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インドは景気底割れを回避できるか-ルピー建て原油価格

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インドは景気底割れを回避できるか-ルピー建て原油価格
Research Focus
http://www.jri.co.jp
2013 年9月 11 日
No.2013-26
インドは景気底割れを回避できるか
― ルピー建て原油価格から先行きを考える ―
調査部 研究員 熊谷章太郎
《要 点》
 本レポートでは、近年のインド経済の減速の主因を整理し、景気底割れを回避でき
るかを展望した。
 近年の景気減速には様々な要因があるが、足元にかけての急減速の主因はルピー建
て原油価格の上昇である。原油価格の上昇は、①経常赤字の拡大と通貨安の悪循環、
②燃料価格抑制のための補助金支出に伴う財政赤字の拡大、③国内インフレ率の上
昇、など様々なルートを通じて、景気浮揚のための金融緩和や財政支出の拡大を困
難にしてきた。今後についても、エジプトやシリア情勢の混乱などを背景にした原
油価格の高止まりと QE3の縮小・終了による一段のルピー安によりルピー建て原
油価格が一段と上昇し、景気が底割れすることが懸念されている。
 もっとも、原油価格は、地政学的な要因が一段の上昇リスクとして燻り続けるもの
の、QE3の縮小・終了に伴う商品市場への資金流入の縮小やドル高傾向を背景に
次第に落ち着きを取り戻していくと見込まれる。ルピー相場も、①購買力平価から
みると適正水準を超えるルピー安が進んでいること、②中銀が為替市場への安定性
を保つだけの外貨準備残高も有していること、などから現在の水準を超えた大幅な
ルピー安には至らないと考えられる。したがって、景気底割れは回避されると見込
まれる。
 しかし、5月以降のルピー安の悪影響が今後顕在化するため、当面景気は低迷が続
くと見込まれる。卸売物価のインフレ率が再び落ち着きを取り戻するのは 2014 年
後半以降になり、それまでは金融緩和が困難な状況が続くと見込まれる。また、自
律的な成長加速のために必要な各種経済改革の実施には時間がかかり、少なくとも
2014 年春の総選挙後までは政策議論が進まないと見込まれるため、当面は外的要
因に揺さぶられやすい経済状況が続くと見込まれる。
1
日本総研
Research Focus
本件に関するご照会は、調査部・研究員・熊谷章太郎宛にお願いいたします。
Tel:03-6833-6028
Mail:[email protected]
2
日本総研
Research Focus
はじめに
インド経済の低迷が長期化している。米国 QE3(量的緩和政策第3弾)の早期縮小・終了観測
が高まった5月下旬以降大幅なルピー安が進んでおり、今後、1991 年時のような危機1に陥るので
はないかとの懸念も強まっている。
本稿は、インド経済の先行きを、ルピー建て原油価格動向を軸に展望する。まず、景気の現状を
確認し、なぜルピー建て原油価格の動向がインド経済をみるうえで重要かを確認する。さらに、今
後のルピー建て原油価格動向から景気の先行きを展望する。
1.インド経済の現状と景気減速の主因
(1)景気の現状
まず、景気の現状を確認する。インド経済は 2011 年以降、成長率が急速に鈍化しており、2012
年度(2012 年4月~2013 年3月)は前年度比+5.0%と、10 年ぶりの低成長となった。2013 年入り
後、景気浮揚のために3会合連続で累計 0.75%の利下げが行われたものの(図表1)、減速傾向に
歯止めがかかっていない。8月末に公表された4~6月期の実質 GDP 成長率は、前年比+4.4%と前
期(同+4.8%)から一段と鈍化し、3四半期連続の4%台の成長率となった(図表2)。2011 年以
降の成長率減速の主因は、産業別にみると第2次産業の増勢鈍化であり、支出側からみると総固定
資本形成の増勢鈍化である2 。潜在成長率もリーマン・ショック以降大きく低下しており、通貨危
機を背景に経済改革が進んだ 1990 年代中盤と同程度まで落ち込んでいる(最終ページ:補足)。
