作 過 程 に つ い て 内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。 タ コ は ,私 に と っ て ,人 目 に さ ら し た く
な い 私 自 身 の あ る 側 面 な の か も し れ な い 。で き れ ば 本 当 は 自 分 で も 気 が つ か ず に い た い 。で
も ,確 か に あ る と 認 め ざ る を 得 な い 自 分 の 中 の 欲 求 や 傾 向 。そ ん な も の が 自 分 の 中 に 確 か に
あ る と 気 が つ い て い な が ら ,し か も , 時 に 半 身 さ ら す よ う な 状 態 で い な が ら ,あ え て 見 な い
よ う に し て い る 。 そ れ が 何 な の か ,そ の 全 体 像 を 私 自 身 把 握 で き て い な い か ら ,言 葉 に な ら
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な い の か も し れ な い ( A 氏 内 省 ,3-10,自 発 ・ 意 味 ) 。タ コ を 自 分 の 心 理 的 側 面 と 関 連 さ せ
た 言 及 は ,説 明 過 程 で な く ,内 省 報 告 で 初 め て 記 述 さ れ た 。 そ の た め ,こ の 気 づ き は , 内 省 報
告 を 作 成 す る 中 で 生 ま れ た も の と 推 測 で き る 。 そ の こ と を 踏 ま え る と ,こ の 構 成 は , 直 観 的
な 意 識 に よ っ て な さ れ た た め ,構 成 の 意 味 は 箱 庭 制 作 面 接 時 に は 箱 庭 制 作 者 も 把 握 し て い
な か っ た が ,内 省 す る こ と を 通 し て , そ の 意 味 に 気 づ く こ と ,あ る い は 意 味 づ け る こ と が で
き た と 解 釈 で き る 。そ し て ,こ の 気 づ き あ る い は 意 味 づ け に よ っ て , A 氏 は 自 己 へ の 理 解 を
深めることができたと考えることができる。
次 に ,納 得 し て ,積 極 的 に そ の ミ ニ チ ュ ア 選 択 を 行 わ な い 場 合 の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 94: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 14
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 14 で ,棚 に 亀 を 見 つ け ,砂 箱 右 上 隅 に 置 い た 。
そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 亀 の と こ に ね ー ,な ん
か ,も う ち ょ っ と こ う わ た し に と っ て 嫌 な も の( ほ お ー ー ー ー )を 置 こ う と 思 っ て 。嫌 な も
の っ て い う か ,ね え 。形 の な い ,な ん か こ う ,も の を 置 こ う か と 。(中 略 )探 し に い っ た ら 亀 と
目 が あ っ た ん で < な る ほ ど > あ ,こ れ は い い か も と 思 っ て ,そ れ は ち ょ っ と 嬉 し か っ た で す 。
(中 略 )あ の 爬 虫 類 の 棚 あ る じ ゃ な い で す か < あ る ね え > あ の ,爬 虫 類 と か ,そ の ワ ニ と か 恐
竜 と か < あ あ 。あ あ > あ の 辺 に あ る の か な と 思 っ て 行 っ た ら ば ,亀 が い た の で < な る ほ ど >
こ っ ち の 方 が い い 。 で 亀 を 置 き ま し た 。 (中 略 )亀 と 形 の な い 嫌 な も の は イ コ ー ル じ ゃ な い
で す ね 。 < そ う だ よ ね > イ コ ー ル じ ゃ な い ,ぜ ん ぜ ん 別 の も の 。 < あ ,ぜ ん ぜ ん 別 の も の 。
> た ,多 分 ぜ ん ぜ ん 別 の も の 。な ん か ,こ ,こ の 亀 の 先 に 嫌 な も の は ま だ あ る 。イ メ ー ジ と し
て は ね < あ ,そ ん な 感 じ な わ け ね > そ ん な 感 じ で す ね 。嫌 な も の が あ る の か も し れ な い 。わ
た し に と っ て は ,ま だ ち ょ っ と ,置 か な い よ ,っ て い う ( A 氏 自 発 ,1-14)。 そ し て ,内 省 報 告
に イ ル カ の 行 く 手 に , 得 体 の 知 れ な い 何 か , こ の ま ま 進 ん で 大 丈 夫 か な ,と い う よ う な も の
を 置 こ う と 思 っ て い た が ,ふ と 亀 が 目 に 止 ま り ,得 体 の 知 れ な い 何 か の こ と が 一 瞬 で 頭 か ら
消 え た (中 略 )イ ル カ よ り 知 恵 が あ り そ う で イ ル カ よ り 腹 が 据 わ っ て い る よ う だ 。 亀 を 見 つ
け ,亀 を 箱 庭 に 置 い た こ と で ,な ん だ か ほ っ と す る 。 安 心 し て 進 ん だ ら い い ん だ と い う 気 持
ち に な る ( A 氏 内 省 ,1-14,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。
こ の 具 体 例 で は ,最 初 探 し に 行 こ う と し た 時 に も っ て い た イ メ ー ジ と は ,異 な る ミ ニ チ ュ
ア と 出 会 っ た こ と で , 初 め の イ メ ー ジ が 一 瞬 に し て 消 え ,納 得 し て ミ ニ チ ュ ア を 選 択 し , 構
成 し た A 氏 の 主 観 的 体 験 が 報 告 さ れ た 。 こ の 具 体 例 は ,[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]の 具 体 例
で も あ る (p.143 参 照 )。 亀 を 見 つ け た こ と は ,嫌 な も の の こ と が 一 瞬 で 頭 か ら 消 え る ほ ど の
大 き な 影 響 を A 氏 に 及 ぼ し た こ と が 示 さ れ た 。 亀 を 選 ん だ こ と で ,A 氏 に は イ ル カ よ り 知
恵 が あ り そ う で イ ル カ よ り 腹 が 据 わ っ て い る よ う だ 。 (中 略 )安 心 し て 進 ん だ ら い い ん だ と
いう気持ちになるという内的プロセスが生じた。自己像であるイルカの先を進む亀は知恵
が あ り ,腹 が 据 わ っ て い る 存 在 で あ る 。 そ の よ う な 存 在 の 導 き が あ る こ と で ,A 氏 は 安 心 し
て 進 ん だ ら い い と 思 え た 。こ の 回 が 初 回 で あ る こ と を 考 え あ わ せ る と ,安 心 し て 進 ん だ ら い
い ん だ と い う 言 葉 は ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る A 氏 の 歩 み に 対 す る 思 い で も あ る と 解 釈 で き
る 。こ の よ う に A 氏 は 初 回 に お け る 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス に 気 づ く こ と が で き た 。そ し て , A
氏 が 感 じ た 安 心 感 は 今 後 A 氏 が 箱 庭 制 作 面 接 に 臨 む に あ た っ て ,安 心 感 を 基 盤 に 自 由 に 自
分の内界を展開させていくことに寄与したと推測できる。
- 129 -
棚 に は ,多 数 の ミ ニ チ ュ ア が 並 べ ら れ て い る 。 箱 庭 制 作 者 は そ の 中 か ら ,自 分 が 使 用 す る
ミ ニ チ ュ ア を 選 択 し な け れ ば な ら な い 。ま た ,砂 や 砂 箱 の 底 や ミ ニ チ ュ ア を と い う 装 置 を 用
い た 構 成 も 無 数 の パ タ ー ン が あ り う る 。箱 庭 制 作 者 は ,構 成 に お い て も 無 数 の パ タ ー ン の 中
か ら 選 択 を 行 っ て い く こ と に な る 。 箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,箱 庭 制 作 者 が 納 得 し て , 積 極 的
に そ の 構 成 を な さ な い ,ミ ニ チ ュ ア 選 択 を 行 わ な い と い う 行 為 は ,構 成 が 箱 庭 制 作 者 の 内 的
プ ロ セ ス の 表 現 と し て よ り ぴ っ た り な も の と な る た め に ,重 要 で あ る 。 ◆ 具 体 例 93 と 94
に 示 さ れ た よ う に ,箱 庭 制 作 者 が 納 得 し て ,積 極 的 に そ の 構 成 を な さ な い ,ミ ニ チ ュ ア 選 択
を 行 わ な い と い う 行 為 に よ っ て な さ れ た 構 成 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己 へ の 理 解 を 深 め
る こ と が で き て い る 。[作 ら れ な か っ た 構 成 ]の 箱 庭 制 作 者 が 納 得 し て ,積 極 的 に そ の 構 成 を
な さ な い ,ミ ニ チ ュ ア 選 択 を 行 わ な い と い う 行 為 は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し て 働 く と
考えられる。
(2)消 極 的 な 選 択 と し て ,そ の 構 成 を な さ な い ,そ の ミ ニ チ ュ ア 選 択 を 行 わ な い 場 合 の 結
果および考察
ま ず ,消 極 的 な 選 択 と し て ,そ の 構 成 を な さ な い 場 合 の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 95: A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 5
A 氏 は 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 5 で ,洋 館 を 川 向 こ う の 土 地 に 1 軒 ,川 の 手 前
に 3 軒 置 い た 。陶 器 の 家 を 数 軒 置 き ,砂 箱 手 前 が 円 形 の ロ ー タ リ ー の よ う な 広 場 に な る よ う
に し た 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。置 く 時 に ,な
んだかですね,こう,碁盤の目のようなそういう町にはすごく置きづら,いんですよね,
なんか。すごくた,建物にしても,こう,こちら側が正面だとこちら側が後ろとか,映画
館をこの辺にこう置いちゃうと,前と後ろが出て,なんか置きにくいなと思ったんですよ
ね 。 う ん , そ い で 丸 く し た ん で す よ ね 。( 間 19 秒 ) 少 し 迷 っ た ん で す よ ね , ど う い う 風 に
配 置 し よ う か な っ て い う の は ね 。 だ け ど , 置 け な か っ た で す ね 。 (中 略 )だ か ら , こ う , 碁
盤の目の,何か 1 ブロック,1 ブロックって作ると,表と裏が出来てしまって,それが何
か 私 に は 扱 い き れ な い 感 じ が , あ る ん , で す , そ う い う の を 作 る と 。 (中 略 )具 体 的 に は ほ
ん と に , 作 り づ ら い 感 じ が し ち ゃ う ん で す ( A 氏 調 査 ,9-5)。 こ の 具 体 例 で の ,消 極 的 な 選
択を行わざるを得なかった要因は私には扱いきれない感じが,あるという内的プロセスと
関 連 し て い る 。 こ の 具 体 例 に 関 連 す る デ ー タ を 加 え ,検 討 す る 。 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で A
氏 は 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 主 観 的 体 験 に 関 連 し て 碁 盤 の 目 の よ う に 置 け な い ,っ て 言 っ
て た 私 が い る ん で す け ど ,そ れ は も う 怖 く な く な っ て る( A 氏 調 査 ,10-全 体 的 感 想 )と 語 っ
た 。 碁 盤 の 目 の よ う な 配 置 は ,表 と 裏 が で き て し ま う 。 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 時 点 か ら ふ り
か え る と ,そ の 構 成 に 対 し て 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,怖 い 感 じ が あ っ て ,扱 え き れ な い と
感 じ て い た こ と が わ か る 。そ の よ う な 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 時 点 で の A 氏 の 内 的 プ ロ セ ス が
影 響 し ,消 極 的 な 選 択 と し て ,碁 盤 の 目 の よ う な 構 成 が な さ れ な か っ た ,と 捉 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 96: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 18
A 氏 は 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 18 で ,メ ノ ウ の 板 を 手 に 取 り ,山 と メ ノ ウ と を
見 比 べ た 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 山 を , も う
ち ょ っ と 触 り た か っ た ん で す け ど ,ど う 触 っ て ,い い の か わ か ら な く て ,手 を 付 け ら れ な か
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ったですね。最後,メノウの板がきれいで,あの,山の中にうずめようかなと<はぁー,
うん>ちょっと思ったんです。何か手放すには惜しいくらいきれいで,きれいだなと思っ
て い て ,で も 山 の 中 に 入 れ ち ゃ う の も ,何 か こ う ,埋 め ち ゃ う の も も っ た い な い し そ う か と
いって出しておくとひどく異質な感じもするし,<はぁー>もう今回は置くの止めようと
思 っ て < う ん う ん > は い , や め ま し ま し た ね ( A 氏 自 発 ,6-18)。 こ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し
て A 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。箱 庭 の 目 に 見 え る と こ ろ に 置 く に は ち ょ
っ と な ん か , 異 質 な 感 じ が < あ あ あ あ > あ る の で 置 け な か っ た で す (中 略 )だ か ら , 今 回 の
箱庭はこういう風だから,外側に出すと異質だったけど,ひょっとしたらこれまでの箱庭
だったら,置いても違和感がなかったのかもしれない。<ふぅーん>ちょっとわからない
<あ,そっか,ふん>こないだのあの,神社と<うんうんうん>白蛇代わりの動物のあた
り と か ね( A 氏 調 査 ,6-18)。メ ノ ウ の 異 質 な 感 じ は ,今 回 の 箱 庭 作 品 の 構 成 や テ ー マ と 関 連
し て い た 。 第 5 回 箱 庭 作 品 の 神 聖 な 場 所 で あ れ ば ,置 い て も 違 和 感 が な か っ た か も し れ な
い が ,今 回 の 箱 庭 作 品 で は 置 く 場 所 が な か っ た 。 A 氏 の 箱 庭 作 品 に は ,宗 教 性 と 関 連 す る 領
域 や テ ー マ の 表 現 が よ く 見 ら れ た が ,第 6 回 箱 庭 作 品 で は ,そ の よ う な 表 現 は な さ れ な か っ
た 。 そ の た め ,A 氏 は メ ノ ウ に 対 し て 今 回 の 構 成 の 中 で は 異 質 な 感 じ が あ り ,メ ノ ウ を 置 く
こ と が で き な か っ た ,と 考 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 95 と 96 か ら ,消 極 的 な 選 択 を 行 わ ざ る を 得 な か っ た 要 因 と し て ,箱 庭 制 作 者 の
心理的状況や箱庭作品の構成やテーマが関連することが示された。このような箱庭制作者
の 主 観 的 体 験 の 語 り を ど の よ う に 理 解 す る こ と が で き る だ ろ う か 。 ◆ 具 体 例 95 と 96 は ,
消 極 的 な 選 択 で あ る た め ,こ の 選 択 に 対 し て 満 足 感 や 納 得 感 は 得 ら れ に く い だ ろ う 。 石 原
(2008)は ,「思 い 通 り に な ら な い 砂 」と い う 体 験 に 関 し て ,箱 庭 制 作 者 が 「思 い 通 り に な ら な
い 砂 」に 取 り 組 み な が ら ,豊 か な イ メ ー ジ を 思 い 描 い た と し て も ,物 理 的 制 約 を も っ た 砂 に
よって表現可能な範囲内で表現することを受け入れざるをえないという現実を実感してい
る の で は な い か ,と 記 し て い る (p.80)。本 項 の ◆ 具 体 例 95 と 96 は ,箱 庭 制 作 に お け る 物 理 的
制 約 に よ っ て 消 極 的 な 選 択 を 行 わ ざ る を え な か っ た わ け で は な い た め ,そ の 点 に お い て は
石 原 の 言 及 と は 異 な る 点 が あ る 。 し か し ,箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,「思 い 通 り に な ら な い 」と
い う 主 観 的 体 験 が 起 こ り う る と い う 点 に お い て は ,共 通 の 要 素 を も っ て い る 。第 6 回 箱 庭 制
作 面 接 で A 氏 が も う 今 回 は 置 く の 止 め よ う と 思 っ て < う ん う ん > は い ,や め ま し ま し た ね
と 語 っ て い る よ う に ,置 く こ と を 諦 め つ つ も ,そ こ に は 耐 え が た い ほ ど の 残 念 な 感 じ が な い
こ と も 示 さ れ た 。◆ 具 体 例 95 と 96 は 「思 い 通 り に な ら な い 」こ と に 対 し て ,箱 庭 制 作 者 が 折
り 合 い を つ け て い く 主 観 的 体 験 と 理 解 す る こ と が で き る の で は な い だ ろ う か 。 東 山 (1994)
は ,ミ ニ チ ュ ア に 関 し て ,現 物 の モ ノ を 使 っ て イ メ ー ジ を 表 現 す る に は ,ミ ニ チ ュ ア に 自 分
の イ メ ー ジ を 重 ね る 幅 広 さ や 柔 軟 性 が 必 要 に な る こ と を 指 摘 し て い る (p.31)。 箱 庭 制 作 に
は ,心 の 柔 軟 性 が 必 要 に な る 。 そ の よ う な 心 の 柔 軟 性 を も っ て し て も ,箱 庭 制 作 過 程 の 構 成
が 「思 い 通 り に な ら な い 」時 ,箱 庭 制 作 者 は 「思 い 通 り に な ら な い 」こ と に 折 り 合 い を つ け る
こ と が で き な け れ ば ,箱 庭 制 作 者 に と っ て 「お さ ま り の 悪 い 」作 品 に な る 。 ◆ 具 体 例 95 と 96
は ,一 定 程 度 の お さ ま り の 悪 さ が あ り つ つ も ,そ れ を 抱 え ,折 り 合 い を つ け た 主 観 的 体 験 の 語
り と 理 解 で き る だ ろ う 。A 氏 は 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,碁 盤 の 目 の よ う な 構 成 を 行 え な か
っ た が ,第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で は 碁 盤 の 目 の よ う に 置 く こ と が 怖 く な く な り ,直 線 的 な 構
成 を 行 う こ と が で き た 。河 合 隼 雄 (1991)が ,お さ ま り の 悪 さ が 次 へ の 発 展 の 契 機 と も な る と
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し て い る よ う に (p.131),一 定 程 度 の 自 我 の 強 さ が 箱 庭 制 作 者 に あ る 場 合 ,箱 庭 制 作 面 接 に お
け る 「思 い 通 り に な ら な い 」と い う 主 観 的 体 験 は ,単 に 否 定 的 な 体 験 に 止 ま ら ず ,箱 庭 制 作 者
に と っ て 意 味 あ る 体 験 と な る 可 能 性 を も っ て い る と 考 え る こ と が で き る 。「思 い 通 り に な ら
な い 」状 況 に お け る 消 極 的 な 選 択 と し て の [作 ら れ な か っ た 構 成 ]は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機
能と働く可能性があると考えることもできるだろう。
次 に ,消 極 的 な 選 択 と し て ,そ の ミ ニ チ ュ ア 選 択 を 行 わ な い 場 合 の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 97: B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,四 季 の 構 成 を 行 っ た 。他 の 季 節 に は 人 の ミ ニ チ ュ ア を 置 い
た の だ が ,砂 箱 左 上 隅 の 春 の 区 画 に は 人 の ミ ニ チ ュ ア を 置 く こ と が で き な か っ た こ と に つ
い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。 私 自 身 ,よ く ,あ の ,う ま く ,あ の ,で き な か っ
たことが一つあって。ここに人が置けなかったんですよ。<ああ。なるほど。言われてみ
れ ば 。 あ あ 。 そ う で す ね > う ん 。 で ,ど う い う 人 を 置 い た ら い い の か っ て い う の が , 最 後 ま
で ,つ か め な く て 。ま あ ,な い ま ま で い い や っ て い う こ と で 。で ,そ れ が よ く わ か ん な い で す 。
< ど う い う こ と で 置 け な か っ た の か ,と い う の が よ く わ か ら な い > ぴ っ た り す る よ う な ,う
ん 。 で ,そ こ の 人 を 眺 め て る 中 で 出 て き そ う か と 思 っ た ん だ け ど ,ど う も ,あ の ,出 ず 。 な ん
か ,ぴ っ た り さ せ る こ と も で き ず 。自 分 自 身 も イ メ ー ジ が 湧 か ず 。で ,ま あ ,こ れ が い い か っ
て こ と で( B 氏 調 査 ,7-複 数 過 程 に亘 って)。B 氏 は 春 の 区 画 に 人 を 置 け な か っ た こ と に つ い
て ,う ま く で き な か っ た こ と と 感 じ て い た 。 ど う い う 人 を 置 い た ら い い の か ,最 後 ま で つ か
め ず ,イ メ ー ジ も 湧 か な か っ た 。 人 の ミ ニ チ ュ ア を 探 す た め ,人 が 置 か れ た 棚 を 眺 め た が ,
ぴ っ た り す る も の も 見 つ か ら な か っ た 。こ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に も わ か ら な
い ( B 氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 感 覚 ) ,不 明 ( B 氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調
査 ・ 連 想 ) と 記 し ,そ の 要 因 は 不 明 の ま ま で あ る 。
う ま く で き な か っ た と い う 感 じ が 残 る も の の ,そ れ で も B 氏 は ま あ ,な い ま ま で い い や っ
て い う こ と で ,ま あ ,こ れ が い い か っ て こ と で ,と 構 成 を 受 動 的 に ,受 容 し て い る 。 こ の よ う
に ,理 由 や 意 味 は わ か ら な い が ,そ の よ う に す る 他 な い と い う 点 に こ そ ,箱 庭 制 作 面 接 に お
いて意図・意識以外のものが働いていることの証左の一つと捉えることもできるだろう。
◆ 具 体 例 97 も 先 に 言 及 し た 「思 い 通 り に な ら な い 」構 成 に 対 し て ,箱 庭 制 作 者 が 折 り 合 い を
つけていく主観的体験の語りと理解することができるのではないだろうか。
2)[説 明 過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察
次 に < ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 内 的 プ ロ セ ス > に 含 ま れ な い ,[説 明 過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き
か え る プ ロ セ ス ]の 結 果 お よ び 考 察 を 記 す 。 [説 明 過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ
ス ]は ,「箱 庭 制 作 終 了 後 ,説 明 過 程 に お い て ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き 比 べ る ,置 き か え る ,取 り 除 く
内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。
ま ず は ,箱 庭 制 作 者 が 説 明 過 程 で ,自 発 的 に ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え た 場 合 の 具 体 例 を 挙 げ
る。
◆ 具 体 例 98: A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 調 査 的 説 明 過 程 で の 置 き か え
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A 氏 は 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,今 回 の 構 成 に 対 し て ,こ の 島 と 半 島 と 灯
台 だ け で よ か っ た の か も し れ な い で す ね 。< ふ ん > そ れ と 他 の も の は も う 本 当 に ,な ん て い
う ん で し ょ う ね( 間 34 秒 )表 層 的 な も の に 感 じ ら れ て ,他 の も の が 。愛 着 が 湧 か な い で す 。
< あ ,ふ ー ん > あ ぁ ,で も そ れ を 言 う の が す ご く 悲 し い 。自 分 が 作 っ て お き な が ら 愛 着 が 湧
か な い な ん て 。 す ご く 悲 し い で す ね ( A 氏 調 査 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。
ま た ,半 島 に 置 か れ た 男 女 の 人 形 に つ い て ,具 体 的 な 人 形 が あ ど け な い の が 気 に 入 ら な い
と 語 っ た (p.88 ◆ 具 体 例 54 参 照 )。 そ の 後 ,棚 の 前 に 行 き ,ミ ニ チ ュ ア を 探 し 始 め た 。 兵 士
の ミ ニ チ ュ ア が 入 っ た バ ケ ツ の ミ ニ チ ュ ア を 物 色 し た 後 ,働 く 人 が 入 っ た 箱 で ミ ニ チ ュ ア
を 物 色 し 始 め た 。そ し て ,以 下 の よ う な 言 動 や や り と り が あ っ た 。あ ,こ う い う 人 も い る ん
で す ね ,む し ろ こ う い う 人 の 方 が 何 か ,
‘ 物 色 中 ’ち ょ っ と 待 っ て‘ 箱 か ら プ ラ ス チ ッ ク の
人 形 2 体 ,赤 と 黄 を 取 り 出 し て 砂 箱 に 移 動 ’ち ょ っ と 置 き か え て い い で す か < う ん , ど う ぞ
どうぞ>これ色がすごいですけど<色がね>‘何かつぶやきながら,かわいい人形をプラ
スチックの人形に置きかえ,元の人形に戻す。声が小さくて聞き取れない’<どうぉ,置
き か え て み て ? > や , や っ ぱ り 色 が , (中 略 )‘ 再 び 男 の 子 の 人 形 を プ ラ ス チ ッ ク の 人 形 に
置きかえている。玩具棚に戻って人形を物色して置きかえる。茶色の埴輪に置きかえる’
ま だ こ の 方 が ‘ 笑 い な が ら ’ っ て い う か ん じ で し ょ う か 。 (中 略 )一 般 化 抽 象 化 普 遍 化 っ て
言 う 感 じ で す ね 。 (中 略 )普 遍 的 な 人 間 っ て い う 感 じ で 置 け て , < う ん う ん > 何 か , 私 も 含
め た 人 間 っ て い う の に , < ふ ー ん > も の に な る か な (中 略 )< 全 体 的 な 人 っ て 感 じ が す る 。
ど ち ら か と 言 え ば こ っ ち の 方 が ,今 置 い て み る と ぴ っ た り く る > う ん ,あ ,で も < で も > あ
ー < で も > う ー 。生 き 生 き し た 感 じ は ,う ー ん と ,な く な る の で ,< あ ー そ う だ ね > う ん 。
難 し い ,私 ,け ,難 し い で す ね 。< ふ ん ,難 し い ね > は い( 間 6 秒 )困 っ ち ゃ う 私 ,う ー ん ,
私だってこういう面持っているんだろう,でも,でも,はい。な,なん何かやっぱり今日
は う ま い こ と 作 れ な い 感 じ が < す る ね > は い ( A 氏 調 査 ,7-12)。 A 氏 は 赤 色 と 黄 色 の 働 く
人 に 男 女 の ミ ニ チ ュ ア を 自 ら 置 き か え て み た が ,色 が 気 に 入 ら な か っ た 。 そ し て ,再 び 棚 に
戻 り ,埴 輪 を も っ て き て ,そ れ に 置 き か え て み た 。 一 度 は ,「ま だ こ の 方 が 」と 言 う が , そ の イ
メ ー ジ は 自 分 も 含 め た 一 般 的 普 遍 的 な 人 間 と い う も の で あ り ,生 き 生 き し た 感 じ が な く な
る ミ ニ チ ュ ア で あ っ た 。 そ し て 「難 し い 」「今 日 は う ま く 作 れ な い 感 じ 」と 述 べ た 。 ぴ っ た り
し な い ミ ニ チ ュ ア を 説 明 過 程 で 置 き か え ,置 き 比 べ て み た が ,や は り ぴ っ た り と し た 構 成 を
行うことができなかった。
関 連 す る 他 の デ ー タ も 加 え て ,検 討 し て い く 。こ の 置 き か え に 関 す る 内 省 報 告 に は , 男 女
の 人 形 の 要 因 に 加 え て ,他 の 要 因 も 記 さ れ た 。内 省 報 告 に は ,女 の 子 の 人 形 が ,人 形 遊 び で の
単 な る 人 形 の よ う で ,自 分 を 表 し た よ う に 思 え な い こ と が 挙 げ ら れ て い る 。 ま た ,愛 着 が 湧
か な い と い う よ う な 否 定 的 な 感 情 が 生 ま れ る よ う な 制 作 過 程 に な っ た 要 因 と し て , a.好 き
な ミ ニ チ ュ ア が 限 ら れ て い る こ と ,b.箱 庭 の 世 界 の 中 で ,自 分 が 想 像 を ふ く ら ま せ て 自 由 に
生 き 生 き と ,生 き る こ と が で き い な い こ と , c.出 来 上 が っ た ス ト ー リ ー に ミ ニ チ ュ ア を 当
て は め て 作 っ た か の よ う で 自 分 の オ リ ジ ナ リ テ ィ が 感 じ ら れ な い こ と ,d.自 分 の 気 持 ち を
ス キ ャ ン し て 作 っ た の で は な い よ う に 感 じ ら れ る こ と が 挙 げ ら れ て い る 。そ の た め , こ の 作
品 に 愛 着 が 湧 か な い 部 分 が あ っ た こ と が 示 さ れ て い る (b 以 降 p.88 ◆ 具 体 例 54 参 照 )。 こ
のような内的プロセスが自発的にミニチュアを置きかえようとした要因であることが見い
だ さ れ た 。ま た ,表 層 的 な も の に 感 じ ら れ て ,他 の も の が 。愛 着 が 湧 か な い で す 。< あ ,ふ ー
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ん > あ ぁ ,で も そ れ を 言 う の が す ご く 悲 し い 。 自 分 が 作 っ て お き な が ら 愛 着 が 湧 か な い な
ん て 。 す ご く 悲 し い で す ね ( A 氏 調 査 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 ら れ た よ う に ,作 品 に 愛
着 が 湧 か な い こ と は ,す ご く 悲 し い と い う 強 い 気 持 ち を 伴 う も の で あ っ た 。
◆ 具 体 例 98 の 自 発 的 な 置 き か え が 生 じ た 背 景 と し て ,上 の よ う な 要 因 や 内 的 プ ロ セ ス が
関 与 し て い る 。◆ 具 体 例 98 の 自 発 的 な 置 き か え は ,作 品 に 愛 着 が 湧 か な く て ,す ご く 悲 し い
と 感 じ ら れ る 構 成 を 改 善 し よ う と す る A 氏 の 模 索 で あ る と 考 え ら れ る 。 そ れ は ,A 氏 が 箱
庭制作面接に真摯に向き合っている姿勢の現れと考えることができる。
次 に ,筆 者 の 提 案 を 受 け て ,箱 庭 制 作 者 が ミ ニ チ ュ ア を 取 り 除 く , 置 き か え る 具 体 例 を 挙
げる。
◆ 具 体 例 99: A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 調 査 的 説 明 過 程 で の 置 き か え
上 述 の 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 自 発 的 な 置 き か え の 後 ,今 ,残 し て お い て よ い と 思 え
る ミ ニ チ ュ ア に つ い て の や り と り が あ っ た 。箱 庭 制 作 者 の 残 念 な 思 い が 伝 わ っ て き た た め ,
愛 着 が 湧 く 作 品 に 修 正 で き な い か と 考 え ,筆 者 は 以 下 の よ う に 再 構 成 を 提 案 し た 。< じ ゃ ぁ ,
一度さ>はい<もしあれやったら>ふん<試しにね>はい<その自分が残しておい,残し
ておきたいなという思う>ふん<ものだけを残してみて,一度,それ以外のものを,二人
で 片 付 け て み る ? > え 。 え 。 賛 成 < ほ ん で , 様 子 見 て み よ う か > 賛 成 で す 。‘ A 氏 は ,筆 者
の 提 案 の 途 中 か ら ,花 を 片 付 け 始 め る 。’< こ れ ,こ れ( 海 藻 )い い ? > い い で す 。
‘二人で
砂箱内のミニチュアを取り去り始める’
( A 氏 調 査 ,7-調 査 的 説 明 過 程 最 後 の 再 構 成 )。す る
と ,A 氏 は そ の 提 案 に 賛 成 し ,提 案 の 途 中 か ら ミ ニ チ ュ ア を 片 付 け 始 め た 。筆 者 は ,ど の ミ ニ
チ ュ ア を 片 付 け て も よ い の か ,A 氏 に 確 認 後 片 付 け た 。 A 氏 は 独 り 言 を 言 っ た り ,筆 者 に 語
り つ つ ,片 付 け た 。
そ の 後 ,A 氏 は つ ま ら な い 感 じ に つ い て ,自 分 に 問 い か け る よ う に 話 し た り ,筆 者 に 問 い
か け た り し た 。 そ し て ,半 島 ,針 葉 樹 ,野 生 動 物 2 頭 ,亀 ,貝 ,イ ル カ 2 頭 ,灯 台 (西 洋 風 の 塔 の
つ い た 城 )が 残 っ た 段 階 で ,だ い ぶ ホ ッ と す る 感 じ が し ま す( A 氏 調 査 ,7-調 査 過 程 最 後 の 再
構 成 ) と 述 べ ,片 付 け を 終 え た 。 調 査 的 説 明 過 程 の こ の 時 点 で は ,比 較 的 ぴ っ た り す る 構 成
に 再 修 正 す る こ と が で き た ,と 捉 え ら れ る 。
さ ら に ,A 氏 は 灯 台 を ,幼 子 イ エ ス を 抱 い た ヨ ハ ネ 像 や 亀 と 置 き 比 べ た 。 亀 の 方 向 を 何 度
も 確 か め ,亀 を 置 い て ,置 き か え を 終 了 し た 。
し か し ,こ の 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に は 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。今 見 る と ,具 象 的 な 人 形
も い い の に 。土 偶 に す る と ,普 通 の 世 界 に 古 代 の 遺 跡 か ら の 発 掘 物 が 入 り 込 ん だ よ う な 違 和
感 が あ る ,今 見 る と ,空 い て い る ス ペ ー ス が ず い ぶ ん 多 く な っ て ,こ れ か ら こ の ス ペ ー ス に
何 か 作 る と し た ら ,ず い ぶ ん 大 変 だ ろ う な と い う 気 持 ち に な る 。 元 気 が な い と 出 来 な い ,こ
れ だ け ア イ テ ム が 少 な く て も 満 足 な 様 子 で ,や っ ぱ り こ の と き の 私 は 疲 れ て い た の か と 思
う ( A 氏 内 省 ,7-調 査 過 程 最 後 の 再 構 成 ,調 査 ・ 意 味 ) ,肉 体 的 な 疲 労 。 そ れ と ,緊 張 感 が 抜
け き っ て い な い 感 じ 。覚 醒 し た 意 識 が off に な っ て い な い の だ と 思 う( A 氏 内 省 ,7- 全 体 的
感 想 ,調 査 ・ 意 味 )。 DVD 視 聴 し ,内 省 報 告 を 記 し て い る 時 に は ,最 初 に 置 か れ た 男 女 の 人 形
も い い よ う に A 氏 は 感 じ ら れ た 。 再 構 成 後 の 構 成 は ,ス ペ ー ス が 多 く ,そ の ス ペ ー ス に 何 か
を 作 る と し た ら ,ず い ぶ ん 大 変 で ,元 気 が な い と で き な い 。 箱 庭 制 作 面 接 の 時 の 自 分 は 疲 れ
て い た の だ ろ う と 感 じ た 。 内 省 報 告 に は ,箱 庭 制 作 過 程 の 構 成 に も 満 足 で き る 部 分 も あ り ,
- 134 -
箱 庭 制 作 面 接 で 満 足 感 を 感 じ ら れ な か っ た の は ,疲 れ や 箱 庭 制 作 面 接 前 の 仕 事 の 緊 張 感 が
抜 け て い な い こ と な ど が 影 響 し た の だ ろ う と 捉 え て い た こ と が ,報 告 さ れ た 。
こ の よ う に 箱 庭 制 作 過 程 ,説 明 過 程 に お け る 再 構 成 時 ,内 省 報 告 作 成 時 に は ,異 な る 主 観 的
体 験 が 報 告 さ れ た 。 内 省 報 告 時 に は ,再 構 成 前 の 男 女 の 人 形 も い い と 報 告 さ れ ,そ れ は 箱 庭
制作過程でも説明過程の再構成時でも生じなかった主観的体験の報告であった。この一部
矛 盾 す る 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 は ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 が 面 接 の 過 渡 期 で あ っ た た め に
生 じ た ,と 解 釈 す る こ と が で き る 。 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 は 柵 に 囲 ま れ た 家 畜 が い る 人 間 世
界 に 近 い 世 界 だ っ た 。 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 に 自 己 像 に 人 の ミ ニ チ ュ ア が 選 ば れ ,初 め て 人
の世界を作ろうとしたが, 表層的で愛着が湧かない作品となった。調査的説明過程の再構
成 後 ,残 っ た ミ ニ チ ュ ア は ほ と ん ど が 今 ま で に 使 わ れ た も の で あ る 。 そ し て ,今 ま で の 回 の
よ う に 人 が 登 場 し な い 世 界 と な っ た 。再 構 成 前 後 の 2 作 品 は 多 面 鏡 で 見 る 自 己 像 の よ う に ,
制作者の意識の基盤と今後の展開を表現したものと理解することができよう。再構成前の
作 品 も 再 構 成 後 の 作 品 も ,A 氏 の 異 な る 意 識 状 況 ,意 識 次 元 の 表 現 で あ る と 考 え る こ と が で
き る 。こ の 具 体 例 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 に よ る 説 明 過 程 に お け る 再 構 成 の 意 味 の 一 端 が 示 さ
れ た ,と 考 え ら れ る 。
厳 密 な 意 味 で は ,ミ ニ チ ュ ア の 置 き か え で は な い が ,そ れ に 類 す る 行 為 に つ い て 以 下 に 具
体例を挙げる。
◆ 具 体 例 100: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 調 査 的 説 明 過 程
A 氏 は 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 手 前 に 鳥 居 を 置 い た 。そ の 構 成 に つ い て 調 査 的 説 明 過
程 で ,A 氏 は , 鳥 居 を 手 で 隠 し た り ,隠 す の を 止 め た り し つ つ ,長 い 間 を 挟 み な が ら , 箱 庭 と
してこれがないとこう,ここの世界に,命っていう意味をあげられない感じがしてと語っ
た (pp.96-97 ◆ 具 体 例 61 参 照 )。
こ の 行 為 は ,鳥 居 の 有 無 に よ っ て ,箱 庭 の 構 成 か ら 受 け る 印 象 や そ れ に よ っ て 起 こ る 内 的
プ ロ セ ス の 変 化 を 照 合 し て い た ,と 捉 え ら れ る 。 そ の よ う な 行 為 に よ っ て , 鳥 居 が な い と ,
こ の 箱 庭 の 世 界 に 命 と い う 意 味 を あ げ ら れ な い よ う な 感 じ が す る こ と が ,箱 庭 制 作 過 程 よ
り も さ ら に 明 瞭 に な っ た 。千 葉 (2013)は ,箱 庭 制 作 後 の 語 り に よ る イ メ ー ジ 変 容 体 験 を 4 体
験 型 に 分 類 す る 中 で , そ の 中 の 一 つ の グ ル ー プ と し て ,「 箱 庭 を 言 葉 に す る こ と で ,制 作 時 か
ら 感 じ ら れ て い た イ メ ー ジ が よ り 『 鮮 明 に 』 ,『 具 体 的 に 』 ,『 整 理 さ れ て 』 感 じ ら れ る よ
う に な り ,制 作 直 後 よ り も イ メ ー ジ を 深 く 味 わ う こ と が で き た と 語 る 作 り 手 の グ ル ー プ 」を
鮮 明 型 と し て 報 告 し て い る (p.21)。こ の 具 体 例 は ,語 り で は な く ,説 明 過 程 に お け る 再 照 合 に
よ る も の で あ る が ,鮮 明 型 の よ う に ,イ メ ー ジ を 深 く 味 わ う こ と が で き た 主 観 的 体 験 の 語 り ,
と 捉 え る こ と が で き る 。こ の 行 為 は ,説 明 過 程 に お い て ,ミ ニ チ ュ ア の 有 無 に よ っ て , 構 成 や
内 的 プ ロ セ ス の 変 化 を 照 合 す る も の で あ り ,置 き か え に 類 す る 行 為 で あ る 。こ の よ う な 行 為
に よ っ て ,箱 庭 作 品 の 構 成 の 意 味 が A 氏 に と っ て ,よ り 明 瞭 に な り ,こ の よ う な 構 成 を 行 っ
た自己の内的プロセスへの理解も深まったと考えることができる。
◆ 具 体 例 98 ∼ 10 の デ ー タ を 検 討 す る と ,[ 説 明 過 程 で , ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ
ス ] は ,基 本 的 に は ,構 成 や 内 的 プ ロ セ ス の 変 化 を 照 合 し ,ネ ガ テ ィ ブ な 感 情 を 喚 起 さ せ た り ,
満足感のえられない構成を改善しようとする箱庭制作者の模索であると考えられる。その
よ う な 模 索 を 伴 っ た [説 明 過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ ス ]は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己
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理解を深めることに寄与すると考えることができる。
し か し ,[説 明 過 程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ ス ]は ,置 き か え を 行 え ば ,よ り ぴ っ
た り し た 構 成 に 修 正 で き ,箱 庭 制 作 者 は 満 足 感 を 得 ら れ る と い う よ う な 一 義 的 な 事 態 で は
な い 。 A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 場 合 ,自 発 的 な 置 き か え は ,何 か や っ ぱ り 今 日 は う ま い こ
と 作 れ な い 感 じ が < す る ね > は い と い う 言 葉 で 終 わ っ て い る 。そ の 後 ,筆 者 の 提 案 を 受 け 行
っ た 置 き か え で は ,だ い ぶ ホ ッ と す る 感 じ が し ま す と 述 べ ,片 付 け を 終 え た 。と こ ろ が ,内 省
報 告 に は ,箱 庭 制 作 過 程 の 構 成 に も 満 足 で き る 部 分 も あ り ,箱 庭 制 作 面 接 で 満 足 感 を 感 じ ら
れ な か っ た の は ,疲 れ や 箱 庭 制 作 面 接 前 の 仕 事 の 緊 張 感 が 抜 け て い な い こ と な ど が 影 響 し
た の だ ろ う と 捉 え て い た こ と が ,報 告 さ れ た 。
A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,箱 庭 制 作 開 始 45 分 ∼ 45 分 51 秒 に か け て ,以 下 の よ う な A
氏 と 見 守 り 手 と の 会 話 が あ り ,箱 庭 制 作 を 終 了 し た 。
「 」内 は A 氏 の 言 葉 ,< > 内 は 見 守 り 手
の 言 葉 で あ る 。( ) 内 は A 氏 の 行 動 で あ る 。
4 4: 28∼
砂箱を見つめる。
4 4: 38∼
右の海の砂を右手の指先で掃き寄せる。
4 4: 46∼
砂 箱 を 見 つ め る 。( 何 か つ ぶ や く が 聞 き と れ ず )
4 5: 00 ∼ 45 :51
「 も う ,う ん 。 も う ,( 顔 を 一 瞬 天 井 向 け ) も う ,こ う い う 風 だ な と 思 う ん
で す け ど 」 < う ん > ( 見 守 り 手 の 方 を 向 い て )「 途 中 か ら 作 っ て い て , や ん
な っ ち ゃ っ て (笑 ) 」( 砂 箱 の 縁 に 両 手 を 置 き , 上 体 を 砂 箱 の 上 に 倒 し て ) <
あ あ ほ ん と > ( 上 体 を 戻 し て )「 は は は 。 な ん で こ う な っ ち ゃ っ た ん だ ろ
う 。 う ー ー ん 。 こ れ は ー ,こ れ は ー ,作 っ と い て な ん な ん で す け ど ,( 間 )
で も ,そ う い う の も ,か わ い そ う だ な 。 作 っ と い て ,な ん ,な ん で す け ど ,な
ん で ,つ ま ら な い 」 < う ん 。 じ ゃ あ ,一 旦 一 区 切 り し て ,そ の あ た り の こ と
も 含 め て ,聞 か せ て も ら お う か > 「 う ん 。 そ う で す ね 」「 ふ ふ ー ん 。 な ん で
ー ー な ん で な ん だ ろ う 。( 見 守 り 手 に 向 い て ) う ん 。 は い 。 は い 。 は い 」
A 氏 は ,「 こ う い う 風 だ な と 思 う ん で す け ど 」と 言 い つ つ も ,続 け て 「 途 中 か ら 作 っ て い て ,や
ん な っ ち ゃ っ て ( 笑 ) 」,「つ ま ら な い 」と 語 っ て い る 。 途 中 か ら 箱 庭 作 品 に 対 し て ,い や に な っ
た ,つ ま ら な く 思 っ た も の の ,こ う い う 風 に し か 作 れ な か っ た と い う 思 い が 語 ら れ て い る と
捉 え ら れ る 。こ れ ら の A 氏 の 語 り に も あ る よ う に ,た と え つ ま ら な い と い う 思 い が あ っ た と
し て も ,箱 庭 制 作 終 了 時 点 で の 作 品 は ,そ の 回 の 最 終 的 な 構 成 な の で あ る 。
や は り 説 明 過 程 で の 置 き か え は ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 置 き か え と は 異 な る 意 味 が あ る
の だ ろ う 。 箱 庭 制 作 を 一 旦 終 了 し た 後 の 置 き か え と ,箱 庭 制 作 中 の 置 き か え と は ,同 じ で は
な い と 考 え る べ き な の だ ろ う 。説 明 過 程 で の 置 き か え は ,そ れ が 生 じ る く ら い の 強 い 動 機 付
け が 必 要 で あ る と 同 時 に ,箱 庭 制 作 過 程 に お い て 作 品 に 満 足 で き て い な い と い う ,置 き か え
が生じる背景が存在する。
第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 内 省 報 告 に A 氏 は ,肉 体 的 な 疲 労 。そ れ と ,緊 張 感 が 抜 け き っ て い
な い 感 じ 。覚 醒 し た 意 識 が off に な っ て い な い の だ と 思 う( A 氏 内 省 ,7-全 体 的 感 想 ,調 査 ・
意 味 )と 記 し た 。箱 庭 制 作 面 接 の 前 に あ っ た 仕 事 の 影 響 と し て ,こ の 言 葉 が 記 さ れ た 。そ の
よ う な 外 的 な 要 因 が 関 与 し た 心 身 の 状 態 に よ る 箱 庭 制 作 過 程 へ の 影 響 が ,作 品 に 満 足 で き
な い 背 景 に あ る 一 因 で あ っ た と し て も ,そ れ は 簡 単 に 変 え ら れ る も の で は な い し ,そ の よ う
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な心身の状態がいま・ここでの箱庭制作者の姿である。
あ る い は ,先 に 考 察 し た よ う に ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 が A 氏 の 箱 庭 制 作 面 接 の 過 渡 期 で あ
っ た と い う 解 釈 が 妥 当 で あ る な ら ば ,そ の よ う な 面 接 の 過 渡 期 に あ る と い う 状 態 は ,箱 庭 制
作 者 が 意 識 化 し ,意 識 的 に コ ン ト ロ ー ル で き る よ う な 事 態 で は な い 。面 接 の 過 渡 期 と い う の
は ,箱 庭 制 作 者 の 意 識 を 超 え た 事 態 で あ り ,そ れ は 事 後 的 に ふ り か え っ て わ か る 事 態 で あ る 。
面 接 の 過 渡 期 と い う 状 況 が ,A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で 満 足 感 が 得 ら れ な い こ と の 一 因 で
あ っ た と す れ ば ,箱 庭 制 作 過 程 に お い て 作 品 に 満 足 で き な い こ と の 原 因 を 意 識 化 し た り ,そ
の状況を修正することはより困難になる。A 氏第 7 回箱庭制作面接での説明過程における
置 き か え の 結 果 に 関 し て ,一 方 で は だ い ぶ ホ ッ と す る 感 じ が し ま す と い う 内 的 プ ロ セ ス が
生 ま れ ,も う 一 方 で は 箱 庭 制 作 過 程 の 構 成 に も 満 足 で き る 部 分 も あ る と 内 省 報 告 に 記 さ れ
る と い う ,一 義 的 で は な い 内 的 プ ロ セ ス は ,面 接 の 過 渡 期 に お け る 多 面 性 を 伴 っ た [説 明 過
程 で ,ミ ニ チ ュ ア を 置 き か え る プ ロ セ ス ]と し て ,ぴ っ た り な も の だ と 解 釈 で き る だ ろ う 。
Ⅶ -3.「内 界 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー ・ 概 念 群 の 結 果 お よ び 考 察
「内 界 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー・概 念 群 に は ,< ぴ っ た り 感 の 有 無 > と ,そ の 中 に [ぴ っ た
り 感 の 照 合 ],[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]の 2 概 念 が あ っ た 。ま た ,< イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と
な る > と ,そ の 中 に 2 概 念 [箱 庭 に 入 る ],[枠 外 の イ メ ー ジ ]が あ っ た 。 上 記 カ テ ゴ リ ー の 外
に 独 立 し て ,概 念 [身 体 感 覚 ・ ボ デ ィ ー イ メ ー ジ ]が あ っ た 。
Ⅷ -3-1.< ぴ っ た り 感 の 有 無 > と [ぴ っ た り 感 の 照 合 ],[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]の 結 果
および考察
< ぴ っ た り 感 の 有 無 > と ,そ の 中 の 2 概 念 [ぴ っ た り 感 の 照 合 ],[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]
の結果および考察を記述する。
1)< ぴ っ た り 感 の 有 無 > の 結 果 お よ び 考 察
< ぴ っ た り 感 の 有 無 > は ,「ミ ニ チ ュ ア ,ミ ニ チ ュ ア の 位 置 や 方 向 ,砂 の 造 形 ,底 の 水 色 な ど
に ぴ っ た り 感 を 感 じ る ,あ る い は 感 じ な い 内 的 プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。 本 カ テ ゴ リ ー の 具
体例を以下に挙げる。
ま ず は ,箱 庭 制 作 者 が ぴ っ た り 感 を 感 じ た 具 体 例 を 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 101: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,自 己 像 で あ る 亀 の 背 に 十 字 架 を 載 せ た 。そ の 構 成 に つ い て ,
かみぞう
自 己 像 で あ る 亀 の 苦 難 は 現 実 の 場 で の 出 来 事 で あ り ,こ の 構 成 に お け る 神 像 (神 の イ メ ー
ジ )は ,意 識 化 さ れ た も の で あ る た め ,十 字 架 上 の イ エ ス と い う ミ ニ チ ュ ア を 亀 の 背 に 載 せ
た こ と が ,今 回 の 表 現 に は 的 確 だ と 感 じ た こ と が 調 査 的 説 明 過 程 で 語 ら れ た (p.119 ◆ 具 体
例 82 参 照 )。 こ の 具 体 例 は ,そ れ ま で の 構 成 か ら 喚 起 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス を 照 合 し ,ぴ っ た
り 感 に 基 づ い て ,構 成 が 展 開 さ れ て い っ た 場 合 の 主 観 的 体 験 で あ っ た ,と 捉 え ら れ る 。
そ の 言 葉 に 続 け て ,こ の 構 成 に つ い て B 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。以 下 の 語 り は , ぴ っ た
り 感 に つ い て の 直 接 的 な 語 り で は な い が ,ぴ っ た り 感 を 確 か め る 過 程 に お け る ,も し く は ぴ
っ た り 感 の あ る 構 成 に つ い て の B 氏 の 感 覚 や 考 え が 示 さ れ て い る 。結 局 ,そ れ は ,う ー ー ん
と ,例 え ば ,自 分 を キ リ ス ト と 同 一 視 す る と い う こ と で な く て ,む し ろ 思 い を (中 略 )黙 想 す
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る と い う か ,共 感 す る と い う か ,こ う い う こ と な の か な と か い う こ と を ふ り か え る ,ふ り か
え っ て い る と い う か 。< そ の 場 合 の 思 い と い う の は > え っ と 。苦 労 と か ,ま あ ,人 の な ん か ,
難 し さ と か ,あ る 意 味 ,陰 湿 な 面 と か 含 め て ,そ う い う と こ ろ で ,う ん と ,苦 労 す る と い う か 。
< イ エ ス 様 も そ う い う 道 を 歩 ま れ た わ け で す よ ね > (中 略 )そ う い う こ と で ,(中 略 )こ う い
う 苦 労 を さ れ た ん だ ろ う な ー と ,ま あ ,自 分 も 思 い 浮 か べ る と い う か( B 氏 調 査 ,2-複 数 過 程
に 亘 っ て )。 こ の 構 成 を 通 し て ,B 氏 に は ,イ エ ス が 体 験 し た 苦 労 を 思 い 浮 か べ ,共 感 す る と
い う 内 的 プ ロ セ ス が 生 じ て い る 。 そ れ は ,今 ,自 分 が 抱 え て い る 苦 労 を イ エ ス の 体 験 と 関 連
付 け ,見 直 し ,意 味 づ け る 内 的 プ ロ セ ス で あ っ た ,と 解 釈 で き る 。
次に, 箱庭制作者がぴったり感を感じられなかった具体例を挙げる。
◆ 具 体 例 102: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 3
A 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,川 を 作 っ た 。 そ の 構 成 に よ っ て ,土 地 が 2 つ に わ か れ た 。
そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で 少 し だ け ,橋 を か け よ う か ど う し よ う 。ほ ん の
一 瞬 思 っ た ん で す ね < う ん う ん う ん う ん > だ け ど ,橋 は (間 )違 っ た で す ね 。< ふ ん ふ ん > 見
て も ,何 ,響 か な い し ,心 に < そ う ね ぇ > 橋 は 違 う ん だ な っ て( A 氏 調 査 ,2-3)と 語 っ た 。こ
の 具 体 例 で は ,A 氏 は 内 的 プ ロ セ ス と 照 合 し ,確 認 し た 上 で ,橋 を か け な い こ と を 選 ん だ ,と
捉えられる。
箱 庭 制 作 面 接 で は 制 作 に あ た っ て ,ぴ っ た り 感 が 重 要 だ と さ れ て い る (三 木 ,1977,pp.141
-142;東 山 ,1994,pp.5-11;光 元 ,2001,pp.23-2 5;他 )。 東 山 (1994)は ,「箱 庭 療 法 が 治 癒 力 を も つ
の は ,自 分 の イ メ ー ジ を ぴ っ た り と し た 形 で 表 現 で き ,そ れ が 自 分 に 目 の 当 た り に フ ィ ー ド
バ ッ ク さ れ る 点 で あ る 」(p.9)と 指 摘 し て い る 。 ◆ 具 体 例 101 と 102 で ,あ る 構 成 を 行 う 場 合
に お い て も ,行 わ な い 場 合 に お い て も ,箱 庭 制 作 者 は 構 成 と 内 的 プ ロ セ ス を 照 合 し ,構 成 に 関
す る 箱 庭 制 作 者 の 選 択 が な さ れ て い る 。 箱 庭 制 作 者 は ,構 成 や そ の 語 り を 通 し て ,< ぴ っ た
り 感 の 有 無 > に 関 す る 照 合 作 業 を 行 い ,自 分 の 内 的 プ ロ セ ス へ の 気 づ き を 深 め る こ と が で
きたと考えることができる。
ぴ っ た り 感 に 基 づ い て ,ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 構 成 が な さ れ た が , そ の 構 成 の 意 味 に つ い て ,
箱庭制作者が明瞭には意識化していない具体例を挙げる。
◆ 具 体 例 103: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 13
A 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,ガ ラ ス 瓶 (壺 )を 選 び ,そ れ を 砂 箱 中 央 上 に 置 い た 。 そ の 蓋
や 中 味 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。 あ の , 感 じ と し て は < う ん > し ば
ら く 前 か ら そ こ < う ん > に あ っ た 。で ,そ の 瓶 の 中 身 が ま だ は い っ て る か < う ん > 出 て る の
か < う ん > ,よ く わ か ら な い ( 中 略 ) な ん か ,こ う ,何 か 大 事 な も の が は い っ て い た か ,は い
っ て い る 。 そ ん な よ う な の が あ の 海 岸 に は 打 ち 上 げ ら れ て た ね ー ,っ て い う の を ,そ ん な 感
じで<ははあー大事なものがはいっている。そういうものが打ち上げられてた。それをま
あ ,気 づ い て る ( ん ん ん )( 不 明 ) > う ん ,そ う で す ね 。 < 打 ち 上 げ ら れ て た ね ー ー , っ て 言
っ て た も ん ね 。> 気 づ い て ま す ね ,気 づ い て て ,そ の ,あ の ,な ん て い う か な ,ま だ 瓶 を ふ た を
開 け て 確 認 し て な い ,っ て い う か ,わ ざ と 閉 め た ま ま に し て あ る ,っ て い う か ,ま あ と っ て お
いてある。
( 笑 )< う ん う ん > 感 じ な の か な あ( A 氏 調 査 ,1-13)。そ の 制 作 過 程 に つ い て の
内 省 報 告 で は ,壺 (ガ ラ ス 瓶 )に つ い て ,中 に 入 っ て い る の か 入 っ て い な い の か ,ふ た が 開 い
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て い る の か 開 い て い な い の か よ く わ か ら な い , そ ん な 壷 が よ か っ た 。( A 氏 内 省 ,1-13, 制
作・感 覚 )と 記 し て い る 。調 査 的 説 明 過 程 で 語 ら れ て い る よ う に A 氏 は ガ ラ ス 瓶 (壺 )の 中
身・大事なものがまだ入っているか出ているのかわからない感じのものというぴったり感
に 基 づ い て ,ガ ラ ス 瓶 を 選 択 し た ,と 捉 え ら れ る 。そ し て ,海 岸 に 打 ち 上 げ ら れ て ,し ば ら く 前
か ら そ こ に あ っ た と い う 感 じ に 基 づ い て ,ガ ラ ス 瓶 を 砂 浜 に 置 い た ,と 考 え ら れ る 。 し か し ,
筆 者 の 介 入 後 に は ,蓋 を わ ざ と 閉 め た ま ま に し て あ る と い う 感 じ か な と 言 い 直 し て い る 。そ
れ に 対 し て ,内 省 報 告 で は ,蓋 が 開 い て い る の か 開 い て い な い の か よ く わ か ら な い 壺 が よ か
っ た と 記 し て お り ,蓋 の 状 態 の あ い ま い さ を 意 識 し て ,意 図 的 に 選 ん だ よ う な 記 述 と な っ て
い る 。こ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て ,A 氏 は 内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 し た 。製 作 終 了 後 の 話
し 合 い で ,th か ら 「そ う い う 物 が あ る っ て 気 づ い て る ん だ 」と 言 わ れ ,「そ う ,気 づ い て い て ,
そ の ま ま に し て あ る ん だ 」と 思 っ た ( A 氏 内 省 ,1-13,制 作 ・ 意 味 ) * 1 。 意 識 し て は い な か
っ た け れ ど ,私 は 気 が つ い て い た 。そ し て そ れ を ち ゃ ん と 拾 い 上 げ て い な い ん だ と い う こ と
( A 氏 内 省 ,1-13,調 査・意 味 )。こ の 記 述 か ら ,調 査 的 説 明 過 程 で 筆 者 の 応 答 が あ る ま で は ,
ガ ラ ス 瓶 を 拾 い 上 げ て い な い と い う 構 成 や そ の 意 味 に つ い て ,明 瞭 に は 意 識 化 し て い な か
ったことが示された。
こ の よ う に , ガ ラ ス 瓶 は 中 身 や 蓋 の 状 態 が あ い ま い な ま ま で ,放 置 さ れ 続 け ら れ た も の
と し て 構 成 さ れ て い る 。 つ ま り ,制 作 に 関 わ る 意 識 は ,大 事 な も の が あ る こ と を 箱 庭 に 表 現
し つ つ ,そ れ を そ の ま ま に し て い る こ と と ,ち ゃ ん と 拾 い 上 げ て い な い こ と の 「 意 味 」 に 気
づ い て い な い 制 作 者 の 内 的 状 態 を も ,非 常 に 巧 み に ,ぴ っ た り な 形 で 表 現 し て い る 。 ◆ 具 体
例 103 は ,直 観 的 な 意 識 に よ っ て ,ガ ラ ス 瓶 を 選 び ,構 成 し た も の の ,構 成 の 意 味 に つ い て A 氏
が明瞭には意識化していなかった主観的体験の語りや記述だと理解できる。直観的な意識
は ,箱 庭 制 作 を 通 し て , A 氏 の 意 識 と 無 意 識 あ る い は 意 識 の 図 と 背 景 を ,非 常 に 巧 み に ,ぴ っ
た り な 形 で 表 現 し た ,と 考 え ら れ る 。◆ 具 体 例 103 で は ,ぴ っ た り 感 に 基 づ い て ,ミ ニ チ ュ ア
選 択 や 構 成 が な さ れ た が ,そ の 構 成 の 意 味 に つ い て ,A 氏 が 明 瞭 に は 意 識 化 し て お ら ず , 直
観 的 な 意 識 に よ っ て 成 さ れ た 構 成 と 理 解 で き た 。◆ 具 体 例 103 の 場 合 ,A 氏 は 調 査 的 説 明 過
程 で 筆 者 と や り と り す る 中 で ,構 成 を め ぐ る 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス を 再 吟 味 し ,そ の 再 吟 味 を
通 し て ,自 分 の 内 的 プ ロ セ ス へ の 気 づ き を え た と 考 え る こ と が で き る 。こ の よ う に し て < ぴ
ったり感の有無>は箱庭制作者の自己理解の深化に寄与すると考えられる。
2)[ぴ っ た り 感 の 照 合 ]の 結 果 お よ び 考 察
[ぴ っ た り 感 の 照 合 ] は ,「ミ ニ チ ュ ア の 選 択 や 構 成 に お い て ,現 物 や 構 成 の 特 徴 ( 位 置 や
方 向 な ど )と 内 的 感 覚 ,イ メ ー ジ と を 照 ら し あ わ せ ,ぴ っ た り 感 の 確 認 を す る 内 的 プ ロ セ ス 」
と定義された。
本概念の具体例を以下に挙げる。
◆ 具 体 例 104: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10∼ 11
- 139 -
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 10 で ,砂 箱 左 奥 隅 で ,家 を 置 き 比 べ た 。 続 く
11 で ,砂 箱 左 奥 隅 で ,金 色 の ベ ル と マ リ ア 像 を 置 き 比 べ た 。そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 の 詳 細 を
以下に記す。
箱 庭 制 作 過 程 10
20 分 23 秒 ∼
青 い 屋 根 の 家 を 左 手 で 空 中 に も っ て ,見 つ め る 。
20 分 32 秒 ∼
緑 の 家 を の け ,青 い 屋 根 の 家 を 置 き ,見 つ め る 。
20 分 39 秒 ∼
再 度 ,緑 の 家 を 置 く が ,そ ち ら は 見 ず に ,青 い 屋 根 の 家 を 見 て い る 。
20 分 47 秒 ∼
両方の家をのける。
20 分 50 秒 ∼
教会を置く。
20 分 57 秒 ∼
教 会 を 置 い た ま ま ,そ の 横 に 青 い 屋 根 の 家 を 置 き ,見 つ め る 。
21 分 05 秒 ∼
置き比べていたすべてのミニチュアを別のところにのける。
箱 庭 制 作 過 程 11
21 分 10 秒 ∼
棚 に 行 き ,他 の ミ ニ チ ュ ア を 探 す 。
21 分 25 秒 ∼
ベルを手にもつ。そのままベル左手でもっている。
21 分 38 秒 ∼
マ リ ア 像 を 見 つ め ,右 手 で 取 る 。
22 分 02 秒 ∼
砂 箱 前 に 移 動 し ,マ リ ア 像 を 砂 箱 左 奥 隅 に 置 く 。
22 分 10 秒 ∼
マリア像の横に青い屋根の家を置く。
22 分 15 秒 ∼
緑の家も青い屋根の横に置く。
22 分 20 秒 ∼
ベ ル を 右 手 で 空 中 に も ち ,マ リ ア 像 と 見 比 べ る 。
22 分 38 秒 ∼
ベ ル を 左 手 に 持 ち 替 え る 。マ リ ア 像 を 右 手 で と り ,左 手 に 持 ち 替 え る 。右 手
でベルを置く。
22 分 50 秒 ∼
ベ ル を の け ,マ リ ア 像 を 置 く 。
22 分 56 秒 ∼
緑の家をのける。
22 分 58 秒 ∼
砂箱左奥の領域を見つめる。
23 分 15 秒 ∼ 23 分 28 秒
教 会 ,緑 の 家 , ベ ル を 片 付 け る 。
こ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で ,A 氏 は 大 事 な も の な の で 。あ ま り こ う
(間 )ま あ ,お ご そ か な 雰 囲 気 っ て い う と 言 い す ぎ か も し れ な い け れ ど 。 う ん ,そ う い う 感 じ
(間 )が よ か っ た ん で す ね 。 簡 単 に は 触 れ て い け な い ,な 。 う ん 。 (間 )だ か ら そ れ が , わ た し
の中に何かもってるものがちゃんとあってるかなあってちゃんと確認してましたね(A 氏
調 査 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て )と 語 っ た 。ま た ,内 省 報 告 に 今 の 私 の ベ ー ス を 表 現 す る 時 ,ど ん
な 私 な の ? と 自 分 に た ず ね て い た 。自 分 自 身 の 内 側 と の マ ッ チ ン グ を 丁 寧 に し て い た の で ,
ど ん な 玩 具 を 置 く か 決 め る の に ず い 分 時 間 が か か っ た と 思 う( A 氏 内 省 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ
て ,調 査・感 覚 )と 記 し た 。こ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 で は ,と て も 丁 寧 に ミ ニ チ ュ ア を 見 比 べ ,
内 的 感 覚 と 照 合 し て い る ,と 捉 え ら れ る 。 語 り や 内 省 報 告 に よ る と ,そ の 領 域 に 置 き た い ミ
ニ チ ュ ア は ,お ご そ か な 雰 囲 気 を も っ た ,簡 単 に 触 れ て は い け な い 大 事 な も の だ っ た 。 だ か
ら ,自 分 の 中 に も っ て い る も の と ミ ニ チ ュ ア と が ち ゃ ん と 合 っ て い る か ,丁 寧 に 確 認 ・ マ ッ
テ ィ ン グ し て い た こ と が 示 さ れ た 。今 の 私 の ベ ー ス を 表 現 す る 時 ,ど ん な 私 な の ? と 自 分 に
た ず ね て い た と い う 言 葉 に 示 さ れ て い る よ う に ,[ぴ っ た り 感 の 照 合 ]は ,い ま ・ こ こ で 箱 庭
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を 制 作 し て い る 私 は ど の よ う な 私 な の か と 問 う 行 為・内 的 プ ロ セ ス だ と い う こ と が で き る 。
そ の よ う な 問 い を 自 分 に 対 し て 行 い ,そ の 問 い に 応 え よ う と す る こ と を 通 し て , A 氏 は 自
己への理解を深めていくことができたと解釈することができる。
◆ 具 体 例 105: A 氏 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10,13
A 氏 は 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 10 で ,犬 ・ イ ン パ ラ を 女 の 子 の 人 形 の 周 囲
で 置 き 比 べ ,イ ン パ ラ を 置 い た 。 制 作 過 程 13 で ,一 度 ,青 い 鳥 を 砂 箱 右 奥 (砂 箱 左 側 か ら 砂
箱 を 縦 位 置 に 使 っ た 立 ち 位 置 か ら 左 奥 )に 置 い た 。 そ の 後 ,青 い 鳥 を 女 の 子 の 人 形 の 後 ろ に
置 き な お し た 。そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,A 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で で も ,位 置 は す ご
い 迷 い ま し た , け ど ね , ど こ の 位 置 に し よ う か な ,( A 氏 自 発 ,10-複 数 過 程 に 亘 っ て ) イ ン
パラは私の前なのか後ろなのかとか,
( A 氏 自 発 ,10-10)青 い 鳥 は ,こ れ か ら 行 く 方 に あ る
のか,私は会えるのかしらと思ってたんですけど,実は一緒に,あ,私の頭の上を飛んで
る ,と も い え る な ぁ と 思 っ て ,< な る ほ ど > は い ,置 い て い き ま し た ね( A 氏 自 発 ,10-13),
と 語 っ た 。イ ン パ ラ の 位 置 が 自 己 像 で あ る 女 性 の 人 形 の 前 な の か 後 ろ な の か 迷 っ た 。ま た ,
青 い 鳥 は 最 初 ,こ れ か ら 行 く 方 向 に あ る の か と 思 っ て い た が ,実 は 自 分 の 頭 の 上 を 飛 ん で い
る と 思 い ,近 く に 置 い た こ と が 示 さ れ た 。 ミ ニ チ ュ ア の 位 置 に つ い て ,内 的 感 覚 と 照 合 し て
いる主観的体験の語りだと捉えられる。
第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,A 氏 の 箱 庭 制 作 面 接 の 最 終 回 で あ る 。イ ン パ ラ に 関 し て ,A 氏 は
第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で 思 い を そ の ま ま 聞 い て く れ る , 相 棒 っ て 言 う 感 じ か な (中 略 )願 い は
み ん な か な え て く れ ま す , (中 略 )危 な い と こ ろ へ も 一 緒 に 多 分 行 け る と い う か , 危 な い な
と 思 っ た ら ,こ の 子 は 何 か 多 分 い っ て く れ る だ ろ う し( A 氏 調 査 ,6-12)と 語 っ た 。イ ン パ
ラ は ,A 氏 に と っ て , 自 分 の 思 い を そ の ま ま 聞 い て く れ , 危 な い と こ ろ に も 一 緒 に 行 っ て ,危
な い こ と を 教 え て く れ る 相 棒 の よ う な 存 在 で あ っ た 。ま た ,青 い 鳥 は 第 2 回 と 第 5 回 箱 庭 制
作 面 接 に 置 か れ た 幸 せ を 連 想 さ せ る 鳥 で あ っ た 。 こ の よ う に ,イ ン パ ラ と 青 い 鳥 は A 氏 に
と っ て 重 要 な 存 在 で あ る 。そ の 重 要 な 存 在 と 自 己 像 で あ る 女 の 子 と の 位 置 関 係 や 距 離 感 は ,
箱 庭 制 作 面 接 が 終 わ っ た 後 も 続 く A 氏 の 人 生 の ,内 的 な 同 伴 者 と 自 分 と の 関 係 性 の 表 れ と
し て ,A 氏 に は 大 切 な こ と だ っ た の だ と 推 測 で き る 。 ◆ 具 体 例 105 は ,A 氏 に と っ て こ れ か
ら の 人 生 の 歩 み を 確 か め る 大 切 な [ぴ っ た り 感 の 照 合 ]だ っ た と 解 釈 で き る 。
◆ 具 体 例 104 と 105 に 示 さ れ た よ う に [ぴ っ た り 感 の 照 合 ]は ,箱 庭 制 作 者 が 自 分 の 内 的 プ
ロ セ ス と 構 成 と を 照 ら し 合 わ せ ,そ れ ら が ぴ っ た り か を 確 認 す る 内 的 プ ロ セ ス で あ る 。そ の
照 合 作 業 自 体 が 自 己 の 内 的 プ ロ セ ス へ の 気 づ き を 生 む 可 能 性 が あ る 。さ ら に ,ぴ っ た り な 構
成 を 行 う こ と ,そ の 構 成 に つ い て 語 る こ と を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己 理 解 を 深 め て い く こ
とができると考えられる。
次 に ,ぴ っ た り 感 の 照 合 が う ま く い か な い 場 合 の 具 体 例 を 挙 げ る 。 こ の 具 体 例 も 含 め て ,
以 下 に ぴ っ た り 感 の 照 合 に 関 す る ,い く つ か の 過 程 ・ 要 素 に つ い て 検 討 す る 。
◆ 具 体 例 106: A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 6
A 氏 は 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,愛 着 の 湧 く 作 品 を 作 る こ と が で き な か っ た 。そ の 要 因 の 一
つ に ,ぴ っ た り 感 の 照 合 が 難 し か っ た こ と を 挙 げ ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 し た 。 自 分 の
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作 り た い 形 ,表 現 し た い も の を つ か ま え て , そ れ を そ の よ う に 表 現 す る の が ,こ の 日 は と て
も難しい。自分の奥の方で感じていることをなかなかキャッチできない。自分の感じてい
る こ と と 表 現 さ れ た も の が ぴ っ た り し て い る の か ど う か と い う 照 合 が ,こ の 日 は 難 し く ,い
つもより時間がかかる。ぴったりしているかどうかをちゃんと照合できていないうちに,
表 面 的 に 沸 き あ が っ て く る ア イ デ ア だ け で 動 い て い る よ う な 感 じ( A 氏 内 省 ,7-6,制 作 ・ 意
味 )。 こ の 具 体 例 で は ,ぴ っ た り 感 の 照 合 が 難 し か っ た 要 因 が 複 数 示 さ れ た 。 a .自 分 の 作 り
た い 形 ,表 現 し た い も の ,奥 の 方 で 感 じ て い る こ と を キ ャ ッ チ で き な い ,b.自 分 の 感 じ て い る
こ と と 表 現 さ れ た も の が ぴ っ た り し て い る か の 照 合 が 難 し い c.照 合 が き ち ん と で き て い な
い う ち に ,表 面 的 に 湧 き あ が っ て く る ア イ デ ィ ア だ け で 動 い て い る 感 じ ,が あ っ た 。 内 的 プ
ロ セ ス を 感 じ 取 る こ と ,内 的 プ ロ セ ス と 構 成 と の 照 合 ,照 合 が き ち ん と で き な い ま ま で の 構
成 の 3 要 因 が 示 さ れ た ,と 捉 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 104∼ 106 は ,ぴ っ た り 感 の 照 合 に 関 す る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 で あ る 。 ぴ っ
