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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版)

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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版)
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© The Japanese Society of Gastroenterology, 2015
日本消化器病学会
慢性膵炎診療ガイドライン 2015(改訂第 2 版)
Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Chronic Pancreatitis 2015(2nd Edition)
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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© The Japanese Society of Gastroenterology, 2015
日本消化器病学会慢性膵炎診療ガイドライン作成・評価委員会
は,慢性膵炎診療ガイドラインの内容については責任を負うが,実
際の臨床行為の結果については各担当医が負うべきである.
慢性膵炎診療ガイドラインの内容は,一般論として臨床現場の意
思決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料となるものではな
い.
日本消化器病学会 2015 年 4 月 1 日
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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© The Japanese Society of Gastroenterology, 2015
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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© The Japanese Society of Gastroenterology, 2015
日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって
日本消化器病学会は,2005 年に当時の理事長であった跡見 裕先生の発議によって,EvidenceBased Medicine(EBM)の手法に則ったガイドラインの作成を行うことを決定し,3 年余をかけ,
2009〜2010 年に消化器 6 疾患のガイドライン(第一次ガイドライン)を完成・上梓した.6 疾患
とは,胃食道逆流症(GERD)
,消化性潰瘍,肝硬変,クローン病,胆石症,慢性膵炎であり,
それまでガイドラインが作成されていない疾患で,日常臨床で診療する機会の多いものを重視
し,財団評議員に行ったアンケート調査で多数意見となったものが選ばれた.2006 年の第 92 回
日本消化器病学会総会の際に第 1 回ガイドライン委員会が開催され,文献検索範囲,文献採用
基準,エビデンスレベル,推奨グレードなど EBM 手法の統一性についての合意と,クリニカル
クエスチョン(CQ)の設定など基本的な枠組みが合意され,作成作業が開始された.6 疾患のガ
イドライン作成では,推奨の強さのグレード決定に Minds(Medical Information Network Distribution Service)システムを一部改変し,より臨床に則した日本消化器病学会独自の基準を用い
た.また,ガイドライン作成における利益相反(Conflict of Interest:COI)が当時,社会的問題
となっており,EBM 専門家から提案された基準に基づいてガイドライン委員の COI を公開し
た.菅野健太郎前理事長のリーダーシップのもとに学会をあげての事業として行われたガイド
ライン作成は先進的な取り組みであり,わが国の消化器診療の方向性を学会主導で示したもの
として大きな価値があったと評価できる.日本消化器病学会は,その後,6 疾患について「患者
さんと家族のためのガイドブック」も編集・出版し,治療を受ける側の目線で解説書を作成す
ることによって,一般市民がこれら消化器の代表的疾患への理解を深めるうえで役立ったと考
えている.
第一次ガイドライン作成を通じて,日本消化器病学会は消化器関連の Common Disease に関
するガイドラインの必要性と重要性の認識を強め,さらに整備する必要度の高い疾患について
評議員にアンケートを行い,2011 年から機能性ディスペプシア(FD)
,過敏性腸症候群(IBS)
,
大腸ポリープ,NAFLD/NASH の 4 疾患についても,診療ガイドライン(第二次ガイドライン)
の作成を開始した.一方では,これら 4 疾患の診療ガイドラインの刊行が予定された 2014 年に
は,第一次ガイドラインも作成後 5 年が経過するため,いわゆる Sunset Rule(日没ルール:作成
から長期経過したガイドラインは妥当性が担保できないため,退場させる取り決め)に従い,先
行 6 疾患のガイドラインの改訂作業も併せて行うこととなった.2011 年 11 月 9 日に 6 疾患の第
1 回改訂委員会が開催され,改訂の基本方針が確認された.改訂版では第二次ガイドライン作
成と同様,国際的主流となっている GRADE(The Grading of Recommendations Assessment,
Development and Evaluation)システムの考え方を取り入れて推奨の強さを決定することとした.
このシステムは,単にエビデンスに基づいて推奨の強さを決めるのではなく,患者さんへの有
益性,費用まで考慮し,たとえ比較対照試験であってもその内容を精査・吟味してエビデンス
レベルを決定するなど,アウトカムにとって有用かどうかを重視する立場に立っており,患者
さんの立場により則したガイドライン作成に有用と考えられた.また,完成後に改訂版は Journal
of Gastroenterology に掲載することが予定されており,世界的趨勢である GRADE システムの考
え方を取り入れることで国際的ガイドラインとしての位置づけを強化する狙いもあった.
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって
改訂作業の進捗には疾患によって多少差がみられるが,2015 年 4 月から順次完成し,秋まで
に 6 疾患すべての改訂作業が完了する予定である.最新のエビデンスを網羅した改訂版は,初
版に比べて内容的により充実し,記載の精度も高まるものと期待している.
最後に,ガイドライン委員会の前担当理事として多大なご尽力をいただいた木下芳一理事,
渡辺 守理事,ならびに多くの時間と労力を惜しまず改訂作業を遂行された作成委員会ならびに
評価委員会の諸先生,刊行にあたり丁寧なご支援をいただいた南江堂出版部の皆様に心より御
礼を申し上げたい.
2015 年 4 月
日本消化器病学会理事長
下瀬川 徹
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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統括委員会一覧
委員長
木下 芳一
島根大学第二内科
副委員長
渡辺 守
東京医科歯科大学消化器内科
委員
荒川 哲男
大阪市立大学消化器内科学
上野 文昭
大船中央病院
西原 利治
高知大学消化器内科
坂本 長逸
日本医科大学消化器内科学
下瀬川 徹
東北大学消化器病態学
白鳥 敬子
東京女子医科大学消化器内科
杉原 健一
光仁会 第一病院
田妻 進
広島大学総合診療科
田中 信治
広島大学内視鏡診療科
坪内 博仁
鹿児島市立病院
中山 健夫
京都大学健康情報学
二村 雄次
愛知県がんセンター
野口 善令
名古屋第二赤十字病院総合内科
福井 博
奈良県立医科大学第三内科
福土 審
東北大学大学院行動医学分野・東北大学病院心療内科
本郷 道夫
公立黒川病院
松井 敏幸
福岡大学筑紫病院消化器科
三輪 洋人
兵庫医科大学内科学消化管科
森實 敏夫
日本医療機能評価機構
山口直比古
日本医学図書館協会個人会員
吉田 雅博
化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科
芳野 純治
松柏会 テルミナセントラルクリニック
渡辺 純夫
順天堂大学消化器内科
菅野健太郎
自治医科大学
オブザーバー
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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慢性膵炎診療ガイドライン委員会
協力学会:日本膵臓学会
■ 作成委員会
委員長
下瀬川 徹
東北大学消化器病態学
副委員長
伊藤 鉄英
九州大学病態制御内科
委員
石黒 洋
名古屋大学総合保健体育科学センター保健科学部
大原 弘隆
名古屋市立大学大学院地域医療教育学
神澤 輝実
がん・感染症センター都立駒込病院消化器内科
阪上 順一
京都府立医科大学消化器内科
佐田 尚宏
自治医科大学消化器・一般外科
竹山 宜典
近畿大学外科学肝胆膵部門
廣田 衛久
東北大学消化器病態学
宮川 宏之
札幌厚生病院第 2 消化器科
片岡 慶正
大津市民病院
委員長
白鳥 敬子
東京女子医科大学消化器内科
副委員長
杉山 政則
杏林大学消化器・一般外科
委員
岡崎 和一
関西医科大学内科学第三講座
川 茂幸
信州大学総合健康安全センター健康教育学
丹藤 雄介
弘前大学大学院保健学研究科
五十嵐 久人
李 倫學
藤山 隆
肱岡 真之
植田 圭二郎
立花 雄一
十亀 義生
保田 宏明
加藤 隆介
九州大学病院臨床教育研修センター
九州大学病態制御内科
九州大学病態制御内科
九州大学病態制御内科
九州大学病態制御内科
九州大学病態制御内科
京都府立医科大学消化器内科
京都府立医科大学消化器内科
京都府立医科大学消化器内科
オブザーバー
■ 評価委員会
作成協力者
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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慢性膵炎診療ガイドライン作成の手順
1.改訂の目的
日本消化器病学会は 2009〜2010 年に消化器 6 疾患に関する診療ガイドラインを作成し,その
後,市民向けガイドブックも作成し刊行した.6 疾患とは,胃食道逆流症(GERD)
,消化性潰
瘍,肝硬変,クローン病,胆石症,慢性膵炎であり,慢性膵炎診療ガイドラインの初版出版は
2009 年 10 月 25 日であった.日本消化器病学会は対象疾患を拡大し,2011 年より機能性ディス
ペプシア(FD)
,過敏性腸症候群(IBS)
,大腸ポリープ,NAFLD/NASH の 4 疾患の診療ガイド
ライン作成が新たに開始された.これら 4 疾患の診療ガイドラインの刊行が予定された 2014 年
には,先行 6 疾患のガイドラインも作成後 5 年が経過することになるため,併せて改訂作業を
行うこととなった.
初版の慢性膵炎診療ガイドラインは 2001 年に日本膵臓学会が作成した慢性膵炎臨床診断基準
に基づいて作成されたが,この診療ガイドラインが発刊された 2009 年には,早期慢性膵炎の診
断基準を含む慢性膵炎臨床診断基準の改訂が行われた.したがって,診療ガイドラインの今回
の改訂では,慢性膵炎臨床診断基準 2009 に基づいて慢性膵炎の早期病変,診断にも言及し,ま
た,2009 年以降に本邦で使用可能となった高力価リパーゼ製剤や ESWL の保険適用,新規糖尿
病治療薬,2013 年のアトランタ分類改訂による膵仮性囊胞の定義と治療アプローチなどを含み,
初版以降の新たなエビデンスを吟味・採用して診療ガイドラインとしての精度を高めることを
目的とした.
2.改訂の手順
1)診療ガイドライン改訂委員会の設立
2011 年 7 月 1 日に日本消化器病学会ガイドライン委員会の第 1 回統括委員会が開催され,新
たな 4 疾患のガイドライン作成と先行 6 疾患の改訂が行われることが決定された.これを受け,
2011 年 11 月 9 日に先行 6 疾患の第 1 回改訂委員会が開催され,改訂の基本方針が確認された.
また,初版作成時の作成委員長および評価委員長は原則留任としたが,改訂委員会および評価
委員会の構成員には次回改訂を考慮して一部若手を採用することが決定された.この決定によ
り,初版作成委員会および評価委員会の構成員を見直し,新しい作成委員会と評価委員会が組
織された.2012 年 9 月 6 日に第 1 回[改訂]慢性膵炎作成委員会が開催された.
2)作成基準
一般臨床医を対象とした.診断基準には,慢性膵炎臨床診断基準 2009 を新たに採用した.改
訂の基本姿勢として,初版の内容を尊重しつつ,問題点・課題を整理し,CQ の見直し,削除
と追加を行うこととした.初版以降のエビデンスを収集し,新しい治療法についても言及する
よう努めた.また,改訂版では,世界的趨勢となっている GRADE システムの考え方を参考と
した「推奨の強さ」を採用した.
3)作成方法
初版の構成を踏襲し,大項目として,
「1.診断」
,
「2.病期診断」
,
「3.治療」
,
「4.予後」
を設け,各大項目中の小項目立ても初版と同様とした.
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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慢性膵炎診療ガイドライン作成の手順
各項目内の構成要素については,以下の順に記載することで統一した.
「1.CQ」
,
「2.ス
テートメント(推奨の強さ,エビデンスレベル)
」
,
「3.解説」
,
「4.文献(文献の掲載は CQ
毎に行う)
」
.
保険適用の有無については別記せず,解説のなかで記述することとした.
初版 CQ の文言を吟味し,GRADE システムの推奨の強さに対応するよう変更した.また,
初版 CQ を一部変更,削除し,一部追加した.その結果,CQ は初版では総数 61 であった
が,改訂第 2 版では 65 となった.
エビデンス収集には,英文論文は MEDLINE,Cochrane Library を用い,日本語論文には
医学中央雑誌を用いた.新規 CQ については 1983 年〜2012 年 6 月末,変更 CQ についても
同期間を文献検索の対象期間とし,初版と同じ CQ については 2008 年〜2012 年 6 月末を文
献検索の対象期間とした.また,2012 年 7 月以降の重要かつ新しいエビデンスについては,
検索期間外論文として文献に掲載した.
網羅的に検索された論文から重要なものを吟味,抽出し,採用論文すべての構造化抄録を
作成した.
論文を研究デザインによって分類し,ランダム化比較試験(RCT)についてはバイアスリス
ク評価を行い,最終的なエビデンスの質を A,B,C,D の 4 段階で表した.
推奨の強さの決定は,作成委員全員のオンライン投票によって行った.投票にあたっては,
各委員が作成したステートメント,推奨の強さ,エビデンスレベルならびに採用論文の構
造化抄録を全委員に配布して情報を共有した.そのうえで,投票を行い 70%以上の賛成を
もって最終決定とした.70%に満たない場合,合意できない理由をコメントとしてオンラ
イン上で共有し,協議後に投票を繰り返した.最終合意率を記載した.
第 2 回[改訂]慢性膵炎作成委員会を 2013 年 12 月 3 日に開催し,作業進捗状況,作業上の
課題,推奨の強さ決定の方法とその時期,図・表の作成について討議した.第 3 回[改訂]
慢性膵炎作成委員会は 2014 年 7 月 30 日に開催され,推奨の強さ決定の投票結果と各推奨
の強さの協議および確認,図・表の作成,今後の作業について話し合われた.
評価委員会には,まず,CQ 選定後に CQ に関する評価をいただいた.また,推奨の強さ決
定後にも最終草案を評価委員長に上申し,評価委員のコメントを集約し,評価委員長から
フィードバックしていただいた.
2014 年 12 月 10 日〜24 日まで,日本消化器病学会のホームページ上にてパブリックコメン
トを募集した.
4)今後の改訂
本ガイドラインは,新たなエビデンスの出現,新しい治療薬や治療法の出現,日常診療の変
化に合わせて 4〜5 年毎に改訂を行う予定である.また,特に重要な変更が必要な内容について
は,Annual Review 版として日本消化器病学会のホームページ上でアナウンスする予定である.
3.使用法
本ガイドラインは,慢性膵炎の診断,治療,予後に関する一般的な内容を記載したのもので,
臨床現場での意志決定を支援するものである.日本消化器病学会慢性膵炎診療ガイドライン作
成・評価委員会のコンセンサスに基づいて作成し,記述内容については責任を負うが,個々の
治療結果についての責任は治療担当医に帰属すべきもので,日本消化器病学会および本ガイド
ライン作成・評価委員会は責任を負わない.また,本ガイドラインの内容は,医療訴訟などの
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資料となるものではない.
4.診療アルゴリズムの構成
本ガイドラインでは,以下の診療アルゴリズムをフローチャートで示した.
慢性膵炎臨床診断基準 2009(作成:日本消化器病学会,日本膵臓学会,厚生労働省難治性
膵疾患に関する調査研究班)による慢性膵炎診断のアルゴリズム(フローチャート 1)
慢性膵炎患者の治療アルゴリズム(フローチャート 2)
慢性膵炎の内科的保存的治療のアルゴリズム(フローチャート 3)
慢性膵炎の外科的治療のアルゴリズム(フローチャート 4)
2015 年 4 月
日本消化器病学会慢性膵炎診療ガイドライン作成委員長
下瀬川 徹
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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本ガイドライン作成方法
1.エビデンス収集
初版で行われた系統的検索によって得られた論文に加え,今回新たに以下の作業を行ってエ
ビデンスを収集した.
それぞれのクリニカルクエスチョン(CQ)からキーワードを抽出し,学術論文を収集した.
データベースは,英文論文は MEDLINE,Cochrane Library を用いて,日本語論文は医学中央雑
誌を用いた.新規 CQ については 1983 年〜2012 年 6 月末,変更 CQ についても同期間を文献検
索の対象期間とし,初版と同じ CQ については 2008 年〜2012 年 6 月末を文献検索の対象期間と
した.また,2012 年 7 月以降の重要かつ新しいエビデンスについては,検索期間外論文として
文献に掲載した.各キーワードおよび検索式は日本消化器病学会ホームページに掲載する予定
である.
収集した論文のうち,ヒトまたは human に対して行われた臨床研究を採用し,動物実験や遺
伝子研究に関する論文は除外した.患者データに基づかない専門家個人の意見は参考にしたが,
エビデンスとしては用いなかった.
2.エビデンス総体の評価方法
1)各論文の評価:構造化抄録の作成
各論文に対して,研究デザイン 1)
(表 1)を含め,論文情報を要約した構造化抄録を作成した.
さらに RCT や観察研究に対して,Cochrane Handbook 2)や Minds 診療ガイドライン作成の手
引き 1)のチェックリストを参考にしてバイアスのリスクを判定した(表 2)
.総体としてのエビ
デ ン ス 評 価 は , GRADE( The Grading of Recommendations Assessment, Development and
Evaluation)システム 3〜22)の考え方を参考にして評価し,CQ 各項目に対する総体としてのエビ
デンスの質を決定し表記した(表 3)
.
2)アウトカムごと,研究デザインごとの蓄積された複数論文の総合評価
(1)初期評価:各研究デザイン群の評価
表 1 研究デザイン
各文献へは下記 9 種類の「研究デザイン」を付記した.
(システマティックレビュー /RCT のメタアナリシス)
(1)メタ
(2)ランダム
(ランダム化比較試験)
(3)非ランダム
(非ランダム化比較試験)
(4)コホート
(分析疫学的研究(コホート研究)
)
(5)ケースコントロール
(分析疫学的研究(症例対照研究)
)
(6)横断
(分析疫学的研究(横断研究))
(7)ケースシリーズ
(記述研究(症例報告やケース・シリーズ))
(8)ガイドライン
(診療ガイドライン)
(9)
(記載なし)
(患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見は,
参考にしたが,エビデンスとしては用いないこととした)
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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表 2 バイアスリスク評価項目
(1)ランダム系列生成
選択バイアス
実行バイアス
検出バイアス
詳細に記載されている
か
(2)コンシールメント
組み入れる患者の隠蔽化がなされているか
(3)盲検化
(4)盲検化
(5)ITT 解析
ITT 解析の原則を掲げて,追跡からの脱落者に対してその原則を遵守
しているか
(6)アウトカム報告バイアス
症例減少バイアス
(解析における採用および除外データを含めて)
(7)その他のバイアス
告・研究計画書に記載されているにもかかわらず,報
告されていないアウトカムがないか
表 3 エビデンスの質
A:質の高いエビデンス(High)
真の効果がその効果推定値に近似していると確信できる.
B:中程度の質のエビデンス(Moderate)
効果の推定値が中程度信頼できる.
真の効果は,効果の効果推定値におおよそ近いが,それが実質的に異なる可能性もある.
C:質の低いエビデンス(Low)
効果推定値に対する信頼は限定的である.
真の効果は,効果の推定値と,実質的に異なるかもしれない.
D:非常に質の低いエビデンス(Very Low)
効果推定値がほとんど信頼できない.
真の効果は,効果の推定値と実質的におおよそ異なりそうである.
メタ群,ランダム群=「初期評価 A」
非ランダム群,コホート群,ケースコントロール群,横断群=「初期評価 C」
ケースシリーズ群=「初期評価 D」
(2)エビデンスレベルを下げる要因の有無の評価
研究の質にバイアスリスクがある
結果に非一貫性がある
エビデンスの非直接性がある
データが不精確である
出版バイアスの可能性が高い
(3)エビデンスレベルを上げる要因の有無の評価
大きな効果があり,交絡因子がない
用量–反応勾配がある
可能性のある交絡因子が,真の効果をより弱めている
(4)総合評価:最終的なエビデンスの質「A,B,C,D」を評価判定した.
— xii —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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本ガイドライン作成方法
3)エビデンスの質の定義方法
エビデンスレベルは海外と日本で別の記載とせずに 1 つとした.またエビデンスは複数文献
を統合・作成した統合レベル(body of evidence)とし,表 3 の A〜D で表記した.
4)メタアナリシス
システマティックレビューを行い,必要に応じてメタアナリシスを引用し,本文中に記載し
た.
また,1 つ 1 つのエビデンスに「保険適用あり」の記載はせず,保険適用不可の場合に,解
説の中で明記した.
3.推奨の強さの決定
以上の作業によって得られた結果をもとに,治療の推奨文章の案を作成提示した.次に,推
奨の強さを決めるためにコンセンサス会議を開催した.
推奨の強さは,①エビデンスの確かさ,②患者の希望,③益と害,④コスト評価,の 4 項目
を評価項目とした.コンセンサス形成方法は,Delphi 変法,nominal group technique(NGT)法
に準じて投票を用い,70%以上の賛成をもって決定とした.1 回目で,結論が集約できないとき
は,各結果を公表し,日本の医療状況を加味して協議の上,投票を繰り返した.作成委員会は,
この集計結果を総合して評価し,表 4 に示す推奨の強さを決定し,本文中の囲み内に明瞭に表
記した.
推奨の強さは「1:強い推奨」
,
「2:弱い推奨」の 2 通りであるが,
「強く推奨する」や「弱く
推奨する」という文言は馴染まないため,下記のとおり表記した.また,投票結果を「合意率」
として推奨の強さの下段に括弧書きで記載した.
表 4 推奨の強さ
推奨度
1(強い推奨)
2(弱い推奨)
実施する ことを推奨する
実施しない ことを推奨する
実施する ことを提案する
実施しない ことを提案する
4.本ガイドラインの対象
1)利用対象:一般臨床医
2)診療対象:成人の患者を対象とした.小児は対象外とした.
5.改訂について
本ガイドラインは改訂第 2 版であり,今後も日本消化器病学会ガイドライン委員会を中心と
して継続的な改訂を予定している.
6.作成費用について
本ガイドラインの作成はすべて日本消化器病学会が費用を負担しており,他企業からの資金
提供はない.
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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7.利益相反について
1)日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員・各ガイドライン作
成・評価委員と企業との経済的な関係につき,各委員から利益相反状況の申告を得た(詳細は
「利益相反に関して」に記す)
.
2)本ガイドラインでは,利益相反への対応として,協力学会の参加によって意見の偏りを防
ぎ,さらに委員による投票によって公平性を担保するように努めた.また,出版前のパブリッ
クコメントを学会員から受け付けることで幅広い意見を収集した.
8.ガイドライン普及と活用促進のための工夫
1)フローチャートを提示して,利用者の利便性を高めた.
2)書籍として出版するとともに,インターネット掲載を行う予定である.
・日本消化器病学会ホームページ
・日本医療機能評価機構 EBM 医療情報事業(Minds)ホームページ
■引用文献
1) 福井次矢,山口直人(監修)
.Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014,医学書院,東京,2014
2) Higgins JPT, Green S (eds). Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions version 5.1.0:
The Cochrane Collaboration http://handbook.cochrane.org/(updated March 2011)
[最終アクセス 2015
年 3 月 11 日]
3) 相原守夫,三原華子,村山隆之,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADE システム,凸
版メディア,弘前,2010
4) The GRADE* working group. Grading quality of evidence and strength of recommendations. BMJ 2004;
328: 1490-1494 (printed, abridged version)
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recommendations GRADE: an emerging consensus on rating quality of evidence and strength of recommendations. BMJ 2008; 336: 924-926
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of recommendations: What is "quality of evidence" and why is it important to clinicians? BMJ 2008; 336:
995-998
7) Schünemann HJ, Oxman AD, Brozek J, et al; GRADE Working Group. Grading quality of evidence and
strength of recommendations for diagnostic tests and strategies. BMJ 2008; 336: 1106-1110
8) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE working group .Rating quality of evidence and strength of
recommendations: incorporating considerations of resources use into grading recommendations. BMJ
2008; 336: 1170-1173
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of recommendations: going from evidence to recommendations. BMJ 2008; 336: 1049-1051
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13) Balshem H, Helfand M, Schunemann HJ, et al. GRADE guidelines 3: rating the quality of evidence. J Clin
Epidemiol 2011; 64: 401-406
14) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al. GRADE guidelines 4: rating the quality of evidence - study limitation (risk of bias). J Clin Epidemiol 2011; 64: 407-415
15) Guyatt GH, Oxman AD, Montori V, et al. GRADE guidelines 5: rating the quality of evidence - publication
bias. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1277-1282
16) Guyatt G, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 6. Rating the quality of evidence - imprecision. J
Clin Epidemiol 2011; 64: 1283-1293
17) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 7. Rating the
— xiv —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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本ガイドライン作成方法
quality of evidence - inconsistency. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1294-1302
18) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 8. Rating the
quality of evidence - indirectness. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1303-1310
19) Guyatt GH, Oxman AD, Sultan S, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 9. Rating up the
quality of evidence. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1311-1316
20) Brunetti M, Shemilt I, et al; The GRADE Working. GRADE guidelines: 10. Considering resource use and
rating the quality of economic evidence. J Clin Epidemiol 2013; 66: 140-150
21) Guyatt G, Oxman AD, Sultan S, et al. GRADE guidelines: 11. Making an overall rating of confidence in
effect estimates for a single outcome and for all outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 151-157
22) Guyatt GH, Oxman AD, Santesso N, et al. GRADE guidelines 12. Preparing Summary of Findings tablesbinary outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 158-172
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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利益相反に関して
日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員と企業との経済的な関係につき,下記の基準で,
各委員から利益相反状況の申告を得た.
慢性膵炎診療ガイドライン作成・評価委員には診療ガイドライン対象疾患に関連する企業との経済的な関係につき,
下記の基準で,各委員から利益相反状況の申告を得た.
申告された企業名を下記に示す(対象期間は 2011 年 1 月 1 日から 2014 年 12 月 31 日)
.企業名は 2015 年 3 月現在の
名称とした.非営利団体は含まれない.
1.委員または委員の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が個人として何らかの報酬を得た企
業・団体
役員・顧問職(100 万円以上)
,株(100 万円以上または当該株式の 5%以上保有)
,特許権使用料(100 万円以上)
2.委員が個人として何らかの報酬を得た企業・団体
講演料(100 万円以上)
,原稿料(100 万円以上)
,その他の報酬(5 万円以上)
3.委員の所属部門と産学連携を行っている企業・団体
研究費(200 万円以上)
,寄付金(200 万円以上)
,寄付講座
※統括委員会においては日本消化器病学会診療ガイドラインに関係した企業・団体,作成・評価委員においては診
療ガイドライン対象疾患に関係した企業・団体の申告を求めた
統括委員および作成・評価委員はすべて,診療ガイドラインの内容と作成法について,医療・医学の専門家として科
学的・医学的な公正さを保証し,患者のアウトカム,Quality of life の向上を第一として作業を行った.
利益相反の扱いは,国内外で議論が進行中であり,今後,適宜,方針・様式を見直すものである.