図表1
図表2
政策金利の推移
(%)
10
(%)
預金準備率
レポ・レート
リバース・レポ
9
14
実質GDP前年比の推移
<支出側GDP>
<生産側GDP>
第1次産業
第3次産業
第2次産業
合計
12
10
8
8
7
6
6
4
5
2
4
0
3
2006 07
(資料)RBI
08
09
10
11
12
13
(年/月)
▲2
2006 07
08
09
10
11
12
13
(%)
18
15
12
9
6
3
0
▲3
▲6
▲9
2006 07
純輸出
民間消費+政府消費
総資本形成
合計
08
09
10
11
1
当時のインド経済は、現在と同様、経常赤字・財政赤字の双子の赤字を抱えていた。湾岸戦争の勃発に伴う原油価格の上昇を受
けて外貨準備が枯渇するなかで大幅なルピー切り下げを行い、1993 年には管理変動相場制への移行を余儀なくされた。
2 支出側GDP(市場価格表示)は、生産側GDP(要素費用表示)に間接税を加え補助金を控除したものであり、両者の成長率
は一致しない。
3
日本総研
13
(年/期)
(年/期) (資料)MOSPI
(資料)MOSPI
12
Research Focus
(2)インド経済の減速の主因:原油輸入価格の上昇
次に、近年の景気減速の主因を整理する。足元にかけての急減速の主因は原油輸入価格の上昇で
ある。足元では QE3の早期縮小観測による景気への影響が大きな関心を集めているが、インド経
済にとって特に注目すべきなのは QE3の縮小により原油輸入価格がどの程度上昇するかである。
原油価格の上昇は、以下の三つのルートから景気下押し圧力として作用する。
第1に、経常収支赤字の拡大とルピー安の悪循環である。2000 年代中盤以降、インドの経常収支
は、原油を中心とした鉱物性燃料と金の輸入増加を受けて赤字幅が拡大し、それに伴いルピー安が
進行した。こうしたルピー安が輸入物価の上昇を通じて経常赤字の一段の拡大を招くなど、ルピー
安との悪循環が続いていた(図表3、4、5)
。こうした状況は、国内インフレ率の上昇を通じて金
融緩和を困難にしてきた。
図表3 経常収支対名目GDP比率
図表5
図表4 品目別貿易収支
レート
(後方4四半期平均)
経常移転収支
所得収支
財・サービス収支
経常収支
10
経常収支対名目GDP比率(左目盛)
名目実効為替レート(右目盛)
(億ドル)
500
(%)
(%)
(2010年=100)
120
2
0
5
経常収支と名目実効為替
110
▲ 500
0
100
▲ 1,000
0
▲2
▲ 1,500
その他
金
鉱物性燃料
合計
▲ 2,000
▲5
▲ 2,500
▲10
2006 07
08
09
10
11
12
13
(年/期)
(資料)RBI
2001
03
05
07
80
▲4
70
09
経常収支赤字幅拡大・ルピー安
▲6
11
2006 07
(年)
(資料)UN Comtrade
90
の拡大である。財政収支は、2000 年代前半にかけて改善傾向が続
いたものの3、リーマン・ショック以降は、景気減速に伴う歳入の
伸び悩みが続く一方、危機後の景気対策のための財政支出拡大に
09
10
11
12
60
13
(年/期)
(資料)RBI
図表6
第2に、燃料価格抑制のための補助金支出増加に伴う財政赤字
08
補助金支出の推移
(兆ルピー)
その他
肥料
食料
石油
合計(右目盛)
2
3
(GDP比、%)
3
(計画)
2
よって大幅に悪化した。2010 年度以降も燃料補助金支出の増加を
受けて大幅な財政赤字が続いており(図表6)
、景気浮揚のための
1
1
財政支出拡大を行いにくくなっている。ちなみに、2013 年度予算
では、2014 年に総選挙が予定されるなか、農村開発や交通インフ
ラ関連への支出増が計画されているものの、SUV(Sport Utility
Vehicle)や排気量の高いバイクの物品税の引き上げ、高所得者や
0
0
2002
04
06
08
10
12
(年度)
(資料)Ministry of FInance (Union Budget)
企業向けの時限増税措置なども打ち出されており、景気浮揚効果
は限られている。
3
