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Research Focus
http://www.jri.co.jp
2014 年 12 月 10 日
No.2014-043
インドネシア燃料補助金削減の景気への影響
―景気減速長期化のリスク、求められる迅速なビジネス環境の改善―
調査部 研究員 塚田雄太
《要 点》
 ジョコ新大統領は 11 月 17 日に燃料補助金の削減を決定し、燃料価格が 2,000 ルピア
/ℓ値上げされた。インドネシアでは、これまで燃料補助金の予算措置によって貧困対
策やインフラ整備などへ十分な資金配分ができないことに加え、これが財政赤字拡大
の要因にもなっていた。今回の削減は、同国の財政健全化及び中長期的な安定成長に
資するという観点からは前向きに評価できる。
 一方で、補助金の削減によって、物価が上昇し、政策金利も引き上げられれば、消費
や投資が抑制され、景気が悪化することも考えられる。本レポートでは、燃料補助金
の削減によって、景気にどのような影響が及ぶのかについて、過去の経験(2005 年 10
月と 2013 年 6 月)を整理したうえで、今回の影響と政権が取るべき対策について分析
する。
 2005 年 10 月の補助金削減では、燃料価格の値上げに伴い、インフレ率が上昇し、政
策金利も引き上げられた。その結果、消費、投資ともに大幅に減速し、2006 年 4~6
月期の成長率が前年同期比+4.9%まで低下し、7 四半期ぶりの低成長となった。一方、
2013 年 6 月の削減においても、同様の現象が起きたものの、消費、投資ともに減速は
ほとんどみられなかった。この背景には、2013 年時点が 2005 年時点に比べ、①雇用・
所得環境が改善・良好であったこと、②直接投資が大幅に増加していたこと、がある。
 今回の削減では、削減幅こそ 2013 年と同程度であるものの、雇用・所得環境や直接投
資動向という点では、むしろ 2005 年と近似した状況にあり、消費、投資が減速する可
能性が高い。加えて、中国景気の減速や商品作物市場の低迷などの同国を取り巻く外
部環境、与党の国会の議席数に占める割合が過半に満たないことなどを勘案すれば、
景気低迷が長期化するリスクも織り込んでおくべきである。ジョコ大統領には、そう
したリスクを回避するため、企業が賃上げ、雇用増加、投資拡大に舵を切りやすいビ
ジネス環境を整えるとともに、野党との迅速な政策調整が求められる。
1
日本総研
Research Focus
目次
1.はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P3
2.過去の燃料補助金削減時の影響・・・・・・・・・・P4
3.今回の補助金削減の影響と求められる対応策・・・・P8
本件に関するご照会は、調査部・研究員・塚田雄太宛にお願いいたします。
Tel:03-6833-6719
Mail:[email protected]
2
日本総研
Research Focus
1.はじめに
10 月 20 日に就任したインドネシアのジョコ新大統領は、11 月 17 日、ユドヨノ政権下の 2013 年
6 月以来となる燃料補助金の削減を決定した。今回の削減により、ガソリン、ディーゼル燃料の価
格は、11 月 18 日よりそれぞれ 2,000 ルピア/ℓ値上げされ、ガソリン価格は約 31%増の 8,500 ルピ
ア/ℓ、ディーゼル燃料は約 36%増の 7,500 ルピア/ℓとなった。ジョコ新大統領は、今回の補助金
削減により約 100 兆ルピアの財政資金の確保ができると見込んでおり、社会福祉やインフラの整備
などへ充当する意向である。
インドネシアでは 2004 年に石油純輸入国に転じて以降、燃料補助金が財政を圧迫するようになっ
た。歳出に占める燃料補助金の割合は 2012 年の 20.6%から徐々に低下傾向にあるものの、2015 年
予算ベースでも 16.9%と、依然として、大きなシェアを占めている(図表1)。このため、貧困対
策やインフラ整備などへ十分な資金を配分できず、財政赤字も拡大するという悪循環に陥っている
(図表2)。今回の削減は、同国の財政健全化、中長期的な安定成長に資するものとして、市場も
好意的に受け止めている。
