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核融合炉
第 14 号
目
次
巻頭言 ································································(名大)山本一良
1.2006 年年会/大会部会企画講演特集
(1) 春の年会:
招待講演「核融合開発・研究の最新動向」
1) ITER とブローダー・アプローチの現状··················(原子力機構)松田慎三郎
2) サテライトトカマクとしての改造 JT-60 の役割と現状 ······(原子力機構)二宮博正
3) IFMIF の現状と課題 ·······································(東北大)松井秀樹
4) LHD の最近の成果 ·······································(核融合研)小森彰夫
核融合工学部会企画セッション「核融合炉実現を目指したトリチウム研究の現状と課題」
5) トリチウム工学研究の現状と課題 ·····························(九大)西川正史
6) トリチウム工学研究の新展開 ·································(九大)田辺哲朗
7) トリチウムの環境・生物影響研究の現状と課題 ···············(茨城大)一政祐輔
8) トリチウムの環境・生物影響研究の新展開 ···················(電中研)酒井一夫
(2) 秋の大会:
核融合工学部会企画セッション 「レーザー核融合炉工学に関する最近の研究の現状と課題」
1)
2)
3)
4)
5)
6)
高速点火液体壁レーザー核融合炉 KOYO-F·······················(阪大)乗松孝好
高速点火固体壁炉の概念 ·····································(東大)小川雄一
炉用レーザーの新展開 ·······································(阪大)河仲準二
液体金属流についてのコメント ·······························(阪大)堀池 寛
トリチウム燃料系についてのコメント ·························(九大)深田 智
チェンバー工学についてのコメント ···························(京大)小西哲之
1
3
6
10
12
16
21
27
30
31
33
37
42
44
48
2.第 3 回「日本原子力学会核融合工学部会奨励賞」を受賞して ·······························53
(阪大)近藤浩夫、(電中研)日渡良爾、(原子力機構)星野 毅、(原子力機構)久保田直義
3.第 22 回核融合炉夏期セミナーに参加して ················································57
(北大)野村拓也、(名大)酒井智之、(京大)豊島和沖、(阪大)柏木紘典、
(九大)八尋由樹
4.国際会議及び国内シンポジウム等報告
1) 第6回核融合エネルギー連合講演会(2006.6)····················(富山大)波多野雄治 61
2) 第 24 回 SOFT (2006.9) · (九大)深田 智、(核融合研)西村新、(原子力機構)山内道則 62
3) 第 21 回 IAEA 核融合エネルギー会議(2006.10)·················(原子力機構)西谷健夫 67
4) 第 17 回 TOFE (2006.11) 派遣者報告 ·················································70
(静岡大)吉河 朗 、(京大)高松輝久
5.会員の声 ·············································································73
(原子力機構)柏木美恵子 、(静岡大)須田 泰、(原子力機構)栗山正明、
(阪大)近藤恵太郎
編集後記 ················································································77
i
巻
頭
言
核融合工学部会
部会長
山本一良
(名古屋大学)
第 14 号部会報をお届けします。とは言っても,部会予算逼迫の折,印
刷製本ならびに郵送のための予算が取れないのでホームページに掲載され
るだけでが。
(若干の部数は原子力学会春の年会の受付で販売もします。)
一昨年春に関昌弘前部会長から部会長を引き継いでから,もうすぐ2
年になろうとしています。皆様のご協力により2年の会長の任期をまもな
く全うすることが出来そうです。今年は,ITER 協定が昨年 11 月 21 日にパ
リのエリゼ宮で調印され、「幅広いアプローチ(BA)」も今年2月5日に東
京で調印されるなど、核融合の状況の大きな転機となる年でした。
核融合関係の最近の動きを以下にまとめてみます。
まず ITER 関係では,ITER 協定が締結され、池田
要機構長の基に ITER
機構の暫定活動が開始され、超伝導コイル等の主要機器の調達の準備が進
められています。また ITER 機構の職員の公募もインターネットに公開され、
誰にでも ITER 機構職員への道が開かれました。今後は各国における批准を
経て正式に ITER 機構が発足することになります。
BA では、ITER サテライトトカマク装置(JT-60SA), 国際核融合材料
照射装置(IFMIF)の工学実証・工学設計活動(EVEDA)、核融合エネルギー
研究センター(原型炉設計・R&D 調整センター、核融合計算機シミュレー
ションセンター、ITER 遠隔実験センター)の3つのプロジェクトが実施さ
れます。JT-60SA では概念設計が終了し、日欧によるレビューが進められ
ています。IFMIF-EVEDA については、核融合フォーラムと炉工ネットワー
クを基に IFMIF-EVEDA 幹事会が設けて、国内におけるタスク分担の意見集
約を行い、全日本でバックアップする体制がほぼ出来上がりました。原型
炉 R&D でも核融合フォーラムを中心に意見集約を行い、限られた資源なが
ら、低放射化フェライト鋼, SiC/SiC とセラミックス、先進増殖/増倍材、
トリチウム管理技術に関する R&D を国内で分担して実施する見通しです。
ITER のテストブランケット関係では,これまでの ITER テストブラン
ケットワーキンググループ(TBWG)による技術的な国際議論に加えて、各極
の ITER 極内チームリーダーと TBM の責任者からなるアドホックグループが
設立され、ポート責任分担、リード極、パートナー参加等のより現実的な
議論が開始されました。TBM に関しても、核融合フォーラムと炉工ネット
ワークを基に TBM 作業会が設けられ、日本の TBM 開発の方針が議論されて
いますが、今のところ、これまで通りに、日本は原子力機構が固体増殖,
NIFS と大学が液体増殖を担当して,設計・開発を進めてゆく予定です。
-1-
部会活動では、原子力学会春の年会において招待講演「核融合開発・
研究の最新動向」と部会企画セッションとして「核融合炉実現を目指した
トリチウム研究の現状と課題」を行いました。秋の大会では部会企画セッ
ション「レーザー核融合炉工学に関する最近の研究の現状と課題」を行い
ました。6月にはプラズマ・核融合学会(幹事学会)との共催で第6回核
融合エネルギー連合講演会を富山で開催し、500 人近い参加者がありまし
た。なお次回は当部会が幹事となって 2008 年に開催する予定です。8月に
は東北大のご尽力の基に第 22 回核融合炉夏期セミナーを仙台近郊の岩沼
で開催しました。国際会議では、2006 年 11 月に米国のアルバカーキで開
催された米国原子力学会主催第 6 回 TOFE を共催し、私を含めて多くの部会
員が招待講演や一般講演を行うとともに、部会から学生2名を派遣しまし
た。
核融合開発研究は,息の長い道のりです。ITER や BA が実質的な活動
を開始するにあたり大学等の研究者がどのように参加・貢献できるかは大
きな課題ですが、現在飯吉先生を座長とする核融合研究作業部会活動で全
日本的な取り組み方が議論されていると伺っています。特に核融合工学は
今後増々重要になってゆく訳で、皆様のご協力を切にお願いする次第です。
4月からは新部会長に引継ぎますが、今後ともよろしくお願い致します。
-2-
1.2006 年年会/大会部会企画講演特集
(1) 春の年会:招待講演「核融合開発・研究の最新動向」
ITER とブローダー・アプローチの現状
原子力研究開発機構
1.はじめに
2005 年 6 月 28 日、モスクワにおいて日本、
松田 慎三郎
よる ITER 建設サイト決定以降、膠着状態とな
っていた多くの課題の解決をみた。主な会合は、
9月12日
欧州、ロシア、中国、米国、韓国の 6 カ国閣僚
(仏・カダラッシュ)
級会合が開催され、国際熱核融合実験炉 ITER
の設置場所、費用分担や主な役割分担が決定さ
第 10 回ITER政府間協議
10月24日
第 11 回ITER政府間協議
(中国・成都)
れた。1985 年のレーガン・ゴルバチョフ会談
を契機に米、ソ、日、欧の4極よって 1988 年
11月
7日
次官級会合(ウィーン)
から開始された ITER 概念設計活動から 18 年
12月
6日
第 12 回ITER政府間協議
(韓国・済州島)
という長期にわたる準備の末、中国、韓国、イ
ンドを加えた7極の国際協力により、南フラン
これら一連の協議の結果、ITER 協定案に盛
スのカダラッシュに建設されることが決定さ
り込むべき事項が合意された。また、ITER 機
れた。建設費の約 50%は欧州が、他の参加極
構長予定者として池田要クロアチア大使を選
は 10%づつ均等に負担する。また、建設サイ
出したこと、インドを 7 番目の加盟国として他
トの誘致を競った欧州と日本の間では ITER 以
の加盟国と同等の扱いを受ける国として認知
外の研究開発(ブローダー・アプローチ)や人
したうえで 7 カ国による建設期の調達分担、運
事、機器調達においてサイトを取れなかった方
転期の費用分担が決められたことなど、承認、
に対する優遇措置が考えられた。その結果、
批准に必要な文書(実施協定案と附属書、関連
ITER に対して日本は 10%の資金負担で ITER
文書)の案をほぼ完成させ、局長レベルでの一
機構本部職員枠及び全調達機器受注枠の 20%
連の政府間協議(N 会合)を終了した(図1)。
を分担するとともに、日欧がそれぞれ ITER 建
西暦年
CY
88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08
設費の8%に相当する 460 億円を拠出して核
融合原型炉の実現に必要な関連施設を日本国
Qui ckT imeý Ç ²
TI FFÅ iLZWÅj êLí£Év ÉçÉOÉâÉ Ä
Ç ™Ç±ÇÃÉ sÉNÉ `ÉÉ Ç¾ å©ÇÈǞǽDžÇÕïKóvÇ-Ç ÅB
内に設置し、日欧の共同事業として研究を進め
CONCEPTUAL
概念設計活動
DESIGN
(CDA)
ACTIVITIES
ることとなった。本稿では、ITER 計画の現状
ENGINEERING DESIGN
工学設計活動
ACTIVITIES
(EDA) (EDA)
拡張
EDA EDA
(ITER 98)
(ITER 01)
及び今後の展望、我が国が今後果たすべき役割
Construc
C
TA
ITA(CTA,
調整活動
ITAITA)
tion
SWG(Task#1, #2)
等について報告する。
2.建設サイト決定以降の政府間協議の進展
EXTENDED
1985年米ソ(当時)首
US-USSR
SUMMIT MEETING IN 1985
脳会議
図1
2005 年6月モスクワでの6極閣僚級会合に
-3-
当初 ITER
R = 8.1 m
Pf = 1500 MW
Q =∞
QuickTimeý Dz
TIFFÅ iLZWÅj êLí£ÉvÉ çÉ OÉ âÉÄ
Ç ™Ç±ÇÃÉs ÉNÉ`ÉÉ Ç¾å©Ç ÈÇžÇ ½Ç…ÇÕïKóv Ç-Ç ÅB
コンパクト ITER
R = 6.2 m
Pf = 500 MW
Q ? 10
ITER 計画の経緯と進捗
建設
活動
ITER機構
発足
政府間協議
3.今後の予定
極の増加に伴い、組織、人数ともに見直される
1)ITER 国際機構の組織の立ち上げ
可能性がある。計画管理、調達、品質管理、許
1月末頃までに EU が首席副機構長(PDDG)候
認可取得等の業務を行う。 各極に設置される
補を推薦。
極内機関は、協定で合意した内容に従って参加
池田機構長予定者と各極のインタビューを経
極が分担する機器の調達に必要な計画調整、工
て、PDDG を決定。
程管理、品質保証、技術調整、発注、納入確認、
池田機構長予定者と PDDG で主要運営体制を決
機構への引き渡し等の作業を実施するととも
め、各極に副機構長(DDG)候補者の推薦を要
に、ITER 機構に必要な人員の募集や派遣を行
請。
う(図2)。
3月頃に池田機構長予定者がカダラッシュに
文部科学省
文部科学省
着任。
(計画の統括)
(計画の統括)
2006 年夏には一般職員候補者のガルヒンクお
ITER機構
(ITER国際核融合エネルギー機構:事業主体の国際法人)
極内機関
よび那珂設計サイトからカダラッシュへの移
仕様
派遣
意見・要望
納入
原子力機構
極内機関としての業務
動が行われる見通し。(現在のガルヒンクサイ
国内意見の
集約業務
利用研究検討
成果相互還流
ト、那珂サイトは 2006 年中に閉鎖。
)
(核融合フォーラム等)
機 構 職 員 と
滞 在 研 究 者
の
参加窓口業務
発注図面作成
調達文書作成
工場立会検査
現地試験検査
国外出張(技術打合)
物納機器の
調 達 業 務
等
発注
納入
2) 協定案のイニシャルと署名、発効
産業界、大学、国内研究機関/関係機関
産業界、大学、国内研究機関/関係機関
いくつかの残された課題を解決し、協定案を
企業
企業
最終化するため、2 月上旬に法的専門家の会合
図 2 国内における ITER 計画の実施体制
などを開催した後、締約極による実施協定のイ
ニシャル(仮合意)は 2006 年 5 月、署名は 2006
年中を想定。ITER 機構が正式に発足するのは、
5.ブローダー・アプローチに関する最近の状
各締約極における手続きに従い、全ての加盟極
況
ブローダー・アプローチ(BA)は核融合エネ
が批准、受諾または承認を経て実施協定が発効
する段階であり、その時期は予測が困難である。
ルギーの実現に向かって ITER 以外に必要な研
究開発を日欧が夫々460 億円相当の資金負担
をして共同事業として実現しようとするもの
4.ITER 建設段階の体制
ITER の建設・運転は ITER 機構によってなさ
れる。ITER 機構の最高意思決定機関は ITER 理
事会であり、全ての参加極の代表によって構成
される。ITER 機構長は、ITER プロジェクトの
実施面で全面的な責任を負う。
ITER 機構長
の下には、主席副機構長1名、その他の極から
副機構長が置かれ、機構長スタッフとともに機
構長を補佐することになっている。機構職員は
専門職員約 200 名、支援要員約 300 名の合計約
500 人規模の体制で見積もられてきたが、参加
で、必要な研究施設は日本国内に建設される。
これまでに日本から提案した BA の候補として
*
サテライト・トカマクとしてのトカマク国
内重点化装置(NCT)計画
*
IFMIF-EVEDA(国際核融合材料照射施設―
工学設計・実証活動)計画
*
IFERC(国際核融合エネルギー研究開発セ
ンター)
がある。このうち、サテライト・トカマクは那
-4-
珂で、IFMIF と IFERC は六ヶ所村で実施される。
その結果、
IFERC は原型炉設計・R&D 調整センターを軸と
1)日欧の政府間協定をつくり、その中で BA
しつつ、ITER 遠隔実験センター、計算機シミ
活動内容を規定する。活動の実施は実施機
ュレーションセンターを包含したもので、核融
関指定をすること。
合原型炉に必要な研究開発の中心的拠点とし
2)EU からの貢献は基本的に物納の貢献であ
ること。
ての役割を果たすことになる(図3)。
3)活動の期間は ITER の建設期間相当(約 10
◆ 核融合原型炉の共通概念を確立する。
◆ 早期実現に必要な工学的R&D計画の調整と 、長期的なR&Dを実施。
◆ ITERとスーパーコンピュータの活用により、核燃焼プラズマに関するデー
タを取得。
国際核融合エネルギー研究センター
年)であること。
4)サテライトトカマク計画はブローダー・ア
原型炉設計・R&D調整
原型炉設計・R&D調整
センター
センター
プローチ(BA)計画と国内計画が共存する
実験炉ITER
計画であり、双方の計画からの資金によっ
ITER遠隔実験
ITER遠隔実験
研究センター
研究センター
サテライト
サテライト
トカマク装置
トカマク装置
安全確認、
運転、等
核融合計算機
核融合計算機
シミュレーションセンター
シミュレーションセンター
て実施されこと。
実験条
データ 件設定
収集・
解析
国際核融合材料照射施設
国際核融合材料照射施設
工学実証・工学設計活動
工学実証・工学設計活動
5)ITER の仮署名に合わせてブローダー・ア
プローチの協定案を合意する想定で作業を
照射後試験施設
進めること。
図3
などが共通認識となってきている。なお、総資
国際核融合エネルギー研究センター
源を如何に配分するかについては日欧の政府
これまでに 5 回の日欧事務局会合と、そのも
間で精力的に協議が進められている。日欧協力
とに個別プロジェクトに関する専門家会合が
の下に、核融合エネルギー実現に向けた核融合
開催された。また、国内では 8 月から 9 月末に
研究開発の新たな拠点を我が国に設置する意
かけて文科省に ITER 計画推進検討会(有馬委
味はきわめて大きく、わが国は産官学を挙げて
員会)が開催され、「幅広いアプローチ(BA)
全力で取り組む必要がある(図4)
。
計画」の実施内容(日本提案)を整理した。
日欧核融合協力協定
日欧核融合協力協定
(日本政府とユーラトム間の協定)
実施機関
実施機関
BA計画運営委員会
監査
欧州
極内機関
BA計画
国際核融合
材料照射施設
工学設計活動
国際核融合エネルギー
研究センター
原子力機構
サテライト
トカマク装置
- 原型炉設計・研究開発
調整センター
- ITER遠隔実験センター
- 核融合計算機センター
・ 日欧双方の委員から構成されるBA計画運営委員会が、BA計画の指揮・監督を行う。
・ 運営委員会の指揮・監督の下、原子力機構と欧州DAがBA計画を共同で実施する。
図4
幅広いアプローチの運営体制
-5-
サテライトトカマクとしての 改造 JT-60 の役割と現状
日本原子力研究開発機構
1.はじ めに
二宮
博正
転シナリオの最適化や新しいアイデアを ITER
に適用する前の試験である。原型炉への貢献と
原子力機構那珂核融合研究所に設置されて
いる臨界プラズマ試験装置(JT-60)は、欧州
しては、定常高ベータ運転法の確立を目指し、
連合(EU)の JET と並ぶ世界最大のトカマク型
原型炉で想定しているアスペクト比近傍での
核融合実験装置である。JT-60 では、これまで
プラズマの閉じ込め、安定性、非誘導電流駆動、
臨界プラズマ条件、世界最高の等価核融合エネ
ダイバータ熱・粒子制御の研究が挙げられる。
ルギー増倍率、イオン温度及び核融合積の達成
さらに国内計画で目標として設定され、サテラ
や規格化ベータ値 2.3 の 22 秒維持等の成果を
イトトカマク計画でも了解された具体的な目
得て きた 。 さら に原 型炉 に 向け た研 究 及び
標領域は、① 加熱入力と核融合出力が等しく
ITER に貢献するため、JT-60 のトロイダル磁場
なる臨界プラズマクラスのプラズマ性能を有
コイル及びポロイダル磁場コイルを超伝導化
すること、② プラズマの大半径と小半径の比
する計画が検討され、科学技術・学術審議会に
であるアスペクト比やプラズマ断面形状制御
おいてトカマク国内重点化装置として進める
性において最大限の自由度を確保すること、③
こととなった[1,2]
。
原型炉で必要な高ベータ(規格化ベータ値 =
一方、ITER 計画と並行して核融合エネルギ
3.5 - 5.5)の非誘導電流駆動プラズマを 100
ーの実現に向かって ITER 以外に必要な研究開
秒以上保持すること、である。炉工学的な目的
発を日欧が資金分担して共同事業として実現
は、環境適合性の観点から原型炉材料の有力候
しようとするブローダ・アプローチ(BA)計画
補となっている低放射化フェライト鋼を安定
が決定された。この BA 計画の一つとして、
「サ
化板のプラズマ対向面の一部に採用し、その強
テライトトカマク装置」が選択され、現在日欧
磁性による高ベータプラズマ性能への影響を
で協議が進められている。従って、JT-60 の超
評価することである。さらに長期的研究課題と
伝導化改修(JT-60SA)は、国内計画であるト
して、超長時間(~8 時間)運転を考えている。
カマク国内重点化装置と日欧が共同出資する
サテ ライ ト トカ マク 計画 の 合同 計画 と なる
3.J T- 60S A の装 置性能
[3,4]。
JT-60SA は、既存の真空容器、トロイダル磁
場コイル、ポロイダル磁場コイルを撤去し、新
2.J T- 60S Aの 役割
たに真空容器と超伝導のコイルを製作・設置し、
サテライトトカマク計画及びトカマク国内
本体部分の周囲に設置されている加熱装置等
重点化装置としての JT-60SA は、ITER 及び原
は既存のものをそのまま使用する計画である。
型炉に大きく貢献するという役割を担ってい
図1に改修装置の断面図を示す。目標の一つで
る。ITER への貢献の主要なものは、ITER の運
あるアスペクト比や断面形状の自由度の指標
-6-
アスペクト比は 2.6 まで可能とし、シングルヌ
クライオ
スタット
TFC
ルダイバータ及びダブルヌルダイバータ配位
NBI
CS
において非円形度と三角形度はそれぞれ~1.8、
~0.6 の設計とした。形状因子は、図2に示す
ように 100 m3/s 以上のダイバータ排気性能を
確保した状態で ITER の 4.3 に比較し大幅に増
大させ、~7 まで可能とした。
安定化板
要求されるプラズマ性能を実現するために、
加熱 ・電 流 駆動 は既 存の 中 性粒 子入 射 装置
(NBI )、 電 子サ イク ロト ロ ン共 鳴加 熱 装置
ダイバータ
コイル
(ECRF)を最大限活用しつつ、
NBI は最大 34 MW、
セクターコ
イル
ECRF は最大 7 MW で 100 秒間の入射を予定して
逆 Y 字型
支持
いる。
JT-60SA の主なプラズマパラメータを表1
図1 改修装置の断面図
に示す。
3
Divertor pumping(m /s)
≥100 <100
Aspect ratio A
3.5
表1 JT-60SA の主なプラズマパラメータ
Double null
Single null
ITER
3.0
2.5
4
5
6
7
8
Shape parameter S
プラズマ電流
5.5 MA/3.5 MA
プラズマ主半径
3.01 m/3.16 m
プラズマ小半径
1.14 m/1.02 m
非円形度 κ95
1.83/1.7
三角形度
0.57/0.33
δ95
トロイダル磁場
2.72/2.59
安全係数
3.77/3.0
q95
加熱・電流駆動パワー
41 MW x 100 s
垂直入射正イオン源 NBI
16MW
に形状因子と呼ばれるパラメータがある。アス
接線正イオン源 NBI
Co 4 MW/CTR 4 MW
ペクト比を小さくする、あるいはプラズマの非
負イオン源 NBI
10 MW
ECRF
7 MW
図2
JT-60SA で実現が可能な形状
因子の領域
円形度や三角形度を大きくすることで形状因
子を大きくできる。また、形状因子を大きくす
4.プラ ズマ性 能
ると プラ ズ マは より 高い ベ ータ 値に 対 して
MHD 的に安定になることが示されており、大き
JT-60SA は、ITER と相似なプラズマ形状での
な目標である原型炉で必要な高ベータの実現
3.5 MA/ 2.6 T、41 MW、100 秒加熱により、ITER
のために有利である。さらに、原型炉でも低ア
で採用している ELMy H モードや Hybrid Mode
スペクト比を採用する可能性が高いため、原型
の研究が可能となる。さらに、10 MW の負イオ
炉への貢献のためにも低アスペクト比化が重
ン源 NB と 7 MW の ECRF により、電子加熱やア
要である。このため、プラズマ電流 5.5 MA で
ルフヴェン固有モード等の燃焼プラズマに係
-7-
る研究を進める予定である。
高ベータや非誘導電流駆動研究に関しては、
高い等価核融合エネルギー増倍率 QDTeq と高規
格化ベータ値の同時達成を図3に示す領域に
拡張している。また、規格化ベータ値 3.6 の完
全非誘導電流駆動が 3 MA/ 2.44 T、グリーン
ワールド密度 0.55、自発電流割合 0.56、q95 =
5.3、HHy2 = 1.3 の条件で達成可能という解析
結果を得ている。より先進的な高ベータ定常運
転も改修装置における重要な研究課題であり、
これについては規格化ベータ値 4.4 の完全非
誘導電流駆動が 2.4 MA/ 1.79 T、グリーンワ
ールド密度 0.88、自発電流割合 0.7、q95 = 5.5、
HHy2 = 1.3 の条件で得られると評価されている
(図4)。
5.装置 の設計
トロイダル磁場(TF)コイルは最大経験磁界
図4
完全比誘導電流駆動のパラメータ
領域
図5
超伝導コイルの形状と主要寸法
6.3 T のため NbTi を採用し、中心ソレノイド
(CS)コイルとダイバータコイルは Nb3Sn、そ
の他のポロイダル磁場(PS)コイルは NbTi を
採用している(図5)
。
図3
QDTeq と規格化ベータ値の同時達成
パラメータ領域。図中、同じ印の
バラツキは密度の違い(右程高密
度)
-8-
TF コイルは3種類の円弧と1つの直線部から
なる D 型で、ウエッジ支持構造を採用している。
また,TF コイルの転倒力は、シアパネルを TF
コイルの間に挿入して連結する事により支持
する[5-7]
。
真空容器は、超伝導コイルの核発熱を低減す
るため 24mm 厚の内外壁の間に 140mm 厚の遮へ
い用ボロン水を充填した二重壁構造を採用し
ている(図6)。また、真空容器の放射化低減
のため、構造材には低コバルトステンレスを採
用する。ダイバータ板は CFC の強制冷却型モノ
ブロックを想定しているが、板表面へのタング
ステンコーティングの可能性も残している。図
7にダイバータ配置を示す。さらに構造の簡素
化と省スペース化のため、球状クライオスタッ
図6
トと逆 Y 字型支持構造を採用した(図1)。
真空容器の構造
6.今後 の計画
改修装置の設計を EU と協力して進めつつ、
並行して国内で大学等の研究者と議論してい
く予定である。その後、製作に着手する。なお、
EU が分担する機器は全て物納の予定であり、
BA 計画 10 年間の中で装置の製作・組み立てに
7 年、実験運転として 3 年を予定している。
参考文献
[1] H. Tamai et al., Nucl. Fusion 45 1676 (2005).
[2] M. Kikuchi, et al., Nucl. Fusion 46 S29 (2006).
[3] H. Ninomiya ,et al., J. Korea Phys. Soc. ? (2006).
[4] 菊池、他:プラズマ・核融合学科誌、82 ? (2006),
[5] H. Tamai, et al., Plasma Science and Technology 6
2141 (2004).
[6] M. Matsukawa,et al., IEEE Trans. Appl.
図7
Superconductivity 14 1399 (2004).
[7] K.Kizu, et al., Nucl. Fusion 45 1302 (2005).