た り 感 の 照 合 に は ,い く つ か の 過 程 ・ 要 素 が あ る こ と が 示 さ れ た 。そ れ ら の 過 程 ・ 要 素 に 沿
っ て ,考 察 す る 。
a.ミ ニ チ ュ ア の 選 択 や 構 成 の 前 に ,自 分 に 問 い か け る と い う 過 程 ・ 要 素 が あ っ た 。 こ れ
は ,A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 今 の 私 の ベ ー ス を 表 現 す る 時 ,ど ん な 私 な の ? と 自 分 に た ず
ね て い た ( A 氏 内 省 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 感 覚 ) と い う 具 体 例 に 示 さ れ た 。こ れ は ,
ミ ニ チ ュ ア を 選 択 し た り ,構 成 す る 際 に ,自 分 の 心 に 向 け て ,ど の よ う な イ メ ー ジ が あ る の
か ,ぴ っ た り な の か 呼 び か け ・ 問 い か け ・ 尋 ね る と い う 過 程 ・ 要 素 だ と 捉 え ら れ る 。
b.構 成 や ミ ニ チ ュ ア に 関 す る 浮 か ん で き た 内 的 プ ロ セ ス を キ ャ ッ チ す る 過 程 が あ っ た 。
こ れ は ,A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 自 分 の 作 り た い 形 ,表 現 し た い も の を つ か ま え て ( A 氏
内 省 ,7-6,制 作・意 味 )と い う 具 体 例 や 自 分 の 奥 の 方 で 感 じ て い る こ と を な か な か キ ャ ッ チ
で き な い ( A 氏 内 省 ,7-6,制 作 ・ 意 味 ) と い う 具 体 例 に 示 さ れ た 。 心 の 奥 に あ る ,あ る い は
湧き上がってくる内的プロセスを箱庭制作者の意識がキャッチするという過程・要素と考
えられる。
c.キ ャ ッ チ し た 単 独 ,あ る い は 複 数 の イ メ ー ジ や 感 覚 を 確 認 ・ 吟 味 す る 過 程 ・ 要 素 が あ っ
た 。こ れ は ,A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 大 事 な も の な の で 。(中 略 )お ご そ か な 雰 囲 気 っ て い
う と 言 い す ぎ か も し れ な い け れ ど 。う ん ,そ う い う 感 じ (間 )が よ か っ た ん で す ね 。簡 単 に は
触 れ て い け な い ( A 氏 調 査 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と い う 具 体 例 に 示 さ れ た 。
d.内 的 プ ロ セ ス と 構 成 が ぴ っ た り し て い る か の 確 認 ・ マ ッ チ ン グ と い う 過 程 ・ 要 素 が あ
っ た 。 こ れ は ,A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の そ れ が ,わ た し の 中 に 何 か も っ て る も の が ち ゃ ん
と あ っ て る か な あ っ て ち ゃ ん と 確 認 し て ま し た ね( A 氏 調 査 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て )と い う
具 体 例 や 自 分 自 身 の 内 側 と の マ ッ チ ン グ を 丁 寧 に し て い た の で ,ど ん な 玩 具 を 置 く か 決 め
る の に ず い 分 時 間 が か か っ た と 思 う ( A 氏 内 省 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 感 覚 ) と い う
具 体 例 や ,A 氏 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の で も , 位 置 は す ご い 迷 い ま し た , け ど ね , ど こ の 位
置にしようかな,
( A 氏 自 発 ,10-複 数 過 程 に 亘 っ て )イ ン パ ラ は 私 の 前 な の か 後 ろ な の か と
か ,( A 氏 自 発 ,10-10) の 具 体 例 に 示 さ れ た 。 こ れ ら の 具 体 例 は ,現 物 の モ ノ で あ る ミ ニ チ
ュ ア や 構 成 と 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス と の 確 認・マ ッ チ ン グ で あ り ,現 物 の モ ノ が こ こ ろ の こ と ,
心 の 表 現 と な る 上 で ,重 要 な 過 程 ・ 要 素 で あ る ,と 理 解 で き る 。
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そ し て ,A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 自 分 の 感 じ て い る こ と と 表 現 さ れ た も の が ぴ っ た り
し て い る の か ど う か と い う 照 合 が ,こ の 日 は 難 し く ,い つ も よ り 時 間 が か か る ( A 氏 内
省 ,7-6,制 作 ・ 意 味 ) と い う 具 体 例 に 示 さ れ た よ う に ,内 的 プ ロ セ ス と 表 現 が ぴ っ た り し て
い る か の 確 認 ・ マ ッ チ ン グ が う ま く 機 能 し な い 場 合 が あ り ,そ の よ う な 時 ,箱 庭 制 作 者 に は ,
表 面 的 に 沸 き あ が っ て く る ア イ デ ア だ け で 動 い て い る よ う な 感 じ( A 氏 内 省 ,7-6,制 作 ・ 意
味)というような内的プロセスが生じることも示された。
a∼ d は 本 研 究 の デ ー タ か ら 導 き 出 さ れ た も の で あ る た め ,[ぴ っ た り 感 の 照 合 ]の 過 程 ・
要 素 を 網 羅 で き て は い な い か も し れ な い 。し か し ,少 な く と も a∼ d は ,ぴ っ た り 感 に 基 づ い
た 構 成 を 行 う こ と が で き る た め の 過 程 ・ 要 素 の 一 部 で あ る 。 本 項 に 示 さ れ た よ う に ,[ぴ っ
た り 感 の 照 合 ]は 複 数 の 過 程・要 素 に 亘 る 内 的 な 作 業 で あ り ,こ の よ う な 照 合 作 業 自 体 が ,自
己の内的プロセスに丁寧に向き合う主観的な体験であると考えることができるだろう。
3)[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]の 結 果 お よ び 考 察
< ぴ っ た り 感 の 有 無 > 内 の [ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]の 結 果 お よ び 考 察 を 記 す 。[ミ ニ チ ュ
ア と の 出 会 い ]は ,「ミ ニ チ ュ ア 選 択 時 に お け る ,ぴ っ た り 感 の 一 様 態 。
『 出 会 え た ,見 つ け た 』
と い う 感 覚 や 感 情 を 伴 っ た り ,内 界 に 大 き な 影 響 を 与 え る ミ ニ チ ュ ア 選 択 」 ,と 定 義 さ れ た 。
本概念の具体例を以下に挙げる。
◆ 具 体 例 107: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 7,14
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 7 で ,「何 か 白 い も の ,動 き の 出 せ る も の を 見
つ け た く て ,玩 具 を 物 色 し て い た 」(「」内 は ,A 氏 が 内 省 報 告 に お い て 当 該 箱 庭 制 作 過 程 の 内
容 と し て 記 し た 言 葉 で あ る )。 そ し て ,イ ル カ を 見 つ け た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て A 氏
は ,内 省 報 告 に イ ル カ を 見 つ け て 「あ 」と 思 う 。「こ れ だ 」と い う 感 じ 。探 し て い た 白 い 帆 船 と
は 違 っ て い る の に ,「出 会 え た ,見 つ け た 」と い う 気 持 ち に な る ( A 氏 内 省 ,1- 7,制 作 ・ 感 覚 )
と 記 し た 。 A 氏 は イ ル カ を 見 つ け て ,「 あ ,こ れ だ 」「 出 会 え た ,見 つ け た 」 と 感 じ た 。 そ の
感 覚 が イ ル カ を 選 択 す る 大 き な 要 因 と な っ た ,と 考 え ら れ る 。
同 回 の 箱 庭 制 作 過 程 14 で , A 氏 は 棚 に 亀 を 見 つ け ,砂 箱 右 上 隅 に 置 い た 。 そ の 箱 庭 制 作
過 程 に つ い て A 氏 は ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 し た 。青 い 壷 を 棚 に 戻 し な が ら ,玩 具 を 物
色 し よ う と し て い た ら ,亀 が 視 野 に 入 っ た 。 「あ ,こ れ を 置 こ う 」と 思 っ た ( A 氏 内 省 ,1-14,
制 作 ・ 意 図 )。 A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 14 で ,A 氏 は ,イ ル カ の 行 く 先 に あ
る 得 体 の 知 れ な い 何 か を 探 し て い た 。 し か し ,亀 が 目 に と ま っ た 時 ,得 体 の 知 れ な い 何 か の
こ と が 一 瞬 で 頭 か ら 消 え ,亀 を 置 こ う と 思 っ た こ と が 示 さ れ た 。抱 い て い た イ メ ー ジ が 一 瞬
に し て 消 え る ほ ど の 影 響 が 亀 と の 出 会 い に あ っ た ,と 捉 え ら れ る 。 そ し て ,そ れ を 置 く こ と
で ,安 心 し て 進 ん だ ら い い ん だ と 感 じ る こ と が で き ,得 体 の し れ な い も の を 置 こ う と し て い
た 時 の 気 持 ち か ら 大 き く 変 化 し た こ と が 示 さ れ た (p.129 ◆ 具 体 例 94 参 照 )。実 際 に 作 ら れ
た 構 成 で は ,得 体 の 知 れ な い 嫌 な も の の イ メ ー ジ は 枠 外 に 追 い や ら れ た 。実 際 に 作 ら れ た 構
成 と ,嫌 な も の が 枠 内 に あ る 実 際 に は 作 ら れ な か っ た 構 成 と で は ,箱 庭 制 作 者 に と っ て 作 品
の意味が随分異なるものになったであろうと推測できる。
◆ 具 体 例 108: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 12
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A 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 12 で ,青 い 鳥 を 見 つ け て ,砂 箱 左 上 隅 の 白 い
石 の 上 に 置 い た 。青 い 鳥 を 見 つ け る ま で ,A 氏 は 苦 し さ を 感 じ て い た 。と こ ろ が 青 い 鳥 が た
ま た ま 目 に 入 っ た 時 ,「 あ あ ,こ れ だ 」 と 感 じ た 。 そ し て ,そ れ を 置 く こ と で ,苦 し さ が な く
な っ た (p.51 ◆ 具 体 例 20 参 照 )。ま た ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。青 い 鳥 は 意 図 し
な い と こ ろ か ら や っ て き た ,意 図 を 超 え て い る と い う 感 じ か も し れ な い 。こ れ を 見 つ け た 途
端 ,わ た し が そ れ ま で 作 っ て い た 箱 庭 の 調 子 ・ト ー ン が 変 わ っ た 。箱 庭 で は な く て ,変 わ っ た
の は 私 の 心 の 調 子 か も し れ な い ( A 氏 内 省 ,2-12,制 作 ・ 意 味 )。 青 い 鳥 は ,意 図 を 超 え て い
る よ う な 感 じ も あ り ,自 分 の 「心 の 調 子 」を 変 え る ほ ど の 大 き な 影 響 を 及 ぼ し た こ と が 示 さ
れた。
ま た ,Ⅷ 章 で ,コ ア カ テ ゴ リ ー ⑥【 制 作 過 程 と 外 界・日 常 生 活 の 交 流 】の 概 念 [面 接 外 の 出
来 事 や 生 き 方 と 制 作 中 の 内 的 プ ロ セ ス の 連 動 ]の 具 体 例 と し て 後 述 す る ,A 氏 第 8 回 箱 庭 制
作 面 接 で 砂 箱 中 央 に 置 か れ た 白 い 女 性 の 人 形 に 関 す る ◆ 具 体 例 142(p.175 参 照 )は ,本 概 念
の具体例でもある。
木 村 (1985)は ,以 下 の よ う な 例 を 挙 げ て い る 。美 し い カ ラ フ ル な 公 園 を 作 ろ う と 考 え て い
た 女 子 大 生 が な ぜ か 急 に 2 頭 の サ イ が 目 に つ き ,ど う し て も そ れ を 使 わ ね ば な ら な い と い
う 気 持 ち に な り ,動 物 と 怪 獣 の 世 界 を 作 っ た 。 そ し て ,そ の 世 界 に 箱 庭 制 作 者 自 身 が 少 な か
ら ず シ ョ ッ ク を 受 け ,そ う し た 気 持 ち を 言 語 化 し て い く な か で ,自 分 に つ い て の 気 づ き を 深
め て い っ た (p.23)。本 項 の ◆ 具 体 例 107,108 や 木 村 の 記 述 か ら ,[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]は ,
箱庭制作者の心や構成に大きな影響を及ぼすことが確認できた。
[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]の こ の よ う な 箱 庭 制 作 者 や 構 成 へ の 影 響 は ,箱 庭 作 品 が 箱 庭 制
作 者 の 意 図 を 越 え た も の と な る 意 味 で も ,そ し て ,そ の よ う な 作 品 か ら 箱 庭 制 作 者 が 意 識 化
し て い な か っ た 内 的 プ ロ セ ス に 気 づ き ,そ れ を 取 り 込 ん だ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る と い
う 意 味 で も ,重 要 な 事 象 で あ る ,と 考 え ら れ る 。上 に 見 た よ う に ,[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]は ,
非 意 図 的 な ミ ニ チ ュ ア 選 択 で あ る 。そ れ に 加 え て ,A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程
14 で の 亀 と の 出 会 い や 木 村 (1985) の 例 の よ う に ,抱 い て い た イ メ ー ジ と は 異 な る 象 徴 的 意
味 を も っ た ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い の 場 合 は ,よ り 意 外 な 要 素 が 箱 庭 制 作 に 組 み 入 れ ら れ る
こ と に な る 。 こ の よ う な 意 外 で ,非 意 図 的 な ミ ニ チ ュ ア 選 択 に よ る 構 成 が ,箱 庭 制 作 者 の 自
己 理 解 や 自 己 成 長 に 寄 与 す る こ と は ,木 村 の 記 述 か ら も 確 認 で き る 。
B 氏 の 具 体 例 を 挙 げ る 。 こ の B 氏 の 具 体 例 で は ,上 に 挙 げ た A 氏 の 具 体 例 ほ ど ,『 出 会 え
た ,見 つ け た 』 と い う よ う な 鮮 烈 な 感 覚 や 感 情 を 伴 っ て い る わ け で は な い 。 し か し ,ミ ニ チ
ュ ア 選 択 に お い て ,そ の ミ ニ チ ュ ア が 気 に な る 理 由 は わ か ら な い が ,そ の ミ ニ チ ュ ア が 気 に
な る こ と や そ の ミ ニ チ ュ ア に よ っ て 自 分 自 身 が 動 い て い た と い う 語 り が あ る た め , 「内 界
に 大 き な 影 響 を 与 え る ミ ニ チ ュ ア 選 択 」と い う 定 義 に 照 ら し て ,本 概 念 の 具 体 例 で あ る と 考
えた。
◆ 具 体 例 109: B 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 4∼ 5
B 氏 は 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1 で 今 日 は ほ ん と に ,テ ー マ と い う も の が 思 い つ か
ず に 。で ,そ れ で ,こ こ に 置 い て あ る も の と い う 中 か ら ,な ん か 気 持 ち が 動 か な い か な と い う
よ う な と こ ろ か ら 始 ま り ま し た ( B 氏 自 発 ,4-1) と 語 っ た 。 制 作 過 程 4 で ,赤 い 橋 を 選 び ,
制作過程 5 で砂箱中央に橋を置いた。B 氏はその制作過程について自発的説明過程でその
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な ぜ か よ く わ か ら な い ん だ け れ ど も ,橋 っ て い う と こ ろ の も の に ,気 に な っ て 。そ れ で ,で も ,
な ん で 気 に な る の か よ く わ か ら な か っ た で す け れ ど も ,と り あ ず 持 っ て こ よ う と い う こ と
で 。 あ の 橋 を も っ て き た ん で す ( B 氏 ,4-4,自 発 ) と 語 っ た 。 調 査 的 説 明 過 程 で 最 初 ,橋 も
っ て き た 時 に ,こ の 赤 の ,こ の 橋 っ て い う の が ,そ の ,気 に な っ た と い う か 。 印 象 に 残 っ て 。
(中 略 )大 き さ 的 に も ,ま あ ,こ の 大 き さ が し っ く り 来 て て 。で も ,こ の 赤 の 色 の こ の や つ に 実
際 自 分 自 身 が 動 い て た っ て い う の は 確 か な ん で す ( B 氏 ,4-4,調 査 ) と 語 っ た 。
B 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,こ の 箱 庭 制 作 過 程 の 後 に ,以 下 の よ う な 構 成 が 行 わ れ た 。B
氏 は ,橋 の 上 に 牛 を 置 い た 。 河 や 海 を 作 り ,そ の 砂 を 陸 に 寄 せ た 。 そ の 砂 を 寄 せ た 部 分 が 偶
然 小 高 く な っ た 。 こ の よ う に 構 成 さ れ た 風 景 か ら ,B 氏 は 「 確 か こ ん な 風 景 あ っ た ぞ 」 と ,
か つ て 行 っ た こ と の あ る 土 地 や そ こ に い た 人 々 の こ と を 思 い 出 し た 。 制 作 過 程 15 以 後 , B
氏 は 意 図 的 に ,か つ て 行 っ た こ と の あ る 土 地 や そ こ に い た 人 々 に 関 す る 構 成 を 行 っ た 。制 作
過 程 4 で 選 ば れ た 赤 い 橋 は「 確 か こ ん な 風 景 あ っ た ぞ 」と B 氏 が 感 じ た 構 成 の 一 部 だ っ た 。
先 に も 記 し た よ う に ,本 具 体 例 は , A 氏 の 具 体 例 ほ ど ,『 出 会 え た ,見 つ け た 』 と い う よ う
な 鮮 烈 な 感 覚 や 感 情 を 伴 っ て い る わ け で は な い 。 ま た ,制 作 過 程 15 前 後 の 構 成 方 法 の 大 き
な変化に赤い橋の選択がどのように影響したのかの詳細は不明である。そのような限定・
限 界 は あ る も の の ,赤 い 橋 を 選 ぶ 際 の B 氏 の こ の 橋 っ て い う の が ,そ の ,気 に な っ た と い う
か 。印 象 に 残 っ て ,こ の 赤 の 色 の こ の や つ に 実 際 自 分 自 身 が 動 い て た っ て い う の は 確 か な ん
で す と い う 内 的 プ ロ セ ス は ,制 作 過 程 15 前 後 の 構 成 方 法 の 大 き な 変 化 に な ん ら か の 影 響 を
与 え た 可 能 性 が あ る と 推 測 す る こ と が で き る の で は な い だ ろ う か 。本 具 体 例 を [ミ ニ チ ュ ア
と の 出 会 い ]の 一 種 と 考 え る こ と に 論 理 的 整 合 性 が あ る な ら ば ,[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]は
通 奏 低 音 の よ う に ,表 面 に は 顕 れ な く て も 一 貫 し て 箱 庭 制 作 者 や 箱 庭 制 作 過 程 に 影 響 を 及
ぼ す 要 因 と し て 働 き ,箱 庭 制 作 過 程 に 箱 庭 制 作 者 が 意 図 し な い 構 成 の 変 化 を 生 む 一 因 と な
ると解釈できるのかもしれない。
[ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]を 異 な る 観 点 か ら 考 察 す る 。
◆ 具 体 例 110: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 12
先 に 記 し た よ う に ,A 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 12 で 青 い 鳥 を 見 つ け ,置 く
ま で ,A 氏 は 苦 し さ を 感 じ て い た 。と こ ろ が 青 い 鳥 を 置 く こ と で ,苦 し さ が な く な っ た (p.51
◆ 具 体 例 20 参 照 )。A 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 自 発 的 説 明 過 程 で 青 い 鳥 を 置 い た 段 階 で
ほ と ん ど も う こ れ で い い か な ,完 成 に し て も い い か な ,と 思 っ た( A 氏 自 発 ,2-12)と 語 っ た 。
こ の 語 り は ,青 い 鳥 を 置 く こ と に よ っ て ,そ れ ま で の 苦 し か っ た 自 分 の 心 の 調 子 が 変 わ り ,
自 分 の 心 や 箱 庭 作 品 を 「お さ め る 」こ と ,「お さ ま り を つ け る 」こ と (河 合 隼
雄 ,1991,pp.130-133)が で き た 主 観 的 体 験 の 語 り で あ る ,と 解 釈 す る こ と が で き る 。 A 氏 に
と っ て ,苦 し さ に お さ ま り を つ け る こ と が で き た 体 験 は ,作 品 に お さ ま り が つ く と い う 意 味
に お い て も ,自 分 の 苦 し み が 意 図 を 超 え た も の に よ っ て お さ ま る と い う 体 験 に お い て も 意
義 深 い も の で あ っ た ,と 推 測 で き る 。こ の よ う に [ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]と い う 形 で 選 択 し
た ミ ニ チ ュ ア を 使 い ,構 成 す る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己 の 気 持 ち が 自 分 の 意 思 に よ
ら ず ,非 意 図 的 な 要 因 に よ っ て ,お さ ま り を つ け る こ と が で き る と い う 体 験 を も ち う る と 考
え る こ と が で き る 。 [ミ ニ チ ュ ア と の 出 会 い ]は ,こ の よ う な 体 験 を 箱 庭 制 作 者 に も た ら し ,
自己成長を促すという機能をもっていると捉えられる。
- 145 -
Ⅶ -3-2.< イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > と [箱 庭 に 入 る ],[枠 外 の イ メ ー ジ ]の 結 果 お よ
び考察
< イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > が ,本 節 に 挙 げ る 概 念・カ テ ゴ リ ー の 中 で 一 番 包 括 的 で
あ り ,他 の 概 念 は そ の 中 に 包 含 さ れ る と 考 え た 。 例 え ば ,[箱 庭 に 入 る ]の 主 観 的 体 験 は ,イ メ
ー ジ の 中 で 砂 箱 が あ た か も イ メ ー ジ が 展 開 す る 舞 台 と な り ,箱 庭 制 作 者 は そ の 舞 台 で 繰 り
広 げ ら れ る ド ラ マ の 一 登 場 人 物 に な る 事 態 と 捉 え る こ と が で き る 。そ の 場 合 ,砂 箱 で 展 開 さ
れ る イ メ ー ジ が 主 体 で あ り ,箱 庭 制 作 者 は そ れ に 従 う こ と に な る 主 観 的 体 験 と 捉 え る こ と
ができると考えた。
1)< イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > の 結 果 お よ び 考 察
< イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > は ,「イ メ ー ジ や 外 在 化 さ れ た イ メ ー ジ (作 品・構 成・ミ
ニ チ ュ ア )が あ た か も 自 律 性 や 意 思 を も つ 主 体 と な り ,箱 庭 制 作 者 は そ れ を 受 容 す る 立 場 と
な る 内 的 プ ロ セ ス 」,と 定 義 さ れ た 。 本 概 念 の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 111: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 13
A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 13 で ,回 遊 し て い る シ ャ チ ,イ ル カ ,亀 を 見 つ
め ,亀 の 頭 の 方 向 を 陸 側 か ら 海 の 沖 合 い の 方 向 に 変 え た 。そ の 亀 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程
で も う 亀 は ,そ う い う 意 味 で は 亀 は 好 き 勝 手 に 行 き ま す 。 < あ ,好 き 勝 手 に 行 く の ね 。 な る
ほ ど な る ほ ど > は い ‘ 笑 ’ そ う い う こ と で す よ ね ,亀 は 好 き 勝 手 に 行 き ま す ね ( A 氏 調
査 ,3-13) , ふ ん へ ぇ ( 笑 ) へ へ < な に ? > へ ぇ ,自 分 で 面 白 い な と 。 へ ぇ ,あ ,そ う な の と
思 っ て 。 へ ぇ ,あ ,そ う な の ,亀 さ ん 早 く 行 き た い わ け ,へ ぇ ぇ
知らなかったぁと思いまし
た ね ( A 氏 調 査 ,3-13) と 語 っ た 。 亀 は 意 思 を も つ 主 体 と な っ て ,自 分 の 意 思 に 従 っ て 沖 の
方 に 向 か う と い う 感 覚 を A 氏 が も っ た こ と ,そ し て ,亀 が 早 く 沖 に 行 き た が っ て い る こ と を
A 氏 は 面 白 い ,知 ら な か っ た と 思 っ た こ と が 語 ら れ た 。
◆ 具 体 例 112: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 1∼ 2
A 氏 は 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で , 棚 の 玩 具 を 眺 め て か ら ,砂 箱 を 見 つ め
た 。 続 く 制 作 過 程 2 で ,左 奥 か ら ,反 時 計 周 り に 渦 を 描 い た 。 A 氏 は ,砂 を 見 て い た ら ,渦 巻
き の イ メ ー ジ が 浮 か ん で き て ど う し て も 消 え な い か っ た た め ,作 っ て み よ う と し た 主 観 的
体 験 が 報 告 さ れ た (pp.70-71 ◆ 具 体 例 37 参 照 )。イ メ ー ジ が 自 然 に 浮 か ん で き て ,そ れ が 消
え な い の で 箱 庭 制 作 者 が そ れ を 受 容 し ,そ れ に 従 っ て 構 成 す る 主 観 的 体 験 の 語 り ,と 捉 え る
ことができる。
◆ 具 体 例 113: A 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 3
A 氏 は 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,高 く そ び え る 山 か ら な る 島 を 作 っ た 。A 氏 は そ の 島 に 厳 し
さ を 感 じ た 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て A 氏 は 内 省 報 告 に 反 り 返 っ た 傾 斜 だ け で は な く て ,
島 の あ い て い る ス ペ ー ス 全 体 が ,私 に 問 い 掛 け て く る 。突 き 詰 め て く る 。私 を 試 そ う と し て
い る 。 そ ん な イ メ ー ジ ( A 氏 内 省 ,5-3,調 査 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 島 の 傾 斜 や 空 い て い る ス ペ
ー ス が あ た か も 主 体 と な っ て ,A 氏 に 問 い か け ,突 き 詰 め ,試 そ う と す る イ メ ー ジ を A 氏 が
感じたことが示された。
- 146 -
◆ 具 体 例 114: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 23∼ 26
B 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 23 で ,「右 側 の 空 間 に 空 白 を 感 じ 何 か 補 充 し た
い 」と 感 じ ,棚 で ミ ニ チ ュ ア を 探 し た 。 制 作 過 程 24 で ,砂 箱 右 下 隅 に 針 葉 樹 を 3 本 置 い た 。
制 作 過 程 25 で ,「生 活 感 の 感 じ ら れ る 人 物 を 求 め 」て ,棚 で ミ ニ チ ュ ア を 探 し た 。 制 作 過 程
26 で ,「行 き 交 い ,挨 拶 を 交 わ す 人 , 果 実 な ど を 採 る 人 」と い う 男 性 の ミ ニ チ ュ ア を 水 源 の 右
斜 め 上 に ,女 性 の ミ ニ チ ュ ア を 右 中 央 と 中 央 奥 に 置 い た 。 こ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,
第 1 回 ふ り か え り 面 接 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 [右 側 の 空 間 の ,さ び し さ と い う か ,空 白 っ
て い う も の が 気 に な っ た わ け で す ね 。 そ れ で ,右 側 の 空 間 に ,何 か を 補 充 し た い と い う と こ
の 中 で ,そ こ で ,何 を 表 現 し た い ん だ ろ う か と 。 こ の あ た り は ,ち ょ っ と ,ま あ ,ア イ デ ィ ア っ
て い う か ,自 分 で は 思 い つ か な か っ た で す 。 そ の ,で も ,ま あ ,結 果 的 に ,そ の ,テ ー マ を な ん か
導 き だ し て く れ た の は ,木 。 そ の 広 が り の (中 略 )で ,そ こ で ,あ の , 次 に ,な ん か は ,取 り 掛 か れ
る よ う に な っ て き ま し た 。 で ,そ こ で ,生 活 感 の 感 じ ら れ る 人 物 を 求 め る っ て い う こ と と か
に く る ん で す け ど ]。箱 庭 制 作 過 程 23 以 前 の 過 程 で は ,砂 箱 中 央 と 砂 箱 左 側 の 構 成 が な さ れ
て い た 。 制 作 過 程 23 に な っ て ,砂 箱 の 右 側 が 空 白 で ,さ び し い と 感 じ た 。 し か し ,何 を 補 充
し ,何 を 表 現 し た い の か ,ア イ デ ィ ア が 思 い つ か な っ た 。 制 作 過 程 24 で ,木 を 選 び ,砂 箱 右 下
隅 に 置 か れ た 木 が テ ー マ を 導 き だ し て く れ ,続 け て ,砂 箱 右 側 に 「行 き 交 い ,挨 拶 を 交 わ す 人 ,
果 実 な ど を 採 る 人 」を 置 く こ と が で き た ,と 捉 え ら れ る 。 箱 庭 制 作 者 が 自 分 の 意 思 や 意 図 で
構 成 を 行 う の で は な く ,木 と い う ミ ニ チ ュ ア や そ の 構 成 が 続 く 構 成 の ア イ デ ィ ア を 導 き 出
すという主観的体験が示された。
◆ 具 体 例 111∼ 114 は ,箱 庭 制 作 者 が 自 分 の 意 思 や 意 図 で 構 成 を 行 う の で は な く ,構 成・ミ
ニ チ ュ ア が あ た か も 自 律 性 や 意 思 を も つ 主 体 と な り ,箱 庭 制 作 者 は そ れ を 受 容 す る 立 場 と
な る 主 観 的 体 験 で あ っ た 。 岡 田 (1999)は ,箱 庭 療 法 と 能 動 的 想 像 と の 関 連 を 述 べ る 中 で ,「箱
庭 の 玩 具 が ,そ れ ぞ れ 意 志 を も っ て ,話 し た り ,動 い た り す る 」。 「出 来 あ が っ た 箱 庭 作 品 は ,
固 定 し た も の で は な く ,人 物 や 動 物 な ど は ,そ れ ぞ れ に 動 い て お り ,会 話 し て い る の で あ る 」
と し て い る (pp.140-141)。 < イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > は ,岡 田 が 指 摘 す る よ う に ,ミ
ニチュアが自律性や意思をもつ主体となるイメージ体験についての主観的体験と考えられ
る。
石 原 (2008)は ,「モ ノ を ア ニ メ イ ト す る 」と い う イ メ ー ジ 体 験 を 報 告 し て い る 。ア ニ メ イ ト
と は ,「単 な る モ ノ で あ る ミ ニ チ ュ ア を 生 命 や 意 思 を も つ か の よ う に 扱 い ,ミ ニ チ ュ ア が 動
い た り ,感 じ た り ,考 え た り す る か の よ う に 体 験 す る こ と を 指 す 」と し て い る 。 石 原 (2008)の
「モ ノ を ア ニ メ イ ト す る 」と い う イ メ ー ジ 体 験 は ,本 カ テ ゴ リ ー と 同 様 の 主 観 的 体 験 で あ る ,
と 考 え ら れ る 。 石 原 (2008)に は ,a.動 物 (人 間 を 含 む )の ミ ニ チ ュ ア を 用 い る 場 合 ,b.動 物 以 外
の (植 物 を 含 む )の ミ ニ チ ュ ア を 用 い る 場 合 ,c .b の 中 で も 無 生 物 の ミ ニ チ ュ ア を 用 い る 場 合
の 具 体 例 が 報 告 さ れ ,考 察 さ れ て い る 。 そ し て ,b の 具 体 例 と し て ,木 の ミ ニ チ ュ ア を 用 い た
場 合 に つ い て ,以 下 の よ う に 考 察 し て い る 。 「ミ ニ チ ュ ア の 『 木 』 を ア ニ ミ ズ ム 的 に 体 験 す
る に は ,二 重 の イ メ ー ジ 化 が 必 要 で あ る 点 で ,よ り イ メ ー ジ の 柔 軟 性 を 必 要 と す る 。 つ ま り ,
たとえばモノであるミニチュアが何かを『見る』というイメージについて考えてみると,
動 物 の ミ ニ チ ュ ア の 場 合 ,そ れ を 生 き た 動 物 と し て イ メ ー ジ 化 す る こ と と ,『 見 る 』 主 体 に
仕 立 て る こ と と は 同 時 に 起 き る 。 そ れ に 対 し て ,『 木 』 の 場 合 に は ,単 な る モ ノ に 過 ぎ な い
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『 木 』 の ミ ニ チ ュ ア を ,生 き た 『 木 』 と し て イ メ ー ジ 化 し た う え で ,さ ら に そ の 『 木 』 を ア
ニミズム的に『見る』主体に仕立てなければないのである。このような二重のイメージ化
を す ん な り や っ て の け る に は ,か な り イ メ ー ジ 体 験 に 親 和 性 を も っ て い る こ と が 必 要 に な
る だ ろ う 」,と し て い る (pp.112-113)。 B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,木 と い う ミ ニ チ ュ ア や そ
の構成が続く構成のアイディアを導き出すという B 氏の主観的体験や A 氏第 5 回箱庭制作
面 接 の ,島 の 傾 斜 や 空 い て い る ス ペ ー ス と い う 構 成 が あ た か も 主 体 と な っ て ,A 氏 に 問 い か
け , 突 き 詰 め ,試 そ う と す る イ メ ー ジ に お い て も , 同 様 に 二 重 の イ メ ー ジ 化 が 生 じ て い る と
考 え ら れ る 。こ の よ う に 箱 庭 制 作 者 の イ メ ー ジ 化 の 力 に よ っ て ,< イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と
なる>という主観的体験が成立すると考えられる。
◆ 具 体 例 111∼ 114 に つ い て 伊 藤 (2005)を 参 照 し て ,イ メ ー ジ と 意 識 と の 関 係 性 か ら 検 討
す る 。伊 藤 (2005)は ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る イ メ ー ジ と 意 識 と の 関 係 性 に 焦 点 を 合 わ せ た 調
査 研 究 を 行 っ て い る 。そ の 中 で 伊 藤 自 身 が 先 行 研 究 に お い て 見 出 し た 箱 庭 制 作 過 程 の 4 類
型 に 基 づ い て (秦 ,1998),類 型 化 し た 調 査 事 例 を 検 討 し て い る 。そ の 類 型 の 一 つ と し て ,「イ メ
ー ジ が 自 律 的 に 働 く 状 態 で 非 日 常 的 感 覚 を 伴 っ て 制 作 に 没 頭 し ,満 足 を 得 た 制 作 」に つ い て
検 討 し て い る 。 こ の 類 型 の 事 例 で は ,イ メ ー ジ と 意 識 の 関 係 性 に お い て ,以 下 の よ う な 特 性
が 見 い だ さ れ た 。a.イ メ ー ジ と 意 識 の 主 従 関 係 に お い て ,箱 庭 に 展 開 さ れ る イ メ ー ジ に 没 入
し ,イ メ ー ジ 自 体 の 展 開 に 意 識 が し た が っ て い た 。b.イ メ ー ジ に 対 す る 意 識 の 方 向 性 に お い
て ,出 て き た イ メ ー ジ に 積 極 的 に 意 識 を 向 け 対 話 す る よ う に 関 わ る こ と に よ り さ ら な る イ
メ ー ジ の 展 開 が あ っ た 。c.イ メ ー ジ と 意 識 と の 交 流 性 に お い て ,イ メ ー ジ が 自 然 に 浮 か ん で
来 や す い 状 態 が 生 じ て い た (pp.54-63)。 伊 藤 (2005)を 参 照 し て ,本 項 の 具 体 例 を イ メ ー ジ と
意 識 と の 関 係 性 か ら 検 討 す る と ,以 下 の よ う に 考 え る こ と が で き る 。a.A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作
面 接 で ,亀 は あ た か も 意 思 を も つ 主 体 と な っ て ,自 分 の 意 思 に 従 っ て 自 律 的 に 沖 の 方 に 向 か
お う と し た 。調 査 的 説 明 過 程 に お け る こ の 語 り の 後 ,A 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。こ れ は こ
れ で あ の ,私 の 箱 庭 で す け ど ,も う 一 個 で き そ う と い う か ね ,亀 が < ふ ん > 沖 へ 進 ん で い く
と こ ろ が ,(中 略 )違 っ た と こ ろ で す ね 景 色 と し て < ふ ん ふ ん > ( 8 秒 ) ふ ん へ ぇ‘ 笑 ’ へ へ
< な に ? > へ ぇ ,自 分 で 面 白 い な と ,へ ぇ ,あ ,そ う な の と 思 っ て ( A 氏 調 査 ,3− 最 後 の 全 体
的 説 明 )。 こ の 語 り は , A 氏 は イ メ ー ジ に 没 入 し ,亀 が 自 律 的 に 進 む と い う イ メ ー ジ の 展 開
に 意 識 が 従 っ て い る 状 態 で あ り ,自 律 的 に 進 む と い う イ メ ー ジ の 展 開 を 面 白 い と い う よ う
に 満 足 を え て い る 状 態 だ と 考 え る こ と が で き る 。 ま た ,砂 を 見 て い た ら ,渦 巻 き の イ メ ー ジ
が 浮 か ん で き て ど う し て も 消 え な か っ た た め ,作 っ て み よ う と し た ◆ 具 体 例 112 も ,イ メ ー
ジ の 展 開 に 意 識 が 従 っ て い る 主 観 的 体 験 の 語 り ,と 捉 え る こ と が で き る 。b.◆ 具 体 例 113 の ,
島 の 傾 斜 や 空 い て い る ス ペ ー ス が あ た か も 主 体 と な っ て ,A 氏 に 問 い か け ,突 き 詰 め ,試 そ
う と す る イ メ ー ジ や ,◆ 具 体 例 114 の ,木 と い う ミ ニ チ ュ ア や そ の 構 成 が 続 く 構 成 の ア イ デ
ィ ア を 導 き 出 す と い う 主 観 的 体 験 で は ,出 て き た イ メ ー ジ に 積 極 的 に 意 識 を 向 け 対 話 す る
よ う に 関 わ る こ と に よ り さ ら な る イ メ ー ジ の 展 開 が あ っ た ,と 捉 え ら れ る 。 c.◆ 具 体 例 111
の へ ぇ ,あ ,そ う な の と 思 っ て 。 へ ぇ ,あ ,そ う な の ,亀 さ ん 早 く 行 き た い わ け ,へ ぇ ぇ
知ら
な か っ た ぁ と 思 い ま し た ね と い う 語 り で は ,亀 が 沖 に 早 く 行 き た が っ て い る こ と を A 氏 は
知 ら な か っ た と 述 べ て い る こ と か ら わ か る よ う に ,亀 が 沖 に 進 も う と す る こ と は A 氏 が 意
図 し た こ と で は な く ,イ メ ー ジ と 意 識 と の 交 流 性 に お い て イ メ ー ジ が 自 然 に 浮 か ん で 来 や
す い 状 態 が 生 じ て い た と 理 解 す る こ と が で き る 。 本 項 の 具 体 例 と 伊 藤 (2005)の 指 摘 を 総 合
- 148 -
す る と ,< イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > は ,箱 庭 制 作 者 が イ メ ー ジ に 没 入 し ,イ メ ー ジ が
自 然 に 浮 か ん で き や す い 意 識 状 態 に お い て ,出 て き た イ メ ー ジ に 箱 庭 制 作 者 が 積 極 的 に 意
識 を 向 け 対 話 す る よ う に 関 わ る こ と に よ っ て ,さ ら な る イ メ ー ジ の 展 開 が 生 じ る 内 的 プ ロ
セ ス で あ る と 考 え る こ と が で き る 。そ の よ う な 内 的 プ ロ セ ス で あ る た め ,イ メ ー ジ や 作 品 が
あ た か も 意 思 を も つ 主 体 と な り ,箱 庭 制 作 者 は そ れ を 受 容 す る 立 場 と な る と 考 え る こ と が
できる。
< イ メ ー ジ や 作 品 が 主 体 と な る > と い う 主 観 的 体 験 は ,箱 庭 制 作 面 接 が 促 進 機 能 を 発 揮
す る う え で ,重 要 な 機 能 の 一 つ で あ る と 考 え ら れ る 。 河 合 俊 雄 ( 2002 ) は 箱 庭 療 法 に お け
る 主 体 の 観 点 を 取 り 上 げ て い る 。箱 庭 作 品 に は 主 体 の あ り 方 が 表 さ れ る が ,主 体 で あ る と い
う こ と は 自 分 を 何 か に 委 ね て し ま い ,コ ン ト ロ ー ル を 失 う こ と で あ る と す る 。箱 庭 を 作 っ て
いると自分を超えた思いもかけないものが生じてくる。箱庭の方が主体のようになって,
自 分 は で き て い く 作 品 の 持 つ 必 然 性 に 従 っ て い る よ う に な っ て く る ,と 述 べ て い る 。そ し て ,
こ の よ う な 意 味 で の 主 体 性 ゆ え に ,箱 庭 療 法 に お け る 自 己 治 癒 が 可 能 に な る ,と す る
(pp.112-114)。◆ 具 体 例 113 の 反 り 返 っ た 傾 斜 だ け で は な く て ,島 の あ い て い る ス ペ ー ス 全
体 が ,私 に 問 い 掛 け て く る 。突 き 詰 め て く る 。私 を 試 そ う と し て い る 。そ ん な イ メ ー ジ と い
う A 氏 の 主 観 的 体 験 の 記 述 に よ る と ,島 が 私 に 問 い 掛 け て く る 。 突 き 詰 め て く る 。 私 を 試
そ う と し て い る と い う 事 態 は ,A 氏 に 厳 し さ を 感 じ さ せ る も の で あ っ た 。 し か し , A 氏 は ,
厳 し さ か ら 逃 げ る こ と は せ ず ,島 の 問 い 掛 け ,突 き 詰 め ,試 し を 受 け 入 れ ,そ れ に 従 っ て い る
と 捉 え ら れ る 。 本 項 の 具 体 例 と 河 合 俊 雄 ( 2002 ) の 指 摘 を 総 合 す る と ,< イ メ ー ジ や 作 品
が 主 体 と な る > は ,箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,イ メ ー ジ と 意 識 の 関 係 性 に 大 き な 変 換 が 生 じ る
こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 は 箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る こ と が
できると考えられる。
2)[箱 庭 に 入 る ]の 結 果 お よ び 考 察
[箱 庭 に 入 る ]は ,「箱 庭 制 作 者 が ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 構 成 の 際 に ,あ た か も ミ ニ チ ュ ア と し
て 感 じ た か の よ う な 内 的 プ ロ セ ス ,ま た は 砂 箱 の 世 界 の 中 に 居 る よ う な 感 覚 」,と 定 義 さ れ
た。
本 概 念 の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。 ま ず ,ミ ニ チ ュ ア 選 択 の 際 の 具 体 例 を 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 115: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 9
A 氏 は 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 9 で ,海 の 生 き 物 と し て サ メ を 選 択 し た 。そ の
行 為 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で ,A 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。サ メ や な ん か を ,選 ん で る 段
階で,こういうのとでき,出くわすこともあるのかもしれないわ,おっかないけど,でも
が ん ば ろ う と か そ ん な こ と を ( 笑 ) 思 っ て た よ う な , そ ん な 気 が し ま す ね (中 略 )ハ ン マ ー
シ ャ ー ク み た い な , あ の 一 番 凶 暴 な サ メ い る ん で す 。 こ れ は だ め 絶 対 だ め と 思 っ て (中 略 )
あ れ は , あ の , 私 , あ の , 食 べ ら れ ち ゃ う と 思 っ て ( A 氏 調 査 ,6-9) と 語 っ た 。 そ し て ,
内 省 報 告 に こ の 魚 達 は ,ほ ぼ 私 の え さ 。お っ か な い の も い る け ど ,と っ て 食 べ ち ゃ う つ も り
に な っ て い る ( A 氏 内 省 ,6-9,制 作 ・ 意 図 ) と 記 し た 。
次 に ,砂 箱 で 箱 庭 作 品 を 構 成 し て い る 際 の 具 体 例 を 挙 げ る 。
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◆ 具 体 例 116: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 12
A 氏 は ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 12 で ,イ ン パ ラ を 焚 き 火 の 脇 に 置 い た 。そ の
箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。思 い を そ の ま ま 聞 い て く れ
る,相棒って言う感じかな<相棒,思いをそのままきいてくれる>うん,願いはみんなか
な え て く れ ま す , (中 略 )こ の 子 に 乗 っ て 移 動 す る と 私 は と て も 楽 な ん で す , こ の ペ ン ギ ン
は , と て も 楽 。 < ふ ん ふ ん ふ ん > で (間 ), と て も 楽 , 危 な い と こ ろ へ も 一 緒 に 多 分 行 け る
というか,危ないなと思ったら,この子は何か多分いってくれるだろうし,そんな感じか
な ( A 氏 調 査 ,6-12)。 こ の 具 体 例 も ,A 氏 は 自 己 像 の ペ ン ギ ン で あ る か よ う に 語 っ て い る 。
一 度 ,主 語 が 「ペ ン ギ ン 」と な り ,自 分 と ペ ン ギ ン と の 間 に 心 理 的 距 離 が あ る よ う な 語 り に な
る が ,す ぐ さ ま ,ま た ,ペ ン ギ ン に な っ た か の よ う な 語 り に 戻 っ て い る 。
◆ 具 体 例 117: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 19
B 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 19 で ,仕 切 り の 左 側 に ,亀 を 右 向 き に 置 い た 。
続 い て ,イ グ ア ナ を 左 中 央 に 置 く が ,砂 箱 の 奥 ,中 央 よ り や や 左 側 に 置 き 直 し た 。首 を か し げ ,
再 度 ,左 中 央 に ,亀 の 方 を 向 い た 方 向 に し て 置 き な お し た 。亀 を 少 し だ け ,イ グ ア ナ に 近 づ け
た (資 料 4
B 氏 第 2 回 作 品 の 写 真 を 参 照 )。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で
は ,以 下 の よ う に 語 っ た 。進 む の を 引 っ 張 ら れ て い る っ て い う か 。進 ん で い く の を < こ ち ら
か > こ う い う 風 に 進 ん で い こ う と す る の を ,そ の , ま あ , 足 か せ に な っ て い る っ て い う で し
ょ う か( B 氏 調 査 ,2-19)。内 省 報 告 に 追 わ れ る ば か り だ け で は な く ,何 か に ひ っ ぱ ら れ て い
る 感 じ ( B 氏 内 省 ,2-19,自 発 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 亀 は イ グ ア ナ な ど に 追 わ れ て い る 感 覚 が
あ っ た が ,同 時 に ,ひ っ ぱ ら れ て い る と い う 身 体 感 覚 も あ っ た こ と が 示 さ れ た 。
こ れ ら の 具 体 例 で は ,箱 庭 制 作 者 は あ た か も 自 分 が ペ ン ギ ン (◆ 具 体 例 116)や 亀 (◆ 具 体
例 117)に な り ,感 じ ,考 え た よ う な 主 観 的 体 験 が 語 ら れ て い る 。 こ れ は ミ ニ チ ュ ア に 同 一 化
している状況の主観的体験についての語りと考えられる。箱庭制作者はミニチュアと同一
化 す る ま で に ,イ メ ー ジ に 没 入 し ,箱 庭 の 世 界 を 体 験 し て い る 。 A 氏 は ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接
で ,箱 庭 世 界 の 海 で サ メ に 出 く わ す こ と が あ る か も し れ な い 。 お っ か な い が ,が ん ば ろ う と
思 っ た り ,他 の 魚 は 自 分 の え さ で ,獲 っ て 食 べ て し ま お う と 考 え た (◆ 具 体 例 115)。ま た ,A 氏
は ,思 い を そ の ま ま 聞 い て く れ て 相 棒 で あ る イ ン パ ラ に 乗 っ て ,こ の 世 界 を 探 検 し て い る と
い う か , 開 発 し て ( A 氏 調 査 ,6-12) い た 。 こ の よ う に A 氏 は ,あ た か も 自 分 が 箱 庭 の 世 界
に 入 っ て 体 験 を し て い る か の よ う に 語 っ て い る 。B 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,あ た か も 自
分 が 亀 に な り ,イ グ ア ナ な ど に 追 わ れ て い る 感 覚 や ひ っ ぱ ら れ て い る と い う 身 体 感 覚 に つ
い て 語 り ,記 述 し て い る (◆ 具 体 例 117)。
箱 庭 療 法 を 能 動 的 想 像 (ア ク テ ィ ブ イ マ ジ ネ ー シ ョ ン )と 捉 え る 考 え 方 が あ る (河 合 隼 雄 ,
1994,p.33;岡 田 ,1999, pp.140-141;齋 藤 ,2002,p.123)。齋 藤 (2002)は ,箱 庭 療 法 で は ,箱 庭 制 作
者 が 箱 庭 と い う イ メ ー ジ 世 界 を 歩 き 回 り ,あ ら ゆ る 感 覚 を 伴 っ て そ の 風 景 を 感 じ ,そ の 風 景
を 生 き る と 指 摘 し て い る (p.123)。 本 項 の ◆ 具 体 例 115∼ 117 の デ ー タ と 齋 藤 ら の 先 行 研 究
の 指 摘 を 総 合 し て 考 え る と ,[箱 庭 に 入 る ]と は ,箱 庭 制 作 者 が イ メ ー ジ に 没 入 し ,箱 庭 作 品 に
顕 れ た 自 己 の 内 的 世 界 を あ た か も そ の 世 界 に い る か の ご と く 生 き ,箱 庭 の 世 界 や そ の 世 界
の 中 で 生 じ る 自 己 の 内 的 プ ロ セ ス を 体 験 し ,深 く 味 わ う こ と だ と 考 え る こ と が で き る 。 [箱
庭 に 入 る ]と い う 主 観 的 体 験 は ,箱 庭 制 作 者 が 自 己 の 内 的 世 界 を 深 く 理 解 す る こ と に 寄 与 す
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ると考えられる。
次 の 具 体 例 は ,上 に 挙 げ た 具 体 例 と は 異 な り ,箱 庭 の 中 に 入 る こ と 難 し か っ た 場 合 の 主 観
的体験についての語りである。
◆ 具 体 例 118: A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
A 氏 は 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,作 っ た 作 品 に 愛 着 を 感 じ る こ と が で き な か っ た 。そ の 箱 庭 制
作 過 程 で の 主 観 的 体 験 と し て 内 省 報 告 に 私 自 身 が こ の 箱 庭 の 世 界 の 中 で ,生 き 生 き と し て
ら れ な い 。 想 像 を ふ く ら ま せ て 自 由 に 生 き る こ と が (飛 び 回 る こ と が )出 来 な い ( A 氏 内
省 ,7-複 数 の 過 程 に 関 連 ,調 査・意 味 )と 記 し た 。こ の 内 省 報 告 は ,作 品 に 愛 着 を 感 じ る こ と
が で き な い 一 要 因 と し て 記 さ れ た 。箱 庭 の 世 界 の 中 で 生 き 生 き と し て ら れ な い ,想 像 を ふ く
ら ま せ て 自 由 に 生 き る こ と・飛 び 回 る こ と が で き な い と い う 言 葉 は ,箱 庭 の 中 に 入 る こ と が
で き な か っ た A 氏 の 主 観 的 体 験 を 示 し て い る ,と 捉 え ら れ る 。
第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の A 氏 の 主 観 的 体 験 か ら ,[箱 庭 に 入 る ]に は ,想 像 を ふ く ら ま せ て ,
そ の 世 界 を 飛 び 回 り ,生 き 生 き と 自 由 に 生 き る こ と が 必 要 で あ る こ と が 示 さ れ た 。 こ れ は
[箱 庭 に 入 る ]た め の 一 要 件 だ と 考 え ら れ る 。こ こ で ,[箱 庭 に 入 る ]こ と が で き る た め の 要 件
に つ い て , A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 同 一 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る ,他 概 念 の 具 体 例 も 参 考 に
し て 考 え た い 。 ② 【 内 界 と 構 成 の 交 流 】 内 の 概 念 [作 品 に 対 し て ,否 定 的 な 感 情 や 感 覚 を も
つ プ ロ セ ス ]で 取 り 上 げ た A 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 具 体 例 を 参 照 す る (p.88 ◆ 具 体 例 54
参 照 )。 A 氏 は 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,こ の 島 と 半 島 と 灯 台 だ け で よ か っ
た の か も し れ な い で す ね 。< ふ ん > そ れ と 他 の も の は も う 本 当 に ,な ん て い う ん で し ょ う ね
( 間 34 秒 )表 層 的 な も の に 感 じ ら れ て ,他 の も の が 。愛 着 が 湧 か な い で す( A 氏 調 査 ,7-複
数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。 そ し て ,こ の よ う な 構 成 に な っ た 要 因 の 一 つ と し て ,内 省 報 告
に 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。成 り 行 き に 任 せ て 作 っ た こ と に 少 し 後 悔 の よ う な ,残 念 な よ う な
気 持 ち が あ る 。出 来 上 が っ た 作 品 を 見 て も 喜 べ な い 。ど こ か 白 々 し い 感 じ を 抱 い て い る( A
氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,自 発・感 覚 )。成 り 行 き に 任 せ て 作 っ た こ と に 対 す る 残 念 な 気
持 ち ,作 品 に 対 す る 白 々 し い 感 じ に つ い て 記 さ れ た 。 さ ら に ,以 下 の よ う な 要 因 も あ っ た 。
陸 地 の 形 状 が 出 来 た あ た り で ,こ ん な 世 界 を 作 ろ う と い う ア イ デ ア が 浮 か ん で き て , そ れ に
従 っ て ,途 中 で 変 更 す る こ と も な く 作 り 上 げ て し ま っ た 。あ ら か じ め 出 来 上 が っ た ス ト ー リ
ー に 玩 具 を 当 て は め て 置 い て い っ た か の よ う で ,そ こ に は 私 の オ リ ジ ナ リ テ ィ が 感 じ ら れ
ない。自分自身の気持ちを常にスキャンしながら作ったのではないような感じ。自分で作
っ て お き な が ら 愛 着 が 湧 か な い 部 分 が あ る ( A 氏 内 省 , 7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 意 味 )。
こ れ ら の 具 体 例 を [箱 庭 に 入 る ]こ と が で き る た め の 要 件 の 観 点 か ら 整 理 す る 。 否 定 的 な
感 情 が 生 ま れ る よ う な 制 作 過 程 に な っ た 要 因 と し て 以 下 の 3 点 が 示 さ れ た 。 a.箱 庭 の 世 界
の 中 で ,自 分 が 想 像 を ふ く ら ま せ て 自 由 に 生 き る こ と が で き い な い こ と ,b.自 分 の 気 持 ち を
ス キ ャ ン し て 作 っ た の で は な い よ う に 感 じ ら れ る こ と ,c.成 り 行 き に 任 せ て , 出 来 上 が っ
たストーリーにミニチュアを当てはめて作ったかのようで自分のオリジナリティが感じら
れ な い こ と ,の 3 点 に 整 理 で き る 。 こ の よ う な 要 因 に よ っ て ,[箱 庭 に 入 る ]こ と が で き ず ,
表 層 的 で 愛 着 の 湧 か な い 作 品 に な っ た の だ と 推 測 で き る 。 こ の 整 理 に 基 づ く と ,[箱 庭 に 入
る ]こ と が で き る た め の 要 件 は ,a´.イ メ ー ジ が 自 然 に 湧 い て く る た め の 心 理 的 準 備 が 整 っ
て お り ,箱 庭 制 作 に 没 入 で き ,イ メ ー ジ の 中 で 自 由 に 生 き る こ と が で き る こ と ,b´.箱 庭 制
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作 過 程 中 に ,箱 庭 制 作 者 が 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス の 照 合 が 的 確 に で き る こ と ,c´. 構 成 と 内 的
プ ロ セ ス と の 照 合 を 繰 り 返 し ,自 分 の イ メ ー ジ や ス ト ー リ ー な ど と ぴ っ た り す る 構 成 を 行
っ て い く こ と ,と 考 え る こ と が で き る 。
[箱 庭 に 入 る ]こ と が で き る た め の 要 件 は ,前 項 に 挙 げ た 伊 藤 (2005)の イ メ ー ジ と 意 識 の
関 係 性 に お け る 特 性 と 共 通 点 を も っ て い る 。 本 項 の 具 体 例 と 伊 藤 (2005)の 指 摘 を 考 え あ わ
せ る と ,箱 庭 制 作 者 が [箱 庭 に 入 る ]こ と が で き た 時 ,箱 庭 制 作 過 程 に お い て ,イ メ ー ジ は 自
然 に 湧 き あ が っ て く る 。箱 庭 制 作 者 は 箱 庭 制 作 に 没 入 し ,自 分 の 内 的 プ ロ セ ス と 構 成 と の 照
合 を 的 確 に 繰 り 返 し ,自 分 の イ メ ー ジ や ス ト ー リ ー な ど と ぴ っ た り す る 構 成 を 行 っ て い く 。
こ の よ う な 心 的 状 態 に お け る 構 成 を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己 理 解 を 深 化 さ せ る こ と が で
き る 。 ま た ,箱 庭 制 作 者 が ,想 像 を ふ く ら ま せ て ,箱 庭 の 世 界 を 飛 び 回 り ,生 き 生 き と 自 由 に
生 き て ,自 分 の オ リ ジ ナ リ テ ィ を 感 じ る 箱 庭 作 品 を 作 り あ げ る こ と は ,そ の 箱 庭 制 作 者 が 自
身 の 内 的 ス ト ー リ ー を 充 分 に 展 開 さ せ る こ と に な り ,自 己 成 長 を 促 進 す る こ と に 寄 与 す る
と考えることができる。
3)[枠 外 の イ メ ー ジ ]の 結 果 お よ び 考 察
[枠 外 の イ メ ー ジ ]は ,「実 際 に ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ て い な い が ,砂 箱 の 枠 外 に イ メ ー ジ が
存 在 し て い た り ,砂 箱 内 の 構 成 が 枠 の 外 ま で 続 い て い る と イ メ ー ジ さ れ る 内 的 プ ロ セ ス 」,
と 定 義 さ れ た 。 (1)イ メ ー ジ に よ る 制 限 の 超 越 の 観 点 か ら み た 枠 外 の イ メ ー ジ ,(2)図 と 地 ,
「お さ め る 」こ と の 観 点 か ら み た 枠 外 の イ メ ー ジ ,(3)図 と 地 ,よ り 広 範 な 内 的 世 界 の 意 識 化
の 観 点 か ら み た 枠 外 の イ メ ー ジ の 観 点 か ら ,結 果 お よ び 考 察 を 記 す 。
(1)イ メ ー ジ に よ る 制 限 の 超 越 の 観 点 か ら み た 枠 外 の イ メ ー ジ
◆ 具 体 例 119: B 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 42
B 氏 は 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 42 で ,砂 箱 左 上 隅 の ロ ッ キ ン グ チ ェ ア に 星 の
王 子 様 を 置 い た 。 星 の 王 子 様 は ,実 際 の 構 成 で は 砂 箱 内 に 置 か れ て い る が ,B 氏 の イ メ ー ジ
で は 砂 箱 の 外 ,砂 箱 の 枠 上 に あ り ,そ こ か ら 砂 箱 内 の 風 景 を 鳥 瞰 し て い る こ と が 示 さ れ た
(p.62 ◆ 具 体 例 29 参 照 )。こ の よ う に 実 際 の 構 成 と は 異 な り ,枠 外 ,枠 上 に イ メ ー ジ が 存 在 す
る 場 合 が あ る こ と が 見 い だ さ れ た 。ま た ,枠 外 の イ メ ー ジ が 付 与 さ れ た ミ ニ チ ュ ア が 実 際 の
構成では枠内に置かれる場合もあることが見いだされた。現物のモノを使用する箱庭制作
面 接 で は ,星 の 王 子 様 が 砂 箱 左 上 中 央 ,左 上 ,左 上 隅 の 砂 箱 の 枠 の 3 か 所 に 存 在 す る よ う に
構 成 す る こ と は 難 し い 。こ の 具 体 例 の 語 り や 記 述 は ,a.砂 箱 の 枠 と い う 制 限 を 超 え る こ と で
あ り ,b.実 際 に 構 成 す る こ と が 難 し い 同 一 の ミ ニ チ ュ ア が 複 数 箇 所 に 存 在 す る と い う ミ ニ
チュアの現物性という制限をイメージによって超えていった B 氏の主観的体験の語りや記
述 で あ る と 考 え る こ と が で き る 。 [枠 外 の イ メ ー ジ ]に よ る 制 限 の 超 越 に よ っ て , B 氏 は イ
メ ー ジ の 中 で ,自 分 の 内 的 プ ロ セ ス に よ り ぴ っ た り な 構 成 を 思 い 浮 か べ る こ と が で き ,自 己
像が砂箱内の風景を鳥瞰しているという今の自分のあり様を理解することができたと考え
ることができる。
◆ 具 体 例 120: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 四 隅 に 針 葉 樹 を 置 い た 。そ の 構 成 に つ い て 自 発 的 説 明
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過 程 で ,B 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。 こ の 木 を 四 方 に 置 い た と い う の は 特 に ,な ん て 言 う ん
で し ょ う か 。 (中 略 )確 か に 今 ,自 分 自 身 ,意 識 の ,こ の も っ て い る も の は ,こ う い う 風 な 壁 と
か 籠 と か い っ た と こ ろ の 部 分 が あ っ た に せ よ ,う ん ,で も ,ま あ ,う ん ,そ の ,そ れ だ け じ ゃ な
い 部 分 っ て い う 意 味 で ,森 っ て い う ん で し ょ う か ね 。そ の 先 に 何 か 別 の も の も あ っ て っ て い
う と こ ろ で 。あ の あ の ,そ れ が 今 ,表 現 し た い と か ,表 現 し よ う と か い う 風 で は 思 わ な い ん だ
け れ ど も ,そ う い う も の が 広 が り と し て ,一 応 ,感 じ て い る ん だ ( B 氏 自 発 ,2-複 数 過 程 に 亘
っ て )。四 隅 に 置 か れ た 森 は ,砂 箱 内 の 壁 や 籠 と は 異 な る イ メ ー ジ で あ り ,こ の 回 で 表 現 し た
い ,表 現 し よ う と 思 わ な い け れ ど も 感 じ て い る イ メ ー ジ で あ っ た 。 そ し て ,イ メ ー ジ の 中 で
は ,そ の 森 は 砂 箱 の 外 に ま で 広 が り を も つ も の で あ っ た 。
◆ 具 体 例 121: B 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 6
こ れ と 類 似 の 具 体 例 が ,B 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 に あ っ た 。
B 氏 は ,針 葉 樹 を 砂 箱 四 隅 に 置 い た 。 B 氏 は ,内 面 か ら 出 て き た イ メ ー ジ を 砂 箱 の 四 隅 全
面 に ま で ,張 り 巡 ら せ て 制 作 す る 馬 力 が な い と 感 じ た 。そ れ を ,四 隅 に 森 を 作 る こ と で ,丸 い
枠 に 限 定 す る と い っ た 構 成 に 付 与 し た ,と 捉 え ら れ る 。そ し て ,そ れ は ,今 ま で の 箱 庭 制 作 面
接でも見られた自分自身の傾向であると考えていたことが調査的説明過程で語られた
(pp.102-103 ◆ 具 体 例 66 参 照 )。そ の 構 成 に つ い て 内 省 報 告 に 無 意 識 の 領 域( B 氏 内 省 ,5-6,
制 作 ・ 意 図 ) ,今 は 脇 に 追 い や ら れ て い る 諸 々 の 心 の 部 分 ( B 氏 内 省 ,5-6,制 作 ・ 感 覚 ) と
記 さ れ た 。 森 の 内 側 は ,今 回 の 箱 庭 制 作 面 接 で 表 現 で き る イ メ ー ジ で あ り ,枠 内 の 森 ,そ し て
枠 外 に も 広 が る 森 は ,今 は 脇 に 追 い や ら れ て い る 諸 々 の 心 の 部 分 で あ り ,無 意 識 の 領 域 で あ
る と B 氏 は 捉 え て い た 。 河 合 隼 雄 (1969)は ,箱 庭 表 現 を イ メ ー ジ で あ り ,イ メ ー ジ は 意 識 と
無 意 識 の 交 錯 す る と こ ろ に 生 じ た も の で あ る と す る (p.17)。 B 氏 第 2 回 お よ び 第 5 回 箱 庭
制 作 面 接 の 森 は ,意 識 化 ・ 顕 在 化 し て い な い た め ,そ の 内 容 が 明 示 的 に な ら な い 部 分 の 表 現
で あ っ た ,と 考 え ら れ る 。 こ の 具 体 例 は ,河 合 隼 雄 (1969)の 以 下 の 言 及 と 類 似 の 主 観 的 体 験
で あ る と 考 え ら れ る 。 作 品 を 砂 箱 内 に 作 り あ げ て ,そ の 後 外 に も ミ ニ チ ュ ア を 置 く と き ,砂
箱 の 外 に 置 か れ た も の は ,そ の 存 在 を う す う す 感 じ な が ら も ,自 分 に よ っ て 容 認 し 難 い 心 的
内 容 を 表 し て い る 場 合 が 多 い (河 合 隼 雄 ,1969,p.37)。 B 氏 第 2 回 お よ び 第 5 回 箱 庭 制 作 面
接 で は ,実 際 に ミ ニ チ ュ ア が 砂 箱 枠 外 に 置 か れ た わ け で は な い が ,存 在 を う す う す 感 じ な が
ら も ,自 分 に よ っ て 容 認 し 難 い あ る い は 明 確 に 意 識 化 し 難 い と い う 点 に お い て ,共 通 性 を も
っ て い る と 考 え ら れ る 。B 氏 は 森 の 構 成 や そ の 構 成 へ の 語 り を 通 し て ,第 2 回 や 第 5 回 箱 庭
制 作 面 接 で 意 識 化・顕 在 化 し て い な い 内 的 プ ロ セ ス が 自 分 の 内 界 に あ る こ と に つ い て ,理 解
を深めることができたと考えられる。
◆ 具 体 例 119∼ 121 に 共 通 し て い る の は ,イ メ ー ジ が 砂 箱 の 枠 と い う 制 限 を 超 越 す る 働 き
を し て い る 点 で あ る 。B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 星 の 王 子 様 は ,実 際 の 構 成 で は 砂 箱 内 に 置
か れ て い る が ,B 氏 の イ メ ー ジ で は 砂 箱 の 外 ,砂 箱 の 枠 上 に あ り ,そ こ か ら 砂 箱 内 の 風 景 を 鳥
瞰していることが示された。B 氏第 2 回箱庭制作面接と第 5 回箱庭制作面接の四隅に置か
れ た 森 は ,イ メ ー ジ の 中 で は ,そ の 森 は 砂 箱 の 外 に ま で 広 が り を も つ も の で あ っ た 。 こ れ ら
の 具 体 例 で は ,実 際 の 構 成 で は ,ミ ニ チ ュ ア は 砂 箱 の 内 に 置 か れ て お り ,砂 箱 の 外 に は 置 か
れ て い な い が ,イ メ ー ジ の 中 で は ,砂 箱 の 外 に も 存 在 し て い た り ,外 に も つ な が っ て い た 。こ
の よ う に ,上 記 3 具 体 例 で は ,砂 箱 の 枠 外 に は ,ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ て い な い 。そ れ は ,砂 箱 の
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枠 内 に 構 成 す る と い う 制 限 を B 氏 が 受 け 入 れ ,守 っ て い る と い う こ と の 証 で あ ろ う 。そ し て ,
制 限 を 受 け 入 れ つ つ ,砂 箱 の 外 に も 存 在 し た り ,続 い て い る イ メ ー ジ を 無 視 す る こ と な く 保
持している。
石 原 (2008)は ,砂 箱 の 空 間 が ,砂 箱 の 枠 で 区 切 ら れ た 空 間 の 内 部 に 留 ま ら ず ,砂 箱 の 枠 が な
い か の よ う に ず っ と 外 ま で 広 が っ て い く よ う な 箱 庭 制 作 者 (F5)の 体 験 を 報 告 し て い る
(pp.129-130)。ま た ,砂 箱 の 枠 外 に 実 際 に ミ ニ チ ュ ア を 置 い た 臨 床 事 例 A と 箱 庭 制 作 者 (F5)
の 体 験 と を 比 較・検 討 し て い る 。砂 箱 の 枠 を 砂 箱 に 表 現 す る 際 に ,砂 箱 の 枠 が 体 験 の 前 景 に
出 る の か ,表 現 の 舞 台 ,表 現 の 背 景 に な る の か と い う 観 点 か ら 検 討 し て い る 。 臨 床 事 例 A の
ク ラ イ エ ン ト は ,現 物 と し て 砂 箱 が 過 剰 に 意 識 さ れ て し ま い ,「制 限 さ れ な が ら ,あ た か も 制
限 さ れ て い な い か の よ う な 体 験 」が で き て い な い 。 そ れ に 対 し て ,心 理 的 に 健 康 な 調 査 参 加
者 の 場 合 は ,砂 箱 は 表 現 の 舞 台 ,表 現 の 背 景 と な る た め 「 制 限 」 さ れ て い る こ と に さ え 気 づ
か な い ,と し て い る (pp.219-226)。
◆ 具 体 例 119∼ 121 と 石 原 (2008)の 具 体 例 と 考 察 を 考 え あ わ せ る と ,[枠 外 の イ メ ー ジ ]は ,
砂 箱 の 枠 と い う 現 物 の 制 限 を 受 け 入 れ つ つ ,イ メ ー ジ に よ っ て 制 限 を 超 越 す る 心 の 機 能 で
あ る 。そ れ は ,現 物 の 砂 箱 を 意 識 や 表 現 の 背 景 に す る と い う 心 の 機 能 に よ っ て な し う る 事 象
で あ る と 考 え る こ と が で き る 。[枠 外 の イ メ ー ジ ]と い う 制 限 の 受 容 と 超 越 は ,砂 箱 の 外 に も
存 在 し た り ,砂 箱 の 外 に ま で 続 い て い る イ メ ー ジ を 箱 庭 制 作 者 が 気 づ き ,そ の イ メ ー ジ を 巡
る 内 的 プ ロ セ ス を 尊 重 す る こ と を 可 能 に す る 。 ◆ 具 体 例 119 で ,B 氏 は ,自 己 像 が 砂 箱 内 の
風 景 を 鳥 瞰 し て い る と い う 今 の 自 分 の あ り 様 を 理 解 す る こ と が で き た 。◆ 具 体 例 120 と 121
で ,B 氏 は ,森 の 構 成 や そ の 構 成 へ の 語 り を 通 し て ,第 2 回 や 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で 意 識 化 ・
顕 在 化 し て い な い 内 的 プ ロ セ ス が 自 分 の 内 界 に あ る こ と に つ い て ,理 解 を 深 め る こ と が で
き た 。 [枠 外 の イ メ ー ジ ]へ の 気 づ き と 尊 重 は 箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄
与すると考えることができる。
(2)図 と 地 ,「お さ め る 」こ と の 観 点 か ら み た 枠 外 の イ メ ー ジ
◆ 具 体 例 122: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 14
A 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 14 で ,棚 の 前 に 行 き ,ミ ニ チ ュ ア を 探 し た 。そ
し て ,棚 に 亀 を 見 つ け ,砂 箱 の 右 上 隅 に 置 い た 。 そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程
で , A 氏 は 以 下 の よ う な 主 観 的 体 験 を 語 っ た 。 形 の な い 嫌 な も の を 置 こ う と 思 い ,A 氏 は 棚
で ミ ニ チ ュ ア を 探 し た 。す る と ,亀 と 目 が あ い ,こ れ は い い と 思 っ た A 氏 は 亀 を 選 び ,砂 箱 に
置 い た 。 そ の よ う な 構 成 に な っ た こ と で ,嫌 な も の は ,亀 の 先 の 砂 箱 の 外 に イ メ ー ジ と し て
存 在 す る こ と に な っ た (p.129 ◆ 具 体 例 94 参 照 )。内 省 報 告 に は 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。私
に と っ て (イ ル カ に と っ て ? )亀 が と て も 頼 も し く 感 じ る 。 嫌 な も の を 私 か ら さ え ぎ っ て く
れ る ,導 い て く れ る 感 じ( A 氏 内 省 ,1-14,自 発・感 覚 )。亀 は ,私 と 嫌 な も の の 間 に 入 っ て く
れ て ,私 を 守 っ て く れ て い る ,嫌 な も の に 取 り 巻 か れ な い よ う に し て く れ る も の な の だ と 思
う ( A 氏 内 省 ,1-14,自 発 ・ 意 味 )。 こ の 具 体 例 で も ,枠 外 に イ メ ー ジ が 存 在 し て い た 。 そ し
て ,そ の イ メ ー ジ は 単 に 存 在 す る の で は な く ,枠 内 に 置 か れ た ミ ニ チ ュ ア や 箱 庭 制 作 者 自 身
に も 影 響 を 及 ぼ し て い た 。 イ ル カ は 嫌 な も の か ら 影 響 を 受 け ,取 り 巻 か れ る 危 険 が あ っ た 。
し か し ,亀 の 守 り の お か げ で , そ の よ う な こ と に な ら ず ,亀 に 頼 も し さ を 感 じ た こ と が 示 さ
れた。
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A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 構 成 に つ い て の 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 は ,箱 庭 制 作 面 接 に お
ける内界(イメージ)と外界(現物)との関係性を示している。現物の枠によって切り取
ら れ た 外 に は ,現 物 の ミ ニ チ ュ ア は 置 か れ て い な い 。 し か し ,内 的 イ メ ー ジ で は ,現 物 の 枠 を
越 え た と こ ろ に ,イ メ ー ジ が 確 実 に 存 在 し ,そ れ が 内 的 プ ロ セ ス に 影 響 を 与 え て い る 。 現 物
の 枠 の 内 に あ る ミ ニ チ ュ ア( 亀 )は 重 要 な 役 割( 守 り 手 ,導 き 手 と し て の 内 的 意 味 )を 担 い
