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女子大学生の父親への否定的感情に関する研究 - Kyushu University

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女子大学生の父親への否定的感情に関する研究 - Kyushu University
Kyushu University Psychological Research
2013, Vol.14, 125-137
女子大学生の父親への否定的感情に関する研究
― 現在と中学時代の回想を比較して ―
石丸 綾子 九州大学大学院人間環境学府
Female college students’ negative feelings toward their fathers
―Comparison of present feelings with recollections of their junior high school days―
Ayako Ishimaru(Graduate School of Human-Environment Studies, Kyushu University)
An adolescent daughter’s relationship with her father is strained owing to her negative feelings, such as opposition,
defiant attitude, and hatred, toward father. However, further details regarding these feelings and how they evolve during
a daughter’s growing years have not been examined yet. In this study, a questionnaire survey was administered to female
college students, asking about their negative feelings toward their fathers in the present and during their junior high
school days. The results showed that physiological hatred, such as shunning her father, is not very conspicuous, although
some psychologists have indicated physiological that it is a peculiarity of an adolescent daughter. In addition, a daughter’s negative feelings about coming in contact with her father weaken as she grows older. However, a daughter’s negative feelings about her father’s uninterested and dominant attitude are stronger during college than junior high school
days. Moreover, it is suggested that a daughter’s negative feelings during college differ from those during junior high
school days in terms of quality and contents.
Key words: father-daughter relationship, adolescence, the second period of rebelliousness, negative feelings, recollection
Ⅰ 問題と目的
青年前期から中期に位置する子どもの課題は親からの
(Secunda,1994/1997;春日,2007 など),父娘関係は,
娘の生涯にわたる影響を持つものといえる。
しかし一般に,子どもが思春期に入り,第二反抗期を
離脱や依存性の払拭である(西平,1990)。落合(2000)
迎えると,親に対して批判的になり,反抗や反発が見ら
は,このように青年の心理的発達において親子関係が重
れ(齋藤,1993),親子関係のあり方が難しい時期とな
要であることは誰もが認めるところであるにも関わら
る。これは親や子の性別に関わらず生起するものと思わ
ず,特に父子関係について,理論的研究も実証的研究も
れるが,父娘関係において特有に起こるものとして,
「父
これからという状態であることを指摘している。尾形
親の入った後の風呂に入るのが嫌だ」といった類いの父
(2011)も同様に,最近では,「父親の役割が見直され,
親への嫌悪感(菅生,2001)が挙げられる。この嫌悪感
研究も徐々に蓄積されてきているものの,母親の研究と
については,思春期における性的成熟や,自意識,羞恥
比較すると少ない」と述べている。
心などの発達に伴う生理的感覚としての説明が多く(高
父親の役割について,馬場(1984)が「社会関係を家
木,1995 など),嫌悪感に伴う,娘から父親への冷たい
族の中に導き入れ,社会の価値観や道徳意識を示して,
態度や避けるような態度における心理についても,品川
子どもに社会への適応性を獲得させ,社会における男ら
(1983)は「本人たちにもよくわかっていないもの」と
しさや女らしさの基準を示して,男性や女性としての役
説明している。しかし,早川(2002)のように,父親は
割を身につけさせていく」と説明し,この父親との関係
「口うるさい」「しつこい」など,思春期の少女父親の具
が,積極性や受動性などの子どもの性格傾向,神経症の
体的な態度に対して嫌だと感じている場合もあると考え
発症などに深く関連していると述べているように,父親
られる。また馬場(1987)は「性的成熟により,少女が
は子どもの自立や発達に重要な役割を果たすと考えられ
異性愛的感情をはっきり自覚するようになると,それま
る。しかし,父子関係のあり方には,子どもが息子か娘
でのような父への甘えを交えた愛情は危険な感情として
であるかによって差異が見られ(落合,2000),父親の
排除され,反動形成的に,今までとは反対の強い嫌悪感
影響は男女で異なるものと考えられる。特に娘において
が抱かれる」と説明しており,このような「反動形成的」
は,「最初の最も身近な異性である父親のイメージや父
な面に注目すれば,好きだけど嫌いのようなアンビバレ
親との関係のあり方を原型にして,男友達や恋人,結婚
ントな嫌悪感もあり得ると考えられる。そのため,今回,
相手を選び関わっていく」(浴野,1998)など,異性関
娘の父親に対する嫌悪感について研究するにあたり,一
係や性行動,配偶者選択への影響を指摘するものが多く
般的な生理的感覚としての嫌悪感だけではなく,実際の
126
九州大学心理学研究 第14巻 2013
父親の態度や行動に対する批判的・拒否的な感情なども
比較することとした。なお,この否定的感情のあり方に
含め,娘が父親に対して「嫌だ」と否定的に捉えるよう
影響を与え得ると考えられるものとして,娘の現在の居
な際の感情を,包括的に考えていきたい。そこで,本研
住形態と,出生順位などの家族構成が挙げられる。大学
究においては,青年期の父娘関係を困難なものとさせる
生においては,実家を離れて一人暮らしをする者も多
ような,娘から父親への反抗,批判,嫌悪などに伴う感
く,生活の場が離れれば,父親との関係のあり方が異な
情を「娘の父親への否定的感情」として操作的に定義す
ることは容易に想像され,出生順位などによって性格や
る。
家族への態度に差が認められることは,依田ら(1981)
山崖(2009)は,
「親離れ」をするこの時期にあたって,
このような父親に対する娘の反発や拒否は,「父離れ」
など,以前より指摘されている。よって、居住形態およ
び家族構成との関連についても検討することとする。
にとって必然としているが,近年,この嫌悪感を含む,
思春期の親子の葛藤,つまり,第二反抗期が見られない,
Ⅱ 方 法
または,反抗期がなかったという子どもについての報告
もなされている(住田,1995;溝上,2011 など)。その
ため,「そもそも反抗期というものは存在するのだろう
1.予備調査
父娘関係についての先行研究(菅生,2001;春日,
か」(佐々木,2011)という問いや議論が展開すること
2005;戸田,1990;小野寺,1984)から,「娘の父親へ
も少なくないようである。しかし,反抗期などについて,
の否定的感情」に関連すると思われる項目を収集し,加
「その有無だけに注目し,良し悪しについて論じる」(平
えて,女子大学生 10 名(平均年齢 22 歳)に対して「ど
石,2011)のでは不十分であって,白井(1997)が,
「親