-9-
ダイバータ及び容器内機器の配置
IFMIF の現状と課題
東北大学金属材料研究所
松井
秀樹
現在は 2002 年までの要素技術確証(KEP)が終
1.はじめに
材料開発とその適格性保証は ITER 計画と
了した段階にある。2003 年からは EVEDA 期へ
並んで核融合発電実証プラント建設に至る道
移行するための準備期間として、その実施のた
程における最重要課題である。ITER 建設地が
めの協定の策定や KEP 期間中に必要と認識さ
決定され我が国に於いては核融合開発の「幅広
れた課題等に関する技術的な検討活動を行っ
いアプローチ」
(以下では ITER-BA とする)が
てきた。その成果は総合設計報告書
実施される見通しとなったが、その中に IFMIF
(Comprehensive Design Report: CDR)として刊
(国際核融合材料照射施設:図1参照)計画の
行されている。IFMIF は 40MeV の重陽子線を
次期活動である工学実証・工学設計活動
液体リチウムターゲットに衝突させることに
(EVEDA:
and
より、核融合に類似の中性子を発生させる。要
Engineering Design Activities)が盛り込ま
求仕様として年間 20dpa 以上の変位損傷を発
れたことは、その重要性を考えれば当然である
生する容積が 0.5 リットルあることが挙げら
といえよう。これにより、IFMIF 活動がようや
れているので、これを満たすためにそれぞれ
く本格的に動き出すことになる。本稿では
125mA の重陽子線を発生する2基の加速器か
IFMIF 活動のこれまでの成果の概要を紹介し、
らのビームを液体リチウムジェットの同一の
次期活動への移行準備が整っていることを報
面積に照射することになっている。IFMIF は基
告すると共に、EVEDA 活動での実施内容と活動
本的に既存の技術を用いることを設計の基本
の枠組み、及びこれらに関係した課題について
方針としているが、それでも IFMIF に固有の
触れる。
設計仕様に必要な開発項目は多数存在する。以
Engineering
Validation
下では、a)加速器系、b)ターゲット系、c)テス
Test
Modules
Inside
Test Cell
トセル系及び d)設計統合と従来施設のそれぞ
RFQ
れの分野における主な成果について簡単に紹
Ion Source
介する。
PIE Facilities
RFQ
High-Energy
BeamTransport
Li
0
Li Targe
t
図1
IFMIF 加速器
IFMIF の加速器は 88%以上の稼働率で運転
40 m
することとされており、また素手による保守が
可能なことが必要条件である。イオン源として
IFMIF の概要
は電子サイクロトロン共鳴型(ECR)が採用さ
れ、CEA サクレー研究所に於いて数回にわたる
IFMIF 活動の経緯
IFMIF 活 動 は 1994 年 か ら 概 念 設 計 活 動
1000 時間に至る 95%以上の稼働率での運転に
(CDA)が開始され、概念設計評価(CDE)を経て、
より、その安定性と長寿命が実証された。1MW
- 10 -
の RF 電源の開発は IFMIF プロジェクトの中
である。2組の設計が現在存在しそれぞれ得失
で最も厳しい課題と考えられていたが、200
がある。水平型設計案は温度の均一性に於いて
MHz TH 628 Diacrode 管の耐久試験が KEP 活動
有利であるが、その成功はプリントヒーターの
中 に 行 わ れ 、 1047 時 間 以 上 に わ た っ て
性能にかかっている。
1,010-1,030 kW のフルパワーで 98.7%の稼働
率を得た。このようにダイアクロード管は
IFMIF に必要な条件で運転しうる能力を実証
EVEDA 活動
EVEDA 活動に於いては IFMIF 加速器の低エ
ネルギー部分のプロトタイプの建設が計画さ
した。
れている。このプロトタイプは ECR イオン源、
RFQ,整合部、およびドリフトチューブ線形加速
ターゲット
ターゲットの設計案を図2に示す。リチウム
器の初段のタンクからなる予定である。EVEDA
ジェットの自由表面流れの安定性は IFMIF の
ミッションが完結後はこのプロトタイプはコ
安定運転の鍵である。IFMIF のターゲットジェ
スト低減のために実機に組み込むことが計画
ットの寸法は幅 260mm 厚さ 25mm であり、流速
されている。
は 15m/s 以上である。小型化されたリチウム
ターゲット系では IFMIF の 1/3 のリチウム
ジェットにおいて 14m/s の流速にいたるまで
量のモデルループが建設され、10000 時間を超
の安定流れが実証された。液体リチウム中の不
す試験が行われる予定である。テストセル課題
純物制御はこの系のもうひとつの重要な課題
の中では EVEDA 期にテストアセンブリーのモ
であるが、この分野に於いても KEP 活動中に
ックアップが作成され所期の性能を実証する
顕著な進展があった。
ことになっている。
IFMIF 活動はこれまで IEA のもとで行われ
Lip seals
Bellows
てきたが、日欧の間で EVEDA 活動を ITER ブロ
Inlet pipe
ーダーアプローチの枠組みの中で実施するこ
とが合意されている。この枠組みの中では日欧
Beam ducts
はそれぞれ ITER 建設費の 8%を拠出すること
になっており、その一部が EVEDA 活動のため
に充てられる。ITER ブローダーアプローチの
Assembly
Back-wall support
Beam-duct
support
枠組みに於いては IFMIF 活動は形式的には IEA
における多国間の協力活動と異なり、2国間活
Lip seals
Quench tank
動となる。日欧以外の極の専門知識を IFMIF
Bellows
活動に取り込むことは利益があると考えられ
図2
るので、IFMIF の実施協定の中に第3極からの
ターゲットの設計
参加が可能になるような仕組みを作ることが
望ましいと考えられる。
テストアセンブリー
テストアセンブリーの機能は照射中に種々
の形状の試料を保持し、過渡状態に於いてもそ
の温度や雰囲気を必要な条件に維持すること
- 11 -
核融合開発・研究の最新動向
核融合科学研究所 小森彰夫、大藪修義、長山好夫、川端一男、山田弘司、武藤 敬、
下妻 隆、三戸利行、今川信作、金子 修、居田克己、LHD実験グループ
LHDでは、長時間運転に関連したプラズマ
加熱装置の整備が進み、プラズマと壁の相互作
用に関する研究の積み重ねを活かす環境も整
ったことから、最近、高温プラズマの長時間保
持を最優先課題として位置づけ、実験研究に取
り組んでいる。主たる進展は、プラズマ真空容
器内に3対の高周波アンテナを設置し、これに
よるイオンサイクロトロン共鳴加熱の定常化
を図ったことによる。この結果、磁場強度2.
75テスラにおいて、プラズマの温度1千2百
万度、密度4兆個の高温プラズマを54分28
秒に亘り連続して閉じ込め、保持することに成
功した。また、ローカルアイランドダイバータ
(LID)を用いた周辺プラズマ制御とプラズ
マ分布計測性能の向上を高温プラズマの長時
図1
加熱パワーと蓄積エネルギーの進展
間保持に次ぐ優先課題として実験を行ってお
り、所定の成果が得られている。さらに、この
他にもLHD実験計画にあげられている所期
の目的に合致した、高いベータや無衝突領域に
あるプラズマの挙動の理解について大きな進
展が見られた。図1に第1サイクルからの加熱性能と蓄積
エネルギーの進展を、図2にプラズマ温度、放
電保持時間及び入力エネルギーの進展を示す。
順調に推移してきているが、これには加熱機器
の増強とそれに見合った排気や燃料供給およ
び除熱機構の改良に寄るところが大きい。パラ
メータの延びは研究の進展の一指標に過ぎな
図2 温度、放電保持時間及び入力エネルギー
の進展
いが、実験対象の拡がりを意味しており、学術
研究の範囲および機会が拡大されてきたこと
を象徴している。
長時間保持実験には最も多くのマシンタイ
ムが当てられ、精力的に実験が行われた結果、
世界的に注目されるデータが得られた。LHD
- 12 -
では、イオンサイクロトロン加熱を主にECH
2 keV 程度に維持されている。電子密度はガ
加熱とNBI加熱を補助的に用いて、プラズマ
スパフにより自動制御されており、おおよそ0.
を保持することに成功した。プラズマへの入力
7-0.8×1019 m-3 に保たれている。時々減少し
エネルギー値として1.6 GJ を達成し、これ
ているのは、NBI加熱により入射パワーが増
はフランスの Tore Supra 装置が持っていた1.
加し、自動制御の範囲を超えた環境変動により
07 GJ を超えて、新しい領域に入ることとな
密度が減少したものである。
った。高性能プラズマを長時間閉じ込めること
は最近の核融合研究の重要課題となっている
が、今回LHD装置がトカマク装置の領域を超
えて定常プラズマ保持の領域を拡大したこと
は、閉じ込め磁場形成にプラズマ電流を必要と
しないヘリカル系装置の定常核融合炉への優
位性を改めて示したと言えよう。また、イオン
サイクロトロン加熱法を用いてこれを達成し
たことは、過去において速度空間における粒子
損失問題を指摘されてきたヘリオトロン磁場
方式で、高エネルギーイオンの閉じ込め性能が
優れていることを示すことにもなった。
この長時間運転には、閉じ込め磁場の最適
化、ダイバータ機構の理解に加えて、プラズマ
と壁の相互作用における原子分子過程や固体
表面に関わる物理研究から加熱や除熱に関わ
る工学研究に至る学術研究の積み重ねが活か
されている。具体的には以下の各種装置の改良
や実験手法の開発により達成された;(1)定
常加熱機器の性能向上(ICRF加熱の全般的
性能向上、ECHの伝送路改良、NBIのイオ
ン源改良による長パルス安定入射、
(2)ダイ
バータの除熱性能の改良、及び(3)熱流束の
空間的な分散を図るため磁気軸スイープ方の
図3
長時間放電波形
採用。
図3に31分間のプラズマ維持に成功した
これまでのICRF加熱では標準磁場配位
放電を示す。平均加熱パワーは約700kW で、
(磁気軸3.6 m)において 2 分以上の運転を
ICRF(520 kW)とECH(100 kW)
行うとアンテナ近傍のトーラス内側のダイバ
を定常的に入射している。NBIは約3分間隔
ータ板が300℃以上に局所的に上昇し、ダイ
で25秒間の繰り返し入射を行った。中心イオ
バータ板や壁からの脱ガスによると見られる
ン温度は2keV 以上であり、電子温度は1.5-
プラズマ密度上昇が起こり、放射崩壊して放電
- 13 -
が終了していた。最近は、アンテナやダイバー
イザや CAMAC デジタイザ系での定常放電中で
タ板の温度をモニターしながら、温度上昇を抑
のサブショットという概念を取り入れた繰り
えるように運転している。トーラス内側(図3
返し運転モードが順調に稼動し、最大90GB/
の Tdiv(3I-U))のダイバータ板の温度上昇を
ショットいう世界に例を見ない大容量データ
抑えるには磁気軸を3.7 m 以上にする外側
を処理することができた。
上方向のダイバータ板の温度(Tdiv(4.5U-I))
の上昇が大きく、またアンテナのサイドプロテ
クタの温度上昇も大きくなるため、磁気軸3.
65 から3.7 m近傍で磁気軸のスイングを
行っている。最終的には磁気軸を3.67から
3.7 m の間で往復動作させ、スクレイプ層か
入 力 エネルギー値 ( ギガジュール)
シフトが有効であるが、この場合は、トーラス
1.5
LHD
1
0.5
トールスプラ( 仏 )
JET(英 国 )
1分
らダイバータに出てくる熱粒子束を分散させ
0
10
て温度上昇を抑えることに成功した。図3の最
下段に磁気軸の位置とダイバータの温度上昇
LHD
JT-60(原 研 )
図4
HT-7(中 国 )
T RIAM -1M(九 大 )
1時間
1日
4
100
1000
10
プ ラズ マ保 持 時間 (秒 )
10
5
定常プラズマ達成パラメータ領域
が飽和していることが示されている。2本のダ
イバータ温度の変化は磁気軸の変化と同期し、
LIDは、排気装置を備えたダイバータ室を
位相が反転している。また、4.5U のダイバ
有する本格的な「閉ダイバータ」である。磁気
ータ温度はNBIの入射に同期してより大き
島を利用した効果的な周辺排気により高温ダ
く上昇しており、LHDのダイバータ熱流束の
イバータを実現し、ヘリカルプラズマの閉じ込
空間分布がこの磁気軸変化により大きく変化
め改善を目指している。これまでに行われた実
していることがわかる。
験で、アイランド・セパラトリックスに沿った
図4に、LHDの最新の実験データを、プ
フローの形成、高い排気効率の実現など、LI
ラズマ維持時間とプラズマ入力エネルギー値
Dが、物理設計で期待された基本性能を有し、
のグラフとして示す。図には高温プラズマを閉
周辺プラズマ制御に有用であることが示され
じ込めた大型装置のデータが主に示してあり、
ている。
100秒以上のデータは、LHDとATF以外
は超伝導トカマク装置で、数分から数時間のデ
ータが示されている。LHDの実験データが世
界の大型装置に比べても長時間運転の新しい
領域に進んでいることがわかる。今後は、より
高い加熱入力で2GJ 以上の入力エネルギー値
を実現し、世界にインパクトを与える学術的な
実験をめざす予定である。
長時間保持実験において計測データのデジ
タル処理の需要が急激に増加してきたが、
Compact PCI や WE7000 といった実時間デジタ
図5
LID配位においてECH加熱により見
られるITB的な電子温度分布
- 14 -
LID配位では、その良好な粒子制御性によ
イルのピッチであり、LHDは3層のヘリカル
り、リサイクリングの極めて低い状況を実現す
コイルを持つことから実効的な小半径 ac を変
ることが可能である。最近、このLIDの効果
えることができる。結果としてプラズマのアス
を積極的に利用するオペレーションを試みる
ペクト比を制御することが可能であり、最近の
ことで、特徴的な分布構造を持つ2種類の放電
実験では、γを1.2に設定することによりプ
を得ることができた。どちらの放電も、粒子供
ラズマシフトを抑制し、体積平均ベータ値4.
給停止後の密度が急激に減衰する過程で、中心
5%を得ることに成功した
付近の圧力分布の急峻化が観測されている。両
5
m-3 台前半、および1019 m-3 台後半と大きく異
なっている。前者はガスパフ停止後の低密度領
域でECHによる中心加熱を行うことにより、
図5に示すような中心温度が10keV 弱のI
TB的な電子温度分布を持つ放電である。IT
るが、LID配位では極めて容易に形成するこ
とが可能で、その再現確率も非常に高い。LI
DはITBの形成に有利な配位ということが
できる。一方、ペレットを連続入射した後の高
4
3
1
2
1
0
-1.0
Bはヘリカルダイバータ配位でも得られてい
2
-0.5
0
小半径
0.5
1.0
温度(1000万度)
密度(100兆個/cc)
放電は、その現象が現れる密度領域が、1018
0
図6 LID配位においてペレット入射後に
見られる尖塔化した電子密度分布(青丸、トム
ソ散乱強度)と電子温度分布(赤丸)
密度領域では、LIDによる周辺排気により、
通常のガスパフ放電では見られない強い「再加
熱」が起こり、蓄積エネルギーの増加とともに
密度分布が中心部で尖塔化する現象が見出さ
れた(図6)
。このような、非常に強い密度の
尖塔化はこれまで得られておらず、LID配位
に特徴的な分布ということができる。この時、
電子温度分布は、通常の高密度放電時と異なり、
周辺領域で勾配が急峻になっており、それが中
心領域まで維持された極めて特徴的な形状を
している。このような放電が得られる物理的機
構を解明し、それに最適なオペレーション領域
を開拓すれば、将来ETBとITBを併せ持つ
ような高閉じ込めモードの達成に繋がる可能
性があると考えている
高ベータ実験では、磁場配位(ヘリカルコ
イルピッチγ及び Rax)の最適化を行った。こ
図7 γ=1.20, B=0.45T 時にβ=4.3%を達成し
た高β放電波形。上からβ値、線平均密度、磁
場揺動成分を示す。
こで、γはm/l・ac/R で定義されるヘリカルコ
- 15 -
核融合工学部会企画セッション「核融合炉実現を目指したトリチウム研究の現状と課題」
核融合炉トリチウム工学研究の現状と課題
九州大学
西川 正史
核融合炉の開発に向けたトリチウム工学
燃焼実験時代の大量トリチウム取り扱いに備
の研究対象の一つは、プラズマのトリチウム燃
えて安全閉じ込めシステムについての学術的
焼を維持するための燃料システムでこれはプ
再点検が必要である。
ラズマ容器につながる主燃料循環システムと
核融合炉三態
ブランケットシステムから構成される。いま一
TFTR、JET
T Loss
つは安全閉じ込めシステムで、これは燃料シス
Fusion
Plasma
T vessel
テムから外部環境へ漏洩するトリチウムの挙
Re-depositLoss
layer
Fuel Adjustment
動を把握し放射線安全対策確保を目的とする。
Ash
T Loss
Emergency
Recovery
T vessel
Deuterium
T Loss
Tritium System
プラズマ容器以外の燃料精製装置や燃料同
FUEL CYCLE!, BREEDING!, SAFETY!
位体比調整装置等の主燃料循環システムは核
T Loss
Li compound
燃焼プラズマと直接のかかわりはないので、求
Blanket
Heat
められる機能に応じた設計とその性能評価は
Electricity
Tritium system
T Loss
ITER
Fusion
Plasma
T Loss
Emergency
Recovery
Loss
Main Fuel Cycle
Ash
水素・重水素実験で十分対処が可能であり、
FUEL CYCLE!, SAFETY!
Fusion
Test
Plasma
Blanket
Loss
(Heat, Tritium)
T Loss
Emergency
Recovery
Main Fuel Cycle
Deuterium
T Loss
Ash
Tritium
Deuterium
T Loss
Tritium System
TSTA、原研、FzK などにより ITER 設計に向
けて多くの装置工学的研究が蓄積されてきた。
実用ブランケットにおいてはプラズマの挙
図1 トリチウム実験炉、ITER および実用炉
におけるトリチウムシステムの比較
動に対応して発生するトリチウムと熱はどち
らも効率よく取り出す必要があるが、実験用燃
焼プラズマが得られないこれまでは分裂炉中
性子を利用して生成した少量のトリチウムを
用いて増殖材内部の拡散や照射効果を解析し
ようとする材料工学的な研究が試みられてき
た。残念ながらこれまでの増殖トリチウムの挙
動解明に関する成果は必ずしも芳しいもので
はない。
安全閉じ込め装置は燃料システムから漏洩し
てきたトリチウムに対処するので一般に取り
扱うトリチウム濃度は低い。これまで世界のト
リチウム取り扱い実験施設では良好なトリチ
ウム閉じ込め実績を示しているが、経験則での
対処が主であったので、始まろうとしている核
図1に比較するように、今までは JET や
TFTR でトリチウム燃焼が行われたと言って
も比較的少量のトリチウムをワンススルーで
供給したに過ぎない。主燃料循環システムにつ
いてはこれまで蓄積されてきた開発研究の成
果の真価が ITER において問われることにな
るが、プラズマ容器内におけるトリチウムの挙
動の解明が大きな課題として残されている。ブ
ランケットについてはトリチウム工学の視点
から見る限り基礎現象の把握が不十分である
にもかかわらず TBM 論議が先行しているよ
うに見える。いろいろな TBM について ITER
実験から得られるトリチウム挙動データの収
集は将来の実用ブランケットに活用されなけ
- 16 -
ればならないが、それを検討できるだけの土台
チウム濃度を信号として送り出すメモリー効
の準備も必要であろう。
果が起こらないか、3)測定済みのトリチウム
トリチウム実験を行う場合には図2に示す
は規則どおりに回収して処理できるように対
ようにトリチウム実験を行う前提として取扱
処したかを4)データ解析に基づく基礎移動現
量に対応した安全閉じ込め装置を持つ施設が
象の解明、のまえに定量的に検討して、効果的
必要である。安全閉じ込めは、これまでトリチ
なシステム効果やメモリー効果の低減化対策
ウムの漏洩経路がわかり易い装置を対象に比
を講ずるように努めている。実験に使用するト
較的少量のトリチウムの安全閉じ込めに対処
リチウムの量が少なく、比放射能が高く且つ
してきたが、ITER 以降ではトリチウムの存在
HTO の化学形が多い場合には配管表面に付着
場が複雑になるとともに取扱量が飛躍的に増
するトリチウムの量は相対的に増すためシス
加するので今までの経験則が必ずしも成立す
テム効果が無視できない場合が多い。図3には
るとは思えない。過去のトリチウム加速器実験
20g のリチウムジルコネートと数十cmの 304
での壁のトリチウム汚染についての教訓を肝
ステンレス配管の表面に付着したトリチウム
に銘じておかねばならない。
量の時間変化測定値(図中実線)を配管表面へ
の付着推算量(図中点線)と比較して示したが、
増殖材部
い配管を使いながらシステム効果についての
CuO bed
Blanket module
検討なしに行ったトリチウム実験のデータ解
(HTO+HT
)
Cold trap
析には心配が残る。過去の多くの固体増殖材中
H2 gas
トリチウムの拡散係数についての報告に良い
Piping
閉じ込め Sample gas
一致が見られていない原因の一つがここにあ
Collector/Adjuster
緊急時 Tritium trap
回収除去
Stack
除染・廃棄
配管に着くトリチウムの方が大多数である。長
測定部
(HT)
Fueling system
るのではないかと考えられる。図4にはメモリ
システム部
調整・回収部
ー効果による 48CCの有効容積(実容積 113C
C・測定対象トリチウム水蒸気)を持つ電離箱
図2 トリチウム研究におけるデータ解析の
ための四検討項目
出力変化の解析結果を示した。
Li2ZrO3とシステム効果
1.0
これまでの比較的少量のトリチウムを使っ
0.8
estimated curve (piping system)
よって得られるデータが本当に着目場所の信
[-]
0.6
号であるかどうかの検討が大事である。図2に
Cout/Cin
て行ってきた基礎実験においてはモニターに
0.4
3
筆者らが行っている中性子照射した固体ブラ
2
BET surface area:0.09m /g
0
面に付着、または配管材を透過してシステム効
Inlet conc. of T2O : 196 Bq/cm
Inlet conc. of H2O : 81.8 ppm
H/T ratio : 39900
Temperature : 400 °C
Flow rate : 0.65 l/min
KF,ex2 : 8.5E-6 m/s
0.0
構成を示すが、1)トリチウムは途中の配管表
に付着したトリチウムが現実とは異なるトリ
Li2ZrO3:20.0g
0.2
ンケット材からのトリチウム昇温放出実験の
果を顕著なものにしないか、2)モニター表面
estimated curve (Li2ZrO3 + piping system)
5
10
Time
15
20
[min]
図3 リチウムジルコネート表面へのトリチ
ウム捕捉実験で見られたシステム効果
- 17 -
HTOは吸着や同位体交換反応を通じて速や
メモリー効果やシステム効果を低減した上
かに金属表面やセラミック、高分子材表面に付
で筆者らは図6に示すような段階を踏んで固
着するのでシステム効果やメモリー効果を顕
体増殖材からのトリチウム放出挙動の実験を
著にする。筆者らはこれらの効果を低減するた
続けている。配管材料におけるシステム効果や
めに気流中に水蒸気を加え好結果を得ている。
電離箱電極表面におけるメモリー効果は材料
表面に存在する水(表面水:物理吸着水、化学
55,000
]
40,000
3
45,000
Tiritum concentration [Bq/cm
50,000
Copper ionization chamber
3
Volume of casing 112.9cm
3
Effective volume 48.1cm
3
Tritium conc. 10,000Bq/cm
water vapor 1Pa
o
H/T=95 20 C
吸着水および構造水から構成される)と気相中
の水、トリチウム水蒸気ならびに水素同位体と
Output of ionization chamber
の相互作用によるものとして解析しているが、
Memory effect
60,000
35,000
30,000
25,000
最近ブランケット材表面にも多くの表面水が
存在することを確かめている。
20,000
15,000
Inlet tritium concentration
Extraction of bred
tritium from purge gas
10,000
5,000
AA
MS5A
0
0
10
20
30
40
50
60
Adsorption
after
oxidation
Time [min]
図 4
析例
Fixation by
isotope
exchange
電離箱のメモリー効果の時間変化の解
Hydrophilic
substrate with
precious metal
Cryosorption
の種々な方法について検討を加え基礎移動現
象特性値を求めるとともに、濃度変化、温度変
化、平均滞留時間変化等に対処しうる解析法を
図5
作成してきた。諸国の研究所や大学におけるト
リチウムの安全閉じ込めの実績は大きなもの
であるが、本システムの主役である触媒担体、
吸着材、コンクリート等は水の吸着容量だけで
はなく大量の構造水を持つことが筆者らによ
って確かめられたので、同位体交換反応を通じ
てのトリチウムの挙動が複雑且つ深刻なトリ
チウム汚染問題を惹き起こしうることが明ら
かになったので注意を要する。なお、図5に示
す方法は当初不活性ガス中や空気中のHT、H
TOの回収を目的として研究が進められたが
増殖ブランケットからのトリチウム回収にも
応用が可能で、極低温吸着法はITERのTB
Mでも使用が検討されている。
Porous
substrate
Fibrous
substrate
(5)
Pt-AA
(6)
Pt-MS5A
Pt-kieselguhr (7)
Pt-silica gel
(8)
Pt-asbestos
(9)
Micro metal particle
U
(10)
Spongy metal particle
Spongy Ti
Spongy Zr
Absorption
筆者らは図 5 に示すようなトリチウム回収
(1)
(2)
(3)
Silica gel
Pt-activated C (4)
Porous adsorbent
Tritium concentration in gas
(11)
(12)
(13)
MS5A
Activated C (14)
気流中からの各種トリチウム回収
結局トリチウム安全閉じ込め研究における
触媒充填塔、吸着材充填塔、トリチウム水の蒸
発挙動、金属水素吸収塔、ケイソン内、コンク
リート壁中のトリチウム挙動の解析において
も、燃料循環システム研究におけるシステム効
果、同位体分離装置、トリチウム貯蔵装置およ
びメモリー効果のトリチウム挙動解析におい
ても、また最近のブランケット研究における固
体増殖材からのトリチウム放出挙動、配管材で
のシステム効果におけるトリチウム挙動の解
析においても、着目物質中の溶解・拡散と着目
物質表面における諸移動現象を組み合わせて
トリチウムの移行・放出モデルを組立ててきた。
これらのモデルの構築にはトリチウムは水素
- 18 -
同位体の一つとして取り扱われているだけで
る。しかし今までの日本におけるトリチウム工
核融合炉のトリチウムであるということにつ
学研究の成果を ITER での成果に加味しつつ
いての配慮は何も含まれていないということ
実用炉トリチウムシステムに通じる研究を行
に留意しておいて欲しい。このような筆者らの
うには基礎現象の把握が不可欠である。中途半
考えでは固体ブランケット材からの増殖トリ
端な使用量を持つトリチウム実験室ではなく、
チウムの研究は図6に示したように 00 段階の
少量でも学術的研究の推進に使い勝手の良い
準備から始まり、システム効果・メモリー効果
トリチウム工学研究施設の建設が本来の BA
の解析の後、外から加えたトリチウムによる表
の意に沿うように思えるのだが如何であろう
面移動現象の解明、さらには中性子照射による
か。 量はITERに任せて日本は質を優先す
増殖材内部の現象解明と研究段階を追うこと
べきである。
が妥当と考えている。この考えによると第2段
0.15
(1)Temp.(10°C/min)
Tritium concentration [µCi/cc]
れらについての特性値が得られると基礎挙動
解析モデルを作り上げることが出来るため、I
TERや実用炉条件でのトリチウム放出挙動
予測は応用問題の範疇に入ることになる。この
ような条件で得られた固体増殖材からのトリ
チウムの放出挙動の解析予測値と実験結果の
LiAlO2 (JAERI) 0.1 [g]
Grain size 10 [µm]
purge gas 10,000ppm H2O/N2
10
800
-2 -1
Neutron flux 4.0×10 [cm s ]
600
Irradiation time 100 [min]
Experimental data
Estimated tritium release curves
0.10
(2)Temp.(5°C/min)
400
(3)Temp.(2.5°C/min)
0.05
Temperature [°C]
階までの研究で関与する移動現象の特定とこ
200
0
0.00
0
1
2
3
4
5
Time [hour]
比較を図7に示すが良い一致が得られている。
Effect of rising rate of temperature at out-pile release experiment
E
また他の固体増殖材についても自信を持って
図7 リチウムアルミネートからの増殖トリ
チウム放出予測と実験結果の比較
解析ができるようになりつつある。
Research steps on bred tritium
Research Steps on Bred Tritium Release Behavior
(surface and bulk phenomena)
燃料増殖補充系
効率的燃料サイクル
Step00:Tritium recovery(oxidation, adsorption, exchange reaction)
Step0: Understanding of system effect and memory effect
Step1: Non-irradiation experiments (surface phenomena)
Understanding of interactions of tritium in the gas phase with
hydrogen in surface water of breeder grain
Step2: Out-pile bred tritium release experiment (bulk phenomena)
Analysis of release behavior of bred tritium and chemical form
ぞうしょく
増殖トリチウ
Li化合物
ム挙動把握
ブランケット
Development of a way to predict tritium release behavior
安全閉込め
漏洩T
回収系
支配現象把握
発電系
電気
DT燃料精製循環系
多成分多形状
水素透過
図6 筆者らの考える固体ブランケットにお
けるトリチウム放出挙動の研究段階
ITERの実現によってトリチウムシステ
緊急時
回収系
プラズマ容器
水素製
熱
造検討
Step3: Steady state in-situ breeding experiment with fission neutron
Check of prediction for in-situ release experiment.
Step4: Intermittent fusion neutron irradiation experiment
Check of predictions
ITER
Step5: Steady state irradiation of fusion neutron
Check of prediction considering heat generation Fusion Reactor
放射線安全系
プラズマ-壁間
移動現象解明
灰
重水素
トリチウム
トリチウム透過
【核融合炉のトリチウム流れ】 回収システム
トリチウムこれからの課
題
図 8 核燃焼プラズマと関連するこれからの
トリチウム研究
ムのうちのプラズマ挙動と密接に関連する図
8 に示すような研究の飛躍的前進が期待され
- 19 -
システム計算関連の代表的報告
(1)増殖部におけるトリチウム・・・・・検討進行中
●照射Release behavior of bred tritium from irradiated Li4SiO4, T. Kinjyo, M. Nishikawa,
K.Katayama,T. Tanifuji, M. Enoeda , Fusion Sci. and Tech., vol. 48, 646-649(2005).
