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救急で利用する遠隔画像診断

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救急で利用する遠隔画像診断
●特集2●
救急救命の画像診断
●特集2●
救急救命の画像診断
救急で利用する遠隔画像診断
株式会社ドクターネット
佐藤俊彦
はじめに
『FLEX-VIEW』は、Citrix社製の『MetaFrame』
アプリケーションと弊社の『Dr-PACS』を介して
夜間救急の現場では、放射線科医が診断のため
データ配信するシステムで、ユーザである放射線
にわざわざ車で病院に向かうこともしばしばであ
科医はクライアント端末からコマンドだけを送る
ったが、現在では医師不足から非現実的な状況に
仕組みになっている。サーバ側の仮想化技術によ
なっている。米国での歴史をみると、遠隔画像診
ってリモートからサーバ内の画像データおよびア
断は off-time reading のための基幹インフラとし
プリケーションを共有し、画像データの転送なし
て発展してきた要素が大きく、救急・週末・常勤
に表示できるため、高速で、その上 narrow band
放射線科医のバックアップのために用いられてき
回線でも快適な作業環境を実現する(図 1)
。セキ
た。すでにそれを目的とした会社(Virtual Radio­
ュリテイ面でも、ソフトウェア VPN と仮想化に
logic 社、Night-Hawk Radiology Service 社)が上
よる圧縮技術により、データの漏洩や他の侵入を
場している。一方日本では、救急の現場で積極的
強固に防衛する仕組みになっている(図 2)
。電子
に遠隔診断を導入しようという動き自体が始まっ
カルテなどの上位システムも、
『MetaFrame』に
たばかりといえよう。ここでは弊社が進めている
対応することで臨床情報の共有化もできるシステ
救急医療の現場における遠隔画像診断の状況を解
ムが理想形である。弊社の実験では、2Mbps 以
説する。
上の回線であれば院内の LAN 環境とまったく遜
色ない使用感覚である。また、導入いただいてい
ネットワークインフラと基幹技術
救急の現場での運用は、担当医師が直接画像を
る済生会宇都宮病院放射線科の本多正徳先生の環
境では、0.7Mbps 程度の回線でもご使用いただけ
ると評価されている。
見ながら放射線科医とディスカッションするタイ
プと、処置をしている間にすばやくレポートを返
してもらうタイプの2 つに大別される。前者では、
図 1 『FLEX-VIEW』の
配信技術について
配信技術にソフトウェア VPN
回 線 を 使 用 し、Citrix 社 の
『MetaFrame』 ア プ リ ケ ー シ
ョンによりサーバの仮想化を実
施する。リモートに転送するこ
となしに数千枚の DICOM 画像
をサーバのアプリケーションを
使用して表示し、解析すること
が可能となる。ネットワーク回
線が narrow band ですむこと
も大きなメリットである。
図2 『FLEX-VIEW』システ
ム概要
放 射 線 科 医 は、 自 身 の PC の
Internet-Explorer から固有の
URL にアクセスしてログイン
画面を通過する。この際のセキ
ュリテイは、生体認証やパスワ
ードなど種々のアプリケーショ
ンを併用可能である。通過する
と権限の与えられたアプリケー
ションが表示されるので、そこ
からは通常の読影環境が提供さ
れる。
導入事例
ViewSend社の『ViewSend RAD』のようなシステ
1)大分大学発 VB:オフィス ラジオロジスト
ムが初期には考えられていたが、実際の医療現場
モデル(図 3)
能となり、日中だけでなく夜間の緊急読影にも利
は、これまで実施していた放射線科医の外科系当
で 2 人の専門医がモニタの前でディスカッション
2009 年 1 月末現在で、大分大学放射線科(森宣
用されている。2009 年 2 月にオープンした大分先
直を廃止する代わりに、放射線科医による在宅で
するような場面はごくわずかと考えられ、またほ
教授)の関連施設20 ヵ所に『Dr-PACS』が導入さ
端画像診断センターにもこのシステムが導入され
の救急画像診断が実施されている。そのシステム
とんどが後者の利用スタイルであることから、①
れている。画像は CT の 1mm スライスの画像も
ており、フィルムレス環境で提携医療機関に
