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バッファ分析に基づく東部イングランド・ハンバー流域の 河川水質と流域
バッファ分析に基づく東部イングランド・ハンバー流域の 河川水質と流域特性との関係 小口 高,ヘレン=ジャービー,小松安希,コリン=ニール GIS buffer analysis on factors affecting water quality in the Humber catchment, UK Takashi OGUCHI, Helen P. JARVIE, Aki KOMATSU, Colin NEAL Abstract. Water quality at 60 sites on rivers in the Humber catchment, East England, was investigated in relation to the landuse characteristics. The upstream area of each site was delineated, and three types of buffers were generated for each upstream area: 1) area within 3, 6, 9, 12 or 15 km from the sampling site; 2) area within 250, 500 or 750 m from major streams; and 3) an intersection of these two types of buffers. Preceding studies indicate that water quality in the study area is mainly affected by domestic/industrial effluents and agricultural activities. Therefore, multiple regression analysis was performed using the areal percentages of arable land and settlement areas within the whole or partial upstream area as dependent variables, and the mean concentration of a water quality determinand as an independent variable. The results indicate that 1) some highly soluble determinands such as B, Cu, and Mg have the strongest correlations with landuse in the whole upstream area; 2) Ammonia and Ni are strongly correlated with landuse within 250 m from major streams; 3) Suspended Sediment and Al, representing particulate transportation, markedly correlate with landuse within 12 to 15 km from the sampling site; and 4) Cr correlates most strongly with landuse within 250 m from streams and 6 km from the sampling site. These differences reflect the location of major sources of pollutants, and the dominant modes of their transportation and dilution. Keywords. 水質(Water quality) ,上流域(Upstream area) ,バッファ(Buffer) ,土地利用(Landuse) 1. はじめに そこで本研究では,GIS のバッファ分析を適用 河川の水質は上流域の特性と密接に関係する して上流域のうち異なる部分の土地利用の特性と (Davies and Neal, 2004; Donohue et al., 2006 など) . 河川の水質との関係を検討し,土砂や化学物質の 河川に供給される土砂や化学物質の発生源は多様 発生源の分布傾向を推定した.また,得られた結 であり,面的に分布するもの(面源:non-point 果と河川による物質運搬の特徴を踏まえて,水質 /diffused source)と点的なもの(点源:point source) の規定要因に関する考察を行った. に大別される(Jain et al., 1998; Nagumo et al., 2005 など) . 流域内における面源や点源の分布は単純で 2. 調査地域 はないため,河川の水質を規定する物質の発生源 調査地域は東部イングランドのハンバー流域 を個別に特定することは難しい場合が多い.しか である (図 1) . (Humber Catchment;約 24,000 km2) し,発生源の分布の傾向を推定できれば,河川の 流域の西部にはペニン山脈周辺の自然度が高い地 水質改善のための重要な情報となる. 域が分布し,東部には低地に沿って農業地域が広 小口:〒277-8568 柏市柏の葉 5-1-5 東京大学 空間情報科学研究センター Tel: 04-7136-4301, E-mail: [email protected] がり,さらにバーミンガム等の都市域も点在して いる.このため,河川の水質が多様な要因によっ て規定されている(Oguchi et al., 2000) . 図 1 ハンバー流域(左:河川と主要都市,右:50-m DEM による陰影図) 3. データと方法 上げて主成分分析を行ったところ,流域の土地条 1990 年代に英国で行われた LOIS(Land Ocean 件を示す 4 つの主成分が抽出された.それらは, Interaction Study)プロジェクトにより,ハンバー 基本的に農地,都市域,高地,針葉樹林地に対応 流域の包括的な水質データベースが構築された すると解釈でき,第一主成分(農地)と第二主成 (Tindall and Moore, 1997) .本研究では,このデー 分(都市域)が水質汚染物質の主要供給源にも対 タベースに収録された水質観測地点のうち,Jarvie 応している.また,都市域を示すいくつかの土地 et al.(2002)が選定した代表的な 60 地点を分析対 利用の指標の中では,居住地(settlement)の比率 象とした.取り上げた水質成分は,亜鉛,アルミ が農地(arable)の比率と最も弱い相関を持ち(R ニウム,アンモニア,塩素,カドミウム,カルシ = -0.24) ,独立性が高いと判断される.