2004 年に財政責任法が成立し、赤字削減努力が強化されたものの、リーマン・ショック後に同法は凍結されている。
4
日本総研
Research Focus
第3に、国内インフレ率の上昇である。原油輸入価格の高騰によるインフレ率の大幅加速を抑制
するため、燃料価格は長らく価格統制が行われていたものの、財政健全化に向け、政府は 2010 年
6月にガソリンの価格統制を廃止するとともに、ディーゼルへの補助金も段階的に削減している(図
表7)。こうした燃料価格の上昇、輸送コストの上昇を通じた全般的な物価上昇圧力を受け、消費者・
卸売物価上昇率は景気減速下にもかかわらず高止まりが続いており(図表8)、金融緩和に踏み切れ
ない状況が長期化していた4。
このように、原油価格の上昇は様々なルートから成長率を下押してきた。2012 年入り後は価格上
昇傾向が一服し、マイナス影響が次第に和らぐことが期待されていたものの、2013 年5月下旬以降、
QE3の早期縮小観測を受けた大幅なルピー安の進展やエジプトやシリア情勢の緊迫化を背景とし
た原油国際価格の高止まりを受けて、足元ではリーマン・ショック前を上回る水準まで上昇してい
る(図表9)
。
図表7
ガソリン・ディ
図表8
ーゼル価格の推移
13
(%)
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
▲2
2006 07
(年/月)
(資料)RBI
ガソリン
ディーゼル
60
50
40
30
2006 07
08
09
10
(資料)Indian Oil Corporation
11
12
卸売物価
原油価格(WTI
期近物)の推移
卸売物価上昇率の推移
2012年9月:ディーゼ
(ルピー/リットル)
ル向け補助金削減
90
2010年6月:ガソリン
価格統制廃止
80
70
図表9
消費者物価・
(ドル/1バレル)
(千ルピー/1バレル)
7
200
ルピー建て(左目盛)
消費者物価
ドル建て(右目盛)
6
150
5
4
100
3
50
2
1
0
2006 07 08 09 10 11 12 13
08
09
10
11
12
13
なお、QE3の早期縮小・終了による景気への悪影響が他のア
ジア新興国と比べても大きく懸念されている要因としては、他
のアジア諸国と比べると原油輸入依存度が高く、経常赤字幅も
大きいことを指摘できる(図表 10)。安定的な資本流入である
直接投資が伸び悩む一方で対内投資に占める証券投資の割合が
図表 10 各国の経常収支と石油純輸
出の対名目 GDP 比率(2012 年)
(石油製品純輸出対名目GDP比率、%、縦軸)
10
ベトナム
インドネシア
マレーシア
0
高まっていたこともあり、景気への悪影響を懸念した投資家の
資本逃避による影響が大きく表れたと考えられる。ちなみに、
インド
▲ 10
日本
いったルートを通じても景気の下押し圧力となっている。
中国
フィリピン
スリランカ
QE3 の早期縮小観測に伴う対内投資の減少は、ルピー安を通じ
た原油輸入価格の上昇のみならず、株価の下落や金利の上昇と
(年/月)
(資料)Bloomberg.L.P
(年/月)
カンボジア
韓国
シンガポール
タイ
▲ 20
▲ 10
0
10
20
(経常収支対名目GDP比率、%、横軸)
(資料)IMF, World Economic Outlook
(注)石油製品は、原油・精製油を含む。
4
なお、インドでは、統計の信頼性を理由に金融政策の判断の際には消費者物価よりも卸売物価の動向が重視されている。2012
年後半以降、卸売物価の上昇率が鈍化し始めたことを背景に中銀の関心はインフレ抑制から景気浮揚にシフトしつつあったが、低
所得者層への配慮もあり、2013 年5月の利下げ後には「追加的な緩和余地は限られている」と、中銀は一段の利下げに対して慎
重な姿勢を示していた。
5
日本総研
Research Focus
2.景気底割れを回避できるか
図表 11 原油価格とドル名目実効為
(1)ルピー建て原油価格の行方
格動向を軸に展望する。結論を先取りすると、中東情勢の一段の
原油価格(左目盛)
ドル名目実効為替(右逆目盛)
(1バレル=ドル)
(2010年=100)
