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http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/ Title Author(s) Editor(s
 Title
Author(s)
認知症の人に対する態度に関する研究 : 認知症の人に対する態度
尺度の開発を通して
金, 高誾
Editor(s)
Citation
Issue Date
URL
大阪府立大学, 2010, 博士論文.
2010
http://hdl.handle.net/10466/11580
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
目
序 章
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1. 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2. 本研究のプロセス(流れ)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
3. 研究の独自性および意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
4. 論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
第1章
研究背景と先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
第1節 認知症の海外の動向および日本における認知症対策の変遷・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1. 国外および国内の認知症の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
2. 日本における認知症対策の変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
第2節 認知症に関わる概念および BPSD・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
1. 認知症に関わる概念および診断基準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
2. 認知症になる原因およびリスク要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
3. BPSD の定義および具体的な症状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
4. BPSD 評価尺度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
第3節 認知症の人に対する認識や態度、高齢者イメージに関する研究・・・・・・・・・・・ 19
1. 態度の定義と精神障害者における態度研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
2. 高齢者イメージに関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
3. 認知症の人に対する否定的な見方の存在および認識不足・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
小括
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
第2章
認知症啓発活動の実施地域における認知症の人に対する態度調査・・・・・・・・・ 28
1. 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
2. 認知症受容度尺度の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
3. 調査対象者および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
4. 地域住民の調査の結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
5. 追跡調査の結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39
6. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
小括
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
第3章
認知症の人に対する態度尺度と認知症に関する知識尺度の開発・・・・・・・・・・・ 49
1. 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
2. 調査対象者および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
小括
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
第4章
認知症の人に対する地域住民と介護職員の態度調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
第1節 認知症の人に対する地域住民の態度調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
1. 調査対象者および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
2. 調査内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
3. 分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69
4. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70
5. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
第2節 認知症の人に対する介護職員の態度調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83
1. 調査対象者および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83
2. 調査内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83
3. 分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84
4. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84
5. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94
第3節 地域住民と介護職員の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100
1. 分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100
2. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100
3. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 110
小括
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112
終 章
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114
文献一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
119
資料(調査票)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 127
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132
序
章
1.研究目的
現在、介護保険サービスを利用する要介護高齢者の半数近くに認知症の症状がみられ、
施設入所者の約8割に認知症が認められる。人口の高齢化と平均寿命の延びに伴って認知症
高齢者の数も増加し、2006年現在169万人、将来推計では2015年250万人、2025年323万人と
予測されている。85歳以上の高齢者の4人に1人が認知症だとされており、認知症は誰にで
も起こりうる病気の一つとなっている。これまでの認知症に関する研究は、家族の介護負
担、職員の介護ストレスなどを主とした認知症の「問題行動」から生じる事柄に焦点を当
てたものが多かった。一般の人々は、認知症の症状に対する具体的な知識がないため、認
知症の人に対して漠然とした不安感を抱いていることも多く、否定的なイメージや拒否的
な態度を尐なからず持っていると思われる。認知症の人に対する偏見は根強く、認知症に
対する誤った知識や見方は当事者や家族を苦しめてきた。
認知症の予防、介護に対する国の取組みとして「認知症を知り地域をつくる10か年」(厚
生労働省 2005)構想が始まり、現在、各地域において認知症に関する理解を促進し、認知
症の人やその家族を支えるためのさまざまな取組みが推進されている。認知症の人の数の
増加とともに地域で生活するうえで、認知症の人と一般市民のさまざまな関わりが生まれ
てくると思われる。認知症の人とその家族が地域社会で生活を続けるためには、地域住民
との関わりを一層深めていくことが必要になる。認知症に対する正しい知識を普及するた
めの啓発活動の展開には、認知症の人に対する肯定的な態度を生み出すことが重要な課題
のひとつである。認知症の症状とそれへの対応に関する知識不足は、介護負担を増加させ
るだけではなく、介護者と認知症の人、双方のQOLを低下させる。また、認知症の人に対
する否定的な見方は、認知症に関する啓発活動の展開を阻害する要因となり、認知症の早
期発見の遅延や診断の拒否、社会的孤立、認知症の人に対する軽視の風潮や差別の原因と
なることが懸念される。
認知症の人に対する肯定的な態度を醸成する条件を検討するためには、認知症の人に対
する態度の現状を明らかにする必要があるだろう。しかし、認知症の人に対する態度を測
定する尺度は極めて尐なく、尺度開発の段階にとどまっており、認知症の人に対する態度
とその関連要因を検討した研究も尐ない。さらに、認知症に関する啓発活動のあり方につ
いて検討した研究は極めて尐ない。
そこで、本研究では、認知症の人に対する態度尺度を開発するとともに、地域住民と介
護職員を対象に調査を行い、認知症の人に対する態度とその関連要因を明らかにする。さ
らに、その結果に基づき認知症に関する啓発活動を推進するための方策を提示することを
目的とする。
1
介護職員
介護者
質の高いケア
地域住民
住みやすい地域づくり
認知症の人
認知症の人に対する肯定的な態度と正しい知識を醸成することが重要である
認知症の人に対する否定的な態度および誤った知識がもたらす弊害
①BPSD悪化→介護者の対応困難→介護負担の増加→介護者と認知
症の人、双方のQOLの低下
②早期発見の遅延、診断やサービス拒否、社会的孤立や排除
研究背景
①認知症の人に対する態度やその関連要因に関する先行研究がない
②認知症の人に対する態度を測定する尺度は極めて尐ない
③認知症に関する啓発活動のあり方を検討した研究が尐ない
本研究の目的
①認知症の人に対する態度の尺度作成
②認知症の人に対する態度に関連する要因の検討
③認知症の啓発活動を推進するための方策を提示する
図1
本研究の位置づけ
2
2.本研究のプロセス(流れ)
本論文は主に3つの調査に基づいて構成されている。以下、調査Ⅰ・調査Ⅱ・調査Ⅲとし
て、研究の流れを示す。
調査Ⅰは、現在行われている認知症に関する啓発活動のうち「認知症地域支援体制構築
等推進事業」と「認知症サポーター100万人キャラバン」に合わせて実施したものである。
まず、認知症の人に対する態度を測定する尺度を独自に作成し、認知症受容度尺度とした。
「認知症地域支援体制構築等推進事業」については事業を実施した地域の住民を対象とし、
認知症の人に対する態度を把握するとともに、その関連要因を検討した。「認知症サポー
ター100万人キャラバン」については認知症サポーター養成講座受講者を対象に、講座前後
と追跡時点においての認知症の人に対する態度とその変化を検討し、講座の効果を検討し
た。
調査Ⅰから認知症の人に対する受容的な態度を高めるためには、認知症の人との接触体
験、認知症に関する情報を習得することが重要であることが明らかになった。調査で用い
た認知症受容度尺度のCronbachα信頼性係数がやや低かったため、尺度を構成する項目の
内容を再検討することとした。また、認知症の人に対する態度に関連する要因として他の
要因を加えて検討していくことが必要だと考えた。
以上のことを踏まえ、さらに二つの仮説を追加して研究を継続した。
第1の仮説は、認知症の症状、とくに行動・心理症状やその対応方法についての知識があ
るほど、認知症の人に対する肯定的な態度を示すというものである。ここでは、認知症の
人に対する肯定的な態度と関連する要因として認知症の症状に関する知識に着目した。認
知症の行動・心理症状(BPSD: behavioral psychological symptoms of dementia)とは認知
症の人にみられる知覚、思考内容、気分または行動の障害による症状と定義されている。
改めて認知症の人に対する態度尺度とともに、認知症に関する知識尺度を作成し、これら
の尺度を用いて、認知症の人に対する態度と認知症に関する知識との関連を明らかにする
ことにした。
第2の仮説は、「高齢者イメージ」がポジティブであるほど、認知症の人に対する肯定的
な態度を示すというものである。認知症の多くが高齢者であることから、高齢者イメージ
との関連があるのではないかと思われる。高齢者に対する否定的なイメージやエイジズム
(Ageism:高齢者差別、広く年齢差別ともいう)は認知症の人に対する軽視の風潮や差別
の主な要因ではないかと推定した。
以上の二つの仮説を基に新たな研究計画を策定した。
調査Ⅱでは、認知症の人に対する態度尺度と認知症に関する知識尺度を作成し、学生を
対象に調査を行い、尺度の妥当性と信頼性について検討した。尺度の構成概念妥当性を検
討するため、確認的因子分析を行い、その結果から得られた因子をそれぞれ従属変数とし、
独立変数に認知症に関する知識と高齢者イメージを加え、認知症の人に対する態度に関連
する要因を明らかにした。
調査Ⅲでは、まず、調査Ⅱで開発した尺度を用いて、地域住民を対象とし、認知症の人
3
に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージなどの現状を把握した。そのうえで、
認知症の人に対する態度の合計得点、および下位尺度として肯定的態度、否定的態度の合
計得点を従属変数とする重回帰分析を行った。この結果に基づき認知症の人に対する態度
とその関連要因を検討した。次に、介護職員を対象とする調査を行った。職員特性や施設
特性を組み入れて、認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージなど
の現状を把握した。質の高いケアを提供するために、認知症の人に対する肯定的な態度と
ともに、介護の仕事に対するポジティブな心境を促進する必要があると考え、認知症の人
に対する態度と介護職員の仕事に対する心境に関連する要因を明らかにした。さらに、認
知症の人に対する関わり方および認知症に関する知識の量が異なる地域住民と介護職員の
認知症の人に対する態度などの比較を行い、地域住民と介護職員の両群の相違点および共
通点を明らかにした。
3.研究の独自性および意義
これまでの認知症の人に対する意識調査は、認知症の人に対する否定的な見方や偏見の
存在を明らかにしたものにとどまっており、認知症の人に対する肯定的あるいは否定的な
態度に関連する要因を検討した研究は極めて尐ない。認知症以外の統合失調症やうつ病な
どの精神障害の領域では、態度の実態を把握するとともに、その関連要因を検討した研究
が数多く存在し、否定的な態度を払拭するための啓発活動のあり方の検討が行われてきた。
認知症についての理解の普及のための啓発活動が行われはじめたのは2000年以降であり、
今後、さまざまな取組みが各地域において展開されていくであろう。そこで、本研究では、
認知症の人に対する態度の現状およびその関連要因を明らかにするために、認知症の人に
対する態度を測定する尺度を独自に開発した。
認知症に関する啓発活動が行われている地域の地域住民を対象に、認知症の人に対する
態度尺度を用いて現状を把握し、その関連要因を示した。さらに、全国で認知症サポータ
ーを育成するにあたって行われている認知症サポーター養成講座の効果検証を行い、今後
の啓発活動のあり方を検討した。
これらの結果と課題を踏まえ、改めて認知症の人に対する態度を測定するための尺度と
認知症に関する知識をはかる尺度を開発し、その有用性を検討した。この尺度を用いて、
地域住民と介護職員を対象に、認知症に関する知識や高齢者イメージと、認知症の人に対
する態度との関連を明らかにした。また、認知症の人に対してより肯定的な態度を促進す
る方策を提言したことに実践的意義が存在する。
本研究で開発した態度尺度は、認知症の人に対する感情や行動の傾向を把握することが
可能な尺度であり、この尺度を用いることで、人々の中に存在する認知症の人に対する感
情および潜在的な行動傾向を把握することが可能になった。本研究は、人々が持つ認知症
の人に対する態度の現状を明らかにし、認知症の人に対し肯定的な態度をとるための方策
を検討した点に意義があり、認知症の人に対する否定的な態度を是正していくうえで重要
な研究である。
4
4.論文の構成
本論文の構成は、以下のとおりである。
第1章では、国外における認知症の人の将来推計や国内の認知症対策の変遷および認知症
に関わる諸概念について述べる。さらに、認知症に関連する研究や態度に関わる研究のレ
