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MBP - 日本麻酔科学会

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MBP - 日本麻酔科学会
術後回復能力強化プログラム
ERAS
谷口英喜
神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科
(神奈川県立がんセンター麻酔科非常勤医師)
平成23年5月21日 第4回周術期セミナー
カテゴリー :術前
術後回復能力強化プログラム
Enhanced recovery after surgery
ERAS 通称“イーラス”
術後回復能力強化プログラム
Fast Track(米国)
ERAS(北欧)
ACERTO(南欧)
acceleration of total postoperative recovery project
日本にも、、、、
術後回復能力を強化するとは?
1POD
身体機能・栄養・各種検査データ
どんな、イメージか?
手術
術後回復能力強化プロトコール型管理
従来型管理
手術数日後
谷口英喜「ペインクリニック」2010年6月号
手術数週間後
“特集/術後鎮痛の新しい展開”
何で、評価するのか?
Primary end point
”術後回復能力強化“
Secondary end point
術後感染症発生率の低減
安全性の改善
在院日数の短縮/コストの削減
Scharfenberg et al、“Fast-track” rehabilitation after colonic surgery in elderly
patients—is it feasible? Int J Colorectal Dis,2007
どんなことで
術後回復能力が強化することができるのか?
答え
Evidenceに基づいた医療行為を実施する
対象となる術式は?
 結腸開腹手術
 開腹胆嚢摘出術
 腹腔鏡下胆嚢摘出術
 鼡径ヘルニア根治術
 副甲状腺摘出術
 人工骨頭置換術
 腹腔鏡下腎摘
 肝臓切除術
 高齢者結腸手術
 腹部大動脈瘤
 ASAPS Ⅱ・Ⅲの結腸手術
 膵頭十二指腸切除術
高齢者や栄養に問題のある症例に良い適応
今日のポイント
術後回復能力強化プログラムは
1. Evidenceに基づいた医療行為
2.既に、皆さんの知っている医療行為
3.多職種協働医療で成立する医療行為
ある日本の大学病院HP
「患者さん向け入院案内」より抜粋
腹腔鏡下大腸切除術の術前処置
手術の前日から食事制限をします
下剤を飲んでもらいます
(マグコロールP250mL内服+ラキソベロン液内服)
Mechanical bowel preparation
MBP
1. 絶飲食
2. 緩下剤投与
3. 抗生剤消化管内投与
食事療養費
1食: 640円
人件費
食事療養費
こんなにつらいMBPだから
本当に予後は改善するよね?
患者
stress
医療従事者
stress
Cochrane Database Syst Rev. 2009
下部消化管手術において
MBPによるメリットは認められない
Guenaga K, Matos D, Wille J.:Mechanical bowel preparation for elective colorectal
surgery. : In Cochrane Database Syst Rev. 2009 Jan 21;(1):CD001544, Review
MBPはなぜ悪い?
消化管粘膜壁構築の乱れ
便液状化による術中汚染
脱水⇒低血圧⇒大量輸液⇒腸管浮腫
Harris L, Moudgill N, Hager E, et al.: Incidence of anastomotic leak in patients
undergoing elective colon resection without mechanical bowel preparation:
Our updated experience and two-year review. Am Surg.75:828-833,2009
MBPと同様に




術前絶飲食
術後胃管留置
腹部手術後ルーチンのドレーン留置
術後の腸管安静
効
率
化
簡
素
化
安
全
術後回復能力強化プログラムを構成する方策と期待される効果(結腸周術期 22のevidence)
No
構成する方策
期待される効果
1
入院前の十分な情報提供と努力目標の確認 不安解消と行動目標の明確化
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
術前腸管前処置の廃止
術前絶飲食の廃止
術前投薬の廃止
低分子ヘパリン等の少量使用
抗生物質単回投与
短時間作用麻酔薬の使用
硬膜外麻酔の有効利用
手術創の短縮努力
術後経鼻チューブ留置の廃止
術中低体温の予防
周術期補液過負荷回避
不要なドレーンの廃止
膀胱カテーテル使用期間の短縮
術後嘔気、嘔吐予防策の定型化
術後腸管運動促進
術後疼痛制御の徹底
術後早期の経口あるいは経腸栄養開始
早期離床促進プログラム策定
退院基準の明確化
退院後フォローアップケアの促進
臨床的アウトカムの報告義務化
脱水・電解質異常の回避、消化管壁構築維持
口渇感・空腹感軽減、不安感解消、術後インスリン感受性維持
術後早期覚醒、術後抑制軽減
血栓形成の予防
感染症合併症回避
術後早期覚醒、早期離床促進
侵襲反応の軽減、蛋白異化抑制・合成促進、疼痛軽減
疼痛軽減、呼吸器系合併症回避
無気肺、肺炎の回避
創感染減少、循環器系合併症の回避、凝固能維持
腸管機能回復促進、呼吸器系合併症回避
早期離床の促進、感染回避
早期離床の促進、感染回避
早期経口摂取開始の促進、早期離床の促進
早期経口摂取開始の促進
侵襲反応の軽減、早期離床の促進、早期経口摂取開始の促進
感染症合併症の低減、早期経口摂取開始の促進
筋力低下軽減、静脈血栓形成予防
目標の明確化
不安の解消
プログラムの評価および改善、フィードバック評価
Fearon KC, Ljungqvist O, Von Meyenfeldt M, Revhaug A, Dejong CH, Lassen K, et al. :
Enhanced recovery after surgery: a consensus review of clinical care for patients
undergoing colonic resection. Clin Nutr 24(3):466-77. 2005
具体的には何をするのか?