●表面Isotope exchange reaction on solid breeder materials, A.Baba, M.Nishikawa, T.Eguchi and
T.Kawagoe, Fusion Eng. and Des.,vol. 49–50,483-489(2000).
●表面Adsorption characteristics of water vapor on Li2ZrO3, Y. Kawamura and M. Nishikawa,
J. Nucl. Mater., vol.218, 57-65(1994).
●液体Mass-transfer propertiesto estimate rates of tritium recovery from Flibe blanket, S.Fukada,
M.Nishikawa, A.Sagara, and T.Terai, Fusion Sci. and Technol., vol.41, 1054-1058(2002)
(2)構造材・配管部におけるトリチウムシステム効果
●槽列モデルStudy on quantification of the system effect of tritium, N.Nakashio and M.Nishikawa,
Fusion Tech., vol.33,287-297(1998)
●表面捕捉容量Tritium trapping capacity on metal surface,M.Nishikawa, N.Nakashio, S.Odoi
and T.Takeishi, J.Nucl.Mater.,vol.277,99-105 (2000)
●多成分透過Permeation of multi-component hydrogen isotopes through austenitic stainless steels, T.
Shiraishi, M. Nishikawa, T. Yamaguchi, and K. Kenmotsu, J. Nucl. Mater., vol.273, 60-65(1999).
(3)測定部におけるトリチウム
●メモリー効果Ionization chamber system to eliminate memory effect, M. Nishikawa, T. Takeishi,
Y. Matsumoto and I. Kumabe, Nuclear Instr. and Meth. in Phys. Res., A278, 525-531(1989). (4)回収部におけるトリチウム ●酸化吸着A new arrangement for air cleanup system to recover tritium, M.Nishikawa, K.Takahashi,
K.Munakata, S.Fukada, K.Kotoh and T.Takeishi, Fusion Tech., vol.31, 175-184(1997).
●交換Recovery of tritium in inert gas by precious metal catalyst on hydrophilic substrate, M. Enoeda,
T. Higashijima, M. Nishikawa and N. Mitsuishi, J. Nucl. Sci. and Tech., vol.23, 1083-1093(1986)
●低温吸着Calculation of breakthrough curve of multi-component hydrogen isotope using cryosorption
bed, K.Tanaka, M.Uetake and M.Nishikawa, J. Nucl. Sci. and Tech., vol.33, 492-503(1996).
- 20 -
核融合炉実現を目指したトリチウム研究の新展開
九大院総合理工 田辺 哲朗
例えば ITER の場合、わずか 100 回程度の DT
1.はじめに
国際熱核融合炉 ITER の建設地が南仏カダラ
放電でその立地での使用許可量を超えるトリチ
ッシュに決まり、いよいよトリチウム燃焼に向
ウムが真空容器内に蓄積されてしまうと懸念さ
けた核融合研究が本格化する。核融合炉では核
れている[3-5]。このような多量のトリチウムを
融合プラズマの核燃焼を維持するために大量の
分散系で取り扱った経験は、日本はおろか世界
トリチウムが燃料として中性粒子入射系、ペレ
にも(軍事研究を除けば)無く、その安全性に
ット、ガスパフの装置を通して供給され、いっ
ついて理解されているとは言い難い。わずかな
たんプラズマ化され燃焼される。しかしかなり
量のトリチウムについても、その放射線安全性
の部分は燃焼されずにプラズマから逃げ出し、
が一般に理解さているとは言い難く、一般社会
壁に衝突してその一部は壁に蓄積されるか、ま
や他分野の理・工学研究者はもとより、核融合
たは DT 燃焼により生じた He 灰と同時に排気
研究者内においても、核融合の研究と称しなが
される。排気されたトリチウムは、それから He
ら、トリチウムの使用をためらったり、あるい
灰を取除した後、軽水素や重水素からも分離精
は核融合炉にかかわるトリチウムの放射線安全
製され、再び燃料供給系に戻される。またブラ
性についての正確な認識を欠いたまま、いたず
6
ンケットでは主に Li(n,T)He 反応によりTが
らに安全性の問題が喧伝されたりしている。
生産され、回収・精製さ
れ燃料系に供給される
[1,2]。この間、装置・シ
ステムの各所でトリチウ
ムが滞留、蓄積するばか
りでなく配管壁等を通じ
て、冷却系や系外に透過
漏洩する。図1に核融合
炉に燃料としてペタベク
レル(PBq)のトリチウ
ムを導入した際に、トリ
チウムが系外に透過漏洩
していく事をも考慮して、
必要な研究を示した。
実際に使用されるトリ
チウムは極めて多量で、
図1.核融合炉に燃料としてペタベクレル(PBq)のトリチウムを導入した際
に、トリチウムが系外に透過漏洩していく事をも考慮して、必要な研究
- 21 -
実際には、昨年
春の放射線障害防
ITER での必要量 ~ 5kg 4 x1017 Bq
自然界の平衡存在量
3 x 1018 Bq
宇宙線等による生成
1.5 x 1017 Bq/year
止法の改正に見ら
れるごとく、トリ
T 1g (4 x 1014Bq)
1021
チウムの放射線影
1018
1015
1012
109
響は他の放射性物
環境中の残留総量
2 x 1019Bq
質に比べ極めて弱
く、安全性の観点
からの理解に事実
106
103
0 Bq
規制が必要な
レベル
1945年から1973年までの核実験
による生成量 3 x 1020 Bq
からの大きな乖離
核製造施設等からの放出量
4~8 x 1016 Bq/y
が見られる。この
乖離を放置すると、
一般社会と核融合研究者間の
図2. トリチウムの自然界の存在量、核実験による生成、法的規制値等
の量等の比較
相互信頼性を欠くことになり、
これからの核融合炉開発に社会的受容性が得ら
ものから、熱化された meV のエネルギーしかも
れなくなる危険がある。プラズマ化された大量
たないガスまで 6 桁ないし 12 桁に渡る。
このよ
のトリチウムの挙動の理解と予測なしには
うな広いエネルギー範囲で出現する物理・化学
ITER はもとより核融合炉の建設はあり得ない。
現象を統一的に研究・理解することが必要であ
図2にトリチウムの自然界の存在量、核実験
り、まさにトリチウム研究に新展開が要請され
による生成、
法的規制値等の量を比較してみた。
ているのである。極めて高い濃度のトリチウム
ITER で使用するトリチウムがどのような量で
はそれ自身が発するβ線の直接的影響だけでは
あるかが、わかっていただけるであろう。また
なく、それが熱としても大きな影響を及ぼしう
規制が必要なレベルから比べて 10 桁以上強い
る。このように高濃度トリチウムを取り扱うこ
レベルであることもわかっていただけよう。
とは、単なる希釈されたアイソトープとしてで
多量トリチウムを扱う際には、わずかの量の
はなく、それ自身の重さと放射性による特殊性
損失といえども放射線としては極めて多量であ
に始めて向き合わねばならなくなった事を意味
るため、定量評価の誤差を極めて小さくしなけ
するのである。これらの課題に対応した研究の
ればならない。例えば 1 ペタベクレル PBq (1015
新展開について以下に簡単に議論する。
Bq)のトリチウムを相手にするとき、
安全性の評
価のためにはそのわずか 1/1012 の 1 キロベクレ
2.微量のトリチウムを使用した(従来の)ト
ル(1kBq)のトリチウムでさえ放射線として多大
リチウム研究の特徴
の影響を与えるうるため、見逃す事はできない
これまでのトリチウム研究は、軽水素中に希
のである。これは通常の実験室レベルでの実験
釈された放射性トリチウムのトレーサ研究と言
精度が 1/103 程度であれば十分であるである事
って過言ではなかろう。即ち、多くの場合トリ
を鑑みると、ほぼ不可能といえるほど難事業で
チウムは軽水素で希釈された状態で使用されて
ある。一般に取り扱う物理量が3桁異なるとそ
おり、キャリアである軽水素と同様に振る舞う
の根底となる物理・化学が全く異なる場合が多
現象よりも、水素中の不純物である水等の挙動
い。さらにトリチウムの持つエネルギーもプラ
に類似するような、微量成分としての化学効果
ズマ化されて keV オーダーのエネルギーを持つ
に着目してきたといえよう。軽水素との挙動の
- 22 -
差、即ち様々な現象下における軽水素/トリチウ
ムの同位体効果が両者の質量比の平方根√3 よ
りかなり大きい場合が多くなっており、これは
単に同位体の質量差による効果だけでなく、希
W
薄であることによる効果も加味されていると思
Ta
われる。またトリチウムのβ崩壊による電子の
放出や反跳ヘリウムの効果はトリチウムそれ自
身ではなく、
周りの他の原子分子に影響が及び、
Cu
ひいてはトリチウムの存在下で特異な現象を引
き起こしたりする[6]。
Ti
トリチウムが軽水素と極めて容易に同位体置
換を引き起こすことから、上に述べたように水
素中の不純物として含まれる水分子中の軽水素
と置き換わりトリチウム水分子が形成される。
図 3. グローブボックス中での手袋による材料
汚染の実例
直線型プラズマ装置 TPE で重水素プラズマ
にさらされた直径 40mm の金属円板のイメージ
ングプレートによる表面トリチウム分布の測定結
果。赤い部分がトリチウム強度が強かったところ
で、すべてグロ−ブボックスのグローブの指の
跡である。
水分子は水素ガスに比べると、化学的にも生物
化学的にも極めてはるかに活性で、1気圧の純
粋な水素ガスよりも、それのわずか 1ppm 分に
相当にすぎない 1Pa の水蒸気が引き起こす無機
物質の酸化や生体への水分の取り込みの方がは
るかに影響は大きい。トリチウムはその崩壊数
測定から検出が容易だとはいえ、極めてわずか
それぞれの持つ運動エネルギーの違いが、挙動
な量の化学形を決めるのは至難である。このた
に大きな影響をあたえる。JT-60U では、DD 反
めトリチウムの効果と言うとき、化学形の効果
応によりTが発生している。このTのプラズマ
が十分考慮できているかどうかは疑問な実験も
対向壁への蓄積挙動を調べてみると重水素や軽
多いと思われる。
水素のそれとは大きく異なっていた[7-9]。図4
水分子中の軽水素と容易に置換されることか
ら、トリチウムによる2次汚染は極めて容易に
はその一例で JT-60U の内側ダイバータタイル
起こる。少量のトリチウムを扱っている時は、
表面に蓄積された H,D,T のポロイダル方向の分
布を比較したもので、H のプロファイルが炭素
2次汚染のケアのみで良かったが、濃度が高く
再堆積層の厚さのプロファイルと同じで、H が
なると3次、4次汚染のケアまで必要になる。
炭素再堆積層に蓄積されている事を示している
即ちグローブボックス内の汚染、特にいったん
のに対し、Tのプロファイルが全く異なってい
高濃度のトリチウムを含んだ物質にふれたグロ
ることがわかる。
DD 反応で発生するTは 1MeV
ーブへのトリチウム汚染が容易に次に取り扱わ
という高いエネルギーを持っており、これがプ
れた物質への汚染に広がってしまうのである。
ラズマ中でエネルギーを失う前に、壁に入射す
(図3参照)
ると、プラズマ作動ガスの H やDに比べ、表面
から 1µm 以上の深さに直接打ち込まれるため
3.JET および TFTR の DT 放電実験および
である。
JT-60U の DD 放電実験から学んだこと。
H,D,T の挙動は単に同位体効果だけではなく、
- 23 -
このように、H、D、T それぞれが、質量が異
うることがわかってきた。即ち水素のすべての
同位体の挙動を把握しなければならない事に気
づかされたのである。
さらに現状のトカマク装置のほとんどは、炭
(a) Photograph
素材料をプラズマ対向壁として使用している。
このためプラズマと壁との相互作用研究による
知識や理解は炭素材に限られている。ITER での
(b) Deposition profile
プラズマ対向壁の選択について議論が続けられ
てはいるが[10,11]、現状では第1壁がベリリウ
ム、ダイバータドーム領域にタングステン、タ
ーゲット部分に炭素繊維強化炭素材が使用され
ることになっており[12]、それらとトリチウム
(c) H and D profiles
P S L in te n s ity
との相互作用について、あらたな研究が要請さ
30
れている。
20
(d) Tritium profile
10
4.ITER のために必要なトリチウム研究
0
0
5 0
ITER に関して言えば、
トリチウムシステムや
1 0 0
P o lo id a l c o o rd in a te [m m ]
その配管内にあるトリチウム、即ち、排気系か
らの水素回収、同位体分離、燃料供給システム
への環流等は、技術的には確率されていると言
ってよい[1,2]。しかし安全性の観点からみると、
(e) Tritium image
配管からの透過、継ぎ手パッキン部からの透過
漏洩、漏洩の検知、保守時の汚染の拡がり、計
図 4. JT-60U の内側ダイバータタイルのうち最も
排気口に近い位置のタイル(a)写真、(b)再堆層
のポロイダル方向の厚さ分布、(c) 軽水素、重水
素のポロイダル方向の蓄積分布(任意単位)、(d)
トリチウムのポロイダル方向蓄積分布。([7]による)
場でトリチウムの放射線をいかに正確に測定す
るのかも大きな問題となる。
またトカマク本体内部でのトリチウムの挙動
については、軽水素、重水素挙動より外挿する
なるだけでなく、それぞれが持っているエネル
他ない。例えば励起状態のトリチウムの挙動、
ギーが異なることにより、その挙動を大きく左
トリチウムから放出されるβ電子の影響、反跳
右することが分かったのである。一方 DT 放電
ヘリウムの影響、トリチウムと軽水素、重水素
を行った JET や TFTR での T の挙動は D のそれ
の同位体効果等は、まさにトレーサでは研究で
と類似していると思われるが、残留ガスとして
きない課題であり、むしろ軽水素、重水素から
軽水素の存在が避けられないだけでなく、プラ
の外挿が必要になろう。それにしても、どこか
ズマ対向壁として使用されている炭素との各同
で、トリチウムそのものを使った研究との突き
位体の相互作用の違い、またその後の放電のシ
合わせが必要になる。
ナリオがTの蓄積挙動に大きく影響しているこ
とがわかり、トーラス内での T の蓄積挙動を、
H や D から外挿することは間違った結果を与え
量管理等まだまだ課題が残っている。強いγ線
さらに、ITER 真空装置内部の定期点検あるい
は保守修理等を考慮すると、1000m3 近い容積が
非密封の超高濃度トリチウム源であるだけでな
- 24 -
く、中性子による放射化で生成される各種γ放
崩壊数では測定できない(108Bq 程度以上)
射核種が加わった放射線場となる。ホットセル
トリチウムの定量、108Bq 程度以上は、質量
やグローブボックス内で強度の放射線を取り扱
(密度、圧力)
、崩壊熱による測定(数桁の精
う経験はあっても、ダイバータカッセトの交換/
度しかない)
保守など、大容積の非密封線源をホットセル外
固体中のトリチウムの非破壊定量( 線
で扱うのは、初めての経験であり、先に述べた
エネルギーが低いので検出されるのは表面近
ように、そこで使われた装置や道具、ロボット
傍存在するトリチウムのみ、現状ではすべて
等による外部への汚染拡大をどう防ぐかについ
を酸化させてトリチウム水を回収しトリチウ
ては、いまだシナリオがない。トリチウムガス
ムを定量するか、トリチウムの崩壊に伴う熱
については希釈放出が可能で、環境への影響は
を蓄積定量している
少なくできるであろうが、作業環境の汚染およ
4) 使用されるトリチウムの温度
び作業員の被爆防止は極めて重要な課題である。
使用されるトリチウムの温度は固体ペレ
ットの約 20K から、室温のガスの meV、プラ
5.これからの学術としてのトリチウム研究
ズマ温度の 10keV 程度まで約9桁におよぶ。
(トリチウム研究の新規性、学術性について)
即ち固体水素からプラズマ中のトリチウム
以上のように、核燃焼を行う ITER あるいは
の非平衡熱力学、励起状態の化学が必要とな
デモ炉においてトリチウム安全を確保するため
る。
には、研究は新しい phase に入らざるを得ない
5)トリチウム透過漏洩
のである。多量のトリチウムを安全に使えるよ
水素(トリチウム)の材料中透過を避ける
うにするためには、H や D に希釈されたトリチ
ことはできない(定常状態で上流側水素分圧
ウム(を使った)研究ではなく、多量のトリチ
と下流側水素分圧をを 10-6 以下にすることは
ウムを使ったトリチウムそのものの実験研究が
至難)
必要である。しかし多量のトリチウムを使った
6) 水素(H,D,T)と He およびその他不純物の
研究を行ったら、すべてが解決するわけでは決
分離、水素同位体分離
してない。同濃度の H、D、Tを含んだ「水素」
従来のよく研究されている軽水素中の希
におけるそれぞれの同位体の挙動の把握が求め
薄 D、T の同位体分離計数が逆に D、T 濃度
られているのである。言い換えるとトリチウム
が高くHが薄い状態にも当てはまるか
特異性とはなにか、それは何故なのかを明らか
7) 水素中の不純物分子との非常に容易な同位
にすることかも知れない。課題を列挙すると
体交換
1) 放射能をもった水素同位体としてのトリチ
トリチウム化された水による汚染の広が
ウム
2) 放射線崩壊の自分自身への効果
放出する 電子の自らへの影響、発熱(崩
壊熱)の効果、崩壊時の反跳ヘリウムによる
り、炭化水素等による予期せぬ化学効果出現
8) 同位体交換または水分付着による2次汚染
9) トリチウムの除去/除洗および汚染の拡が
り防止
欠陥生成、崩壊生成物(He)の共存効果
除染計数(DF)を3桁以上にすることは至難
3) トリチウムの定量、
である。即ち、材料表面に付着したトリチウ
特に on line 定量、およびトカマク内残留ト
ムの汚染は∼3桁づつ程度が限度である。
リチウムの定量、中性子場あるいはγ線場で
TBq のトリチウムだと少なくとも3段階(3
のトリチウム線量計測、
回)汚染レベルの異なったボックスを経由さ
- 25 -
はさけられない。
せる(3次汚染4次汚染までケアする)必要
遺憾ながら、現状のトリチウム研究では、ど
があると思われる。またトカマク装置内での
トリチウム除去技術の開発は焦眉の急である。
6.おわりに
現在世界中から「ホットラボ」が消えつつあ
る。ホットラボのメインテナンスに必要とされ
の程度のトリチウム漏洩や、2次汚染、3次汚
染が起こるかを評価するには不十分と言わざ
るを得ない。トリチウム研究には新たな展開が
必要である。
かつて経験したことのない多量のトリチウ
る多額の経費を短期に回収することは不可能で
あり、トリチウム研究などに出資する 会社
ムが滞留する非密封トリチウム線源をどうあ
などどこにもあり得ないからである。日本も例
つかうのか、核融合炉研究者の自覚とトリチウ
外ではない。それどころか、たかだか(?)数
ムを念頭に置いた研究開発の要を改めて強調
GBq のトリチウムを含んだ JET のタイル 1 枚で
しておきたい。長期にわたるトリチウムの崩壊
すら、これを使って、あまり制約無く様々な実
が材料にどのような影響をおよぼすかも不明
験ができるのは独国カールスルーヘ研究所のみ
である。トリチウム以外の核種も同時に使用可
である。もちろん原子力機構のトリチウム研究
能であるトリチウム利用研究施設なしに、DT
室でも量的には1枚のタイルは問題なく取り扱
核融合炉研究を推し進めることは、無謀である
えるが、トリチウム以外の放射性物質が付随し
と言ったら言い過ぎであろうか?
ていると、取り扱えない。
(世界には軍の施設と
してトリチウムを使用出来るところは残っては
いる。
)
核融合装置が確実に動いて、新たな検査や試
参考文献
[1] H. Yohsida et al. Fusion. Eng. & Des. 61-62 (2002)513
験が必要なければ、それを取り出して検査研究
[2] D. K. Murdoch et al. Fusion. Sci. & Tech. 48(2005)3-10.
するための施設は必要無いかも知れないが、発
[3] G. Federici, et al. Nuclear Fusion, 41(2001)1967
展途上の核融合炉研究をトリチウム取り扱い施
設なしで行うなど望むべくもない。ITER にはト
[4] J. Roth et al., J. Nucl. Mater.337-338(2005)970
[5] Radiological Source Term 2002 ITER Technical Basis,
ITER EDA Documentation Series No.24 Chapter 5.3
リチウムが付随する。それもいままで、日本で
はほとんど経験できなかった多量のトリチウム
(Vienna: IAEA) p.13
[6]「トリチウム資料集・1988」 核融合特別研究総括班事
が!
業(昭和62年度文部省科研費補助金研究成果報告
書)この資料集は発行以来20年経過しているが、
ITER のトリチウム施設については、
かなりの
今なおトリチウム研究の極めて有用な資料集であ
部分が設計済みであり、システム・配管の中に
限れば、トリチウムの流れや滞留量を、3桁程
度の精度以内ほぼ設計通りに制御することがで
きよう。しかし最初に述べたように、トリチウ
る。
[7] 田辺哲朗、プラズマ・核融合学会誌 82(2006)196-204
[8] T. Tanabe et al., J. Nucl. Mater. 313-316(2003)478
[9] T. Tanabe et al.J. Nucl. Mater.345(2005)89
ム安全性を保つ、あるいは2次汚染、3次汚染
[10] T. Tanabe, Fusion Eng. & Design, 81(2006)139-147
を防ぐには、この程度の計量制御では極めて不
[11] C. H. Skinner, G. Federici, Phys. Scripta, T124
十分である。ITER は核融合炉燃焼プラズマの実
験装置であると同時に、トリチウムを利用する
(2006)18-22
[12] ITER Technical Basis, ITER EDA Documentation Series
No.24 IAEA, Vienna 2002.