一方で、燃料補助金の削減は、インフレ率の上昇やそれに伴う政策金利の引き上げを招来するた
め、個人消費や設備投資を抑制するという副作用もある(図表3)。中央銀行は、燃料補助金の削
減をきっかけにインフレ率上昇に対する市場の期待が高まったことを受け、同日(11 月 18 日)に
緊急の金融政策決定会合を開催し、政策金利の引き上げを決定した。インドネシア経済は、2011 年
中頃以降、減速傾向が続いており、直近の 2014 年 7~9 月期の実質 GDP 成長率は前年同期比+5.0%
と、2009 年 7~9 月期以来の低成長となった(図表4)。インドネシアでは経済成長率が+6%を下回
ると、雇用環境が悪化するとされており、こうしたなかでの補助金の削減によって、景気が一段と
悪化することも想定される。そこで、本レポートでは、燃料補助金の削減が、過去、景気にどのよ
うな影響を与えたのかについて、直近 2 回(①2005 年 10 月時、②2013 年 6 月時)の経験を整理し
たうえで、今回の削減によって、インドネシア経済にどのような影響が及ぶのか、そして、景気低
迷の長期化につながらないようにするために、政府はどのような対策をとるべきか、について考察
する。
(図表1)歳出の内訳と燃料補助金のシェア
(図表2)財政収支と対名目GDP比の推移
政府(その他支出)
政府(その他補助金)
政府(燃料補助金)
政府支払利息
地方向け支出
歳出に占める燃料補助金の割合(右目盛)
(百兆ルピア)
25
(%)
(百兆ルピア)
▲ 3.0
(%)
24
20
20
15
▲ 3.0
財政収支
▲ 2.5
▲ 2.5
対名目GDP比(右目盛)
▲ 2.0
▲ 2.0
▲ 1.5
▲ 1.5
▲ 1.0
▲ 1.0
▲ 0.5
▲ 0.5
16
10
12
5
0
0.0
8
2004
05
06
07
08
09
10
11
12
(資料)インドネシア財務省、各種報道を基に日本総研作成
(注1)2014年は補正予算ベース、2015年は予算案ベース
(注2)燃料補助金には、電力等向け補助金も含む。
13
14
0.0
2011
15
(会計年度)
(資料)インドネシア財務省、IMF、CEIC、各種報道を基に日本総研作成
(注1)2014年は補正予算。2015年は予算案。
(注2)2014年以降の名目GDPはIMF予測値を使用。
15
(会計年度)
3
12
13
日本総研
14
Research Focus
(図表4)実質GDP成長率と需要項目別寄与度
(図表3)燃料補助金が景気に与える影響
(%)
燃料補助金の削減
誤差
輸入
輸出
在庫調整
総固定資本形成
政府消費
個人消費
実質GDP成長率
15
歳出削減
インフラ整備向け
等資金の拡充
10
消費者物価の上昇
5
消費の抑制
財政健全化
中長期的成長
政策金利の
引き上げ
0
▲5
投資の抑制
(プラスの側面)
(マイナスの側面)
▲ 10
2010
11
12
(資料)日本総研作成
13
14
(年/期)
(資料)BPSを基に日本総研作成
2.過去の燃料補助金削減時の影響
(1)2005 年 10 月の削減時
第 1 次ユドヨノ政権(2004 年 10 月~2009 年 10 月)は、原油価格の上昇に伴う一段の財政悪
化回避のため、2005 年 10 月に燃料補助金の削減を実施した。これにより、ガソリン価格が約
88%増の 4,500 ルピア/ℓに、ディーゼル燃料価格が約 105%増の 4,300 ルピア/ℓに引き上げ
られ、燃料価格は平均約 96%上昇した(図表5)。これに伴い物価も大幅に上昇し、2005 年 7
~9 月期に+8.4%であったインフレ率は、2005 年 10~12 月期には+17.8%に上昇し、その後も、
2006 年 1~3 月期が+16.9%、4~6 月期が+15.5%、7~9 月期が+14.9%と高止まりした(図表
6)。品目別にみると、バスやタクシー運賃の値上げが相次いだため、運輸・通信が 2005 年 10
~12 月期に前年同期比+44.7%となったほか、運輸コストの上昇や便乗値上げの影響もあり、
家庭用品や食料品、衣料品などの物価も急上昇した。これに対応するため、中央銀行は政策金
利(BI レート)の大幅な引き上げに踏み切り、同金利は 2005 年 10 月からのわずか 2 ヵ月で
1.75%ポイント上昇した(図表7)
。