術式によりプロトコール化
結腸手術周術期を例に
推
奨
術前
推
奨
術前夜からの絶飲食をやめる
推
奨
液体飲料を摂取する
clear fluidsなら 2-3時間前まで
推
奨
MBPは、必要最低限にする
術前緩下剤の適応は
 必要な術式としては、
左半結腸および直腸手術くらい
 日常的に、緩下剤を常用している症例
Harris L, Moudgill N, Hager E, et al.: Incidence of anastomotic leak in patients
undergoing elective colon resection without mechanical bowel preparation:
Our updated experience and two-year review. Am Surg.75:828-833,2009
術後
推
奨
インスリン感受性を維持する
ブドウ糖
インスリン
細胞内
レセプター
(%)
100
p<0.001. ANOVA
80
イ
ン
ス
リ
ン
感
受
性
n=6-13
60
40
20
0
腹腔鏡下
結腸切除術
ヘルニア 開腹結腸
切除術
結腸直腸
手術
Thorell et al.:Curr.Opin.Clin. Nutr. Metab. Care 1999
術後のインスリン感受性変化率(%)
Type of surgery
Type of pre-operative
carbohydrate
Controls Treatment group
P
Reference
開腹胆嚢摘出術
前夜から輸液
-55
-32
<0.01
Ljungqvist et
al.(1994)
人工骨頭置換術
インスリンも加えた
輸液
-40
+16
<0.01
Nygren et
al.(1998)
結腸・直腸手術
経口的
-49
-26
<0.05
Nygren et
al.(1998)
結腸・直腸手術
人工骨頭置換術
経口的
-37
-16
<0.05
Soop et al.(2001)
Ole Ljungqvist et al. Proceedings of the Nutrition Society (2002), 61, 329-335
インスリン感受性を保つ3つの工夫
術前
推
奨
術前に炭水化物含有(12.5%)飲料の摂取
術後
早期離床・リハビリテーション
術後の胸部持続硬膜外鎮痛
Fearon KC, Ljungqvist O, Von Meyenfeldt M, Revhaug A, Dejong CH, Lassen K, et al. :
Enhanced recovery after surgery: a consensus review of clinical care for patients
undergoing colonic resection. Clin Nutr 24(3):466-77. 2005
Evidenceのある高濃度(12.5%)炭水化物含有飲料
術前夜800mL+術前2-3時間前400mL
わが国では術前の炭水化物含有飲料の負荷は不可能
12.5%炭水化物濃度のみ有効性のevidenceがあるため
腸管蠕動を促進するために食べる
早期経口栄養摂取
持続胸部硬膜外麻酔
薬物療法
理学療法
術後
Wind, et al.Perioperative strategy in colonic surgery; LAparoscopy and/or Fast track
multimodal management versus standard care (LAFA trial) BMC Surgery 2006
消化器系の手術にドレーンは使用しない
肝臓・結腸・初回直腸術後は不要
(Grade A)
慢性肝疾患を伴った肝臓手術や、虫垂炎切除
後のドレーン留置は有害
(Grade A)
Petrowsky H, et.al.Evidence-based value of prophylactic drainage in gastrointestinal
surgery. A systematic review and meta-analyses. Ann Surg 2004;420:1074–85.
