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路面電車を活用したまちづくりの他都市事例 JR 富山港線の

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路面電車を活用したまちづくりの他都市事例 JR 富山港線の
(8)路面電車を活用したまちづくりの他都市事例
◇ JR 富山港線の路面電車化(富山市)
○導入の背景:「コンパクトなまちづくり」の推進
富山市は、低密度市街地の拡散が進行し、自動車保有台数全国第2位、道路整備
率全国第1位、自動車分担率*2472.2%と自動車交通への依存が高い都市となって
おり、そのため人口減少・高齢社会の到来に向け、公共交通を活用して、都市機能
を集中させたコンパクトなまちづくりを目指している。
○導入の経緯:北陸新幹線の建設(平成 26 年の完成を目指して)
平成13 年度の北陸新幹線建設に関する事業認可を契機に、県都にふさわしい広
域交通拠点の整備として、JR 富山駅の連続立体交差事業等に着手した。
その主要事業の1つとして JR 富山港線の路面電車化を進め、平成 18 年 4 月に
は新しく全車両を低床化した路面電車として、富山港線を開業している。
○今後の展開:中心市街地の活性化への寄与
富山港線の富山駅南側への延伸による市内路面電車との相互乗り入れ、市内路面
電車の環状化構想の実現に向けた検討を進めている。
○路面電車化の概要
□利便性快適性の向上
富山駅北口市街地へのアクセス利便性の向上と駅南側の中心市街地活性化に寄
与するために、一部区間を併用軌道(道路上を走ること)に変更する路面電車化
にあわせて、車両・電停の更新、運行サービスの向上を行っている。
□トータルデザインによる一体的なまちづくり
「まちづくりと連携して富山の新しい生活価値や風景を創造していくこと」
、さ
らには「世界に向けて富山市民が誇れるような新しい富山港線とすること」を意
図して、路線デザインの基本コンセプトを設定している。また、富山港線の沿線
を「沿線活性化地域」とし、一体的なまちづくり事業を展開している。
□公共・地域による支援
運営会社である第三セクターが公共交通サービスの提供、施設の維持・管理を
行っているが、施設の整備、更新・改良については、富山市が支援を行っている。
また、沿線自治振興会で組織する「富山港線を育てる会」が設立され、施設の
維持や経費の助成のための「富山港線路面電車事業助成基金」への参加や寄付を
広く市民、企業等へ呼びかけている。
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○ まちづくり施策を支援する路面電車
■富山市における市内電車の環状線化構想
南北路線の一体化
富山駅付近連続立体交差事業
呉羽方向から中心市街地への
直達性向上
(約1km)
中心市街地の回遊性の向上
南富山・大学前間の
直達性向上
凡 例
中心商業地を東西に補完し、
回遊性の向上
富山港線(鉄道区間)
富山港線(軌道区間)
南北路線の一体化
環状線の構想
JR線
■
■
■
■
■
■
低床車両の導入(全車両ー7編成)
低床車両の導入(全車両ー7編成)
新電停の設置(併用軌道区間:3電停、専用軌道区間2電停)
新電停の設置(併用軌道区間:3電停、専用軌道区間2電停)
運行サービス(増便、始発・終発時刻の改善、均一料金制、IC
運行サービス(増便、始発・終発時刻の改善、均一料金制、IC
カード・案内情報システムの導入等)
カード・案内情報システムの導入等)
■
■
■
■
■
■
富山港線のシンボルマーク(富山の「T」をモチーフ)
富山港線のシンボルマーク(富山の「T」をモチーフ)
電停のデザイン(マストをモチーフにし、沿線情報で個性化)
電停のデザイン(マストをモチーフにし、沿線情報で個性化)
車両のデザイン(立山の新雪をモチーフに、
車両のデザイン(立山の新雪をモチーフに、 7色のアクセントカ
7色のアクセントカ
ラーで富山の夢と活気を表現)
ラーで富山の夢と活気を表現)
ICカード
■
■ 駅アクセスの改善として、駅前広場の整備(同一ホームによる
駅アクセスの改善として、駅前広場の整備(同一ホームによる
円滑な乗り継ぎ)、駅に接続するフィーダーバス路線バスの新設
円滑な乗り継ぎ)、駅に接続するフィーダーバス路線バスの新設
