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モバイルウェブアプリケーションのための グラフィックパスワードの実装と
A03-10 1 「エンタープライズセキュリティのためのシステム基盤ソフトウエアの研究」 モバイルウェブアプリケーションのための グラフィックパスワードの実装と応用 平石 広典,溝口 文雄 東京理科大学 情報メディアセンター 概要 本研究では、携帯端末、特に携帯電話のためのグラフィックパスワードに ついて述べる。グラフィックパスワードは、予め登録された絵を選択する だけで認証を行うことが可能であり、キーボードを持たない携帯端末向 きの認証方式である。しかしながら、文字のパスワードよりも、組み合 わせが少なくなり単純化してしまうため、認証の強度に問題がある。本 研究では、ユーザ ID とパスワードの認証やワンタイムパスワードを組み 合わせた多重認証を行うことで、認証の強度を保ちつつグラフィックパス ワードを実現する方法を提案し、具体的な携帯電話用の肌診断サービス Skin-Expert に応用した。 1 はじめに を説明する。携帯電話のカメラを利用して肌の画像 を撮影し、その画像を E-mail に添付して画像解析 現在、様々なタイプの携帯端末が登場しており、 サーバに送信する。解析結果もまた、携帯電話のウェ パーソナルコンピュータの代わりとして日常的に利 ブブラウザを利用して見ることが可能である。 用されている。特に、携帯電話の進化は顕著であり、 E-mail の送受信、ホームページのブラウジング、デ グラフィックパスワードにおいて絵を選択すること は、PIN の認証のように数字を選択することと同等 ジタルカメラとして写真を撮ることが可能である。そ である。しかしながら、我々のグラフィックパスワー して、携帯電話用の多くのウェブコンテンツ(サー ドでは、ブックマークとして登録可能なユーザ ID と ビス)が次々と登場している。 PDA や携帯電話のような携帯端末は、当然のこと ながら小さい。そのため、ある目的のために利用す るには、時として困難な場合がある。特に、物理的な キーボートを持たないため、文字の入力は一般のパー ソナルコンピュータに比べて非常に困難である。一 般に、ウェブサービスにログインする場合には、ユー ザ ID とパスワードを入力する必要があるが、本研究 パスワード認証や、ワンタイムパスワードを組み合 わせた多重認証を行うことで、少ない組み合わせで あっても、認証の強度を低下させることはない。 次の章では、まず、我々の肌診断サービス Skin- Expert について紹介し、第 3 章で、グラフィックパ スワードについて記述する。第 4 章では、グラフィッ クパスワードの多重認証について説明し、第 5 章で まとめる。 では携帯端末用のウェブサービス(モバイルウェブア プリケーション)にログインするためのグラフィック パスワードを設計、実装した。グラフィックパスワー ドは、文字のパスワードとは異なり、予め設定して 2 肌診断サービス Skin-Expert おいた絵を選択することで認証を行うものである。 我々の肌診断サービス Skin-Expert は、化粧品会 本論文では、我々の 行っている肌診断サービス 社における訪問販売のための販売サポートツールと (Skin-Expert)を通じて、グラフィックパスワード して開発した。現在、化粧品会社で実施されている A03-10 2 図 1: 肌診断サービス Skin-Expert 肌診断は肌を撮影するための特別なカメラを利用し、 シワの太さ、キメの細かさなどといった診断結果を 専門家の目によって診断がなされているのが現状で 参照したり、ユーザの肌の状態に適した化粧品を参 ある。我々のサービスでは、データマイニングで得 照するすることができる [1]。 られたルールに基づいて、自動的に肌の診断を行う ものである。そして、日常的に利用されているカメ ラ付き携帯電話を利用する。我々のサービスは、特 別なカメラやハードウエアを必要としない点に特徴 がある。 3 グラフィックパスワード 図 2 には、Skin-Expert におけるグラフィックパス ワードの流れを示した。サービスページにアクセス 図 1 には、Skin-Expert の流れを示した。携帯電話 する際には、最初に図 2 上のような 9 つの絵文字が のカメラを利用して、皮膚の接写画像(JPEG 画像) 置かれたページが表示される。この中で、予め設定 を撮影し、撮影された肌画像は、携帯電話の E-mail しておいた絵文字を順番にクリックすることで認証 機能を利用して、画像解析サーバに送信する。その が行われる。一つの絵文字をクリックすると、新た 際に、ワンタイムパスワードを必要とする。