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3)細胞融合
(第 5 章 細胞融合) 3)細胞融合 ここではラットリンパ節細胞とミエローマを融合させるためにポリエチレングリコール (PEG)を用いる。細胞融合に必要な試薬の準備は大変な作業である。前もって作製し保 存できるものを保存しておくと、細胞融合の当日は意外と時間的余裕がある。培養に関す る培地、細胞への操作は無菌的に行う。 器具・機械 ・50 ml 用プラスチック製遠沈管 ・96 穴アッセイプレート:ファルコン CAT. No. 3075 4∼8 枚 ・24 穴プレート:24 ウエルマルチウエルプレート ファルコン CAT. No. 3047 ・50 ml 用ガラス遠沈管:円錐、スクリューキャップ付き、50%PEG 液の作製に使用 ・ピペットマン ・9 インチパスツールピペット ・マルチチャンネルピペッター(クリーンベンチでの使用を考えるとコーニング社の 12 連の ものが 8 連に比べて圧倒的に使いやすい。) マルチチャンネルピペッター(コーニング社製)とリザーバー ・マルチチャンネルピペッター用リザーバー:高圧蒸気滅菌可、東洋紡エンジニアリング、 4870-A ‐ 2 ‐ アルマイト製弁当箱内で高圧蒸気滅菌されたリザーバー ・滅菌フィルター:ポアサイズ 0.22μm 試薬・細胞 ・ミエローマ-リンパ節細胞浮遊液:ミエローマ 1∼2 x 107個とリンパ節細胞 0.5∼1 x 108 個を含む ・ウシ胎児血清(FBS):BioWhittaker, Cat. No. 14-501F 他 ・DMEM 培地:和光純薬 390-00695(500 ml) ・GIT 培地:和光純薬 500 ml x 1 本、398-00515;500 ml x 10 本、396-00511 ・HAT 培地:血清添加 GIT 培地(GIT 培地に 10%FBS を添加したもの)中にヒポキサンチン 100 μM、アミノプテリン 0.4 μM、チミジン 16 μM を加えたもの。 ・ヒポキサンチン:和光純薬、088-03402、(分子量 136.11) ・アミノプテリン:和光純薬、534-04691(Fluka 09328)、(2 水塩・分子量 476.45) ・チミジン:和光純薬 205-08091(分子量 242.23) ・Dimethyl Sulfoxide (DMSO):(分子量 78.14)和光純薬、349-01025 ・1M NaOH(1N 水酸化ナトリウム溶液):和光純薬、192-02175) ・BM-Comdimed H1:ロシュ・ダイアグノスティックス、製品番号 1 088 947 ・ポリエチエチレングリコール(PEG):Merck 社、ガスクロマトグラフィー用 PEG4000、カタロ グ No. 9727;ポリエチエチレングリコール 1500(PEG1500)ロシュ・ダイアグノスティックス、 製品番号 783 641 (4 ml x 10 本) BM-Comdimed H1 ‐ 3 ‐ 試薬の調製・準備 ・100 倍濃厚ヒポキサンチン・チミジン溶液の調製(250 ml)と保存 1. 340.3 mg のヒポキサンチンと 96.9 mg のチミジンを 250 ml の再蒸留水に溶かす。 2. 70℃に温度をあげて溶解させる。 3. 遠沈管(15 ml)に 7 ml ずつ分注し、-20℃で凍結保存する。 ・1000 倍濃厚アミノプテリン溶液の調製(100 ml)と保存 1. 19.1 mg のアミノプテリンを約 50 ml の再蒸留水に添加し、1M NaOH を数滴加え て完全に溶解させる。 2. 最終液量を 100 ml に調製する。 3. アシストチューブ(2 ml)に 1.2 ml ずつ分注し、-20℃で凍結保存する。 ・50%ポリエチレングリコール(PEG)4000 の調製と保存 (ポリエチエチレングリコール 1500(PEG1500)ロシュ・ダイアグノスティックス、製品番号 783 641 を用いても同様の融合効率が得られている。この場合はPEGの調製が不要であ る。ただし、使用回数が少ないのでこの試薬の良否は未知である。細胞融合効率は変わ らないが細胞毒性が高いかもしれない。Merck社のPEGをまずは使用してほしい。) 1. 