表 1 統括委員と企業との経済的な関係(五十音順)
1.エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社
2.味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパ
ン株式会社,株式会社医学書院,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,オリンパスメディカル
システムズ株式会社,杏林製薬株式会社,ゼリア新薬工業株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会
社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,ファイザー株
式会社
3.旭化成メディカル株式会社,味の素製薬株式会社,あすか製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼ
ネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株
式会社,小野薬品工業株式会社,花王株式会社,株式会社カン研究所,杏林製薬株式会社,協和発酵キリン株式
会社,グラクソ・スミスクライン株式会社,株式会社 JIMRO,株式会社ジーンケア研究所,ゼリア新薬工業株式
会社,センチュリーメディカル株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,
武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,株式会社ツムラ,東レ株式会社,ファイザー
株式会社,ブリストル・マイヤーズ株式会社,株式会社ミノファーゲン製薬,持田製薬株式会社,株式会社ヤク
ルト本社,ユーシービージャパン株式会社
表 2 作成・評価委員と企業との経済的な関係(五十音順)
1.なし
2.なし
3.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アスビオファーマ株式会社,エーザイ株式会社,MSD 株
式会社,大塚製薬株式会社,第一三共株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式
会社
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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本ガイドラインの構成
第 1 章 診断 (1)問診・診察
(2)生化学検査
(3)画像検査
(4)機能検査
(5)病理検査
(6)鑑別診断
(7)遺伝子検索 第 2 章 病期診断
(1)病期診断の必要性
(2)臨床所見
(3)生化学検査
(4)画像検査
(5)機能検査(外分泌)
(6)機能検査(内分泌)
(7)スコア化 第 3 章 治療 (1)治療方針
(2)生活指導
(3)疼痛対策
(4)外分泌不全の治療
(5)糖尿病の治療
(6)合併症の治療
第 4 章 予後
(1)病態の進行阻止
(2)膵癌・その他の癌の危険性
(3)生命予後
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フローチャート
【フローチャート 1:診断】
慢性膵炎を疑う・鑑別を要する
慢
性膵炎を疑う・鑑別を要する
病歴聴取・身体診察
病
歴聴取・身体診察
CQ1-1
C
Q1-1
2∼3ヵ月の経過観察
2
∼3ヵ月の経過観察
画像検査(組織所見)
CQ1-4∼8(CQ1-10)
画
像検査(組織所見) CQ1-4∼8(CQ1-10)
生化学検査 CQ1-2
生
化学検査 CQ1-2
機
能検査(BT-PABA)
機能検査(BT-PABA)
C
Q1-9
CQ1-9
確
診所見
確診所見
U
S,C
T,
US,
CT,
EUS,
E
US,
E
RCP
ERCP
組
織所見
組織所見
準確診所見
準
確診所見
US,
CT,
MRCP,
U
S,C
T,M
RCP,
EUS,
ERCP
E
US,
E
RCP
組織所見
組
織所見
早期所見
早
期所見
EUS,
ERCP
E
US,
E
RCP
所見なし
所見なし
①∼④のうち
①
∼④のうち
2つ以上
2
つ以上
①∼④のうち
①
∼④のうち
2つ以上
2
つ以上
評価
評
価項目
評価項目
①
反復する上腹部痛発作
①反復する上腹部痛発作
②
血中・尿中膵酵素異常
②血中・尿中膵酵素異常
③膵外分泌障害
③
膵外分泌障害
①∼③のうち
①
∼③のうち
2つ以上
2
つ以上
あり なし
④1
80g
以上の持続する
④
1日8
0g 以
上の持続する
飲酒歴
飲酒歴
飲
あり なし
あり
他疾患の除外
他
疾患の除外
なし
あり
なし
診断
診
断
確診
確
診
準確診
準
確診
早期
早
期
他疾患を考慮
他
疾患を考慮
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フローチャート
【フローチャート 2:治療】
慢性膵炎の診断
〈フローチャート 1〉
膵癌との鑑別診断
CQ1-11
アルコール性
非アルコール性
禁酒
CQ3-3
原因があれば除去
禁煙
CQ3-5
症状あり
症状なし
経過観察
内・外分泌補充療法
CQ3-21∼32
腹痛・背部痛
内科的保存的治療
〈フローチャート 3〉
急性膵炎に準じた
内科的保存的治療
無効例
内視鏡的治療 /ESWL による治療
CQ3-12,13
(+内・外分泌補充療法)
CQ3-21∼32
無効例・再発例
合併症
慢性膵炎急性増悪
膵仮性囊胞
内科的保存的治療
CQ3-33
無効例・感染例
IPF
(膵性胸腹水)
胆道狭窄
内科的保存的治療
(内視鏡的膵管ステント)
CQ3-38
胆道プラスチック
ステント挿入
CQ3-39
無効例
無効例
無効例
外科的治療
CQ3-38
外科的治療
CQ3-39
外科的治療
CQ3-40
内視鏡的ドレナージ
CQ3-34,35
無効例
外科的治療
〈フローチャート 4〉
(+内・外分泌補充療法)
CQ3-21∼32
外科的治療
(腹腔鏡下手術)
CQ3-37
— xix —
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膵仮性動脈瘤,
hemosuccus
pancreaticus
動脈瘤塞栓術
CQ3-40
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【フローチャート 3:内科的保存的治療】
腹痛・背部痛*
内科的保存的治療
禁酒・禁煙を中心とした生活指導を行う
CQ3-1,2,3,5
薬物療法・食事療法
食事療法**
(栄養指導を含む)
薬物療法***
(服薬指導を含む)
脂肪制限
CQ3-4
蛋白分解酵素阻害薬
CQ3-8
消化酵素薬
CQ3-7,22
鎮痛・鎮痙薬・医療用麻薬
CQ3-6,10
その他
CQ3-9,11
:慢性膵炎急性増悪の症例に関しては急性膵炎における重症度診断を速やかに施行し,
急性膵炎に準じた治療方針を決定する.
**
:成分栄養剤による食事療法を考慮してもよい.
***
:薬物療法に関しては個々により治療薬の選択,投与量を決定する.
*
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フローチャート
【フローチャート 4:外科的治療】
腹痛のある慢性膵炎症例
内科的保存的治療
内視鏡的治療 /ESWL による治療
無効または再発
CQ3-15
主膵管拡張あり
CQ3-16
膵頭部病変なし
CQ3-16
膵管空腸側々
吻合術
主膵管拡張なし
CQ3-17
膵頭部病変あり
膵頭部病変あり
CQ3-16
Frey 手術
CQ3-17
膵全体病変
病変が尾側に限局
CQ3-17
CQ3-20
膵頭十二指腸
切除術などの
膵頭切除術
胸腔鏡下内臓
神経切除*
CQ3-19
麻薬使用
尾側膵切除術
CQ3-19
膵全摘術
**
*
:交感神経由来の疼痛にのみ効果が期待できる.麻薬使用の可能性とその危険性を説明
のうえ,治療方針を決定する.
**
:禁酒を含めた術後の厳格な生活指導が可能な症例のみ適応となる.
悪性腫瘍の存在が否定できない場合には,膵頭部なら PD または PPPD を,膵体尾部
なら郭清を伴う膵体尾部切除を行う.
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クリニカルクエスチョン一覧
第 1 章 診 断
❶問診・診察
CQ 1-1
病歴聴取,身体診察は慢性膵炎の診断に必要か? ………………………………………2
❷生化学検査
CQ 1-2
血中・尿中膵酵素測定は慢性膵炎の診断に有用か? ……………………………………4
❸画像検査
CQ 1-3
胸・腹部 X 線撮影は慢性膵炎の診断に有用か? …………………………………………6
CQ 1-4
腹部超音波検査(US,造影を含む)は慢性膵炎の診断に有用か? ………………………8
CQ 1-5
コンピュータ断層撮影法(CT)は慢性膵炎の診断に有用か? …………………………12
CQ 1-6
腹部 MRI は慢性膵炎の診断に有用か? …………………………………………………15
CQ 1-7
超音波内視鏡検査(EUS)は慢性膵炎の診断に有用か?…………………………………18
CQ 1-8
内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)は慢性膵炎の診断に有用か? ………………21
❹機能検査
CQ 1-9
外分泌機能検査は慢性膵炎の診断に有用か? ……………………………………………24
❺病理検査
CQ 1-10
病理組織学的検索は慢性膵炎の診断に必要か? …………………………………………26
❻鑑別診断
CQ 1-11
慢性膵炎と膵癌や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)との鑑別診断は必要か?
(なぜ必要か?) …………………………………………………………………………28
❼遺伝子検索
CQ 1-12
遺伝子検査は慢性膵炎の診断に有用か? …………………………………………………30
第 2 章 病期診断
❶病期診断の必要性
CQ 2-1
慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定は必要か? …………………………………34
❷臨床所見
CQ 2-2
臨床徴候(所見)による重症度・病期・治療効果の判定は可能か? …………………36
❸生化学検査
CQ 2-3
血中・尿中膵酵素測定による重症度・病期・治療効果の判定は可能か? ……………38
❹画像検査
CQ 2-4
画像検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か? …………………………………39
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クリニカルクエスチョン一覧
❺機能検査(外分泌)
CQ 2-5
膵外分泌機能検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か? ………………………42
CQ 2-6
脂肪便の確認は重症度・病期・治療効果の判定に有用か? ……………………………44
❻機能検査(内分泌)
CQ 2-7
各種耐糖能検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か? …………………………46
❼スコア化
CQ 2-8
スコア化は重症度・病期・治療効果の判定に有用か? …………………………………48
第 3 章 治 療
❶治療方針
CQ 3-1
成因,活動性(再燃と緩解)
,重症度,病期は慢性膵炎の治療に重要か?……………52
CQ 3-2
生活歴の聴取は慢性膵炎の治療に有用か?(アルコール性と非アルコール性で違い
はあるか?) ………………………………………………………………………………56
❷生活指導
CQ 3-3
禁酒・断酒指導は慢性膵炎の治療に有用か? ……………………………………………58
CQ 3-4
食事脂肪制限は慢性膵炎の腹痛に有用か? ………………………………………………61
CQ 3-5
禁煙は慢性膵炎の治療に有用か? …………………………………………………………63
❸疼痛対策
CQ 3-6
鎮痛・鎮痙薬は慢性膵炎の腹痛に有効か? ………………………………………………65
CQ 3-7
消化酵素の大量投与や高力価消化酵素の使用は慢性膵炎の腹痛に有効か? …………68
CQ 3-8
蛋白分解酵素阻害薬は慢性膵炎の腹痛に有効か? ………………………………………70
CQ 3-9
膵石(蛋白栓)溶解療法は慢性膵炎の腹痛に有効か? …………………………………72
CQ 3-10
麻薬は慢性膵炎の腹痛治療に必要か? ……………………………………………………74
CQ 3-11
抗うつ薬は慢性膵炎の腹痛に有効か? ……………………………………………………76
CQ 3-12
ESWL を含む内視鏡的治療は慢性膵炎の腹痛に有効か? ………………………………77
CQ 3-13
内視鏡的治療の長期反復は慢性膵炎の腹痛に必要か? …………………………………79
CQ 3-14
EUS/CT ガイド下腹腔神経叢 neurolysis(CPN)は慢性膵炎の腹痛に有効か? ……81
CQ 3-15
外科的治療は内視鏡的治療(ESWL 併用を含む)が無効な腹痛に有効か? …………83
CQ 3-16
膵管ドレナージ術は慢性膵炎の腹痛に有効か? …………………………………………85
CQ 3-17
膵切除術は慢性膵炎の腹痛に有効か? ……………………………………………………88
CQ 3-18
膵管ドレナージ術は膵切除術より慢性膵炎の腹痛に有効か? …………………………92
CQ 3-19
膵全摘術は慢性膵炎の難治性腹痛に有効か? ……………………………………………94
CQ 3-20
内臓神経切除術は慢性膵炎の腹痛に有効か? ……………………………………………96
❹外分泌不全の治療
CQ 3-21
適正カロリーと食事内容の指導は慢性膵炎の治療に有用か? …………………………98
CQ 3-22
消化酵素薬は慢性膵炎の治療に有用か? ………………………………………………100
CQ 3-23
胃酸分泌抑制薬は慢性膵炎の治療に必要か? …………………………………………103
CQ 3-24
脂溶性ビタミン薬は慢性膵炎の治療に必要か? ………………………………………105
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❺糖尿病の治療
CQ 3-25
禁酒・食事指導は膵性糖尿病の治療に有用か? ………………………………………107
CQ 3-26
経口血糖降下薬は膵性糖尿病の治療に有効か? ………………………………………109
CQ 3-27
インスリン抵抗性改善薬は膵性糖尿病の治療に有効か? ……………………………111
CQ 3-28
インスリン治療開始の指標設定は膵性糖尿病の治療に必要か? ……………………113
CQ 3-29
インクレチン関連薬は膵性糖尿病の治療に有効か? …………………………………115
CQ 3-30
血糖コントロールの目標設定は膵性糖尿病の治療に必要か? ………………………118
CQ 3-31
HbA1c は膵性糖尿病の治療効果の判定に有用か? ……………………………………120
CQ 3-32
糖尿病慢性合併症の診断と治療は膵性糖尿病でも有用か? …………………………122
❻合併症の治療
CQ 3-33
保存的治療は慢性膵炎に合併した膵仮性囊胞に有効か? ……………………………124
CQ 3-34
仮性囊胞の大きさはドレナージ治療の適応判断に有用か? …………………………125
CQ 3-35
内視鏡的または経皮的ドレナージは慢性膵炎に合併した膵仮性囊胞に有効か? …127
CQ 3-36
酢酸オクトレオチドは慢性膵炎に合併した膵仮性囊胞に有効か? …………………129
CQ 3-37
外科手術は慢性膵炎に合併した膵仮性囊胞に有効か? ………………………………130
CQ 3-38
膵管ステントは IPF(internal pancreatic fistula,膵性胸腹水)に有効か? …………132
CQ 3-39
胆管ステントは慢性膵炎に合併した胆道狭窄に有効か? ……………………………134
CQ 3-40
IVR
(interventional radiology)は慢性膵炎に合併した仮性動脈瘤・hemosuccus
pancreaticus に有効か? ………………………………………………………………136
第 4 章 予 後
❶病態の進行阻止
CQ 4-1
内視鏡的治療(ESWL の併用を含む)は慢性膵炎の病態進行の阻止に有効か? ……140
CQ 4-2
外科手術は慢性膵炎の病態進行の阻止に有効か? ……………………………………142
❷膵癌・その他の癌の危険性
CQ 4-3
癌のスクリーニング検査は慢性膵炎患者に必要か? …………………………………144
❸生命予後
CQ 4-4
アルコール性膵炎を予後不良群として扱うことは慢性膵炎の生命予後改善に有用か?
………………………………………………………………………………………………146
CQ 4-5
長期的経過観察は慢性膵炎患者の生命予後改善に有用か? …………………………148
索引 ………………………………………………………………………………………………………151
— xxiv —
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略語一覧
AVM
BMI
CCK
CF
COMT
CPN
CPR
CT
DP
DPPHR
ENPD
ERCP
ERP
ERPD
ESWL
EUS
FNA
GA
arteriovenous malformation
body mass index
cholecystokinin
cystic fibrosis
動静脈奇形
GIP
glucose-dependent insulinotropic peptide
GLP-1
HOMA-IR
IPF
IPMN
IVR
LPJ
MCT
MRCP
MRI
NSAIDs
OGTT
PABA
PD
PPI
PPPD
PS
SEMS
glucagon-like peptide-1
homeostasis model assessment of insulin resistance
internal pancreatic fistula
intraductal papillary mucinous neoplasm
interventional radiology
longitudinal pancreaticojejunostomy
medium chain triglyceride
MR cholangiopancreatography
magnetic resonance imaging
non-steroidal anti-inflammatory drugs
oral glucose tolerance test
para-aminobenzoic acid
pancreatoduodenectomy
proton pump inhibitor
pyrolus-preserving pancreatoduodenectomy
performance status
self-expandable metallic stent
SNRI
serotonin norepinephrine reuptake inhibitors
SSRI
TP
US
WON
selective serotonin reuptake inhibitors
total pancreatectomy
ultrasound
walled-off necrosis
コレシストキニン
膵囊胞線維症
celiac plexus neurolysis
C-peptide immunoreactivity
computed tomography
distal pancreatectomy
duodenum-preserving pancreas head resection
endoscopic naso-pancreatic drainage
endoscopic retrograde cholangiopancreatography
endoscopic retrograde pancreatography
endoscopic retrograde pancreatic duct drainage
extracorporeal shock wave lithotripsy
endoscopic ultrasonography
fine-needle aspiration biopsy
glycoalbumin
腹腔神経叢 neurolysis
C- ペプチド
コンピュータ断層撮影
尾側膵切除術
十二指腸温存膵頭切除術
内視鏡的逆行性胆道膵管造影
内視鏡的逆行性膵管造影
体外衝撃波結石破砕療法
超音波内視鏡
穿刺吸引生検法
グリコアルブミン
グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリ
ペプチド
グルカゴン様ペプチド -1
インスリン抵抗性指数
膵性胸腹水
膵管内乳頭粘液性腫瘍
血管内治療
膵管空腸側々吻合術
中鎖脂肪酸
膵胆管 MRI
核磁気共鳴画像
非ステロイド抗炎症薬
経口糖負荷試験
パラアミノ安息香酸
膵頭十二指腸切除術
プロトンポンプ阻害薬
全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み
阻害薬
選択的セロトニン再取り込み阻害薬
膵全摘術
超音波検査
— xxv —
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1.診 断
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 1-1
1.診断 ― ❶問診・診察
病歴聴取,身体診察は慢性膵炎の診断に必要か?
CQ 1-1 病歴聴取,身体診察は慢性膵炎の診断に必要か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 病歴聴取,身体診察は慢性膵炎の診断に必要であり,行うことを推
奨する.
1
(100%)
C
解説
病歴聴取,身体診察が慢性膵炎の診断に必要であるという根拠を示すエビデンスレベルの高
い論文はない.しかし,慢性膵炎の主要症候の約 80%が腹痛であり,腹痛発作は何らかの誘因
で起こることが多く,特に飲酒は重要な要因である.したがって,飲酒歴の聴取は極めて大切
である.また,家族歴や発病年齢の聴取も必要である.
慢性膵炎では,膵炎発作を起こすことがあり,苦悶様顔貌,前屈位,黄疸などの視診,腸雑
音の聴診(麻痺性イレウスの有無)
,肺肝境界,腹部鼓音のチェックなどの打診,脱水の有無,
腹水の存在,触診による圧痛・抵抗・腹膜刺激徴候のチェックなどの身体診察は必要である 1, 2)
.
典型例では腹痛は心窩部から左側腹部にかけて持続的に出現し,しばしば背部あるいは左右の
表 1 アルコール性と非アルコール性慢性膵炎
の主要症候の比較(オッズ比)
アルコール性のオッズ /
非アルコール性のオッズ*
95% CI
腹痛
1.66
1.44 ∼1.92
背部痛
1.66
1.47 ∼1.87
食欲不振
1.83
1.62 ∼2.07
悪心・嘔吐
1.31
1.16 ∼1.48
腹部膨満感
1.45
1.28 ∼1.65
腹部重圧感
1.47
1.30 ∼1.67
口渇・多飲
2.42
2.05 ∼2.85
下痢
1.43
1.23 ∼1.67
黄疸
1.25
1.05 ∼1.49
腹部圧痛
1.57
1.39 ∼1.77
腹部抵抗
1.60
1.40 ∼1.83
(文献 2 より一部改変)
*
:点推定値,無関連値(null value)= 1.
—2—
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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①問診・診察
肩に放散する 3, 4)
.腹痛,背部痛,食欲不振,悪心・嘔吐,腹部膨満感,腹部重圧感,口渇・多
尿,下痢,黄疸,腹部圧痛,腹部抵抗は,いずれもアルコール性慢性膵炎で非アルコール性慢
性膵炎より有意に多く認められる(表 1)1, 2)
.
以上より,病歴聴取,身体診察は慢性膵炎の診断に必要である.
文献
1) 厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班(竹内 正班長)
.慢性膵炎全国集計調査報告 昭和 60 年度研究業
績,1986: p5-41(横断)
2) 野田愛司,伊吹絵里,泉 順子.診断―EBM に基づいたスクリーニングから確定診断へ.臨床医のため
の膵炎,大槻 眞(監修)
,現代医療社,東京,2002: p55-62
3) 朴沢重成,佐伯恵太,宮田直輝.慢性膵炎.Medicina 2011; 48: 1630-1634
4) 山口武人,須藤研太郎,中村和貴,ほか.腹痛の患者をみたときに.内科 2011; 107: 396-400
—3—
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 1-2
1.診断 ― ❷生化学検査
血中・尿中膵酵素測定は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ 1-2 血中・尿中膵酵素測定は慢性膵炎の診断に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 血中・尿中膵酵素の測定は,慢性膵炎の診断に有用なことがあり,
行うことを提案する.
2
(100%)
C
解説
慢性膵炎では膵外分泌組織の破壊が進むと,アミラーゼやリパーゼの血中値は低下傾向を示
す.
慢性膵炎における血中アミラーゼ,リパーゼ,トリプシノーゲン異常低値の診断における特異
度は 92〜98%と高いが,感度は 20〜32%と低く 1, 2)
,軽症の慢性膵炎では異常が認められない 3)
.
慢性膵炎では血中膵型アミラーゼの測定のほうが総アミラーゼより異常低値を示す率が高い 3〜5)
.
正常な膵臓のエコー像を呈し高アミラーゼ血症が続く 75 例中 20 例が,経過観察後早期の慢性
膵炎であったと報告されている 6)
.
血中トリプシノーゲン値は,膵外分泌不全例で低値を示し,慢性膵炎の診断に有用とされる 4, 7)
.
血中エラスターゼ 1 値も,非代償期の慢性膵炎 43 例中 15 例で低下し,重症な膵外分泌不全例
では診断に有用と報告されている 7)
.
一方,尿中膵型アミラーゼ/尿中クレアチニンは慢性膵炎例で低下することがあるが,その頻
度は必ずしも高くない 8)
.また,尿中の膵酵素値は腎機能の影響を受けるので,注意が必要であ
る.
以上より,血中・尿中膵酵素の測定は,慢性膵炎の診断に有用なことがあるが,感度は高く
ないことを理解する必要がある.
文献
1) Dominguez-Munoz JE, Pieramino O, Buchler M, et al. Ratios of different serum pancreatic enzymes in the
diagnosis and staging of chronic pancreatitis. Digestion 1993; 54: 231-236(ケースコントロール)
2) Hayakawa T, Kondo T, Shibata T, et al. Enzyme immunoassay for serum pancreatic lipase in the diagnosis
of pancreatic diseases. Gastroenterol Jpn 1989; 24: 556-560(ケースコントロール)
3) 日野一成,大海庸世,山本晋一郎,ほか.EIA による血中膵型アミラーゼアイソザイム定量の慢性膵炎診
断における臨床的有用性.膵臓 1989; 4: 59-66(ケースコントロール)
—4—
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②生化学検査
4) Pezzilli R, Talamini G, Gullo L. Behavior of serum pancreatic enzymes in chronic pancreatitis. Dig Liver
Dis 2000; 32: 233-237(ケースコントロール)
5) Ventrucci M, Gullo L, Daniele C, et al. Comparative study of serum pancreatic isoamylase, lipase, and
trypsin-like immunoreactivity in pancreatic disease. Digestion 1983; 28: 114-121(ケースコントロール)
6) Pezzilli R, Morselli-Labate M, Casadei T, et al. Chronic asymptomatic pancreatic hyperenzymemia is a
benign condition in only half of the cases: a prospective study. Scand J Gastroenterol 2009; 44: 888-893
(ケースコントロール)
7) 成瀬 達.診断基準の解説―4.膵酵素.膵臓 2009; 24: 666-670
8) Berk JE, Ayulo JA, Fridhandker L. Value of pancreatic-type isoamylase assay as an index of pancreatic
insufficiency. Dig Dis Sci 1979; 24: 6-10(ケースコントロール)
—5—
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Clinical Question 1-3
1.診断 ― ❸画像検査
胸・腹部 X 線撮影は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ 1-3 胸・腹部 X 線撮影は慢性膵炎の診断に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 腹部 X 線撮影は結石を有する慢性膵炎の診断に有用であり,行う
ことを推奨する.
1
(90%)
B
● 胸部 X 線撮影はごく一部の慢性膵炎症例でしか有用とはいえない.
慢性膵炎の診断を目的としては行わないことを提案する.
2
(100%)
C
解説
腹部 X 線撮影は非侵襲的で簡便に検査ができ,膵石症の診断が可能である(図 1)
.また,慢
性膵炎の結石の経過観察や結石の出現に対しても,費用対効果から有用である.正面のみの腹
部 X 線では膵石と特定するのが難しい場合もあり,正面と左右斜位の 3 方向の撮影が有用であ
る 1〜3)
.慢性膵炎における膵石灰化率は 17〜60.8%とされるため腹部 X 線のみで診断可能な症例
はこれより少ない 3〜6)
.現在最も石灰化に診断能の高い X 線 CT で確認できる膵石のうち 68%が
腹部 X 線で指摘可能とされ 7)
,膵石症すなわち石灰化慢性膵炎の診断には低費用かつ低侵襲であ
り,有用な検査と位置づけられる.なお,腹部 X 線では非石灰化慢性膵炎の診断は困難である.
胸部 X 線撮影は慢性膵炎の急性増悪などで膵管や膵仮性囊胞が破綻し,胸腔内に膵液成分が
漏出すると胸水としてその存在を知ることは可能である.しかし,胸部 X 線撮影によって慢性
膵炎を直接的に診断することは困難である.
文献
1) Ammann RW, Muench R, Otto R, et al. Evolution and regression of pancreatic calcification in chronic pancreatitis: a prospective long-termstudy of 107 patients. Gastroenterology 1988; 95: 1018-1028(コホート)
2) Bank S, Chow KW. Diagnostic tests in chronic pancreatitis. Gastroenterologist 1994; 2: 224-232(ケースシ
リーズ)
3) Ammann RW, Akovbiantz A, Largiader F, et al. Course and outcome of chronic pancreatitis: longitudinal
study of a mixed medical-surgical series of 245 patients. Gastroenterology 1984; 86: 820-828(コホート)
4) Lankisch PG, Otto J, Erkelenz I, et al. Pancreatic calcifications: no indicator of severe exocrine pancreatic
insufficiency. Gastroenterology 1986; 90: 617-621(ケースシリーズ)
5) Cavallini G, Talamini G, Vaona B, et al. Effect of alcohol and smoking on pancreatic lithogenesis in the
course of chronic pancreatitis. Pancreas 1994; 9: 42-46(コホート)
—6—
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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③画像検査
a
b
c
d
図 1 腹部 X 線
a:びまん性小結石
b:びまん性大結石(鋳型状)
c:びまん性混合結石
d:限局性小結石
6) Hacken JB, Baer JW. Calcifications within the duct of Wirsung in calcific pancreatitis. Gastrointest Radiol
1978; 3: 173-180(ケースシリーズ)
7) 春日井政博,税所宏光,山口武人,ほか.膵石灰化からみた慢性膵炎の診断と病態に関する研究.膵臓
1995; 10: 9-18(横断)
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 1-4
1.診断 ― ❸画像検査
腹部超音波検査(US,造影を含む)は慢性膵炎の診断に有用
か?