のようなときに父親を嫌だと感じるか」を尋ね,自由記
子のコンフリクトは必ずしも発達的に必然ではなく,そ
述により得た回答から項目を作成した。以上のものを,
れがないといけないということではないといえよう。親
臨床心理士 3 名のうち 2 名以上の同意によって内容的妥
子のコンフリクトがある場合には,そのあり方が問題で
当性を確認し,52 項目の質問項目を選定した。
あろうし,反対に,親子のコンフリクトがない場合にも,
青年の自立のあり方が問われなければならない」と述べ
2.本調査
ているように,まず,現在の青年が親に対して,どのよ
調査対象
うな葛藤をどのように持っているかを明らかにしていく
女子大学生・大学院生 208 名に質問紙を配布し,169
必要があると考えられる。また,上述のように,親子関
名から回答を得た(回収率 81.25%)。分析においては,
係における葛藤が,子どもの自立などに関係することを
以下に示す,調査内容の②と③において記入漏れのな
考慮すると,その葛藤や親に対する感情などの発達的な
い,149 名分のデータを使用した(有効回答率 88.17%)。
変化や,成長による違いについても検討する必要がある
平均年齢は 20.77 歳(SD=1.50)であった。
と考えられる。しかし,最近の父娘関係の研究において
調査期間 は,大学生などに現在の父親との関係を問うものが多く
(岩渓,1993;春日,2005 など),ある程度の期間の中
での変化や違いを見るものは少ない。
2009 年 10 月から同年 11 月に実施した。
調査方法
大学の授業において質問紙を一斉配布し,父娘関係に
以上より,本研究においては,「娘の父親への否定的
ついての調査であり,回答の協力は任意であること,回
感情」について,①思春期・青年期の娘が父親に対して
答を途中で止めてもかまわないこと,得られた回答は研
否定的な感情を抱くことには,どのようなものがあるか
究の目的以外には使用しないことなどの説明を行った。
を探ること,②この否定的感情は,娘の発達・成長に
その上で,協力が可能な女子学生のみに,その場,もし
よって,どのような変化が生じてくるかを検討すること
くは持ち帰った上で,記入をしてもらった。記入した用
を目的とする。
紙は,配布のその場,もしくは一週間後の同じ授業の場
ただし,「娘の父親への否定的感情」の,娘の発達・
において回収した。
成長による違いの検討は,神谷ら(1995)の,「父親を
調査内容
嫌った」「父親を避けた」などの「父親への反抗」は小
①フェイスシート
学生から大学生の間では,中学生がピークとなるという
年齢,家族構成(人数と「父・母・姉・自分」のよう
指摘などを参考にし,また,単に年齢差を見るのではな
な構成要員の記入),居住形態(家族と同居,もしくは,
く,各人の成長によっての違いを見ることが重要である
一人暮らし)についての記入を求めた。
と考え,女子大学生に対し,中学生の頃の父親への気持
②現在(大学生)における娘の父親への否定的感情項目
ちを思い出して答えてもらうもの,現在の父親への感情
について答えてもらうもの,2 種類の回答を得ることで
予備調査により作成した 52 項目を使用した。
「今現在,
あなたとお父さんとの間に,以下のようなことがあった
石丸:女子大学生の父親への否定的感情に関する研究
127
とき,あなたはそれを嫌だと感じますか?」と尋ね,父
感情を抱かない父親の態度や行動」と考えられ,娘から
親の行動や態度を述べた各項目に対し,嫌だと思う気持
肯定的に受け入れられる可能性もある内容と考えられ
ちの程度について「まったく嫌ではない(1 点)」~「と
る。結果において,天井効果を示す項目は 3 項目あり,
ても嫌だ(5 点)」の 5 件法で回答を求めた。
そのうち「25.お父さんがお母さんについて愚痴を言う」
③想起された中学時代の娘の父親への否定的感情項目
は,中学時代の回想のみに天井効果を示し,他の 2 項目
①と同じ 52 項目を使用した。「あなたとお父さんとの
は中学時代と現在ともに天井効果を示した。また,フロ
間に以下のようなことがあったとき,中学生のころのあ
ア効果を示した項目は 21 項目あり,「5.お酒を飲んで
なたなら,それを嫌だと感じると思いますか?」と質問
いるお父さんと話をする」「6.お父さんがあなたの女友
を変え,中学生の頃を思い出して答える形とし,①と同
達のことについて尋ねてくる」など 6 項目が現在のみに
様の 5 件法で回答を求めた。
フロア項目を示し,残り 15 項目は中学時代・現在とも
にフロア効果を示した(Table 1 参照)。このうち,中学
時代・大学生時ともに天井効果を示す項目については,
Ⅲ 結 果
「どの娘においても,特に時期に関わらず,父親に対し
1.父親への否定的感情が強い項目・弱い項目について
て否定的に思うような内容」であると考えられ,両時期
後の分析に先立ち,中学時代の回想と現在の,娘の父
ともにフロア効果となるものは,「どの娘も時期に関わ
親への否定的感情項目の中で,天井効果およびフロア効
らず父親に対して否定的に捉えにくい内容」と考えられ
果を示す項目について確認を行った。本研究において,
る。よって,両時期ともに天井またはフロア効果を示す
天井効果の項目は「ほとんどの娘に非常に強い否定的感
17 項目は,本研究における,各人の成長・発達によっ
情を抱かせる父親の態度や行動」を示すと考えられる。
てその感情の程度が変化すると考えられる「娘の父親へ
一方,フロア効果を示す項目は「ほとんどの娘が否定的
の否定的感情」としては適切でないと考え,後の分析で
Table 1
娘の父親への否定的感情項目のうち天井・フロア効果を示すもの
項目内容
天井効果を
示した項目
中学時代のみ
中学時代
現在ともに
現在のみ
フロア効果
を示した
項目
中学時代
現在ともに
中学時代
平均値
SD
現在(大学生)
平均値
SD
25.お父さんがお母さんについて愚痴を言う
3.76
1.33
3.66
1.28
10.お父さんが間違っているのに謝らない
4.30
.94
4.35
.75
30.お父さんが自身の間違いを正当化しようとする
4.24
.84
4.18
.85
5. お酒を飲んでいるお父さんと話をする
2.64
1.45
2.20
1.23
6. お父さんがあなたの女友達のことについて尋ねてくる
2.33
1.21
1.94
.99
12.熱があるとき,お父さんがあなたのおでこに手をあてる
2.39
1.36
1.99
1.15
15.お父さんがあなたの学校の行事にくる
2.56
1.41
2.03
1.10
17.お父さんがあなたが夜遅く帰ってきてもうるさく言わない
2.35
1.10
1.85
.93
19.あなたはお父さんと考えが似ているところがある
2.38
1.29
2.10
1.11
1.02
2. 洗濯後のお父さんの下着をたたむ
1.94
1.26
1.65
3. お父さんが自身の子どものころの話をする
1.61
.94
1.36
.72
11.お父さんが箸をつけたものを食べる
2.24
1.36
1.74
1.06
14.お父さんがだらしない格好でごろごろする
2.14
1.28
1.93
1.02
22.お父さんの肩をもむ
2.05
1.31
1.60
.89
23.お父さんと一緒にテレビを見ながら話をする
1.78
1.16
1.34
.70
32.お父さんが入ったお風呂のすぐ後に入る
2.38
1.50
2.09
1.24
33.居間にお父さんと二人きりでいる
2.10
1.31
1.69
1.01
34.お父さんが家でお酒を飲む
2.11
1.26
1.83
1.08
35.お父さんがお母さんとの思い出について話をする
1.67
1.03
1.49
.82
41.電車であなたのすぐ隣にお父さんが座る
2.26
1.38
1.72
.99
42.一日の出来事についてお父さんと話をする
1.99
1.21
1.57
.81
47.お父さんのぬくもりの残るところに座る
2.28
1.33
1.91
1.06
49.お父さんが仕事のことについて話をする
1.75
.90
1.44
.65
51.あなたの下着とお父さんの下着を一緒に洗う
1.97
1.26
1.64
1.03
128
九州大学心理学研究 第14巻 2013
は,この 17 項目を除外した上で分析を行った。
と,だめとは言わない」「8.お父さんがあなたのいいな
りになる」など,父親が娘の言う通りになっていたり,
2.t 検定による中学時代と現在での父親への否定的感
情の比較
女子大学生が中学生の頃を振り返った際に感じる父親
娘の都合の良いように動いていたりする様子が見受けら
れ,『娘に甘い父親』とした。
第 4 因子は,「39.お父さんが間違ったことをする」
への否定的感情が,現在の感情と比べると,その気持ち
「20.お父さんが失敗をする」の 2 項目で構成されてお
の程度に差があるのかを調べるため,中学時代・現在と
り,その項目内容から『失敗する父親』と命名した。
また,信頼性の検討のため,Cronbach の α 係数を算
もに天井・フロア効果を示した 17 項目を除く,35 項目
について,対応のある t 検定を行った。その結果,「5.