■
■ 観光資源を活かしたまちづくりを推進し、歴史を活かしながら憩
観光資源を活かしたまちづくりを推進し、歴史を活かしながら憩
いと親水の公園機能を演出している富岩運河、岩瀬浜地区の
いと親水の公園機能を演出している富岩運河、岩瀬浜地区の
風情ある街並みの修景
風情ある街並みの修景
■
■ 運営・施設の維持管理を行なう第三セクターの設置
運営・施設の維持管理を行なう第三セクターの設置
■
■ 富山港線を育てる会を設立し、施設の維持や運営経費の助成す
富山港線を育てる会を設立し、施設の維持や運営経費の助成す
る基金を設置して、広く市民・企業からの寄付を募集
る基金を設置して、広く市民・企業からの寄付を募集
■
■ 電停に関する命名権の譲渡、個性化壁への協賛、ベンチの記念
電停に関する命名権の譲渡、個性化壁への協賛、ベンチの記念
プレートの設置で、広く市民・企業への呼び掛け
プレートの設置で、広く市民・企業への呼び掛け
富岩運河
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◇ 万葉線の再生(高岡市)
○廃止の経緯(高岡市と新湊市を結ぶ万葉線の利用者数減少)
万葉線を運営する加越能鉄道株式会社は、平成 10 年 2 月、国からの欠損補助打
ち切りを機に、利用者減少に歯止めがかからないとして、路面電車を廃止し、バス
代替輸送への転換で、公共交通の使命を果たしたいとの意向を表明した。
○再生の基本的な考え方
□検討の視点
地域社会の将来を展望するときに、有形・無形、私的・公的を問わず、路面電車
の潜在的な価値は図り知れず、いかにそれを掘り起こすかにある。
□基本的な考え方
「少子高齢社会に対応する生活路線、また沿線2市の魅力あるまちづくりに活用
する都市施設(再活性化に必要不可欠な社会資本)である」とし、一定の枠組みを
確立して再生する。
□多様な役割
①通勤・通学・買物等、沿線住民の交通手段であることに加え、②進展する高齢
社会への福祉対策、③環境対策、④都市の個性の象徴として、まちづくりに活用で
きること、⑤両市を結ぶ都市の絆等
※従来、地域の公共交通は、単に人の移動手段としてしか位置付けられていなか
った。万葉線問題をきっかけにそれが都市の魅力に大きく関係する重要な都市
機能の一部として認識され始めた。
□枠組み
新しいタイプの第三セクターでの経営 (加越能鉄道株式会社の経営踏襲でもな
く、行政依存型の第三セクターでもない、潜在的可能性を最大限に引き出す会社組
織として、平成 13 年 3 月に万葉線株式会社を設置)
○再生の取組み
・出資・寄付・財政支援:新会社の経営を監視・支援する観点から、県、市、地
元企業からの出資金と一般市民からの寄付金、行政の財政支援を実施
・新型車両:2両導入(平成 15・16 年度に各1両)
・まちづくりとの事業連携
①観光協会、沿線商店街、企業、大学とのタイアップや自治会等の協力
②万葉線対策協議会(市、市議会、商工会議所、自治会等)、万葉線を愛する会、
路面電車と都市の未来を考える会・高岡とのタイアップ
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○ 透明性の高い事業形態による路面電車の再生
■高岡市と新湊市を結ぶ万葉線沿線マップ
○ 事業再生の枠組み
新会社創設に向けて
□ 施設整備
行政が全面的に支援
※市民・県民・企業等から市に
寄せられた寄付金を含む。
(両市で1億円)
新会社維持に向けて
○ 新型低床車両(アイトラム)
斬新なデザイン等により沿線のイメージアッ
プ・利用促進に大きな効果をあげている。
(会社では、新型車両導入による利用者
数の増加を13.9%と推測)
□ 運営・施設の維持管理
事業者が責任をもって運営
(一定の行政支援を実施)
□ 新たな施設整備
行政側が全面的に支援
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(9)路面電車に関する交通施策の事例
■交通課題への対応事例
富山市:富山港線
●
● 軌道により車線が減線し、交通容量が低下する
軌道により車線が減線し、交通容量が低下する
○
○ 交通管理者との連携による違法駐車車両の撤去
交通管理者との連携による違法駐車車両の撤去
○
○ 右折レーン確保による自動車交通の円滑化
右折レーン確保による自動車交通の円滑化