として採用されたのが『FLEX-VIEW』である。
画像の読影依頼がすばやく行える、②どこにいて
すべて宇都宮の弊社トランザクションサーバに一
PET/CTや 3T MRIの画像とレポートを迅速に返
院外の放射線科医が既存の富士通社製 PACS か
もどのようなネットワーク環境でも迅速で快適な
時保管され、必要に応じて画像解析や MPR 処理
す仕組みとしても使用されている。
ら『Dr-PACS』および『FLEX-VIEW』を介してア
読影ができる、③アプリケーションを持ち歩かな
で読影に使用する。読影用の画像も同時に転送さ
図 4 に 100 歳女性を救命した例を紹介する。
クセスし、画像診断とレポートを電子的に返却で
くても読影可能である、ということを前提として
れ、
『FLEX-VIEW』で配信される仕組みになって
2)済生会宇都宮病院の宅直読影モデル(図 5)
きるシステムである。院内にいる救命救急の医師
構築した。それが弊社の『FLEX-VIEW』である。
いる。これにより医局員はどこにいても読影が可
済生会宇都宮病院放射線科 本多先生の医局で
も、
『FLEX-VIEW』にアクセスしてレポートや画
1
映像情報メディカル 2009年4月
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救急救命の画像診断
図 3 導入事例①大分大学遠隔読影
(オフィスラジオロジスト)モデル
大学発ベンチャーを大学の医局員全員
で運営するモデルでは、100% IT 化す
るモデルで効率化しないと永続的な運
営は困難である。しかも、簡単な操作
で初期投資費用もかからないモデルで
あることが経営リスクを低減する。ま
た、メンテナンスを当社ですべて実施
することでコスト低減とダウンタイム
の短縮が可能となっている。当社は遠
隔診断のプロバイダとしての役割を分
担している。
100 歳の命救う 大動脈瘤破裂開胸せず ステントグラフト治療
大分大学病院で十日、胸部下(か)行(こう)大動脈瘤(りゅ
う)破裂の百歳の女性に、「ステ
ントグラフト治療」が行われた。
経過は良好で、女性は十六日に
他の病院に転院した。通常の開
胸手術ができない百歳の大動脈
瘤破裂が、体に与える影響の少
ない、新しい治療法のステント
グラフト治療で救命できたわけ
転院する河野さんに話し掛ける
で、朗報。百歳の患者のステン 宮本准教授=大分大学病院
トグラフト治療は、全国でも例
がないのではないかとみられている。
患者は竹田市久住町の河野キクさん。河野さんは吐血で八
日、近くの病院に入院、検査で胸部下行大動脈瘤の食道穿(せ
ん)破(ぱ)と診断された。十日朝、大分大学病院に緊急搬送
され、ただちに心臓血管外科の宮本伸二准教授、放射線科の
本郷哲央助教らの「ステントグラフト血管内治療チーム」が治
療を行った。
足の付け根の動脈からカテーテル(細い管)を介してステン
トグラフトを挿入、大動脈瘤の部位でステントグラフトを展
開させて、治療を終わった。瘤はそれほど大きくはなかったが、
瘤が食道内に破裂(穿破)していた。
河野さんは術後三日目には、車いすで散歩ができるまでに
回復。十六日に先に入院していた病院に転院した。
「河野さんはまれな血液型で、その点からもステントグラフ
ト治療以外では救命できなかったと思う」と宮本准教授。河野
さんに付き添っていた娘の平井広子さん(71)=大分市=は「こ
れだけしていただいた先生に感謝しています。少しでも長く
生きてもらえればと願っています」と語っていた。
大分大学病院のステントグラフト治療は昨年二月から開始、
これまでの症例は五十六例に達している。
ステントグラフト
ステントと呼ばれる金属性の編み目状の管と、グラフトと
呼ばれる人工血管を組み合わせたもの。開胸して大動脈瘤を
切除し、人工血管に置き換える手術に比べると、ステントグ
ラフト治療は、開胸せずに足の付け根の動脈に小切開を加え
るだけでできる治療で、患者の負担が少なく、合併症の発生
率が少ないのが特徴とされている。
図 5 導入事例②済生会宇都
宮病院の宅直読影モデル
救急の現場の放射線技師が病院
の院内PACSおよび『Dr-PACS』
に緊急読影が必要なものを同時
登録すると、
『Dr-PACS』から自
動的に『FLEX-VIEW』に DICOM
画像が転送され、配信準備が実
施される。読影医師はインター
ネット環境さえあればどこから
でもアクセスでき、海外の出張
先で読影することも可能である。
。
図 6a 図 6b 図 6c