お酒を飲んでいるお父さんと話をする(t(148)=4.74,
p<.01)」など,現在のみにフロア効果を示した 6 項目を
出したところ,第 1 因子から順に,0.867,0.863,0.801,
0.698 となった。第 3 因子までは α=0.80 以上の高い内部
一貫性を示した。第 4 因子が α=0.698 とやや低い数値だ
含む 15 項目が中学時代で有意に高かった。また,「36.
が,2 項目のみの因子であることも関係していると考え
お父さんがあなたのすることに細かく口を出す(t
(148)
られ,このまま採択することとした(Table 3 参照)。
=2.58,p<.05)」など 5 項目も中学時代が有意に高かっ
続いて,大学生時の否定的感情について,第 1 因子に
た。現在の方が中学時代より数値の高い項目は,「38.
は,「21.お父さんが使った割り箸を使う」「12.熱があ
お父さんがあなたがよくないことをしても,見て見ぬふ
るとき,お父さんがあなたのおでこに手をあてる」など,
りをする(t(148)=3.31,p<.01)」「45.お父さんがあな
父親と間接的または直接的に接触する内容のものが多
たとあまり話をしない(t(148)=3.41,p<.01)」「7.お
く,『父親との接触』とした。
父さんはあなたのことにあまり関心がないようであ
第 2 因子は,「7.お父さんはあなたのことにあまり関
る(t(148)=2.35,p<.05)」「8.お父さんがあなたのい
心がないようである」など,娘との関わりが少ない父親
いなりになる(t(148)=2.43,p<.05)」の 4 項目であっ
の様子が示された項目が集まり,『娘に無関心な父親』
た(Table 2 参照)。
とした。
3.因子分析による中学時代と現在での父親への否定的
るところがある」など 3 項目で,いずれも自分と父親が
第 3 因子は,「29.あなたはお父さんと性格が似てい
感情の比較
さらに,娘の父親への否定的感情の各項目がどのよう
に関係し合うかを探るために,中学時代の回想と現在に
ついて,それぞれ因子分析を行った。いずれにおいても,
似ていることを述べるものであり,『父親との類似』と
した。
第 4 因子は,中学時代の第 3 因子と項目がほぼ同一の
ため,『娘に甘い父親』とした。
中学時代・現在ともに天井・フロア効果を示した 17 項
第 5 因子は,「44.お父さんがあなたの恋人のことに
目を削除した後,因子分析(主因子法・プロマックス回
ついて尋ねてくる」「26.お父さんがあなたの男友達の
転)を行った。固有値の減衰状況や,説明率が 50% 以
ことについて尋ねてくる」「48.お父さんが好みの女性
上であることを考慮し,中学時代では 4 因子,大学生で
のタイプについて話をする」の 3 項目であった。娘の異
は 6 因子を採択した。ともに,因子負荷が 1 つの因子に
性との付き合いについて尋ねることと,父親が自身の女
ついて 0.40 以上で,かつ 2 因子にまたがって 0.40 以上
性の好みについて語ることの共通点は,女性としてどう
の負荷を示さない項目を選出した結果,中学時代では
あるかということへの言及であると解釈し,『女性性に
22 項目,現在については 21 項目となった。
干渉する父親』とした。
まず,中学時代について,第 1 因子は,「26.お父さ
第 6 因子は,「50.お父さんがあなたの行動を把握し
んがあなたの男友達のことについて尋ねてくる」などに
ておこうとする」「36.お父さんがあなたのすることに
負荷が高く,「注文をつける」「行動を把握」「細かく口
細かく口を出す」など,父親が娘のすることを細かに
を出す」など,父親の態度や行動が干渉的に捉えられた
知っておこうとしたり,制限したりするものと思われ,
ために,否定的に感じられるのではないかと考えられ
『支配的な父親』と命名した。
また,Cronbach の α 係数は,第 1 因子から順に,0.826,
た。よって,『父親からの干渉』と命名した。
第 2 因子は,「29.あなたはお父さんと性格が似てい
0.873,0.837,0.781,0.766,0.549 であった。第 5 因子
るところがある」など,父親との類似点について述べる
までは 0.70 以上の内部一貫性が見られたが,第 6 因子
3 項目と,
「1.お父さんの飲みかけの缶ジュースを飲む」
は 0.549 と低い数値であった。しかし,今回は尺度作成
など,間接的に父親と接触する内容の 2 項目が含まれて
などではなく,共通因子を探ることが目的であること
おり,『父親との類似・接触』とした。
と,この第 6 因子の項目内容の組み合わせが,中学時代
第 3 因子は,「28.お父さんがあなたが物を欲しがる
の回想の場合では見られないものであるため,大学生の
石丸:女子大学生の父親への否定的感情に関する研究
129
時期での特徴として考察する必要があると考え,このま
準化し,ward 法を用いたクラスタ分析を行った。4~6
