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「真菌感染症」

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「真菌感染症」
2011 年 11 月 30 日放送
「真菌感染症」
兵庫医科大学
感染制御学教授
竹末 芳生
はじめに
深在性真菌症の診断・治療ガイドラインの改訂版が 2007 年に発表され、それを普及
させる目的で、真菌症フォーラムでは ACTIONs プロジェクトを行ってきました。これ
は侵襲性カンジダ症の病態、診断、治療を、Antifungals, Blood stream infection,
Colonization & β-D-glucan と A, B, C にまとめ、パワーポイントなどの資材を ICD
に提供してきました。
2011 年はそれをさらに発展させ、侵襲性カンジダ症の診断・治療の具体的な方法を
箇条書きに明記し、それを個々で捉えるのでなく、bundle(束)にして実施することに
より予後などの改善を得ることを目的としました。
Surviving sepsis campaign
この bundle の活用に関して、セプシス治療のガイドラインである Surviving sepsis
campaign を例にとって説明してみましょう。一般にガイドラインが発表されたからと
言って、その内容がタイムリーに
bedside practice に組みいれられる
ことは稀です。そこでこの委員会は、
septic shock への対応として最初の
6 時間以内に達成する蘇生 bundle 8
項目と、sepsis に対する全身管理と
し て 、 24 時 間 以 内 に 達 成 す る
management bundle 4 項目を示し、啓
発活動を行ってきました。
欧米のネットワーク 165 施設、
15,000 例の分析では、蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は,各々最初の 3 か
月と比較し、2 年後には有意に高率となり、それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少
を認め、2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています。
このように bundle の merit は項目毎の達成の有無をチェックすることにより施設に
おける bundle の遵守率が評価され、それと有効率や死亡率との関係を検討することも
可能となってきます。同様な活動を侵襲性カンジダ症の診断・治療でも行おうというの
が ACTIONs bundle です。
ACTIONs bundle
今から述べる ACTIONs bundle の内容は専用のチェックリストがあり、希望する施設
には真菌症フォーラムから配布されることになっています。初期における診断・治療の
bundle は 8 項目あり、①リスク因子の
評価、②抗真菌薬投与前に血液培養 2
セット採取、③血液以外の監視培養を
複数ヶ所実施、④血清β-D-グルカン測
定、⑤血液培養陽性例では中心静脈カ
テーテル早期抜去、⑥正しい Empiric
治療開始基準の順守、⑦適切な初期選
択薬、⑧適切な投与量があげられてい
ます。いずれも具体的にしめされた図
表を参考にチェック可能となっていま
す。
次に治療開始後の Bundle 6 項目ですが、①血液培養陽性例では真菌性眼内炎の除外
診断を行う、②血液培養陽性例では治療開始後数日以内に血液培養実施し陰性を確認、
③初期治療薬の効果判定を 3-5 日後に行う、④適切な第 2 選択薬、⑤転移感染巣のな
いカンジダ血症において、血培陰性化または症状改善した後、2 週間は抗真菌薬投与、
⑥経過良好な症例では経口薬への step down 治療を考慮、があげられています。
各 Bunble の詳細
以下各 Bunble について、根拠も含めもう少し詳しく解説していきましょう。
まず、治療開始時の診断ですが、Surviving sepsis campaign 抗菌薬不応性発熱が続く
場合、侵襲性カンジダ症の診断の手始めとして、リスク因子の評価に続き、血液培養2
セットを採取します。カンジダは血流感染の 4 番目の検出率であり、意外に高率である
ことも知っておく必要があります。
実際は真菌感染が確定診断される前に治療が行われることが多いのですが、複数のリ
スク因子を有し、他の発熱の原因がない抗菌薬不応性発熱患者において、監視培養によ
り、複数ヶ所のカンジダ colonization の証明または血清β-D グルカン陽性をエムピリ
ック治療開始基準とします。尿、喀痰、便などの監視培養によるカンジダ colonization
の証明はその colonization 部位の感染としてではなく、あくまでもカンジダ感染のリ
スク因子としてとらえる必要があります。例えば、喀痰からカンジダ属が検出された場
合、他部位にカンジダが証明された場合か、β-D-グルカンが陽性なら治療開始します
が、決して肺炎として治療を行うわけではありません。
次に初期治療ですが、IDSA ガイ
ドラインでは、非好中球減少患者
におけるカンジダ血症発症時には、
中心静脈カテーテルが挿入されて
いる場合、出来るだけ早期に抜去
することが推奨されています。一
方、好中球減少患者では、剖検に