図 6 遠隔画像診断が有効であった症例(済生会宇都宮病院 本多正徳先生ご提供)
a:単純 CT b:動脈相 CT c:平衡相 CT
Groove pancreatitis:十二指腸下行脚と膵頭部・総胆管との間隙を groove とよび、この領域に発生した膵炎で、大
酒家の男性に好発する傾向がある。炎症の波及により十二指腸狭窄や総胆管の狭窄を生じ、膵頭部癌、胆管癌、十二指
腸癌との鑑別が困難な場合がある。膵頭部へ炎症が波及すれば主膵管の狭小化をきたし得るため、膵癌との鑑別が困難
なこともある。本例のようにアミラーゼが正常値である場合は画像診断が決め手となることから、画像診断医の果たす
役割は大きいと思われる。
図 4 遠隔読影の救命例(100 歳女性)
2008 年 1 月初めに大分大学附属病院で行われた 100 歳女性の胸部大動脈瘤手術は、入院していた救急病院から CT 画
像を送信、オフィスラジオロジストの友成先生が遠隔読影を行って大学病院に救急搬送された。女性が到着するころに
は診断と手術の準備がすべて完了しており、迅速な治療によって救命することができた。
画像診断となり、データを転送するシステムでは
内 視 鏡 評 価 を recommend し た。 診 断 は Groove
読影するまでに時間がかかり、無理が生じる。
pancreatitis で、血清アミラーゼの上昇はなく軽
図 6 に突然の臍周囲の痛みを主訴に救急搬送さ
度の炎症所見のみであり、画像診断医の関与がな
れた 40 代男性の症例を呈示する。患者は過去に
ければ救急での診断には至らなかった可能性が考
急 性 膵 炎 の 既 往 が あ る。WBC 9,700(3,500 〜
えられる症例である。
3)宇都宮セントラルクリニックにおける地域連
像を参照できる。現在、7 〜 8 件 / 一晩の CT およ
VIEW』経由で画像診断を行い、レポートを発行
8,500)
、CRP 1.1mg/dL(0.3 未満)
、amylase 76U/L
び MRI の診断を実施、休日には 10 件程度の読影
するが、場合によっては電話カンファランスにな
(37 〜 125)
。膵頭部と十二指腸 second portion の
を実施しており、基本的には24 時間365 日をカバ
ることもあり、同時にアクセスして画像を参照す
間に濃度上昇域がみられる。
宇都宮セントラルクリニックは斉藤友雄院長が
ーしている。
る場合もある。
十二指腸潰瘍など粘膜病変による変化との鑑別
中心となる画像診断センターであるが、院長の休
運用方法を紹介する。まず、救命救急医が放射
外傷の撮影プロトコルは頭部〜胸腹部までを
はむずかしいが、比較的 groove に限局した炎症
日には、緊急読影や他院からの至急読影依頼に対
線科医の携帯電話に電話をかけて読影を依頼す
7mmスライス厚で撮影するが、dynamic+delayed
性変化と考えられ、また過去に膵炎の既往もある
して『FLEX-VIEW』を利用した緊急の画像診断
る。放射線科医は自宅からログインして『FLEX-
image の撮影を実施するため約 1,000 スライスの
ことから groove pancreatitis を CT上第 1 に疑い、
を実施している。同時にフィルムレス加算を採用
3
映像情報メディカル 2009年4月
携モデル(図 7)
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救急救命の画像診断
図 8 2008 中国重慶市 IT 産業(東京)投資環境説明
会 調印式
図 7 導入事例③宇都宮セントラルクリ
ニック地域連携モデル(地域連携+緊急
読影ネットワーク)
。
2008 年 4 月の診療報酬改正でフィルムレ
ス加算が 2 倍に増点されたことで、フィル
ムで画像診断結果を他院に返却していたも
のを『FLEX-VIEW』によるネットワーク配
信に変更し、郵送によるタイムラグをなく
し経費も削減できた。緊急読影もこの回線
を使用することで、院長によるタイムリー
な読影が可能となった。
王鴻挙・重慶市人民政府市長を団長とする重慶市代表訪日
団が日本に派遣され、11 月 17 日に東京(グランドプリ
ンスホテル赤坂)にて「2008 中国重慶市 IT 産業(東京)
投資環境説明会」が開催され、重慶市信産局、重慶西永微
電園、新高和株式会社、当社の 4 者で調印式が行われた。
調印の趣旨は、中国で日本の遠隔ビジネスを重慶政府機関
や中国のソフトウェア開発会社と協力して立ち上げること
