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ネットワークアプライアンスの雷害故障実態と 落雷危険度マップ
雷害故障 多様化するネットワークアプライアンスの雷防護技術 故障対策 故障予測 ネットワークアプライアンスの雷害故障実態と 落雷危険度マップ あ お き の ぶ え とみなが て つ や 青木 延枝 /富永 哲欣 近年,増加する通信機器の雷害故障に対応するため故障と落雷情報から, 落雷発生マップ,雷害故障危険度マップを作成し,故障対策重点地域を特定 や ま ね ひろし 山根 宏 することにより,効果的な故障対策が実施できるようになりました.さらに, NTT環境エネルギー研究所 雷害故障数を予測することもできるようになりました. 雷害故障の現状 となる雷防護区分を設定しています(3). 雷の関係を分析することにより,雷防 しかし,30年以上前の雷雨日データを 護区分の細分化が可能になりました. 落雷により発生する通信機器の故障 用いていること,雷雨日の位置解像度 については,現在,さまざまな対策が が低いことから,雷防護区分の細分化 とられています.しかし,通信速度の が困難であるという問題がありました. *1 近年の雷害故障実態 関東エリア(東京都,神奈川県,埼 耐力 一方,1999年から㈱フランクリン 玉県,栃木県,群馬県)で発生する の低い素子を使用したネットワークア ジャパンが全国規模でのJLDN(Japan 年間の落雷数は,年度により異なりま Lig ht n ing D e t e c t i o n Ne t w o r k ) すが,多い年で約55万,少ない年で約 高速化をはかるため,雷サージ *2 プライアンス が増えて,雷害故障は 増加する傾向にあります.そこで,雷 落雷情報 (4) の販 売 を開 始 しました. 20万です.落雷が多発する時期は7∼ 防護アダプタなどによる対策 を効率 JLDN落雷情報では,落雷発生時刻, 9月で,規模は20∼30 kAの小規模 的,経済的に行うことが求められてい 緯度,経度,電流値,極性などの情 のものがほとんどですが,中には100 ます.NTT環境エネルギー研究所で 報が得られ,位置解像度が低いという kAを超える大規模なものもあります. は,最近の故障実態,落雷状況を調査 問題がクリアされました.また,1996 1999年度から2001年度における関東 し,雷害故障危険度を5kmメッシュ 年 にN T T で 故 障 稼 働 データベース エリアの雷害による故障率,固定電話 (1) (5) で5 段 階 表 示 した雷 害 故 障 危 険 度 CULTAS が開発され,故障の詳細 加入者数当りの故障率を表1に示し マップを作成しました.故障対策重点 を知ることができるようになりました. ます.落雷発生に伴う通信機器の雷害 地域を特定することにより,効率的に これらのデータを用い,雷害故障と落 故障は,関東エリアにおいて,2000年度 対策を実施することができます. 表1 雷害による故障率と加入者数当りの故障率 雷防護区分とは NTTでは,1960年代の10年間の 落雷 数 故障 率 年 間雷雨日数(IKL: Iso Keraunic (2) Level) を用い,雷防護対策の指針 *1 電サージ:落雷により,電源線や通信線 (電話線)に一瞬,高電圧が発生し,加入 者保安器や通信機器のアース等に流れま す.その電流を電サージ電流といいます. *2 ネットワークアプライアンス:TAなどのコ ンピュータ周辺機器を含めたネットワーク 機器. 38 NTT技術ジャーナル 2003.3 1999年度 2000年度 2001年度 213 952 543 738 294 669 加入者数 総故障当り 加入者数 総故障当り 加入者数 総故障当り 当り(%) (%) 当り(%) (%) 当り(%) (%) 0.04 1.17 0.02 0.58 神奈川県 東京都 0.02 ― 0.46 0.04 0.77 0.06 1.25 埼玉県 0.16 3.81 0.27 4.86 0.17 3.16 栃木県 0.47 7.03 0.81 10.89 0.76 9.90 群馬県 0.39 6.51 0.59 9.50 0.36 5.76 全体 0.03 3.66 0.15 3.28 0.11 2.41 特 集 その他 2% アクセス系 装置 40 % 宅内系装置 58 % 故障ポイント 図2 2000年雷害故障マップ 図1 雷害故障内訳 は約3万件で,加入者数当り約0 . 1 %の割合で発生しています.栃木県, も,雷害故障数は偏在しています. 総 故 障 に対 する雷 害 故 障 の割 合 県では数十倍に達するサービスエリア もあります. 群馬県では,総故障数および加入者 (表1)は1∼10%ですが,雷害故障 これらのことから,効率的に雷害故 数当りに占める雷害故障の割合が他県 は7∼9月の夏季に集中するため,図 障に対応するためには,ネットワーク より高くなっています. 3に示すように,Aサービスエリアで アプライアンスへの雷害故障予防対策 雷害故障の内訳を装置種別に調べ は月別にみると,夏季の雷害故障数は が重要であり,経済的に対策を実施す た結果を図1に示します.