枠 内 に 存 在 し ,内 的 プ ロ セ ス に 影 響 を 与 え て い る 。 そ し て ,こ の ミ ニ チ ュ ア ( 亀 ) は ,も う 一
つの存在(嫌なもの)を枠外に追いやった原因となっている。
◆ 具 体 例 122 に 表 れ て い る 砂 箱 の 枠 の 内 と 外 と の 関 連 を ど の よ う に 考 え る こ と が で き る
だ ろ う か 。 箱 庭 制 作 面 接 で は ,あ る 回 に ,全 体 の 構 図 の 一 部 分 だ け が 制 作 さ れ る 場 合 が あ る
(東 山 ,1994,p.19,p.89)。そ の よ う な 場 合 ,作 ら れ な か っ た 他 の 部 分 は 存 在 し な い の で は な く ,
そ の 回 で 取 り 扱 わ れ て い る 領 域 の み が 砂 箱 内 に 表 現 さ れ て い る ,ま た は ,あ る 部 分 に 焦 点 が
合 わ さ れ て い る が ,他 の 部 分 は 意 識 の 背 景 に 沈 ん で い る と 考 え る こ と が で き る 。こ の 具 体 例
も 同 様 に ,枠 内 = 意 識 の 図 ,枠 外 = 意 識 の 背 景 (地 )と 捉 え る こ と は 可 能 だ ろ う か 。嫌 な も の は ,
内 省 報 告 に あ る よ う に ,意 識 さ れ て い る 。 だ か ら ,完 全 に 意 識 の 背 景 と な っ て お り ,容 易 に 図
地 反 転 し な い と い う こ と で は な い 。し か し ,嫌 な も の が あ る の か も し れ な い 。わ た し に と っ
て は ,ま だ ち ょ っ と ,置 か な い よ ,っ て い う ( A 氏 自 発 ,1-14) と 語 ら れ て い る よ う に ,嫌 な も
の は や は り ,現 在 の と こ ろ 枠 内 に は 置 か な い ,置 け な い も の な の で あ る 。 内 省 報 告 の デ ー タ
も ,強 調 点 ,焦 点 は 亀 に あ り ,亀 の 役 割 ,意 味 の 説 明 の た め に ,嫌 な も の が 語 ら れ て い る と 見 る
こ と も で き な く は な い 。 こ の よ う な 点 か ら ,嫌 な も の は ,確 か に 意 識 内 に 存 在 す る が ,今 回 は
中 心 的 な 存 在 と し て 焦 点 を 合 わ せ ら れ て お ら ず ,亀 と イ ル カ と の 関 係 性 の 中 で 意 識 さ れ て
い る ,図 地 反 転 可 能 な 背 景 と い う 特 性 を も っ て い る ,と 見 る こ と が で き る の で は な い か 。
こ の イ メ ー ジ の 図 と 地 と い う 事 象 を 「お さ め る 」こ と ,「お さ ま り を つ け る 」こ と の 観 点 か
ら 検 討 す る 。 「箱 庭 の 特 徴 の ひ と つ は ,イ メ ー ジ を 箱 庭 の な か に 作 品 と し て お さ め ね ば な ら
な い こ と で あ る 」(河 合 隼 雄 ,1991,p.130)。 [枠 外 の イ メ ー ジ ]は ,イ メ ー ジ は 砂 箱 の 枠 内 に お
さ ま っ て い な い の で あ る が ,現 物 の 箱 庭 作 品 の 構 成 と し て は ,枠 内 に お さ ま っ て い る 事 象 と
捉 え る こ と が で き る 。 こ の よ う な パ ラ ド ッ ク ス を [枠 外 の イ メ ー ジ ]は も っ て い る 。 A 氏 第
1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 亀 と イ ル カ と 枠 外 に あ る 嫌 な も の に つ い て の ◆ 具 体 例 122 は ,箱 庭 制 作
面 接 に お け る 「 お さ め る 」 と い う 特 性 と も 関 連 し て い る と 見 る こ と が で き る 。 石 原 (2008)
は ,主 観 的 体 験 と 砂 箱 の 枠 に 関 し て 考 察 す る 中 で ,砂 箱 が 物 理 的 な 制 限 で あ り な が ら 同 時 に
ま る で 制 限 が な い か の よ う に 自 由 に 広 が っ て い く よ う に も 体 験 さ れ る と い う 点 ,そ の よ う
に 体 験 す る こ と を 可 能 と す る 制 作 者 の 心 の 働 き が ,砂 箱 を「 自 由 で あ る と 同 時 に 保 護 さ れ た
空 間 」に し て い る と す る (p.227)。石 原 の 研 究 ・ 考 察 を 参 照 し ,こ の デ ー タ を 見 た 時 ,上 記 の
主観的体験は箱庭制作面接の治療機序の一つとして挙げられる「おさめる」ことと関連し
て い る よ う に 思 わ れ る 。 亀 が イ ル カ の 導 き 手 ,守 り 手 と し て 枠 内 に 存 在 す る と 同 時 に ,嫌 な
も の は 内 的 イ メ ー ジ と し て 枠 外 に あ っ て こ そ ,制 作 者 は ぴ っ た り 感 を も つ こ と が で き て い
る。そのように構成することができたからこそ, 砂箱は「自由であると同時に保護された
空 間 」 と な り ,砂 箱 内 の 構 成 は ,砂 箱 内 に お さ ま る も の と な っ た と 考 え る こ と が で き る 。 箱
庭 制 作 に お け る 構 成 ,ぴ っ た り 感 ,意 識 の 図 と 背 景 と の 関 連 で 考 え る と ,箱 庭 療 法 に お い て
「 お さ め る 」た め に は ,箱 庭 制 作 者 が 意 識 の 図 に 当 た る テ ー マ を 砂 箱 の 中 に 表 現 す る と 同 時
に ,図 か ら 外 れ た も の に 対 し て ,実 際 の 表 現 を 与 え ず ,か つ ,内 的 イ メ ー ジ と し て 保 持 す る こ
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と が 必 要 と さ れ る ,と 言 え る の で は な い か 。 そ の よ う に で き る こ と で ,構 成 全 体 に ぴ っ た り
感 が 生 ま れ ,「 お さ め る 」 こ と が 可 能 と な る 。
砂 箱 の 枠 が 表 現 の 背 景 と な り ,現 物 の ミ ニ チ ュ ア を 枠 外 に 置 か な く て も イ メ ー ジ 化 で き
る 能 力 に よ っ て ,[枠 外 の イ メ ー ジ ]は 生 じ る 。枠 外 に 生 き 生 き と イ メ ー ジ 化 が で き る か ら こ
そ ,箱 庭 制 作 者 は 枠 外 に ミ ニ チ ュ ア を 置 か な く て も ,ぴ っ た り 感 を 得 る こ と が で き る ,と 考 え
ら れ る 。 そ の た め ,現 物 の 箱 庭 が ,自 分 の イ メ ー ジ の 一 部 の み の 表 現 で あ っ て も ,イ メ ー ジ で
補 う こ と が で き る た め ,箱 庭 制 作 者 は 現 物 の 箱 庭 に 納 得 で き ,箱 庭 作 品 や 箱 庭 制 作 者 の 心 に ,
おさまりがつくのだと考えられる。
無 意 識 や 意 識 の 背 景 と い う 概 念 が あ る よ う に ,心 に は 図 と な っ て お ら ず ,意 識 さ れ て い な
い 内 的 プ ロ セ ス が 存 在 し て い る と 考 え ら れ て い る 。箱 庭 制 作 者 が 箱 庭 作 品 を 構 成 す る 時 に ,
あ る 内 的 プ ロ セ ス に 焦 点 を 合 わ せ ,意 識 の 図 に 当 た る テ ー マ を 砂 箱 の 中 に 表 現 で き る か ら
こ そ ,箱 庭 作 品 は ま と ま り を も っ た 作 品 に 収 斂 し ,「お さ ま る 」こ と が で き る 。[枠 外 の イ メ ー
ジ ]は ,意 識 の 図 に 当 た る テ ー マ を 砂 箱 の 中 に 表 現 す る と 同 時 に ,今 回 の 箱 庭 制 作 で は 図 か
ら 外 れ て い る が ,別 の 回 で は 図 地 変 転 し 図 と な る 可 能 性 も っ た 内 的 プ ロ セ ス に 対 し て ,実 際
の 表 現 を 与 え ず ,か つ ,内 的 イ メ ー ジ と し て 保 持 す る こ と に よ っ て ,箱 庭 作 品 を よ り ぴ っ た
り な も の に す る こ と に 寄 与 し て い る と 考 え る こ と が で き る 。◆ 具 体 例 122 で は ,嫌 な も の が
[枠 外 の イ メ ー ジ ]と な っ た お か げ で ,現 物 の 枠 の 内 に あ る 亀 は イ ル カ に と っ て ,守 り 手 ,導
き手という重要な役割があることに焦点化でき, A 氏は自己像であるイルカと亀との関係
性についての理解を深めることができたと捉えられる。
(3)図 と 地 ,よ り 広 範 な 内 的 世 界 の 意 識 化 の 観 点 か ら み た 枠 外 の イ メ ー ジ
◆ 具 体 例 123: A 氏 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
A 氏 は 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,今 回 の 箱 庭 作 品 と 前 回 の 箱 庭 作 品 と の
関 連 に つ い て ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 出 来 上 が っ た 世 界 は こ な い だ よ り も う 少 し ,奥 ま っ た
と こ ろ と い う か (中 略 )私 の 中 の 奥 ま っ た と こ ろ の を 作 っ た な っ て い う 感 じ が あ り ま す ね 。
< あ ,ほ ん と 。( 間 ) そ う や ね > ( A 氏 調 査 ,10-全 体 的 感 想 ) も し そ の , 学 校 や , 映 画 館 が
あるんだとしたらば,この箱庭はすごく大きくって‘箱庭よりもひと回り大きな辺りを両
手で区切りながら’その箱庭のうーんと遠くの方に<もっとね>ありそうな,はい。感じ
な ん で す ね( A 氏 調 査 ,10-前 回 の 作 品 と の 関 連 )。前 回 作 品 の 学 校 や 映 画 館 が あ る と し た ら ,
砂 箱 は と て も 大 き く ,今 回 の 作 品 か ら と て も 遠 く に あ る と い う イ メ ー ジ に な る こ と が 語 ら
れ た 。 現 物 の 砂 箱 の 枠 外 の ,現 物 の 砂 箱 よ り も 大 き な 砂 箱 の イ メ ー ジ の 枠 内 に ,前 回 作 品 が
あ る と い う イ メ ー ジ が ,こ の 具 体 例 で 示 さ れ た 。 こ の 具 体 例 で は ,心 の 奥 ま っ た と こ ろ が 箱
庭 制 作 過 程 で は 図 に な っ て い た 。し か し ,調 査 的 説 明 過 程 に お い て 実 際 の 砂 箱 よ り も も っ と
広 い 砂 箱 を イ メ ー ジ す る こ と に よ っ て 図 地 反 転 し ,現 実 的 な 世 界 の 表 現 で あ っ た 前 回 作 品
が ,図 と な っ た ,と 捉 え る こ と が で き よ う 。私 の 中 の 奥 ま っ た と こ ろ と い う 表 現 は ,自 発 的 説
明 過 程 で は 出 て こ ず ,調 査 的 説 明 過 程 で 初 め て 言 及 さ れ た 。 図 地 反 転 し ,現 実 的 な 世 界 の 表
現 で あ っ た 前 回 作 品 が ,図 と な っ た こ と で ,今 回 の 箱 庭 作 品 が ,心 の 奥 ま っ た と こ ろ で あ る
こ と に 気 づ く こ と が で き た ,と 理 解 で き る 。ま た ,図 地 反 転 に よ っ て ,A 氏 は 現 実 的 な 世 界 と
心の奥まったところという異なる性質をもつ二つの内的世界のつながりに気づくとともに,
箱 庭 制 作 過 程 で の 気 づ き に 比 べ ,よ り 広 範 な 心 の 領 域 を 俯 瞰 し ,意 識 化 す る こ と が で き た ,
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と 解 釈 で き る 。◆ 具 体 例 123 で は , 図 地 反 転 に よ っ て ,[枠 外 の イ メ ー ジ ] が 意 識 化 さ れ , A
氏 は よ り 広 範 な 心 の 領 域 を 意 識 化 で き ,自 己 の 内 的 世 界 の 理 解 を 深 め る こ と が で き た と 考
えられる。
Ⅷ -3-3. 上 記 カ テ ゴ リ ー 外 の 概 念 の 結 果 お よ び 考 察
「内 界 」が 中 心 と な る カ テ ゴ リ ー・概 念 群 に は ,今 ま で 考 察 し て き た カ テ ゴ リ ー に 包 含 さ れ
ず ,そ れ ら か ら 独 立 し た 概 念 が あ っ た 。 そ の 独 立 し た 概 念 と し て [身 体 感 覚 ・ ボ デ ィ ー イ メ
ー ジ ]が あ っ た 。
1)[身 体 感 覚 ・ ボ デ ィ ー イ メ ー ジ ]の 結 果 お よ び 考 察
[身 体 感 覚・ボ デ ィ ー イ メ ー ジ ]は ,「箱 庭 制 作 中 に 喚 起・付 与 さ れ た 身 体 感 覚 や ボ デ ィ ー
イ メ ー ジ ,箱 庭 制 作 面 接 中 の 身 体 表 現 に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス 」,と 定 義 さ れ た 。本 概 念 の 身 体
感 覚 や ボ デ ィ ー イ メ ー ジ に は ,装 置 や 構 成 に よ り 喚 起・付 与 さ れ た 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述
が 含 ま れ て い た 。本 概 念 の 具 体 例 の 内 ,砂 に 触 れ る 行 為 や 砂 の 造 形 以 外 の 具 体 例 を 以 下 に 挙
げ る 。 砂 に 触 れ る 行 為 や 砂 の 造 形 を 巡 る 身 体 感 覚 の 具 体 例 は ,[砂 や 砂 箱 の 底 の 色 を 巡 る 内
的 プ ロ セ ス や そ の 構 成 へ の 影 響 ]の 具 体 例 と 重 複 す る た め ,こ こ で は 割 愛 す る 。 (1)触 感 , 温
感 な ど 皮 膚 感 覚 の イ メ ー ジ ,(2) 複 数 の 異 な る 身 体 感 覚 , ボ デ ィ ー イ メ ー ジ の 相 補 性 ,(3) 身
体 感 覚 と 構 成 の 相 互 作 用 ,(4)利 き 手 と 身 体 表 現 の 結 果 お よ び 考 察 を 記 す 。
(1)触 感 ,温 感 な ど 皮 膚 感 覚 の イ メ ー ジ の 結 果 お よ び 考 察
以下に具体例を挙げる。
◆ 具 体 例 124: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 7
A 氏 は 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 7 で ,砂 を 少 し 掘 っ て ,義 母 を 表 す 白 い 人 形 を
置 き ,人 形 の 周 囲 に 砂 を 少 し 盛 る と い う 構 成 を 行 っ た 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 調 査 的 説
明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。少 し 下 に 置 く 事 で ,こ の 人 形 を 守 る よ う な ,大 事 に( 間 4
秒)保護するような,そういう感覚があったんだろうな(間8秒)この,この,この砂の
レベル,と同じに置くとしたらば,例えば,あの,あの,綿か,なんかの,ふわふわっと
した巣のような,<ふんふんふん>そんなような物の中に置きたいというイメージがあり
ま し た( A 氏 調 査 ,8-7)。実 際 の 構 成 で は ,綿 の 巣 は 置 か れ て い な い 。し か し ,綿 の ふ わ ふ わ
と し た 巣 と い う イ メ ー ジ は ,義 母 で あ る 人 形 を 守 り ,大 事 に 保 護 す る と い う A 氏 の 感 覚 を 表
し て い る 。本 具 体 例 は ,A 氏 の 義 母 を 守 り ,保 護 し た い と い う 思 い が ,ふ わ ふ わ と し た と い う
触感のイメージに基づいて構成される可能性があったことを示す語りである。
◆ 具 体 例 125: A 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 17
A 氏 は 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 17 で ,島 の 左 手 前 に 焚 き 火 と キ ノ コ を 置 い た 。
その箱庭制作過程について自発的説明過程で少しなにかあったかい場所と食べる物と置い
てあげて,あの,こういう幸せそうな鳥も置いてあげて,こう(間7秒)ご褒美があるっ
て い う か ,希 望 が あ る っ て 言 う か < な る ほ ど > そ う い う 感 じ を 作 り た く な っ た ん で す ね( A
氏 自 発 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。 内 省 報 告 に 焚 き 火 に は 赤 い 火 が お こ っ て い て ,暖
か い 。疲 れ た ら こ こ に 来 て 休 め ば い い の だ と 思 う( A 氏 内 省 ,5-17,制 作・感 覚 )と 記 し た 。
内 省 報 告 の 記 述 は ,A 氏 が 自 己 像 で あ る 亀 と し て 火 の 暖 か さ を 感 じ た か の よ う な 記 述 に な
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っている。
上 記 2 具 体 例 で は ,触 感 ,温 感 の イ メ ー ジ が 示 さ れ た 。◆ 具 体 例 124 で は ,ふ わ ふ わ と し た
と い う 触 感 の イ メ ー ジ は ,義 母 を 守 り ,保 護 す る と い う イ メ ー ジ に 関 連 す る も の で あ っ た 。
◆ 具 体 例 125 で は ,焚 き 火 の 暖 か さ は ,自 己 像 で あ る 亀 の ご 褒 美 や 希 望 を 示 す も の で あ っ た 。
内 省 報 告 の 記 述 で は ,A 氏 が 自 己 像 で あ る 亀 と し て 火 の 暖 か さ を 感 じ た か の よ う な 記 述 で
あ り ,そ の 暖 か さ の お か げ で ,亀 は 疲 れ た 時 に 休 む こ と が で き る あ り が た さ が 生 き 生 き と 伝
わってくるような記述となっている。このような重要な内的プロセス表現することに暖か
さという温感のイメージが関係している。このように触感や温感のイメージは箱庭制作者
の内的なプロセスを表現する際の重要な要因になる場合があることが確認された。
こ の よ う な 触 感 ,温 感 な ど 皮 膚 感 覚 の イ メ ー ジ に 関 す る 内 的 プ ロ セ ス を ど の よ う に 理 解
す れ ば ,よ い の だ ろ う か ? 箱 庭 制 作 過 程 で ミ ニ チ ュ ア や 砂 に 触 れ ,作 品 が 構 成 さ れ る 時 ,箱 庭
制 作 者 は 装 置 の 触 感 や 温 感 を 感 じ る 。 し か し ,本 項 の 具 体 例 は ,構 成 す る 際 に 生 じ た 現 実 の
皮 膚 感 覚 と は ,異 な る 内 的 プ ロ セ ス と 考 え る べ き で あ ろ う 。 ◆ 具 体 例 124 の ,ふ わ ふ わ っ と
し た と い う 言 葉 は ,実 際 に 綿 に 触 れ て 生 じ た も の で は な い 。 ◆ 具 体 例 125 の ,焚 き 火 の 暖 か
さ も ,実 際 に 砂 箱 内 で 焚 き 火 を 起 こ し て 生 じ た 温 感 で は な い 。 A 氏 が ,綿 や 焚 き 火 を イ メ ー
ジ し た 時 に ,そ の イ メ ー ジ に 伴 っ て 生 じ た 触 感 や 温 感 の イ メ ー ジ で あ る 。こ れ ら の 触 感 や 温
感 の イ メ ー ジ は ,実 際 の 皮 膚 感 覚 で は な い か ら と い っ て ,箱 庭 制 作 面 接 に お い て 価 値 の な い
内 的 プ ロ セ ス で は な い 。 ふ わ ふ わ と し た と い う 触 感 の イ メ ー ジ は ,義 母 を 守 り ,保 護 し た い
と い う A 氏 の 気 持 ち を ぴ っ た り な 形 で 表 現 で き る 可 能 性 が あ っ た 。◆ 具 体 例 125 の 焚 き 火
に は 赤 い 火 が お こ っ て い て ,暖 か い 。疲 れ た ら こ こ に 来 て 休 め ば い い の だ と 思 う と い う 記 述
か ら ,自 己 像 で あ る ペ ン ギ ン が 焚 き 火 の そ ば で 暖 か さ を 感 じ つ つ ,疲 れ た 身 体 を 休 め て い る
光 景 が ,A 氏 に 生 き 生 き と イ メ ー ジ さ れ て い た こ と が 感 じ 取 れ る 。こ れ ら の 具 体 例 に 示 さ れ
て い る よ う に ,箱 庭 制 作 面 接 に お い て ミ ニ チ ュ ア や 構 成 か ら 喚 起 さ れ る 皮 膚 感 覚 の イ メ ー
ジ は ,箱 庭 制 作 面 接 が 生 き 生 き と し た イ メ ー ジ 表 現 と な る た め の 重 要 な 要 素 の 一 つ で あ る
と 考 え る こ と が で き る 。こ の よ う に ,触 感 ,温 感 な ど 皮 膚 感 覚 の イ メ ー ジ は ,箱 庭 制 作 面 接 が
箱 庭 制 作 者 に と っ て ,生 き 生 き と し た イ メ ー ジ 表 現 に な る こ と や ,箱 庭 の 世 界 に 箱 庭 制 作 者
が 入 り ,そ の 世 界 を 体 感 す る か の よ う な イ メ ー ジ 体 験 と な る こ と に 寄 与 す る と 解 釈 で き よ
う。
(2)複 数 の 異 な る 身 体 感 覚 ,ボ デ ィ ー イ メ ー ジ の 相 補 性 の 結 果 お よ び 考 察
複 数 の 異 な る 身 体 感 覚 ,ボ デ ィ ー イ メ ー ジ の 相 補 性 に つ い て 考 察 す る 。
◆ 具 体 例 126: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 4∼ 6,16
A 氏 は 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 6 で , 砂 箱 中 央 に ,鳥 の 巣 を 置 い た 。そ の 箱 庭
制 作 過 程 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程 で ,箱 庭 制 作 過 程 4 や 5 で ,鳥 の 巣 は 目 に 入 っ て い た が ,鳥
の 巣 は 子 ど も を か え す も の で あ る た め ,子 ど も を も た な い A 氏 は 素 直 に 手 を 伸 ば す こ と が
で き な か っ た ,と 語 っ た (pp.29-30 ◆ 具 体 例 4 参 照 ) 。 そ の 後 ,箱 庭 制 作 過 程 16 で ,A 氏 は
砂 箱 右 側 の 渦 の 幅 を 3 度 広 げ た 。そ の 行 為 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。
私,そうそう,この辺,亀を最初ここにおいて途中,ま,ここと,ここに置き直してまし
たけど,この幅を広げてましたよね。<広げたね>なんかね
あの,ふふ‘笑’産道を広
げ て る み た い っ て 思 い < は ぁ > ま し た ね , 広 げ て る 最 中 ね ( A 氏 調 査 ,4-16)。 A 氏 は 渦 の
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幅 を 広 げ て い る 時 ,産 道 を 広 げ て い る よ う な イ メ ー ジ を も っ た ,と 捉 え ら れ る 。 こ の 具 体 例
は , A 氏 が 箱 庭 制 作 過 程 で 実 際 の 陣 痛 を 体 験 し て い る わ け で は な い た め ,産 道 を 広 げ て る み
た い と い う 主 観 的 体 験 の 語 り は ,構 成 行 為 か ら 喚 起 さ れ た ボ デ ィ ー イ メ ー ジ で あ る と 考 え
られる。
A 氏第 4 回箱庭制作面接は女性性・母性が中心的なテーマとなった。鳥の巣は子どもを
か え す も の で あ る た め ,子 ど も を も た な い A 氏 は 素 直 に 手 を 伸 ば す こ と が で き な か っ た 。
女性性・母性を感じさせるミニチュアに手が伸ばせないという身体感覚を伴った行為の心
理 的 意 味 に A 氏 は 気 が つ く と 同 時 に ,辛 さ や 切 な さ を 感 じ た 。し か し ,一 方 で ,◆ 具 体 例 126
に あ る よ う に A 氏 は ,亀 を 鳥 の 巣 が あ る 場 所 に 新 し い 自 己 と し て 産 み お と す た め に ,産 道 を
広 げ ,亀 を 進 め る 行 為 を 何 度 も 行 っ て い る 。女 性 性・母 性 を 感 じ さ せ る ミ ニ チ ュ ア に 手 が 伸
ば せ な い 辛 さ や 切 な さ を 感 じ た A 氏 が ,同 じ 箱 庭 制 作 面 接 で ,産 道 を 広 げ る と い う ボ デ ィ ー
イ メ ー ジ を 体 験 で き た こ と は ,A 氏 が 自 身 の 女 性 性 ・ 母 性 を ど う 捉 え る の か ,ま た ,A 氏 の 女
性 性・母 性 が ど う 育 ま れ て い く の か と い う 点 に お い て ,と て も 重 要 な 事 象 だ っ た と 解 釈 で き
る。
◆ 具 体 例 127: B 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 奥 に 小 人 ,な げ き 悲 し む 人 ,か た つ む り な ど を ,砂 箱 中
央 に 星 の 王 子 様 と ル ー ペ を 置 い た (p.211 参 照 )。 こ れ ら の 構 成 に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程 で
以 下 の よ う に 語 ら れ た 。砂 箱 奥 の 小 人 ,な げ き 悲 し む 人 ,か た つ む り な ど の 構 成 は ,ち ょ っ と
怒 っ て い る 自 分 と か , 悲 し い な と い う 自 分 や ,ぽ か し ち ゃ っ た と こ ろ だ と か ,ち ょ っ と な ん
か の ん び り し た い (B 氏 自 発 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と い う B 氏 の 気 持 ち を 表 し て い た 。 ル
ー ペ で 覗 き こ む 星 の 王 子 様 は ,B 氏 の 気 持 ち を 観 察 す る と い う 自 分 (B 氏 自 発 ,5-複 数 過 程 に
亘 っ て )と い う 内 的 プ ロ セ ス の 表 現 で あ っ た 。
B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で ,箱 庭 制 作 過 程 5 か ら 8 に 亘 る 森 の 構 成 に つ い て 語 っ た 後 ,こ う
い う 気 持 ち の 背 後 に 何 が あ る ん だ ろ う か (B 氏 自 発 ,5-9)と 語 っ た 。 森 の 構 成 が 終 わ っ た 後
に ,砂 箱 中 央 奥 に 構 成 さ れ た B 氏 の 気 持 ち の 背 後 に あ る も の に 思 い を 向 け た ,と 理 解 で き る 。
そ の 後 ,星 の 王 子 様 の 背 後 に , 建 物 , 橋 ,大 砲 な ど を 置 い て い き ,箱 庭 制 作 過 程 17 と 18
で ,棚 か ら タ キ シ ー ド を 着 た 人 形 と ベ ッ ド を 選 び ,砂 箱 中 央 下 で ベ ッ ド に タ キ シ ー ド を 着 た
人 形 を 寝 か せ た 。 そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に 体 調 不 良 (B 氏 内 省 ,5-17, 制
作 ・感 覚 ),鈍 痛 (B 氏 内 省 ,5-17,制 作 ・連 想 ),内 臓 疾 患 (B 氏 内 省 ,5-17,制 作 ・意 味 )と 記 し た 。そ
し て 第 5 回 ふ り か え り 面 接 で , [連 想 っ て い う か ,そ の 時 感 じ て い た の で す け ど も ,鈍 痛 が あ
っ た っ て い う こ と で ]と 語 っ た 。 こ の 箱 庭 制 作 時 B 氏 は 内 臓 疾 患 を 抱 え て お り ,体 調 不 良 で
あ っ た 。箱 庭 制 作 中 に も 鈍 痛 を 感 じ て い た 。こ の よ う な 実 際 の 身 体 感 覚 や 身 体 状 況 は ,砂 箱
中 央 奥 に 構 成 さ れ た B 氏 の 気 持 ち の 背 後 に あ る 現 実 問 題 (B 氏 調 査 ,5-複 数 過 程 に亘 って),自
分 の 背 後 に あ る 念 慮 し て い る こ と ( B 氏 内 省 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て ,制 作 ・ 意 図 ) の 一 部 で
あった。この体調不良の一因は, B 氏が被っている攻撃性などの仕事上の困難や緊張感に
由来していた。
砂 箱 中 央 奥 に 構 成 さ れ た B 氏 の 気 持 ち ,そ れ を ル ー ペ で 覗 き こ む 星 の 王 子 様 ,砂 箱 中 央 奥
に 構 成 さ れ た B 氏 の 気 持 ち の 背 後 に あ る 現 実 問 題 の 関 連 に つ い て ,B 氏 は 調 査 的 説 明 過 程
の終盤に以下のように初めて明確に語った。わりあい冷静でいるというか。ひどく落ち込
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む と か ,怒 り 狂 っ て ,投 げ 出 し て や る っ て い う 風 で は な く て 。(中 略 )い ろ い ろ あ る け ど ,う ん ,
し ょ う が な い な と い う 部 分 と ,ま あ ,ち ゃ ん と 時 間 か け ら れ れ ば ,ま あ ,で き な い こ と な い わ
っ て い う よ う な ,そ う い う よ う な 感 覚 と か ,と い う こ と で あ っ て ,わ り あ い 冷 静 で い る っ て
い う か (B 氏 調 査 ,5-複 数 過 程 に亘 って)。B 氏 は 箱 庭 作 品 を 構 成 し ,そ れ に つ い て 語 る 中 で ,体
調不良や困難な状況に対して冷静に向き合っている自分により明確に気づくことができた,
と解釈できる。
上 記 の 両 氏 の 箱 庭 制 作 面 接 で は ,そ れ ぞ れ に 複 数 の 異 な る 身 体 感 覚 や ボ デ ィ ー イ メ ー ジ
が箱庭制作者の内的プロセスの重要な表現として現れている。
A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,女 性 性・母 性 を 感 じ さ せ る ミ ニ チ ュ ア に 手 が 伸 ば せ な い と
い う 身 体 感 覚 と ,産 道 を 広 げ る と い う ボ デ ィ ー イ メ ー ジ が 喚 起 さ れ て い る 。 そ し て ,そ の 両
者 は ,A 氏 が 自 身 の 女 性 性 ・ 母 性 を ど う 捉 え る の か ,ま た ,A 氏 の 女 性 性 ・ 母 性 が ど う 育 ま れ
て い く の か と い う 点 に お い て ,相 補 的 な 役 割 を 果 た す 重 要 な 内 的 プ ロ セ ス で あ る と 考 え ら
れる。
B 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,内 臓 疾 患 に よ る 鈍 痛 と い う 内 臓 感 覚 と ,ル ー ペ を 覗 き こ む
と い う 視 覚 イ メ ー ジ が 表 現 さ れ て い る 。制 作 の 順 番 は ,砂 箱 中 央 奥 に 構 成 さ れ た B 氏 の 気 持
ち→それをルーペで覗きこむ星の王子様→B 氏の気持ちの背後にある現実問題である。こ
の よ う に な っ た 理 由 は ,箱 庭 制 作 過 程 9 で 砂 箱 中 央 奥 に 構 成 さ れ た B 氏 の 気 持 ち の 背 後 に
あ る も の に 思 い を 向 け る と い う 内 的 プ ロ セ ス が 生 ま れ た た め で あ る ,と 推 測 で き る 。ル ー ペ
を 覗 き こ む と い う 視 覚 イ メ ー ジ の 表 現 が 先 に 構 成 さ れ て い る も の の ,観 察 す る と い う 自 分
と い う B 氏 の あ り 様 は ,体 調 不 良 な ど の 現 在 の 状 況 に 対 し て ,ひ ど く 落 ち 込 む と か ,投 げ 出 す
と か と い う 姿 勢 に 陥 ら ず に す ん だ 要 因 で あ る と 考 え ら れ る 。砂 箱 中 央 奥 に 構 成 さ れ た B 氏
の 気 持 ち ,そ れ を ル ー ペ で 覗 き こ む 星 の 王 子 様 ,砂 箱 中 央 奥 に 構 成 さ れ た B 氏 の 気 持 ち の 背
後 に あ る 現 実 問 題 の 関 連 ・ 全 体 像 を ,B 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 語 る 中 で ,よ り 明 確 に 気 づ い
た ,と 理 解 で き た 。す る と , 最 初 か ら 意 図 的 に 構 成 さ れ た わ け で は な い が ,ル ー ペ を 覗 き こ む
と い う 視 覚 イ メ ー ジ に よ っ て , B 氏 は ,鈍 痛 と い う 内 臓 感 覚 が 関 係 す る 現 実 問 題 に 対 し て ,
わりあい冷静でいるというように一定の距離をとっている自分を結果的に表現できたと考
え る こ と も で き る 。ル ー ペ を 覗 き こ む と い う 視 覚 イ メ ー ジ と 鈍 痛 と い う 内 臓 感 覚 と は ,第 5
回箱庭制作面接における B 氏の心身を巡る内的プロセスを異なる角度・種類から表現し,
その両方があるからこそ現在の心身を巡る内的プロセスの全体像が表現されるといった相
補 的 な 役 割 を 果 た す 構 成 と な っ て い る ,と 解 釈 で き る 。
こ の よ う に 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 複 数 の 異 な る ,相 補 的 な ボ デ ィ ー イ メ ー ジ が 構 成 さ れ ,
そ の 構 成 を 語 っ た り ,内 省 す る こ と を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 は 自 己 理 解 を 深 め る こ と が で き る
と考えられる。
(3)身 体 感 覚 ・ ボ デ ィ ー イ メ ー ジ と 構 成 の 相 互 作 用
身 体 感 覚 あ る い は ボ デ ィ ー イ メ ー ジ と 構 成 の 相 互 作 用 に つ い て ,考 察 す る 。
◆ 具 体 例 128: A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
A 氏は第 9 回箱庭制作面接で面接開始と同時に玩具棚に向かった。その箱庭制作過程に
つ い て ,内 省 報 告 に ,こ の 日 は 寒 い 日 だ っ た が ,研 究 室 内 は 暖 か く ,入 室 し た 途 端 ち じ こ ま っ
て い た 体 が ふ っ と 解 放 さ れ る よ う な 楽 な 気 分 に な っ た こ と ,そ の せ い か 砂 に 向 き 合 い た く
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な か っ た こ と ,深 く 沈 ん で い く よ り も ,も う 少 し 軽 や か に 進 め て い き た か っ た こ と を 記 し て
い る (p.112 ◆ 具 体 例 76 参 照 )。 こ れ は ,身 体 感 覚 や 気 持 ち な ど ,自 分 の い ま ・ こ こ の 内 的 プ
ロセスを尊重する A 氏の態度だと捉えられる。
同 回 で そ の 後 ,A 氏 は 自 己 像 で あ る 星 の 王 子 様 が 街 に 出 て き て い る と い う 構 成 を 行 っ た 。
そ の 箱 庭 制 作 過 程 で 生 じ た 身 体 感 覚 や ボ デ ィ ー イ メ ー ジ に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で ド ア
を 開 け た ら そ の ま ま ,自 分 の 欲 求 の ま ま に 現 実 世 界 で 自 由 に 行 動 を 始 め そ う 。足 が 軽 く な っ
て い る と い う か , か ら だ が 前 に 出 て い る と い う か , 頭 で あ れ こ れ 考 え な い で ,ま ず 体 が 行 動
し て い る ,そ ん な 感 じ( A 氏 内 省 ,9-全 体 的 感 想 ,調 査 ・ 意 味 )と 語 っ た 。こ の 具 体 例 の 足 が
軽 く ,身 体 が 前 に 出 て い る と 語 ら れ た 部 分 が ,実 際 の 身 体 的 な 固 有 覚 な の か ,そ の イ メ ー ジ
な の か 判 断 が 難 し い 。し か し ,こ の 軽 さ や 外 に 向 か お う と し て い る か の よ う な 身 体 の 感 覚 ・
イ メ ー ジ を A 氏 が 箱 庭 制 作 過 程 で 感 じ て い た こ と は 確 か で あ る 。こ の 身 体 感 覚 や ボ デ ィ ー
イ メ ー ジ は ,今 ま で の 箱 庭 制 作 面 接 で は A 氏 か ら 報 告 さ れ た こ と の な い 身 体 感 覚 や ボ デ ィ
ーイメージであった。
今 回 の 箱 庭 は ,明 け 渡 し て 作 っ た と 言 っ て た 時 が あ っ た で す よ ね (第 8 回 作 品 ), あ の , あ
の , 雰 囲 気 を ち ょ っ と 思 い 出 し て , あ の , あ ん ま り 考 え ず に 作 ろ う ( A 氏 調 査 ,9-5 ) と し
た作品であったことが調査的説明過程で語られた。
箱 庭 制 作 面 接 冒 頭 で の 身 体 感 覚 を 含 め た 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス の 尊 重 と ,明 け 渡 し て 作 る
と い う 感 覚 を 伴 っ た 構 成 が ,外 に 向 か い ,現 実 世 界 で 自 由 に 動 こ う と す る 身 体 感 覚 や ボ デ ィ
ー イ メ ー ジ を 生 ん だ と 解 釈 す る こ と が で き る 。A 氏 が 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で 初 め て ,外 に 向
か い , 現 実 世 界 で 自 由 に 動 こ う と す る 身 体 感 覚 や ボ デ ィ ー イ メ ー ジ を 体 験 で き た こ と は ,箱
庭制作面接が継続する中で生まれた A 氏の自己成長の表れであると考えることができる。
◆ 具 体 例 129: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 複 数 過 程 に 亘 っ て
B 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で 「心 苦 し い 思 い を 表 現 す る 仕 切 り を 見 つ
け 」た 。「」内 は ,B 氏 が 内 省 報 告 の 箱 庭 制 作 過 程 の 内 容 と し て 記 し た 言 葉 で あ る 。制 作 過 程 3
で ,仕 切 り を 砂 箱 中 央 に 置 い た 。 そ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に B 氏 は 何 か 重
い も の を 感 じ て 蓋 が さ れ た 感 じ( B 氏 内 省 ,2-1,制 作 ・ 感 覚 )と 記 し た 。第 2 回 ふ り か え り
面 接 で ,こ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,以 下 の よ う に 説 明 し た 。 [蓋 っ て い う と ,上 か ら か ぶ せ
る っ て い う イ メ ー ジ が あ る ん で す け ど 。こ の 重 圧 を 受 け て 重 た い と い う よ り も ,そ の 先 へ な
ん か 進 め な い よ う な ,空 気 の 壁 っ て い う か 。そ の ,ま あ ,今 の 季 節 で 言 え ば ,見 え な い ん だ け れ
ど も ,湿 度 み た い な も の で ,な ん か ,重 さ を 感 じ る み た い な ]。 B 氏 は ,重 い も の を 感 じ て 蓋 が
さ れ た 感 じ が し て お り ,そ の 感 覚 か ら 連 想 さ れ る も の は 壁 で あ っ た 。 そ し て ,そ の 感 覚 に 合
っ た 仕 切 り を 見 つ け ,そ れ を 砂 箱 中 央 に 置 い た 。 こ の 感 覚 は ,重 圧 を 受 け て 重 た い と い う も
の で は な く ,湿 度 の 高 い 空 気 の 壁 に よ る 重 た さ と い う よ う な 感 覚 で あ っ た ,と 捉 え る こ と が
で き る 。 こ の 具 体 例 で は ,心 苦 し い と い う 心 理 的 な 主 観 的 体 験 と 同 時 に ,空 気 の 壁 の 重 さ と
い う よ う な 身 体 感 覚 ,あ る い は そ の イ メ ー ジ の 主 観 的 体 験 の 記 述 や 語 り が 示 さ れ た 。
同 回 の 箱 庭 制 作 過 程 19 で ,B 氏 は 仕 切 り の 左 側 に ,亀 を 右 向 き に 置 い た 。 続 い て ,イ グ ア
ナ を 左 中 央 に 置 く が ,上 に 置 き 直 し た 。 首 を か し げ ,再 度 ,左 中 央 に ,亀 の 方 を 向 い た 方 向 に
し て 置 き な お し た 。亀 を 少 し だ け ,イ グ ア ナ に 近 づ け た 。そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て , B 氏
は 調 査 的 説 明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。進 む の を 引 っ 張 ら れ て い る っ て い う か 。進 ん で
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い く の を < こ ち ら か > こ う い う 風 に 進 ん で い こ う と す る の を , そ の ,ま あ ,足 か せ に な っ て
い る っ て い う で し ょ う か 。そ う い う よ う な 感 じ も す る ん で す 。片 っ 方 で は ,圧 迫 を 受 け て る
っ て い う 。 (中 略 )現 実 面 を 含 め て ,そ の 引 っ 張 ら れ る と い う で し ょ う か ね 。 足 を 。 ま あ ,こ
れ は ま あ ,内 面 的 に は ,プ レ ッ シ ャ ー を か け ら れ て い る み た い な 風 に も 言 え る し ,現 実 面 に
お い て は ,進 む 距 離 を ,そ の ,足 か せ に な っ て ,思 う よ う に ,こ の 亀 っ て い う か ,う さ ぎ の よ う
に は ぴ ょ ん ぴ ょ ん 行 か せ て く れ な い よ う な ,そ ん な よ う な( B 氏 調 査 ,2-19)。B 氏 は 内 省 報
告 に 追 わ れ る ば か り だ け で は な く ,何 か に ひ っ ぱ ら れ て い る 感 じ( B 氏 内 省 ,2-19,自 発 ・ 感
覚 )と 記 し た 。亀 は イ グ ア ナ な ど に 追 わ れ て い る 感 覚 が あ っ た 。同 時 に ,足 を ひ っ ぱ ら れ て
いるという感覚あるいはボディーイメージもあったことが示された。
◆ 具 体 例 129 に 示 さ れ て い る よ う に , B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,ま ず ,日 常 生 活 の 中 で
の 攻 撃 的 な 人 々 に 苦 し ん で い る 自 分 の 心 情 や 身 体 感 覚 ,あ る い は そ の イ メ ー ジ が 表 現 さ れ
た 。 し か し ,箱 庭 制 作 過 程 の 途 中 で ,転 機 が 訪 れ た 。 箱 庭 制 作 過 程 22 と 制 作 過 程 23 の か ご
の 中 に 置 い た ル ー ペ に つ い て ,B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 全 く 空 の 籠 か と い う と そ う じ ゃ な
く て ,思 い 出 と か ,い ろ い ろ ,残 っ て い る も の も あ る( B 氏 自 発 ,2-22)と 語 り ,内 省 報 告 に 生
き る 関 心 が 絶 え て い な い の に 気 づ く( B 氏 内 省 ,2-22,制 作・意 図 ),ま だ 足 を 残 し て い る( B
氏 内 省 ,2-23,制 作 ・ 感 覚 ) ,土 俵 際 ( B 氏 内 省 ,2-23,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 箱 庭 制 作 過 程
22 と 制 作 過 程 23 に お け る 内 的 プ ロ セ ス の 転 換 に は ,土 俵 際 で ま だ 足 を 残 し て い る と い う 身
体感覚あるいはそのイメージが関係していた。
B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,B 氏 は 様 々 な 身 体 感 覚 ,ボ デ ィ ー イ メ ー ジ を 体 験 し て い る 。
面 接 の 冒 頭 に は ,空 気 の 壁 の 重 さ と い う よ う な 身 体 感 覚 ,あ る い は そ の イ メ ー ジ が 喚 起 さ れ
て い る 。 続 い て ,ひ っ ぱ ら れ る と い う 身 体 感 覚 あ る い は ボ デ ィ ー イ メ ー ジ を 体 験 し て い る 。
そ し て ,土 俵 際 で ま だ 足 を 残 し て い る と い う 身 体 感 覚 あ る い は ボ デ ィ ー イ メ ー ジ が 面 接 の
展開に関係している。このように身体感覚あるいはボディーイメージが構成の変化や内的
プ ロ セ ス の 展 開 に 深 く 関 わ っ て い る 。 こ れ ら の [身 体 感 覚 ・ ボ デ ィ ー イ メ ー ジ ]の 構 成 や そ
の 語 り や 内 省 を 通 し て ,B 氏 は 自 己 理 解 を 深 め る こ と が で き た と 考 え る こ と が で き る 。
上 記 の A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 ,B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,共 に 身 体 感 覚 あ る い は ボ
デ ィ ー イ メ ー ジ が 構 成 の 変 化 や 内 的 プ ロ セ ス の 展 開 に 深 く 関 わ っ て い る 。 石 原 (2008)は ,
自 ら の 調 査 結 果 に 基 づ い て ,「箱 庭 は ,触 覚 だ け で な く ,あ ら ゆ る 感 覚 と 身 体 と の 間 に 本 来 的
に あ る 結 び つ き を ,制 作 者 が 主 観 的 に『 体 験 』で き る レ ベ ル で 取 り 戻 す こ と を 可 能 に す る の
で あ ろ う 」と し て い る 。 そ し て ,「箱 庭 に お け る 身 体 性 は ,触 覚 的 な 要 素 を 持 つ こ と に よ る の
で は な く ,感 覚 や イ メ ー ジ を 大 切 に す る こ と の 中 に す で に 内 包 さ れ て い る と 考 え る こ と が
で き る だ ろ う 」と 述 べ て い る (pp.232-237)。 ◆ 具 体 例 128 と 129 は ,感 覚 や イ メ ー ジ を 箱 庭
制 作 者 が 尊 重 す る 態 度 に 支 え ら れ ,身 体 感 覚 や ボ デ ィ ー イ メ ー ジ と 構 成 が 密 接 に 相 互 に 作
用 し あ う こ と を 通 し て ,あ ら ゆ る 感 覚 と 身 体 と の 間 に あ る 結 び つ き を ,箱 庭 制 作 者 が 主 観 的
に 体 験 し た 事 象 と 捉 え る こ と が で き る か も し れ な い 。 本 項 の 具 体 例 と 石 原 (2008)の 指 摘 を
総 合 し て 考 え る と ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 身 体 感 覚 や ボ デ ィ ー イ メ ー ジ と 構 成 の 相 互 作 用
は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 を 深 め た り ,自 己 成 長 の 表 れ と な る と 考 え る こ と が で き よ う 。
(4)利 き 手 と 身 体 表 現 の 結 果 お よ び 考 察
構 成 に お け る 利 き 手 の 要 因 と ,そ の 構 成 を 説 明 す る 過 程 に お け る 身 体 表 現 に つ い て の 具
体例を以下に挙げる。
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◆ 具 体 例 130: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
B 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,箱 庭 制 作 に お け る 構 成 が 砂 箱 左 側 か ら 始 ま り ,そ の 後 右 側
に 移 っ て い き ,構 成 の 流 れ が 反 時 計 回 り に な っ た こ と に つ い て ,自 分 が 左 き き だ か ら だ ろ う
と 考 え て い た (p.104 ◆ 具 体 例 68 参 照 )。 そ し て ,そ の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 自 発 的 説 明 過
程 で 自 分 で も 途 中 で 感 じ は じ め た の は ,た ぶ ん 私 自 身 が 左 き き と い う と こ ろ も あ っ て ,こ う
い う‘ 左 周 り の 円 を 空 中 に 描 き つ つ ’流 れ に な っ て っ て し ま う( B 氏 自 発 ,1-複 数 の 過 程 に
亘 っ て )と 語 り つ つ ,左 周 り の 円 を 空 中 に 描 く よ う に 手 を 動 か し た 。調 査 的 説 明 過 程 の 最 後
の 頃 に こ う い う 世 界 が 自 分 の 営 み の 中 に 回 っ て い る‘ 左 周 り に 空 中 に 円 を 描 き な が ら ’(中
略 )も し く は ,移 り 変 わ っ て い く ( B 氏 調 査 ,1-全 体 的 感 想 ) と 説 明 す る 際 ,左 周 り の 円 を 空
中に描くように手を動かした。構成が砂箱左側から右側へという流れになったという動き
の 感 覚 を B 氏 は 利 き 手 と 関 連 さ せ て 意 味 づ け た 。 そ し て ,そ の 感 覚 を 表 現 す る た め に ,空 中
に 円 を 描 く と い う 身 体 表 現 を 行 っ た 。こ の 行 為 を 行 い つ つ ,こ う い う 世 界 が 自 分 の 営 み の 中
に ,回 っ て い る ,も し く は 移 り 変 わ っ て い く と い う 作 品 理 解 を 初 め て 語 っ た 。
◆ 具 体 例 130 に お い て ,構 成 の 流 れ に 利 き 手 の 影 響 が あ る の か ,そ れ が 客 観 的 事 実 で あ る
か を 本 研 究 の デ ー タ に 基 づ い て 証 明 す る こ と は で き な い 。し か し ,少 な く と も B 氏 の 主 観 的
な 体 験 と し て そ の よ う に 意 味 づ け ら れ た こ と は 事 実 で あ る 。ま た ,左 周 り に 空 中 で 円 を 描 く
と い う 身 体 表 現 は ,世 界 が 自 分 の 営 み の 中 に 回 っ て い る と い う 感 覚 を ,B 氏 が 感 覚 上 ・ イ メ
ー ジ 上 で ま さ に こ の よ う に 体 験 し た こ と を 示 す 行 為 で あ る ,と 考 え ら れ る 。現 物 の モ ノ と し
て の 構 成 は 固 定 さ れ て い て ,動 か な い が ,感 覚 や イ メ ー ジ の 中 で は ,腕 に よ っ て 表 現 さ れ た よ
う な 巡 り を 箱 庭 制 作 者 が 体 験 し て い た の だ と 捉 え ら れ る 。 石 原 (2008)に は ,「モ ノ を ア ニ メ
イ ト す る 」と い う イ メ ー ジ 体 験 が 報 告 さ れ て い る 。ア ニ メ イ ト と は ,「単 な る モ ノ で あ る ミ ニ
チ ュ ア を 生 命 や 意 思 を も つ か の よ う に 扱 い ,ミ ニ チ ュ ア が 動 い た り ,感 じ た り ,考 え た り す る
か の よ う に 体 験 す る こ と を 指 す 」と し て い る 。B 氏 の 世 界 が 自 分 の 営 み の 中 に 回 っ て い る と
い う 感 覚 は ,現 物 の も の で も あ る 箱 庭 作 品 が ア ニ メ イ ト さ れ る こ と に よ っ て ,生 じ た と 理 解
できる。
ま た ,石 原 (2008)は ,ミ ニ チ ュ ア を 置 く 位 置 に 関 す る 主 観 的 体 験 に 関 し て ,箱 庭 制 作 者 の 身
体との位置関係が関連する場合について報告・検討している。ミニチュアを置く位置とミ
ニ チ ュ ア を も っ て い た 手 と を 関 連 さ せ て 報 告 し た 例 が 挙 げ ら れ て い る (pp.158-159,pp.183
-184) 。 そ し て ,「ミ ニ チ ュ ア の 位 置 が ,ミ ニ チ ュ ア 同 士 の 位 置 関 係 だ け で な く ,制 作 者 の 身 体
と の 相 対 的 な 位 置 関 係 で 決 め ら れ る こ と を 浮 き 彫 り に し た と 言 え な い だ ろ う か 。右 も 左 も ,
奥 も 手 前 も ,砂 箱 の 中 で の 絶 対 的 な 位 置 で は な く ,す べ て 制 作 者 の 身 体 と の 関 係 で 相 対 的 に
決 ま る も の な の で あ る 」と し て い る (p.209)。 そ し て ,「感 覚 や イ メ ー ジ と い う 心 理 現 象 が ,単
に 身 体 と『 関 連 し て い る 』と い う だ け で な く ,む し ろ そ も そ も 身 体 的 現 象 で あ る と 言 っ て も
よ い ほ ど に 身 体 と 一 体 と な っ た 現 象 で あ る と い う 事 実 」と の 指 摘 を 行 っ て い る 。
石 原 (2008)を 参 照 す る と ,◆ 具 体 例 130 は ,箱 庭 作 品 が ア ニ メ イ ト さ れ ,そ の 感 覚 や イ メ ー
ジ が 身 体 と 一 体 と な っ た よ う な 心 理 的 体 験 の 非 意 図 的 で 自 然 な 現 れ と し て ,B 氏 は 空 中 に
円 を 描 く と い う 身 体 表 現 を 行 っ た ,と 解 釈 で き る 。 ま た ,円 を 描 く と い う 行 為 を 行 い つ つ ,な
さ れ た 語 り の 内 容 は ,B 氏 の 作 品 理 解 ・ 自 己 理 解 の 深 化 を 表 し て い る ,と 捉 え ら れ る 。 箱 庭
作 品 が ア ニ メ イ ト さ れ る ほ ど の イ メ ー ジ へ の 没 入 に よ っ て ,感 覚 や イ メ ー ジ が 身 体 と 一 体
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と な っ た よ う な [身 体 感 覚 ・ ボ デ ィ ー イ メ ー ジ ]を 反 映 し た 構 成 や そ の 構 成 に つ い て 語 る こ
と は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 を 促 進 す る と 考 え る こ と が で き る 。
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Ⅷ 章 . M-GTA の コ ア カ テ ゴ リ ー ⑪ 【 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 と 作 品 の 連 続 性 や 変
化 の 交 流 】お よ び ⑫【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化・成 長 の
交流】の結果および考察
⑪【単一回の制作過程・作品と作品の連続性や変化の交流】と⑫【箱庭制作面接のプロ
セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化 ・成 長 の 交 流 】は ,共 に 箱 庭 制 作 面 接 の 継 続 性・ 連 続 性 に つ い て の
促進機能に関するコアカテゴリーである。⑪【単一回の制作過程・作品と作品の連続性や
変 化 の 交 流 】と ⑫【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化 ・ 成 長 の 交 流 】は ,密 接 に
関 係 し て い る た め ,一 括 し て 作 品 の 連 続 性 ,作 品 ・ 心 ・ 生 き 方 の 変 化 に つ い て の 結 果 お よ び
考 察 を 記 す 。こ れ ら の コ ア カ テ ゴ リ ー に 関 連 す る 促 進 要 因 は 交 流 し ,双 方 向 で 影 響 を 与 え あ
い ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る 。
⑪【 単 一 回 の 制 作 過 程 ・作 品 と 作 品 の 連 続 性 や 変 化 の 交 流 】に は ,作 品 に つ い て の 連 続 性
や 変 化 に 関 す る 3 概 念 [以 前 の 作 品 と の 関 連 ],[作 品 の 変 化 ],[連 続 性 と イ メ ー ジ 特 性 と の
関 連 ]が あ っ た 。
⑫【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化・成 長 の 交 流 】に は ,心 や 生 き 方 の 変 化・
成 長 に 関 す る 3 概 念 [自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き ],[心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ],[面 接 内
外 を 貫 い て 内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]が あ っ た 。
以下に, ⑪【単一回の制作過程・作品と作品の連続性や変化の交流】と⑫【箱庭制作面
接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化・成 長 の 交 流 】で 見 い だ さ れ た 促 進 機 能 に つ い て ,結 果 お
よび考察を記す。
1) ⑪ 【 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 と 作 品 の 連 続 性 や 変 化 の 交 流 】 の [ 以 前 の 作 品 と の 関
連 ],[作 品 の 変 化 ]の 結 果 お よ び 考 察
本 項 で は , ⑪【 単 一 回 の 制 作 過 程・作 品 と 作 品 の 連 続 性 や 変 化 の 交 流 】の [以 前 の 作 品 と
の 関 連 ]と [作 品 の 変 化 ]の 結 果 と 考 察 を 記 す 。 [以 前 の 作 品 と の 関 連 ]は ,「今 回 の 構 成 ,作 品
と 以 前 の 回 の 構 成 ,作 品 と の 関 連 」と 定 義 さ れ た 。[作 品 の 変 化 ]は ,「作 品 の 内 容 の 変 化 」と 定
義された。
ま ず ,[以 前 の 作 品 と の 関 連 ]の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 131: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 24∼ 25,30∼ 31
B 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 24 で ,亀 を 右 手 で 空 中 に も っ た ま ま ,左 手 で ,
中 央 下 の 砂 を 払 い の け ,左 右 に 走 る 水 の 道 を 作 っ た 。制 作 過 程 25 で ,水 の 道 の 左 端 に 亀 を 置
き な お し た 。ま た ,制 作 過 程 30 と 制 作 過 程 31 で ,天 使 を 選 び ,テ ー ブ ル と イ ス の 手 前 に 2 体
の 天 使 を 置 い た 。 調 査 的 説 明 過 程 で ,筆 者 は ,水 の 構 成 を 行 う こ と で ,感 覚 的 な 変 化 が あ っ た
か ,質 問 し た 。そ の 質 問 に 対 し て ,B 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。実 ,言 う と ,こ こ に 天 使 (不 明 )
置 い て っ て い う と こ ろ も ,繋 が る よ う な 気 が す る ん で す け ど も 。( B 氏 調 査 ,2-31) そ の ,そ
う で あ っ て も ,ま あ ,ま あ ,生 か さ れ て る っ て い う ん で し ょ う か ね 。 そ の 水 と い う と こ ろ の ,
あ の ,前 回 も 出 て き た こ と な ん で す け ど ,そ う い っ た 中 で 自 分 自 身 も ,そ の , そ の ,道 の り と
い う と こ ろ で は ,砂 漠 を 歩 い て い る わ け じ ゃ な く て ,そ う い う 中 で ,う ん ,そ の ,た ど っ て る
っ て い う か ,た ど り き っ た っ て い う ,そ う い っ た こ と じ ゃ な ん だ け ど ,(不 明 ),そ う い う 実 感
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も 確 か に あ る 。 あ る な ー と 。 そ ん な 感 じ を し た ん で す よ ね 。( B 氏 調 査 ,2-25) < な る ほ ど
ね 。 水 や 天 使 の あ た り か ら 。 > ( B 氏 調 査 ,2-複 数 過 程 に 亘 っ て )。
箱 庭 制 作 過 程 24 の 水 の 道 の 構 成 に つ い て B 氏 は 内 省 報 告 に 乾 き と 寄 る べ き 者 ( B 氏 内
省 ,2-24,制 作 ・ 意 図 ) ,神 ,仲 間( B 氏 内 省 ,2-24,制 作 ・ 連 想 )と 記 し た 。そ し て ,第 2 回 ふ
り か え り 面 接 で ,そ の 制 作 過 程 に つ い て 以 下 の よ う に 説 明 し た 。 [寄 る べ き も の と か , (中 略 )
ど う に か ,支 え ら れ て き た ん だ よ な ー と 。 そ う い っ た こ と を 思 い 起 こ し ま し た 。 で ,ま あ ,そ
れ を 例 え ば ,そ の ,神 様 っ て い う 言 い 方 も で き る し ,信 仰 と い う 言 い 方 も で き る し ]。
◆ 具 体 例 131 で B 氏 は 生 か さ れ て る っ て い う ん で し ょ う か ね 。 そ の 水 と い う と こ ろ の ,
あ の ,前 回 も 出 て き た こ と な ん で す け ど と 語 っ て い る 。 こ の 語 り は ,B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面
接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で ,砂 箱 中 央 の 砂 を 掘 り ,底 の 青 の 色 を 出 し て ,泉 (水 源 )を 作 っ た こ と を
指 し て い る 。 こ の 泉 に つ い て , B 氏 は 内 省 報 告 に 生 命 の 源 ( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 意 図 ) ,
深 部 か ら こ ん こ ん と 湧 き で る ,つ き な い 泉 ( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 感 覚 ) ,神 ,生 命 ( B 氏 内
省 ,1-2,制 作 ・ 連 想 ) と 記 し た 。 ま た , B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 制 作 過 程 65 で B 氏 は あ
や め を 水 源 の 上 に ,花 束 を 水 源 の 左 に 置 い た 。 そ の 制 作 過 程 に つ い て ,世 界 は 神 様 の 守 り に
あ る こ と を 再 認 識 す る ( B 氏 内 省 ,1-65,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。
B 氏第 1 回箱庭制作面接の泉と B 氏第 2 回箱庭制作面接の水の道は, B 氏にとってとも
に 神 を 表 す と い う 点 で 関 連 し て い た 。そ し て ,B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 生 か さ れ て る っ て
い う と い う 語 り や 寄 る べ き 者 と い う 記 述 や ど う に か ,支 え ら れ て き た ん だ よ な ー と い う 語
り と ,B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 世 界 は 神 様 の 守 り に あ る と い う 記 述 は と も に ,自 分 は 神 に
守 ら れ ,支 え ら れ て ,生 か さ れ て い る と い う B 氏 の 思 い を 表 し た 言 葉 と 理 解 で き る 。
◆ 具 体 例 132: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 13
A 氏 は ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 作 品 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で こ れ ま で は ,< う ん > そ う
い う ,私 が , 何 か す る っ て い う よ り も ,こ う い う 世 界 に い る ,っ て い う よ う な 感 じ を ,作 っ て
た 気 が し ま す ね 。 (中 略 )今 日 の は そ う い う 意 味 で は 私 が こ う す る っ て い う 世 界 ,で す ね ( A
氏 調 査 ,6-13)と 語 っ た 。以 前 の 作 品 と の 比 較 を 通 し て , A 氏 は ,作 品 内 の 自 己 の 存 在 様 式 と
その変化に気づいたと捉えられる。
上 記 2 具 体 例 に は ,[以 前 の 作 品 と の 関 連 ] に つ い て の 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や
記 述 が 示 さ れ た 。B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の ◆ 具 体 例 131 で は ,B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 と
の 関 連 の 中 で ,B 氏 は 自 分 の 神 へ の 思 い を 再 認 識・再 確 認 で き た と 解 釈 す る こ と が で き よ う 。
ま た ,[以 前 の 作 品 と の 関 連 ]に よ っ て ,継 続 す る 箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,一 連 の テ ー マ が 生 じ
る 一 要 因 と な る と 考 え る こ と も で き る だ ろ う 。 A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の ◆ 具 体 例 132 に
は ,以 前 の 作 品 と の 比 較 に よ る ,作 品 内 の 自 己 の 存 在 様 式 と そ の 変 化 に つ い て の 気 づ き が 述
べ ら れ た ,と 捉 え ら れ る 。 こ の よ う に [以 前 の 作 品 と の 関 連 ]は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自
己成長の促進に寄与すると考えられる。
[作 品 の 変 化 ]の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 133: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 13
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A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 中 央 奥 に 沖 に 向 か う よ う に 亀 (自 己 像 )を 置 い た 。 第 1
回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,自 己 像 は イ ル カ で あ っ た 。 そ れ に 対 し て ,今 回 は 自 己 像 が 亀 に 変 化 し ,
そ の 方 が 等 身 大 の 感 じ が し て ,ぴ っ た り す る こ と が 語 ら れ た (p.46 ◆ 具 体 例 16 参 照 )。
◆ 具 体 例 134: A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 12
A 氏 は 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,山 の 中 央 手 前 に イ ン パ ラ を 置 い た 。調 査 的 説 明 過 程 で イ ン
パ ラ に つ い て ,箱 庭 制 作 者 と 筆 者 と の 間 で 以 下 の よ う な 会 話 が あ っ た 。相 棒 。あ ,子 分 ,< 子
分 > 子 分 っ て 言 っ た か も し れ な い 。 う ん で も や っ ぱ り ,え ー っ と ,思 い を そ の ま ま 聞 い て く
れ る ,相 棒 っ て 言 う 感 じ か な < 相 棒 ,思 い を そ の ま ま き い て く れ る > う ん ,願 い は み ん な か
な え て く れ ま す 。 < う ん 。 そ う い う ,ま ぁ ,仲 間 と で も ,仲 間 と 言 う わ け で も な い し ,で も ,
単 な る 道 具 で も な い し ,> う ん < う ん ,存 在 っ て い う の も ,こ う い う 形 で 出 て く る の も 珍 し
い よ ね ,何 か 見 て て く れ る 仲 間 み た い な > あ ー ,今 ま で そ う で し た よ ね 。( 中 略 ) へ ぇ 。 へ 。
< へ ぇ ,へ ,意 外 ? > ふ ふ‘ 笑 ’う ,あ の‘ 笑 ’あ の ,そ う 言 え ば そ う な ,で す ね 。(中 略 )ほ ん
と で す ね ,私 の た め に 何 か し て く れ る 人 ,な ん て 初 登 場 。 < 初 登 場 だ よ ね > は ,は ,は ‘ 笑 ’
い い 気 分 で す ね 。< い い 気 分 や ね 。> ほ ほ ほ‘ 笑 ’
( A 氏 調 査 ,6-12)。A 氏 は ,筆 者 と の 会 話
を 通 し て ,そ れ ま で は 明 確 に は 気 づ い て い な か っ た が ,自 分 の た め に 何 か し て く れ る 人 が 初
め て 登 場 し た こ と に 気 づ き ,そ れ を 意 外 に 思 う と 同 時 に ,い い 気 分 を 感 じ た ,と 捉 え ら れ る 。
◆ 具 体 例 133 と 134 に は ,[作 品 の 変 化 ]に つ い て の 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述
が示された。
A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の ◆ 具 体 例 133 は ,自 己 像 の 変 化 に つ い て の A 氏 の 気 づ き で あ っ
た 。自 己 を 表 す ミ ニ チ ュ ア の 変 化 は ,自 己 イ メ ー ジ の 変 化 が 関 与 し て い る と 考 え ら れ る 。A
氏 は ,継 続 す る 箱 庭 制 作 面 接 の 中 で 自 己 イ メ ー ジ が 変 化 し た こ と に 気 づ い た と 捉 え る こ と
ができる。
A 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 に つ い て 検 討 す る 。◆ 具 体 例 132 で ,こ れ ま で の 箱 庭 制 作 面 接 で
は 自 分 が こ う い う 世 界 に い る と い う 作 品 で あ っ た が ,今 回 は 私 が こ う す る 世 界 だ ,と A 氏 は
語 っ た ([以 前 の 作 品 と の 関 連 ])。自 己 像 で あ る ペ ン ギ ン は 海 で 漁 を し ,家 畜 を 飼 い ,相 棒 で あ
る イ ン パ ラ と 島 を 探 検 し た 。こ の よ う に 自 己 像 が 世 界 に よ り 強 く 関 与 し ,世 界 を 管 理 し て い
る 。ま た , 知 恵 を も ち ,協 働 で き る 相 棒 と い え る 存 在 が 初 め て 現 れ ,他 者 と の 関 係 性 の 変 容 も
生 ま れ 始 め た ,と 理 解 で き る ([作 品 の 変 化 ])。 こ の よ う に 作 品 内 の 自 己 の 存 在 様 式 に 変 化 が
見 ら れ た 。こ の 変 化 を A 氏 は 私 が こ う す る っ て い う 世 界 で す ね と い う 言 葉 で 表 現 し た の だ
と ,推 察 で き る 。 箱 庭 作 品 に 表 さ れ る 自 己 の 内 的 世 界 に 対 し て ,自 己 像 の 関 与 が よ り 積 極 的
に な っ た こ と に よ る 作 品 の 変 化 に A 氏 は 気 づ い た と 理 解 で き る 。こ の よ う に [作 品 の 変 化 ]
は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る と 考 え ら れ る 。
2)⑪【 単 一 回 の 制 作 過 程・作 品 と 作 品 の 連 続 性 や 変 化 の 交 流 】の [連 続 性 と イ メ ー ジ 特 性
と の 関 連 ]の 結 果 お よ び 考 察
[連 続 性 と イ メ ー ジ 特 性 と の 関 連 ]は ,「箱 庭 制 作 の 連 続 性 と イ メ ー ジ 特 性 (自 律 性 ,集 約 性 ,
象 徴 性 な ど )と の 関 連 」と 定 義 さ れ た 。
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◆ 具 体 例 135: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10
A 氏 は 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 中 央 に 白 い 女 性 の 人 形 を 置 い た 。 そ の 後 ,そ の 周 り に ,
今 ま で の 箱 庭 制 作 面 接 で 使 用 し た 動 物 を 置 い た 。A 氏 は ,女 性 の ミ ニ チ ュ ア を 意 識 的 に は 義
母 と 捉 え て お り ,イ メ ー ジ の 自 律 性 や 集 約 性 が 体 験 さ れ て い な か っ た 。 し か し ,以 前 使 っ た
な じ み の 動 物 を 置 く こ と (連 続 性 )に よ り , 自 律 性 や 集 約 性 を 体 験 で き た (p.75 ◆ 具 体 例 40
参 照 )。 そ し て ,私 に も 母 に も 共 通 す る 何 か が あ る な っ て い う (中 略 )女 性 っ て い う 命 が 持 っ
て い る 何 か ,意 味 の よ う な も の を 感 じ る と い う か ね ( A 氏 調 査 ,8-10) と 語 っ た 。 こ の 構 成
を 通 し て ,自 分 と 母 に 共 通 す る 女 性 と い う 命 が も っ て い る 意 味 を 感 じ る こ と が で き た ,と 捉
えられる。
◆ 具 体 例 136: A 氏 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
A 氏 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,筆 者 は ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 に も 川 の 構 成
が あ っ た こ と に つ い て 質 問 し た 。 そ れ に 対 し て A 氏 は 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 作 品 に つ い
て ,調 査 的 説 明 過 程 で ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 作 品 と 比 較 し て 以 下 の よ う に 語 っ た 。 前 回 に
す ご く ,映 画 館 が あ っ た り ね ,学 校 が あ っ た り ,う ん ,す ご い 現 実 的 な エ ピ ソ ー ド に 満 ち て た
ん で す け ど ,( A 氏 調 査 ,10-前 回 に つ い て ) 今 度 の は ,そ う い う の で は な い 川 で す よ ね ,( A
氏 調 査 ,10-4)現 実 的 ,現 実 的‘ 首 を か し げ な が ら ’( A 氏 調 査 ,10-全 体 的 感 想 )川 は お ん な
じ 様 な 意 味 が あ る の か も し れ な い け ど ,( 間 12 秒 ) も う す こ し ,そ の ,< う ん > ( 間 3 秒 )
川 は お ん な じ 川 か も し れ な い け れ ど も ,( A 氏 調 査 ,10-4) 出 来 上 が っ た 世 界 は こ な い だ よ
り も う 少 し ,奥 ま っ た と こ ろ と い う か (中 略 )私 の 中 の 奥 ま っ た と こ ろ の を 作 っ た な っ て い
う 感 じ が あ り ま す ね( A 氏 調 査 ,10-全 体 的 感 想 )。そ の 言 葉 に 続 け て ,も し 前 回 の 作 品 が 砂
箱 の 中 に あ る と し た ら ,砂 箱 は と て も 大 き く ,今 回 の 作 品 か ら と て も 遠 く に あ る と い う イ メ
ー ジ に な る こ と が 語 ら れ た (p.156 ◆ 具 体 例 123 参 照 )。 調 査 的 説 明 過 程 で ,A 氏 が 前 回 作 品
と の 比 較 を 行 っ た こ と に よ っ て ,自 分 の 奥 ま っ た と こ ろ を 作 っ た と い う 今 回 の 作 品 の 意 味
に つ い て ,箱 庭 制 作 中 よ り も さ ら に 明 確 に な っ た ,と 捉 え る こ と が で き る 。
◆ 具 体 例 135 と 136 か ら ,箱 庭 制 作 面 接 が 継 続 し て 実 施 さ れ る こ と に よ る 連 続 性 は ,箱 庭
制作者のイメージ特性の体験に影響を与える可能性が示された。イメージは本来的に自律
性・集 約 性・象 徴 性 な ど の 特 性 を も つ と 考 え ら れ て い る (河 合 ,1991,p.27-34)。◆ 具 体 例 135
と 136 か ら ,箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 が ,自 律 性 ・ 集 約 性 ・ 象 徴 性 な ど の イ メ ー ジ 特 性 を 生 起
さ せ ,箱 庭 制 作 者 の イ メ ー ジ 体 験 を 促 進 す る 場 合 が あ る こ と が 見 い だ さ れ た 。箱 庭 制 作 面 接
の 連 続 性 は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る と 考 え る こ と が で き る 。
3)⑫【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化・成 長 の 交 流 】の [自 分 の 心 や 生 き 方
へ の 気 づ き ],[心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ]の 結 果 お よ び 考 察
本 項 で は , ⑫【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化・成 長 の 交 流 】の [自 分 の
心 や 生 き 方 へ の 気 づ き ]と [心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ]の 結 果 と 考 察 を 記 す 。
[自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き ]は ,「箱 庭 制 作 時 の 『 い ま ・ こ こ 』 の 内 的 プ ロ セ ス や 構 成
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か ら ,自 分 の 心 や 生 き 方 へ 気 づ き が 広 が る プ ロ セ ス 」と 定 義 さ れ た 。[心 や 生 き 方 の 変 化 や 成
長 ]は ,「箱 庭 制 作 者 の 心 や 生 き 方 に お け る 変 化 や 成 長 」と 定 義 さ れ た 。
ま ず ,[自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き ]の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 137: A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10
A 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 左 上 に 置 い て あ っ た 緑 色 の 家 を 白 と あ わ い 青 色 の 家
に 交 換 し た 。 そ の 制 作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に 白 と 青 の 家 は 落 ち 着 い た ,や や さ び し い 印
象 。私 の 内 側 ,ベ ー ス は ど ち ら か と い う と ひ っ そ り と 静 か な も の な の だ と 思 う 。自 分 自 身 に