ビューを通じて、本研究の位置づけを明らかにする。
第2章では、認知症の人に対する態度を測定するための認知症受容度尺度を作成する。こ
の尺度を用いて、認知症に関する啓発活動の実施地域の地域住民を対象に認知症の人に対
する態度の実態を明らかにするとともに、認知症サポーター養成講座受講者を対象とし、
講座前後および追跡時点での認知症の人に対する態度の変化および講座の効果を検討する。
第3章では、2章で作成した認知症受容度尺度を再検討した上で新たな尺度を作成し、学
生を対象に尺度の妥当性と信頼性を検討し、尺度の有用性を確かめる。認知症の人に対す
る態度を規定する要因として認知症に関する知識と高齢者イメージを追加して検証する。
第4章では、地域住民と介護職員それぞれ認知症の人に対する態度に関連する要因を明ら
かにする。また、地域住民と介護職員の比較検討を行い、認知症の人に対する態度と関連
する共通の要因および相違する点を検討する。
終章では、本研究の結果から得られた知見に基づいて、認知症に関する有効な啓発活動
の推進のための方策を考察するとともに、本研究の限界および今後の研究課題を提示する。
5
第1章
研究背景と先行研究
人口の高齢化と平均寿命の延びに伴って、日本のみならず世界各地域において認知症の
人の数が増加している。本章では、認知症対策が世界の共通の課題となっていることを示
すとともに、日本の認知症対策の変遷について記述する。次に認知症についての諸概念の
変化および認知症の行動・心理症状(BPSD)の定義や具体的な症状について述べる。また、
認知症は精神障害とともに高齢という共通の課題を抱えていることから、認知症と関連す
るものとして精神障害者に対する態度や高齢者イメージに関する先行研究をレビューする。
認知症の人に対する否定的な見方や認識不足が存在していることとともに、認知症の人に
対する態度に関する研究が遅れていることを述べ、認知症の人に対する態度の研究の意義
を確かめる。
第1節
認知症の海外の動向および日本における認知症対策の変遷
1.国外および国内の認知症の現状
Wimoら(2004)の世界高齢者人口、認知症の有病者と発生者の統計的データに基づいた研
究によると、2000年現在、世界における認知症患者数は2,500万人と推計され、そのうちア
ジアが46%と半数近く、次はヨーロッパ30%、北米12%の順になる。65歳以上の6.1%(全
世界人口の0.5%)が認知症になっており、性別では女性が59%と推定されている。今後高
齢化とともに認知症患者数は増えると予測されており、2030年には6千300万人、2050年に
は1億1,140万人と推計されている。
Ferriら(2005)のWHO世界地域(ヨーロッパ、北アメリカ、ラテンアメリカ、アフリカ、
中東、太平洋アジア)における認知症の有病者と発生者のデータおよびUNの世界人口推定
に基づいた報告では、2001年現在、認知症の人の60.1%が発展途上国に集中しており、2020
年には64.5%、2040年には71.2%となると推定されている。地域別の2001年、2020年、2040
年における認知症の有病者数を表1-1に示す。2001年1年間に発症した認知症の人は460万
人で、特に中国&Developing Western Pacificでは121万人と、他の地域と比べ多いことが
推定されている。2001年から2040年までの認知症の人の増加率を見ると、西ヨーロッパが2
倍程度であるのに、ラテンアメリカ、北アフリカ、中国、インドネシアなどの地域では4~
5倍近く増加することが分かる。
6
表1-1
2001年における認知症の人数、2020年2040年の認知症の人数の推計および増加率
New dementia
Number of people
Proportionate increase(%)
cases(millions) (millions)with dementia、 in number of people with
aged60+
per year 2001
2001
2020
dementia
2040
2001-2020
2001-2040
ヨーロッパ A1)
0.79
4.8
6.9
9.9
43
102
ヨーロッパ B
2)
0.21
1.0
1.6
2.8
51
169
ヨーロッパ C3)
0.36
1.7
2.3
3.2
31
84
北アメリカ
0.56
3.4
5.1
9.2
49
172
ラテンアメリカ
0.37
1.8
4.1
9.1
120
393
北アフリカ&中東
0.21
1.0
1.9
4.7
95
385
0.24
1.5
2.9
4.3
99
189
1.21
6.3
11.7
26.1
96
336
0.14
0.6
1.3
2.7
100
325
インド&Sアジア
0.40
1.8
3.6
7.5
98
314
アフリカ
0.11
0.5
0.0
1.6
82
235
Total
4.6
24.3
42.3
81.1
74
234
Developed
Western Pacific
中国&Developing
Western Pacific
インドネシア&タ
イ&スリランカ
出典:Ferri CP, Prince M, Brayne C., et al.(2005):Global prevalence of dementia:
a Delphi consensus study
1)
Western Europe
2)
Eastern Europe low adult mortality
3)
Eastern Europe high adult mortality
国連のデータによるとアジア太平洋地域における2005年の人口は35億8千万人、65歳以上
の人口は2億3,890万人、80歳以上の人口は3,720万人と推計されており、認知症患者数は
2005年度の1,370万人から2050年には6,460万人に増加すると推定されている(表1-2)。
日本の総人口に占める65歳以上の割合は2009年9月現在22.7%であり、75歳以上の後期高
齢者は総人口の10.7%である。人口の高齢化と平均寿命の延びに伴い、認知症高齢者の数
は年々増加している。また、何らかの介護や支援を必要とし、かつ認知症がある高齢者は、
2005年現在169万人であるが、2015年までに250万人、2025年には323万人になると推計され
ている。
7
アジア太平洋地域1)における認知症の人の有病者(率)および発生者(率) (千人、%)
表1-2
2005年
2010年
2020年
2030年
2040年
3,583,521
3,775,813
4,130,296
4,384,326
4,544,051
4,618,051
有病者2)
13,704
16,496
23,727
34,311
48,904
64,642
3)
発生者
4,282
5,123
7,262
10,427
14,920
19,687
有病率
0.38
0.44
0.57
0.78
1.08
1.40
発生率
0.12
0.14
0.18
0.24
0.33
0.43
総人口
2050年
Asia Pacific Members of Alzhiemer’s Disease International(2006)より抜粋
1)
オーストラリア、バングラデシュ、ブータン、ブルネイ、ビルマ、カンボジア、中国、香
港、マカオ、台北、韓国、East Timor、インド、インドネシア、日本、ラオス、マレーシ
ア、ネパール、ニュージーランド、パキスタン、パプアニューギニア、フィリピン、北朝
鮮、シンガポール、スリランカ、ベトナム
2、3)
prevalenceは有病者、incidenceは発生者と訳した。
アジア太平洋地域の多くの国々では、今後認知症患者が増えていくが、質の高いヘルス
ケア・サービスを認知症患者およびその家族に提供できるだけの準備が整っていない。認
知症は公衆衛生制度に壊滅的影響を及ぼす可能性を秘めている。これは高齢化のためだけ
でなく、認知症が慢性疾患のなかでも患者の能力低下の最も著しい病気であるためである。
「疾病負荷(burden of disease)」は健康的生活年数によって評価され、
「死亡負荷(mortality
burden):早期死亡により失われた生存年数」と「障害負荷(disability burden):障害によ
り失われた健康的生活年数」の合計で示される。WHO(2006)のデータによると、神経精神
症状の障害負荷は、感染症と寄生生物症に続いて高い。認知症の疾病負荷は、マラリア、
破傷風、乳がん、薬物乱用、戦争の疾病負荷より高く、今後25年で76%増加すると予測さ
れている。
WHOとアジア太平洋地域の各国政府は、①認知症に関する認識不足と認知症の存在を否
定したり認知症を恥と思ったりするような文化的背景、②認知症は加齢に伴う自然な症状
であり病気の結果ではないとする思い込み、③認知症ケアのニーズに不適切な人材・政府
資源と認知症ケア政策の不足、④都市部で入院率が高い国と施設不足の地域の混在、⑤介
護師への教育訓練不足と介護を行う家族へのサポート不足といった課題を指摘している
(Asia Pacific Members of Alzhiemer’s Disease International、2006)。
2.日本における認知症対策の変遷
1) 1980年代:痴呆性高齢者対策の草創期(前半)
日本では1963年に老人福祉法が制定され、老人の福祉に関する原理が明らかにされた。
その当時は要介護者のケアでは、「寝たきり老人(65歳以上で6ヶ月以上寝たきりの者をい
う」モデルが中心とされた。
認知症が社会の注目をあびたきっかけは、1972年の小説『恍惚の人』の出版であった。
8
1960年から1970年代の重度認知症高齢者は、在宅介護において家族がほとんど支援を受け
ることはなく、地域社会から隔離され老人病院や精神病院への入院による対応が中心的で
あった。また、従来の「問題行動」と呼ばれた症状に対して、身体的拘束や投薬による抑
制などが行われていた。この時期は、認知症の症状を「問題」とみなしていた時代であり、
当時の認知症の人とその家族は地域や社会からの偏見に苦しんでおり、孤立状態に陥りが
ちであった。認知症高齢者対策は立ち遅れていた。認知症高齢者対策の取組みが模索され
はじめたのは1980年代である。1980年1月に「ぼけ老人を抱える家族の会(現、社団法人認
知症の人と家族の会)」が発足し、全国的なネットワークづくりや家族の集いなど社会に
向けた活動が始まった。
1980年に厚生省公衆衛生局精神衛生課が行った調査によって、初めて認知症高齢者の実
態が明らかになった。在宅の痴呆老人の出現率は65歳以上人口の4.6%、約51万人であり、
そのうち介護が必要とされる者は3分の1を占めていることが報告されている。
1981年版の厚生白書では痴呆を「精神機能低下」とし、寝たきりとなる確率を高める病
気の一つとして認識している。1982年版では「社会生活環境の複雑多様化に伴うストレス
の増加により精神障害が増加するとともに、痴呆老人についてはその定義が明確ではない
ため、具体的な範囲を特定することが難しく、高齢になるにつれ心身機能の低下による症
状である」と痴呆を捉えている。1983年版では、「痴呆老人の問題にしても「ボケ」とい
う言葉から精神障害という認識に変化してきている」とされている。
1982年11月の老人精神保健対策について公衆衛生審議会より答申が出され、その中で老
人の痴呆疾患の予防および普及啓発活動を進めることが示された。この答申を受けて、翌
年の1983年、保健所に老人精神衛生相談窓口が設置され、老人性痴呆疾患の予防について
の普及啓発などの老人精神衛生相談事業が実施された(1983年94か所の保健所で実施)。
痴呆予防対策としては健康教育、健康診断等、痴呆の原因となる脳血管疾患等の疾病を
予防するための保健事業や社会参加促進対策を進めていた。痴呆となった老人の介護対策
としては、保健所における老人精神衛生相談や保健師による訪問指導、デイ・サービス事
業の充実を図っていた。特にデイ・サービス事業の通所サービスの中に1983年度から新た
に家族介護者教室が加えられた。施設福祉サービスである特別養護老人ホームは、身体上
または精神上の著しい障害がある者で、寝たきりや認知症高齢者が主な対象とされており、
1972年の272か所から1983年の1,311箇所まで約4.8倍と大幅に増加した。
1984年版の厚生白書には、「痴呆老人の増加に伴い、特別養護老人ホームなど量的な整
備に努めるとともに、医療機能の充実強化を併せて行っていく必要がある」と述べられて
おり、各自治体により積極的な取組みが行われた。その際、痴呆老人電話相談事業、痴呆
老人の短期保護事業、痴呆老人に配慮した特別擁護老人ホームの整備等の対策がとられ、
環境条件を整備していくことが重要視された。1984年当時、痴呆性老人の数は在宅50万、
老人ホーム入所中が約3万人、精神病院への入院中が約3万人の総計約56万人と推計されて
いた。痴呆性老人対策としては、主に予防や家族に対する介護援助、治療方法の研究等が
挙げられていた。
9
2)1980年代後半
1986年版の厚生白書では、「寝たきりや痴呆等の介護を要する老人や、精神障害者、身
体障害者をいわゆる『要介護者』とし、社会構造の複雑化がもたらすストレスの増大、家
族形態・意識の変容等の要因によってますます増えている」と述べている。さらに、「痴
呆老人とは、脳の器質的障害により痴呆(いったん獲得された知能が持続的に低下するこ
と)を示している老人を意味する」としている。痴呆性老人の多くは在宅で家族により介護
されているが、特有の精神症状、問題行動が多いため、痴呆性老人を抱える家族の身体的、
精神的負担や不安感が大きな問題であることが指摘されていた。また、1986年の在宅痴呆
性老人の介護者実態調査では、痴呆性老人をかかえる家族の8割が何らかの在宅サービスを
必要としながら、サービスを利用していない者が5割を超えるなど介護家族への支援体制は
十分とはいえない現状であることが示された。このような状況から、総合的な痴呆性老人
対策の基本方針の速やなか策定が目指され、そのための必要な体制の整備を図るために、
1986年8月厚生省内に「痴呆性老人対策推進本部」が設けられ、全省的な痴呆性老人対策が
取組まれることになった。1987年には特別養護老人ホームにおける痴呆性老人介護加算が
創設された。
1987年版の厚生白書では、「寝たきり老人や痴呆性老人、障害者その他のハンディキャ
ップを持った者の切実なニードに対しては、公的部門でサービスが供給されるべきであろ
うが、市場機構に委ねても適切なサービス供給が講じられるものは民間サービスに委ね、
利用者の選択に任せることも必要である」と述べられている。さらに、在宅ケアの充実を
図り、痴呆性老人の増加とともに、住み慣れた地域や家庭の中で、生活を維持していける
よう、各種の在宅サービスの充実が求められている。このように民間サービスの育成、在
宅サービスの体制、施設対策等総合的な取組みがされ始めた。
1987年には痴呆性老人が高い割合で利用しているデイ・サービス事業に非常勤寮母1人の
配置を新設した。また、問題行動の著しい痴呆性老人の心身機能の回復や維持を図るため
に痴呆性老人専門治療病棟を設備することとし、その病棟整備に対する補助が行われた。
1988年4月の社会保険診療報酬の改正により、一定の要件を備える専門病棟における老人性
痴呆の治療やデイケアに対して評価を行った。
また、1987年には民間保険や簡易保険において痴呆や寝たきりにより要介護状態となっ
た場合に介護給付を支給する介護保険が商品化がなされた。当時の痴呆老人については、
介護の方法に関する科学的知見の積み重ねが十分でなく適切な予防やケアの困難、問題行
動などにより介護者の負担が強く、治療や介護のためのサービスが在宅・施設いずれにお
いても十分でないこと、保健・医療の連携が不十分であることが指摘されており、介護問
題が大きな課題であった。
1989年版(平成元年)の厚生白書では、痴呆性老人対策の総合的推進を図るため、全国
59か所の精神科を有する総合病院等を「老人性痴呆疾患センター」と位置づけ、老人性痴
呆等の相談・診断・治療方針選定を行い、総合的な痴呆性老人対策を推進することが挙げ
られている。
10
1980年代からは認知症高齢者に対しては、福祉と保健医療にまたがる施策面での対応が
必要であると認識され始めていた。また、在宅福祉サービスと施設福祉サービス両方とも
サービスの量が増加し、施設についても、在宅福祉サービスと密接な連携を持つものとし
て位置づけられた。要介護者や身体機能が低下した者を病弱な存在とみなし、特に寝たき
り老人や認知症高齢者の増加により特別養護老人ホームの量的な環境整備が一層努められ
た時期であった。1980年代半ばには認知症高齢者を介護する家族の精神的・身体的負担の
大きさが議論され、1980年代後半からは介護問題が大きな課題として捉えられた。加えて、
治療や介護が難しいこと、それに関連する設備が未整備であることが問題とされた。
この時期は、認知症高齢者問題に対して「ボケ」という通俗的理解から「精神障害」の
ひとつという認識への変化がみられる。しかし、問題行動や迷惑行動という捉え方は認知
症の人本人の立場からのものではなく、第三者によるラベルづけである。この時期の認知
症対策は、認知症の本人ではなく、認知症に伴う症状からくる周囲の人との間の問題に焦
点をあてて、政策が進められたといえる。
3) 1990年代:ゴールドプランおよび新ゴールドプランの策定
高齢者の保健福祉分野における公共サービスの基盤づくりを図るため1989年12月「高齢
者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」が策定された。在宅の痴呆性老人数は1980
年51万人であり、1985年では60万人と推計され、後期高齢者の増大により増えつつあると
考えられた。日本では北欧と比較して寝たきり老人の割合が極めて高いこと(65歳以上の長
期ケア施設入所者を100とした場合「常に寝たきり」の割合:デンマーク4.5、スウェーデ
ン4.2、アメリカ6.5、日本33.8)、アルツハイマー型痴呆に比べ脳血管性痴呆が多いことが
特徴であった(厚生白書1990年版)。当時の老人性疾患に関する施策としては、保健所にお
いて相談事業や訪問指導を行うほか、専門医療相談、治療方針の選定、救急対応を行う老
人性痴呆疾患センターや、精神症状や問題行動の著しい者について短期集中的に治療を行
う老人性痴呆疾患治療病棟の整備が進められた(厚生白書1990年版)。
さらに、1991年老人保健法等の一部を改正する法律が成立した。改正案として、老人保
