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Visual Demato:ogy Vol.13 No。 52014■ │.5″ ドレッシング材の種類 と使い方―プロフ ェッシ ョナルはこう選ぶ 欄 575,2014 J Visual Derlnato1 13:570‐ ドレッシング材 vsラ ップ療法 水原 卜 は │め 章浩 や性状をよく観察す る。次いで創周囲の皮膚を水道水 で 洗浄す る.創 が汚れている場合 は創 も一緒に洗 う.過 度 に 筆者 は褥着お よび創傷治療 において,2002(平 成 14) 年か ら一貫 して, ラップ療法 と市販の創傷被覆材を用 い た治療 を創の状況に応 じて使 いわけてきた.本稿 では褥 着 のラップ療法を中心 にその実際の方法について述べ に汚れている場合 は石鹸を使 い,残 った石鹸 は十分に洗 い流すようにする.余 分な水 をおむつで拭 き取 ったあと 創全体 に穴あきポリエチ レンを大 きめに貼付 し,全 体を , さらには一般の創傷,熱 傷等へ の応用例を示 し,ラ ップ 紙おむつで覆 う.穴 あきポリエチレンはおむつで固定さ れるので:基 本的にテープ固定 はしない の 療法施行上の注意点についても言及す る ③その後の観察 , . ト ラップ疲法の定義 創傷治癒 のためには,創 を適度な湿潤環境に保つこと が必須である.ラ ップ療法 とは,創 を湿潤に保つ 目的の . 当然なが ら創 は最低 1日 1回 観察 して洗浄処置 をす る.お むつ交換 の際,創 が汚れていたら穴あきポ リエチ レンを剥が し,創 も一緒に洗浄するとよい . ラッ7-利 点 ために,医 療機器ではない廉価な食品用ラジプや穴あき ト ポリエチ レンなどを創傷被覆材 として用いる治療法であ ラップ療法には以下のような長所がある Э ① 過剰 な滲出液は穴あきポリエチ レンの小孔か ら排除 Dを 嗜矢 とし,現 在 広 く行 われるようになつた。医療機器でない食品用ラッ プや穴あきポリエチレンを用 いる際は,創 傷治療を理解 る。2000年 の鳥谷部 と末丸 の報告 している責任 のある医師の もとで,患 者ない し家族への 十分な説明と同意を得てから行 うことが必要である . 1褥 . されるため,創 は過湿潤 にな りに くく,適 度な湿潤 環境 にコン トロール しやすい ② 創 を洗浄 し穴あきポリエチレンを被せるだけなので . , 処置が簡単 で短時間で終了す る.こ れによ り毎 日の 処置 におけるスタッフの負担が減る。 ③ 使用す る食品用 ラップや穴あきポリエチ レンには粘 癌ラップ療法の実際 ①準備するもの 着性 がな く表面平滑 であるので,ず れ力の予防がで 最低限必要なのは,水 道水 を汲むための紙 コップや洗 浄 ボ トル,吸水 目的のガーゼや紙おむつ,生 理用ナプキ きる . ン,そ して食品用 ラップと穴あきポリエチ レン (流 しの ④ 穴あきポリエチ レンは薄 くて厚 さがほとんどないの で,創 を圧迫 しない。 三角 コーナーなどに使 う水切 り袋)で ある ⑤ 穴あきポリエチ レンは さまざまなス テー ジの褥着 に . 創か らの滲出液が多い とスキ ン トラブルの原因になる おそれがあることか ら,現 在 では穴あきポリエチレンを 使 うことがで き, と くに治癒 までに時間がかかる広 範囲のⅢ度以上の深 い褥着 には最適である 用 いることが主流 となっている.余 分な滲出液 は小孔を ⑥ 廉価な材料であるため,1日 何度でも創 の洗浄処置を す ることができる.