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最近のざ瘡治療とスキンケア

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最近のざ瘡治療とスキンケア
特別寄稿
最近のざ瘡治療とスキンケア
東京女子医科大学皮膚科講師 林 伸和
1.はじめに
現在のざ瘡に対する治療は、外用イオウ製剤やビタミンB6、B12以外は、主として炎症性皮疹に対
する効果を期待したものである。炎症性皮疹に対する抗生物質の有効性はすでに確立されているが、一
方で非炎症性皮疹に対する治療はなおざりにされていた。最近になり、ケミカルピーリングやメンタル
ケアといった新しい治療法を用いてより高い治療効果や満足度を得ることが可能になった。本稿では、
これらの新しい治療と、さらにざ瘡に関係するスキンケアについて言及したい。
2.ざ瘡の疫学
1)
り、内服薬では、特に嫌気性菌に有効で抗炎症
と成因
作用も有しているテトラサイクリン系、もしく
ざ瘡は、日本人では13歳から14歳にかけて発
症し、高校生の頃に最も症状が強くなり、その
はマクロライド系の薬剤であり、外用薬では、
後自然に軽快する経過をたどる。日本人の93%
ニューキノロン系、もしくは保険適応外である
以上の人が罹患すると考えられ、一般的な疾患
がクリンダマイシンのローションなどがある。
である。その成因としては、脂腺の分泌亢進、
これらは、いずれも炎症性皮疹に有効であるが、
毛包開口部の角化異常、P. acnesの増殖とそれ
非炎症性の皮疹には効果は期待できない。非炎
に伴う炎症から生じる。皮疹は、非炎症性の閉
症性皮疹に有効なものとして、面皰圧出による
鎖面皰(いわゆる白ニキビ)と開放面皰(黒ニ
処置がある。しかしながら、その手技のかかる
キビ)と、炎症性の丘疹・膿疱・膿腫とに分類
時間、痛みに対する患者の不満が問題となる。
される。炎症性ざ瘡の治癒後に瘢痕を残すこと
4.ざ瘡治療の実態
もあり、ニキビ痕と呼ばれることもある。部位
1)
ざ瘡が生じた場合の治療方法をアンケート形
や体質により、
時にケロイドになることもある。
式で調べた結果(表2)、ざ瘡で医療機関を受
診するのは、全体の11.8%にすぎず、薬局で薬
3.ざ瘡治療の現状
を購入する、肌の手入れを心掛ける、自分で潰
現在の所、医薬品として表1に示すような薬
すなどの回答が多かった。
剤が存在し、それぞれの効能を有している。
この中で、実際の臨床の場で症状の強いざ瘡
表2 ざ瘡の処置
に用いられているのは、主として抗生物質であ
表1 現在のざ瘡治療法
薬局で薬を買う
32.0%
肌の手入れを心掛ける
31.1%
皮脂の分泌抑制
ホルモン剤、ビタミンB2、B6
自分で潰す
23.2%
毛包開口部の開放
面皰圧出、外用イオウ製剤
睡眠をとる
20.6%
抗菌作用
ナジフロキサシン外用剤
規則正しい生活をする
16.9%
抗酸化作用
クリンダマイシン外用剤
バランスの良い食事をする
14.2%
抗炎症作用
テトラサイクリン系抗生物質
病院で治療する
10.5%
マクロライド系抗生物質
お化粧でかくす
8.2%
何もしない
−1−
20.1%
薬局で購入した薬に満足している人は、
いわゆるスティンギングと呼ばれる刺激感を最
56.7%、医療機関での治療に満足している人は
小限にし、化粧も翌日あるいは当日から可能と
67.5%と低い値であった(表3)。このような
なる。日常生活の制限としては日焼け止めクリ
実態のなかで医師による正しい対処方法の指導
ームの外用を必要とする。余分な角層を取り除
の必要性と、さらにより高い満足度を得るため
くことで化粧ののりが良くなるなどの副次的な
の治療法が求められている。そこで注目されて
効果も期待できる。QOLも考慮すると、快適
いるのが、ケミカルピーリングやストレスに伴
な治療法である。
う掻破と関連したメンタルケアである。
6.ざ瘡をさわること2)
表3 薬局および医療機関の満足度
ざ瘡は、潰すこと、掻くこと、擦ること、押
薬局で購入した
薬剤の満足度
医療機関の
治療の満足度
非常に満足
している
6.7%
20.5%
まあ満足
している
50.0%
47.0%
すことなどで炎症が強くなり、コメドジェニック
に作用するとされている。これまでの我々の疫学
調査でもざ瘡に触ることを良くないことと考えて
いる人は、全体の8割にのぼる。しかしながら、
ざ瘡を触ってしまう人は9割を占める。その触れ
方は、何となく触っている場合が多いが、化粧の