ぎ や か で 活 動 的 と は 言 え な い と 思 う ( A 氏 内 省 ,1-10,制 作 ・ 意 味 ) と 記 し た 。 第 1 回 箱 庭
制 作 面 接 時 点 で は ,A 氏 は 自 分 の ベ ー ス は ひ っ そ り と 静 か な も の で ,活 動 的 で は な い と 感 じ
ていた。
[心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ]の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 138: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11
A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 で ,金 色 の 二 枚 貝 の 置 き 場 所 を 何 度 も 吟 味
し た 。 そ し て ,最 終 的 に ,金 色 の 貝 殻 を 海 藻 の 後 ろ に 隠 す よ う に 置 い た 。 A 氏 は そ の 箱 庭 制
作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 し た 。 最 近 の 私 は 以 前 と 比 べ て ,い ろ い ろ な 場
面 で ,い ろ い ろ な 自 己 開 示 を す る よ う に な っ て い る 。「す ご ぉ く 大 事 」な も の は 隠 し て お い た
ら い い と 思 う が ,拓 い て も い い 部 分 は 拓 い て い っ て い い と 感 じ て い る 。隠 す こ と が ,な ん だ
か も っ た い ぶ っ て い る よ う に 感 じ 始 め て い る の か も し れ な い 。金 色 は ,「自 分 は そ ん な に き
ら び や か で ,素 晴 ら し い わ け で は な い 」と い う 気 が し て ,抵 抗 が あ っ た 。 こ う 語 る 私 自 身 は ,
こ れ ま で は ひ ょ っ と し た ら 随 分 尊 大 な 自 己 イ メ ー ジ を 持 っ て い た の か も し れ な い 。そ れ が ,
尊 大 さ は 薄 れ ,た だ の ,あ る 意 味 で と て も 平 凡 な 一 人 の 人 間 と し て い ら れ る よ う に な っ た の
か も し れ な い( A 氏 内 省 ,3-11,調 査・意 味 )。A 氏 は ,こ の 箱 庭 制 作 過 程 や そ れ に つ い て の 語
り を 通 し て ,自 分 の 心 や 生 き 方 の 変 化 に 気 づ い た ,と 捉 え ら れ る 。
第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 時 点 で ,自 分 の ベ ー ス は ひ っ そ り と 静 か な も の で ,活 動 的 で は な い ,と
A 氏 は 感 じ て い た ([自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き ])。し か し ,A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,
自 分 が 最 近 ,以 前 に 比 べ て 自 己 開 示 を す る よ う に な っ た こ と に 気 づ い た 。他 者 に 対 し て 隠 す
こ と は も っ た い ぶ っ た 態 度 で あ る よ う に 感 じ は じ め て い る の か も し れ な い と 思 っ た ([ 心
や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ])。こ の よ う に A 氏 は 対 人 関 係 に お け る 自 己 の あ り 様 の 変 化 に 気 づ
い た ,と 理 解 で き る 。 そ し て ,そ の 対 人 関 係 上 の 変 化 は ,以 前 は 尊 大 な 自 己 イ メ ー ジ を も っ て
い た の か も し れ な い が ,最 近 は そ の 尊 大 さ が 薄 れ ,平 凡 な 一 人 の 人 間 と し て い ら れ る よ う に
なったのかもしれないという自己イメージの変化であるのかもしれないとの気づきをえた
([心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ])。◆ 具 体 例 137,138 の よ う に ,継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 で は ,箱 庭
制作者のあるテーマが連続して表される場合がある。そのテーマを巡る表現の変化から箱
庭 制 作 者 が 自 己 理 解 を 深 め る こ と が で き る 。ま た ,そ の 変 化 は 箱 庭 制 作 者 の 自 己 成 長 の 表 れ
であると考えることができる。
- 169 -
◆ 139: A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 に お け る [心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ]の 具 体 例 を 挙 げ る 。A 氏 は ,
最 終 回 は 幸 せ な 箱 庭 で 終 わ る イ メ ー ジ ,現 場 に 帰 る よ う な 感 じ で 終 わ る と い う イ メ ー ジ を
も っ て い た 。 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 で ,A 氏 は ,最 終 回 の よ う な 気 持 ち よ さ を
感 じ た 。そ れ は ,今 ま で の 箱 庭 制 作 面 接 で は 報 告 さ れ た こ と の な い 身 体 感 覚 で あ っ た ([心 や
生 き 方 の 変 化 や 成 長 ])。 足 が 軽 く な っ て い る と い う か ,か ら だ が 前 に 出 て い る と い う か ,頭
で あ れ こ れ 考 え な い で ,ま ず 体 が 行 動 し て い る( A 氏 内 省 ,9-全 体 的 感 想 ,調 査・意 味 )と い
う よ う に ,身 体 が 外 の 現 実 世 界 に 向 か い ,自 由 に 身 体 が 行 動 し て い る と い う よ う な 身 体 感 覚
を こ の 回 で 初 め て 感 じ た ,と 捉 え ら れ る (pp.160-161 ◆ 具 体 例 128 参 照 )。
A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,最 終 的 な 作 品 と し て ,初 め て 街 の 風 景 が 構 成 さ れ た 。
Kalff(1966 大 原 他 訳 1972) は , 箱 庭 療 法 に お け る 遊 び の 本 質 と し て , 内 か ら 外 へ の 変 化 を
指 摘 し た (p.ⅴ )。A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,内 か ら 外 へ の 変 化 は ,ま ず は 内 界 が 表 現 さ れ
た 街 の 風 景 の 構 成 に 顕 れ た 。そ し て ,さ ら に 構 成 を 超 え て 面 接 外 の 外 界 に ま で 広 が っ て い く
よ う な 身 体 感 覚 が 生 ま れ た ,と 考 え ら れ よ う 。
A 氏 は 第 8 回 ふ り か え り 面 接 で ,第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で は [自 分 自 身 を ね 。 あ け は な す と
い う か 。 (中 略 )あ け は な す 。 手 放 す 。 そ ん な 感 じ で 作 っ て い た よ う な 気 が し ま す ]と 語 っ て
い た 。 そ し て ,A 氏 は 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,今 回 の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い
て 以 下 の よ う に 語 っ た 。 作 る と き に (中 略 )明 け 渡 し て 作 っ た と 言 っ て た 時 が あ っ た で す よ
ね。あの,あの,雰囲気をちょっと思い出して,あの,あんまり考えずに作ろう(A氏調
査 ,9-全 体 的 感 想 )。 こ の よ う に A 氏 は 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 制
作 態 度 を 思 い 出 し ,そ の よ う な 態 度 に 従 っ て 箱 庭 作 品 を 構 成 し て い っ た 。こ の よ う な 制 作 態
度 の 連 続 性 は ,身 体 が 外 の 現 実 世 界 に 向 か い ,自 由 に 身 体 が 行 動 し て い る と い う よ う な 身 体
感 覚 が 生 じ る 要 因 の 一 つ で あ っ た と 解 釈 で き る 。ま た ,こ の 面 接 室 外 ま で 広 が っ て い く よ う
な 身 体 感 覚 の 変 化 は ,[面 接 内 外 を 貫 い て 内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]の 具 体 例 に 示 す ,第 10 回 箱
庭 制 作 面 接 で 報 告 さ れ た 外 界 と 自 分 の 心 の シ ン ク ロ を 生 む 基 礎 と な っ た ,と 推 測 す る こ と
が で き る (p.171 ◆ 具 体 例 140 参 照 )。
以 上 考 察 し て き た よ う に ,[自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き ][心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ]の
具 体 例 に 示 さ れ た ,箱 庭 制 作 者 の 自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き や そ の 変 化 や 成 長 は ,箱 庭 制
作 面 接 の 重 要 な 促 進 機 能 の 一 つ で あ る 。 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 は ,そ の 連 続 性 に よ っ て ,箱
庭 制 作 者 の 心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 を 促 進 す る こ と が 見 い 出 さ れ た 。単 一 回 の 作 品 は ,そ れ
以 前 の 作 品 ・ 構 成 や 心 ・ 生 き 方 の 変 化 ・ 成 長 と 交 流 し ,そ れ ま で の 変 化 を 基 盤 と し て ,さ ら
な る 変 化 ・ 成 長 を 反 映 し た も の と な る ,と 捉 え ら れ る 。 そ し て ,そ れ が 次 回 以 降 の 作 品 や 箱
庭 制 作 者 の 心 ・ 生 き 方 に 影 響 を 与 え る ,と 考 え ら れ る 。
4)⑫【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化・成 長 の 交 流 】の [面 接 内 外 を 貫 い て
内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]の 結 果 お よ び 考 察
[面 接 内 外 を 貫 い て 内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]は ,「面 接 内 外 で ,自 己 に つ い て の 気 づ き や 課
題 な ど の 内 的 プ ロ セ ス に ,箱 庭 制 作 者 が 主 体 的 に 取 り 組 み ,そ の 体 験 を 深 化 し よ う と す る 態
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度 」と 定 義 さ れ た 。 [面 接 内 外 を 貫 い て 内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]の 具 体 例 を 以 下 に 挙 げ る 。
◆ 具 体 例 140: A 氏 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
A 氏 は , 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,第 9 回 で の 気 づ き ,第 9 回 と 第 10 回
の 間 の 現 実 生 活 で の 試 み ,第 10 回 の 構 成 の 変 化 に つ い て ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 < 今 日 は
こ っ ち に 立 っ て ,う ん ,川 上 か ら 川 下 の 方 を ,見 て つ く る こ と も 多 か っ た よ ね > そ う で す そ
う で す ,< そ の あ た り は > 前 回 も 私 確 か 丸 い よ う な 世 界 を 作 っ た ん で す よ ね 。 あ の ,町 の 並
び を ね ,円 形 に し て ,< そ う だ ね > そ い で ,箱 庭 の 中 で 私 は ず っ と そ の ,丸 い モ チ ー フ を 作 る
な と ,ち ょ っ と そ れ が ,お 互 い に ,こ う ,す く み あ っ て る み た い で 嫌 だ な っ て い う の が あ っ た
ん で す け ど ,< う ん う ん う ん >( A 氏 調 査 ,10-前 回 に つ い て )そ れ が 1 週 間 頭 の 中 に あ っ て
な ん か ,違 う 位 置 か ら 見 た い ,っ て い う 気 持 ち を ,す ご く 1 週 間 意 識 し て た ん で す ,実 は 。で ,
あ の ,カ ー ナ ビ の ,わ た し カ ー ナ ビ 使 い 始 め て 6 ヶ 月 ぐ ら い 経 つ ん で す け ど ,い っ つ も 自 分
の 進 行 方 向 が 上 に な る よ う に 設 定 し て あ っ た ん で す ね 。 < う ん う ん > だ け ど ,あ れ ,北 を 上
に 設 定 も 出 来 ま す よ ね < 出 来 る 出 来 る > そ れ に 変 え た ん で す ,最 近 < へ ぇ ,そ う な ん や > う
ん ,ど ん な も ん か な 。 私 ,い っ つ も お ん な じ 様 な ル ー ト し か 運 転 し な い か ら ,あ の ,道 に 迷 う
こ と な い か ら ち ょ っ と ,ち ょ っ と 冒 険 だ け ど ,で も 北 を 上 に 固 定 し て み よ と 思 っ た ら ば ,<
う ん > す ご ,お も し ろ い ん で す よ ね ,カ ー ナ ビ 見 る た び に ,す ご い お も し ろ い ,私 今 こ ん な 方
角に進んでたんだとか<あー>そういうのがすごくその新鮮と言うか小気味いいというか,
何 か ,私 の 心 の 中 の 世 界 と そ う い う こ と っ て シ ン ク ロ し て る よ う な 気 持 ち が ち ょ っ と あ っ
て < う ん > ( A 氏 調 査 ,10-前 回 と 今 回 と の 間 の こ と ) 作 る と き に ,あ の ,今 回 は 丸 に し た く
な い な ,て ,と ま で は 思 わ な い ん で す け ど ,< う ん > ( 間 9 秒 ) 碁 盤 の 目 の よ う に 置 け な い ,
っ て 言 っ て た 私 が い る ん で す け ど ,そ れ は も う 怖 く な く な っ て る 。碁 盤 の 目 の よ う に で き そ
う だ な ,っ て い う の を 感 じ な が ら ,こ う い う 配 置 に は し て ま し た ね 。< は ぁ >( A 氏 調 査 ,10全 体 的 感 想 )わ り と こ う ,パ キ ー ン っ て‘ 手 を 左 か ら 右 に 川 を な ぞ る よ う に 直 線 的 に 動 か し
な が ら ’て 分 か れ て ま す よ ね 。< そ う だ ね > こ う ,行 に な っ て る か ら 。で も そ れ が 小 気 味 い
い し ( A 氏 調 査 ,10-4)。
[面 接 内 外 を 貫 い て 内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]の 具 体 例 に お い て ,着 目 す べ き 重 要 な 特 徴 は ,
箱 庭 制 作 者 自 身 が 外 界 と 内 界 ,日 常 生 活 と 箱 庭 制 作 面 接 と の 間 の 一 致 ,シ ン ク ロ に 気 づ き ,報
告 し ,意 味 を 見 出 し て い る こ と で あ る 。 A 氏 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 構 成 と 報 告 を 表 3 に
整 理 す る 。 A 氏 は ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 円 形 の 構 成 に つ い て ,お 互 い に す く み あ っ て い る
よ う で 嫌 だ と 感 じ た 。 そ れ を 日 常 で も 意 識 し ,違 う 位 置 か ら 見 た い と 感 じ て い た 。 そ し て ,
カーナビの設定を変更した。自分の進行方向を指し示す方法の変化とそれによって生じた
感 情 か ら ,外 的 に 起 こ っ て い る こ と と 自 分 の 心 の 世 界 と が シ ン ク ロ し て い る と ,A 氏 自 身 が
気 づ い た 。そ の 気 づ き を 基 に し て ,第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で A 氏 に は ,今 ま で と は 違 う 場 所 か
ら ,今 ま で と は 違 う 構 成 を 行 う と い う 行 動 レ ベ ル で の 変 化 が 生 ま れ た 。A 氏 は 第 9 回 箱 庭 制
作 面 接 で は ,碁 盤 の 目 の よ う に 置 け な い と 思 っ て い た が ,第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,そ れ は
も う 怖 く な く な っ て い て ,今 回 の 構 成 に も 小 気 味 よ さ を 感 じ た 。
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表 3
時間経過
A 氏の箱庭制作面接内外での客観的事実と主観的体験
第 9 回箱庭制作面接
両面接間の日常生活
第 10 回 箱 庭 制 作 面 接
場 ,客 観 ・ 主 観
箱 庭 制
客 観 的
作面接
事実
円形の街の構成
今までと違う位置から
違う構成の実施
主 観 的
すくみあっているよ
碁盤の目のようにおけ
体験
うで嫌だ
そ う だ ,小 気 味 い い
日 常 生
客 観 的
カ ー ナ ビ の ,自 分 の 進 行 方
活
事実
向を指し示す方法の変更
主 観 的
違 う 位 置 か ら 見 た い ,お も
体験
し ろ い ,小 気 味 い い ,心 の 世
界とシンクロしているよう
◆ 具 体 例 141: B 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 全 体 的 感 想
B 氏 第 8 回 (最 終 回 )箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,B 氏 は 今 回 の 箱 庭 制 作 を 含 む ,直 近
複 数 回 の 箱 庭 制 作 に 関 す る 全 体 的 な 感 想 と し て ,以 下 の よ う に 語 っ た 。日 常 生 活 で の 変 化 と
し て ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 と 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 と の 間 に ,B 氏 に 思 い が け な い 転 任 の 打 診
が あ っ た 。 そ れ は 歓 び で あ る と と も に ,あ ま り に も 予 想 を 超 え た 打 診 で あ っ た た め ,戸 惑 い
を も 感 じ さ せ る も の で あ っ た 。 あ の ,結 構 ,そ の ,箱 庭 の ,そ の ,制 作 を し て い て 。 で ,何 回 く
ら い 前 か な ,2 回 く ら い ,2 回 く ら い 確 実 に あ っ た と 思 う ん で す け ど も ,そ の ,言 う と し ん ど
い 思 い を ,そ の し つ つ ,と い う 中 で 箱 庭 を 作 り 始 め て 。 ま た ,新 し い 年 度 の ,そ う い う 歩 み が
ま た や っ て く る っ て い う よ う な ,そ う い う ,あ の ,気 持 ち の 上 で の 変 化 と か 。 ま あ ,自 己 修 復
の 兆 し み た い な も の が 出 て き て て ,そ の 中 で ,こ う い う 話 が 出 て き て 。あ の ,う ん ,ま あ ,そ の ,
導 か れ る ま ま に ,そ の ,出 て い く か っ て い う と こ に 辿 り 着 い て っ た と い う と こ ろ で は ,ま あ ,
あ の ,不 思 議 さ を 感 じ る と と も に ,あ の ,一 つ の ,あ の ,う ん ,区 切 り っ て い う の が ,な っ た の
か な と い う 感 じ る ん で す け ど 。 < な る ほ ど 。 な る ほ ど > そ れ が ま あ ,具 体 的 な ,そ の ,● (転
任 先 地 名 )に 行 く と い う こ と で の 区 切 り な の か 。そ れ は ほ ん と に 今 月 末 に な ら な い と 。た だ ,
な ん か ,そ う い う こ と で は ,そ の ,傾 向 か ら い っ た ら ,い ろ い ろ あ っ た け ど ,ま た ,新 し い 年 度
か ら ,ま た ,気 持 ち 新 た に し て 歩 む か み た い な ,取 り 組 む か み た い な と こ に は ,行 き 着 い た の
か な っ て い う 感 覚 は あ り ま す ( B 氏 調 査 ,8-全 体 的 感 想 )。 そ の 語 り に つ い て ,内 省 報 告 に ,
不 思 議 ( B 氏 内 省 ,8-全 体 的 感 想 ,調 査 ・ 連 想 ) ,と 記 し た 。
- 172 -
表 4
時間経過
場 ,客 観 ・ 主 観
B 氏の箱庭制作面接内外での客観的事実と主観的体験
第 6 回箱庭
第 7 回箱庭制作
両面接間の
第 8 回箱庭制作
第 8 回ふりか
制作面接
面接
日常生活
面接
えり面接
箱 庭
客 観 的
自然の再生
4 つの区画と中
船 出 ,天 使 に 導
制 作
事実
の 構 成 ,人 の
央の十字形の構
かれる人
生活の痕跡
成
主 観 的
再生のイメ
4 つ の 区 画:四 季 ,
不思議な導き,
内的・外的状
体験
ー ジ ,人 の 歩
巡るイメージ。
信 仰 ,数 回 前 か
況 の 一 致 ,第
みの歴史
十 字 形:根 底 に あ
ら の 自 己 修 復
1回から何ら
る 内 的・外 的 な 核
の 兆 し ,内 的・外
か の 準 備 期
のイメージ
的区切り
間 ,宗 教 的
面接
日 常
客 観 的
予想しない
生活
事実
転任の打診
主 観 的
歓びと戸惑
体験
い
B 氏 の 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 お よ び 第 8 回 ふ り か え り 面 接 に お け る 語 り も ま た ,外 的 状 況・
箱 庭 制 作 面 接 ・ 内 的 状 況 の 一 致 や 展 開 に つ い て ,B 氏 自 身 が 感 じ ,気 づ い た こ と で あ る 。 そ
し て ,そ の 気 づ き に 対 し て ,意 味 を 付 与 し て い る 。 そ れ を 表 4 に 整 理 す る 。 第 6 回 箱 庭 制 作
面 接 か ら ,箱 庭 制 作 に 自 然 や 自 分 が 修 復 さ れ て い く テ ー マ が ,意 図 せ ず 顕 れ 始 め た 。 第 7 回
箱 庭 制 作 面 接 で は ,4 つ の 区 画 を 作 る と と も に 中 央 に 十 字 形 の 構 成 が な さ れ た 。 十 字 形 は ,
巡 る と い う 客 観 的 な 時 空 間 の 核 で あ り ,そ れ ら を 見 る 自 分 の 内 的 な 核 で も あ る と い う 多 義
的 な 表 現 で あ っ た 。 巡 る と い う 時 間 の 流 れ は ,B 氏 が 今 ま で 箱 庭 制 作 面 接 を 重 ね る 中 で ,日
常 生 活 で も 様 々 な こ と が あ っ た そ の 過 去 と ,新 し い 年 度 を 迎 え よ う と す る 今 ,心 を 新 た に す
る よ う な 思 い が 反 映 し た も の で あ る ,と 捉 え ら れ た 。 そ の よ う な 流 れ の 中 で ,再 出 発 の 打 診
が 現 実 生 活 で も あ っ た 。 こ の よ う な 外 的 ・ 内 的 状 況 の 中 で ,今 回 の 箱 庭 制 作 面 接 で ,天 使 に
導 か れ る ま ま に ,新 た な 場 所 に 出 て い く と い う 構 成 が 生 ま れ た 。実 際 に 新 し い 土 地 に い く と
い う 点 に お い て も ,気 持 ち の 上 で も ,一 つ の 区 切 り か と 感 じ た 。 外 的 状 況 ・ 箱 庭 制 作 面 接 ・
内 的 状 況 の 一 致 や 展 開 に ,B 氏 は 不 思 議 を 感 じ た ,と 捉 え る こ と が で き る 。
第 8 回 ふ り か え り 面 接 で そ の 内 省 報 告 に つ い て ,B 氏 は 以 下 の よ う に 説 明 し た 。 外 的 状
況・箱 庭 制 作 面 接・内 的 状 況 の 一 致 や 展 開 に つ い て ,再 度 語 ら れ て い た 。該 当 部 分 に 下 線 を
記す。
[も し テ ー マ と し て い う な ら ば ,箱 庭 の ,実 際 そ の 再 出 発 と い う と こ ろ の 部 分 を な ん ど
か 醸 し 出 し て て ,今 回 そ う な っ て る 。 実 際 そ う な っ て る っ て い う 。 そ う い う ,ま あ ,精
神 的 な 面 も そ う だ し ,現 実 的 な 面 も そ の ,そ う い う ,状 況 が 重 な っ て る か な っ て い う 。
- 173 -
そ う い う こ と は ,言 え る か と 。で す ね 。< (中 略 )あ の ,こ う い う 話 が 出 て る 話 ,あ る 前 か
ら ,B さ ん の 箱 庭 は 再 生 だ っ た り ,再 出 発 だ っ た り と い う ( は い ) も の が ,も う ,整 え ら
れ て い て ,備 え ら れ て い っ た 。 そ こ に ,こ の 現 実 の 話 が 起 こ っ て と い う こ と は ,な ん て
い う か な ,き ち ん と 確 認 し て お き た い 感 じ が > そ う で す ね 。 そ の 順 序 で す 。 (中 略 )箱
庭 で や っ て た プ ロ セ ス っ て い う の は ,し ん ど い と か ,い ろ ん な 傷 つ き と か ,落 胆 と か 。
そういったところの部分との向き合い(?)だったような気がするんです。<なる
ほ ど > そ れ と ,そ の 過 程 の 後 に ,い わ ゆ る ま た ,春 が 来 る か も み た い な ,そ う い う よ う な
と こ ろ に 移 っ て い く 中 で ,あ の ,こ の 話 っ て い う か ,移 動 の 話 が 出 て ,っ て い う こ と で 。
ま あ ,な ん か ,そ う い う 意 味 で は ,実 言 う と ,制 作 を 始 め る ,そ の ,こ の 始 め た 段 階 か ら ,実
は な に か し ら の ,な ん か ,準 備 期 間 だ っ た の か な と か と い う 風 に も 思 え る ,と 。 あ ん ま
り ,そ れ を 言 う と ,宗 教 か っ て な る ん で す け ど‘ 笑 ’。で も ,実 際 ,そ う い う プ ロ セ ス を 歩
ん で き た ん だ よ な ー っ て い う の は ,思 う ん で す よ ね 。 (中 略 )そ う い う と こ ろ で 言 え ば ,
結 局 ,な ん て い う ん で し ょ う 。よ く 連 想 と か 意 味 の と こ で ,不 思 議 。不 思 議 と し か 言 い
よ う が な い と こ ろ が あ っ て ,ま あ ,で も ,ま あ 実 際 ,う ん ,そ の ,い わ ゆ る ,そ の ,理 論 で ,ど
う 説 明 し ろ と 言 わ れ て も 困 る ん で す け ど ,内 的 な ,そ う い う ,探 究 と か ,い わ ゆ る ,そ の ,
ま あ ,癒 し っ て い う か 修 復 の プ ロ セ ス だ け じ ゃ な く て ,外 的 な ,そ う い っ た と こ ろ 含 め
て ,な ん か ,あ の ,現 実 に は 動 い て い っ て い る ん だ な 。で も ,外 的 な 要 因 の こ と に 関 し て ,
そ れ が ,ど う い う 風 に ,ど う し て そ ん な 風 に ,言 え る の か っ て い う こ と は 説 明 し が た い
っ て い う か 。 と い う と こ が あ っ て ,な ん か ,ま あ ,そ こ が い い と こ で も あ る ん だ け ど ,わ
か ん な い 人 に は わ か ん な い だ ろ う な っ て い う 世 界 だ ろ う な っ て い う‘ 笑 ’。そ う い う
風 に 思 う ん で す け ど ]。
第 8 回 ふ り か え り 面 接 で は ,内 的 ・ 外 的 状 況 の 一 致 に 関 す る 不 思 議 さ を 再 度 語 っ た 。第 8
回ふりかえり面接で初めて語られたのは以下の部分である。箱庭制作面接開始時点から,
な ん ら か の 準 備 期 間 で あ っ た よ う に も 思 え る 。そ の よ う な 言 い 方 を す る と ,宗 教 か と い う 風
に な る か も し れ な い が ,実 際 に そ う い う プ ロ セ ス を 歩 ん で き た と 思 う 。内 的 な 探 究 や 癒 し ・
修 復 の プ ロ セ ス だ け で は な く ,外 的 な と こ ろ も 含 め て ,現 実 に は 動 い て い っ て い る ん だ な と
思う。外的な要因に関してはどうしてそのように言えるのかは説明しがたい。
こ の よ う に ,箱 庭 制 作 面 接 の 中 で ,箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 越 え た と こ ろ で イ メ ー ジ が 自 律 的
に 動 き だ し た こ と ,そ れ が 一 つ の 流 れ ・ テ ー マ と し て ,箱 庭 制 作 面 接 が 展 開 し て い っ た こ と ,
そ れ は 単 に 内 的 な プ ロ セ ス に と ど ま ら ず ,外 的 現 実 と し て も 実 現 さ れ て い っ た こ と に 対 し
て ,B 氏 は 説 明 し が た い 不 思 議 を 感 じ た , と 捉 え ら れ る 。 コ ン ス テ レ ー シ ョ ン ( 河 合 隼 雄 ,
1991, p.94)と い う 用 語 を 使 用 し た い よ う な 不 思 議 な 外 界 と 内 界 の 一 致 が B 氏 の 箱 庭 制 作
面接で生じた。
◆ 具 体 例 140 と 141 に 示 さ れ た よ う に ,本 概 念 に は a.外 的 状 況 と 内 的 状 況 の 一 致 ,面 接 内
外 の 内 的 プ ロ セ ス の 交 流 ,b.継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 と 日 常 生 活 と を 含 め た 時 間 の 連 続 性 と
い う 2 つ の 要 素 が あ り ,そ れ が 統 合 さ れ た 事 象 に 関 す る 概 念 で あ る と 考 え る こ と が で き る 。
ま ず , a.外 的 状 況 と 内 的 状 況 の 一 致 ,面 接 内 外 の 内 的 プ ロ セ ス の 交 流 に つ い て 考 察 す る 。
◆ 具 体 例 140 と 141 に 示 さ れ た よ う に ,外 的 状 況 と 内 的 状 況 の 一 致 に 気 づ き ,そ の 意 味 を 付
- 174 -
与 し て い る の は ,箱 庭 制 作 者 自 身 で あ る 。
A 氏 は ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 内 的 プ ロ セ ス に つ い て 意 識 し て い た 。 そ し て ,第 9 回 箱
庭 制 作 面 接 と 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 と の 間 の 日 常 生 活 に お い て ,カ ー ナ ビ の 設 定 を 変 更 し た 。
自 分 の 進 行 方 向 を 指 し 示 す 方 法 の 変 化 と そ れ に よ っ て 生 じ た 感 情 か ら ,外 的 に 起 こ っ て い
る こ と と 自 分 の 心 の 世 界 と が シ ン ク ロ し て い る と ,A 氏 自 身 が 気 づ い た 。
B 氏 第 8 回 ふ り か え り 面 接 で ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 以 降 ,自 分 の 意 図 を 越 え た と こ ろ で イ
メ ー ジ が 自 律 的 に 動 き だ し た こ と ,そ れ が 一 つ の 流 れ ・ テ ー マ と し て ,箱 庭 制 作 面 接 が 展 開
し て い っ た こ と ,そ れ は 単 に 内 的 な プ ロ セ ス に と ど ま ら ず ,外 的 現 実 と し て も 実 現 さ れ て い
っ た こ と に 対 し て ,B 氏 は 説 明 し が た い 不 思 議 を 感 じ た こ と に つ い て の 気 づ き を 語 っ た 。
◆ 具 体 例 140 と 141 で は ,以 下 の 3 点 が 密 接 に 関 係 す る こ と に よ っ て ,気 づ き が 生 ま れ た
と 理 解 で き る 。1.両 調 査 参 加 者 は ,日 常 生 活 に お け る 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス と ,箱 庭 制 作 面 接 に
お け る 自 分 の 内 的 プ ロ セ ス と の 両 方 に 主 体 的 に 目 を 向 け ,気 づ き を え て い る 。2.両 調 査 参 加
者 は ,自 分 の 内 的 プ ロ セ ス だ け で な く ,箱 庭 制 作 面 接 内 外 の 客 観 的 事 実 を も 視 野 に 入 れ ,何 が
起 こ っ て い る か に 気 づ い て い る 。3.両 調 査 参 加 者 は ,箱 庭 制 作 面 接 内 外 の 客 観 的 事 実 と 主 観
的 体 験 と を 総 合 的 に 理 解 し ,自 分 自 身 の 外 的 状 況 と 内 的 状 況 が 一 致 す る こ と に 気 づ い た ,と
捉 え る こ と が で き る 。 そ の よ う な 気 づ き を 基 盤 と し て ,箱 庭 制 作 者 が 面 接 内 外 で ,自 己 に つ
い て の 気 づ き や 課 題 な ど の 内 的 プ ロ セ ス に 主 体 的 に 取 り 組 み ,そ の 体 験 を 深 化 し よ う と す
る 態 度 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 自 身 が 外 的 状 況 と 内 的 状 況 の 一 致 に 意 味 を 与 え る こ と が で き
る よ う に な っ た ,と 考 え る こ と が で き よ う 。
⑥【 制 作 過 程 と 外 界・日 常 生 活 の 交 流 】内 に [面 接 外 の 出 来 事 や 生 き 方 と 制 作 中 の 内 的 プ
ロ セ ス の 連 動 ]と い う 概 念 が あ る 。 こ の 概 念 は ,面 接 外 の 要 因 と 箱 庭 制 作 過 程 に お け る 内 的
プ ロ セ ス と が 連 動 し ,構 成 さ れ る プ ロ セ ス や そ れ に よ る 制 作 者 の 気 づ き ,と 定 義 さ れ た 。 こ
の 概 念 は ,本 項 で 検 討 し て い る a.外 的 状 況 と 内 的 状 況 の 一 致 ,面 接 内 外 の 内 的 プ ロ セ ス の 交
流 と 関 連 が 深 い と 考 え ら れ る た め ,具 体 例 を 一 つ 以 下 に 示 す 。
◆ 具 体 例 142: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 4∼ 5
こ の 具 体 例 は ,A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で 砂 箱 中 央 に 置 か れ た 白 い 女 性 の 人 形 に 関 す る も
の で あ る 。義 母 は 1 週 間 前 に 手 術 を し ,こ の 時 点 で も 入 院 中 で あ っ た 。A 氏 も 付 き 添 い を 行
っ て い た 。 義 母 は 入 院 中 ,震 度 9 の 地 震 に あ う 夢 を 見 て ,ベ ッ ド か ら 落 ち て け が を し た 。 現
実 と 夢 の 世 界 が ,自 分 に は わ か ら な く な っ て し ま っ た と 言 っ て ,義 母 は ひ ど く 悲 し ん だ 。 そ
の よ う な 義 母 の こ と が A 氏 は と て も 気 が か り だ っ た 。第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 自 発 的 説 明 過
程 で ,A 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ た 。今 日 ,何 を 作 ろ う か な と 思 っ た と き に そ の ,母 親 の こ と が
ば ー っ と 浮 か ん で き て ,( A 氏 自 発 ,8-5) と い う か ,何 を 作 っ た ら い い か ぜ ん ぜ ん わ か ら な
か っ た の で ,玩 具 を 見 に 行 っ た ら , ( A 氏 自 発 ,8-4) こ の 白 い 人 形 が あ っ て ,こ れ を 見 て こ
れ を 見 て 母 の こ と を バ ー っ と ,浮 か ん で き た ん で す ね ( A 氏 自 発 ,8-5)。 ミ ニ チ ュ ア に よ っ
て 喚 起 さ れ た 義 母 を 巡 る 記 憶 や 思 い が 勢 い を も っ て A 氏 に 迫 っ て き た ,と 捉 え ら れ る 。こ の
具 体 例 か ら ,日 常 生 活 で の 出 来 事 や そ れ に つ い て の 自 分 の 思 い と ,箱 庭 制 作 過 程 で の 内 的 プ
ロ セ ス が 密 接 に 関 連 す る 場 合 が あ る こ と が 示 さ れ た 。こ の 後 の 箱 庭 制 作 過 程 で ,A 氏 は 義 母
- 175 -
の 周 り に ,自 分 も 含 む 義 母 の 親 族 ,看 護 師 な ど 義 母 を 取 り 巻 く 人 々 を 表 す ミ ニ チ ュ ア を 置 い
た 。 そ の よ う な 構 成 を 通 し て ,義 母 と 自 分 に 共 通 す る 女 性 と い う 命 が も つ 意 味 を 実 感 し た 。
こ の よ う に 外 的 状 況 と 内 的 状 況 が 密 接 に 交 流・連 動 し ,箱 庭 制 作 者 が 自 分 の 心 や 生 き 方 や
それに関連する他者への気づきが生まれることがある。外的状況と内的状況が密接に交
流・連 動 す る こ と に よ っ て ,外 的 状 況 や そ れ に つ い て の 自 分 の 思 い が 箱 庭 制 作 面 接 に 持 ち 込
ま れ ,表 現 さ れ る こ と を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 が 自 己 や 取 り 巻 く 外 的 世 界 に 関 す る 自 己 の 内 的
プ ロ セ ス に 気 づ い て い る 。こ の よ う な 自 己 理 解 の 深 化 に ,継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 は 寄 与 し た
可能性があると考えることができる。
次 に , b.継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 と 日 常 生 活 と を 含 め た 時 間 の 連 続 性 の 観 点 に つ い て 考 察
す る 。 本 章 で は ,箱 庭 制 作 面 接 の 継 続 性 に 関 す る 概 念 を 考 察 し て き た 。 [以 前 の 作 品 と の 関
連 ]に よ っ て ,継 続 す る 箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,一 連 の テ ー マ が 生 じ る 一 要 因 と な る と 考 え
る こ と が で き た 。[作 品 の 変 化 ]の 具 体 例 に は ,自 己 像 の 変 化 に つ い て の 箱 庭 制 作 者 の 気 づ き
が 示 さ れ た 。 自 己 を 表 す ミ ニ チ ュ ア の 変 化 は ,自 己 イ メ ー ジ の 変 化 が 関 与 し て い る と 考 え ,
箱 庭 制 作 者 は ,継 続 す る 箱 庭 制 作 面 接 の 中 で 自 己 イ メ ー ジ が 変 化 し た こ と に 気 づ い た と 捉
え る こ と が で き た 。[連 続 性 と イ メ ー ジ 特 性 と の 関 連 ]で は ,箱 庭 制 作 面 接 が 継 続 し て 実 施 さ
れ る こ と に よ っ て ,連 続 性 が 箱 庭 制 作 者 の イ メ ー ジ 特 性 (自 律 性 ・ 集 約 性 ・ 象 徴 性 な ど )の 体
験 に 影 響 を 与 え ,体 験 さ れ て い な か っ た イ メ ー ジ 特 性 が ,連 続 性 に よ っ て 体 験 さ れ る 変 化 が
見 い 出 さ れ た 。 [自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き ][心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 ]の 具 体 例 か ら ,
継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 は ,そ の 連 続 性 に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 心 や 生 き 方 の 変 化 や 成 長 を 促
進 す る こ と が 見 い 出 さ れ た 。単 一 回 の 作 品 は ,そ れ 以 前 の 作 品 ・ 構 成 や 心 ・ 生 き 方 の 変 化 ・
成 長 と 交 流 し ,そ れ ま で の 変 化 を 基 盤 と し て ,さ ら な る 変 化 ・ 成 長 を 反 映 し た も の と な る ,と
捉 え ら れ た 。 そ し て ,そ れ が 次 回 以 降 の 作 品 や 箱 庭 制 作 者 の 心 ・ 生 き 方 に 影 響 を 与 え る ,と
考 え ら れ た 。 本 章 の 上 記 概 念 か ら ,継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 と い う 時 間 の 連 続 性 が ,箱 庭 制 作
者の自己理解・自己成長を促進に寄与することが見いだされた。
ま た ,Ⅵ 章 の [作 品 の 今 後 の イ メ ー ジ が 湧 い て く る ]で は ,イ メ ー ジ の 自 律 性 や イ メ ー ジ の
展 望 機 能 に よ っ て ,実 際 に 作 ら れ た 作 品 よ り も 先 の イ メ ー ジ が 生 じ る 場 合 が あ る こ と を 示
し て い る と 考 え る こ と が で き た (p.80 参 照 )。
[面 接 内 外 を 貫 い て 内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]は ,上 記 概 念 の 促 進 機 能 と 密 接 に 関 連 し ,そ れ
ら が 総 合 さ れ た も の と 理 解 す る こ と が で き る の で は な い か 。上 記 概 念 に は ,箱 庭 制 作 面 接 の
連 続 性 に 関 す る 促 進 機 能 が 見 い だ さ れ た 。 ◆ 具 体 例 140 と 141 に 示 さ れ た よ う に 本 概 念 に
お い て も ,箱 庭 制 作 面 接 が 継 続 す る こ と に よ る 自 己 理 解 の 深 化 や ,そ れ に 基 づ く 箱 庭 制 作 者
の 心 の 成 長 が 見 い だ さ れ た 。 表 3 に 整 理 し た よ う に , A 氏 は 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 ,第 10 回
箱 庭 制 作 面 接 ,両 面 接 間 の 日 常 生 活 に お い て ,自 分 の 課 題 に 気 づ き ,主 体 的 に 課 題 に 向 き 合 っ
ていた。表 4 に整理したように, B 氏は第 6 回箱庭制作面接以降の内的プロセスが外的現
実 と し て も 実 現 さ れ て い っ た こ と に ,気 づ き ,説 明 し が た い 不 思 議 を 感 じ た 。 継 続 し た 箱 庭
制 作 面 接 の 中 で ,面 接 内 外 の プ ロ セ ス が 交 流 し ,連 動 す る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 の 連 続
性 は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 と し て 働 く と 解 釈 で き よ う 。
- 176 -
こ こ ま で 考 察 し て き た よ う に ,[面 接 内 外 を 貫 い て 内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]は ,a.外 的 状 況
と 内 的 状 況 の 一 致 ,面 接 内 外 の 内 的 プ ロ セ ス の 交 流 ,b.継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 と 日 常 生 活 と
を含めた時間の連続性という 2 つの要素が統合された事象に関する概念であると考えるこ
と が で き る 。継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 と 日 常 生 活 と を 含 め た 時 間 の 連 続 性 の 中 で ,面 接 内 外 の
プ ロ セ ス が 交 流 し ,連 動 す る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与
し て い る こ と が 確 認 で き た 。 こ れ は ,箱 庭 制 作 面 接 の 内 外 で ,自 己 に つ い て の 気 づ き や 課 題
な ど の 内 的 プ ロ セ ス に ,箱 庭 制 作 者 が 主 体 的 に 取 り 組 み ,そ の 体 験 を 深 化 し よ う と す る 態 度
よって生起する箱庭制作面接の促進機能と考えられる。
継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ を 基 に ,面 接 の 連 続 性
に 関 す る 促 進 機 能 に つ い て 検 討 す る こ と を 目 的 と し て ,⑪【 単 一 回 の 制 作 過 程・作 品 と 作 品
の 連 続 性 や 変 化 の 交 流 】と ⑫【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化・成 長 の 交 流 】
内 の 概 念 を 考 察 し た 。 こ の 考 察 か ら ,箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 は ,箱 庭 制 作 面 接 と し て の 促 進
機 能 を も ち ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る こ と が 確 認 で き た ,と 考 え
る。
- 177 -
第 2 研究
質的研究による系列的理解
Ⅸ章.問題および目的
第 2 研 究 は ,p.1 で 挙 げ た 目 的 b.継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験
の 変 容 や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 を 検 討 す る こ と ,を 目 的 と す る 。 目 的 b を 達 成 す る た
め に ,第 1 研 究 と 同 一 人 物 で あ る 2 名 の 箱 庭 制 作 者 の 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 主 観 的
体 験 の 語 り や 記 述 の デ ー タ に 対 し て ,質 的 研 究 に よ る 系 列 的 理 解 を 実 施 す る 。
Ⅸ -1. 質的研究による系列的理解
本 研 究 の 目 的 b を 達 成 す る た め に は ,M-GTA と は 異 な る 研 究 法 が 必 要 と な る 。M-GTA と
は 異 な る 研 究 法 が 必 要 な 理 由 は ,a.M-GTA に よ る 分 析 で は ,調 査 参 加 者 個 人 の ま と ま り が 保
持 さ れ な い こ と ,b. 本 研 究 の 多 元 的 な 方 法 で 収 集 さ れ た 詳 細 な デ ー タ に 適 し た 分 析 方 法 が
必 要 な こ と ,の 2 点 で あ る 。
a.M-GTA と 事 例 研 究 と の 関 係 に 関 し て ,木 下 (2003)は ,以 下 の よ う に 述 べ て い る 。「 グ ラ
ウ ン デ ッ ド・セ オ リ ー・ア プ ロ ー チ で 分 析 を ま と め た 論 文 を 完 成 さ せ た 後 で ,も う ひ と つ の
まとめ方としてインタビューのなかにとくに豊富なデータを提供してくれた人がいればそ
の 人 に つ い て の 事 例 分 析 も 可 能 で あ る 。 [中 略 ]詳 し い デ ー タ を 提 供 し て く れ る 人 は グ ラ ウ
ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ に お い て も 分 析 上 貴 重 な 存 在 な の で あ る が ,[中 略 ]こ の 方
法 で は 被 面 接 者 個 人 の ま と ま り は 保 持 さ れ な い の で ,事 例 と し て ま と め る 方 法 も 可 能 で あ
る 」 と し て い る ( 木 下 ,2003,p.104) 。 同 様 の 見 解 は , 木 下 (2009) で も , 述 べ ら れ て い る
(p.18,p.29)。両 調 査 参 加 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 の デ ー タ は ,個 人 ご と に 分 析 さ れ る の
で は な く ,合 わ せ て M-GTA の 概 念 生 成 の た め に 利 用 さ れ る 。 M-GTA で は ,調 査 参 加 者 個 人
の ま と ま り は 保 持 さ れ な い た め ,各 個 人 の 事 例 の 継 時 的 な 変 化 を 追 う こ と が で き な い 。そ の
た め ,目 的 b を 達 成 す る た め に は ,事 例 研 究 法 に よ る 分 析 が 必 要 と な る 。
b.し か し ,本 研 究 で 収 集 さ れ た デ ー タ は ,多 元 的 な 方 法 で 収 集 さ れ た 詳 細 な デ ー タ で あ る 。
一 般 的 な 事 例 研 究 法 で は ,詳 細 で 多 元 的 な デ ー タ を 充 分 に 活 か す こ と が で き な い こ と が 危
惧 さ れ る 。詳 細 で 多 元 的 な デ ー タ を 精 緻 に 比 較・検 討 す る と と も に ,そ れ ら の 検 討 を 通 し て ,
デ ー タ を 総 合 的 に 把 握 す る 手 続 き が 必 要 に な る 。 そ の た め ,第 2 研 究 で は ,第 1 研 究 で 作 成
し た 基 礎 資 料 を デ ー タ と し て 用 い る こ と に よ っ て ,多 元 的 な デ ー タ を 精 緻 に 比 較 す る こ と
に し た (p.23 参 照 )。 そ し て ,そ の 基 礎 資 料 を 用 い て , 1.デ ー タ の 箱 庭 制 作 過 程 毎 の 分 析 , 2.
箱 庭 制 作 面 接 毎 に , 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 関 連 性 に 関 す る 分 析 ,3.各 調 査 参 加 者
の 全 面 接 の 分 析 ,を 実 施 す る こ と が 目 的 b を 達 成 す る た め に 適 切 で あ る と 考 え た 。こ の 分 析
は ,箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る デ ー タ を ミ ク ロ な 視 点 か ら 精 緻 に 分 析 す る 方 法 論 (伊 藤 ,2005;石
原 ,2008;他 )と ,事 例 研 究 法 に よ る 継 続 し た 面 接 過 程 で あ る 箱 庭 療 法 過 程 に 関 し て 系 列 的 理
解 を 行 う 方 法 論 を 統 合 し た 方 法 と 考 え る こ と が で き る 。こ の よ う な 方 法 の 採 用 は ,目 的 b に
適 う と 同 時 に ,詳 細 で 多 元 的 な デ ー タ を 活 か す 研 究 法 と な り う る と 考 え る 。
- 178 -
Ⅹ 章 .方 法
Ⅹ -1. 分 析 方 法
第 2 研 究 で は ,第 1 研 究 で 作 成 し た 基 礎 資 料 を デ ー タ と し て 用 い た (p.23 参 照 )。一 覧 表 化
(表 2,p.24,資 料 1 参 照 )に よ り ,多 元 的 に 収 集 さ れ た 箱 庭 制 作 過 程・説 明 過 程 に お け る 箱 庭 制
作 者 の 主 観 的 体 験 の 比 較 が 可 能 と な り ,次 の 分 析 を 行 っ た 。 1.箱 庭 制 作 過 程 毎 に ,制 作 行 為 ,
制 作 内 容 ,箱 庭 制 作 者 と 筆 者 と の 対 話 等 に 関 す る ,箱 庭 制 作 者 の 多 様 な 主 観 的 体 験 に つ い て ,
そ の 内 容 や 関 連 性 を 把 握 ・ 分 析 し た 。2.各 箱 庭 制 作 面 接 で の ,制 作 の 経 過 に よ る 箱 庭 制 作 者
の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 関 連 性 を 把 握 ・ 分 析 し た 。 3. す べ て の 面 接 の 主 観 的 体 験 を 比 較 し ,
テ ー マ の 系 列 的 理 解 や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 に つ い て ,多 層 的 ・ 総 合 的 に 把 握 ・ 分 析
した。
分 析 は 筆 者 単 独 で 行 っ た 。論 文 を ま と め る 段 階 で ,指 導 者 に 指 導 を 受 け た 。調 査 参 加 者 に
論 文 の 内 容 の 確 認 を 依 頼 し ,承 諾 を え た 。
Ⅹ -2. 質 的 研 究 に よ る 系 列 的 理 解 に お け る 具 体 例 等 の 表 記 に つ い て
主 観 的 体 験 の 具 体 例 と そ の 前 後 の 箱 庭 制 作 者 の 言 葉 を 網 掛 け ,ゴ シ ッ ク 体 で 示 し た 。箱 庭
制作者の行動や様子を‘’内に記述した。具体例内の筆者の言葉を<>内に示した。質的
研究による系列的理解で検討する部分に
を 付 し た 。 具 体 例 の 最 後 の ()内 に デ ー タ の
出 処 を 記 し た 。例 え ば ,( A 氏 調 査 ,1-12)は ,「A 氏 」の 「調 査 的 説 明 過 程 」に お け る 言 葉 で あ
り ,そ れ は 「第 1 回 面 接 」の 「12 番 目 の 箱 庭 制 作 過 程 」に お け る 言 動 に 関 す る 主 観 的 体 験 で
あ る 。( B 氏 内 省 ,2-4,制 作 ・意 図 )は ,「B 氏 」の 「内 省 報 告 」に 記 さ れ た 主 観 的 体 験 で あ り ,「第
2 回 面 接 」の 「4 番 目 の 箱 庭 制 作 過 程 」に お け る 「箱 庭 制 作 過 程 」に お け る 言 動 に 関 す る 「意 図 」
である。
必 要 に 応 じ て ,ふ り か え り 面 接 の デ ー タ を 補 足 的 に 記 し た 。 ふ り か え り 面 接 お け る 語 り
は ,[]内 に 明 朝 体 で 示 し た 。 具 体 例 に 関 連 す る 当 該 箇 所 に
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を付した。
Ⅺ章.箱庭制作面接の質的研究による系列的理解
―箱庭制作者 A 氏―
A 氏 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ を 質 的 研 究 に よ る 系 列 的 理 解 に よ っ て ,詳 述・考 察 す る 。ま ず ,
主な箱庭制作過程と主観的体験について詳述する。その後, 箱庭制作者の主観的体験の変
容 や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 を , 1 )主 な テ ー マ と 自 己 像 の 変 遷 ,2)宗 教 性 (命 ,守 り ,神 聖
な 場 所 ・ 生 き 物 ),3 ) 女 性 性 ,母 性 ,4) 自 己 の 多 様 性 と 能 動 性 の 獲 得 ,他 者 と の 関 係 性 の 変 容 ,
5)受 動 性 と 能 動 性 , 面 接 内 外 で の 深 い 関 与 の 5 観 点 か ら 考 察 す る 。
Ⅺ -1. A 氏 の 主 な 箱 庭 制 作 過 程 と 主 観 的 体 験 の 詳 細
1)第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 23)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。A 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で , 棚 の ミ ニ チ
ュ ア を 眺 め ,卵 が 入 っ た 鳥 の 巣 の 玩 具 を 手 に と っ た 。鳥 の 巣 か ら 卵 が 落 ち た 。A 氏 は 卵 を 拾
っ て ,巣 に 戻 し ,12 秒 間 鳥 の 巣 を 見 つ め て い た が ,棚 に 戻 し た 。 制 作 過 程 4 で ,砂 箱 右 半 分 を
海 に し た 。 制 作 過 程 7 で ,イ ル カ を 見 つ け ,制 作 過 程 8 で イ ル カ を 置 き ,位 置 や 頭 の 向 き を 慎
重 に 決 め た 。 制 作 過 程 9 で ,砂 箱 左 奥 に 緑 色 の 陶 器 の 家 を 置 く が ,制 作 過 程 10 で ,そ れ を 白
と あ わ い 青 色 の 家 に 交 換 し た 。制 作 過 程 11 で は ,砂 箱 左 奥 で ,金 色 の ベ ル と マ リ ア 像 を 森 で
置 き 比 べ ,マ リ ア 像 を 置 い た 。制 作 過 程 12 で ,サ ン ゴ と 貝 殻 を 右 手 前 隅 (海 中 )と ,海 岸 線 の 手
前 に 置 い た 。制 作 過 程 14 で ,棚 に 亀 を 見 つ け ,砂 箱 右 奥 隅 に 置 い た 。制 作 過 程 15 で ,イ ル カ
の 頭 を 亀 の 方 に 置 き な お し た 。制 作 過 程 17 で ,砂 箱 左 手 前 に 少 し 砂 を 盛 っ た が ,砂 を 戻 し て
平 ら に な ら し て ,制 作 を 終 了 し た 。
A 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 記 す 。A 氏 は ,海 の 構 成 を 巡 っ て 内 省 報 告 に 今 回 の
箱 庭 の テ ー マ は 「船 出 」な の だ と 思 う ( A 氏 内 省 ,1-5,調 査 ・ 意 味 ) と 記 し た 。
緑 色 の 家 を 白 と あ わ い 青 色 の 家 に 交 換 し た 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,内 省 報 告 に 白 と 青 の
家 は 落 ち 着 い た ,や や さ び し い 印 象 。 私 の 内 側 ,ベ ー ス は ど ち ら か と い う と ひ っ そ り と 静 か
なものなのだと思う。自分自
身にぎやかで活動的とは言え
な い と 思 う ( A 氏 内 省 ,1-10,
制作・意味)と記された。家
の 色 に つ い て ,自 分 の ベ ー ス
はひっそりと静かなもので,
活動的ではないというように
自分の性格と関連付けた報告
は ,説 明 過 程 で は な さ れ ず ,内
省報告で初めてなされた。
マリア像について内省報告
に 以 下 の よ う に 記 され た 。守
りになるものが置きたかっ
た。その場所に命を吹き込
み ,命 を 見 守 る も の が 欲 し
写 真 23
- 180 -
A 氏第1回作品
く て( A 氏 内 省 ,1-11,制 作・意 図 ), 私 の 中 に は 意 外 に 宗 教 性 が 根 付 い て い る の か も し れ
な い ( A 氏 内 省 ,1-11 ,調 査 ・ 意 味 )。 こ の 制 作 過 程 が 守 り の 表 現 で あ る こ と は ,調 査 的 説 明
過 程 で 語 ら れ て い た が ,マ リ ア 像 が 命 や 宗 教 性 と 関 連 す る こ と は ,内 省 報 告 で 初 め て 報 告 さ
れた。
A 氏 は ,鳥 の 巣 や 貝 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。 棚 を み て て ね , あ ,
こ れ 置 き た く な る か も ,と 思 っ た お も ち ゃ が あ る け ど ,あ れ は 今 回 ぴ っ た り こ な く て ね え <
ど れ ? > こ の ,ひ な 鳥 が 巣 に 入 っ て い る よ う な ,< う ん う ん う ん > こ れ ,な ん か ,心 ひ か れ た
ん で す ね 。 (中 略 )ひ ょ っ と し た ら 使 い た い な っ て 思 っ て た ん だ け ど 。 海 が で き て ,持 っ て
き た 段 階 で ,あ あ こ れ は ま だ ,ま だ と い う か 今 ,今 日 は 違 う な 。な ん か ,そ の 代 わ り の 貝 ,と い
う 感 じ な ん で す( A 氏 調 査 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て )。こ の 語 り に つ い て ,守 る・は ぐ く む と い
う 女 性 的 な 面 を 私 は 自 分 の も の に し て い る 。 5・ 6 年 前 ,女 性 性 を 受 け 入 れ ら れ て い な か っ
た 頃 の 自 分 と の 違 い を 感 じ る ( A 氏 内 省 ,1-12,調 査 ・ 意 味 ) と , 内 省 報 告 で 初 め て ,鳥 の 巣
や 貝 と ,自 分 の 女 性 性 や 母 性 と を 明 示 的 に 関 連 づ け て 報 告 し た 。
イ ル カ や 亀 に つ い て 内 省 報 告 に 亀 は 私 に と っ て の th な の か 。 そ れ と も ,私 の 中 に あ る ,
あ る 部 分 な の か と 思 う ( A 氏 内 省 ,1-14, 制 作 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た * 1 。 ま た ,内 省 報 告 に 亀
は , 私 と い や な も の の 間 に 入 っ て く れ て ,私 を 守 っ て く れ て い る , い や な も の に 取 り 巻 か れ
な い よ う に し て く れ る も の な の だ と 思 う( A 氏 内 省 ,1-14,自 発・意 味 ),自 分 の 前 を 進 む 亀
に , 今 は つ い て い こ う と 思 っ て い る よ う だ 。 何 よ り ,広 い 海 原 で 亀 を 見 失 っ て し ま っ た ら ,
自 分 の 進 む 方 向 を 見 失 い そ う だ( A 氏 内 省 ,1-15,制 作 ・ 意 味 )と 記 さ れ た 。亀 は ,自 己 像 で
あ る イ ル カ と い や な も の と の 間 に 入 っ て 守 っ て く れ る 存 在 で あ り ,イ ル カ は 亀 に つ い て 行
こ う と 思 っ て い る こ と が 記 さ れ た 。亀 の こ の よ う な 内 的 意 味 に つ い て は ,内 省 報 告 で 初 め て
記された。
作 品 全 体 に 対 し て , 以 下 の よ う な 語 り や 記 述 が な さ れ た 。 A 氏 は ,調 査 的 説 明 過 程 で こ ん
な 世 界 が あ た し の 中 に あ っ た ん だ ,い い も の 見 つ け た ,っ て い う よ う な 感 じ か な 。
( 中 略 )作
り 始 め た ら ,あ の ,ど ん ど ん こ う し た い っ て い う の が 出 て き て < う ん > わ た し の 中 か ら ,こ
ん な 世 界 が ,あ の ,出 て き て く れ た ん だ な あ ,っ て 。 自 分 で こ う い う 世 界 を ,わ た し の 目 に 見
え る よ う に ,作 っ て あ げ ら れ て ,嬉 し い( A 氏 調 査 ,1-全 体 的 感 想 )と 語 っ た 。内 省 報 告 に 短
時 間 で も 集 中 し て ,没 頭 し て 作 り 上 げ た 作 品 は ,い わ ば 私 の 子 ど も ,私 の 分 身 。作 っ た の は 紛
れ も な い 私 だ け れ ど ,作 ら せ て も ら っ た よ う な ,あ り が た い よ う な 気 持 ち ( A 氏 内 省 , 1- 全
体 の 感 想 ,調 査 ・ 感 覚 ) と 記 さ れ た 。
2)第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 24)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。A 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で , 砂 箱 左 奥 か
ら 右 手 前 に む け て ,蛇 行 し た 川 を 作 り ,川 に よ っ て 二 つ に 分 け ら れ た 土 地 が で き た 。 制 作 過
程 3 で , 約 2 分 4 0 秒 に 亘 っ て ,川 に よ っ て 二 つ に 分 け ら れ た 土 地 を 見 つ め つ つ , 砂 を な ら
し た り し て い た 。制 作 過 程 9 で ,ラ イ オ ン を 「陸 地 の 右 手 前 に ,茂 み の 陰 か ら 草 食 獣 を ね ら う
よ う な 位 置 に 」置 い た 。(「」内 は ,A 氏 が 箱 庭 制 作 過 程 の 内 容 と し て ,内 省 報 告 に 記 し た 言 葉 )。
制 作 過 程 11 で ,白 い 石 を 砂 箱 左 の 陸 地 の 奥 ,川 岸 に 置 い た 。砂 箱 左 手 前 の 山 を 奥 に 移 し ,山 の
- 181 -
ふもとに土偶と埴輪を置いた。
制 作 過 程 12 で ,棚 に 青 い 鳥 を
見 つ け て ,白 い 石 の 上 に の せ
た 。 制 作 過 程 14 で ,シ マ ウ マ
を右の陸地の右奥の木のかげ
に 置 き ,制 作 を 終 了 し た 。
A 氏の主な主観的体験の語
りや記述を記す。A 氏は川に
よって二つに分けられた土地
に つ い て ,内 省 報 告 に 大 地 も
い ま だ 生 命 が な く ,乾 燥 し て
い て ,荒 涼 と し た イ メ ー ジ が
私 に 迫 っ て き た 。「こ ん な に 広
い川を作ってしまってどうし
写 真 24
A 氏第 2 回作品
よ う 」「 生 命 の な い 大 地 が お そ ろ し い 」と 感 じ て い た( A 氏 内 省 ,2-3,制 作・感 覚 )と 記 し た 。
ラ イ オ ン に つ い て 内 省 報 告 に ラ イ オ ン や 恐 竜 と い っ た 力 強 い も の ,時 に 凶 暴 な も の に 憧
れ の よ う な ,親 近 感 の よ う な 感 覚 を 抱 く 。 自 分 が 生 き て い く た め に は ,時 に 相 手 を 喰 ら う こ
と も 必 要 ( A 氏 内 省 ,2-9,制 作 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。 ラ イ オ ン に つ い て の こ の よ う な 感 覚
や 考 え は ,内 省 報 告 で 初 め て 記 さ れ た 。 攻 撃 性 の 積 極 的 意 味 に 気 づ い た と 理 解 で き る 。
土 偶 や 埴 輪 に つ い て ,以 下 の よ う な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 が あ っ た 。調 査 的 説 明 過 程 で
い の ち な ん だ け ど ,い の ち を 持 っ て る 人 と し て 持 っ て き た ん で す け ど ね < ふ ん ふ ん う ん >
半 分 い の ち じ ゃ な い も の だ っ て い っ て い う か (中 略 )人 間 で は な い い の ち に な っ て る と い う
か < ふ ん ー ん > そ う い う 感 じ が し て ( A 氏 調 査 ,2-11)。 ま た ,内 省 報 告 に ,土 偶 も い の ち の
表 現 だ と 思 っ て い た が ,ふ も と に 置 い た こ と で ,い の ち と し て の 人 間 の 代 わ り の よ う で も あ
る し ,山 の 番 人 の よ う な 気 も し て き た( A 氏 内 省 ,2-11,制 作 ・ 感 覚 )と 記 さ れ た 。第 2 回 ふ
り か え り 面 接 で は ,[土 偶 は だ い ぶ 神 様 の 方 に 近 い ],と 語 っ た 。ま た ,山 に 関 し て 第 2 回 ふ り
か え り 面 接 で ,[信 仰 の 対 象 に な る よ う な お 山 の イ メ ー ジ が あ り ま し た ね 。そ う す る と ,お 山
のふもとに土偶達はいかにもふさわしい。ちょうど山と平地とのちょうど境目辺りに居て
く れ る と ,ち ょ う ど こ ろ あ い が い い ],と 語 っ た 。A 氏 は ,土 偶 や 埴 輪 が 半 分 い の ち で は な い も
の ,人 間 じ ゃ な い い の ち に な っ て お り ,神 様 の 方 に 近 い 存 在 で あ る と 感 じ て い た 。 信 仰 の 対
象になるお山のふもとの番人であるとも感じていた。
石 に つ い て , 以 下 の よ う な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 が あ っ た 。A 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で ,
そ う い う ち ょ っ と 意 味 の 分 か ら な い も の が 置 き た か っ た( A 氏 自 発 ,2-11)と 語 っ た 。内 省
報 告 に 生 命 感 は 薄 く て ,動 き 出 す こ と が な い も の 。 私 が 左 側 に 置 き た か っ た い の ち と は ,そ
の よ う な も の だ っ た の で は な い か 。は っ き り と し た 形 を ま だ 持 た な い ,抽 象 的 な も の が よ か
っ た の だ と 思 う( A 氏 内 省 ,2-11,制 作・意 味 )と 記 さ れ た 。石 の 意 味 は 内 省 報 告 時 に 明 示 的
に な っ た ,と 捉 え ら れ る 。
青 い 鳥 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程 で , 実 は ず っ と 作 っ て る 最 中 な ん か ,こ う ,ど う し て い い
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ん だ ろ う と か ね < う ん > す ご い 苦 し い ん で す よ ね 。 < ふ ぅ ん > で ,あ の 青 い 鳥 を 見 つ け て ,
置いた時にああよかったと思いましたね。<ふぅん苦しさは>なくなりましたね<なくな
っ た > は い ほ っ と し ま し た( A 氏 自 発 ,2-12)と 語 っ た 。ま た 内 省 報 告 に 青 い 鳥 は 意 図 し な
い と こ ろ か ら や っ て き た ,意 図 を 超 え て い る と い う 感 じ か も し れ な い ( A 氏 内 省 ,2- 12, 制
作・意味)と記された。
3)第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 25)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。 A 氏 は ,第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 4 で ,砂 箱 奥 に 海
を 作 っ た 。制 作 過 程 11 で ,亀 を 砂 箱 中 央 の や や 奥 の 位 置 に 頭 を 陸 側 に 向 け て 置 い た 。シ ャ チ
や イ ル カ を そ の 周 囲 に 置 い た 。 金 色 の 二 枚 貝 の 物 入 れ を ,砂 箱 左 奥 の 海 藻 の 前 に 置 い た り ,
夫 婦 岩 と 置 き か え た り す る が ,最 終 的 に 金 色 の 二 枚 貝 の 物 入 れ を オ レ ン ジ の 海 藻 の 後 に ,隠
れ る よ う に 置 い た 。 制 作 過 程 13 で ,回 遊 し て い る シ ャ チ ,イ ル カ ,亀 を 見 つ め ,亀 の 頭 の 方 向
を 陸 側 か ら 海 の 沖 合 の 方 向 に 変 え た 。 制 作 過 程 15 で ,「小 さ な ,頭 を も た げ て 何 か を 見 つ め
る し ぐ さ を し た 亀 を 砂 浜 に ,沖 に 向 か う 亀 を 見 て い る 形 で 」置 き ,制 作 を 終 了 し た 。
A 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 記 す 。金 色 の 二 枚 貝 に つ い て ,内 省 報 告 に 最 近 の 私
は 以 前 と 比 べ て ,い ろ い ろ な 場 面 で ,い ろ い ろ な 自 己 開 示 を す る よ う に な っ て い る 。( 中 略 )
尊 大 さ は 薄 れ ,た だ の ,あ る 意 味 で と て も 平 凡 な 一 人 の 人 間 と し て い ら れ る よ う に な っ た の
か も し れ な い ( A 氏 内 省 ,3-11,調 査 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。 こ の 制 作 過 程 を 自 己 開 示 や 自 己
の 平 凡 さ と 関 連 づ け る 報 告 は ,内 省 報 告 で 初 め て な さ れ た 。箱 庭 制 作 面 接 と そ の 内 省 報 告 作
成 を 通 し て ,自 己 開 示 が で き て い る こ と を 認 識 し ,あ り の ま ま の 自 己 の 受 け 入 れ が 進 ん だ と
推測できる。
海 の 亀 に つ い て ,以 下 の よ う な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 が あ っ た 。 1 回 目 の イ ル カ が 亀 に
な っ た な っ て い う 感 じ (中 略 )そ っ ち の 方 が ,イ ル カ ,ま ,イ ル カ は ,ま ,私 だ っ た ん で す け ど
ね ,前 も 。こ れ も 亀 は 私 だ ろ う な
と 思 い ま す け ど ,こ の ほ う が 等
身 大 の 感 じ が し て ,は ぁ ,ぴ っ た
り き ま す( A 氏 調 査 ,3-13) 。第
1 回箱庭制作面接ではイルカで
あ っ た 自 己 像 が ,今 回 は 亀 で 表
さ れ た 。ま た ,亀 の 頭 を 沖 の 方 に
変 え た こ と に つ い て ,以 下 の よ
うな主観的体験があった。自発
的 説 明 過 程 で ,い ろ い ろ 試 そ う
と 思 っ て ,ふ っ と 亀 の 置 き 方 を
変 え た ら ば < う ん > あ ー ,急 に
な ん か 違 う 感 じ に な っ て ,が ら
り と 。あ の あ ぁ ,沖 へ 出 て 行 く の
写 真 25
も気分がいいなと思って<うん
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A 氏第 3 回作品
う ん > 沖 へ 出 て 行 く 風 に 決 め ま し た ね( A 氏 自 発 ,3-13)と 語 っ た 。ま た ,内 省 報 告 に は ,そ
れ ま で の ,亀 ・イ ル カ ・シ ャ チ が 頭 を つ き 合 わ せ な が ら 回 遊 す る 形 は ,な ん だ か ぬ る ま 湯 に つ
か っ て い る よ う な ,ぬ く ぬ く し て 幸 せ だ け れ ど ,で も あ え て 言 え ば 居 心 地 が 悪 い ,落 ち 着 か
な い 形 だ っ た 。い つ ま で も 回 遊 し て ,3 頭 は 親 し そ う だ け れ ど も 先 に 進 め な い ,発 展 し な い ,
自 分 た ち の 領 域 か ら 広 い 場 所 へ 出 て 行 け な い よ う な 感 じ 。凡 庸 さ に 埋 没 さ せ よ う と す る よ
う な ,お 互 い が お 互 い の 動 き を 規 制 し て い る よ う な ,輪 か ら は ず れ て 独 自 の 道 に 進 み 出 す の
を 牽 制 し て い る か の よ う な 不 自 由 さ を 感 じ た 。そ の 輪 か ら は ず れ て ,自 分 の 道 を 進 み た い と
思 っ て い る ,独 自 性 を 発 揮 し た い と 思 っ て い る ,そ れ が 今 の 私 な の だ ろ う か( A 氏 内 省 ,3- 13,
制作・意味)と記された。
砂 浜 の 亀 に つ い て 内 省 報 告 に 砂 浜 の 亀 は ,沖 に 向 か う 亀 を 見 送 っ て い る 。(中 略 )沖 に 向 か
う 亀 を 信 頼 し て い る よ う だ ( A 氏 内 省 ,3-15,制 作 ・ 連 想 ) と 記 さ れ た 。
4)第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 26)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。 A 氏 は ,第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 と 3 で , 砂 箱
左 奥 か ら ,反 時 計 周 り に 砂 を 掘 り ,渦 を 作 っ た 。 制 作 過 程 6 で ,棚 に 向 か い ,ま っ す ぐ に ,卵 の
入 っ た 鳥 の 巣 を 手 に 取 り ,一 旦 ,卵 を 2 個 棚 に 戻 す が ,再 度 卵 を 巣 に 戻 し た 。鳥 の 巣 を も っ て ,
砂箱に移動した。渦の中心に置かれたイスを卵の入った鳥の巣に置きかえた。巣の卵を出
し 入 れ し た り ,貝 殻 に 置 き か え た り ,ベ ン チ に 置 き か え た り し た 。 制 作 過 程 8 で ,亀 を 砂 箱
左 奥 ,渦 の 始 ま り の あ た り に 置 い た 。 制 作 過 程 14 で は ,A 氏 は ,亀 が い る あ た り の 川 幅 を 広
げ て ,亀 を 砂 箱 左 側 真 ん 中 付 近 ま で 進 め た 。制 作 過 程 16 で ,A 氏 は 砂 箱 右 側 の 渦 の 幅 を 3 度
広 げ た 。 そ し て ,亀 を も っ と 進 め て ,「渦 巻 き の 全 行 程 の 6 割 ほ ど の 位 置 (右 側 中 央 部 )」に 置
いた。
A 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り を 記 す 。A 氏 は 作 品 全 体 に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程 で 出 来 上
が っ た 世 界 は ,え ー っ と な ん で し ょ う ね ,こ れ ね‘ 笑 ’な ん で し ょ う ね 。よ く わ か ん な い 。
ほんとに良くわかんないですねえ
( A 氏 自 発 ,4-全 体 の 感 想 )と 語 っ
た。
渦について自発的説明過程で A
氏は以下のように語った。博物館
で ,あ の 曼 荼 羅 の 展 示 会 を や っ て
いたので<はぁぁ>観て来たんで
す よ ね < あ あ ,な る ほ ど > そ い で
あ の 丸 い 図 形 と か ,お も し ろ い な
と 思 っ て ,ま ,で も ,ね ,そ ん な の を
作りたいと思っているわけでもな
く 。 で も 砂 を 見 て い た ら ,う ,渦 巻
き だ と い う ふ う に 思 っ た の で ,す
写 真 26
ー‘息を吸う音’ちょっとどうな
- 184 -
A 氏第 4 回作品
る か わ か ら な か っ た ん だ け ど ,渦 巻 き が 浮 か ん で き て ど う も 消 え な い か ら ,う ん じ ゃ ぁ 作 っ
て み て み よ う と 思 っ た の が ,今 日 の‘ 砂 箱 に 向 け て い た 顔 を 筆 者 に 向 け て ’作 品 な ん で す ね
( A 氏 自 発 ,4-2)。
鳥 の 巣 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。も う ベ ン チ や 貝 殻 を 見 て い る と
き か ら ,< ふ ん ,ふ ん > 鳥 の 巣 は 目 に 入 っ て い た ん で す ‘ 筆 者 の 顔 を 見 な が ら ’。 < ふ ん ,う
ん , う ん > で ,で も ,な ん だ ろ う こ う 素 直 に 手 が 伸 ば せ な く っ て < ふ ぅ ん > ベ ン チ や ら 貝 殻
に し て た ん で す け ど ,< ふ ぅ ん > や っ ぱ り 鳥 の 巣 を 置 い て み よ う と 思 っ て 。 で 持 っ て 来 て ,
あ の ,そ い で ,卵 も な く て も い い か も 知 れ な い と 思 っ て ど け た ら ,や っ ぱ り す ご く さ み し く
な っ て ,‘ 砂 箱 に 向 け て い た 顔 を 筆 者 に 向 け て ’ < ふ ん ,な る ほ ど ね > こ れ は 卵 は い る ん だ
と 思 っ て ,置 き ま し た ね 。< 素 直 に ,手 が 伸 ば せ な い っ て 言 う の は ,も う 少 し 言 う と ど ん な 感
覚 > う ー ん ,な ん と な く ね ,こ う ( 間 8 秒 ) な ん で し ょ う ね ,素 直 に 手 が 伸 ば せ な い ( 間 7
秒 )こ れ ,あ の ,貝 殻 も そ う で し た け ど < う ん > 貝 殻 も ,こ の ,巣 も ,< う ん > 卵 を 抱 え た 巣 も
そ う な ん で す け ど ,< う ん > す ご く そ の 女 性 の こ と を < う ん > 意 識 さ せ る 感 じ が < う ん >
私 に は あ る ん で す よ 。 < う ん ,う ん ,う ん > 特 に こ れ は ‘ 巣 を 指 差 し な が ら ’ こ う 子 ど も を