より腸管由来の真菌血症の存在が
証明されており、抜去により改善
しないことも稀でありません。そ
のため好中球減少患者においては
推奨ではなく、「抜去を考慮する」との表現になっています。
抗真菌薬の第一選択は、フルコナゾールまたはキャンディン系薬とします。いずれも
侵襲性カンジダ症、カンジダ血症を対象とした無作為比較試験で、AmB または L-AMB と
非劣性が証明されており、副作用は有意に低率でした。なお Septic shock 患者では当
初より L-AMB の適応も考慮します。
Fluconazole は、C. albicans に対して良好な活性を示しますが、C. glabrata は FLCZ
用量依存性感受性であり、また C.krusei は耐性で、このようなカンジダ属が検出され
た場合は MCFG が推奨されます。アゾール系薬使用の既往がある場合、交叉耐性の問題
があり MCFG が推奨されます。しかし MCFG は万能なわけではなく、N-ICU などにおける
院内感染が特徴的な C.parapsilosis に対しては MCFG は比較的高い最小発育阻止濃度
(MIC)を呈するため、この真菌が検出された場合は FLCZ を選択します。稀なカンジダ
属ですが C.guillermondii は MCFG や FLCZ などの抗真菌薬耐性の傾向があり注意を要し
ます。キャンディン系薬は硝子体移行性が不良で、眼内炎では FLCZ を選択します。最
近は VRCZ による良好な治療成績も報告されています。
Septic shock 患者において、カンジダが検出された場合、始めから活性を有する抗
菌薬を投与した場合、生存率が有意に高率となり、またカンジダ血症患者では治療開始
までの時間と予後の間に相関があることも報告されています。また C.glabarata は
C.albicans と比較し発育が不良で、同定が遅れる傾向があります。このようなことも
あり IDSA ガイドラインでは、initial appropriate therapy を重視し、moderately severe
または severe の感染症では C.glabarata にも活性を示し広い抗真菌スペクトラムのキ
ャンディン系を推奨しています。
適切な用量が必要であることは言うまでもなく、とくにアゾール系は早期に血中濃度
を上げる必要性から初期に loading dose(負荷量)投与が行われます。MCFG において
1日投与量 50mg は推奨されておらず、通常 100-150mg/日投与します。150mを超える
使用はアスペルギルスに対してのみ行います。
次に治療開始後の診断・治療にお
ける Bundle の解説ですが、真菌性
眼内炎は血液培養陽性例の約 20%
に証明され、血液培養でカンジダ
属が証明された場合は必ず、眼科
に紹介し眼底検査を行い、真菌性
眼内炎の除外診断をしなければな
りません。以前は外科的処置が必
要な症例や、視力低下、失明例も
見られましたが、最近では早期診
断治療により硝子体浸潤を示すよ
うな進行した眼内炎は稀となっており、ほとんどの場合脈絡網膜病変にとどまっていま
す。
カンジダ血症例では、再燃予防の
ためにも、血液培養陰性化後2週
間の抗真菌薬投与を行います。注
射薬で 2 週間はコストや血管確保
の点がネックとなることもあり、
経過良好な症例では経口抗真菌薬
への step down 治療も考慮します。
血清β-D-グルカン値の推移が臨
床効果の指標となることも多いの
ですが、その場合でも陰性化まで
抗真菌治療を継続する必要はあり
ません。
抗真菌薬の臨床的効果判定の時期ですが、以前は5日と抗細菌薬の3日に比較しやや
効果発現に時間を要するとされてきました。この理由として FLCZ はカンジダ属に対し
て静菌的作用しかないこと、また
有効な血中濃度上昇に数日要する
ことが挙げられていました。しか
し 今 日 で は 、 fosfluconazole は
loading dose 投与を行うことによ
り早期の血中濃度上昇が得られる
ようになりました。また MCFG はカ
ンジダ属に対し殺菌的活性を有す
ることより、早期の効果発現が期
待できます。以上の理由から、初
期選択薬3日間使用し、発熱や臨
床データから臨床効果を評価し、持続か、変更かを検討することを推奨しています。た
だし明確なエビデンスがないため bundle では 3-5 日目に評価するにとどめました。こ
こら辺が今後の検討課題と考えます。
おわりに
以上が bundle の解説ですが、ち
なみに当院で感染制御部が治療を
行った患者においては、ほとんど
の症例において bundle の遵守率
60%以上であり、遵守率 75%以上が
3/4 を占めていました。この高い遵
守率のため治療効果や予後との関
係は見出せませんでした。ACTIONs
bundle のチェックリストが希望さ
れる施設に配布されますので、今
後幅広い遵守率における治療効果や予後との関係の分析が出来れば、一定の傾向が認め
られるかもしれません。
また過去の症例の遵守率を評価するだけでなく、今後先生方が診断治療を行う患者に
おいて、このチェックリストを利用し、落ちがないようにすることも大切と考えていま
す。是非 ICD の先生方がこの bundle を活用し、カンジダ感染患者の治療効果や予後が
改善されることを期待しています。
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