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第 7 章 エネルギー保存則

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第 7 章 エネルギー保存則
pLATEX 2ε : chap7 : 2015/6/3(18:5)
第7章
エネルギー保存則
§7.1 仕事
エネルギーの語源はギリシャ語のエネルゲイアである.これは「仕事をする
能力」を意味する.
1 次元空間,つまり直線上で,力 F (x) を受けながら物体を dx だけ変位させ
たときの力学的仕事 (work) は,力と変位の積で定義される:
dW ≡ F (x)dx
(7.1)
位置 xP から位置 xQ まで移動したときの仕事の総量は各微小区間で求めた仕
事の総和を積分で表す.すなわち
∫
W =
∫
xQ
dW =
F (x)dx
(7.2)
xP
2,3 次元空間では.力 F を受けながら,微小な距離 dr だけ移動したときの
力学的仕事は力と変位の内積 (inner product),
dW = F (r) · dr
(7.3)
で与えられる.ベクトルの内積を成分に分けて書くと,力 F = (Fx , Fy , Fz ) に
対して
dW = Fx dx + Fy dy + Fz dz
(7.4)
点 r P から点 r Q まで移動したときの仕事は経路を微小区間に分割して,各
微小区間で求めた仕事の総和で与えられる.経路に沿った積分のことを線積分
(line integral) とよぶ.
∫
rQ
W =
rP
1
F (r) · dr
(7.5)
pLATEX 2ε : chap7 : 2015/6/3(18:5)
第 7 章 エネルギー保存則
r(t)
dr5
θ5
F5
dr4
θ4
F4
dr3
θ3
dr2
r(0)
F3
θ2
dr1
θ1
F2
F1
図 7.1
線積分
§7.2 保存力と位置エネルギー
7.2.1 保存力
重力、バネの力、万有引力などでは仕事の値が起点と終点の位置だけによ
り,途中の経路によらない.このような力を保存力という.それに対して,動
摩擦力や粘性抵抗力は常に移動ベクトルと逆向きであり,その仕事は経路の長
さに比例する.途中の経路が長くなると仕事の値も大きくなる.このような力
は非保存力とよばれる.
7.2.2 位置エネルギー
重力に逆らって高さ h まで持ち上げた物体 A は,滑車などを用いると物体 A
の高さを下げることにより,他の物体Bを持ち上げることができる.このよう
に,他の物体に対して仕事をすることのできる能力をエネルギーという.高い
位置にあることによって持つエネルギーなので位置エネルギーとよぶ.重力以
外の保存力に対しても位置エネルギーが定義される.摩擦力や粘性抵抗力など
の非保存力に対しては位置エネルギーは定義されない.
物体が保存力 F を受けるときその力に逆らって,微小な距離 dr 移動したとす
ると、位置エネルギーの微小変化は
dU = −F dr
(7.6)
で定義される.位置 r Q での位置エネルギーは r P の位置エネルギー UP を基
準にして、線積分で求められる.
∫
rQ
UQ = UP +
(−F ) · dr
rP
重力 F = (0, 0, −mg) による位置エネルギーは
2
(7.7)
pLATEX 2ε : chap7 : 2015/6/3(18:5)
§7.2 保存力と位置エネルギー
∫
zQ
UQ = UP +
mgdz = Up + mg(zQ − zP )
zP
より,高さが zQ = z にある時の重力の位置エネルギーは zP = 0 のときの UP
を 0 とすると
U (z) = mgz
(7.8)
バネ定数 k のバネの力 F = −kx による位置エネルギーは
∫ xQ
UQ = UP +
xP
1
1
kxdx = Up + kx2Q − kx2P
2
2
より,のびが xQ = x にある時のバネの位置エネルギーはつりあいの位置
xP = 0 のときの UP を 0 とすると
U (x) =
1 2
kx
2
(7.9)
万有引力 F = −GM m/r 2 による位置エネルギーは
∫ rQ
UQ = UP +
rP
GM m GM m
GM m
dr = Up −
+
r2
rQ
rP
より,中心からの距離が rQ = r にある時の位置エネルギーは rP = ∞ のとき
の UP を 0 とすると
U (r) = −
GM m
r
(7.10)
このように,基準点を固定すると,その位置座標のみによって決まる量で
ある.
偏微分
ここで ∂f (x, y)/∂x や ∂f (x, y)/∂y のような記号は多変数関数 (この場合 2 変数
関数) において,他の変数を固定したまま一つの変数について微分する操作,偏微
分 (partial differentiation) を表し,偏微分した結果を偏導関数 (partial derivative)
とよぶ.すなわち
∂f (x, y)
f (x + ∆x, y) − f (x, y)
≡ lim
∆x→0
∂x
∆x
∂f (x, y)
f (x, y + ∆y) − f (x, y)
≡ lim
∆y→0
∂y
∆y
3
(7.11)
(7.12)
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第 7 章 エネルギー保存則
7.2.3 保存力と位置エネルギー
微小な距離移動したときの位置エネルギーと力の関係から
∆U (r) = −F (r) · ∆r.