この結果、消費と投資は大きく減速した。個人消費は、消費者マインドの大幅な悪化を背景
に、2005 年 7~9 月期の前年同期比+4.4%から 2006 年 1~3 月期には同+2.9%と▲1.5%ポイン
ト減速した。実質小売指数を品目別にみると、物価の上昇が顕著なガソリン、食料・タバコ、
化学製品、家庭用品等、衣料品のほか、自動車部品等でも大幅に落ち込んでいることが読みと
れる(図表8)。一方、総固定資本形成は、物価上昇による金利引き上げ観測の高まりから、
2005 年 4~6 月期(前年同期比+16.7%)をピークに減速に転じ、影響が一巡する 2006 年 7~9
月期には同+0.8%となった(図表9)。項目別にみると、外資企業の設備投資や国内企業の輸
送機器向け投資などの減少が目立った。
この結果、実質 GDP 成長率は、2005 年 7~9 月期の同+5.8%から減速し、2006 年 4~6 月期
には同+4.9%と、7 四半期ぶりの低成長となった(図表 10)
。
4
日本総研
Research Focus
(図表5)燃料価格の推移
(ルピア/ℓ)
(図表6)インフレ率の推移
CPI(総合)
加工食品、飲料、タバコ
衣料品
ガソリン価格
5,000
ディーゼル燃料価格
4,500
(%)
上昇-収斂期
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
▲2
2004
05
06
(資料)BPSを基に日本総研作成
(注)CPIは2002年基準
4,000
3,500
平均約96%UP
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
2004
05
06
07
(年/月)
(資料)CEICを基に日本総研作成
(注)平均は単純平均値
(図表7)政策金利とインフレ率
(%)
20
政策金利
インフレ率(右目盛)
12
18
100
16
80
11
10
9
8
7
20
15
10
5
0
07
(年/期)
07
実質小売指数
食料・タバコ
衣料品
化学製品
ガソリン
補助金削減
の影響期間
▲ 40
6
▲ 60
4
▲ 80
2004
(年/期)
05
06
07
(年/期)
(資料)インドネシア中央銀行を基に日本総研作成
(注)実質小売指数は2000年10月基準を使用
(図表9)総固定資本形成と項目別寄与度
(図表10)実質GDP成長率と寄与度分解
誤差
在庫調整
政府消費
実質GDP成長率
国内その他投資
国内輸送機械投資
国内機械投資
総固定資本形成
(%)
12
補助金削減
の影響期間
15
25
0
(資料)BPS、インドネシア中央銀行を基に日本総研作成
(注)政策金利はBIレート、インフレ率は2002年基準CPI前年比
20
30
▲ 20
8
外資その他投資
外資輸送機械投資
外資機械投資
建設投資
35
20
10
(%)
40
40
12
06
45
60
14
05
50
家庭用品等
自動車部品等
(%)
13
2004
(%)
(図表8)実質小売指数(前年同期比)の推移
補助金削減
の影響期間
(%)
14
食料
家庭用品等
運輸、通信(右目盛)
純輸出
総固定資本形成
個人消費
補助金削減
の影響期間
10
8
10
6
4
5
2
0
0
▲2
▲4
▲5
▲6
▲8
2004
▲ 10
2004
05
(資料)BPSを基に日本総研作成
06
07
05
06
07
(年/期)
(資料)BPSを基に日本総研作成
(年/期)
5
日本総研
Research Focus
(2)2013 年 6 月の削減時
第 2 次ユドヨノ政権(2009 年 10 月~2014 年 10 月)は、旺盛な自動車需要による燃料消費の
増加を背景に、2013 年 6 月 22 日の補正予算発表と同時に燃料補助金の削減を実施した。これ
により、ガソリン価格が 2,000 ルピア/ℓ値上げされ、約 44%増の 6,500 ルピア/ℓに、ディー
ゼル燃料価格が 1,000 ルピア/ℓ値上げされ、約 22%増の 5,500 ルピア/ℓに引き上げられた。
燃料価格は平均で約 33%上昇した(図表 11)。この結果、インフレ率は、2013 年 4~6 月期の
+5.7%から 2013 年 7~9 月期に+8.6%と、2009 年 1~3 月期以来の水準まで急上昇し、その後