ま採択することとした(Table 4 参照)。
のクラスタ数を設定して分析を試み,各クラスタに含ま
れる対象者の数,各クラスタの解釈可能性などから,4
4.中学時代の娘の父親への否定的感情による類型
つのクラスタによる分類を採択した(Fig.1 参照)。また,
回想した記憶による回答ではあるが,中学時代の娘の
各因子得点について,4 つのクラスタを独立変数とする
父親への否定的感情のあり方の傾向を見るために,中学
1 要因の分散分析を行った。その結果,『父親からの干
時代の父親への否定的感情の各因子得点(平均値)を標
渉』(F(3,145)=45.75,p<.001),
『父親との類似・接触』
Table 2
t検定による娘の父親への否定的感情の中学時代と現在の比較
項目内容
中学時代
平均値
現在(大学生)
SD
平均値
SD
t値
4. お父さんがおなら・げっぷを遠慮なくする
3.28
1.41
2.99
1.40
3.69
5. お酒を飲んでいるお父さんと話をする
2.64
1.45
2.20
1.23
4.74
6. お父さんがあなたの女友達のことについて尋ねてくる
2.33
1.21
1.94
.99
4.18
9. あなたはお父さんと顔つきなどの容姿が似ているところがある
2.64
1.34
2.16
1.03
6.00
12.熱があるとき,お父さんがあなたのおでこに手をあてる
2.39
1.36
1.99
1.15
4.67
13.お父さんがあなたに「女らしくなったね」と言う
3.15
1.30
2.59
1.26
6.69
15.お父さんがあなたの学校の行事にくる
2.56
1.41
2.03
1.10
5.61
17.お父さんがあなたが夜遅く帰ってきてもうるさく言わない
2.35
1.10
1.85
.93
6.20
19.あなたはお父さんと考えが似ているところがある
2.38
1.29
2.10
1.11
3.39
20.お父さんが失敗をする
2.98
1.27
2.28
1.05
8.26
21.お父さんが使った割り箸を使う
2.68
1.53
2.40
1.35
3.47
26.お父さんがあなたの男友達のことについて尋ねてくる
3.19
1.22
2.70
1.16
5.39
31.あなたが新聞(雑誌,本)を読んでいる時,お父さんがのぞきこむ
3.23
1.45
2.82
1.31
4.37
43.お父さんが職場の出来事について愚痴を言う
2.64
1.26
2.38
1.07
3.07
44.お父さんがあなたの恋人のことについて尋ねてくる
3.41
1.26
2.80
1.24
7.32
29.あなたはお父さんと性格が似ているところがある
2.46
1.30
2.24
1.17
2.58
36.お父さんがあなたのすることに細かく口を出す
4.05
.90
3.85
.93
2.58
37.お父さんがあなたの考えや意見を軽く聞き流す
3.72
.99
3.55
1.04
2.50
46.お父さんが自身の失敗をなかったことにしようとする
4.13
.86
4.01
.87
2.19
48.お父さんが好みの女性のタイプについて話をする
3.11
1.33
2.88
1.24
2.57
38.お父さんがあなたがよくないことをしても,見て見ぬふりをする
3.45
1.08
3.62
1.06
-3.31
45.お父さんがあなたとあまり話をしない
3.08
1.38
3.40
1.26
-3.41
7. お父さんはあなたのことにあまり関心がないようである
3.12
1.22
3.33
1.19
-2.35
8. お父さんがあなたのいいなりになる
2.97
1.21
3.17
1.18
-2.43
1.44
1. お父さんの飲みかけの缶ジュースを飲む
2.57
1.54
2.47
1.39
16.お父さんがあなたの考えや意見を聞き入れてくれない
4.23
.74
4.15
.79
1.25
18.お父さんがあなたの顔色をうかがっているようなところがある
3.37
1.18
3.44
1.09
-.91
24.お父さんが酔っ払って帰ってくる
2.87
1.46
2.72
1.33
1.61
25.お父さんがお母さんについて愚痴を言う
3.76
1.33
3.66
1.28
1.28
27.お父さんはあなたが何をして何を考えているかにはあまり興味がない
3.09
1.16
3.13
1.21
-.49
28.お父さんがあなたが物を欲しがると,だめとは言わない
2.32
1.06
2.34
1.04
-.39
39.お父さんが間違ったことをする
3.78
1.11
3.80
1.08
-.27
40.あなたの布団(ベッド)でお父さんが昼寝をする
3.13
1.55
3.05
1.48
1.01
50.お父さんがあなたの行動を把握しておこうとする
3.58
1.24
3.42
1.12
1.79
52.お父さんがあなたの化粧,服装について注文をつける
3.32
1.25
3.26
1.19
.67
有意差
中学>現在 **
中学>現在 *
中学<現在 **
中学<現在 *
n.s.