かえすっていうね。<そうだね>うん私は<ふん>子どもがいないというところで<ふん
>何か引っかかっている様な気も<うん>しますね(中略)たぶん持たずに<うん>一生
生 き て 行 く だ ろ う な っ て い う の は( 中 略 )
( 間 28 秒 )
‘ 小 さ な 声 で ’そ れ で 手 が 伸 ば せ な か
ったんでしょうね。
( 中 略 )ふ ふ ふ‘ 笑 ’ね 。卵 が ,巣 だ と 思 う と 。< ふ ん > ね 全 然 意 味 が ,
置いてる最中はちょっとそういう<うん>感覚では見ていなかったので<うん>ちょっと
なんだかつらいような切ないような気分になりますね‘声が震えて’<そうだねそうだね
>‘ 箱 庭 制 作 者 は 箱 庭 を 見 つ め な が ら ,黙 っ て ,時 折 ハ ン カ チ で 涙 を ぬ ぐ っ て い る ’
(A氏
調 査 ,4-6) 。
渦 の 幅 を 広 げ た 行 為 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。こ の 幅 を 広 げ て ま
したよね。<広げたね>なんかね
あの,ふふ‘笑’産道を広げてるみたいって思い<は
ぁ > ま し た ね , 広 げ て る 最 中 ね ( A 氏 調 査 ,4-16)。 A 氏 は 渦 の 幅 を 広 げ て い る 時 , 産 道 を
広げるというボディーイメージが構成行為から喚起されたと捉えられる。
亀 が 渦 の 中 央 に 向 か う 構 成 に つ い て ,第 4 回 ふ り か え り 面 接 で A 氏 は 以 下 の よ う に 語 っ
た 。 渦 の 中 心 に [向 か っ て あ の 亀 は 生 ま れ よ う と し て い る ん だ な っ て い う ね 。 ( 中 略 )亀 は
生 ま れ よ う と し て い る し ,私 は 産 み お と し て あ げ よ う と し て い る 。< な る ほ ど > 産 み お と し
た い 。 (中 略 )新 し い 自 分 が そ こ に は い る ]。 渦 の 中 心 は 多 義 的 な イ メ ー ジ を も っ た 領 域 で あ
っ た 。そ の 一 つ の イ メ ー ジ と し て , 自 己 像 で あ る 亀 が 渦 の 中 心 に 向 か い ,そ の 中 心 に 新 し い
自 分 が い る と い う イ メ ー ジ が 付 与 さ れ て い た ,と 捉 え ら れ る 。
5)第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 27)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。A 氏 は ,第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 3 で , 砂 を 盛 り 上
げ て ,円 錐 状 の 山 か ら な る 島 を 作 っ た 。制 作 過 程 4 で ,島 (山 )の 左 奥 に 鳥 居 を 置 い た 。制 作 過
程 9 で ,亀 を 島 の 右 手 前 の 浜 辺 に 置 い た 。制 作 過 程 10 で ,鹿 を 神 社 の 脇 に 置 い た 。制 作 過 程
12 で ,海 に 残 っ て い た 砂 を 島 に か き 寄 せ た 。 制 作 過 程 16 で ,イ ン コ を 島 の 右 奥 ,山 の 頂 上 付
- 185 -
近 に 置 い た 。 制 作 過 程 17 で ,焚 き
火とキノコを島の左手前に置き,
り ん ご を 置 き 足 し た 。制 作 過 程 17
で ,島 の 亀 の 方 を 向 い て い た 海 に
い る 大 き な 亀 の 頭 の 向 き を ,「島 の
亀 に ほ ぼ お 尻 を 向 け る 位 置 」に 変
えた。
A 氏の主な主観的体験の語りや
記 述 を 記 す 。島 に つ い て ,以 下 の よ
うな主観的体験の語りがあった。
自発的説明過程で島のふちをわり
と最後の方丁寧に整えたんですけ
ど ,< そ う だ ね > そ れ は ち ょ っ と
写 真 27
意識してやってて<ふぅん>あの
A 氏第 5 回作品
ぉ ,ま ,こ こ は 私 の 島 な の で 他 の 人 は 登 っ て 来 れ な い ,で す ね 。(中 略 )と い う と こ ろ で ち ょ っ
と 境 界 を く っ き り さ せ て ( A 氏 自 発 ,5-12) と 語 っ た 。 こ の 島 は ,自 分 の 島 な の で 他 の 人 は
登 っ て 来 れ な い こ と , ま た ,そ れ を 意 識 し て ,意 識 的 に 境 界 を く っ き り さ せ た こ と が 語 ら れ
た 。他 者 と の く っ き り と し た 境 界 線 を も つ 自 己 の 島 に ,海 を 旅 し て き た も う 一 つ の 自 己 像 で
あ る 亀 が 浜 辺 か ら 上 陸 し た (制 作 過 程 9),と 捉 え る こ と が で き る 。
島 か ら 感 じ る 厳 し さ や し ん ど さ に つ い て ,以 下 の よ う な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 が あ っ
た 。自 発 的 説 明 過 程 で 最 近 ,あ の ,( 間 7 秒 )よ く 悩 む と い う か ,は は‘ 笑 ’(中 略 )し ん ど い
な ぁ ,で , だ け ど だ け ど ,そ の し ん ど さ は 乗 り 越 え な き ゃ い け な い ら し い と い う こ と も わ か
っ て て ,逃 げ ら れ た ら 楽 な ん だ け ど ,逃 げ ち ゃ い け な い な と い う と こ ろ で ,< ふ ん > そ ,そ れ
が こ の 島 に な っ た よ う な 気 が し ま す ね 。 (中 略 )そ う い う 風 に 思 っ て る 私 全 体 な ん で し ょ う
け ど ね ,こ れ は ( A 氏 自 発 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。 内 省 報 告 に 反 り 返 っ た 傾 斜 だ
け で は な く て ,島 の あ い て い る ス ペ ー ス 全 体 が ,私 に 問 い 掛 け て く る 。 突 き 詰 め て く る 。 私
を 試 そ う と し て い る 。 そ ん な イ メ ー ジ ( A 氏 内 省 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 感 覚 ) ,と 記
された。
鳥 居 に つ い て ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。 何 か お 守 り が ほ し い ,と 思 っ て 鳥 居 を
置 い た( A 氏 内 省 ,5-4,制 作 ・ 意 図 ),鳥 居 を 置 い た こ と で ,島 に 命 が 芽 生 え た よ う な 安 心 感
が 湧 い た ( A 氏 内 省 ,5-4,制 作 ・ 意 図 )。 鳥 居 を 巡 る お 守 り や 命 の 芽 生 え と い う 主 観 的 体 験
は ,内 省 報 告 で 初 め て 明 示 的 に 記 さ れ た 。 ま た ,鹿 に つ い て ,内 省 報 告 に ,鹿 は 神 聖 な 場 所 に
住 む ,神 聖 な 生 き 物 ( A 氏 内 省 ,5-10,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 さ れ た 。
6)第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 28)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。 A 氏 は ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 5 で ,砂 箱 中 央 に
で き た 山 を ,砂 箱 右 奥 隅 に ,移 動 さ せ た 。制 作 過 程 9 で , 茶 色 い サ メ ,タ コ ,金 魚 ,ひ ら め ,鯉 な ど
魚 を た く さ ん 海 に 置 い た 。制 作 過 程 12 で ,イ ン パ ラ を 焚 き 火 の 脇 に 置 き ,牛 と 豚 を 左 の 浜 に
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置 い た 。制 作 過 程 13 で ,牛 と 豚 の
エリアを柵で区切った。制作過程
16 で ,ペ ン ギ ン を 焚 き 火 の 脇 ,洞 窟
の 前 に 置 い た 。制 作 過 程 18 で ,メ
ノ ウ を 手 に 取 り ,山 と メ ノ ウ と を
見 比 べ た が ,メ ノ ウ を 置 か ず に ,制
作を終了した。
A 氏の主な主観的体験の語りを
記 す 。海 の エ リ ア や 家 畜 に つ い て ,
自発的説明過程で以下のように語
られた。海にこういろいろいる生
き 物 た ち は , (中 略 )サ ン ゴ の 手 前
は ,ペ ン ギ ン の 食 べ 物 で す 。(中 略 )
写 真 28
食 べ 物 と い う か 漁 を す る ,ペ ン ギ
A 氏第 6 回作品
ンが漁をするエリア<なるほど>というふうに思って作りました。<なるほど>うんで,
こ う い う サ メ や ら い ろ ん な ,ち ょ っ と お っ か な そ う な の も い る 海 で ,あ の ,餌 を ,と っ て る ん
だ な ー と い う こ と で す よ ね ( A 氏 自 発 ,6-9)。 島 の 方 ,う ー ん と こ の 山 の ふ も と に も ,こ う ,
家 畜 動 物 が い て ,こ れ も ペ ン ギ ン の 餌 ‘ 笑 ’( A 氏 自 発 ,6-12)。 自 己 像 で あ る ペ ン ギ ン は 海
で 漁 を し ,家 畜 動 物 を 飼 育 し て い た 。
ペ ン ギ ン や イ ン パ ラ に つ い て ,以 下 の よ う な 主 観 的 体 験 の 語 り が あ っ た 。調 査 的 説 明 過 程
で イ ン パ ラ は 思 い を そ の ま ま 聞 い て く れ る , 相 棒 っ て 言 う 感 じ か な (中 略 )願 い は み ん な か
な え て く れ ま す , (中 略 )こ の 子 に 乗 っ て 移 動 す る と 私 は と て も 楽 な ん で す , こ の ペ ン ギ ン
は , と て も 楽 。 < ふ ん ふ ん ふ ん > で (間 ), と て も 楽 , 危 な い と こ ろ へ も 一 緒 に 多 分 行 け る
と い う か ,危 な い な と 思 っ た ら ,こ の 子 は 何 か 多 分 い っ て く れ る だ ろ う し( A 氏 調 査 ,6-12)
と 語 っ た 。 ま た ,イ ン パ ラ に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 私 の た め に 何 か し て く れ る 人 な ん て
初 登 場 。 < 初 登 場 だ よ ね > は は は ‘ 笑 ’ い い 気 分 で す ね ( A 氏 調 査 ,6-12) ,と 語 っ た 。 こ
の 語 り は ,作 品 に 初 め て 自 分 の た め に 何 か を し て く れ る ,危 な い こ と を 教 え て く れ る 相 棒 の
よ う な ミ ニ チ ュ ア が 現 れ ,歓 び を 実 感 し た と 理 解 で き る 。
作 品 全 体 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で こ れ ま で は ,< う ん > そ う い う ,私 が ,何 か す る っ て
い う よ り も , こ う い う 世 界 に い る , っ て い う よ う な 感 じ を ,作 っ て た 気 が し ま す ね 。 ( 中 略 )
今 日 の は そ う い う 意 味 で は 私 が こ う す る っ て い う 世 界 ,で す ね( A 氏 調 査 ,6-13)と 語 っ た 。
こ れ ま で の 箱 庭 制 作 面 接 で は ,自 分 が こ う い う 世 界 に い る と い う 作 品 で あ っ た が ,今 回 は ,私
が こ う す る 世 界 だ と 語 っ て い る 。以 前 の 作 品 と の 比 較 に よ っ て ,作 品 内 の 自 己 の 存 在 様 式 と
そ の 変 化 に つ い て の 気 づ き が 述 べ ら れ て い る ,と 捉 え ら れ る 。
7)第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 29)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。A 氏 は ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 3 で , 左 側 に け わ
し い 崖 の あ る 半 島 を 作 っ た 。制 作 過 程 5 で , 砂 箱 中 央 奥 に 針 葉 樹 ,広 葉 樹 を 置 い た 。実 の な
- 187 -
る 木 を ,断 崖 の 下 の 陸 地 に 置 い た 。
制 作 過 程 6 で ,右 側 の 砂 浜 を き れ
い に 整 え ,突 き 出 し た 先 端 に 幼 子
を 抱 く ヨ セ フ 像 と 灯 台 (西 洋 風 の
塔 の つ い た 城 )を 置 き 比 べ ,灯 台 を
置いた。制作過程 8 で, 船を取り
去 り ,イ ル カ を 2 頭 ,海 に 置 い た 。制
作 過 程 11 で ,砂 箱 奥 の 森 林 に ,イ ン
パ ラ と 鹿 を 置 い た 。制 作 過 程 12 で ,
そこまでに出来上がった箱庭作品
を じ ー っ と 見 つ め た 。女 の 子 は 家
の 前 を 歩 い て い る 位 置 に ,男 の 子
は 森 に 向 か う 位 置 に 置 い た 。制 作
写 真 29
A 氏第 7 回作品
過 程 13 で , 女 の 子 を 取 り 去 り ,海
に 仮 置 き し た 。砂 箱 奥 に 花 を た く さ ん 埋 め た 。制 作 過 程 14 で ,豚 を 半 島 手 前 の 位 置 に 置 い た 。
女 の 子 を 元 の 位 置 に 戻 し た 。囲 い を 作 っ た 。制 作 過 程 15 と 17 で ,砂 箱 を じ っ と 見 つ め た 。
制 作 過 程 18 で ,貝 殻 を 左 手 前 の 海 の 中 に 丁 寧 に 置 い た 。制 作 過 程 19 で , 海 藻 ,亀 を 砂 箱 左 奥
に 置 き ,右 手 前 の 海 に ネ コ ザ メ を 置 い た 。制 作 過 程 20 で , 海 岸 線 手 前 の 崖 に 花 を た く さ ん 咲
かせた。
「 途 中 か ら 作 っ て い て ,や ん な っ ち ゃ っ て‘ 笑 ’」と 言 い ,制 作 を 終 了 し た 。調 査 的 説
明 過 程 で ,A 氏 は ,作 品 に 愛 着 が 湧 か な い と 語 っ た 。A 氏 の 残 念 な 思 い が 筆 者 に 伝 わ っ て き
た た め ,筆 者 は ,そ の 思 い を 共 感 的 に 理 解 す る と 共 に , 愛 着 が 湧 く 作 品 に 修 正 で き な い か と
思 い , A 氏 が 残 し た い ミ ニ チ ュ ア を 残 し ,他 は 片 付 け る 再 構 成 の 提 案 を し た 。 A 氏 は そ れ に
合 意 し た (写 真 30)。
A 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 記 す 。自 発 的 説 明 過 程 で ,A 氏 は 途 中 で 本 当 に 何 か
嫌 に な っ て し ま っ て ,こ れ 作 る
の が , 作 り 続 け る の が (A 氏 自
発 ,7-全 体 的 感 想 )と 語 っ た 。 こ
の理由について A 氏は大別して
以 下 の 4 要 因 を 挙 げ た 。 a.自 分
の内面との照合がうまくいかず,
想像を膨らませて箱庭の世界の
中で自由に生きることができな
か っ た ,b. 面 接 前 の 仕 事 で の 緊
張 と 疲 れ ,c.第 7 回 制 作 の た め ,
内面を深く掘り下げたものを作
り た い と い う 欲 求 ,d. 自 己 像 で
ある女性のミニチュアが気に入
ら な か っ た こ と( A 氏 調 査 ,7-12),
写 真 30
- 188 -
A 氏第 7 回再構成後の作品
である。
a に つ い て 以 下 の よ う な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 が あ っ た 。調 査 的 説 明 過 程 で ,こ の 島 と
半 島 と 灯 台 だ け で よ か っ た の か も し れ な い で す ね 。< ふ ん > そ れ と 他 の も の は も う 本 当 に ,
な ん て い う ん で し ょ う ね ( 間 34 秒 ) 表 層 的 な も の に 感 じ ら れ て ,他 の も の が 。 愛 着 が 湧 か
な い で す 。< あ ,ふ ー ん > あ ぁ ,で も そ れ を 言 う の が す ご く 悲 し い 。自 分 が 作 っ て お き な が
ら 愛 着 が 湧 か な い な ん て 。す ご く 悲 し い で す ね( A 氏 調 査 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て )と 語 っ た 。
内 省 報 告 に 自 分 の 作 り た い 形 ,表 現 し た い も の を つ か ま え て ,そ れ を そ の よ う に 表 現 す る の
が ,こ の 日 は と て も 難 し い 。 自 分 の 奥 の 方 で 感 じ て い る こ と を な か な か キ ャ ッ チ で き な い 。
自 分 の 感 じ て い る こ と と 表 現 さ れ た も の が ぴ っ た り し て い る の か ど う か と い う 照 合 が ,こ
の 日 は 難 し く ,い つ も よ り 時 間 が か か る 。ぴ っ た り し て い る か ど う か を ち ゃ ん と 照 合 で き て
い な い う ち に ,表 面 的 に 沸 き あ が っ て く る ア イ デ ア だ け で 動 い て い る よ う な 感 じ ( A 氏 内
省 ,7-6,制 作・意 味 )と 記 さ れ た 。ま た ,私 自 身 が こ の 箱 庭 の 世 界 の 中 で ,生 き 生 き と し て ら
れ な い 。 想 像 を ふ く ら ま せ て 自 由 に 生 き る こ と が (飛 び 回 る こ と が )出 来 な い 。 陸 地 の 形 状
が 出 来 た あ た り で ,こ ん な 世 界 を 作 ろ う と い う ア イ デ ア が 浮 か ん で き て ,そ れ に 従 っ て , 途
中で変更することもなく作り上げてしまった。あらかじめ出来上がったストーリーに玩具
を 当 て は め て 置 い て い っ た か の よ う で ,そ こ に は 私 の オ リ ジ ナ リ テ ィ が 感 じ ら れ な い 。自 分
自身の気持ちを常にスキャンしながら作ったのではないような感じ。自分で作っておきな
が ら 愛 着 が 湧 か な い 部 分 が あ る ( A 氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 意 味 ) と も 記 さ れ
た。
b について内省報告に以下のように記された。午後中かかった仕事のことを少しずつ振
り 切 る よ う な 感 じ( A 氏 内 省 ,7-1,制 作・ 意 図 )。肉 体 的 な 疲 労 。そ れ と ,緊 張 感 が 抜 け き っ
て い な い 感 じ 。 覚 醒 し た 意 識 が off に な っ て い な い の だ と 思 う ( A 氏 内 省 ,7-全 体 的 感 想 ,
調 査 ・ 意 味 )。 A 氏 は 今 回 の 箱 庭 制 作 面 接 の 前 に 仕 事 が あ っ た 。 そ の 仕 事 の た め ,肉 体 的 な
疲 労 が 残 っ て い た 。 ま た ,仕 事 で の 緊 張 感 が 抜 け 切 ら ず ,覚 醒 し た 意 識 が 続 い て い た 。 そ の
よ う な こ と を 少 し ず つ 振 り 切 ろ う と し た が ,う ま く い か な か っ た ,と 捉 え ら れ る 。
c に つ い て 内 省 報 告 に 心 の ど こ か で ,7 回 目 の 制 作 だ し 何 か 内 面 を 深 く 掘 り 下 げ た よ う な
も の が で き る の で は な い か ,作 り た い ,と い う 欲 求 が あ っ た の だ と 思 う( A 氏 内 省 ,7-複 数 過
程 に 関 連 ,自 発 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。
d に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で 具 象 的 と い う か ,具 体 的 な 人 物 像 が い か に も こ う あ ど け な
い 女 の 子 と い う か ,そ う い う の が ,あ の ,バ ン と 出 て し ま う の で ,そ れ が 気 に 入 ら な い と い う
の も あ る ん で す ね( A 氏 調 査 ,7-12)と 語 っ た 。自 己 像 と し て 置 か れ た 女 性 像 が あ ど け な い
女 の 子 で あ る こ と が 強 調 さ れ ,そ れ が 気 に 入 ら な い と 感 じ て い た ,と 捉 え ら れ る 。
し か し ,異 な る 主 観 的 体 験 の 記 述 も あ っ た 。 ビ デ オ を 見 直 し て い る 時 点 で は ,出 来 上 が っ
た 作 品 に つ い て 「つ ま ら な い 」と い う 印 象 は 薄 い ( A 氏 内 省 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ,自 発 ・ 意
味)と内省報告に初めて記された。
置 い て お い て も よ い ミ ニ チ ュ ア に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。あ え て
その,作った中で,あの,これはここの世界に置いといてもいいなと思うのは,ここの半
島と灯台と,この針葉樹とこの,あの,なんて言うのかね,二匹<二匹>二頭。ぐらいで
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す か ね 。 (中 略 )後 は ほ ん と に お 飾 り 。(中 略 ) (中 略 )そ れ か ら ,も う 少 し 言 う と し た ら ば ,
海の,
( 間 2 秒 )亀 と 貝 は ち ょ っ と 愛 着 が あ り ま す ね 。イ ル カ と ,な ん で し ょ う ,ネ コ ザ メ ? ,
ぐ ら い で す か ね ( A 氏 調 査 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て )。
野 生 動 物 や 森 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 私 っ て 何 か こ う 命 に 対 し て は す ご く ,あ の ,神
秘的なものとか神聖なものとか,そういうのをイメージもってるのかもしれないですね。
(中 略 )針 葉 樹 の こ の エ リ ア な ,は 神 聖 な 場 所 の よ う に 思 っ て も い て( A 氏 調 査 ,7-11)と 語
った。
8)第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 31)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。A 氏 は ,第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 7 で , 白 い 女 性 の
人 形 を 砂 箱 中 央 付 近 に ゆ っ く り と 置 い た 。そ の 人 形 の 下 の 砂 を 少 し 掘 っ て ,人 形 の 周 囲 に 砂
を 少 し だ け 盛 る よ う に し た 。 制 作 過 程 9 で ,ア ラ イ グ マ の 家 族 を 白 い 女 性 の 人 形 の 右 側 に ,
自 分 た ち の ペ ア を 白 い 女 性 の 人 形 の 左 側 に ,白 い 女 性 の 人 形 の 左 後 ろ に も う 一 ペ ア を 置 い
た 。 制 作 過 程 10 で , 白 い 女 性 の 人 形 の 周 囲 に ペ ン ギ ン (大 ・ 小 ),イ ン パ ラ ,羊 ,牛 ,豚 ,亀 な ど
置 い た 。 制 作 過 程 13 で , 白 い 女 性 の 人 形 の 正 面 ,砂 箱 手 前 中 央 に 赤 い 鳥 居 を 置 き ,箱 庭 制 作
を終了した。
A 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 記 す 。白 い 女 性 の 人 形 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で
以下のように語った。少し下に置く事で,この人形を守るような,大事に(間4秒)保護
す る よ う な , そ う い う 感 覚 が あ っ た ん だ ろ う な ( A 氏 調 査 ,8-7)。 ま た ,す ご く 不 思 議 な ん
で す け ど ,こ れ 作 っ て い る 最 中 ,こ の 辺 の 動 物 を ,な じ み の 動 物 を 置 く 時 に ,な ん か こ れ が 母
で は な く な っ て 私 に な っ て い く な っ て 言 う よ う な 感 覚 が 少 し あ っ て , < あ ,な る ほ ど > う
ん ,あ れ あ れ あ れ と 思 い な が ら < そ の あ れ あ れ あ れ っ て い う の は > あ の ,私 に も 母 に も 共 通
す る 何 か が あ る な っ て 言 う ,あ の ,女 性 と い う ,う ん ,
( 間 3 秒 )女 性 っ て い う 命 が 持 っ て
いる何か,意味のようなもの
を感じるというかね(A 氏調
査 ,8-10)。そ し て ,内 省 報 告 に
は ,義 母 の 周 囲 に こ れ ま で に
使った動物達を置くことで,
白い人形は自分でもあるのだ
ろ う か と い う 気 分 に な っ た( A
氏 内 省 ,8-10,調 査 ・ 意 味 ) と
記 さ れ た 。白 い 女 性 の 人 形 は ,
義 母 で も あ り ,自 分 で も あ る
という多義的なミニチュアで
あることが示された。また,
中央の白い人形が自分であっ
たら少しうれしいような気も
写 真 31
する。それは周囲にいろんな
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A 氏第 8 回作品
守 り が あ る と 言 う こ と ,そ れ と 自 分 の 中 の 何 か が ,こ ん な に も 大 き く て ど っ し り と し て い る
と い う こ と だ か ら ( A 氏 内 省 ,8-10,調 査 ・ 意 味 ) と も 記 さ れ た 。 以 前 使 っ た な じ み の 動 物
を 置 く こ と (連 続 性 )に よ っ て ,義 母 と し て 置 い た ミ ニ チ ュ ア が 自 分 に 変 化 し た 。 こ れ は イ メ
ー ジ の 自 律 性 や 集 約 性 に 関 す る 体 験 と 考 え ら れ る 。 そ し て ,そ の 体 験 に よ っ て ,自 分 と 母 に
共 通 す る 女 性 と い う 命 が も っ て い る 意 味 ,周 囲 の 守 り ,自 分 の 何 か が 大 き く て ど っ し り し て
い る と い う 感 覚 を 感 じ る こ と が で き た ,と 捉 え ら れ る 。
鳥 居 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で A 氏 は こ れ が あ る と ,( A 氏 調 査 ,8-13) こ こ に 置 い た
人 形 た ち に , 命 が 入 る 感 じ が す る ん で す ね ( A 氏 調 査 ,8-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。
第 8 回 ふ り か え り 面 接 で , 第 8 回 の 箱 庭 制 作 に つ い て [自 分 自 身 を ね 。 あ け 放 す と い う
か 。(中 略 )あ け 放 す 。手 放 す 。そ ん な 感 じ で 作 っ て い た よ う な 気 が し ま す 。(中 略 )鉤 括 弧 の
つ い た 私 っ て い う の は ひ と ま ず お 預 け っ て い う よ う な 感 じ で 作 っ て い る の か な ー ー ]と A
氏は初めて語った。
9)第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 32)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。 A 氏 は ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 3 で , 5 個 の 洋 館
を 棚 か ら も 持 っ て き て ,洋 館 を 手 に と っ た ま ま 砂 を じ っ と 眺 め た 。数 個 の 洋 館 を 何 度 も 見 比
べ た 。制 作 過 程 4 で , 砂 箱 中 央 よ り や や 奥 の あ た り に ,砂 箱 左 側 か ら 右 側 へ 川 を 作 り ,橋 を 二
本 か け た 。制 作 過 程 5 で , 洋 館 を 川 向 こ う の 土 地 に 1 軒 ,川 の 手 前 の 砂 地 に 3 軒 置 い た 。陶
器 の 家 を 数 軒 置 き ,手 前 の 砂 地 が 円 形 の ロ ー タ リ ー の よ う な 広 場 に な る よ う に し た 。制 作 過
程 6 で , 砂 箱 右 手 前 隅 に 男 女 の ペ ア ,左 奥 の 川 向 こ う に 女 性 ,左 手 前 隅 に 男 性 ,右 に 男 性 の
人形を置いた。星の王子様を左の洋館の近くに置いた。砂箱右奥隅と左奥隅に針葉樹を置
い た 。 そ の 後 ,自 動 車 ,自 転 車 ,ベ ン チ ,ネ コ な ど を 広 場 に 置 い て い っ た 。 川 に は 桟 橋 付 き の
船 や 水 鳥 の 親 子 を 置 い た 。砂 箱 右 奥 ,左 奥 ,川 向 こ う を 何 度 も 交 互 に 確 認 し ,箱 庭 制 作 を 終 了
した。
A 氏の主な主観的体験の語りや
記述を記す。A 氏は調査的説明過
程 で ,今 回 の 箱 庭 は ,明 け 渡 し て 作
ったと言ってた時があったですよ
ね (第 8 回 作 品 ), あ の , あ の , 雰
囲 気 を ち ょ っ と 思 い 出 し て ,あ の ,
あんまり考えずに作ろう(A 氏調
査 ,9-5) と 思 っ て い た ,と 語 っ た 。
広 場 や 街 に つ い て ,A 氏 は ,調 査
的説明過程で以下のように語った。
碁盤の目のようなそういう町には
すごく置きづら,いんですよね,
な ん か 。す ご く た ,建 物 に し て も ,
写 真 32
こう,こちら側が正面だとこちら
- 191 -
A 氏第 9 回作品
側 が 後 ろ と か , (中 略 )前 と 後 ろ が 出 て , な ん か 置 き に く い な と 思 っ た ん で す よ ね 。 う ん ,
そ い で 丸 く し た ん で す よ ね 。(中 略 )で も ,今 ,今 思 う と ,何 か こ う ,私 っ て 丸 い ,モ チ ー フ
のようなものを作るのが多いなと思うんですけどね。丸だとどうしてもここで閉じてしま
って他に広がっていかないっていうか,なんかお互いにこう,見合って,三すくみじゃな
いですけど,
‘ 笑 ’見 合 う ば っ か で 他 に 広 が っ て い か な い な な ん て い う こ と を ,今 ,今 思 い
ま し た ね (中 略 )だ か ら , こ う , 碁 盤 の 目 の , 何 か 1 ブ ロ ッ ク , 1 ブ ロ ッ ク っ て 作 る と , 表
と裏が出来てしまって,それが何か私には扱いきれない感じが,あるん,です(A 氏調
査 ,9-5)。
気 持 ち よ さ や 実 際 に 動 い て み た い 感 じ に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で ド ア を 開 け た ら す ぐ
私はなんか映画館に行っちゃいそうなね,そんな感じがあって,作ってる最中に(A氏調
査 ,9-全 体 的 感 想 )と 語 っ た 。内 省 報 告 に は ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 実 施 前 に ,A 氏 は ,最 近 ,
実 際 に 動 い て み た い ,感 じ て み た い 。 そ の 経 験 か ら 自 分 が 豊 か に な れ る よ う な そ ん な 希 望
(期 待 )が あ る ( A 氏 内 省 ,9-3,調 査 ・ 意 味 ) と 思 っ て い た こ と が 記 さ れ た 。 ま た ,ド ア を 開
け た ら そ の ま ま ,自 分 の 欲 求 の ま ま に 現 実 世 界 で 自 由 に 行 動 を 始 め そ う 。足 が 軽 く な っ て い
る と い う か ,体 が 前 に 出 て い る と い う か ,頭 で あ れ こ れ 考 え な い で ,ま ず 体 が 行 動 し て い る ,
そ ん な 感 じ ( A 氏 内 省 ,9-全 体 的 感 想 ,調 査 ・ 意 味 ) と 外 に 向 か っ て 動 こ う と す る 身 体 感 覚
を感じたことが記された。
教 会 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。こ れ‘ 右 端 の 建 物 を 指 差 し な が ら ’
が 教 会 と い う 事 に し て ,あ え て 置 か な く て い い や 今 日 は ,と 思 っ て 終 わ り ま し た ね 。(中 略 )
あ,そうだ,教会の建物にしてしまって,この中にそういう神社の鳥居だとか,あのマリ
ア像だとか,キリスト像に当たるものがこの中にあるんだということで私は,納得して,
あ の ,こ れ ま で の マ リ ア 様 や 神 社 と は 違 う 性 格 の 教 会 で す ね ,こ れ は < そ う だ ね > も っ と ,
も っ と ち ゃ ん と 現 実 の 世 界 に 降 り て き て る も の (中 略 ) ち ょ っ と う れ し い で す ね ,何 か 。<
ふーん,うれしい>うん。なんか私の内側にそういうものが根付いたようなそんな感じが
し ま す ( A 氏 調 査 ,9-6)。 ま た ,内 省 報 告 に 表 に 出 な く て い い ,表 に 出 さ な く て い い ,そ ん な
感 じ 。 大 事 な も の だ か ら ,自 分 の 中 に あ っ て ,そ れ を 自 分 が わ か っ て い た ら い い ん だ ( A 氏
内 省 ,9-6,調 査・意 味 )と 記 さ れ た 。A 氏 の 宗 教 性 に 関 す る イ メ ー ジ や 考 え が こ の よ う な 構
成 に 反 映 さ れ た ,と 捉 え ら れ る 。
10)第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 33)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。A 氏 は ,第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で 初 め て ,砂 箱 左 側 か ら 砂 箱 を 縦
位 置 に 使 っ て ,作 品 を 構 成 し た 。A 氏 は ,第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 4 で , 砂 箱 を
縦 に 使 う 位 置 に 立 ち ,陸 地 を 左 右 に 分 け る よ う に 中 央 の 砂 を か き 分 け ,水 路 を 作 っ た 。 制 作
過 程 8 で , 女 の 子 を 縦 位 置 で 右 側 の 岸 辺 に 置 い た 。制 作 過 程 10 で , 犬・イ ン パ ラ を 女 の 子
の 人 形 の 周 囲 に 置 き 比 べ て ,イ ン パ ラ を 置 い た 。 制 作 過 程 13 で , 左 手 奥 に 置 い て い た 青 い
鳥 を ,縦 位 置 で 右 手 前 の 女 の 子 の 人 形 の 後 ろ に 置 い た 。柵 に も た れ る お じ さ ん の 人 形 を 様 々
な 位 置 に 置 き 比 べ た が ,制 作 過 程 14 で , 柵 に も た れ る お じ さ ん の 人 形 を 棚 に 戻 し た 。 制 作
過 程 16 で , 男 女 の 人 形 を 左 側 に 置 き ,じ っ と 眺 め た 。制 作 過 程 17 で , 柵 に も た れ る お じ さ
- 192 -
ん の 人 形 を ,も う 一 度 持 っ て き
て ,置 い て み る が ,棚 に 戻 し ,箱 庭
制作を終了した。
A 氏の主な主観的体験の語り
や記述を記す。今回の作品につ
いて調査的説明過程で私の中の
奥まったところのを作った(A
氏 調 査 ,10-全 体 的 感 想 ) と 語 っ
た。
川によって分かれた直線的な
構 成 に つ い て ,以 下 の よ う な 主
観的体験の語りがあった。A 氏
は ,第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,第 9
写 真 33
回 箱 庭 制 作 面 接 で の 気 づ き ,第 9
A 氏 第 10 回 作 品
回 と 第 10 回 の 間 の 現 実 生 活 で の 試 み ,第 10 回 の 構 成 の 変 化 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 次
の よ う に 語 っ た 。 箱 庭 の 中 で 私 は ず っ と そ の ,丸 い モ チ ー フ を 作 る な と ,ち ょ っ と そ れ が ,
お 互 い に ,こ う す く み あ っ て る み た い で 嫌 だ な っ て い う の が あ っ た ん で す け ど ,( A 氏 調
査 ,10-前 回 に つ い て )そ れ が 1 週 間 頭 の 中 に あ っ て 。な ん か ,違 う 位 置 か ら 見 た い っ て い う
気 持 ち を ,す ご く 1 週 間 意 識 し て た ん で す ,実 は 。 (中 略 )(カ ー ナ ビ は )北 を 上 に 設 定 も 出 来
ま す よ ね 。そ れ に 変 え た ん で す ,最 近 。(中 略 )カ ー ナ ビ 見 る 度 に ,す ご い お も し ろ い ,私 今 こ
ん な 方 角 に 進 ん で た ん だ と か 。そ う い う の が す ご く そ の 新 鮮 と い う か 小 気 味 い い と い う か ,
何 か ,私 の 心 の 中 の 世 界 と そ う い う こ と っ て シ ン ク ロ し て る よ う な 気 持 ち が ち ょ っ と あ っ
て( A 氏 調 査 ,10-前 回 と 今 回 と の 間 の こ と )(中 略 )(前 回 は )碁 盤 の 目 の よ う に 置 け な い ,っ
て 言 っ て た 私 が い る ん で す け ど ,そ れ は も う 怖 く な く な っ て る 。碁 盤 の 目 の よ う に で き そ う
だ な ,っ て ゆ う の を 感 じ な が ら ,こ う い う 配 置 に は し て ま し た ね < は ぁ > ( A 氏 調 査 ,10- 全
体 的 感 想 )わ り と こ う ,パ キ ー ン っ て‘ 手 を 左 か ら 右 に 川 を な ぞ る よ う に 直 線 的 に 動 か し な
が ら ’て 分 か れ て ま す よ ね 。< そ う だ ね > こ う ,行 に な っ て る か ら 。で も そ れ が 小 気 味 い い
し( A 氏 調 査 ,10-4)。A 氏 は ,第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 気 づ き を 踏 ま え ,現 実 で 自 分 の 進 行 方
向 を 指 し 示 す 方 法 を 変 え ,そ れ が 自 分 の 心 の 世 界 と シ ン ク ロ す る よ う な 感 覚 を も っ た 。そ の
変 化 も あ り ,第 10 回 で 今 ま で と 違 う 位 置 (砂 箱 の 左 側 )か ら ,違 う 構 成 を 試 み る こ と が で き た 。
こ の 構 成 に も A 氏 は 小 気 味 よ さ を 感 じ た 。こ の よ う に ,違 う 立 ち 位 置 か ら の 構 成 は ,A 氏 の
心 の 世 界 と も 箱 庭 制 作 面 接 外 の 行 動 と も シ ン ク ロ し た も の で あ っ た ,と 推 測 で き る 。
自己像である女性がインパラと青い鳥とともに歩いている構成について, A 氏は調査的
説 明 過 程 で 海 の 方 向 な ん で す け ど ね ,こ っ ち に 歩 い て 行 っ て る ,と こ ろ で す 。
( 中 略 )ま だ ま
だ 海 ま で 遠 い ( A 氏 調 査 ,10-8)( 中 略 ) ず っ と 歩 い て 行 く の ね っ て い う ( A 氏 ,10-全 体 的
感 想 ,調 査 ) と 語 っ た 。 青 い 鳥 に つ い て ,遠 く に あ る ん じ ゃ な く て も う こ こ に あ る っ て い う
( A 氏 調 査 ,10-13) と A 氏 は 語 り ,自 分 の 頭 の 上 ,自 分 の 近 く を 飛 ん で い る 思 っ た こ と が 示
さ れ た 。 面 接 終 了 後 も ,制 作 者 が ,同 伴 者 と と も に ,自 ら の 心 の 世 界 を 歩 ん で い く 実 感 を つ か
- 193 -
ん だ 最 終 回 で あ っ た ,と 捉 え ら れ る 。
砂 箱 奥 の 男 女 の 人 形 や 柵 に も た れ る お じ さ ん の 人 形 に つ い て ,以 下 の よ う な 主 観 的 体 験
の語りや記述があった。砂箱奥の男女の人形について, A 氏は調査的説明過程で心の奥ま
った世界の中にも,まぁ,人がいてくれたほうが,あの,まったくないよりは,さみしく
な い と い う か ね ( A 氏 調 査 ,10-16) と 語 っ た 。 内 省 報 告 に 自 分 ひ と り で は 生 き ら れ な い と
い う あ た り ま え の こ と を 自 覚 し な が ら も ,私 の 心 の 中 に 他 人 が 入 っ て く る こ と を こ れ ま で
は 許 し て い な か っ た し ,そ れ で い い と 思 っ て い た よ う な 気 が す る 。多 少 の 違 和 感 が あ る け れ
ど も ,そ れ で も そ の 違 和 感 を 抱 え な が ら ,そ の 人 た ち と 生 き て い こ う と ,今 の 私 は 思 う よ う
に な っ た の か 。 (中 略 )一 緒 に 生 き て も 楽 し い だ け じ ゃ な く て い や な こ と も あ り そ う だ け れ
ど ,一 緒 に 生 き て み よ う と 思 っ て い る よ う だ ( A 氏 内 省 ,10-16,制 作 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。
ま た ,柵 に も た れ る お じ さ ん の 人 形 に つ い て ,A 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で い ろ ん な 方 向 か ら そ
の 相 手 が 見 え る と い う か (中 略 )今 は 。こ の 人 が い て ,そ ,そ の 人 を 正 面 か ら も 見 る し ,後 ろ か
ら も 見 る し ,横 か ら も 上 か ら も 見 る ,そ ん な こ と を ,し 始 め て い る な と 思 っ て る ん で す 。< な
る ほ ど ね > そ れ は と っ て も そ の ,私 の 中 で は お っ き な 変 化 だ と 思 っ て ま す ね ( A 氏 調
査 ,10-17) と 語 っ た 。 様 々 な 視 点 か ら 他 者 を 見 て ,他 者 の 多 様 性 を 知 っ た 上 で ,他 者 が 自 分
の 心 の 中 に 入 っ て く る こ と を 許 し ,違 和 感 を 抱 え つ つ 共 に 生 き よ う と す る 関 係 性 の 変 化 が
生 ま れ た ,と 理 解 で き る 。
Ⅺ -2.A 氏 の 主 観 的 体 験 の 変 容 と 面 接 の 展 開 に 関 す る 考 察
A 氏 の 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 か ら 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 に 亘 っ て ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験
の 変 容 や 面 接 の 展 開 , そ の 個 人 的 意 味 を ,1) 主 な テ ー マ と 自 己 像 の 変 遷 ,2 )宗 教 性 (命 , 守 り ,
神 聖 な 場 所・生 き 物 ),3)女 性 性 ,母 性 ,4)自 己 の 多 様 性 と 能 動 性 の 獲 得 ,他 者 と の 関 係 性 の 変
容 , 5)受 動 性 と 能 動 性 , 面 接 内 外 で の 深 い 関 与 ,の 観 点 か ら 考 察 す る 。
1)主 な テ ー マ と 自 己 像 の 変 遷
第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 導 き 手 を 伴 っ た 船 出 ,と 捉 え ら れ る 。亀 (見 守 り 手 (=
筆 者 )あ る い は 自 分 の 中 の あ る 部 分 )は ,砂 箱 枠 外 に イ メ ー ジ さ れ た 嫌 な も の と の 間 に 入 り ,
イ ル カ (自 己 像 )を 守 っ て く れ る ,知 恵 の あ る 存 在 で あ る 。イ ル カ は 亀 に 今 は つ い て 行 こ う と
思 い ,亀 と 共 に 広 い 海 原 に 旅 立 と う と し た 。 こ の 旅 は こ れ か ら 展 開 す る 箱 庭 制 作 面 接 で の ,
箱庭制作者の心の旅と考えられる。
第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 命 で あ る と 捉 え ら れ る 。第 2 回 に は 様 々 な 様 相 の 命
が構成された。
第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 一 人 で の 旅 立 ち と 捉 え ら れ る 。第 1 回 箱 庭 制 作 面 接
で は 導 き 手 (亀 )が 必 要 で あ っ た が ,今 回 は 亀 が 自 己 像 と な り ,一 人 で 外 海 へ 泳 ぎ だ そ う と し
た 。こ の 自 己 像 の 変 化 は ,箱 庭 制 作 者 が 導 き 手 の 知 恵 や 守 り の 力 を 自 己 に 取 入 れ る こ と が で
き た た め と 考 え る こ と も で き よ う 。そ し て ,お 互 い の 動 き を 規 制 し て い る 輪 か ら は ず れ て 独
自の道を歩み始めた。
第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 新 た な 自 己 の 誕 生 へ の 道 程 と 捉 え ら れ る 。渦 の 入 り
口 の 亀 を 見 て ,筆 者 は 外 海 を 旅 し た 亀 が こ こ に た ど り 着 い た よ う に 感 じ た 。そ の 理 解 は ふ り
- 194 -
か え り 面 接 で 箱 庭 制 作 者 に 支 持 さ れ た 。A 氏 は 渦 を す べ て の 始 ま り と 終 わ り ,世 界 の あ ら ゆ
るものを盛り込んだ根源的なものと捉えていた。その渦の中心は亀が新たな自己として生
ま れ る 場 所 で あ り ,制 作 者 の 心 の 内 奥 で あ る と 考 え ら れ る 。本 作 品 は 展 覧 会 で 見 た マ ン ダ ラ
に 触 発 さ れ 作 ら れ た が ,制 作 者 に は 作 品 の 意 味 が 捉 え 難 い も の で あ っ た こ と か ら も ,本 作 品
は意図を超えた要因の強い作品だと考えられる。
第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 私 の 島 へ の 上 陸 と 捉 え ら れ る 。こ の 島 は 他 人 が 登 れ
な い 私 の 島 で あ る 。 大 き な 亀 は 陸 の 亀 に 任 せ ,待 っ て い る 。 第 4 回 で 新 た な 自 己 の 誕 生 を
体 験 し た 亀 が ,他 者 と の 明 確 な 境 界 を も つ 自 分 の 世 界 を 得 た と 考 え る こ と が で き よ う 。次 回
以 降 ,自 己 像 が 変 化 す る こ と を 考 え る と ,自 己 像 で あ る 亀 の 旅 の ゴ ー ル と 捉 え る こ と が で き
る 。戦 い の イ メ ー ジ が あ る ,空 い て い る ス ペ ー ス 全 体 が 自 分 に 問 い 掛 け ,突 き 詰 め て ,試 そ
う と し て い る ,と A 氏 は 感 じ た 。こ の 厳 し さ の 一 因 は 日 常 と 関 連 し て お り ,第 4 回 の 内 奥 の
世 界 に 比 べ る と ,少 し 日 常 に 近 づ い た 世 界 だ と 筆 者 に は 感 じ ら れ た 。厳 し さ を 和 ら げ る た め
に ,希 望 と し て の 青 い 鳥 や 暖 か い 場 所 や 食 べ 物 を 置 い た 。
第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 私 が こ う す る 世 界 で あ る と 捉 え ら れ る 。こ れ ま で は
こ う い う 世 界 に い る と い う 作 品 だ っ た が ,本 作 品 は 私 が こ う す る 世 界 だ と ,箱 庭 制 作 者 は 変
化について語った。自己像が亀からペンギンに変化した。ペンギンは相棒のインパラと島
を 開 発 し ,ち ょ っ と お っ か な そ う な サ メ が い る 海 で 漁 を す る 。私 が 食 べ る も の た ち を 意 識 し
て い た と あ る よ う に ,生 き る 上 で 必 要 な 攻 撃 性 を ペ ン ギ ン が 獲 得 し た と み る こ と が で き る 。
こ の 攻 撃 性 は ,第 2 回 の ラ イ オ ン (「自 分 が 生 き て い く た め に は ,時 に は 相 手 を 喰 ら う こ と も
必 要 」)か ら の 発 展 と 考 え ら れ る が ,今 回 ,そ の 攻 撃 性 が 自 己 像 の 特 性 と な っ た こ と が 第 2 回
からの変化であると考えられる。
イ ン パ ラ は 導 き 手 の 亀 (第 1 回 ),待 っ て い る 亀 (第 3 回 ,第 5 回 )と ,共 通 点 と 相 違 点 を も つ
存 在 だ と ,筆 者 は 感 じ た 。 自 己 像 と な る 存 在 を 信 頼 す る と と も に ,危 険 を 教 え て く れ る 知 恵
を も つ 点 が 共 通 性 で あ り ,ペ ン ギ ン を 乗 せ て 同 伴 し ,ペ ン ギ ン の 指 揮 を 受 け る 相 棒 で あ る こ
と が 違 い と 感 じ た 。自 己 像 が 主 体 性 を 保 持 し つ つ ,他 者 と の 協 働 性 を 獲 得 し た と 考 え る こ と
が で き る 。 ま た ,家 畜 動 物 は 柵 で 囲 ま れ ,筆 者 は 第 5 回 よ り さ ら に 人 間 の 世 界 に 近 づ い た と
感じた。
第 7 回箱庭制作面接の主なテーマは表層的で愛着が湧かないという感覚であると捉えら
れ る 。 A 氏 は こ の 感 覚 の 原 因 に ,4 要 因 を 挙 げ た 。 a.自 分 の 内 面 と の 照 合 が う ま く い か ず ,
想 像 を 膨 ら ま せ て 箱 庭 の 世 界 の 中 で 自 由 に 生 き る こ と が で き な か っ た ,b. 面 接 前 の 仕 事 で
の 緊 張 と 疲 れ ,c.第 7 回 制 作 の た め , 内 面 を 深 く 掘 り 下 げ た も の を 作 り た い と い う 欲 求 ,d.
自 己 像 で あ る 女 性 の ミ ニ チ ュ ア が 気 に 入 ら な か っ た こ と ,で あ る 。
別の捉え方も可能であろう。今回は面接の過渡期だったのではないか。第 6 回箱庭制作
面接は柵に囲まれた家畜がいる人間世界に近い世界だった。今回初めて自己像に人のミニ
チ ュ ア が 選 ば れ ,初 め て 人 の 世 界 を 作 ろ う と し た が , 表 層 的 で 愛 着 が 湧 か な い 作 品 と な っ
た 。制 作 者 の 残 念 な 思 い が 筆 者 に 伝 わ っ て き た た め ,愛 着 が 湧 く 作 品 に 修 正 で き な い か と ,
再構成を提案した。制作者はその発言が終わるのを待たずに,ぴったりこないミニチュア
を 片 付 け 始 め た 。調 査 的 説 明 過 程 の 再 構 成 後 ,残 っ た ミ ニ チ ュ ア は ほ と ん ど が 今 ま で に 使 わ
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れ た も の で あ る 。そ し て ,今 ま で の 回 の よ う に 人 が 登 場 し な い 世 界 と な っ た (写 真 8)。ま た ,
ビ デ オ 視 聴 時 に は 「作 品 に つ い て 『 つ ま ら な い 』 と い う 印 象 は 薄 い 」と の 内 省 報 告 か ら も 表
層 的 で 愛 着 が 湧 か な い と い う 感 覚 は ,変 化 し う る こ と が わ か る 。 こ の 2 作 品 は , 多 面 鏡 で
見る自己像のように,制作者の意識の基盤と今後の展開を表現したものと見ることもでき
よう。今回は人の世界をも取り込んだテーマに変化するための過渡期であったと考えられ
る。
第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で は 人 の ミ ニ チ ュ ア が 置 か れ ,人 の 世 界 が 作 ら れ た 。 箱 庭 制 作 者 は
現 実 世 界 で の 生 き 様 と 内 的 な 世 界 を 統 合 し た 人 の 世 界 を ,こ の 作 品 で 初 め て 制 作 で き た と
捉 え る こ と が で き る 。こ の 作 品 を 作 る こ と で ,制 作 者 は 女 性 と い う 命 に 関 す る 深 い 気 づ き を
得た。
第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 現 実 的 な 世 界 で あ る と 捉 え ら れ る 。 作 品 は ,星 の 王
子 様 (自 己 像 )が 映 画 を 見 よ う と 町 に 出 て き た 時 の 風 景 で あ る 。 こ の 作 品 は 自 分 を 明 け 渡 し
か の よ う な 感 覚 で 考 え ず に 作 っ た も の で あ っ た が ,こ の 回 が 始 ま る 前 か ら 感 じ て い た 思 い
(想 像 す る だ け で な く ,街 に 出 て ,実 際 に 動 い て ,感 じ て み た い 。 そ の 経 験 か ら 豊 か に な れ る
よ う な 希 望 が あ る )が 表 現 さ れ た も の と な っ た 。 制 作 中 ,ド ア を 開 け た ら す ぐ に 映 画 館 に 行
っ て し ま い そ う な 気 持 ち よ さ を 箱 庭 制 作 者 は 感 じ た 。こ の 外 に 向 か う 身 体 感 覚 は ,第 10 回
で 語 ら れ る ,第 9 回 と 第 10 回 と の 間 で の 現 実 世 界 で の 試 み を 生 む 一 因 と 考 え ら れ る 。
第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 私 の 中 の 奥 ま っ た と こ ろ で あ る と 捉 え ら れ る 。 今
回 は 第 9 回 (現 実 的 な 世 界 )よ り も ,自 分 の 中 の 奥 ま っ た と こ ろ を 作 っ た ,と A 氏 は 語 っ た 。
第 10 回 に は ,第 9 回 で の 気 づ き ,第 9 回 と 第 10 回 の 間 の 現 実 世 界 で の 試 み ,第 10 回 で の
構 成 の 変 化 に つ い て ,以 下 の よ う な 主 観 的 体 験 が あ っ た 。 箱 庭 制 作 者 は 第 9 回 で の 気 づ き
を 踏 ま え , 現 実 世 界 で ,カ ー ナ ビ の 自 分 の 進 行 方 向 を 指 し 示 す 方 法 を 変 え ,そ れ が 自 分 の 心
の 世 界 と シ ン ク ロ し て い る 感 覚 を も っ た 。 そ の 変 化 も あ り , 第 10 回 で 今 ま で と 違 う 砂 箱
左 側 の 位 置 か ら , 川 で パ キ ー ン と 分 か れ た 違 う 構 成 を 試 み る こ と が で き た 。制 作 者 は ,箱 庭
制 作 面 接 内 だ け で な く ,外 界 で も 主 体 的 に 自 己 の 課 題 に 取 組 み , 気 づ き を 得 て ,心 や 生 き 方
の変容が生まれている。この箱庭制作面接内外での真摯な取り組みや深い関与は制作者の
心の変容に大きな影響を与えたと考えられる。
自己像である女性はインパラと青い鳥と共に歩いている。インパラが先に歩くことで A
氏 は 安 心 で き た 。 青 い 鳥 は 遠 く に あ る の で は な く て ,も う こ こ に あ る と A 氏 は 感 じ た 。 そ
の 同 伴 者 と と も に ,私 は ず っ と 歩 い て 行 く の ね っ て い う と A 氏 は 感 じ た 。面 接 終 了 後 も ,制
作 者 が ,同 伴 者 と と も に ,自 ら の 心 の 世 界 を 歩 ん で い く 実 感 を つ か ん だ 最 終 回 で あ っ た と 捉
えられる。
他 者 と の 関 係 性 で も 制 作 者 は 変 化 を 感 じ て い る 。以 前 と 違 い ,い ろ ん な 方 向 か ら 相 手 が 見
え る ,相 手 を 見 る と い う 見 方 が で き る よ う に な り ,そ れ を 大 き な 変 化 だ と 感 じ た 。ま た ,今 ま
で は ,自 分 一 人 で 生 き ら れ な い こ と を 自 覚 し な が ら も ,心 の 中 に 他 人 が 入 っ て く る こ と を 許
し て い な か っ た 。 し か し ,今 は 違 和 感 を 抱 え な が ら も ,他 人 と 一 緒 に 生 き て い こ う と 思 う よ
う に な っ た 。 他 者 の 多 様 性 を 知 っ た 上 で ,他 者 が 自 分 の 心 の 中 に 入 っ て く る こ と を 許 し ,共
に 生 き よ う と す る 関 係 性 の 変 化 が み ら れ る *2 。
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2)宗 教 性 (命 ,守 り ,神 聖 な 場 所 ・ 生 き 物 )
第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の マ リ ア 様 は 守 り で あ り ,そ の 場 所 に 命 を 吹 き 込 み ,命 を 見 守 る も の
と 箱 庭 制 作 者 は 感 じ た 。そ し て , 私 の 中 に は 意 外 に 宗 教 性 が 根 付 い て い る の か も し れ な い
との気づきを得た。
第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 命 で あ る と 捉 え ら れ る 。第 2 回 に は 様 々 な 様 相 の 命
が 構 成 さ れ る 。命 が 感 じ ら れ な い 大 地 が お そ ろ し い ,と A 氏 は 感 じ る 。A 氏 は こ の 土 地 に 命
を必要としていると考えられる。青い鳥は命を感じられない苦しさを消し去る,意図しな
い と こ ろ か ら や っ て き た 存 在 で あ る 。 青 い 鳥 に よ っ て ,箱 庭 と 制 作 者 の 心 の 調 子 が 変 化 し ,
も う 少 し 命 を 感 じ た い と 思 っ た 制 作 者 は ,鴨 を 見 つ け 置 く こ と が で き た 。
異 質 な 命 も 登 場 す る 。石 は 生 命 感 が 薄 く ,は っ き り と し た 形 を ま だ 持 た な い ,抽 象 的 な も
の で あ る 。 土 偶 と 埴 輪 は ,半 分 人 間 で は な い 命 に な っ て い る , 神 様 に 近 い 存 在 で あ る 。 信 仰
対 象 の お 山 の ふ も と に い る 山 の 番 人 で も あ る 。 第 2 回 に は ,ま だ 形 を も た な い 抽 象 的 な 命 ,
生 命 感 を 感 じ さ せ る 命 ,半 分 命 で は な い 神 様 に 近 い 命 と い う よ う に ,命 の 多 様 な 様 相 が 表 現
されている。
第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 は 第 1 回 ,第 3 回 の 旅 の 一 つ の 到 着 点 で あ り ,第 2 回 で 示 さ れ た 命 と
いうテーマの展開でもあると捉えられよう。旅をしてきた亀という命が新たな自分として
生まれ変わろうとしていると理解することができる。
第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 鳥 居 が あ る 場 所 は 神 聖 な 場 所 で ,神 聖 な 鹿 が 住 む 。鳥 居 は 守 り で あ
り ,鳥 居 を 置 く こ と に よ り ,島 に 命 が 芽 生 え た よ う な 安 心 感 が 湧 く 。 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 に
も神聖な場所が作られた。制作者は命に対して神秘的で神聖なイメージをもっていること
に 気 づ い た 。 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,鳥 居 を 置 い た こ と で ,義 母 や 周 り を 取 り 囲 む 親 族 ,自
分等の人形に命が入る感覚をもった。
第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 に 変 化 が み ら れ た 。A 氏 は ,今 ま で マ リ ア 様 や 十 字 架 の よ う な も の が
な い 箱 庭 を 作 っ た こ と が な い よ う な 気 が し て ,ど う し よ う か と 思 っ た 。 だ が ,右 端 の 建 物 を
教 会 の 建 物 と 考 え て ,そ の 中 に 宗 教 的 な も の が あ る と 納 得 し た 。こ の 教 会 は 今 ま で と 性 格 が
異 な り ,現 実 の 世 界 に ち ゃ ん と 降 り て き て い る も の で あ る ,と の 主 観 的 体 験 が 語 ら れ た 。 こ
の よ う に ,宗 教 的 な ミ ニ チ ュ ア の 表 現 と 意 味 の 変 化 が 生 ま れ た 。こ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る
内 省 報 告 に ,表 に 出 な く て い い ,表 に 出 さ な く て い い ,そ ん な 感 じ 。 大 事 な も の だ か ら , 自 分
の 中 に あ っ て ,そ れ を 自 分 が わ か っ て い た ら い い ん だ と あ り ,変 化 の 内 的 意 味 が 自 覚 さ れ て
い る 。 ち ょ っ と う れ し い で す ね , (中 略 )私 の 内 側 に そ う い う も の が 根 付 い た よ う な そ ん な
感 じ が し ま す と あ り ,宗 教 性 が 自 己 の 内 側 に 根 付 い た 歓 び を ,箱 庭 制 作 者 は 実 感 で き た と 捉
えられる。
3)女 性 性 ,母 性
女 性 性 は 面 接 申 込 時 に 感 じ て い た A 氏 の 自 己 の 課 題 の 一 つ で あ っ た 。第 1 回 箱 庭 制 作 面
接 で ,鳥 の 巣 は 使 い た い ミ ニ チ ュ ア だ が ,海 が で き た た め ,代 わ り に 貝 を 置 い た 。貝 を 通 し て ,
守 る ・ は ぐ く む と い う 女 性 的 な 面 を 私 は 自 分 の も の に し て い る 。 5・ 6 年 前 ,女 性 性 を 受 け
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入れられていなかった頃の自分との違いを感じることができた。箱庭制作者のこの主観的
体 験 を 尊 重 し つ つ も ,同 時 に 筆 者 は 別 の 印 象 も 抱 い て い る 。制 作 者 は 鳥 の 巣 を 手 に と っ た 際 ,
卵 を 落 と し ,使 わ ず 棚 に 戻 し た 。 卵 の 落 下 は 偶 然 の 出 来 事 と も 捉 え う る が ,卵 を 使 う に は ま
だ 制 作 者 の 内 的 準 備 が 整 っ て い な い 現 れ の よ う に も ,筆 者 は 感 じ た 。
第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 に は 卵 を 抱 え た 鳥 の 巣 が 重 要 な 意 味 を も っ た 。鳥 の 巣 は 子 ど も を か
え す も の で あ る た め ,子 ど も を も た な い 制 作 者 は 手 を 伸 ば す こ と が で き な か っ た 。女 性 性 ・
母 性 を 感 じ さ せ る ミ ニ チ ュ ア に 手 が 伸 ば せ な い こ と の 心 理 的 意 味 に 気 が つ く と 同 時 に ,辛
さ や 切 な さ を 感 じ た 。 し か し ,こ の 回 に , A 氏 は ,亀 を 鳥 の 巣 が あ る 場 所 に 新 し い 自 己 と し
て 産 み お と す た め に ,産 道 を 広 げ ,亀 を 進 め る 行 為 を 何 度 も 行 っ て い る 。 こ の 辛 さ や 切 な さ
と ,亀 を 産 む た め に 産 道 を 広 げ ,亀 を 進 め る 行 為 は 共 に ,箱 庭 制 作 者 の 女 性 性・母 性 を 巡 る 心
の 事 実 で あ り ,心 の 多 層 性 の 現 れ と 考 え ら れ よ う 。
第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 主 な テ ー マ は 女 性 と い う 命 で あ る と 捉 え ら れ る 。人 形 の 白 い 肌 が
入 院 中 の 義 母 を イ メ ー ジ さ せ ,大 切 に 扱 わ ね ば と い う 気 持 ち が 起 き た 。 A 氏 は ,義 母 を ガ ー
ド し な け れ ば と 感 じ ,砂 を 掘 り 少 し 低 い 位 置 に 置 き ,人 形 の 周 り に 土 手 の よ う に 砂 を 盛 り 上
げ た 。こ の よ う に 箱 庭 制 作 者 は 義 母 の 人 形 を 大 切 に 守 ろ う と し た 。そ の 後 ,白 い 人 形 の 周 囲
に こ れ ま で に 使 っ た な じ み の 動 物 を 置 く こ と で ,白 い 人 形 が 義 母 で は な く ,自 分 に な っ て い
く 感 覚 が 生 ま れ た 。こ の イ メ ー ジ 体 験 に よ り ,制 作 者 に も 義 母 に も 共 通 す る 女 性 と い う 命 が
も っ て い る 意 味 ,周 囲 の 守 り ,自 分 の 中 の 何 か が 大 き く て ど っ し り し て い る と 感 じ る こ と が
できた。制作者は自らの女性性を実感・確認できたと捉えられる。
4)自 己 の 多 様 性 と 能 動 性 の 獲 得 ,他 者 と の 関 係 性 の 変 容
第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 時 点 で は , A 氏 は 自 分 の ベ ー ス は ひ っ そ り と 静 か な も の で ,活 動 的 で
は な い と 感 じ て い た 。こ の 認 識 が 箱 庭 制 作 面 接 開 始 時 点 で の A 氏 の 自 己 認 識 で あ っ た 。だ
が ,以 後 ,異 な る 面 を 発 見 し て い く 。
第 2 回箱 庭 制 作 面 接 で A 氏 は ,砂箱右下隅にライオンを置いた。その箱庭制作過程に
つ い て 内 省 報 告 に ,力 強 い も の ,凶 暴 な も の に 憧 れ の よ う な ,親 近 感 の よ う な 感 覚 を 抱 く 。自
分 が 生 き て い く た め に は ,時 に 相 手 を 喰 ら う こ と も 必 要 ,と 記 さ れ た 。こ れ は ,攻 撃 性 の 積 極
的 意 味 に 気 づ い た と 理 解 で き ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 自 己 認 識 に 変 化 が 生 ま れ ,多 様
性 の 獲 得 が 始 ま っ た ,と 捉 え ら れ る 。
第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で A 氏 は , 自 己 開 示 が で き て い る こ と を 認 識 し ,あ り の ま ま の 自
己 の 受 け 入 れ が 進 ん だ と 思 わ れ た 。ま た ,回 遊 し て い る シ ャ チ ,イ ル カ ,亀 を 見 つ め ,亀 の 頭 の
方 向 を 陸 側 か ら 海 の 沖 合 の 方 向 に 変 え た 。こ の 構 成 で ,箱 庭 制 作 者 は 独 自 の 道 を 歩 も う と し
て い る 自 分 を 確 認 し た ,と 捉 え ら れ た 。 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で は イ ル カ は 自 己 像 で あ り ,亀
は 導 き 手 だ っ た 。 こ の 回 で ,自 己 像 が 亀 に 変 化 し ,一 人 で 外 海 へ 泳 ぎ だ そ う と し た 。 こ の 自
己 像 の 変 化 は ,制 作 者 が 導 き 手 の 知 恵 や 守 り の 力 を 自 己 に 取 入 れ る こ と が で き た た め ,と 考
え る こ と も で き た 。自 己 受 容 が 進 む と 同 時 に ,独 自 の 道 を 歩 む と い う 能 動 性 を 発 揮 し 始 め た ,
と 理 解 で き る 。 陸 の 亀 は ,沖 に 向 か う 亀 を 信 頼 し て ,見 送 っ た 。 こ の よ う に 信 頼 し て ,待 っ て
いてくれる存在が生まれた。
- 198 -
第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,A 氏 は 渦 巻 き 状 の 水 路 を 作 り ,亀 が 渦 の 中 央 に 向 か う 構 成 を 行 っ
た 。渦 の 中 心 は ,女 性 性・母 性 に 関 わ る イ メ ー ジ や ゴ ー ル な ど 多 義 的 な イ メ ー ジ を も っ た 領
域 で あ っ た 。そ の 一 つ と し て ,渦 の 中 心 に 新 し い 自 分 が い る と い う 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験
が あ っ た 。 自 己 像 で あ る 亀 は ,新 た な 誕 生 を 体 験 し た ,と 捉 え ら れ る 。
第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,高 く そ び え る 山 か ら な る 島 に ,亀 (自 己 像 )が 上 陸 し た 。こ の 島 は ,
自 分 の 島 な の で 他 の 人 は 登 っ て 来 れ な い こ と ,ま た ,そ れ を 意 識 し て ,意 識 的 に 境 界 を く っ き
りさせたことが語られた。自己と他者との間の境界である自我境界や自己イメージが明確
に な っ た ,と 理 解 で き る 。 そ の よ う な 島 に ,海 を 旅 し ,渦 の 中 心 で 新 た な 誕 生 を 体 験 し た 亀 が
到 着 し ,上 陸 し つ つ あ る よ う に ,筆 者 に は 感 じ ら れ た 。
第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で 自 己 像 で あ る ペ ン ギ ン は 海 で 漁 を し ,家 畜 を 飼 い ,相 棒 で あ る イ ン
パ ラ と 島 を 探 検 し た 。 家 畜 を 飼 い ,相 棒 と 探 検 す る と い う よ う に ,自 己 像 が 世 界 に よ り 強 く
関 与 し ,世 界 を 管 理 し て い た 。作 品 内 の 自 己 の 存 在 様 式 に 変 化 が 見 ら れ た 。前 回 で は 自 己 イ
メ ー ジ が 明 確 に な っ た と 捉 え ら れ た が ,今 回 は さ ら に 自 我 機 能 が 強 化 さ れ ,周 り の 環 境 を コ
ン ト ロ ー ル し て い く 能 動 性 が 自 己 像 に 生 ま れ た ,と 捉 え る こ と が で き よ う 。 ま た ,知 恵 を も
ち ,協 働 で き る 相 棒 と い え る 存 在 が 初 め て 現 れ ,他 者 と の 関 係 性 の 変 容 も 生 ま れ 始 め た ,と 理
解できる。
第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,人 の 世 界 を も 取 り 込 ん だ テ ー マ に 変 化 す る た め の 過 渡 期 で あ っ
た ,と 考 え ら れ る 。 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で , A 氏 は 現 実 世 界 で の 生 き 様 と 内 的 な 世 界 を 統 合
し た 人 の 世 界 を ,こ の 作 品 で 初 め て 制 作 で き た と 捉 え る こ と が で き る 。
第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,最 終 的 な 作 品 と し て 初 め て 街 の 風 景 が 構 成 さ れ た 。箱 庭 制 作 過 程
中 に A 氏 は ,最 終 回 の イ メ ー ジ の よ う な 気 持 ち よ さ を 感 じ た 。 そ れ は ,今 ま で の 箱 庭 制 作 面
接 で は 報 告 さ れ た こ と の な い 身 体 感 覚 で あ り ,身 体 が 外 の 現 実 世 界 に 向 か い ,自 由 に 身 体 が
行 動 し て い る と い う よ う な 能 動 的 な 身 体 感 覚 を こ の 回 で 初 め て 感 じ た ,と 捉 え ら れ た 。
Kalff(1966 大 原 他 訳 1972) は , 箱 庭 療 法 に お け る 遊 び の 本 質 と し て , 内 か ら 外 へ の 変 化 を
指 摘 し た (p.ⅴ )。A 氏 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,そ の 内 か ら 外 へ の 変 化 は ,ま ず は 内 界 が 表 現
さ れ た 街 の 風 景 の 構 成 に 顕 れ ,さ ら に 構 成 を 超 え て 面 接 外 の 外 界 に ま で 広 が っ て い く よ う
な 身 体 感 覚 が 生 ま れ た ,と 考 え ら れ た 。 こ れ は ,自 己 と 他 者 を 含 め た 外 的 世 界 と の 関 係 性 が
変 容 す る 萌 芽 と な る 身 体 感 覚 だ ,と 捉 え る こ と が で き る 。 そ し て ,こ の 変 化 は ,第 10 回 箱 庭
制 作 面 接 で 報 告 さ れ た 外 界 と 自 分 の 心 の シ ン ク ロ を 生 む 基 礎 と な っ た ,と 推 測 す る こ と が
できる。
A 氏 は ,第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,現 実 で カ ー ナ ビ の 自 分 の 進 行 方 向 を 指 し 示 す 方 法 を 変 え ,
そ れ が 自 分 の 心 の 世 界 と シ ン ク ロ す る よ う な 体 験 を 通 し て ,日 常 生 活 と 箱 庭 制 作 面 接 の 両
方 の 場 に お い て ,行 動 レ ベ ル で の 変 化 と 内 的 な 変 化 が 生 じ た 。 面 接 終 了 後 も ,箱 庭 制 作 者 が
同 伴 者 と と も に ,自 ら の 心 の 世 界 を 歩 ん で い く 実 感 を つ か ん だ ,と 捉 え ら れ た 。 他 者 の 多 様
性 を 知 っ た 上 で ,他 者 が 自 分 の 心 の 中 に 入 っ て く る こ と を 許 し ,共 に 生 き よ う と す る ,他 者 と
の 関 係 性 の 変 容 が 生 ま れ た ,と 理 解 で き た 。
5)受 動 性 と 能 動 性 , 面 接 内 外 で の 深 い 関 与
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第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で A 氏 は 作 品 に 対 し て ,わ た し の 中 か ら ,こ ん な 世 界 が ,あ の ,出 て き
て く れ た ん だ な あ ,っ て 。自 分 で こ う い う 世 界 を ,わ た し の 目 に 見 え る よ う に ,作 っ て あ げ ら
れ て ,嬉 し い と 語 り , 内 省 報 告 に ,短 時 間 で も 集 中 し て ,没 頭 し て 作 り 上 げ た 作 品 は ,い わ ば
私 の 子 ど も ,私 の 分 身 。作 っ た の は 紛 れ も な い 私 だ け れ ど ,作 ら せ て も ら っ た よ う な ,あ り が
た い よ う な 気 持 ち と 記 し た 。a.子 ど も ,分 身 と 感 じ る ほ ど 制 作 に 強 く 深 く 関 与 で き た こ と ,
b.自 分 の 中 か ら 出 て く る も の を 受 け と め る 受 動 性 と そ れ に 従 っ て 目 に 見 え る よ う に 作 品 を
作 り 上 げ て い く 能 動 性 と の 協 働 が ,創 造 的 な 面 接 過 程 を 生 起 さ せ た 重 要 な 要 因 の 一 つ だ と
考えられる。
ま た ,箱 庭 制 作 者 に と っ て は , 命 や 女 性 性 も ま た ,与 え ら れ る と と も に 自 ら が 守 る も の で
あ る 。 例 え ば ,マ リ ア 様 や 鳥 居 に よ っ て 命 を 吹 き 込 ま れ ,見 守 ら れ る と い う 受 動 性 を 体 験 し
た。亀を産みおとすために産道を広げる能動的行為を制作者は行った。亀は新たな自己と
して産み落とされるために進むという受動・能動両方の行為を体験した。大事に守ろうと
し た 義 母 の 周 り に ,な じ み の 動 物 が 置 か れ る こ と で 人 形 が 自 分 に 変 わ り ,女 性 と い う 命 の 意
味 と 周 り の 支 え を 実 感 す る こ と が で き た 。箱 庭 制 作 と 命 ,特 に 女 性 と い う 命 に 共 通 す る ,受
動 性 と 能 動 性 の 協 働 と ,箱 庭 制 作 へ の 関 与 の 強 さ ・ 深 さ が ,制 作 者 の 心 の 変 容 と 面 接 の 展 開
を促進した重要な要因の一つであると考えられる。
さ ら に , 第 8 回 と 第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,自 分 を あ け 放 す ,手 放 す ,明 け 渡 す と い う 受 動
的 な 態 度 で ,箱 庭 制 作 に 臨 ん だ 。 こ の 受 動 性 は ,「 主 体 で あ る と い う こ と は ,む し ろ 自 分 を 何
か に 委 ね て し ま い ,い わ ば コ ン ト ロ ー ル を 失 う こ と で あ る 。[中 略 ]で き て い く 箱 庭 に 主 体 を
委 ね ,主 体 を い わ ば 逆 に 捨 て る こ と な の で あ る 」 (河 合 俊 雄 ,2002)と い う 主 体 の あ り 様 と 考
えることができる。
第 9 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 気 づ き ,第 9 回 と 第 10 回 の 間 の 現 実 世 界 で の 試 み ,第 10 回 で の
構 成 の 変 化 に 現 さ れ た よ う に ,制 作 者 は 箱 庭 制 作 面 接 内 外 で 主 体 的 に 自 己 の 課 題 に 取 組 ん
で い る 。こ の 真 摯 な 取 り 組 み ,深 い 関 与 も 制 作 者 の 心 の 変 容 の 大 き な 要 因 の 一 つ と 考 え ら れ
る。
以 上 ,A 氏 の 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 か ら 第 10 回 箱 庭 制 作 面 接 に 亘 っ て ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的
体 験 の 変 容 や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 を ,考 察 し て き た 。 そ の 考 察 を 通 し て ,箱 庭 制 作 面
接 が 継 続 す る 中 で ,多 様 な 変 化 や 成 長 が ,連 鎖 的 に 生 じ て い っ た こ と が 確 認 さ れ た 。
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Ⅻ章.箱庭制作面接の質的研究による系列的理解
―箱庭制作者 B 氏―
B 氏 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ を 質 的 研 究 に よ る 系 列 的 理 解 に よ っ て ,詳 述 し ,考 察 す る 。 ま
ず ,主 な 箱 庭 制 作 過 程 と 主 観 的 体 験 に つ い て 詳 述 す る 。そ の 後 ,以 下 の 2 観 点 か ら 検 討 す る 。
B 氏 は ク リ ス チ ャ ン で あ る 。B 氏 の 箱 庭 制 作 面 接 で は ,宗 教 性 ・ 信 仰 が 主 要 な テ ー マ と な っ
た 。 そ の た め , 1 )宗 教 性 を 中 心 と し た 心 や 生 き 方 の 変 容 の 観 点 か ら 考 察 す る 。 次 に ,2)心 の
多 層 性 の 観 点 か ら 考 察 す る 。こ の 考 察 を 通 し て ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 面 接 の 展
開 ,そ の 個 人 的 意 味 を 確 認 し て い く 。
Ⅻ -1.B 氏 の 主 な 箱 庭 制 作 過 程 と 主 観 的 体 験 の 詳 細
1)第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 34)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。B 氏 は 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 1 で ,砂 箱 中 央 の 砂
を 掘 り ,底 の 青 の 色 を 出 し て ,泉 (水 源 )を 作 っ た 。 制 作 過 程 4 で , 水 辺 の 魚 ,水 を 飲 む 牛 を 置
い た 。制 作 過 程 6 で , B 氏 は ,「 水 の 恵 み を 受 け て 育 つ 木 々 を 探 し ,水 源 周 り 」に 置 い た (「 」
内 は ,内 省 報 告 に 記 さ れ た ,当 制 作 過 程 の 内 容 を 示 し た B 氏 自 身 の 記 述 )。制 作 過 程 7 で ,「 木