5.0 g の PEG4000 をスクリューキャップ付きガラス遠沈管に入れ高圧蒸気滅菌を 10 分間かける。 2. 滅菌している 40 分間に、50 ml 用プラスチック製遠沈管を使用して、DMEM 培地 8.0 ml に 0.4 ml の DMSO を加え(DMEM 培地 5%DMSO)、50℃のお湯を入れたステンレスカ ップにつけ、温度を 50℃付近に上げておく。 3. PEG4000 は滅菌後、滅菌器から出して 50℃のお湯を入れたステンレスカップにつけ る。(溶けた状態の PEG が固化しないようにする)。 4. クリーンベンチ内に溶けた状態の PEG4000 と DMEM 培地 5%DMSO を持ち込み、5.0 ml の DMEM 培地 5%DMSO を 5 ml 用ピペットマンを使用して PEG4000 に加え素早く 振って混ぜる。 5. 保存するには滅菌されたチューブに 1.2 ml または 2.2 ml で分注し、室温で保存する。 (6 ヶ月は保存できる。)1 回の融合では 1.0 ml 使用する。 *DMEM 培地の代りに RPMI1640 などの無血清培地を用いることができる。GIT 培地では 白濁するため用いることができない。 ‐ 4 ‐ スクリューキャップ付きガラス遠沈管と保存中の 50%PEG 液と Merck 社のポリエチエチレングリコール(PEG) ポリエチエチレングリコール 1500(PEG1500) ロシュ・ダイアグノスティックス ・血清添加 GIT 培地の調製と保存 1. GIT 培地(500 ml)に 10%の割合になるようウシ胎児血清(55 ml)を加える。 2. 4℃で保存する(3 カ月間)。 ・HAT 培地の調製(500 ml)と保存 1. 凍結保存のヒポキサンチン・チミジン 100 倍濃厚液 をお湯(60℃)につけて溶か す。一度溶けると室温でも溶けている。凍結保存 1000 倍濃厚アミノプテリン溶液を 解かす(お湯につけなくとも溶ける)。 2. 15 ml ディスポーザブル遠沈管に入ったヒポキサンチン・チミジン 100 倍濃厚液 7 ml に 1000 倍濃厚アミノプテリン溶液 0.7 ml を加え、よく混ぜる。 3. この混合液を 10 ml のディスポーザブル注射器に吸い込み、滅菌フィルターを通 して 50 ml ディスポーザブル遠沈管に回収する。 4. 500 ml(555 ml)の血清添加 GIT 培地に3.で滅菌した溶液 5.5 ml(6.0 ml)を加え、 よく混ぜる。 5. 4℃で保存する(3 カ月間)。 ‐ 5 ‐ 方法 1. 50%PEG1 本と 10 ml の DMEM 培地を 37℃の CO2 インキュベーターに前日から入れ ておく。(それぞれ適当なサイズのビーカーに立て掛けると良い。DMEM 培地はチュー ブの蓋をゆるめ pH が CO2 インキュベーターで 7.2 になるようにする。) 2. 堅くパックされているミエローマ-リンパ節細胞沈渣が入っている遠沈管を指ではじい て撹拌する。*1 3. 37℃の温水が入ったステンレスカップに浸け 2 分間インキュベートする。(この間に PEG をタイミングよくインキュベーターから取り出す) 4. 1 ml 用ピペットマンチップで予め 37℃に保温した 1 ml の PEG を取り、遠沈管を優 しく揺すり、1 分間程度かけてゆっくりと滴下する。 5. 1∼2 分間反応させる(この間に温めた DMEM 培地をタイミングよくインキュベーター から取り出す)。(チューブを強く振らない。)*2 6. 37℃に温めた 4.5 ml の DMEM 培地を 5 ml 用ピペットマンを用いて 3 分間かけて遠沈 管を軽く振りながら添加する。 7. さらに 4.5 ml の DMEM 培地を 2 分間かけて添加する。 8. 1580 回転(450 x g)、3 分間遠心する。 9. 上清を吸引除去する。HAT 培地を 37 ml 加え、沈渣を 5 ml 用ピペットマンで緩やかに 浮遊する。(ここまでで約 20 分間かかる) 10. 5 ml 用ピペットマンを用いて BM-Condimed H1 を 4 ml 加え*3、ついでに沈渣を緩 やかに浮遊する。マルチチャンネルピペッター用リザーバーに移し、4 枚の 96 穴プレー トに 100 μl/ウエルずつ分注する。*4 11. 炭酸ガス培養装置内で培養する。 12. 