* p<.05 ** p<.01
*網掛け部分は、現在のみフロア効果を示したもの *斜体部分は、中学のみ天井効果を示したもの 九州大学心理学研究 第14巻 2013
130
(F(3,145)=37.86,p<.001),
『娘に甘い父親』(F(3,145)
り低く,その他の 3 因子は平均より高い。特に『失敗す
=67.25,p<.001),『失敗する父親』(F(3,145)=15.19,
p<.001)のいずれの因子においても,群の違いによる
る父親』の得点は,他の 3 群より有意に高かった。父親
有意差が見られた(Table 5 参照)。各群の特徴は以下の
たり,叱ったりしないことを厭わない様子から,娘の方
とおりである。
が父親より優位に立つような関係性が窺われ,「弱い父
第 1 クラスタ(67 名):最も人数の多いクラスタであ
の失敗などを強く否定し,父親が自分のいいなりになっ
親群」とした。
第 4 クラスタ(37 名):『娘に甘い父親』が平均より
る。各因子得点はいずれも 3 点台で中央値付近であり,
父親への否定的感情について,強いわけでも存在しない
高く,他の 3 因子の得点は平均より低い。また,『娘に
わけでもなく,「どちらともいえない」と感じている者
甘い父親』の得点は他の 3 群より有意に高く,必要なと
が多いと推察され,「否定的感情中群」とした。
きは父親に叱って欲しい,甘やかさないで欲しいという
第 2 クラスタ(24 名):4 因子すべての得点が平均よ
気持ちが窺われ「強い父親希求群」とした 。
り低く,「否定的感情低群」とした。
第 3 クラスタ(21 名):『娘に甘い父親』のみ平均よ
Table 3
想起された中学時代の娘の父親への否定的感情項目の因子分析結果
因子
1
2
3
4
因子 1:父親からの干渉(α=.867)
26.お父さんがあなたの男友達のことについて尋ねてくる
.918
-.230
.006
-.039
44.お父さんがあなたの恋人のことについて尋ねてくる
.883
-.246
-.098
-.112
52.お父さんがあなたの化粧,服装について注文をつける
.670
.060
.022
.041
6. お父さんがあなたの女友達のことについて尋ねてくる
.616
.150
.038
-.097
13.お父さんがあなたに「女らしくなったね」と言う
.526
.130
-.002
.055
50.お父さんがあなたの行動を把握しておこうとする
.525
.122
.103
.088
31.あなたが新聞(雑誌,本)を読んでいる時,お父さんがのぞきこむ
.478
.313
.025
-.066
43.お父さんが職場の出来事について愚痴を言う
.474
.026
.119
.193
36.お父さんがあなたのすることに細かく口を出す
.448
.072
.016
-.063
48.お父さんが好みの女性のタイプについて話をする
.447
.034
-.033
.256
29.あなたはお父さんと性格が似ているところがある
-.048
.893
.007
.018
19.あなたはお父さんと考えが似ているところがある
-.035
.890
-.042
-.011
9. あなたはお父さんと顔つきなどの容姿が似ているところがある
因子 2:父親との類似・接触(α=.863)
-.097
.819
.035
.036
1. お父さんの飲みかけの缶ジュースを飲む
.195
.487
-.036
.008
40.あなたの布団(ベッド)でお父さんが昼寝をする
.391
.457
-.126
.008
因子 3:娘に甘い父親(α=.801)
.059
.100
.778
-.146
8. お父さんがあなたのいいなりになる
-.023
-.069
.729
.179
38.お父さんがあなたがよくないことをしても,見て見ぬふりをする
-.032
-.077
.670
.104
17.お父さんがあなたが夜遅く帰ってきてもうるさく言わない
-.040
.106
.613
-.237
.100
-.104
.580
.035
-.060
-.004
.016
.787
.058
.063
-.030
.626
28.お父さんがあなたが物を欲しがると,だめとは言わない
18.お父さんがあなたの顔色をうかがっているようなところがある
因子 4:失敗する父親(α=.698)
39.お父さんが間違ったことをする
20.お父さんが失敗をする
因子相関行列
因子
1
1
―
2
3
4
2
.484
―
3
.018
-.108
―
4
.409
.323
-.066
―
石丸:女子大学生の父親への否定的感情に関する研究
131
Table 4
現在(大学生)における娘の父親への否定的感情項目の因子分析結果
因子
1
2
3
4
5
6
因子 1:父親との接触(α=.826)
21.お父さんが使った割り箸を使う
.984
.037
-.072
-.022
-.078
-.073
1. お父さんの飲みかけの缶ジュースを飲む
.859
.017
.004
-.088
-.057
-.068
40.あなたの布団(ベッド)でお父さんが昼寝をする
.648
-.016
.013
.051
.048
.078
12.熱があるとき,お父さんがあなたのおでこに手をあてる
.427
-.201
.324
.142
.071
-.055
4. お父さんがおなら・げっぷを遠慮なくする
.423
.115
.129
.073
.073
.058
因子 2:娘に無関心な父親(α=.873)
7. お父さんはあなたのことにあまり関心がないようである
.048
.965
.060
-.076
.081
-.083
27.お父さんはあなたが何をして何を考えているかにはあまり興味がない
.081
.851
.031
.114
.065
-.002
-.099
.707
-.074
.059
-.040
-.002
45.お父さんがあなたとあまり話をしない
因子 3:父親との類似(α=.837)
29.あなたはお父さんと性格が似ているところがある
.014
.064
.969
.003
-.105
.083
19.あなたはお父さんと考えが似ているところがある
-.058
-.098
.847
.007
.015
.018
.095
.102
.589
-.122
.065
.005
9. あなたはお父さんと顔つきなどの容姿が似ているところがある
因子 4:娘に甘い父親(α=.781)
8. お父さんがあなたのいいなりになる
.019
-.117
-.147
.776
-.026
-.010
-.004
.030
.006
.714
-.046
.100
.087
.197
-.109
.609
-.081
.095
-.087
.052
.183
.607
.139
-.107
-.066
-.054
-.032
.060
1.010
-.092
.028
.097
-.016
.015
.815
.018
-.005
.135
.023
-.160
.420
.215
50.お父さんがあなたの行動を把握しておこうとする
.190
-.108
-.090
-.037
.185
.553
36.お父さんがあなたのすることに細かく口を出す
.035
-.152
.006
.002
.118
.497
46.お父さんが自身の失敗をなかったことにしようとする
-.152
-.025
.185
.104
-.086
.490
16.お父さんがあなたの考えや意見を聞き入れてくれない
-.057
.317
-.016
-.023
-.089
.424
18.お父さんがあなたの顔色をうかがっているようなところがある
38.お父さんがあなたがよくないことをしても,見て見ぬふりをする
28.お父さんがあなたが物を欲しがると,だめとは言わない
因子 5:女性性に干渉する父親(α=.766)
44.お父さんがあなたの恋人のことについて尋ねてくる
26.お父さんがあなたの男友達のことについて尋ねてくる
48.お父さんが好みの女性のタイプについて話をする
因子 6:支配的な父親(α=.549)
因子相関行列
因子
1
2
1
―
-.370
2
3
―
3
4
.478
.280
-.339
.380
-.210
-.091
―
.008
.362
.227
-.018
.160
―
.277