健施設痴呆専門棟が創設され、初老期痴呆患者についても施設療養が適当な者について老
人保健施設での受入れを行うこととされた。さらに、介護的要素の強い老人医療費に対す
る公費負担割合の引上げが行われ、老人訪問看護療養費および精神病院の老人性痴呆疾患
療養病棟の入院医療費が対象となった(厚生白書1991年版)。
1990年における寝たきり老人は約70万人(65歳以上人口の約4.6%)、痴呆性老人は100
万人(65歳以上人口の約6.7%)であり、深刻化する痴呆性老人問題に対処するため、在宅
介護家族への支援強化、発生予防・治療に関する研究の推進の充実を図ることとしていた
(厚生白書1991年版)。
1992年、在宅サービスの推進の柱として新たに小規模型及び痴呆性老人向け毎日通所型
のデイサービスセンター(E型)が創設された。1993年には厚生省老人保健福祉局において、
医師により認知症と診断された高齢者を対象とした「痴呆性老人の日常生活自立度判定基
11
準」が作成された。
1997年には、痴呆性の高齢者の増加に伴い、高齢者の財産管理や遺産相続をめぐる紛争
が増加しているほか、老人虐待などの人権侵害の問題が生じ、痴呆性の高齢者などを対象
とする新たな権利擁護制度の確立が求められ、成年後見制度についての検討が始まった(厚
生白書1997年版)。
1998年には、高齢化の進展に伴い、寝たきりや痴呆など介護や支援を必要とする要援護
高齢者が約200万人に上り(厚生白書1998年版)、特に大きな課題の一つとして、痴呆性高齢
者に関わる介護の問題が挙げられていた(厚生白書1999年版)。この問題への対策として痴
呆性高齢者のグループホームの試行的事業に取組んだところ、症状が安定するなど効果が
みられたことから、1997年度には「痴呆対応型老人共同生活援助事業」(家庭的な雰囲気
を持ち込んだ9人以下の小規模な痴呆老人グループホーム)が創設され、運営費に補助を行
うとともに、1998年度の第3次補正予算において、社会福祉法人等が行う施設設備への補助
が創設された。
また、1990年代にはスウェーデンやデンマークの個別ケアが注目されるようになり、グ
ループホームの調査や研究が行われた。加えて、認知症の人の増加に備え、治療のための
病棟の整備が活発に行われ、施設や病院において認知症の人を収容するための整備が進め
られた。
4) 2000年以降:名称の変更と介護保険制度下の推進
2000年4月に介護保険制度がスタートし、要介護認定が実施されたことにより、日本の痴
呆性高齢者の実態がさらに明らかになった。要支援(要介護)認定者に該当した高齢者の
うち、ほぼ半数に痴呆の症状があり、介護保険施設入所者の約8割に痴呆の症状があった(厚
生労働省省議室2004)。また、2000年4月より痴呆介護研修事業が創設されるとともに、認
知症介護に関する研修のための全国的な連携体制(ネットワーク)を形成するために、全国3
ヶ所(東京都杉並区、愛知県大府市、宮城県仙台市)に「高齢者痴呆介護研究・研修センタ
ー」が設置され、2001年度より本格的に運営を開始した。認知症高齢者グループホームが
保険給付サービスの一つとして位置づけられ、これによりグループホームが急増した(2000
年7月605ヵ所から2006年3月8,026ヵ所まで)。施設においても、できる限り在宅に近い環境
の下で生活できるよう、2002年度から特別養護老人ホームにおいても個室ユニットにより
個別ケアを行う、ユニットケア型の施設に対する補助が進められた。
2003年に厚生労働省老健局長の私的研究会である高齢者介護研究会において、「専門医
による医学的判定」とは別に、「介護に必要な手間」という観点から「認知症高齢者の日
常生活自立度」Ⅱ以上の高齢者数が公表された(表1-3)。ただし、この数字は医学的に認知
症と判断された者ではなく、「認知症高齢者日常生活自立度」のデータを基に推計したも
のであるため、認知症の患者数を正確に反映していない可能性がある。
12
表1-3
認知症高齢者数(要介護・要支援認定者)の将来推計
2002 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045
自立度Ⅱ以上の者(万人)
149
169
208
250
289
323
353
376
385
378
65歳以上人口比(%)
6.3
6.7
7.2
7.6
8.4
9.3
10.2
10.7
10.6
10.4
自立度Ⅲ以上の者(万人)
79
90
111
135
157
176
192
205
212
208
65歳以上人口比(%)
3.4
3.6
3.9
4.1
4.5
5.1
5.5
5.8
5.8
5.7
出典:厚生労働省老健局
1) 数字は第1号被保険者のうち要介護(支援)認定を受けた者。
2)2002年9月末について推計した「要介護(要支援)認定者における認知症高齢者」と「日
本の将来推計人口(2002年1月推計)」から算出したもの。
3)自立度Ⅱ以上:何らかの介護・支援を必要とする認知症がある高齢者。
自立度Ⅲ以上:一定の介護を必要とする認知症がある高齢者。
2004年現在時点の日本では、要介護者の2人に1人に認知症の症状が見られ、高齢化の進
展に伴って、増加すると予測されていた。このことから、認知症対策は高齢者介護におけ
る中心的な課題の一つとされ、2004年4月には厚生労働省老健局計画課に「痴呆対策推進室」
が設置された。また、この年には、今後の認知症対策の推進にあたり、「痴呆」という用
語についていくつかの問題点が指摘されてきた。「痴呆」の「痴」は「おろかなこと、ば
か」という意味があることから、「呆」には「おろかなこと、あきれる、ぼんやりしてい
ること」という意味があり、尊厳を欠く表現である。加えて、この用語は症状を正確に表
していないこと、「痴呆」と判断させることに対する恐怖心や恥ずかしさを増幅し、診断
や予防が進みにくいこと等を踏まえて、2004年6月に「痴呆に替わる用語に関する検討会」
が開催され、新たな用語に替えることが検討され始めた。名称変更について、広く国民や
関係団体からのヒアリング、国民からの意見募集を行った結果、新しい用語の候補は、認
知症、認知障害、もの忘れ症、記憶症、記憶障害、アルツハイマー(症)の6つとなった。回
答結果では「認知障害」が22.6%と最も多かったが、「認知障害」は精神医学の領域では
これまで多様に使われており、混乱を引き起こすおそれがあったため、「痴呆」に替わる
新しい用語として「認知症」が最も適当とされた。これらの候補から、2004年12月「痴呆」
から「認知症」へと呼称が変更された。これまでの用語変更事例としては「精神薄弱」か
ら「知的障害」(1998年)、「精神分裂病」から「統合失調症」(2002年)がある。
「痴呆」から「認知症」への名所変更を契機として、2005年度から「認知症を知り地域
をつくる10か年」の構想が展開された。2005年度を「認知症を知る1年」と設定し、多くの
国民に認知症に対する誤解・偏見をなくし、認知症について理解してもらうためのさまざ
まなPR事業が集中的に実施されることになった。具体的には、認知症に関する理解の普及
を促進し、認知症の人とその家族などを支える地域づくりを一層推進するため、自治体や
関係団体を中心として、認知症地域支援体制構築等事業や、認知症になっても安心して暮
らせる町づくり100人会議、認知症サポーター100万人キャラバン、「認知症でもだいじょ
13
うぶ町づくり」キャンペーン、認知症の人の「本人ネットワーク」支援、認知症の人や家
族の力を活かしたケアマネジメントの推進の取組みが行われている。
2000年以降には、グループホームが介護保険サービスに組み込まれ、認知症高齢者の増
加に伴う量的設備に力を入れる時代へと入った。従来の認知症の症状だけをみるという見
方ではなく、認知症という病気にかかっている人に注目するようになってきた。さらに、
個人のプライバシーへの配慮、自己選択への支援、環境との相互作用など総合的かつ広い
視点から認知症へのケアが変わりつつある。認知症になっても今まで住み慣れてきた地域
で暮らし続けることが可能になるためには、認知症という病気の理解が求められる。
2008年7月には厚生労働省によって「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェク
ト」が打ち出された。このプロジェクトにおいて今後の認知症対策の基本方針として、①
実態の把握、②研究開発の加速、③早期診断の推進と適切な医療の提供、④適切なケアの
普及および本人・家族支援、⑤若年性認知症対策の推進が重要とされており、この認識の
もと、総合的な施策が推進されてきている。
第2節
認知症に関わる概念およびBPSD
1.認知症に関わる概念および診断基準
認知症(dementia)という言葉は、ラテン語の[de=out from + mean = the mind] であ
り、疾病のために知力(mental power)が失われるという意味からきている。フランスの
Philippe Pinel(1745-1826)が1797年に初めて「認知症(dementia)」という言葉を使用した
(WHO 2001)。アメリカ精神医学会の精神障害統計診断マニュアル(Diagnostic and
Statistical Manual of the American Psychiatric Association)によると、記憶、学習、見当
識、思考、計算、言語、判断など複合的な知能機能が失われ、日常生活および仕事に支障
が生じることを認知症としている。
1984年に、NINCDS-ADRDA(National Institute of Neurological and Communicative
Disorders and Stroke- Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association)の報告書
でアルツハイマー病の臨床診断基準が発表された。この基準は多くの専門家の研究成果を
反映し、調査研究を容易にするための厳密な基準を作成するために米国保健福祉省の援助
を受けてまとめられたものである。NINCDS-ADRDA基準では、記憶とそれ以外の認知過
程を含めた2領域以上の認知機能障害がある場合を「アルツハイマー病の疑いあり」と定義
している。NINCDS-ADRDA基準によれば、アルツハイマー病患者は、記憶障害のほか「そ
の他の認知機能、例えば言語、運動技能、知覚の進行性の悪化および行動パターンの変化
を伴う日常生活動作の障害」といった症状を示すとされている。
米国精神医学会(American Psychiatric Association)による「精神障害のための診断統計
マニュアル第1版」(DSM-Ⅰ1952)およびDSM-Ⅱ(1968)では、いずれも具体的な行動特
性ではなく、認知症の知的側面に焦点を当てていた。DSM-Ⅲ(1980)は、詳細な事項によっ
てさまざまな病態を記述し、具体的で操作的な診断基準を用いるものであり、診断基準を
明確にした点で大きな進歩があったと認められている。DSM-Ⅳ(1994)では、NINCDS
14
-ADRDA基準に入っている多数の認知障害基準が組み込まれた。
WHOによる「疾病および関連保健問題の国際統計分類(ICD-10):International
Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:1993」では、認知症
は、アルツハイマー病(Dementia in Alzheimer’s disease;AD)、脳血管性疾患(Vascular
dementia;VD)、その他の疾患による認知症(Dementia in other diseases classified
elsewhere)、明記されていない認知症(Unspecified dementia)などに区分されている。さ
らに、以下の定義に基づいて認知症とし、症候群を定めている。「意識が保たれているに
もかかわらず、新しい情報の習得においての記憶障害、計画や企画等の実行を行う際の思
考および判断、感情のコントロールの低下による怒り、無関心、みだらな社会的行動にお
いての障害が6ヶ月以上持続するもの」。特に慢性の進行性疾患を有する患者では複数の認
知障害があることを強調している。
米国での標準的な認知症スクリーニング検査であるMMSE(Mini-Mental State
Examination)は、言語性の設問に加え、紙を折る問題や、文章や図形を書く問題など動作
性の設問があり、統計11問で30点満点となっている。この検査は、標準的な知能検査であ
るWAIS-R(Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised)との高い相関も示されている。
日本では1991年に改訂された長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)がよく使われてい
る。これは、時間や場所の見当識、記録、計算、語想起などの9項目からなり、すべて口頭
問題(言語性)で、動作性の設問は含まれていない。
2.認知症になる原因およびリスク要因
高齢者で認知症を引き起こす原因疾患としては70以上存在することが報告されている
(Cohen et al.,1993)。アルツハイマー病は認知症の最も一般的な原因であり、認知症の50
~60%を占めていると報告されている。アルツハイマー病は1906年ドイツの精神科医の
Alois Alzheimerによってはじめて報告された。アルツハイマー病は脳の特性の部位の神経
細胞が死に、脳が萎縮し、記憶力、発話、思考および判断力に影響を与える。また、アル
ツハイマー病の次に多く見られるのは脳血管性認知症であり、認知症の20~30%を占めて
いるとされている。脳血管性疾患認知症は、血管が損傷を受け、酸素の供給が危険な状態
になったときに発症する。脳内の酸素の供給がうまくいかなくなると、脳細肪が死に、そ
の結果脳梗塞が引き起こされる可能性が高くなる(国際アルツハイマー病協会Alzhiemer’s
Disease International、以下ADI)。アルツハイマー病と脳血管性認知症の混合例は20%ほ
どある。3番目に多く見られる原因はレビー小体型認知症(dementia with lewy bodies)であ
り、認知症の10%を占めている。老化と神経細胞の死が原因で起こる点で、アルツハイマ
ー病と似ている。この病名は、レビー小体として知られる脳神経細肪の中に発生する異常
なたんぱく質から名付けられた(ADI)。以上でみた認知症を引き起こす原因とされているも
のを加算すると100%を超えているが、これは研究によってばらつきがあることによる。
WHOによると、高齢化に伴いアルツハイマー病の患者は増えており、2001年には全世界
の認知症の人は1,800万人と推定され、そのうち1,100万人が発展途上国の人々であるとさ
15
れている。さらに、2025年には、全世界で3千400万人と、そのうち発展途上国で2千500万
人になると推計されている。
WHOによると、認知症のリスク要因はまだ十分解明されていないが、最も関連がある要
因としては年齢が挙げられている。65~69歳代までのアルツハイマー病の有病率は1.4%で
あるが、85歳以上になると23.6%となり、年齢と関連があると報告されている (WHO 2001)。
また、性別に関しては、80歳代以上では、女性はアルツハイマー病になるリスクが高く、
男性においては脳血管性認知症になるリスクが高いとされている(Asia Pacific Members
of Alzheimer’s Disease International 2006;WHO 2001)。女性の方がアルツハイマー病に
なるリスクが高いことの理由は明らかになっていない。さらに、学歴および雇用環境に関
しては、低学歴者と肉体労働者の方でリスクが高いという仮説があるが、エビデンスは明
らかになっておらず、今後さらなる研究が必要である(Asia Pacific Members of
Alzheimer’s Disease International 2006)。
3.BPSDの定義および具体的な症状
認知症の症状は中核症状と行動・心理症状(BPSD: Behavioral and Psychological
Symptoms of Dementia)に分けられる。中核症状とは、脳の障害によって生じる記憶障害、
見当識障害など知的な働きの低下症状をいう。一方、障害によって低下した知能レベルで
生活するときに生じる感情の変化や行動の異常を、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)
という。
BPSDが本格的に研究されるようになったのは、1980年代になってからである。認知症の
評価の一部としてBPSDを評価する必要があり、1986年以降BPSDを評価するために多くの
尺度が開発されている。1996年、国際老年精神医学会(以下IPA)は、認知症の行動障害に関
する現時点の知識に関するレビューを行い、重要な4つの領域(症状の定義、原因、臨床症
状の記述、研究の方向)におけるある程度の合意を得ることを目的とした認知症の行動障害
に関するコンセンサス会議を開催した。さらに1999年に行われたコンセンサス会議では、
16カ国からこの分野の専門家約60人が参加し、BPSDの定義について次のような声明を発表
している。「行動障害(behavioral disturbances)という用語の代わりに認知症の行動・心
理症状(BPSD)という用語を用いる。これは、認知症患者に頻繁に見られる知覚、思考内容、
気分または行動の障害による症状と定義される」(IPA , BPSD Educational Pack Module
1 2002:5)。
BPSDの分類方法は多数あるが、コンセンサス会議の参加者は、目的に応じて特異的症状
クラスター(例、抑うつ症状、精神病症状)に分けることが有用と考えた。分類法を以下
に示す。
16
Behavioral Symptoms(行動症状)
Usually identified on the basis of observation of the patients, including physical
aggression, screaming, restlessness, agitation, wandering, culturally inappropriate
behaviors, sexual disinhibition, hoarding, cursing and shadowing.