5∼7日後に*5、培地を BM-HAT 培地 150∼200μl と交換する。*6 13. 培地を交換して 2∼3 日後、ウエルの培養上清を取って抗体活性を ELISA スクリー ニングする。*7 注意・参考事項 この方法は細胞融合の一般的なものを、B細胞の起源がリンパ節であることを考慮して、 より簡単にしたものである。 *1 ミエローマ細胞とリンパ球は遠心によりパックされ、細胞膜が接着している状態と考 えられる。これを遠沈管の先を指先で強くはじいて沈渣をほぐす。ほぐさなくてはい けないが、ほぐし過ぎるのも良くないようである。 ‐ 6 ‐ *2 細胞が 50%PEG に入っている時間は 3 分間で十分である。これ以上長い時間は細胞 を弱らせる原因になりかねない。BM-Comdimed H1 の使用説明書では 2 分間である ことから 2 分間でも十分なのかもしれない。 *3 培養の条件が良いときには、BM-Comdimed H1 の濃度は 5%で用いても実際には問 題がない。10%では 5%のときより 25%ほどコロニー数が多い。十分な数の陽性ウエル が出現する場合には 25%程度の増加はそれほどありがたくはない。BM-Comdimed H1 を節約したほうがありがたいことが多い。BM-Comdimed H1 は 1 ml、約 400 円で ある。1 回の融合につき約 2400 円の節約になる。クローニングを含めるとかなりの 節約になる。 *4 約 1 週間後の ELISA でほとんどすべてのウエルが陽性になるような場合は次回の融 合では(1)8 枚以上の 96 穴プレートに播く、(2)半分の細胞を今までの濃度で、残り 半分を今までの半分の細胞濃度で播く、などの細胞濃度を変えるとよい。一般的に はリンパ節が大きい時は 6∼8 枚のプレートに播くのがよい。 *5 培地の交換時期はウエル内のコロニーを形成する細胞数が 64∼100 を越えた時で ある。培地は追加するのではなく、交換すべきである。多くのコロニーができた場合、 培地を交換しなければ、最初から抗体がウエル内に累積しているため ELISA のバッ クグラウンドが高くなり、ウエル内で増殖している細胞が産生する抗体量を推定でき なくなる。5 日後に交換するのが順調に進んでいる場合である。 *6 培養プレートを手で持ち上げ、45 度程度に傾け、先端を火にあぶり先端を丸くした 5 インチパスツールピペットをウエルの壁に沿って動かして上清を吸引除去する。一 部の細胞も吸引されるがラットリンパ節法では多くの陽性細胞が出現するので大勢 には影響がない。この段階で HAT 培地から 5%BM-HT 培地に切り替える。 *7 200μl の上清から 100μl 取った段階で大きなコロニーの数を数える。5 コロニー程度 あれば平均的な細胞融合である。10 コロニーを越えるようであれば最適の細胞融 合である。もしコロニーが 1、2 個程度であれば細胞融合のステップになんらかの問 題がある。 *同時に 2 回の細胞融合を独立に行う場合は、1 回毎の融合で2.から9.のステップは連 続して行う。 ‐ 7 ********** ‐ 原因は何? ********** 陽性ウエルが極端に少ないことがときどき起きる。この原因を見つけるのは大変である。 原因となりそうなものには次のようなものがある。 1. ラットの抗体価が上昇していない場合。この場合は注射した抗原に問題がある。抗原 の抗原性が低い、他にペプチドの場合は KLH への結合がうまくいっていない、また、サ ンプルの間違いなどの原因が考えられる。 2. 融合細胞のコロニー数が少ない場合。この場合は細胞融合時に問題がある。細胞融 合で PEG 溶液に長い時間入れていた、遠沈管を激しく振ったため SP2 細胞とリンパ球 の接着を離してしまった、激しくピペッティングするなどで融合細胞を傷めすぎた、 DMEM 液の古いもの(以前に CO2 インキュベーターに入れたことがある DMEM)を使用 したというようなことが考えらえる。 ******************** 炭酸ガス培養装置の内部:1回の細胞融合の細胞が 4 枚の 96 穴プレートに播かれて培養 されている。左上はスクリーニングを終えたプレート。右上は SP2 細胞の培養フラスコ。左 下のプレートは培養 5 日目で HAT 培地を交換したところ。右下のプレートは蓋に陽性ウエ ルの印が付けられている。