し たがって,お むつ交換 のたびに 介 して排除され,ス キ ン トラブル等の合併症を防止でき . るか らである 創 を洗浄 し,そ のついでに新たな穴あきポリエチ レン ②ラップ療法の手順 (図 1) 前回貼 られていた被覆材 (穴 あきポリエチ レン)を 剥 を被せることがで きる.頻 回に創洗浄をすることは壊 . が し,創 はもちろん,お むつ に付着 している滲出液の量 死組織 の除去,創 の清浄化 にきわめて有利に働 く . 5〃 ● ■ Visual Dermatology Vol.13 No.52014 │ 図 1 仙骨部褥積 に対するラ ップ療 法の手順 (a)お むつを開いたところ 創の状 態はもちろん,滲 出液の量や性状を よく観察する。滲出液は中等量ある が,周 囲の皮膚にスキ ン トラブルは ない (b)周 囲の皮膚も含めて創を水道水 で洗浄する 水道水を紙 コップに汲 んで用いている.必 要な ら石鹸を用 いてもよい (c)創 全体に穴あきポ リエチレンを 大きめに貼付する (d)そ の上を紙おむつで覆つて終了 . . . 図 2 壊死組織の少ない褥疲 (a)壊 死組織は除去され,肉 芽組織 の増生が良好な比較的面積の広い仙 骨部褥癒 .滲 出液はさほど多くない (b)創 洗浄を したのち,穴 あきポリ エチレンで被覆する . (c)全 体を紙おむつでくるむ (d)1日 1回 洗浄処置をして 3カ 月 後 :創 は著明に縮小している ト ずれ力を防止 したいとい う褥療 である . ラップ療法に適している創傷とは ? また,(図 3)の ような壊死組織が少々残存 しているよ ラップ療法の もつ利点が最大限発揮できるのは,(図 2)の ような壊死組織がほとんど除去され,滲 出液は中 等量で創面積が比較的広 く,肉 芽組織が増生していて , うなⅢ度褥着 も, ラップ療法が施行できる。適度な湿潤 によって壊死組織の自己融解が進み,創 の清浄化が図ら れると考えられる.滲 出液が多 いと思われたら,洗 浄処 Visual Dermatology Vol.13 No.52014■ ング材の種類と使い方― プロフェッシ ョナルはこう選ぶ 図 3 壊死組織の残つていいる褥療 (a)壊 死組織が少々残存 している仙 骨部褥癒 .滲 出液は中等量である (b)壊 死組織 に対 して フランセチ ン Tパ ウダー を塗布 し,全 体 を穴 あきポリエチ レンで覆 う 図 4 指の挫創に対するラップ療法 (の 機械に挟まれて受傷 水道水で 洗浄 し,上 血目的にソーブサンを使 用 し,被 覆には食品用ラップを用 い た 患者 には滲出液が溜ま つた ら お湯で流 して,食 品用ラ ップを被せ るように指示 した (b)翌 日 :自 宅では 2回 処置を した とのこと ラ ップは粘着性がないの で,創 に固着せず,処 置時の疼痛が 最小限ですむという大きな利点があ る (c)1週 間後 :指 の末端骨が露出 し ているが,の ちに切除 した,滲 出液 は減少 してお り,処 置は 1日 2∼ 3 回程度とのこと (d)2カ 月後 :治 癒 受傷後 1週 間 目からは,通 院は ¬∼ 2週 間に 1度 である , . . 置 を 1日 2回 以上行 うことを考慮す る ②表皮剥離創 (図 5) . Ⅱ∼ Ⅲ度の褥清 64例 をラップ療 法 ない しはガイ ドラ イ ンに よる標 準法 に振 り分 け,そ の 治療経過 を 3カ 月 間 観 察 し た 結 果 ,創 面 積 お よ び 創 面 積 縮 小 率 ラップ療法は表皮剥離創の処置に適している。ステリス TMテ ープを用いて トリップ 剥離 した皮膚をできるだけ元 コ アお よび PUSHス コ アにお い て両 者 の位置に固定し,全体を穴あきポリエチレンで覆って湿潤 状態を保つ.