160
80
緊迫化に伴う原油価格の上昇といった外的要因による下振れリス
140
クは続くものの、ルピー建ての原油価格は今後次第に落ち着き、
120
1章の内容を踏まえ、インド経済の先行きを、ルピー建て原油価
90
ドル高・原油安
100
景気底割れも回避されると見込まれる。
100
80
まず、原油の国際価格は地政学的な要因が価格の高止まりや一
60
段の上昇圧力として燻り続けるものの、QE3の縮小・終了時期が
40
近付くにつれ、ドル高の進展や商品市場への資金流入の縮小が、
原油価格の下落圧力として作用すると見込まれる(図表 11)。
次に、ルピー相場を展望すると、緩やかなルピー安傾向が続く
110
120
20
0
2000 02
130
04
06
08
10
(資料)BIS,Bloomberg.L.P
12
(年/月)
と見込まれるものの、5月下旬以降のような急速なルピー安には歯止めがかかると見込まれる。購
買力平価の観点からは、現状適正水準を大幅に上回るルピー安が進んでいる可能性がある5(図表
12)。購買力平価でみた 2013 年8月平均の適正水準は1ドル=58~60 ルピー程度であり、今後イ
ンドで高インフレが続いても 2014 年末にかけての適正水準は1ドル=65 ルピー前後になると見込
まれる。ちなみに、過去 20 年間の購買力平価と実績の乖離率をみると、すでに8%と過去最大に
迫りつつあり、8月末頃の水準は今後の資本規制導入を懸念する投資家による資本流出などを背景
に過度なルピー安が進んでいたと考えられる。さらに、為替市場の安定性を確保するための原資と
なる外貨準備高は、足元で減少しているとはいえ、安定性の目安とされる月次輸入額の3ヵ月分、
及び短期債務残高の1年分を大きく上回る水準を確保しており(図表 13)、投機的な要因による過
度なルピー安を回避するだけの資金力を有していると判断される6。
図表 13 外貨準備高の月次輸入
図表 12 ルピードル相場の購買力平価と実績
(1ドル=ルピー) <水準>
65
購買力平価
60
(予測)
実績
55
50
<実績の購買力平価からの乖離率>
8月最安値(1ドル=68
(%)
ルピー)に対する乖離率
20
8月平均値(1ドル=63ル
15
ピー)に対する乖離率
10
5
45
0
40
▲5
35
▲ 10
30
1994 97
00
03
06
09
12
(年/月)
(資料)BLS,RBIなどを基に日本総研作成
▲ 15
1994
額と短期債務に対する倍率
(倍)
25
対短期債務
対月次輸入
20
15
10
5
0
97
00
03
06
09
12
(年/月)
(資料)BLS,RBIなどを基に日本総研作成
1989
94
99
04
(資料)RBI, MOSPI
(注)輸入はサービスを含む。
09
(年度)
以上を踏まえると、ルピー建ての原油価格は次第に落ち着きを取り戻すと考えられ(図表 14)、
購買力平価は、2005 年度(2005 年4月~2006 年3月)を基準に、インドは卸売物価、米国は生産者物価を用いて計算した(2004
年3月以前のインドの卸売物価は旧基準計数の前年比を用いて簡易遡及推計を行った)。米国生産者物価の先行きは、2010 年以降
の上昇トレンドを用いて試算した。インドの卸売物価の先行きは、実績の対数差分値を被説明変数、過去6ヵ月のルピー建て原油
価格の対数差分値を説明変数とする OLS により原油価格の卸売物価への影響度合いを推計し、ルピー建て原油先物相場値を先行
きの説明変数として推計した。
6
外貨準備不足に陥った場合の短期的な対処方法としては、2012 年 12 月に日本銀行との間で締結・拡充された二国間通貨スワッ
プを活用することも考えられる。上限は 150 億ドルと現在のインドの外貨準備残高の5%程度の金額であるが、IMF 支援プログ
ラムなしに引き出しが可能である。
5
6
日本総研
Research Focus
景気の底割れも回避できると見込まれる。
図表 14 ルピー建て原油価格
(2)インド経済の先行き展望
8/31時点の限月
別先物価格
(ルピー/バレル)
ただし、成長率の持ち直しは当面期待できない。これは、今
8,500