が足りないと感じられたので追加」した。
B 氏 は ,人 々 の 生 活 (箱 庭 制 作 過 程 8∼ 26,38∼ 41)を 構 成 し て い っ た 。 例 え ば ,木 々 を 追 加
し た 次 の 箱 庭 制 作 過 程 8 で ,B 氏 は 「生 活 感 の あ る も の が ほ し い と 思 う 」。 制 作 過 程 12 と 制
作 過 程 13 の 馬 車 に 乗 る 人 を 砂 箱 左 中 央 の 家 の 横 に ,往 来 を 歩 く 人 を 砂 箱 左 手 前 と 砂 箱 左 手
前 の や や 中 央 よ り に ,選 び ,置 い た 。 制 作 過 程 14 と 制 作 過 程 15 で ,B 氏 は 「家 畜 や 家 の 周 り
に い る 生 き 物 な ど が ほ し い 」と 思 い ,棚 で ミ ニ チ ュ ア を 探 し ,水 鳥 ,鳩 を 選 び , 水 鳥 を 水 源 に ,
鳩 2 羽 を 家 の 前 に 置 い た 。制 作 過 程 25 と 制 作 過 程 26 で ,B 氏 は 「生 活 感 の 感 じ ら れ る 人 物
を 求 め 」,「行 き 交 い ,挨 拶 を 交 わ す 人 ,果 実 な ど を 採 る 人 」を 置 い た 。
箱 庭 制 作 過 程 32 と 制 作 過 程 33 で ,船 を 見 つ け ,砂 箱 右 奥 隅 に 海 を 作 り ,船 を 置 い た 。制 作
過 程 36 と 制 作 過 程 37 で ,ル ー ペ
を 見 つ け ,船 が 浮 か ぶ 海 辺 に ル
ーペを置いた。
箱 庭 制 作 過 程 43 で ,祈 る 人 を
見 つ け , 制 作 過 程 44 で ,「旅 の
安 全 を 祈 る 人 と し て 海 辺 に 」置
い た 。 世 の 不 幸 と 幸 せ (制 作 過
程 45∼ 52)な ど を 構 成 し て い っ
た 。例 え ば ,制 作 過 程 45 か ら 48
に 亘 っ て , 「世 界 に は 不 幸 も あ る
こ と を 思 い 起 こ 」し ,「銃 を 持 つ
人 を 見 つ け る ,悲 し む 人 ,被 災 害
を 現 す イ メ ー ジ の も の 」を 探 し ,
砂箱右手前隅の木の裏手に銃を
持 つ 人 ,悲 し む 人 を 置 い た 。制 作
写 真 34
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B 氏第1回作品
過 程 51 と 制 作 過 程 52 で ,合 唱 す る 人 た ち を 選 び ,砂 箱 左 奥 隅 に 合 唱 す る 人 た ち を 置 い た 。
遊 ぶ 子 ど も を 置 い た (制 作 過 程 58∼ 62)。
箱 庭 制 作 過 程 64 で あ や め や 花 束 を 選 び , 制 作 過 程 65 で あ や め を 水 源 の 上 に ,花 束 を 水 源
の 左 に 置 い た 。 制 作 過 程 66 で ,民 家 の 位 置 を 整 え ,箱 庭 制 作 を 終 了 し た 。
B 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 記 す 。中 央 の 泉 の 構 成 に つ い て ,B 氏 は 調 査 的 説 明
過 程 で 中 心 に ,こ の ,ま あ ,水 を 置 い た ん で す け ど も ,や っ ぱ り ,な ん か ,人 に は な ん か 核 に な
る よ う な ,そ の ,い ろ ん な 意 味 で の ,そ の ,発 想 だ と か ,意 欲 だ と か ,い ろ ん な 意 味 で 核 に な る ,
そ の 中 心 の 部 分 と い う の が ,う ん ,や っ ぱ り 感 じ て し か た が な い と 。 で ,ま あ ,そ う い っ た も
の を ,自 分 は そ こ を 中 心 に し て ,い ろ い ろ 据 え て い く ん じ ゃ な い か な ( B 氏 調 査 ,1-2) と 語
っ た 。 ま た ,そ の 構 成 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に も 語 っ た 。 宗 教 的 な 建 物 と
か ,仏 像 だ と か ,マ リ ア 像 だ と か あ る わ け で す よ ね 。 ま あ ,私 自 身 ,(中 略 )そ う い っ た も の で
表 わ さ れ る 大 切 な も の と か ,意 識 と し て ,や っ ぱ り あ る わ け で す よ ね 。 で ,た ぶ ん ,私 の 中 に
は そ の ,水 と い っ た と こ ろ で 表 し た も の が ,そ う い う も の に つ な が っ て い る よ う な と こ ろ が
あ る ん だ け ど も ,う ん ,そ の 実 際 に そ れ を 表 わ す の に ,十 字 架 を 置 く と か ,マ リ ア 像 を 置 く か
と い う と ,そ れ に は ,抵 抗 が あ っ た わ け で す 。< な る ほ ど > で ,つ ま り ,そ れ が ,あ の ,い か に ,
そ の ,表 現 し つ く せ な い 。 人 為 的 な ,そ の ,形 っ て い う ん で し ょ う か 。 シ ン ボ ル っ て い う か ,
う ん ,で ,そ れ を 置 く と か え っ て ,そ の ,自 分 が 感 じ て い る と か , 思 っ て い る , そ の , こ ん こ ん
と わ き 出 る よ う な 躍 動 感 と か い う 意 味 で な ん か ,表 わ す に は ち ょ っ と み す ぼ ら し す ぎ る と
い う か 。う ん ,で ま あ ,そ れ は 逆 に 選 ぶ 気 に な れ な か っ た( B 氏 調 査 ,1-2)。内 省 報 告 に は 以
下 の よ う に 記 さ れ た 。 生 命 の 源 ( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 意 図 ) ,深 部 か ら こ ん こ ん と 湧 き で
る ,つ き な い 泉( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 感 覚 ),神 ,生 命( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 連 想 )。泉 は B
氏 に と っ て ,核 に な る も の で あ り ,そ れ が 砂 箱 中 央 に 構 成 さ れ た 。 そ の 核 を 中 心 に し て ,様 々
な も の が 構 成 さ れ て い っ た 。 そ の 核 と な る も の は 神 の 表 現 で も あ り , B 氏 に と っ て ,こ ん こ
ん と 湧 き で る よ う な 躍 動 感 を も つ 命 の 源 で も あ っ た 。そ れ を 表 現 す る に は ,十 字 架 や マ リ ア
像 で は 表 現 し つ く せ な い 感 じ が し て 選 ば な か っ た ,と B 氏 は 語 っ た 。
制 作 過 程 4 の 水 辺 の 魚 ,水 を 飲 む 牛 , 箱 庭 制 作 過 程 6 の 水 の 恵 み を 受 け て 育 つ 木 々 を 水 源
周 り に 置 く と い う 構 成 ,制 作 過 程 7 の 木 を 追 加 す る と い う 構 成 ,制 作 過 程 15 の 水 源 に 水 鳥
を 置 く と い う 構 成 に つ い て , B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で そ こ の 場 所 が 豊 か で あ る と か ,安 心
で き る 場 で あ る っ て い う の を , 自 然 の 魚 が 泳 い で い て , 鳥 が い て ,動 物 が 水 を 飲 み に く る 。
(中 略 )そ れ は と て も 必 要 で ,大 事 で ,中 心 に く る も の で ,か つ ,豊 か な ,安 心 な 空 間 で ,と い う
こ と が あ る ん だ と い う も の を 置 い て ,そ れ を 表 わ し た い と 思 い ま し た 。(中 略 )自 然 の と い う
と こ ろ で ,水 が あ っ て ,土 が あ っ て ,空 気 が あ る と い う と こ ろ で ,草 木 が あ る( B 氏 自 発 ,1- 複
数過程に亘って)と語った。B 氏は内省報告に, 水の恵みを受けて育つ木々を水源周りに
置 く と い う 構 成 ,木 を 追 加 す る と い う 構 成 に 関 し て 泉 の 生 命 が 周 辺 に 広 が る( B 氏 内 省 ,1-6,
制 作 ・ 意 図 ) , 育 み ( B 氏 内 省 ,1-6,制 作 ・ 意 味 ) , 家 の 周 り に い る 鳩 に つ い て 生 活 が 営 め
る こ と の 喜 び や 感 謝 ( B 氏 内 省 ,1-14,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 こ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 は ,
泉 の 生 命 が 育 ま れ ,周 辺 に 広 が り 及 ぶ と い う も の で あ っ た 。こ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る
B 氏 に と っ て の 意 味 は ,説 明 過 程 で も 語 ら れ て い る が ,内 省 報 告 で よ り 明 示 的 に な っ た 。
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箱 庭 制 作 過 程 8∼ 10 の 家 の 構 成 ,12 と 13 の 馬 車 に 乗 る 人 と 往 来 を 歩 く 人 の 構 成 , 制 作 過
程 25 と 26 の 「行 き 交 い ,挨 拶 を 交 わ す 人 ,果 実 な ど を 採 る 人 」,制 作 過 程 58 と 59,61 と 62 の
遊 ぶ 子 ど も の 構 成 に つ い て , B 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 自 分 自 身 の ,そ の ,生 き て る 感 覚 と い
う の は ,ど ん な ,あ の , 感 覚 な ん だ ろ う と か と い っ た ら ,え ,町 歩 く 人 が い て , そ う い う 中 で ,
こ の 通 り を 行 き め ぐ っ て っ て ,子 ど も た ち が 遊 ん で る ,そ う い う 空 間 を 。 そ う い う 日 常 の 中
の 自 分 と い う こ と で 。 (中 略 )人 が い て ,自 分 が 生 き る 場 と い う か 。 そ う い う 生 活 の 空 間 に ,
そ の ,人 が 生 き て る ,そ の 社 会 的 な も の っ て い う と こ で の 家 っ て い う も の を ,な ん か ,置 い た
り し ま し た ( B 氏 調 査 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。 ま た ,こ れ ら の 構 成 に つ い て ,内 省
報 告 に 生 き て い る こ と の 実 感( B 氏 内 省 ,1-12,制 作・意 図 ),安 心 感 ,暖 か さ( B 氏 内 省 ,1-15,
制 作 ・ 感 覚 ) ,愛 お し さ ( B 氏 内 省 ,1-25,制 作 ・ 連 想 ) ,子 ど も が 遊 び を 考 え る 創 造 力 の 豊
か さ ( B 氏 内 省 ,1-61,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。
箱 庭 制 作 過 程 32 と 33 の 船 の 構 成 に つ い て , B 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 自 分 の 意 識 し て い
る 世 界 が ,そ の 世 界 の す べ て じ ゃ な い っ て い う か 。 や っ ぱ り ,あ の ,他 の 人 が い て ,そ の 人 に
も 一 つ の 世 界 が あ っ て , で ,ま あ ,自 分 も 行 っ た こ と の な い 世 界 が あ っ て ,そ こ で も , 違 っ た
人 の 営 み が ,あ の ,あ っ て( B 氏 調 査 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て )と 語 っ た 。内 省 報 告 に こ の 世 界
は 豊 か( B 氏 内 省 ,1-32,制 作 ・ 意 図 ),自 分 の 小 さ さ( B 氏 内 省 ,1-32,制 作 ・ 連 想 ),船 出 の
場 ,泉 と 外 海 の 繋 が り( B 氏 内 省 ,1-33,制 作・ 意 図 ),怖 い け ど 魅 力 が あ る( B 氏 内 省 ,1-33,
制 作 ・ 感 覚 ) ,探 求 ,冒 険 ( B 氏 内 省 ,1-33,制 作 ・ 意 図 ) と 記 し た 。 ま た ,ル ー ペ の 構 成 に つ
い て ,自 分 を 広 げ る に は 覗 く よ り ほ か な い ( B 氏 内 省 ,1-37,制 作 ・ 意 図 ) と 記 し た 。
箱 庭 制 作 過 程 43 と 44 の 祈 る 人 の 構 成 に つ い て , B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 世 界 と い う の
は ,( 中 略 )未 知 で あ る が ゆ え に ,何 が 起 こ る か わ か ん な い っ て い う と こ ろ で , い ろ ん な 意 味
で ,祈 る 心 み た い な ,安 全 を 祈 る よ う な ,そ う い っ た と こ ろ の も の も ,な ん か ,な け れ ば ,そ う
い う も の は 見 る こ と が で き な い と か ,っ て い う の を 思 い ま し た( B 氏 自 発 ,1-43)と 語 っ た 。
内 省 報 告 に 神 様 を 祈 る 人 で 表 現 し た い ( B 氏 内 省 ,1-43,制 作 ・ 意 図 ) ,見 守 り ,神 の 存 在 ( B
氏 内 省 ,1-43,制 作・意 図 ),人 と 世 界 が 守 ら れ る よ う に と 感 じ ら れ た( B 氏 内 省 ,1-43,制 作 ・
感 覚 ) ,世 界 を 包 む 神 ( B 氏 内 省 ,1-43,制 作 ・ 連 想 ) ,人 が 生 き る こ と は 探 求 の 旅 で あ る ( B
氏 内 省 ,1-44,制 作・意 図 )思 い 返 せ ば ,ず っ と 旅 し て き た よ う に 感 じ ら れ た( B 氏 内 省 ,1-4 4,
制 作 ・ 感 覚 ) ,未 来 へ の 祈 願 ( B 氏 内 省 ,1-44,制 作 ・ 意 味 ) と 記 し た 。
箱 庭 制 作 過 程 45∼ 48 の 銃 を 持 つ 人 ,悲 し む 人 の 構 成 に つ い て ,い ろ ん な 災 難 が あ る ん だ
け ど ,ま ,こ の 銃 を 持 っ て い る 人 と か と い う こ と で ,あ の 表 現 し た か っ た ん で す け ど 。そ う い
う も の も あ っ た り と か ,悲 し ん で い る ,そ う い う 人 も ,実 を い う と ,確 か に 現 実 と し て あ る ん
だ と 。 現 実 と し て あ る ん だ ,っ て い う も の を 思 っ て 。 そ れ で ,そ れ が や っ ぱ り 自 分 の 空 間 の
中 に も ,や っ ぱ り 離 れ ず に あ る ん だ よ な ,っ て い う の を ,思 い ま し た ( B 氏 調 査 ,1-複 数 過 程
に 亘 っ て ) と 語 っ た 。 し か し ,B 氏 に は そ れ と は 異 な る 思 い も 湧 い て き た 。 「何 か 言 い 足 り
な い 」と 感 じ た 制 作 過 程 49 と ,制 作 過 程 51 と 52 の 合 唱 す る 人 た ち の 構 成 に つ い て , B 氏 は
自 発 的 説 明 過 程 で 自 分 に と っ て の 世 界 と い う の は ,ど の 世 界 だ ろ う か と い う と こ ろ で ,次 に
な ん か 気 持 ち が 動 い た ん で す け ど 。そ れ は 実 い う と ,こ う い う 悲 し み と か 不 幸 な 出 来 事 と か
と い う の は , 人 に と っ て ,(中 略 )幸 せ な み た い な も の も 出 来 事 と し て , ひ ょ っ こ り , あ の , 起
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こ り う る ん だ ,と 。 (中 略 )ど ち ら か と い う と ,さ さ や か な ,あ の ,人 と の つ な が り の 中 で も ,
な ん か ,幸 せ な 出 来 事 と い う の が ,あ り う る ん だ ,と い う と こ ろ で ,ま あ ,結 果 と し て , ま あ ,
こ の 対 極 の と こ ろ に ,こ れ を 置 く こ と に な り ま し た ( B 氏 調 査 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語
った。それらの箱庭制作過程について内省報告に信じるに足る違った良いこともある実感
( B 氏 内 省 ,1-49,制 作 ・ 意 図 ),愛 ,友 人 ,家 族( B 氏 内 省 ,1-51,制 作 ・ 感 覚 ),感 謝 ,喜 び( B
氏 内 省 ,1-51,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。
箱 庭 制 作 過 程 64 で あ や め や 花 束 を 選 び , 制 作 過 程 65 で あ や め を 水 源 の 上 に ,花 束 を 水 源
の 左 に 置 く と い う 制 作 過 程 に つ い て 内 省 報 告 に 泉 の 生 命 力 に 花 を 添 え た い( B 氏 内 省 ,1-64,
制 作 ・ 意 図 ) ,世 界 の 豊 か さ を 改 め て 思 い 起 こ す ( B 氏 内 省 ,1-64,制 作 ・ 感 覚 ) ,世 界 は 神
様 の 守 り に あ る こ と を 再 認 識 す る ( B 氏 内 省 ,1-65,制 作 ・ 感 覚 ) ,感 謝 ( B 氏 内 省 ,1-65,制
作・意 味 )と 記 し た 。そ の 内 省 報 告 に つ い て ,第 1 回 ふ り か え り 面 接 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。
[最 終 的 に ,そ の ,水 際 に 生 え る 草 を 置 く と か ,ま ,水 源 の と こ ろ に 戻 っ て い っ た ん で す ね 。 そ
れ は な ん と な く ,そ う い っ た 自 分 で 作 り 上 げ た も の を ,あ の ,そ こ の 部 分 に ,帰 し た か っ た 。帰
す る と い う か ,さ さ げ る と い う か ,う ん 。 そ ん な よ う な 感 じ で ]。 B 氏 は 箱 庭 制 作 過 程 の ほ ぼ
最 後 に ,世 界 の 豊 か さ を 思 い 起 こ し , そ れ は 神 様 の 守 り の お か げ で あ る こ と を 再 認 識 し , 感
謝 の 念 を も っ て ,泉 の 生 命 力 に 花 を さ さ げ た ,と 捉 え ら れ る 。
2)第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 35)
主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。 B 氏 は 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,「心 苦 し い 思
い を 表 現 す る 仕 切 り を 見 つ け 」た 。 制 作 過 程 3 で ,仕 切 り を 砂 箱 中 央 に 置 い た 。 制 作 過 程 4
と 5 で ,小 さ な か ご を 見 つ け ,か ご を 2 つ ,仕 切 り の 左 側 に 置 い た 。 制 作 過 程 17 で ,中 央 や や
左 寄 り に 葉 の つ い て い な い バ オ バ ブ の 木 を 置 い た 。 制 作 過 程 18 と 制 作 過 程 19 で ,葉 の つ
い て い な い バ オ バ ブ の 木 の 左 に 亀 と イ グ ア ナ を 置 い た 。箱 庭 制 作 過 程 22 と 制 作 過 程 23 で ,
ル ー ペ を 選 び ,追 加 し た 3 つ め の か ご の 中 に ル ー ペ を 入 れ る よ う に 置 い た 。制 作 過 程 24 で ,
亀を右手で空中にもったまま,
左 手 で ,中 央 下 の 砂 を 払 い の
け ,左 右 に 走 る 水 の 道 を 作 っ
た 。 制 作 過 程 25 で ,水 の 道 の
左端に亀を置きなおした。制
作 過 程 26 と 制 作 過 程 27 で ,
花 を 選 び ,仕 切 り 右 側 の 上 部
に 花 を 置 い た 。 制 作 過 程 28
と 制 作 過 程 29 で ,ガ ラ ス 瓶 を
選 び ,最 初 に 置 い た か ご 2 つ
の中にガラス瓶を入れるよう
に 置 い た 。 制 作 過 程 30 と 制
作 過 程 31 で ,天 使 を 選 び ,テ ー
ブルとイスの手前に 2 体の天
写 真 35
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B 氏第 2 回作品
使を置いた。
箱 庭 制 作 過 程 32 と 制 作 過 程 33 で ,チ ェ ン ソ ー と 斧 を も っ た 人 形 を 選 び ,イ グ ア ナ の 近 く
に 置 い た 。 制 作 過 程 35 で ,B 氏 は ,十 字 架 を 亀 の 背 に 載 せ た 。 制 作 過 程 37 で , 先 に 置 い て
い た 針 葉 樹 の 近 く に 小 さ な 針 葉 樹 を 置 き 加 え ,箱 庭 制 作 を 終 了 し た 。
B 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 記 す 。ま ず ,B 氏 の 重 い 感 じ や 空 虚 感 や 疲 れ な ど の
主観的体験の語りや記述を記す。仕切りについて, B 氏は自発的説明過程で壁を感じてい
る な と い う こ と で 。 で ,こ の 壁 と い う と こ ろ を 最 初 に 思 い ま し た ( B 氏 自 発 ,2-1) ,自 分 自
身 の 今 日 の ,今 の 気 持 ち の 中 核 に な る よ う な 感 じ も し た こ と が あ っ て ,真 ん 中 に 置 く と い う
の が し っ く り ,あ の ,し ま し た ( B 氏 自 発 ,2-3) と 語 っ た 。 内 省 報 告 に 何 か 重 い も の を 感 じ
て 蓋 が さ れ た 感 じ( B 氏 内 省 ,2-1,制 作・感 覚 )と 記 し た 。こ の 回 の 最 初 の 箱 庭 制 作 過 程 で ,B
氏 は ,重 い も の を 感 じ て 蓋 が さ れ た 感 じ が し て お り ,そ の 感 覚 か ら 連 想 さ れ る も の は 壁 で あ
っ た 。 そ し て ,そ の 感 覚 に 合 っ た 仕 切 り を 見 つ け ,そ れ を 砂 箱 中 央 に 置 い た 。 こ の 構 成 は ,重
さ や 壁 と い う 感 覚 や イ メ ー ジ ,心 苦 し い と い う 思 い が 今 の 気 持 ち の 中 央 に あ る と い う 主 観
的体験が反映したものであったことが示された。
箱 庭 制 作 過 程 4 と 5 の か ご に つ い て ,取 り 組 ん で る と こ ろ が ,そ れ こ そ ,そ の ,何 か ,や っ
た こ と い う の が 抜 け 落 ち て っ て し ま う よ う な ,そ う い う 殺 伐 感 と い う の が あ っ て ( B 氏 自
発 ,2-4) と 語 っ た 。 制 作 過 程 16 と 17 の バ オ バ ブ の 木 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程 で ,こ の バ
オ バ ブ の 木 の と こ ろ は (中 略 )今 の 状 態 っ て ,自 分 自 身 も 枯 れ て い る よ な ,疲 れ て い る よ な ,
と か い う 部 分 が あ っ て( B 氏 自 発 ,2-16)と 語 っ た 。制 作 過 程 18 と 制 作 過 程 19 の 亀 と イ グ
ア ナ (と か げ )に つ い て 亀 と い う の は ,自 分 の 歩 み が 遅 々 と し て 進 ま な い っ て い う の と ,ま あ ,
何 か に 引 っ 張 ら れ て ゆ っ く り と し か 進 め な い っ て い う も の を ,亀 と い う と こ ろ の も の が ,そ
の ,表 現 し て い る よ う な 気 が し ま し た 。そ れ で ,ま あ ,そ こ の 部 分 に ,ま あ ,攻 撃 的 な と い う 意
味 で の ,そ の 追 い つ め る よ う な も の っ て い う の も 感 じ て て 。 ま あ ,そ の 部 分 は 結 局 ,そ の ,ま
あ , ぐ わ ー と か み つ き そ う な 感 じ の と か げ で は あ る ん だ け ど ,そ れ は は っ き り と ,そ の 人 と
い っ た と こ ろ の 関 わ り の 中 で , そ れ を 意 識 し て て ,( 中 略 ) 遅 々 と し た 歩 み と か ,ち ょ っ と 殺
伐 と し た そ の 感 じ と か ,っ て い う も の を 意 識 し て る ん だ と ( B 氏 自 発 ,2-18) と 語 っ た 。 内
省 報 告 に ,侵 襲 者 に 追 れ て い る ( B 氏 内 省 ,2-18,制 作 ・ 意 図 ) ,重 苦 し い ,し ん ど さ ( B 氏 内
省 ,2-18,制 作 ・ 感 覚 )と 記 し た 。制 作 過 程 32 と 制 作 過 程 33 の チ ェ ン ソ ー と 斧 を も っ た 人
形 に つ い て B 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 人 形 を 選 ぶ と き に ,銃 を も っ た 人 を 選 ぶ か ,迷 っ た ん で
す 。 (中 略 )チ ェ ン ソ ー と か オ ノ を 持 っ て い る 人 の 方 が ,(中 略 )人 の 攻 撃 性 み た い な も の を ,
そ の ,な ん か よ く 出 し て い る か な と 。(中 略 )ど ち ら か と い う と ,意 識 せ ず と も 御 し き れ な い ,
そ の 暴 力 性 み た い な 部 分 だ と か ,(中 略 )銃 を も っ て い る 人 と か は ,表 わ し て な い よ う な 気 が
し た ん で す ね 。(中 略 )こ れ は 働 く 人 の 人 形 だ と 思 っ た ん で す け ど ,こ っ ち の 方 が し っ く り く
る か な 。 そ の 攻 撃 性 ,暴 力 性 み た い な も の が む し ろ 。 こ の ト カ ゲ み た い な ,が ー と く い つ く
よ う な ,そ う い っ た も ん で ,そ の ,イ メ ー ジ と し て あ っ た 。こ の セ ッ ト に し て 表 し た か っ た( B
氏 調 査 ,2-32)と 語 っ た 。内 省 報 告 に 憎 し み と 怒 り( B 氏 内 省 ,2-32,制 作・意 味 )と 記 し た 。
こ れ ら 一 連 の 主 観 的 体 験 に は ,B 氏 が ,日 常 生 活 に お い て 激 し い 攻 撃 性 に 曝 さ れ ,心 身 と も に
疲 弊 し ,空 虚 感 や 憎 し み や 怒 り な ど を 感 じ て い た こ と が 示 さ れ た 。
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箱 庭 制 作 過 程 の 途 中 で ,転 機 が 訪 れ る 。箱 庭 制 作 過 程 22 と 制 作 過 程 23 の か ご の 中 に 置 い
た ル ー ペ に つ い て ,B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 全 く 空 の 籠 か と い う と そ う じ ゃ な く て ,思 い 出
と か ,い ろ い ろ ,残 っ て い る も の も あ る ( B 氏 自 発 ,2-22) と 語 り ,内 省 報 告 に 生 き る 関 心 が
絶 え て い な い の に 気 づ く( B 氏 内 省 ,2-22,制 作・意 図 ),ま だ 足 を 残 し て い る( B 氏 内 省 ,2-2 3,
制 作 ・ 感 覚 ) ,土 俵 際 ( B 氏 内 省 ,2-23,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 第 2 回 ふ り か え り 面 接 で ,
そ の 制 作 過 程 に つ い て 以 下 の よ う に 説 明 し た 。 [土 俵 際 っ て ,結 構 ア ッ プ ア ッ プ し て い る と
い う と こ で は ,そ う い う 土 俵 際 で な ん か ,立 っ て い る よ う な 感 じ を ,受 け る ん だ け ど ,そ う い
っ た し ん ど さ を 感 じ つ つ ,ま あ ,な ん か や っ て る わ み た い な 感 じ も ,(不 明 )思 い ま し た 。(中 略 )
し ん ど さ を 感 じ つ つ も ,そ の ,や っ ぱ り 取 り 組 ん で い る 自 分 が あ る と い う こ と は 否 定 し よ う
が な く て 。 こ う い う 自 分 が い る ん だ と 。 そ う い う と こ を ,ル ー ペ を 選 ん だ と こ か ら ,そ の ,ま
あ ,気 づ く と い う か ]。
箱 庭 制 作 過 程 24 の 水 の 道 の 構 成 に つ い て ,B 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 生 か さ れ て る っ て い
う ん で し ょ う か ね 。 そ の 水 と い う と こ ろ の (中 略 ) そ う い っ た 中 で 自 分 自 身 も ,そ の , そ の ,
道 の り と い う と こ ろ で は ,砂 漠 を 歩 い て い る わ け じ ゃ な く て ,そ う い う 中 で , う ん , そ の , た
ど っ て る っ て い う か , た ど り き っ た っ て い う ,( 中 略 ) そ う い う 実 感 も 確 か に あ る ( B 氏 調
査 ,2-32) と 語 っ た 。 内 省 報 告 に 乾 き と 寄 る べ き 者 ,道 筋 の 存 在 に 気 づ く ( B 氏 内 省 ,2-24,
制 作 ・ 意 図 ) ,神 ,仲 間 ( B 氏 内 省 ,2-24,制 作 ・ 連 想 ) ,他 力 ( B 氏 内 省 ,2-24,制 作 ・ 意 味 )
と 記 し た 。そ し て ,第 2 回 ふ り か え り 面 接 で ,そ の 制 作 過 程 に つ い て 以 下 の よ う に 説 明 し た 。
[道 筋 み た い な も の を 作 り 始 め ま し た 。こ れ は 乾 い て る な ー っ て い う 乾 き ,あ と ,そ の ,寄 る べ
き も の と か ,た ど っ て い く よ う な そ う い っ た 道 筋 の ,そ う い っ た 存 在 っ て と こ ろ の も の を 思
え て ,ど う に か ,支 え ら れ て き た ん だ よ な ー と 。 そ う い っ た こ と を 思 い 起 こ し ま し た 。 で ,ま
あ ,そ れ を 例 え ば ,そ の ,神 様 っ て い う 言 い 方 も で き る し ,信 仰 と い う 言 い 方 も で き る し ,ま あ ,
と き ,そ の 時 ,そ の 時 で ,そ の ,ま あ ,一 緒 に や っ て き た 仲 間 た ち っ て い う も の も い た し 。 い ろ
ん な と こ で 助 け ら れ て き た な ー っ て い う こ と を 思 っ て て 。 そ の 結 果 ,今 ,や っ て け て る ん だ
よ な ー っ て 。 そ う い う 意 味 で は ,他 力 本 願 っ て い う わ け で は な い ん だ け れ ど も ,自 分 の が ん
ば り だ け で は 続 け て こ れ な か っ た も の は ,ど う し て だ ろ う か と い う よ う な と こ で ,他 か ら の
助 け だ と か ,い ろ ん な も の が あ っ た ,と 。そ れ が 水 の 道 っ て い う と こ で ,そ の ,表 現 し た か っ た
と い う か 。 し よ う と し て ,掘 っ て っ た と い う こ と で す ね ]。
箱 庭 制 作 過 程 26 と 制 作 過 程 27 の 花 の 構 成 に つ い て , B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で そ の 先
に ,(中 略 )や や ほ っ と し た 空 間 だ と か ,実 る こ と も あ れ ば ,と い う 感 じ の ,(中 略 )緑 と い う か ,
花 っ て い う か 。 そ う い っ た も の を 思 い ま し た ( B 氏 自 発 ,2-26) と 語 っ た 。 内 省 報 告 に 将 来
へ の 期 待 ( B 氏 内 省 ,2-26,制 作 ・ 意 図 ) と 記 し た 。 制 作 過 程 28 と 制 作 過 程 29 の ガ ラ ス 瓶
の 構 成 に つ い て , B 氏 は 調 査 的 説 明 過 程 で 良 い ,例 え ば ,友 人 関 係 だ っ た り と か ,経 験 だ っ た
り と か ,そ う い っ た も の は 確 か に ,そ の ,現 状 は ど う で あ れ ,侵 さ れ な い も の と し て 残 っ て い
る( B 氏 自 発 ,2-29)と 語 っ た 。内 省 報 告 に 良 い 思 い 出 ,記 憶 ,人 々 と の 繋 が り( B 氏 内 省 ,2-29,
制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 制 作 過 程 30 と 制 作 過 程 31 の 天 使 の 構 成 に つ い て , B 氏 は 自 発 的
説 明 過 程 で ほ っ と で き る よ う な と こ ろ に 行 き つ け れ ば ,ま あ ,幸 い か な( B 氏 自 発 ,2-31)と
語 っ た 。 内 省 報 告 に 将 来 の 祝 福 ( B 氏 内 省 ,2-30,制 作 ・ 意 図 ) ,安 ら ぎ や 平 安 に 迎 え 入 れ て
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ほ し い ( B 氏 内 省 ,2-30,制 作 ・ 感 覚 ) ,不 安 ( B 氏 内 省 ,2-31,制 作 ・ 連 想 ) と 記 し た 。 こ れ
ら 一 連 の 主 観 的 体 験 に は ,B 氏 が 一 方 で 不 安 を 覚 え つ つ も ,将 来 へ の 期 待 ,将 来 の 祝 福 や 平 安
を 望 む 思 い が 芽 生 え 始 め た こ と ,ま た ,過 去 に お け る 人 々 と の 繋 が り や 経 験 は 侵 さ れ な い も
の と し て 残 っ て い る こ と へ の 気 づ き が 示 さ れ た ,と 捉 え ら れ る 。
箱 庭 制 作 過 程 35 の 十 字 架 を 亀 の 背 に 載 せ た 制 作 過 程 に つ い て 自 発 的 説 明 過 程 で シ ン ボ
リ ッ ク な 意 味 で ,こ う い う 苦 労 っ て い う と こ ろ の 部 分 は ,自 分 自 身 ク リ ス チ ャ ン と い う と こ
ろ で 言 え ば 、 イ エ ス が 歩 ま れ た ,そ う い っ た と こ ろ の 道 に 通 じ る か な と か い う と こ ろ で ( B
氏 自 発 ,2-35 ) と 語 っ た 。 内 省 報 告 に は , 自 分 に 救 済 の 力 は な い が ,共 感 が 深 ま る ( B 氏 内
省 ,2-33,制 作 ・ 感 覚 )と 記 さ れ た 。B 氏 は ,今 自 分 が し て い る 苦 労 は イ エ ス が 歩 ん だ 道 に 通
じ る も の と 感 じ ,イ エ ス へ の 共 感 が 深 ま っ た こ と が 示 さ れ た 。
B 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 前 半 で は ,日 常 生 活 に お け る 様 々 な 苦 し い 出 来 事 や そ れ に
対 す る 自 分 の 心 情 を 巡 る 構 成 を 行 っ た 。 し か し ,途 中 か ら 神 や イ エ ス ,仲 間 た ち の 支 え を 思
い 起 こ し ,箱 庭 制 作 過 程 の ほ ぼ 最 終 段 階 で は ,イ エ ス へ の 共 感 を さ ら に 深 め る こ と が で き た ,
と捉えられる。
3)第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 36)
B 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,砂 箱 右 奥 隅 に 置 か れ た 自 己 像 で あ る 星 の 王 子 様 が ,身 近 な
と こ ろ か ら 将 来 に 向 け て 鳥 瞰 し た り ,思 い 出 を 思 い 返 す と い う テ ー マ の 構 成 が な さ れ た 。山
あ り 谷 あ り ,障 壁 も あ り と い う 生 き 様 で あ っ た こ と が 第 3 回 ふ り か え り 面 接 で 語 ら れ た 。
主な箱庭制作過程を示す。B 氏は第 3 回箱庭制作面接の箱庭制作過程 3 で, 砂箱右奥隅
に 星 の 王 子 様 の 人 形 を 置 い た 。 砂 箱 左 奥 と 右 手 前 に 針 葉 樹 を 置 い て い っ た (制 作 過 程 11∼
17)。 制 作 過 程 18 と 制 作 過 程 19 で ,砂 箱 中 央 に 時 計 と 祈 る 人 を 選 び ,置 い た 。 制 作 過 程 20
と 制 作 過 程 21 で ,橋 を 選 び ,中 央 の 水 た ま り の 上 に 橋 を 架 け た 。制 作 過 程 24 と 制 作 過 程 25
で ,か た つ む り ,ト ン ボ ,舵 き り を す
る ミ ッ キ ー マ ウ ス を 選 び ,と ん ぼ
を 箱 左 手 前 角 に ,か た つ む り と 舵
きりをするミッキーマウスを王子
様 の 前 に ,置 い た 。
郵 便 ポ ス ト を 置 く (箱 庭 制 作 過
程 27),ミ ニ カ ー を 選 び ,置 く (制 作
過 程 31∼ 32),真 珠 粒 を ま ば ら に 置
き ,木 の 上 に ガ ラ ス 細 工 の 粒 を 置
く (制 作 過 程 35)と い う 構 成 を 行 っ
た 。制 作 過 程 37 と 制 作 過 程 38 で ,
十字架と石を選び, 十字架を砂箱
左 手 前 に ,石 を 右 奥 に 置 い た 。砂 箱
全体に砂の波をつくった。真珠粒
写 真 36
を ま ば ら に 置 い た ( 制 作 過 程 45 )。
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B 氏第 3 回作品
制 作 過 程 46 で ,祈 る 人 と そ の 近 く の 針 葉 樹 の 位 置 を 微 修 正 し ,箱 庭 制 作 を 終 了 し た 。
B 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 記 す 。星 の 王 子 様 に つ い て B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程
で 遠 い 位 置 か ら ,そ の ,鳥 瞰 す る っ て い う で し ょ う か 。 そ う い っ た と こ ろ で 作 り た い な と い
う 気 持 ち が 湧 き ま し た 。 そ れ で ま あ ,こ こ に 置 く っ て い う と こ ろ で ,こ の 見 て る ,ま あ ,自 分
が ど う い う ,ど こ の 視 野 を ,見 て ,眺 め て る ん だ ろ う な ー と か ,何 を 思 い 返 し て い る ん だ ろ う
な と か ,と い う こ と を ,こ の 広 が り っ て い う 中 で ,見 よ う と し ま し た( B 氏 自 発 ,3-3),と 語 っ
た。
箱 庭 制 作 過 程 11∼ 17 の 砂 箱 左 奥 と 右 手 前 の 針 葉 樹 に つ い て B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 境
界 線 み た い な も の を 作 り た い と 思 っ て ,や り ま し た ( B 氏 自 発 ,3-11)と 語 り ,内 省 報 告 に 隔
て を つ く る た め の 材 料 ( B 氏 内 省 ,3-11,制 作 ・ 意 図 ) と 記 し た 。
2 体 の 祈 る 人 形 や 橋 や 十 字 架 は ,祈 り や 信 仰 と 関 連 し て い た 。祈 る 人 形 に は ,自 己 の 生 き 様
に 関 す る 以 下 の よ う な 思 い が 反 映 さ れ て い た 。気 持 ち 的 に は ,祈 り 心 な し に は ,そ の ,つ な が
っ て い け な い 。 そ の ,あ ん ま り や っ ぱ り し っ か り と し た ,あ の ,基 盤 と か ,そ う い っ た も の が
見 通 し の 中 で ,そ の ,う ん ,あ の ,誰 も 保 証 さ れ て は い な い だ ろ う け ど も ,厚 み と か い っ た ら ,
何 が 起 こ る か わ か ん な い 。 な に か 一 つ 大 き な こ と が あ れ ば ,あ の ,と ん 挫 し ち ゃ う よ な 。 そ
う い っ た ,な ん と い う ん で し ょ う 。 (中 略 )じ っ く り 慎 重 に こ と を 構 え て と い う 意 味 で の ,祈
り 心 で( B 氏 自 発 ,3-18)。内 省 報 告 に は 道 の り の 不 安 定 さ と 祈 り 心( B 氏 内 省 ,3 -18,自 発 ・
感覚)と記された。
橋 に つ い て ,B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 橋 を 渡 る と い う と こ で の 決 断 だ と か ( B 氏 自
発 ,3-20)と 語 り ,内 省 報 告 に 危 険 や 停 滞 を 乗 り 越 え て き た と い う 思 い ( B 氏 内 省 ,3- 20, 制
作 ・ 感 覚 ) ,守 ら れ て い た ( B 氏 内 省 ,3-20,制 作 ・ 意 味 ) と 記 し た 。
第 3 回 ふ り か え り 面 接 で は ,こ れ ら の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 以 下 の よ う に 語 っ た 。 [低 空
飛 行 で も ,な ん と か か ん と か ,こ こ ま で や っ て き た 。そ う い う よ う な ,あ の ,印 象 が あ る の で 。
で す か ら ,守 ら れ て い た と か ,守 ら れ て き た っ て ,別 に こ れ は 神 様 を も ち だ し て も い い ん だ
け ど も 。理 由 は わ か ら な い ん だ け ど も ,と に か く 今 ,い る ん だ っ て い う こ と を 思 え ば ,そ う い
う こ と な ん だ ろ う と ]。[慎 重 に な ら ざ る を え な か っ て ,(中 略 )祈 り 心 な く し て は ,な ん か ,物
騒 で み た い な ]。
十 字 架 に つ い て ,B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 自 分 自 身 ,大 き な も の の 一 つ の 中 で ,ま あ ,信 仰
と か そ う い っ た と こ ろ の も の と い う の は ,( 中 略 )自 分 に と っ て 重 た く さ せ る よ う な も の が
な く な る と か ,そ う い う こ と じ ゃ な く て ,そ う い っ た 全 般 の ,そ の バ ラ ン ス み た い な も の が ,
あ の ,よ り よ く な っ て い く と ,う れ し い な と い う と こ ろ で す ね ( B 氏 自 発 ,3-37)と 語 っ た 。
内 省 報 告 に ,信 仰 の 実 感 ( B 氏 内 省 ,3-37,制 作 ・ 意 味 ) ,信 仰 が 支 え に な っ て き た と い う 感
慨 感 ( B 氏 内 省 ,3-37,制 作 ・ 感 覚 )と 記 さ れ た 。 こ の 箱 庭 制 作 過 程 に 関 し て ,第 3 回 ふ り か
え り 面 接 で ,以 下 の よ う に 語 ら れ た 。[む し ろ よ り 自 分 の 意 思 っ て ,い う ん で し ょ う か ね 。そ
う い っ た 部 分 を 感 じ て て ,耐 え て き た な ー っ て い う 部 分 を 思 い 出 し て い ま し た ]。[実 際 の 思
い 悩 み と か い ろ ん な 障 害 と か が あ る 中 で ,そ れ に ど う 関 わ っ て い く の か と い う 意 味 で の ,実
際 的 な 意 味 で の 力 に な っ て い る ん だ な ー っ て い う こ と で 。 改 め て ,箱 庭 制 作 す る 中 で ,意 識
化 さ れ て る と こ で す ]。 B 氏 は ,何 が 起 こ る か わ か ら ず ,大 き な こ と が あ れ ば 頓 挫 し て し ま う
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よ う な 人 生 に お い て ,祈 り 心 は 基 盤 で あ り ,慎 重 に こ と を 構 え る こ と が 必 要 だ と 考 え て い た ,
と 捉 え る こ と が で き る 。 そ し て ,信 仰 が 支 え に な っ た と い う 実 感 や ,現 実 の 障 害 や 思 い 悩 み
に 対 し て 信 仰 が 実 際 的 な 力 に な り ,自 分 の 意 思 で 耐 え て き た こ と を 箱 庭 制 作 過 程 で 改 め て
意 識 化 し ,祈 る 人 形 や 十 字 架 が 選 ば れ ,置 か れ た ,と 理 解 で き る 。
か た つ む り に つ い て , B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 遅 々 と し た ,遅 い 歩 み だ な( B 氏 自 発 ,3 -24)
と 語 り ,内 省 報 告 に じ れ っ た い( B 氏 内 省 ,3-24,自 発・連 想 )と 記 し た 。ト ン ボ に つ い て , 自
発 的 説 明 過 程 で ふ ん わ り 飛 ん で い け る よ う な (中 略 )過 ご し 方 が で き た ら い い 。 ほ ん と に い
い な ー と 。こ れ は ,そ の ,例 え ば ,生 活 と か ,仕 事 の 重 さ が 楽 に な る と い う よ り も ,(中 略 )充 実
感 と か ,そ う い っ た と こ を 含 め て な ん か 気 持 ち が 生 き 生 き と 軽 く な る よ う な ,ふ ん わ り と し
た ( B 氏 自 発 ,3-24)と 語 り ,内 省 報 告 に 軽 や か さ ,気 軽 さ ,あ こ が れ ( B 氏 内 省 ,3-24,自 発 ・
感覚)と記した。舵きりをするミッキーマウスについて自発的説明過程で舵きりの難しさ
っ て い う と こ ろ だ と か 。(中 略 )舵 き り を す る ミ ッ キ ー マ ウ ス (中 略 )で 表 わ し た と 思 っ た( B
氏 自 発 ,3-24)と 語 り ,内 省 報 告 に 今 も 危 険 や 停 滞 は 避 け ら れ な い で い る( B 氏 内 省 ,3-24,制
作・意図)と記した。これらの構成には, 危険や停滞を避けることができていないための
緊 張 と 自 分 の 遅 々 と し た 歩 み ,ふ ん わ り と し た 軽 や か さ へ の あ こ が れ が 示 さ れ た 。
ポ ス ト に つ い て B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 他 か ら も 思 わ ぬ 便 り も 来 る と か 。(中 略 )自 分 だ
け で こ り 固 ま っ て い る こ と ,そ う い う 出 来 事 と か , 世 界 だ け じ ゃ な く て ,ひ ょ っ こ り 思 わ ぬ
と こ ろ か ら ,な ん か ,何 か が 伝 わ っ て く る と か ,流 れ て く る と か ( B 氏 自 発 ,3- 26) と 語 っ た 。
ミ ニ カ ー に つ い て B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 自 分 を (中 略 )気 晴 ら し さ せ る と か ,楽 し ま せ
る と か ,そ う い っ た と こ ろ の も の も 大 事 だ よ な 。 (中 略 )ど こ か に 行 く と か ,そ う い っ た 意 味
で の 車 と か( B 氏 自 発 ,3-31)と 語 っ た 。内 省 報 告 に 生 活 に 娯 楽 の な さ( B 氏 内 省 ,3-31,制 作・
意 図 ) ,ど こ か 面 白 み の な い 生 き 方 か な ? ( B 氏 内 省 ,3-31,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。
ガ ラ ス の 粒 に つ い て ,B 氏 は 内 省 報 告 に う る お い ( B 氏 内 省 ,3-33,制 作 ・ 意 図 ) ,思 わ ぬ
と こ ろ で よ い こ と も あ っ た こ と を 思 い 出 す ( B 氏 内 省 ,3-33,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。
真 珠 に つ い て B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で ポ ツ ポ ツ と で も ,ま あ ,い い こ と も あ る 。 ま あ ,あ
っ た と 思 う し ,な い わ け じ ゃ な か ろ う し っ て い う こ と で ,真 珠 を 置 い た り し ま し た ( B 氏 自
発 ,3-35)と 語 っ た 。
調 査 的 説 明 過 程 で ,筆 者 は B 氏 に 作 っ て み て 意 外 な も の は あ っ た か 質 問 し た 。そ れ に 答 え
て B 氏 は 以 下 の よ う に 述 べ た 。 真 珠 と か ,ポ ス ト と か ,雨 の 降 っ て る と い う 状 態 の と ,木 っ
て い う と こ ろ で 。ま あ ,こ の 真 珠 で 埋 め 尽 く さ れ る よ う な こ と は あ の 全 然 思 っ て も み な い ん
だ け ど 。ぽ つ り ぽ つ り と ,い い こ と も あ る か な と か 。ま あ ,な ん か ,思 わ ぬ ,そ の ,悪 い 出 来 事
じ ゃ な い 意 味 で ぽ つ ぽ つ と 自 分 自 身 に な ん か 知 ら せ て く れ る よ う な ,な ん か ニ ュ ー ス な り
と か も 起 こ る か と か 。 ま あ ,雨 降 っ て と い う と こ で の ,な ん か ,み ず み ず し さ と か ,う る お い
と か も 含 め て 。 そ う い う こ と も ,そ れ こ そ 自 然 っ て い う か 。 そ う い う 中 で ,起 こ っ て く る こ
と も あ る ん だ よ な 。 だ か ら ,こ の あ た り の こ と ,む し ろ ,あ る 意 味 ,生 き て れ ば ,う ん ,誰 に と
っ て も 起 こ り う る ,そ う い う ,な ん か ,自 然 の 理 っ て い う か 。 そ う い う と こ ろ の 中 の も の も ,
う ん ,な ん か ,改 め て 思 い 起 こ す こ と が で き た と い う か 。そ ん な 感 じ で す ね 。あ 。も う 一 つ 。
遊 び を 入 れ な き ゃ い か ん と い う こ と を (笑 )( B 氏 調 査 ,3-全 体 的 感 想 )。 こ の 語 り で は ,箱 庭
- 209 -
制 作 に よ っ て ,意 外 な 構 成 か ら 自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き が あ っ た こ と が 示 さ れ た 。そ れ
は ,ポ ス ト や 真 珠 や 雨 ( ガ ラ ス の 粒 )や ミ ニ カ ー を 用 い た 構 成 に 関 す る 主 観 的 体 験 で あ っ た 。
こ れ ら の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 は ,山 あ り ,谷 あ り ,障 壁 も あ り と い う 生 き 様 を 補 償 す る よ
う な も の で あ り ,今 後 の 課 題 で あ る ,と 捉 え ら れ る 。
4)第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 37)
B 氏 は 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 左 奥 隅 の ロ ッ キ ン グ チ ェ ア に 立 つ 自 己 像 で あ る 星 の 王
子 様 が ,思 い 出 の 土 地 や そ こ に 住 む 人 々 を 眺 め て い る と い う 構 成 を 行 っ た 。主 な 箱 庭 制 作 過
程 を 示 す 。 箱 庭 制 作 過 程 2 と 制 作 過 程 3 で ,ロ ッ キ ン グ チ ェ ア を 選 び ,砂 箱 の 左 奥 隅 に 置 い
た 。そ の 後 ,赤 い 橋 を 砂 箱 中 央 に 置 く (制 作 過 程 5),橋 の 上 に 牛 を 置 く (制 作 過 程 8),河 ,海 を 作
り , そ の 砂 を 陸 に 寄 せ る ( 制 作 過 程 9), 海 に イ ル カ ,陸 の 右 側 に ト ン ボ , 海 に 水 鳥 を 置 く (制 作
過 程 13)な ど の 構 成 を 行 っ た 。
B 氏 は ,制 作 を 続 け る 中 で 構 成 さ れ た 風 景 か ら ,「 確 か こ ん な 風 景 あ っ た ぞ 」 と ,か つ て 行
っ た こ と の あ る 土 地 や そ こ に い た 人 々 の こ と を 思 い 出 し た 。 そ の 後 ,以 下 に 記 す よ う に ,意
図 的 に ,そ の 土 地 や そ こ に い る 人 々 に 関 連 す る 構 成 を 行 っ て い っ た 。 箱 庭 制 作 過 程 14 と 制
作 過 程 15 で ,怒 っ て い る 人 や 寝 て い る 人 な ど の 人 形 を 4 体 選 び ,砂 箱 右 側 の 陸 に 人 形 を 置 い
た 。そ の 後 ,右 側 の 陸 に 樹 木 (制 作 過 程 17),右 側 の 陸 に 建 物 (制 作 過 程 19),右 側 海 岸 沿 い に
船 (制 作 過 程 27),右 側 陸 の 人 形 の 近 く に ミ ッ キ ー マ ウ ス (制 作 過 程 30),左 側 陸 に バ ス を 置
い た (制 作 過 程 31)。 牛 を バ ス の 近 く に 移 動 し た (制 作 過 程 38)。 制 作 過 程 41 と 制 作 過 程 42
で , 星 の 王 子 様 を 選 び ,ロ ッ キ ン グ チ ェ ア に 星 の 王 子 様 を 置 い た 。 制 作 過 程 44 で , 右 側 陸
の 人 形 の 近 く に 下 駄 箱 を 置 き ,箱 庭 制 作 を 終 了 し た 。
B 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り を 記 す 。ロ ッ キ ン グ チ ェ ア に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程 で 私 自
身 の 気 分 が ま あ ,ゆ っ た り と し て い ら れ る よ う な ,そ う い っ た 気 分 が あ っ た ん だ と 思 い ま す 。
そ れ で ,こ う い う ロ ッ キ ン グ チ ェ ア ー み た い な ,そ の ,あ の ,座 っ た 時 に は ゆ ら ゆ ら し て く つ
ろいでいられるようなものを置き
ま し た( B 氏 自 発 ,4-2)と 語 っ た 。
例 え ば ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,
日常生活における困難に関する苦
しさが一つのテーマとなった。し
か し ,今 回 は そ れ と は 異 な り ,ゆ っ
たりとしていられるような気分で
あ っ た こ と が ,構 成 に 影 響 し て い
た。
箱 庭 制 作 過 程 14 以 降 に 構 成 さ
れ た ,か つ て 行 っ た こ と の あ る 土
地やそこにいた人々が自分に与え
た 影 響 に つ い て ,自 発 的 説 明 過 程
写 真 37
で ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 例 え ば ,
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B 氏第 4 回作品
人 と 人 の つ な が り で あ っ た り と か 。 ま あ ,そ の ,自 然 っ て い う で し ょ う か 。 そ う い う 風 景 だ
と か ,と い う と こ で 。 あ あ い う 世 界 と か ,そ の ,人 と の 関 係 と っ て い う の が ,自 分 に と っ て ,
あ の ,ま あ , 心 地 よ い っ て い う か , そ う い う 世 界 な ん だ な っ て い う の を ,こ の ,連 想 っ て い う
か ( B 氏 自 発 ,4-複 数 過 程 に 亘 っ て )。 そ の 土 地 や そ こ で の 人 々 と の つ な が り の 中 で ,自 分 が
心 地 よ く ,く つ ろ い で い た 感 覚 を 思 い 起 し た 。 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,信 仰 や 宗 教 性 を 巡
る 言 及 は 直 接 的 に は な か っ た 。 し か し ,B 氏 が 心 地 よ い と 感 じ ,く つ ろ ぐ こ と が で き た 人 々
は ,キ リ ス ト 教 精 神 を 一 つ の 重 要 な 基 盤 と し て も つ 施 設 の 人 々 で あ っ た 。
5)第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 38)
B 氏 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 作 品 は ,日 常 生 活 で の 苦 し い 状 況 が 色 濃 く 反 映 さ れ た も の
と な っ た 。 主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。 箱 庭 制 作 過 程 1 と 制 作 過 程 2 で ,星 の 王 子 様 ,小 人 ,な
げ き 悲 し む 人 を 選 び ,砂 箱 中 央 と 砂 箱 中 央 奥 に 置 い た 。制 作 過 程 3 と 制 作 過 程 4 で , ル ー ペ
を 選 び ,ル ー ペ を 星 の 王 子 様 の 前 に 置 い た 。
箱 庭 制 作 過 程 5 か ら 制 作 過 程 8 に 亘 っ て ,針 葉 樹 を 砂 箱 の 四 隅 に 置 い た 。
砂 箱 手 前 の ,星 の 王 子 様 の 背 後 に は ,教 会 (制 作 過 程 10), 橋 と 大 砲 (制 作 過 程 12),ワ ニ と 小
瓶 (制 作 過 程 16),ベ ッ ド に 横 た わ る タ キ シ ー ド を 着 た 人 形 (制 作 過 程 18),子 ど も の 人 形 (制 作
過 程 20)な ど を 置 い た 。
箱 庭 制 作 過 程 22 で , 針 葉 樹 を 砂 箱 四 隅 に 追 加 し て ,箱 庭 制 作 を 終 了 し た 。
B 氏の主な主観的体験の語りや記述を記す。砂箱の奥の構成と星の王子様とルーペに関
し て ,自 発 的 説 明 過 程 で ち ょ っ と 怒 っ て い る 自 分 と か ,悲 し い な と い う 自 分 や ,ぽ か し ち ゃ
っ た と こ ろ だ と か ,ち ょ っ と な ん か の ん び り し た い っ て い う と こ だ と か ,あ の ,え い や ー と
か い う 感 じ と か 。 そ う い う 気 持 ち が 入 り 混 じ っ て い う よ う な と こ ろ を (中 略 )そ う こ と を 感
じ て い る よ う な 自 分 を 覗 き 込 む よ う な ,そ う い う 姿 が あ っ て ( B 氏 自 発 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ
て )と 語 っ た 。星 の 王 子 様 と ル ー ペ に つ い て 内 省 報 告 に ,抑 圧 的 で 観 察 的 な 感 情 感 覚( B 氏
内 省 ,5-4,調 査・感 覚 )と 記 し た 。
砂箱奥に, ネガティブな要素も
含んだ自分に渦巻く情緒が構成
さ れ ,中 央 の 星 の 王 子 様 が そ れ
を抑圧的に観察していた。
星の王子様の背後に置かれた
教 会 , 橋 ,大 砲 , ワ ニ ,小 瓶 , ベ
ッドに横たわるタキシードを着
た 人 形 ,子 ど も の 人 形 の 構 成 に
関して, B 氏は自発的説明過程
で い ろ い ろ と あ っ て ,( 中 略 ) 渡
っていかなきゃいけないという
と こ の 橋 も あ る し ,ま あ ,あ の ,
写 真 38
気を緩められないということで。
- 211 -
B 氏第 5 回作品
こ う い っ た い つ ,あ の ,し ん ど い 立 場 に ,攻 撃 を さ れ な い と い け な い よ う な 緊 張 感 も あ る し 。
体 調 の 悪 さ と い う と こ も あ る し 。時 間 に 追 わ れ る と か ,(中 略 )い っ ぱ い 抱 え て て 。で ,ま あ ,
も ろ も ろ の こ と が あ っ て ,今 ,こ う い う 気 持 ち が ,ま あ ,な ん か , あ る ん だ な ー と か っ て い う
の を ,な ん か ,表 現 し た か な っ て い う 感 じ で す ( B 氏 自 発 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。
砂 箱 中 央 手 前 に 置 か れ た ワ ニ は ,B 氏が被っている攻撃性が表現されていた。この結
構 口 が 目 に つ い て 。あ れ よ り ,も う 少 し ,今 日 な ん か 見 た 感 じ が ,そ の ,ガ ブ ッ と ,い う よ う な
‘ 笑 ’。そ の ,印 象 を 受 け て( B 氏 調 査 ,5-15)と 語 っ た 。第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で 置 い た イ グ
ア ナ よ り も ,今 回 の ワ ニ の 方 が 「ガ ブ ッ 」と 噛 み つ く 印 象 が よ り 強 い こ と が 語 ら れ た 。こ れ ら
の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て 内 省 報 告 に 自 分 の 背 後 に あ る 念 慮 し て い る こ と( B 氏 内 省 ,5 -複 数
過 程 に 亘 っ て ,制 作 ・ 意 図 ) と 記 さ れ た 。 B 氏 は 自 身 の 体 調 が す ぐ れ ず ,仕 事 上 の 困 難 を 抱
えていた。
し か し ,そ の よ う な 困 難 な 状 況 の 中 で も ,そ れ に 向 き 合 お う と す る B 氏 の 思 い が 調 査 的 説
明 過 程 で ,以 下 の よ う に 語 ら れ た 。 結 構 仕 事 と か ( 中 略 ) い ろ い ろ あ る 中 で ,体 調 も す ぐ れ
な く て ,今 も ,い ,痛 み が あ る ん で す け ど 。
( 中 略 )攻 撃 性 の 強 い 方 だ と か ,そ う い っ た と こ ろ
で ,随 分 ,消 耗 し て い て 。(中 略 )背 負 っ て い る も の も い ろ い ろ あ る 中 で ,っ て い う 中 で 。う ん 。
い る ん だ な っ て 。な ん か ,作 っ て 自 分 で も 。わ り あ い 冷 静 で い る と い う か 。ひ ど く 落 ち 込 む
と か ,怒 り 狂 っ て ,投 げ 出 し て や る っ て い う 風 で は な く て 。ま あ ,あ の ,う ん ,あ の い ろ い ろ あ
る け ど ,う ん ,し ょ う が な い な と い う 部 分 と ,ま あ ,ち ゃ ん と 時 間 か け ら れ れ ば ,ま あ ,で き ん
こ と は な い わ っ て い う よ う な , そ う い う よ う な 感 覚 と か , と い う こ と で あ っ て ,わ り あ い 冷
静 で い る っ て い う か ( B 氏 調 査 ,5-全 体 的 感 想 )。 仕 事 上 の こ と で 背 負 っ て い る も の が た く
さ ん あ り ,体 調 も 悪 い 中 で ,B 氏 は さ ら に 別 の 乗 り 越 え る べ き 課 題 を も 抱 え て い た 。 し か し ,
そ れ ら に 対 し て ,ひ ど く 落 ち 込 む と か ,投 げ 出 す と か と い う 姿 勢 で は な く ,わ り と 冷 静 に 事 態
に 向 き 合 っ て い る こ と が 示 さ れ た 。 筆 者 に は ,B 氏 が 現 状 や 自 分 自 身 に 真 摯 に 向 き 合 い ,関
わっているように感じられた。
第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,B 氏 の 上 に 示 し た こ と と は 違 う 側 面 に つ い て の 気 づ き も 現 れ た 。
B 氏 は ,針 葉 樹 を 砂 箱 四 隅 に 置 い た 。 そ の 構 成 に つ い て ,調 査 的 説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語
っ た 。こ れ ま で の 制 作 の 時 に ,私 自 身 ,傾 向 か な っ て 思 う と こ ろ で も あ る ん で す け ど 。こ の ,
こ う や っ て 出 て き た も の を ,四 隅 ま で こ の 全 面 に 張 り 巡 ら せ る っ て い う ほ ど の ,私 自 身 が ,
馬 力 が な い で し ょ う か ね 。(中 略 )四 角 い 枠 を 森 を 作 る こ と で ,丸 い 枠 に 限 定 し て ,う ん ,世 界
を 作 っ て る か な と い う 。 (中 略 )た ぶ ん ,も っ と ,そ の 馬 力 が あ れ ば ,こ の ,ガ シ ッ と も っ と 置
く 力 の あ る 人 も い る の か な と 思 う ん で す け ど 。ど う も 私 は ,う ん 。四 隅 ぎ り ぎ り ま で も の を
置 く っ て い う ,そ の ,う ん ,強 さ が な い よ う な 気 が し ま す ( B 氏 調 査 ,5-複 数 過 程 に 亘 っ て )。
そ の 構 成 に つ い て 内 省 報 告 に 無 意 識 の 領 域 ( B 氏 内 省 ,5-6,制 作 ・ 意 図 ) ,今 は 脇 に 追 い や
ら れ て い る 諸 々 の 心 の 部 分( B 氏 内 省 ,5-6,制 作 ・ 感 覚 )と 記 さ れ た 。B 氏 は ,こ の 構 成 に 関
し て ,四 隅 ぎ り ぎ り ま で 構 成 す る 強 さ ・ 馬 力 が 自 分 に は な い と い う 自 分 の 特 性 だ ,と 語 っ た 。
こ れ に 類 似 の ,森 に よ っ て 区 切 り が で き る と い う 構 成 は ,第 2 回 お よ び 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接
に も 表 れ て い た 。 し か し ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 以 降 は ,四 隅 に 森 を 作 る こ と で ,丸 い 枠 に 限 定
するといった構成は現れなかった。
- 212 -
6)第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 39)
B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 作 品 は ,今 ま で の 作 品 と は 構 成 が 大 き く 異 な っ て い た 。作
品 の テ ー マ は ,再 生 で あ っ た 。主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。箱 庭 制 作 過 程 5 で イ ル カ を 左 奥 隅
の 海 に 置 い た 。制 作 過 程 7 で 島 の 中 央 や や 上 の あ た り か ら 中 央 に 樹 木 を 横 に 倒 し て 置 い た 。
制 作 過 程 9 で 海 草 を 島 の 下 方 の 浜 辺 に 置 き ,針 葉 樹 を 島 に 点 在 さ せ た 。 制 作 過 程 11 で 鳥 の
巣 を 島 の 中 央 の 林 の 横 に 置 い た 。制 作 過 程 13 で 島 の 左 側 に 石 仏 を 埋 め た 。制 作 過 程 20 で
埴 輪 を 島 中 央 の 上 の 部 分 に 埋 も れ さ せ た 。制 作 過 程 22 で ,埴 輪 の 右 横 に ガ ラ ス 片 ,真 珠 の 一
部 が 埋 ま る よ う に 置 い た 。 制 作 過 程 24 で 亀 ,魚 を 右 側 の 海 に 置 い た 。
B 氏 の 主 な 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 記 す 。今 回 の 箱 庭 制 作 過 程 に つ い て ,B 氏 は 自 発 的
説 明 過 程 で 以 下 の よ う に 語 っ た 。気 持 ち 的 に は ,再 生 し て い く ,と い う 印 象 ,気 持 ち が あ っ て 。
だ か ら ,そ う い う よ う な と こ ろ で は , そ う い う 木 々 が 生 え て き て , 草 が ,実 の ( ? ),生 え て き
て , 多 少 な り と も , 実 の な る も の を こ う や っ て つ い て い る よ う な 状 況 の 中 で ,鳥 も や っ て き
て ,巣 を 作 っ た り と か と い う も の を ,そ の ,こ の 中 心 に 置 き た か っ た と 。(中 略 )再 生 と い う こ
と を い っ た ん で す け ど , そ う い う 意 味 で は , 昔 ,い ろ い ろ ,人 が 住 ん だ り ,な ん か や っ て た と
い う 。そ う い う 痕 跡 み た い な も の が 。そ の ,そ う で す ね 。こ の 遺 跡 に 近 い よ う な 。遠 い 昔 に
そ う い う 風 に あ っ た け れ ど も , な ん ら か の 理 由 で う ち 捨 て ら れ て 。 で も ,し ば ら く 経 っ て ,
ま あ ,あ の ,自 然 み た い な も の ,環 境 も 落 ち 着 い て ,草 木 が 萌 え 出 て ,鳥 も や っ て き て 。そ の 周
り で は ,こ の 陸 地 の こ と や 状 況 と 関 係 な く ,ま あ ,そ の ,海 に 生 き る も の は ,そ れ ま で 通 り , ず
ー ー と そ の ,生 活 を し て る 。 そ う い う 営 み が あ っ て っ て い う 。 そ う い う ,状 況 を 作 り ま し た
ね ( B 氏 自 発 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て )。 島 の 中 央 の 木 々 ,周 辺 部 の 木 々 ,鳥 は ,再 生 と い う イ メ
ー ジ が 付 与 さ れ た ,と 捉 え る こ と が で き る 。再 生 が 中 心 部 か ら 周 辺 へ 広 が っ て い っ た 。そ し
て ,海 の 生 き 物 は ,石 仏 や 埴 輪 に 表 さ れ た 人 の 営 み の 遺 跡 や 陸 地 の 状 況 と は 関 係 な く ,そ れ ま
で 通 り に ず っ と 生 活 し て い る と い う イ メ ー ジ が 付 与 さ れ た ,と 考 え ら れ る 。 つ ま り ,こ の 構
成 に は ,中 央 か ら 周 辺 へ と い う 空
間的広がりが表現された。また,
過去・現在・未来(再生の継続)
と い う 時 間 軸 ,陸 地 と は 関 係 な く
ずっと続いている海の営みという
時間の多様性が表現されている,
と捉えられる。
第 6 回箱庭制作面接の特徴の一
つ と し て ,直 接 的 に 表 現 さ れ た 自
己 像 が な い 点 ,ま た ,自 分 個 人 の 特
性への気づきがほとんど報告され
ない点が挙げられる。この回で,
自分自身との関連が語られたのは,
写 真 39
以下の部分である。調査的説明過
- 213 -
B 氏第 6 回作品
程 で ,筆 者 が ,再 生 す る と い う こ と に つ い て の 連 想 を 尋 ね る と ,B 氏 は 最 近 の 生 活 の 中 で 取 り
組 み は じ め た こ と や 気 持 ち の 回 復 に つ い て 述 べ た 。そ の 後 ,筆 者 が こ の 箱 庭 に お け る 再 生 は
ど れ く ら い の 年 限 が か か っ て 起 こ っ て き た も の か を 尋 ね た 。 す る と ,B 氏 は ,自 分 自 身 で も
矛 盾 す る よ う だ が と 言 い つ つ ,中 央 部 の 再 生 は 感 覚 的 に は 1 年 と か 2 年 と い う わ り と 短 い 期
間 に 起 こ っ た も の で あ る こ と ,し か し ,人 の 痕 跡 は ,何 十 年 ,何 百 年 前 に 自 分 と は 無 関 係 に 作
ら れ た も の が 風 に 吹 か れ ,波 に 洗 わ れ て 出 て き た も の と い う イ メ ー ジ が あ る と 語 っ た 。そ の
よ う な 構 成 や 語 り に つ い て ,内 省 報 告 に 人 と し て の 自 分 ( B 氏 内 省 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調
査 ・ 意 味 ) ,人 の 歩 み の 歴 史 ( B 氏 内 省 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査 ・ 意 味 ) と 記 し た 。 そ し
て ,第 6 回 ふ り か え り 面 接 で は ,以 下 の よ う に 語 っ た 。 [感 覚 的 に は 1 年 と か ,割 合 身 近 な 感
覚 が あ る っ て い う こ と で 。ま あ ,片 っ 方 で は 自 分 自 身 の 変 化 の 兆 し か な と か っ て い う こ と だ
け ど も ,も う 片 っ 方 で は ,昔 か ら 人 の 営 み は 変 わ ら な い の と ,こ う い う こ と を 繰 り 返 し て き た
ん だ ろ う っ て い う ,人 と し て の 自 分 と か ,人 の 歩 み の 歴 史 っ て い う こ の 両 方 が ,な ん か (中 略 )
そ こ に あ る か な ー っ て ,意 味 と し て 。 < 人 と し て の 自 分 っ て い う の は > と い う の は ,今 ,こ の
な ん か , 意 欲 が 戻 り つ つ あ る の か な ー っ て い う 自 分 自 身 と , ま あ ,人 一 般 に 置 き 換 え れ ば , い
ろ ん な こ と あ る け れ ど ,こ う い う こ と を 繰 り 返 し て ,あ の ,来 て る っ て い う の が ,人 の 歩 み か
な 。 そ う い う も の が ,そ の 両 方 ,こ の ,遺 跡 と ,こ の 木 の 再 生 っ て い う の を ]。 B 氏 は ,こ れ ら の
表 現 に つ い て ,意 欲 が 戻 り つ つ あ る 今 の 自 分 に 関 連 さ せ て い る 。 し か し ,主 要 な 力 点 は 昔 か
ら 変 わ ら な い よ り 普 遍 的 な 意 味 で の 人 の 歩 み の 方 に あ っ た ,と 捉 え ら れ る 。 つ ま り ,こ の 回
の 全 体 の 文 脈 と し て は ,B 氏 は 個 人 的 存 在 と し て の 自 分 に 触 れ つ つ も ,人 の 歴 史 の 中 に 位 置
づ い て い る 存 在 と し て の 自 分 に ,よ り 焦 点 化 さ れ て い る ,と 考 え る こ と が で き る 。
7)第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 40)
B 氏 は 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,4 つ の 区 画 を 作 る と と も に 中 央 に 十 字 形 の 構 成 を 行 っ た 。
4 つ の 区 画 は ,そ れ ぞ れ が 小 さ な 箱 庭 の よ う な 感 じ も あ っ た 。 そ の 後 ,そ れ ぞ れ の 区 画 に ,四
季を表現していった。さらに四季
と い う 表 現 か ら ,巡 っ て い る と い
うイメージが湧いてきた。主な箱
庭制作過程を示す。箱庭制作過程
2∼ 5 に 亘 っ て ,ケ ー ス の 蓋 (真 珠 を
収 納 し て い る ケ ー ス の 蓋 。
9cm×6cm 大 の プ ラ ス チ ッ ク 製 )で
砂 を な ら し ,砂 箱 中 央 に 十 字 形 に
水源様の水を深く掘った。
砂箱左奥の区画に花を植えた
(箱 庭 制 作 過 程 7),花 を 左 奥 の 区 画 ,
椰子の木を左手前の区画に置いた
( 制 作 過 程 9) 。 ガ ラ ス 片 を 左 手 前
写 真 40
の 区 画 に 置 い た (制 作 過 程 11)。 獅
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B 氏第 7 回作品
子 舞 の 頭 部 を 左 手 前 の 区 画 に 置 い た (制 作 過 程 13)。貝 殻 と 帽 子 を 左 手 前 の 区 画 に 置 い た (制
作 過 程 15)。 白 色 の 石 と ク リ ス マ ス ツ リ ー を 右 奥 の 区 画 に 置 い た (制 作 過 程 17)。右 手 前 の
区 画 に 合 掌 造 り の 家 を 2 軒 置 い た (制 作 過 程 19)。左 奥 の 区 画 に リ ス を 置 い た (制 作 過 程 21)。
ク リ ス マ ス キ ャ ロ ル を 歌 う 人 た ち を 右 奥 の 区 画 に 置 い た (制 作 過 程 23)。 実 の な っ た 木 を 右
手 前 の 区 画 に 置 い た (制 作 過 程 25)。左 手 前 の 区 画 に 水 着 の 女 性 を 置 い た (制 作 過 程 27)。 馬
車 に 乗 る 人 を 右 手 前 の 区 画 に 置 い た (制 作 過 程 29)。鳥 を 左 奥 の 区 画 に 置 い た (制 作 過 程 31)。
金 魚 を 左 手 前 の 区 画 に 置 い た (制 作 過 程 33)。裸 の 男 子 の 人 形 を 左 手 前 の 区 画 に 置 い た (制 作
過 程 35)。 制 作 過 程 37 で ,白 い 石 を 右 奥 の 区 画 に 置 き ,箱 庭 制 作 を 終 了 し た 。
B 氏の主な主観的体験の語りや記述を記す。砂箱中央の十字形の水源について調査的説
明 過 程 で 少 し だ け , こ の と こ ろ を も っ と こ の , 円 形 状 に ,こ う い う 風 に や っ て , 丸 こ く , 池 み
た い な と こ を ,作 ろ う か な ,と か っ て 思 っ た ん で す 。 で も ,あ の ,そ ん な に ,こ う 前 面 に ,な ん
か ,こ の 部 分 が あ る っ て い う よ り か ,ま あ ,そ の ,背 後 と か ,根 底 と か に あ っ て ,っ て い う よ う
な( B 氏 調 査 ,7-5)と 語 っ た 。内 省 報 告 に 背 後 ,根 底 に あ る も の の イ メ ー ジ( B 氏 内 省 ,7-5,
調 査 ・ 感 覚 ) ,中 心 ・ 深 部 ( B 氏 内 省 ,7-5,制 作 ・ 意 味 ) と 記 し た 。 B 氏 は こ の 構 成 に 関
し て ,十 字 形 で は な く ,円 形 の 池 に よ う に し よ う か と も 思 っ た 。 し か し ,そ う す る と ,こ の 部
分 が 前 面 に 出 て し ま う イ メ ー ジ と な り ,し っ く り こ な か っ た 。 そ の た め ,こ の 部 分 は ,背 後 ,
根 底 に あ り ,周 り の 4 つ の 区 画 の 意 味 が 現 れ 出 る も の と い う イ メ ー ジ に ぴ っ た り す る ,十 字
形 に 構 成 し た ,と 捉 え ら れ る 。
この十字形の構成について, B 氏は調査的説明過程で以下のように語った。それをどう
い う 風 に 表 現 す る か ,っ て い う の は ,な ん か 微 妙 な ん で す け ど ね 。え え ,例 え ば ,あ の ,宗 教 的
に ,そ の 神 様 と か 仏 様 と か っ て い う よ う な も の と も 言 え る だ ろ う し 。(中 略 )地 球 を 動 か す よ
う な ,そ う い っ た 力 だ と か ,言 え る だ ろ う し 。で も ,気 持 ち の ,内 的 に は ,そ う い う こ と を 見 さ
せ る 自 分 の 中 に あ る ,な ん か ,う ん ,さ あ ,ま た ,新 し い 年 度 を や っ て い く か ,と い う 気 持 ち を
起 こ さ せ る , 自 分 自 身 の な ん か ,内 に あ る よ う な も の を , な ん か , あ の , 現 実 の 四 季 と か じ ゃ
な く て ,こ う い う も の を 見 さ せ る ,あ の 自 分 の 感 覚 の 奥 に あ る も の み た い な 。 そ う い う も の
も あ る し っ て 。で ,そ う す る と ,な ん か 表 現 し が た い な っ て い う か( B 氏 調 査 ,7-全 体 的 感 想 )。
内 省 報 告 に 自 然 に 宿 る 中 心 ,意 識 に 宿 る 中 心 の イ メ ー ジ( B 氏 内 省 ,7-5,調 査 ・ 感 覚 ),生 命
( B 氏 内 省 ,7-5,調 査 ・ 連 想 ) ,不 思 議 ( B 氏 内 省 ,7-5,調 査 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 十 字 形 の 部
分 は , 神 様 や 仏 様 と い う 直 接 的 な 宗 教 的 イ メ ー ジ に と ど ま ら ず ,巡 る と い う 客 観 世 界 の 動
き の 中 心 や 核 に な る も の で あ り ,動 き を 意 識 し て い る 自 分 の 核 で も あ っ た 。客 観 的 時 間 の 中
心 で も あ り ,時 間 の 変 化 を 見 さ せ , 新 し い 年 度 へ の 気 持 ち を 起 こ さ せ る よ う な 感 覚 の 奥 に
存在する自分の内的な核でもあるという多義的な表現であった。
4 つの区画の構成について, 以下のような B 氏の主観的体験が報告された。左奥の春の
区画に関して, B 氏は自発的説明過程で以下のように語った。これから春に向かっていく
んだなーって感じて。それで四季を作りたくなったんですけども。その四季を作りたくな