多 くの症例で皮膚は癒合 し,治 癒させること に差 はな く,ス キ ン トラブ ル な どの合 併症 に も差 はな ができる.こ のときに粘着性のあるポリウレタンフィルム か った.医 療 費 は 当然 なが らラ ップ療法が有意 に少 な かった ゛ を用いると,そ れを剥がす際に再び脆弱な皮膚を損傷す る DESIGN‐ Rス , . 卜 危険性があるため,使 用 しないほうがよい。 ③皮膚科病変 その他の適応 皮膚科領域では外用薬を塗 ったあ とに食品用 ラップで 指 の断端創 の処置 に対 して粘着性のない食品用ラップ 覆 うとい う ODT(occlus市 e dressing technique)療 法 が行 われる.ODTは 薬斉1の 皮膚へ の浸透性 を高めるこ は最適である.処 置 自体 もきわめて容易であるので,患 とが 目的であるが, ラップ療法は創 を乾かさずに適度な 者が自分で処置することがで き,通 院日数は激減する 湿潤 を保 つ とい う倉1傷 治癒理論 に基 づい てお り,少 々 ①挫創 (図 4) . 5%● ■ Visual Dermatology Vol.13 No.52014 │ 図 5 表皮剥離ellに 対するラ ップ療 法 (a)前 腕の表皮剥離創 (b)ス テ リス トリップテープで創を 合わせる (c)全 体を穴あきポリエチレンで覆う (d)1日 1回 洗浄処置を して 10日 後 皮膚 は比較的きれい に癒 合 してい る . 図 6 口唇潰瘍に対するラップ療法 (a)治 療前 (b)痢 皮ははさみで切除 し,出 血 に 対 してはアルギン酸塩の ソーブサン を置き,全 体を食品用ラ ップで被覆 した 目的は創を適度 な湿潤環境に 置くことである (c)2週 間後 :創 は完全に治癒 した . た食品用 ラツプか穴あ きポリエ チ レンで被覆す るだ けで ニュア ンスが異なる . 痴皮 を伴 う口唇の潰瘍 (図 6)と 帯状疱疹 (図 7)へ の 出されるので,創 が滲 ある。急性期 には滲出液が多 くツト ラップ療法 の応用例を示す 出液 で汚 れ るたびに 1日 何度 で も頻 回に洗浄処置 をす ④熱傷 (図 8) ることがポイ ン トである . 熱傷 のラップ療法 は,基 本的にはワセ リンを少 々塗っ 9.な ぜ な ら,創 か ら排 出され る過剰 な滲出液 を創 に放置す る こ とによって倉1感 染 を生 5% │・ ⅥSud Dermttdogy Vo!.13 No.52“ 4■ ドレッシング材 の種類 と使い方ニ プロフエッシ ョナルはこう選ぶ 糠 図 7 帯状疱疹に対するラップ療法 (a)胸 部に発症 し│た 帯状疱疹 (b)ア ラセナ A軟 膏を塗 つた食品用 ラップで被覆する (C)1日 1回 水道水 による洗浄およ びラップによる被覆を行 つて 」週間 後 :ラ ップには粘着性がないので 処置 時,剥 がす際の痛みが最小限で すむ (d)3週 間後 :痢 皮の形成もな く きれいに治癒 した , , じさせる危険性があるか らである の。 したがって,急 性 はな くて,余 分 な滲 出液 をい かに排 除 (ド レナ ー ジ)す 期に患者 自身による頻回の洗浄処置ができないと判断し るかが 問題 となる.な ぜ な ら合併症で述べ た ように:過 たときは,入 院させたほ うが よい 剰 な滲出液 に よってスキ ン トラブルや感染が生 じる危険 . ト 性があるか らである.よ って,過 湿潤 の創 に漫然 とラッ ラ ップ療法 9合併年 二対策 プを貼 り続け ることはよくない。過湿潤 の創 には吸水性 ラップ療法施行中の合併症の多 くは,過 剰な滲出液が 倉1や 皮膚 に貯留す ることで生 じるスキ ン トラブルゃ感染 が主なものである。 