CQ 1-4 腹部超音波検査(US,造影を含む)は慢性膵炎の診断に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 腹部 US は結石の存在や膵管拡張有無などが描出できる.慢性膵
炎の診断に有用であり,行うことを推奨する.
1
(100%)
B
解説
腹部超音波検査(US)は,血液生化学検査や腹部 X 線診断と同様に簡便で患者への苦痛や侵襲
が少なく,各種画像診断のなかで膵の形態診断が最も容易にできる検査法である(巻頭フロー
チャート 1 参照)
.慢性膵炎における腹部超音波検査では,膵全体の大きさ,辺縁の形態,石灰化
の有無,囊胞の有無と,さらに膵管系と実質系の大きく 2 つの変化に注目し診断される 1〜9)
.日
本では 2009 年の慢性膵炎臨床診断基準(表 1)の特徴的な画像所見の確診所見のなかに「膵管内
の結石」および「膵全体に分布する複数ないしびまん性の石灰化」があり,両者は腹部エコー
にて診断できる項目である.また,準確診例のなかで「US(EUS)において,膵内の結石または
蛋白栓と思われる高エコーまたは膵管の不整な拡張を伴う辺縁が不規則な凹凸を示す膵の明ら
かな変形」として取りあげられている 10)
(図 1a,b)
.
慢性膵炎の腹部超音波検査による診断率は 48〜83%であり,特異度は 75〜90%とされる 5〜7, 9)
.
ただし,この検査は腹部の脂肪やガスなどに影響され,膵全体の描出が常に十分できるわけで
はない.膵管の描出能も 77%4)程度,膵石の描出率は 74%11)とされ,膵全体の評価としては不
完全である.また,加齢による変化として,実質の萎縮,高エコー化や膵管拡張が起こるため
超音波検査のみでは慢性膵炎の診断は十分ではない.最近,膵実質の脂肪沈着や加齢の影響が
比較的少ない超音波エラストグラム*により,膵の線維化による硬度が検討されており,正常膵
より慢性膵炎で硬度が高いと報告されており,診断に有用な可能性がある 12)
.
:超音波エラストグラム:日本で開発され集束超音波により一定した圧迫を加えることに
*注
より,任意の部位の組織硬度が B モードをみながら相対的に表示可能.
文献
1) 石原 武,山口武人,税所宏光.慢性膵炎の合併症とその取り扱い―慢性膵炎の画像診断 US,CT,MRI
の役割と最新動向.消化器の臨床 2004; 7: 484-491
2) 村木 崇,尾崎弥生,浜野英明,ほか.体外式超音波検査による胆すい疾患の拾い上げから診断まで―こ
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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③画像検査
表 1 慢性膵炎臨床診断基準 2009
●慢性膵炎の定義と分類
定義:
膵臓の内部に不規則な線維化,細胞浸潤,実質の脱落,肉芽組織などの慢性変化が生じ,進行すると膵外分泌・
内分泌機能の低下を伴う病態である.膵内部の病理組織学的変化は,基本的には膵臓全体に存在するが,病変の程
度は不均一で,分布や進行性も様々である.これらの変化は,持続的な炎症やその遺残により生じ,多くは非可逆
性である.
慢性膵炎では,腹痛や腹部圧痛などの臨床症状,膵内・外分泌機能不全による臨床症候を伴うものが典型的であ
る.臨床観察期間内では,無痛性あるいは無症候性の症例も存在し,このような例では,臨床診断基準をより厳密
に適用すべきである.慢性膵炎を,成因によってアルコール性と非アルコール性に分類する.自己免疫性膵炎と閉
塞性膵炎は,治療により病態や病理所見が改善することがあり,可逆性である点より,現時点では膵の慢性炎症と
して別個に扱う.
分類:
・アルコール性慢性膵炎
・非アルコール性慢性膵炎(特発性,遺伝性,家族性など)
注 1:自己免疫性膵炎および閉塞性膵炎は,現時点では膵の慢性炎症として別個に扱う.
●慢性膵炎臨床診断基準
慢性膵炎の診断項目:
①特徴的な画像所見
②特徴的な組織所見
③反復する上腹部痛発作
④血中または尿中膵酵素値の異常
⑤膵外分泌障害
⑥ 1 日 80g 以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴
慢性膵炎確診:a,b のいずれかが認められる.
a.①または②の確診所見.
b.①または②の準確診所見と,③④⑤のうち 2 項目以上.
慢性膵炎準確診:
①または②の準確診所見が認められる.
早期慢性膵炎:
③∼⑥のいずれか 2 項目以上と早期慢性膵炎の画像所見が認められる.
注 2:①,②のいずれも認めず,③∼⑥のいずれかのみ 2 項目以上有する症例のうち,他の疾患が否定されるものを慢性
膵炎疑診例とする.疑診例には 3 ヵ月以内に EUS を含む画像診断を行うことが望ましい.
注 3:③または④の 1 項目のみ有し早期慢性膵炎の画像所見を示す症例のうち,他の疾患が否定されるものは早期慢性膵
炎の疑いがあり,注意深い経過観察が必要である.
付記:早期慢性膵炎の実態については,長期予後を追跡する必要がある.
(文献 10 より)
a
b
図 1 腹部 US 像
膵管の不整拡張(矢頭)と膵管内の結石を示す音響陰影を伴う高エコー(矢印)
.
—9—
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1.診 断
表 1 つづき
●慢性膵炎の診断項目
①特徴的な画像所見
確診所見:以下のいずれかが認められる.
a.膵管内の結石.
b.膵全体に分布する複数ないしびまん性の石灰化.
c.ERCP 像で,膵全体にみられる主膵管の不整な拡張と不均等に分布する不均一* 1 かつ不規則* 2 な分枝膵
管の拡張.
d.ERCP 像で,主膵管が膵石,蛋白栓などで閉塞または狭窄しているときは,乳頭側の主膵管と分枝膵管の
不規則な拡張.
準確診所見:以下のいずれかが認められる.
a.MRCP において,主膵管の不整な拡張とともに膵全体に不均一に分布する分枝膵管の不規則な拡張.
b.ERCP 像において,膵全体に分布するびまん性の分枝膵管の不規則な拡張,主膵管のみの不整な拡張,蛋
白栓のいずれか.
c.CT において,主膵管の不規則なびまん性の拡張とともに膵辺縁が不規則な凹凸を示す膵の明らかな変形.
d.US(EUS)において,膵内の結石または蛋白栓と思われる高エコーまたは膵管の不整な拡張を伴う辺縁が
不規則な凹凸を示す膵の明らかな変形.
②特徴的な組織所見
確診所見:膵実質の脱落と線維化が観察される.膵線維化は主に小葉間に観察され,小葉が結節状,いわゆる硬
変様をなす.
準確診所見:膵実質が脱落し,線維化が小葉間または小葉間・小葉内に観察される.
④血中または尿中膵酵素値の異常
以下のいずれかが認められる.
a.血中膵酵素* 3 が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇あるいは正常下限未満に低下.
b.尿中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇.
⑤膵外分泌障害
BT-PABA 試験で明らかな低下* 4 を複数回認める.
解説 1:US または CT によって描出される,①膵囊胞,②膵腫瘤ないし腫大,および,③膵管拡張(内腔が 2mm を超え,
不整拡張以外)は膵病変の検出指標として重要である.しかし,慢性膵炎の診断指標としては特異性が劣る.したがって,
①②③の所見を認めた場合には画像検査を中心とした各種検査により確定診断に努める.
解説 2:
*1
: 不均一 とは,部位により所見の程度に差があることをいう.
*2
: 不規則 とは,膵管径や膵管壁の平滑な連続性が失われていることをいう.
*3
: 血中酵素 の測定には,膵アミラーゼ,リパーゼ,エラスターゼ 1 など膵特異性の高いものを用いる.
*4
: BT-PABA 試験(PFD 試験)における尿中 PABA 排泄率の低下 とは,6 時間排泄率 70%以下をいう.
解説 3:MRCP については,
1)磁場強度 1.0 テスラ(T)以上,傾斜磁場強度 15mTm 以上,シングルショット高速 SE 法で撮像する.
2)上記条件を満足できないときは,背景信号を経口陰性造影剤の服用で抑制し,膵管の描出のため呼吸同期撮像を行う.
●早期慢性膵炎の画像所見
a,b のいずれかが認められる.
a.以下に示す EUS 所見 7 項目のうち,(1)∼(4)のいずれかを含む 2 項目以上が認められる.
(1)蜂巣状分葉エコー(lobularity,honeycombing type)
(2)不連続な分葉エコー(nonhoneycombing lobularity)
(3)点状高エコー(hyperechoic foci;non-shadowing)
(4)索状高エコー(stranding)
(5)囊胞(cysts)
(6)分枝膵管拡張(dilated side branches)
(7)膵管辺縁高エコー(hyperechoic MPD margin)
b.ERCP 像で,3 本以上の分枝膵管に不規則な拡張が認められる.
のエコー所見を見逃すな―自己免疫性すい炎.胆と膵 2005; 26: 711-716
3) 馬嶋和雄,竹田喜信,板橋 司,ほか.アルコール性慢性膵炎における US 所見の解析―ERP 所見との対
比による再検討から.胆と膵 1989; 10: 1503-1506(横断)
4) 小吉洋文.慢性膵炎の超音波診断に関する研究―ERP との対比において.鹿児島大学医学雑誌 1988; 40:
215-234(横断)
5) Manfredi R, Brizi MG, Masselli G, et al. Imaging of chronicpancreatitis. Rays 2001; 26: 143-149
6) Rosch T, Schusdziarra V, Born P, et al. Modern imaging methods versus clinical assessment in the evaluation of hospital in-patients with suspected pancreatic disease. Am J Gastroenterol 2000; 95: 2261-2270
(ケースコントロール)
7) Buscail L, Escourrou J, Moreau J, et al. Endoscopic ultrasonography in chronic pancreatitis: a comparative
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8)
9)
10)
11)
12)
③画像検査
prospective study with 8 conventional ultrasonography, computed tomography, and ERCP. Pancreas
1995; 10: 251-257(横断)
Shawker TH, Linzer M, Hubbard VS. Chronic pancreatitis: the diagnostic significance of pancreatic size
and echo amplitude. J Ultrasound Med 1984; 3: 267-272(ケースコントロール)
Swobodnik W, Meyer W, Brecht-Kraus D, et al. Ultrasound, computed tomography and endoscopic retrograde cholangiopancreatography in the morphologic diagnosis of pancreatic disease. Klin Wochenschr
1983; 61: 291-296(横断)
厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班,日本膵臓学会,日本消化器病学会.慢性膵炎臨床診断基準
2009.膵臓 2009; 24: 645-646(ガイドライン)
春日井政博,税所宏光,山口武人,ほか.膵石灰化からみた慢性膵炎の診断と病態に関する研究.膵臓
1995; 10: 9-18(横断)
Uchida H, Hirooka Y, Itoh A, et al. Feasibility of tissue elastography using transcutaneous ultrasonography for the diagnosis of pancreatic diseases. Pancreas 2009; 38: 17-22(ケースコントロール)
— 11 —
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Clinical Question 1-5
1.診断 ― ❸画像検査
コンピュータ断層撮影法(CT)は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ 1-5 コンピュータ断層撮影法(CT)は慢性膵炎の診断に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 腹部 CT は結石の存在や膵管拡張の有無などが描出できる.慢性膵
炎の診断に有用であり,行うことを推奨する.
1
(100%)
B
解説
コンピュータ断層撮影法(CT)は腹部全体の描出に優れ,侵襲の比較的少ない画像検査であ
る.被検者の各種条件による影響が少なく,慢性膵炎の診断にも有用である(巻頭フローチャー
ト 1 参照)
.慢性膵炎の CT 検査では,膵全体の大きさ,辺縁の形態,石灰化や囊胞の有無,膵
管の拡張が確認でき,合併病変や膵周囲臓器との関連も明瞭となる.日本では 2009 年の慢性膵
炎臨床診断基準(CQ 1-4 表 1 参照)の特徴的な画像所見の確診所見のなかに「膵管内の結石」お
よび「膵全体に分布する複数ないしびまん性の石灰化」があり,両者は CT 検査にて診断でき
る項目である.また,準確診例のなかに「CT において主膵管の不規則なびまん性の拡張ととも
に膵辺縁が不規則な凹凸を示す膵の明らかな変形」として取りあげられ使用されている 1)
.慢性
膵炎の診断において膵石の確認は極めて重要である.CT は膵石灰化の程度と拡がりの描出能に
関して鋭敏であり,容易に判定可能である 2〜4)
(図 1a,b)
.膵の石灰化の 62〜96%が慢性膵炎と
される 5, 6).慢性膵炎以外の症例の剖検膵の検討では,石灰化が 70 歳代で 4.2%,80 歳代で
7.7%,90 歳代で 16.7%と少なくはなく,多くは数 mm 台 7)の小さな石灰化である.これらは
CT で描出される可能性があり,CT で微小石灰化のみが認められる場合の診断には注意を要す
る.他に神経内分泌腫瘍や IPMN や膵癌でも石灰化がみられることがある 6)
.また,膵頭部で
のリンパ節の石灰化や体尾部での脾動脈の石灰化も膵石と鑑別を要することがある.CT 検査で
の膵の辺縁の凹凸所見は感度 25.3%,特異度 92.9%であり偽陽性は少ないが感度が低い 5)
(図
1c)
.慢性膵炎の CT 検査における診断率は,感度 74〜90%,特異度 84〜100%4, 8〜11)とされる.
慢性膵炎に付随した仮性囊胞や脾静脈塞栓の合併症や急性増悪の診断には有用である 12)
.しか
しながら早期の慢性膵炎の変化に対しての診断感度は十分ではない 13, 14)
.
— 12 —
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a
③画像検査
b
d
c
図 1 腹部 X 線 CT 像
a:びまん性混合結石
b,c:びまん性小結石
d:造影 CT.主膵管の不規則なびまん性の拡張とともに,膵辺縁が不規則な凹凸を示す膵の変形が認められる.
文献
1) 厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班,日本膵臓学会,日本消化器病学会.慢性膵炎臨床診断基準
2009.膵臓 2009: 24: 645-646(ガイドライン)
2) 春日井政博,税所宏光,山口武人.膵石灰化からみた慢性膵炎の診断と病態に関する研究.膵臓 1995; 10:
9-18(横断)
3) De Backer AI, Mortele KJ, Ros RR, et al. Chronic pancreatitis: diagnostic role of computed tomography
and magnetic resonance imaging. JBR-BTR 2002; 85: 304-310
4) Luetmer PH, Stephens DH, Ward EM. Chronic pancreatitis: reassessment with current CT. Radiology
1989; 171: 353-357(横断)
5) 石原 武,山口武人,原 太郎.慢性膵炎 新しい診断基準をめぐって―新しい基準の適応に必要な検査―
CT.臨床消化器内科 1998; 13: 631-636
6) Campisi A, Brancatelli G, Vullierme MP, et al. Are pancreatic calcifications specific for the diagnosis of
chronic pancreatitis? a multidetector-row CT analysis. Clin Radiol 2009; 64: 903-911(横断)
7)永井秀雄,大坪浩一郎,江崎行芳.高齢者の膵炎並びに関連膵病変.病理と臨床 1992; 10: 548-556(ケース
シリーズ)
8) Rosch T, Schusdziarra V, Born P, et al. Modern imaging methods versus clinical assessment in the evaluation of hospital in-patients with suspected pancreatic disease. Am J Gastroenterol 2000; 95: 2261-2270
(ケースコントロール)
9) Buscail L, Escourrou J, Moreau J, et al. Endoscopic ultrasonography in chronic pancreatitis: a comparative
prospective study with conventional ultrasonography, computed tomography, and ERCP. Pancreas 1995;
— 13 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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1.診 断
10: 251-257(横断)
10) Manfredi R, Brizi MG, Masselli G, et al. Imaging of chronic pancreatitis. Rays 2001; 26: 143-149
11) Liao Q, Zhao YP, Wu WW, et al. Diagnosis and treatment of chronic pancreatitis. Hepatobiliary Pancreat
Dis Int 2003; 2: 445-448(横断)
12)Perez-Johnston R, Sainani NI, Sahani DV. Imaging of chronic pancreatitis (including groove and autoimmune pancreatitis). Radiol Clin North Am 2012; 50: 447-466
13) Bozkurt T, Braun U, Leferink S, et al. Comparison of pancreatic morphology and exocrine functional
impairment in patients with chronic pancreatitis. Gut 1994; 35: 1132-1136(横断)
14) Remer EM, Baker ME. Imaging of chronic pancreatitis. Radiol Clin North Am 2002; 40: 1229-1242
— 14 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 1-6
1.診断 ― ❸画像検査
腹部 MRI は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ 1-6 腹部 MRI は慢性膵炎の診断に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 腹部 MRI は結石の存在や膵管拡張有無などが描出できる.慢性膵
炎の診断に有用であり,行うことを推奨する.
1
(100%)
B
解説
膵胆管 MRI 検査(MRCP)は侵襲が少なく,内視鏡的逆行性胆道膵管造影検査(ERCP)に代わ
りうる検査法として有用性が認められている(巻頭フローチャート 1 参照)
.日本では 2009 年
の慢性膵炎臨床診断基準(CQ 1-4 表 1 参照)の特徴的な画像所見の準確診所見で「主膵管の不整
な拡張とともに膵全体に不均一に分布する分枝膵管の不規則な拡張」として取りあげられてい
る 1)
(図 1a,b)
.撮影条件は,磁場強度 1.0 テスラ(T)以上,傾斜磁場強度 15 mT/m 以上,シン
グルショット高速 SE 法で撮像すること,その条件が満足できないときは,背景信号を経口陰性
造影剤の服用で抑制し,膵管の描出のため呼吸同期撮影を行うことが求められている.
MRCP では主膵管と拡張した分枝が描出され,診断基準の確診所見である膵管内結石も陰影
欠損像として描出可能である.さらに仮性囊胞の描出能は高く(図 1c)
,進行した慢性膵炎の診
断能は良好である 2)
.しかし,ERCP のように慢性膵炎の軽微な分枝の変化を捉えることは難し
く 3, 4)
,膵実質領域の微細膵管内結石は診断できない.現在,慢性膵炎の診断のためだけに ERCP
を行うことは偶発症のリスクから考慮を要する.したがって,MRCP は診断のために膵管像を
得たい場合や,術後の ERCP 不能例,ERCP 後膵炎の既往例,膵管造影不成功または膵管閉塞
部より上流膵管像を得たい場合などに,侵襲がほとんどなく簡単に膵管を描出できる唯一の方
法である(巻頭フローチャート 1 参照)
.
MRI 断層法は組織コントラストが CT よりもよく,膵実質の信号変化から線維化あるいは残
存する浮腫や炎症の程度などの判定にも優れている 5〜8)
.早期の慢性膵炎では,造影により動脈
早期相での信号強度の変化が少ない 9)
.また,セクレチンの膵液分泌を促進する作用を利用し,
セクレチンを投与した MRCP で早期慢性膵炎にあたる膵管分枝の変化が sensitivity 56〜63%10)
,
十二指腸への膵液分泌量も膵管変化の軽度から進行したもので段階的に減少した 11)とされ,早
期慢性膵炎診断で MRCP にセクレチンの併用の有用性が示唆されている.なお,現在のところ
日本国内では,セクレチンの入手が困難である.
— 15 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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1.診 断
a
b
c
図 1 MRCP 像
a,b:主膵管の不整拡張と膵全体に不均一に分布する分枝膵管の不整拡張.
c:主膵管の不整拡張と分枝膵管の不整拡張に加え,膵尾部に囊胞形成(矢印)が認められる.
文献
1) 厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班,日本膵臓学会,日本消化器病学会.慢性膵炎臨床診断基準
2009.膵臓 2009: 24: 645-646(ガイドライン)
2) 馬淵龍彦,片田直幸,西村大作,ほか.MR cholangiopancreatography(MRCP)画期的胆膵管系撮像法の
登場,進歩と臨床応用の現況―疾患別 MRCP の診断的意義―有用性と限界―膵疾患―慢性膵炎,急性膵炎.
日本臨床 1998; 56: 2896-2901(横断)
3) Vitellas KM, Keogan MT, Spritzer CE, et al. MR cholangiopancreatography of bile and pancreatic duct
abnormalities with emphasis on the single-shot fast spin-echo technique. Radiographics 2000; 20: 939-957
4) 竹原康雄,高橋 譲,一条勝利,ほか.慢性すい炎診断と MRCP―MRCP 所見を含めた日本すい臓学会慢
性すい炎臨床診断基準 2001―慢性すい炎診断における MRCP の側枝不整拡張の診断能.膵臓 2001; 16: 531537(横断)
5) 内田政史,内山大治,品川正治,ほか.肝胆膵領域の画像診断―膵疾患―慢性膵炎.臨床放射線 2004; 49:
1521-1533
6) Pamuklar E, Semelka RC. MR imaging of the pancreas. Magn Reson Imaging Clin N Am 2005; 13: 313-330
7) De Backer AI, Mortele KJ, Ros RR, et al. Chronic pancreatitis: diagnostic role of computed tomography
and magnetic resonance imaging. JBR-BTR 2002; 85: 304-310
8) 田島義証,黒木 保,福田顕三,ほか.Dynamic MRI を用いた Time-signal Intensity Curve による膵疾患
の診断と評価.胆と膵 2002; 23: 571-578
9) Zhang XM, Shi H, Parker L, et al. Suspected early or mild chronic pancreatitis: enhancement patterns on
gadolinium chelate dynamic MRI. Magnetic resonance imaging. J Magn Reson Imaging 2003; 17: 86-94
(ケースコントロール)
— 16 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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③画像検査
10) Sai JK, Suyama M, Kubokawa Y, et al. Diagnosis of mild chronic pancreatitis (Cambridge classification):
comparative study using secretin injection-magnetic resonance cholangiopancreatography and endoscopic
retrograde pancreatography. World J Gastroenterol 2008; 14: 1218-1221(ケースコントロール)
11)Sanyal R, Stevens T, Novak E, et al. Secretin-enhanced MRCP: review of technique and application with
proposal for quantification of exocrine function. AJR Am J Roentgenol 2012; 198: 124-132(横断)
— 17 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 1-7
1.診断 ― ❸画像検査
超音波内視鏡検査(EUS)は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ 1-7 超音波内視鏡検査(EUS)は慢性膵炎の診断に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● EUS は結石の存在や膵管拡張の有無の診断に有用で,さらに実質
の線維化の推測ができる可能性もあり,慢性膵炎の診断,特により
早期の診断に有用であり,実施することを推奨する.
1
(100%)
B
解説
超音波内視鏡検査(EUS)は,高周波・高解像度の超音波プローブを用いて腹壁の脂肪,筋肉
や腹部ガスの影響を受けることなく,胃壁および十二指腸壁から膵全体さらに中下部胆道や周
囲臓器が観察可能である(巻頭フローチャート 1 参照)
.EUS による慢性膵炎の診断は CT や
ERP よりも優れ 1〜4)
,その診断率は,感度 80〜88%,特異度 65〜100%とされる 3, 4)
.最近,注目
されている点として,US,CT や ERCP で異常のない初期の慢性膵炎の変化を EUS で診断でき
る可能性が示唆されている 4〜6)
.EUS における慢性膵炎の所見としては,点状高エコー(図 1)
,
図 1 EUS 像
膵実質の点状高エコー(hyperechoic foci)とその拡大像(ボックス内)
.
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③画像検査
図 2 EUS 像
膵実質の分葉状エコー(lobularity)とその拡大像(ボックス内)
.
索状高エコー,分葉状エコー(図 2)
,辺縁凹凸など,研究者により 9〜13 所見が報告されてい
る 1, 4〜7)
.
「2009 年に国際的な専門家のコンセンサスとして,EUS による慢性膵炎診断基準(the Rosemont classification)が公表された.このなかで,EUS による慢性膵炎の所見として膵実質の 6 所
見と膵管の 5 所見が採用された.これらの所見は major A,major B,minor の 3 つに分類され
重みづけされた.この診断基準では,慢性膵炎を major 所見の有無や minor 所見の数などから
「consistent with CP」
「
,suggestive for CP」
「
,indeterminent for CP」に分類された 8)
.日本の「慢
性膵炎臨床診断基準 2009」
(CQ 1-4 表 1 参照)では,このような背景を踏まえ,EUS による画像
診断が取り入れられた.特徴的な画像所見の確診所見で「膵管内の結石」および「膵全体に分
布する複数ないしびまん性の石灰化」があり,両者は EUS で診断可能である.また,準確診所
見では「US(EUS)において,膵内の結石または蛋白栓と思われる高エコーまたは膵管の不整な
拡張を伴う辺縁が不規則な凹凸を示す膵の明らかな変形」として取りあげられている 7)
.また,
早期慢性膵炎の画像所見としては,the Rosemont classification の minor 所見に矛盾しない 7 所
見が取りあげられた 7)
.診断の精度に関しては組織との対比が必要である.EUS-FNA(CQ 1-11)
で用いられる生検針よりも組織がより多く採集可能な trucut 針による生検(EUS-guided trucut
biopsy)でも,EUS 像や ERCP と組織所見との一致率は低く 9)
,さらに大きな組織を得ることは
難しく,EUS による偽陽性をいかに減らすかが今後の課題である.近年 EUS エラストグラムが
開発され,組織の硬度を反映した画像から慢性膵炎線維化の診断の可能性が示唆された
(Endoscopy 2013; 45: 781-788 a)
[検索期間外文献]
)
.
「慢性膵炎臨床診断基準 2009」
(CQ 1-4 表 1
参照)では,早期慢性膵炎の診断は画像所見とともに「反復する上腹部痛発作」
,
「血中または尿
中膵酵素値の異常」
,
「膵外分泌障害」
,
「1 日 80 g 以上(純エタノール換算)の持続する飲酒」の 4
項目のうち 2 項目以上を満たすことが必要条件であり,EUS 所見のみで早期慢性膵炎と診断さ
れることはない 10)
.
