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学生代表アバターを使用した大人数授業の活性化の試み

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学生代表アバターを使用した大人数授業の活性化の試み
学生代表アバターを使用した大人数授業の活性化の試み
研究発表者 柳沢昌義 東洋英和女学院大学
連絡先
神奈川県横浜市緑区三保町 32
045-922-5511
1.はじめに
[email protected]
に作られている。講師は、そのアバターの発言に対して
一般的に日本の大学では授業において学生の無質問行
アバターをあたかも一人の受講生のようにして受け答え
動が極めて目立っており問題視されている([1][2])。
をする。アバターは電子黒板上に投影されるので、講師
学生の意見を聞きながら、双方向の授業を行いたいとい
はパソコン等に触れることなく、アバターとの自然なイ
う教育目標があっても、少人数やゼミであればそれが実
ンタラクションが可能となる。
現できるが、中規模から大規模の講義科目では、学生の
さらに、学生が講義中になかなか伝えることができな
意見を集めることも難しく、さらには、大勢の前で学生
い、
「早い」
「もう一度」
「わかった」
「見えにくい」
「眠い」
自身に意見や質問を口頭で話させることはもっと難しい
「教室が暑い/寒い」といった情報も気軽に送信でき、
([3])。また、大人数授業では、講師は、学生の受講態度
学生の気持ちをアバターはアニメーションで表現する。
や、理解度などの情報を瞬時に把握することが困難であ
り、これが分かるような ICT の仕掛けが求められる。
そこで従来より携帯電話を用いた講義の活性化の試み
が多くなされてきた([3][4]など多数)。また近年は
Twitter を利用しもっと気軽な発言を許可する授業シス
テムや実践が報告されている([5][6])。本実践では、従
来の研究成果を踏まえ、さらに学生に対してフレンドリ
ーなインタフェースを考案して以下の 3 点をさらに改善
の目標として ICT を活用することにする。
1.中規模から大規模人数の講義の活性化
2.学生の気軽な発問と発言の促進
3.学生の興味関心に沿った授業展開
この ICT による授業改善は、特定の科目に依存するも
図1 学生代表アバター
のではなく、多くの授業に活用することができるが、本
研究が目標とするのはまず、インタラクティブな授業が
展開しにくくなる 30 人を超える講義科目全般である。
3.教育実践による改善効果とその確認
まず、本システムの有効性を検証するために行った模
擬授業の結果を示す。被験者は大学生 26 名で公募によっ
2.教育改善の内容と方法
て募集した。アバターや文字の見えやすさなども評価す
まず、講義中に学生が気軽に発言ができるように、テ
るため、この模擬授業では、300 名収容できる大教室に前
レビのアナウンサーとアシスタントのメタファーを利用
から後ろまで実験的に分散して着席してもらっている。
した学生を代表するアバターをアニメーションによって
授業実施後に実施したアンケート(5 段階評価)を表1に
投影する(図1)
。アバターは教室の前に、授業コンテン
示す。平均値 3.3 であり、数値の高い項目(4.0 以上)
ツとは別に設置したスクリーンに等身大で表示される。
の項目に注目すると「普段の授業と比べて楽しかった」
学生は、携帯電話を使って、自らが大勢の前で立って発
および「質問がしやすいと感じた」であった。この模擬
言することなく、学生代表アバターに代理に発言させる
授業のデータは細かく分析することにより、最初は講師
ことができる。学生の発言内容からそれが質問事項なの
の誘導によって発言が始まるが、やがて、自主的に発言
か、意見やつぶやきなのかをシステムが判断し、左右に
するように変容していく様子が定量的に観測することが
区別して表示させる。質問は講師が解答するまで画面に
でき、授業の活性化と学生の発言の促進に顕著な効果が
残り、つぶやきは時間とともに自動的に消えていくよう
あったことが示された。
公益社団法人 私立大学情報教育協会
平成24年度 ICT利用による教育改善研究発表会
この実験的実証を踏まえ、実際の講義科目で利用した
であるが、実証により気軽で質問をしやすい環境づくり
結果を表2に示す。模擬授業だけでなく、正規の授業で
に ICT が大きな役割を果たしたと言える。さらに、この
の利用にあたっても同様に高い評価を得ることができて
授業の活性化によって「楽しい」「集中」「わかりやす