したがつて,滲 出液 が多 く排出され , のよい被覆材 を選択す る必要がある . ②血行障害のある創 (図 10) 血 行 障 害 を来 して い る 閉塞 性 動 脈 硬 化 症 (arte● o¨ 正常皮膚 に湿疹やかぶれなどの皮膚障害が生 じたら,過 sderosis oЫ iterans:ASO)や 糖尿病性足壊疸 など,被 剰 な滲出液をツト 除 して同部 を ドライにするとい う処置方 法に変えるべ きである の 覆材 による保存的治療 の適応 とならない足部 の倉1は ,当 . 同様に,足 部な ど角質層が厚 い1部 位 に浸軟が生 じて創 傷治癒に影響 を与えていると判断された場合は,吸 水性 のよい紙おむつや生理用ナプキ ンの直当て,な い しはメ ロ リンやモイスキ ンパ ッドといった嗽 然なが らラップ療法の適応ではない。 これ らの創 に対 し ては,な ん らかの血行再建術が必要 となる │ こ 卜詢副 . 陛に富む非固着 べ ン │ 性吸水 ドレッシ グ材 に変更す きである. ラ ツプ療法 に限らず創傷治療 においては,倉 1に 溜まっ た滲出液や壊死組織 を放置することがもっともよくない。 ラップ 琴│の 造応にならない創 ト 創 をラップで くるんでそのままにしてお けばよい と い う誤 った認識 により,素 人医療者が安易 に褥着や熱 ①過湿潤の創 (図 9) . 穴あきポリ■テ レンを被せるのは,創 を適度な湿潤環 境に置 くことが 目的である。一方,大 量の滲出液が排出 され,い わば過湿潤状態 の倉1の 場合 は「湿潤 に保 つ」で 傷 にラップ療法 を行 ったことで事故が生 じてい るのは の 事実である 。 したがって,ラ ップ療法の正 しい適応お よび処置方法,合 併症 に対す る適切な対処 について啓発 してい く必要があると考えている . 5%● ■ visual Dermatoiogy Vol:13N。 .52014 │ 図 8 熱傷のラップ療法 (a)エ タノールの炎による背部 Ⅱ度熱傷 (b)異 之墨ン々 塗布 した穴あきポ リエチ レン で被覆する この処置によつて疼痛は軽減す る 患者自身 による処置が しづ らいために入 院とした (c)翌 日 発赤はおさま り,疼 痛も大幅に軽 減 している (d)1週 間後 :シ ャワーによる創の洗浄,ワ セ リン,穴 あきポリエチレンによる被覆を継続 (e)3週 間後 :ほ ぼ治癒 した . . 図 9 感染を生 じて膿性滲出液 を大量に排出している創 このような過湿潤の創はラップ 療法の適応ではない 過剰な滲 出液を排除 (ド レナ‐ジ)す る ことを考え,紙 おむつの直当て 等で対処する 図 10 末梢動脈 の閉塞 に よる糖尿病性足壊疸 血行障害のある創はラ ップ 療法の適応とはならない 文献 1 2 3 4 5 6 7 8 鳥谷部俊 ― ,末 丸修 三 :日 医雑誌 123:1605,2000 水原章浩 編著 :見 てで きる 褥着 の ラ ップ療法 ,医 学書 院 ,東 月t,p.26;2011 水原章浩 :主任 中堅 こころサポー ト 19:38,2010 水原章浩 ほか :褥 療会誌 13:134,2011 水原章浩 :熱傷 32:145,2006 水原章浩 :熱 傷 39:99,2013 水原章浩 :褥 癒会誌 7:564,2005 盛 山吉弘 :日 皮会誌 120:2187,2010 水原 章浩 Mizuhara,Akihiro 東鷲宮病院 循環器科 ・心臓血管外科 〒 340-0203 久喜市桜[ヨ 3-9-3 E― ma‖ :mizuak181 [email protected]