以前は・・・
●
● 道路車線を横断して右折する
道路車線を横断して右折する
路側走行方式
○
○ 信号制御(黄色矢印)
信号制御(黄色矢印)
路上駐車による交通容量の低下
路上駐車による交通容量の低下
<路面電車自体の運用変更>
<路面電車自体の運用変更>
●
● 自動車の進行方向と逆に走行する
自動車の進行方向と逆に走行する
●
● 歩道側を走行する(路側走行方式)
歩道側を走行する(路側走行方式)
○
○ 縁石設置による安全性の確保
縁石設置による安全性の確保 等
等
○
○ 芝生軌道による視覚的差別化
芝生軌道による視覚的差別化
○
○ 道路管理者や沿線施設管理者との連携
道路管理者や沿線施設管理者との連携
右折車両による直進車の走行阻害
右折車両による直進車の走行阻害
高岡市:万葉線
単線
複線
自動車交通との調和を図り、道路空間の
自動車交通との調和を図り、道路空間の
使い方等の課題やニーズを勘案し、軌道の
使い方等の課題やニーズを勘案し、軌道の
単線、複線の併用、軌道敷設位置、交通
単線、複線の併用、軌道敷設位置、交通
施策とのパッケージ化など、様々な工夫や
施策とのパッケージ化など、様々な工夫や
連携を図る必要がある。
連携を図る必要がある。
●
● 道路幅が一部狭いところがある
道路幅が一部狭いところがある
○
○ 道路状況に合わせた単線、複線の併用
道路状況に合わせた単線、複線の併用
(車内無線による交信により安全運行を確認)
(車内無線による交信により安全運行を確認)
■都市交通システムの質的向上
区
分
分
類
効 果
事 例 等
交通結節点 ・スムーズな乗り継ぎ
他交通機関
(シームレス化)
・バリアフリー
施設整備関係
運行サービス関係
・バス等と同一ホームでの乗り換え
・他軌道・バスターミナル・商業施設等への乗り入れ
・交通広場(鉄道、バス、タクシー)
・軌道内にバスを乗り入れる公共交通レーン化
・パークアンドライド駐車場等(その他、バス、自転車)
・タクシー等との連携の工夫(乗継ぎ割引等)
・低床車両の導入を核としたバリアフリー化
・トランジットモール(歩行者と公共交通のための道路空間)
・路側走行方式(軌道)
・ テラス型電停(沿道サービスへの配慮)
・ 架線の集約化(カテナリー、センターポール方式)
・ 架線レス(地中式やバッテリー車両の運行)
歩行環境
・乗降性の向上
・歩行環境の向上
都市環境
・景観、防災への配慮
走行環境
・運行速度の確保・向上
交通情報
・移動予定の向上
・ 運行情報の提供 (電停、携帯)
・えきバスナビ等の情報提供(インターネット)
運賃収受
・乗降時間の短縮
・ ICカードの導入(他交通機関・商業施設等との共通カード)
・ チケットキャンセラーの導入(セルフサービス式)
料金
・利用しやすい料金体系
・ 他公共交通機関との共通カード(ウイズユーカード等)
・ 昼間・土日祝日の割引
・ 1日乗り放題パスや環境定期等の企画定期券発行
・商業・観光施設入場料と路面電車乗車券との共通カード
・路面電車優先信号(感知システム等)
・信号交差点における電停位置の工夫
・道路管理者との除雪連携や消雪溝の整備
・制振・制音・景観への配慮 ・ 樹脂固定軌道、 芝生軌道
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用語説明
*1:バリアフリー(PⅡ)
障がいのある人が社会生活をしていく上で、障壁(バリア)となるものを取除くという意味。
ここでは、段差等の物理的バリアを取り除くことを表すが、より広義には、障がいのある人の社
会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なバリアを除去していくことにも用いられる。
*2:低床車両(PⅡ)
乗降口を含め、車内の床全体が低く段差のない車両のこと。一般的には乗降口が道路から 30cm
程度の高さにあり、停留所から段差なく乗車できるため、高齢者や体の不自由な方も乗り降りしや
すい。
*3:アイデンティティ(PⅡ)
個性、独自性
*4:架線レス車両(PⅤ)
道路上に張られた架線から電気を集めるのではなく、車内に設置したバッテリーや地中に設置し
た架線から電気を集め走行する路面電車の車両のこと。
*5:路側走行方式(PⅤ)
路面電車が車道の端(歩道寄り)を走行する方式のこと。