実験施設である。重水炉や原子炉環境から類推
すれば、周辺環境のトリチウム汚染は防げるで
あろう。しかし施設内での汚染、作業員の被爆
- 26 -
トリチウムの環境・生物影響研究の現状と課題
茨城大 一政 祐輔
「トリチウムの環境・生物影響研究の現状と
へ変換できる酸化活性、すなわちヒドロゲナー
課題」について、我が国での最近における研究
ゼを持つことが明らかにされ、ヒドロゲナーゼ
状況の概要を以下に、「トリチウム環境研究で
活性の強い放線菌が分離同定されて、土壌によ
の課題」、「トリチウム代謝研究での課題」
、お
るトリチウムガス酸化活性と、被曝線量との関
よび「影響研究の課題」について報告する。な
係が検討された(茨城大・一政満他)。
今後の課題としては、トリチウム化メタンの
お、講演の内容に加えて、若干の説明を追加し
環境での変換系、真空ポンプから排気されるト
た。
リチウム化炭化水素の定性と定量、および環境
へ排気された場合の環境安全性の確保の観点
トリチウム環境研究での課題:
地球環境にはトリチウムがバックグラウン
からの評価研究がある。
ドとして存在すること、また1950年代に核
核融合開発に先立って、環境の安全性を定量
実験で大量のトリチウムが地球環境に放出さ
的に確保するために、事故時および平常時の被
れたことによって環境のバックグラウンドを
曝線量評価モデルの開発とその検証、およびモ
著しく増加させた。従って、核融合研究を進め
デルで使われる精度高い変換係数の研究が進
るに当たって避けては通れない研究課題とし
められている(京大・高橋他、原研・安藤・天
て、地道ではあるが継続的な環境トリチウムレ
野他)。我が国では、トリチウムガスやトリチ
ベルの変化の測定が行われてきた。これまでの
ウム水を野外環境で放出する研究が出来ない
研究成果から、我が国の最近の環境トリチウム
ことから重水素水を用いた研究を行ってきた。
レベルは降水1リットル当たり1∼3ベクレル
ITERのレフアレンスコードとして使われ
であること、緯度効果、環境トリチウム濃度の
たRaskovの事故放出被ばく線量コードである
経年変化、気団移動との関連が明らかにされて
UFOTRIでは、トリチウムガスの酸化力が地域
いる。最近における、公衆の環境安全性を確保
によって異なるので土壌酸化のデータの蓄積
するためには、極低濃度のトリチウムを精度高
が必要であることが述べられている。土壌細菌
く測定する測定技術の向上と省力化の技術が
によるトリチウムガスの酸化力の差異は、一政
求められている。また、各種の環境トリチウム
らの研究によれば、土壌に分布する水素酸化能
の化学系の定量化を可能にして、トリチウムガ
をもつ放線菌の分布の違いによってトリチウ
ス、トリチウム水、トリチウム化メタン、およ
ムガスの酸化力が異なることを意味している。
びその他のトリチウム化炭化水素の相互変換
従って国内および海外の土壌微生物のデータ
系の解明が進められている(九大・百島他)。
の蓄積が必要である。
現在、トリチウムの環境動態モデル研究は、
相互変換系について、環境に於ける研究で明ら
かにされた成果の1つは、トリチウムガスをト
国際共同研究として、IAEAの課題「EMRAS
リチウム水へ変換する土壌細菌の研究がある。
(Environmental Modeling for Radiation Safety)
土壌に分布する放線菌の研究から、いくつかの
&Tritium/C-14
放線菌は水素、トリチウムガスをトリチウム水
られている。2005年11月にウイーンで第3回
- 27 -
Working Group」のもとで進め
IAEA-EMRASの全体会議と第5回トリチウム、
14
C作業部会が5日間の日程で行われた。日本か
トリチウム代謝研究での課題:
らは放医研の宮本他4名が参加した。話題にな
核融合研究装置や核融合実験炉が稼働する
った具体的な課題は、①フランス・ロワーヌ川
と、核融合施設から環境にリークするトリチウ
の水圏生態系におけるトリチウム動態解析と
ムの化学形は、各種のトリチウム化炭化水素や、
モデル構築と評価。ちなみに、フランス・ブア
トリチウムガス、トリチウム水と考えられる。
ルドック(Valduc)研究所での年間平均降水の
トリチウムのヒトへの被曝線量は化学形によ
トリチウム濃度は20∼150Bq/L②カナダのパー
って異なり、トリチウム水はトリチウムガスよ
チ湖の水圏生態系におけるトリチウムの動態
り約15000倍体内に取り込まれやすいこ
解析とモデル構築とその解析。パーチ湖(The
とから、被ばく線量が高くなっている。
Perch Lake) の湖水のトリチウム濃度は2,000
施設から環境にリークしたトリチウムガス
∼10,000Bq/L(季節変化)であり、ピッカリン
をヒトが吸入するとその一部は体内でトリチ
グ(Pickering)原子力発電所での降水濃度は200
ウム水に変換される。我々の体を構成する細胞
∼3,700Bq/L(月変化)③CANDU炉周辺の陸生
は水素ガス(トリチウムガス)を水(トリチウ
および水圏生態系のトリチウムの動態解析と
ム水)へ変換する酵素・ヒドロゲナーゼを持た
モデル化とその検証。④各国のモデルの相互比
ず、体内での変換(水素の酸化)の主体は腸内
較と改良などである。CANDU炉周辺環境のト
に生棲する一部のヒドロゲナーゼを持つ腸内
リチウム濃度は僅かに高い値を示し、例えば、
細菌であることが明らかになっている(一政
韓国Wolsong原子力発電所周辺の降水では120
ら)。この種の腸内細菌は、マウス、ラット、
∼260Bq/L、松葉の組織遊離形トリチウム(TF
猿、ヒトの糞便で排泄されることから、これら
WT)は80∼430Bq/Lであり、松葉の組織結合
の菌の環境での生息の調査が行われた。その結
形(OBT)は90∼480Bq/Lであることから、こ
果、生活廃水で汚染が高い地域では大腸菌を含
れらの場所を研究のサイトとして有効に活用
む腸内細菌が認められたが、土壌からは確認が
して国際協力の形態で、トリチウムの環境影響
出来ずに、土壌のトリチウムガス酸化を担う菌
研究が進められるのが望ましい。さらに、核融
は放線菌で、中でも
合実験施設で発生するトリチウムの化学形を
Kitasatospora属、Mycobacterium属などであるこ
系統的に計測して、トリチウムが環境にリーク
とが明らかにされた(一政満他)。
Streptomyces 属 、
した場合の実験的な基礎データが必要である。
トリチウムガスを吸入すると、ガスは肺胞に
本年、2006年6月7日から9日の3日間、上記の
到達し、血液中へ拡散で移行すると考えられ、
第5回に続き、第6回会合がパリで開催された。
血中へ移行したトリチウムガスは腸管に達し
会議では、①水圏のシナリオ、 ②飼料と動物
て腸管内へ移行して、腸内細菌の作用でトリチ
14
のOBTのシナリオ、③ Cと米、 Cとジャガイ
ウム水へ酸化されて、生成したトリチウム水が
モのシナリオ、④OBTの実験手法など、が検討
血液へ移行して、全身へ分布し、呼気、糞便や
された(放医研・宮本、私信)。EUではITER
尿で生物学的半減期として約10日で体外へ排
によって環境研究にも力が込められているよ
泄される。しかし、将来、高い濃度のトリチウ
うだが、日本からも会議に放医研・宮本他4人
ムガスを吸入したときに備えるための、肺胞細
が参加して、努力は継続している。
胞や腸内、皮膚の細胞に対する安全性の確保に
14
次回の会議は2006年11月にウイーンで開催
が予定されている。
関する基礎研究を実施するには370GBq(10
Ci)を取り扱える動物実験施設の設置が望まれ
- 28 -
に低い130mGy投与による誘発突然変異
る。
一方、トリチウムの食物連鎖および線量評価
頻度を研究しているが、中性子線においては低
の研究は他のリスクとの兼ね合いで考察が進
線量で逆線量率効果が観察されるのに対して、
められている(放医研・武田他)。
トリチウムに於いては逆線量率効果なども見
られてないので、さらに詳細な研究が必要であ
る(茨城大・田内他)。
影響研究での課題:
最近の施設周辺での放射線の安全性研究で
その他、トリチウム低線量の生物影響研究で
は、低線量(率)トリチウムの影響研究が注目
は、高感度に放射線を検出可能なトランスジェ
されている。環境研究の課題でも述べたが、
ニックマウスの開発(広大・神谷他)、トリチ
1960年代の原水爆実験が行われていた時代、海
ウムベータ線によるアポトーシスの誘導、トリ
外で雨水のトリチウム濃度は高いところでは
チウムのホルミシス効果の解析が遺伝子レベ
1リットル当たり700Bqであった。一方、我が
ルで行われており、トリチウムによるDNA損
国での当時の記録には1リットル当たり12-
傷修復研究も進行中である(産業医大・法村他、
180Bqのデータがあり、その値はその後漸次減
京大・小松他、茨城大・立花他、東北大・小野
少して、今日では1-3Bqになっている(核融合
他)。低線量放射線の生体への影響解明の研究
研・佐久間他、九大・岡井他)。公衆の線量限
に於いてはそのメカニズムを明らかにして、メ
度は1mSvであることから、ヒトの培養細胞を
カニズムで安全性を説明することが出来るよ
使って、細胞核の損傷をコメットアッセイ法で
うになることが早急な課題である。
1mSvのトリチウムに曝して評価したところ細
胞核の傷の程度は対象区と比較して差異が認
その他:
められなく、異常は見られなかった(一政ら)。
土壌放線菌によるトリチウムガスの強い酸
一方、環境ホルモンに汚染されている場合を
化能力を利用する形で、放線菌を培養してバイ
想定してトリチウムの影響を推察する研究が
オリアクターを作り、トリチウムガスの除去シ
行われた(一政ら)。胎児期のマウスはビンク
ステムの研究が行われた。すなわち、各地の土
ロゾリン(1日当たりマウス体重1kg当たりビ
壌から分離した各種の放線菌にはトリチウム
ンクロゾリン150mgの投与で環境ホルモン作
ガス酸化能が様々に異なるので、この中で、酸
用を示した)に対して感受性が高く、特に妊娠
化活性の強い放線菌を培養増殖して、バイオリ
14-18日に仔マウスの雄の雌化が見られた。丁
アクターを作製して、作業環境のトリチウムガ
度、この時期にトリチウム水100mGyを同時に
スの除去が可能であるか否かが、日本原子力研
投与したが、ビンクロゾリンの環境ホルモン作
究所TPLのケイソンを用いて試験された。現在
用に対して促進も抑制効果も見られなかった
では回収率80%のバイオリアクターとして
(一政他)。
利用可能であるとのデータが得られている(一
ヒトの正常培養細胞にDNAやRNAのサルベ
政他、原研・山西他)。
ージ合成に必要な酵素のヒポキサンチンーグ
トリチウムの環境・生物影響研究は主として、
アニンーホスポリボシルトランスフエラーゼ
核融合科学研究所のLHD計画共同研究経費、放
(Hprt)機能を欠失したハムスターX染色
射線医学総合研究所研究経費で行われ、その研
体を導入することによって放射線による突然
究の一部分は日本原子力研究所核融合研究施
変異の高感度検出系培養細胞を開発して、この
設を利用する研究協力によって実施されてい
細胞を用いて低線量トリチウム300mGy、さら
る。
- 29 -
トリチウムの環境・生物影響研究の新展開
(財)電力中央研究所
これまでトリチウムの環境・生物影響研究は、
酒井
一夫
低線量の放射線により抵抗性が誘導される「適
環境中に放出された放射性物質がどのような
応応答」や、線量率が低くなるにつれて障害の
経路をたどって人間に至り、どれほどの線量を
程度が低減される「線量率効果」などの分野で
与え、どれほどの影響を及ぼすかという「ソー
トリチウム生物学が果たしてきた役割は大き
スから人体影響まで」をトータルに理解する上
い。これらの成果は今や、低線量・低線量率放
で先駆的な役割を果たしてきた。これは昨今の、
射線生物影響評価として広く展開しつつある。
環境(人間以外の生物種)の放射線防護を重視
この分野の研究が進むにつれ、低線量・低線量
する動きの中で時代を先取りしていたとも言
率の場合には、従来放射線防護の立場から仮定
える。トリチウムで得られた成果をひとつの典
されてきた「しきい値なし直線モデル」よりも、
型例として、人間の活動の様々な局面で環境中
実際のリスクは小さいことを示す知見が蓄積
に放出される放射性物質の影響評価が展開す
されつつある。このことは、より的確なリスク
るものと期待される。
評価につながるとともに、核融合炉を含めた放
環境中に放出される放射性物質による被ば
くは、低線量・低線量率被ばくと想定されるが、
射線の利用に関する社会的な受容に大きく貢
献するものと期待される。
- 30 -
(2) 秋の大会:核融合工学部会企画セッション
「レーザー核融合炉工学に関する最近の研究の現状と課題」
高速点火液体壁レーザー核融合炉 KOYO-F
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
本年の原子力学会の2006年秋の大会
乗松孝好
を受けてスタートしたいきさつがある。
(於北海道大学、9月27日から29日)で同
企画セッションは炉設計委員会副議長であ
核融合工学部会の企画セッションとしてレー
る小職による「高速点火液体壁レーザー核融合
ザー核融合炉設計委員会が行った高速点火核
炉 KOYO-F」の報告、東京大学小川雄一先生に
融合炉KOYO−F(図1参照)の報告を行い、
よる「高速点火固体壁炉の概念」の報告、両者
好評を得たので報告する。
に共通するレーザー技術としてレーザーエネ
ルギー学研究センター河仲準二助教授による
「炉用レーザーの新展開」の各30分の講演と、
液体金属研究者である大阪大学堀池寛教授に
よる「液体金属流についてのコメント」、九州
大学の深田智教授による「トリチウム燃料系」
についてのコメント、京都大学小西哲之教授に
よる「炉システム」に対する各15分のコメン
トで構成された。
KOYO-F の紹介では最新のシミュレーショ
ンコードで球対称性を損なうコーンが付いて
図1
いても高密度圧縮が可能であること、実験結果
高速点火核融合炉KOYO−Fの概要
に基づく加熱効率で、炉を経済的に運転するの
本委員会はIFEフォーラムの支援の元に、
に必要な100を超える160の核融合利得
レーザーエネルギー学研究センターとの共催
が得られたこと、高繰り返しの信頼性を高める
の形で、平成16年3月から17年9月にかけ
蒸発金属ガスの澱み点のない炉構造、液体金属
て開催し、最近研究が進展している高速点火方
カスケード(小さな滝が連続した物)方式によ
式を導入することにより、レーザー核融合炉が
る表面保護の概念(図2参照)、大量生産に適
どのように変わるかを明らかにするために概
した燃料充填法などが紹介された。高速点火固
念設計を行ったものである。この委員会は「レ
体壁炉の概念では比較的少ない核融合出力で
ーザー核融合エネルギー開発ロードマップワ
炉を構成することのできる高速点火を生かし、
ーキング委員会」
(2002 年 1 月∼2003 年 10 月)
爆縮レーザー:300kJ、加熱レーザー:1
の成果と、同委員会で高速点火方式によるレー
00kJ、Gain=100、核融合出力=40MJ、
ザー核融合炉概念設計を実施すべきとの指摘
繰り返し30Hz を前提に、電気出力=400
- 31 -
MW を目標としている。この方式ではコーン
技術の基礎研究をスタートする必要があるこ
は用いず、プリパルスによるホールボーリング
とが指摘された。第一壁を傾斜させ、蒸発ガス
効果で加熱レーザーを爆縮されたコアまで導
の澱み点をなくすことに関しては、蒸発ガスの
く方法が採用されている。炉用レーザーの新展
横方向成分の影響を評価すべきとの指摘があ
開では冷却 Yb:YAG セラミックレーザーを用
った。
いることにより、必要な電気からレーザーへの
変換効率を確保し、圧縮レーザーはもとより、
点火レーザーも建設可能であることが示され
た。また、量子効率が高く、蛍光寿命が長いこ
とにより、レーザー核融合炉建設コストの大半
を占めると考えられていたレーザーダイオー
ドの個数が1/3に低減できることが示され
た。
図2
液体金属カスケード方式による表面保
護の概念
これらの報告に対し、堀池教授からは諸外
国の液体金属研究の現状、京都大学の功刀助教
授と共同で進めている自由界面を伴う流れの
シミュレーションの評価結果が報告され、流量
制御の必要性が示された。深田教授からは液体
金属・気相、液体金属、固体壁間のトリチウム
の移動係数に関するデーターの蓄積が必要で
あることが指摘された。小西教授からは炉とし
てのレーザー核融合の優位性が指摘され、炉に
関しては成立性を議論する時代から信頼性を
議論する時代に変わったこと、本格的な炉要素
- 32 -
高速点火固体壁炉の概念
東京大学高温プラズマ研究センター 小川雄一
東京大学大学院新領域創成科学研究科 後藤拓也、寺井徹、二宮大輔
電力中央研究所 岡野邦彦、朝岡善幸、日渡良爾
1.はじめに
高速点火の概念は、レーザー核融合炉研究に
2.炉心プラズマ設計
全く新しいブレイクスルーの可能性をもたら
図1に簡単なモデル[2]モデルに基づいたペ
した。爆縮と点火を一体に行う中心点火方式で
レット利得の計算結果を示す。ηc = 5−7%, α
は、この両者を共存させるためにレイリー・テ
= 2 ‒ 2.5 に対して、レーザーエネルギーEinj
イラー不安定性などの制御をはじめとして、
= 300 -500 kJ であれば、ペレット利得 G=100
様々な工夫がされてきている。それに比べて高
以上を得られる可能性が示されている。これを
速点火方式では、夫々を独立に達成・制御させ
受け、我々は、レーザーの繰り返しショット数
ることにより、中心点火での問題点が大幅に緩
を 30 Hz とて、核融合出力が Pf = 1 ‒ 1.5 GW
和させることができる。
で電気出力 Pe = 0.4-0.5 GWe の核融合プラン
核融合炉の観点からも、高速点火方式は、従
トの設計を行っている。
来の中心点火方式とはかなり異なったコンセ
プトによる斬新なレーザー核融合炉の可能性
を有している。例えば、高速点火方式では一回
の核融合出力を中心点火方式の場合と比較し
て、数分の一に下げることが出来る。我々はこ
の利点を最大限に活かすべく、固体壁チェンバ
ーによるレーザー核融合炉の可能性を探求し
ている。
液体壁の課題の一つとして、液体壁表面から
の蒸発によるチェンバー内の圧力上昇のため、
次のペレットを打ち込みレーザーを照射する
図1簡易モデルによるペレットゲイン計算
のに十分な時間を待たなければならない点が
挙げられる。例えば、Koyo-Fast 炉設計では1
つのチェンバー内での繰り返し回数を 4Hz に
制限している[1]。固体壁では、蒸発ガスが少
ないので、高繰り返し運転が可能となる。従っ
て、1ショット当たりの核融合出力は小さいが、
繰り返し数を増やすことにより、核融合プラン
トとして魅力ある炉を設計する事が可能とな
る。
1次元爆縮コード ILESTA[3]を用いて高速
点火を模擬したシミュレーションを開始した。
ここでは爆縮用レーザーで圧縮された燃料(点
火していない条件)に対して、高速点火レーザ
ーを模擬すべく、その中心領域に人為的な追加
熱パワーを付加した。シミュレーション結果を
図2に示す。爆縮レーザー:350kJ、加熱レー
ザー:50kJ(加熱効率を 20%と仮定)とした。
- 33 -
爆縮レーザーのみでは電子温度は数 keV であ
ので、その面積は S=4πR2 となる。従って、平
るが、圧縮された状態で、加熱レーザーを模擬
均的な熱負荷はレーザー核融合炉の方が緩や
すべく t=17.74ns において加熱パワーを中心
かである。
部に注入すると、急速な加熱が起こり、10keV
一方、レーザー核融合炉では、その熱負荷が
以上の温度となる。その結果、中心部が点火条
nsec オーダーであるので、瞬間的なワット数
件を満足するので、その後は炉心燃焼(点火)
は格段に大きい。またアルファ粒子やデブリが
が起こる。ここではその結果、ゲイン=77が
高速で飛来する、などの特徴がある。磁場核融
得られた。今後、爆縮用レーザーの最適化など
合の場合と比較して、レーザー核融合炉のチェ
を行うことにより、G=100 以上のゲインを目
ンバー熱負荷の特徴をまとめると以下のよう
指す。
になる。
・ショットごとの瞬間的なワット数が大きい
―>断熱的な温度上昇をもたらすので、第一
壁が溶融するかどうかが問題となる。
・高速イオン(アルファ粒子やデブリ)が多い
―>表面深く打ち込まれるので Blistering
や Exfoliation が懸念される
・繰り返し数が多い
―>高々数十 Hz であるので、ELM と同程度
高速点火方式では1ショットあたりの核融
合出力を小さくできる。我々の設計では約
40MJ であるので、チェンバー半径が 5−6mで
も、固体壁への熱負荷は 1-2 J/cm2 程度に抑え
図2.1 次元爆縮コード ILESTA による高速点火の模
られ、タングステンやカーボンなどをアーマ壁
擬シミュレーション結果。上段:ペレットサイズの時
として導入できる可能性を示唆している。なお
間変化、下段:電子温度の時間変化。加熱レーザーを
アルファ粒子、D や T の燃料、デブリなどによ
模擬すべく、t=17.74ns に中心に加熱パワーを注入し
るスパッタリングやブリスタリングが大きな
た。
問題となる可能性がある。ただし磁場閉じ込め
方式と違い、レーザー方式ではチェンバーには
3.固体壁設計に対する考察
大きな電磁力などは作用しないし、薄いコーテ
磁場閉じ込め方式では、核融合出力の 20%に
ィング膜程度でも十分に高速イオンを止めら
相当する熱負荷の大部分をダイバータ部で除
れるので、例えば in situ のコーティングなど
熱する。ダイバータ板の実効的な幅を∆とする
のアイデアも考えられなくは無い。
と、熱負荷を受ける全面積 S は概ね
候補材料として高融点のカーボンやタング
S=2*(2πR)*∆となり、非常に大きな熱負荷がダ
ステンが挙げられているが、ここでは tritium
イバータ板に集中する。一方、レーザー核融合
retention 低減の観点から、米国の HAPL 計画
炉では、熱負荷をチェンバー表面全体で受ける
と同様に、タングステンアーマ(厚さ1mm程
- 34 -
温度が最も高くなるのは CH や D,T が飛来し
度)+Ferritic Steel の設計を採用した[4]。
この設計の課題として以下の 3 つが挙げられ
た時であるが、それでも高々2200K よりやや低
ている。
い程度である。従って、一回のショットでタン
・Thermal/mechanical fatigue
グステンは融点を超えることはない。なおこれ
・Helium retention(blistering,exfoliation)
を連続的に 30Hz で繰り返した場合の温度変化
・bonding
も計算した。その結果、最大温度は緩やかに上
ここではまず、1 次元熱解析コードを作成し、
昇するが、数秒∼10 秒程度で 2200K 程度で飽
各部の温度特性、熱伝達係数等の物理定数の効
和した。従って、タングステンが溶融すること
果、などを調べた。図3に計算モデルと計算結
は無いことが判明した。
次に、blistering/exfoliation によるタン
果を示す。第一壁のタングステンへの熱入力条
件は以下のとおりである。
・X 線(ピーク:20keV)0.38MJ
グステンの損耗を簡単なモデルで評価してみ
た。ここでは以下の条件を仮定する。
・アルファ粒子(ピーク:2.7MeV)1.06MJ
・アルファ粒子は約 2µm の深さに入射
・カーボン(ピーク:1.1MeV)3.7MJ
・exfoliation は 1022 He/m2 で起こる
・水素(ピーク:0.09MeV)0.31MJ
上記の数値を用いると、タングステンの損耗量
・重水素(ピーク:0.12MeV)0.81MJ
は年間約 2.3mm となる。なお物理スパッタリン
・トリチウム(ピーク:0.18MeV)1.21MJ
グ率は 0.006 以下であるので、これによる損耗
量は年間約 0.08mm である。
一方、最近の HAPL 計画でのタングステンへ
の高速ヘリウム注入実験では、毎ショットごと
にタングステンが 2000K 程度まで昇温するこ
とを加味すると、一種のアニーリングが起こり、
単純な蓄積効果に比べて、Helium retention
が 1/20 程度まで低減する可能性が示されてい
る[5]。
以上の考察より、毎年または数ヶ月ごとに
1mm から数ミリ程度のタングステンコーティ
ングを行えば、第一壁のアーマ機能が保持でき
る可能性があると言えよう。
4.メインテナンスに対する考察
レーザー核融合炉のメインテナンス方式に
ついても検討中であるが、磁場方式と違いレー
ザー核融合炉では炉心部が非常に単純な構造
図3.上段:1 次元熱負荷計算モデル
下段:夫々の深さでの温度の時間変化
をしているので、斬新なアイデアに基づくメイ
ンテナンス方式の導入の可能性もある。
メインテナンスの基本的なコンセプトとし
- 35 -
て、チェンバーを 20 個のセグメントに分け、
これを上部に引き抜く方式を採用した。
fueling*4 [Yen/kWh]
0.19
total COE [Yen/kWh]
29.34
*1 The cost of pellet factory assumed to be 40BYen
5.システム設計およびコスト評価
*2 FCR is assumed to be 10.97%.
システムコードを用いてプラント全体のシ
*3 Including the cost of periodic replace of blanket
materials and final optics
ステム設計、および初期的なコスト評価を行っ
た結果を表1、2に示す。電気出力約 370MWe
であるため、COE が約 29 円、と比較的高めに
なっている。ただし capital cost を出来るだ
け抑えた(ここでは約 4000 億円)プラント設
計が可能であることが示せている。
*4 Not including pellet manufacturing cost
6.まとめ
中心点火方式と比較して、高速点火方式では
1ショットあたりの核融合出力が 1/10 程度に
まで低減できる。これを活かした設計として、
固体壁を有する核融合炉の可能性を探求して
表1
プラント全体のシステム設計
chamber radius R[m]
5.64
input energy Ein[MJ]
0.4
pellet gain G
101
fusion pulse energy Efus[MJ]
40
pulse repetition rate frep[Hz]
30
neutron wall load [MW/m2]
2.4
plant thermal power Pth[MWth]
1385
gross electric output Pe,g[Mwe]
575
recirculating power PL[MW]
154
plant electric output Pe[Mwe]
369
いる。具体的には、レーザーの繰り返しショッ
ト数を 30 Hz とて、核融合出力が Pf =
1.4 GW
で電気出力 Pe = 0.37 GWe の核融合プラントを
設計している。炉心プラズマ条件として、Einj
=400kJ 程度で G=100 の可能性を探求しており、
第一壁としてはタングステンアーマの健全性
の評価を進めている。またメインテナンス方式
として 20 分割引き抜き方式の詳細設計を行っ
ており、初期的なコスト評価も行った。
参考文献
[1] K. Tomabechi el al., “Conceptual design of laser fusion
表2
reactor KOYO-fast”, Proc. 4th Int. Conf. on Inertial
初期的なコスト評価(Unit:BYen)
buildings and facilities
55.4
first wall, blanket, vacuum vessel, etc
60.1
turbine and electric plant equipment
62.7
Fusion Sciences and Application, Bearritz, France,
September 4-9 2005, J. Phys. IV France, Vol.133, p.837
(2006)
[2]
畦 地 宏 , プ ラ ・ 核 学 会 誌 , Vol.81
Supplement,(2005), pp.2-10.
heat transport system
26.8
target fabrication, injection system*1
55.0
other plant equipment
36.4
laser system
33.5
direct engineering cost
328.8
helium irradiated tungsten as a first wall material”, J.
total plant capital cost
403.2
Nucl. Mater., 347, 289 (2005).
[3] H. Takabe et al., “Scaling of implosion experiments for
high neutron yield”, Phys. Fluids, 31, 2884 (1988).
[4] A. R. Raffray et al., “DRY-WALL SURVIVAL UNDER
IFE CONDITION”, Fus. Sci. Tech., 46 417 (2004).
[5] S. B. Gilliam et al., “Retention and surface blistering of
2
capital* [Yen/kWh]
18.24
operation and maintenance*3 [Yen/kWh]
10.90
- 36 -
炉用レーザーの新展開
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
河仲
準二
YAG セラミクスが実現され、大出力レーザーの
1.はじめに
大阪大学レーザーエネルギー学研究セン
高繰り返し化を実際に検討できるようになっ
ターでは、これまで大出力ナノ秒パルスレーザ
た。[1] 加えて、発光種に対しても従来のネオ
ー「激光 XII」 (6kJ@12beams, 2ω)を開発し核
ジウム(Nd)系材料に加え、エネルギー蓄積能力
融合研究に供与してきた。近年、新しい核融合
の高いイッテルビウム(Yb)系材料が登場した。
方式として「激光 XII」とピコ秒加熱レーザー
同材料は蛍光寿命が長く半導体レーザー(LD)
を組み合わせた高速点火方式を提案し、点火に
励起に適していることから高い効率も期待で
向けて大出力ピコ秒レーザー装置「FIREX-I」
きる。しかし、誘導放出断面積が僅かに低く、
(10kJ@4beams, ω, 10ps)を現在建設中である。
加えて準 3 準位系レーザー材料であるため蓄
一方、NIF(米国)、LMJ(仏国)、SGIII(中国)
積エネルギーの引き出し効率が低いことが問
ではメガジュール出力(3ω)の巨大な核融合レ
題点である。我々は、これらの問題点を解決す
ーザー施設を建設中であり点火実証は目前に
べく低温冷却型 Yb:YAG セラミクスに着目し検
迫りつつある。これらのレーザー装置は大口径、
討を進めてきた結果、現実的な炉用レーザーの
高パルスエネルギーの観点からレーザーガラ
可能性を示すことができた。
スを増幅媒体としたフラッシュランプ励起固
体レーザーであり、レーザーガラスの低い熱耐
2.低温冷却型 Yb:YAG セラミクス
力のため単一ショット動作である。実用炉用レ
Yb:YAG は、吸収波長が高出力半導体レーザ
ーザーにはメガジュール出力に加えて 16Hz の
ーの発光波長と同じ 940nm 付近にあり、蛍光寿
繰り返し動作、>10%の電気−光変換効率が求め
命が 1ms 程度と長いため励起源として輝度の
られるため従来のレーザーガラスで実現性の
低い LD の光エネルギーを長時間にわたって蓄
高い概念設計をするのは困難であった。炉用レ
積できる。このため、Nd 系材料に比べて LD の
ーザー開発における最も重要な課題の1つは
初期導入コストを大幅に低減できる。吸収スペ
新しいレーザー材料の開発である。炉用レーザ
クトル幅は広く Nd:YAG のような LD の精密な温
ー材料には、適切な誘導放出断面積、高い熱耐
度制御の必要がなく扱いやすい。誘導放出断面
力、材料の大型化が特に重要な要因として挙げ
積は 2x10-20cm2 程度(飽和フルーエンス:∼
られる。
10J/cm2)と小さく高いエネルギー蓄積能力を
一般的に結晶はガラスに比べて熱伝導率や
示している。加えてドープ量も Nd 系の 10∼20
熱衝撃係数が高く高平均出力動作に適してい
倍大きくできるので単位体積あたりのエネル
るが、大型化が困難であるため大口径の kJ 級
ギー蓄積密度を極めて高くすることも可能で
レーザーの実用化に至らなかった。近年、セラ
あり増幅媒体の形状に自由度を持たすことが
ミクス技術の進歩により光学特性や硬度など
できる。非輻射遷移による熱発生は入力の 10%
の物性値が単結晶とほぼ変わらない高品質
以下と低く Nd 系材料の 1/3∼1/4 である。結晶
- 37 -
のように極めて大きい。[6,7]
望ましい領域
1000
T=40
①材料の温度によって誘導放出断面積を制
熱衝撃係数 (W/m)
Yb:YAG
御することができ、光学系の典型的な破
100
T=150K
壊 閾 値 ( 例 え ば AR コ ー ト で は
Nd:YA
T=300
10J/cm2@1ns)に対して高すぎる飽和フル
ーエンス(低すぎる誘導放出断面積)を
10
下げる(上げる)ことが可能となり、現
Yb:glas
Nd:glas
在の光学系を用いて蓄積されたエネル
1
0.5
1.0
5
10
50
ギーの高効率な引出しが実現できる。
誘導放出断面積 (x 10-20 cm2)
(図 1)
図 1 種々のレーザー材料の誘導放出断
面積と熱衝撃係数
②低温では結晶の熱伝導率が高くなり、ま
た、線膨張係数および dn/dT は減少する
の高い熱伝導率と相まって熱問題に関する制
ため、熱耐力が相乗的に強化される。
約は大きく緩和される。しかしながら、Yb:YAG
③4 準位動作が可能となり現在のスタック
の誘導放出断面積は室温では小さいため(図
型高出力 LD の輝度においても高効率動
1)、蓄積されたエネルギーの効率良い引き出し
作が実現できる。
には高いエネルギーフルーエンスでの動作が
必要であるが、光学系の破壊が起きてしまうの
でマルチパス増幅などの工夫が必要である。加
3.レーザー動作試験
低温時における Yb:YAG 材料の性能を評価す
えて、Yb:YAG を含めた Yb 系レーザー材料は室
温では準 3 準位系レーザー材料であり高いレ
ーザー利得に必要な反転分布を得るためには
50kW/cm2 以上の強励起が必要である。これまで、
室温における高出力短パルスの LD 励起 Yb:YAG
レーザーは数多く研究されているが、高いスト
るため、低出力発振器を開発しレーザー出力を
測定した。厚さ 2mm のディスク型 Yb:YAG 結晶
(25at.%、5mmx5mm)をレーザー材料として用
い、クライオスタットに取り付け 4K∼室温に
おける任意の温度に冷却した。
ークス効率(hνLaser/hνLD)にもかかわらず光−
2
励起強度 (kW/cm )
0
光変換効率は 10%∼40%程度と低い。[2-5] こ
けるレーザー下準位の再吸収であり、励起に使
用する LD の高輝度化が望まれる。
我々は Yb 系材料の誘導放出断面積を制御し、
同時に効率のよい 4 準位系レーザー材料とし
て用いるために同材料を低温に冷却すること
1
10K
レーザー出力 (mW)
の主要な原因の1つは準 3 準位レーザーにお
0.5
500
40K
70K
100K
130K
150K
180K
400
300
200
100
を試みてきた。冷却にクライオスタットを使用
することは装置として多少の重荷になるが、Yb
系材料の場合、代価として得られる利点は以下
- 38 -
0
100
200
300
400
LD出力 (mW)
500
600
図 2 励起出力に対するレーザー出力
Output
Thin Film
Couple AO
r
Q-switch Polarizer
HR
Mirror
HR
Mirror
Fiber-coupled
LD
LN2
Cryostat
Focusing
Lenses
Flat
Dichroic
Mirror
図 3 低温 Yb:YAG による高平均エネルギー密度動作
次に、冷却 Yb:YAG のエネルギー蓄積能力と
共振器長は 75mm であり、LD(出力∼1W)を
熱耐力を評価するために高平均エネルギー密
励起源として用いた。実験図の詳細は参考文献
度試験を行った。[9]パルス動作下で行うため
8 に譲る。結晶温度の低下とともにスロープ効
Q-スイッチ発振器を開発した。(図 3)Yb:YAG
率およびレーザー発振閾値は改善され、温度
結晶は 25 at.%、厚さ 0.6 mm、断面積 6 mm x 6
100K 以下では共にほぼ一定であることから 4
mm のものを使用し、効率よい熱除去のために
準位動作が実現していることが分かる。(図 2)
結晶を 2 枚のサファイア板で挟み銅製のクラ
このとき、スロープ効率は 90%が得られており、
イオホルダーに取り付けた。結晶冷却には液体
非輻射遷移による損失の理論値が 8.4%である
窒素クライオを使用した。励起には最大出力
ことを考えるとほぼ理論限界値を達成してい
135W のファイバー出力 LD(コア径 600 µm)を用
る。[8] また、最大励起強度 1.3kW/cm2 におけ
いた。結晶上での集光径は 1.5 mm であり、最
る光−光変換効率は 70%と高く、現在入手可能
大励起強度は 7.6 kW/cm2 である。LD 光の発光
な輝度の高出力半導体レーザーにおいても複
出力に対する発振出力を図 4 に示す。122 W 励
雑な集光光学系を必要とすることなく高効率
起時に最大 70 W が得られた。Yb:YAG の単位体
動作が実現可能である。
積から 66 kW/cm3 の高平均エネルギーが得られ
たことに相当する。パルスエネルギーは
10mJ(@ 7kHz)が得られ、9.4 J/cm3 の高いパル
80
レーザー出力 (W)
スエネルギー密度に相当し高い蓄積エネルギ
60
ー能力を示した。スロープ効率は 66%と高い。
CW (slope 71%)
40
4.炉用レーザーの概念設計(主増幅器)
0
0
これまでの分光測定やレーザー動作試験で
5 kHz (slope 66%)
20
得られたデータを基に主増幅器の概念設計を
行った。図 5 は構成図である。ナノ秒パルス発
20
40
60
80
100
120
LD 出力 (W)
図 4 高平均エネルギー動作時における
LD 出力に対するレーザー出力
振器からの時間・空間的に良好な nJ パルスを
多段の前置増幅器で kJ 出力に増幅する。40 ビ
ームに分けられた後、主増幅器で全出力として
- 39 -
爆縮レーザー
3倍高調波
nsパルス
発振器
前置増幅器
主増幅器
(32beams)
(~ kJ, NIR)
(~ MJ, NIR,
40beams)
2倍高調波
(1.1MJ, blue, ns)
OPCPA
(8beams)
モードロック
ps発振器
パルス伸張器
パルス圧縮器
加熱レーザー
(0.1MJ, NIR, ps)
図 5 炉用レーザーの構成
2.1MJ 出力を得る。32 ビーム、1.7MJ は 3 倍高
光変換効率は 12%(含クライオ電力消費分)で
調波に変換され、波長 343nm、パルスエネルギ
あり、目標である 10%をわずかながら上回った。
ー1.1MJ を得て爆縮レーザーとなる。残りの 8
Yb:YAG の高いエネルギー変換効率と長い蛍光
ビーム、0.4MJ は波長 515nm、パルスエネルギ
寿命により LD の初期導入コストを従来のNd
ー 0.3MJ の 2 倍 高 調 波 に 変 換 さ れ 、
系レーザーの 1/10 以下に抑えることが期待で
OPCPA(Optical
きる。結晶表面の温度上昇は最大 30 度と低く、
Parametric
Chirped-Pulse
Amplification)によるピコ秒パルス増幅器の
また、アクティブミラー型増幅器の特徴である
励起源として利用される。パルス圧縮後に
径方向の温度変化が小さいことも手伝って熱
0.1MJ のピコ秒パルスが得られ、加熱レーザー
によるビーム品質の低下は極端に小さいこと
となる。主増幅器には、従来のディスク型レー
が予想された。
ザー媒質から冷却 Yb:YAG ディスクを用いたア
クティブミラー型を核融合用レーザーとして
初めて採用している。アクティブミラーの採用
により、Yb:YAG ディスクでの励起光とレーザ
ー光の空間的な結合効率をあげると同時にパ
ワースケーリングの簡易化を図っている。1モ
ジュール(約 60kJ@1030nm)の概念図を図 6 に
示す。Yb:YAG ディスクは 200K に冷却する。デ
ィスクを多角形の頂角に相当する場所に配置
することで 64kJ(ω)出力のモジュールを構成
する。40 モジュールで 1.1MJ(3ω)の爆縮レー
ザーと 0.1MJ(ω)の加熱レーザーを発生させる。
図 6 増幅モジュール
モジュールサイズは、直径約 8m x 高さ約 1.5m
であり 40 の全主増幅器モジュールの体積は
5.まとめ
3
3000m 以下に収まり、16Hz の繰り返しながら
冷却型 Yb:YAG セラミクスは最も実現性の高
NIF や LMJ に比べて小型化されている。炉への
い炉用レーザー材料の1つと考えられる。レー
最終的な爆縮レーザーおよび加熱レーザーの
ザー発振実験では 90%のスロープ効率を示し
ビーム数(バンドル数)は各々32 本と 1 本で
た理論限界動作を実現し、LD励起においても
ある。われわれの試算による全電気−レーザー
70%程度の高い光−光変換効率が実現できた。
- 40 -
さらに、9.4J/cm3 パルスエネルギー密度は
参考文献
Yb:YAG の高い蓄積エネルギー能力を示した。
[1] J. Lu, J. Song, M. Prabhu, J. Xu, K. Ueda, H. Yagi, T.