も 2014 年 4~6 月期にかけて、+7%~8%台で推移した(図表 12)。この時も、バスやタクシー
が運賃の値上げを実施したため、運輸・通信・金融が+2.7~2.9%ポイント物価を押し上げほか、
食料、光熱費・燃料、加工食品・飲料・タバコの物価も大幅に上昇した。これを受け、中央銀
行は利上げを実施し、政策金利(BI レート)は 2013 年 5 月の 5.75%から同年 11 月に 7.50%
へと、1.75%ポイント上昇した(図表 13)。
もっとも、2013 年の削減時は 2005 年の場合と異なり、消費や投資はほとんど減速しなかっ
た。そのため、2014 年 1~3 月期以降こそ新鉱業法の施行などによる輸出の減少が影響したも
のの、燃料補助金の削減による景気減速はほとんど見られなかった(図表 14)。
(図表12)インフレ率と項目別寄与度
(図表11)燃料価格の推移
(%)
(ルピア/ℓ)
9,000
運輸、通信、金融
教育、娯楽、スポーツなど
医療・保健など
衣料品
光熱費、燃料など
加工食品、飲料、タバコ
食料
CPI総合(前年比)
10
9
8,500
ガソリン価格
8,000
ディーゼル燃料価格
8
7
7,500
6
7,000
上昇-収斂期
5
6,500
4
6,000
3
5,500
2
平均約33%UP
1
5,000
0
4,500
2011
4,000
2011
12
13
14
(資料)CEICを基に日本総研作成
(年/月)
補助金削減
の影響期間
8.0
13
14
(年/期)
(資料)BPSを基に日本総研作成
(注)2014年以降は2012年基準を2007年基準に変換の上算出。2014年10~
12月期は2014年10、11月の数値を使用。
(図表14)実質GDP成長率と消費・投資の推移
(図表13)政策金利とインフレ率
(%)
12
(%)
(%)
7.0
9
政策金利
7.5
補助金削減
の影響期間
(%)
14
6.5
12
6.0
10
5.5
8
8
インフレ率(右目盛)
7.0
7
6.5
6
6.0
5
5.5
4
5.0
6
実質GDP成長率
4.5
4
実質消費
総固定資本形成(右目盛)
5.0
3
2011
12
13
14
(年/月)
4.0
2
2011
12
13
14
(資料)BPSを基に日本総研作成
(注)成長率、実質消費、総固定資本形成は前年同期比
(資料)BPS、インドネシア中央銀行を基に日本総研作成
(注)政策金利はBIレート、インフレ率は2011~13年は2007年基準CPI
前年比、2014年以降は2012年基準CPI前年比
6
日本総研
(年/期)
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(3)2005 年と 2013 年で景気への影響が異なった背景
以上のように、過去 2 回の補助金削減が景気に与えた影響は大きく異なる。
この要因として、
燃料価格の上昇幅の違いがあることはもちろんであるが、インドネシア経済が置かれていた環
境に違いがあったことを見逃してはならない。
第 1 に指摘できるのが雇用・所得環境の違いである。両時点の実質賃金をみると、1996 年基
準の実質賃金は、2005 年 10~12 月から 2006 年 7~9 月期の平均で前年比▲3.8%と大幅に減少
していた一方、2013 年 7~9 月期から 2014 年 1~3 月期の平均は同+0.8%と小幅ながら増加を
維持していた(図表 15)。より多くの就業者数をカバーしている 2007 年基準でみても、2013
年削減時の実質賃金は平均で同+4.1%の増加となっており(図表 16)、物価の上昇以上に名目
賃金が上昇したことで、消費が下支えされたと考えられる。また、失業率をみても、2005 年の
削減時には 10%後半から 11%前半となっていたのに対し、2013 年時点では、6%程度まで低下
しており、労働需給が大きく改善していた(図表 17)。
第 2 は直接投資動向の違いである。インドネシア向け直接投資は、同国経済に対する期待の
高まりを背景に、2011 年以降急速に増加した(図表 18)
。さらに、補助金削減に先立つ 2013
年 5 月に政府が低価格・環境配慮型自動車購入促進策(LCGC 政策)を発表したことも、自動車
メーカーを生産ラインの拡張やインドネシア向け新車種の投入などに踏み切らせた。このため、