通常は患者の観察結果によって明らかにされる。身体的攻撃性、喚声、不穏、焦燥、徘
徊、文化的に不適切な行動、性的脱抑制、収集癖、ののしり、シャドーイングなど。
Psychological Symptoms(心理症状)
Usually and mainly assessed on the basis of interviews with patients and relatives;
These symptoms include anxiety,depressive mood, hallucinations and delusions. A
psychosis of Alzheimer’s Disease has been accepted since the 1999 conference.
通常は、主として患者や親戚との面談によって明らかにされる。不安、抑うつ気分、幻覚、
妄想などがこれに入る。1999年の会議でアルツハイマー病の精神病状態が心理症状に入れ
られることになった。
(英文:IPA, BPSD Educational Pack Module 1 2002:5、和文:日本老年精神医学会
2005:15 )
病気の段階によって、さまざまなBPSDが生じる可能性がある。これまでの研究から、
BPSDは認知症疾患が進行するに従って発症するもの、認知症疾患の特定の期間中に高頻度
にみられるものであることがわかっている(IPA2002)。BPSDの特徴的症状を表1-4に示す。
感情症状は病気の初期により生じやすいことが指摘されている(IPA, BPSD Education
Pack module2 2002)。焦燥および精神病的行動は認知機能に中等度の障害がある患者で頻
繁にみられるが、認知症が進行した段階では、多くの患者で身体的および神経学的状態が
悪化しているために、
あまりみられなくなる(IPA, BPSD Education Pack module2 2002)。
実際のところ、ほとんどのBPSDは認知症が進行した段階になる前にピークに達する傾向が
ある。また、BPSDには持続しやすいものとそうではないものとがある。例えば2年以上に
わたって観察を行った研究では、徘徊と焦燥とがアルツハイマー病患者で最も長期間続く
行動症状であることが明らかになっている(Devanand et al.1997)。
17
表1-4
BPSDの特徴的症状
グループⅠ
グループⅡ
グループⅢ
(厄介で対処が難しい症状) (やや処置に悩まされる症状)
(比較的処置しやすい症状)
心理症状
心理症状
行動症状
妄想
誤認
泣き叫ぶ
幻覚
抑うつ
ののしる
行動症状
無気力
不眠
焦燥
繰り返し尋ねる
不安
社会通念上の不適当な行動と
シャドーイング
性的脱抑制
行動症状
身体的攻撃性
部屋の中を行ったり来たりする
喚声
徘徊
不穏
4.BPSD評価尺度
BPSDの概念に関する幅広い包括的な枠組みへの取組みはまだ始まったばかりであり、行
動尺度のための情報源として何が最良であるかについては研究者間で意見が異なる。行動
尺度の情報源としては、①介護を行う家族、②専門的介護者、③医師による認知症の人の
観察、④認知症の人自身の報告の4つが利用されている(IPA, BPSD Education Pack
module2 2002)。
①家族の報告に基づいた尺度は、在宅の外来患者を評価する際に適している。ただし、
介護者の気分や観察者としての巧みさ、教育レベルによって結果に偏りが出ることがある。
BEHAVE-ADとNPI(Neuropsychiatric Inventory)が介護者に基づく評価手段の例である。
BEHAVE-ADとは個々の行動をスコア評価し、心理症状と行動症状を併せて、アルツハイ
マー病の特徴と考えられるBPSDを評価した尺度である。BEHAVE-AD尺度の信頼性と妥
当性は立証ずみである。NPIにはアルツハイマー病によくみられるBPSDに関する尺度があ
るが、前頭側頭葉変性型認知症やその他の認知症の症状特徴に関する尺度も入っている。
②専門的介護者に基づいた評価尺度であるNOISE(Nurse’s Observation Scale for
Inpatient Evaluation)やWard Daily Behavior Scale、CMAI(認知症でよくみられる行動の
変化を評価する尺度)は施設入所患者を評価するのに適している。CMAI尺度の信頼性と妥
当性は立証ずみである。これらは看護スタッフに利用されており、BPSDの観察について、
より経験豊かな者からの情報に基づいているという長所がある。
③医師による患者の直接観察では、医師が高度な技能を有する観察者であるため、結果
の信頼性が高くなる傾向がある点が長所であるが、限られた観察期間中にみられた症状だ
けを捉えるという短所がある。尺度の例として、NRS(Neurobehavior Rating Scale)がある。
④患者自身の報告に信頼性と妥当性があるのは、認知症の初期段階の場合に限られる。
18
自己申告によるうつ病評価尺度のGDS(Geriatric Depression Scale)を使った気分変動の自
己申告を利用した研究もいつくかされている。
尺度は個々の行動だけに関する情報、全般的行動だけに関する情報を提供することもあ
れば、行動と心理双方についての情報を提供することもあり、BPSD評価尺度の体系と特性
にはかなりばらつきがある。BPSD評価尺度の大部分は、横断的に利用して具体的症状を特
定するように作られており、今後縦断的研究がさらに必要である。
第3節
認知症の人に対する認識や態度、高齢者イメージに関する研究
1.態度の定義と精神障害者における態度研究
1) さまざまな「態度」の定義
態度の概念は、ラテン語のaptusから派生したもので、精神的・肉体的活動に対する準備
の整った神経心理的状態である(Allport、1954)。態度の概念的定義は、研究者によってさ
まざまであるが、Allport (1935)の定義が一般的に受け入れられている。Allportによると、
態度とは生活体の反応準備であって、一定の動作や行動を実現し、かつ方向づけと調整を
するものである。RosenbergとHovland(1960)は、態度の認知的成分(信念の言語的表現)、
感情的成分(感情の言語的表現)、行動的成分(行動に関する言語的表現)があると説明し、
この3成分は一般的に認められている(社会心理学事典、2009)。M.フィッシュバインとI.
エイゼン(1975)は、態度とは、ある対象に対して一貫し好意的か非好意的に反応する学習
された傾性としている。S.オスカンプ(1977)は、態度は反応の準備性を構成するが、行動
そのものではなく、直接観察できるものではない。それは、観察可能な反応の研究を基礎
にして推論されるものであり、刺激事象と行動反応の関係に影響する観察不可能な媒介変
数であるとしている(社会心理学小辞典、2002)。
藤原(2001)はAllport以降の態度とは何かという問いかけの中から明らかにされた点を以
下のように要約している。①態度とは、反応のための先有傾向、準備状態である。したが
って、態度は刺激と反応との媒介物であり、直接には観察不可能な構成概念である。②態
度は常に対象を持つ。対象は、人物、集団、価値、観念、制度といったものである。③一
定の対象について、「よい―悪い」、「好き―嫌い」といった評価を含む。また、その評
価は、ポジティブからネガティブにその方向と強度を変える。④一時的な状態である動機
や動因という言葉とは区別される意味で、いったん態度が形成されると比較的安定的であ
り、持続的である。⑤態度は、先天的なものというよりも、学習によって習得されるもの
である。⑥個々の対象に対する個別的態度は、互いに関連をもち、構造化され、態度群、
態度布置を形成する(社会心理学事典、2009)。D.カッツ(1960)によると、態度の機能とし
て、①自分を取り巻く世界の解釈と新しい情報の処理を容易にすること、②社会的同一化
を獲得し、保持する手段であるという2つがあるとされている。
ある対象に対する好意度や感情の強さに関して態度を測定する最も一般的方法として態
度尺度がある。一般に、態度尺度の主な次元は、態度の方向、その方向への程度、その態
度にともなう感情の強さである。態度測定には特定の対象領域が必要である。次に、その
19
対象領域の中で、人々が同意や不同意を示す可能性のある一連のステートメントをつくる
ことである(社会心理学小辞典、2002)。態度調査の最初の方法は1920年代にサースト
(Thurstone)と彼の共同研究者たちによって開発された。その他の方法には1930年代にリッ
カート(Likert)によって開発された「加重尺度法(summative scaling)」があり、のちに第
二次大戦中にガットマン(Guttman)によって開発された「加算的尺度法(cumulative
scaling)」がある。
2)精神障害者における態度に関する研究
ヨーロッパの34カ国29地域を中心とした、1990年から2004年の15年間の精神障害者に対
する態度のレビュー研究では、態度研究の多くは統合失調症およびうつ病が中心として行
われてきたことが明らかになった(Angermeyerら2006)。認知症は精神障害の一部とみなさ
れており、多くの態度研究が精神障害者に対する研究が多いことから、精神障害者におけ
る態度に関する研究を中心としてレビューを行った。
精神障害者に対する社会的態度は、諸外国では1960年代から、日本では1980年代から研
究されており、精神障害者に対する態度を図るための尺度が開発されている。Kingら(2007)
は28項目から成る精神障害者に対するスティグマを測定するスケールを作成し、差別
(discrimination)、暴露(disclosure)、潜在的な肯定的な側面(potential positive aspects)
の3つの因子が抽出された。
岡上らはアメリカで開発されたCMI(Custodial Mental Illness Ideology Scale)やOMS
(Opinions about Mental Illness Scale)、CMHI(Community Mental Health Ideology
Scale)などを検討し、日本の実情に合わせて尺度を作成している。この尺度は、精神障害者
についての原因・性質、精神医療・衛生のあり方、社会生活の権利、社会生活の自立性か
らの構成要素で成る。岡上ら(1986)の調査では、精神障害者に対して年齢が高いほど同情
的ないし消極的な態度を示し、接触体験を持つ一般市民の方が、理解度が増加することが
明らかになった。他にも、精神障害者との接触体験がある人々は、接触体験がない人々に
比べ、精神障害者に対してより肯定的な態度を示すことが多く報告されている(大島厳
1992;全家連1998;Readら1999;黒田2001;北岡2001;Ayら2006)。
池田ら(1999)は精神障害者の活動が活発な浦河町と、比較対象として札幌市との精神障
害者に対する社会的態度を調べた。その結果、態度の形成要因は接触体験に起因するもの
であり、精神障害者の活動の活発な地域である浦河町においてより好意的な態度が示され
た。その違いは、「精神障害者の能力や自立の可能性に対する考え方」「精神障害者に対
するイメージ」「社会的距離」といった態度構造の違いに基づいていた。生川(1995)が行
った精神遅滞児に対する態度調査では、精神遅滞児(者)の地域生活、教育、労働、精神遅
滞児(者)への働きかけなどに関するものから40の態度項目を設定した。接触体験のある人
あるいは精神遅滞の出現に関する知識のある人の方が、好意的な態度を示し、精神遅滞者
との交流を推進する気持ちが強いことが明らかになった。
社会的距離尺度については、大島ら(1989)が開発したものがある。これは、慢性統合失
20
調症患者を想定した事例を具体的に記述し、社会復帰場面において問題となる状況で、ど
の程度受け入れるかを尋ねるものである。望月ら(2008)は、うつ病と統合失調症の事例を
通じて、こころの病を持つ人々への地域住民の態度を調べており、実際に接する際に戸惑
いや不安を感じる者が多く、接し方の情報提供が必要であることが示唆された。半澤ら
(2008)の研究でも、一般人における統合失調症とうつ病の事例をあげ、社会的距離に影響
を及ぼすスティグマ認知の比較検討を行った。その結果、「回復が困難であり行動予測が
できない」と周囲に思われるだろうという予測が自らの社会的距離を大きくするという認
知行動様式を示唆した。
北岡(2001)は、一般住民、民生委員・ボランティア、医療関係者の3つのグループにおい
て、精神障害者との社会的距離、精神障害者に対するイメージや感情・評価という二つの
側面について測定した。民生委員・ボランティア、医療関係者の方が一般住民より肯定的
イメージや感情・評価を持っていた。社会的距離は、民生委員・ボランティアが一般住民
と比べ有意に低く、医療関係者は一般住民と同じように大きかった。