66kW/cm3 の高い引き出しエネルギー密度は高
Yanagitani, and A. A. Kaminskii, Jpn. J. Appl. Phys. 39,
い熱耐力を示した。これらの実験を通してLD
1048 (2000).
[2] P. Lacovara, H. K. Choi, C. A. Wang, R. L. Aggarwal
励起におけるレーザー利得や材料温度などレ
ーザー増幅に関する基本的なパラメータを算
出することが可能となり、炉用レーザーの主増
and T. Y. Fan, Opt. Lett. 16, 1089 (1991)
[3] A. Giesen, H. Hugel, A. Voss, K. Wttig, U. Brauch and
H. Opower, Appl. Phys. B 58, 365 (1994).
[4] E. C. Honea, R. J. Beach, S. C. Mitchell and P. V.
幅器の概念設計を行った。1.1MJ の爆縮レーザ
ーと 0.1MJ の加熱レーザーを効率 12%、繰り
返し周波数 16Hz で動作可能であり、主増幅器
の体積は 3000m3 以下と小型である。LD の初期
投資コストも従来のNd系材料を用いたシス
Avizonis, Opt. Lett. 24, 154 (1999).
[5] T. S. Rutherford, W. M. Tulloch, S. Sinha and R. L.
Byer, Opt. Lett. 26, 986 (2001).
[6] J. Kawanaka, H. Nishioka, N. Inoue and K. Ueda, Appl.
Opt. 40, 3542 (2001).
[7] J. Kawanaka, K. Yamakawa, H. Nishioka and K. Ueda,
Opt. Exp. 10, 455 (2002).
テムに比べて 1/10 以下にまで抑えられ、技
術・コスト両面において現実的な設計となって
いる。今後、レーザーシステムの詳細な設計に
[8] T. Shoji, S. Tokita, J. Kawanaka, M. Fujita and Y. Izawa,
Jpn. J. Appl. Phys. 43, L496 (2004).
[9] S. Tokita, J. Kawanaka, M. Fujita, T. Kawashima, and Y.
は LD 照射光学系やビーム伝送などの光学系、
冷却機構、電源などのシステム化技術の詳細な
検討が必要であり、このためには低温での屈折
率や非線形屈折率、熱衝撃係数などの正確な物
性値の測定は不可欠であり、現在、測定中であ
る。また、LDなどの基盤技術の効率や輝度の
改善は、全効率の改善につながるだけでなくコ
スト面においても大きく寄与するためより詳
細な検討を進めていく予定である。
- 41 -
Izawa, Appl. Phys. B vol. 80, pp. 635 (2005).
慣性核融合炉における液体金属技術
大阪大学大学院工学研究科
堀池
寛
究においては鉛系液体金属は、炉容器内に冷却
1.はじめに
本報告では液体金属技術の現状と核融合へ
の展開、特にレーザー炉への適用を中心に、簡
材が留まる中小型の自然循環冷却炉の方向で
実用化の可能性があると結論されている。
単にまとめる。
3.レーザー核融合への適用
2.液体金属炉の概要
液体金属は、ナトリウム冷却や鉛ビスマス冷
核融合への応用では、ITER や DEMO 炉での
却の高速炉で実用化されている。液体金属の水
リチウム、リチウム鉛ブランケット、あるいは
に比較した利点は、熱伝導率が高い、融点から
レーザー炉のブランケットに適用が検討され
沸点までの液相の温度範囲が広いので、高い出
ている[1]。図1に概要を示すレーザー炉では炉
口温度、即ち高効率を得ながら、炉のシステム
容器側壁を LiPb が流れ下る濡れた壁を想定し
圧を低く設計できる点にある。後者により容器
ている。熱負荷の計算値を図2に示すが X 線
や配管材が薄くて済み、冷却管破断時にも圧力
のパルスが 10ns に、少し遅れて 200ns から
駆動による冷却材の放出の可能性が小さいな
500ns に He と T,D のパルスが入射する。これ
どの安全設計上の利点が大きい。しかし、鉛系
により図3の右軸に示すように、平均して凡そ
の冷却材は密度が大きく、配管強度設計など工
12μmの LiPb が昇華/蒸発することになる。こ
学的な成立性に設計上の困難がある。また、鉛
の蒸発分を連続的に補填しつつ容器内をリサ
系金属は腐食性が大きく、高温での炉壁材や燃
イクルさせるには、この様なウエット第 1 壁と
料被覆材との共存性の確保が難しいので、原子
するのが一つの解決策である。阪大では段付流
炉出口温度をあまり高くはできない。これらの
路による安定な流動と液膜厚みの確保を検討
ため、JAEA による高速増殖炉の実用化戦略研
している。LiPb が上から下へゆっくりと流動
する際に壁面に設けた上方への開口部から溢
表1
鉛系液体金属の特徴
れ出し壁面を下へ流れてまた主流に合流する
というシナリオである。
沸点が高い
飽和蒸気圧が低い
融点が高い
常時保温の必要性(ベー
この方式では、1段ごとにヘッドがゼロに
キングと兼用)
なる面が存在し、上段の圧力が直接下段に伝わ
粘性係数は小
流動に適す
らないような構造にしないと、溢れ出た液膜厚
体積膨張率が大
自然対流伝熱に適す
さを制御することが出来ないので[2]、主流にオ
Li は化学的に活性
LiPb は活量小さい
リフィスなどの制御要素の付加が必要かもし
MHD 圧力損失大
絶縁被膜の開発
れないと報告されている。
密度が大
インベントリを下げて
重量減の設計が重要
トカマクでの実験では、T-11 と FTU のグル
ープでメッシュに Li を含浸させた液体リミタ
- 42 -
ー(第 1 壁)が実験されている[3]。実験では温
図3
第1壁へのパルス熱負荷とそれによる
度条件熱負荷条件から SUS メッシュが使用さ
LiPb の蒸発量
れているが、これを高熱伝導率、高融点の SiC
メッシュ等に置き換えることにより、メッシュ
4.結
論
液体金属技術は今後の高速炉の開発と共に
含浸型の第 1 壁とする方式も検討の価値があ
大きく発展し、21 世紀の先進冷却技術となる
る。
と予想される。この成果の核融合への適用の点
では、MHD 圧力損失問題を抱える磁場閉じ込
め方式を横目に、慣性核融合が主流になる可能
性もある。IFMIF では液体 Li の高速流を加速
器空間で使用する開発が進められる。今後は第
1 壁構造材との共存性、液体金属自由表面を含
むプラズマ真空技術の開発などを進めること
により、慣性核融合炉の設計にも資することが
できる。
図 1 レーザー核融合炉光陽
参考文献
[1]
壁面でのX線のパルス波形
9
11
10
1010
10
Intensity (W/cm 2 )
10
109
2
107
108
I w (W/cm )
alfa
alfa (debri)
deuterium
tritium
proton
herium3
8
電プラントの概念設計」
[2]
功刀資明
on the wall ; R=3 m
[3]
Alexey Vertkov, Igor Luyblinski, Mria laura
Apicella, Giuseppe Mazzitelli, Vadimir Lazarev,
5
Andrey Aleksejev, Sergey Khomiakov,
4
Technological aspects of Liquid Lithium Limiter
10
106
10
5
10
4
10
(LLL) Experiment on FTU Tokamak, Proc.SOFT24
3
10
103
Warsaw Poland Sept 2006, O3A-F-32
2
10
0.0
10 10.0510.110.1510.210.2510.310.3510.4
Time (ns)
図2
0.5
1.0
Timeµs)
(
1.5
2.0
第1壁への X 線、α粒子、デブリ粒子
9
10
8
10
7
10
6
10
5
10
4
15
R=3m
Ablation Depth
10
tritium
10
3
10
2
5
alfa
0
500
1000
1500
Ablation Depth µ( m )
Intensi ty (W/cm2)
によるパルス熱負荷
10
私信
6
10
107
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター、
IFEフォーラム、「高速点火レーザー核融合炉発
壁面でのα粒子及びデブリ粒子の
パルス波形
0
2000
Time (ns)
- 43 -
レーザー核融合炉トリチウム増殖燃料サイクル系について
九州大学大学院総合理工学研究院
深田
智
1.はじめに
高速点火方式レーザー核融合炉は D-T 固体燃料
を詰めたターゲットを爆縮用レーザー照射によ
り高密度プラズマに圧縮し、さらに加熱用超高強
度レーザー照射により核融合点火燃焼に導くも
のであり、従来の中心点火方式より約一桁低いエ
ネルギーで運転できる可能性があるため、最近の
概念設計でも現実味のあるプラント案が提示さ
図1
れている[1,2]。本稿は、トリチウム燃料系につ
レーザー核融合炉トリチウム循環系[1]
いて問題点と今後の課題等について考察したも
照射された Li-Pb は 300oC から 500oC に加熱され、
のである。レーザー核融合装置でもトリチウム燃
炉外でまずトリチウム回収系を通過後、熱交換器
料サイクルに要求される安全性、安定性、定常性
で熱回収され、チェンバーに戻される。200MJ 出
は磁場閉じこめ型と同じだが、炉に要求される仕
力の炉を 4Hz で動かす提案されたサイクルでは、
様は異なるので、新たな課題も生じる。ここでは、
トリチウムの消費に見合うだけの量
最近発表された概念設計 KOYO-fast[1]を例に取
(1.5MCi/day)を Li-Pb 液膜で製造する必要があ
り、想定されるトリチウム関連の研究課題につい
り、この全トリチウム量を回収システムで回収す
て考察した。
るとともに熱を熱交換器(蒸気発生器)で回収す
る。蒸気発生器は、多くの管から構成されるので、
管壁を通過するトリチウムは、Li-Pb ループから
2.トリチウムループ
逃れ、環境に漏洩する。環境漏洩量を 10Ci/day
図1は想定されるトリチウム循環システムの
概略図である。燃料ぺレットが上部より供給され、
以下にしようとすれば、図2の Li-Pb ループ全体
チェンバー内で外部からの上記2段レーザーに
でのトリチウム閉じ込め率を 105 以上、あるいは
より、爆縮点火する。燃焼後、チェンバー内のガ
トリチウム回収率を 105 以上にする必要がある。
スは真空ポンプで排気され、未燃焼トリチウムが
不純物から分離された後、重水素とともに再度液
化され、ぺレット製造システムに送られる。一方、
爆縮後の核融合反応により放出される中性子は、
Li-Pb 液膜に衝突し、アブレーションにより一部
の液膜は蒸発するにしても中性子は Li と反応し、
トリチウムが Li-Pb 内で製造される。
図2は Li-Pb
冷却系統の概略図である。炉チェンバーで中性子
- 44 -
図2
レーザー核融合炉冷却系統[1]
3.液膜材料の選択
チウム増殖するとき、液体膜が安定して二つの作
可能性がある液膜候補材料として、Li,
用を機能的におこなうかどうかを確認する必要
Li0.17Pb0.83, Flibe (2LiF+BeF2), LiXSn1-X 等が考え
がある。
られる。図3は蒸気圧を比較したものであり、蒸
(2) α粒子による予想アブレーション量が 103Pa、
気圧の低い点(アブレーション蒸発量の少ない
トリチウム分圧が 32Pa(1ppm トリチウム濃度)
点)から判断すれば、Li-Sn が最適であるが、こ
であり、4Hz の運転サイクル下で燃料と Li-Pb 蒸
の材料ではトリチウム増殖比(TBR)が1を超え
気の排気を安定におこなう必要がある。
ない。Flibe は融点が 459oC で上記候補材中で最
(3) Li-Pb の想定T発生量は 1.5MCi/day であり、
も高く、運転温度維持が最も難しい。また Flibe
これを炉外のトリチウム回収装置、熱交換器(蒸
の酸化還元状態を常に監視し、材料腐食性の高い
気発生器)、循環ポンプ等の配管を通してトリチ
TF の発生がないようにする必要がある。図4は中
ウム漏洩を決定的に小さくする定常安定なシス
性子照射により生じたトリチウムの蒸発量を計
テム構築が必要である。
算した結果である。トリチウム溶解度が小さく、
トリチウム回収が容易となる材料は、Flibe ある
いは Li-Pb である一方、Li のトリチウム溶解度は
非常に大きいので、トリチウム回収が困難となる。
以上の点を考慮すれば、最初の選択の Li-Pb が最
善と考えられる。
図4
液体膜候補材料のトリチウム分圧
4. Li-Pb からのトリチウム透過漏洩
Li-Pb 流の外部取り出しからトリチウム回収そ
して、熱交換器に至るループでは、トリチウム回
収を非常に高いレベルに維持する必要がある。例
えば、熱交換器伝熱管壁すべてに透過防護策を施
図3
液膜材料の蒸気圧の比較
さない限り、流量 2.5m3/s の Li-Pb を通過するト
リチウム回収装置で1回通過あたり入口と出口
濃度比で 105 の回収率を達成する必要がある。
炉システムで問題となる点を箇条書きにする
Li-Pb が熱交換器一次流体として強制対流で流
と以下の様になる。
(1) 多段自由落下流が 4Hz のレーザー照射間隔で
れている時、
Li-Pb に溶解したトリチウムは Li-Pb
アブレーションするとともに、Li-Pb 本体でトリ
中を拡散し、次いで伝熱管表面で Li-Pb から管内
- 45 -
部に溶解し、その後管壁を拡散し、二次流体(He
あるいは水)に再溶解し、さらに拡散し、最終的
に環境に漏洩する。従来トリチウム透過率は金属
管壁の拡散律速を仮定して評価されてきたが
[3,4]、上の様にトリチウムは多くの物質移動過
程を経る。例えば、Li-Pb 中の拡散と、金属管に
酸化物が形成したときの壁表面酸化物中での拡
散過程および、管材料の拡散過程の透過率比は代
表的に次式で表せる。
c LiPb DLiPb −T
δ LiPb
∆x :
K Nb −T
K
∆p 0.5 : oxide −T ∆p n
l Nb
δ oxide
図5
透過窓の T 透過率
He out
代表的に Nb 管を考え、Li-Pb 中の流体境膜厚さ
を Dittus-Boelter 式で評価したときの総括トリ
LiPb in
チウム透過率の計算結果を図5に示す。図より明
らかな様に、流体中の拡散境膜厚さがごく薄くな
る高レイノルズ数で初めて金属管壁の拡散律速
He in
LiPb out
になり、通常の流れにおいては、Li-Pb 中の拡散
の影響が大きく現れ、二つの拡散抵抗を考慮する
図6
必要があることが分かった。この考察結果は、FZK
気液向流接触抽出塔
の Li-Pb 流通系の Fe 管透過率 [3]、東大の Li-Pb
撹拌系の Nb 透過における実験結果[4]と定性的に
5.Li-Pb からのトリチウム回収
1回通過あたり 105 の入口/出口濃度比を達成
一致している。
する回収装置について考察する。取り上げたのは、
Li-Pb 系のトリチウム漏洩評価に関して今後特
気液向流接触抽出塔である。ガス側(He)と液側
に研究が必要と考えられる事項を下に挙げる。
(4) Li-Pb は ITER-TBM でも採用されているが、ト
リチウム拡散係数と溶解度等について、まだデー
が Flibe からのトリチウム回収で計算した式と同
様である [5]。その結果、高さ 10m 程度の向流抽
ターのばらつきがあり、定量設計のためには
出塔で計算上は 105 の濃度比を達成できる。しか
Li-Pb 中の不純物濃度と物質移動パラメーターの
し、計算に用いた式は、過去の水̶空気系の気液
関係を明らかにする必要がある。
(5) 透過窓回収装置は非接触で Li-Pb 中の T を回
収できるメリットがあるが、Re 数に依存して流体
境膜拡散と固体透過係数の両方の影響を受ける
(Li-Pb)の拡散抵抗を計算する手段は、先に我々
抽出塔の計算式であり、Re, Sc 等に Li-Pb の物性
値を考慮したとは言え、今後は、このような体系
で回収を実証する必要がある。
以下は、上記計算以外についての考察である。
可能性がある。(図6参照)
(6) 気液向流抽出塔は小型化装置で高い回収率
- 46 -
を保持できるが、Li-Pb を使ったデーターは皆無
参考文献
である。
[1] レーザー核融合炉設計委員会報告書:高速点火レー
(7) Pb の中性子照射により Po や Hg のα線誘導放
ザー核融合発電プラントの概念設計、(2006).
[2] レーザー核融合エネルギー開発ロードマップワーキ
射化物を含むので、これを除去する不純物回収系
ンググループ委員会報告書:レーザー核融合エネル
ギー開発の進め方、(2004).
を Li-Pb ループ中に設置する必要がある。
[3] H. Freuerstein, H. Grabner, S. Horn, J. oschinski,
Fus. Eng. Des., 14 (1991) 261-271.
[4] T. Terai, A. Suzuki, S. Tanaka, J. Nucl. Mater.,
6.終わりに
248 (1997) 159-164.
以上まとめるとトリチウムに関する今後の研
[5]
究題目としては以下の項目が挙げられる。
S. Fukada, M. Nishikawa and A. Sagara, Fusion
Technology, 39 (2001) 1073-1077.
(1)間欠運転と高い液膜蒸発率に見合うように、
多段自由落下液膜流を保持する設計が必要であ
る。
(2)トリチウム漏洩率を低く抑え、トリチウムイ
ンベントリを少なくするため、液膜流からのトリ
チウム回収率を上昇させる装置設計が必要であ
る。
(3)Li-Pb中の拡散律速に見合うように透過装置
やHe気泡塔を設計する必要がある。
(4)Li-Pbのトリチウム関連の測定値にばらつき
があり、金属不純物の影響を含め統一的な整理が
必要である。
(5)放射性の Po や Hg を同時に除去する必要があ
る。
- 47 -
チェンバー工学についてのコメント
京都大学エネルギー理工学研究所
小西
哲之
な自由度から、概念上は多彩な方式が実現不可
1.はじめに
レーザー核融合研究は、高速点火方式の可能
能ではなく、アイディアと計算に基づくきわめ
性が確認されたことによって、新たな段階に入
て多数の概念が報告されているが、このことが
った。というより、少なくともエネルギー研究
却って設計の現実性を損なう懸念を生じてい
としては、新たな段階に向けてその進むべき方
るともいえる。
法を模索しなければならないというのが現状
チェンバーは、炉設計で具体的な検討が必要
であろう。本報告は、一連のシリーズ講演の中
な段階にあって、実験データの極端に不足した
で、そのための課題摘出のひとつとして、チェ
状況での検討を余儀なくされているという問
ンバーに関わる工学的な問題を考察するもの
題を持っている。残念ながら、筆者は具体的に
である。
これらに十分な実例を持ってコメントできる
言うまでもなくレーザー核融合は、磁場方式
だけの材料を持ち合わせていないので、たぶん
と類似の工学技術を、特にエネルギー発生の部
に想像を交えてにならざるを得ないが、現在想
分において共有する一方、特徴的な技術も多く
定できる範囲での問題提起を行う。
有している。レーザーと光学系が最たるもので
2.チェンバーの物質収支
はあるが、それと並んで、ターゲットやチェン
バーに関する技術は典型的に後者である。チェ
工学装置としてリアクター(反応器)として
ンバーはエネルギー源としてのレーザー炉設
みれば、つまり、燃料などの消費される物質の
計を特徴付けるものであるが、実験に基づくデ
収支の面で見れば、レーザー核融合炉の本体は
ータは乏しい。レーザー核融合炉の設計は、工
チェンバーに他ならない。そこでは燃料が供給
学的に未経験のきわめて特殊な条件や現象を
され、それと質量がバランスした状態で反応
扱うにもかかわらず、実際に起こる現象の観測
Confinement
System
なしに行われているのが実情である。特にチェ
Target
ンバーは、極端な短パルスで、高い尖頭値(~
12
10
2
W/cm )をもつエネルギーを高繰り返しで
Chamber
Blanket
受ける。ジュールで見るエネルギーは磁場核融
T
Pumps
Exhaust
Process
Pb?