2013 年の燃料補助金削減時は、金利上昇に伴う投資抑制効果を上回る直接投資が実行され、総
固定資本形成は堅調な伸びを維持することができた。
(図表15)実質賃金と寄与度分解(1996年基準)
(%)
20
①
(図表16)実質賃金と寄与度分解(2007年基準)
CPI*-1
②
(%)
15
名目賃金
②
実質賃金
25
② 2013年6月の削減
20
10
15
5
10
0
5
▲5
0
CPI*-1
名目賃金
実質賃金
① 2005年10月の削減
② 2013年 6月の削減
▲ 10
▲ 15
▲ 20
2005
07
09
11
▲5
▲ 10
2009
13
(年/期)
(資料)BPSを基に日本総研作成
(注1)製造業、ホテル業、鉱業の名目賃金を、製造業、小売・商業・ホテル・レス
トラン業、鉱業の就業者数で加重平均し、全体の名目賃金を算出。就業者は全
就業者の33%をカバー。
(注2)上記の名目賃金を1996年基準CPIで実質化。
7
10
11
12
13
14
(年/期)
(資料)BPSを基に日本総研作成
(注1)製造業、鉱業、商業、畜産・水産業の名目賃金を、製造業、鉱業、小
売・商業・レストラン・ホテル業、農林水産業の就業者数で加重平均し、全体
の名目賃金を算出。就業者数は全体の73%をカバー。
(注2)上記の名目賃金を2007年基準CPIで実質化。
日本総研
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(図表17)失業率の推移
(%)
12
(図表18)外国直接投資の推移
①
① 2005年10月の削減
② 2013年 6月の削減
11
(億ドル)
90
②
① 2005年10月の削減
② 2013年 6月の削減
①
②
80
70
10
60
9
50
8
40
7
30
6
20
5
10
4
0
2005
06
07
08
09
10
11
12
13
2004
14
06
07
08
09
10
11
12
13
14
(年/期)
(年/半期)
(資料)BPSを基に日本総研作成
05
(資料)BKPMを基に日本総研作成
3.今回の補助金削減の影響と求められる対応策
今回の補助金削減による燃料価格の引き上げ幅は平均約 34%と 2013 年とほぼ同程度であり、イ
ンフレ率も+7%台半ばから+8%前半まで上昇すると予想される(図表 19)。既に、ジャカルタ市の
バスの運賃が 10%程度上昇するなど、バスやタクシー運賃の引き上げの動きが活発化しており、運
輸・通信・金融が物価上昇の火付け役となるだろう。中央銀行は一段の利上げを実施すると見込ま
れ、政策金利とインフレ率の関係から考えると、政策金利は最大 8%台前半まで上昇する可能性が
ある(図表 20)。
(図表20)政策金利とインフレ率の関係
(図表19)燃料価格とインフレ率
(%)
(ルピア/ℓ)
10,000
(%)
14
9
ガソリン価格
9,000
ディーゼル燃料価格
7
(
8,000
政
策
金
利
8
インフレ率(右目盛)
7,000
6
6,000
5,000
13
4
ト
6
8
7
5
4
0
14
5
10
インフレ率
(年/月)
(資料)CEIC、BPSを基に日本総研作成
10
5
)
12
11
9
3
2011
12
B
I
レ
ー
4,000
y = 0.4469x + 4.6117
R² = 0.7654
13
15
20
(%)
(資料)BPS、インドネシア中央銀行を基に日本総研作成
政策金利とインフレ率の上昇幅という点では、今回の削減は 2013 年の削減時の状況に近い。し
かしながら、今回の削減においても景気への影響が軽微であると見込むのは早計である。足元の雇
用・所得環境や外国直接投資の状況は 2013 年ほど良好とはいえないからである。
8
日本総研
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雇用・所得環境は、前出の図表 16 で示したとおり、実質賃金の上昇幅が足元で徐々に縮小してお
り、2014 年 1~3 月期には前年同期比で減少に転じている。景気が減速基調をたどっていることや
パーム油などの商品価格が下落傾向にあることなどを踏まえれば、2014 年半ば以降、名目賃金が大
幅に持ち直す可能性は低い。また、失業率も 5%台後半と低水準にあるものの、足元では上昇に転