Phelan ら(2000)の研究では、アメリカにおける精神疾患の概念は1950年代と比べ1996
年の時点ではより拡大傾向にある一方で、精神疾患を持つ人は暴力的であり、恐ろしいと
感じる人が増加したということを示した。
Corrigan ら(2002)は、精神障害者は自分の症状や障害と闘いながら、精神疾患に対する
ステレオタイプ、偏見、誤解などで苦しんでおり、彼らの人生においてさまざまな機会が
奪われ、スティグマが根強い社会の構造を作り直すことの必要性を指摘している。精神障
害者に対するスティグマと差別の解決に向けて、効果的な治療、雇用やサポートの促進、
メディアの役割の重要性などが挙げられている(WHO 2005)。
ニュージーランドの研究においても、統合失調症の心理社会的要因を重視する人々は
(psychosocial view)、肯定的な態度を示す傾向があることが示されている(Readら 2001)。
生物学的要因を支持する人々で精神障害者に対する社会的距離が大きいことを示した研究
もある(Matthiasら2005)。
深谷(2004)は精神障害者に対する社会的態度に関する先行研究から得られた知見を整理
し検討した結果、①精神疾患に対する一般市民の態度は改善されてきたが、統合失調症を
抱えた人々は危険で予測しがたいと見られている、②精神障害者と接触体験がある人の方
が精神障害者に対する肯定的な態度を示す、③「統合失調症」というレッテルは、精神障
害者に対する認識に、マイナスの影響を及ぼす可能性があるといったことを明らかにして
いる。Angermeyerら(2006)が行った1990年から2004年の間の精神障害者に対する3,651件
の態度研究のレビューでは、①精神障害者は専門職の援助が必要であり、予測不可能、怖
いというイメージを抱えているため距離を置く傾向が見られる、②精神障害者との接触体
験は否定的な態度を減尐させる、③態度と社会人口統計学(年齢、性別、学歴)との関連
性については、一概に言えず説明力が低い、④うつ病に関する知識向上のための介入評価
に関しては一部の地域ではその効果が認められているが、ある地域では薬物治療に対する
抵抗が増しており、必ずしも知識向上の介入がうつ病に対する肯定的な態度に影響を与え
21
るとは言えないことが明らかにされている。
以上のように、精神障害者に対する偏見、スティグマ、ステレオタイプ、社会的距離な
ど類似な概念を用いて態度を測定した研究が多く見られ、国外・国内における研究で精神
障害者に対してよくない感情や不安感を抱いている人が尐なくないこと、精神障害者との
接触体験は肯定的な態度との関連があることが明らかにされている。偏見やスティグマに
留まらず結果的に差別、隔離、機会喪失などにより、人間としての尊厳を奪う根本的な問
題があることを社会全体で意識する必要がある。また、精神障害者に対する理解を深める
ための教育や情報伝達のシステム自体が欠けている点が今後の課題である。
2.高齢者イメージに関する研究
イメージはラテン語のimago(像、似姿の意)が語源で、
「心像」等の訳語がある。一般に、
ある対象について外界からの刺激を受けずに心的に再生された像をいう(新社会学辞典
1993)。高齢者イメージに関する研究は、SD法を用いた研究が多く見られ、イメージ分析
は因子分析における因子負荷量を求める方法がよく用いられている。行動を刺激への反応
ととらえる行動主義の考えを発展されたオズグッド(1916-1991)は、外的な刺激で喚起され
る内的な反応(情緒的意味)を分析的に把握することで、外的な刺激への個人の反応が予
測できると考えた。この情緒的意味を客観的に分析する方法として考案されたのが、SD尺
度(Semantic Different method=意味微分)である。
エイジズム(Ageism:高齢者差別、広く年齢差別ともいう)という概念は、レイシズム
(人種差別)、セクシズム(性差別:男女に生得的な能力の違いがあることを信じ、その
違いに基づき、支配・被支配の関係を作り上げることになる性別役割分業を正当化する信
念と行動)に続く、第3の「イズム」(主義)として、1969年のButlerの論文において初め
て用いられた。高齢であるという理由のみで、偏見や固定観念(ステレオタイプ)を抱い
たり、差別的な行動をとったりすることである。人々の老人観は、その社会で老人がおか
れている状況を反映すると同時にそれを規定し、さらに老人自身の自己概念や適応にも大
きな影響を及ぼす(古谷野ら1997)。原田ら(2008)は、都市部の若年男性を対象としてエイ
ジズムに関連する要因を分析した。エイジズム尺度は差別、回避、誹謗の3つの因子で構成
されていた。親しい高齢親族数が尐ない者ほど、加齢に関する知識が乏しい者、生活満足
度が低い者において、エイジズムが強い傾向が見られた。
SD法を用いた高齢者イメージを検討した研究は数多くある。保阪ら(1988)は、多くの大
学生が抱く老人イメージはどちらかといえば否定的であり、老人イメージを規定する要因
として、老人への関心や接触体験をあげた。中谷(1991)が小学生を対象に行った研究では
「身体」「情緒」「行動」に関する3つの主成分が抽出され、老人との交流が多いほど肯定
的な老人観を抱いているという知見が得られた。中野ら(1994)が行った小学生と中学生の
老人イメージの比較研究では、因子分析により「評価」「活動性」の2つの因子が抽出され
た。中学生は「活動性」においてやや否定的に評価しており、高学年であるほど否定的で
あり、小さいときの交流経験が多いものほど肯定的であることが明らかになった。古谷野
22
ら(1997)の中高年の老人イメージでは、因子分析の結果、「力動性」「親和性」「洗練さ」
の3つの因子が抽出され、「力動性」の平均得点は、「親和性」と「洗練さ」より低く、「力
動性」の評価は女性より男性が、また高学歴の人ほど否定的であった。藤原ら(2007)が児
童を対象とした世帯間交流型介入研究を行い、1年間の追跡調査を行った結果、交流頻度が
高い児童では、1年後も肯定的なイメージを持っていることが示唆された。
以上のように、高齢者に対する否定的な見方が確認され、高齢者イメージを規定する要
因として接触体験が重要であることが示唆された。
3.認知症の人に対する否定的な見方の存在および認識不足
WHO-WPA(World Psychiatric Association 2002)の報告書によると精神障害を持つ高
齢者に対するスティグマの原因として、無知(ignorance)、誤解(misconceptions)、不
安および恐怖(fear)、専門または公共教育の情報システムの欠如(the lack of information
system to educate both professionals and the general public)などが挙げられ、結果とし
ては偏見(prejudice)、エイジズム(Ageism)、誤った考え(mistaken beliefs)、加害
(damaging)などが挙げられる。認知症高齢者について理解不足からくるスティグマが未
だに存在し、病気としての認識が尐ないことから、特に認知症高齢者は精神障害に対する
偏見とともにエイジズムに対する偏見に曝される二重の危険性(double jeopardy)をもっ
ていると指摘している。認知症に対するスティグマは早期発見の遅延や診断の拒否をもた
らし、認知症のケアサービスに支障を与える。このことから、認知症に対するスティグマ
を克服するための教育プログラムの必要性が指摘されている(Vernooij-Dassenら2005)。
また、認知症は認知機能の低下により、生活に支障が生じることから、介護者の介護負
担やストレスに関する研究が多くみられる。重度の認知症高齢者の介護者は、不安感や負
担感を感じ(下垣ら1989)、脳血管性認知症よりアルツハイマー型認知症に関わっている介
護者の方が、否定的な感情が高いことが明らかになった(下垣ら1989;松山ら2004)。介護
負担とソーシャルサポート(仲秋2004)、介護負担と心理的虐待(柳ら2007)、介護者の負担
感とQOLに正の関連(一宮ら2001)がある。認知症に関する正しい認識をもたないまま介護
に携わると、症状が悪化し家族の介護負担が増えているとしている。認知症の人の認知機
能障害そのものや身体的症状、機能障害ではなく、BPSDこそが介護者にとって最大の負担
となる。BPSD自体が介護者の負担および否定的な見方の要因となっているため、BPSDに
対する介護者の反応も重要である(表1-5)。
23
表1-5 介護者の特性からみた介護負担の予測要因と防御的要因
負担の予測要因
介護のプランを立てる者よりも実際に介護を行っている者のほうが負担が大きい
介護者の立場では配偶者、性別では女性
近親度(介護者が同居している場合に最もストレスが高い)
対処能力の未熟さ
家族や友人からの支援が少ない
認知症、その影響と対応に関する知識が少ない
発病前において認知症の人との関係がよくない
負の感情の表明、すなわち敵意や批判を示すことが多い
発病前のうつ病
身体的健康状態が悪い
防御的要因
非公式の支援(例、介護をしている家族、友人、隣人)
認知症、その影響と対応に関する知識
「成熟した」対処能力(例、BPSD)
サポートグループ(例、アルツハイマー病協会)
十分な経済的資源
休息がとれる
身体的健康状態がよい
監訳/日本老年精神医学会「痴呆の行動と心理症状」(2005)より抜粋
認知症に対する偏見や否定的な見方は未だに根強く、認知症に対する正しい認識の普及
は重要な課題の一つである。本間(2001)による一般住民を対象に、認知症についての認識
の状況を把握した調査では、認知症を病気として認識する人は半数近くを占め、認知症に
対して怖いイメージを抱く人が尐なくないなど、認知症に対する理解不足が明らかになっ
た。杉原ら(2005)が一般高齢者に対してアルツハイマー型認知症に関する知識を尋ねた結
果、5割以上の人が周辺症状について誤った知識を持っており、病気ではないと認識する人
が7割を超えていた。Crispら(2005)の研究ではイギリスのchanging minds campaignの前
後(1998年と2003年)に一般成人を対象に、うつ病や統合失調症等7つの精神疾患についての
意識調査を行った。キャンペーン後における否定的な認識は全体的にやや軽減されたが、
認知症に関してはキャンペーン後においてもコミュニケーションが難しい、治療してもよ
くならない、予測できないと回答した人が半数近く、認知症に対する否定的な見方が確認
された。
久保ら(2008)によって40歳代から60歳代までの中高年を対象に行われた調査では、関わ
り度に関連する要因として50歳代は認知症の対応方法についての知識、60歳代はボランテ
ィア活動と正の関連が見られた。Werner(2001)が行った研究では、家族介護者を対象とし、
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アルツハイマー型認知症に関する知識に関連する要因を分析している。ここでは、サービ
スに関する知識に比べ、有病率など一般的な知識とともにアルツハイマーの症状に関する
知識が低いことが明らかになった。特に、教育レベルが低い人、介護者の属性では子ども
より配偶者で、知識が低い傾向がみられた。Adamson(2001)は、30人の介護者を対象に
インタビュー調査を行い、認知症の症状に対する認識不足や理解不足のため、家族が認知
症の人を非難する等混乱を感じていると報告しており、認知症の発病に対する認識ととも
に、認知症の症状に対する知識が重要であることが示された。Araiら(2008)は一般の人々
を対象とし、認知症に関する知識の理解度を調べた。知識については一般知識4項目、症状
に関する知識3項目、医学に関する知識4項目、計11項目を用いた。その結果、男性より女
性の方が知識を持ち、特に40歳から64歳までの中年の女性の方で認知症に関する知識が高
い傾向がみられた。また、認知症の症状に対する認識不足や専門家の援助の遅延の原因と
して認知症に関する知識不足が考えられ、認知症に関する認識を高めるための教育介入が
必要であることが示された。
Ayalonら(2004)が行った4つの民族のグループ(非ラテン系の白人米国人、ラテン系、ア
ジアン、アフリカンアメリカン)の比較研究では、アルツハイマーに関するサービスの整備
が不十分な地域に居住する民族ほど知識が不足しており、サービスが整っていない民族に
おいては、知識の早期介入などが必要であり、アルツハイマーに関する知識の普及が重要
であることが示唆された。Purandareら(2007)によると、インドとカフカズの高齢者を対象
に認知症に関する知識を比較した結果、両方とも認知症に関する知識が低く、特にインド
において基本知識や疫学の面が弱かった。背景として認知症の治療機関の不在が指摘され
ている。
認知症に関連する知識の理解は特定なニーズへの介入を行うときに、介護者の立場を識
別するのに役に立つ(Proctorら2002)。ケアに携わっている人らの知識の普及のための体系