際にはこする、皮を剥くという行為が目立ち、洗
あまり満足
していない
28.7%
21.7%
満足して
いない
13.8%
10.8%
その他
0.8%
0.0%
顔の際には潰すという行為が目立つ。
7.ざ瘡のメンタルケア
我々は、ざ瘡を触ることの背景に嗜癖的掻破
行動ともいうべき掻破が関与しているのではな
いかと考えている。ざ瘡を潰す際の、膿の出る
5.新しいざ瘡治療(ケミカルピーリング)
瞬間の快感を主張する患者も存在する。そこま
現在、ざ瘡に対して行なっているケミカルピ
で行かなくとも、何となく触っているという患
ーリングは、乳酸やグリコール酸を用いた角層
者もいる。このような患者は、いわゆるナック
に対するピーリングである。角層をピールする
ルパッド様皮疹と呼ばれる手指関節部の色素沈
ことで、毛包開口部の角栓を除去し、皮脂の分
着を認めることがある。また、我々は、掻破に
泌を妨げないことで非炎症性の皮疹(面皰)を
関する日誌をつけていただき治療の参考にして
抑制する作用が期待される。
いる。これは鏡を見る回数、潰す回数、触る回
しわに対して用いるケミカルピーリングも存
数などを正の字を書くことで、毎日数えていた
在し、欧米で行なわれている。これは、フェノー
だく方法である。真面目に取り組んでいただく
ルなどの腐食性の強い酸を用いて、真皮までピー
と、思っていたより掻破の回数は多いことが患
ルすることで、日本人でも行なわれたが、炎症後
者本人に理解される。このことが、掻破行動の
の色素沈着の問題があり行なわれなくなった。ざ
認識につながり、行動修正すなわち触らないと
瘡に対するケミカルピーリングとは、目的も方法
いう方向につながってくる。
も異なるものである。
8.治療満足度の上昇に向けて
ざ瘡に対するケミカルピーリングは、皮膚科
炎症性皮疹に対する抗生物質の内服や外用の
医の管理のもとで、適切な薬品を、適切な濃度
重要性は疑う余地はない。しかしながら、それだ
で用いることで、安全に行なうことができる。
−2−
けで患者の完全な満足を得ることは難しい。我々
手落ちである。ざ瘡の治療上問題のないポイン
3)
の行なった臨床試験 でも、抗生物質の内服に加
ト化粧はむしろすすめる。化粧水は良い。日焼
え、前述のケミカルピーリングや掻破に関するメ
け止めは水溶性のものを使用する。ファンデー
ンタルケアを併用することで、 瘡の治療効果と
ションは,禁止するのではなく、毛穴を閉じに
ともに、患者の満足度が高くなっていた。さらな
くいものをすすめる必要がある。最近では、ざ
る改善には、ケミカルピーリングや掻破に関する
瘡患者用に開発された色のついたクリームがあ
メンタルケアは有用な手段である。
る。これは本来スポット化粧用だが、ファンデ
ーションの代わりに使用していただくことを現
9.ざ瘡のスキンケア
在行なっている。患者心理を考えるとこのよう
なスキンケアの指導も今後皮膚科医にかせられ
ざ瘡の治療法として、新しいものを上げてき
ている課題となっている。
たが、ざ瘡患者に女性が多いことから、我々皮
膚科医は特に化粧についても注意が必要であ
10.おわりに
る。従来、油性のもの、特にファンデーション
瘡の新しい治療法として、ケミカルピーリ
は、コメドジェニックに作用するためよくない
とは、
どの教科書にもあり我々も説明してきた。
ングとメンタルケアを取り上げた。また、化粧
しかしながら、実際の患者の立場として化粧を
という問題も取り上げた。従来の皮膚科医の立
しないわけには行かない患者も多い。化粧を解
場からすると、コスメティックな部分と考える
禁してざ瘡が良くなった症例の報告
4)
もあり、
向きもあるかと思われるが、ざ瘡患者のニーズ
精神的な背景、患者のQOLを考えると代替え
に答えていくために皮膚科医に課せられている
の化粧法を指導せずに中止だけさせるのは、片
分野だと思われる。
参考文献
1)林伸和,川島眞,渡辺晋一,中田土起丈,飯島正文,松山友彦,原田昭太郎:本邦における尋常性
ざ瘡のアンケートによる疫学調査.日皮会誌111,1347-1355,2001
2)林 伸和 他:ざ瘡患者における掻破行動の実態調査.臨床皮膚(印刷中)
3)林 伸和 他:ざ瘡の薬物療法とメンタルケアおよびケミカルピーリングの併用効果の検討.
西日皮膚(印刷中)
4)細谷律子,石井春子:尋常性ざ瘡,心身医療,5,1199-1204,1993
−3−
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