っ て ,っ た と こ ろ も ,あ る ん で す け ど 。 同 時 に ,そ れ が ,あ の 巡 っ て る っ て い う ん で し ょ う か
(手 を 空 中 で 左 周 り に 円 を 描 き つ つ )。(中 略 )そ う い う ,あ の イ メ ー ジ も 湧 い て き ま し て 。で ,
そ れ で ,そ う い う イ メ ー ジ の 中 で ,春 っ て (中 略 )い う こ と で ,花 が 咲 い て く る と か ,動 物 が ひ
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ょ っ こ り 顔 ,出 し て く る と か ,鳥 が 飛 び か う と か ( B 氏 自 発 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て )。 花 に 関
し て 内 省 報 告 に 再 生 ( B 氏 内 省 ,7-7,制 作 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。
左手前の夏の区画に関して, B 氏は自発的説明過程で以下のように語った。夏のイメー
ジ に あ う よ う な そ う い う 木 と か , 夏 祭 り の イ メ ー ジ だ と か (中 略 )海 と か の 海 岸 の イ メ ー ジ
が 結 び つ い て 。 そ れ で ,貝 殻 と か ,そ の 夏 向 き の よ う な イ メ ー ジ を 抱 か せ る よ う な 帽 子 だ と
か 。 (中 略 )夏 の 風 物 詩 の イ メ ー ジ の 金 魚 ( B 氏 自 発 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て )。
右 手 前 の 秋 の 区 画 に 関 し て , B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で や や 枯 れ た イ メ ー ジ だ と か ,あ と ,
秋 に 実 が な る も の と か 。 (中 略 )そ う い っ た 枯 れ た イ メ ー ジ の と こ ろ で ,な ん か ,黙 々 と 働 く
人 が い た り ( B 氏 自 発 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。
右奥の冬の区画に関して, B 氏は自発的説明過程で冬のイメージというようなとこで。
そ の ク リ ス マ ス ツ リ ー じ ゃ な く て も よ か っ た ん で す け ど ,雪 が ,そ の ,か ぶ っ た よ う な と か 。
(中 略 )白 い ,そ の 雪 が か ぶ っ た よ う な 石 ( B 氏 自 発 ,7-複 数 過 程 に 亘 っ て ) と 語 っ た 。
8)第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 (写 真 41)
第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 と 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 間 に ,予 想 し な か っ た 転 任 の 打 診 が B 氏 に
あ っ た 。 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,B 氏 の 転 任 が ,ほ ぼ 決 ま っ た 後 に 行 わ れ た た め ,構 成 内 容 は
そ れ が 強 く 反 映 し た も の と な っ た 。主 な 箱 庭 制 作 過 程 を 示 す 。箱 庭 制 作 過 程 1 か ら 3 に 亘
っ て ,船 出 し て い く イ メ ー ジ が 湧 い た た め 船 を 選 び ,砂 箱 左 側 中 央 か ら 砂 を 掘 り ,そ こ へ 船 を
置 い た 。 制 作 過 程 4 で ,さ ら に 砂 を 掘 り 左 側 か ら 右 に 広 げ ,銀 杏 の 葉 の よ う な 形 に 掘 っ た 。
制 作 過 程 5 で ,右 側 に 海 を 作 っ た 。七 福 神 の 宝 船 を 海 に 置 い た (制 作 過 程 6)。陸 に 木 を 植 え (制
作 過 程 8), イ ル カ を 海 に 置 い た (制 作 過 程 12)。 ガ ラ ス の 小 瓶 を 砂 箱 左 に 置 い た (制 作 過 程
14)。ル ー ペ を 砂 箱 中 央 に 置 き (制 作 過 程 16),そ れ を 覗 く よ う に 小 人 を 置 い た (制 作 過 程 18)。
人 を 導 く 天 使 を 制 作 過 程 19 で 選 び ,制 作 過 程 20 で そ れ を 小 人 の 背 後 に 置 い た 。 ほ う き に
ま た が っ た 人 を 手 前 の 丘 に 置 い た (制 作 過 程 22)。海 に 生 き 物 を 加 え た (制 作 過 程 24)。 制 作
過 程 26 で ,船 を 砂 箱 右 奥 に 置 き ,
最後に七福神の宝船の位置を修
正 し て ,箱 庭 制 作 を 終 え た 。
B 氏の主な主観的体験の語り
や記述を記す。海の七福神の宝
船やイルカなどの構成につい
て ,B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 以
下のように語った。いろいろな
も の が 行 き か っ て て ,そ の ,全 く
の ,な ん に も 無 し の 先 に 行 く っ
ていうことじゃなくて。おもし
ろ い こ と だ と か ,い ろ ん な そ の ,
収穫みたいなものがありそうな。
写 真 41
そ う い う ,期 待 ( B 氏 自 発 ,8-複
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B 氏第 8 回作品
数 過 程 に 亘 っ て )。 こ れ ら の 構 成 に は ,転 任 や 将 来 へ の 期 待 が 示 さ れ た 。
ガ ラ ス の 小 瓶 に つ い て , B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 船 で 出 て い く っ て こ と の 中 に ,置 い て い
く も の と か ,い ろ ん な こ と が あ る ( B 氏 自 発 ,8-13) と 語 り ,内 省 報 告 に 想 い 出 ( B 氏 ,8-13,
制 作 ・ 意 図 ) ,一 旦 ,置 い て い か な け れ ば な ら な い モ ノ ( B 氏 ,8-13,制 作 ・ 感 覚 ) ,未 練 ( B
氏 ,8-13,制 作 ・ 連 想 ) と 記 し た 。 今 い る 土 地 で の 人 と の 繋 が り や 仕 事 か ら 離 れ な け れ ば な
らないことへの未練が示された。
ル ー ペ と そ れ を 小 人 が 覗 く 構 成 に つ い て ,先 に 何 が あ る の か な と か っ て い う と こ ろ を ,の
ぞ き 見 る っ て い う と こ ろ な ん だ け ど も ,や あ あ ,困 っ た こ と に な っ た な ー と い う 自 分 自 身 も
あ る( B 氏 自 発 ,8-複 数 過 程 に 亘 っ て )と 語 り ,内 省 報 告 に ,将 来 を 見 つ め つ つ 迷 う( B 氏 ,8 -18,
制作・意図)と記した。
人 を 導 く 天 使 に つ い て , B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 心 配 せ ず に ,(中 略 )導 か れ る ま ま に 行 き
な さ い っ て い う よ う な ,あ の ,そ う い っ た も の も 感 じ る( B 氏 自 発 ,8-19)と 語 っ た 。内 省 報
告 に 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。 不 思 議 な 導 き と 信 頼 ( B 氏 内 省 ,8-19,制 作 ・ 意 図 ) ,信 仰 と 信
頼( B 氏 内 省 ,8-19,制 作 ・ 感 覚 ),委 ね る( B 氏 内 省 ,8-19,制 作 ・ 連 想 )。今 回 の 転 任 に あ た
っ て ,B 氏 は 不 思 議 な 導 き を 感 じ た 。 そ し て 自 己 の 信 仰 を 基 盤 と し て ,導 か れ る ま ま に 委 ね
て 進 む こ と を 選 ん だ ,と 捉 え ら れ る 。
ほうきにまたがった人について, B 氏は自発的説明過程で簡単にはそういう風にはいか
せ な い ぞ っ て い う よ う な ,そ う い う よ う な も の も 感 じ る ( B 氏 自 発 ,8-21) と 語 り ,内 省 報 告
に 追 い か け ら れ る ,阻 止 さ れ る( B 氏 ,8-21,制 作 ・ 意 図 ),抵 抗( B 氏 ,8-21,制 作 ・ 感 覚 )と
記 し た 。 B 氏 が 転 任 す る こ と に 対 し て ,一 部 の 人 か ら 抵 抗 が あ る こ と が 示 さ れ た 。
箱 庭 制 作 過 程 26 の 船 の 構 成 つ い て B 氏 は 自 発 的 説 明 過 程 で 出 て い く の は 自 分 だ け で は
な く ,他 の ,あ の ,い ろ ん な 方 も ,あ の ,居 て っ て い う 感 じ で 。 ま あ ,こ の 楽 し い こ と も あ る か
な( B 氏 自 発 ,8-26)と 語 り ,内 省 報 告 に 仲 間 や 共 通 の 関 心 が あ る 人 々 の イ メ ー ジ( B 氏 ,8-25,
制 作 ・ 意 図 ) ,安 心 感 ( B 氏 ,8-25,制 作 ・ 連 想 ) と 記 し た 。 最 後 に は 再 び ,転 任 先 の 仲 間 な
ど 共 通 の 関 心 を も つ 人 々 が イ メ ー ジ さ れ ,楽 し み や 安 心 を 感 じ ,箱 庭 制 作 を 終 え た 。
B 氏 第 8 回 (最 終 回 )箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で ,B 氏 は 今 回 の 箱 庭 制 作 を 含 む ,直 近
複 数 回 の 箱 庭 制 作 に 関 す る 全 体 的 な 感 想 と し て ,以 下 の よ う に 語 っ た 。日 常 生 活 で の 変 化 と
し て ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 と 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 と の 間 に ,B 氏 に 思 い が け な い 転 任 の 打 診
が あ っ た 。 そ れ は 歓 び で あ る と と も に ,あ ま り に も 予 想 を 超 え た 打 診 で あ っ た た め ,戸 惑 い
を も 感 じ さ せ る も の で あ っ た 。 箱 庭 の ,そ の ,制 作 を し て い て 。 で ,何 回 く ら い 前 か な ,2 回
く ら い ,2 回 く ら い 確 実 に あ っ た と 思 う ん で す け ど も ,そ の ,言 う と し ん ど い 思 い を ,そ の し
つ つ ,と い う 中 で 箱 庭 を 作 り 始 め て 。ま た ,新 し い 年 度 の ,そ う い う 歩 み が ま た や っ て く る っ
て い う よ う な ,そ う い う ,あ の ,気 持 ち の 上 で の 変 化 と か 。 ま あ ,自 己 修 復 の 兆 し み た い な も
の が 出 て き て て ,そ の 中 で ,こ う い う 話 が 出 て き て 。あ の ,う ん ,ま あ ,そ の ,導 か れ る ま ま に ,
そ の ,出 て い く か っ て い う と こ に 辿 り 着 い て っ た と い う と こ ろ で は ,ま あ ,あ の ,不 思 議 さ を
感 じ る と と も に ,あ の ,一 つ の ,あ の ,う ん ,区 切 り っ て い う の が ,な っ た の か な と い う 感 じ る
ん で す け ど 。< な る ほ ど 。な る ほ ど > そ れ が ま あ ,具 体 的 な ,そ の ,● (転 任 先 地 名 )に 行 く と
い う こ と で の 区 切 り な の か 。 そ れ は ほ ん と に 今 月 末 に な ら な い と 。 た だ ,な ん か ,そ う い う
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こ と で は ,そ の ,傾 向 か ら い っ た ら ,い ろ い ろ あ っ た け ど ,ま た ,新 し い 年 度 か ら ,ま た ,気 持
ち 新 た に し て 歩 む か み た い な ,取 り 組 む か み た い な と こ に は ,行 き 着 い た の か な っ て い う 感
覚 は あ り ま す( B 氏 調 査 ,8-全 体 的 感 想 )。そ の 語 り に つ い て ,内 省 報 告 に ,不 思 議( B 氏 内 省 ,8全 体 的 感 想 ,調 査 ・ 連 想 ) と 記 し た 。 先 に 記 し た よ う に ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 と 第 7 回 箱 庭
制 作 面 接 で ,再 生 の テ ー マ や 新 し い 年 度 に 向 け て 心 を 新 た に し よ う と す る 思 い が 現 れ た 。そ
の よ う な 流 れ の 中 で ,再 出 発 の 打 診 が 現 実 生 活 で も あ っ た 。こ の よ う な 外 的・内 的 状 況 の 中
で ,今 回 の 箱 庭 制 作 面 接 で ,天 使 に 導 か れ る ま ま に ,新 た な 場 所 に 出 て い く と い う 構 成 が 生 ま
れ た 。 実 際 に 新 し い 土 地 に い く と い う 点 に お い て も ,気 持 ち の 上 で も ,一 つ の 区 切 り か と 感
じ た 。 外 的 状 況 ・ 箱 庭 制 作 面 接 ・ 内 的 状 況 の 一 致 や 展 開 に ,B 氏 は 不 思 議 を 感 じ た ,と 捉 え
ることができる。
こ の よ う な 不 思 議 な 外 界 と 内 界 の 一 致 に つ い て ,第 8 回 ふ り か え り 面 接 で B 氏 は [実 言 う
と ,制 作 を 始 め る ,そ の ,こ の 始 め た 段 階 か ら ,実 は な に か し ら の ,な ん か ,準 備 期 間 だ っ た の か
な と か と い う 風 に も 思 え る ,と 。あ ん ま り ,そ れ を 言 う と ,宗 教 か っ て な る ん で す け ど‘ 笑 ’,
で も ,実 際 ,そ う い う プ ロ セ ス を 歩 ん で き た ん だ よ な ー っ て い う の は ,思 う ん で す よ ね ] ,と 述
べた。B 氏は外界と内界の一致が箱庭制作面接の開始時から準備されていたように感じて
お り ,そ れ を 宗 教 的 な 不 思 議 さ と 重 ね 合 せ て 考 え て い た ,と 捉 え ら れ る 。 筆 者 は ,B 氏 が 箱 庭
制 作 面 接 の 中 で も ,日 常 生 活 に お い て も ,自 分 自 身 の 心 や 生 き 方 ,周 り の 状 況 や 人 々 に 対 し て ,
真 摯 に 向 き 合 い ,自 己 の 課 題 に 主 体 的 に 取 り 組 ん で い た こ と が ,こ の よ う な 展 開 や 気 づ き に
寄 与 し て い る 側 面 も あ る ,と 捉 え た 。
Ⅻ − 2. B 氏 の 主 観 的 体 験 の 考 察
1) 宗 教 性 を 中 心 と し た 心 や 生 き 方 の 変 容 の 考 察
(1)第 1 回 箱 庭 制 作 面 接
B 氏 の 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 か ら 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 に 亘 っ て ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に
つ い て ,宗 教 性 を 中 心 と し た 心 や 生 き 方 の 変 容 の 観 点 か ら 考 察 す る 。
B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 で 砂 箱 中 央 に 構 成 さ れ た 泉 は , B 氏 に と っ て ,核 に な る も の で あ
り ,そ の 核 を 中 心 に し て ,様 々 な も の が 構 成 さ れ て い っ た 。 そ の 核 と な る も の は 神 の 表 現 で
あ り , B 氏 に と っ て ,こ ん こ ん を 湧 き で る よ う な 躍 動 感 を も つ 生 命 の 源 で も あ っ た 。 続 け て
B 氏 は ,そ の 源 に 宿 る 命 や そ こ で 憩 う 動 物 の 表 現 を 行 っ た 。木 々 の 構 成 は そ の 泉 の 生 命 が 周
辺 に 広 が り 及 ん で い く と い う 主 観 的 体 験 の 表 現 で あ っ た 。そ の 後 ,構 成 さ れ た 人 々 の 生 活 も
ま た ,直 接 的 な 言 及 は な い も の の ,中 央 の 泉 を 核 と し て 存 在 す る も の で あ る ,と 推 測 で き る 。
そ の 構 成 に 示 さ れ た B 氏 の 主 観 的 体 験 に は ,泉 の 生 命 の 広 が り が ,人 々 の 生 き 様 ,生 活 に ま
で 及 ん で い っ て い る よ う に ,捉 え る こ と が で き る ,と 考 え る 。 木 々 を 追 加 し た 次 の 箱 庭 制 作
過 程 8 で ,B 氏 は 「生 活 感 の あ る も の が ほ し い と 思 う 」。 こ れ は ,制 作 過 程 7 ま で の 構 成 に よ
っ て 喚 起 さ れ た 思 い だ と 捉 え る こ と が で き る 。ま た ,B 氏 が 感 じ た 生 き て い る こ と の 実 感( B
氏 内 省 ,1-12,制 作 ・ 意 図 ) や ,人 々 へ の 愛 お し さ や 安 心 感 や 暖 か さ ,子 ど も の 創 造 力 の 豊 か
さ は , 泉 の 生 命 の 広 が り で あ り ,神 の 愛 を 基 盤 と し , 神 に 守 ら れ て 成 り 立 っ て い る 世 界 が 表
現 さ れ た ,と 解 釈 で き よ う 。 キ リ ス ト 教 で は ,神 が 人 を 創 造 し ,生 き る 者 と し ,エ デ ン の 園 を
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人 が 耕 し 守 る よ う に さ れ た と さ れ る (創 世 記 ,2 章 7 節 ,15 節 )。 生 活 が 営 め る こ と の 喜 び や
感 謝 ( B 氏 内 省 ,1-14,制 作 ・ 感 覚 )は ,自 分 も 含 め た 人 が 生 き る こ と が で き て い る こ と に 関
する B 氏の神への感謝だと捉えられる。
船 と 海 は , B 氏 に と っ て の 未 知 の 世 界 の 表 現 で あ っ た 。内 省 報 告 に よ る と ,こ の 構 成 は 世
界 の 豊 か さ と 自 分 の 小 さ さ と を 思 い 起 さ せ る も の で あ り ,同 時 に 砂 箱 中 央 の 泉 と 外 海 と に
繋 が り を 示 す も の で も あ っ た 。 B 氏 は ,外 海 の 先 に は ,自 分 に と っ て は 未 知 だ が ,神 が 創 造 さ
れ た 世 界 が あ る と い う 意 味 で ,泉 と 外 海 と は 繋 が り を も っ た も の と 捉 え ら れ た と 推 察 で き
る 。 怖 い け ど 魅 力 が あ る 外 海 ,未 知 の 世 界 に ,B 氏 は 好 奇 心 を も ち , 自 分 を 広 げ る た め に ,そ
の 世 界 を 覗 き ,冒 険 ・ 探 求 し よ う と し た と 考 え ら れ る 。 こ の 探 求 は ,B 氏 の 主 観 的 体 験 で は ,
外 海 ,未 知 の 世 界 の 探 求 と さ れ て い る が ,心 理 学 的 に は ,箱 庭 制 作 面 接 を 通 し て ,自 分 の 無 意
識 の 世 界 を 覗 き ,探 求 し て い こ う と す る 志 向 性 と 解 釈 す る こ と が で き よ う 。
こ の よ う な 未 知 の 世 界 へ の 探 求 の 構 成 の 後 に ,祈 る 人 の 構 成 が な さ れ た 。 B 氏 に と っ て ,
何が起こるかわからない未知の世界への探求は祈り心なしには行いえないものであった。
内 省 報 告 に よ る と ,こ の 構 成 に は ,人 が 生 き る こ と は 探 求 の 旅 で あ り ,自 分 も 今 ま で ず っ と
旅 を し て き た よ う に 感 じ ら れ る と と も に ,未 来 へ の 祈 り が 表 現 さ れ て い た 。 さ ら に ,祈 る 人
に は , 世 界 を 包 み ,見 守 る 神 様 を 祈 る 人 で 表 現 し た い ( B 氏 内 省 ,1-43,制 作 ・ 意 図 ) と い う
B 氏の思いが込められており, B 氏は神に人と世界が守られるようにと願った。
銃 を 持 つ 人 ,悲 し む 人 の 構 成 や 合 唱 す る 人 た ち の 構 成 が な さ れ た 。 銃 を 持 つ 人 ,悲 し む 人
の 構 成 に は ,世 の 中 に あ る 不 幸 や 生 き る こ と の 困 難 が 示 さ れ ,そ の こ と に B 氏 は 胸 が つ ま る
思 い を し た 。 し か し ,そ れ ら の 構 成 を 行 っ た 後 に は ,人 の 世 は 不 幸 ば か り で は な く ,幸 せ な み
た い な も の も 出 来 事 と し て ,ひ ょ っ こ り , (中 略 )起 こ り う る ん だ ( B 氏 調 査 ,1-複 数 過 程 に
亘 っ て )と 思 っ た 。内 省 報 告 に よ る と ,こ の 構 成 は ,愛 や 友 人 や 家 族 ,喜 び や 感 謝 の 表 現 で っ
た。
そ の 後 ,箱 庭 制 作 過 程 64 で あ や め や 花 束 を 選 び , 制 作 過 程 65 で あ や め を 水 源 の 上 に ,花
束を水源の左に置くという構成を B 氏は行った。人の世の不幸と幸せの両方に目を向け,
そ れ を 実 感 し た こ と に よ り ,B 氏 は , 人 や 世 界 を 創 造 し , 守 る 神 へ の 感 謝 を ,花 を さ さ げ る と
い う 行 為 に よ っ て 表 し た ,と 捉 え ら れ る 。 箱 庭 作 品 を 創 造 す る ほ ぼ 最 後 の 過 程 お い て ,B 氏
の 意 識 は 本 来 の 創 造 主 で あ る 神 に 自 然 と 立 ち 返 り ,B 氏 は ,世 界 の 豊 か さ を 思 い 起 こ し ,そ れ
は 神 様 の 守 り の お か げ で あ る こ と を 再 認 識 し ,感 謝 の 念 を も っ て ,泉 の 生 命 力 に 花 を さ さ げ
た, と理解できる。
こ の よ う に ,B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,宗 教 性 ,信 仰 が 中 心 的 な テ ー マ と な っ た 。 そ れ は
B 氏 の 心 の あ り 様 や 生 き 方 に と っ て ,ま さ に 核 と な る も の で あ り ,宗 教 観 ・ 信 仰 に 基 づ い た
世界観が表現された。
(2)第 2 回 箱 庭 制 作 面 接
第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,ま ず ,日 常 生 活 の 中 で の 攻 撃 的 な 人 々 や そ れ に 苦 し ん で い る 自
分 の 心 情 の 表 現 が 構 成 さ れ た 。 こ の 回 の 最 初 の 箱 庭 制 作 過 程 で ,B 氏 は ,壁 を 感 じ た 。 内 省
報 告 に よ る と ,そ れ は 重 い も の を 感 じ て 蓋 が さ れ た 感 じ で あ っ た 。 そ し て ,そ の 感 覚 に 合 っ
た 仕 切 り を 見 つ け ,そ れ を 砂 箱 中 央 に 置 い た 。 そ の 構 成 に は ,壁 や 重 さ と い う イ メ ー ジ や 感
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覚 ,心 苦 し い と い う 思 い が 今 の 気 持 ち の 中 央 に あ る と い う 主 観 的 体 験 が 反 映 し て い た 。
箱 庭 制 作 過 程 4 と 制 作 過 程 5 の か ご は ,取 り 組 み が 抜 け 落 ち て い く 殺 伐 感 の 表 現 で あ っ
た 。 葉 を つ け て い な い バ オ バ ブ の 木 は ,自 分 が 枯 れ て い る ,疲 れ て い る 感 じ が 表 さ れ た 。 自
己 像 で あ る 亀 は ,イ グ ア ナ と い う 侵 襲 者 に 追 わ れ て お り ,B 氏 は 重 苦 し さ や し ん ど さ を 感 じ
て い た 。チ ェ ン ソ ー と 斧 を も っ た 人 形 も 人 間 の 攻 撃 性・暴 力 性 を 表 し て お り ,そ の 攻 撃 性 に
対 し て ,B 氏 は 憎 し み や 怒 り を 感 じ て い た 。 こ れ ら 一 連 の 主 観 的 体 験 に は ,B 氏 が ,日 常 生 活
に お い て 激 し い 攻 撃 性 に 曝 さ れ ,心 身 と も に 疲 弊 し ,殺 伐 感 や 憎 し み や 怒 り な ど を 感 じ て い
たことが示されていた。
箱 庭 制 作 過 程 の 途 中 で , B 氏 の 主 観 的 体 験 に 変 化 が 生 じ た 。B 氏 は 思 い 出 が 残 っ て い る こ
と に 気 づ き ,箱 庭 制 作 過 程 22 で ル ー ペ を 選 ん だ 。内 省 報 告 に よ る と ,そ れ は 生 き る こ と へ の
関 心 が 絶 え て い な い こ と ,土 俵 際 で 立 っ て い る よ う だ が ,な ん と か ま だ 足 を 残 し て い る 感 覚
の 表 現 で あ っ た 。 そ の 後 ,左 右 に 走 る 水 の 道 を 作 り ,そ の 左 端 に 亀 を 置 い た 。 内 省 報 告 や ふ
り か え り 面 接 で の 報 告 に よ る と ,B 氏 は 自 分 が 乾 い て い る こ と に 気 づ い た 。 同 時 に ,砂 漠 を
歩 い て い る わ け で は な く ,寄 る べ き も の と し て の 神 ,支 え て く れ た 仲 間 の 存 在 に 気 づ い た 。
そ し て ,他 の 存 在 か ら 助 け を 受 け て い る 自 分 が た ど っ て い く 道 筋 と し て ,水 の 道 を 作 っ た 。
続 く ,花 , ガ ラ ス 瓶 , 天 使 の 構 成 で は , B 氏 が 一 方 で 不 安 を 覚 え つ つ も , ほ っ と す る 空 間 が
あ り ,将 来 へ の 期 待 ,将 来 の 祝 福 や 平 安 を 望 む 思 い が 芽 生 え 始 め た こ と ,ま た ,過 去 に お け る
良 い 思 い 出 や 人 々 と の 繋 が り は 侵 さ れ ず ,否 定 し え な い こ と へ の 気 づ き が 表 現 さ れ た 。B 氏
は 箱 庭 制 作 過 程 35 で ,十 字 架 を 亀 の 背 に 載 せ た 。 こ の 構 成 は ,今 自 分 が し て い る 苦 労 は ,イ
エ ス が 歩 ん だ 道 に 通 じ る も の と の 感 じ ,イ エ ス へ の 共 感 の 深 ま り を 示 す も の で あ っ た 。
B 氏 は ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 の 前 半 で は ,日 常 生 活 に お け る 様 々 な 苦 し い 出 来 事 や そ れ に
対 す る 自 分 の 心 情 を 巡 る 構 成 を 行 っ た が ,途 中 か ら 神 や イ エ ス ,仲 間 た ち の 支 え を 思 い 起 こ
し ,箱 庭 制 作 過 程 の ほ ぼ 最 終 段 階 で は ,イ エ ス へ の 共 感 を さ ら に 深 め る こ と が で き た ,と 考 え
ることができる。
(3)第 3 回 箱 庭 制 作 面 接
第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,砂 箱 右 奥 隅 に 置 か れ た 自 己 像 で あ る 星 の 王 子 様 が ,身 近 な と こ
ろ か ら 将 来 に 向 け て 鳥 瞰 し た り ,思 い 出 を 思 い 返 す と い う テ ー マ の 構 成 が な さ れ た 。そ こ に
構 成 さ れ た も の は ,山 あ り 谷 あ り ,障 壁 も あ り と い う 生 き 様 で あ っ た こ と が ,第 3 回 ふ り か え
り面接で語られた。
箱 庭 制 作 過 程 3 で 砂 箱 右 奥 隅 に 置 か れ た 星 の 王 子 様 は 自 己 像 で あ っ た 。制 作 過 程 11∼ 17
の 砂 箱 右 奥 と 左 手 前 の 針 葉 樹 は 隔 て で あ り ,そ の 内 側 と 外 側 を 隔 て て い た 。
2 体 の 祈 る 人 形 や 橋 や 十 字 架 は ,祈 り や 信 仰 と 関 連 し て い た 。祈 る 人 形 に は ,な に か 一 つ 大
き な こ と が あ れ ば と ん 挫 し て し て い ま う よ う な 状 況 ,こ れ か ら の 不 安 定 な 道 の り に 対 す る
祈 り 心 が 表 さ れ て い た 。橋 に は ,橋 を 渡 る 決 断 と い う 意 味 が 表 現 さ れ て い た 。内 省 報 告 に よ
る と ,こ の 構 成 に は , 神 に 守 ら れ て , 危 険 や 停 滞 と 乗 り 越 え て き た と い う 思 い が 込 め ら れ て
い た 。 十 字 架 は ,B 氏 の 信 仰 と そ の 信 仰 に よ っ て ,重 い も の は な く な ら な い に し て も ,全 体 の
バランスがよくなっていくことへの願いが表されていた。内省報告やふりかえり面接での
報 告 に よ る と ,十 字 架 に は ,信 仰 が 支 え に な っ た と い う 実 感 や ,現 実 の 障 害 や 思 い 悩 み に 対 し
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て 信 仰 が 実 際 的 な 力 に な り ,自 分 の 意 思 で 耐 え て き た こ と の 表 現 で あ っ た 。B 氏 の 人 生 は 山
あ り ,谷 あ り ,障 壁 も あ り と い う も の で あ っ た 。そ の よ う な 状 態 で あ っ た か ら こ そ ,信 仰 が 支
え に な っ た こ と や ,現 実 の 障 害 や 思 い 悩 み に 対 し て 信 仰 が 実 際 的 な 力 に な っ て い た こ と な
ど を 実 感 ,再 確 認 で き た こ と は ,B 氏 に と っ て 大 き な 意 味 が あ っ た ,と 考 え ら れ る 。
か た つ む り に は ,自 分 の 遅 々 と し た 歩 み と そ れ を じ れ っ た く 思 う 気 持 ち ,ト ン ボ に は ふ ん
わ り と し た 軽 や か さ へ の あ こ が れ が 示 さ れ て い た 。舵 き り を す る ミ ッ キ ー マ ウ ス に は ,今 も
危険や停滞を避けることができていない舵きりの難しい現状が表されていた。
ポ ス ト や 真 珠 や 雨 (ガ ラ ス の つ ぶ )や ミ ニ カ ー を 用 い た 意 外 な 構 成 か ら 自 分 の 心 や 生 き 方
へ の 気 づ き が あ っ た 。そ れ は ,ポ ス ト や 真 珠 に は ,思 わ ぬ 時 に い い 知 ら せ が あ っ た り ,い い こ
と が あ っ た り も す る と い う イ メ ー ジ が 付 与 さ れ て い た 。雨 は ,み ず み ず し さ や う る お い の イ
メ ー ジ で あ る と と も に ,生 き て い れ ば 誰 に も 起 こ る 自 然 の 理 を B 氏 は 思 い 起 こ す こ と に な
っ た 。ミ ニ カ ー は 気 晴 ら し や 楽 し み の 大 事 さ や ,自 分 の 生 き 方 は 面 白 み の 生 き 方 だ ろ う か と
の 思 い が 現 れ て い た 。 こ れ ら の 主 観 的 体 験 は ,山 あ り ,谷 あ り ,障 壁 も あ り と い う 生 き 様 を 補
償 す る よ う な も の で あ り ,今 後 の 課 題 で あ る ,と 捉 え ら れ る 。
(4)第 4 回 箱 庭 制 作 面 接
第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,第 2 回 お よ び 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 と は 雰 囲 気 の 違 う 構 成 が な さ れ
た 。 箱 庭 制 作 面 接 当 初 か ら ,ゆ っ た り と し て い ら れ る 気 分 を 感 じ ,そ れ が ロ ッ キ ン グ チ ェ ア
に 表 現 さ れ た 。そ の 後 ,構 成 さ れ た 風 景 か ら ,B 氏 は ,か つ て 行 っ た こ と の あ る 土 地 や そ こ に
い た 人 々 の こ と を 思 い 出 し た 。そ の 土 地 や そ こ の 人 々 と の つ な が り の 中 で ,自 分 が 心 地 よ く ,
く つ ろ い で い た 感 覚 を 思 い 起 し た 。第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,信 仰 や 宗 教 性 を 巡 る 言 及 は 直
接 的 に は な か っ た が ,B 氏 が 心 地 よ い と 感 じ ,く つ ろ ぐ こ と で き た 人 々 は ,キ リ ス ト 教 精 神 を
一つの重要な基盤としてもつ施設の人々であった。
(5)第 5 回 箱 庭 制 作 面 接
第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 作 品 は ,日 常 生 活 で の 苦 し い 状 況 が 色 濃 く 反 映 さ れ た も の と
な っ た 。 砂 箱 の 奥 の 構 成 に は ,ち ょ っ と 怒 っ て い る 自 分 ,悲 し ん で い る 自 分 ,ぽ か し ち ゃ っ た
と 感 じ る 自 分 ,の ん び り し た い 思 い ,え い や ー と 気 合 を 入 れ よ う と す る 自 分 な ど 渦 巻 く 情 緒
が 表 現 さ れ た 。 星 の 王 子 様 は 自 己 像 で あ り ,ル ー ペ を 使 っ て ,砂 箱 奥 の ネ ガ テ ィ ブ な 要 素 も
含 ん だ 自 分 に 渦 巻 く 情 緒 を 覗 き こ み ,抑 圧 的 に 観 察 し て い た 。
星 の 王 子 様 の 背 後 に 置 か れ た 教 会 , 橋 ,大 砲 ,ワ ニ ,小 瓶 , ベ ッ ド に 横 た わ る タ キ シ ー ド を
着 た 人 形 ,子 ど も の 人 形 は ,自 分 の 背 後 に あ る 念 慮 し て い る こ と が 示 さ れ た 。 B 氏 は 自 身 の
体 調 が す ぐ れ ず ,仕 事 上 の 困 難 や 緊 張 感 を 抱 え て い た 。ワ ニ は , B 氏 が 被 っ て い る 攻 撃 性 が
表現されていた。
し か し ,そ の よ う な 困 難 な 状 況 の 中 で も , B 氏 は そ れ に 向 き 合 お う と し て い た 。 仕 事 上 の
こ と で 背 負 っ て い る も の が た く さ ん あ り ,自 分 へ の 攻 撃 に 随 分 消 耗 し ,体 調 も 悪 い 中 で ,B 氏
は さ ら に 別 の 乗 り 越 え る べ き 課 題 を も 抱 え て い た 。 し か し ,そ れ ら に 対 し て ,ひ ど く 落 ち 込
む と か ,投 げ 出 す と か と い う 姿 勢 で は な く ,わ り と 冷 静 に 事 態 に 向 き 合 っ て い る こ と が 示 さ
れ た 。筆 者 に は ,B 氏 が 現 状 や 自 分 自 身 に 真 摯 に 向 き 合 い ,関 わ っ て い る よ う に 感 じ ら れ た 。
第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で は ,B 氏 の 上 に 示 し た こ と と は 違 う 側 面 に つ い て の 気 づ き も 現 れ た 。
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B 氏 は ,針 葉 樹 を 砂 箱 四 隅 に 置 い た 。 そ の 構 成 に つ い て 内 省 報 告 に 無 意 識 の 領 域 ( B 氏 内
省 ,5-6,制 作 ・ 意 図 ),今 は 脇 に 追 い や ら れ て い る 諸 々 の 心 の 部 分 ( B 氏 内 省 ,5-6,制 作 ・ 感
覚 ) ,と 記 さ れ た 。 B 氏 は ,こ の 構 成 に 関 し て ,四 隅 ぎ り ぎ り ま で 構 成 す る 強 さ ・ 馬 力 が 自 分
に は な い と い う 自 分 の 特 性 だ ,と 語 っ た 。 こ れ に 類 似 の ,森 に よ っ て 区 切 り が で き る と い う
構 成 は ,第 2 回 お よ び 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 に も 表 れ て い た 。こ の よ う な 構 成 が 連 続 す る こ と
に よ っ て ,B 氏 は 構 成 の 象 徴 的 意 味 に つ い て ,気 づ く こ と が で き た ,と 捉 え る こ と が で き る 。
し か し ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 以 降 は ,四 隅 に 森 を 作 る こ と で ,丸 い 枠 に 限 定 す る と い っ た 構 成
は 現 れ な い 。 こ の 変 化 は 領 域 の 拡 大 (河 合 隼 雄 ,1969,p.47),と 捉 え る こ と が で き る 。
(6)第 6 回 箱 庭 制 作 面 接
第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 作 品 は ,今 ま で の 作 品 と 非 連 続 的 な 作 品 と 感 じ ら れ る ほ ど ,構
成 が 大 き く 異 な っ て い た 。 作 品 の テ ー マ は ,再 生 で あ り ,再 生 が 中 心 部 か ら 周 辺 へ 広 が っ て
い っ た 。 そ し て ,海 の 生 き 物 は ,石 仏 や 埴 輪 に 表 さ れ た 人 の 営 み の 遺 跡 や 陸 地 の 状 況 と は 関
係 な く ,そ れ ま で 通 り に ず っ と 生 活 し て い る と い う イ メ ー ジ が 付 与 さ れ た ,と 考 え ら れ る 。
つ ま り ,こ の 構 成 に は ,中 央 か ら 周 辺 へ と い う 空 間 的 広 が り が 表 現 さ れ た 。ま た ,過 去・現 在 ・
未 来( 再 生 の 継 続 )と い う 時 間 軸 ,陸 地 と は 関 係 な く ず っ と 続 い て い る 海 の 営 み と い う 時 間
の 多 様 性 が 表 現 さ れ て い る ,と 捉 え る こ と が で き る 。
第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 特 徴 の 一 つ と し て ,直 接 的 に 表 現 さ れ た 自 己 像 が な い 点 ,ま た ,自 分
個 人 の 特 性 へ の 気 づ き が ほ と ん ど 報 告 さ れ な い 点 を 挙 げ る こ と が で き る 。 し か し ,一 部 で ,
再 生 と い う テ ー マ と 自 分 自 身 と の 関 連 が 語 ら れ た 。再 生 に つ い て ,B 氏 は 最 近 の 生 活 の 中 で
取 り 組 み は じ め た こ と や 気 持 ち の 回 復 に つ い て 述 べ た 。と こ ろ が ,中 央 部 の 再 生 は 感 覚 的 に
は 1 年 と か 2 年 と い う わ り と 短 い 期 間 に 起 こ っ た も の で あ る こ と ,人 の 痕 跡 は ,何 十 年 ,何 百
年 前 に 自 分 と は 無 関 係 に 作 ら れ た も の が 風 に 吹 か れ ,波 に 洗 わ れ て 出 て き た も の と い う イ
メ ー ジ が あ る と 語 っ た 。 内 省 報 告 や ふ り か え り 面 接 に よ る と ,B 氏 は , 島 の 再 生 や 人 の 生 活
の 痕 跡 に つ い て ,意 欲 が 戻 り つ つ あ る 今 の 自 分 (人 と し て の 自 分 ( B 氏 内 省 ,6-複 数 過 程 に 亘
っ て ,調 査 ・ 意 味 ) )に 関 連 さ せ て い る 。 し か し ,主 要 な 力 点 は 昔 か ら 変 わ ら な い よ り 普 遍 的
な 意 味 で の 人 の 歩 み (人 の 歩 み の 歴 史( B 氏 内 省 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て ,調 査・意 味 ))の 方 に
あ っ た ,と 捉 え る こ と が で き る 。 つ ま り ,こ の 回 の 全 体 の 文 脈 と し て は ,B 氏 は 個 人 的 存 在 と
し て の 自 分 に 触 れ つ つ も ,人 の 歴 史 の 中 に 位 置 づ い て い る 存 在 と し て の 自 分 に ,よ り 焦 点 化
さ れ て お り ,主 要 な 力 点 は 昔 か ら 変 わ ら な い よ り 普 遍 的 な 意 味 で の 人 の 歩 み の 方 に あ っ た ,
と考えることができる。
(7)第 7 回 箱 庭 制 作 面 接
第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 に 続 い て ,抽 象 度 の 高 い 作 品 で あ っ た 。 B 氏
は ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で 4 つ の 区 画 を 作 る と と も に 中 央 に 十 字 形 状 の 構 成 を 行 っ た 。 十
字 形 の 部 分 は , 周 り の 4 つ の 区 画 の 背 後 ,根 底 に あ る 中 心 と な る も の で あ っ た 。
4 つ の 区 画 は ,そ れ ぞ れ が 小 さ な 箱 庭 の よ う な 感 じ も あ り ,そ れ ぞ れ の 区 画 に 四 季 を 表 現
し て い っ た 。さ ら に 四 季 の 構 成 か ら ,巡 っ て い る と い う イ メ ー ジ が 湧 い て き た 。巡 る と い う
時 間 の 流 れ は ,B 氏 が 今 ま で 箱 庭 制 作 面 接 を 重 ね る 中 で ,日 常 生 活 で も 様 々 な こ と が あ っ た
過 去 と ,新 し い 年 度 に 向 け 心 を 新 た に す る よ う な 思 い が 反 映 し た も の で あ る ,と 捉 え ら れ る 。
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つ ま り , 十 字 形 の 部 分 は , 神 様 や 仏 様 と い う 直 接 的 な 宗 教 的 イ メ ー ジ に 加 え て ,巡 る と
い う 客 観 世 界 の 動 き の 中 心 や 核 に な る も の で あ り ,動 き を 意 識 し て い る 自 分 の 核 で も あ っ
た 。客 観 的 時 間 の 中 心 で も あ り ,時 間 の 変 化 を 見 さ せ , 新 し い 年 度 へ の 気 持 ち を 起 こ さ せ る
よ う な 感 覚 の 奥 に 存 在 す る 自 分 の 内 的 な 中 心 で も あ る と い う ,B 氏 に 不 思 議 さ を 感 じ さ せ
る多義的な表現であった。
ま た ,4 つ の 区 画 に 表 現 さ れ た 四 季 の 自 然 や 人 々 の 生 活 は ,十 字 形 の 部 分 に 支 え ら れ た 地
上 の 営 み の イ メ ー ジ で あ り ,B 氏 の 直 接 的 な 言 及 は な い の だ が ,そ れ は 根 底 に あ る 神 を 基 盤
と し た 地 上 世 界 の 豊 か さ の 表 現 で あ る ,と 推 察 で き よ う 。
(8)第 8 回 箱 庭 制 作 面 接
第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 と 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 間 に ,予 想 し な か っ た 転 任 の 打 診 が B 氏 に
あ っ た 。 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,B 氏 の 転 任 が ,ほ ぼ 決 ま っ た 後 に 行 わ れ た た め ,構 成 内 容 は
それが強く反映したものとなった。
箱 庭 制 作 過 程 1 で ,船 出 し て い く イ メ ー ジ が 湧 き ,そ の イ メ ー ジ を 基 に し て ,構 成 さ れ て い
っ た 。 今 回 の 突 然 の ,予 想 し な か っ た 転 任 に 対 し て ,B 氏 は 複 雑 な 思 い を 抱 え て い た 。 転 任
や 将 来 へ の 期 待 ,安 心 感 と 共 に ,現 在 の 人 々 と の 繋 が り か ら 離 れ な け れ ば な ら な い 未 練 や ,転
任 先 で 自 分 が 役 立 つ の か と い う 将 来 へ の 迷 い が あ っ た 。 ま た ,一 部 の 人 に は ,B 氏 が 転 任 す
ることへの抵抗もあった。
そ の よ う な 複 雑 な 思 い を 抱 え つ つ ,人 を 導 く 天 使 が 置 か れ た 。 今 回 の 転 任 に あ た っ て ,B
氏 は 不 思 議 な 導 き を 感 じ た 。そ し て 自 己 の 信 仰 を 基 盤 と し て ,信 頼 し 導 か れ る ま ま に 委 ね て
進 む こ と を 選 ん だ ,と 捉 え る こ と が で き る 。
B 氏 は ,第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 の 最 後 と 第 8 回 ふ り か え り 面 接 で ,今 回 を
含 め た 今 ま で の 箱 庭 制 作 面 接 に つ い て ,思 い を 語 っ た 。 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 か ら ,箱 庭 制 作
に 自 然 や 自 分 が 修 復 さ れ て い く テ ー マ が ,意 図 せ ず 顕 れ 始 め た こ と や ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接
で 構 成 さ れ た 多 義 的 な 表 現 に つ い て 語 っ た 。そ の よ う な 箱 庭 制 作 面 接 の 流 れ の 中 で ,再 出 発
の 打 診 が 現 実 生 活 で も あ っ た 。外 的 状 況 ・ 箱 庭 制 作 面 接 ・ 内 的 状 況 の 一 致 や 展 開 に ,B 氏 は
不 思 議 を 感 じ て い た 。ふ り か え り 面 接 の 報 告 に よ る と ,B 氏 は 外 界 と 内 界 の 一 致 が 箱 庭 制 作
面 接 の 開 始 時 か ら 準 備 さ れ て い た よ う に 感 じ て お り ,そ れ を 宗 教 的 な 不 思 議 さ と 重 ね 合 せ
て 考 え て い た ,と 理 解 す る こ と が で き る 。 ま た ,B 氏 は 箱 庭 制 作 面 接 の 中 で も ,日 常 生 活 に お
い て も ,自 分 自 身 の 心 や 生 き 方 ,周 り の 状 況 や 人 々 に 対 し て ,真 摯 に 向 き 合 い ,自 己 の 課 題 に
主 体 的 に 取 り 組 ん で い た こ と が ,こ の よ う な 展 開 や 気 づ き に 寄 与 し て い る ,と 筆 者 は 捉 え た 。
こ こ で ,B 氏 の 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 主 要 な テ ー マ 宗 教 性 ・ 信 仰 に つ い て ,改 め て 考 え た
い 。 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 ∼ 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 と 第 8 回 箱 庭 制 作 面
接 で ,宗 教 性 ・ 信 仰 が そ の 回 の 主 な テ ー マ と な っ た 。 宗 教 性 ・ 信 仰 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接
の 泉 に 関 し て 考 察 し た よ う に ,B 氏 の 心 や 生 き 方 に お い て 核 に な る も の で あ る た め ,こ れ が
箱 庭 制 作 面 接 の 主 要 テ ー マ と な る こ と は 当 然 で あ る 。本 面 接 が ,そ の よ う な 個 人 と し て の 重
要 な テ ー マ を 表 現 で き る 場 と な っ た こ と が ,箱 庭 制 作 面 接 が B 氏 に と っ て 意 義 あ る 場 と な
っ た こ と の 基 盤 だ っ た ,考 え ら れ る 。
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し か し ,箱 庭 制 作 面 接 と し て ,よ り 重 要 な こ と は ,第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 や 第 8 回 ふ り か え り
面 接 で 語 ら れ た よ う に ,B 氏 が 宗 教 性 ・ 信 仰 の テ ー マ に 関 し て ,不 思 議 さ を 体 験 し た こ と に
あ る ,と 考 え ら れ る 。 本 来 的 に ,宗 教 性 ・ 信 仰 は ,人 間 を 超 え た も の へ の 人 の 思 い ・ 体 験 で あ
る た め ,不 思 議 な 感 覚 ・ 体 験 は そ れ と 切 り 離 せ な い も の で あ ろ う 。 し か し ,箱 庭 制 作 面 接 の
場 合 ,宗 教 的 表 現 ,信 仰 に 関 す る 表 現 を ,意 図 的 ・ 意 識 的 に 構 成 す る こ と も で き る 。 そ の よ う
な 意 図 的 ・ 意 識 的 な 構 成 で 終 わ っ て い る 場 合 に は ,不 思 議 さ は 生 じ て こ な い だ ろ う 。B 氏 が
宗 教 性・信 仰 の テ ー マ に 関 し て 不 思 議 さ を 体 験 し た こ と は ,B 氏 の 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 宗
教的表現が意図的・意識的構成にとどまっていなかったことの証左の一つと考えることが
できる。
そ の 不 思 議 さ の 体 験 は ,以 下 の 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 お よ び 第 8 回 ふ り か え り 面 接 に お け る
B 氏 の 語 り に 集 約 さ れ て い る 。第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で B 氏 は 導 か れ る ま ま に ,そ の ,出 て い
く か っ て い う と こ に 辿 り 着 い て っ た と い う と こ ろ で は ,ま あ , あ の ,不 思 議 さ を 感 じ る と 語
っ た 。 第 8 回 ふ り か え り 面 接 で は ,こ の 不 思 議 さ に 関 し て 以 下 の よ う に 語 っ た 。 [制 作 を 始
め る ,そ の ,こ の 始 め た 段 階 か ら ,実 は な に か し ら の ,な ん か ,準 備 期 間 だ っ た の か な と か と い
う 風 に も 思 え る ,と 。 あ ん ま り ,そ れ を 言 う と ,宗 教 か っ て な る ん で す け ど ‘ 笑 ’ ,で も 実 際 ,
そ う い う プ ロ セ ス を 歩 ん で き た ん だ よ な ー っ て い う の は ,思 う ん で す よ ね 。 ( 中 略 ) 不 思 議
と し か 言 い よ う が な い と こ ろ が あ っ て , (中 略 )外 的 な 要 因 の こ と に 関 し て ,そ れ が ,ど う い う
風 に ,ど う し て そ ん な 風 に ,言 え る の か っ て い う こ と は 説 明 し が た い っ て い う か 。 と い う と
こ が あ っ て ,な ん か ,ま あ ,そ こ が い い と こ で も あ る ん だ け ど ,わ か ん な い 人 に は わ か ん な い
だ ろ う な っ て い う 世 界 だ ろ う な っ て い う ‘ 笑 ’。 そ う い う 風 に 思 う ん で す け ど ]。 こ の よ う
な 事 象 に 関 し て ,ユ ン グ 心 理 学 的 な 考 察 が 可 能 で あ る 。 例 え ば ,セ ル フ や Ⅵ 章 に 記 し た イ メ
ー ジ の 展 望 的 機 能 と い う 概 念 か ら 説 明 す る こ と も で き る だ ろ う (p.80 参 照 )。し か し ,本 項 の
目 的 は ,B 氏 の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 の 考 察 に あ る た め ,B 氏 の 主
観的体験の語りの文脈に沿って考察していきたい。
先 に 挙 げ た B 氏 の 主 観 的 体 験 の 語 り は ,B 氏 の 信 仰 に お け る 神 の 働 き に 関 す る 内 容 を 含
ん で い る ,と 考 え ら れ る 。そ れ は ,神 が ,人 知 を 超 え た 計 画 を も っ て ,一 人 一 人 の 人 間 に 働 き か
け て く れ る と い う こ と で あ り ,人 は そ の 計 画 に 導 か れ ,使 命 を 与 え ら れ て 生 き て い く と い う
こ と で あ る ,と 考 え ら れ る 。 箱 庭 制 作 を 始 め る 段 階 か ら ,何 か の 準 備 期 間 だ っ た の か と 思 う
と い う 言 葉 と 不 思 議 ,説 明 し が た い と い う 言 葉 は ,神 の 計 画 の 不 思 議 さ を 物 語 っ て い る ,と 理
解 で き る 。 そ の よ う な 神 の 計 画 の 基 で ,B 氏 は 転 任 し た 場 所 で の 使 命 を 与 え ら れ る 。 そ し
て ,B 氏 は そ の 神 の 導 き に 従 い ,導 か れ る ま ま ,新 し い 使 命 を 果 た す べ く 新 し い 地 に 向 か お う
と す る 。こ の よ う な 内 容 を 含 ん だ 語 り ,と 理 解 で き る 。そ の よ う な 神 の 働 き を 箱 庭 制 作 面 接
で B 氏 が 実 感 し た こ と は ,一 人 の 人 間 に 神 が 働 き ,力 を 及 ぼ し て く れ る と い う 信 仰 上 の 教 え
を B 氏がまさに自らのこととして体験した事態であったと考えられる。
B 氏 は 箱 庭 制 作 過 程 の 中 で ,自 ら の 宗 教 性 ・ 信 仰 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス を 照 合 し ,受 け 止 め ,
表 現 す る こ と が で き た 。そ し て ,そ の 表 現・構 成 か ら 自 分 の 心 や 生 き 方 へ の 気 づ き を え る こ
と や 再 確 認 を す る こ と が で き た 。継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 内 界 と 構 成 と の 交 流 か ら ,
作 品 の 変 化 や 自 分 の 心 の 変 化 ・ 成 長 を 実 感 し て い っ た 。 本 章 2)で 考 察 す る が ,そ の 変 化 に
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は 第 6 回 お よ び 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で の 心 の 深 層 か ら の 表 現・構 成 も 寄 与 し た ,と 考 え ら れ
る 。 変 化 の 重 要 な テ ー マ と し て ,宗 教 性 ・ 信 仰 が あ っ た 。 そ し て ,最 終 回 を 迎 え る こ ろ に ,外
界・箱 庭 制 作 面 接・内 界 の 一 致 と い う 不 思 議 な 体 験 が 起 こ り ,そ れ を B 氏 は 自 ら の 信 仰 と の
関 係 の 中 で ,意 味 づ け る こ と が で き た 。 こ の よ う な 体 験 を 通 し て ,B 氏 は 神 の 偉 大 さ ,不 思 議
さ を 再 確 認 し ,信 仰 を よ り 深 め る こ と が で き た ,と 理 解 で き る 。
こ の 不 思 議 な 体 験 の 基 盤 と な っ た 事 柄 に つ い て も 考 察 し た い 。そ れ は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面
接 ∼ 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,B 氏 が 示 し た 自 己 の 信 仰 へ の 真 摯 な 態 度
で あ る ,と 考 え ら れ る 。 B 氏 は ,そ れ ら の 箱 庭 制 作 面 接 で ,神 の 守 り や 支 え を 実 感 ・ 体 験 し て
い た (第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 ∼ 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 )。小 さ き も の と し て ,神 の 守 り に 謙 虚 に 感
謝 し ,花 を さ さ げ る と い う 行 為 を 行 っ た (第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 )。信 仰 を 共 に す る 仲 間 か ら の
支 え や 助 け が あ っ た こ と を 再 確 認 し た 。苦 難 を 体 験 し た キ リ ス ト へ の 共 感 が 深 ま っ た (第 2
回 箱 庭 制 作 面 接 )。信 仰 が ,実 際 の 思 い 悩 み と か い ろ ん な 障 害 な ど に 関 わ っ て い く 際 に ,実 際
的 な 意 味 で の 力 に な っ て い る こ と を 再 確 認 し た (第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 )。根 底 に あ り ,客 観 的
時 空 間 の 核 で も あ り ,自 己 の 内 的 な 核 で も あ る 存 在 に 思 い を 向 け た (第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 )。
ま た ,信 仰 を 背 景 と し た B 氏 の 思 い や 真 摯 な 生 き 様 も 不 思 議 な 体 験 を 生 ん だ 基 盤 の 一 つ
と 考 え ら れ る 。 山 あ り ,谷 あ り ,障 壁 も あ り と い う 生 き 様 の 中 に も ,い い 知 ら せ や う る お い と
い う 自 然 か ら の 恵 み が あ る こ と に 気 づ い た (第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 )。 キ リ ス ト 教 精 神 を 基 盤
と す る 施 設 の 人 々 と の 心 地 よ い つ な が り を 想 起 し ,実 感 し た (第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 )。他 者 の
攻 撃 性 や 体 調 な ど に 困 難 を 抱 え つ つ も ,現 状 に 真 摯 に 向 き あ い ,関 わ っ て い た (第 5 回 箱 庭
制 作 面 接 )。
こ の よ う な 信 仰 に 裏 打 ち さ れ た 態 度 や 真 摯 な 姿 勢 を ,継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 の 中 で ,B 氏
は 一 貫 し て 示 し て い た 。 B 氏 の 一 貫 し た 態 度 と 箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 の 促 進 機 能 (Ⅸ 章 )が
相 ま っ て ,宗 教 性 に 関 す る 不 思 議 な 体 験 や そ の 気 づ き が 生 ま れ た ,と 理 解 す る こ と が で き る 。
2)心 の 多 層 性 の 観 点 か ら の 考 察
本 項 で は , ユ ン グ 心 理 学 的 な 知 見 を 参 照 し て , 1) 宗 教 性 を 中 心 と し た 心 や 生 き 方 の 変 容
と は 異 な る 観 点 か ら 考 察 す る 。 ユ ン グ 心 理 学 で は ,心 は 多 層 的 で あ る ,と 考 え る (河 合 隼
雄 ,1967,pp.93-95)。 心 の 多 層 性 の 観 点 か ら ,B 氏 の 第 6 回 お よ び 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 に つ
いて考えたい。
先 に ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 作 品 は ,今 ま で の 作 品 と 非 連 続 的 な 作 品 と 感 じ ら れ る ほ
ど ,構 成 が 大 き く 異 な っ て い た ,と 述 べ た 。ま た ,B 氏 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,第 6 回 箱 庭 制 作
面 接 に 続 い て ,抽 象 度 の 高 い 作 品 で あ っ た ,と 述 べ た 。 そ れ 以 前 の ,第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 か ら
第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 に お い て は ,現 実 世 界 の テ ー マ が 比 較 的 多 く 含 ま れ て い た 。そ の よ う な
箱 庭 制 作 面 接 の 流 れ の 中 で ,第 6 回 お よ び 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 作 品 は 特 異 的 な 作 品 で あ り ,
そ れ が 筆 者 に 非 連 続 的 な 印 象 を 与 え た の だ ,と 考 え ら れ る 。
そ の 特 異 的・非 連 続 的 な 作 品 と な っ た 要 因 は ,そ れ ら の 作 品 が 生 み 出 さ れ た 心 の 次 元・層
が ,第 2 回 か ら 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 の そ れ と は 異 な る た め ,と 考 え る こ と が で き る の で は な
い か 。第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 作 品 の テ ー マ は ,再 生 で あ っ た 。再 生 が 中 心 部 か ら 周 辺 へ 広 が
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っ て い っ た 。 こ の 再 生 に 関 し て ,B 氏 は ,一 面 と し て 意 欲 が 戻 り つ つ あ る 今 の 自 分 に 関 連 さ
せ て い た 。 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 調 査 的 説 明 過 程 で 再 生 に 関 し て , 感 覚 的 に は ,あ の ,こ の
1 年 と か 2 年 と か ,わ り あ い 短 い よ う な ,そ の 感 覚 が あ っ た り す る( B 氏 調 査 ,6-複 数 過 程 に
亘って)と語った。この語りが箱庭制作過程で表現された再生の時間感覚を正しく説明し
て い る と す れ ば ,再 生 は ,直 近 (約 1 ヶ 月 )の 意 欲 が 戻 り つ つ あ る 今 の 自 分 と 直 接 的 な 関 連 が
な い こ と に な る 。 す る と ,こ の 再 生 が 何 を 表 し て い る か は 具 体 的 に は 不 明 だ が ,1 年 と か 2
年 と か の 時 間 感 覚 を 伴 っ た 再 生 の イ メ ー ジ で あ る ,と 捉 え る こ と が で き る 。
こ の 構 成 に は ,中 央 か ら 周 辺 へ と い う 空 間 的 広 が り と ,何 百 年 前 と い う 過 去・現 在・未 来 (再
生 の 継 続 )と い う 時 間 の 関 連 性 ,陸 地 と は 関 係 な く ず っ と 続 い て い る 海 の 営 み と い う 時 間 の
多 様 性 が 表 現 さ れ て い る ,と 捉 え ら れ た 。 こ の 表 現 に お い て も ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 構 成
は B 氏 の 現 実 世 界 に お け る 個 人 的 体 験 を 超 え た ,よ り 普 遍 的 な も の が 表 現 さ れ た ,と 考 え る
ことができる。
ま た ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 作 品 の 特 徴 の 一 つ と し て ,直 接 的 に 表 現 さ れ た 自 己 像 が な い
点 ,自 分 個 人 の 特 性 へ の 気 づ き が ほ と ん ど 報 告 さ れ な い 点 が あ っ た 。島 の 再 生 や 人 の 生 活 の
痕 跡 に つ い て ,意 欲 が 戻 り つ つ あ る 今 の 自 分 に 関 連 さ せ つ つ も ,主 要 な 力 点 は 昔 か ら 変 わ ら
な い よ り 普 遍 的 な 意 味 で の 人 の 歩 み の 方 に あ っ た ,と 捉 え ら れ た 。今 回 の 全 体 の 文 脈 と し て
は ,個 人 的 存 在 と し て の 自 分 よ り も ,歴 史 的 な 存 在 で あ る 自 分 に よ り 焦 点 化 さ れ て い た ,と 考
え る こ と が で き た 。 こ の 点 か ら も ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 の 構 成 は ,B 氏 の 個 人 的 な 意 識 体 験
を 超 え た も の が 表 現 さ れ て い た ,と 考 え ら れ る 。
第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 は ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 に 続 い て ,抽 象 度 の 高 い 作 品 で あ っ た 。 4 つ
の 区 画 に 表 現 さ れ た 四 季 の 風 景 は ,折 々 の 人 々 の 生 活 や 自 然 の あ り 様 の 表 現 で あ り ,決 し て
抽 象 度 が 高 い も の で は な い 。第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 抽 象 度 を 高 め て い る の は ,中 央 の 十 字 形
の 構 成 と そ の 主 観 的 体 験 で あ る 。十 字 形 の 構 成 は ,神 や 仏 と い う 宗 教 的 な イ メ ー ジ で も あ り ,
地 球 を 動 か す 力 ,そ の よ う な こ と を 見 さ せ る 自 分 の 感 覚 の 奥 に あ る よ う な も の で あ る ,表 現
し が た い 多 義 的 な 表 現 で あ っ た 。 ま た ,B 氏 は ,中 央 の 十 字 形 に つ い て 調 査 的 説 明 過 程 で 前
面 に ,な ん か ,こ の 部 分 が あ る っ て い う よ り か ,ま あ ,そ の ,背 後 と か ,根 底 と か に あ っ て ,っ
て い う よ う な と こ ろ ( B 氏 調 査 ,7-全 体 的 感 想 ) と も 語 っ た 。 こ れ ら の 語 り か ら ,中 央 の 十
字 形 は ,4 つ の 区 画 に 表 現 さ れ た 四 季 の 風 景 と は ,心 の 次 元 ・ 層 が 異 な る 表 現 で あ る ,と 考 え
ることができる。
B 氏 第 6 回 お よ び 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 非 連 続 性 や 特 異 性 は ,心 の 多 層 性 に よ る 次 元 の 異
な る 表 現 に 起 因 す る ,と 考 え る こ と が で き る 。第 6 回 お よ び 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 作 品 は ,B
氏 の 心 の 深 層 よ り 生 じ た イ メ ー ジ を 含 ん だ も の ,と 考 え る こ と が で き る 。第 6 回 箱 庭 制 作 面
接 の 再 生 の テ ー マ や 時 間 の 多 義 性 ,第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 砂 箱 中 央 の 十 字 形 の 部 分 に ,深 層
の イ メ ー ジ が 顕 れ て い る ,と 考 え る こ と が で き よ う 。 そ し て ,こ の よ う な 内 的 プ ロ セ ス が ,第
8 回箱庭制作面接や第 8 回ふりかえり面接で語られた外的状況・箱庭制作面接・内的状況
の 一 致 や 展 開 の 母 胎 と な っ た ,と 考 え る こ と が で き よ う 。
次 に ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 で 生 じ た 領 域 の 拡 大 に つ い て ,心 の 多 層 性 と の 関 連 か ら 考 察 し
た い 。 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 四 隅 に 森 が 構 成 さ れ た 。 そ の 構 成 に つ い て ,B 氏 は 内 省
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報 告 に 無 意 識 の 領 域 ( B 氏 内 省 ,5-6,制 作 ・ 意 図 ) ,今 は 脇 に 追 い や ら れ て い る 諸 々 の 心 の
部 分 ( B 氏 内 省 ,5-6,制 作 ・ 感 覚 ) と 記 し た 。 と こ ろ が 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 以 降 ,砂 箱 全 面
を 用 い た 構 成 が な さ れ た 。 先 に ,第 6 回 お よ び 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 作 品 は ,B 氏 の 心 の 深
層 よ り 生 じ た イ メ ー ジ を 含 ん だ も の と 考 え る こ と が で き る ,と 記 し た 。こ の 考 え が 的 を 射 て
い る の で あ れ ば ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 以 降 の 領 域 の 拡 大 に つ い て ,理 解 が 可 能 と な る 。 こ の
領 域 の 拡 大 は ,深 層 に 向 か っ て の 垂 直 方 向 へ の 意 識 の 深 化 に よ っ て も た ら さ れ た も の ,と 理
解 で き る 。あ る い は ,B 氏 の 意 識 が ,心 の 深 層 の イ メ ー ジ と つ な が り を も ち ,そ れ を 受 け 止 め ,
表 現 で き る よ う に な っ た た め ,と 捉 え る こ と も で き る 。 こ の よ う な 垂 直 方 向 の 深 化 が ,水 平
方 向 の 領 域 の 拡 大 を 生 ん だ ,と 考 え ら れ る 。 第 5 回 箱 庭 制 作 面 接 で は 無 意 識 の 領 域 で あ り ,
心 の 脇 に 追 い や ら れ て い た 心 の 領 域 に ,B 氏 は 触 れ ,受 け 止 め ,表 現 で き る よ う に な っ た た め ,
以 後 ,そ の 領 域 を 森 と し て 表 現 し な く な っ た 。 つ ま り ,意 識 化 ・ 顕 在 化 し て い な い た め ,そ の
内 容 が 明 示 的 に な ら な い 部 分 が 四 隅 の 森 と し て 構 成 さ れ た 。し か し ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 以
降 は ,そ れ が 顕 在 化 し ,領 域 の 拡 大 に つ な が っ た ,と 考 え ら れ る 。
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XIII 章 . 総 合 考 察
XIII-1 . 本 章 の 目 的 と 構 成
本 研 究 の 第 1 研 究 は ,a. 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験
(subjective experience) を 精 緻 に 分 析 し , 概 念 化 す る こ と を 通 し て , 箱 庭 制 作 面 接 が 箱 庭 制
作 者 の 自 己 理 解 や 自 己 成 長 を ど の よ う に 促 進 す る の か ,そ の 機 能 に つ い て 検 討 す る こ と を
目 的 と し た 。 目 的 a は , 以 下 の 2 つ の 下 位 目 的 か ら 成 っ て い た 。 a-1.箱 庭 制 作 面 接 の 中 心
的 過 程 で あ る 箱 庭 制 作 過 程 に 主 に 焦 点 を 合 わ せ ,箱 庭 作 品 が 制 作 さ れ て い く 過 程 に お い て ,
ど の よ う な 促 進 機 能 が 生 じ る の か を 検 討 す る 。a-2.箱 庭 制 作 面 接 が 継 続 す る こ と よ っ て ,箱
庭 制 作 過 程 に お い て ど の よ う な 促 進 機 能 が 生 じ る の か を 検 討 す る 。 第 1 研 究 で は ,目 的 a
を 達 成 す る た め ,2 名 の 箱 庭 制 作 者 の 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 主 観 的 体 験 の 語 り や 記
述 の デ ー タ を M-GTA に よ っ て 分 析 し ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に つ い て 理 論 生 成 し た 。
第 2 研 究 は ,b.継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 面 接 の
展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 を 検 討 す る こ と ,を 目 的 と し た 。 目 的 を 達 成 す る た め に , 2 人 の 箱 庭 制
作 者 そ れ ぞ れ の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 に 関 し て ,質 的 研 究 に よ る 系 列 的 理 解 に よ っ て ,筆
者が設定したテーマについて分析・考察した。
Ⅸ 章 に も 記 し た が ,第 2 研 究 で 採 用 し た 質 的 研 究 に よ る 系 列 的 理 解 は ,本 研 究 の 目 的 b を
達 成 す る た め に ,オ リ ジ ナ ル に 考 案 し た 研 究 法 で あ る 。 本 研 究 の 目 的 b を 達 成 す る た め に
は ,M-GTA と は 異 な る 研 究 法 が 必 要 と な っ た 。a.M-GTA で は ,調 査 参 加 者 個 人 の ま と ま り は
保 持 さ れ な い た め ,各 個 人 の 事 例 の 継 時 的 な 変 化 を 追 う こ と が で き な い 。 そ の た め ,目 的 b
を 達 成 す る た め に は ,事 例 研 究 法 に よ る 分 析 が 必 要 と な っ た 。b.し か し ,本 研 究 で 収 集 さ れ た
デ ー タ は ,多 元 的 な 方 法 で 収 集 さ れ た 詳 細 な デ ー タ で あ る 。 一 般 的 な 事 例 研 究 法 で は ,詳 細
で多元的なデータを充分に活かすことができないことが危惧された。詳細で多元的なデー
タ を 精 緻 に 比 較 ・ 検 討 す る と と も に ,そ れ ら の 検 討 を 通 し て ,デ ー タ を 総 合 的 に 把 握 す る 手
続 き が 必 要 に な っ た 。 そ こ で ,質 的 研 究 に よ る 系 列 的 理 解 を 考 案 し ,そ の 研 究 法 に よ っ て ,
第 2 研究を行った。
研 究 法 の 名 称 を 内 実 に よ り 適 合 さ せ る た め に , こ の 研 究 法 を 「単 一 事 例 質 的 研 究 」 と 呼 ぶ
こ と に し た い 。「単 一 事 例 質 的 研 究 」を 以 下 の よ う に 定 義 す る 。「箱 庭 制 作 面 接 に 関 す る 単 一
事 例 質 的 研 究 」は ,多 元 的 な 方 法 で 収 集 さ れ た 詳 細 な デ ー タ を 基 礎 資 料 と し て ,各 調 査 参 加
者 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ に 対 し て ,a.箱 庭 制 作 過 程 毎 の 分 析 , b.箱 庭 制 作 面 接 毎 に ,箱 庭 制 作
者 の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 関 連 性 に 関 す る 分 析 ,c. 各 調 査 参 加 者 の 全 面 接 の 分 析 , を 精 緻 に 行
う 研 究 法 で あ る 。「単 一 事 例 質 的 研 究 」は ,系 列 的 理 解 を 実 施 す る 点 で は 事 例 研 究 法 と 共 通 点
を も つ が ,詳 細 で 多 元 的 な デ ー タ を 精 緻 に 比 較 ・ 検 討 す る と と も に ,そ れ ら の 検 討 を 通 し て ,
デ ー タ を 総 合 的 に 把 握 す る 手 続 き を 採 用 し て い る 点 に お い て ,事 例 研 究 法 と は 異 な っ て い
る 。「単 一 事 例 質 的 研 究 」は ,箱 庭 制 作 過 程 に 関 す る デ ー タ を ミ ク ロ な 視 点 か ら 精 緻 に 分 析 す
る 方 法 論 と ,事 例 研 究 法 に よ る 継 続 し た 面 接 過 程 で あ る 箱 庭 療 法 過 程 に 関 し て 系 列 的 理 解
を 行 う 方 法 論 を 統 合 し た 方 法 と 考 え る こ と が で き る 。こ の よ う な 方 法 の 採 用 は ,目 的 b に 適
う と 同 時 に ,詳 細 で 多 元 的 な デ ー タ を 活 か す 研 究 法 と な り う る と 考 え る 。
本 章 総 合 考 察 は ,1.本 研 究 の 調 査 方 法・分 析 方 法 に つ い て 考 察 す る こ と ,2.箱 庭 制 作 面 接 に
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お け る 促 進 機 能 に つ い て 総 合 的 に 考 察 す る こ と ,3 . 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 連 続 性
に つ い て 考 察 す る こ と ,を 目 的 と す る 。
本 研 究 で は ,本 研 究 の 目 的 を 達 成 す る た め に ,調 査 方 法 と 分 析 方 法 に お い て ,多 元 的 方 法 や
方法のトライアンギュレーションを採用した。その調査方法と分析方法の有効性と限界に
つ い て ,2 節 で 考 察 す る 。
本 研 究 で は ,箱 庭 制 作 面 接 の 中 心 的 な 促 進 機 能 を ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 要 因 間 の 『 交 流 』
で あ る と 解 釈 し た 。 促 進 要 因 間 の 『 交 流 』 は ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 の 核 と な る 。
そ れ に 対 し て ,本 研 究 の M-GTA の カ テ ゴ リ ー や 概 念 は ,促 進 要 因 間 の 交 流 で あ る た め ,そ れ
ぞ れ が 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 を 持 ち う る 。 し か し ,そ れ ら の 促 進 機 能 は 限 局 的 で あ り ,箱
庭 制 作 面 接 全 体 の 促 進 機 能 の 一 部 を 担 う も の で あ る ,と 考 え る こ と が で き る 。と 言 う も の の ,
箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 の 機 微 を 捉 え る 上 で は ,カ テ ゴ リ ー や 概 念 レ ベ ル で の 促 進
機 能 も 重 要 な 観 点 と な る 。こ の レ ベ ル で の 理 解 は ,箱 庭 制 作 面 接 の 実 践 に 最 も 密 接 に 関 連 し
て い る ,と 捉 え る こ と が で き る 。 本 章 で 考 察 す る ,複 数 の コ ア カ テ ゴ リ ー に 亘 っ て 見 い だ さ
れ た 促 進 機 能 は ,単 一 の コ ア カ テ ゴ リ ー の み に 見 い だ さ れ た カ テ ゴ リ ー や 概 念 と 比 較 す る
と ,よ り 包 括 的 な 促 進 機 能 で あ る ,と 考 え る こ と が で き る 。そ の た め ,本 章 の 目 的 2 を 設 定 し ,
包 括 的 な 促 進 機 能 を 含 め て ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 に つ い て ,3 節 で 総 合 的 に 考 察
する。
本 研 究 で は , 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 連 続 性 に つ い て ,p.1 に 挙 げ た a-2 と b の 2
つ の 目 的 を 設 定 し ,異 な る 分 析 方 法 に よ っ て 考 察 し た 。こ の 2 つ の 目 的・分 析 方 法 に つ い て
4 節で総合的に考察する。
5 節 に ,今 後 の 課 題 に つ い て 記 す 。
XIII-2. 本 研 究 の 調 査 方 法 ・ 分 析 方 法 に つ い て の 考 察
本 研 究 で は ,本 研 究 の 目 的 を 達 成 す る た め に ,調 査 方 法 と 分 析 方 法 に お い て ,多 元 的 方 法 や
方法のトライアンギュレーションを採用した。その調査方法と分析方法の有効性と限界に
つ い て ,考 察 す る 。
1)調 査 方 法
本 研 究 に お け る 調 査 は ,(1) 箱 庭 制 作 面 接 の ,1. 箱 庭 制 作 過 程 ,2-1. 自 発 的 説 明 過 程 と 2-2.