— 19 —
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1.診 断
文献
1) Wiersema MJ, Hawes RH, Lehman GA, et al. Prospective evaluation of endoscopic ultrasonography and
endoscopic retrograde cholangiopancreatography in patients with chronic abdominal pain of suspected
pancreatic origin. Endoscopy 1993; 25: 555-564(コホート)
2) Nattermann C, Goldschmit AJW, Dancygier H. Endosonography in pancreatitis: a comparison between
endscopic retrograde pancreatography and endscopic ultrasonography. Endoscopy 1993; 25: 565-570
(ケースコントロール)
3) Buscail L, Escourrou J, Moreau J, et al. Endoscopic ultrasonography in chronic pancreatitis: a comparative
prospective study with conventional ultrasonography, computed tomography, and ERCP. Pancreas 1995;
10: 251-257(横断)
4)Catalano MF, Lahoti S, Geenen JE, et al. Prospective evaluation of endoscopic ultrasonography, endoscopic
retrograde pancreatography, and secretin test in the diagnosis of chronic pancreatitis. Gastrointest Endosc
1998; 48: 11-17(横断)
5) Wallace MB, Hawcs RH, Durkalski V, et al. The reliability of EUS for the diagnosis of chronic pancreatitis;
interobserve agreement among experienced endosonographers. Gastrointest Endosc 2001; 53: 294-299(横
断)
6) Sahai AV, Zimmerman M, Aabakken L, et al. Prospective assessment of the ability of endoscopic ultrasound to diagnose, exclude, or establish the severity of chronic pancreatitis found by endoscopic retrograde cholangiopancreatography. Gastrointest Endosc 1998; 48: 18-25(横断)
7) Kahl S, Glasbrenner B, Leodolter A, et al. EUS in the diagnosis of early chronic pancreatitis: a prospective
follow-up study. Gastrointest Endosc 2002; 55: 507-511(ケースコントロール)
8) Catalano MF, Sahai A, Levy M, et al. EUS-based criteria for the diagnosis of chronic pancreatitis: Rosemont classification. Gastrointest Endsc 2009; 69: 1251-1261(ガイドライン)
9) DeWitt J, McGreevy K, LeBlanc J, et al. EUS-guided Trucut biopsy of suspected nonfocal chronic pancreatitis. Gastrointest Endosc 2005; 62: 76-84(横断)
10) 厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班,日本膵臓学会,日本消化器病学会.慢性膵炎臨床診断基準
2009.膵臓 2009: 24: 645-646(ガイドライン)
【検索期間外文献】
a)Iglesias-Garcia J, Domínguez-Muñoz JE, Castiñeira-Alvariño M, et al. Quantitative elastography associated
with endoscopic ultrasound for the diagnosis of chronic pancreatitis. Endoscopy 2013; 45: 781-788(横断)
— 20 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 1-8
1.診断 ― ❸画像検査
内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)は慢性膵炎の診断に
有用か?
CQ 1-8 内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)は慢性膵炎の診断に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● ERCP は膵管像を極めて明瞭に描出し慢性膵炎を診断することが
できる.早期の診断が必要な場合にも有用であり,適応を慎重に検
討したうえで行うことを提案する.
2
(100%)
B
解説
内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)は,主膵管のみならず膵管分枝が,他の検査に比べ
最も明瞭に描出でき,比較的早期の慢性膵炎の診断にも有用とされる 1)
.ERCP 所見で主膵管の
拡張がなく,あっても分枝の拡張のみの早期の慢性膵炎の切除材料による検討で,67%に組織
学的に相関がみられた 2)
(巻頭フローチャート 1 参照)
.ERCP による慢性膵炎の診断率は感度
70〜93%,特異度は 89〜100%とされ良好である 3〜6)
.
慢性膵炎臨床診断基準(2009 年)
(CQ 1-4 表 1 参照)による特徴的な画像所見の確診所見では
「ERCP 像で,膵全体にみられる主膵管の不整な拡張と不均等に分布する不均一かつ不規則な分
枝膵管の拡張」
(図 1)および ERCP 像で,主膵管が膵石,蛋白栓などで閉塞または狭窄してい
るときは,乳頭側の主膵管と分枝膵管の不規則な拡張」
(図 2)
,準確診所見では ERCP 像にお
いて,膵全体に分布するびまん性の分枝膵管の不規則な拡張,主膵管のみの不整な拡張,蛋白
栓のいずれか.
」とされている.さらに早期慢性膵炎の画像所見では「ERCP 像で,3 本以上の
分枝膵管に不規則な拡張が認められる」とされている 7)
.高齢者では加齢による膵管のびまん性
拡張,囊胞性拡張や石灰化があり鑑別を要する 8)
.
診断的 ERCP は,多くの場合膵癌と慢性膵炎を鑑別するために用いられ,膵管像診断ととも
に生検や擦過細胞診や膵管内経鼻膵管チューブ留置による細胞診(J Gastroenterol 2013; 48: 866873 a)
[検索期間外文献]
)も行われ,膵癌診断の良好な感度,特異度,正診率が得られる.
ERCP の膵管所見は慢性膵炎の診断としてケンブリッジ分類や日本の診断基準で用いられて
きたが,この検査法の最大の問題点として重篤となる偶発症が起こる場合がある.その頻度は
危険因子の度合いにより異なるが,ERCP 後急性膵炎としては 2.6%〜4.09%とされる 9〜11)
.急性
膵炎のリスクを考慮して検査を行う前には十分なインフォームドコンセントを必要とする.
— 21 —
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1.診 断
a
b
c
図 1 慢性膵炎確診
膵全体にみられる主膵管の不整な拡張と不均等に分布する不均一かつ不規則な分枝膵管の拡張.
図 2 早期慢性膵炎
頭部から体部にかけ分枝膵管の不規則な拡張が認められる.
文献
1) Sahai AV, Zimmerman M, Aabakken L, et al. Prospective assessment of the ability of endoscopic ultrasound to diagnose, exclude, or establish the severity of chronic pancreatitis found by endoscopic retrograde cholangiopancreatography. Gastrointest Endosc 1998; 46: 18-25(横断)
2) Vitale GC, Davis BR, Zavaleta C, et al. Endoscopic retrograde cholangiopancreatography and histopathology correlation for chronic pancreatitis. Am Surg 2009; 75: 649-653(横断)
— 22 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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③画像検査
3) Buscail L, Escourrou J, Moreau J, et al. Endoscopic ultrasonography in chronic pancreatitis: a comparative
prospective study with conventional ultrasonography, computed tomography, and ERCP. Pancreas 1995;
10: 251-257(横断)
4) Rosch T, Schusdziarra V, Born P, et al. Modern imaging methods versus clinical assessment in the evaluation of hospital in-patients with suspected pancreatic disease. Am J Gastroenterol 2000; 95: 2261-2270
(ケースコントロール)
5) Venu RP, Brown RD, Halline AG. The role of endoscopic retrograde cholangio- pancreatography in acute
and chronic pancreatitis. J Clin Gastroenterol 2002; 34: 560-568
6) Lehman GA. Role of ERCP and other endoscopic modalities in chronic pancreatitis. Gastrointest Endosc
2002; 56: S237-S240(ケースシリーズ)
7) 厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班,日本膵臓学会,日本消化器病学会.慢性膵炎臨床診断基準
2009.膵臓 2009: 24: 645-646(ガイドライン)
8) Ikeda M, Sato T, Morozumi A, et al. Morphologic changes in the pancreas detected by screening ultrasonography in a mass survey, with special reference to main duct dilatation, cyst formation, and calcification. Pancreas 1994; 9: 508-512(ケースシリーズ)
9) Cotton PB, Garrow DA, Gallagher J, et al. Risk factors for complications after ERCP: a multivariate analysis of 11,497 procedures over 12 years. Gastrointest Endosc 2009; 70: 80-88(横断)
10) Zhou W, Li Y, Zhang Q, et al. Risk factors for postendoscopic retrograde cholangiopancreatography pancreatitis: a retrospective analysis of 7,168 cases. Pancreatology 2011; 11: 399-405(横断)
11) Testoni PA, Mariani A, Giussani A, et al. Risk factors for post-ERCP pancreatitis in high- and low-volume
centers and among expert and non-expert operators: a prospective multicenter study. Am J Gastroenterol
2010; 105: 1753-1761(横断)
【検索期間外文献】
a) Mikata R, Ishihara T, Tada M, et al. Clinical usefulness of repeated pancreatic juice cytology via endoscopic naso-pancreatic drainage tube in patients with pancreatic cancer. J Gastroenterol 2013; 48: 866-873(ケー
スコントロール)
— 23 —
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Clinical Question 1-9
1.診断 ― ❹機能検査
外分泌機能検査は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ 1-9 外分泌機能検査は慢性膵炎の診断に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● BT-PABA 試験で異常低値を複数回認めれば慢性膵炎の診断に有
用であり,用いることを推奨する.
1
(90%)
C
解説
膵外分泌機能検査は従来から慢性膵炎の診断根拠として重要な役割を果たしてきた.有管法
によるパンクレオザイミン–セクレチン(PS)試験,セルレイン–セクレチン(CS)試験,その後の
セクレチン(S)試験は膵外分泌機能の直接法として感度,特異度が高く,慢性膵炎診断基準のひ
とつ 1)として,歴史的にその有用性は極めて高かった.これらの試験では,液量,重炭酸塩濃
度,膵酵素分泌量の 3 因子を測定し,最高重炭酸塩濃度を含めた 2 因子以上の異常低下をもっ
て確実な診断根拠であるとしてきた.また,セクレチン刺激による内視鏡的純粋膵液採取法 2)
,
セクレチン刺激下に内視鏡的に採取した十二指腸液中の最高重炭酸濃度を測定し膵外分泌機能
を評価する endoscopic pancreatic function test 3)
,セクレチン刺激下に MRI/MRCP を撮像し十
二指腸液の液量を推定する機能画像検査 4)の有用性も報告されてきた.
しかし,ヒトに投与可能なこれらペプチド製剤の入手が困難となり,日本では実施不可能に
なった現在,実施可能な外分泌機能検査は BT-PABA 試験のみである.この試験は BT-PABA 内
服後の尿中 PABA 測定により,キモトリプシンの十二指腸内活性を間接的に測定する方法で簡
便法として広く普及している.本試験で異常低値を認めれば,確実な膵外分泌機能障害と診断 5)
できるが,PABA の代謝経路(腸管吸収,肝での抱合,腎排泄)の影響や種々の内服薬剤の影響
を受けることから,感度および特異度の面で,その評価には注意が必要である.これらを考慮
して,日本の慢性膵炎診断基準 2009 6)は BT-PABA 試験での複数回異常低値を認める場合を有意
な所見として診断項目に取り入れられている.複数回異常とは,数ヵ月あけて 2 回以上の異常
を認めた場合とされており,簡便とは言い難い.簡便な間接法としての膵外分泌機能検査には,
便中キモトリプシン活性測定 5, 7)
,便中エラスターゼ 1 測定 8, 9)
,13C-ジペプチド(benzoyl-L-tyrosyl-[1-13C]alanine:Bz-Tyr-Ala)呼気試験 10)などがあり,慢性膵炎の診断に有用であるという報
告がある.また,BT-PABA 試験と便中キモトリプシン活性測定との組み合わせで同時異常を認
める場合 5, 7)は,診断の確実性は高まると報告されている.しかし,BT-PABA 試験以外は日本に
おける保険適用がない(表 1)
.
BT-PABA 試験はセクレチン試験で 2 因子以上障害された慢性膵炎の診断には有用性が高い
— 24 —
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④機能検査
表 1 膵外分泌機能検査法
検査名
評価の目的
直接法(有管法) セクレチン試験
刺激下膵外分泌機能
(予備能)
内視鏡的純粋膵液採取法
間接法(無管法) BT-PABA 試験
非刺激下,
生理的膵外分泌機能
便中キモトリプシン
日本での実施状況
試薬販売中止のため実施困難
試薬販売中止のため実施困難
可能(保険適用)
試薬供給中止のため実施困難
便中エラスターゼ 1
保険収載申請中
13
C- ジペプチド(benzoyl-Ltyrosyl-[1-13C]alanine:BzTyr-Ala)呼気試験
研究段階
が,軽度な外分泌機能障害の検出は困難であり,また慢性膵炎以外の膵病変においても異常値
を示すことから,その診断能には限界がある.
文献
1) 日本膵臓学会慢性膵炎臨床診断基準 2001.膵臓 2001; 16: 560-561(ガイドライン)
2) 吉岡秀樹,井上博和,長谷川 毅.内視鏡的純粋膵液採取法を用いた慢性膵炎の膵外分泌機能の検討.消
化器内視鏡の進歩 1998; 42: 343-348(ケースコントロール)
3) Pelley JR, Gordon SR, Gardner TB. Abnormal duodenal [HCO3-] following secretin stimulation develops
sooner than endocrine insufficiency in minimal change chronic pancreatitis. Pancreas 2012; 41: 481-484
(ケースコントロール)
4) Balci NC, Smith A, Momtahen AJ, et al. MRI and S-MRCP findings in patients with suspected chronic pancreatitis: correlation with endoscopic pancreatic function testing (ePFT). J Magn Reson Imaging 2010; 31:
601-606(ケースコントロール)
5) Kataoka K, Yamane Y, Kato M, et al. Diagnosis of chronic pancreatitis using noninvasive tests of exocrine
pancreatic function: comparison to duodenal intubation tests. Pancreas 1997; 15: 409-415(ケースコント
ロール)
6) Shimosegawa T, Kataoka K, Kamisawa T, et al. The revised Japanese clinical diagnostic criteria for chronic
pancreatitis. J Gastroenterol 2010; 45: 584-591(ガイドライン)
7) 内 緑,小泉 勝,木村憲治,ほか.無管法の BT-PABA 試験と便中キモトリプシン活性測定試験による
膵外分泌機能の評価.膵臓 1998; 13: 1-8(ケースコントロール)
8) 竹田昌弘,白鳥敬子,林 直諒,ほか.便中エラスターゼ-1 測定を中心とした膵外分泌機能検査の評価.
臨床病理 2002; 50: 893-898(ケースコントロール)
9) 長崎 裕,水溜浩弥,柏瀬由紀子,ほか.便中エラスターゼ Ⅰによる膵外分泌機能の検討.膵臓 2003; 18:
9-20(ケースコントロール)
10) 石井敬基,河野 匡,伊藤あすか,ほか.13C-ジペプチド(Benzoyl-L-Tyrosyl-[1-13C]alanine)呼気テストに
よる簡易膵外分泌機能検査法.消化器科 2004; 39: 174-177(ケースコントロール)
— 25 —
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Clinical Question 1-10
1.診断 ― ❺病理検査
病理組織学的検索は慢性膵炎の診断に必要か?
CQ 1-10 病理組織学的検索は慢性膵炎の診断に必要か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 慢性膵炎の診断に病理組織学的検索は必ずしも必要でない.診断目
的の組織的検索は行わないことを提案する.
2
(100%)
C
解説
十分な膵組織が得られれば(切除例では)
,病理組織学的検索は慢性膵炎の診断の gold standard になりうる(CQ 1-4 表 1 参照)
(図 1)1, 2)
.生検標本においては,与えられた組織標本内に確
診や準確診所見に相当する所見があれば診断できるが,もし含まれていなければ診断がつかな
いことになる 3, 4)
.臨床上は,慢性膵炎に対する病理組織学的検索は,膵癌との鑑別診断のために
行われることがほとんどである 5〜11)
.慢性膵炎の診断のために膵生検を行う必要性を述べた論文
はなく,慢性膵炎の診断に病理組織学的検索は必ずしも必要でない.
文献
1) 福村由紀,須田耕一.病理像からみた慢性膵炎.消化器病セミナー 90―慢性膵炎―診断と治療のコンセン
サス,へるす出版,東京,2003: p33-39
2) Forsmark CE. The diagnosis of chronic pancreatitis. Gastrointest Endosc 2000; 52: 293-298
3) 山口武人,原 太郎,喜恵美里,ほか.経皮的膵生検.胆と膵 2010; 31: 849-854
4) 須田耕一.診断基準の解説―3.組織所見.膵臓 2009; 24: 661-665
5) DelMaschio A, Vanzulli A, Sironi S, et al. Pancreatic cancer versus chronic pancreatitis: diagnosis with
CA19.9 assessment, US, CT and CT-guided fine-needle biopsy. Radiology 1991; 178: 95-99(ケースコント
ロール)
6) Stasi MD, Lencioni R, Solmi L, et al. Ultrasound-guided fine needle biopsy of pancreatic masses: results of
a multicenter study. Am J Gastroenterol 1998; 93: 1329-1333(ケースコントロール)
7) Lerma E, Musulen E, Cuatrecasas M, et al. Fine needle aspiration cytology in pancreatic pathology. Acta
Cytologica 1996; 40: 683-686(ケースコントロール)
8) Mallery JS, Centeno BA, Hahn PF, et al. Pancreatic tissue sampling guided by EUS, CT/US and surgery: a
comparison of sensitivity and specificity. Gastrointest Endosc 2002; 56: 218-224(ケースコントロール)
9) Fritsch-Ravens A, Knofel LBW, Bobrowski C, et al. Comparison of endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration for focal pancreatic lesions in patients with normal parenchyma and chronic pancreatitis.
Am J Gastroenterol 2002; 97: 2768-2775(ケースコントロール)
10) Carlucci M, Zerbi A, Parolini D, et al. CT-guided pancreatic percutaneous fine-needle biopsy in differential diagnosis between pancreatic cancer and chronic pancreatitis. HPB Surgery 1989; 1: 309-317(ケースコ
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a
⑤病理検査
b
c
図 1 慢性膵炎の特徴的な組織所見
a:膵実質の萎縮・脱落と不規則な線維化
b:分枝膵管内蛋白栓形成
c:石灰化(矢印)
ントロール)
11) 山口武人,石原 武,小林照宗,ほか.経皮的膵生検法の適応と成績.胆と膵 2003; 24: 445-450(ケースコ
ントロール)
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Clinical Question 1-11
1.診断 ― ❻鑑別診断
慢性膵炎と膵癌や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)との鑑別診
断は必要か?(なぜ必要か?)
CQ 1-11 慢性膵炎と膵癌や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)との鑑別診断は必要
か?(なぜ必要か?)
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 膵癌の予後は極めて悪く,IPMN は膵癌の発生率が高い疾患であ
る.慢性膵炎とは予後がまったく異なるため,両者の鑑別を行うこ
とを推奨する.
1
(100%)
B
解説
慢性膵炎と腫瘍である膵癌や,腫瘍性のポテンシャルを持つ IPMN とは臨床像や診療方針が
異なる別の疾患であり区別しなければならない.
膵病変の診断では,良悪性の鑑別が一般診療において最も重要である.膵癌の 5 年生存率は
北米では 5〜6%1)
,日本では 13%(Pancreas 2012; 41: 985-992 a)
[検索期間外文献]
)とされ,極め
て予後不良である.慢性膵炎と膵癌の鑑別は難しいことがまれではなく,特に慢性膵炎を合併
した膵癌では診断は難しい 2)
.慢性膵炎に膵癌が発生することも知られており 3)
,これらから慢
性膵炎と膵癌を鑑別することが必要であり,また慢性膵炎での膵癌の合併の有無の診断は重要
である.他には限局腫瘤状を呈する自己免疫性膵炎や腫瘤形成性膵炎も膵癌に似た画像を呈す
る.一方,膵癌以外では IPMN も膵管像や囊胞性変化の画像を呈し,再発する膵炎や黄疸など
の臨床像も似ているため注意深い鑑別診断が必要とされる 4)
.また,IPMN には膵癌の発生が多
いことも知られている 5)
.
鑑別診断には,US,CT,MRI,MRCP,ERCP,EUS などがよく用いられているが,これら
診断手段における膵癌診断の感度は比較的良好である 6)
.一方,腫瘤を形成する慢性膵炎の診断
に関しては,CT などの横断画像では膵癌と同様の腫瘤像を呈するため鑑別が難しい.ERCP で
膵管像による鑑別が行われているが十分ではない 7)
.新たに US や EUS のコントラスト造影法
による鑑別が行われるようになってきた 8, 9)
.18FDG-PET も膵癌との鑑別診断に用いられている 10)
.
最近では確定診断を得るために,EUS 時に EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引生検法)として
組織診や細胞診を行うことが多くの施設で可能となりつつある.腫瘤形成型の膵病変では,膵
癌を主とする悪性膵腫瘤の鑑別手段として EUS-FNA は感度や特異度に優れる 11, 12)
.また,腫瘤
を呈しないものでは膵液細胞診や膵管擦過細胞診が行われている.
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⑥鑑別診断
文献
1) Siegel R, Naishadham D, Jemal A. Cancer statistics, 2012. CA Cancer J Clin 2012; 62: 10-29(ケースシリー
ズ)
2) Abraham SC, Wilentz RE, Yeo CJ, et al. Pancreaticoduodenectomy (Whipple resections) in patients without malignancy: are they all ‘chronic pancreatitis’? Am J Surg Pathol 2003; 27: 110-120(ケースシリーズ)
3) Lowenfels AB, Maisonneuve P, Cavallini G, et al. Pancreatitis and the risk of pancreatic cancer: International Pancreatitis Study Group. N Engl J Med 1993; 328: 1433-1437(コホート)
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from chronic pancreatits by MR imaging. Eur J Radiol 2012; 81: 671-676(ケースコントロール)
5) Tanno S, Nakano Y, Koizumi K, et al. Pancreatic ductal adenocarcinomas in long-term follow-up patients
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スコントロール)
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8) Saftoiu A, Iordache SA, Gheonea DI, et al. Combined contrast-enhanced power Doppler and real-time
sonoelastography performed during EUS, used in the differential diagnosis of focal pancreatic masses
(with videos). Gastrointest Endosc 2010; 72: 739-747(横断)
9) 祖父尼 淳,森安史典,辻 修二郎,ほか.膵疾患画像診断における最近の進歩―Sonazoid を用いた造影
超音波診断の有用性.膵臓 2011; 26: 11-22(ケースコントロール)
10) Rasmussen I, Sorensen J, Langstrom B, et al. Is positron emission tomography using 18F-fluorodeoxyglucose and 11C-acetate valuable in diagnosing indeterminate pancreatic masses? Scand J Surg 2004; 93: 191197(ケースコントロール)
11) Tada M, Komatsu Y, Kawabe T, et al. Quantitative analysis of K-ras gene mutation in pancreatic tissue
obtained by endoscopic ultrasonography- guided fine needle aspiration: clinical utility for diagnosis of
pancreatic tumor. Am J Gastroenterol 2002; 97: 2263-2270(ケースコントロール)
12) Krishna NB, LaBundy JL, Saripalli S, et al. Diagnostic value of EUS-FNA in patients suspected of having
pancreatic cancer with a focal lesion on CT scan/MRI but without obstructive jaundice. Pancreas 2009; 38:
625-630(横断)
【検索期間外文献】
a) Egawa S, Toma H, Ohigashi H, et al. Japan pancreatic cancer registry; 30th year anniversary: Japan pancreas society. Pancreas 2012; 41: 985-992(横断)
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Clinical Question 1-12
1.診断 ― ❼遺伝子検索
遺伝子検査は慢性膵炎の診断に有用か?
CQ 1-12 遺伝子検査は慢性膵炎の診断に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● カチオニックトリプシノーゲン遺伝子(PRSS1)の解析は症状を有
する一部の慢性膵炎患者には臨床的有用性が認められ,検査を行う
ことを提案する.
2
(100%)
B
● CFTR 遺伝子や膵分泌性トリプシンインヒビター遺伝子(SPINK1)
解析の有用性に関しては十分な根拠がなく,一般的には行わないこ
とを提案する.
2
(100%)
B
解説
2001 年の遺伝性膵炎に関する遺伝子検索のコンセンサス会議では,カチオニックトリプシノー
ゲン遺伝子(PRSS1)のみが慢性膵炎において臨床的に有用な遺伝子検索とされた 1)
.PRSS1 遺
伝子変異には p.A16V 変異,p.N29I 変異,p.R122H 変異,コピー数異常(CNV)があるが,特に
p.R122H と p.N29I は浸透率が 80%と高く,症状のある患者の診断目的として遺伝子検査を行
うことは有用である 2, 3)
.有症状例に対する PRSS1 遺伝子検索の適用は,①原因不明の高アミ
ラーゼ血症を伴った 2 回以上の急性膵炎発作を有する例,②原因不明の慢性膵炎例,③1 親等
および 2 親等に膵炎の家族歴がある例,④小児で入院を要する原因不明の膵炎発作がみられる
例で,遺伝性膵炎を除外する必要がある場合,⑤倫理委員会が承認したプロトコールに適合す
る症例,である.また,無症状の成人に対する PRSS1 遺伝子診断は,より慎重に行われるべき
とされ,検査前に十分なカウンセリングが受けられ,かつ検査後に十分な患者支援と臨床的な
経過観察が行われる場合に限るとされる 1)
.
16 歳以下の小児では,臨床的に確実な予防的措置がとれない場合は,特に無症状例について
の予測的検査は妥当ではないとされる.小児における PRSS1 遺伝子診断の適用は,①原因不明
で入院治療を要するような膵炎発作がある例,②原因不明の膵炎発作が 2 回以上ある例,③姻
戚者に PRSS1 の遺伝子異常が知られており,原因不明の腹痛発作を繰り返す例,④原因不明の
腹痛発作を繰り返す小児で,遺伝性膵炎の可能性が高い例,⑤原因不明の慢性膵炎で遺伝性膵
炎の可能性が高い例である.遺伝性膵炎患者を診療する臨床医は,出生前診断を広く行うこと
や,究極的には遺伝性膵炎の妊娠中絶を勧めるようなことは制限されるべきである 1)
.
遺伝子診断を行う場合に,遺伝子診断が有用な場合があるものの,遺伝子診断を行っても遺
伝子変異がわからないことが多いことや,遺伝子変異が判明した場合でも,それに対する特異
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⑦遺伝子検索
的な治療法は存在しないことを考慮すべきである.また,遺伝子診断は保険診療が適用されず
高価であることや,遺伝性膵炎は発癌リスクが高いものの,どのような方法で経過観察をすべ
きなのか方法論が確立されていない,などの問題点にも注意を要する 4)
.
特発性膵炎における CFTR(膵囊胞線維症 CF の原因遺伝子)と SPINK1(膵分泌性トリプシン
インヒビター PSTI の遺伝子)の遺伝子診断の臨床的意義に関するコンセンサスはない.これら
の遺伝子診断は膵炎の危険性を予測できるかもしれないが,CFTR の複合ヘテロ接合体や
SPINK1 N34S 変異キャリアのほとんどが実際には膵炎を発症せず,キャリアのうち誰が膵炎を
発症するか予測できない.そのため,世界的な趨勢としては CFTR と SPINK1 の遺伝子検査は
現在のところ行うだけの根拠にが乏しいとされている 2, 3)
.一方,SPINK1 N34S 変異のように明
らかに慢性膵炎と関連する遺伝子検査については今後行うことが議論されるべきであるとする
意見もある 5, 6)
.
文献
1) Ellis I, Lerch MM, Whitcomb DC. Genetic testing for hereditary pancreatitis: guideline for indication,
counseling, consent and privacy issues. Pancreatology 2001; 1: 405-415(ガイドライン)
2) Ooi CY, Gonska T, Durie PR, et al. Genetic testing in pancreatitis. Gastroenterology 2010; 138: 2202-2206
3) Solomon S, Whitcomb DC. Genetics of pancreatitis: an update for clinicians and genetic counselors. Curr
Gastroenterol Rep 2012; 14: 112-117(ガイドライン)
4) Treiber M, Schlag C, Schmid RM. Genetics of pancreatitis: a guide for clinicians. Curr Gastroenterol Rep
2008; 10: 122-127(ガイドライン)
5) Derikx MH, Drenth JP. Genetic factors in chronic pancreatitis; implications for diagnosis, management
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6) Teich N, Mossner J. Hereditary chronic pancreatitis. Best Pract Res Clin Gastroenterol 2008; 22: 115-130
— 31 —
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2.病期診断
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Clinical Question 2-1
2.病期診断 ― ❶病期診断の必要性
慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定は必要か?
CQ 2-1 慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定は必要か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定は必要であり,行うこと
を提案する.
