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メモリ液晶ディスプレイの構成と特徴
メモリ液晶ディスプレイの構成と特徴 業天誠二郎 モバイル液晶事業本部 モバイル液晶第 1 事業部 近年,携帯電話に代表されるモバイル機器の進化は目覚しく,搭載されるディスプレイに対する高性能化, 高機能化の要求はますます高くなっています。そのような中で,当社オンリーワン技術である CG-Silicon 技術を用いて各画素内にメモリ回路を構成し,ディスプレイの低消費電力化を実現すると共に,PNLC 技術 と組み合わせることにより,デザイン性にも優れ,高視認性を実現したメモリ液晶ディスプレイ 1)2)の開 発を行っています。本稿では,そのメモリ液晶ディスプレイの構成と特徴について解説します。 1 はじめに このような状況の中,各ディスプ メモリ液晶ディスプレイの 仕様と他のディスプレイと の比較 2 レイメーカはそれぞれのディスプレ 近年,インターネットの普及やラ イの特徴を生かし,ディスプレイへ イフスタイルの変化により,携帯電 の要求性能の向上を図ると共に,他 話を始めとし,PDA,PMP,GAME 社との競争優位性を確保するため, などのモバイル機器の進化は目覚し さまざまな新技術や新構造を導入し (1)メモリ液晶ディスプレイの 仕様 く,高機能化や多機能化が進んでお 新しいディスプレイを開発し他社と 当社にて量産中または開発中の代 り,それぞれの機器に搭載される の差別化を図っています。 表的なメモリ液晶ディスプレイの仕 ディスプレイへの要求性能も益々高 本稿では,当社オンリーワン技術 様を表 1 に示し ま す。表 1 は,1 . 3 くなっています。ディスプレイへの である CG-Silicon 技術※を用いて,各 型 96 × 96 および 2 . 7 型 400 × 240 の 要求性能としては,大画面化,高精 画素内にメモリ回路を構成し,ディ 2種類について示したものであり, 細化,薄型軽量化,狭額縁化,低消 スプレイの低消費電力化を実現する ど ち ら も白黒 2 値表示の ディス プ 費電力化,高輝度化,広視野角化, と共に,PNLC 技術と組み合わせる レイです。電源電圧は,5 V 単一電 高速応答化等が あ り,ディス プ レ ことにより,デザイン性にも優れ, 源,入力信号電圧は 3 V です。パネ イの種類としても,STN-LCD,a-Si 高視認性を実現したメモリ液晶ディ ル内には,独自の 3 線シリアルイン TFT-LCD,電 子 ペーパー(E-ink), スプレイについて説明致します。 タフェースを備えたタイミングジェ Poly-Si TFT-LCD,有 機 EL 等 さ ま ※ CG-Silicon は(株)半導体エネルギー研究 ネ レータ回路,ゲート ド ラ イ バ回 ざまなものがあります。それぞれの 路,データドライバ回路,VCOM ド 所との共同開発成果物です。 ディスプレイは, 個々の特徴を有し, モバイル機器の用途および要求性能 に応じて搭載され,さらに,タッチ パネルと組み合わせることにより, マンマシンインタフェースとしての 使用用途も拡大しています。 また, モバイル機器は多くの場合, バッテリーにより駆動され,システ ムの消費電力とバッテリー容量によ 表 1 メモリ液晶ディスプレイの仕様 インチ数 1 . 3 インチ ドット数 96 × 96 2 . 7 インチ 400 × 240 表示領域 24 . 192 mm × 24 . 192 mm 58 . 800 mm × 35 . 280 mm ドットピッチ 252 um × 252 um 147 um × 147 um 表示色 モノクロ 2 値(1 bit) モノクロ 2 値(1 bit) 液晶モード 反射型(ノーマリホワイト) 反射型(ノーマリホワイト) 反射率 50% 47% り使用時間が決定されます。そのた 対向反転周期 1Hz 1Hz め,システムとしての低消費電力化 インターフェイス 3 線シリアルインターフェイス 3 線シリアルインターフェイス 5.0V は必須となり,機器に搭載されるデ バイス個々にも低消費電力化が非常 に強く要求されます。 電源電圧 5.0V 入力信号電圧 3.0V 3.0V 消費電力(静止画表示時) 15 uW 50 uW 消費電力(1 Hz データ更新時) 30 uW 175 uW シャープ技報 第100号・2010年2月 23 (a)1 . 