ワンタ にページが表示され、ページ内の絵文字の並びはラ イムパスワードを取得するためには、携帯電話のウェ ンダムに変更される。そして、予め設定した順番に、 ブブラウザを利用して、サービスページにログイン 絵文字を選択できれば認証に成功し、図 2 左下のよ する必要があり、そのために、グラフィックパスワー うなサービスページが表示される。また、認証に失 ドを利用する。撮影された肌の画像は、メールに添 敗すると図 2 右下のようなエラーメッセージが表示 付され、メールのボディー部には、サービスページ される。 から得られたワンタイムパスワードや、被験者の名 ここで、グラフィックパスワードでは、人によって 前や性別、年齢などが記述され、解析サーバに送信 印象が異なる幾何学模様を利用したり、本人しか知 される。肌画像の解析が終了(約一分)すると、解 らないような友人の顔の写真などを利用する方が望 析が終了したことを通知するメールが携帯電話に返 ましい [3]。しかしながら、現在の携帯電話における 信される。ユーザは、再度グラフィックパスワードに メモリ容量の制限から、いくつかの画像を同時に表 よって、サービスページにログインし、毛穴の数や、 示することが難しく、絵文字を採用している。 A03-10 3 の送信など)には、ワンタイムパスワードを利用し ている。 4.1 ユーザ ID とパスワードによる認証 サービスページにログインする際に、まず最初に ユーザ名とパスワードによる認証を行う。図 3 には、 ログイン画面とそのホームページの記述を示した。こ のログイン画面のユーザ ID とパスワードの欄にそれ ぞれ文字を入力することでログインを行い、ユーザ ID とパスワードの認証に成功すると図 2 上に示した グラフィック認証の画面が表示される。このユーザ ID とパスワードの認証は、単に、ログインを制限す るだけではなく、どのユーザであるかを特定するこ とが可能であり、そのユーザがグラフィック認証のた めに、どの絵文字を登録しているかを理解するため のものでもある。 図 2: グラフィックパスワード 絵文字を選択するごとに表示させる並びを変更し ているのは、選択する絵文字を場所で特定させない ための工夫であり、認証中に、他人に横から画面を みられた場合に、どの場所をクリックしたのかを特 定できないようにするためである。 また、認証が失敗した場合に、メッセージを表示 するタイミングはランダムである。一つ目の絵文字 図 3: ユーザ ID とパスワード認証の画面と記述 の選択で間違っていても、すぐにエラーメッセージ を表示させず、また、三つの絵文字が設定されてい た場合に、3回目の後にエラーメッセージを出力す ここで、ログイン画面のホームページは、“form” ることもしない。これによって、いくつの絵文字が タグを利用して、“certify.jsp” に対して、引数とし 設定されているのかを他人に知られないように工夫 している。 4 多重認証方式 て、“userid” と “passwd” を与えるような記述であ る。つまり、図 3 左のようなログイン画面で、ユーザ ID とパスワードを毎回入力するのではなく、以下の ような URL をブックマークに保存しておくことで、 ログイン画面を飛ばして、グラフィック認証の画面を 直接表示させることが可能である。 我々のグラフィックパスワードでは、3 つの認証方 式を採用している。最初にユーザ ID とパスワードに よる認証を行い、その後で、グラフィック認証を行 う。さらに、実際のサービスを受ける場合(肌画像 http://skin.com/certify.jsp?userid=" ユーザ ID"&passwd=" パスワード" A03-10 4.2 4 グラフィック認証 一部である。 上述のユーザ ID とパスワードの認証に成功すると ... <a href="make-request.jsp 図 2 上のようなグラフィック認証の画面に移る。ユー ザ ID によって、予めそのユーザが登録した絵文字の ?session=A3f2830"> 診断要求</a> <br> <a href="result.jsp 並びとクリックされた絵文字を比較することで認証 が行われる。 4.3 ?session=A3f2830"> 最新の診断結果</a> ... ワンタイムパスワード 実際のサービスを受ける際には、ワンタイムパス 各々のサービスを受けるためのリンクには “?ses- ワードが要求される。我々の Skin-Expert において sion=A3f283” として、ワンタイムパスワードを与 は、撮影された肌画像を画像解析サーバに送信する えている。このワンタイムパスワードにおいても、 際に利用される。 