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電子顕微鏡による炭化ケイ素素材評価技術の研究

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電子顕微鏡による炭化ケイ素素材評価技術の研究
平成21年度共同研究成果報告
電子顕微鏡による炭化ケイ素素材評価技術の研究
京都工芸繊維大学基盤科学部門 一色 俊之
株式会社エコトロン 松浪 徹
浜田 信吉
Study on Structural Analysis of Silicon Carbide by Electron Microscopy
Toshiyuki ISSHIKI
Department of Comprehensive Sciences, Kyoto Institute of Technology
Toru MATSUNAMI
Sinkichi HAMADA
Ecotron Co. Ltd.
●研究の目的
高機能半導体デバイスとしてパワーエレクトロニクス、オプトエレクトロニクス分野での活用が期待され
ている炭化ケイ素(SiC)材料は、単結晶育成技術の向上が実用化のカギを握っている。本研究では、結晶
成長中の欠陥の消長や変遷を解明すること通じて高品質の単結晶育成を実現することを目的に、走査型電子
顕微鏡を用いた迅速な欠陥解析手法を開発した。
●研究の概要
SiC 単結晶の結晶欠陥(転位、積層欠陥、粒界等)評価には熔融塩エッチング/光学顕微鏡観察法が迅速・
簡便な方法として用いられているがその空間分解能が低く、サブミクロンスケールの欠陥微細構造の評価は
困難である。一方、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察では、ナノメートルスケールでの欠陥構造解
析が可能で、欠陥の微細構造について有用な情報が得られる半面、試料の前処理が困難であることや観察視
野が極端に狭いことなどから、迅速かつ広範囲の結晶評価には不向きである。本研究では、熔融塩エッチン
グ法をベースに極微小エッチピットの作製と低照射電圧走査型電子顕微鏡による観察を組み合わせ、空間分
解能を格段に向上させた迅速欠陥評価を試みた。
●研究経過と成果
1
我々はこれまでに透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた回折コントラスト法や高分解能法による SiC 結晶
欠陥評価2 を進めるとともに、より簡便な微細構造評価法として一昨年“マイクロエッチピット/走査型電
子顕微鏡(SEM)法”を発案した3。熔融塩エッチングを低温・短時間の条件で施すことにより 1 μ m 以下
の転位極微細エッチピット(サブミクロンピット)が作製でき、欠陥種識別がピット形状の評価により可能
であることを明らかにしたが、エッチピットの微細化は侵食深さも極少となるため通常の SEM 観察ではコ
ントラストが低下し欠陥検出が困難となる。今回、表面構造により敏感な低照射電圧 SEM を用いて基板極
浅表面の観察を試みたところ、サブミクロンピットの明瞭観察とともに、転位コア領域に形成されるナノサ
イズのエッチピット(転位コアナノピット)の可視化による 10nm オーダーの転位極微細構造評価ができた。
SEM 観察にはリターディング(減速電場印加)による超低照射電圧観察機能と、二次電子・反射電子な
ど複数の信号検出機構を持つ FE-SEM(日立ハイテクノロジーズ SU8000)を用いた。サブミクロンピット
の作製には一般的な熔融 KOH 法を用い、低温・短時間処理でエッチング進行を抑制した。
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平成21年度共同研究成果報告
図 1(a)(b)は 400℃で 30 秒処理した 4H-SiC バルク基板(0001)Si 面(8°オフ)上に形成された貫通刃
状転位(TED)および基底面転位(BPD)のサブミクロンピットの SEM 像で、リターディング法により空
間分解能を維持したまま 0.3kV の超低照射電圧観察で得られた像である。結像に用いた信号は反射電子と二
次電子の混合で、表面ステップ(エッチピット外縁部)の検出と転位芯の高分解能観察を両立させたもので
ある。エッチピットサイズはともに 500nm 以下で、超低照射電圧観察によりサブミクロンピットの明瞭観
察が行えることが示された。サブミクロンピットの内部には転位コアに相当する部分に数 nm 〜 10nm の黒
点が観察されており、TED では 1 点であるのに対して、BPD では 2 点に分裂している。この分裂した転位
コア間の間隔は 42nm、転位コアから延びる 2 本の黒線(転位線に相当)の間隔は 32nm と計測され、BPD
がショックレー型の積層欠陥に拡張して形成された 2 つの部分転位コアがナノピットとして観察されている
と解釈できる。
●まとめ
サブミクロンサイズのエッチピットの明瞭な観察が低照射電圧 SEM を用いることにより可能となること
が示されたと同時に、適切な信号検出系を選択することにより 10nm 分解能で転位芯を可視化でき、その空
間分解能は TEM の回折コントラスト法に匹敵することも示された。転位芯の可視化を転位種識別やその振
舞いの解析につなげるにはまだ多くのデータの蓄積や実験技術の向上が必要であるが、この観察手法により
TEM の煩雑な試料前加工を行うことなく、転位微細構造のナノレベル評価が行えると期待される。一方、
表面敏感な観察手法を用いているために基板表面のコンタミネーションが像質に大きな影響を与えることも
明らかとなっており、エッチング処理後の基板清浄化にも注意が必要であることも示された。
[1] 一色他:SiC 及び関連ワイドギャップ半導体研究会 第 18 回講演会予稿集 P. 114
[2] 中村他:SiC 及び関連ワイドギャップ半導体研究会 第 16 回講演会予稿集 P. 83
[3] 一色他:SiC 及び関連ワイドギャップ半導体研究会 第 17 回講演会予稿集 P. 105
本研究は創造連携センター・平成 21 年度チャレンジング・サポート事業の助成を受けて実施した。ここ
に記して感謝申し上げます。
図 1 超低照射電圧 SEM で観察した 4H-SiC(0001)面上のサブミクロンエッチピット(a)TED、(b)BPD
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