2
(80%)
C
解説
慢性膵炎の重症度を,膵外分泌機能,膵管像,耐糖能,腹痛のそれぞれについて 5 段階に分
け,さらに飲酒の程度と膵炎の合併症の有無を 3 段階に分けて総合点から 5 段階に分類すると,
重症度と performance status(PS)や body mass index(BMI)との間に相関がみられ,慢性膵炎
の重症度は日常生活の障害度や栄養状態を反映したと報告されている 1)
.痛みや合併症の有無に
よる慢性膵炎の重症度分類は,慢性膵炎の経過観察や治療法の評価にも有用とされる 1〜4)
.
慢性膵炎は,膵内外分泌機能障害の程度から代償期・移行期・非代償期,ないし初期・後期
に分けられ,当初は腹痛が主症状であるが病期の進行とともに腹痛は軽減し,膵内外分泌機能
障害が主症状になる.慢性膵炎の病期分類は患者の診療に有用である 4〜6)
.痛みのある膵石症患
者を中心に体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)や内視鏡的治療が行われ,結石の完全除去によっ
て膵管拡張の解除や症状緩和などの良好な成績が認められる 7〜10)
.痛みが再燃した際は,画像診
断を行い,内視鏡的再治療が行われる 7)
.
以上より,慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定は必要である.
日本では,
「慢性膵炎臨床診断基準 2009」
(CQ 1-4 表 1 参照)において,病期を考慮した診療が
行えるように早期慢性膵炎の診断基準が定義された 11, 12)
.
文献
1) 早川哲夫,北川元二,成瀬 達,ほか.慢性膵炎の Stage 分類.膵臓 2001; 16: 381-385(ケースコントロー
ル)
2) Ramesh H. Proposal for a new grading system for chronic pancreatitis. J Clin Gastroenterol 2002; 35: 67-70
(ケースコントロール)
3) Bagul A, Siriwardena AK. Evaluation of the Manchester classification system for chronic pancreatitis. JOP
2006; 7: 390-396(ケースコントロール)
4) 大槻 眞.慢性膵炎の診断基準・病期分類・重症度.内科 2005; 95: 1183-1189
— 34 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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①病期診断の必要性
5) Ammann RW. A clinically based classification system for alcoholic chronic pancreatitis: summary of an
international workshop on chronic pancreatitis. Pancreas 1997; 14: 215-221
6) Chari ST, Singer MV. The problem of classification and staging of chronic pancreatitis. Scand J Gastroenterol 1994; 29: 949-960
7) Gabbrielli A, Mutignani M, Pandolfi M, et al. Endotherapy of early onset idiopathic chronic pancreatitis:
results with long-term follow-up. Gastrointest Endosc 2002; 55: 488-493(ケースコントロール)
8) Rosch T, Daniel S, Scholz M, et al. Endoscopic treatment of chronic pancreatitis: a multicenter study of
1000 patients with long-term follow-up. Endoscopy 2002; 34: 765-771(ケースコントロール)
9) Costamagna G, Gabbrielli A, Mutignani M, et al. Extracorporeal shock wave lithotripsy of pancreatic
stones in chronic pancreatitis: immediate and medium-term results. Gastrointest Endosc 1997; 46: 231-236
(ケースコントロール)
10) Lawrence C, Siddiqi MF, Hamilton JN, et al. Chronic calcific pancreatitis: combination ERCP and extracorporeal shock wave lithotripsy for pancreatic duct stones. Southern Med J 2010; 103: 505-508(ケースコント
ロール)
11) 厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班,日本膵臓学会,日本消化器病学会.慢性膵炎臨床診断基準
2009.膵臓 2009; 24: 645-646(ガイドライン)
12) 下瀬川 徹.診断基準の概要と経緯.膵臓 2009; 24: 647-651
— 35 —
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Clinical Question 2-2
2.病期診断 ― ❷臨床所見
臨床徴候(所見)による重症度・病期・治療効果の判定は可能
か?
CQ 2-2 臨床徴候(所見)による重症度・病期・治療効果の判定は可能か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定に臨床徴候(所見)は参
考となり,症状や所見を注意深く観察することを提案する.
2
(100%)
B
解説
慢性膵炎の重症度は,臨床的に腹痛と膵内外分泌機能障害から生じる脂肪便や糖尿病を中心
として分類される 1〜3)
.慢性膵炎は,初期(代償期)には腹痛が主症状であり,病期の進行ととも
に腹痛は軽減し,後期(非代償期)になると糖尿病(糖質代謝障害)や脂肪便(消化吸収障害)など
の膵内外分泌機能障害の臨床徴候が主体となる(図 1)4〜10)
(CQ 1-4 表 1 参照)
.慢性膵炎患者に
おける腹痛の程度や状況は quality of life(QOL)と関連する 11, 12)
.
腹痛を有する慢性膵炎患者における体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)や内視鏡的治療による
膵石除去治療および十二指腸温存膵頭切除術(DPPHR)後の治療効果の長期判定は,腹痛の再燃
や QOL の評価によりなされる 13〜17)
.
以上より,臨床徴候(所見)による重症度・病期・治療効果の判定は可能である.
臨床経過
糖質代謝障害
糖質代謝障害
消化吸収障害
消化吸収障害
腹
痛
腹痛
病期
代
償期
代償期
移行期
移行期
非
代償期
非代償期
図 1 慢性膵炎の病期と臨床症状
(文献 10 を一部改変)
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②臨床所見
文献
1) 早川哲夫,北川元二,成瀬 達,ほか.慢性膵炎の Stage 分類.膵臓 2001; 16: 381-385(ケースコントロー
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2) Ramesh H. Proposal for a new grading system for chronic pancreatitis. J Clin Gastroenterol 2002; 35: 67-70
(ケースコントロール)
3) Bagul A, Siriwardena AK. Evaluation of the Manchester classification system for chronic pancreatitis. JOP
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4) 大槻 眞.慢性膵炎の診断基準・病期分類・重症度.内科 2005; 95: 1183-1189
5) Ammann RW. A clinically based classification system for alcoholic chronic pancreatitis: summary of an
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Clinical Question 2-3
2.病期診断 ― ❸生化学検査
血中・尿中膵酵素測定による重症度・病期・治療効果の判定
は可能か?
CQ 2-3 血中・尿中膵酵素測定による重症度・病期・治療効果の判定は可能か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 血中・尿中膵酵素測定による慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の
判定は,多くの例で不可能である.重症度・病期・治療効果の判定
には用いないことを提案する.
2
(100%)
C
解説
膵外分泌機能不全例では,血中膵型アミラーゼやリパーゼが異常低値を呈することがあるが 1〜9),
その頻度は高くない 1〜5)
.膵アミラーゼ/リパーゼ比の低下は膵管像による慢性膵炎の程度分類
と相関し 8)
,膵型アミラーゼ/総アミラーゼ比はセクレチン試験と相関を認めた 9)という報告が
ある.しかし,痛みなどの臨床徴候との関連はなく,治療効果の判定も難しい.よって,血中・
尿中膵酵素測定による慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定は,多くの例で不可能である.
文献
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(ケースコントロール)
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Clinical Question 2-4
2.病期診断 ― ❹画像検査
画像検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
CQ 2-4 画像検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● ERCP,EUS などの画像診断は慢性膵炎の重症度・病期・治療効
果の判定に有用であり,行うことを提案する.
2
(90%)
C
解説
ERCP による膵管像からの慢性膵炎の程度分類が試みられてきた 1, 2)
.膵管像とセクレチン試験
の一致率は 64〜74%と報告されている 3, 4)
.膵管像の変化には,膵実質の線維化と炎症性変化に
よる組織障害が反映されるが,残存する膵腺房細胞などの量とは相関せず,腹痛などの臨床症
状とも一致しない.よって,膵管像のみで慢性膵炎の重症度や病期を決定するのは困難である
が 5)
,他の因子と総合して重症度判定に用いられている 6)
.経時的に膵管像の変化をみると,多
くの慢性膵炎例で膵管の不整拡張や不整領域の進行が認められ,膵管像の変化より慢性膵炎の
進行度を知ることができる 7〜9)
.また,膵管像における初期の慢性膵炎の変化は,限局した分枝
膵管の不整拡張と考えられる 7〜9)
.一般的に膵管像の変化は膵外分泌障害がかなり進んでから認
められるので,膵管像から初期の慢性膵炎を診断するのは困難である 10)
.しかし,ERCP 後に切
除された慢性膵炎例の検討では,ケンブリッジ分類 11)で軽度以下の ERCP 所見を呈した 9 例中
6 例が軽度慢性膵炎の組織像であった 12)
「
.慢性膵炎臨床診断基準 2009」
(CQ 1-4 表 1 参照)では,
早期慢性膵炎の ERCP 所見として「ERCP 像で,3 本以上の分枝膵管に不規則な拡張が認められ
る」と定義された 13)
.
一方,EUS では膵管だけでなく膵実質の微細な変化も捉えられるため,初期の慢性膵炎の診
断に有用な可能性がある 13〜17)
「
.慢性膵炎臨床診断基準 2009」
(CQ 1-4 表 1 参照)では,Rosemont
分類 18)を参考にして早期慢性膵炎の EUS 所見を,
「
(1)蜂巣状分葉エコー(lobularity,honeycombing type)
」
,
「
(2)不連続な分葉エコー(nonhoneycombing lobularity)
」
,
「
(3)点状高エコー
(hyperechoic foci; non-shadowing)
」
,
「
(4)索状高エコー(stranding)
」
,
「
(5)囊胞(cysts)
」
,
「
(6)
分枝膵管拡張(dilated side branches)
」
,
「
(7)膵管辺縁高エコー(hyperechoic MPD margin)
」の
7 項目のうち,
(1)〜(4)のいずれかを含む 2 項目以上が認められることと定義した 13, 19, 20)
.
早期慢性膵炎の診断は,
「③反復する上腹部痛発作」
,
「④血中または尿中膵酵素値の異常」
,
「⑤
膵外分泌障害」
,
「⑥1 日 80 g 以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴」の 4 つの診断項目の
うち 2 項目以上を満たすことが,画像所見に加えて必要であり,ERCP や EUS の画像所見のみ
で早期慢性膵炎が診断されることはない 13)
.診断項目③または④の 1 項目のみ有し早期慢性膵
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2.病期診断
炎の画像所見を示す症例のうち,他の疾患が否定されるものは早期慢性膵炎の疑いがあり,注
意深い経過観察が必要である 13)
.このような「疑い」症例も含めた早期慢性膵炎の実態につい
ては,長期予後を追跡する必要がある 13)
.
慢性膵炎の内視鏡的治療の効果判定は,膵石の除去と膵管拡張の軽減により画像上判断され
る.さらに,治療後に腹痛などの再燃が生じた際には画像診断による検索が行われ,必要に応
じて内視鏡的再治療が行われる 21〜23)
.
以上より,ERCP,EUS などの画像診断は慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定に有用
である.
文献
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④画像検査
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Clinical Question 2-5
2.病期診断 ― ❺機能検査(外分泌)
膵外分泌機能検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
CQ 2-5 膵外分泌機能検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 膵外分泌機能検査は慢性膵炎の重症度・病期判定に有用であり,行
うことを推奨する.
1
(100%)
C
● 慢性膵炎の治療効果判定のために膵外分泌機能検査を行うことを提
案する.
2
(100%)
C
解説
外分泌機能を把握する方法としては,セクレチンなど消化管ホルモン刺激後の膵液を採取・
分析(液量,重炭酸塩濃度および膵酵素分泌量)する有管法により膵外分泌予備能を評価する直
接法と,非刺激下に生理的外分泌機能を間接的に評価する間接法とがある.
このうち有管法は,膵外分泌機能検査を正確に評価できるため,
“gold standard”として慢性膵
炎臨床診断基準の有力な診断ツールであった 1, 2)
.特にセクレチン試験は膵病理組織障害度 3)や
ERCP 4, 5)の形態学的変化とよく相関することから,重症度,病期判定に有用と考えられてきた.
しかし,ヒトへの投与可能なセクレチン製剤の入手が困難となり,現在では施行不可能となった.
一方,無管法には,便中キモトリプシン活性測定,便中エラスターゼ 1 測定,13C-ジペプチド
(benzoyl-L-tyrosyl-[1-13C]alanine:Bz-Tyr-Ala)呼気試験,BT-PABA 試験がある 6〜8)
.無管法は,
有管法に比して簡便で非侵襲的な検査法であるが,単独では感度,特異度において劣る.これ
らのうち現在,保険診療適用下で実施可能な無管法による膵外分泌機能検査は BT-PABA 試験
のみとなっている.BT-PABA 試験は,腸管吸収や肝臓での抱合,腎排泄,種々の薬剤により影
響を受けることに留意しなければならないが,有管法での中等度以上の明らかな膵外分泌機能
障害(膵外分泌能からみた重症度評価)の検出には優れており 4, 6)
,重症度,病期判定に有用であ
る.なお,便中キモトリプシン活性測定と BT-PABA 試験との組み合わせで診断精度が上昇す
るとの報告 6)や,便中エラスターゼ 1 と糖尿病合併との組み合わせにより有管法と同程度の感
度が得られるとする報告 7)があり,重症度や病期の判定への有用性が示唆されている.
現在利用可能な外分泌機能検査である BT-PABA 試験の感度,特異度を考慮すれば,この検
査単独で慢性膵炎の治療効果を判定するのは困難である.
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⑤機能検査(外分泌)
文献
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Clinical Question 2-6
2.病期診断 ― ❺機能検査(外分泌)
脂肪便の確認は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
CQ 2-6 脂肪便の確認は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 脂肪便の確認は慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定に有用で
あり,行うことを提案する.
2
(100%)
C
解説
慢性膵炎の膵外分泌不全の症状には,鼓腸・下痢・体重減少・脂肪便などがあるが,脂肪便
だけが膵外分泌不全に特異性が高い症状である 1)
.脂肪便は慢性膵炎の非代償期に出現し,便中
脂肪量は摂取脂肪量によって程度が異なることが知られている.ただし,Crohn 病,回腸切除
後,など膵以外の消化器疾患においても脂肪便が出現することがある.これらの膵以外の消化
器疾患おける脂肪便に比較して,慢性膵炎における脂肪便は,便中脂肪排泄量(g)が同じでも
脂肪便濃度(%)が高いことを示す報告がみられる 2)
.
臨床的に確認できる脂肪便は,リパーゼ分泌量が正常の 10%を下回らないと出現しないとさ
れるため,外分泌障害の病期が進行すると出現する症状である 3)
.また,臨床的に脂肪便が確認
される以前に体重減少が起こるとされ,慢性膵炎ではその成因によらず脂肪便の早期スクリー
ニングを推奨する報告がある 4)
.
脂肪便を有する慢性膵炎に対する消化酵素薬による治療では,脂肪便は減少するが完全消失
は得られないことが示唆されている 5)
.このため,治療効果の判定には脂肪便の定量が有用であ
ると考えられるが 6)
,現状では脂肪便定量(van de Kamer 法によるガスクロマトグラフィーを用
いての脂肪便の定量など)を実施できる施設は限定されている.
脂肪便定量に代わる検査法として,呼気テスト 7)
,テスト食 8)
,便中エラスターゼ 1 定量 9)な
どが報告されているが,いずれも一般的とはいえない.専門家による便の観察を述べた報告で
は,便の肉眼所見と臭いの性状をみることで,脂肪便への感度 89.3%,特異度 91.1%と良好な
相関関係がみられている(相関係数 0.843,p<0.01)10, 11)
.
文献
1) Mossner J, Keim V. Pancreatic enzyme therapy. Dtsch Arztebl Int 2010; 108: 578-582
2) Bo-Linn GW, Fordtran JS. Fecal fat concentration in patients with steatorrhea. Gastroenterology 1984; 87:
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⑤機能検査(外分泌)
319-322(ケースコントロール)
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Clinical Question 2-7
2.病期診断 ― ❻機能検査(内分泌)
各種耐糖能検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
CQ 2-7 各種耐糖能検査は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 慢性膵炎患者において,耐糖能異常の有無の判定は臨床的に有用で
あり,行うことを推奨する.
1
(90%)
C
解説
慢性膵炎は病期により代償期,移行期,非代償期に分類され,一般に反復する腹痛で始まり
徐々に膵内外分泌能が低下してくる疾患である.慢性膵炎に伴う耐糖能異常は膵性糖尿病と呼
ばれ,慢性膵炎の進展の結果,膵ランゲルハンス島の破壊や減少のため,膵 β 細胞からのイン
スリン分泌低下により糖尿病が出現してくる.さらにインスリン分泌能の低下のみでなく,膵
α 細胞からのグルカゴン分泌低下も伴ってくる 1).その結果,通常の 1 型および 2 型糖尿病と異
なった病態や臨床像を呈し,高血糖と低血糖を繰り返すなどの血糖値の日内変動が大きく,さ
らに低血糖に陥りやすい.まず,慢性膵炎患者において施行すべき耐糖能異常の有無の判定は,
経口糖負荷試験(OGTT)が推奨される 1〜3)
.OGTT は慢性膵炎の形態学的異常の程度と相関は認
められないが 2)
,外分泌機能検査であるセクレチン試験と相関を認める 1)と報告されている.
慢性膵炎に伴う耐糖能異常では,まず β 細胞の障害によりインスリンの分泌反応が低下して
くる.次いで α 細胞も障害を受けるため,グルカゴンの分泌反応も低下してくる 1)
.したがっ
て,慢性膵炎に伴う膵性糖尿病の重症度および病期は,β 細胞のインスリン分泌能,および α
細胞のグルカゴン分泌能をみることで評価できる.インスリン分泌能の評価には OGTT による
血中インスリン値および尿中 C-ペプチド(CPR)測定などが用いられる.さらに,グルカゴン試
験は内因性インスリン分泌能を評価できる有用な検査であり,その際は ΔC-ペプチド
(ΔCPR)
を評価することが推奨される 4, 5)
.慢性膵炎の進行の程度と,形態学的異常 4)および外分泌機能障
害 5)の程度とも相関を認めると報告されており,グルカゴン試験による ΔCPR は慢性膵炎の重
症度・病期・治療効果の判定に有用である.さらに,アルギニン負荷試験では α 細胞からのグ
ルカゴン分泌能の評価が可能であり,膵性糖尿病の重症度,治療方法の選択に有用である 6, 7)
.
付記:
a)膵性糖尿病
膵性糖尿病は膵疾患の進展に伴って膵内分泌機能が低下して糖尿病が出現するもので,原疾
患である膵炎や膵癌の進展と密接な関係がある.内分泌学的にみるとインスリン分泌反応の低
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⑥機能検査(内分泌)
下のみでなく,グルカゴン分泌反応も原疾患の影響を受け低下するため,通常の 1 型および 2
型糖尿病と異なった病態や臨床像を呈することが多く,治療も異なってくる.膵性糖尿病の診
断基準は現在まで明確なものはないが,日本糖尿病学会糖尿病診断基準検討委員会「糖尿病の
分類と診断基準に関する委員会報告」
(糖尿病 2010; 53: 450-467)では,
『分類 B.他の疾患,病
態に伴う種々の糖尿病のなかの(1)膵外分泌疾患(膵炎,膵外傷,膵摘出術,膵腫瘍,膵ヘモ
クロマトーシス,その他)
』と位置づけられており,その他とは先天性形成不全,自己免疫性膵
炎などが含まれる.しかしながら,厳格には膵疾患に伴って出現した糖尿病(真の膵性糖尿病)
のことであるが,通常型糖尿病または境界型が先行していても,明らかに膵疾患に伴って血糖
コントロールが悪化したものも広義の膵性糖尿病と考えられる.
b)グルカゴン試験
グルカゴン試験(glucagon infusion test)はグルカゴン 1 vial(1 mg)静注の前,5 または 6 分,
および 10 分後の C-ペプチドを測定し,頂値と前値の差(ΔCPR)でインスリン分泌能を評価す
る.ΔCPR 値が 4.0 mg/mL 以上を正常,1.5 ng/mL 以下をインスリン分泌能の著しい低下とす
る.
c)アルギニン試験
アルギニン試験(arginine infusion test)は 10%アルギニン溶液 300 mL(塩酸 L-アルギニン
30 g)を 30 分間で点滴静注し,前,10 分,20 分,30 分,40 分,50 分,60 分および 90 分後の
血中グルカゴン値を測定し,頂値が 170 pg/mL 以下,または頂値と前値との差が 150 pg/mL 以
下をグルカゴン分泌の低下とする.
文献
1) Koizumi M, Yoshida Y, Abe N, et al. Pancreatic diabetes in Japan. Pancreas 1998; 16: 385-391
2) Maartense S, Ledeboer M, Masclee AA. Chronic pancreatitis: relation between function and morphology.
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6) 石塚達夫,安田圭吾,梶田和男.慢性膵炎における ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)による膵管像の変
化とインスリンおよびグルカゴン分泌能との関係.糖尿病 1986; 29: 903-911(ケースシリーズ)
7) von Tirpitz C, Glasbrenner B, Mayer D, et al. Comparison of different endocrine stimulation tests in nondiabetic patients with chronic pancreatitis. Hepatogastroenterology 1998; 45: 1111-1116(ケースコントロー
ル)
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Clinical Question 2-8
2.病期診断 ― ❼スコア化
スコア化は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
CQ 2-8 スコア化は重症度・病期・治療効果の判定に有用か?
ステートメント
● 慢性膵炎の重症度・病期・治療効果の判定に適した標準的スコアリングシステムは確立されて
いない.
解説
慢性膵炎の重症度・病期をスコア化する標準的スコアリングシステムに関する科学的根拠の
高い報告はなく,スコア化は確立していない 1)
.また,スコア化による治療効果の判定が可能か
どうかを評価するのに適切な科学的根拠のある報告もない.
いくつかのスコア化試案のなかで,慢性膵炎患者を 5 つの指標[ERCP,脂肪刺激後の pancreatic polypeptide(PP)反応,BT-PABA 試験,72 時間便中脂肪量,OGTT]で評価すると,PP 反
応低下が慢性膵炎の重症度,すなわち軽症,中等症,重症および膵内外分泌機能の障害程度と
最もよく相関するという報告がある 2)
.また,ERCP/MRCP/CT,腹痛,鎮痛薬,膵内外分泌機能,
膵周囲合併症の程度から評価・分類(Manchester 分類)された軽症,中等症,終末期の慢性膵炎
患者の経年的変化を 1993〜2003 年まで追跡した研究では,慢性膵炎の進展過程を評価するのに
有用性が高く,慢性膵炎診療の経過観察に適しているという報告がある 3)
.近年では,過去の診
断基準,分類法を新たな知見を加味して改変し,危険因子分類,診断基準および病期,重症度
(スコア化)を総合的に評価するシステムが提案されている 4)
.このうち重症度スコアは,疼痛,
鎮痛薬の使用,外科的治療の有無,外分泌機能,内分泌機能,膵形態,合併症の 7 項目につき
評価するもので,少数例を提示しスコアリングが臨床経過をよく反映していると報告している.
日本における慢性膵炎確診患者 278 例の検討から作成された重症度分類(表 1)では,日常生
活の障害度(PS)と BMI の低さが重症度スコアと相関することが報告されている 5)
.従来から慢
性膵炎は進行性で非可逆性と考えられてきたが,治療法の進歩により可逆的な症例もあり,進
展阻止と治療効果判定を目的としたスコア化の実現が望まれる.
文献
1) Ammann RW. A Clinically Based Classification System for Alcoholic Chronic Pancreatitis: Summary of an
International Workshop on Chronic Pancreatitis. Pancreas 1997; 14: 215-221
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⑦スコア化
表 1 慢性膵炎の重症度(Stage)分類
膵病変の程度は膵外分泌機能(セクレチン試験)と膵管像(ERCP,MRCP)を中心に判定し,全身状態と生活へ
の影響を加味するために耐糖能,疼痛,さらに膵炎と関連のある合併症とアルコール常飲の有無などを加えた.
それぞれの項目は,0
(正常)
から 4
(高度)
までの 5 段階に分けることを原則とし,合併症とアルコールは 0
(無)
と 1,
2(有)に分けた.
A.膵外分泌機能低下(セクレチン試験あるいはセルレイン・セクレチン試験による)のスコア
0:異常なし〔異常因子なし〕(最高重炭酸塩濃度≦ m-2SD,アミラーゼ量・液量≦ m-SD)
1:軽度異常〔アミラーゼ量あるいは液量の単独低下〕
2:軽度低下〔最高重炭酸塩濃度の単独低下,あるいはアミラーゼ量と液量の両者の低下〕 【準確診】
3:中等度低下〔最高重炭酸塩濃度とアミラーゼ量あるいは液量の 2 因子低下〕
【確診】
4:高度低下〔3 因子低下〕 【確診】
註 セクレチン試験あるいはセルレイン・セクレチン試験未施行例では血中膵酵素(膵型アミラーゼあるいは
トリプシン)の低値,BT-PABA(PFD)試験の異常,便中キモトリプシンの低値は,いずれか 1 項目は 1 点,
2 項目は 2 点,3 項目は 3 点とする.
B.膵管像の異常(ERCP による)のスコア
0:異常なし
1:軽度異常〔主膵管の単純拡張,あるいは分枝膵管 2 ∼ 3 本程度の限局性不整拡張〕
2:軽度膵炎〔主膵管または分枝膵管のびまん性の軽度不整拡張あるいは体尾部に限局した中等度不整拡張〕
【準確診に相当】
3:中等度膵炎〔主膵管または分枝膵管のびまん性の中等度不整拡張あるいは体尾部に限局した高度不整拡張〕
【確診に相当】
4:高度膵炎〔主膵管と分枝膵管のびまん性の高度不整拡張〕 【確診】
註 MRCP の高精度な撮像が得られれば ERCP と同等に扱う.ERCP,MRCP 未施行例では CT,US にお
ける主膵管の拡張のみは 2 点,主膵管の拡張と限局性の膵石は 3 点,主膵管の拡張とびまん性膵石は 4 点
とする.
C.耐糖能の低下
0:耐糖能低下なし〔尿糖常時陰性,食後 160mg/dL 未満〕
1:耐糖能軽度異常〔GTT 境界型,食後血糖 160 以上 200mg/dL 未満〕
2:軽症糖尿病〔食後尿糖陽性,食後血糖 200 以上 300mg/dL 未満,HbA1c 7%以下〕
3:中等症糖尿病〔食後血糖 300mg/dL 以上,HbA1c 7 ∼ 11%〕
4:重症糖尿病〔HbA1c > 11%あるいは糖尿病性腎症または網膜症の合併〕
D.疼 痛
疼痛は過去 1 年間の状況により評価する.主に鎮痛薬の使用状況を聞いているがブスコパンなどの鎮痙薬の使
用は含まない.
0:ほとんどなし〔鎮痛薬不要〕
1:軽度〔たまに痛むが鎮痛薬は不要〕
2:中等度〔時々痛みがあり,頓用で鎮痛薬を使用〕
3:高度〔常時鎮痛薬が必要〕
4:高々度〔頻回に注射が必要,時に入院を要する〕
E.飲酒の有無
0:日本酒換算:1 合以下で毎日は飲まない
1: 同 :3 合未満であるがほぼ毎日飲む
2: 同 :3 合以上ほぼ毎日飲む
註 ウイスキーダブル 3 杯,ビール大瓶 3 本,ワイン 1 本,焼酎 1.5 ∼ 2 合を日本酒 3 合と換算する.
