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すべての子どもたちに 使いやすい教科書であるために

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すべての子どもたちに 使いやすい教科書であるために
すべての子どもたちに
使いやすい教科書であるために
MIM を実践された先生方の声
●「動作で覚えるのは一年生にはかなり
●「視覚的なものと文字を合わせたり,動
効果的。体を使ってリズミカルに練習
作を合わせて文字を読んだりしたこと
∼「新編新しい国語」における特別支援教育への対応∼
でき,喜んで学習していた。
」
が,子どもには理解しやすかった。
」
●「この指導の後は,動作化しながら書い
●「国語科以外の時間にも活用した。
」
たり,言葉を口に出して確認しながら書
平成27教
内容解説資料
かい づ あ き
こ
国立特別支援教育総合研究所 海津亜希子
■不要なつまずきをさせない支援の重要性 文部科学省による調査で,通常の学級に在籍
する児童の 6.5%程度に特別な教育的支援を必要とする子どもたちがいるという結果が出
いたりする姿が見られた。
」
●「子どもたちが興味を持って,独自の
動作化を考え出していた。うちのクラ
●「1年のときにこの学習をした子ども
スでは,両手で『つ』の形を作ること
たちは,2 年になってからも表記の誤
にした。
」
りが少ない。
」
ました(2012 年)。特別支援教育は「特別な(場での)教育」ではないことを,この結果
は物語っています。支援を要する子どもの中で LD(学習障害)を抱える子は,知的発達
は平均もしくはそれ以上でありながら,読むこと,書くこと,計算することなどのある特
定の領域に落ち込みを見せます。彼らのつまずきは,ともすると目に見えにくく,それゆ
え気づいた時には深刻な学習面のつまずきにまで及んでいたり,意欲や自信の低下といっ
た二次的な問題まで生じさせてしまうことも残念ながら少なくありません。
つまずきの要因を探り,個に応じた支援を行うことはもちろん重要です。それに加えて,
私は昨今,「つまずく前の,いわば先回りの支援」の重要性について痛感しています。教
ほかにも,教科書にはさまざまな工夫があります。
■改行位置の工夫
え方によって,つまずく必要のなかったつまずきを回避できる可能性があるのです。
■特殊音節の指導が重要なわけ LD を抱える子どもたちにとってつまずきの要因となる
■行数表示の工夫
一対一に対応しないため,頭の中での音の操作が困
難な子にとって習得が難しいと考えられます。語を
についての新たな指導法とアセスメントを取り入れ
て,通常の学級におけるさまざななニーズに応じた指導・支援をしていくモデルとして研
3
ミ ム
5
﹁また ﹂﹁さらに ﹂
などの 言葉に 気を
つけて 読んでいき
ましょう 。
調
10
落
*では
育
5
守
10
で分かれないよう改行位置を工夫しました。
40
線に,従来からある五行ごとの行数字に加えて,
単元のねらいである文章の内容把握に至る前
一行ごとに点(・)を付けました。これにより,
段階で不要なつまずきをしないよう配慮して
行のとらえやすさが格段に向上しました。
新
5
しら べる
チョウ
全学年において,物語・説明文教材の脚注罫
お ちる
お とす
ラク
低学年においては,単語や文節が行をまたい
そだ つ
そだ てる
はぐく む
イク
まも る
シュ
ス
語のまとまりをとらえやすくするために,
います。
たたく
たたく
手だてが必要です。ここに焦点を当てて,特殊音節
たたく
的なところでつまずかせないために,習得のための
にぎる
とつながっていきます。特殊音節の読みという根本
たたく
正確に素早く読むことは文章の内容を読み解く力へ
ちがう ところに きを つけましょう。
す。特殊音節は他の仮名文字と異なり音と文字とが
ちいさい
は、
お とが でな い しるし。
また、トノサマバッタは、自分の体の
色がほご色になるような場所をえらんで
すんでいるようです。トノサマバッタに
は、緑色のものとかっ色のものがいます。
野外で調べてみると、緑色の草むらにい
るのは、ほとんどが緑色のバッタで、
かっ
色のかれ草や落ち葉の上にいるのは、ほ
とんどがかっ色のバッタです。
さらに、まわりの色がへんかするにつ
れて、体の色がかわっていくこん虫もい
たんぽぽ
ます。ゴマダラチョウのよう虫は、エノ
キの葉を食べて育ちます。秋になり、エ
ひらやま かずこ 文・え
ノキの葉が黄色くなる
につれて、この虫
んも
ぽ、ぽ
ょ色
うにぶ
の体た
の色
だは
んだじ
ん黄
かな
わってい
ふまれたり、
き草
まで
す。
す。はが
このほかにも、ほご色によって上手に
つ
みとられたり しても、
身をかくして、てきから身を守っている
また 生えて きます。ねが
こん虫は
