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イスタンブールの学校事情

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イスタンブールの学校事情
現地駐在員だより イスタンブールの学校事情
丸紅㈱ イスタンブール支店 副支店長 遠藤 義生
御存知の方もおられるかも知れないが,トルコは親日国である。日本とトルコは一世紀
以上も前から友好関係を結んでいて,和歌山県串本沖でトルコの軍艦が座礁した際,海に
投げ出された船員を地元住民が助けた『エルトゥールル号事件』に始まり,イラン・イラ
ク戦争の際には,テヘラン空港に取り残された日本人を,トルコ政府が航空機を差し向け
て救出した美談もある。当時の様子が日本・トルコ合作で映画化され,本年12月5日㈯に
本邦公開予定とのことで,今から楽しみにしている。
トルコ/イスタンブール駐在の内示を受けた際,赴任先が親日国ということで安堵を覚
えたが,同時に頭をよぎったのは「家族を帯同するか否か」であった。早速ネット検索に
てイスタンブールの就学事情調査を行ったが,直ぐに日本人学校やインターナショナル校
の存在に辿り付き,更にホッとしたことを覚えている。家族帯同で当地に赴任してから3
年目となり,この間,子供達を通じて当地の日本人学校・インターナショナル校と関わり
があったため,此処ではそれぞれの学校事情のさわりを簡単に御紹介したい。
イスタンブールには日本人学校が在り,殆どの子供は日本人学校が手配しているスクー
ルバスで通学している。小学部・中学部があり,生徒数は90名程度。アットホームな雰囲
イスタンブール・ブルーモスク
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カッパドキア
気で熱心な先生方の御指導の下,子供達も活き活きと過ごしている。行事等で学校にお邪
魔する度に大変感心するのは,生徒が非常に礼儀正しいこと。生徒数に対し教職員の数が
比較的多いのも一因かとは思うが,通学児童の親が行き届いた教育環境を確実に実感する
場面であろう。
現地校との交流も盛んで,互いの国の文化を披露したり,料理やスポーツを共に体験し
たり,学年を合わせて交流をしている。過日の交流会ではトルコの子供達に習字を体験し
て貰うイベントがあった。筆を使う難しさに加え,見た目が珍しい漢字への関心の高さも
あったのだろう。トルコの子供達は予定していた時間よりも随分と長く楽しんだそうだ。
また,毎年,トルコの子供の日には,日本人学校の生徒が現地校にお邪魔し,和太鼓や
ソーラン節を披露している。先生方の熱心な指導に加え,生真面目な日本人の性格も相ま
って,各人の完成度は毎年非常に高く,現地校の観客が驚くほどの出来栄えだそうだ。
イスタンブールにはインターナショナル校が3校あり,イギリス系2校,アメリカ系1
校である。各々特徴があり,イギリス系はグレード8終了時で中学卒業資格が貰えるが,
アメリカ系はそれがグレード9終了時となるため,日本で高校を受験する予定の御家庭は
各校の違いを留意しなくてはならない。
加えて,中学生以上がインターナショナル校に入学する際には学年決めのテストがある。
当地赴任時に日本の中学校で3年生に相当した息子は,当地のアメリカ系のインターナシ
ョナル校の見学を行った際,即入学の意向を示したが,その場で,どの学年相当の学力を
有しているかの確認試験を受けさせられた。筆記試験かと思いきや,パソコンを使用して
の受験で,試験内容は英語文法,英語長文読解,数学。加えて,英語での面接もあった。
最初は入学試験担当者との面接,続いて,学年主任との面接,最後が校長との面接。改め
て記述すると中々のハードルの高さである。
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当地のインターナショナル校には飛び級がないため,この学年決めテストが卒業年度に
大きな影響を与えることとなる。試験結果を待つ間,駐在期間と照らし合わせ,卒業まで
漕ぎ着くことができるのであろうかと不安で堪らなかったが,運良く,実年齢と同等の学
年への入学が認められた(インターナショナル校の卒業が毎年6月となるため,日本の同
年齢の生徒と同じタイミングでは大学受験が行えず,一学年分の割を食うのが辛いところ
である)。
インターナショナル校も,日本人学校同様,学校が手配したスクールバスでの通学であ
り,息子も毎日片道約1時間を掛けて通学している。インターナショナル校に入学して先
ず驚いたことは,授業中に本(教科書)を全く使用せず,宿題提出の際にもノートを全く
使用しないことだ。教師・生徒が各自パソコンを保有し,授業で使用する教材の連絡や宿
題の提出は全て各人保有のパソコン経由行われる。また,それらのデータは全て学校側が
管理していて,各案件内容の進捗状況は保護者も閲覧できるシステムになっている。赴任
時にノートや文房具を大量に準備して当地に持ち込んだが,それらは殆ど無用の長物とな
ってしまった。
当地で可能な習い事は,そろばん,英検対策,ピアノ。これらは現地に住む日本人や日
本からの留学生が講師をしている。教室は無く,各家庭に出向いてくれるらしい。また,
数年前に,日系の個人学習塾も開校された。
その他,サッカー,剣道,バスケットボール,水泳,乗馬,バレエ等があり,これらは
現地のクラブチームに混じってのもののようだ。
生活全てにおいて言えることなのであるが,トルコ式の時間感覚が基準となる。
例えば,毎週月曜の6時から英会話のレッスンをお願いするとする。日本人の感覚だと
余程のことがない限り,時間通りにレッスンが開始されると期待するのだが,かなり高い
インターナショナル校での模擬店風景
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トルコの伝統的なランタン
確率で,その約束の開始時間頃に携帯電話が鳴る。「交通渋滞で遅刻する」との連絡だ。30
分ほど遅れて来てレッスンが開始されるが,不思議なことに終了の時間は予定通りだった
りする。そして,愛想の良い笑顔で,
「来週はどうする?」と聞かれるのである。トルコ人
は商売人が多い気がする。
実際問題,イスタンブールに於いて,交通渋滞は常に悩みの種だ。何かの記事でトルコ
の渋滞の酷さはロシアのモスクワに次いで世界第2位であると書かれていたが,道路整備
状況は勿論のこと,交通ルールが順守されているとは言い難い状況だ。何かの機会に2012
年の教育改革でトルコの小学校の授業に週1時間,
「交通ルール」に関する授業が加わった
と聞いたことがあるが,政府高官も,子供の頃から交通ルールとマナーを学ばせねばなら
ないと感じる場面に何度か出くわしたのではないだろうか。トルコだけではないと思いた
いが,停まりたい時に停まりたい所で車を停め,一方通行の場所も気軽に逆走する,とい
った場面を見かけることも少なくない。信号は有るのだが,渋滞の酷さと運転の気軽さ,
加えて,自ら進んで一歩前へ出る積極さが相まって,そこかしこで車が行き詰まり,渋滞
を招く。結果,スクールバスの運行時間は,あくまでも目安となってしまうのである。そ
の点では,長時間バスに乗車しなければならない子供達も負担であろう。
駐在中は日本で生活するより家族の距離がずっと近い。親離れする直前の歳頃の子供を
持つ御家庭にとって,親の価値観や仕事について子供に話す機会が数多くある恵まれた期
間とも言える。当地学校事情の一端を御紹介させて頂いたが,今後,当地に御家族帯同で
の赴任を考えられておられる方,当地に御興味を持たれている方,の参考になれば幸いで
ある。
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