Comments
Description
Transcript
1 Part Part 1
Part 1 僧帽弁閉鎖不全症とは どのような疾患か? 1 1 Part ■ ど僧 の帽 よ弁 う閉 な鎖 疾不 患全 か症 ?と は 定義と分類 僧帽弁閉鎖不全症とは,僧帽弁(前尖およ 的異常,細菌性心内膜炎に伴う僧帽弁複合体 び後尖),僧帽弁弁輪部,左心房,腱索,乳 の異常でも僧帽弁閉鎖不全に陥るが,これら 頭筋,そして左心室自由壁からなる僧帽弁複 も続発性または二次性に分類される.このよ 合体のいずれかの構造の異常により,僧帽弁 うに一言で僧帽弁閉鎖不全症と言っても, の閉鎖が障害される疾患である.このうち, 様々なタイプが存在するわけだが,本書では イヌでは僧帽弁(特に前尖)の線維層の断裂 特に断らない限り,僧帽弁の粘液腫様変性を および崩壊,そして酸性粘液多糖類の異常蓄 原因とする僧帽弁逆流症を僧帽弁閉鎖不全症 積を特徴とする粘液腫様変性が最も高頻度に として解説を進める. 発生する.このため,この病変により発生す なお,僧帽弁閉鎖不全症の臨床像は左心不 る僧帽弁閉鎖不全症を特に心内膜症または原 全だが,粘液腫様変性は僧帽弁だけでなく三 発性僧帽弁閉鎖不全症とも呼ぶ.しかし,通 尖弁にも認められることがある.両房室弁に 常は僧帽弁閉鎖不全症と言ったら,粘液腫様 この病変が発生する頻度は報告により若干の 変性により生じた疾患を指す. 相違が見られるが,概ね全症例の 30%前後と 大型犬に好発する拡張型心筋症,そしてイ する記載が多い.両房室弁閉鎖不全症の臨床 ヌで最も発生頻度の高い先天性心疾患である 像は両心不全である.左右いずれの房室弁逆 動脈管開存症では,僧帽弁弁輪部の高度な拡 流がより重度なのかにより,主な心不全症状 張および変形が見られる.これも僧帽弁逆流 は異なり,また同じ症例であってもある時期 の原因となるが,僧帽弁自体の形態は正常で には右心不全が強く認められ,その後は左心 あることから,続発性または二次性僧帽弁閉 不全症状が主に見られることもある(後述) . 鎖不全症と呼ぶ.腱索の断裂,僧帽弁の先天 2 シグナルメント (1)発生率 僧帽弁閉鎖不全症の発生率は調査が実施さ ∼ 8.1%とされているのに対し,剖検例を対 象とした調査では 11 ∼ 61%と高い. れた年代,対象母集団,疾患の確認方法およ び基準などにより異なる.一般に,生存して いるイヌを対象とした調査では発生率は 1.7 (2)多発品種 一般的には小型の純血種に多発傾向がある 7