F.合併症などの有無
0:膵炎の関連する合併症(囊胞,胆管狭窄,など)はない
1:膵炎に関連する合併症があるが,治療を要しない
2:膵炎に関連する合併症があり,治療を要する
G.合計スコアと重症度および治療
Stage Ⅰ(軽 症)
:0∼3:要観察
Stage Ⅱ(中等症)
:4∼7:外来治療
Stage Ⅲ(重症Ⅰ)
:8∼11:外来治療+時に入院加療
Stage Ⅳ(重症Ⅱ)
:12∼ 15:同上
Stage Ⅴ(重症Ⅲ)
:16∼ 20:入院加療
註 現在日本では,セクレチン試験あるいはセルレイン・セクレチン試験の施行は困難であり,血中膵酵素(膵型アミラーゼあ
るいはトリプシン)あるいは BT-PABA(PFD)試験にて代用する.
3) Bagul A, Siriwardena AK. Evaluation of the Manchester classification system for chronic pancreatitis. JOP
2006; 7: 390-396(コホート)
4) Schneider A, Löhr JM, Singer MV. The M-ANNHEIM classification of chronic pancreatitis: introduction of
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5) 早川哲夫,北川元二,成瀬 達,ほか.慢性膵炎の Stage 分類.膵臓 2001; 16: 381-385(横断)
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3.治 療
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Clinical Question 3-1
3.治療 ― ❶治療方針
成因,活動性(再燃と緩解)
,重症度,病期は慢性膵炎の治療
に重要か?
CQ 3-1 成因,活動性(再燃と緩解),重症度,病期は慢性膵炎の治療に重要か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 成因,活動性,重症度,病期を考慮した治療を行うことを推奨す
る.
1
(100%)
C
解説
成因,活動性,重症度,病期を考慮した慢性膵炎の治療研究はないが,日本の専門家はこれ
らを考慮した治療を推奨している 1〜6)
.一方,欧米では腹痛の治療,膵外分泌機能不全の治療,
糖尿病の治療,合併症の治療など,問題ごとに扱われている.ここでは成因,活動性,重症度
および病期の項目ごとにエビデンスの有無を述べる.
1)成因を考慮した治療
成因に基づく慢性膵炎の分類としては,TIGAR-O 分類(表 1)
,すなわち Toxic-metabolic(ア
ルコール,喫煙,高カルシウム血症,脂質異常症など毒物・代謝産物)
,Idiopathic(特発性)
,
Genetic(遺伝性)
,Autoimmune(自己免疫性)
,Recurrent and severe acute pancreatitis(再発性
膵炎および重症急性膵炎)
,Obstructive(閉塞性)が有名である 7)
.日本では,慢性膵炎をアル
コール性と非アルコール性に分類することが提唱されている.アルコール性慢性膵炎では特発
性慢性膵炎に比べ発症から確診までの平均期間が短いこと,腹痛,膵管像の変化,膵外分泌機
能不全および糖尿病の進展が早いことが知られている 8〜10)
.喫煙は慢性膵炎の成因にかかわらず
膵石および糖尿病の進行を早める 11, 12)
.これらの疫学データは禁酒および禁煙が慢性膵炎の進行
を抑制できる可能性を示唆している.短期的には,禁酒により腹痛や膵外分泌機能が改善する
という報告 9, 10, 13, 14)と腹痛や膵管像には関係ないという報告がある 8, 15)
.しかし,長期的には飲酒
は生命予後に関与するので(CQ 4-4 参照)
,禁酒の指導は治療のうえで重要である(CQ 3-3 参
照)
.また,喫煙は成因にかかわらず慢性膵炎の生命予後を悪くする因子なので,禁煙も治療の
うえで必要である.
2)活動性(再燃と緩解)を考慮した治療
慢性膵炎の初期には急性膵炎の反復が主な病態であり,急性膵炎の治療が中心となる.
Ammann らによれば,急性膵炎発作の間は数ヵ月から数年にわたる腹痛のない時期(緩解期)
がある患者群(A 型と呼ばれる)と腹痛が毎日もしくは 2 ヵ月ぐらい持続し,繰り返す入院また
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①治療方針
表 1 Etiologic Risk Factors Associated With Chronic Pancreatitis:
TIGAR-O Classification System(Version 1.0)
Toxic-metabolic
Alcoholic
Tobacco smoking
Hypercalcemia
Hyperparathyroidism
Hyperlipidemia(rare and controversial)
Chronic renal failure
Medications
Phenacetin abuse(possibly from chronic renal insufficiency)
Toxins
Organotin compound(e.g., DBTC)
Idiopathic
Early onset
Late onset
Tropical
Tropical calcific pancreatitis
Fibrocalculous pancreatic diabetes
Other
Genetic
Autosomal dominant
Cationic trypsinogen(codon 29 and 122 mutations)
Autosomal recessive/modifier genes
CFTR mutations
SPINK1 mutations
Cationic trypsinogen(Codon 16, 22, 23 mutations)
α1-Antitrypsin deficiency(possible)
Autoimmune
Isolated autoimmune chronic pancreatitis
Syndromic autoimmune chronic pancreatitis
Sjögren syndrome-associated chronic pancreatitis
Inflammatory bowel disease-associated chronic pancreatitis
Primary biliary cirrhosis-associated chronic pancreatitis
Recurrent and severe acute pancreatitis
Postnecrotic(severe acute pancreatitis)
Recurrent acute pancreatitis
Vascular diseases/ischemic
Postirradiation
Obstructive
Pancreatic divisum
Sphincter of Oddi disorders(controversial)
Duct obstruction(e.g., tumor)
Preampullary duodenal wall cysts
Posttraumatic pancreatic duct scars
(文献 7 より)
は外科手術が必要な患者(B 型の腹痛)が存在する 15)
.B 型の腹痛は発症初期では仮性囊胞や膵
管内圧亢進を伴い,ドレナージ術が奏効するとされている.緩解期の治療および膵炎発作の予
防法に関する研究は行われていない.緩解期には,飲酒制限,喫煙制限(CQ 3-3,3-5 参照)
,食
事の脂肪制限(CQ 3-4 参照)など再燃の予防が期待できる生活習慣の指導が基本とされている.
3)重症度を考慮した治療
慢性膵炎の重症度は腹痛の程度,膵内外分泌機能障害の程度ならびに外科的治療を要する合
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3.治 療
併症の有無により判断できる.しかし,腹痛と膵の画像所見や膵機能が必ずしも一致するわけ
ではないので,総合的に判断することになる.厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班の提案 16)
に従えば,重症度は膵外分泌機能の低下,膵管像の異常,耐糖能の低下,腹痛,飲酒および合
併症の有無により点数をつけ,軽症:0〜3(要観察)
,中等症:4〜7(外来治療)
,重症Ⅰ:8〜11
(外来治療+時々入院)
,重症Ⅱ:12〜15(外来治療+時々入院)
,最重症:16〜20(入院加療)の
5 段階に分けられる(CQ 2-8 参照)
.この重症度分類は患者の performance status(PS)で評価さ
れる日常生活の障害度および body mass index(BMI)で評価される栄養障害の程度と相関してい
たと報告されている 17)
.この他にも膵管像 18)および超音波または CT 像による重症度分類と膵
外分泌機能の比較研究 19)がある.治療の選択もしくは評価に用いられた報告はないが,麻薬の
使用や外科的治療などの選択に腹痛の重症度を考慮すべきとされている(CQ 3-10 参照)
.
4)病期を考慮した治療
日本では,慢性膵炎の病期は,代償期,移行期,非代償期に分類され,各病期の治療指針が
定められている 20)
.しかし,国際的には初期(early stage)
,後期(late stage)と記載されることが
多く,病期による治療指針はない.腹痛の治療,消化吸収障害の治療,糖尿病の治療,合併症
の治療など問題ごとに扱われている 21〜23)
.初期(代償期)の慢性膵炎では,反復する急性膵炎と
腹痛の治療が中心である.膵外分泌機能が保たれるこの時期に,膵石(CQ 3-12,3-13 参照)や
仮性囊胞などの合併症(CQ 3-33〜37 参照)も好発する.腹痛の自然経過に関しては,
「長期的に
は自然消失する」という報告 15)が有名である.日本でも腹痛の自然消失が確認されているが 9, 10)
,
約 10 年で腹痛が消失するのは半数に過ぎないという報告 14)もあり,病期により判断を下せな
い場合もある.進行した慢性膵炎(非代償期)では,消化吸収障害に対して消化酵素薬が必要と
なる(CQ 3-22 参照)
.また,膵内分泌 β 細胞の減少に起因する膵性糖尿病の治療(CQ 3-25〜32
参照)も必要となる.この時期の栄養状態と糖尿病の管理の善し悪しが生命予後を左右すること
が知られている(CQ 4-4 参照)
.食事療法も病期により異なる 24)
.代償期では,膵を刺激しない
ように,高脂肪食と香辛料を避け,炭水化物を多めに接種することが推奨されている.非代償
期では,食事回数を増やすことにより総摂取カロリーを増やすこと,脂溶性ビタミン,ビタミ
ン B12,葉酸,微量元素,抗酸化物質の摂取が推奨される.
文献
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①治療方針
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Clinical Question 3-2
3.治療 ― ❶治療方針
生活歴の聴取は慢性膵炎の治療に有用か?(アルコール性と非
アルコール性で違いはあるか?)
CQ 3-2 生活歴の聴取は慢性膵炎の治療に有用か?(アルコール性と非アルコー
ル性で違いはあるか?)
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 治療方針を決めるために飲酒歴と喫煙歴の聴取は重要であり,行う
ことを推奨する.
1
(100%)
B
解説
慢性膵炎の成因としては飲酒によるものが最も多く,35 年以上飲酒継続の慢性膵炎発症の危
険率は,オッズ比(OR)4.0,95%CI 1.3〜12.3 と報告されている 1)
.システマティックレビューに
よるメタアナリシスでも,アルコール摂取量が 36 g/日では慢性膵炎の相対危険度(relative
risk:RR)は 1.2(95%CI 1.2〜1.3)であるのに対して,96 g/日では 4.2(95%CI 3.1〜5.7)とアル
コール摂取量と慢性膵炎発症リスクには明らかな因果関係があることが示されている 2)
.
喫煙に関しては,アルコール性膵炎では喫煙者群は非喫煙者群と比べ,OR 7.8(95%CI 2.2〜
27.3)であり,1 日喫煙量の検討では,20 本未満の喫煙で OR 14.7(95%CI 1.5〜20.1)
,20〜39 本
で OR 5.5(95%CI 3.1〜69.9)
,40 本以上で,OR 12.2(95%CI 2.4〜71.0)との報告がある 3)
.ま
た,喫煙群での膵石灰化の危険率はハザード比(HR)4.9(95%CI 2.3〜10.5)であった 4)
.一方,非
アルコール性慢性膵炎(特発性慢性膵炎)は,膵炎の既往のないコントロール群に比較して有意
に喫煙者の割合が高く(58.6% vs. 49.7%,p<0.05)
,多変量解析でも喫煙は特発性慢性膵炎発症
の独立した危険因子であることが報告されている 5)
.また,喫煙による膵石灰化の危険率は HR
2.93(95%CI 1.3〜6.62)6)で,35 歳以降発症の特発性慢性膵炎では喫煙群は,非喫煙群より早く,
高頻度に膵石灰化をきたす(83% vs. 13%,p<0.001)報告がある 7)
.以上より喫煙が飲酒とは独
立した慢性膵炎の危険因子であることが示唆される.
一方,ESWL を含む内視鏡的治療および外科手術後の飲酒や喫煙の継続は,治療後の腹痛の
再燃や糖尿病の悪化を促進し,QOL を低下させる 8〜10)
.また,慢性膵炎に膵癌が高頻度に発症
するとの報告が認められ,慢性膵炎は膵癌の危険因子と考えられている 11〜13)
.したがって,禁
酒・禁煙による生活習慣の改善が慢性膵炎の発症危険率の減少とともに,治療後に改善した
QOL の維持および膵癌予防に寄与するという観点から,飲酒歴と喫煙歴の聴取は極めて重要で
ある.
慢性膵炎における適正カロリーと食事内容に関しては,CQ 3-21,CQ 3-25 を参照,脂肪制限
食については,CQ 3-4 を参照されたい.
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①治療方針
文献
1) Lin Y, Tamakoshi A, Hayakawa T, et al; Research Committee on Intractable Pancreatic Diseases. Associations of alcohol drinking and nutrient intake with chronic pancreatitis: findings from a case-control study
in Japan. Am J Gastroenterol 2001; 96: 2622-2627(ケースコントロール)
2) Irving HM, Samokhvalov AV, Rehm J. Alcohol as a risk factor for pancreatitis: a systematic review and
meta-analysis. JOP 2009; 10: 387-392(メタ)
3) Lin Y, Tamakoshi A, Hayakawa T, et al. Cigarette smoking as a risk factor for chronic pancreatitis: a casecontrol study in Japan: Research Committee on Intractable. Pancreas 2000; 21: 109-114(ケースコントロー
ル)
4) Maisonneuve P, Lowenfels AB, Mullhaupt B, et al. Cigarette smoking accelerates progression of alcoholic
chronic pancreatitis. Gut 2005; 54: 510-514(ケースコントロール)
5) Coté GA, Yadav D, Slivka A, et al. Alcohol and smoking as risk factors in an epidemiology study of
patients with chronic pancreatitis. Clin Gastroenterol Hepatol 2011; 9: 266-273(ケースコントロール)
6) Maisonneuve P, Frulloni L, Mullhaupt B, et al. Impact of smoking on patients with idiopathic chronic pancreatitis. Pancreas 2006; 33: 163-168(ケースコントロール)
7) Imoto M, DiMagno EP. Cigarette smoking increases the risk of pancreatic calcification in late-onset but not
early-onset idiopathic chronic pancreatitis. Pancreas 2000; 21: 115-119(ケースコントロール)
8) Seven G, Schreiner MA, Ross AS, et al. Long-term outcomes associated with pancreatic extracorporeal
shock wave lithotripsy for chronic calcific pancreatitis. Gastrointest Endosc 2012; 75: 997-1004(ケースコン
トロール)
9) Wang W, Guo Y, Liao Z, et al. Occurrence of and risk factors for diabetes mellitus in Chinese patients with
chronic pancreatitis. Pancreas 2011; 40: 206-212(ケースコントロール)
10) van Loo ES, van Baal MC, Gooszen HG, et al. Long-term quality of life after surgery for chronic pancreatitis. Br J Surg 2010; 97: 1079-1086(ケースコントロール)
11) Lowenfels AB, Maisonneuve P, Cavallini G, et al. Pancreatitis and the risk of pancreatic cancer: International Pancreatitis Study Group. N Engl J Med 1993; 328: 1433-1437(ケースコントロール)
12) Talamini G, Falconi M, Bassi C, et al. Incidence of cancer in the course of chronic pancreatitis. Am J Gastroenterol 1999; 94: 1253-1260(ケースコントロール)
13) Otsuki M, Tashiro M. Chronic pancreatitis and pancreatic cancer, lifestyle-related diseases. Intern Med
2007; 46: 109-113
— 57 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 3-3
3.治療 ― ❷生活指導
禁酒・断酒指導は慢性膵炎の治療に有用か?
CQ 3-3 禁酒・断酒指導は慢性膵炎の治療に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● アルコール性慢性膵炎は断酒により腹痛の軽減,合併症の抑制およ
び生命予後の改善が期待できる.アルコール性慢性膵炎患者には断
酒を指導することを推奨する.
1
(100%)
B
解説
飲酒は慢性膵炎発症の危険因子と考えられるが 1)
,病態の進行を促進する重要な因子でもあ
る.アルコール性慢性膵炎と非アルコール性慢性膵炎の臨床経過と予後を比較検討したコホー
ト研究によると,アルコール性では慢性膵炎の発症年齢がより若年であり,進行しても腹痛の
軽減は得られにくく,膵石灰化が早く出現し,石灰化や糖尿病合併の頻度が高い 2, 3)
.日本の膵性
糖尿病の全国調査においても,膵性糖尿病患者に飲酒を継続しているアルコール性慢性膵炎患
者が多く,報告された 7 例の死亡患者全員がアルコール性慢性膵炎であった 4)
.非アルコール性
慢性膵炎患者と比較してアルコール性の患者では生存率が低く,死亡年齢が若く,飲酒継続例
では特に生活の質(QOL)が悪いと報告されている 2, 3, 5)
.
アルコール性慢性膵炎患者が断酒をした場合の効果を観察したコホート研究によると,断酒
成功例では腹痛消失率が高く 2, 3, 5〜7)
,糖尿病合併率が低く 3, 6)
,死亡率が低下する 2, 7)
.また,飲酒
継続例では失業率が高いことが示されている 5)
.膵外分泌機能については,断酒により機能障害
の進行を抑制するとする報告があるが 5, 6)
,差がないとする報告もあり評価は定まっていない 3)
.
いずれにせよ,断酒を行うことにより症状軽減効果,糖尿病発症の抑制効果および生命予後改
善効果が期待できることで,これらのコホート研究の結果は一致している.
アルコール性慢性膵炎患者には,アルコール依存症と同様に永続的な禁酒を意味する,
「断酒」
を指導することが原則である.実際に,アルコール性慢性膵炎はアルコール依存症を背景とし
ている場合が多い.アルコール依存症の診断に関しては,簡易型診断基準として,①自己抑制
のつかない飲み方をする.たとえば飲酒量や,飲み方をコントロールできない異常な飲み方を
する(ブラックアウトや隠れ飲み,昼酒,連続飲酒などはアルコール依存症の進展課程でみられ
る,偏った飲酒行動として捉えることができる)
.②酒の飲み過ぎによる病気がある.また酒が
ないとイライラする,眠れない,手が震えるなど離脱症状がある.③酒による社会的な問題(家
庭不和,無断欠勤,経済的困窮,飲酒運転など)がある,家族や周りの人が酒をやめさせたいと
思っている.これら 3 項目すべてに合致するものとして診断される 8)
.
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②生活指導
アルコール性を疑う慢性膵炎
•
•
•
•
家族とともに受診してもらう
飲酒が膵炎の原因となっていることを理解できるように説明
断酒できない慢性膵炎患者の生命予後が不良であることを説明
患者に 4 週間の断酒を指示
• 2 週間ごとに診察・採血検査
• 断酒の状態と血清膵酵素・肝機能の相関を評価
• 患者および家族に断酒の状態を確認
4 週間の断酒成功
• しばらくの間は1ヵ月1回程度の
採血検査にて経過観察を行う
• 完全断酒を勧める
• 再度飲酒した場合はアルコール
依存症専門施設へ紹介することを
家族同伴のもと約束する
断酒不成功
• どうしても断酒に対する抵抗が強い患者には,
一度だけ節酒の機会を与えることも考慮
• 節酒できない場合はアルコール依存症専門施設
へ紹介することを約束
節酒成功
本来は節酒ではなく断酒
が必要であり,外来で断酒
指導を継続する
断酒
節酒不成功
アルコール依存症専門施設へ紹介
図 1 断酒指導フローチャート
慢性膵炎患者では断酒指導を徹底的に行うと同時に,経過観察中に再度飲酒がみられた場合
には,アルコール依存症の専門治療施設を受診させることをあらかじめ家族同伴のもとで約束
させておくことが重要とされる.具体的には,飲酒量,飲酒期間からアルコール性慢性膵炎が
疑われた場合,家族同伴のもとで患者に 4 週間の断酒を指示し,2 週ごとに外来を受診させる.
断酒の継続状態と血清膵酵素や肝機能検査を行い,症状や検査値の異常が改善された場合にア
ルコール性と診断する.このような患者には,慢性膵炎が飲酒によること,また,アルコール
依存症の可能性についてもよく説明し,原則として完全断酒を勧める.完全断酒に対して抵抗
が強く不可能な場合には,一度だけ節酒の機会を与えることを考慮してもよく,節酒できない
場合にはアルコール依存者の専門施設への受診,入院を説得するとしている.専門施設への紹
介・受診に際しては,具体的な治療法について患者によく説明することも大切である(図 1)8)
.
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3.治 療
文献
1) Lin Y, Tamakoshi A, Hayakawa T, et al; Research Committee on Intractable Pancreatic Disease. Associations of alcohol drinking and nutrient intake with chronic pancreatitis: findings from a case-control study
in Japan. Am J Gastroenterol 2001; 96: 2622-2627(ケースコントロール)
2) Hayakawa T, Kondo T, Shibata T, et al. Chronic alcoholism and evolution of pain and prognosis in chronic
pancreatitis. Digestion 1993; 54: 148-155(コホート)
3) Lankisch PG, Lohr-Happe A, Otto J, et al. Natural course in chronic pancreatitis. Digestion 1993; 54: 148155(コホート)
4) Ito T, Otsuki M, Igarashi H, et al. Epidemiological study of pancreatic diabetes in Japan in 2005: a nationwide study. Pancreas 2010; 39: 829-835(横断)
5) Miyake H, Harada H, Kunichika K, et al. Clinical course and prognosis of chronic pancreatitis. Pancreas
1987; 2: 378-385(コホート)
6) Gullo L, Barbara L, Labo G. Effect of cessation of alcohol use on the course of pancreatic dysfunction in
alcoholic pancreatitis. Gastroenterology 1988; 95: 1063-1068(コホート)
7) Strum WB. Abstinence in alcoholic chronic pancreatitis: effect on pain and outcome. J Clin Gastroenterol
1995; 20: 37-41(コホート)
8) 下瀬川 徹,伊藤鉄英,中村太一,ほか;厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業難治性膵
疾患に関する調査研究班.慢性膵炎の断酒・生活指導指針.膵臓 2010; 25: 617-681(ガイドライン)
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 3-4
3.治療 ― ❷生活指導
食事脂肪制限は慢性膵炎の腹痛に有用か?
CQ 3-4 食事脂肪制限は慢性膵炎の腹痛に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 有痛時や腹痛発作を繰り返す慢性膵炎患者では脂肪制限が食事療法
の基本と考えられる.腹痛対策として食事脂肪の制限を指導するこ
とを提案する.
2
(100%)
C
解説
慢性膵炎における腹痛に対して脂肪制限が有効であるかどうかについて,エビデンスレベル
の高い報告はない.しかし,脂肪は膵外分泌刺激作用が最も強い栄養素であり,実地診療の場
での高脂肪食後の膵炎発作誘発の事象から,慢性膵炎急性再燃対策や代償期にある慢性膵炎患
者の腹痛軽減対策として,食事中の脂肪制限が患者指導のうえで基本とされている.
有痛性の慢性膵炎患者に対して中鎖脂肪酸(MCT)を主成分とした栄養剤を 10 週間投与し,
腹痛緩和効果を検討した報告では,疼痛スコアで評価した食後腹痛の軽減効果が明らかであっ
たという報告がある 1)
.
しかし,慢性膵炎に伴う腹痛は個人差も大きく,各種鎮痛薬や内視鏡的あるいは外科的処置
を必要とする症例もあり,そのコントロールは必ずしも容易ではない 2)
.したがって,脂肪制限
は腹痛対策や急性再燃阻止対策のひとつとして推奨される 3)が,その効果が明らかでない症例
に対しての長期にわたる過度な脂肪制限は必須脂肪酸欠乏や微量元素を含めた免疫栄養の観点
からも好ましくない 4)
.
低栄養状態の慢性膵炎患者を対象として,患者ごとに算出した必要摂取カロリーを目標に,
腸溶性膵酵素製剤の投与下に食事療法を行った RCT が報告されている.専門の栄養士によるカ
ウンセリングを行い家庭食で食事療法を行った群(炭水化物 60%,蛋白質 10〜15%,脂質 25〜
30%)と市販の栄養剤(炭水化物 16%,蛋白質 33%,脂質 33%を含み,脂質の 25%は MCT)で
カロリー不足分を補って食事療法を行った群とを比較した場合,3 ヵ月後の評価で両群とも栄
養状態や疼痛スコアなどが改善し,両群で有意な差を認めなかった.専門栄養士によるカウン
セリングを行って,少量ずつの食事を頻回に摂取することが重要であり,栄養剤の使用は必ず
しも必要としないと結論づけているが,本研究では脂肪制限を行っておらず,必ずしも脂肪制
限が必須ではない可能性が示唆されている 5)
.
なお,近年では脂肪をほとんど含まない成分栄養剤の投与により腹痛の改善がみられたとの
報告もあり,慢性膵炎患者の腹痛に対する治療手段のひとつとなりうることが示されている
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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3.治 療
(Pancreas 2014; 43: 451-457 a)
[検索期間外文献]
).
脂肪摂取量の目安については,CQ 3-21 を参照されたい.
文献
1) Shea JC, Bishop MD, Parker EM, et al. An enteral therapy containing medium-chain triglycerides and
hydrolyzed peptides reduces postprandial pain associated with chronic pancreatitis. Pancreatology 2003;
3: 36-40(ケースシリーズ)
2) Giger U, Stanga Z, DeLegge MH. Management of chronic pancreatitis. Nutr Clin Pract 2004; 19: 37-49
3) Pitchumoni CS. Chronic pancreatitis: pathogenesis and management of pain. J Clin Gastroenterol 1998; 27:
101-107
4) 幣 憲一郎.慢性膵炎の栄養管理.栄養-評価と治療 2005; 22: 541-545
5) Singh S, Midha S, Singh N, et al. Dietary counseling versus dietary supplements for malnutrition in chronic pancreatitis: a randomized controlled trial. Clin Gastroenterol Hepatol 2008; 6: 353-359(メタ)
【検索期間外文献】
a) Kataoka K, Sakagami J, Hirota M, et al. Effects of oral ingestion of the elemental diet in patients with
painful chronic pancreatitis in the real-life setting in Japan. Pancreas 2014; 43: 451-457(ケースシリーズ)
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 3-5
3.治療 ― ❷生活指導
禁煙は慢性膵炎の治療に有用か?
CQ 3-5 禁煙は慢性膵炎の治療に有用か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 喫煙は慢性膵炎の発症リスクと膵石灰化のリスクを高める.禁煙は
慢性膵炎の進行を抑制する可能性があり,禁煙指導を行うことを推
奨する.
1
(100%)
C
解説
ケースコントロール 10 報,コホート研究 2 報からなる慢性膵炎 1,705 例からなるメタアナリ
シスでは,喫煙は慢性膵炎のリスク因子[RR 2.8(95%CI 1.8〜4.2)
(全体)
,RR 2.5(95%CI 1.3〜
4.6)
(飲酒補正後)
]であると報告されている 1)
.また,同報告では禁煙により,慢性膵炎の発症
リスクが低下すると報告されている 1)
.
喫煙者では非喫煙者に比して,アルコール性・特発性の慢性膵炎に対する膵石灰化発症リス
クが上昇するという報告がある 2, 3)
.イタリアの膵石灰化がない慢性膵炎 360 例の追跡調査(平均
観察期間 19.0 年)では,非喫煙者・既喫煙者は喫煙者に比して有意に膵石灰化の発症が低いこ
とを示した.また,喫煙の程度によって膵石灰化の発症リスクは変わらなかったので,膵石灰
化リスクを低下させるためには完全な禁煙が必要とする結果を示している 4)
.