じている(図表 21)。
外国直接投資は、ジョコ政権に対する投資家の期待が高いことやインドネシアの市場規模の大き
さなどから考えれば、堅調に推移すると思われるものの、LCGC 政策の効果一巡や政権交代に伴う外
資規制などの動きを見極めたいとの思惑もあり、当面は大幅な伸びは期待しにくいであろう。
以上から考えれば、今回の燃料補助金の削減によって、景気は 2005 年の削減時のように悪化す
る可能性が高いとみておくべきであろう。
加えて、中国景気や国際商品市況の大幅な持ち直しが期待しにくい一方、2015 年央以降には米国
の利上げ観測の高まりによるルピア安の進行など、同国を取り巻く外部環境が厳しくなる可能性が
あること、また、ジョコ政権は国会において少数与党であり、迅速な政策対応ができない恐れがあ
ること(図表 22)を勘案すれば、景気の落ち込みが一時的にとどまらず、長期化するリスクについ
てもシナリオに織り込んでおく必要がある。
(図表22)国会における勢力図
(図表21)足元の失業率の推移
(%)
国民信託党
6.3
6.2
ハヌラ党
闘争民主党
福祉公正党
6.1
6.0
民主党
5.9
5.8
野
党
連
合
56.1%
ジ
ョ
コ
派
ナスデム党
43.9%
民族覚醒党
グリンドラ党
5.7
5.6
ゴルカル党
開発統一党
5.5
2013
14
(年/期)
(資料)BPSを基に日本総研作成
(資料)選挙管理委員会、各種報道を基に日本総研作成
ジョコ大統領は、11 月 3 日にインドネシア保険カード(KIS)やインドネシア教育カード(KIP)な
どの配布を柱とした貧困層支援策を実施した。政府は、低所得者層向けの現金給付も検討している
模様であるが、これらの貧困層支援策が景気下支えにどの程度の効果を及ぼすかは不透明である。
2005 年の補助金削減時にも、ユドヨノ政権は貧困層約 6,400 万人を対象に 10 万ルピア/月の現金
給付策を実施した。今回は、政策の対象を約 9,400 万人にまで拡大しているが、過去の例から考え
ればその効果は限定的にとどまると思われる。また、安易なバラマキ政策への依存は財政状況を悪
化させかねない。こうした状況下、政府は、貧困層対策よりも雇用・所得環境や投資環境の改善に
寄与する政策を強化するべきである。世界銀行の「Doing Business ランキング」によると、インド
ネシアは依然、ASEAN 原加盟国で最低の順位となっており、ビジネス環境における改善の余地は大
きい(図表 23)。なかでも、契約執行や納税事務などの煩雑さがビジネスの大きな足かせとなって
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いることから(図表 24)、これらの障害となっている制度を改善することで、企業が一段の賃金引
上げ、雇用増加、投資拡大に舵を切りやすい環境を整えていくことが肝要である。
さらに、ジョコ政権には投資家の期待に沿う政策実行のスピードが求められる。その際に障害と
なってくるのは、反ジョコ派が多数派を占める国会対応である。ジョコ大統領は、補正予算の策定
のため、2015 年 1 月にも国会を召集する意向を示している。野党との政策調整を進める一方で、い
かに理想とする改革を実行するか、ジョコ大統領は就任早々から難しい舵取りを求められている。
(図表23)Doing Business ランキング
(図表24)項目別ビジネス環境の比較
インドネシア
シンガポール
香港
2015年
マレーシア
2014年
ASEAN原加盟国(除くインドネシア)平均
起業
倒産
対応
台湾
(ポイント)
100
建築許可
80
60
タイ
ビジネスしやすい
ベトナム
契約
履行
40
電力
環境
20
中国
0
フィリピン
インドネシア
不動産
登録
国境を
越えた
取引
カンボジア
ラオス
ミャンマー
0
50
(資料)世界銀行を基に日本総研作成
100
150
200
(位)
納税
事務
少数投資家の保護
与信
獲得
(資料)世界銀行を基に日本総研作成
(注)ASEAN原加盟国は、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア
以上
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