―
5
6
―
1.50
1.00
.50
父親からの干渉
父親との類似・接触
-.50
娘に甘い父親
-1.00
失敗する父親
-1.50
否定的感情
中群
N=67
否定的感情
低群
N=24
弱い父親群
N=21
6
-.070
4
.00
5
.456
強い父親
希求群
N=37
Fig.1 想起された中学時代の娘の父親への否定的感情のクラスタごとの特徴
九州大学心理学研究 第14巻 2013
132
Table 5
想起された中学時代の娘の父親への否定的感情の分散分析結果
N
クラスタ 1:
否定的感情中群
クラスタ 2:
否定的感情低群
クラスタ 3:
弱い父親群
クラスタ 4:
強い父親希求群
全体
父親との類似・接触
SD
平均値
娘に甘い父親
SD
平均値
失敗する父親
SD
平均値
67
3.70
.56
3.19
.95
3.12
.52
3.43
.83
24
2.44
.47
1.94
.64
2.07
.57
2.58
.87
21
3.65
.76
3.43
1.12
1.86
.42
4.40
.46
37
2.54
.68
1.62
.57
3.61
.64
3.22
1.23
149
多重比較
(Tukey 法)
父親からの干渉
SD
平均値
3.20
クラスタ
.84
1 & 3 > 2 & 4***
2.63
クラスタ
1.13
1 & 3 > 2 & 4***
5.大学生時における娘の父親への否定的感情の各クラ
スタにおける比較
中学時代の父親への否定的感情のあり方によって,大
2.89
クラスタ
.84
4 > 1 > 2 & 3***
3.38
クラスタ
1.04
3 > 1 & 4 > 2*
* p<.05 ** p<.01 *** p<.001
(Table 7 参照)。その結果,5% 水準で有意な差が見られ
る因子はなかったが,大学生時の否定的感情の『父親と
の接触』について,家族と同居している娘の方が一人暮
学生時の父親への否定的感情の程度やあり方に違いがあ
ら し の 娘 よ り も や や 高 い 傾 向 が 見 ら れ た(F
(1,147)
るのかを検討するために,先のクラスタ分析で得た 4 ク
=3.42,p=.07)。
ラスタを独立変数,大学生時の父親への否定的感情の各
6 因子の得点を従属変数とする 1 要因の分散分析を行っ
た。その結果,いずれの因子においても,群の違いによ
る有意差が見られた(Fig.2,Table 6 参照)。各因子にお
ける多重比較の結果は以下のとおりである。
第 1 因子『父親との接触』
(F(3,145)=18.45,p<.001),
7.娘の父親への否定的感情のきょうだい構成の違いお
ける比較
さらに,出生順位やきょうだいの人数などの,きょう
だいの構成の違いが,父親への否定的感情のあり方に関
連するかを検討した。ただし,分析対象の人数の都合上,
第 5 因子『女性性に干渉する父親』(F(3,145)=9.00,p
細かく群分けをして比較することが困難であったため,
<.001),第 6 因子『支配的な父親』(F(3,145)=11.77,
p<.001)の 3 因子はいずれも,
「否定的感情中群」と「弱
出生順位(一人っ子,長女,次女,三女),きょうだい
い父親群」が,「否定的感情低群」と「強い父親希求群」
うだいの性別(一人っ子,男きょうだいのみ,女きょう
より有意に高かった。
だいのみ,男女両方)を独立変数とし,中学時代と大学
の人数(一人っ子,二人きょうだい,三人以上),きょ
第 2 因 子『 娘 に 無 関 心 な 父 親 』(F(3,145)=5.89,p
時代の娘の父親への否定的感情の各因子得点を従属変数
<.01)では,「強い父親希求群」が他の 3 群より有意に
とする 1 要因分散分析を,それぞれの独立変数ごとに
高かった。他の 3 群の間には有意な差はなかった。
行った(Table 8 参照)。
第 3 因子『父親との類似』(F(3,145)=5.08,p<.01)
は,
「否定的感情中群」が「強い父親希求群」より有意
に高かった。
その結果,出生順位においては,『娘に無関心な父親』
が, 長 女 と 次 女 に 比 べ て 三 女 の 方 が 有 意 に 高 く(F
(3,144)=3.00,p<.05),『支配的な父親』は,一人っ子
は,
「強い父親希求群」>「否定的感情中群」>「否定
よ り 次 女 が 有 意 に 高 く な っ て い た(F(3,144)=3.54,
p<.05)。きょうだいの人数においては,中学時代の『父
的感情低群」
「弱い父親群」という順で有意差があった 。
親からの干渉』が,三人以上のきょうだいの娘が一人っ
第 4 因子『娘に甘い父親』
(F
(3,145)
=37.33,p<.001)
子より有意に高かった(F(2,145)=3.16,p<.05)。最後
6.娘の父親への否定的感情の居住形態の違いにおける比較
家族と同居しているか,一人暮らしをしているかとい
う娘の居住形態の違いによって,父親への否定的感情の
あり方に差があるかを検討するために,居住形態を独立
変数,中学時代と大学生時の娘の父親への否定的感情の
各因子得点を従属変数とする 1 要因分散分析を行った
に,きょうだいの性別では,中学時代の『娘に甘い父親』
について,男女両方のきょうだいを持つ娘の方が男きょ
うだいのみの娘より有意に高かった(F(3,144)=3.78,
p<.01)。
石丸:女子大学生の父親への否定的感情に関する研究
133
5.00
4.00
父親との接触
3.00
娘に無関心な父親
父親との類似
2.00
娘に甘い父親
1.00
女性性に干渉する父親
支配的な父親
0.00
否定的感情
中群
N=67
否定的感情
低群
N=24
弱い父親群
N=21
強い父親
希求群
N=37
Fig.2 クラスタごとによる現在(大学生)における娘の父親への否定的感情の因子得点
Table 6
現在(大学生)における娘の父親への否定的感情の分散分析結果
N
父親との接触
SD
平均値
娘に無関心な父親 父親との類似
SD
SD
平均値
平均値
娘に甘い父親
SD
平均値
女性性に干渉する父親 支配的な父親
SD
SD
平均値
平均値
クラスタ 1:
否定的感情中群
67
3.07
.90
3.16
1.06
2.40
.94
3.34
.59
3.11
.96
4.03
.47
クラスタ 2:
否定的感情低群
24
2.11
.76
2.92
1.19
1.85
.85
2.35
.71
2.35
.75
3.35
.53
クラスタ 3:
弱い父親群
21
2.90
1.21
3.05
1.20
2.44
1.14
2.32
.60
3.14
1.08
4.15
.73
クラスタ 4:
強い父親希求群
37
1.82
.77
3.89
.77
1.79
.79
3.78
.71
2.30
.90
3.70
.59
全体
149
多重比較
(Tukey 法)
2.58
1.04
クラスタ
3.29
1.09
クラスタ
2.17
.96
クラスタ
3.14
.85
クラスタ
2.79
1.00
クラスタ
1 & 3 > 2 & 4*
4 > 1 & 2 & 3*
1 > 4**
4 > 1 > 2 & 3** 1 & 3 > 2 & 4* 1 & 3 > 2 & 4*
* p<.05 ** p<.01 *** p<.001
3.86
.61
クラスタ
Table 7
父親への否定的感情の居住形態による違い
父親からの干渉
父親との類似・接触
中学時代
娘に甘い父親
失敗する父親
父親との接触
娘に無関心な父親
父親との類似
現在
(大学生) 娘に甘い父親
女性性に干渉する父親
支配的な父親
家族と同居(N=56)
SD
平均値
3.19
.87
2.63
1.10
2.75
.85
3.27
1.21
2.78
.97
3.28
1.00
2.15
.91
3.04
.88
2.86
1.02
3.89
.62
Ⅳ 考 察
一人暮らし(N=93)
SD
平均値
3.21
.83
2.64
1.16
2.98
.83
3.45
.93
2.46
1.07
3.29
1.15
2.18
.99
3.21
.83
2.75
.99
3.83
.60
有意差
(一元配置分散分析)
n.s.
(同居>一人†)
n.s.