づくりとともに、その有効性を評価することが求められる(Grahamら1997)。
Carpenterら(2009)は学生、高齢者、シニアセンターのスタッフ、介護者、認知症専門職
者を対象とし、アルツハイマー型認知症に関する知識を測定するためのスケールを作成し
た。このスケールは、リスク要因、アセスメント、診断、症状、病気の進行、人生におけ
る影響力、対応方法、マネジメントから構成され、信頼性と妥当性が認められた。グルー
プにより知識の差が確認され、特に専門職に関しては知識の平均値が27.44(得点範囲0~
30)と満点に近いことから、天井効果(ceiling effects)の問題が生じるなど改善の余地が見ら
れた。 Finnemaら(2000)は文献レビューを基に、認知症の人の感情を重視(emotion
-oriented)するアプローチは、周辺症状をもつ認知症の人に対するポジティブな側面を持ち、
認知症のケアの質を向上にもつながることを述べている。さらに、介護者の患者への対応
技能の向上は、介護負担感や否定的な見方を軽減させることにつながり、患者と介護者の
双方のQOLを高めることであると指摘されている(IPA、BPSD Education Pack module4
2002)。
Cahillら(2008)は、アイルランドの認知症の早期診断およびマネジメントにおいて構造
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的な面とイデオロギー的な面に問題があると指摘し、前者に関しては、認知症のケアシス
テムの不備、後者については、スティグマの存在が診断の早期発見を遅らせる主な要因で
あると報告している。Cahillら(2008)の指摘のように認知症の認知機能障害からくる否定
的な見方とともに、認知症の症状に関する正しい知識を伝達するためのシステムや教育の
欠如が今後の課題として考えられる。さらに、認知症高齢者に対する偏見をなくすことが
目指しているのは、人間の尊厳を取り戻し、質のいいケアを行うとともに、彼らの生活の
質を増進することであるといえる(Juanら 2002;Jacobsson 2002)。
Turnerら(2004)が専門職を対象に行った認知症の初期ケアや診断においての知識、信頼、
態度の調査では、疫学に関する知識不足が確認された。疫学についての知識不足は認知症
患者へのサービスの発展を遅らせることから、疫学に関する知識教育の強化が必要である
ことが示された。また、認知症の問題行動に困難を感じている人が尐なくないことから、
認知症の問題行動のマネジメントに関する教育への支援が必要であることが挙げられてい
る。また、介護スタッフを対象に認知症のケアを行う上での認知症の人に対する態度調査
を行い、Kadaら(2009b)は仕事の経験年数、年齢、教育との関連を示し、Zimmermanら
(2005)は仕事に対する満足度との関連を示した。
Kada(2009a)が放射線技師を対象に認知症の人に対する態度を調べた研究は、女性、50
歳代以上の人、仕事の経験が長い人において、認知症の人に対してポジティブな態度が見
られた。Norgergyら(2006)は、看護師を対象とした認知症の人に対する態度研究で、SD法
を用いて認知症の人のイメージを検討した結果、認知症の人に対するポジティブな態度な
いし中立的な態度をとる傾向が見られた。しかし、これらの研究は、形容詞を用いて認知
症の人に対するイメージの把握にとどまっており、認知症の人に対する態度を形成する諸
要因についての分析は不十分である。
O’Connorら(2010) はアルツハイマー型認知症に対する尺度を作成し、因子分析を行った結果、
「認知症の知識(10項目)」(dementia knowledge)、「社会的満足(10項目)」(social comfort)の
2つの因子が抽出された。この尺度には因子負荷量が0.4以下の項目が多尐含まれおり、認知症
の人に対する感情や行動傾向を表す項目は尐なく、主としてアルツハイマー型認知症に対
する認識の側面を測定した尺度である。
このように、専門職や介護スタッフ向けの認知症のケアを行う上での認識や態度の研究
はあるものの、一般の人々における認知症の人に対する態度研究はほとんど行われていな
い。また、認知症の人に対する態度尺度はアルツハイマー型認知症に限定されており、形
容詞を用いた認知症の人に対するイメージの把握や認知症の人に対する認識の側面にとど
まっている。認知症の人に対する人々の肯定的な態度を形成していくことは、認知症に関
する啓発活動のシステム作りに必要不可欠である。これから有効な認知症の啓発活動を展
開していくためには、認知症の人に対する態度に関連する要因を検討することが必要にな
る。
26
第1章小括
第1章では、全世界における認知症の人の増加やそれに伴う課題を示すとともに、日本に
おける1980年代から現在に至るまでの認知症対策の変遷を整理した。世界における認知症
患者数の推定および日本の認知症高齢者の実態が明らかになってきたのは2000年以降であ
った。日本のみならず世界各国における認知症対策として、実態の把握、適切なケアや医
療の普及、本人および家族への支援、認知症の存在の否定の克服など共通の課題に直面し
ていることが明らかになった。そして認知症の概念や原因疾患に関する説明を行うととも
に、従来の「問題行動」から行動・心理症状(BPSD)という用語への変更の経緯やBPSDの
症状について記述した。また、従来の認知症ケアに関する研究の大部分は、認知症の問題
行動や介護負担などに向けられてきており、現在でも認知症や認知症の人に対する否定的
な見方や偏見が存在している現状について論述した。認知症は精神障害者および高齢者問
題を同時に抱えていることから、精神障害者に対する態度や高齢者イメージに関する先行
研究を示した。そして、認知症の人に対する偏見や否定的な見方を軽減するために現在各
地域において認知症の啓発活動が行われていることを示した。有効な啓発活動を行うため
には認知症の人に対する人々の態度とそれに関連する要因を明らかにすることが求められ
るが、そのような先行研究がないことから、本研究の意義を確認した。これらのことを踏
まえ、次の第2章では、認知症啓発の実施地域の地域住民を対象とした認知症の人に対する
態度の調査結果と、それについての考察を述べる。
27
第2章
認知症啓発活動の実施地域における認知症の人に対する態度調査
2004年12月「痴呆」から「認知症」へと呼称が変更された。この変更を契機として、2005
年度より「認知症を知り地域をつくる10か年」構想が実施され、認知症に関する理解の普
及を促進し、認知症の人やその家族を支える地域づくりを一層促進するため、自治体や関
連団体を中心として、認知症地域支援体制構築等推進事業、認知症サポーター100万人キャ
ラバン、認知症になっても安心して暮らせる町づくり100人会議、「認知症でもだいじょう
ぶ町づくり」キャンペーンなど、さまざまな取組みが進められている。
本章では、その取組みの中の一部である認知症地域支援体制構築等推進事業の実施地域
(A市)における地域住民の認知症の人に対する態度の実態を明らかにするとともに、認知
症サポーター100万人キャラバンの効果について取り上げ、今後、認知症に関する啓発活動
のあり方を検討する。
1.研究目的
人口の高齢化に伴い認知症高齢者が増え続けており、2005年現在で約169万人であったが、
2015年には約250万人、2025年には約320万人に達すると予測されている。認知症の人は、
認知機能の障害から起こる症状により、周りの人との関係が損なわれることもしばしば見
られ、家族は介護負担やストレスを感じることが尐なくない(一宮2001、荒井2004、柳2007)。
認知症の人を含む要介護高齢者の家族介護者を対象に、心理・教育的介入を実施すること
で、介護負担感が減尐したことが報告されている(望月2005、井上1999)。認知症の症状
に対する周囲の理解や受容があれば、認知症の人が地域で安心して暮らすことは可能であ
る。そのためには、家族を含め地域住民の認知症に関する正しい知識の普及が必要である。
認知症は誰にでも起こりうる病気のひとつであり、地域社会全体で認知症の人を支える取
組みを発展させることが重要な課題となっている。
厚生労働省は、2007年度から認知症地域支援体制構築等推進事業を全国42都道府県82モ
デル地域でスタートさせ、各地域で独自の取組みが行われている。より効果的な取組みを
行うためには、地域住民の認知症の人に対する態度の実態を把握し、それに合わせた展開
が必要である。一般の人々の認知症の人に対する理解は、未だに十分とはいえず(本間2001、
Crispら2005、杉原ら2005)、認知症の発症に対する不安を抱えている人が尐なくない(小
澤ら2007)。しかし、認知症の人に対する受容的な態度を高めるためには、どのようなこと
が重要であるかに関して検討した研究はない。
そこで、本研究では、より効果的な啓発活動に向けて、2007年度に認知症地域支援体制
構築等推進事業の取組みを開始したA市の地域住民(老人クラブの会員、市民まつりの参加
者、認知症サポーター養成講座受講者)を対象とし、認知症受容度尺度を用いて、認知症
の人に対する態度とその関連要因を検討した(以下、地域住民の調査)。
さらに、認知症サポーター養成講座受講者(以下、講座受講者)を対象に、追跡調査を
行った。全国で認知症サポーターを育成するにあたって「認知症サポーター100万人キャラ
28
バン」を展開し、2009年5月31日をもって、ついに100万人を突破したところである(厚生
労働省 2009)。この事業は、自治体と全国キャラバン・メイト連絡協議会から認められた
者に対し「キャラバン・メイト養成研修」を行い、キャラバン・メイト(講師役)を養成
する。キャラバン・メイトは学んだ知識を地域、職場、学校などで地域住民に伝え、その
講座を受講した者を「認知症サポーター」と称する。この事業の趣旨は、地域住民の中に
認知症の人が安心して暮らせるための担い手を育成していくことである(全国キャラバ
ン・メイト連絡協議会2006)。
現在、各地域で取り組まれている認知症に関する啓発活動の目的は、認知症に対する誤
解や否定的な見方をなくし、正しい知識を伝達することである。統合失調症などの精神障
害に対しては、学生や一般人を対象にした講座や教育プログラムの実施により、障害に関
する知識の増加(Pinar2006)、ネガティブな態度や偏見の減尐といった効果を検証した研
究が報告されている(Tanakaら2003、Schulzeら2003、Watsonら2004、山口ら2007、Mann
ら2008、Spagnoloら2008)。しかし、認知症の啓発活動を担うボランティアの活動内容に
関する研究や(竹生ら2010)、認知症に関する啓発活動をより効果的に行うため認知症の人
との関わり度に関連する要因を分析した研究は見られるものの(久保ら2008)、認知症に
関する啓発活動の効果についての評価を行った研究はない。
そこで、本研究では、地域住民の調査対象者の一部である講座受講者に関しては、講座
受講前、講座受講後、受講3ないし6か月後の3つの時点で質問紙調査を実施し、認知症受容
度の変化および講座の効果を検証することを目的とした(以下、追跡調査)。
2.認知症受容度尺度の作成
精神障害者に対する態度の調査の中に認知症が含まれている研究はあるが(Crispら
2005)、一般住民を対象とした認知症に関する意識調査は数尐なく(本間2001、小澤ら2007)、
認知症に対する啓発活動に関する研究もわずかしかない(久保ら2008、竹生ら2010)。また、
Turnerら(2004)が行った調査は、認知症の初期ケアに関する態度に限定されており、Kada
(2009a)やNorgergyら(2006)が行った認知症の人に対する態度の研究は形容詞を用いた
認知症の人に対するイメージの傾向を把握した研究である。認知症の人に対する態度尺度
は、アルツハイマー型認知症に対する認識を中心とした尺度に限られている(O’Connorら2010)。
そこで、本研究では、認知症の人に対する態度の測定にあたって独自に尺度を作成した。
認知症は精神障害のひとつとされていることから、精神障害分野における研究を参照し、
さまざまな文献から精神障害者に対する恐怖心(岡上ら1986、黒田2001、Readら1999、
Watsonら2004、Tanakaら2003、Schulzeら2003)、身内の恥の感情(岡上ら1986、黒田2001、
Tanakaら2003)、地域生活上の問題(Tanakaら2003、Schulzeら2003)、日常生活上の関
わり方(Watsonら2004、Schulzeら2003)に関する項目を中心に検討を行った。その結果、
12項目を設定した。認知症の人に適用できるような項目になるよう認知症の予防啓発やケ
アに従事している専門職と意見を交えて修正を加えた。回答選択肢は「1.そう思う」、「2.