術後
ルーチンの胃管使用はしない
術中に入れても良いが、不必要ならすぐに抜去
術後胃管をルーチンには使用しない(GradeA)
胃管の存在が、経口摂取の開始時期を遅らせる
Fearon KC, Ljungqvist O, Von Meyenfeldt M, Revhaug A, Dejong CH, Lassen K, et al. :
Enhanced recovery after surgery: a consensus review of clinical care for patients
undergoing colonic resection. Clin Nutr 24(3):466-77. 2005
術後
早期離床・経口開始
手術当日にも、2時間は離床する
その後は、毎日6時間は離床する
手術当日4時間後には、経口摂取を開始する
Fearon KC, Ljungqvist O, Von Meyenfeldt M, Revhaug A, Dejong CH, Lassen K, et al. :
Enhanced recovery after surgery: a consensus review of clinical care for patients
undergoing colonic resection. Clin Nutr 24(3):466-77. 2005
術後
術後回復能力強化プログラムは
患者・医療従事者に stress freeを提供
管理でできること
術前
飲んで食べれる時間を長く
自由に動ける時間を長く
点滴も下剤も止めよう
現在の各国ガイドライン
国
術前飲食に関するガイドライン
除外
英国
飲料は3時間
固形食物は6~8時間
救急/消化管疾患
カナダ
飲料は2時間
固形食物は6~8時間
-
米国
飲料は2時間
固形食物は6時間
救急/消化管疾患
ノルウェー
飲料は2時間
固形食物は6時間
救急/消化管疾患
スウェーデン
飲料は2~3時間
固形食物は前日深夜より
救急/消化管疾患
ドイツ
飲料は2時間
固形食物は6時間
日本
なし(麻酔科学会ワーキンググループ作成中)
ここで定義される飲料とはclear fluidsのこと
谷口英喜 「臨床麻酔」誌2010年9月号
“特集/周術期の栄養・体液管理”
シンポジウム:術前絶飲食を考え直そう
日本臨床麻酔学会第30回大会11月5日徳島
手術2-3時間前に飲んで良い飲料
“clear fluids”
①水および炭酸飲料
②牛乳(脂質)を含まないコーヒー・紅茶
③食物繊維を含まないジュースなど
Brady M,et al. Preoperative fasting for adults to prevent perioperative complications.
Cochrane Database Syst Rev. 2003;(4)
術後回復能力を強化するには
術後回復能力の強化には手術室到着時に
“normal fluid and electrolyte balance ”
(体液バランスを通常状態に保つ)
 そのために
“minimization of the period of
preoperative fasting”
(術前の絶飲食期間を短くする)
Lobo DN:How perioperative fluid balance influences postoperative outcomes.Best Pract
Res Clin Anaesthesiol. 2006 Sep;20(3):439-55.
術前経口補水療法
Preoperative ORT (oral rehydration therapy)
術前補水方法を
輸液 ⇒
経口
Taniguchi H, Sasaki T, Fujita H. Preoperative fluid and electrolyte management
with oral rehydration therapy J Anesth (2009) 23:222–229
神奈川県立がんセンターホームページアドレス
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/byouin/gan/keikouhosui/keikouhosui.html
谷口英喜「経口補水療法ハンドブック」
対象者
患者
医療
従事者
相互
影響
輸液療法&
ベッド搬送&鎮静薬
輸液療法&歩行
(鎮静薬なし)
経口補水療法&歩行
(鎮静薬なし)
口渇感
空腹感
多い
多い
少ない
拘束感
不安感
鎮静が浅いと強い
やや少ない
少ない
鎮静薬の
副作用
有
無
無
輸液関連
インシデント
有
(転倒・事故抜去等)
有
(転倒・事故抜去等)
無
労力・負担
大きい
やや少ない
少ない(説明のみ)
コミュニケー
ション
過鎮静で不可能
可能
可能
表 手術室入室方法と患者・医療従事者への影響
Can J Cardiovasc Nurs. 2010;20(1):22-3. Reimer-Kent J
絶飲食期間の短縮で様々な弊害を回避できる
ことを知ってはいるが、、、、
患者さんの立場になって協力すべき事項
術後回復能力強化プログラムにおける、推奨項目(結腸周術期の例)
Determinants of outcome after colorectal resection within an enhanced recovery programme
P. O. Hendry, British Journal of Surgery 2009; 96: 197–205
術後
術前
コンプライアンス/
カウンセリング
液体・炭水化物投与/絶食をしない
アウトカム調査
必要最低限の消化管前処置
術後早期経口摂取
静脈塞栓予防
カテーテル早期抜去
消化管運動刺激
悪心嘔吐防止
麻酔前投薬をしない
術後回復
能力強化
経口オピオイド剤を使用しない、
非ステロイド系抗炎症剤使用
運動療法のパス
輸液・室温調節による体温維持
胃管を使用しない
胸部硬膜外麻酔
短時間作用型の麻酔薬
小切開創
ドレーン不使用
ナトリウム・水を過剰投与しない
術中
どこまで実施したら
“術後回復能力強化プログラム”
と呼べるのか?
17項目中 ; 4項目~12項目を術前・術中・術後各時点で実施すること
術前
術中
術後
Krishna K. Varadhan.et al. The enhanced recovery after surgery (ERAS) pathway for
patients undergoing major elective open colorectal surgery: A meta-analysis of
randomized controlled trials .Clinical Nutrition 29 (2010) 434–440
ERASのまとめ
1. 術後回復能力強化プログラムのひとつ
2. 新規事項ではなく、既存のskillの整理
3. 多職種協働(チーム)医療が必須
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