(†有意傾向)
ロア項目の結果から述べると,「25.お父さんがお母さ
1.想起された中学時代の娘の父親への否定的感情について
んについて愚痴を言う」は,中学時代のみで天井効果を
示した。現在における回答との t 検定の際に有意差は見
上述の結果より,まず,中学時代の父親への否定的感
られず,大学生時も同様に嫌だと感じることであると思
情のあり方・特徴について考察していきたい。天井・フ
われるが,中学時代を回想した際に,この項目について
九州大学心理学研究 第14巻 2013
134
Table 8
父親への否定的感情のきょうだいの構成による違い
一人っ子
長女
出生 次女
順位
三女
(N=21)
(N=71)
(N=44)
干渉
2.88
.86
3.23
.80
3.24
.85
3.47
.99
3.15
.84
3.40
.81
3.23
.86
3.30
.81
3.23
.86
(N=12)
二人きょうだい
(N=75)
人数
三人以上
(N=52)
男きょうだいのみ
(N=53)
女きょうだいのみ
性別
(N=52)
男女両方
(N=22)
(不明 1 名)
三人以上>
多重比較
(Tukey 法による多重比較) 一人っ子 *
* p<.05 ** p<.01
中学時代
類似・接触 甘い
2.70
2.74
.78
1.04
2.50
2.85
.85
1.07
2.76
2.86
.81
1.23
2.90
3.33
.85
1.34
2.46
2.87
.79
1.13
2.87
2.95
.92
1.16
2.80
2.69
.80
1.26
2.53
2.92
.79
1.07
2.44
3.36
.90
1.08
失敗
3.24
.78
3.42
1.07
3.56
1.07
2.71
.99
3.35
1.06
3.47
1.13
3.43
1.10
3.48
.93
3.11
1.35
男女両方>
男のみ **
接触
2.56
1.05
2.56
1.01
2.57
1.09
2.70
1.24
2.55
1.08
2.62
1.01
2.74
1.09
2.53
1.06
2.31
.89
無関心
3.35
1.20
3.18
1.07
3.17
1.05
4.14
.78
3.19
1.08
3.38
1.06
3.19
1.17
3.32
.93
3.30
1.17
三女>長女
&次女 *
現在(大学生)
類似
甘い
2.30
2.87
.84
1.04
2.09
3.11
.88
.90
2.17
3.18
.72
1.03
2.28
3.56
.73
1.05
2.04
3.13
.90
.79
2.28
3.25
.89
1.00
2.09
2.97
.91
.77
2.20
3.25
.78
1.02
2.09
3.50
.90
.98
女性性
2.40
.95
2.98
1.01
2.80
.98
2.39
.96
2.88
1.08
2.83
.89
2.89
1.07
2.89
.99
2.73
.89
支配的
3.57
.58
3.89
.59
4.00
.61
3.56
.59
3.87
.56
3.93
.67
3.91
.60
3.91
.61
3.84
.62
次女>
一人っ子 *
太字は平均値。下段は標準偏差(SD)。
嫌だと感じる者が多いということから,思春期の父娘関
は思春期の発達プロセスの一つとして、
「幻滅の段階」
係において,母親への父親の態度や,夫婦関係のあり方
を提唱しているが、そこで指摘されている「父親と娘が,
の影響は大きいものと思われる。高橋(1998)は,中学
お互いに完全でないどころか,それぞれ別々の,しばし
生を対象とした調査で,父親への子どもの親和性は夫婦
ば相反する意志を持つという事実に気づき,一方あるい
関係の良さから説明される割合が高いことを示してお
は両方が,相手に対して失望したり,怒りを感じたりす
り,このような「愚痴」など夫婦関係が悪いと感じられ
る段階」という記述とも一致していると言える。
る事柄を通して,父親への否定的感情が強まることもあ
ると考えられる。また,娘は母親との結びつきが強くな
2.大学生時における娘の父親への否定的感情について
りがち(浴野,1998)であるので,父親が母親を悪く言
大学生時における否定的感情については,t 検定の結
うと,娘は母親の味方になり,父親に否定的になるとい
果を見ると,現在の方が数値の低い項目がほとんどであ
う構図が作られやすいとも考えられる。
り,神谷ら(1995)が反抗は中学生がピークとしている
また,従来の文献や研究では,思春期の父娘関係につ
ように,やはり,中学時代よりは大学生になってからの
いて,生理的な嫌悪感が生じることを指摘するものも
方が,父親への否定的感情は弱まるようである。大学生
あったが,それに該当するような「32.お父さんが入っ
時のみフロア効果となった項目を見ると,「5.お酒を飲
たお風呂のすぐ後に入る」「51.あなたの下着とお父さ
んでいるお父さんと話をする」「6.お父さんがあなたの
んの下着を一緒に洗う」など,父親と物を共有したり触
女友達のことについて尋ねてくる」などがあり,父親と
れたりというような内容は,中学時代・大学生時ともに
の普通のコミュニケーションについては,成長ととも
フロア効果を示し,生理的な嫌悪感というものは予想よ
に,避けるようなことは少なくなるのではないかと考え
り少ないのではないかと推察される。
られる。さらに,因子分析においては,『娘に無関心な
また,因子分析において 4 因子が得られ,そのうち『父
父親』への否定的感情の因子が大学生時のみ抽出され,
親からの干渉』
『失敗する父親』の 2 因子の平均値が 3
むしろ,父親には自分に無関心ではあって欲しくない
以上となり,中学時代には特に,父親から干渉されるこ
と,娘の方から父親とのコミュニケーションを求める動
とへの抵抗や,完璧ではない父親に耐えられなかったり,
きがあることも考えられる。加えて,大学生時の否定的
父親への理想化をやめなければならないという葛藤の状
態が強いものと考えられる。Goulter et al(1993/1997)
感情の 6 因子の中では,『娘に無関心な父親』『娘に甘い
父親』『支配的な父親』の得点が 3 を超えており,大学
石丸:女子大学生の父親への否定的感情に関する研究
135
生時では,干渉されることなどより,父親に関心を持っ
クラスタ 4「強い父親希求群」は,中学生時には『娘
てもらえないこと,甘い・弱い態度で接されること,自
に甘い父親』の得点が高く,父親に自分をきちんと叱っ
らの行動などに一方的に口出しをされることなどに否定
て欲しい,甘やかされたくないなどの気持ちが強い群で
的になるものと考えられる。
あるが,大学生になると,
『娘に無関心な父親』と『支配
また,中学時代の回想に比べ,大学生時の方が因子数
的な父親』の得点の高さも目立つようになり,弱い・甘
も多く,項目内容もより似たもの同士で集まり,何を嫌
いような父親も嫌だけれど,あまり一方的に関わられる
と感じているかが細分化された印象があった。例えば,
のも嫌だし,無関心なのも嫌と,父親とのほどよい距離
中学時代の『父親からの干渉』に含まれていた項目は,