宅内系装置 通常の2倍以上になっています.さら るには,事前に雷害故障対策エリアを の故 障 ( 58 % ) とアクセス系 装 置 にこれを日ごとにみると,数日間に故 絞りこむことが重要であることがわか (40%)で雷害故障のほとんどを占め 障が集中していることがわかります. ります.夏季に集中する雷害故障につ ています.雷害を受ける宅内系装置に 関東エリアでは,約50%のサービスエ いては,日ごとの雷害故障数の予測を は,一般電話,ファクス,モデムなど リアで,夏季の雷害故障数は通常の 可能にすることにより,広域での人員 の端末機器があり,アクセス系装置に 2倍以上になっており,栃木県,群馬 稼働調整による適切な人員配備による は,架空,保安器,引込線,その他 には,公衆電話,ケーブル,所内機器 120 などが含まれます.これらの雷害故障 100 を回復させるためには,所内等での対 80 応だけでなく作業員がほぼ100%,所 外 の故障先へ出動しなければなりま せん. 故 障 数 60 2000年の,ある通信装置の雷害故 40 障の発生状況を図2に示します.雷害 20 故障は,落雷発生状況と密接に関係 しています.落雷が偏在して発生して いることから,雷害故障は関東エリア 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 図3 Aサービスエリアの月別雷害故障数 で偏在して発生し,同一県内において NTT技術ジャーナル 2003.3 39 多様化するネットワークアプライアンスの雷防護技術 コスト削減,サービスの向上が求めら れています. 落雷頻度マップと収容数マップ 関東エリアの2000年度の落雷発生状 況を図4に示します.これは,5km メッシュごとの落雷頻度を5段階に色 分けして表示したものです.関東エリ アでは,ほとんどの領域が落雷数160 頻度 以上となっています.また,1999年か 1∼ 79 80∼ 169 161∼ 320 321∼ 641 642∼1284 ら2001年の各年の落雷状況を比較す ると,落雷が多発している地域は,ほ 図4 2000年度落雷頻度マップ ぼ同じで,多雷地域が存在します.一 方,通信機器が収容される回線数で ある加入者状況を図5に示します.こ れは,収容回線数を地図上に5km メッシュで5段階に色分けして表示し たものです.都心部周辺に収容数の 大きい領域が集中していること,大都 市での収容数が大きいことがわかり ます. 雷害故障の予測と検証 収容回線数 2001年度について,雷害故障予測 1∼20 21∼425 426∼8793 8794∼181522 181523∼3746839 式(コラム参照)から求めた雷害故障 危険度マップ(予測)と実際の雷害故 障マップを比較し,予測式の検証を行 図5 収容回線数マップ いました.この雷害故障予測式(コラ ム,式(1))は,用いるパラメータがす 埼玉県,栃木県,群馬県の都市周辺 が多く発生していることがわかります. べて同じ単位で統一されているため, で危険度が高くなっています.このこ 図6と図7を比較すると,故障数126 情報を地図上に容易に展開することが とは,通信装置の収容数の多い地域で 回以上の領域はほぼ一致しており,予 できます.図6は,式(1)を用い,予測 は,多くの装置に落雷による影響が及 測と実際の故障状況がよく一致してい 係数を0.05として雷害故障数を予測 ぶためと考えられます. ることがわかります. し,その結果を地図上に展開した雷害 図7は,2001年度に実際に発生し 故障危険度マップです.予測故障数 た雷害故障マップです.雷害故障が は,地図上に5kmメッシュで5段階 もっとも多く発生した地域は,横浜 に分けて表示しています.もっとも雷 (神奈川県)と宇都宮(栃木県)で, プにより,対策重点地域の選定が可能 害故障が発生する危険度の高い地域 多雷地域とされている東松山,熊谷 になりました.しかし,さまざまなネッ は,東京都心部であり,神奈川県, (埼玉県),前橋(群馬県)でも故障 トワークアプライアンスの耐雷性能の 40 NTT技術ジャーナル 2003.3 雷害を減らすために ここで紹介した雷害故障危険度マッ 特 集 雷害故障予測法 コラム 地図上に雷害故障の発生する確率を表示できれば,雷害故障 のサービエリアごとの関係を 付図に示します.2000年の累乗 対策要否の判断は容易に行うことができます.しかし,雷害故 回帰分析結果は,式(2)で,相関係数は0.54,2001年の累乗回 障数は,年度ごとの落雷発生数の変化により増減するため,雷 帰分析結果は式(3)で相関係数は0.64でした. 害故障発生の危険度を求めるには,落雷数の変化と端末装置の 有無から,雷害故障数をサービスエリアごとに予測する必要が Nd2=0.0097×(Nt2×Ld2)0.50 (2) Nd2=0.0075×(Nt2×Ld2)0.56 (3) あります.これらの関係をそれぞれの発生確率とすることによ り予測式を作成することができます. 