後、5月以降のルピー安の影響を受けたインフレ率の再加速に
7,500
より金融緩和が困難になるためである。輸入原油価格の上昇は、
6,500
5,500
まず国内の燃料価格の上昇圧力として作用し(図表 15)、各種
4,500
輸送コストの上昇が若干のラグを伴って価格転嫁され、広範な
3,500
物価上昇圧力としても作用する。先物市場のルピー建て原油輸
6/2時点の限月
別先物価格
2,500
1,500
入価格をもとに卸売物価の上昇率を試算すると、当面再び前年
2006 07 08 09 10 11 12 13 14
比+8%を超える水準まで上昇が続き、2014 年後半までは鈍化
(年/月)
(資料)Bloomberg.L.P
傾向に転じないと見込まれる(図表 16)。そのため、追加金融
緩和が行われる時期も大きく後ろ倒しされると見込まれる7。ルピー安は輸出競争力の改善といった
側面を持っているため、輸出増加を通じた景気押し上げ効果も一定程度生じると考えられるが、①
輸出ウエイトの大きい欧州で景気低迷が続いていること、②GDP に対する輸出比率が高くないこと、
などからその効果は限定的であろう8。実際、ルピー安が進んだ 2011 年中盤以降も輸出の伸び率は
鈍化傾向が続いている(図表 17)。
図表 15 ルピー建て原油価格
図表 16 原油価格と卸売物価
図表 17 名目輸出と名目実効為替レート
と国内燃料価格
(前年比)
(後方3ヵ月平均、前年比)
(2006年1月=100)
(予測)
300
原油価格(右目盛)
(%)
12
ルピー建て原油価格
250
燃料価格
200
150
100
(%)
名目輸出(左目盛)
名目実行為替レート(右逆目盛)
100
(%)
80
80
(%)
▲ 20
8
60
60
▲ 15
6
40
40
▲ 10
20
▲5
4
20
0
0
2
0
▲ 20
5
▲ 20
▲ 40
2006 07 08 09 10 11 12 13
10
卸売物価(左目盛)
(予測)
10
50
2006 07 08 09 10 11 12 13 14
0
(年/月)
(資料)Bloomberg.L.P, Indian Oil
Corporationなどを基に日本総研作成
(資料)RBIを基に日本総研作成
2010
11
12
13
輸出増加・ルピー安
14
(年/月)
(資料)RBI、BIS
ルピー建て原油価格の上昇に歯止めがかかり、先行きの景気が持ち直しに転じても自律的な成長
軌道に復帰するためには、2012 年9月以降進めている経済改革を一段と進め、安定的な資本流入源
である対内直接投資の比率を高めることが重要である9。現在、外資規制の改革は徐々に進展してい
るものの、抜本的な改革は 2014 年春の総選挙が終了するまでは進まず、対内直接投資もそれまで
は本格的に増加しないと見込まれる。
7
9月4日に中銀新総裁に就任したラジャン氏は、就任記者会見で3ヵ月以内に金融政策を見直しすることを明言しており、一段
のルピー安防衛の観点からも利上げが行われる可能性もある。
8 そもそも、近年のルピー安が輸出増加にほとんど作用していないといった見方もある。N.R Bhanummurthy[2013]は、マクロ
データ及び個票データを用いた分析において為替の輸出に与える影響は統計的に有意ではなく、輸出競争力確保に向けた通貨安政
策のインドにおける有効性は疑問であると指摘している。
9 直接投資の増加は、資本流入の安定性を高めるだけでなく、外国技術の浸透を通じた生産性の向上やインフレ抑制にもつながる
と期待されている。
7
日本総研
Research Focus
(年/月)
具体的には、①行政の非効率性を背景に土地収用、各種許認可の取得、訴訟などに長い時間がか
かること、②電力部門の複雑な規制を背景に恒常的な電力不足が続いていること、③州が外国投資
の許認可に対して大きな権限を有しており、認可の判断が州ごとに異なることや州を跨ぐ取引に対
する課税が存在するため事業の全国展開を行いづらいこと、などもインド進出の大きな阻害要因と
なっている。総選挙後に発足する新政権がこうした状況をどこまで改善できるかがインド経済の先
行きを左右することになるだろう。