He
Xe
C,O
Power
Plant
合のELMと同じオーダーでありながらピー
Fuel Process
other
elements
coolant
H
ク幅は3桁短く、ワットで考えれば3桁高い。
レーザー核融合は、円環状の真空容器の周り
に磁石を有する磁場核融合と異なり、チェンバ
図1
チェンバー周りの物質収支
ーの設計に空間的な制約が少ない。経済性を別
にすれば、チェンバー直径を大きくすればフラ
生成物、燃え残りの燃料が排出されなければな
ックスを大きく下げることができる。このよう
らないし、他に付随して移動する物質、たとえ
48
ばチェンバー内壁が損耗するのであれば、その
ショット毎にkgオーダーにおよぶアブレー
排出と供給も行わなければならない。
ションによる損耗が想定され、液体壁でも固体
図1に筆者が考えるチェンバー回りの物質
壁でもこの結果ダストやミストが発生する可
バランスを示す。炉チェンバーとしては固体壁
能性がある。それらは再びチェンバー内壁に戻
も液体壁も提案されているが、この動的な物質
るかもしれないし、排ガスと一緒に排気される
バランスについて、明確に設計された例はない
かもしれないが、いずれにしてもこの量の物質
と思われる。静的な数値である蒸気圧や、ミク
移行とバランスを考慮する必要があるという
ロに観測されたスパッタリングの知見だけで
ことになる。ターゲットの形でチェンバーに送
は記述できないアブレーション現象を含むた
り込まれた燃料のほかに、ペレットを構成する
め、損耗量が不明である。信頼性ある予測には
炭素などの元素についても、いつどのような形
実験が不可欠であるが、現在までに十分現実的
で出てくるのか、チェンバー内でのインベント
にレーザー炉チェンバーの環境を模擬した例
リーがどのくらいなのか、は設計上不可欠の情
はないのである。
報である。
燃料としてのDTはターゲットペレットと
3.チェンバー壁における現象
してチェンバー内に供給され、レーザー照射に
よって飛散する。ペレットは構成元素として他
工学装置として、つまりリアクター(反応器)
にプラスチック由来の炭素と水素、高速点火で
としてその中での物質の変換過程を考えると、
あれば重金属コーンも含み、これらはすべて高
チェンバーを支配する現象は、ターゲットのレ
エネルギーの粒子やデブリとしてチェンバー
ーザー照射によって発生するさまざまなエネ
壁に入射される。チェンバーから見れば、気体
ルギー粒子の発生である。図2に模式的にこの
として排気すべきものに加え、壁に打ち込まれ
粒子発生の概念を示す。
る粒子、壁の損耗に伴うさまざまな性状の粒子
Condition of the first wall in ICF chamber
Solid wall material
や固体、あるいは液体壁であれば液体にトラッ
Coolant
プされて排出されるものを考える必要がある。
Ion : Ablation, spataring
Debris
Lead
チェンバーの排気は、経済的に十分なパルス
頻度を得ようとするとき、気体だけでも十分困
Evaporation
Cluster production
Ablation
難な課題であり、それについては後述するが、
物質移行の観点では、さらに固体や液体も含む
Liquid flow
Pb
Pb
PbPbPb
PbPb
Pb
Pb
複雑な系を持つ。定常状態にあっては、チェン
X ray : Repeated stress (Gpa Level)
Pb
Pb
PbPb
PbPb
Pb
Pb
Pb
Pb
Target
laser
Vacuum
Pb
Pb
バー内に運び込まれる、水素同位体、炭素、重
金属などすべての元素が、物理的化学的かたち
を問わず同じ量だけ運び出されなければなら
図2
チェンバー壁で起こる現象
ない。壁の損耗を伴うのであればそれがチェン
バーの寿命から許容される量であるか、そうで
チェンバー内壁を直撃するエネルギーは、ナノ
なければ何らかの回復策が必要となる。実際は
秒レベルのパルスのX線、マイクロ秒単位で来
発生エネルギーと、現実的と思われる10m程
るエネルギー粒子、それよりずっと遅いデブリ
度以下の直径のチェンバー内壁を照射すると、
の3波とされている。エネルギーの大部分は荷
49
の考えもある。)
電粒子でやってくるが、ワットで見たときのピ
固体壁概念は高速点火であってもターゲッ
ーク値は最初のX線がもっとも高い。
トは金属コーンをもたない。このときチェンバ
壁はアブレーションなどにより損耗する恐
れがあるため、自己修復性を持つ液体壁はひと
ー内壁は、タングステンが主に考えられている。
つの有力な設計概念として考えられている。高
スパッタリングへの耐性と融点に関して必然
速点火方式ではターゲットに重金属コーンが
的な選択ではあるが、それだけでは高エネルギ
使われる。現在は金が使われているが、将来的
ー粒子による損耗は避けられず、これまではキ
には鉛ないしはブランケットと共通の材料と
セノンガスなどの導入が防止策として提案さ
してリチウム鉛共有点合金が想定される。これ
れている。前記のように、エネルギーフラック
は低融点金属であって、ターゲットペレット由
ス自体はチェンバー直径を大きく取れば内壁
来であってもショットを繰り返せば常時チェ
の面積を広くすることで、タングステンの溶解
ンバー壁面に付着しているし、それにより壁面
や再結晶など、材料としての変質を懸念される
の保護が期待できる一方、排出を考えなければ
より十分低いレベルに抑えることができる。エ
ならない。つまり実質的に液体壁である状態を
ネルギーは荷電粒子によるものが一番大きい
免れない。要するにコーンつきの高速点火であ
ので、これを考慮して設計される。
最初のX線パルスは、エネルギー量が小さく、
れば、液の厚さはともかく、必然的に液体壁で
X線が材料中に浸透してエネルギーが分散す
ある。
アブレーションを伴うチェンバー設計では、
るため、温度の面では問題になると考えられて
壁は蒸気などでその構成成分を最初はプラズ
いない。しかしパルス幅が短いため、垂直方向
マとして放出すると思われるが、その後、気体
の熱応力がGpaオーダーになるとの試算も
なのか、液体や固体のミストやダストを形成す
あり、材料条件としてはかなり厳しいと考えら
るのかは定かではない。球形のチェンバー中心
れる。
から壁に入射される粒子は壁面に垂直に入射
するが、それらがすべて壁に吸着やインプラン
トされるとは限らず、反射や短時間での再放出、
またそれらがたたき出す二次粒子もありうる。
これらはすべて壁面から垂直に放出されると
は考えにくく、角度分布を持つであろう。壁近
傍のプラズマや蒸気あるいは空間から一様に
放出される粒子フラックスの角度分布は、コサ
イン則に従うと考えるのが0次近似であろう。
この場合粒子同士の衝突があるので、壁近傍の
図3
空間中では粒子同士が結合して大きなクラス
テン表面の変化
繰り返しX線パルスによるタングス
ターなどを作ることが可能性としては考えら
れる。結果として、チェンバー中には様々な質
壁へのエネルギー入力が深くとも、それらは
量、速度分布を持った粒子が飛び交うことにな
熱化され、きわめて短時間に壁に熱応力を生じ
る。(高速粒子が、ほとんど垂直に飛び出すと
る。垂直方向への壁の熱膨張速度が音速を超え
50
る恐れもある。このような応力が垂直に瞬時加
は知られておらず、それ自体が大きな開発課題
えられ、材料が自由面に向かってどのような挙
となりうる。原理的にはチェンバー内壁と同じ
動を示すかは現段階では明確に予測できない。
金属(たとえば鉛など)による拡散ポンプは成
図3には、米国の実験であるが、タングステ
立しうるかもしれない。試作自体に大きな技術
ンにX線短パルスを繰り返し、再結晶温度以下
的困難は予想されないが、鉛による金属の腐食
の範囲でその影響をみたものである[1]。メカ
は激しく、実用的な装置ができるかどうかは現
ニズムについては不明であるが激しく損耗す
段階ではわからない。とにかく試作、実験の必
ることが報告されている。少なくともタングス
要な装置のひとつである。
チェンバーが固体壁の概念だとしても高速
テンは温度が低ければ脆性材料である。
点火で金属コーンがついていれば、壁が液体金
属で覆われる可能性については前述のとおり
4.工学的課題
以上のように、チェンバー内は壁の損耗によ
である。これは、すべてがアブレーションでダ
るさまざまな粒子が飛び交う環境である。チェ
スト、ミストとしてチェンバー内を浮遊するの
ンバー中に飛び出したこれらの粒子は、次のシ
であればそれだけでマスバランス上は相当大
ョットの前に排気しなければならない。真空度
きな量となり、排気系統でのプロセス的取り扱
への要求は磁場核融合よりはるかに緩和され
いが必要となるが、また一方壁面に蓄積するも
ているものの、かなりの大きさを持つチェンバ
のであれば、最終的に液体として排出し、その
ーを、10ヘルツかそれ以上の周期のパルスで
マスバランスをとることを考えなければなら
使用するためには、短時間に効果的な排気が必
ない。つまり、ターゲットとしてチェンバー内
要となる。単純に排気するためだけでも、短時
に供給されるのと同じだけの量を排出するメ
間でと条件がつけば、大きな排気速度をもつ真
カニズムを考えておく必要がある。積極的にチ
空ポンプを、大きなコンダクタンスをもつポー
ェンバー内壁に液体を流通する液体壁概念で
トで接続しなければならないが、そこには遮蔽
あれば、その分が加わるということになる。
とブランケットのカバレージの制約がある。磁
これらはいずれも、試作して流して見ない限り
場核融合のNBIのような巨大なクライオパ
工学的な成立性は検証困難であると考えられ
ネルというわけにはいかない。固体壁概念で導
る。
入が必要と考えられるキセノンも排気の対象
となるが、放射化の可能性は考えなければなら
5.開発戦略的な考えとまとめ
ない。
レーザー核融合は、レーザーやターゲットな
さらに、排気といっても、その対象が必ずし
ど、キーとなる技術は相互に関連が少なく、そ
も気体とは限らないことは、技術的にさまざま
れぞれ独立に研究開発が進められる。このこと
な課題の原因となりうる。大量の固体や液体を
は相互に他の技術の困難に影響されることな
含むガスは、機械式ポンプでの排出はきわめて
く並行して進歩が可能であるという利点はあ
困難と予想される。液体壁の場合は、壁の損耗
る。しかし一方では、統合的な開発が行われに
は液体により自己修復可能であるが、液体金属
くいのもまた事実であって、チェンバーのよう
ミストの排出という問題を生ずる。現在のとこ
にプラズマ研究に直接寄与も影響もしない技
ろ液体金属を連続的に排気できる真空ポンプ
術は、限られた研究資源の中では後回しにされ
51
がちであって、現にされてきているのである。
能性があることを筆者は指摘している。端的に
この点は、磁場核融合の歴史においてまず超伝
言って、COE(cost of electricity)という単純
導、ついでトリチウム、そしてブランケットが
化しすぎた尺度では評価できない価値を持っ
おかれた位置とかわらない。ようは必要な時期
ているのである。加えて、極端な点エネルギー
に全体戦力をレビューし、課題を摘出して十分
源であることを考えれば、高フラックスの中性
まにあうタイミングで適切な注力を行えばよ
子源としての利用も考えられる。少なくとも利
いわけであるが、資源制約に応じて総じて遅れ
用することを考えたときに、レーザー核融合は
がちであることはよく見られることである。チ
磁場と同じ市場で競合するものと考える理由
ェンバー工学は、今まさにそのような重点とし
は何もない。磁場と慣性の二者択一的な議論は
て扱う時期にあると考えられるが、その動き出
まったく核融合研究者の独善的な思い込みで
しは鈍いといわざるをえない。
あって、エネルギー市場、環境対策を考えれば
レーザー核融合は、ペレットのエネルギー利
本来別のものと扱ったほうが自然なくらいで
得に関して下限はあるものの、技術的な出力の
ある。むしろエネルギー、環境と技術開発の全
下限は磁場核融合より小さく、また本質的に多
体を考えれば、すみわけに配慮しつつ、相互に
数のパルスで出力を構成するため、出力変動や
共通技術を使いながらも、核融合全体での社会、
付加追従性に原理的な制約はすくない。特に小
経済への貢献を最大化することを計るべきで
型化と負荷追従性は、現在の火力発電の市場を
あろう。
直接代替しうるものであり、エネルギー資源と
地球温暖化ガス削減の効果、およびスポット電
参考文献
力市場の観点では、エネルギー利用の観点から
[1]
見れば磁場核融合とはまったく異なる市場可
52
J.F.Latkowski et al., JNM 347 255-265 (2005)
2.
第3回「日本原子力学会核融合工学部会奨励賞」を受賞して
大阪大学大学院工学研究科
おります。その際には、設計を行ったメーカー
環境・エネルギー工学専攻
の方や現 JAEA の研究者の方々が来られて、初
近藤
浩夫
めてリチウムが試験部を流れたときには拍手
この度は、名誉ある賞を
が起こり、大変印象深く覚えております。その
頂戴いたしまして、大変光
後、博士後期過程に進み、現在は同じ研究室の
栄に存じております。これ
助手を勤めておりますが、学生時代を通しこの
も多くの皆様方のご指導、
テーマに取り組んでまいりました。
この研究を通じて、現 JAEA やメーカーなど
ご支援の賜物であります。
この場を借りて厚く御礼
多くの研究者・技術者の方々、大学の先生方と
申し上げます。
接することができ、ご指導を頂く機会に恵まれ
研究題目であります「液体金属リチウムの自
ました。また、幾つもの国内・国際会議や研究
由表面流れの研究」は、現在計画されている国
会などに参加することができ、さらには、この
際 核 融 合 中 性 子 照 射 施 設 ( International
ような名誉ある賞を頂きまして、大変贅沢な学
Fusion
Facility,
生時代を過ごしたと恐縮しております。これも
IFMIF)の液体金属リチウムターゲットの流動
偏に、堀池教授、山岡技術専門職員を初めとす
研究と実機設計に資することを目的としたも
る当研究室のスタッフ、共同研究を進めている
ので御座います。IFMIF の Li ターゲットは液
JAEA、神菱ハイテックの皆様方、NIFS の先生
体で、凹面壁に沿って真空中を 10∼20m/s ほど
方のご愛顧、ご指導の賜物とここにあらためて
の高速で流れる計画であります。本研究は大阪
心より厚く御礼申し上げます。今後とも研究活
大学のリチウム循環装置を用い IFMIF の現設
動に取り組んで行く所存でございますので、今
計を模擬した試験装置にて、自由界面を有する
までどおりのご指導、ご鞭撻を賜りますよう宜
ターゲット流の流動特性、特に自由表面上での
しくお願い申し上げます。
Materials
Irradiation
波の特性や液膜の厚さ分布変化などを実験的
に研究したものであります。
過去三年間の研究活動に対してこの度の賞
財団法人 電力中央研究所 原子力技術研究所
日 渡
を頂いたとのことですので、少し振り返ってみ
ますと、私がこの研究を始めたのは六年前に大
この度は「早期発電実
学院の博士前期過程で堀池教授の研究室に配
証を目指したトカマク
属されてからで御座います。丁度その当時、Li
型核融合発電実証炉の
ループに IFMIF ターゲット実験用の試験部を
炉設計研究」に対して、
設置する改造工事が始まりだした時期でした。
核融合工学部会奨励賞
工事が完了し、始めて新しい試験部で流動実験
を頂き、誠にありがとう
を行ったのが、翌年の六月であったと記憶して
ございます。本研究では、
- 53 -
良 爾
ITER 以降の核融合開発におけるいわゆるフ
しなければならない技術課題は多く存在しま
ァーストトラックに対する具体的な開発シナ
す。そのため、今度は核融合発電に必要な要素
リオの提示とそれに必要となる要素技術レベ
技術の開発に対して私としても具体的な貢献
ルの定量的な解析を目的としたものでありま
をしなければいけないなという気持ちになり、
す。
ますます身の引き締まる思いであります.
私が核融合研究を始めた 1990 年代後半以降、
最後になりますが、今回の受賞は多くの皆様
核融合発電の実現は 2050 年頃と良く耳にしま
のご協力・ご助言の賜物であります。受賞対象
す。しかし、未だに核融合反応によるエネルギ
となりました発表論文の共同研究者でありま
ーを取り出した経験もないのに、本当に 2050
す電力中央研究所岡野邦彦様、朝岡善幸様、苫
年に間に合うのだろうか?という強い不安と、
米地顕様、東芝新谷吉郎様、東京大学小川雄一
第 3 回核融合連合講演会で また狼と言わない
様、色々な場面で議論やアドバイスを頂きまし
こと と有馬元文部大臣に指摘されたような状
た京都大学小西哲之様、慶応大学畑山明聖様、
況に将来陥らないかという恐れを感じずには
日本原子力機構の飛田建次様はじめとする炉
おれません。
システムグループの皆様、カワサキプラントシ
この研究は核融合発電を目指した研究者の
ステムズ森清治様はじめとする原子力室の皆
一人として、
「核融合はいつ実現するの?」と
様、そしてはじめて炉設計研究についてご指導
いう自分の疑問に対し、具体的な解を得たいと
いただきました東京大学(故)井上信幸様、皆様
いう思いを持って行ってまいりました。今回の
に心からの謝意を表します。
成果はまだまだ大枠的な解析結果であります
が、発電実証段階、実用炉段階という各開発段
階に必要な炉心プラズマ・炉工学それぞれの要
日本原子力研究開発機構
素技術の開発目標を具体的な 1 ケースとして
核融合研究開発部門
提示することが出来たと考えております。これ
グループ
ブランケット照射開発
星野
により、少なくとも核融合発電実現にむけて
ITER 計画ではどこまで実証され、その後に残
この度は、日本原子力
された研究開発課題は何かを社会に対しても
学会核融合工学部会奨
定量的に説明できると思っております。
励賞という、名誉ある賞
毅
しかし、「核融合はいつ実現するの?」とい
を賜り、大変光栄に思っ
う問いに対しては、ITER の成果がでてくる
ております。現在、私は
2020 年以降を待たなければ答えられないとい
先進トリチウム固体増
うのが正直な気持ちです。しかも ITER 計画で
殖材料の開発研究に携
計画とおりの成果が得られたとしても、核融合
わっております。材料開発研究は地味な研究の
熱出力 500MW 級の ITER でのダイバータ熱
積み重ねによって成果が生まれるためか、研究
制御技術から、3000MW 級の発電実証炉・実
成果が脚光を浴びる機会は少ないのですが、こ
用炉が見通せるのか?10MWa/m2 をも超える
のような名誉ある賞を頂いたことは、私だけで
中性子照射にも健全性を確保できる材料開発
なく、同様に地味な研究に携わっている研究者
は間に合うのか?等々、ITER 計画以降も解決
に対して、大きな励みとなります。
- 54 -
受賞対象となりました論文は、「核融合発電
本研究は、当然、私一人で行った研究では
炉用高温ブランケットのための先進トリチウ
なく、多くの方々のご指導、ご支援を頂き、遂
ム増殖材料の創製と特性に関する研究」に関す
行することができました。このような恵まれた
る論文です。核融合発電炉(DEMO 炉)の実用
環境のもとに研究ができましたことを、ここで
化のためには、高温で安定的に使用できるトリ
感謝申し上げると共に、今後も皆様の期待に応
チウム増殖材料を開発することが、熱効率の向
える研究を行うことを誓います。
上を図り、また炉設計の自由度を拡大する観点
から、必要不可欠となります。Li2TiO3 は、従
来の国内外における研究を通じて、優れた特性
日本原子力研究開発機構
を有することが明らかにされた一方、高温(特
核融合中性子工学研究グループ
久保田
に約 800℃以上)では、スイープガスに添加さ
れる水素による還元や Li 蒸発によって結晶安
「 14MeV 中 性 子 ビ
定性が低下すること、高温での結晶粒成長によ
ームを用いた弾性反跳
ってトリチウム放出特性が低下することなど
粒子検出によるプラズ
の懸念がありました。
マ対向壁分析法の開
直義
これらの問題点を解決するため、新規に酸化
発」の研究に対しまし
物(CaO、Li2O 等)を添加することを考案し、
て、第3回の日本原子
添加物入り Li2TiO3 試料を作製して、高温での
力学会核融合工学部
結晶粒成長(焼結密度)
、水素との反応性(不
会・奨励賞を頂戴することができ、大変誇りに
定比性)、Li 蒸発特性などについて、基礎的な
思っております。
私は学生時代からイオンビームを使った材
測定を行った結果、上記酸化物の添加により、
高温特性が大幅に改善され、高温・長期使用条
料分析を中心に研究を進めておりました。原子
件下においても、十分なトリチウム増殖比が得
力機構(当時原研)の博士研究員に着任した際、
られる可能性があることを明らかにしました。
「DT 中性子をプローブビームに使って材料分
ITER では問題点とならない特性も、DEMO 炉
析を行ってみてはどうか?」という話が本研究
を考えると問題点になると予測できることは、
のきっかけとなりました。幸いにも、所属先で
多々存在すると思われます。これは、私が携わ
ある FNS には、良質の DT 中性子ビームが整
っているトリチウム固体増殖材料に関する研
備されており、それに おんぶ してもらうか
究だけでなく、核融合研究のすべての分野の研
のように研究を進めることができました。中性
究にも共通して言えると思います。我々のよう
子計測を十分習熟していなかった私の苦労話
な若手の研究者が ITER、そして DEMO 炉にて将
をのぞけば、分析法の原理検証およびプラズマ
来活躍することになるため、ITER では問題は
対向壁分析への応用までを順調に終了するこ
無かったが、DEMO 炉では問題が生じたとなら
とができました。
ないよう、将来の研究課題を予測し、その課題
この分析法は、試料中の水素同位体深さ分布
に備えた研究に精進することが、日本、更には
を表面から数 100 µm まで測定するために開発
世界の核融合研究のためになると思っており
しました。従来の方法に比べて深部まで測定で
ます。
きるので、異種材料界面に保持されている水素
- 55 -
応用として JT-60 のプラズマ対向壁を分析し、
同位体分布測定が可能となることが期待され
ます。分析原理は単純で、試料に中性子ビーム
800 µm までの軽水素深さ分布を示すことがで
を入射させ、弾性散乱によって弾き出された標
きました。残念ながら分析を行ったのは、2 ヶ
的粒子のエネルギーと収量から深さ分布を求
所の対向壁のみで、プラズマ・壁相互作用にフ
めます。弾き出された標的粒子(荷電粒子)が
ィードバックできるような広範囲の測定デー
試料表面に達するまでにエネルギーを損失す
タを示すには至りませんでした。核融合工学へ
るので、このエネルギー損失から逆算して深さ
の貢献としては、必ずしも十分ではない本研究
の情報を得ることができます。しかし、実際は
ではありますが、今後の成果に期待して頂いた
分析体系の幾何学的な広がりが深さ分解能を
奨励賞であると真摯に受け止め、今後も研究を
悪化させるので、モンテカルロ法を使って荷電
積極的に進めたいと思います。なお一層、ご指
粒子の輸送を計算し、その結果を応答関数とし
導、ご鞭撻下さいますよう、よろしくお願い申
て使用したスペクトルアンフォールディング
し上げます。
最後になりましたが、本研究は近藤恵太郎さ
によって深さ分布を求めています。
ん(大阪大学)、落合謙太郎研究員、西谷健夫
エネルギー損失と
水素の深さ位置が比例
試料
前グループリーダーおよび FNS スタッフ各位
のご助力の賜物であり、お礼を申し上げて奨励
標的原子
(H, D, T, etc.)
∼11 MeV
入射粒子(中性子)
φ
賞の感想と致します。
荷電粒子検出器
14.1 MeV
深さ
表面
中性子弾性反跳粒子検出法の原理
- 56 -
3.
第22回核融合炉夏期セミナーに参加して
2006 年 8 月 7 日から 9 日にかけて宮城県岩沼市クリーンピア岩沼内モンタナリゾートにて、第
22 回核融合炉夏期セミナーが開催されました。13 名の講師の先生方をはじめとして 64 名が参加
し、内学生は7つの大学から 34 名が参加しました。仙台七夕まつりと重なる日程でしたが「仙台
七夕には雨」のジンクスも跳ね返し好天に恵まれたセミナーとなりました。遠くベガ(織姫星)、
アルタイル(彦星)で 17 年以上前に生じた核融合反応による光に思いを馳せ、ITER や幅広いア
プローチによる核融合研究計画の情報やその先のエネルギー源開発に必要な炉工学及びヘリカル
システムやレーザー核融合に関する進展を学びました。
(文責
北海道大学大学院工学研究科
量子理工学専攻
佐藤
学)
また何人かの先生方からは、講義の最後に学生
修士課程 1 年
日野研究室
東北大
へのアドバイス的なものをいただきました。それ
野村拓也
らの言葉は自分が研究を進めていく上で、励みに
なり、少なからず影響を受けるものになると思い
会場は仙台市の近くだということで、結構な都
ます。
会で開かれるのだろうか?と、思っていました。
一つ失敗したなと思ったことは、学生同士で互
そして実際行ってみて辿り着いた所は…森林の中
いの研究等についてあまり会話しなかったことで
を走る道路を抜けた山の上、携帯電話には 圏外
す。お酒が入っていたこともあり、今度北海道に
の文字が…。これはまたいいところに来てしまっ
来る機会があればぜひススキノヘ…などと、とり
た。皮肉ではなく、本当に気持ちのいいところだ
とめもないことを話していた気がします。懇談会
と思い、着いたときからワクワクしました。
等は学生同士がお互いの研究等の話で刺激しあう
そんな場所で開かれたこの夏期セミナーは、自
分にとってとても大きな収穫になりました。
ように設けてくださったのだと思いますが、少し
もったいないことをしてしまいました。とはいえ、
その具体的なものとして一番に挙げられるのは、 楽しく会話することができ、同じ研究仲間の面白
やはり幅広い分野の講義を聴くことができた事だ
い人たちと知り合えただけでも貴重な機会だった
と思います。このセミナーに参加している学生の
と思います。
多くは、「核融合」という非常に大きなくくりから
自分は修士 1 年ということで、進路について今
見ると、おそらくかなり狭い範囲で研究をしてい
年の冬から就職活動をするか、博士課程に進むか、
ます。もちろんより広い知識を得るために普段か
この夏考えていましたが、博士課程に進むことに
ら様々な努力があると思います。しかしこの事に
しました。その選択にはこのセミナーでの、懇談
おいては、自分にとってどんな 3 日間よりも密度
会での先生方との会話,学生同士での会話等が少
の濃い 3 日間になりました。特に核融合の将来的
なからず影響しました。
な見通しを様々な立場の人から聴けたことは、一
番深く印象に残っています。
- 57 -
名古屋大学大学院工学研究科
った先生方や参加した学生の方に改めて感謝いた
マテリアル理工学専攻
します。また、開催日直前の参加申し込みにも関
修士課程 2 年
山本研究室
酒井智之
わらず、丁寧に応対してくださった実行委員会の
方により一層のお礼を申し上げたいと思います。
私は核融合炉のためのトリチウム濃縮の研究を
ありがとうございました。
しています。核融合と関連する研究なのでセミナ
ーに参加することを決めました。しかし、私はプ
ラズマ、ブランケット等、核融合研究のメインで
ある研究についてはほとんど知識がありませんで
した。そのため核融合の最先端技術の講義を聞い
てもわからないのではないかと心配していました。
しかし、先生方は一からわかりやすく説明してく
ださったので、講義を聴いているうちに徐々にわ
かるようになり、とても勉強になりました。また、
以前に核融合科学研究所の LHD を見学し、その構
造の緻密さと技術の素晴らしさに感動したことが
写真1 講義の様子
あったのですが、今回へリカルシステムについて
の講義でヘリカルシステムの現状や構造を詳しく
京都大学大学院エネルギー科学研究科
聞くことができたのでとてもうれしく思いました。 エネルギー応用科学専攻
修士課程 2 年
香山研究室
現在のエネルギー情勢に原子力や核融合の研究が
豊島和沖
いかに重要なのかを説いた講義もあり、原子力に
携わる者としてモチベーションも一段と上がりま
今回のセミナーでは、最新の核融合研究、原子力
した。
研究、さらにはそれに関わる材料研究の先端や今
講義以外にもためになったことがあります。そ
後の展望について第一線で活躍されている方々の
れは他大学、他研究室との交流です。若手セッシ
御高説を拝聴でき、大変充実した滞在となりまし
ョンで夏季セミナーに参加している研究室につい
た。このような国家的プロジェクトに携わるよう
て知ることができました。それぞれの研究室の特
な研究者の講義を聞けたことは、いち学生として
色が現れた発表で、とても楽しく聴くことができ
二度とない貴重な体験をしたと感じています。特
ました。ただ、研究室につき 5 分という短い時間
に私の研究対象である SiC 材料について多くの先
だったので詳しく聞くことができず、残念でした。
生方が熱心に研究をされ、前向きな意見を持って
私は 5 分を越えてご迷惑をかけてしまいましたが、 おられることがわかり、研究意欲を刺激されまし
最後まで聞いていただけて感謝しています。また、 た。私は原子力材料の研究に携わってまだ日が浅
個人の研究内容について他研究室の方と話す機会
いものですから、今回のように多くの先生方が取
がありました。研究内容は全く異なっていました
り組んでこられた研究成果について集中して学べ
が、丁寧に説明してくれてお互いの研究内容を知
る機会は大変有意義であり、大きな収穫となりま
り合うことができました。私の研究に対してアド
した。
バイスもいただけ、とてもうれしく思いました。
講義以外に若手研究者によるセッションや懇親会
このように夏期セミナーの三日間はとても有意
にも参加する機会がありました。日頃は研究室と
義に過ごすことができました。講義をしてくださ
いう狭い範囲で研究生活をしている私や同行した
- 58 -
当研究室の学生は、それまで他大学の同世代の学
学、研究所の原子力に対する取り組みを知ること
生と交流する機会は無く、交流を通して自分とは
ができ、とても有意義な日を送ることができまし
異なる視点や研究に対する姿勢を持つ方々に接し、 た。私の研究テーマであるプラズマ対向材料に関
大変有意義で大きな刺激を受けましたので、また
する研究をなされている先生方の話も聞くことが
このような機会があればと思っております。
でき勉強になりました。また、プラズマ対向材料
このように楽しみながら貴重な体験ができるセミ
以外の分野の日ごろあまり目にする機械が少ない
ナーが是非今後も開催され、より多くの学生が参
分野の現状を知ることができたことが大きな収穫
加できるようになること、参加した学生がセミナ
です。ITER 建設は、フランスに決まってしまいま
ーで得た新たな発見を今後の研究に生かしていく
したが、今後日本が核融合に対して、どのように
こと、発表された研究が更なる進展を迎えること
取り組んでいくのかもハッキリと聞けたので、よ
を望んで止みません。
かったです。講義は朝から夕方まで幅広い分野の
このセミナーが多くの参加者にとって様々な知
研究紹介で、核融合に対する見方が色々聞けまし
識・体験を共有し満足できる内容で終われたのは、
た。夕方以降、学生同士の交流で、他大の学生の
セミナー全般の世話役となったスタッフの方々の
核融合に対する考えが聞けました。私は、学部時
周到な準備や対応のおかげだと思います。
代電気科に所属していたので、核融合を研究され
末筆ながら今回のセミナーを企画・運営して下さ
ている学生のみんなは電気科だと思っていたので
った諸先生方をはじめスタッフの皆様に感謝いた
すが、機械科や金属材料系の方々も研究されてい
します。
る事にびっくりしました。昼休み一緒にテニスを
したり、お酒を飲み一緒に大笑いした事は、楽し
い思い出の一つとなりました。先生方とも一緒に
飲ませて頂きました。第一線で活躍されている先
生方なので、緊張して話しかけにくかったのです
が、陽気で明るい先生方々だったので、楽しく話
をさせていただきました。また、人生相談もさせ
て頂きました。
今回の夏期セミナーで、様々な知識を得ること
ができ、多くの人と話し、友達ができた事は、多
くの方々のご支援を頂けた結果だと思います。今
回セミナーの様々な手配をして頂いた、東北大学
の方々に感謝したいと思います。
写真2 熱心に聴く受講者
大阪大学大学院工学研究科
電気電子情報工学専攻
修士課程1年
上田研究室
九州大学院総合理工学府
柏木紘典
先端エネルギー理工学専攻
修士課程1年
吉田研究室
八尋由樹
大阪から飛行機で1時間15分、飛行機を使う
と今回行われた宮城までとても近く感じました。
今回のセミナーでは、核融合の第一線で研究さ
今回のセミナーで、核融合炉研究の第一線で活
れている方々から直接聞くことができ、貴重な経
躍されている方々の話が聞くことができ、他の大
験をすることができました。
- 59 -
今回のセミナーは講義形式のため、多くの方々が
知識をもとにして幅広く学習していこうと思いま
これまで研究してこられたことや核融合全般のこ
す。そしていろいろな角度から自分の研究を見つ
とを集中して拝聴することができました。また、
め、今後の研究活動に活かしていこうと思ってい
講義だけではなく若手セッションや懇親会での交
ます。
流を通して、研究の最前線に立っていらっしゃる
またセミナーの3日間では核融合を学ぶ同年代の
方々からお話を直に伺う機会にも恵まれました。
方々と交流、ディスカッションをする機会があり
その為、日常の独自の学習では補えきれない核融
ました。これまで他大学の方々と交流する機会が
合の多くの知識を得ることができました。特に自
なかった私にとって、全国に同じ志を持った方々
分の研究課題であるフェライト鋼や核融合炉材料
がいらっしゃることを知り研究意欲が湧いてきま
の講義では多くの方々が前向きな意見をもって研
した。そして今後もこのつながりを大切にし、研
究を進めておられ、自分も将来を見据え研究を行
究を通して切磋琢磨し、お互いを高められるよい
っていきたいと思いました。そして、これから研
関係になっていければと思いました。
究を進めていく上で、自分の研究に関する部分だ
最後になりましたが、今回のセミナーを企画・運
けを学習していくのではなく、核融合の仕組み全
営してくださった東北大学諸先生方をはじめとす
体を理解した上で広い視野を持って研究を進めて
るスタッフの皆様、本当にありがとうございまし
いきたいと思いました。それとともに、今回得た
た。
写真3 一日目講義終了後モンタナリゾート玄関前にて集合写真
- 60 -
4.