ニコチンの膵に対する影響を調べた基礎的データはほとんどみられない.また,禁煙により
慢性膵炎の進行を遅らせる直接的な証明をした報告はない.しかし,喫煙者の慢性膵炎は早期
発症であること,膵石灰化や糖尿病が喫煙者ではより早期に発症することから,慢性膵炎の治
療に禁煙が必要であると考えられている 5)
.
ESWL や内視鏡的治療を行った慢性膵炎症例においては,禁煙が腹痛コントロールや長期予
後改善に有効であったと報告されている 6, 7)
.
また,禁煙は喫煙関連発癌や心血管イベントのリスク低下をもたらすという慢性膵炎治療以
外の健康利得がある.
文献
1) Andriulli A, Botteri E, Almasio PL, et al. Smoking as a cofactor for causation of chronic pancreatitis: a
meta-analysis. Pancreas 2010; 39: 1205-1210(メタ)
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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3.治 療
2) Cavallini G, Talamini G, Vaona B, et al. Effect of alcohol and smoking on pancreatic lithogenesis in the
course of chronic pancreatitis. Pancreas 1994; 9: 42-46(コホート)
3) Imoto M, DiMagno EP. Cigarette smoking increases the risk of pancreatic calcification in late-onset but not
early-onset idiopathic chronic pancreatitis. Pancreas 2000; 21: 115-119(コホート)
4) Talamini G, Bassi C, Falconi M, et al. Smoking cessation at the clinical onset of chronic pancreatitis and
risk of pancreatic calcifications. Pancreas 2007; 35: 320-326(コホート)
5) Jupp J, Fine D, Johnson CD. The epidemiology and socioeconomic impact of chronic pancreatitis. Best
Pract Res Clin Gastroenterol 2010; 24: 219-231
6) Delhaye M, Arvanitakis M, Verset G, et al. Long-term clinical outcome after endoscopic pancreatic ductal
drainage for patients with painful chronic pancreatitis. Clin Gastroenterol Hepatol 2004; 2: 1096-1106
(ケースコントロール)
7) Seven G, Schreiner MA, Ross AS, et al. Long-term outcomes associated with pancreatic extracorporeal
shock wave lithotripsy for chronic calcific pancreatitis. Gastrointest Endosc 2012; 75: 997-1004, e1(横断)
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 3-6
3.治療 ― ❸疼痛対策
鎮痛・鎮痙薬は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ 3-6 鎮痛・鎮痙薬は慢性膵炎の腹痛に有効か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 慢性膵炎の腹痛には,非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の内服ま
たは坐薬を用いることを提案する.
2
(100%)
C
● NSAIDs が無効な場合には,弱オピオイドの使用を考慮すること
を提案する(CQ 3-10 参照)
.
2
(100%)
C
解説
慢性膵炎の頑固な腹痛には NSAIDs の内服または坐薬の頓用が一般的に有効とされている.
この他,Oddi 筋の緊張を除くために catechol-O-methyl transferase(COMT)阻害薬などの鎮痙
薬,迷走神経を介する膵外分泌刺激を抑制するために抗コリン薬,コレシストキニン(CCK)を
介する膵外分泌を抑制するために消化酵素薬(CQ 3-7 参照)
,膵炎による痛みを抑制するために
蛋白分解酵素阻害薬(CQ 3-8 参照)が用いられる(巻頭フローチャート 2,3 参照)
.麻薬および中
枢性鎮痛薬であるペンタゾシンは依存症が生じやすいので高度の腹痛時に限り最小限の使用と
される 1)
.米国消化器病学会の慢性膵炎の腹痛治療に関するガイドライン 2)
(図 1)では,具体的
な対策が段階的に示されている.また,ドイツでは,WHO の癌性疼痛への対応に準じて慢性
膵炎の腹痛に対する段階的治療法 3)が発表されている.しかし,このような治療の効果が系統
的に検討されたことはない.
慢性膵炎患者の頑固な腹痛にはしばしばモルヒネなどの麻薬が必要になることがあるが,薬
物依存や消化管運動に対する副作用が問題となる.少なくとも 2 週間の NSAIDs 投与で腹痛が
改善しなかった慢性石灰化膵炎症例を対象とした海外の RCT では,コデインの誘導体トラマ
ドール(弱オピオイド)は有意に疼痛スコアを減少させ,両者の効果に差はなかったと報告され
ている 4)
.トラマドールはペンタゾシンに比べて薬物乱用の危険性が少ないとされている.トラ
マドール塩酸塩およびアセトアミノフェンとの配合剤は,非がん性慢性疼痛に適応があるが,
慢性膵炎は国内治験の対象外であった.国内でトラマドールの効果を検討した報告はない.
ロイコトリエン受容体拮抗薬であるモンテルカスト 5)
,抗酸化作用のあるクルクミンとピペリ
ンの組み合わせ 6)で,腹痛に対する効果が検討されたが,どちらも効果はみられていない.し
かし,最近,抗酸化薬の組み合わせ投与(有機セレン,アスコルビン酸,β -カロテン,α -トコ
フェロール,メチオニン)が,1 ヵ月あたりの疼痛を起こした日数,鎮痛薬の使用数,入院回数
を減らしたという RCT が報告された 7)
.
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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3.治 療
腹痛を有する慢性膵炎患者
CT±ERCP ±EUS ± 上部消化管内視鏡/上部消化管透視
仮性囊胞,胆道狭窄
十二指腸狭窄,消化性潰瘍,
膵癌
内科的治療,外科的治療,
内視鏡的治療
脂肪制限食,非麻薬性鎮痛薬,禁酒;腹痛の自己評価と QOL を問診
反応なし
高用量の膵酵素(錠剤)を 8 週間投与+制酸薬投与
反応なし
内視鏡的治療を考慮
内視鏡的治療の非施行例/無効例
経過観察/麻薬性鎮痛薬の使用と耽 のリスク/手術の恩恵とリスク
以上を患者によく説明する
外科手術を決定
膵管非拡張例
膵管拡張例
神経切断術を考慮
減圧術
膵切除術
図 1 慢性膵炎腹痛の治療ガイドライン(AGA 1998)
(American Gastroenterological Association Medical Position Statement: Treatment of pain in chronic pancreatitis. Gastroenterology 1998 ; 115 : 763-764)
神経障害性疼痛のガイドラインでは,三環系抗うつ薬と Ca2+チャネル α 2 δ リガンド(プレガ
バリンなど)が第一選択とされている 8)
.米国では,麻薬を必要とする慢性膵炎患者の多くに,
抗うつ薬や Ca2+チャネル α 2 δ リガンドが併用される 9)
.最近,プレガバリンが,慢性膵炎の腹
痛を軽減し,全般的な満足度を上げたという RCT が報告された 10)
.
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③疼痛対策
文献
1) 早川哲夫,真辺忠夫,竹田喜信,ほか.慢性膵炎の治療指針の改定について.厚生省特定疾患難治性膵疾
患調査研究班昭和 62 年度研究報告書,1988: p23-27(ガイドライン)
2) American Gastroenterological Association. American Gastroenterological Association medical position
statement: treatment of pain in chronic pancreatitis. Gastroenterology 1998; 115: 763-764(ガイドライン)
3) Mössner J, Keim J, Niederau C, et al. Guidelines for therapy of chronic pancreatitis: Consensus Conference
of the German Society of Digestive and Metabolic Diseases. Halle 21-23 November 1996. Z Gastroenterol
(in German) 1998; 36: 359-367(ガイドライン)
4) Wilder-Smith CH, Hill L, Osler W, et al. Effect of tramadol and morphine on pain and gastrointestinal
motor function in patients with chronic pancreatitis. Dig Dis Sci 1999; 44: 1107-1116(ランダム)
5) Cartmell MT, O’Reilly DA, Porter C, et al. A double-blind placebo-controlled trial of a leukotriene receptor
antagonist in chronic pancreatitis in humans. J Hepatobiliary Pancreat Surg 2004; 11: 255-259(ランダム)
6) Durgaprasad S, Pai CG, Vasanthkumar, et al. A pilot study of the antioxidant effect of curcumin in tropical
pancreatitis. Indian J Med Res 2005; 122: 315-318(ランダム)
7) Bhardwaj P, Garg PK, Maulik SK, et al. A randomized controlled trial of antioxidant supplementation for
pain relief in patients with chronic pancreatitis. Gastroenterology 2009; 136: 149-159(ランダム)
8) 日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン作成ワーキンググループ(編)
.神経障害
性疼痛薬物療法ガイドライン,真興交易医書出版部,東京,2011(ガイドライン)
9) Chauhan S, Forsmark CE. Pain management in chronic pancreatitis: a treatment algorithm. Best Pract Res
Clin Gastroenterol 2010; 24: 323-335(ガイドライン)
10) Olesen SS, Bouwense SA, Wilder-Smith OH, et al. Pregabalin reduces pain in patients with chronic pancreatitis in a randomized, controlled trial. Gastroenterology 2011; 141: 536-543(ランダム)
— 67 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 3-7
3.治療 ― ❸疼痛対策
消化酵素の大量投与や高力価消化酵素の使用は慢性膵炎の腹
痛に有効か?
CQ 3-7 消化酵素の大量投与や高力価消化酵素の使用は慢性膵炎の腹痛に有効
か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 慢性膵炎の腹痛には,消化酵素薬の大量投与あるいは高力価の消化
酵素薬を使用することを提案する.
2
(100%)
B
解説
ラットやブタでは,十二指腸内に蛋白質分解酵素(トリプシンやキモトリプシン)を投与する
と膵外分泌が抑制される.このネガティブフィードバック機構による慢性膵炎患者の腹痛改善
作用を期待して消化酵素薬の投与が行われてきた.消化酵素薬の慢性膵炎患者の腹痛改善効果
に関して,海外ではこれまでに 10 件の RCT が行われている.
海外の 5 文献と 1 学会抄録のデータを用いたメタアナリシス(1997 年)1)
,および 10 文献を解
析したコクラン・レビュー(2009 年)2)の結果,消化酵素薬の投与には慢性膵炎の腹痛改善効果
を認めなかった.消化酵素薬には酵素の胃内での失活を防ぐため,胃のなかでは溶けないよう
にコーティングされた腸溶製剤(enteric coated enzymes)と非腸溶製剤(non-enteric coated
enzymes)がある.解析に用いられた論文のなかで,軽症から中等症の膵障害がある慢性膵炎を
対象に非腸溶製剤を使用した場合,75%に有効性が認められている 3)
.同様に,19 例に非腸溶
製剤を投与したところ 15 例(79%)に腹痛軽減作用を認めたという報告 4)がある.一方,腸溶
製剤を使用した研究 5〜9)では,いずれも消化酵素薬による腹痛改善効果を認めていない.
しかし,腸溶製剤でも,服薬量を常用量ではなく症状に応じて自分で決めた(ad lib)群では,
常用量群に比べ有意に腹痛改善効果を認めたという報告がある 10)
.最近,慢性膵炎患者 70 例に
おいて膵外分泌機能不全に対応して消化酵素薬(腸溶製剤)の投与量を調整したところ,22〜24%
の症例に腹痛緩和効果を認めたとする報告もみられる 11)
.脂肪吸収障害のある慢性膵炎患者に
常用量の腸溶製剤を 6 ヵ月間投与すると腹痛が軽減したとする報告があるが,ネガティブフィー
ドバック機構によるものではなく,鼓腸や便通の改善による間接的な効果であると思われる 12)
.
日本では慢性膵炎の腹痛に対する消化酵素薬の効果は検討されていない.海外の研究でも消
化酵素薬の大量投与が慢性膵炎の腹痛を改善するか否かについて結論は得られていない.しか
し,腹痛軽減効果は非腸溶製剤に認められる可能性が高く,常用量の腸溶製剤では効果は低い
(巻頭フローチャート 2,3 参照)
.今後,十二指腸内に十分量の酵素活性が存在する条件で,消
化酵素薬の腹痛改善効果を評価する必要がある.国内で 2011 年 8 月に販売開始になった高用量
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③疼痛対策
パンクレリパーゼ製剤は,腸溶製剤である.消化酵素薬の大量投与あるいは高力価の消化酵素
薬は,慢性膵炎患者の栄養不良,腹部症状,QOL を改善させ(CQ 3-22 参照),患者のベネ
フィットが大きい.
文献
1) Brown A, Hughes M, Tenner S, et al. Does pancreatic enzyme supplementation reduce pain in patients
with chronic pancreatitis: a meta-analysis. Am J Gastroenterol 1997; 92: 2032-2035(メタ)
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Clinical Question 3-8
3.治療 ― ❸疼痛対策
蛋白分解酵素阻害薬は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ 3-8 蛋白分解酵素阻害薬は慢性膵炎の腹痛に有効か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 早期慢性膵炎が疑われる患者の腹痛に対しては,蛋白分解酵素阻害
薬を使用することを提案する.メシル酸カモスタットの経口剤は,
慢性膵炎における急性症状の緩解に適応があるが,慢性膵炎の確診
例あるいは準確診例への有効性についてはデータが乏しい.
2
(100%)
C
解説
蛋白分解酵素阻害薬は,膵酵素の活性化抑制作用により膵の炎症を抑制する可能性がある.
蛋白分解酵素阻害薬(メシル酸カモスタット)は慢性膵炎の腹痛に有効との報告 1, 2)がある.慢性
膵炎 50 例において,メシル酸カモスタット 1 日 600 mg 内服後,2 週間〜3 ヵ月の間に 20 例
(54%)で腹痛が消失,13 例(35%)で軽減,4 例(11%)で無効であった 1)
.確診例 69 例,準確診
例 86 例,疑診例 321 例にメシル酸カモスタット(1 日 600 mg)を 4 週間投与したところ,いず
れの群でも 2 週後から心窩部痛,背部痛などの症状が有意に軽減し,血清膵酵素レベルが有意
に低下した 2)
.これらの研究では対照(非投与)群が設定されていないので,腹痛に対する効果
がどこまでメシル酸カモスタットによるものか不明である.
腹部の不定愁訴があり,慢性膵炎の診断基準を満たさないが,慢性膵炎が疑われる症例を対
象とした研究 3)では,メシル酸カモスタット 1 日 600 mg,4 週間服用群(8 例)では心窩部痛の
消失は 57%であった.一方,非投与群(9 例)でも消失率は 33%と有意差はなかった.しかし,
背部痛に関しては非投与群では消失しなかったのに対し,投与群では消失率は 87%と有意な効
果を認めた.慢性膵炎疑診例に対し,同様の研究 4〜6)が繰り返されているが,いずれも対照群
もしくは比較薬が設定されていない.メシル酸カモスタット(1 日 600 mg,4 週間)投与群 121
例と非投与群 34 例の比較では,症状の改善率に差はなかったが,投与群の血清アミラーゼ値の
改善率(82.6%)は,非投与群(50%)に比べて有意に高かった 2)
.機能性ディスペプシアの患者に
おいて,メシル酸カモスタット(1 日 600 mg,4 週間)はファモチジン(1 日 40 mg,4 週間)に比
べ,有意に腹痛を軽減させた 7)
.これらの研究の対象患者に慢性膵炎が含まれている可能性はあ
るが,効果があった症例が慢性膵炎患者である証拠はない.飲酒歴のない疑診例の前向き研究
では,超音波内視鏡検査で慢性膵炎に合致する所見の項目数が多いほど,メシル酸カモスタッ
ト投与による腹部症状の改善度が高かった 8)
.
海外ではカモスタットに関する研究はない.また,現時点では本設問に関する適切な RCT な
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③疼痛対策
らびに対照研究がない.旧診断基準で慢性膵炎疑診に相当する症例の腹痛に対しては蛋白分解
酵素阻害薬を使用することを提案するが,慢性膵炎の確診例あるいは準確診例への有効性につ
いては,データが乏しい.慢性膵炎の腹痛に対する蛋白分解酵素阻害薬の有効性は今後の課題
である(巻頭フローチャート 2,3 参照)
.
文献
1) Kanoh M, Ibata H, Miyagawa M, et al. Clinical effects of camostat in chronic pancreatitis. Biomed Res
1989; 10 (Suppl 1): 145-150(横断)
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果についての検討―潜在性慢性膵炎についての考察.新薬と臨牀 2003; 52: 1061-1067(ケースコントロール)
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医療 2002; 34: 487-497(横断)
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ト(フオイパン錠)の効果の検討―東北地区におけるアンケート集計結果より.現代医療 2002; 34: 1274-1283
(横断)
6) 伊藤敏文,鎌田武信.潜在的慢性膵炎患者の臨床的検討.消化器科 2003; 36: 515-522(横断)
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treatment of functional dyspepsia: is camostat mesilate effective? J Gastroenterol Hepatol 2006; 21: 767-771
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non-alcoholic mild pancreatic disease. J Gastroenterol 2010; 45: 335-341(コホート)
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Clinical Question 3-9
3.治療 ― ❸疼痛対策
膵石(蛋白栓)溶解療法は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ 3-9 膵石(蛋白栓)溶解療法は慢性膵炎の腹痛に有効か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 膵石や蛋白栓に対する溶解療法は慢性膵炎の腹痛に有効とするだけ
の根拠に乏しく,行わないことを提案する.
2
(100%)
C
解説
数施設から石灰化膵石や蛋白栓に対する溶解療法は慢性膵炎の腹痛に有効とする報告がみら
れる 1〜7)
.膵石の溶解目的にはトリメタジオンまたはクエン酸が用いられ,多くの報告はトリメ
タジオンに関するものである.トリメタジオンはてんかん小発作の治療薬であり,その脱メチ
ル化物質のジメタジオンは有機弱酸のため,石灰化膵石の主成分である炭酸カルシウムを溶解
する作用を有する.30 例の膵石症に 0.9〜1.5 g/日のトリメタジオンの内服治療を行った報告で
は,平均観察期間 32 ヵ月の間に 21 例において膵石の消失または減少効果が得られ,腹痛の消
失を 73%に認めている 1)
.8〜260 ヵ月とさらに長期間の観察でも,膵石の溶解効果を 41 例中 29
例(71%)
,腹痛の消失を 81%に認め,溶解療法を施行しなかった 41 例の膵石症と比べ,①膵
石の消失,②腹痛の消失,③外分泌機能の改善の 3 項目において溶解療法を行った症例におい
て有意に良好な結果を得たとしている 2)
.また,体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)や内視鏡的治
療が不成功であった 5 例でも,全例に膵石溶解を,4 例に腹痛の消失を認め,単独療法のみな
らず ESWL や内視鏡的治療との併用療法としても有用であったと述べている 2)
.クエン酸によ
る溶解療法に関しては,2 例の石灰化特発性慢性膵炎症例に内視鏡的に膵管内に留置した経鼻
的カテーテルから,クエン酸溶液を持続的に注入し,それぞれ 48 時間後,120 時間後に膵石は
すべて溶解,消失し,2 症例とも慢性の腹痛が消失したとの報告がみられる 5)
.
一方,蛋白栓の溶解には塩酸ブロムヘキシンの内服が行われている.飲酒を中止できないア
ルコール性慢性膵炎 12 例に 6 ヵ月間塩酸ブロムヘキシンの内服を行ったところ,12 例中 8 例
(67%)に症状の改善がみられ,全例において血清膵酵素値の改善が認められている 6〜8)
.また,
蛋白栓が膵管内に充満した慢性膵炎患者では,膵管内の蛋白栓は消失し,臨床症状,血清膵酵
素値および膵外分泌機能の改善が得られている 7, 8)
.他にも蛋白栓を伴う慢性膵炎 4 例中 3 例に,
塩酸ブロムヘキシンの有効性を認めた報告がある.
以上のように,石灰化膵石や蛋白栓に対する溶解療法は慢性膵炎の腹痛に有効とする報告が
散見されるが,限られた数施設からの報告のみであり,推奨するには根拠に乏しいものと考え
られる.今後,多施設での検討が待たれる.なお,膵石(蛋白栓)溶解療法は,現在日本では慢
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③疼痛対策
性膵炎の腹痛に対して保険適用はなく,臨床治験として行われるべき治療である.
文献
1) Noda A, Okuyama M, Murayama H, et al. Dissolution of pancreatic stones by oral trimethadione in
patients with chronic pancreatitis. J Gastroenterol Hepatol 1994; 9: 478-485(コホート)
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時的中断ないし完全中止とその後の経過からみた検討.膵臓 1997; 12: 265-272(ケースコントロール)
4) 山本真紀子,野田愛司,伊吹恵里,ほか.石灰化膵石症及び蛋白栓や粘調膵液に対する経口膵石溶解療法
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8) Tsujimoto T, Kawaratani H, Yoshiji H, et al. Recent developments in the treatment of alcoholic chronic
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慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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Clinical Question 3-10
3.治療 ― ❸疼痛対策
麻薬は慢性膵炎の腹痛治療に必要か?
CQ 3-10 麻薬は慢性膵炎の腹痛治療に必要か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 十分な量の NSAIDs が無効な腹痛に対しては,内視鏡的治療と外
科的治療の適応を確認する.適応がない症例には,医療用麻薬など
の中枢性鎮痛薬を使用することを考慮してよい.
2
(90%)
B
解説
慢性膵炎の腹痛治療における麻薬の必要性を検証した研究はないが,しばしば麻薬性の鎮痛
薬を必要とすることがある.日本の慢性膵炎における麻薬の使用頻度は不明であるが,デンマー
クでは癌性疼痛以外に使用されるオピオイドの 7%は慢性膵炎の腹痛コントロールに用いられて
いた 1)
.また,コペンハーゲンの慢性膵炎患者(1979 年の有病率 13.0/人口 10 万)の 20%が麻薬
を使用していたが 2)
,27%は腹痛に対して一度も鎮痛薬を使用していなかった.慢性膵炎の腹痛
は個人差も大きく,腹痛の程度は病期により異なり,多くは自然消失する 3)が,一部に持続す
る症例もある.したがって,腹痛の原因,程度,他の治療法の効果および病期を無視して麻薬
の必要性を決めることはできない.
日本の慢性膵炎治療指針 4)では急性再燃時の鎮痛薬としてオピオイドの使用が適応とされて
いる.しかし,同時に連用による薬物依存の危険性も指摘されており,使用にあたって注意が必
要である.米国消化器病学会の慢性膵炎の腹痛治療に関するガイドライン(CQ 3-6 図 1 参照)5)で
は,①低脂肪食,禁酒,非麻薬性鎮痛薬,②高力価膵酵素薬と制酸薬,③内視鏡的治療,に次
いで,④麻薬性鎮痛薬があげられている.麻薬の使用にあたっては,その効果と薬物依存のリ
スクおよび外科的治療の効果とそのリスクを患者と議論することを推奨している.また,ドイ
ツのガイドライン 6)では癌性疼痛に対する WHO の 3 段階除痛ラダーに準じて,①禁酒,食事
指導,②アセトアミノフェン,③+中枢作用性鎮痛薬(トラマドールなど)
,④+抗うつ薬ある
いは精神安定薬と段階的に上げ,最後に⑤麻薬を用いるとされている.
慢性膵炎の腹痛治療における麻薬の役割を系統的かつ前向きに検討した報告はない.少なく
とも 2 週間以上の非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)および弱オピオイドにより腹痛改善の認め
られない 30 例の患者を対象とした RCT 7)では,トラマドールの鎮痛効果はモルヒネと同等で
あったと報告されている.また,この研究では,トラマドールの消化管運動に対する副作用は
モルヒネより少なかった 7)
.トラマドールは,乱用の危険性がペンタゾシンに比べて少ないとさ
れている.トラマドール塩酸塩およびアセトアミノフェンとの配合剤は,非がん性慢性疼痛に
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③疼痛対策
適応があるが,慢性膵炎は国内治験の対象外であった.国内でトラマドールの効果を検討した
報告はない.トラマドールなどのオピオイドを増量しても効果のない場合,強オピオイドとし
て,モルヒネより副作用が少なく作用時間の長いブプレノルフィン(レペタン)が有用である 8)
.
しかし,ブプレノルフィンにも薬物依存性があるので,使用期間を限定して長期の使用は避け
る必要がある.フェンタニルの経皮的投与はモルヒネに比べて鎮痛効果は同等であり,錠剤の
服用が難しい場合には有用である.しかし,副作用の皮膚炎の頻度が高く,即効性モルヒネに
よるレスキューの必要量も多いため,モルヒネ徐放剤より有効とはいえない 9)
.
現時点のコンセンサスとしては,禁酒や低脂肪食などの生活指導のうえ(CQ 3-3,3-4 参照)
,
膵消化酵素薬,制酸薬,抗コリン薬,蛋白分解酵素阻害薬に加え,十分な量の NSAIDs(CQ 3-6
〜3-11 参照)が無効な腹痛の場合,内視鏡的治療(CQ 3-12,3-13 参照)や外科的治療(CQ 3-15〜
3-19 参照)の適応と薬物依存の危険性を十分配慮したうえで,医療用麻薬などの中枢性鎮痛薬を
使用することが望ましい(巻頭フローチャート 2 参照)
.
文献
1) Sorensen HT, Rasmussen HH, Moller-Petersen JF, et al. Epidemiology of pain requiring strong analgesics
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Clinical Question 3-11
3.治療 ― ❸疼痛対策
抗うつ薬は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ 3-11 抗うつ薬は慢性膵炎の腹痛に有効か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 慢性膵炎患者の腹痛に対して安易に抗うつ薬を用いないことを提案
する.
2
(90%)
D
解説
慢性膵炎疑診例や準確診例では,軽症うつ病・うつ状態を合併している場合がある.うつ状
態では,耐糖能の異常やアミラーゼの異常が多く,このような場合には抗うつ薬によって痛み
のコントロールが可能になると報告されている 1, 2)
.
一般的に三環系抗うつ薬は慢性疼痛の補助治療薬として用いられている.麻薬が必要となる
慢性膵炎患者の多くは,三環系抗うつ薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
,セロト
ニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などを併用する場合が多い 3)
.ドイツの慢性
膵炎の腹痛治療に関するガイドライン 4)では,アセトアミノフェンにトラマドールなど中枢作
用性鎮痛薬を加えても効果のない腹痛に対し,麻薬を用いる前に,抗うつ薬あるいは精神安定
薬を加えるとされている.しかし,SSRI,SNRI を含め,慢性膵炎の腹痛に対する RCT は国内,
海外ともに行われておらず,推奨されるだけの根拠がない 5)
.
文献
1) 神原憲治,福永幹彦,中井吉英.内科臨床における“こころ”と“からだ”―臓器・疾患別にみた心身医療―
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Clinical Question 3-12
3.治療 ― ❸疼痛対策
ESWL を含む内視鏡的治療は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ 3-12 ESWL を含む内視鏡的治療は慢性膵炎の腹痛に有効か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● ESWL を含む内視鏡的治療は,慢性膵炎の腹痛に対して短期的に
は極めて有効であり,長期的にも有効性を示すため,行うことを提
案する.