3 型 96 × 96 メモリ液晶ディスプレイ (b)2 . 7 型 400 × 240 メモリ液晶ディスプレイ 図 1 1 . 3 型 96 × 96 / 2 . 7 型 400 × 240 メモリ液晶ディスプレイ表示例 ライバ回路を内蔵しています。表示 より,47%あるいは 50%の非常に高 れている電子ペーパー(E-ink)は, を構成する各画素部にはメモリ回路 い反射率を実現しています。そのた 電源を OFF しても表示を維持する が設けられており,さらに,対向反 め,従来の全反射型液晶ディスプレ ことが出来るため,静止画表示を行 転周期を 1 Hz と低周波数に設定す イであれば周囲の明るさが数ルクス う場合,消費電力が発生せず,メモ ることにより,静止画表示時(表示 になると画面が見づらくなるのに対 リ液晶ディスプレイに比べて消費電 データ更新なし時)の消費電力は, し,メモリ液晶ディスプレイは,周 力で優位性があります。しかし,表 1 . 3 型 96 × 96 パ ネ ル で 15 uW,2 . 7 囲の明るさが 0 . 5 ルクス程度あれば 示画像を書き換える場合,電子ペー 型 400 × 240 パネルで 50 uW と非常 文字の視認性を確保することができ パーは高電圧を必要とし,大きな電 に少ない値を実現しております。 ます。 力を消費するため,メモリ液晶ディ 上記メ モ リ回路,周辺回路を ガ 図 1 に 1 . 3 型 96 × 96 および 2 . 7 型 ラ ス 基 板 上 に 形 成 す る た め,当 400 × 240 パネルの表示例を示しま 社と株式会社半導体エ ネ ル ギー研 す。白表示は新聞紙に近い白さが得 また,電子ペーパーは,画面を書 究 所 と で 共 同 開 発 し た CG-Silicon られていると共に,黒表示はミラー き換える場合,ディスプレイの構成 (Continuous Grain Silicon)技 術 を 表示となり,メタリック調のディス 上,画面のリフレッシュを行う必要 用い て お り,さ ら に,プ ロ セ ス開 プレイとして,デザイン性にも優れ があり,書き換え時間も必要となる 発にて,薄膜トランジスタ(TFT) た特性を有しています。 ため,動画表示を行うことができな スプレイの方が消費電力で優位とな ります。 い構成になっています。それに対し, の課題である閾値電圧の安定化によ (2)メモリ液晶ディスプレイと 他のディスプレイとの比較 メモリ液晶ディスプレイは,通常の 表 1 の メ モ リ液晶ディス プ レ イ 表 2 にメモリ液晶ディスプレイと シュ等は必要なく,動画表示を行う は全てバックライトのいらない全反 他のディスプレイとの比較表を示し 射型ディス プ レ イ で あ り,後述す ます。 り,TFT のリーク電流を抑制し,低 消費電力化を実現しております。 る PNLC 技術と組み合わせることに 液晶と同じように画面のリフレッ ことが可能となります。 STN-LCD は,静止画表示であっ 電子ブック用途を中心に使用さ ても,周辺回路を動作させ表示デー タを一定周期で常に更新する必要が あり,対向反転のみ行うメモリ液晶 表 2 メモリ液晶ディスプレイと他のディスプレイとの比較 24 ディスプレイに対して,消費電力が メモリ液晶 電子ペーパー STN-LCD 有機 EL 消費電力(静止画表示時) ○ ◎ × × 消費電力(1 Hz データ更新時) ◎ × △ × 画像書換時間 ◎ × ○ ◎ 視認性(明環境) ◎ ○ △ × 視認性(暗環境) ○ △ × ◎ 高い値となります。 さ ら に,STN-LCD は,解 像 度 に もよりますが,一般的に 5 V よりも 高い電圧を周辺回路に必要とするた め,データ更新を行う場合でも,5 V 単一電源で構成されるメモリ液晶 ディスプレイに対し,消費電力が高 くなります。 有機 EL ディスプレイは,表示素 子の構成上,自発光の特性を持って おり,発光時に一定の電流が流れる 構成となっており,メモリ液晶ディ スプレイに対して,消費電力が高く なります。 