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生産・消費・再利用の 輪をつなぐ

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生産・消費・再利用の 輪をつなぐ
特別部門
6
地域に根差した食料生産で
[ 神 奈 川県 立相 原 高 等 学 校 畜 産 部 ]
神奈川県
神奈川県相模原市は、人口約71万3,000人の政令指定都市。
昭和20年代は、神奈川県の生産量の3割以上を占める養蚕や養
豚産地として知られましたが、
高度成長期以降、
東京都心のベッド
生 産・消費・再 利用の 輪をつなぐ
タウン化が進行。平成17年の市内経営耕地面積は、約644㌶、耕
地率は約5%と都市農業地域に変ぼうしました。
相原高校は、大正11年、地域住民による土地の寄付を受け、
農蚕学校として開校。現在、畜産科学科、食品科学科、環境土木
科、商業科など6学科があります。畜産部は、課外活動の部活動。
自主参加ですが、畜産科学科の生徒のほぼ半数が参加していま
す。
神奈川県相模原市
神奈川県立相原高等学校 畜産部 顧問
登 健太さん
てた生き物が食べ物になる過程をつ
ぶさに知ることになります。
神奈川県立相原高等学校畜産部は、都市化が進む相模原市の中で、地域の
学校給食や食品メーカーから排出される未利用資源を生かすエコフィード畜産
や、地元企業・商工会などと商品開発を実施。
これらの畜産物や加工品の直売
も手掛け、地元住民の行列ができる人気を得ています。
単なる
“農業生産”
ではなく、地元企業や商工会などと連携して有機物循環の
輪を築き、食と農を軸に地 域をつなぐ畜 産 部の活 動は、地 元 消 費 者に食と農 へ
の理解を広げると同時に、農業に夢を抱く若者たちも育てています。
「育てた牛を食べてみたい」
から始まった企業との連携
入、家畜生体肉質測定システム導入に
よる無駄のない肥育システムの確立な
ど、技術面では農家も顔負けの先進
相原高校畜産部が飼育しているの
性を持っています。
は、乳牛 6 頭、和牛 8 頭、母豚 3 頭、
地域の未利用有機物をリキッド飼
採卵鶏約 400 羽。飼養規模は小さい
料に加工して養豚に導入しています。
ものの、受精卵移植技術での和牛繁
養鶏でもエコフィードに取り組むなど、
殖や、休耕田を利用した飼料稲の導
地域に根差した環境保全型・低コス
■相原高校畜産部のプロジェクト経緯
飼料稲導入のための栽培に着手
平成17年
校内遊休農地を花畑にする
「地域にね
ざした花いっぱい運動」
スタート
ET技術による繁殖で、高品質和牛の子
18年
牛誕生
繁殖用牛の老齢化により、新宿中村屋
の協力でレトルトカレー開発着手
19年
給食残渣の養鶏飼料への導入試験ス
タート
鶏卵「相こっこ卵」の直売・学校給食への
提供など地域還元始まる
文科省「目指せスペシャリスト校」指定を
受ける
「相原牛カリー」商品化
小田急フードエコロジーセンターの協力
で、食品残渣のリキッド発酵飼料を導入
20年
齢牛を使ったレトルトカレーの商品化
です。19 年、繁殖用の肉牛が老齢牛
として処分されることになり、
「実質的
新宿中村屋の監修でカレー開発
牛の出産。受精卵移植での高品質和牛
繁殖を手がける
きないか』と声が出て、老齢牛も大切
トの農業の確立も模索。地元企業な
少なくありませんでした。でも、肥育
硬い肉質も、煮込めばおいしく食べ
どと連携して商品開発も手掛け、地
によって肉質がどう変わるのか目で分
られるのではないか……。小売店を
域で直売するなど、地域住民との交
かり、次第に生徒の意識が変わって
回り市場調査をした結果、生徒たち
流を重視しながら、地域と共生する
いきました」
(登教諭)。
が出した結論は、
「レトルトカレーにし
農業生産・販売を行っています。
その後、デリカフーズによる豚肉解
よう」。小売店で集めた商品の製造元