<参考文献>

Bosworth, Barry, Susan M. Collins and Arvind Virmani[2007] “Sources of Growth in the
Indian Economy” NBER Working Paper No.12901

IMF[2013] “India 2013 Article Ⅳ Consultation” IMF Country Report No.13/37

N.R Bhanumurthy and Chandan Sharma[2013] “Does Weak Rupee Matter for India’s
Manufacturing Exports?” National Institute of Public Finance and Policy Working Paper
No. 2013-115
--------------------------------------------------------------------------------------図表 18 実質GDPと潜在成長率の推移
補足:インドの潜在成長率
(%)
インド経済は、天候要因に左右されやすい第1次産業の比
12
率が高いため、成長率の振れ幅が大きく(図表 18、19)、成
9
長率のトレンドを把握することが困難である。HP Filter を
6
10
用いて推計した潜在成長率をみると
、戦後から 1980 年度
ごろまでは潜在成長率は3~5%程度で推移していたものの、
実績
潜在成長率(トレンド)
3
0
11
その後 2000 年代中盤にかけて7%台後半まで上昇している 。 ▲ 3
これは、第1次産業のシェアの低下を受けて成長率の振れ幅
の縮小傾向が続いたことに加え、①1980 年代に一部業種の許
認可制度が撤廃や輸入ライセンス制度の緩和などを含む経済
▲6
1951 61
71
81
91
01
11
(年度)
(資料)MOSPI
(注)トレンドはHPフィルタで推計した実質G
DPの前年比。
自由化政策が進められたこと、②1990 年代に関税引き下げ、
図表 19 第1次産業のGDPシェ
変動相場制の導入、直接投資の規制緩和を含む対外開放が進め
アとGDPへの寄与度の推移
られたこと、③2000 年代前半に世界経済の好調を背景に対内直
(%)
9
接投資が大きく増加し、財政改革や電力部門改革が進むととも
成長率への寄与度(左目盛)
シェア(右目盛)
(%)
60
6
40
ある12。もっとも、潜在成長率は足元にかけて大幅に低下して
3
20
おり、2012 年度は+6.1%と 1990 年代中盤と同程度の水準とな
0
0
に通信や金融業での生産性の向上が続いたこと、によるもので
13
っている 。2012 年秋口以降、財政改革・規制改革を含む経済
改革が進められているが、潜在成長率の再加速のためには改革
を着実に実現していくことが不可欠である。
▲3
-20
▲6
-40
1951
61
71
(資料)MOSPI
81
91
01
11
(年度)
10
労働関連の統計の制約から、先進国の潜在成長率を推計する際に用いられる生産関数法をインド経済に当てはめることは困難で
ある。
11 2005~07 年度にかけては3年連続して9%台の成長率を記録し、インド経済への関心が大きく高まる要因となったが、同時期
の潜在成長率は7%台後半であり、当時の経済はやや過熱気味であった可能性がある。
12 また、Bosworth et al.[2007]は、成長会計を用いて、1980 年代以降の成長については、生産性の上昇が労働投入や資本蓄積の
増加による寄与よりも大きいことを示している。
13 IMF[2013]は、四半期 GDP を用いて HP Filter を含むいくつかの手法によって潜在成長率を推計しており、2012 年4~6月期
の潜在成長率は 6.2~6.8%程度に低下したことを指摘している。
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日本総研
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