ややそう思う」、「3.どちらでもない」、「4.あまり思わない」、「5.全く思わない」の5
29
件法とした。
認知症の人に対する態度を測定する尺度を開発する過程で、2007年6月、A市の老人クラ
ブのイベント参加者105人を対象とし、集合調査法を用いて、表2-1に示す12項目の質問紙
に回答してもらった。老人クラブ会員は60歳以上の比較的元気な人が多いものの、認知症
を身近な存在として意識する年齢層であると考えた。その回答分布を調べ、Item-Total(以
下、IT)相関分析を行い、Pearson相関係数が0.3に達していない4項目を除外した。この8
項目の合計得点(8~40点)を算出し、認知症受容度とした。認知症受容度尺度は、人々が
地域コミュニティを認知症の人を支える場として認識し、認知症の人を受け入れ、認知症
の人に対して示す好意的な態度の程度を測定のための尺度である。なお、社会心理学辞書
(社会心理学小辞書2002)によると、受容とは対人関係で他者の言動を肯定的に評価し、
認めることである。障害分野における「障害受容」として、「自己受容」と「社会受容」
という概念が議論されている(南雲2003、細田2009、南雲2009)。後者は社会が障害を受
け入れることであり、障害者に対する偏見や差別からの苦しみを緩和する必要条件である。
「認知症受容度」は、認知症に対する「社会受容」を測定するものである。
尺度の合計得点を算出する際、肯定的な内容を表す文については回答点数を逆転させ「そ
う思う」を5点、「全く思わない」を1点とし、点数が高いほど受容的な態度を示すように
向きを一致させた。選択した8項目は上記に示した認知症受容度の定義に照らして、内容的
妥当性があると判断した。
表2-1
認知症受容度尺度の構成項目案12項目のIT相関係数
n=105
IT相関係数
12項目
8項目
認知症になっても、その人の意思をできる限り尊重してあげたい
0.331
0.473
身近に認知症の人がいたら、お世話してあげたい
0.459
0.517
0.347
0.357
自分が認知症になったら、周りの人の手を借りながら自宅での生活を続けたい
0.317
0.347
認知症の人にどのように接したらいいか分からない
0.303
0.303
認知症の人とは、できる限り関わりたくない
0.510
0.589
家族が認知症になったら、近所の人にはあまり知らせたくない
0.621
0.582
認知症の人は何をするか分からないので怖い
0.618
0.679
認知症になった人は、気の毒である
0.233
家族が認知症になったら、主治医は診断結果を家族(本人)に告げてほしい
0.207
認知症の人の介護はとても大変である
0.091
自分が認知症になったら、主治医は、診断結果を自分に告げてほしい
0.194
家族が認知症になったら、協力をうるために、近所の人や知人などにも知って
おいてほしい
30
3.調査対象者および方法
1)調査対象者
A市は2007年3月末現在、人口66,903人、高齢者数13,503(高齢化率20.2%)、認知症の人
の推計数は1,046人である。
本研究における地域住民の調査対象者は、これから認知症に関する啓発活動への参加に
期待ができると思われた以下の3つの集団である。第1は、尺度作成段階で回答した老人ク
ラブ会員である。第2は、市民祭りの参加者で、幅広い年齢層からなり、一般的な地域住民
と想定される人々である。第3は、認知症サポーター養成講座受講者で、認知症に比較的関
心があり、認知症の人を地域で支えていく役割が期待される人々である。老人クラブ会員
105人、9月の市民祭りの参加者のうち協力が得られた225人、2007年9月から12月までに実
施した計10回の認知症サポーター養成講座の受講者全数243人(以下、講座受講者)、合計
573人を対象に、質問紙調査を実施した。いずれの事業においても、保健所職員3人が関わ
って調査を行った。講座受講者に関しては、性別や住所が不明な11人を除く232人を対象と
し追跡調査を行った。
老人クラブ会員
(105人)
市民まつりの参加者
(225人)
認知症サポーター養成
追跡調査
講座受講者(243人)
(232人)
地域住民の調査
(合計573人)
図2-1
調査対象者および人数
2) 調査方法と内容
(1)地域住民の調査
認知症受容度を構成する8項目を含め、以下の項目を加えた。性別、年齢、委嘱等の内容
(老人クラブ、民生委員児童委員、福祉委員、保健推進員、委嘱なし)、認知症の人との
関わりの有無、認知症の人との関わりの内容(複数回答:過去に介護していた、過去に介
護はしてないが身近にいた、過去に仕事で関わっていた、過去にボランティアで関わって
31
いた、現在介護している、現在介護はしてないが身近にいる、現在仕事で関わっている、
現在ボランティアで関わっている)、認知症に関する情報に接する頻度(週に数回、月に
数回、年に数回、まったく見たり聞いたりしない)、認知症に関する主な情報源(複数回答:
新聞、映画・小説・ドラマ、テレビ、本・雑誌、インターネット、講演会・勉強会・講座、
家族や知人、介護の家族会、医療・福祉機関、役所関係、介護保険事業所)である。
(2)追跡調査
追跡調査は、講座前後と講座受講から3ないし6か月後の追跡時点の3時点において調査を
行った。講座前後で直接手渡しによる質問紙調査を実施し、追跡時点での調査は郵送法で
行った。講座への募集方法については、講座開催募集リーフレットを地域住民に配布する
とともに、関連団体に講座開催についての働きかけを行った。講座では教材として全国キ
ャラバン・メイト連絡協議会が作成した「認知症サポーター養成講座標準教材」を用いて
約60分間講義を実施した。主な講義内容は認知症の症状や対応方法に関する正しい知識と
認知症の人を地域で支えることの重要性を伝える内容であった。
講座前の調査内容は、認知症受容度を構成する8項目を含め、性別、年齢、委嘱の有無、
認知症の人との関わりの有無、認知症に関する情報に接する頻度、認知症に関する主な情
報源であり、講座後に再び認知症受容度8項目の質問を行った。追跡時点の調査では、以下
の質問を付け加えた。認知症サポーター養成講座の受講後に開催した認知症に関する啓発
イベントへの参加の有無(①2008年1月映画上映会「折り梅」注1)、②2008年2月講演会「忘
れても、しあわせ」注2))、講座受講後の自分の意識や行動の変化についてはあらかじめ内
容を設定し(「地域で認知症の方の見守りが大事だと思うようになった」、「認知症の情
報について関心を持つようになった」、「認知症である身近な方への対応が変わった」、
「認知症に関連するボランティア活動に参加するようになった」)、項目ごとに「はい」
「いいえ」で答えてもらった。なお、講座終了後、受講者にはニュースレターを送付し、
認知症に関する啓発のイベント情報を伝えて、継続的な参加を呼びかけた。
3)分析方法
(1)地域住民の調査
分析対象者は、回答者573人のうち、性別、年齢、認知症受容度を構成する8項目すべて
に回答した508人(老人クラブ会員105人、市民祭りの参加者213人、講座受講者190人)で
ある。
分析対象者の特性である性別、年齢、委嘱等の内容、認知症の人との関わりの有無およ
び関わりの内容、認知症に関する情報に接する頻度、認知症に関する主な情報源別の度数
分布を調べた。認知症受容度を構成する8項目を基にCronbachα信頼係数を求めるとともに、
平均値および「そう思う」と「ややそう思う」の合計割合を算出した。分析対象者の特性
別に認知症受容度の平均値に差があるかどうかを調べるため、t検定または一元配置分散
分析を用いて検定を行った。さらに、認知症受容度に関連する要因を検討するため、分析
32
対象者の特性を独立変数とし、認知症受容度を従属変数として重回帰分析を行った。その
際、「グループ」(まつりの参加者=0、老人クラブ会員と講座受講者=1)と「委嘱の有無」
(民生委員児童委員、福祉委員、保健推進員のいずれかを委嘱している人を「委嘱あり」と
した。「委嘱あり」=1、「委嘱なし」=0)には相関が強かった(相関係数0.465、** p<0.01)。
「グループ」と「委嘱の有無」を一括投入すると、多重共線性の問題があるため、t検定の結果、認
知症受容度に有意差が認められた「グループ」だけを独立変数に投入した。
(2)追跡調査
講座終了3ないし6か月後の2008年3月、性別や住所の不明な11人を除いて232人を対象と
し、認知症受容度に関する追跡調査を行った。追跡調査は郵送法で行い、 172人から回答
を得た(回収率74%)。172人のうち、講座受講前、講座受講後、追跡調査の3つの時点に
おいて、認知症受容度8項目すべてに回答した106人を分析対象とした。
年齢、委嘱の有無、認知症に関する情報に接する頻度、認知症に関する主な情報源の項
目については再カテゴリー化して分析を行った。年齢は3区分し(60歳代未満、60歳代、70
歳代以上)、委嘱の有無は、「民生委員児童委員、福祉委員、保健推進員」のいずれかの
委嘱を受けている人を「委嘱あり」とした。これらの委嘱を受けている人は地域の課題に
比較的関心があり、地域の人と関わることが多いと想定し、委嘱の有無別に2区分した。認
知症に関する情報に接する頻度は、「月に数回、年に数回、まったく見たり、聞いたりし
ない」を「頻度が尐ない」とし、「週に数回」を「頻度が多い」とした。主な情報源に関
しては、講演会や医療・福祉機関から得る情報はより的確であると想定し、「講演会、医
療・福祉機関」と「その他」に2区分した。「その他」には、テレビ、新聞、本、インター
ネット、情報源無回答などが含まれている。
まず、分析対象者106人の特性に偏りがあるかどうかをみるために、調査対象者232人と
分析対象者106人の特性の分布を調べた。
また、作成した認知症受容度の一次元性を確かめるため、講座受講前の回答をもとに、
認知症受容度とそれを構成する項目の得点のIT相関係数を算出した。また、講座受講前の
認知症受容度の8項目を基にCronbachα信頼係数を求めた。
講座の効果を検討するため、講座受講前、講座受講後、追跡調査の3つの時点の認知症受
容度および各項目の平均値を比較した。講座受講前に比べ、講座受講後、追跡時点の認知
症受容度の平均値に有意差があるかどうかを調べるため、対応のあるサンプルのt検定を
行った。
次に、性別、年齢層、委嘱の有無、認知症の人との関わりの有無、認知症に関する情報
に接する頻度、主な情報源により分析対象者をグループ分けして、3時点(講座受講前、講
座受講後、追跡時点)の認知症受容度の平均値およびその変化に有意差があるかどうかを
調べるため、2要因分散分析(混合計画)を行った。
最後に、講座受講後の認知症に関する啓発イベントへの参加の有無および意識や行動の
変化の有無により対象者をグループ分けして、3つの時点(講座受講前、講座受講後、追跡
33
時点)の認知症受容度に関して2要因分散分析(混合計画)を行った。
統計学的有意水準を5%未満とし、分析にはSPSS17.0 J for windowsを用いた。
4) 倫理的配慮
老人クラブ会員と市民まつりの参加者を対象に調査する際、調査目的と内容、匿名性の
保証、研究参加は自由意思によること、研究以外の目的に回答を使用しない旨について記
載した依頼文書を渡して説明を行い、同意を得た上で実施した。
講座受講者に関しては、講座受講前に質問紙を配布する際、調査の趣旨、自由意志によ
る参加、統計的に集計を行うので個人は特定されないこと、および個人情報の保護を厳守
することを、文書および口頭にて説明した。さらに、追跡調査を行うことを説明し、住所
および氏名等の個人情報の記入については承諾を得て、文書にて同意を得た上で実施した。
追跡調査の中止は自由であることやデータの保管には細心の注意を払うことを説明した。
4.地域住民の調査の結果
1)分析対象者の特性
分析対象者の特性の分布を表2-2に示した。女性が73.4%で、50歳代・60歳代が42.1%で
あった。老人クラブ会員、または民生委員児童委員・福祉委員・保健推進員のいずれかを
委嘱している人は56.6%で半数近くを占めた。さらに、認知症の人との関わり「なし」の
人59.8%、「あり」の人40.2%であった。認知症の人との関わり内容では「現在または過
去、介護はしていないが身近にいる(いた)」が45.2%と多かった。認知症に関する情報
に接する頻度は「年に数回」が45.5%で半数近く、認知症に関する主な情報源では、テレ
ビが82.2%で最も多かった。
34
表2-2 分析対象者の特性の回答分布
n=508
特性
カテゴリー
性別
男性
135
26.6
女性
373
73.4
49歳以下
153
30.1
50歳代・60歳代
214
42.1
70歳以上
141
27.8
委嘱等の内容
委嘱なし
215
43.4
(有効回答数495)
老人クラブ会員
79
16.0
民生委員児童委員・福祉委員・保健推進員
201
40.6
認知症の人との
なし
304
59.8
関わりの有無
あり
204
40.2
認知症の人との
現在または過去,介護している(いた)
67
34.0
関わりの内容
現在または過去,介護はしてないが身近にいる(いた)
89
45.2
(有効回答数194)
現在または過去,仕事で関わっている(いた)
24
12.2
現在または過去,ボランティアで関わっている(いた)
17
8.6
認知症に関する
週に数回
53
11.2
情報に接する頻度
月に数回
144
30.4
(有効回答数473)
年に数回
215
45.5
61
12.9
年齢
1)
n
まったく見たり聞いたりしない
%
認知症に関する
新聞
319
70.3
主な情報源
映画・小説・ドラマ
213
46.9
(複数回答:有効回答数
テレビ
373
82.2
454)
本・雑誌
143
31.5
36
7.9
講演会・勉強会・講座
107
23.6
家族や知人
137
30.2
介護の家族会
23
5.1
医療・福祉機関
67
14.8
役所関係
80
17.6
介護保険事業所
47
10.4
インターネット
1)
認知症の人との関わりの内容に関しては、現在または過去をまとめ4つのカテゴリーに区分した。
欠損値がある項目は有効回答数を示した。
35
2)認知症受容度および構成項目の分布
認知症受容度を構成する8項目の内的整合性について、Cronbachα信頼性係数を算出する
と0.585であった。認知症受容度の合計得点(8~40点)の平均値は28.5、標準偏差±4.2、
最小値15、最大値40であり、ほぼ正規分布を示した。認知症受容度の8項目のIT相関分析を
行った結果、いずれの項目も相関係数が0.4を上回っていた。
認知症受容度を構成する8項目の各平均値を表2-3に示した。「認知症になっても、その
人の意思をできる限り尊重してあげたい」が4.6と最も高く、「認知症の人にどのように接
したらいいか分からない」が2.3で最も低かった。
「そう思う」と「ややそう思う」の合計割合は、「認知症になっても、その人の意思を
できる限り尊重してあげたい」が92.7%であり、「認知症の人にどのように接したらいい
か分からない」が66.9%、「家族が認知症になったら、近所の人にはあまり知らせたくな
い」26.6%、「認知症の人は何をするか分からないので怖い」40.9%であった。
表2-3
認知症受容度の構成項目の平均値および「そう思う」と「ややそう思う」の合計割合
平均値(±S.D.) 「そう思う」と「ややそう思う」
(1~5点)1)
の合計割合(%)
4.6(±0.7)
92.7
3.8(±1.0)
64.8
4.3(±0.9)
81.9
3.9(±1.2)
66.3
認知症の人にどのように接したらいいか分からない
2.3(±1.2)
66.9
認知症の人とは,できる限り関わりたくない
3.4(±1.0)
17.3
3.3(±1.2)
26.6
3.0(±1.2)
40.9
認知症になっても,その人の意思をできる限り尊重し
てあげたい
身近に認知症の人がいたら,お世話してあげたい
家族が認知症になったら,協力をうるために,近所の
人や知人などにも知っておいてほしい
自分が認知症になったら,周りの人の手を借りながら
自宅での生活を続けたい
家族が認知症になったら,近所の人にはあまり知らせ
たくない
認知症の人は何をするか分からないので怖い
1)
点数が高いほど肯定的な態度を示す。
3)認知症受容度に関連する要因
分析対象者の特性別に、認知症受容度の平均値を比較した(表2-4)。グループ、年齢、
認知症の人との関わりの有無、認知症に関する情報に接する頻度、および認知症に関する
主な情報源として「新聞」、「講演会・勉強会・講座」、「医療・福祉機関」を挙げたか
どうかで有意差が見られた。表には主な情報源として、認知症受容度に有意差が見られた3つ
(新聞、講演会・勉強会・講座、医療機関)を示した。
36
多重比較を行うと、グループでは、老人クラブ会員とまつりの参加者、まつりの参加者
と講座受講者の間で有意差が見られ、年齢では、49歳以下と50歳代・60歳代、49歳以下と
70歳以上の間で有意差が見られた。さらに、認知症に関する情報に接する頻度では、「週
に数回」と「年に数回」、「週に数回」と「まったく見たり聞いたりしない」の間に有意
差が見られた。
重回帰分析では認知症受容度を従属変数とし、分析対象者の特性を独立変数とした(表
2-5)。その際、グループは「まつりの参加者」「老人クラブ・講座受講者」、年齢層は「50
歳以上」「49歳以下」、認知症に関する情報に接する頻度は、「月に数回以上」と「年に
数回」「およびまったく見たり聞いたりしない」と2区分して投入した。認知症受容度に対
して有意な関連を示した変数は、認知症の人との関わり有無、認知症に関する情報に接す
る頻度、認知症に関する主な情報源のうち「講演会・勉強会・講座」であった。
37
表2-4 分析対象者の特性別にみた認知症受容度の平均値
平均値(S.D.) 多重比較1) 有意確率
特性
カテゴリー
グループ
老人クラブ会員
29.2(±4.5)
まつりの参加者
27.8(±3.8)
性別
年齢
委嘱の有無
講座受講者
28.9(±4.4)
男性
28.2(±4.3)
女性
28.6(±4.2)
49歳以下
27.6(±4.1)
50歳代・60歳代
28.9(±3.9)
70歳以上
28.8(±4.5)
老人クラブ
29.1(±4.6)
*
**
*
n.s.