(7.13)
簡単のため、2 次元系を考え、左辺を x-y 座標で表すと
∆U ≃ U (x + ∆x, y + ∆y) − U (x, y)
= U (x + ∆x, y + ∆y) − U (x, y + ∆y) + U (x, y + ∆y) − U (x, y)
≃
∂U
∂U
∆x +
∆y
∂x
∂y
(7.14)
右辺も成分で表すと
−F (r) · ∆r = −Fx ∆x − Fy ∆y
(7.15)
この関係が任意の ∆x,∆y に対して成り立つから
Fx = −
∂U
∂U
, Fy = −
∂x
∂y
(7.16)
の関係が成り立つ.つまり,力は位置エネルギーを表す関数 U (x, y) の偏導関
数として与えられる.位置エネルギーの偏導関数として与えられている力 (保
存力)は
∂Fy (x, y)
∂Fx (x, y)
∂2U
=
=−
∂x
∂y
∂x∂y
(7.17)
を満たす.この関係は力 F = (Fx , Fy ) が保存力であるための条件である.
7.2.4 仕事およびエネルギーの単位
1N の力で物体を 1m だけ変位させたときの仕事を 1 ジュール (joule) と呼び
1J と表す:1J = 1N × 1m = kg · m/s2 × m = kg · m2 /s2 .単位時間あたりの
仕事を仕事率といい,その単位をワット (watt) とよび W と表す:1W = J/s.
19 世紀,ジェームズ・プレスコット・ジュールはおもりの力によって水を
攪拌する実験を行い,仕事によって水の温度が上昇することを確かめた.熱と
力学的エネルギーが等価であることが確かめられ,熱量の単位であるカロリー
(calorie;cal) と仕事の単位であるジュールが 1cal ≃ 4.2J という関係で結ば
れていることがわかった.現在知られている正確な関係は 1cal ≃ 4.1855J で
ある.
4
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§7.3 エネルギー保存則
§7.3 エネルギー保存則
エネルギー保存則を議論するために,運動方程式
m
dv
= F (r)
dt
(7.18)
の両辺について速度 v との内積をとって,時刻 0 から時刻 t まで積分する:
∫ t
∫ t
m
0
dv
· vdt =
dt
F (r) · vdt
(7.19)
0
ここで v = |v| を速度ベクトル v の大きさ,つまり速さとして,運動エネル
ギーを
K(v) ≡
mv 2
2
(7.20)
によって定義すると,質量が変化しないことから
( )
dK
d v2
d (v · v)
dt
=m
により式 (7.19) 左辺は
∫ r(t)
∫
m
r(0)
dv
· dr =
dt
t
0
dt
2
dK
dt =
dt
=m
∫
dt
K(v(t))
2
=m
dv
·v
dt
(7.21)
dK = K(v(t)) − K(v(0)) (7.22)
K(v(0))
と表すことができる.
つぎに力が保存力の条件を満たす場合を考えると式 (7.19) 右辺について
∫ t
∫ r(t)
∫ t
F (r) · vdt =
0
F (r) ·
0
が成り立つことから,
∫ r(t)
dr
dt =
dt
F (r) · dr
(7.23)
r(0)
F (r) · dr = −U (r(t)) + U (r(0))
(7.24)
r(0)
を得る.式 (7.20),式 (7.24) を運動方程式の積分 (7.19) に代入し,移項すると
K(v(t)) + U (r(t)) = K(v(0)) + U (r(0))
(7.25)
が成り立ち,全エネルギー
E ≡K +U =
mv 2
+ U (r)
2
(7.26)
が時間と共に変化しないことがわかる.つまり力が保存力の条件を満たす系で
は全エネルギーは保存する.
5
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第 7 章 エネルギー保存則
第二宇宙速度
半径 R の地球表面から飛び出した物体が地球の引力圏から抜けだすのに必
要な最小初速度 v のことを第二宇宙速度 (second cosmic velocity),あるいは
脱出速度 (escape velocity) と呼ぶ.
U
R
r
− GMM
R
図 7.2 重力ポテンシャル
エネルギー保存則は K を運動エネルギー,U をポテンシャル・エネルギー,
E を全エネルギーとして
K +U =E
(7.27)
である.無限遠に行ったときに運動エネルギーが残っていれば(K ≥ 0)脱出
可能である.物体の質量を m,地球の質量を M⊕ として,脱出速度 v は
mM⊕ G
mv 2
−
=0
2
R
(7.28)
が条件である.式 (7.28) を用いて,整理して,
√
v=
2M⊕ G √
= 2gR ≃ 11.2km/s ≃ 40000km/h
R
(7.29)
である.地球の引力圏を脱するためにはこのように大きな速度を要する.
6
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