また,暗い環境下における視認性 について比較しますと,有機ELディ (a)メモリ液晶ディスプレイの画素部 (b)一般的なアクティブマトリクス液晶の画素部 図 2 メモリ液晶ディスプレイと一般的なディスプレイの画素構成 スプレイは,自発光の特性を持って おり,メモリ液晶ディスプレイやそ / OFF により,ソースバスライン は発生せず,一般的なアクティブマ の他のディスプレイに対して優位性 のデータを CS 容量および液晶容量 トリクス液晶ディスプレイで行われ があります。しかしながら,上述し に充電して,対向電極と画素電極の るような周辺回路を使用したデータ た消費電力や明るい環境下における 間に電荷を保持し表示を行います。 書き込み動作を行う必要がなくなる 視認性を総合的に比較した場合に 画素トランジスタのリーク電流によ と共に,対向反転周期を1Hz とい は,有機 EL ディスプレイよりもメ り,画素電極の電位が変動するため, う低周波数での設定が可能となりま モリ液晶ディスプレイの方に優位性 通常,60 Hz 等の周波数で画素電極 す。 があります。 へのデータ書き込みが必要となりま 一般的に消費電流は I = fCV の式 また,表 2 には記載がありません す。データ書き込みの際,ゲートバ で表され,f は駆動周波数,C は負荷 が,一般的な a-Si TFT-LCD につい スラインおよびソースバスラインを 容量,V は駆動電圧となります。メ て も,STN-LCD と同様に静止画表 駆動するための周辺回路が動作し, モリ液晶ディスプレイは,画素内に 示時に一定周期で周辺回路を動作さ ソースバスライン容量やゲートバス メモリ回路を内蔵することにより, せデータ更新が必要となるため,メ ライン容量への充放電電流や各回路 書き換え回数の低減を行い,低周波 モリ液晶ディスプレイに対し,消費 部での動作電流が発生します。 数化(f の低減)を行うと共に,通 電力が高くなります。 それに対し,メモリ液晶ディスプ 常 15 V 程度の電源電圧が必要とな メ モ リ液晶ディス プ レ イ と電子 レ イ の画素部は図 2(a)の構成と るのに対し,メモリ回路で使用する ペーパーや STN-LCD,有機 EL ディ な り,各画素内に 1 bit SRAM を内 電源電圧を 5 V(V の低減)と す る スプ レイ におい て,表 2 に示す消 蔵しています。ゲートバスラインを ことにより,低消費電力化を実現し 費電力や暗い環境下および明るい環 選択し,データバスラインのデータ ています。 境下の視認性,画像書き換え時間を を SRAM に 記 憶 し ま す。SRAM に 総合的に比較した場合,メモリ液晶 記憶したデータに応じて,表示電圧 ディス プ レ イ は性能的な優位性を 供給回路より画素電極に電圧を供給 メモリ液晶ディスプレイのブロッ 持っています。 します。そして,対向電極と画素電 ク図を図 3 に示し ま す。パ ネ ル内 極間に印加された電圧により表示を には,ゲートドライバ回路,データ メモリ回路と周辺回路 行います。表示データを書き換える ドライバ回路,3 線シリアルインタ (1)各画素に内蔵されたメモリ 回路 場合は,周辺回路を動作させ,画素 フェース を含む タ イ ミ ン グ ジェネ 内の SRAM のデータを更新する必 レータ 回 路,対 向 反 転 制御を含む 要があり,データバスライン容量や VCOM ドライバ回路を内蔵してい ゲートバスライン容量への充放電電 ます。 3 メモリ液晶ディスプレイの各画素 (2)周辺回路 の構成および一般的なアクティブマ 流や各回路部で電流が発生します。 トリクス液晶の画素構成を図 2 に示 しかし,静止画表示で表示の書き換 SCS(チップセレクト信号),SCLK します。一般的なアクティブマトリ えが必要ない場合,画素電極へは表 (シリアルクロック信号),SI(シリ ク ス液晶の画素部は図 2(b)の構 示電圧供給回路より常に電位供給が アルデータ信号)の 3 本の入力信号 成となり,画素トランジスタの ON 行われるため,画素電極の電位変動 を使用するものとなります。図 4 に, 3 線シリアルインタフェースは, シャープ技報 第100号・2010年2月 25 3 線シリアルインタフェースによる となります。 します。PNLC は,電圧を印加しな 対向反転指示のタイミングチャート また,表 1 に示す 2 つのメモリ液 いと,液晶分子は不規則に並び,外 を示します。