調 査 的 説 明 過 程 ,(2) 箱 庭 制 作 面 接 の ビ デ オ を 視 聴 し て の 内 省 報 告 作 成 ,(3) 箱 庭 制 作 者 の 内
省 報 告 を 筆 者 と 共 有 化 す る ふ り か え り 面 接 ,(4)全 面 接 過 程 に つ い て の ふ り か え り 面 接 か ら
構 成 さ れ て い る 。こ れ ら の う ち ,1 つ の セ ッ ト と な る (1)か ら (3)の 調 査 構 造 を 図 示 す る と 図 7
の よ う な 包 含 関 係 と な る 。 各 面 接 ,各 過 程 に つ い て ,方 法 論 の 観 点 か ら 記 述 し て い く 。
(1)箱 庭 制 作 面 接
1.箱 庭 制 作 過 程
箱 庭 制 作 過 程 で ,筆 者 は 見 守 り 手 あ る い は 広 い 意 味 で の セ ラ ピ ス ト と し て ,そ の 場 に い た 。
し か し ,そ れ を ,従 来 の 調 査 方 法 に あ え て 翻 訳 す れ ば ,参 与 観 察 を し て い た と い う よ う に も 捉
え る こ と が で き る だ ろ う 。 そ こ で ,図 7 で は ,一 種 の 留 保 の 意 味 も こ め て ,()付 の 参 与 観 察 と
した。
(1)箱 庭 制 作 面 接
2-1.自 発 的 説 明 過 程
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(3)ふ り か え り 面 接 < ア ク テ ィ ブ な イ ン タ ビ ュ ー >
(2)内 省 報 告 作 成 < テ キ ス ト 化 >
(1)2-2.箱 庭 制 作 面 接
調査的説明過程
<アクティブなインタビュー>
(1)2-1.箱 庭 制 作 面 接
自発的説明過程
<箱庭制作者主導のインタビュー>
(1)1.箱 庭 制 作 面 接
箱庭制作過程
< (参 与 観 察 )>
図 7
調査構造図
自 発 的 説 明 過 程 で ,筆 者 は ,箱 庭 制 作 者 の 自 発 的 な 語 り を 傾 聴 す る こ と を 基 本 的 な 態 度 と
し て 臨 ん だ 。 そ の た め ,こ れ は 箱 庭 制 作 者 主 導 の イ ン タ ビ ュ ー と 考 え る こ と が で き る 。
(1 )箱 庭 制 作 面 接
2-2. 調 査 的 説 明 過 程
調 査 的 説 明 過 程 で は ,筆 者 は ,よ り 積 極 的 に 対 話 や 質 問 を 行 い ,箱 庭 制 作 過 程 と 自 発 的 説 明
過 程 に お け る ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 言 語 化 を 促 し た 。 そ の た め ,こ れ は ア ク テ ィ ブ ・
イ ン タ ビ ュ ー と 捉 え る こ と が で き る 。ア ク テ ィ ブ・イ ン タ ビ ュ ー は ,イ ン タ ビ ュ ア ー と イ ン
タ ビ ュ イ ー が 協 同 で 知 識 を 構 築 す る こ と に 貢 献 し て い る こ と を 認 め ,そ れ を 意 識 的・良 心 的
に イ ン タ ビ ュ ー デ ー タ の 産 出 と 分 析 に 組 み 込 ん で い く (Holstein & Gubrium,1995 上 淵 他
訳 2003,p.22) 。 こ の 調 査 的 説 明 過 程 で な さ れ た こ と は ,ア ク テ ィ ブ ・ イ ン タ ビ ュ ー と 考 え
ることができる。
(2)内 省 報 告 作 成
箱 庭 制 作 面 接 の ビ デ オ を 箱 庭 制 作 者・筆 者 が 視 聴 し 内 省 報 告 を 書 き 綴 っ た 。箱 庭 制 作 者・
筆 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 文 章 化 さ れ た 。 そ の た め ,こ れ は ,内 的 な プ ロ セ ス を テ キ ス ト 化 す る
行為と捉えることができる。
(3)ふ り か え り 面 接
ふ り か え り 面 接 で は , 箱 庭 制 作 者 が 箱 庭 制 作 過 程 ,自 発 的 説 明 過 程 ,調 査 的 説 明 過 程 に 関
す る 内 省 報 告 を 行 い ,筆 者 と 共 有 化 す る と と も に ,筆 者 が 明 確 化 す べ き と 考 え た 点 に 関 し て
確 認 し た 。 そ の た め ,こ の 面 接 も ア ク テ ィ ブ ・ イ ン タ ビ ュ ー と 捉 え ら れ る 。
記 録 方 法 も 複 数 の 方 法 を 採 用 し た 。a.箱 庭 制 作 面 接 は ,ビ デ オ 録 画 さ れ た 。b.内 省 報 告 作
成 は ,エ ク セ ル フ ァ イ ル で 作 成 さ れ ,箱 庭 制 作 者 の 内 省 報 告 の プ リ ン ト ア ウ ト と 電 子 デ ー タ
は 筆 者 と も 共 有 さ れ た 。 c.ふ り か え り 面 接 は 録 音 さ れ た 。
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こ の よ う に ,参 与 観 察 ,イ ン タ ビ ュ ー ,テ キ ス ト 化 と い う 多 元 的 な デ ー タ 収 集 を 行 っ た 。 ま
た ,記 録 方 法 と し て も , ビ デ オ 録 画 ,録 音 ,テ キ ス ト と 多 様 な 方 法 を 用 い て い る 。 そ し て , 各 面
接 ,各 過 程 が 時 系 列 で 包 含 関 係 と な っ て い る 。 こ の よ う に 本 研 究 の 調 査 方 法 は ,多 元 的 ・ 体
系 的 な デ ー タ 収 集 を 行 っ て お り ,多 元 的 方 法・方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン と 捉 え る こ
と が で き る 。調 査 方 法 に お い て ,多 元 的 方 法・方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン を 採 用 し た
こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 精 緻 に 分 析 す る た め の 詳 細 な 基 礎
データを収集することができた。
本 研 究 で は 箱 庭 制 作 者 か ら , 詳 細 で , 豊 か な 主 観 的 体 験 が 報 告 さ れ た 。 そ れ に は ,多 元 的
方 法・方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン の 要 因 に 加 え ,箱 庭 制 作 者 の 研 究 へ の 関 与 の 強 さ や
内的プロセスを言語化する能力の高さなどが寄与していると考えられる。
箱庭療法では,イメージ表現の生命力が重視され,言語化には慎重な態度が求められて
いる。それゆえ本研究では,箱庭制作者の自己理解・自己成長の促進と言語化を促す調査
方 法 と を 両 立 す る た め ,言 語 化 に 関 し て 慎 重 な 関 わ り を 心 が け た 。
し か し ,内 省 報 告 , ふ り か え り 面 接 は , 本 研 究 に お い て 必 要 な 調 査 方 法 で あ る も の の , そ
の課題・限界も示唆された。
A 氏 第 4 回 ふ り か え り 面 接 で , A 氏 は ,[箱 庭 制 作 面 接 で は 深 ま っ て い く 感 じ だ が , ふ り
か え り 面 接 で は 平 行 移 動 す る よ う な 感 じ ]と 語 っ た 。 筆 者 は ,ふ り か え り 面 接 が A 氏 の 自 己
理 解 ・ 自 己 成 長 を 阻 害 し て い な い か 危 惧 し , 質 問 し た 。 A 氏 は [大 き な 支 障 は な い ]と 答 え
たが,ふりかえり面接は箱庭制作者の内的プロセスの深まりを小休止させる危険性が示唆
さ れ た 。 そ こ で ,ふ り か え り 面 接 を 慎 重 に 継 続 す る が , A 氏 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 が
本面接の第一目的であることを再確認した。
また,ビデオ視聴による内省報告作成は,研究への関与・動機づけが強くないと継続が
難 し い た め ,調 査 参 加 者 の 選 択 や 意 思 確 認 に 慎 重 な 検 討 ・ 配 慮 が 必 要 で あ る 。 さ ら に ,内 省
報 告 に よ り ,過 度 の 知 性 化 を 起 こ さ な い た め の 配 慮 も 必 要 だ っ た 。 本 研 究 で は ,知 性 化 を 疑
わ せ る 内 省 報 告 箇 所 に 対 し て ,ふ り か え り 面 接 で の 質 問 を 控 え ,そ れ 以 上 の 言 語 化 を 回 避 し
た 。 そ う す る こ と に よ っ て ,知 性 化 を で き る 限 り 避 け ,箱 庭 制 作 に お け る イ メ ー ジ の 生 命 力
や イ メ ー ジ の 自 然 な 流 れ を 尊 重 で き る よ う ,配 慮 し た 。
2)分 析 方 法
同一データに対して 2 つの異なる分析方法を併用する意義について考察する。
a.本 研 究 で は ,木 下 (2009)で 推 奨 さ れ て い る よ う に (pp.34-36),M-GTA の 分 析 結 果 で あ る
カ テ ゴ リ ー ,概 念 を 意 識 し つ つ , M-GTA と 単 一 事 例 質 的 研 究 を 併 用 す る こ と が ,研 究 目 的 に
照らして効果的であると判断した。
M-GTA で は 「 被 面 接 者 個 人 の ま と ま り は 保 持 さ れ な い 」 ( 木 下 ,2003,p.104) 。 そ の た
め ,M-GTA に よ る 分 析 で は ,事 例 の 継 時 的 な 変 化 を 追 う こ と は 困 難 で あ っ た 。し か し ,単 一 事
例 質 的 研 究 の 分 析 に よ っ て ,各 箱 庭 制 作 者 個 人 の ま と ま り を 保 持 し た 上 で ,事 例 の 継 時 的 な
変化に対して系列的・多層的・総合的に分析することができた。
b.本 研 究 で は , M-GTA の 標 準 的 な 研 究 に 比 べ 具 体 例 を 多 く 示 す 工 夫 を 行 っ た が ,そ れ で
- 231 -
も M-GTA を 用 い た 分 析 で は 例 示 で き る デ ィ テ ー ル に は 限 り が あ っ た 。 し か し ,単 一 事 例 質
的 研 究 を 実 施 す る こ と に よ っ て ,よ り 多 く の デ ィ テ ー ル を 直 接 的 に 記 述 し ,連 続 性 に 関 す る
単 一 事 例 の 全 体 像 を 厚 く 記 述 す る こ と (thick description) * 1 に よ っ て ,多 層 的 ・ 総 合 的 に 分
析することができた。
c.本 研 究 で は ,箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 に 関 し て , M-GTA と 単 一 事 例 質 的 研 究 の 2 つ の 研 究
法 を 用 い て 考 察 し た 。 M-GTA の 分 析 で は ,箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 が も つ 促 進 機 能 と い う 機
能面に焦点を合わせることができた。単一事例質的研究では, 面接テーマに関する箱庭制
作 者 の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 と い う , 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接
に 表 現 さ れ た 心 理 的 内 容 の 理解に焦点を合わせることができた。両研究法を併用する
こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 を 機 能 と 内 容 の 両 側 面 か ら 多 面 的・総 合 的 に 分 析・考 察 す る こ
とが可能になった。
こ の 両 方 法 論 の 併 用 は ,分 析 方 法 に お け る 多 元 的 方 法 ,方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン
と 理 解 す る こ と が で き る 。分 析 方 法 の 多 元 的 方 法 ,方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン に よ っ
て ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 多 面 的 ・ 総 合 的 に 分 析 で き た た め ,継 続 し た 箱
庭 制 作 面 接 に お け る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を 精 緻 に 分 析 す る と と も に ,よ
り総合的な考察が可能となった。
XIII-3. 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 に つ い て の 総 合 考 察
第 1 研 究 で は , M-G TA に よ る 分 析 に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 要 因 間 の 『 交 流 』 が ,箱
庭 制 作 面 接 の 中 心 的 な 促 進 機 能 で あ る と 解 釈 し た 。そ し て ,コ ア カ テ ゴ リ ー ご と に 概 念 や カ
テ ゴ リ ー に つ い て ,デ ー タ に 密 着 し た 考 察 を 行 っ た 。そ の 考 察 を 通 し て ,M-GTA の 複 数 の コ
アカテゴリーに亘る箱庭制作面接の促進機能が見いだされた。複数のコアカテゴリーに亘
っ て 見 い だ さ れ た 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に は ,1 ) 装 置 や 構 成 に よ る 内 的 プ ロ セ ス の 喚
起 ,2) 装 置 や 構 成 へ の 内 的 プ ロ セ ス の 付 与 ,3)自 律 性 や 多 義 性 な ど の イ メ ー ジ 特 性 ,4) 意 識 の
図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ,5)ミ ニ チ ュ ア・ミ ニ チ ュ ア 選 択・構 成 の 他 の 構 成 と の 関 連 ・
連 動 ,6)直 観 的 な 意 識 ,7)連 続 性 に よ る 促 進 が あ っ た 。複 数 の コ ア カ テ ゴ リ ー に 亘 っ て 見 い だ
さ れ た 促 進 機 能 は ,単 一 の コ ア カ テ ゴ リ ー の み に 見 い だ さ れ た カ テ ゴ リ ー や 概 念 と 比 較 す
る と ,よ り 包 括 的 な 促 進 機 能 で あ る ,と 考 え る こ と が で き る 。 複 数 の コ ア カ テ ゴ リ ー に 亘 っ
て 見 い だ さ れ た ,包 括 的 な 促 進 機 能 は ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解・自 己 成 長 の 促 進 に ,よ り 広 範
に ,よ り 高 く 寄 与 し て い る と 考 え ら れ る 。1)“ 装 置 や 構 成 に よ る 内 的 プ ロ セ ス の 喚 起 ”は ,[ミ
ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ] と [構 成 に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ ス ]と が 統
合 さ れ た 包 括 的 な 促 進 機 能 で あ る 。2)“ 装 置 や 構 成 へ の 内 的 プ ロ セ ス の 付 与 ”は ,< ミ ニ チ
ュ ア に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス > と [構 成 に 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス ]と が 統 合 さ れ た 包 括
的 な 促 進 機 能 で あ る 。 3) “ 自 律 性 や 多 義 性 な ど の イ メ ー ジ 特 性 ” は , < イ メ ー ジ の 自 律 性
> ,[ミ ニ チ ュ ア の 多 義 性 ],[構 成 に よ る 表 現 の 多 義 性 ],[枠 外 の イ メ ー ジ ],[連 続 性 と イ メ
ー ジ 特 性 と の 関 連 ]な ど ,コ ア カ テ ゴ リ ー ① ,② ,④ ,⑪ ,⑫ に 亘 っ て 見 い だ さ れ た 。 4 )“ 意 識
の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ” は , コ ア カ テ ゴ リ ー ① , ④ に 見 い だ さ れ た 。 5)“ ミ ニ チ
ュ ア・ミ ニ チ ュ ア 選 択・構 成 の 他 の 構 成 と の 関 連・連 動 ”は , [他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 ],[ミ
- 232 -
ニ チ ュ ア の 他 領 域 と の 関 連 ]と ,[構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス の ミ ニ チ ュ ア 選 択 へ の 影 響 ]内 の
2 具 体 例 (◆ 具 体 例 87, ◆ 具 体 例 88)が 統 合 さ れ た 包 括 的 な 促 進 機 能 で あ る 。 6)“ 直 観 的 な
意 識 ” は ,コ ア カ テ ゴ リ ー ① , ② , ④ に 亘 っ て 見 い だ さ れ た 。 7) “ 連 続 性 に よ る 促 進 ” は ,コ
ア カ テ ゴ リ ー ⑪ ,⑫ に 見 い だ さ れ た 。こ の 包 括 的 な 促 進 機 能 の 内 ,“ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転
に よ る 気 づ き ”と“ 直 観 的 な 意 識 ”は , M-G TA に よ る 分 析 に よ っ て ,直 接 的 に 生 成 さ れ た 概
念 で は な い 。“ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ” と “ 直 観 的 な 意 識 ” は ,M-GTA に よ
る 分 析 時 点 で は ,概 念 と し て 生 成 さ れ な か っ た が ,M-GTA の 概 念 や カ テ ゴ リ ー を デ ー タ に 基
づ き 詳 細 に 考 察 す る 中 で 見 い だ さ れ た 。 そ の 意 味 で は ,“ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気
づ き ”と“ 直 観 的 な 意 識 ”は デ ー タ に 基 づ か ず 理 論 的 に 生 成 さ れ た 促 進 機 能 で は な く ,デ ー
タに密着して生成された促進機能であると考えることができる。
本 節 で は ,『 交 流 』と 包 括 的 な 促 進 機 能 に 加 え て ,M-GTA の 概 念 や カ テ ゴ リ ー の 内 ,箱 庭 制
作 面 接 の 促 進 機 能 に 高 く 寄 与 し て い る と 考 え ら れ る 一 部 の 概 念 や カ テ ゴ リ ー を 使 っ て ,箱
庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に 関 し て ,総 合 的 に 考 察 す る 。 こ の 総 合 考 察 で は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促
進 機 能 に つ い て の エ ッ セ ン ス を よ り 端 的 に 示 す こ と を 目 的 と す る (図 8)。 Ⅴ 章 か ら Ⅷ 章 ま
で の 考 察 で は ,M-GTA の カ テ ゴ リ ー や 概 念 は ,促 進 要 因 間 の 交 流 で あ る た め ,限 局 的 な が ら
も 促 進 機 能 を も つ と 考 え た た め ,個 々 の カ テ ゴ リ ー や 概 念 に つ い て 詳 細 に 考 察 し た 。し か し ,
そ の よ う な 考 察 で は ,各 カ テ ゴ リ ー や 概 念 が ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に 対 し て ,ど の 程 度
寄 与 し て い る の か の 比 重 を 明 示 す る こ と が で き な か っ た 。そ こ で 総 合 考 察 で は ,箱 庭 制 作 面
接 の 促 進 機 能 に 高 く 寄 与 し て い る と 考 え ら れ る も の に 焦 点 化 し ,本 研 究 の デ ー タ に 基 づ い
て ,現 時 点 で 考 え ら れ る 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 の エ ッ セ ン ス を 描 写 す る 。 ま た ,Ⅴ 章 か ら
Ⅷ 章 ま で の 考 察 で は ,カ テ ゴ リ ー や 概 念 の 記 述 ・ 説 明 に 焦 点 化 さ れ た た め ,箱 庭 制 作 面 接 の
流 れ に 沿 っ た 記 述 に は な っ て い な い 。 総 合 考 察 で は ,箱 庭 制 作 面 接 の 流 れ を 意 識 し て ,で き
る 限 り 実 際 の 箱 庭 制 作 面 接 の 流 れ に 近 い 形 で ,促 進 機 能 に つ い て 記 し て い く 。
第 1 研 究 で は ,M-GTA に よ る 分 析 か ら ,箱 庭 制 作 面 接 の 中 心 的 な 促 進 機 能 を ,箱 庭 制 作 面
接 の 促 進 要 因 間 の『 交 流 』で あ る と 解 釈 し た (図 3,p.25)。箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に 共 通・
通 底 す る の は ,『 交 流 』 で あ る 。 箱 庭 制 作 面 接 は ,促 進 要 因 の 『 交 流 』 と い う ダ イ ナ ミ ッ ク
な 動 き に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 を 促 進 す る 。 こ の こ と を 前 提 と し て ,以
下に論を進めていく。
箱庭制作面接は現物の<もの>を使用する点に心理面接としての特徴がある。しかし,
< も の > が < も の > に 止 ま っ て い て は ,心 理 面 接 と し て 機 能 し な い 。a.< も の > が < こ こ ろ
の こ と > に な る 必 要 が あ る (藤 原 , 2002, p.128)。一 方 で ,b.箱 庭 療 法 に お い て ,意 識 が 勝 ち す
ぎ る こ と の 弊 害 が 指 摘 さ れ る 場 合 が あ る (河 合 隼 雄 ,1991,pp.132-134;他 )。こ の a と b が 箱
庭 制 作 面 接 で 両 立 す る た め に は ,≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ が 重 要 と な る 。創 造 に お
け る 受 動 性 は ,箱 庭 制 作 面 接 に お い て ,箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 心 の 奥 か ら 自 然 発 生 的
に 浮 か び 上 が る の を 待 つ 態 度 で あ る 。創 造 に お け る 能 動 性 は ,浮 か ん で き た 内 的 プ ロ セ ス を
捉 え よ う と す る 積 極 的 な 態 度 で あ り ,捉 え た 内 的 プ ロ セ ス を 実 際 に 形 作 り ,表 現 し て い こ う
とする能動的な内的プロセスである。例えば,
- 233 -
図 8
促進機能の総合考察図
◆ 具 体 例 143: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2(◆ 具 体 例 37,pp.70-71 の 抜 粋 )
博 物 館 で ,あ の 曼 荼 羅 の 展 示 会 を や っ て い た の で < は ぁ ぁ > 観 て 来 た ん で す よ ね (中 略 )
そ い で あ の 丸 い 図 形 と か ,お も し ろ い な と 思 っ て ,ま ,で も ,ね ,そ ん な の を 作 り た い と 思 っ
て い る わ け で も な く 。で も 砂 を 見 て い た ら ,う ,渦 巻 き だ と い う ふ う に 思 っ た の で ,す ー‘ 息
を 吸 う 音 ’ち ょ っ と ど う な る か わ か ら な か っ た ん だ け ど ,渦 巻 き が 浮 か ん で き て ど う も 消 え
な い か ら ,う ん じ ゃ ぁ 作 っ て み て み よ う と 思 っ た の が ,今 日 の ‘ 筆 者 に 顔 を 向 け て ’ 作 品 な
ん で す ね ( A 氏 自 発 ,4-2) の そ ん な の を 作 り た い と 思 っ て い る わ け で も な く 。 で も 砂 を 見
て い た ら ,う ,渦 巻 き だ と い う ふ う に 思 っ た の で は 創 造 に お け る 受 動 性 で あ る 。 渦 巻 き が 浮
か ん で き て ど う も 消 え な い か ら ,う ん じ ゃ ぁ 作 っ て み て み よ う と 思 っ た は ,創 造 に お け る 能
動 性 で あ る 。箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 心 の 奥 か ら 自 然 発 生 的 に 浮 か び 上 が る の を 待 ち ,
浮 か ん で き た 内 的 プ ロ セ ス を 捉 え ,捉 え た 内 的 プ ロ セ ス を 実 際 に 形 作 り ,表 現 し て い く こ と
に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 は < こ こ ろ の こ と > に な る と 同 時 ,意 識 が 勝 ち す ぎ る 可 能 性 は 軽 減
する。
第 1 研 究 で は ,“ 装 置 や 構 成 に よ る 内 的 プ ロ セ ス の 喚 起 ”と“ 装 置 や 構 成 へ の 内 的 プ ロ セ
ス の 付 与 ”が ,< も の > が < こ こ ろ の こ と > に な る 包 括 的 な 促 進 機 能 の 一 部 で あ る と 考 え ら
れた。
ま ず ,“ 装 置 や 構 成 に よ る 内 的 プ ロ セ ス の 喚 起 ” に つ い て 考 察 す る 。“ 装 置 や 構 成 に よ る
内 的 プ ロ セ ス の 喚 起 ”は ,装 置 ・ 構 成 と 内 界 の『 交 流 』に よ っ て 生 じ る 。砂 や ミ ニ チ ュ ア と
いう装置や構成によって, 箱庭制作者の内的プロセスが喚起される。例えば,
◆ 具 体 例 144: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 箱 庭 制 作 過 程 5(◆ 具 体 例 2,p28)
- 234 -
白い陶器の肌が床に伏せている義母の弱々しい感じをイメージさせる。それで大切に扱
わ な け れ ば と い う 気 持 ち が 私 の 中 に お き て き た (A 氏 内 省 ,8-5,制 作・感 覚 )は , 白 い 女 性 の
人形のミニチュアに喚起された A 氏の内的プロセスである。例えば,
◆ 具 体 例 145: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 13(◆ 具 体 例 22,p.53 の 抜 粋 )
い ろ い ろ 試 そ う と 思 っ て ,ふ っ と 亀 の 置 き 方 を 変 え た ら ば < う ん > あ ー ,急 に な ん か 違 う
感 じ に な っ て ,が ら り と 。 あ の あ ぁ ,沖 へ 出 て 行 く の も 気 分 が い い な と 思 っ て < う ん う ん >
沖 へ 出 て 行 く 風 に 決 め ま し た ね ( A 氏 自 発 ,3-13) は ,構 成 か ら 喚 起 さ れ た A 氏 の 内 的 プ ロ
セスである。
装 置 や 構 成 に 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ る こ と は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能
の 中 で も ,基 礎 的 ・ 基 盤 と な る 促 進 機 能 の 一 つ で あ る 。 内 的 プ ロ セ ス の 喚 起 は ,箱 庭 制 作 面
接が促進機能を発揮する最初のステップと位置づけることができる。
も う 一 つ の 基 礎 的・基 盤 と な る 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 は ,装 置 や 構 成 に 箱 庭 制 作 者 が 内
的 プ ロ セ ス を 付 与 す る こ と で あ る 。“ 装 置 や 構 成 へ の 内 的 プ ロ セ ス の 付 与 ” は ,装 置 ・ 構 成
と内界の『交流』によって生じる。例えば,
◆ 具 体 例 146: B 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 2(◆ 具 体 例 9,p.39)
気 持 ち を 重 た く さ せ る 重 さ を 表 現 し た い( B 氏 内 省 ,2-2,制 作・意 図 ),壁( B 氏 内 省 ,2 -2,
制作・意味)は, B 氏が仕切りのミニチュアに付与した内的プロセスである。例えば,
◆ 具 体 例 147:B 氏 第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て (◆ 具 体 例 30,pp.63-64 の 抜 粋 )
ど ち ら と い う と ,気 持 ち 的 に は ,再 生 し て く ,と い う 印 象 ,気 持 ち が あ っ て 。だ か ら ,そ う い
う よ う な と こ ろ で は , そ う い う 木 々 が 生 え て き て , 草 が , 実 の (? ),生 え て き て ,多 少 な り と
も , 実 の な る も の を こ う や っ て つ い て い る よ う な 状 況 の 中 で ,鳥 も や っ て き て ,巣 を 作 っ た
り と か と い う も の を ,そ の ,こ の 中 心 に 置 き た か っ た と( B 氏 自 発 ,6-複 数 過 程 に 亘 っ て )は ,
B 氏が島の中央に横に寝かせて置いた樹木に付与した内的プロセスである。
装 置 や 構 成 に よ る 内 的 プ ロ セ ス の 喚 起 ,と ,装 置 や 構 成 へ の 内 的 プ ロ セ ス の 付 与 に よ っ て ,
<もの>が<こころのこと>になっていく。
装 置 や 構 成 に 内 的 プ ロ セ ス が 喚 起 さ れ ,装 置 や 構 成 へ の 内 的 プ ロ セ ス の 付 与 が ,箱 庭 制 作
面 接 の 最 初 の ス テ ッ プ と な る が ,構 成 が 箱 庭 制 作 者 の 内 的 プ ロ セ ス に ぴ っ た り な 表 現 と な
る た め に は ,[ぴ っ た り 感 の 照 合 ]が 必 要 と な る 。 喚 起 さ れ ,付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス と ,ミ ニ
チ ュ ア や 構 成 が ぴ っ た り で あ る か を 照 合 し ,ぴ っ た り な 感 じ を 確 か め る こ と に よ っ て ,箱 庭
制 作 者 は そ の ミ ニ チ ュ ア や 構 成 に ぴ っ た り 感 を え る こ と が で き る 。 [ぴ っ た り 感 の 照 合 ]は
装置と構成と内界 3 要因の『交流』である。例えば,
◆ 具 体 例 148:A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て (◆ 具 体 例 104,pp.139-1 40 の 抜
粋)
大 事 な も の な の で 。あ ま り こ う (間 )ま あ ,お ご そ か な 雰 囲 気 っ て い う と 言 い す ぎ か も し れ
- 235 -
な い け れ ど 。 う ん ,そ う い う 感 じ (間 )が よ か っ た ん で す ね 。 簡 単 に は 触 れ て い け な い ,な 。
う ん 。(間 )だ か ら そ れ が ,わ た し の 中 に 何 か も っ て る も の が ち ゃ ん と あ っ て る か な あ っ て ち
ゃ ん と 確 認 し て ま し た ね ( A 氏 調 査 ,1-複 数 過 程 に 亘 っ て ) は ,[ぴ っ た り 感 の 照 合 ]の 一 例
で あ る 。こ の よ う な [ぴ っ た り 感 の 照 合 ]を 経 る こ と に よ っ て ,ミ ニ チ ュ ア や 構 成 は 箱 庭 制 作
者の内的プロセスを的確に反映したものとなる。
箱 庭 制 作 面 接 に は イ メ ー ジ が 深 く 関 与 し て い る 。イ メ ー ジ は ,「意 識 と 無 意 識 ,内 界 と 外 界
の 交 錯 す る と こ ろ に 生 じ て き た も の 」 (河 合 隼 雄 ,1969,p.17)で あ る 。 本 研 究 で は ,自 律 性 ,多
義 性 ,枠 外 の イ メ ー ジ な ど の イ メ ー ジ 特 性 が 見 い だ さ れ た 。イ メ ー ジ は 自 律 性 や 多 義 性 な ど
の 特 性 を 本 来 的 に も っ て い る と 言 わ れ る 。あ る い は ,一 義 的 に イ メ ー ジ や 意 味 が 固 定 さ れ に
くいミニチュアや構成から箱庭制作者は多様なイメージを喚起されるとも考えることがで
き る 。 ま た ,箱 庭 制 作 者 が 構 成 を 認 知 し ,意 味 づ け る 際 に 意 図 し な い 変 遷 が 生 ま れ る と 捉 え
ることもできる。
“ 自 律 性 や 多 義 性 な ど の イ メ ー ジ 特 性 ”は 複 数 の コ ア カ テ ゴ リ ー に 亘 っ て
見 い だ さ れ た 包 括 的 な 促 進 機 能 の 一 つ で あ り ,装 置 と 構 成 と 内 界 3 要 因 の 『 交 流 』 で あ る 。
例えば,
◆ 具 体 例 149: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10(◆ 具 体 例 40,p.75 の 抜 粋 )
だ か ら す ご く 不 思 議 な ん で す け ど ,こ れ 作 っ て い る 最 中 ,こ の 辺 の 動 物 を ,な じ み の 動 物
を 置 く 時 に ,な ん か こ れ が 母 で は な く な っ て 私 に な っ て い く な っ て い う よ う な 感 覚 が 少 し
あ っ て ,< あ ,な る ほ ど > う ん ,あ れ あ れ あ れ と 思 い な が ら( A 氏 調 査 ,8-10)は ,意 図 と は 関
係 な く イ メ ー ジ が 移 り 変 わ る A 氏 の 主 観 的 体 験 の 語 り で あ る 。“ 自 律 性 や 多 義 性 な ど の イ
メ ー ジ 特 性 ” は ,箱 庭 制 作 者 の 意 図 と は 関 係 な く 生 じ る 。 そ の た め ,“ 自 律 性 や 多 義 性 な ど
の イ メ ー ジ 特 性 ”は ,箱 庭 制 作 面 接 で 箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た 作 品 が 作 ら れ る 一 因 と な る 。
他 に も ,箱 庭 作 品 が 箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た も の と な る 要 因 が あ る 。 そ の 一 つ と し て ,
“ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ” を 挙 げ る こ と が で き る 。 箱 庭 制 作 者 は ,自 分 の 内
的 プ ロ セ ス の す べ て に 気 づ い て い る わ け で は な く ,内 界 に は 気 づ い て い な い 内 的 プ ロ セ ス
も 存 在 す る * 2 。“ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ” は 包 括 的 な 促 進 機 能 の 一 つ で あ り ,
装置と構成と内界 3 要因の『交流』である。例えば,
◆ 具 体 例 150: A 氏 第 4 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 4∼ 6(◆ 具 体 例 4,pp.29-30 の 抜 粋 )
A 氏第 4 回箱庭制作面接には以下のような具体例があった。鳥の巣は目に入っていたん
で す‘ 見 守 り 手 の 顔 を 見 な が ら ’。< ふ ん ,う ん ,う ん > で ,で も ,な ん だ ろ う こ う 素 直 に 手 が
伸 ば せ な く っ て < ふ ぅ ん > ベ ン チ や ら 貝 殻 に し て た ん で す け ど ,( A 氏 調 査 ,4-複 数 過 程 に
亘って)
( 中 略 )素 直 に 手 が 伸 ば せ な い( 間 7 秒 )こ れ ,あ の ,貝 殻 も そ う で し た け ど < う ん
> 貝 殻 も ,こ の ,巣 も ,< う ん > 卵 を 抱 え た 巣 も そ う な ん で す け ど ,< う ん > す ご く そ の 女 性
の こ と を < う ん > 意 識 さ せ る 感 じ が < う ん > 私 に は あ る ん で す よ 。 < う ん ,う ん ,う ん > 特
にこれは‘巣を指差しながら’こう子どもをかえすっていうね。<そうだね>うん私は<
ふん>子どもがいないというところで<ふん>何か引っかかっている様な気も<うん>し
ま す ね ( A 氏 調 査 ,4-6)。 こ の よ う に 鳥 の 巣 か ら 喚 起 さ れ る ,女 性 や 子 ど も を 意 識 さ せ ら れ
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る 感 じ は ,調 査 的 説 明 過 程 で 初 め て 気 づ い た こ と が 明 示 的 に 語 ら れ て い る 。ま た , A 氏 第 4
回 ふ り か え り 面 接 に は ,[あ の 時 は ね 。私 の 声 が 震 え だ し た の は 自 分 で も わ か っ て ,思 わ ぬ と
こ ろ か ら 自 分 の 何 か 大 事 な と こ ろ が 明 ら か に な っ て き た っ て い う 驚 き の よ う な ,戸 惑 い の
よ う な 気 持 ち も あ っ た ん で す ね ]と い う 語 り が あ る 。
ミ ニ チ ュ ア や 構 成 を 巡 る 内 的 プ ロ セ ス に は ,多 様 な 意 味 や イ メ ー ジ の う ち ,あ る 時 に は そ
の 一 つ の 側 面 が 図 と な る が ,別 の 場 面 で は ,図 地 反 転 が 起 こ り 他 の 側 面 が 図 と な る と い う 特
性 を も つ 場 合 が あ る と 考 え ら れ る 。 図 地 反 転 す る こ と に よ り ,箱 庭 制 作 者 は ,ミ ニ チ ュ ア や
構 成 の 多 様 な 意 味 や イ メ ー ジ に 関 す る 気 づ き や ,自 己 へ の 気 づ き を え る こ と が で き る と 考
え る こ と が で き る 。 こ の よ う な “ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ” も ま た ,箱 庭 作 品
が箱庭制作者の意図を超えたものとなる一要因である。
箱 庭 制 作 面 接 で は ,装 置 や 構 成 に 喚 起 ・ 付 与 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス が ,砂 箱 の 中 に 作 品 と し
て 作 り あ げ ら れ て い く 。そ の 作 品 を 制 作 す る 過 程 の 中 で ,構 成 が ば ら ば ら に な る の で は な く ,
ある程度のまとまりをもった表現となっていくことがよく起こる。
“ ミ ニ チ ュ ア・ミ ニ チ ュ
ア 選 択 ・ 構 成 の 他 の 構 成 と の 関 連 ・ 連 動 ” は ,ミ ニ チ ュ ア や ミ ニ チ ュ ア 選 択 や 構 成 が ,他 の
ミ ニ チ ュ ア や 構 成 と 関 連 性 や 連 動 性 を も つ こ と に 寄 与 す る 。“ ミ ニ チ ュ ア ・ ミ ニ チ ュ ア 選
択 ・ 構 成 の 他 の 構 成 と の 関 連 ・ 連 動 ”に よ っ て ,あ る ミ ニ チ ュ ア が 他 の ミ ニ チ ュ ア と の 関 連
の 中 で 構 成 さ れ た り ,あ る 領 域 が 他 の 領 域 と 関 連 性 を も っ て い く 。“ ミ ニ チ ュ ア ・ ミ ニ チ ュ
ア 選 択 ・ 構 成 の 他 の 構 成 と の 関 連 ・ 連 動 ” は ,包 括 的 な 促 進 機 能 の 一 つ で あ り ,装 置 と 構 成
と内界 3 要因の『交流』である。例えば,
◆ 具 体 例 151: A 氏 第 2 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11(◆ 具 体 例 83,p.120)
ち ょ っ と 奥 の 方 の 山 の 上 の 方 だ っ た ら ,あ あ い う 石 を 置 け る な と 思 っ て ,石 を 置 い て < う
ん う ん う ん > そ う し た 時 に ,こ の 人 た ち も ,山 の 奥 の ほ う だ っ た ら い て も ら っ て も い い な <
はぁーー>この辺の手前のほうにはちょっと置けない<置けない>うん手前のほうにいる
生 き 物 と は ち ょ っ と 違 う 生 き 物 の よ う な 気 が し て 置 け な か っ た で す ね( A 氏 自 発 ,2-11)は ,
埴 輪 と 土 偶 と い う ミ ニ チ ュ ア と 他 領 域 と の 関 係 性 に つ い て ,A 氏 が 語 っ た こ と で あ る 。こ の
具 体 例 で は ,埴 輪・土 偶 は ,石 や 山 と の 関 連 性・類 似 性 を も つ と 同 時 に ,動 物 や 人 と は 異 質 性
を も つ こ と が ,構 成 に 影 響 し た こ と が 示 さ れ た 。
次 の 具 体 例 は ,他 の 領 域 の 構 成 へ の 影 響 を 示 し て い る 。
◆ 具 体 例 152: B 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 複 数 過 程 に 亘 っ て (◆ 具 体 例 60,p.95)
B 氏 は ,第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 2 で ,中 央 の 砂 を 掘 り ,底 の 青 の 色 を 出 し て ,
泉 (水 源 )を 創 っ た 。制 作 過 程 2 に つ い て ,内 省 報 告 に は 以 下 の よ う に 記 さ れ た 。生 命 の 源( B
氏 内 省 ,1-2,制 作・意 図 ),深 部 か ら こ ん こ ん と 湧 き で る ,つ き な い 泉( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・
感 覚 ) ,神 ,生 命 ( B 氏 内 省 ,1-2,制 作 ・ 連 想 ) 。制 作 過 程 6 で , B 氏 は ,「 水 の 恵 み を 受 け て
育 つ 木 々 を 探 し ,水 源 周 り 」 に 置 い た 。 制 作 過 程 6 に つ い て ,内 省 報 告 に ,泉 の 生 命 が 周 辺
に 広 が る ( B 氏 内 省 ,1-6,制 作 ・ 意 図 ) ,生 命 が 広 が り 及 ぶ ( B 氏 内 省 ,1-6,制 作 ・ 感 覚 ) ,
育 み ( B 氏 内 省 ,1-6,制 作 ・ 意 味 ) と 記 さ れ た 。 B 氏 は ,泉 が 生 命 の 源 で あ り ,大 事 で ,中 心
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に く る も の で あ る と 感 じ た 。 そ し て ,泉 の 生 命 が 周 辺 に 広 が り ,木 々 が 育 ま れ る 様 を 表 現 し
た 。 こ の よ う に ,あ る 領 域 が 他 の 領 域 に 影 響 を 及 ぼ し ,複 数 の 領 域 に 関 連 性 ・ 連 動 性 が 生 ま
れている。
こ の よ う に 複 数 の 制 作 過 程 が 連 動 し て ,構 成 に 結 び つ き が 生 ま れ る こ と に よ っ て ,箱 庭 制
作 面 接 に ,ス ト ー リ ー が 生 ま れ る と 考 え る こ と が で き る 。 複 数 の 制 作 過 程 が 連 動 し て ,構 成
に 結 び つ き が 生 ま れ ,箱 庭 制 作 面 接 に ス ト ー リ ー が 生 ま れ る こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 は 自
己 の 内 的 世 界 を ま と ま っ た も の と し て 表 現 で き る と と も に ,そ の 構 成 は 自 分 の 物 語 が 表 現
されたものとなる。
こ こ ま で ,≪ 創 造 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 ≫ ,“ 装 置 や 構 成 に よ る 内 的 プ ロ セ ス の 喚 起 ”,
“ 装 置 や 構 成 へ の 内 的 プ ロ セ ス の 付 与 ” ,[ぴ っ た り 感 の 照 合 ],“ 自 律 性 や 多 義 性 な ど の イ
メ ー ジ 特 性 ”,“ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ”,“ ミ ニ チ ュ ア ・ ミ ニ チ ュ ア 選 択 ・
構成の他の構成との関連・連動”について考察してきた。これらは箱庭制作過程における
促 進 機 能 で あ る 。 こ れ ら の 促 進 機 能 が 働 く こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 過 程 で ,箱 庭 制 作 者 の 内
界 に ぴ っ た り の 表 現 , あ る い は ,自 分 の 意 図 を 超 え た 表 現 が 生 ま れ る 。 そ の よ う な 表 現 は ,
箱 庭 制 作 者 の 自 己 の 内 的 プ ロ セ ス へ の 理 解 を 深 化 さ せ た り ,自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る 。
次 に ,箱 庭 制 作 過 程 だ け で な く ,説 明 過 程 に お け る 語 り や 内 省 報 告 も 含 め た ,箱 庭 制 作 面 接
の 促 進 機 能 に つ い て 考 察 す る 。“ 直 観 的 な 意 識 ” は ,箱 庭 制 作 過 程 ,説 明 過 程 に お け る 語 り や
内 省 報 告 に お け る 包 括 的 な 促 進 機 能 で あ る 。箱 庭 制 作 面 接 で は ,ミ ニ チ ュ ア や 構 成 の イ メ ー
ジ や 意 味 が 明 確 に は 把 握 で き な く て も ,“ 直 観 的 な 意 識 ” に 基 づ い て ミ ニ チ ュ ア が 選 ば れ ,
箱 庭 作 品 が 構 成 さ れ る 場 合 が あ る 。 そ し て ,説 明 過 程 に お け る 語 り や 内 省 を 通 し て ,ミ ニ チ
ュ ア や 構 成 の イ メ ー ジ や 意 味 に 箱 庭 制 作 者 が 気 づ く こ と が あ る 。 上 に 挙 げ た ◆ 具 体 例 150
(p.236)は ,“ 直 観 的 な 意 識 ” の 表 れ と 解 釈 す る こ と が で き る 。 鳥 の 巣 か ら 触 発 さ れ た 内 的
プ ロ セ ス に つ い て ,制 作 時 に ,少 な く と も ,素 直 に 手 が 伸 ば せ な い と い う 身 体 感 覚 は 存 在 し
て い た 。箱 庭 制 作 過 程 で は ,鳥 の 巣 か ら 触 発 さ れ た 内 的 プ ロ セ ス の 内 的 意 味 や イ メ ー ジ を 明
確 に 意 識 す る こ と は な く て も ,ミ ニ チ ュ ア に よ っ て 触 発 さ れ た 自 己 へ の 影 響 を 身 体 感 覚 と
し て 捉 え ,鳥 の 巣 を 手 に と る こ と を 留 保 す る と い う 行 動 を と っ て い た こ と に な る 。 そ し て ,
調 査 的 説 明 過 程 で 素 直 に 手 が 伸 ば せ な い と い う 身 体 感 覚 を 再 度 照 合 し た 後 に ,女 性 の こ と
を 意 識 さ せ る 感 じ が 明 確 に な り ,語 ら れ た 。“ 直 観 的 な 意 識 ” は ,箱 庭 制 作 過 程 に お い て ,構
成 が 箱 庭 制 作 者 の 意 図 を 超 え た も の と な る 一 要 因 で あ る と 同 時 に ,説 明 過 程 に お け る 語 り
や 内 省 を 通 し て ,ミ ニ チ ュ ア や 構 成 の イ メ ー ジ や 意 味 に 箱 庭 制 作 者 が 気 づ き ,自 己 理 解 を 深
めることに寄与する。
以 上 ,単 一 回 の 箱 庭 制 作 過 程 と 説 明 過 程 と 内 省 報 告 に 関 す る 促 進 機 能 に つ い て ,考 察 し て
き た 。 本 節 で は ,各 コ ア カ テ ゴ リ ー で の 考 察 に 比 べ る と ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に つ い て
のエッセンスをより端的に示すことを心がけた。
本 研 究 で は ,継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 も 視 野 に 入 れ ,考 察 し て き た 。 継 続
的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 促 進 機 能 に つ い て は ,次 節 に 記 す 。
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XIII-4. 継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 連 続 性 に 関 し て
本 研 究 の 目 的 と し て ,継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 に 焦 点 を 合 わ せ た 以 下 の 2 つ の 目 的 が あ っ
た 。第 1 研 究 で は ,a-2.箱 庭 制 作 面 接 が 継 続 す る こ と よ っ て ,箱 庭 制 作 過 程 に お い て ど の よ う
な 促 進 機 能 が 生 じ る の か を 検 討 す る ,を 目 的 と し た 。 第 2 研 究 の 目 的 は ,b.箱 庭 制 作 者 の 主
観 的 体 験 の 変 容 や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 を 検 討 す る こ と で あ っ た 。 本 節 で は ,継 続 的
な 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 連 続 性 に 関 し て ,1) M-GTA と 2) 単 一 事 例 質 的 研 究 の 両 方 法 論 に
おいて見いだされた連続性に関する理論を総合的に考察する。
1)M-GTA に よ り 見 い だ さ れ た 連 続 性
M-GTA の 分 析 結 果 の 内 , 継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 に 関 係 す る の は ,コ ア カ テ ゴ リ
ー⑪【単一回の制作過程・作品と作品の連続性や変化の交流】と⑫【箱庭制作面接のプロ
セ ス と 心 や 生 き 方 の 変 化・成 長 の 交 流 】で あ る 。検 討 の 結 果 ,連 続 性 の 促 進 機 能 が 確 認 さ れ
た 。箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 に よ り ,箱 庭 作 品 ,箱 庭 制 作 者 の 心 や 生 き 方 に 変 化 が 生 ま れ ,箱 庭
制 作 者 の 自 己 理 解・自 己 成 長 が 促 進 さ れ る こ と が 見 い だ さ れ た (図 8 “ 連 続 性 に よ る 促 進 ”
の 「作 品 の 変 化 」,「自 己 の 生 き 方 へ の 気 づ き ・ 変 化 ・ 成 長 」に 向 か う 右 向 き の 矢 印 )。 例 え ば ,
◆ 具 体 例 153: A 氏 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 11(◆ 具 体 例 138,p.169 の 抜 粋 )
A 氏 は 第 3 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 制 作 過 程 11 に つ い て ,内 省 報 告 に 以 下 の よ う に 記 し た 。
最 近 の 私 は 以 前 と 比 べ て ,い ろ い ろ な 場 面 で ,い ろ い ろ な 自 己 開 示 を す る よ う に な っ て い る 。
(中 略 )私 自 身 は ,こ れ ま で は ひ ょ っ と し た ら 随 分 尊 大 な 自 己 イ メ ー ジ を 持 っ て い た の か も
し れ な い 。そ れ が ,尊 大 さ は 薄 れ ,た だ の ,あ る 意 味 で と て も 平 凡 な 一 人 の 人 間 と し て い ら れ
る よ う に な っ た の か も し れ な い( A 氏 内 省 ,3-11,調 査・意 味 )。A 氏 は ,こ の 箱 庭 制 作 過 程 に
お け る 構 成 や そ の 構 成 に つ い て の 語 り を 通 し て ,自 分 の 心 や 生 き 方 の 変 化 に 気 づ い た ,と 捉
え ら れ る 。継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 で は ,箱 庭 制 作 者 の あ る テ ー マ が 連 続 し て 表 さ れ る 場 合 が
ある。そのテーマを巡る表現の変化から箱庭制作者が自己理解を深めることができる。ま
た ,そ の 変 化 は 箱 庭 制 作 者 の 自 己 成 長 の 表 れ で あ る と 考 え る こ と が で き る 。
ま た ,箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 が ,箱 庭 制 作 者 の イ メ ー ジ 体 験 (自 律 性 ,集 約 性 ,象 徴 性 な ど )
を 促 進 す る こ と が 見 い だ さ れ た ((図 8
“ 連 続 性 に よ る 促 進 ”の 「作 品 の 変 化 」,「自 己 の 生 き
方 へ の 気 づ き ・ 変 化 ・ 成 長 」か ら の 左 向 き の 矢 印 )。 例 え ば ,
◆ 具 体 例 154: A 氏 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 制 作 過 程 10(◆ 具 体 例 135,p.168)
A 氏 は 第 8 回 箱 庭 制 作 面 接 で ,砂 箱 中 央 に 白 い 女 性 の 人 形 を 置 い た 。 そ の 後 ,そ の 周 り に ,
今 ま で の 箱 庭 制 作 面 接 で 使 用 し た 動 物 を 置 い た 。A 氏 は ,女 性 の ミ ニ チ ュ ア を 意 識 的 に は 義
母 と 捉 え て お り ,イ メ ー ジ の 自 律 性 や 集 約 性 が 体 験 さ れ て い な か っ た 。 し か し ,以 前 使 っ た
な じ み の 動 物 を 置 く こ と (連 続 性 )に よ り , 自 律 性 や 集 約 性 を 体 験 で き た 。 そ し て ,調 査 的 説
明 過 程 で 私 に も 母 に も 共 通 す る 何 か が あ る な っ て い う (中 略 )女 性 っ て い う 命 が 持 っ て い る
何 か ,意 味 の よ う な も の を 感 じ る と い う か ね ( A 氏 調 査 ,8-10) と 語 っ た 。 こ の 構 成 を 通 し
て ,自 分 と 母 に 共 通 す る 女 性 と い う 命 が も っ て い る 意 味 を 感 じ る こ と が で き た ,と 捉 え ら れ
る 。箱 庭 制 作 面 接 が 継 続 し て 実 施 さ れ る こ と に よ っ て ,連 続 性 が 箱 庭 制 作 者 の イ メ ー ジ 特 性
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の体験に影響を与える場合がある。箱庭制作面接の連続性が箱庭制作者のイメージ体験を
促 進 す る 場 合 が あ る と 考 え ら れ る 。箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 は ,箱 庭 制 作 面 接 と し て の 促 進 機
能 を も ち ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 す る と 考 え る こ と が で き る 。
[面 接 内 外 を 貫 い て 内 的 プ ロ セ ス を 生 き る ]は ,a.外 的 状 況 と 内 的 状 況 の 一 致 ,面 接 内 外 の
内 的 プ ロ セ ス の 交 流 ,b.継 続 し た 箱 庭 制 作 面 接 と 日 常 生 活 と を 含 め た 時 間 の 連 続 性 と い う
2 つの要素が統合された事象に関する概念であると考えることができた。継続した箱庭制
作 面 接 と 日 常 生 活 と を 含 め た 時 間 の 連 続 性 の 中 で ,面 接 内 外 の プ ロ セ ス が 交 流 し ,連 動 す る
こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 者 の 自 己 理 解 ・ 自 己 成 長 の 促 進 に 寄 与 し て い る こ と が 確 認 で き た 。
こ れ は ,箱 庭 制 作 面 接 の 内 外 で ,自 己 に つ い て の 気 づ き や 課 題 な ど の 内 的 プ ロ セ ス に ,箱 庭 制
作 者 が 主 体 的 に 取 り 組 み ,そ の 体 験 を 深 化 し よ う と す る 態 度 よ っ て 生 起 す る 箱 庭 制 作 面 接
の促進機能と考えられた。
2)単 一 事 例 質 的 研 究 に よ り 見 い だ さ れ た 連 続 性
A 氏 の 単 一 事 例 質 的 研 究 で は ,以 下 の 5 点 が 見 い だ さ れ た 。a.面 接 の 展 開 に 従 っ て ,箱 庭 作
品のテーマと制作者の自己像であるミニチュアに変化がみられた。それらの変化に制作者
の 心 の 変 容 が 表 さ れ て い た 。b.宗 教 性 (命 ,守 り ,神 聖 な 場 所 ・ 生 き 物 )は ,本 面 接 に お い て ,重
要 な テ ー マ の 一 つ で あ っ た 。面 接 が 展 開 し て い く 中 で ,宗 教 性 が 自 己 の 内 側 に 根 付 い た 歓 び
を ,箱 庭 制 作 者 は 実 感 で き た と 捉 え ら れ た 。c.以 前 に は 受 け 入 れ る こ と が で き な か っ た 自 己
の 女 性 性 を ,箱 庭 制 作 者 は 箱 庭 制 作 面 接 を 通 し て ,受 け 入 れ る こ と が で き た と 実 感 し た 。 d.
自 己 の 多 様 性 や 能 動 性 の 獲 得 ,他 者 と の 関 係 性 の 変 容 が ,連 鎖 的 に 生 じ て い っ た こ と が 確 認
さ れ た 。e.箱 庭 制 作 に お け る 受 動 性 と 能 動 性 と の 協 働 ,箱 庭 制 作 面 接 内 外 の 真 摯 な 取 り 組 み
が ,箱 庭 制 作 者 の 心 の 変 容 を 促 進 し た 。 箱 庭 制 作 と 命 ,特 に 女 性 と い う 命 に 共 通 す る ,受 動 性
と 能 動 性 の 協 働 と ,制 作 へ の 関 与 の 強 さ ・ 深 さ が ,箱 庭 制 作 者 の 心 の 変 容 と 面 接 の 展 開 を 促
進 し た 重 要 な 要 因 の 一 つ で あ る と 考 え ら れ た 。ま た ,箱 庭 制 作 者 は 箱 庭 制 作 面 接 内 外 で 主 体
的 に 自 己 の 課 題 に 取 組 ん で い た 。こ の 真 摯 な 取 り 組 み ,深 い 関 与 も 箱 庭 制 作 者 の 心 の 変 容 の
大きな要因の一つと考えられた。
B 氏 の 箱 庭 制 作 面 接 で は ,宗 教 性・信 仰 が 主 要 な テ ー マ と な っ た 。そ の た め ,B 氏 の 単 一 事
例 質 的 研 究 で は ,a .宗 教 性 を 中 心 と し た 心 や 生 き 方 の 変 容 の 観 点 と b.心 の 多 層 性 の 観 点 か
ら 検 討 さ れ た 。a.で は ,宗 教 性 を 中 心 と し た 心 や 生 き 方 に 関 し て ,B 氏 の 主 観 的 体 験 の 変 容 や
面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 が 確 認 さ れ た 。 b.で は ,心 の 多 層 性 の 観 点 か ら , B 氏 第 6 回 お よ
び 第 7 回 箱 庭 制 作 面 接 の 箱 庭 作 品 の 非 連 続 性・特 異 性 や ,第 6 回 箱 庭 制 作 面 接 以 降 の 領 域 の
拡大について検討された。
単 一 事 例 質 的 研 究 に よ っ て ,そ れ ぞ れ の テ ー マ に お け る 箱 庭 制 作 者 の 心 理 的 状 態 の 変 容
や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 が 見 い だ さ れ た 。両 氏 の 箱 庭 制 作 面 接 へ の 系 列 的 理 解 に よ っ
て ,両 氏 へ の 個 別 的 理 解 を 深 め る こ と が で き た 。
面 接 の 連 続 性 に 関 し て ,本 研 究 で は M-GTA と 単 一 事 例 質 的 研 究 の 2 つ の 研 究 法 を 用 い て
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検 討 し た 。 M-GTA の 分 析 で は ,継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 の 連 続 性 が も つ 促 進 機 能 と い う 機 能
面 に 焦 点 を 合 わ せ る こ と が で き た 。単 一 事 例 質 的 研 究 で は ,面 接 テ ー マ に 関 す る 箱 庭 制 作 者
の 主 観 的 体 験 の 変 容 や 面 接 の 展 開 ,そ の 個 人 的 意 味 と い う ,継 続 的 な 箱 庭 制 作 面 接 に 表 現 さ
れ た 心 理 的 内 容 の 理 解 に 焦 点 を 合 わ せ る こ と が で き た 。両 研 究 法 を 併 用 す る こ と に よ っ て ,
箱庭制作面接を機能と内容の両側面から多面的・総合的に分析・検討することが可能にな
ったと考える。
XIII-5. 今 後 の 課 題
本 研 究 は ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 を デ ー タ と し て ,M-GTA に よ る 分 析 を
通 し て ,箱 庭 制 作 過 程 に お け る 促 進 機 能 に 焦 点 を 合 わ せ た 第 1 研 究 と ,調 査 参 加 者 ご と に 単
一 事 例 質 的 研 究 に よ る 分 析 を 実 施 し た 第 2 研 究 か ら 構 成 さ れ て い る 。両 研 究 法 を 併 用 す る
こ と に よ っ て ,箱 庭 制 作 面 接 を 機 能 と 内 容 の 両 側 面 か ら 多 面 的・総 合 的 に 分 析・検 討 す る こ
と が 可 能 に な っ た と 考 え る が ,焦 点 を 合 わ せ る こ と が で き な か っ た テ ー マ も 少 な く な い 。
a.第 1 研 究 は ,箱 庭 制 作 面 接 の 中 心 的 過 程 で あ る 箱 庭 制 作 過 程 に 主 に 焦 点 を 合 わ せ ,箱 庭
制作過程にはどのような促進機能があるのかを考察することを目的の一つとした。そのた
め ,コ ア カ テ ゴ リ ー ① ,② , ④ を 取 り 上 げ ,考 察 し た 。 そ の た め ,本 研 究 で は ,コ ア カ テ ゴ リ ー
⑤ 【 制 作 過 程 と 作 品 の 交 流 】 ,⑥ 【 制 作 過 程 と 外 界 ・ 日 常 生 活 の 交 流 】 ,⑦ 【 単 一 回 の 制 作
過 程 ・ 作 品 と 説 明 過 程 の 交 流 】 ,⑧ 【 単 一 回 の 制 作 過 程 ・ 作 品 と 見 守 り 手 の 交 流 】 ,⑨ 【 説
明 過 程 と 見 守 り 手 の 交 流 】,⑩【 箱 庭 制 作 面 接 の プ ロ セ ス と 内 省 の 交 流 】を 取 り 上 げ て い な
い 。 こ れ ら の コ ア カ テ ゴ リ ー の 中 で ,⑧ は 単 一 回 の 箱 庭 制 作 過 程 に お い て ,見 守 り 手 が ど の
ように関与しているかという見守り手の役割に関係する重要なコアカテゴリーと考えるこ
と が で き る 。 ま た ,⑦ ∼ ⑨ を 総 合 す る と ,箱 庭 制 作 過 程 や 説 明 過 程 に お け る 箱 庭 制 作 者 と 見
守り手との関係性に焦点が合わせられるだろう。箱庭制作面接における見守り手の役割や
箱 庭 制 作 者 と 見 守 り 手 と の 関 係 性 と い う 重 要 な テ ー マ に 焦 点 を 合 わ せ ,分 析・理 論 生 成 す る
ことが今後の課題として最重要なものである。
b.第 1 研 究 は ,箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に 焦 点 を 合 わ せ た も の の ,「 XIII-3.箱 庭 制 作 面 接
に お け る 促 進 機 能 に つ い て の 総 合 考 察 」に 記 し た よ う に , 第 1 研 究 の 考 察 を 進 め る 中 で“ 意
識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ” と “ 直 観 的 な 意 識 ” の よ う に , M-GTA に よ る 分 析 に
よ っ て ,直 接 的 に 生 成 さ れ た 概 念 で は な い 包 括 的 な 促 進 機 能 が 見 い だ さ れ た 。こ の 点 を 踏 ま
え る と , M-GTA に よ る 分 析 ・ 理 論 生 成 が 充 分 で あ っ た か に 疑 問 が 残 る 。 本 来 で あ れ ば ,
M-GTA に よ る 分 析 ・ 理 論 生 成 の 中 で ,“ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ”と“ 直 観 的
な 意 識 ”を 概 念 化 す べ き だ っ た と 考 え ら れ る 。本 研 究 で は , 「 XIII-3.箱 庭 制 作 面 接 に お け
る 促 進 機 能 に つ い て の 総 合 考 察 」で ,包 括 的 な 促 進 機 能 を 加 え ,M-GTA に よ る 分 析 の 不 完 全
さ を 補 完 し た が ,そ の 補 完 で 充 分 で あ っ た の か ,今 後 検 討 す る 必 要 が あ る だ ろ う 。
c.本 研 究 は 2 名 の 調 査 参 加 者 の デ ー タ を 基 に し て い る 。 複 数 名 の 調 査 参 加 者 の デ ー タ に
基 づ い て 研 究 で き た こ と は 一 定 の 成 果 と 考 え る こ と が で き る 。し か し な が ら ,箱 庭 制 作 者 は
皆 個 性 的 で あ り ,さ ら な る 調 査 参 加 の 申 し 出 が あ れ ば ,そ の 調 査 参 加 者 の デ ー タ を 加 え ,研 究
を深化させることができるだろう。
- 241 -
d.本 研 究 は , 心 理 的 に 健 康 な 調 査 参 加 者 の デ ー タ に 基 づ い た 研 究 で あ り ,臨 床 事 例 に 焦 点
を 合 わ せ る こ と が で き て い な い 。 本 調 査 方 法 は ,通 常 の 箱 庭 療 法 の 手 続 き に ,調 査 的 説 明 過
程 ,VTR 視 聴 に よ る 内 省 報 告 作 成 ,ふ り か え り 面 接 を 追 加 し て い る 。こ れ ら の 追 加 は ,本 研 究
の 目 的 を 達 成 す る た め に は 必 要 で あ る 。し か し ,本 調 査 方 法 を 臨 床 事 例 に 適 用 す る こ と は 侵
襲 性 が 高 く ,適 切 で は な い 。 そ の た め ,本 研 究 で 見 い だ さ れ た 知 見 の 内 , ど の 知 見 が ,ど の 程
度 ,臨 床 事 例 に お け る 箱 庭 療 法 に 対 し て 一 般 化 可 能 な の か を ,本 調 査 方 法 を そ の ま ま 臨 床 事
例 に 適 用 す る 形 で ,検 証 す る こ と は で き な い 。本 研 究 の 知 見 の 適 用 可 能 性 は , M-GTA で い う
【 応 用 者 】の 実 践・研 究 ,つ ま り ,多 く の 箱 庭 療 法 家 に よ る 実 践 や ,生 成 さ れ た 理 論 の【 応 用 】
などによる評価を待つということになる。本研究の知見が【応用者】によって評価され,
箱 庭 制 作 面 接 や 箱 庭 療 法 に 関 す る 知 見 が さ ら に 修 正・追 加 さ れ ,充 実・深 化 し て い く こ と を
願いたい。
- 242 -
注:
Ⅲ章
*1 p.20
筆 者 は ,両 調 査 参 加 者 に 対 し て ,研 究 目 的 ,研 究 方 法 ,デ ー タ の 管 理 ,研 究 を 公 表 す る
場 合 の 調 査 参 加 者 へ の 内 容 の 確 認 と 加 筆 修 正 な ど に つ い て ,文 書 お よ び 口 頭 で 説 明 し ,
調 査 参 加 者 よ り 文 書 に て 同 意 を 得 た 。 ま た ,本 調 査 研 究 は ,2008 年 1 月 21 日 に 南 山 大
学研究倫理審査委員会の承認を受けている。
* 2 p.24 図 3 の 結 果 図 は ,ま ず は A 氏 の デ ー タ を 基 に ,M-GTA に よ っ て 作 成 さ れ ,論 文 と し
て 公 表 さ れ た (楠 本 ,2012)。 そ の 後 ,B 氏 の デ ー タ も 加 え ,M-GTA の 分 析 を 行 っ た が ,結
果 図 を 大 き く 変 更 す る 必 要 は な か っ た 。促 進 要 因 の 「セ ラ ピ ス ト 」を 「見 守 り 手 」に 変 更
し た 。 ま た ,「説 明 過 程 」と 「見 守 り 手 」の 位 置 を 左 右 入 れ 替 え た 。 概 念 名 や カ テ ゴ リ ー
に は 修 正 が 必 要 で あ っ た た め ,そ の 修 正 を 行 っ た 。
Ⅴ章
*1 p.31
直 観 的 な 意 識 と い う 用 語 は ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ を 説 明 す る た め に
考 え た ,筆 者 の 造 語 で あ る 。 こ の 用 語 の 直 観 は ユ ン グ 心 理 学 の 概 念 で あ る ,心 の 4 つ の
機 能 の 1 つ と し て の 「直 観 」で は な く ,よ り 一 般 的 な 用 語 と し て 使 用 し た 。 例 え ば , フ
ァ ン デ ン ボ ス 監 修 の 『 APA 心 理 学 大 事 典 』 (VandenBos,2007 繁 枡 ・ 四 本 監 訳
2013,p.610 ) で は , 直 観 は 「瞬 間 的 な 洞 察 や 知 覚 。 意 識 的 な 推 論 や 内 省 に 対 比 さ れ る 」
と 説 明 さ れ て い る 。『 心 理 学 辞 典 』 で は ,「あ る 対 象 の 非 分 析 的 ,無 媒 介 的 把 握 ・ 理 解 の
方 法 を 直 観 と よ ぶ 」と 記 さ れ て い る (田 中 ,1999,p.595)。こ れ ら の 説 明 に あ る ,非 分 析 的
で ,意 識 的 な 推 論 や 内 省 と 対 比 さ れ る よ う な 理 解 の 方 法 と い う 意 味 で ,本 研 究 で は 直 観
という用語を使用する。
箱庭制作者の主観的体験のデータの分析は, A 氏第 1 回箱庭制作面接から開始した。
A 氏 第 1 回 箱 庭 制 作 面 接 の デ ー タ に は ,本 研 究 に ◆ 具 体 例 103(pp.138-139 参 照 )と し て
挙 げ た 主 観 的 体 験 の デ ー タ が あ っ た 。 こ の 具 体 例 で は ,調 査 的 説 明 過 程 の 語 り と ,内 省
報 告 の 記 述 で は ,一 見 矛 盾 し た よ う な 報 告 に な っ て い る が ,そ れ を ど の よ う に 理 解 す れ
ば よ い だ ろ う か と 考 え て い く 中 で ,「 意 味 の 認 知 は 伴 わ な い が ,ぴ っ た り だ と 感 じ る こ
と が で き る 意 識 」と 定 義 で き る よ う な 意 識 の あ り 様 が あ る と 想 定 す る こ と で ,説 明 が 可
能 に な る と 考 え た 。そ し て ,そ の 概 念 を ど の よ う に 名 づ け る こ と が 適 切 か 検 討 す る 中 で ,
直観的な意識とすることにした。
◆ 具 体 例 103 で は ,調 査 的 説 明 過 程 で 語 ら れ て い る よ う に ,ガ ラ ス 瓶 (壺 )の 中 に 大 事
なものがまだ入っているか出ているのかわからない感じのものというぴったり感に
基 づ い て , A 氏 は ガ ラ ス 瓶 を 選 択 し た ,と 捉 え る こ と が で き る と 考 え た 。し か し ,内 省 報
告 に あ る 主 観 的 体 験 の 記 述 は ,調 査 的 説 明 過 程 で 筆 者 の 応 答 が あ る ま で は ,ガ ラ ス 瓶 を
拾 い 上 げ て い な い と い う 構 成 や そ の 意 味 に つ い て ,明 瞭 に は 意 識 化 し て い な か っ た こ
と が 示 さ れ て い る ,と 考 え た 。 総 合 す る と ,こ の 具 体 例 で は ,箱 庭 制 作 に 関 わ る 意 識 は ,
大 事 な も の が あ る こ と を 箱 庭 に 表 現 し つ つ ,そ れ を そ の ま ま に し て い る こ と と ,ち ゃ
- 243 -
ん と 拾 い 上 げ て い な い こ と の 「 意 味 」 に 気 づ い て い な い 制 作 者 の 内 的 状 態 を も ,非 常
に 巧 み に ,ぴ っ た り な 形 で 表 現 し て い る ,と 理 解 す る こ と が で き る と 考 え た 。
こ の 具 体 例 の よ う に ,構 成 の 「 意 味 」 に 気 づ い て い な い に も 関 わ ら ず ,自 分 の 内 的 プ
ロ セ ス に ぴ っ た り な 構 成 が 可 能 と な る 意 識 は ,直 観 と い う 心 理 的 機 能 と 類 似 し て い る
と 考 え た 。 ま た , ◆ 具 体 例 103 に あ る よ う に ,当 該 の 箱 庭 制 作 過 程 で は ,ミ ニ チ ュ ア 選
択 や 構 成 に 箱 庭 制 作 者 の 意 識 的 な 関 与 が あ る た め ,意 識 的 な 制 作 過 程 で あ る と 考 え た 。
*2 p.35
本 研 究 は ,箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 の デ ー タ に 密 着 し た 理 論 生 成 を
目 指 し た 。 デ ー タ に 密 着 し た 理 論 生 成 を 達 成 す る た め に ,基 本 的 に は 箱 庭 制 作 者 の 主 観
的 体 験 の 具 体 例 を 検 討 す る に あ た っ て ,考 察 が そ の 具 体 例 の デ ー タ か ら 離 れ て し ま わ
ないように心がけた。当該の具体例のデータだけでは考察を深化させることが難しい
場 合 ,当 該 具 体 例 に 関 連 す る 他 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ を 使 用 し て ,考 察 を 行 っ た 。
し か し ,当 該 具 体 例 に 関 連 す る 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ を 精 査 し て も ,考 察
の深化に役立つデータが見つからない場合があった。そのような場合には, 先行研究
を参照・引用した。先行研究を参照・引用する場合に意識したのは、以下の 2 点であ
る 。a.箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 の デ ー タ か ら 離 れ ず ,か つ ,主 観 的 体 験 の デ ー タ を 考 察 す
る 上 で ,説 明 力 の 高 い 概 念 で あ る こ と 。b. a の 条 件 が 満 た さ れ る の あ れ ば ,幅 広 く 複 数 の
学派の理論を参照・引用する。
上のような姿勢で,先行研究を参照・引用したため,[ミ ニ チ ュ ア に よ り 喚 起 さ れ る 内 的 プ ロ セ
ス ] の 促 進 機 能 を 考 察 す る 場 合 に ,ユ ン グ 派 の 研 究 者 (河 合 隼 雄 )の 言 及 ,図 と 地 と い う ゲ
シ ュ タ ル ト 療 法 の 概 念 ,前 概 念 的 体 験 と い う Gendlin の 概 念 な ど 複 数 の 学 派 の 理 論・概
念を参照・引用した。
*3 p.35
概 念 生 成 お よ び カ テ ゴ リ ー 形 成 に 関 し て は ,木 下 康 仁 ,『 ラ イ ブ 講 義 M-GTA ― 実
践的質的研究法修正版グランウンデッド・セオリー・アプローチのすべて』弘文
堂 ,2007 の 1-15,1-17 な ど を 参 照 さ れ た い 。
Ⅶ章
*1 p.139 A 氏の具体例内の th は筆者を指す。
Ⅺ章
*1 p.181 A 氏の具体例内の th は筆者を指す。
*2 p.196 A 氏の単一事例質的研究について,楠 本 (2013c)の 査 読 者 か ら 以 下 の よ う な コ メ ン ト を
い た だ い た 。「制作者が『他者』の視点を取り入れていったこと,
『自分をこえたもの』との関わり
を考え続けたことは,真の意味で『他者を孕む』という『妊娠』のプロセスをたどった,と考えられ
る。単に作品を『産みだす』だけでなく,まさに,箱庭制作における主観的体験そのものが,
『生産
的』であった」と言えよう。
- 244 -
XIII 章
*1 p.232 thick d escription は ,Geertz が 提 唱 し た 概 念 で あ り ,厚 い 記 述 ,ま た は ,ぶ 厚 い 記 述
と 訳 さ れ る こ と が 多 い 。「 社 会 的 行 為 を 厚 く 記 述 す る と は ,特 定 の エ ピ ソ ー ド を 特 徴 づ
け る 状 況 , 意 味 , 意 図 ,方 法 , 動 機 な ど を 記 録 す る こ と に よ っ て 社 会 的 行 為 を 解 釈 し 始 め
る こ と で あ る 。記 述 が 厚 く な る の は ,こ の よ う な 解 釈 を さ し は さ む と い う 特 質 の た め で
あ っ て ,単 に 細 目 の 詳 し さ だ け の 問 題 で は な い 」(Schwandt,2007 伊 藤 他 訳 2009,p.3)。
* 2 p.236
心 の 構 造 の 説 明 概 念 に は ,「意 識 ,個 人 的 無 意 識 ,普 遍 的 無 意 識 」,「意 識 ,前 意 識 ,無
意 識 」,「意 識 の 図 と 地 」な ど が あ る 。 第 1 研 究 で は ,“ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気
づ き ”だ け で な く ,「意 識 と 無 意 識 の 相 互 作 用 」(河 合 隼 雄 ,1967,p.146)な ど ユ ン グ 心 理 学
の 理 論 を 参 照 し た り ,意 識 と 無 意 識 の 協 働 と い う 考 え を 用 い て ,デ ー タ を 考 察 す る 場 合
があった。
し か し , XIII 章 で は “ 意 識 の 図 と 地 ,図 地 反 転 に よ る 気 づ き ” の み を 取 り 上 げ た 。 第
1 研 究 は ,箱 庭 制 作 者 の 意 識 化 さ れ た 主 観 的 体 験 の 語 り や 記 述 の デ ー タ に 密 着 し て 生 成
さ れ た 理 論 で あ る 。 そ の た め ,デ ー タ に 密 着 し た 考 察 を 行 う 際 ,無 意 識 と い う 概 念 を 安
易 に 使 用 す る と デ ー タ か ら 離 れ て し ま う 怖 れ が あ り ,慎 重 な 使 用 が 必 要 で あ っ た 。 「意
識 の 図 と 地 」と い う 概 念 は ,無 意 識 と い う 概 念 に 比 べ ,意 識 の 比 較 的 表 層 部 分 に お け る 心
理 的 現 象 に つ い て の 説 明 概 念 で あ る と 考 え る こ と が で き ,第 1 研 究 に お け る 考 察 に お い
て 参 照 し や す い 概 念 で あ っ た (Perls,1969
倉 戸 監 訳 2009,pp.26-27;Perls,1973 倉 戸
監 訳 1990,p.17, p.21 ;倉 戸 ,2011,pp.20-21)。 そ の た め , XIII 章 で は “ 意 識 の 図 と 地 ,図
地反転による気づき”を中心に考察した。
氏 原 (1990)の 「意 識 の 場 」理 論 は ,ユ ン グ 心 理 学 の 理 論 と 「図 と 地 」と い う 概 念 を 統 合 的
に 捉 え て い る た め (pp.65-78),デ ー タ に 密 着 し て 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 を 考 察 す る 際
に ,参 照 す る こ と が 有 効 で あ っ た 。
箱 庭 療 法 は ,ユ ン グ 派 の セ ラ ピ ス ト が 中 心 と な っ て 研 究 さ れ ,ユ ン グ 心 理 学 の 理 論 に
基 づ く ,多 く の 知 見 が 積 み 重 ね ら れ て い る 。第 1 研 究 に お い て ,考 察 を 深 め よ う と す る 際
に デ ー タ に 密 着 し た 分 析 を 行 い た く て も ,説 得 力 の あ る デ ー タ を 見 い だ せ な い 時 が あ
っ た 。 そ の よ う な 際 に は , 箱 庭 制 作 面 接 の 促 進 機 能 に つ い て の 考 察 を 深 め る た め に ,夢
分析や箱庭療法の実践を基礎としたユング心理学の知見を参照することが有効であっ
た 。 ユ ン グ 心 理 学 の 知 見 を 参 照 す る 場 合 に も ,デ ー タ か ら で き る だ け 離 れ な い 考 察 を 心
がけた。
謝辞:
箱 庭 制 作 面 接 に 参 加 し ,主 観 的 体 験 の デ ー タ を 共 有 し て く だ さ っ た お 二 人 に ,深 く 感 謝
し て い ま す 。お 二 人 の と て も 豊 か な デ ー タ に 支 え ら れ た お か げ で ,本 研 究 を 深 め て い く こ と
が で き ま し た 。ま た ,論 文 を 作 成 す る た び に ,内 容 を 確 認 く だ さ り ,公 刊 を 許 可 し て い た だ い
たことにも感謝しています。
佛 教 大 学 石 原 宏 先 生 に は ,長 年 に 亘 っ て ,的 確 な ご 指 導 を い た だ き ま し た 。 箱 庭 制 作 者 の
- 245 -
主 観 的 体 験 の デ ー タ を 分 析 し ,そ れ を 筋 の 通 っ た 論 文 に ま と め 上 げ て い く 道 は ,試 行 錯 誤 の
連 続 で ,紆 余 曲 折 に 満 ち た も の で し た 。 石 原 宏 先 生 の 丁 寧 な ご 指 導 の お か げ で ,よ う や く 本
研究をまとめることができました。深く感謝申し上げます。
東 山 弘 子 先 生 ,鈴 木 康 広 先 生 を 初 め と す る 佛 教 大 学 教 育 学 研 究 科 臨 床 心 理 学 専 攻 の 先 生
方 に は ,査 読 や 中 間 発 表 会 や 授 業 な ど 様 々 な 場 面 で ご 指 導 い た だ い た こ と に お 礼 を 申 し 上
げます。
東 山 紘 久 先 生 に は ,私 が 大 阪 教 育 大 学 大 学 院 に 在 学 し て い た 頃 か ら ご 指 導 い た だ き ま し
た 。箱 庭 療 法 を 初 め と す る 心 理 療 法 の 基 礎 を 東 山 紘 久 先 生 の 実 践 的 な ご 指 導 に よ っ て ,身 に
つ け る こ と が で き ま し た 。そ の 後 も 研 究 会 等 で ご 指 導 い た だ き ,深 謝 の 意 を 表 し た い と 思 い
ます。
南 山 大 学 丹 羽 牧 代 先 生 に は ,本 研 究 を 開 始 す る 以 前 か ら ,箱 庭 制 作 面 接 に お け る 箱 庭 制 作
者 の 語 り に 関 す る 共 同 研 究 で ,ご 教 示 い た だ き ま し た 。 ま た ,丹 羽 牧 代 先 生 の ご 専 門 の 立 場
からサポートいただいたことに深く感謝いたします。
最 後 に ,長 年 に 亘 っ て ,長 時 間 ,私 が 本 研 究 の た め に ,時 間 を 使 う こ と を 許 し て く れ た 家 族
に 感 謝 の 念 を 表 し ま す 。本 研 究 に 時 間 や 労 力 を 集 中 す る こ と を 許 し て く れ た お か げ で ,本 研
究をようやく完成させることができました。
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(フ ァ ン デ ン ボ ス (監 修 ) 繁 桝 算 男 ・ 四 本 裕 子 (監 訳 ) (2013).APA 心 理 学 大 事 典 培 風 館 )
Wegner, D . M., & Gilbert, D. T. (2000). Social psychology the science of human
experience. In H. Bless & J. P. Forgas (Eds.), The message within: The role of
subjective
experience
in
social
cognition
Psychology Press,pp.1‒9.
- 250 -
and
behavior .
Philadelphia,
PA:
初出一覧:
Ⅰ章
「楠 本 和 彦 (20 13a).箱 庭 制 作 過 程 ・ 説 明 過 程 に 関 す る 調 査 研 究 に つ い て の 文 献 研 究
人 間 関 係 研 究 南 山 大 学 人 間 関 係 研 究 セ ン タ ー ,12,54-70 .」お よ び 「楠 本 和 彦 (2013b).
箱庭制作者の主観的体験に関する研究法の検討―多元的方法・方法のトライアンギ
ュ レ ー シ ョ ン ,M-GTA を 中 心 に
人間関係研究
南山大学人間関係研究センタ
ー ,12,71-94.」の 一 部 に 加 筆 修 正 し た 。
「 楠 本 和 彦 (2013b). 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 す る 研 究 法 の 検 討 ― 多 元 的 方
Ⅱ章
法 ・ 方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン ,M-GTA を 中 心 に 人 間 関 係 研 究 南 山 大 学 人
間 関 係 研 究 セ ン タ ー ,12,71-94.」の 一 部 に 加 筆 修 正 し た 。
Ⅲ章
「楠 本 和 彦 (2011). 箱 庭 制 作 過 程 お よ び 説 明 過 程 に 関 す る 質 的 研 究 の 試 み 佛 教 大 学
大 学 院 紀 要 教 育 学 研 究 科 篇 ,39,103-120. 」お よ び 「 楠 本 和 彦 (2012). 箱 庭 箱 庭 制 作 者
の 自 己 実 現 を 促 進 す る 諸 要 因 間 の 相 互 作 用 (交 流 )に 関 す る 質 的 研 究 箱 庭 療 法 学 研
究 ,25(1),51-64.」お よ び 「楠 本 和 彦 (2013a).箱 庭 制 作 過 程・説 明 過 程 に 関 す る 調 査 研
究 に つ い て の 文 献 研 究 人 間 関 係 研 究 南 山 大 学 人 間 関 係 研 究 セ ン タ ー ,12,54-70. 」
の一部を加筆修正した。
Ⅳ章
「楠 本 和 彦 (2012). 箱 庭 箱 庭 制 作 者 の 自 己 実 現 を 促 進 す る 諸 要 因 間 の 相 互 作 用 (交
流 )に 関 す る 質 的 研 究 箱 庭 療 法 学 研 究 ,25(1),51-64.」の 一 部 を 加 筆 修 正 し た 。
Ⅴ章
「 楠 本 和 彦 (2015).M-GTA に よ る 箱 庭 制 作 過 程 の 促 進 機 能 に 関 す る 研 究
テ ゴ リ ー ①【 内 界 と 装 置 の 交 流 】に 焦 点 を 合 わ せ て ―
―コアカ
人間関係研究 南山大学人間
関 係 研 究 セ ン タ ー ,14,133-168.」の 一 部 を 加 筆 修 正 し た 。
Ⅷ章
「楠 本 和 彦 (2014a).M-GTA を 用 い た 箱 庭 制 作 面 接 に お け る 連 続 性 に 関 す る 促 進 機
能についての検討
人 間 関 係 研 究 南 山 大 学 人 間 関 係 研 究 セ ン タ ー ,13,71-101.」の
一部を加筆修正した。
Ⅹ章
「楠 本 和 彦 (2013c).箱 庭 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 す る 単 一 事 例 の 質 的 研 究
箱
庭 療 法 学 研 究 ,25(3),3 -17.」を 一 部 加 筆 修 正 し た 。
Ⅺ章
「楠 本 和 彦 (2013c).箱 庭 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 す る 単 一 事 例 の 質 的 研 究
箱
庭 療 法 学 研 究 ,25(3),3 -17.」を 一 部 加 筆 修 正 し た 。
Ⅻ章
「楠 本 和 彦 (2014b).箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 対 す る 系 列 的 理 解 を 中 心 と し た 質 的
研 究 人 間 関 係 研 究 南 山 大 学 人 間 関 係 研 究 セ ン タ ー ,13,102-138.」の 一 部 を 加 筆 修
正した。
XIII 章
「楠 本 和 彦 (2013b). 箱 庭 制 作 者 の 主 観 的 体 験 に 関 す る 研 究 法 の 検 討 ― 多 元 的 方
法 ・ 方 法 の ト ラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン ,M-GTA を 中 心 に 人 間 関 係 研 究 南 山 大 学
人 間 関 係 研 究 セ ン タ ー ,12,71-94.」の 一 部 に 加 筆 修 正 し た 。
- 251 -
(13) 〔鴨の親子を
川に浮かべる〕
(12) 〔棚に青い鳥
を見つけて,白い
石の上にのせる〕
〔青い鳥〕(12)実はずっと作ってる最中,なんか,こ
う,どうしていいんだろうとかね。すごい苦しいんで
すよね。あの青い鳥を見つけて,置いた時にああ
よかったと思いましたね。<ふぅん苦しさは>なく
なりましたね<なくなった>はい。ほっとしまし
た。あれも何か他のものを探しに行って,たまたま
眼に入って,青い鳥がああ,これだぁ。あの青い鳥
を置いた段階でほとんどもうこれでいいかな,完成
にしてもいいかなと思ったんですけれども。(後略)
〔川の鴨〕(13)もうちょっと何か命というか感じたい
なと思って棚に戻って。で,この鳥を見つけて。(中
略)こうのんびり遊んでる感じのにして。
(11)[制作・感覚]土偶もいのちの表現だ
と思っていたが,ふもとに置いたことで,命
としての人間の代わりのようでもあるし,
山の番人のような気もしてきた。[制作・
意味]石は「かたまり」。自然の造形物だ
けれども,生命感は薄くて,動き出すことが
ないもの。私が左側に置きたかった命と
は,そのようなものだったのではないか。
はっきりとした形をまだ持たない,抽象的
なものがよかったのだと思う。
(12)[制作・連想]青い鳥が目に入ってき
て瞬時に,幸せの青い鳥,という言葉が思
い浮かんでいた。[制作・意味]青い鳥は
意図しないところからやってきた意図を
超えているという感じかもしれない。これ
を見つけた途端,私がそれまで作ってい
た箱庭の調子・トーンが変わった。箱庭
ではなくて,変わったのは私の心の調子
かもしれない。
(13)[制作・意図]青い鳥を置いたことで
気持ちに余裕が出たように感じた。
252
〔土偶,埴輪〕(11) なんか命なんだけ
ど,命を持ってる人として持ってきた
んですけどね。半分命じゃないもの
になっているっていうか。何ていって
言うんでしょうね。人間ではない命に
なってるというか。そういう感じがし
て,こう動物や人の世界には,ちょっと,
いけないんだな,入ってきちゃってい
う。そういう感じですかね (後略)
〔石と土偶,埴輪〕(11)この辺の手前のほうにはち
ょっと置けない。手前のほうにいる生き物とはちょ
っと違う生き物のような気がして置けなかったで
すね。
(9)〔ライオン,羊,恐
竜を手にとる。恐
竜は棚に戻す。ラ
イオンは陸地の右
手前に,茂みの陰
から草食獣をねら
うような位置に置
く〕
(11) 〔 白 い 石 を 左
の陸地奥,川岸に
置く。左手前の山
を奥に移し,ふもと
に土偶と埴輪を置
く〕
内省報告
(3)[制作・感覚]大地もいまだ生命がなく,
乾燥していて,荒涼としたイメージが私に
迫ってきた。「こんなに広い川を作ってし
まってどうしよう」「生命のない大地がお
そろしい」と感じていた。
(9)[制作・意味]ライオンに恐竜といった
力強いもの,時に凶暴なものに憧れのよ
うな,親近感のような感覚を抱く。自分が
生きていくためには,時に相手を喰らうこ
とも必要。
調査的説明過程
自発的説明過程
〔制作中の苦しさ〕(3)しばらく作ってて,苦しいです
よ。なんか<はぁ,苦しい>うん。苦しいっていうか
ね。人気がないというか。寂しいというか。二つに
分かれちゃったなと思って。(後略)
制作過程
(3)〔川によって二
つに分けられた土
地を見ている〕
資料 1 第 2 回箱庭制作面接における主な主観的体験
〔土偶,埴輪〕(11)土偶はだいぶ神様の方に
近い。象徴的になってしまっている。深く土
の中にもぐって何世紀も経って命の感覚
がひどく微かになってしまっている。
〔お山〕(11)信仰の対象になるようなお山
のイメージがありましたね。そうすると,お山
のふもとに土偶達はいかにもふさわしい。
ちょうど山と平地とのちょうど境目辺りに居
てくれると,ちょうどころあいがいい。
ふりかえり面接
資料 2
分析ワークシート例
(自発的説明過程
ワークシート 7 の一部抜粋)
ワークシート 7(自発的説明過程)
概念 7:ミニチュアに付与された内的プロセス その要素や構成の内的意味
定義:意図,感覚・イメージ・感情,連想,意味という内的なプロセスがミニチュアに対して付与される
様
ミニチュア,またはその要素(色,大きさ)や構成(ミニチュアの位置や方向)が持っている内的意味
バリエーション:
* あの辺も安心?した,色のトーンがいい感じかなと思って。ちょっと,遠くにあるのかおごそかな
感じなのか。ああいう白っぽいのや青いのが,いい色だなと思って(A氏自発,1-10)
(中略)
* えーっと,この貝は,二つはエー,貝殻を漁っていたらば 思いがけなくきれいな 貝が出てき
たので,ちょっとうれしくなって<はぁ>何かこう,大事な物というかご褒美のような,なんか
そんなつもりで,浜に打ち上げられている物としてそこに置きました<なるほどなるほど>〔注:
ペンギンの横にある貝〕(A 氏自発,6-10)
(中略)
* えっと。今日はですね。今日,このごろ,今日の気分っているところで,●ったんですけども。その,
壁を感じているな,ということで。で,この壁というところを,最初に思いました。(B 氏,2-(1),自
発)まあ,壁っているところで,壁があるという意味で,なんとなんの壁なのかっていう感じで,左
右に分ける壁っているとこで。(B 氏自発,2-2)
* で,その壁を,●けというところと,あと,その籠を置いてったんですけども,籠というところはそ
の取り組んでるところが,それこそ,その,何かやったこというのが抜け落ちっててしまうような,
そういう殺伐感というのがあって。で,まあ,籠っていう。で,そうですね。ほんでまあ,籠を置き
ました。(B 氏自発,2-2)
(中略)
理論的メモ:
・ A氏自発,1-10 では,色のトーン→遠さ,おごそかな感じ
・ 調査的説明過程概念 3,報告概念 17 に同様の概念あり。
(中略)
・ 概念 7 はミニチュアとその要素に限定する。構成に関しては,別に概念を立てる。
(中略)
・具体例の検討によって,概念名と,定義に「内的なプロセス」という言葉を入れ,修正する。
(後略)
253
A氏
箱庭作品
254
A 氏第1回作品
資料 3
255
A 氏第2回作品
256
A 氏第3回作品
257
A 氏第4回作品
258
A 氏第5回作品
259
A 氏第6回作品
260
A 氏第7回作品
261
A 氏第 7 回再構成後の作品
262
A 氏第 8 回作品
263
A 氏第9回作品
264
A 氏第10回作品
資料 4
箱庭作品
265
B 氏第1回作品
B氏
266
B 氏第2回作品
267
B 氏第3回作品
268
B 氏第4回作品
269
B 氏第5回作品
270
B 氏第6回作品
271
B 氏第7回作品
272
B 氏第8回作品
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