雷害発生確率(Nd1)は,端末出現確率(Nt1)と落雷発 生確率(LD1)の積に関係すると予測し,単位面積あたりの雷 付図より,2000年,2001年のデータ分布は同様の傾向を示 害故障密度(Nd2)を式(1)により求めます.式(1)のk2およびx していることから,式(1)の関係とすることができます.2000年 乗は,累乗回帰分析により求められる回帰係数と累乗値です. および2001年の式(1)で,x=0.5とした場合の回帰係数は約 0.01であり,95 %以上が含まれる回帰係数の上限と下限は, x (1) Nd2=k2×(Nt2×Ld2) それぞれ0.05と0.001でした.この回帰係数k2は,通信装置 の雷サージ耐力に関係する係数であると予想しています.なお, ただし,Nt2は収容密度,Ld2は落雷密度です.なお,相関係 1999年も同様の関係にあることから,式(1)は,年度ごとの落 数は回帰予測誤差により求まります. 雷の増減にかかわらずk2とxがほぼ一定であることが確認され ています.よって,式(1)を用いることにより,落雷密度,収容 関東エリアの2000年,2001年におけるNd2とNt2×Ld2 密度から雷害故障数の予測を行うことが可能になります. (件数/km2) 103 2001年 y=0.0075x0.5594 R2=0.6401 102 101 雷 害 故 障 密 度 2000年 100 y=0.0097x0.4989 R2=0.5392 10−1 10−2 10−3 10−4 10−2 10−1 100 101 102 103 104 105 106 107 収容密度(回線/km2)× 落雷密度(回/km2) 2001年 2000年 累乗(2001年) 累乗(2000年) R2 相関係数 付図 雷害故障密度と収容密度,落雷密度との関係 NTT技術ジャーナル 2003.3 41 多様化するネットワークアプライアンスの雷防護技術 また,一方で,件数としては多くあ りませんが,雷害が発生すると被害が 甚大な範囲に及ぶデータセンタや情報 通信センタビルでは,雷による故障を 未然に防ぐ努力が続けられています. それらの技術について,『情報通信ビ ルにおける雷害対策技術』で紹介し ます. ■参考文献 予測故障数 0∼ 125回 126∼ 250回 251∼ 502回 503∼1004回 1005∼2009回 図6 2001年度雷害故障危険度マップ(予測) (1) 村川・山根・小倉・倉本:“ネットワークア プライアンスの雷防護対策技術,”NTT R&D, Vol.51,No.12,pp.1010-1014,2002. (2) 気象庁:“雷雨10年報,”1968. (3) 元満・古賀・桑原・大槻:“雷防護対策費経 済化のための地域区分法,”信学論(B),J66-B, 8,pp.1027-1034,1983. (4) Vincent P. Idone, Daniel A. Davis, Paul K. Moore, Yan Wang, Ronald W. Henderson, Mario Ries and Paul F. Jamason, “Performance evaluation of the U.S. National Lightning Detection Network in eastern New York 1.Detection efficiency,”Journal of Geophysical Research,Vol.103,No.D8, pp9045-9055,April,1988. (5) 高木:“CULTAS統計ツールの開発,”NTT 技術ジャーナル,Vol.8,No.12,pp.100-101, 1996. 実際の故障数 0∼ 125回 126∼ 250回 251∼ 502回 503∼1004回 1005∼2009回 図7 2001年度雷害故障マップ 指標については,さらにさまざまな角 環境ごとに雷防護技術を紹介します. 度から検討を進めていく必要がありま 『屋外ネットワークアプライアンスに侵 す.対策の必要な通信装置にもっとも 入する雷サージ』では,雷観測結果か 適した対策を施すための技術や,あら ら,アクセス系装置に必要とされる耐 かじめ雷防護部品を組み込む設計技 雷性能や雷サージの侵入メカニズム等 術,さらには,日本の雷環境に適した を,『ブローバンド通信装置の雷防護 指標づくりを行っていくことが重要で 技術』では,対策重点地域に選定さ あると考えています. れた宅内系装置へ実際に取り付けられ これらの目標のもと,本特集では ネットワークアプライアンスが置かれる 42 NTT技術ジャーナル 2003.3 る雷防護アダプタ等の対策方法を紹介 します. (左から)山根 宏/ 青木 延枝/ 富永 哲欣 雷害故障危険度マップを活用し,雷害故 障対策重点地域の選定,通信装置の耐雷性 能の指標を示すことができれば,効率的で 経済的な雷防護対策が実現できると考えま す.これを実際に使える技術として提供し ていきたいと思っています. ◆問い合わせ先 NTT環境エネルギー研究所 環境情報流通プロジェクト 電磁環境技術グループ TEL 0422-59-7731 FAX 0422-59-3314 E-mail [email protected]