そこで,農 ウム,クロム,窒素酸化物,鉄,銅,鉛,ニッケ 地の比率と居住地の比率を独立変数,水質成分の ル,浮流物質,ホウ素,マグネシウム,硫酸の 16 平均濃度を従属変数とする重回帰を行い,その相 種類である. 水質の観測期間は 1980 年代中期~90 関係数によって水質と流域特性との関係の強さを 年代中期であり, 各地点では 50 回以上の観測が行 評価した. われている. DEM を用いて各観測地点の上流域を抽出し (図 上記のデータベースには,流域の地理的データ 2A) ,上流域全体における農地と居住地の比率を も収録されている.その中から,地形(DEM) , 求めた.次に,観測地点を中心とする点バッファ 地質,年降水量,土地利用,人口のデータを取り と上流域のポリゴンとを重ね合わせることにより, 図 2 上流域と各種バッファの抽出 上流域のうち観測地点から 3,6,9,12,15 km 4. 結果 以内にある部分を抽出し(図 2B) ,各部分の土地 土地利用比率と水質との相関は,水質成分によ 利用比率を求めた.また,DEM から抽出した主要 って異なっており,次の 5 タイプに分類すること 流路に沿って幅 250,500,750 m の線バッファを ができる. 発生させ(図 2C) ,各バッファ内の土地利用比率 ①流域全体の土地利用と最も相関が高いもの(塩 を求めた.最後に,上記の線バッファの中で観測 素,カドミウム,窒素酸化物,銅,ホウ素,マ 地点から 3,6,9,12,15 km 以内にある部分を グネシウム,硫酸) . 切り出し(図 2D) ,その部分における土地利用比 ②流路から 250 m の線バッファの土地利用と最も 率を求めた.以上の作業により,上流域のうち 24 相関が高いもの(アンモニア,鉄,ニッケル) の異なる範囲に関する土地利用比率が得られた. ③流域の下部(観測地点から 12~15 km)の土地 これらの値と水質成分の平均濃度との関係を検討 利用と最も相関が高いもの(アルミニウム,浮 した. 流物質) ④流路から 250 m の範囲で,かつ観測地点から 6 場所に注目する際に,断続的なバッファの適用で km の範囲の土地利用と最も相関が高いもの (ク はなく,GWR(Geographically Weighted Regression) ロム) のような空間的に連続的な評価手法を導入するこ ⑤いずれの範囲の土地利用とも有意な相関がみら とも重要と考えられる. れないもの(亜鉛,カルシウム,鉛) 文献 5. 考察 Davies, H., Neal, C., (2004) GIS-based methodologies 上記の 5 つのタイプのうち,タイプ①に属する for assessing nitrate, nitrite and ammonium 成分は,各種の家庭・工業排水,肥料,殺虫剤な distributions across a major UK basin, the Humber, ど,流域内に広く分布する要素を主な起源とする Hydrology and Earth System Sciences, 8(4), ものである.また,タイプ③の成分も,岩石や土 823-833. 壌を主要な起源とする点で,面源に由来するとい Donohue, I., McGarrigle, M.L., Mills, P., (2006) える. 一方, タイプ②とタイプ④に属する成分は, Linking 汚水処理場や特定の工場などの点源に由来する傾 chemistry with the ecological status of Irish rivers, 向が強いものである.したがって,物質の給源が Water Research, 40(1), 91-98. catchment characteristics and water 面源か点源かに応じて,河川に沿う範囲の土地利 Jain, C.K., Bhatia, K.K.S., Seth, S.M., (1996) 用の影響が強い場合と,面的な範囲の土地利用の Assessment of point and non-point sources of 影響が強い場合の相違が生じると判断される. pollution using a chemical mass balance approach, また,タイプ①と②に属する成分は,溶流もし Hydrological Sciences Journal, 43(3), 379-390. くはコロイドとして運搬される傾向が強く,タイ Jarvie, H.P., Oguchi, T., Neal, C., (2002) Exploring the プ③と④に属する成分は,粒子に随伴して運搬さ linkages between river water chemistry and れる傾向が強い.したがって,観測地点に近い範 watershed characteristics using GIS-based catchment 囲の土地利用が相対的に重要か否かは,水質成分 and locality analyses, Regional Environmental の運搬様式に依存すると判断される. Change, 3, 36-50. 一方,タイプ⑤に属する成分は,農地,家庭排 Nagumo, T., Woli, K.P., Hatano, R., (2005) Evaluating 水,工業廃水とは異なる給源の影響が強い.カル the contribution of point and non-point sources of シウムは石灰質の地質の分布に対応して濃度が変 nitrogen pollution in stream water in a rural area of 化し,亜鉛と鉛は産業革命時代に活発に採掘され Central Hokkaido, Japan, Soil Science and Plant た廃坑の周辺で濃度が高いことが知られている. Nutrition, 50(1), 109-117. 以上のように,今回得られた結果は,各水質成 Oguchi, T., Jarvie, H.P., Neal, C., (2000) River water 分の主要な給源の分布と成分の運搬形式に対応し quality in the Humber Catchment: An introduction ており,妥当と判断される.このことは,GIS に using GIS-based mapping and analysis, The Science よるバッファ分析が,河川の水質を規定する要因 of the Total Environment, 251/252, 9-28. の検討に有効なことを示している. Tindall, C.I., Moore, R.V., (1997) The Rivers Database 今回の研究では,水質の平均値と農地・居住地 and the overall data management for the Land Ocean の比率という比較的単純な指標のみを用いた.今 Interaction Study Programme, The Science of the 後は,水質の他の特性値や多様な流域特性に関す Total Environment, 194/195, 129-135. る解析を行う必要がある.また,流域内の特定の