国際会議及び国内シンポジウム等報告
第6回核融合エネルギー連合講演会報告
−炉心・炉工の総合化とエネルギー科学としての拡がりに向けて−
富山大学水素同位体科学研究センター
波多野雄治
れた。また、若い研究者に向け、ITER への参
1.はじめに
本講演会は(社)プラズマ・核融合学会と(社)
加が呼びかけられた。
吉川弘之 産業技術総合研究所理事長による
日本原子力学会の主催で 2 年に一度開催され、
両学会が交互に運営を担当している。今回は
招待講演「エネルギー研究の展望」では、俯瞰
(社)プラズマ・核融合学会が運営を担当し、
的視点より持続可能な発展を実現する学術の
2006 年 6 月 13 日および 14 日に富山国際会議
創成が必要であることが示された。
ポスターセッションでは 167 件の一般講演
場にて開催された。423 名の参加登録者に加え、
208 名の一般市民の参加が得られた。
があった。「関連研究」というカテゴリーが設
2.プログラム
けられ、幅広い視点から発表がなされた。
まず、組織委員会委員長である高村秀一氏か
シンポウジウム講演「核融合炉の基礎工学研
ら来賓並びに特別講演及び招待講演の講師に
究の進展と拡がり」では、超伝導技術、ITER
対する謝辞が述べられ、続いて本講演会の開催
用ジャイロトロンやイオンビーム、超高強度レ
趣旨等が説明された。副題を「炉心・炉工の総
ーザーなど、ITER や次世代レーザー核融合装
合化とエネルギー科学としての拡がりに向け
置に向けた技術開発の進展状況が報告された。
て」とした背景には、(1)ITER への多様な取
公開講演「持続可能な発展における核融合エ
り組みとデモ炉へ向けての幅広いアプローチ
ネルギーが果たす役割」では、高校生∼一般大
(BA)の展望、
(2)新たな技術の総合化を念頭に
学生を視野に入れたわかりやすい講演がなさ
置いた取り組み、および(3)新たな学術の広
れた。富山大学の学生を中心に、一般市民
がりの 3 点を基本的な柱とし、これらを核融合
208 名の聴講があった。
エネルギー実現のための開発研究ロードマッ
2 日目のパネル討論会「核融合エネルギー科
プと共に、エネルギー科学の中に位置づける必
学としての学術の拡がり」では、核融合にかか
要性があることが示された。また、来賓である
わる様々な分野から学術研究の最前線が報告
齋田道夫 富山県副知事と龍山智榮
され、各分野間の連携の重要性が指摘された。
富山大学
後半のパネル討論「ITER 研究と将来展望」
理事・副学長よりスピーチがあり、今後の核融
では、事前のアンケート実施結果等をもとに、
合研究の進展に対する期待が述べられた。
特別講演「ITER 計画の全貌」では、日本の
核融合研究開発戦略における ITER、ITER 計画
研究者の立場から ITER や BA の研究内容や参加
形態に関する議論がなされた。
の概要、ITER 計画における国内機関の役割、
ポスターセッションでは 161 件の一般講演
幅広いアプローチなどに関する講演がなされ
があった。初日の一般講演と合わせた 328 件の
た。池田要
中から、35 歳以下の若手研究者による 5 件の
ITER 機構長予定者より、機構内
組織、建設と研究計画に関する報告がなされ、
発表に対し、若手優秀発表賞が贈呈された。
未踏のプロジェクトにのぞむ抱負が熱く語ら
- 61 -
第 24 回核融合工学シンポジウム(SOFT 24th)
2006 年 9 月 11 日−15 日(ワルシャワ、ポーランド)
九州大学総合理工学研究院 深田 智、
核融合科学研究所 西村 新
原子力機構 山内 道則
系全般の説明をし、着実に ITER に 1kg/hr 程度の
1.トリチウム関係
本シンポジウムは、核融合工学関連の国際会議
トリチウムを供給し(ZrCo より最近は U による
としては最も古く、1960 年の第1回から2年毎に
供給を考えている)、PERMCAT や CAPER のシス
EU 内で開催され、今回で第 24 回を数え、2006
テムによる(Pd 合金のトリチウム透過と触媒分解
年9月 11-15 日、ポーランドのワルシャワ市中心
法)排ガス処理システムによる不純物除去法が設
に位置する文化科学宮殿(高さは 230m、ポーラ
計検討されている。しかし最大の難点は、トリチ
ンドでは最も高いビルらしい)の4、6階ホール
ウム水処理系にあると思われ、約 1011Bq/L のトリ
で開催された。1960 年当時の参加者は EU だけで
チウム水を LPCE-電解法で 108 の除染係数達成が
あったが、今回の会議は ITER 参加国を中心に発
目標である。発表にあった8mの塔でこの除染係
表件数約500件の大型国際会議となった。ワル
数を達成したとしても、日本の排水中の HTO 濃
シャワと言えば、コペルニクス、ショパン、キュ
度限度は 10-3Bq/L であるので、この減損だけでは
リー夫人であると opening ceremony でも熱心な説
足らず、さらに濃縮分離するか、大量の水で希釈
明があり、会場からそれほど遠くない旧市街付近
する必要がある。ITER クラスでは、低温蒸留同
に彫像や博物館が点在する。ポーランドの町は戦
位体分離法を含めて上に提案されたトリチウム
争で完全に壊滅されたと聞くので、多くの建築物
システムは必要な性能を発揮すると考えられる
や彫像は、旧ソ連支配下で多く建設されたいわゆ
が、今後より複雑な運転パターンや多様化する濃
る箱もの行政の結果であろうか。
度のトリチウムガスや水の除染のニーズに合わ
そこでトリチウム関連の研究報告の紹介であ
せるには、さらに高い信頼性あるトリチウム除去、
るが、口頭発表題目中に、tritium の語句を含むも
濃縮回収法を研究開発する基礎研究の必要性を
のが1件、detritiation を含むものが1件のみであ
感じた。
った。これは核融合関連研究全体が現在プロジェ
トリチウム関連のポスター発表は 14 日木曜日
クト中心に移っていることの現れであり、トリチ
に多く現れ、プログラムを見ると ITER, TBM,
ウム研究の必要性が低いのではなく、大型プロジ
IFMIF, BA 等の横文字の中に20件程度のトリチ
ェクト研究の一部になりつつあることが原因で
ウム研究が散在している。ITER-TBM では中性子
ある。例えば、C. Grisolia らの JET グループが、
照射下のトリチウム挙動を調べつつ、トリチウム
プラズマ対向壁特にダイバーター付近に大量に
回収する技術の達成が特に必要であり、大型研究
蓄積するトリチウムの各除染法(Laser、Flashlamp、
ではロードマップに従って確実に研究進展しつ
Plasma torch、Pxidation)の比較をおこない、いず
つ目標数値達成が要求されており、トリチウムに
れも現状では ITER の安定な運転には不十分であ
科せられた必要条件を満足させるためのシステ
り、今後の研究が必要であるとの結論であった。
ム研究とそれを支える基本現象の解明が現在の
また FZK の M. Glugla らが ITER トリチウム処理
トリチウム研究では必要であることを感じた。
- 62 -
最後にポーランド訪問の感想を書かせていた
質保証。15.構造解析結果と問題点。16.異常時の
だくが、映画「戦場のピアニスト」の最終場面に
電源システムの動作解析。17.コイル支持接続部の
ある荒廃したポーランドの町から今や完全に変
FEM 解析。18.詳細な構造解析。
貌し、2004 年 EU 加盟後に合わせて開催された本
その他の装置(5 件):KSTAR;冷凍系の設計
会議への意気込みと、特にポーランドの工業化へ
と製作。ASDEX-U;SMES のダンピングシステム
の熱意が感じられた学会であった。現在まだユー
への応用。FFHR;間接冷却超伝導コイルの概念
ロへの通貨切り替えがおこなわれておらず、ズロ
設計。JET;プラズマの上下方向運動の抑制のた
ーチと円の換算から計算した物価はかなり安い。
めの Radial Field Amplifier の概念設計。
JT-60;JT-60
ポ ー ラ ン ドで は 最 近 シャ ー プ 等 の会 社 の 大 型
改修用超伝導コイルシステム設計。
その他(9 件)
:AC/DC コンバータ用電源。RT-1
LCD 工場の建設が決まり、日本からの多くの投資
が見込まれるというのもそのせいかもしれない。
用磁気浮上コイル。TF-CS ハイブリッドコイルの
会議参加後の一つ心残りは、宮殿の最上階に行き、
応力解析。X 線トモグラフィーによる多芯線材の
市内を遠望することを忘れたことであった。
非破壊検査。リップルの電磁気的検討。Nb3Al 導
(文責
九大
深田)
体の臨界電流のひずみ依存性。原子炉照射後のシ
アネートエステルとエポキシのブレンド樹脂の
2.超伝導マグネット関係
超伝導マグネットと電源の分野の Poster 発表は
全部で 47 件であった。
(招待講演の 3 件を含める
強度。プラズマ制御電源の制御。超伝導磁石材料
の中性子照射効果。
ITER 関係と Wendelstein 7-X 関係の Poster 発表
と全部で 50 件)順不同で、装置毎に大きく分け、
が多数を占めていたことがわかる。
Poster 内容を以下に紹介する。
ITER 関係(15 件)
:1.電気絶縁材料の原子炉照
超伝導関係の招待講演は Rainer Wesche による
射後疲労強度。2.TF コイルの Pre-compression。
ITER の電流リードに関する講演、Manfred Wanner
3.ESD の電磁力解析。4.ラディアルプレートの製
に よ る Wendelstein 7-X の 現 状 の 話 、 Alfredo
作法。5.TF コイルの溶接性、加工性。6.PF コイル
Portone による欧州超伝導ダイポールに関するも
の設計。7.コイルの高電圧設計。8.冷凍系の運転
のの 3 件であった。また、Plenary 講演として、Felix
モード解析。9.シェアキーの許容度評価。10.ラデ
Schauer による W7-X の建設状況の報告があった。
ィアルプレートの最適製造法。11.TF コイル容器
W7-X の Assembly の責任者は Maurizio Gasparotto
用 JJ1、316LN の製造。12.TF コイル容器の破壊力
が務めていたが、彼が ITER Cadarache に移った後、
学的解析。13.CICC 導体の熱、流体解析。14.PF
F. Schauer が Assembly の責任者となった。W7-X
コイルの企業での製作法検討。15.Poloidal Field
の建設は大変遅れており、その原因の一つは超伝
Conductor Insert Coil(PFCI)の製作。
導コイル製作である。非平面コイル 50 個、平面
Wendelstein 7-X 関係(18 件):1.電源制御。2.
コイル 20 個作る予定であるが、これまでに正式
マグネットの絶縁試験。3.クエンチ検出器。4.マ
にメーカーから受け入れたコイルは非平面コイ
グネットの受入検査。5.中央支持構造の製作。6.
ル 6 個(内 1 個は予備コイル)、平面コイルは 3
バスバーの構造評価。7.中小企業のプロジェクト
個である。2012 年の完成を目指してコイル試験設
参加。8.超伝導バスラインの設計と製作。9.バス
備の増強も考えているようであり、人員増も要求
バー接続部の設計。10.コイル支持構造の製作。11.
しているようである。ITER の建設と住み分けが
コイル支持構造の問題点。12.ボルト接合継ぎ手の
できるように上手く調整が進むことを期待する。
強度試験。13.Full size 接合部試験結果。14.アルミ
後述するように、2 年後の第 25 回 SOFT は
ニウムシームレス溶接部と鋳造コイル容器の品
Greifswald の近くの Rostock で開催される。順調
- 63 -
に建設が進んでいる状況を参加者に示すことが
は 今 後 の 進 め 方 の 検 討 が 進 ん で い た が 、 D.
できれば大成功である。
Ciazvnski の報告は全体として Negative な雰囲気
中国 Heifei の IPP で EAST の建設が進んでいる。
が漂っており、導体設計のやり直し(Redesign)
IPP の副所長の Wu Songtao が EAST の建設状況を
という強い印象を聴衆に与えた。実際、4 本の導
Plenary talk で紹介した。TF コイル、PF コイルと
体試験は従来の導体に比べてどのような変更を
もに超伝導化したトカマク型のプラズマ実験装
行ったのかという点には全く触れず、ただ上手く
置であり、2006 年 2 月から 3 月にかけて一度 4.5 K
行かなかったことだけが強調された。そのため、
までの冷却に成功している。2006 年 8 月から第 2
質疑の中で、コイルの運転温度を下げてはどうか
回目の冷却を開始したが、4 台ある膨張タービン
といったコメントがあった。また、Holtkamp は、
のうち、第一段目の膨張タービンが損傷し、全体
3 日前(この週の月曜日)の彼自身の講演で、今
が 50-60 K 付近で維持された状態で冷却が止まっ
年の 12 月には全て決めるといったのに、あなた
ているとのことであった。第一段目のタービン入
の講演を聴いていると何も決めることができな
口でヘリウムガス中の不純物が固化し、それがタ
いではないかという発言をした。この講演があっ
ービン内に流れ込んでタービンが異常回転し、軸
た日の午後に、ITER に関係する会議がもたれた
受け部分が損傷し機能が低下したものと考えら
ようで、その会議中に Ciazynski の講演に対する
れている。ロシア製のタービンであり、9 月 12 日
否定的な評価が話題になったとのことである。翌
の Wu Songtao の講演の時点では新しいタービン
日に聞いた話では、彼の講演内容は彼の個人的見
の入手時期が確定されていなかった。(その後の
解であり、EU の ITER 超伝導関係者の一致した見
Wu Songtao の話では、9 月 18 日にタービンが IPP
解ではないという見方がなされたようである。
に到着し、9 月末から 10 月はじめの First Plasma
Alfredo Portone が「Superconducting R&D for the
を目標に、冷却を再開するとのことであった。そ
European Superconducting Dipole」と題する招待講
して実際、9 月 27 日に First Plasma の点火に成功
演を行った。この Dipole magnet プロジェクト
し、プラズマ実験が開始された。)
(ESD)は 2 年前(2004 年 10 月)から開始され
も う 一 つ の 超 伝 導 関 係 の Plenary talk は
たもので、12.5 T の磁場を 1.2 m の長さにわって
Cadarache の Daniel Ciazynski による「Review of
作り出すことができる。これまでの導体試験はス
Nb3Sn Conductors for ITER」であった。彼は CS モ
イスの CRPP の SULTAN で行われてきたが、
デルコイルを用いて行われた TF インサートコイ
SULTAN のスプリットコイルでは磁場分布が平坦
ルの繰り返し通電試験(2001 年)から話を起こし、
でなく、コイル中心から離れるほど磁場が低下す
繰り返し通電により電流分流開始温度(Current
る分布を持っている。より平坦な磁場分布の中で
sharing temperature. Tcs)が低下することを紹介し
の導体試験を実施するため、Dipole magnet を用い
た。低下の原因は電磁力による素線の曲げひずみ
た導体試験装置が建設されることになった。ESD
(もしくは局部的な塑性ひずみ)であり、11.8 T、
は SULTAN の横に設置される予定である。導体の
68 kA、電磁力が約 80 ton/m という非常に厳しい
製作に多少遅れがあるようであるが、R&D は順調
条件下での運転に耐えなければならない。今年の
に進んでいるとのことであった。
(文責
春から 4 本の導体試験を行ったが全て ITER 要求
条件を満足しなかった。この結果については、既
核融合研
西村)
3.中性子工学関係
に 8 月末から 9 月上旬にかけて米国の Seattle で開
ニュートロニクスは核融合のコンポーネント
催 さ れ た Applied Superconductivity Conference
でなく1つの技術分野の名称で、関連する発表は
(ASC)で報告されており、一部の関係者の間で
10 種類に分類されたトピックスの随所に断片的
- 64 -
に現れた。その内容を概観すると、放射線に対す
Frascati 研究所が協力して開発したものである。
る遮蔽解析と設計評価、遮蔽実験と解析、トリチ
通常、放射化解析では、予め計算した運転中の中
ウム増殖ブランケット関連の実験と解析、IFMIF
性子束分布に基づいて停止時のガンマ線源とそ
の放射化関連評価、新たな計算ツールの開発と評
れによる線量率を計算するのに対し、上記の方法
価、核反応データの測定と評価、トカマク以外の
では、モンテカルロ法による運転中の中性子の酔
核融合炉概念の核設計、中性子計測等となり、発
歩の計算中に崩壊ガンマ線を発生させ、停止時の
表件数は概略約 30 件であった。全体の1割足ら
線量率まで一気に計算する。イタリアと英国のグ
ずであるが、初めて本格的に中性子を発生する
ループは JET の実験結果と比較して、この方法
DT 核融合炉といえる ITER 以降の核融合炉開発
が充分精度の良い計算法であることを報告した。
にとって、いずれの発表も重要な役割を果たして
目から鱗が落ちた人はぜひ詳細な論文を読んで
いると思う。この分野で日本からは、原子力機構
下さい。遮蔽計算の信頼性を評価できる実験施設
と大阪大学から論文の筆頭著者として計 7 件の発
は世界広しといえども多くはなく、原子力機構の
表があった。
FNS では計測ポートの側壁と遮蔽プラグの隙間
遮蔽解析としては、ITER の ECRH 遮蔽性能評
を模擬した鉄スリット体系で 14MeV 中性子のス
価、ポートを含む 40°セクターの放射線分布計算、
トリーミング実験を実施し、MCNP-4C コードに
ポートプラグ操作と廃棄物処理時の被曝評価、
よるモンテカルロ計算でスリット内の中性子束
JT-60SA の遮蔽設計、JET 真空容器内外での停止
を 10%程度の精度で評価できることを報告した。
時空間線量率評価等の発表があった。核融合施設
ITER のような大型の装置で炉心から外側まで
はボイド領域が複雑な形状で繋がっているのが
の遮蔽解析をするためのもう1つの問題は、形状
特徴で、通常そこでの放射線透過計算は MCNP
を表現する入力データ作成の労力である。現在
等のモンテカルロ法が適している。ただし体系が
EU、中国、米、日の4極で CAD データを利用す
大きくなると計算結果の統計精度を上げるのに
る 方 法 の 開発 が 進 め られ て い る が、 中 国 か ら
時間がかかり、計算の信頼性をあげるのが大変で
ITER の3次元形状をモンテカルロ計算用に変換
ある。ITER の 40°セクターの解析ではこの問題
するプログラム MCAM と Sn 計算用に変換する
に対し、複雑なトカマク構造を3次元の有限要素
プログラム SNAM のベンチマークテストの結果
でモデル化して Sn 法で輸送方程式を解くことを
が報告された。Sn 計算の結果を図示するツール
試みている。計算コードは米国の民間会社で開発
も紹介され、モンテカルロと Sn の計算結果は矛
された ATTILA コードで、ITER では1∼2年前
盾なく一致したとのこと。これらのプログラムは
から計算結果の信頼性が検討されている。その結
実用化が近いと宣伝していた。
果は MCNP による計算とも比較され、20%以内
増殖ブランケットの関係では、EU が ITER に
の差で良く合ったと報告されたが、元来 Sn 計算
搭載するヘリウム冷却型ペブルベッド(HCPB)の
は Ray Effect(角度分点が少ないことによる問題)
核特性実験、核性能解析、トリチウム生成率の感
を避けるためにストリーミングの強い方向に充
度と不確かさの解析、中性子とガンマ線スペクト
分な数の角度分点をとる必要があり、角度の異な
ルの測定と解析、及び ITER に装荷した時の核熱
るポートやボイドが多数存在するトカマク構造
的共存性評価の5件についてまとめて発表した。
でどこまで遮蔽設計に必要な精度を出せるかが
最初の核特性実験はイタリア ENEA Frascati 研
今後の課題であろう。JET の停止時線量率評価に
究所の FNG 装置を使って行われたもので、他の
用いられた方法は Direct One Step Monte Carlo
4件を含む総論的な内容がニュートロニクスの
Method と呼ばれ、ITER 国際チームと ENEA
分野で唯一、FNG グループ長の P. Batistoni によ
- 65 -
り口頭発表された。トリチウム増殖率の解析結果
今回の SOFT では以上の他にも、3次元形状で核
はどの計算結果も実験値に比べて過小評価され
分裂物質の燃焼を詳細に扱うハイブリッド炉計
ており、彼らの HCPB は充分保守的に設計され
算法の開発と炉の設計、材料損傷や核発熱評価に
ているとのことである。
重要な2重微分断面積の測定、低放射化フェライ
IFMIF 関連では、腐食生成物によるターゲット
ト鋼の放射化をさらに低減するための方法等、い
材リチウム中の放射能評価、重水素に対する放射
ろいろ興味深いアイディアや努力が報告された。
化データライブラリーの拡充、新たな放射化計算
参加の都合がつかなかった人にはぜひそれらの
コードと核データの信頼性評価等放射化に関す
論文を読んで頂く事を勧めます。
る発表が多かった。ターゲット中の D-Li 反応生
(文責
成物といえる 7Be は効率的に除去可能であるが、
その他の放射能については個別に設計で対応す
る必要があり、被曝に対する安全性確保のために
精度の良い評価が重要であろう。
SOFT の会場となったスターリンゴシック様式の文化科学宮殿
- 66 -
原子力機構
山内)
第 21 回 IAEA 核融合エネルギー会議
2006 年 10 月 16 日∼22 日(成都、中国)
日本原子力研究開発機構
西谷
健夫
第 21 回 IAEA 核融合エネルギー会議は 10 月
伝導トカマク EAST の建設に関するオーバービ
16 日∼21 日に中国の成都にて開催された。成
ュー講演を行い、会議直前の 9 月 26 日にファ
都は三国志の蜀の都であったところで、現在四
ーストプラズマ生成に成功した旨の報告がな
川省の省都であり、人口 1,000 万人を超える大
され、会場総起立による喝采が送られた。JT-60
都会である。会議は市の中心から約 15km 南の
では、トロイダルリップル低減を目的にフェラ
郊外に新たに建設された世紀城国際会議場で
イト鋼タイルを真空容器内に設置した結果、高
開催された。この会議はプラズマ物理と制御核
速イオン損失が低減し、従来リップル損失が大
融合国際会議として 1961 年に開始され、1996
きかった、壁に近い大体積配位でも高ベータ実
年の第 16 回以降は、核融合エネルギー会議と
験が可能となった。それにより、壁安定化効果
名称を変更し、慣性核融合、核融合工学も含め
を利用して壁無しのベータ限界を超える規格
たエネルギー開発を目指した核融合分野の総
化ベータ値βN=4.2 を得た。さらにβN=2.3 を
合的な国際会議になりつつある。今回は 47 の
電流拡散時間の 12 倍に相当する 23.1 秒間維持
国と機関から約 800 名(内約 140 名が日本人)、
することに成功した。JET では、ITER での運転
が参加し、発表件数は約 460 件(うち口頭発表
シナリオの開発を目指した研究を進め、閉じ込
が約 108 件)であった。発表分野で見ると、プ
め特性に対する実効的衝突周波数、ベータ値依
ラズマ実験 44%、プラズマ理論 21%、慣性核融
存性に対して新しいスケーリングを導出した。
合 3%、ITER14%、核融合工学 14%、その他(革
DIII-D では、プラズマ制御手法を開発し、そ
新概念、安全・環境など)4%であり、まだまだ
れを用いて定常トカマク運転領域を拡大し、
プラズマ物理中心という傾向が強い。
ITER で懸念されている種々の不安定性(ELM、
会議は、第1回国際エネルギー賞受賞者であ
新古典テアリングモード、抵抗性壁モード)に
るロシアのベリコフ博士による核融合フロン
対して、非対称コイルや電子サイクロン波電流
ティア記念講演により始められ、トカマクを中
駆動を用いて緩和・抑制できることを示した。
心とした核融合研究の歴史がレビューされた。
核融合科学研究所の LHD では加熱パワーを 中
その後、池田要 ITER 機構長予定者による ITER
性粒子ビーム 15 MW, ICH 2.9 MW および ECH
の現状と今後の計画に関する特別講演が行わ
2.1 MW に増強し、粒子供給および粒子排気設
れ、建設準備状況、組織構成、スケジュール等
備を増強した。これらを用いて体積平均ベータ
について報告された。以下に ITER、核融合工
値 4.5% をもつプラズマをアスペクト比 6.6
学を中心として各分野のトピックスを紹介す
および磁場 0.425 T でエネルギー閉じ込め時
る
間の 10 倍の間、維持することに成功した。
プラズマ物理
理論では、高速粒子によって励起されるトロ
一般講演の最初は中国の Wan 教授が、中型超
イダルアルフヴェン固有モードに対し、線形、
- 67 -
非線形の体系のいずれにおいても、連続スペク
核融合炉工学
核融合材料関係では、Baluc 博士(スイス)
トル中のモード、離散固有値のモードの理論、
及び数値計算の精度が向上した。その結果、実
の核融合材料に関するレヴューが、核融合工学
験との比較が進み、不安定性の駆動・減衰機構、
分野から初めてオーバービュー講演に採用さ
不安定性と高速粒子の相互作用機構の概要を
れた。材料工学の基礎から最新の課題までを紹
説明できるようになってきた。
介し、プラズマ物理関係の参加者にもわかりや
ITER と関連核融合工学
すい講演であった。ブランケット構造材として
ECH 技術の開発では、特に ITER 用 170GHz ジ
最も有望視されている低放射化フェライト/マ
ャイロトロンが大きく進展した。原子力機構で
ルテンサイト鋼(RAFMS)では、照射後の焼きな
は 600kW で1時間(2.1GJ 出力)、820kW で 10
ましにより、照射硬化が回復することが、日本
分、効率 56%など、ITER でほぼ使用出来るレベ
及び EU から報告された。国際核融合材料照射
ルを達成した。EU では ITER 用 2MW ジャイロト
施設 IFMIF に関しては、要素技術活動(KEP)
ロンの製作が終了し、来年からテストが開始さ
の成果と、次のステップであり、ブローダーア
れる。またベンデルシュタイン 7-X 用 140GHz
プローチ活動(BA)の1つとして開始予定の工
ジャイロトロンでは 0.9MWMWで 30 分の出力
学実証工学設計活動(EVEDA)の概要が東北大松
に成功した。
井教授から報告された。阪大で進められている
ITER 用 NBI の開発では、アークおよび RF 負
IFMIF ターゲットの Li 流の実験では、ノズル
イオン源の長パルス化が大きく進展した。アー
への不純物の付着堆積が、流れの乱れを引き起
クイオン源においては、JT-60 の実機大型負イ
こすことが報告された。また EU からは、IFMIF
オン源を用いて、従来1秒程度であった入射時
のターゲットとテストセルの最新の設計案が
間を21秒まで伸長することに成功した。また、
示され、高フラックステストセルモジュールで
RF 負 イ オ ン 源 に お い て も 、 ITER 設 計 値
は、He の除熱挙動が複雑であり、設計上最も
(200A/m2)に近い電流密度(160A/m2)で、ビーム
難しい課題であることが示された。