*6:トータルデザイン(PⅤ)
①
統一概念のもと、複数の施設等を関連付けながら、個別具体のデザインにあたること。
②
施設等の具体のデザインにあたり、各専門分野の協働体制を作ること。
*7:ユニバーサルデザイン(PⅤ)
「すべての人のためのデザイン」を意味し、年齢や障害の有無等にかかわらず、できるだけ多く
の人が利用可能であるようにデザインすること。
*8:コーディネート(PⅥ)
物事を調整、調和、同調させること。
*9:kitara(P8)
札幌市が保有する音楽ホールの名称。札幌の中心部に広がる中島公園の西側に位置している。
*10:コンパクト・シティ(P15)
都市郊外化を抑制し、市街地のスケールを小さく保ち、歩いて行ける範囲を生活圏と捉え、コミ
ュニティの再生や住みやすいまちづくりを目指そうとする都市設計の発想のこと。
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*11:オープンスペース(P18)
道路等や建物敷地内外の公共的空間のこと。
*12:LRT(P23)
軽量軌道交通(Light Rail Transit:LRT)のこと。本来は都市間路線や国際路線といった大型
車両を用いた本格的鉄道(Heavy Rail)に対し、都市計画・地域計画等で位置付けられた都市内や
近郊での運行を行う中小規模鉄道全般を指す言葉だが、併用軌道との組み合わせによる都市内輸送
との親和を図ったシステムが注目され、最近では専用軌道を用いた都市交通システムとしての認識
が強くなっている。具体的には、
「従来の路面電車の走行環境、車両等をグレードアップさせた、人
や環境にやさしく経済性に優れた公共交通システムである。
(都市計画中央審議会答申 平成9年6
月より)
」などと整理がされている。
*13:NPO(P23)
Non-Profit Organization の略で、利益追求のためではなく、社会的な使命の実現を目指して
活動する組織や団体のこと。通常、
「民間非営利組織」と呼ばれる。
「非営利」であるため、株式会社等の営利企業とは違い、収入から費用を差し引いた利益を関係者
に分配せず、次の活動の費用に充てることを特徴としている。
*14:道路中央方式(P23)
路面電車が車道の中央を走行する方式のこと。現在、札幌の路面電車はこの方式を採用している。
*15:ポテンシャル(P25)
潜在的な力、可能性としての力
*16:カフェテリア方式(P26)
利用者が自由に選択し、組み合わせることができる方式のこと。
*17:トランジットモール(P27)
中心市街地の活性化、道路交通環境の改善、公共交通サービスの向上を目的に,歩行者専用のシ
ョッピングモールにLRTやバス等、路面を走行する公共交通を導入した都市の商業空間等を指す。
*18:コンテンツアップ(P27)
素材を増やしたり、内容を高めることによって、全体の魅力を向上させること。
*19:ICカード(P28)
キャッシュカード大のプラスチック製カードに極めて薄い半導体集積回路(IC チップ)を埋め込み、
情報を記録できるようにしたカードのこと。電子マネーやテレホンカード等に応用されている。磁
気カードに比べて 100 倍近いデータを記録でき、データの暗号化も可能なため偽造にも強いとい
う特徴がある。
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*20:メディア(P30)
媒体、情報を伝える手段
*21:北海道遺産(P33)
北海道に関係する次の世代へ引き継ぎたい有形・無形の財産の中から、北海道遺産構想推進協議
会によって選定されたもの。平成18年9月現在、52件が指定されている。
*22:第三セクター(P40)
国および地方公共団体が経営する公企業を第一セクター、私企業を第二セクターとし、それらと
は異なる第三の方式による法人という意味。国または地方公共団体が民間企業と共同出資によって
設立した法人を指すことが多く、その場合、多くは設立が比較的容易でその運営方式も自由な株式
会社の形態を採る。
*23:モニタリング(P40)
監視、日常的かつ継続的な点検のこと。
*24:自動車分担率(P53)
様々な交通手段による移動のうち、自動車で移動する人の割合のこと。
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