である。
※重慶市 IT 産業振興:重慶市政府と西永微電園からの要請によ
り、重慶ハイテクパークに弊社のトランザクションセンター
および開発センターを移転するプロジェクトに調印した。日
本の時間外読影だけでなく、中国国内の医療機関の IT 化およ
び遠隔画像診断・画像診断センターのネットワーク構築を実施する予定である。
※重慶市信産局/重慶情報産業局は政府機関、重慶西永微電園とは重慶西永マイクロエレクトロニクス産業パーク、重慶市の巨大な
工業地帯(産学一体)の管理会社である。
したため、他院からの画像診断依頼に対して、従
めアジアの画像診断センターの拠点を作るという
来はフィルムと紙レポートを返却していたものを
プロジェクトを発足させ、その調印式が行われた
『FLEX-VIEW』による連携に変更した。これによ
(図 8)
。政府主導で日本の医師免許を中国人医師
り郵送の手間と時間が省け、迅速な結果返答と経
に取得させることを奨励し、かつ放射線科医とし
費節減が可能となった。現在、提携医療機関 40
ての専門トレーニングも実施する予定である。日
ヵ所で連携を実施している。特に PET/CT では、
本の放射線科医の不足は改善の見込みはなく、退
fusion ソフトをインストールしなくても自分で
職者の増加や新入医局員の不足という恒常的な供
fusion できることから、独協医大のアレルギー内
給不足に対する画像数の急速な増加というアンバ
科医局との連携も構築している。治療前後の
ランスを解消できずにいる。したがって、遠隔診
SUV の実測や治療シミュレーションやカンファ
断のインフラを使った off-shore reading の体制作
ランスに役立っている。
りは急務といえる。
インプラントシミュレーションでは、CT 撮影
24 時間対応の緊急読影を可能とするために、
後のインプラント解析した結果を『FLEX-VIEW』
まず弊社トランザクションセンターの夜間分を中
で配信することで、フリーランス歯科医(歯科医
国に移管し、日本だけでなく中国国内のトランザ
院に出張してインプラントの OPE だけ実施する
クションセンター機能を整備する。豊富な人材と
に拡大する。
とで、日本の医師不足解消のためのひとつのソリ
歯科医)がインターネット経由で利用している。
IT 技術者を配置し、アジア最大規模のトランザ
少子高齢化で内需産業が衰退するなか、これか
ューションとなるのではないかと期待している。
クションセンターを構築し、まず日本の健診読影
らの日本は医療を海外に向けた産業としていかな
から整備し、日本の医師免許をもつ医師が充足し
ければ新しい技術革新に乗り遅れ、医療レベルが
たころに臨床の救急画像診断ができる体制を構築
低下するばかりでなく、優秀な医師の流出が止ま
救急の画像診断の提供で重要なのは、快適な遠
する。図 9 に統合(統一)例を紹介する。重慶で
らなくなると思われる。早いうちに海外拠点を整
弊社の救急における画像診断の『FLEX-VIEW』
隔診断ネットワークと十分な放射線科医のリクル
の事業化後 3 年以内に日本のトランザクションセ
備し、外国人に対する医療システムの提供を原資
を中心としたシステム、導入事例、また近い将来
ートであると思う。米国の off-time reading や off-
ンターを重慶に統合し、アジア最大の読影センタ
に国内医療機関の整備を実施する必要があろう。
24 時間のトランザクションセンターが必要とさ
shore reading の状況をみる限り、海外との連携
ーとする計画である。アジア初の24 時間365 日の
画像診断は世界共通語のはずである。
れることから、海外との連携を含めた構想をまと
は不可欠である。昨年11 月7 日に重慶市政府と遠
読影体制を作り、将来的にはアジアの読影だけで
ビザの問題などで両国の人材の交流は困難とな
めた。近い将来、救急画像診断は遠隔診断で海外
隔診断センターを中国で展開し、人材の教育を含
なく、世界への遠隔読影ネットワーク構築も視野
っているが、この仕組みを両国政府が支援するこ
に依存する仕組みができあがるものと確信する。
弊社の将来戦略と中国進出
5
映像情報メディカル 2009年4月
図 9 Off-shore reading 体制の構築(イメージ図)
日本・中国トランザクションセンター統合(統一)例。
まとめ
Vol.41 No.4
6
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