パルス幅を 600 秒まで伸長することに成功し
ブランケット関連では、中国、EU、日本及び
た。また負イオン源の長パルス化に加えて、
韓国から、それぞれが提案する ITER テストブ
ITER 用の実サイズ大型絶縁管の製作に成功し
ランケットモジュールの設計と R&D の成果に
た。本絶縁管は工学試験を実施した後、ITER
ついて発表があった。テストブランケットの設
NBI に組み込むことを予定している。さらに、
計と ITER システムへの統合設計が大きく進展
加速器(日本のマルチグリッド型、EU のシン
し、EU からは、ITER の水平ポートへ取り付け
グルギャップ型)の高性能化および設計におい
の具体的な設計が示された。各極とも ITER 運
て進展がみられた。
転初日からのテストブランケット持込に向け
真空容器及び真空容器内機器については、信
て、テストブランケットのために材料とモジュ
頼性、保守性の向上及びコスト削減のために詳
ール製作、補機システムに関する R&D を進めて
細設計や R&D が進められており、設計の妥当性
おり、大きな進展が見られた。中性子増倍材の
確認のために真空容器のフルサイズの真空容
R&D については、原子力機構が Be12Ti べブルを
器セクターやダイバータコンポーネントの試
試作し、これまでの金属ベリリウムで課題であ
作が行われた。
った水との反応性が、約 1/1000 であることが
- 68 -
示され、水冷却固体増殖ブランケットに明るい
ンパクトステラレータ ARIES-CS の概念設計が
見通しを与えた。D-T 中性子源施設である FNS
米国から示された。
(原子力機構)と FNG(イタリア ENEA)では、
慣性核融合
各々、水冷却固体増殖、ヘリウム冷却固体増殖
大阪大学では、FIREX-I 用の高出力レーザー
を模擬した多層構造モックアップを用いて、ブ
の開発が順調に進んでおり、2006 年 5 月に
ランケット核特性実験が行われた。トリチウム
14.4kJ の出力を得た。2008 年から FIREX-I の
生成率検出器として、炭酸リチウムペレットを
実験を開始し、2010 年に Q=0.1 を目標とした
適用して、詳細なトリチウム生成率分布を測定
DT 実験を行うべくターゲット(燃料ペレット)
し、最新のモンテカルロ計算コード及び核デー
の開発を継続している。米国の NIF(National
タライブラリーを用いて実験解析を行った結
Ignition Facility)では、2010 年の点火実験
果、計算結果は、実験結果と 10%以内の精度で
に向けて各コンポーネントの開発を進めてい
良く一致した。また核設計手法として、3次元
る。2008 年からロチェスター大の 30 kJ OMEGA
CADデータからモンテカルロ計算コード
レーザーを用いたターゲット物理実験を開始
(MCNP)の入力データを自動作成するプログラ
予定である。また、NIF においても、慣性核融
ムが中国及び EU でほぼ実用化の段階まできて
合炉の低コスト化と直接照射による点火実験
おり、ITER の40度セクターモデルに適用し、
の代替案として高速点火方式の検討も進めて
有効性を示した。今後テストブランケットや
いる。また高速点火方式を用いた慣性核融合炉
DEMO 炉等の複雑な形状の核設計に適用するこ
として、KOYO-F の概念設計として、液体金属
とが期待できる。
カスケード方式によるターゲットチェンバー
新しい実験装置としては、アジアにおいて3
の表面保護の概念が示された。
なお次回の第 22 回核融合エネルギー会議は、
つの中型超伝導トカマク装置(中国:EAST、イ
ンド:SST-1、韓国:KSTAR)が建設されており、
制御核融合研究が始まって 50 年目を記念して、
EAST については先に述べたようにプラズマの
2008 年 10 月 13 日∼18 日にスイスのジュネー
点火に成功した。SST-1 は、組み立てが完了し
ブで開催される予定である。
ており、超伝導コイルの通電試験の段階である。
KSTAR は 2006 年2月に 16 個すべてのトロイダ
ルコイルが完成し、2007 年中ごろにはすべて
の組み立てを完了する予定である。また JT-60
は、BA の一環として、超伝導トカマク JT-60SA
に改修する計画である。
トカマク炉の概念設計では、中心ソレノイド
を可能な限り細くして、コンパクト化を図った
原型炉 SlimCS と動力炉 CREST へのステップと
して、既存技術に基づいた原型炉トカマク
会議が行われた成都世紀城国際会議場(奥)と
Demo-CREST が、それぞれ原子力機構と電中研
ホテル(手前)
から示された。EU は、5つの動力炉概念設計
研究(PPCS)を紹介した。ヘリカル炉では、コ
- 69 -
第17回TOFE(11月13日―15日、アルバカーキ) 派遣者報告
静岡大学大学院
れた、正に近代文化を象徴するような建造物で
創造科学技術大学院
ありました。
自然科学系教育部
環境・エネルギーシステム専攻
学会会場としましては、オーラル会場とポス
放射化学研究施設 奥野研究室所属
ター会場で別れており、オーラル会場はコンベ
博士後期課程 1 年
ンショナルホール内の 2 会場で、ポスター会場
吉河
はコンベンションホール近隣の Double Tree
朗
私は 2006 年 11 月 12 日~15 日にアメリカ
Hotel にて行われました。オーラル発表では興
はニューメキシコ州・アルバカーキで開催され
味深い発表が別々の会場で同時に行われたこ
た
17th
Topical Meeting on the Technology of
ともしばしばあり、一方の会場の発表を聞けな
Fusion Energy (TOFE)に参加して参りました。
かったことについては非常に残念に思ったと
本学会開催地でありますアルバカーキは朝
ころでした。発表におきましては、講壇者の
晩と昼間の寒暖差が非常に激しく、かつ乾燥し
方々は大変丁寧にかつ非常に筋の通ったスト
たいわゆるステップ気候に属する気候環境で
ーリー展開によって発表されていたことは大
あり、朝ホテルから外に出て呼吸した際の息の
変印象深かったことであり、さらには、質疑応
白さがアルバカーキの冬の厳しさを物語るも
答の場においても非常に活発な議論が研究者
のでありました。また、宿泊したホテルの前に
間でなされ、現在の当該研究における現状や最
て辺りを見渡した折には、あたかも砂漠の真っ
新の状況などを認識する事が出来ました。
只中に来たかの様な一面広大な荒野で囲まれ
さて、私も参加しましたポスター発表におき
ていたことに大変驚きを感じると共にアメリ
ましては、開始前より多くの人々で賑わってお
カのスケールの大きさをまざまざと再認識で
りました。開始後は、私の発表におきましても、
きるものでありました。アルバカーキの町並み
世界中の多くの研究者の方々に見ていただき、
におきましては、オールドタウンを中心としま
多くのコメントや御指摘、或いはアドバイスを
してネイティブアメリカンおよびスペインの
いただきました。ただ、ポスター発表における
文化を色濃く反映しており、日本でいう京都の
発表時間が 2 時間と短かったため、始まったと
ような大変古風かつ上品な町並みを呈してお
思うとすぐに終わってしまったという程、時間
りました。しかしながら、食べ物に関しては、
の流れを早く感じました。もう少し発表時間が
正にアメリカだと口ずさんでしまう様なスケ
長ければ、より多くの研究者の方々と議論が出
ールの大きな料理ばかりで、小食の私には少し
来たのでは、と思います。いただきました御指
荷が重いこともしばしばありましたが、風味と
摘等については私自身が思いもつかなかった
しましては日本では味わう事の出来ないアメ
考え方に基づいたものもあり、自分の勉強不足
リカ文化の香りを感じるものばかりでした。
について痛感すると共に、大変有意義でかつ勉
本学会会場はアルバカーキの中心市街地に
強になり、本発表の更なる発展につながるもの
ありますコンベンションホールにて行われま
ばかりでした。
した。その近隣には 106 m の全長を誇る Bank
ポスター発表のありました夜には、同ホテル
of America Tower 等多くの高層ビル群に囲ま
70
にて Banquet も開かれ、多くの研究者や関係
ることになり,これならオーラルのほうが楽だ
者の方々が参加しており、楽しくも荘厳なひと
ったのでは,とまで思いました。
発表内容は IEC と呼ばれる小型の核融合中
時を過ごすことが出来ました。
本学会の開催期間は 3 日と短いものでした
性子源に関するもので,同種の装置は国内では
が、私自身に取りましては当該研究において多
数箇所でしか研究されていません。そのため国
くのご助言、ご指導をいただけましたこと、そ
内の学会では見知った顔の研究者同士で話し
して会話は全て英語でしなければいけないよ
合うことが多いのですが,今回の発表では今ま
うな環境にいられたことは、大変勉強になり、
でより多くの研究者と話すことができました。
私がこれからより自分を高めていくための何
割り当てられた場所がポスター会場の出入り
物にも代え難い経験となりました。
口近くの人通りが多い場所ということもあっ
最後に、このようなかけがえのない貴重な機
たのですが,最近は日本原子力学会においても
会を与えてくださりました日本原子力学会お
中性子源という区分ができるなど,中性子源と
よび指導教官であります奥野健二教授、そして
しての核融合研究が盛んになってきているの
大矢恭久助教授に心より御礼申し上げます。あ
ではないかと感じました。原因はなんにせよ,
りがとうございました。
久しぶりに会ったアメリカの研究者や,最近同
じような装置の研究を始めたという韓国の学
京都大学大学院
生など,多くの方々と議論する機会を得られて,
エネルギー科学研究科
エネルギー変換科学専攻
充実したポスター発表となりました。以前読ん
吉川潔研究室所属
だ新聞記事で,ノーベル賞受賞者の田中耕一さ
博士後期課程
高松
輝久
んが,オーラル発表が重視されがちな風潮を批
2006 年 11 月 13-15 日にアメリカ アルバカ
判し,ポスター発表の重要性を説かれていたの
ーキにて開催された第 17 回 TOFE において
ですが,その意味が分かったような気がしまし
「Spatial Distribution of D-D Neutrons on a
た。
Compact Water-Cooled Inertial Electrostatic
会議終了後には会場となったアルバカーキ
Confinement Device」という題目でポスター
から移動し,Los Alamos 国立研究所を見学す
発表を行いましたので,この場を借りて報告い
ることが出来ました。1 年前の夏にロスアラモ
たします。
スから我々の研究室に客員研究員として研究
発表は最終日でポスター形式だったのです
者を招いたときの縁から,今回の学会の機会に
が,話を聞くと今回はオーラルに多くの発表が
逆に招いていただいたものです。非常に有名な
割り当てられているようで,他の学生にもオー
研究所であり,また私と同種の中性子源の研究
ラル発表の方が多いようでした。同じ発表とい
が行われていること,さらに今回の研究で利用
ってもポスターとオーラルとではかかるプレ
させていただいた有名なシミュレーションコ
ッシャーが違います。ポスター発表に割り当て
ードの開発元でもあることから,学会よりも研
られたことに気楽さを感じると同時に,やはり
究所訪問のほうが今回の渡米の本命と言って
折角ならオーラルで発表してみたかったと物
も良いくらいです。さすがに原子力関係の研究
足りなさも感じていました。しかし,いざ発表
所なだけはあり,入所には事前に申請したうえ
が始まってみると,非常に多くの方々に説明す
で当日はバッジオフィスにて通行証を発行し
71
てもらうなど,セキュリティの厳重さが印象的
これには大いに落ち込みましたが,研究の不備
でした。
が分かったことは大きな収穫でもあるわけで
今後の研究の指針としたいと思います。
所内のいくつかの施設を見学しましたが,意
外だったのはアジア系など多くの外国人研究
振り返れば,この国際会議に参加できたこと
者が勤めていたことでした。原爆誕生の地でも
で,国内の会議では得られない貴重な経験が出
ある,軍事的にも重要な研究所にもかかわらず,
来ました。今後これらの経験を生かしてし,研
国際的に開かれた場でもある点には大いに感
究者として活躍できるよう努力したいと思い
銘を受けるところです。その後,改めて私の研
ます。最後になりましたが,今回の海外渡航に
究についてディスカッションをしましたが,学
対して助成していただいた日本原子力学会核
会ではなかなか好感触だったこともあり自信
融合工学部会に深く感謝いたします。
を持っていたにもかかわらず,実験データの収
集が不完全な点を指摘されるなど厳しい内容
でした。さらには,私としてはよく一致してい
ると思っていたシミュレーションと実験結果
との比較についても,計算条件をきちんと設定
すればさらに精度が上がるはずであると批判
され,Miserable とまで言われてしまいました。
17th TOFE が開催されたアルバカーキ コンベンションセンタ
72
5. 会員の声
断念するか、というのが現実的な問題となる。
育児と核融合
日本原子力研究開発機構
私の場合、子育ても大事、研究も大事(猫の
加熱工学研究グループ
手も借りたいくらい、の忙しい職場である)と
柏木
いう周囲の理解が大きく、妊娠中の職場環境の
美恵子
私は、中性粒子入射装置の負イオン源の研究
をしている。最近、原子力機構(以下、機構)・
那珂核融合研究所で、初のママ研究員となり、
育児と研究の両立について考えるようになっ
た。以前は、子供を背負い、育児、研究、学会
発表とバリバリこなすもの、両立は当然の事と
お気楽に考えていたが、現実的には、枠組みが
無ければ職場の規律を乱す事にもなりかねず、
周囲に迷惑を掛けてしまう事になる。核融合炉
の実現を目指した研究は、世代をまたがる息の
長い仕事であるから、女性の研究員が出産や育
整備に始まり、研究を継続的に続ける配慮を頂
き、更に、電車で2時間半の所に住んでいる実
母が父を残して平日来てくれ、夫の大きな協力
もあり、産後3ヶ月で復職できた。しかし、支
援の手がなく、保育園にも入れなければ、早い
職場復帰は難しかったと言える。いずれ保育園
や幼稚園に預けるとしても、月齢の低い時期は、
すぐに子供の顔を見に行くことができ、授乳を
継続できる職場環境が望ましい。そのためには、
上記(5)の託児スペースやベビーシッター制
の導入が適当ではないだろうか。
児を断念する、或いは、逆に育児で長期に研究
現場を離れざるを得ない、といった閉鎖的なこ
各大学でもこの支援活動が活発化し、産業総
合技術研究所では既に始まっている
とではいけない。しかし、元々、女性はかなり
( http://unit.aist.go.jp/gender/ci/kosodate-hi
少数の本業界、育児と研究の両立に関する要請
roba/index.htm)。また、日本物理学会を中心
も議論も殆ど無かったのではないだろうか?
に、学会開催中に託児所を設ける学会が増えつ
労働基準法の定めるところでは、出産予定日
6 週前から産後 8 週を産休、満 1 歳になるまで
を育児休暇として取得可能である。更に、勤務
時間の短縮等の措置として、育児休業に準ずる
措置又は次のいずれかの措置、(1)短時間勤
務制度、
(2)フレックスタイム制、
(3)始業・
終業時刻の繰上げ・繰下げ、(4)所定外労働
つある。女性の支援に関しては、家庭内の男性
の支援も重要で、そのためには、男女双方に対
して、研究だけでなく、育児など家庭生活を円
滑に行う枠組みを構築することが必要である。
副次的要素かもしれないが、このような環境整
備は、働きやすい魅力的な職場の一要因になる
と考えられるのである。
の免除、
(5)託児施設の設置運営、
(6)育児
費用の援助措置、を 3 歳までは講じなければな
初めての国際会議に参加して
らず、小学校就学までは事業主の努力義務、と
静岡大学大学院理学研究科修士課程 1 年
している。機構では、このうち(1)を採用し
放射化学研究施設
ている。しかし、機構全体でも女性研究者が少
須田
泰市
なく、育児と研究の両立、という観点での具体
私は 2006 年 9 月 11 日∼15 日にワルシャワ
的な仕組みはまだ不十分である。出産の度に長
( ポ ー ラ ン ド ) The Palace of Culture and
期休職では、複数の子供を断念するか、仕事を
- 73 -
Science で開催された 24th SOFT に参加しま
24th SOFT への参加によって得た経験と自信
した。24th SOFT への参加は私にとって初め
は今後の自分の研究および人生においてかけ
ての国際会議への参加であるとともに、初めて
がえのないものとなったと確信しています。
の海外経験でもあります。そのため、国際会議
最後に、このような貴重な機会を与えてくだ
への参加に対する不安や緊張だけではなく、準
さった奥野先生および大矢先生をはじめ、研究
備はどうしたらいいのかといった国際会議へ
室の皆様、さらに今回の 24th SOFT 参加に対
の参加以外に対する不安も抱えていました。そ
して援助をしてくださった中部電力株式会社
んな中、なんとか準備を終え、期待と緊張を胸
様にこの場をお借りして、お礼を申し上げます。
にいざワルシャワへ。
ありがとうございました。
長時間のフライトを経て到着したワルシャ
ワは、日本とは異なり、9 月中旬にもかかわら
六ヶ所村に住んで
ず、とても肌寒く感じました。そのワルシャワ
日本原子力研究開発機構・青森事務所
の街並みは歴史を感じさせる建築物と近代風
栗山正明
六ヶ所に行ってブローダーアプローチ(BA)
の高層ビルが混在して立ち並んでいます。その
中で、24th SOFT はスターリンからの贈り物
サイトの地ならしの仕事をしてこいと言われ
である The Palace of Culture and Science で
た時、私自身は六ヶ所村とはどういう所か全く
開催されました。
見当がつかなかった。何せ、青森県という地は、
自分の 24th SOFT での発表は二日目のポス
北海道に行く際に通過しただけで一度も足を
ターセッションです。発表当日、会場に着いて
下ろしたことがなかったのである。昨年 4 月 1
早々ポスターを発表ボードへ貼り、初の国際会
日の朝、原子力機構・青森事務所(青森市では
議参加の記念に写真撮影をしました。その後は
なく六ヶ所村にある)の事務所開きのため初め
発表の時間が近づくにつれて、会議初日には感
て六ヶ所村にきた時、周辺の風景はまだ雪一色
じなかった緊張が徐々に高まっていきます。そ
で、しかも横殴りの雪が舞っており、こりゃ、
して、ポスターセッションの時間。至る所で活
大変な所に来たわい、との印象をもった。
発な議論が行われている光景を目の当たりに
しかし実際に赴任してみると最初に考えて
して、自分はしっかりとポスター発表をできる
いたよりは遥かに住みよく、特に六ヶ所村中心
のか、不安と緊張がピークに達しました。そん
部の尾駮レークタウン内にあるショッピング
な中、初めて自分のポスターの前で足を止めて
モールには、スーパーマーケット、本屋、薬局、
くださった研究者がいました。彼に大学で練習
床屋、旅行代理店、カメラ店、釣具店など、さ
してきたポスターの説明をし、さまざまな質問
らには 100 円ショップまであり、生活上の不
やアドバイスを頂きました。その後も多くの研
便さは全くない。また六ヶ所村内をドライブす
究者がポスターに興味をもってくださり、活発
ると初夏には道路沿いに水芭蕉や蕗の薹が群
な議論をしているうちに、あっという間にポス
生していて、車の中から容易に希少植物を楽し
ターセッションの時間が過ぎてしまいました。
めるし、イングランドの湖水地方とよく似た
ポスターセッションが終わったときは、発表を
「湖と原生林が共存」している自然環境の中を
何とか終えることができたことに対する満足
ゆったりドライブすると自然に心が和んでく
感と達成感でいっぱいでした。現在では今回の
る。また車で 1 時間程の八甲田山系では、春か
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ら夏にかけてはお花や新緑の雄大な景色、秋は
欧の研究者を含めた多くの研究者が集まって
素晴らしい紅葉、冬は真っ白な雪化粧と四季を
本格的な研究活動が開始されようとしている。
通して素晴らしい風景を楽しむことができ、更
ここ六ヶ所村に多くの核融合研究者、特に大学
にここでは初夏から秋にかけてのトレッキン
を含めた若い研究者が参集することを期待す
グ、冬は壮大なスロープでのスキーなどが簡単
るものである。
に楽しめる。温泉についていうと六ヶ所村内に
も 2 ヶ所程あるが、八甲田山系には酸ヶ湯、蔦、
谷地、猿倉、城ヶ倉、八甲田などの多くの温泉、
さらに下北半島の恐山近くには薬研、下風呂な
どの有名な温泉があり、週末の温泉巡りにも事
欠かない。またゴルフが好きな向き(私もそう
であるが)には、初夏から秋にかけて高原や半
島沿いの雄大なゴルフ場でプレーを楽しむこ
尾鮫沼越しに六ヶ所村中心部を見たところ。中
とができる。文化面ではレークタウン内にある
央より左手はスワニーなどの村の施設群。右手
文化交流プラザ(スワニー)の大ホールでは一
は日本原燃の住宅群。
流のシンフォニーや演奏家のプレーを安価(東
京近辺の半額以下)な入場料で楽しめるし、隣
ポーランドの風景
の図書館には多くの蔵書がそろっている。更に
大阪大学大学院工学研究科博士後期課程2年
1 時間程のドライブで下田ショッピングセン
近藤
恵太郎
昨年 9 月にポーランドのワルシャワで開催
ター内にあるシネマコンプレックスで内外の
された国際会議 SOFT24 に参加する機会を得
最新映画をいつでも楽しめる。
と、ここまで書いて仕事のことは何も述べて
ました。会議の詳細については別の方の報告に
なかったことに気がついたので、少し仕事の紹
譲るとして、ワルシャワで受けた街の印象を綴
介をする。日欧共同で実施する BA は、ITER
ってみたいと思います。
支援と原型炉の開発に向けて、「サテライトト
ワルシャワに到着した日は土曜日だった
カマク(JT-60 の改修)」、「国際核融合エネ
のですが、街なかの交通量が少なく意外に思っ
ルギー研究センター」、
「国際核融合材料照射施
ていました。ところが、平日の朝晩は日本も顔
設の工学実証・工学設計活動」の 3 つのプロジ
負けの交通ラッシュ!
ェクト研究を行うもので、このうち、最初のサ
ました。あとで、ポーランドは敬虔なカトリッ
テライトトカマクを那珂で、後者の 2 つを六ヶ
クの国で日曜日は安息日なのだ、ということを
所村で実施するものである。この六ヶ所村で実
聞いて納得。そういえば至る所に教会があり、
施する BA 拠点の地ならしするのは我々の当
生活にカトリックの教えが浸透していること
面の活動で、昨年 11 月中旬には関係各位のご
を実感しました。街の中心部には電飾が輝く西
協力の下に、日本原燃(株)サイト近くにある、
側資本の店や、立派なホテルが並んで建ってい
鷹架沼沿いの丘陵地に BA 活動拠点のサイト
ました。ところが通りを少し外れると、灰色の
を決めることができた。今後平成 19 年度から
古びたマンションや裏側の壁が崩れかけて廃
本格的な建設工事を開始し、2∼3年後には日
墟のようになったビルなどがまだまだ現役で、
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この差には驚かされ
と、遊んでいた話ばかりでは何なので、会議
旧東側の雰囲気を色濃く残していました。
物価は安く、日本の 2/3 ぐらいの感覚でしょ
のことも(おまけ程度に)記しておきたいと思
うか。昨今のユーロ高と相まって、その差が際
います。参加者の多さと、ITER の建設がいよ
だっていました。いくつか地元レストランに足
いよ始まるという高揚した雰囲気が印象的で
を運びましたが、夕食でお酒も頼んだとして一
した。EU 諸国の強い意志が感じられ、日本は
人 1500 円も払えば食べきれないほどの量です。
どうなんだ、と問いかけられているようにさえ
料理はどれもおいしく、日本人の口に合うと感
思えました。ご存じのように、ポーランドは大
じました。様々な野菜を使ったメニューが多く、
変複雑な歴史を持つ国です。SOFT の開催国と
料理法も変化に富んでいました。ポーランドは
して、そのポーランドに欧州各国の研究者が集
ヨーロッパ屈指の農業国だそうで、そういうと
うという光景は、ITER の国際協力という側面
ころが日本人の感覚に合うのでしょうか。
を象徴する姿でもあるなと思いました。
ワルシャワ市内で印象に残ったのは、朝の
最後になりましたが、このような貴重な経
散歩がてら訪れたワジェンキ公園です。とても
験を積む機会をいただきました諸先生方に深
整備の行き届いた美しい公園でした。また郊外
く感謝申し上げます。どうもありがとうござい
にも少し足を伸ばしましたが、市街地を抜ける
ました。
と本当に雄大でのどかな風景が広がっていま
した。ワルシャワの中心部とは違った、中央ヨ
ーロッパらしいポーランドの姿を少し垣間見
ることができたと思います。
ワルシャワの旧市街
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発行
日本原子力学会事務局
〒105-0044
東京都港区新橋 2-3-7
TEL: 03-3508-1262
FAX: 03-3581-6128
核融合工学部会編集小委員会
西谷
健夫 (編集小委員長
原子力機構)
村田
勲
(大阪大学)
朝岡
北村
晃
(神戸大学)
御手洗
長坂
琢也
(核融合科学研究所)
佐藤
学
(東北大学)
鈴木
晶大
(東京大学)
佐藤
聡
(原子力機構)
波多野雄治
(富山大学)
内田
宗範
(日本ガイシ)
森
(カワサキプラントシステムズ)杉山
貴彦
(名古屋大学)
森下
清治
和功
善幸
修
(電力中央研究所)
(九州東海大学)
(京都大学)
編集後記
昨年に引き続き、皆様のご協力により核融合工学部会報(第 14 号)を無事刊行することができまし
た。学会に於ける部会企画セッション等で発表された先生方には、講演の上にさらに原稿を執筆してい
ただいとことに御礼申し上げます。また、広い世代にわたって「会議報告」や「会員の声」など、有意
義かつ興味ある原稿を寄稿していただきました。あわせて御礼申し上げます。
山本部会長の巻頭言にもありますように、本年度は、ITER 協定、BA 協定の調印など核融合を取り巻
く状況に大きな進展がありました。私自身も、BA の原型炉 R&D の立ち上げを担当しており、昨年7月
と11月に、原型炉 R&D に関する日欧専門家会合を六ヶ所村で開催しました。7月の会合では、東北
地方以南が梅雨で鬱陶しい時期に、六ヶ所村は、さわやかにからっと晴れ渡り、欧州からの参加者にも
好感をもたれたようです。11 月の会合でも、雪は全くなく関東と大きくは変わらない気温でした。この
会合で欧州からの参加者の一人が、欧州̶ソウル(仁川)̶青森というルートを利用したのですが、成田
羽田間のような空港間の移動もなく、時間的にも欧州から青森への最も速いルートとのことでした。
我々も例えばカダラシュへ行く場合に、パリ経由にこだわらずに、フランクフルトなど欧州のハブ空港
を利用している訳で、日本へ来る場合でも、成田や関空にこだわる必要はなく、アジアまで目を広げれ
ば別の見方ができることを実感しました。知らず知らずの内に、東京中心見方に染まっていることに気
がつき、目から鱗が落ちた気がしました。仁川空港や上海空港の今後の発展を考えると、アジアいや世
界からみれば東海村より六ヶ所村の方が便利という時代が近いような気がします。
最後に私の任期は3月一杯までですが、本部会報に対するご意見・ご感想や今後の部会報のあり方に
ついてご意見等があればぜひお寄せください。新編集委員に申し送りしたいと思います。2年間ご協力
ありがとうございました(西谷)
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