対向反転制御は,対向 晶においては,対向反転周期が 1 Hz 部からパネルに入射した光は液晶層 反転のタイミングで,タイミング となり,上記対向反転指示を 1 秒に で散乱され,白濁し不透明状態(白 チャートのようにシリアルインタ 1 回行う必要があります。 表示)となります。一方,PNLC に フェースにて D 1 の値を H または L 表示データ更新がない場合,上記 電圧を印加することで,不規則に並 とすることにより,対向電極の極性 のどちらかの方法で対向反転制御 んでいた液晶分子がガラス面に対し を決定することが可能となります。 のみを行い,表示を行うことが可能と て垂直に並ぶため光を通し透明状態 また,表 1 に示す 2 つのメモリ液 なり,ゲートドライバ回路やデータド となります。パネル外部より入射し 晶ディスプレイにおいては,対向反 ライバ回路の動作を停止した状態と た光は,液晶層の後ろ側にある反射 転制御選択端子の設定で,対向反転 し,低消費電力化を実現しています。 板に反射し,ミ ラー表示ま た は ミ のタイミングで外部からパルス信号 また,表示データ更新時は,シリ ラー感のある黒表示が得られます。 を入力することにより対向反転制御 アルデータ入力端子(SI)より,動 PNLC は,以上のように透明状態 を行うことも可能な仕様となってお 作 制 御 フ ラ グ(図 4 の D 0 〜 D 2), と白濁し た不透明状態を取り,偏 ります。それぞれの方式においてメ ゲートラインアドレスデータ,表示 光板を必要としない構成となりま リットがあり,使用されるシステム データの順に入力を行うことにより, す。そのため,1 . 3 型で 50%,2 . 7 型 で最適な方式を選択頂くことが可能 表示データ更新を行うことができま で 47%の非常に高い反射率を可能 す。表示データ更新は,1水平ライン とし,高視認性を実現しています。 毎にゲートラインアドレスを指定し さらに,電圧を印加した場合,ミラー て行う方式となっており,データ更 表示となり,メタリック調のディス 新の必要なラインのみのデータ更新 プレイとしてデザイン性にも優れ, が可能となり,電力削減やデータ更 さまざまな商品への適用が期待され 新時間の高速化にも有効となります。 ます。 図 3 メモリ液晶ディスプレイのブロック図 また,3線シリアルインターフェイス また,屋外において,サングラス を使用することで,入力信号本数を を掛けた状態でディスプレイ表示を 削減することができると共に,CPU 見る場合,従来の偏光板を使用して と直結した駆動が可能となり,セッ い る ディス プ レ イ で は,見る角度 ト側での使用が容易となります。 に よ り輝度低下が発生し,表示が 4 見えなくなる角度が存在しますが, PNLC 技術 PNLC を使用したディスプレイにお PNLC(Polymer Network Liquid いては,偏光板がないため,そのよ Crystal)技術の動作原理を図 5 に示 うな問題も発生しないという特徴も 図 4 3 線シリアルインターフェイスによる対向反転指示タイミングチャート 26 り,常時点灯が可能で,バッテリー 寿命の長い製品を提供することが可 能となります。 さらに,動画表示への対応も可能 であり,各種アプリケーションに応 じた使用が可能なディスプレイと なっています。 また,白物家電やリモコン,おも ちゃなどモバイル機器以外の用途や 今までディスプレイが搭載されてい なかった機器への搭載,また,アウ (a)電圧印加時(ミラー表示) (b)電圧無印加時(白表示) 図 5 PNLC の動作原理図 トドア用途などさまざまな商品への 搭載が期待されます。 今後も,市場のニーズにマッチし たメモリ液晶ディスプレイの開発, あり,アウトドア用途の各種機器へ のディスプレイを実現すると共に, の搭載が大いに期待されます。 黒表示がミラー表示となる今までに 5 ないデザイン性に富んだディスプレ 最後に イとなっています。 以上説明しましたように,PNLC 低消費電力化の特徴により,バッ 技術と組み合わせたメモリ液晶ディ テリー駆動機器である携帯電話のサ スプレイは,低消費電力で高視認性 ブ画面や PMP に搭載することによ 提供を行っていきます。 参考文献 1) Y.Asaoka, et al., SID 09 Digest, p395398 2)N.Matsuda, et al., IDW 09 Digest, p 243 - 246 シャープ技報 第100号・2010年2月 27