上述のメールの送信の記述同様に、ユーザ ID とパス ワードを生成した時刻が関連付けられており、シス テム側は、ワンタイムパスワードをチェックすること で、移動してきたユーザがどのユーザであるかを特 定し、ある一定時間、ページの移動がない場合には、 タイムアウトとなり、自動的にログアウトさせるこ とができる。 一般にユーザ ID とパスワードをリンクの引数とし て与えることも可能であるが、その場合、常にネッ 図 4: 画像送信のためのワンタイムパスワード トワーク上をパスワードが流れてしまうことや、ロ グイン画面を飛ばして、ユーザが直接サービスペー 図 4 の ペ ー ジ の「 送 信 す る 」と いった リ ン ク は “mailto” を 利 用 し て メ ー ル ソ フ ト を 起 動 さ せ る も の で あ る 。こ の リ ン ク の 記 述 の 中 の ジにアクセスすることが可能となってしまい、現実 のサービス向きではない。本方式では、必ずログイ ンすることによって、ワンタイムパスワードを取得 しなければ、各のサービスを利用することができな “body=PASSWD:A3f2823” がワンタイムパスワー いようにしている。また、一般にセッションの管理 ドである。このリンクをクリック すると自動的に では、ブラウザの Cookie を利用するケースが多い メールソフトが起動し、同時に、メールのボディー が、携帯電話のブラウザでは、Cookie に対応してお 部分に、“PASSWD:A3f2823” といった記述が自動 らず、このワンタイムパスワードによるセッション 的に付加される。 管理が有効である。 このワンタイムパスワードはランダムに生成され た値であり、サーバ側では、この値と、ユーザ ID、 およびこのワンタイムパスワードを生成した時刻が 対応付けられている。肌の画像が添付されたメール が到着した場合には、メールのボディ部のワンタイ 5 まとめと今後 本 論 文 で は 、携 帯 電 話 の ウェブ ア プ リ ケ ー シ ムパスワードから、ユーザを特定し、さらに、パス ョン の た め の グ ラ フィック パ ス ワ ー ド に つ い て ワードの有効時間(Skin-Expert では 30 分)が過ぎ 述 べ た 。こ の グ ラ フィック パ ス ワ ー ド は 、肌 診 ていない場合に、添付画像を処理し、肌の診断を実 断 サ ー ビ ス Skin-Expert で 実 際 に 応 用 さ れ て い 行する。 る 。Skin-Expert は 、株 式 会 社 ウィズ ダ ム テック さらに、このワンタイムパスワードは、サービス (http://www.wisdomtex.com )にて、実際のサービ ページ内を移動する際のセッション管理にも利用さ スとして提供されており、現時点で、約1年間、約 れる。以下は、図 2 左下のサービスページの記述の 10 の化粧品会社で利用された。2004 年 1 月より、某 A03-10 化粧品会社での採用が決定しており、数万人単位の 本格的な実験が開始されることになる。 これまで、我々はパソコンや PocketPC 上で、グラ フィックパスワードを実装しており、そこでは、ロー カルプロキシといった二重認証方式を採用した [2]。 携帯電話の場合、メモリの制限、ローカルファイル やネットワークアクセスなどセキュリティ上の制限 があり、パソコンのような実装は不可能である。そ のため我々は携帯電話用のグラフィックパスワード を設計、実装した。本論文では、我々の Skin-Expert を例に説明したが、様々な携帯電話のモバイルウェ ブアプリケーションのための認証方式としてに適用 可能である。 参考文献 [1] Hironori Hiraishi and Fumio Mizoguchi, A Cellular Telephone-Based Application for SkinGrading to Support Cosmetic Sales. The Fifteenth Innovative Applications of Artificial Intelligence Conference, (IAAI-03), 2003. (to appear). [2] Wu Wen and Fumio Mizoguchi, AID:Authentication Interface for the Disadvantaged. コンピュータセキュリティシンポジ ウム 2000 論文集, pp.255-260, 2000. [3] Rachna Dhamija and Adrian Perrig, Deja Vu: Using Images for User Authentication. 9th Usenix Security Symposium, 2000. 5