たくさんいます。
生きて いて、新しい はを
ん虫は、どんなと では、こ
きでもてき
り守
出るす
。るのでしょうか。
かつ
らく
身を
この
とで
がす
でき
こん虫を食べる鳥やトカゲなどが色を
見分ける力は、人間と同じくらいです。
ですから、こん虫のほご色は、人間の目
んの
ぽとぽ
をに、ほ
みました。ながい ねです。
を だた
ます
同の
じ くね
らい
れて
ら のて
こっ
ものの一つが,入門期で学習する促音(「っ」)や拗音(「きゃ」など)などの特殊音節で
3
2
3
1
1
究・開発したのが多層指導モデル MIM(Multilayer Instruction Model)です。この
1
2
2
4
指導法では,音と文字との結びつきを理解するために視覚化(マーク)と動作化を取り入
れています。通常の学級で MIM の実践を重ねたところ,特別な支援を必要とする子はも
3
1
2
1
ちろんのこと,その他の学力層の子どもたちにまで読む力,書く力の向上が見られました。
今回の「新編 新しい国語」には,こうした研究知見を活かした内容が存分に含まれて
1
います。すべての子どもが手にする教科書を通して,子どもに豊かな学びを提供しようと
39
する姿勢が随所に感じられる,今までにありそうでなかった教科書だと思います。
あたら しい
たたく
たたく
ねじって
たたく
たたく
◀いしやといしゃ(1上P )
ち
が
う
と
こ
ろ
に
き
を
つけましょう。
たたく
たたく
ちがう ところに )きを つけましょう。
◀おばさんとおばあさん(1上P
たたく
たたく
たたく
2
4
し
■ MIM の効果 このような指導法を通常の学
級で取り入れた結果,学習面で苦戦しがちな子
や
可能になりました。
ねじれる音は,二つの音が一つに
なっているから,てのひらを合わせて
ねじるようにして握るんだよ。
マークも丸が二つ重なっているよ。
しゃ
と認識し,その上で表記につなげていくことが
あ おかあさん
動作化
い おにいさん
これにより,まず,音の違いや特徴をしっかり
視覚化
文字
ク)や動作化(音の特徴を表した動作)です。
音
える形で表した視覚化(音の特徴を表したマー
う ふうせん くうき
るか。そこで考えたのが,音の特徴を目に見
とけい
1
性が出てきます。見えない音,すぐに消えてしまう音をいかに子どもたちにわかりやすく伝え
せんせい
文字と音とが対応していない特殊音節。その対応関係,音のメカニズムを子どもに伝える必要
え おねえさん
お おとうさん そうじ
1
おおかみ
こおり
3
■見えない音を「見える」形にする 特殊音節の指導を考える際に重要なのは「音」の役割です。
39
たたく
たたく
たたく
1
のばす音は,たたいた手を
そのまま下におろすんだよ。
のびてる感じがよくわかるね。
2
49
3
2
3
1
小さい「つ」は音が出ないから,
1
2
小さい丸で表すよ。手をたたかずに
グーの形で握るんだね。
1
たたいて お
ろす
たたく
にぎる
きを つけましょう。
たたく
たたく
ちいさい
は、
お とが でな い しるし。
3
たたく
ちとが
うこ(1
と上こ
◀ねこ
ねっ
Pろ
)に
39
どもたちにはもちろんのこと,異なる学力層の
子どもたちにまで効果がみられました。MIM
を取り入れた児童群と平常授業を行った児童群
を,特殊音節の表記に関する聴き取りテストや読書力検査(読字力,語彙力,文法力,読解力)
を行って比較したところ,すべての項目において MIM を取り入れた児童群が上回っていたので
す。LD の子どもたちの学習を通して見えてきた「つまずきやすい課題」と「それを克服する指
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■自ら学べる術を伝える 視覚化や動作化を通じて,楽しみながら学習している子どもの様子
導法」が,他の子どもたちにとっての学びやすさにつながることがわかってきたのです。
も多くみられます。さらには,わからない時でも,
「手をたたいて確認する術」を得たことが,
MIM についてもっと詳しくお知りになりたいときは
子どもたちにとって大きかったと思います。つまずいた時に,どこに戻って,どう解決したら
○多層指導モデル MIM「読みのアセスメント・指導パッケージ」
(書籍+教材)
学研教育みらい
よいかを子どもに伝えることは重要です。
「前に習ったでしょう。
「
」何回も書いて覚えましょう。
」
といった声かけは支援とは言えません。
○通常の学級における多層指導モデル(MIM)の効果―小学 1 年生に対する特殊音節表記の読み書きの
指導を通じて―(研究論文)
http://ci.nii.ac.jp/naid/110007028200(国立情報学研究所論文ナビゲータ CiNii)
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