2
(80%)
B
解説
体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)による膵石治療が広く普及してからは,膵石の砕石は主に
ESWL で行われることが多く,内視鏡的砕石術を単独で行うのは 5 mm 未満の比較的小さな結
a)
石例に限られている(Endoscopy 2012; 44: 784-800 [検索期間外文献]
)
.現在行われている膵石
症の内視鏡的治療には,砕石術の他に乳頭切開術,膵管口切開術,膵管狭窄部の拡張術,膵管
ステント留置術などがあげられる.実際には主膵管または副膵管内の膵石を対象として,個々
,
の症例の病態に合わせてこれらの手技と ESWL を組み合わせた治療が行われている 1〜11, a)(Pan-
creas 2013; 42: 584-588 b)
[検索期間外文献]
)
.一方,膵管の強い狭窄や屈曲蛇行などにより内視
鏡的治療が容易ではないと予測される症例では,起こりうる偶発症や治療期間も考慮に入れた
うえで,当初より外科的治療を含めて治療方針を慎重に検討する必要がある.
ESWL を併用した内視鏡的治療の慢性膵炎の腹痛に対する効果に関しては,短期的には 78〜
100%に効果が認められており,極めて有効とする報告が多い 1〜3)
.単一施設で最も多数例を治療
した報告では,1,006 例中 76%の症例において膵石が完全消失し,腹痛も有意に減少している 4)
.
また,治療前後の腹痛の程度,1 年あたりの膵炎による入院回数および 1 ヵ月あたりの鎮痛薬
の使用量を比較検討し,いずれも治療後に有意な改善が得られたという報告もみられる 2)
.17 の
論文を用いたメタアナリシスでもその有効性が明らかにされている 5)
.
一方,長期経過における効果に関しては,平均観察期間 40 ヵ月で 79%に症状の改善が得ら
れたが,治療成功例と不成功例の腹痛の改善率に統計学的な差がみられなかったことより,
ESWL を含む内視鏡的治療は慢性の腹痛の改善に有効であることを証明できなかったとする報
告がみられる 7)
.しかし,日本の 11 施設 555 例の検討では膵石の消失が 72.3%にみられ,平均
観察期間 48.7 ヵ月で症状の緩和が 78〜100%,平均 91.9%に認められ,外科的治療への移行例
は 4.7%のみであった 8)
.1,018 例と最も多数例(多施設)での検討では,観察期間 2〜12 年(平均
4.9 年)で,腹痛に対する有効率は 65%であり,治療成功例に症状が緩和する症例が多い傾向が
みられている 11)
.平均 14.4 年と最も長く経過観察された報告では,約 2/3 の症例に臨床症状の
— 77 —
慢性膵炎診療ガイドライン2015(改訂第2版),南江堂,2015
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3.治 療
改善が得られ,入院回数は有意に減少したとしている 9)
.比較的長期に観察した成績 1〜11, b)から,
ESWL と内視鏡を併用した治療は慢性膵炎の腹痛に対して,長期的にも比較的良好な消失,ま
たは緩和効果が得られると考えられる.今後,さらに長期間での検討が望まれる.
文献
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— 78 —
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Clinical Question 3-13
3.治療 ― ❸疼痛対策
内視鏡的治療の長期反復は慢性膵炎の腹痛に必要か?
CQ 3-13 内視鏡的治療の長期反復は慢性膵炎の腹痛に必要か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 慢性膵炎における膵管ステント治療の継続期間は 1 年前後をひと
つの基準とし,無効例や腹痛が再燃する症例では外科的治療を考慮
することを提案する.
2
(90%)
C
解説
慢性膵炎に対する膵管ステント術の技術的な成功率は 85〜98%であり,臨床効果は短期的に
は 65〜95%,14〜58 ヵ月の観察期間でも 32〜68%に腹痛の改善が得られている(Endoscopy
2012; 44: 784-800 a)
[検索期間外文献]
)
.
一般に,膵管ステントにはプラスチックステントが用いられるが,8 週までに 66%が,9 週間
以上留置した場合は全例ステントが閉塞するとされている 1)
.長期のステント治療を行う場合に
は,短期間での入れ替えが必要であり,閉塞による症状がなくても最低でも年 1 回の交換が必
要と報告されている a)
.また,ステント留置が長期にわたると,膵管に器質的変化を及ぼすとも
報告されている 2)
.
膵管ステント治療を終了する基準として,内視鏡的に膵管狭窄部より尾側に充満させた造影
剤が 1〜2 分後に適切に十二指腸に流出していること,6 Fr のカテーテルが容易に膵管狭窄部を
通過することなどがあげられている 3〜5)
.
ステント治療の継続期間に関しては,6 ヵ月以内の短期間では効果が少ないとする報告 6)も
あるが,腹痛が早期に(6 ヵ月以内)軽快した症例(74%)は長期的にも(平均 5.9 年)良好な臨床
効果が得られている 5)
.腹痛のある狭窄を有する慢性膵炎患者に対して,バルーン拡張後,10 Fr
のステント治療を 2 ヵ月ごとに入れ替えて 6 ヵ月継続した結果,6 ヵ月後は 74%,1 年後は 52%
の患者に鎮痛薬の中止が可能となり,短期間の検討では有効であったとの報告がみられる 6)
.膵
石を砕石後,膵管に狭窄を有する症例に対して 1 年間のステント治療後の腹痛,膵炎の発作の
回数は,膵管に狭窄を有しない群とほぼ同等で,挿入前に比較して主膵管の拡張が有意に軽減
したと報告されている 7)
.また,1 年以内にステント治療を終了し得た症例の治療後の再入院率,
入院期間,医療費は外科的治療を行った症例と同等であったが,1 年以上のステント治療を要
した症例は外科的治療例に比べて明らかに治療後の予後は不良であったとの報告もみられる 8)
.
一方,内視鏡的治療と外科的治療を比較した RCT は現在 3 つ報告されており,いずれも外科的
治療が優れている.治療直後は両群に差がなかったが,5 年後の腹痛の完全消失は内視鏡的治
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3.治 療
療群 14%に対して外科的治療群は 37%と報告されている 9)
.また,2 年間の経過観察期間にお
いて Izbicki pain score と health summary score は外科的手術例のほうが低く,また 2 年後に腹
痛を訴える患者は外科的手術例のほうが少なく,長期的には外科的手術のほうが優れた治療法
であると報告されている 10)
.さらにその 5 年後の検討では,内視鏡的治療例の 47%に外科手術
が付加されていたと報告している 11)
.
一般的に,内視鏡的治療は外科的治療に比べて侵襲が少ないため,最初の治療として考慮さ
れることが多いが,具体的に膵管ステントのよい適応である慢性膵炎のタイプも報告 12)されて
おり,膵管の強い狭窄や屈曲蛇行などにより内視鏡的治療が容易ではないと予測される症例で
は,当初より外科的治療も含めて治療方針を慎重に検討する必要がある.一方,膵管ステント
治療を行う場合,その治療継続期間は 1 年前後をひとつの基準として,ステントを挿入しても
有効でない症例,治療後も腹痛が再燃する症例に対しては内視鏡的治療に固執せずに外科的治
療を考慮する必要がある 7)
.
文献
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Clinical Question 3-14
3.治療 ― ❸疼痛対策
EUS/CT ガイド下腹腔神経叢 neurolysis(CPN)は慢性膵
炎の腹痛に有効か?
CQ 3-14 EUS/CT ガイド下腹腔神経叢 neurolysis(CPN)は慢性膵炎の腹痛
に有効か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● EUS/CT ガイド下 CPN は慢性膵炎の腹痛に短期的には有効であ
る.しかし,長期的には効果が乏しく,NSAIDs やオピオイドに
よる薬物療法で除痛が困難な症例に行うことを考慮してよい.
2
(90%)
B
解説
慢性膵炎による難治性の腹痛に対しては,NSAIDs,オピオイドによる薬物療法が用いられる
が,その効果には限界があり,膵管ドレナージや外科的治療が行われてきた.また以前から内
臓悪性腫瘍による腹痛に対して CPN が行われ,有効な成績が報告されており,近年,慢性膵炎
による難治性の腹痛に対しても CPN が行われるようになってきた 1〜8)
.
従来,慢性膵炎に対する CPN は CT ガイド下に行われていたが,最近では EUS ガイド下
CPN(EUS-CPN)の報告が増加している.EUS-CPN については 2 つのメタアナリシスの報告が
みられ,その有用性が明らかにされている 1, 2)
.6 文献 221 例の解析では腹痛の改善が 51.46%に
みられ 1)
,9 文献 376 例の解析でも 59.5%(95%CI 54.51〜64.30)に症状の改善を認めている 2)
.
慢性膵炎の腹痛に対する EUS-CPN に関しては,2 つの RCT が報告されている 3, 4)
.EUS-CPN
の 10 例と CT-CPN の 8 例の検討では,EUS-CPN のほうが腹痛スコアの変化率,腹痛スコアと
もに有意に優れていた 3)
.EUS-CPN の 27 例と X 線透視下 CPN の 29 例の検討でも,EUS-CPN
において有意に高い腹痛スコアの改善が認められた(70% vs. 30%,p=0.044)4)
.
一方,27 例の慢性膵炎に EUS-CPN を行った報告では,治療直後には 26 例(97.3%)で腹痛が
改善したが,12 週間後には 8 例(29.6%)に低下していた 4)
.単一の施設で 90 例の慢性膵炎に
EUS-CPN を行った前向き研究でも,治療直後には 55%に腹痛の軽減を認めたが,24 週間後に
は 10%に低下している 5)
.これらの報告のように,他の報告でも EUS-CPN は短期的には良好な
腹痛抑制効果を示すが,現在のところ長期的な効果は期待できない 1〜8)
.したがって,EUS-CPN
は患者本人にこの治療の現状を十分に説明し,同意のうえで施行すべき処置と考えられる.ま
た EUS-CPN は,現在日本では慢性膵炎の腹痛に対して保険適用はなく,臨床治験として行わ
れるべき処置である.
— 81 —
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3.治 療
文献
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トロール)
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Clinical Question 3-15
3.治療 ― ❸疼痛対策
外科的治療は内視鏡的治療(ESWL 併用を含む)が無効な腹痛
に有効か?
CQ 3-15 外科的治療は内視鏡的治療(ESWL 併用を含む)が無効な腹痛に有効
か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 外科的治療は内視鏡的膵管ステント留置が無効であった症例に対し
ても除痛効果を示すことが多く有用であり,行うことを提案する.
2
(100%)
B
解説
内視鏡的膵管ステント術は,低侵襲で除痛効果の高い治療法として,主として膵頭部主膵管
の狭窄を伴う慢性膵炎有痛例に対して広く行われている.しかし,腹痛のある主膵管閉塞を伴
う症例を,内視鏡的治療と外科的治療に分けて解析した RCT の結果では,除痛効果,体重増加
ともに 1 年後の短期成績では差はないものの,5 年後には両者とも外科的治療群のほうが有意
に良好であったことが報告されており 1)
,内視鏡的治療のみでは長期にわたって腹痛を制御する
ことはできないことが示されている.膵管ステント挿入例 96 例の長期経過観察中に,41%の症
例に手術(22 例)または再ステント挿入(17 例)が必要となり,除痛効果,体重増加,社会復帰
のすべてで,手術群が再ステント群より良好であったとの結果が報告されている 2)
.さらに,長
期観察を行った RCT によると,平均観察期間 79 ヵ月で,外科的治療を最初に施行した外科的
治療群では腹痛緩解率が 80%と内視鏡的治療群の 38%に比較して有意に良好で,内視鏡的治療
群では期間中に平均 8 回の治療を必要とし,そのうち約半数が観察期間中に外科的治療を施行
されていたと報告されている 3)
.
さらに,内視鏡的膵管ステント術を行い除痛が不十分であった 24 例に膵切除術(17 例)
,膵
管空腸側々吻合術(5 例)
,膿瘍ドレナージ術(2 例)を行い,そのうち 15 例(62.5%)に腹痛消失
を認めたとの報告があり 4)
,内視鏡的膵管ステント挿入術が無効であった症例における外科手術
の有効性も示されている.つまり,内視鏡的膵管ステント挿入術は膵管狭窄がある症例に限っ
ても長期成績には限界があり,外科的治療がそれらの症例にも有効であることが他の報告でも
示されている 5)
.
一方,術前の内視鏡的治療が手術成績に影響があるかどうかも検討されている.術前の膵管
ステントの有無が,膵管空腸側々吻合術 27 ヵ月後の遠隔成績に及ぼす影響を解析したところ,
術後合併症,除痛効果,活動度に差がなかったと報告されている 6)
.つまり,膵管ステント挿入
は膵管空腸側々吻合術の術前治療として問題なく行える結果であった.しかし,Frey 手術を行っ
た症例の解析結果で,術後感染性合併症発生に対して術前の内視鏡的膵管ステント挿入が有意
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3.治 療
な危険因子であることが示されている 7)
.この報告の感染性合併症の発生率は 39%と非常に高
く,安易な膵管ステント挿入を戒める結果である.膵管ステント挿入後の二次治療の必要性は
ステント挿入前の腹痛の程度と治療後のアルコール摂取に有意に相関していた 2)
.また,最近,
2 つの RCT,111 例の結果のメタアナリシスでも,膵管拡張を示す閉塞性膵炎では,除痛効果は
外科的治療が優れており,合併症発生率も差がなかったという 8)
.膵頭部実質の石灰化などステ
ント治療困難例に対しては,膵管ステント挿入は行わず,そのまま外科手術を考慮すべきである.
文献
1) Dite P, Ruzicka M, Zboril V, et al. A prospective, randomized trial comparing endoscopic and surgical
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pancreatic duct in patients with chronic pancreatitis. Gastroenterology 2011; 141: 1690-1695(ランダム)
4) Binmoeller KF, Jue P, Seifert H, et al. Endoscopic pancreatic stent drainage in chronic pancreatitis and a
dominant stricture: long-term results. Endoscopy 1995; 27: 638-644(ケースシリーズ)
5) Smits ME, Badiga SM, Rauws EA, et al. Long-term results of pancreatic stents in chronic pancreatitis. Gastrointest Endosc 1995; 42: 461-467(ケースシリーズ)
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Clinical Question 3-16
3.治療 ― ❸疼痛対策
膵管ドレナージ術は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ 3-16 膵管ドレナージ術は慢性膵炎の腹痛に有効か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 膵石などによる膵管狭窄,閉塞によって体尾部に膵管拡張を伴う症
例では,膵管空腸側々吻合術を行うことを提案する.
2
(100%)
B
● 膵頭部膵石などの膵頭部病変を伴う膵管拡張例の難治性腹痛には
Frey 手術を行うことを提案する.
2
(100%)
B
解説
慢性膵炎の難治性腹痛に対する膵の直達術式は,膵切除術と膵管ドレナージ術に大別される.
歴史的には,膵管ドレナージ術には,膵管空腸側々吻合術(longitudinal pancreaticojejunostomy:LPJ,Puestow-Gillesby 1)
,Partington-Rochelle 2))
,経十二指腸的膵管口形成術(Nardi)3)
,
尾側膵切除後に行う尾側膵管空腸吻合術(Du Val)4)などが膵管ドレナージ術として考案され,そ
の成績が報告されてきた 5〜22)
.そのまとめを表 1 に示す.
尾側膵管空腸吻合術(Du Val)の長期成績は,除痛率が 50%以下である.多くの症例が再手術
となっており,いまや行うべき手術ではない.また,経十二指腸的膵管口形成術(Nardi)は膵
管口付近に結石が集中しているような症例に選択されたが,今日ではそのような症例には内視
鏡的治療で十分に目的が達成されるので,行われることはまずない.
一方,LPJ は周術期合併症発生率は 10%までで,遠隔時の除痛率が 50%から 100%である.
Sakorafas らが 2001 年までの LPJ の報告をまとめた総説でも,LPJ 609 例の腹痛緩解率は 73%で
ある 23)
.最近の報告でも遠隔時の除痛効果も良好でかつ,QOL の改善効果も持続することが報
告されている.しかし,LPJ では膵頭部の分枝を含む膵頭部膵管のドレナージが不十分になる
ことが弱点である.膵管狭窄から主膵管拡張をきたした症例には膵管ドレナージ術のみで良好
な遠隔成績が得られるが,アルコール性膵炎など経過中に膵頭部の分枝膵管内に膵石を生じる
ような症例では遠隔期に腹痛が再燃することが報告されている.Frey は,この問題に対して LPJ
に膵頭部のくり抜きを追加する Frey 手術を考案し 24)
,LPJ の改良術式として広く行われるよう
,
になっている.その長期成績の報告を表 2 に示す 25〜31)
(J
Gastrointest Surg 2012; 16: 1362-1369 a)
[検索期間外文献]
)
.Frey 手術は遠隔時でも,ほとんどの報告で 90%の症例で腹痛が完全に消
失するという良好な成績を示している.
また,最近では,腹腔鏡下で行う試みもなされているが,いまだ一般的ではない.
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3.治 療
表 1 膵管ドレナージ術の術後成績報告例
報告者
報告年 例数
術式
観察期間
腹痛緩解 術死 合併症 文献
率(%) (%) (%) No.
Printz ら
1981
96
LPJ
7.9 年
80%
2%
22%
5
Taylor ら
1981
20
LPJ
5年
50%
0
36%
6
Hart ら
1983
75
LPJ
4年
63%
4%
25%
7
Brington ら
1984
39
LPJ
2 ∼ 15 年
85%
−
−
8
Cooper ら
1984
15
LPJ,Nardi
−
93%
−
−
9
Morrow ら
1984
46
LPJ
6.6 年
80%
2%
10
Holmberg ら 1985
51
LPJ
8.2 年
72%
0
−
11
6 ヵ月
100%
−
−
12
−
9%
13
90%
4%
23%
14
82%
3%
40%
13%
−
15
52 ヵ月
91%
7%
54%
16
5.2 年
74%
−
10%
17
18
Sato ら
1986
Bradley ら
1987
Drake ら
1989
Greenlee ら
1990
Denton ら
1992
Hakaim ら
1994
47
LPJ
46
LPJ
18
Du Val
23
LPJ
86
LPJ
5
Du Val
13
LPJ
23
LPJ
5
Nardi
69 ヵ月
5年
7.9 年
66%
33%
Lucas ら
1999 118 LPJ,Du Val
3年
82%
−
−
Sakorafas
2000 120
LPJ
7.7 年
81%
−
8%
19
Kinoshita ら
2002
29
LPJ
不明
97%
0
27%
20
黒田ら
1991
26
LPJ
6 ヵ月
81%
−
−
21
及川ら
1992
7
LPJ
1 年以上
100%
−
−
22
表 2 Frey 手術の成績
報告者
報告年 例数 観察期間
腹痛緩解 術死 合併症 文献
率(%) (%) (%) No.
Frey & Amikura
1994
50
3.1 年
87%
0%
22%
25
Izbicki ら
1995
22
1.4 年
94%
0%
9%
26
Amikura ら
1997
11
3.2 年
90%
−
18.2%
27
Izbicki ら
1998
31
2年
90%
3.2%
19%
28
Kelemen ら
2002
13
1.7 年
57%
0%
0%
29
Falconi ら
2006
40
5年
89%
0%
7.5%
30
Egawa ら
2010
71
3.8 年
87%
0%
18.4%
31
Roch ら
2012
44
4.3 年
68%
0%
25%
a
文献
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③疼痛対策
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【検索期間外文献】
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Clinical Question 3-17
3.治療 ― ❸疼痛対策
膵切除術は慢性膵炎の腹痛に有効か?
CQ 3-17 膵切除術は慢性膵炎の腹痛に有効か?
推奨の強さ エビデンス
レベル
(合意率)
ステートメント
● 病変が膵尾側に限局している場合には尾側膵切除術を行うことを提
案する.
2
(100%)
C
● 膵管拡張がなく膵頭部病変が存在する症例の難治性腹痛に対して
は,十二指腸温存膵頭切除術や膵頭十二指腸切除術を行うことを提
案する.
2
(100%)
C
● 膵頭部を中心とする病変で悪性腫瘍に起因すると考えられる所見が
認められる場合は,PD または PPPD などの悪性腫瘍に準じた膵
頭切除術を行うことを推奨する.
1
(100%)
B
解説
従来は,膵管拡張を伴う症例には膵管ドレナージ術が行われ,膵管拡張を伴わない症例には
膵切除術が選択されてきた.慢性膵炎の難治性腹痛に対する膵切除術としては,尾側膵切除術
(distal pancreatectomy:DP)
,膵頭十二指腸切除術(pancreatoduodenectomy:PD)と膵全摘
術(total pancreatectomy:TP)があげられ,膵石や膵の腫大などの病変の存在部位により,膵切
除の部位が規定され術式が選択されてきた.さらに,標準術式として胃の幽門側を切除する PD
に対して,術後の消化管ホルモンなどの温存を期待して全胃と幽門輪を温存する全胃幽門輪温
存膵頭十二指腸切除術(pyrolus-preserving pancreatoduodenectomy:PPPD)が行われており,
PD,PPPD,DP,TP が慢性膵炎に対する膵切除術の標準的術式となってきた.そのうち,TP
の適応の是非については後述する.
PD と PPPD の成績に関する報告を表 1 1〜9)にまとめた.術死率は 5%以下で,周術期合併症
発生率は 15%から 32%である.ほとんどが 3 年以上の観察期間で,腹痛緩和効果は 54%から
92%の症例にみられた.
一方,DP の成績は表 2
に示すように,術死率は 5%以下で,周術期合併症発生率は
1, 7〜14)
12%から 32%である.すべて 3 年以上の観察期間で,腹痛の緩和効果は 57%から 90%の症例に
認められた.この結果からは,どちらの術式も大差ないようにみえるが,同一施設からの報告
でも,それぞれの術式の遠隔期の除痛効果には差がある.たとえば,2001 年の Nealon らの報
告では,PD/PPPD の除痛率が 91%であるのに対し,DP は 67%である 8)
.しかし,同時期の
Heise らの報告では,PPPD の除痛率が 54%であるのに対し,DP は 89%でまったく逆の結果で
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③疼痛対策
表 1 膵頭十二指腸切除のまとめ(DPPHR を除く)
報告者
報告年 例数
Williamson ら 1987
術式
観察期間
腹痛
周術期
緩解率 致死率
合併症
発生率
文献
No.
6
PPPD
4.5 年
83%
0%
−
1
Stone ら
1988
15
PD
6.2 年
70%
0%
20%
2
Martin ら
1996
45
PPPD
5.3 年
92%
4%
29%
3
7
PD
45
PPPD
4.5 年
80%
0%
15%
4
8.3 年
66%
0.7
16.4%
5
3.5 年
76%
0
−
6
7.7 年
89%
3%
32%
7
Stapleton ら
1997
Rumstedt ら
1997 134
Traverso ら
1997
Sakorafas ら 2000
PD
4
PD
53
PPPD
72
PD
33
PPPD
Nealon ら
2001
46
PPPD
6.8 年
91%
0%
27%
8
Heise ら
2001
41
PPPD
5.2 年
54%
4.8%*
−
9
*
:他の術式も含めて
表 2 尾側膵切除術のまとめ
報告者
報告年 例数
膵切除量
腹痛 周術期
観察期間
(%)
緩解率 致死率
合併症 文献
発生率 No
Williamson ら
1987
16
−
4.5 年
66%
0%
−
1
Keith ら
1989
32
80
4年
90%
3%
12.5%
10
Sawyer ら
1994
17
50∼ 60
6.2 年
70%
0%
20%
11
Rattner ら
1996
20
−
1∼4 年
70%
−
−
12
Sakorafas ら
2000 102
−
7.7 年
80%
1%
10%
7
Nealon ら
2001
29
−
6.8 年
67%
0%
15%
8
Heise ら
2001
41
−
5.2 年
89%
4.8%*
−
9
Sakorafas ら
2001
40
−
6.7 年
81%
0%
15%
13
Hutchins ら
2002
90
10∼ 90
2.8 年
57%
1%
32%
14
*
:他の術式も含めて
ある 9)
.ただし,Heise らは除痛効果には,術式間で差がないと結論している.この違いは,患
者背景の差と手術適応の選択基準の違いに起因すると考えられる.Sawyer らは,膵管径 5 mm
以下で膵病変が膵体尾部に限局している場合と膵頭部に病変が及ぶ場合では DP 術後の成績に
有意差があり,DP は病変が膵体尾部に限局している場合には適応があると結論している 11)
.ま
た,Howard らは膵管閉塞が病因となった閉塞性膵炎に限って検討した結果,閉塞部より尾側
の膵を切除する DP が,膵頭切除よりもよい成績を示したことを報告している 15)
.
これに対して,膵頭切除で良好な成績をあげている報告では,手術の理由が悪性腫瘍の疑い
の頻度が高く,術前の有腹痛率が低いことも報告されている 16)
.これらの成績を総合すると,
慢性膵炎における膵切除術は,一定の腹痛除去効果を示すが,2〜3 割の症例では腹痛が再燃す
ると考えられる.ただし,閉塞性膵炎で病変が膵尾部に限定している場合には DP が良好な除
痛効果を示す.
一方,膵切除術には膵組織の絶対量の減少から膵内外分泌機能脱落が避けられず,24%から
77%の症例で術後に新たな内分泌障害が発生することが報告されている.さらに,PD や PPPD
では術後代謝障害の発生には十二指腸切除が影響しているとの考えから,Beger が考案した十二
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3.治 療
表 3 DPPHR の治療成績
報告者
報告年 例数 観察期間
腹痛
緩解率
周術期 合併症
致死率 発生率
文献
No
Izbicki ら
1995
20
1.5 年
95%
0%
20%
18
Ikenaga ら
1995
41
3年
92%
0%
27%
19
Buchler ら
1997 298
6年
88%
1%
28%
20
Beger ら
1999 338
5.7 年
91.3%
0.8%
−
21
指腸温存膵頭切除術(duodenum-preserving pancreas head resection:DPPHR,Beger 手術)17)
が PD,PPPD に代わる膵頭切除術式として臨床応用されている.その成績を表 3 18〜21)に示す.
ほぼ 90%近い腹痛緩和率が達成されている.
さらに,PD/PPPD と DPPHR を比較した複数の RCT が行われており,Buchler らは DPPHR
で有意に除痛率,体重増加率が高く,内分泌障害の頻度が有意に低かったと報告し 22)
,Muller
らは DPPHR が PPPD よりも胃内容排出遅延の発生が有意に低かったと報告している 23)
.一方,
Howard らは Beger 手術と Frey 手術を合わせた十二指腸温存術式と PPPD を比較解析し,両群
間で差が認められたのは入院経費が前者で有意に低かったのみで,短期/長期の腹痛緩解率や長
期の医療費には差がなかったと述べている 24)
.また,最近では術後 5 年における腹痛や QOL を
PD と DPPHR で比較した成績が報告されており,DPPHR が有意差をもって優れていたのは,
腹痛と QOL の主観的評価であり,客観的には有意差はなかったという 25)
.したがって,随伴す
る膵頭部病変に悪性腫瘍の可能性が否定できないときは,躊躇なく PPPD または PD を行うべ
きである.
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③疼痛対策
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