感を取るのにやや苦労する群ではないかと考えられる。
大学生時では『女性性に干渉する父親』と『支配的な父
このように,各群の特徴を考えたが,「強い父親希求
親』の 2 因子に分かれた。それまでは,何かといろいろ
群」が,中学時代にも現在にも『娘に甘い父親』の得点
関わられることがうっとうしいような,漠然とした気持
の高さが特徴であることや,「否定的感情低群」が大学
ちであったものが,娘が成長し,女性としての意識が発
生時もやはり,他より得点が低い因子が多かったことな
達する中で,恋人のことなど,ここからは父親(異性)
ど,中学と現在で時期が違っていても,同じような得点
には話しにくい・話したくないというものが明確になる
の取り方をする部分が多い。先に述べたように,全体と
中で『女性性に干渉する父親』に否定的になったり,心
して見ると,娘の父親への否定的感情は,娘の年齢に
理的に自立をしていく中で,これは自分で決めること・
伴って弱まる部分も多いが,各人が父親のことをどう捉
自分でしたいということがはっきりすると,自分のする
えているか,どのような部分を嫌だと感じているかとい
ことに「細かく口を出す」ような『支配的な父親』とい
うような,娘の父親に対しての認知の仕方や娘の中の父
うのは侵入的で脅かす者として否定的に感じられたりす
親イメージは,中学生頃にある程度できあがっており,
るものであると考えられる。
そのパターンのまま成長していく者が多いと考えられ
た。ただし,今回の調査では,その認知の方法や父親イ
3.中学時代の否定的感情のあり方による大学生時の 否定的感情への影響について
今回,中学時代の回想による父親への否定的感情の得
メージが出来上がるまでにどのようなことが関係してい
るかがわからないため,今後検討していく必要があると
思われる。
点をもとに,4 群に分け,その後の大学生での父親への
否定的感情の違いについて検討した。
4.違いの背景要因について
各群の特徴をさらに詳細に検討していくと,まず,ク
今回,各人の父親への否定的感情に差が出たり,その
ラスタ 1「否定的感情中群」は,中学生時には父親から
気持ちの程度が変わったりする要因として,居住形態と
干渉されることや接触されること、甘やかされることな
きょうだいの構成について取り上げた。しかし,大学生
ど、いずれの面においても、
「どちらともいえない」程度
時に一人暮らしをしているのか,それとも家族と同居な
の否定的感情をやや持つ群である。大学生時になっても,
のかという違いでは,大学生時の『父親との接触』にの
各因子は比較的中程度の値を示す。この群の人数がいち
み,同居の方がやや高くなる傾向が見られたものの,否
ばん多いことから,思春期以降の発達の過程において,
定的感情のいずれの因子にも統計的に有意となる差は見
父親への否定的感情は全くないというよりも,何かの点
られなかった。きょうだい構成の違いでは有意差がいく
で多少は感じたことのある娘の方が多いものと思われる。
つか見られたことも考慮すると,娘の父親への否定的感
クラスタ 2「否定的感情低群」は中学生時に,他群の
情のあり方に対しては,大学生頃になって,具体的に父
娘と比べ,父親への否定的感情が全体的に低い群である
親とどう接しているかということよりも,きょうだいな
が,その特徴は大学生時においても同様であった。その
どの,幼少期からある家庭環境の方がより強く影響を与
ことは,父親に対して寛容とも受けて取れるが,
『娘に無
えるものと考えられる。
関心な父親』のことがそれほど気にならないという点で,
また,きょうだい構成による違いについては,三女の
娘の方も父親にあまり関心を持っていないか,父娘間の
方が長女などより『娘に無関心な父親』の得点が高いこ
関わりが薄い可能性も考えられる群である。
とからは,やはりきょうだいが多いほど,構ってもらえ
クラスタ 3「弱い父親群」は,父親が自分に甘いこと
ていない気持ちになりやすいということが推察される。
が気にならなかったり,父親の失敗を強く否定したりす
『支配的な父親』について,一人っ子より次女の方が高
るような,娘が父親よりも優位に立つような関係性が窺
くなることから,一人っ子の方が親にいろいろと手をか
われる群である。大学生になっても,
『支配的な父親』を
けてもらうことには慣れていて,特に嫌だと感じにくい
嫌がる気持ちが強いなど,やはり父親が強い立場となる
ことが考えられる。また,『娘に甘い父親』について,
ことは否定されやすい群であると考えられた。 男のみのきょうだいの娘よりも,男女両方のきょうだい
九州大学心理学研究 第14巻 2013
136
のいる子の方が気にするという結果から,女の子一人の
方が,他児との性別の違いによって,甘やかされること
視点から―. ナカニシヤ出版. pp.59-76.
Goulter B, Minninger J(1993). The Father Daughter Dance.
に違和感を持ちにくいことなどが考えられる。このよう
New York: GP Putman’s Sons. 連希代子(訳)
(1997).
に家庭環境の違いが,父親の娘への態度の違いを生んで
父と娘 心のダンス―葛藤を乗り越えるために. 誠信
おり,そこから娘の父親への否定的感情の違いも生じる
書房.
早川すみ江(2002). スクールカウンセラーとして関わっ
た不登校生徒との心理療法過程. 心理臨床学研究, 20
ものと考えられる。
今回,「娘の父親への否定的感情」について調査する
(5), 453-464.
平石賢二(2011). 思春期の反抗がもつ意味―反抗する子
としない子―. 児童心理, 65(15), 81-86.
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自己像・父親像との関係から―. 追手門学院大学心
理学論集, 1, 11-18.
Ⅴ まとめ
できた。従来から思春期の父娘関係の特徴の一つとして
挙げられていた,父親を避けるような生理的な嫌悪感
は,それほど高くはないということが示され,以前から
述べられてきている父娘関係と,現在の大学生の娘の父
親との関係の実態が,時代的に異なってきている可能性
も考えられる。また,父親への否定的感情について,そ
の内容の把握と,どのような感じ方をしている人が多い
のかといった,ある程度のタイプ分けによる理解は試み
ることができた。しかし,このタイプの違いがどのよう
に生じるのかということの検討が不十分である。また,
このような否定的感情の違いによるタイプが,その後に
どのような関係性に発展するかについても明らかではな
く,今後,より詳細に検討していく必要があると考えら
れる。さらに,今回の調査によって,父娘関係のあり方
においては,母娘関係,夫婦関係,きょうだいとの関係
なども大きく関わるであろうと考えられたことから,単
純に父娘間の関わりのみを抜き出して調べていくもので
はなく,家族関係全体を捉えるような調査・研究も行っ
ていく必要があると思われる。
謝 辞
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