生産から販売までをつなぐ、地域
体講習会なども定期的に行われるよう
企業に片っ端から電話をかけ、協力
に根 差したプロジェクトが 始まった
になり、生徒たちは、自分たちが育
を依頼。カレーの老舗、新宿中村屋
に食べる方法を考えました」
(登教諭)。
が指導を引き受けてくれました。
きっかけは、
「出荷した牛を『引き取っ
て食べてみたい』という生徒の声でし
地元の未利用資源を利用し
エコフィード 畜産へ
た」と、畜産部顧問の登健太教諭は
振り返ります。
豚肉「あいはらポーク」、学校給食への
提供始まる
様、卸業者に出荷するだけで、自分
翌年の20 年には、新宿中村屋の監
たちの育てた牛を食べるどころか、枝
修の下で、本格的な商品化に着手し
肉になった姿も見たことがありません
ました。野菜も相原高校産とし、ビー
老齢牛を使った
レトルトカレー開発へ
登教諭は、食肉卸売業者に協力を
打診。たった1 頭の牛を枝肉にして出
荷先に戻す効率の悪さに難色を示す
業者が多い中、デリカフーズ株式会
社が協力を申し出ました。
「牛は肥育期間が長いだけに愛着が
JR橋本駅から徒歩1分の相原高校
あり、最初は枝肉を見たくない生徒も
商品化された
「相原牛カリー」。パッケージも同
校商業科の生徒が手がけた
50
フカレーとキーマカレーの2 種類を商
土日も夏休みも搾乳は生徒の仕事。
「 最も農 家
の仕事に近い農業高校では」と登教諭
ユズの搾りかすを使ったゆずマーマレー
ドを、市内藤野町商工会、ふじのと共同
開発
でした。
年 前まで地 域で販 売していたという
「 相原牛
乳」
を復活
エコフィード養豚で生産した豚肉を新宿
中村屋が中華まんじゅうに商品化
ゆずマーマレードと
「相こっこ卵」
を用いた
「相こっこプリン」
をオギノパンと共同開発
32
な命を無駄にしたくない。なんとかで
それまでは、多くの畜産農家と同
相原牛乳の販売を復活。行列のできる
人気を得る
畜産部の生徒たち
には焼却処分と聞いた生徒から『大切
発酵パンくずを用いた高品質・低コスト
豚肉生産試験
あいはらポーク、地元精肉店「ミートショッ
プすずき」
での販売も始まる
21年
その中から生まれてきたのが、老
33
中央審査会
■未利用有機物を通じた企業・地域との連携概念図
八木宏典委員長
東京みるく工房ピュア
(酪農家)
オギノパン
デリカフーズ
生乳処理
1
食肉解体
パンくず
枝肉供給
商品開発
食品残渣
カレー作り指導
中華まん製造
﹁相こっこプリン﹂
相原高等学校
畜産部
ユズ商品開発
藤野町商工会
ふじの
肉、卵提供・食育
給食残渣提供
「あいはら豚の中華まん」
育てるだけでなく、育てた牛や豚の
販売している。このような生徒自ら
の実践的な取り組みを通じて、生
リキッド発酵飼料
徒たちと消費者との間に交流が生
まれ、食を通じた新しい循環の輪が
小田急フード
エコロジーセンター
広がっている。
2
生徒たちが育てた肉用牛は、
精肉として販売するとともに、
養鶏では、地元小学校の学校給食
始めました。
屋の手によって、中華まんじゅうに商
の残渣や豆腐屋の豆腐かすを用いた
その間、同社による食品の品質保
品化。
「あいはら豚の中華まん」は、
飼料試験に着手し、
「相こっこ卵」と
証などについての集中講座や、東京
相原高校の人気商品の一つになって
して販売。飼料原料のパンくずを提
農業大学や明治大学と新宿中村屋の
います。
供してくれているオギノパンと共同で、
連携による「インドカリー」の調理実
一方、地元のパン屋・オギノパンの
習にも参加するなど、食品加工の研究
パンくずを用いた飼料試験も行い、肉
けました。
を継続しています。
質の向上を実証。精肉を「あいはら
このプリンに使用しているユズマー
食品企業で中華まんじゅうへ製品
畜産の世界では価値が低い老齢牛
ポーク」として地元小学校の給食や、
マレードは、
「ゆずの里」として知ら
加工して販売されるなど、生徒たち
や雄乳用牛も、レトルトカレー原料と