いることがわかる。
い」「記憶に残る」「学習効果があった」など単なる発
また、158 人の学生が受講する授業で授業の一部で利用
した結果、教室の後ろからは文字が読みにくいと評価さ
れたものの、他の項目では良好な評価を得ている。
言の活性化だけでない教育本来の目的にかなった顕著な
教育効果も示すことができた。
また、学生はシステムそのものに興味を示し、新しい
ものに抵抗を感じるのではなく楽しんで使っていたので
表1 模擬授業の評価(n=26)
質問内容
普段の授業と比べて楽しかった
授業に積極的な姿勢で臨む機会を作り出していることが
平均
分かった。逆に、気軽に書き込みをしやすいため、授業
普段の授業と比べて集中できた
4.2
3.3
大切な内容をレジュメに書き込みをした
3.2
書き込みに熱中しても授業には集中した
2.0
アバターが気になって授業に集中できないというこ
とはない
2.7
アバターの存在に親近感が湧いた
3.3
招く点も指摘されている。アバターを常時表示させるの
萌え系の絵のアバターに抵抗を感じなかった
3.3
ではなく、質問や意見の時間をとり、その時だけ登場さ
友達の書き込みにコメントしたい
3.0
せるような使い方も今後の課題としたい。
スクリーンの文字は見えやすかった
2.3
今後もこの方法で授業を受けたい
3.6
質問がしやすいと感じた
コメントの書き込みが面倒であった
4.2
2.3
友美さんの卒業研究の一部として共同研究させていただ
周りの学生と一体感を感じた
3.2
き まし た 。 また 、本 研究は 、科 学研 究費 (基 盤B
教室が騒がしくなるように感じた
2.1
No.20300277 および、挑戦的萌芽研究 No.23650552)
先生に親近感を覚えた
3.9
の助成を受けております。
の内容とは直接には関連が無い書き込みがあり、他の学
生が不快を感じることがあった。また、現段階ではプロ
ジェクターで投影しているため、教室をやや暗くする必
要があり、それが学生を眠くさせている要因になってい
る。さらに、アバターのリアクションが集中力の低下を
5.謝辞
本システムは、東洋英和女学院大学人間科学部の服部
6.参考文献
表 2 実際の授業の評価(n=35)
アバターを使った授業は学習効果があると思う
3.9
[1] 祐宗省三, 無藤隆, Shwalb.B., 仲野好重, 授業中に
授業がわかりやすくなった
4.2
おける大学生の無質問行動をめぐる教育心理学諸問
授業の内容が記憶に残る
4.5
3.2
題,日本教育心理学総会発表論文集,36:34-35,
眠くなる
授業が楽しい
4.3
授業に集中できた
4.1
アバターを使った授業をまた受けてみたいと思う
4.2
高野清純, 授業中における大学生の無質問行動に関
表示される文字の大きさは適切か
3.0
する教育心理学的諸問題, 日本教育心理学会総会発
字の色の見易さ
4.1
表論文集,38:S74-S75, 1996.
コメントや質問が表示されることによって気が散る
3.6
アバターに動作があることで気が散る
3.7
1994.
[2] 祐宗省三, 河本肇, 浜崎隆司, 川崎健二, 西川勝美,
[3] 佐藤弘毅, 柳沢昌義, 赤堀侃司, 受講者のフィード
バックを黒板に表示するソフトウェアの開発と評価,
科学教育研究, 28(5): 295-305, 2004.
4.結果と考察
実験的環境および、本授業での実際の利用から、アバ
ターを使用し、学生は気軽に講師に意見や質問を伝える
ことで授業に前向きな態度で取り組むことを促す顕著な
[4] 中山実,森本容介,赤堀侃司,清水康敬, 携帯電話
を用いた支援システムの開発,電子情報通信学会技
術報告, ET101(706):81-86, 2002.
[5] 村上正行, 授業中におけるTwitter活用の有効性に
効果があることが分かった。アバターの存在は、気が散
関する評価,日本教育工学会第26回全国大会講演論
るという指摘もあるが、コメントをするにあたって妨害
文集,913-914, 2010.
になることはなく、むしろ書き込みを促進させることに
効果が発揮されたと考えられる。
本改善の目標は、気軽で何気ない発言を促進する目的
公益社団法人 私立大学情報教育協会
平成24年度 ICT利用による教育改善研究発表会
[6] 服部友美, 柳沢昌義, 多人数授業時における携帯チ
ャット画面の共有効果に関する研究, 日本教育工学
会研究報告集, 10(4), pp.21-28, 2010.
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