地元食肉店への販売も始めました。
れる市内藤野町の商工会や有限会社
た。
酪農でも、同校 OBでもある地元酪
農家「東京みるく工房ピュア」の協力
畜産フェア
食品企業と連携してレトルトカレー
(校内販売)
ミートショップ
すずき
に商品開発して販売し、乳牛から
地元小学校
ミウィ橋本
「相こっこプリン」の商品化にもこぎつ
搾る牛乳は地元の先輩たちの尽力
もあって
「相原牛乳」
として販売し
ている。養豚では、食品企業の廃
棄物を発酵飼料に加工して給与す
地 域 に 販 売・還 元
給食残渣を使った飼料試験
倍もの付加価値がつく現実も知りまし
食品残渣
生産された豚肉は、再び新宿中村
販売協力
品化。校内や地域イベントでの販売を
して商品 化まで手 掛ければ、約 2.6
るとともに、生産された豚肉は再び
ふじのとの共同開発品です。ユズの搾
広がっています。
のアイデアを生かした食の循環シ
りかすの活用方法を模索し、商品化
「出荷すれば終わりではなく、私た
ステムが形成されている。
につなげたものです。
ちの手で、こういうふうに育ててきた
という説明をきちんとできれば、地域
地域のリサイクルセンター目指す
との絆(きずな)も深まると思います」
と、畜産部長で畜産科学科3 年の福
3
地元小学校の学校給食から出
る食 品 廃 棄 物を鶏の餌にし、
卵を学校給食の食材として提供し
たり、校内の農地にコスモスや菜
JR 橋本駅前のショッピングセンター
島茜音さんは話していました。
牛乳」として商品化。販売を始めたと
のミウィ橋本から排出される有機物も
園芸福祉の考え方を取り入れ、校
ころ、行列ができる人気になりました。
引き受けたことをきっかけに、同ショッ
内農場に広大なコスモスやヒマワリ畑
ピングセンターも、相原高校畜産部
を作り、地域住民に開放もしています。
地域住民との交流と循環の輪も広
が生産した農産物や加工品の販売協
相原高校を軸にした有機物循環と地
がっている。
力を始めています。生徒たちが目指し
産地消を通じた“ひとの輪”は、これ
その後、生徒たちは、商品開発を
ているのは、
「地域のリサイクルセン
からも広がっていきそうです。
通じて出会った企業との連携をさら
ター」です。地域と共生し、農業を
で、低温殺菌処理した牛乳を「相原
広がる企業連携と商品開発
んさ)を有効活用できないかとアイデ
アを求められ、飼料にして養豚に導
入できないかと考案。リキッド発 酵
飼料プラントを開発した小田急フード
エコロジーセンターの協力を得てエコ
フィード養豚が始まりました。
オギノパンと 共 同 で 商 品 化 した
「相こっこプリン」
同社の製造過程で出る食品残渣(ざ
藤野町のユズ搾りかすから生まれ
た
「ゆずマーマレード」
に広げていきます。新宿中村屋から、
34
精肉販売協力
「あいはらポーク」
や「相こっこ卵」
は学校給食でも使用
産部では、牛や豚、鶏を校内で
肉を加 工して近 隣の都 市 住民に
新宿中村屋
技術指導
●相原牛乳
●相原牛
●あいはらポーク
●相こっこ卵
神奈川県立相原高等学校畜
の花を植栽して楽しめるよう開放す
るとともに、校内で飼養されている
動物たちと自由に触れ合えるなど、
4
これらの食を通じた高校生と地
域 住民との関 係は、生 徒たち
の学ぶことへの意 欲や職 業 観の
軸にした地域の資源循環サイクルを
醸成に大きく役立つとともに、将来
確立し、地域の人々にも循環型社会
の農業者を育てる起爆剤となって
について興味や関心を持ってもらうの
おり、
また、近隣の都市住民にも安
が狙いです。
心感や安らぎを与え、
新たな食の架
今春、乳牛の出産があり、搾乳牛
け橋のモデルになっている。
が増えたため、今後は、ヨーグルトや
アイスクリームなど、さらに加工品を
増やしていきたいと、生徒たちの夢は
地元で人気の「相原牛乳」
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