**
*
**
民生委員児童委員・福祉委員・保健 28.7(±4.0)
n.s.
推進員
委嘱なし
28.0(±4.2)
認知症の人との
なし
27.9(±3.9)
関わりの有無
あり
29.3(±4.4)
認知症の人との
現在または過去,介護している(い
関わりの内容
た)
(現在または過去
現在または過去,介護はしてないが
をまとめ4つのカテ
身近にいる(いた)
ゴリーに区分しな
現在または過去,仕事として関わっ
おした)
ている(いた)
現在または過去,ボランティアとして
***
28.9(±5.0)
29.1(±4.3)
n.s.
30.4(±4.4)
29.3(±4.5)
関わっている(いた)
認知症に関する
週に数回
30.3(±4.6)
情報に接する
月に数回
28.6(±4.2)
頻度
年に数回
28.3(±4.2)
まったく見たり聞いたりしない
27.5(±3.2)
新聞
はい
30.0(±4.3)
いいえ
27.8(±4.0)
認知症に関する
2)
主な情報源
1)
*
講演会・勉強会・ はい
29.9(±4.3)
講座
いいえ
28.2(±4.2)
医療・福祉機関
はい
29.8(±4.0)
いいえ
28.4(±4.3)
*
**
多重比較はTukey法を用いて行い、有意差が見られた項目のみ示した。
p<0.05
**
p<0.01
p<0.001 n.s.:not significant 欠損値を除いて分析を行った。
***
38
**
**
***
*
表2-5 認知症受容度に関連する要因(重回帰分析)
n=427
認知症受容度の合計得点
β
有意確率
.080
n.s.
-.024
n.s.
.063
n.s.
.095
*
認知症に関する情報に接する頻度5)
.112
*
新聞6)
.069
n.s.
講演会・勉強会・講座6)
.096
*
医療・福祉機関6)
.045
n.s.
1)
グループ
2)
性別
年齢3)
認知症の人との関わりの有無
4)
R2
0.082
F
4.136***
*
p<0.05
n.s.:not significant 欠損値のある人を除いて分析を行った。
1)
まつりの参加者=0、老人クラブ会員、講座受講者=1
2)
女性=0、 男性=1
3)
49歳以下=0、50歳以上=1
4)
なし=0、あり=1
5)
年に数回およびまったく見たり聞いたりしない=0、月に数回以上=1
6)
非該当者=0、認知症に関する主な情報源としてあげた人=1
5.追跡調査の結果
1) 講座受講前後および追跡時点の認知症受容度
調査対象者232人および分析対象者106人の特性の分布を表2-6に示した。年齢と委嘱の有
無以外の特性分布は類似しており、調査対象者と分析対象者には特性に大きな隔たりはな
いと判断した。
39
表2-6 調査対象者と分析対象者の特性の度数分布
調査対象者 232人
特性
分析対象者 106人
n
%
n
%
男性
30
12.9
14
13.2
女性
202
87.1
92
86.8
58
25.0
28
26.4
100
43.1
53
50.0
74
31.9
25
23.6
なし
124
53.4
46
43.4
あり
108
46.6
60
56.6
認知症の人との
なし
116
50.0
51
48.1
関わりの有無
あり
116
50.0
55
51.9
認知症に関する情報に
頻度が少ない
180
90.9
91
87.5
接する頻度2)
頻度が多い
18
9.1
13
12.5
主な情報源
講演会,医療・福祉機関
63
28.1
25
23.6
161
71.9
81
76.4
性別
年齢
60歳代未満
60歳代
70歳代以上
委嘱の有無1)
その他
無回答は除いて分布を示した。
1)
「民生委員児童委員」「福祉委員」「保健推進員」=委嘱あり
2)
「月に数回」「年に数回」「まったく見たり聞いたりしない」=頻度が少ない
「週に数回」=頻度が多い
表2-7に、認知症受容度のIT相関分析、講座受講前、講座受講後、追跡時点における認知
症受容度およびその構成項目の平均値を示した。講座受講前の回答に基づくと、認知症受
容度のCronbachα信頼係数は0.601であった。講座受講前の得点をもとに 認知症受容度お
よび8項目の間のIT相関分析を行うと、Pearsonの相関係数は0.663~0.323であった。なお、
認知症受容度は正規Q-Qプロットを確認したところ、打点が直線に並んでおり、ほぼ正規分
布を示した。
講座受講前後、追跡調査時点の3時点の認知症受容度の平均値(±標準偏差)をみると、
講座受講前は29.58(±4.13)、講座受講後32.78(±4.26)、追跡調査時点31.21(±4.03)
であり、講座受講前に比べて、講座受講後および追跡調査時点の認知症重要度は有意に増
加していた。項目別に平均値をみても、ほとんどの項目で、講座受講前より、講座受講後
および追跡調査時点で得点の平均値は高かった。
40
表2-7 認知症受容度のIT相関分析、講座受講前、講座受講後、追跡時点における認知症受度
および構成項目の平均値
IT相関分析1) 講座受講前 講座受講後 追跡時点
認知症受容度(8~40点)2)
認知症になっても,その人の意思をできる限り
尊重してあげたい3)
認知症の人に,どのように接したらよいか分か
らない
身近に認知症の人がいたら,お世話してあげ
たい3)
認知症の人とは,できる限り関わりたくない
家族が認知症になったら,近所の人にあまり
知られたくない
家族が認知症になったら,協力をうるために,
近所の人や知人などにも知っておいてほしい3)
認知症の人は,何をするか分からないので怖
い
自分が認知症になったら,周りの人の手を借り
ながら,自宅での生活を続けたい3)
29.58
32.78
31.21
0.323
4.68
4.87
4.65
0.510
2.49
3.28
2.77
0.505
3.79
4.19
3.98
0.663
3.47
3.82
3.84
0.640
3.66
4.03
4.01
0.526
4.45
4.65
4.53
0.610
3.13
3.75
3.42
0.362
3.91
4.20
4.00
1)
講座受講前の回答をもとに、IT相関係数を算出した。
2)
講座受講前と講座受講後、講座受講後と追跡時点の間で対応のあるサンプルのt検定をおこな
った結果、いずれも有意差が見られた(*** p<0.001)。
3)
逆転項目:回答点数を逆転させ(「1. そう思う」→5点、「2.ややそう思う」→4点、「3.どちらでもな
い」→3点、「4.あまり思わない」→2点、「5. 全く思わない」→1点)、認知症に対する受容的態
度が高いほど点数が高くなるように向きを一致させた。
2) 対象者の特性別にみた認知症受容度の変化(表2-8)
性別、年齢、委嘱の有無、認知症の人との関わりの有無、認知症に関する情報に接する
頻度、主な情報源によってグループ分けをし、3時点(講座受講前、講座受講後、追跡時点)
の認知症受容度について、2要因分散分析を行った。その結果、いずれの分析でも3時点間
における主効果は有意であるものの、グループ間の主効果は有意ではなかった。グループ
と各時点の交互作用については、「認知症に関する情報に接する頻度」と「主な情報源」
についてのみ有意であった。認知症に関する情報に接する頻度が多い人、講演会、医療・福
祉機関より情報を得ている人では、講座受講前の認知症受容度がすでに高く、その後の変
化はそれ以外の人よりも尐ないことが分かった。
41
表2-8 対象者の特性別,3時点(講座受講前、講座受講後、追跡時点)の認知症受容度の分散分
析
講座
特性
講座
追跡
分散分析
受講前 受講後 時点
性別
男性(n=14)
27.93
31.21
29.71 性別
n.s.
女性(n=92)
29.84
33.02
31.43 性別×3時点
n.s.
3時点
年齢
***
60歳代未満(n=28)
29.93
33.00
31.54 年齢
n.s.
60歳代(n=53)
29.57
33.09
30.94 年齢×3時点
n.s.
70歳代以上(n=25)
29.24
31.88
31.40 3時点
委嘱の有無1) なし(n=46)
29.47
32.47
31.02 委嘱の有無
n.s.
あり(n=60)
29.74
33.20
31.46 委嘱の有無×3時点
n.s.
3時点
***
***
認知症の人
なし(n=51)
29.27
32.49
31.08 関わりの有無
n.s.
との関わりの
あり(n=55)
29.87
33.05
31.33 関わりの有無×3時点
n.s.
有無
3時点
認知症に関
少ない(n=91)
29.26
32.62
31.29 頻度
する情報に
多い(n=13)
32.23
33.69
31.38 頻度×3時点
接する頻度2)
主な情報源
3時点
講演会,医療・福祉機関(n=25) 30.80
32.28
31.32 主な情報源
その他(n=81)
32.94
31.17 主な情報源×3時点
29.21
3時点
*
p<0.05
p<0.01
**
p<0.001
***
***
n.s.
*
***
n.s.
*
***
n.s.=not significant
無回答は除いて分布を示した。
1)
「民生委員児童委員」「福祉委員」「保健推進員」=委嘱あり
2)
「月に数回」「年に数回」「まったく見たり聞いたりしない」=頻度が少ない
「週に数回」=頻度が多い
3) 講座受講から追跡調査時点までの意識・行動の変化と認知症受容度の関係(表2-9)
認知症サポーター養成講座受講後の認知症啓発イベントへの参加状況は、1月の映画上映
会には分析対象者のうち33人(31.3%)、2月の講演会には26人(24.5%)が参加しており、
いずれかに参加した人は51人、両方に参加した人は8人であった。また、講座受講による意
識や行動の変化を尋ねたところ、「地域で認知症の方の見守りが大事だと思うようになっ
た」と回答した人が78.3%、「認知症の情報について関心を持つようになった」が76.4%
であった。「認知症である身近な方への対応が変わった」人は31.3%を占め、「認知症に
42
関連するボランティア活動に参加するようになった」と回答した人は12.3%にとどまった。
認知症サポーター養成講座受講後の認知症啓発イベントの参加の有無、追跡時点におけ
る意識や行動の変化の有無別に、3時点(講座受講前、講座受講後、追跡時点)の認知症受容
度の変化を、2要因分散分析により調べた。1月の映画上映会への参加の有無、「地域で認
知症の方の見守りが大事だと思うようになった」かどうか、「認知症に関連するボランテ
ィア活動に参加するようになった」かどうかでグループ分けすると、主効果として認知症
受容度に有意差が見られ、いずれもイベントに参加した人や積極的な意識・行動の変化があ
った人において、認知症受容度が高かった。2月の講演会の参加の有無、「地域で認知症の
方の見守りが大事だと思うようになった」かどうかと時点間の変化の交互作用が有意であ
った。2月の講演会に参加した人は3つの時点の認知症受容度がいずれも高く30を超えてい
ること、「地域で認知症の方の見守りが大事だと思うようになった」に「いいえ」と答え
た人では、追跡時点の認知症受容度が28.74と低いことが特徴的であった。
43
44
6.考察
1)本研究における認知症受容度尺度の意義
精神障害者に対する態度を測定した研究では社会的距離およびスティグマに関する尺度
を用いた研究が多く、精神障害者に対する行動の傾向や感情の程度を測定し、集団や地域
間の比較(杉原ら2005、岡上ら1986)および精神障害の種類別の比較を行った研究(Crisp
ら2005)がある。また、具体的な事例(ビニエット)を提示して意見を求める研究(大島1992、
望月ら2008、半澤ら2008)も見られる。今回開発した認知症受容度は、地域コミュニティ
での支えあいといった側面を含めた、認知症の人に対する地域住民の受容的な態度を測定
する尺度である。本研究における認知症受容度は、認知症に対する一般の人々の受容的態
度、すなわち社会受容を測定する尺度だといえる。
この認知症受容度尺度は、認知症の人に対する感情や行動の傾向とともに、地域の支え
あいといった側面が含まれ、この尺度を用いることで地域住民の認知症の人に対する態度
とその関連する要因を検討することが可能となった。
2)地域住民を対象とした認知症の人に対する態度および認知症受容度に関連する要因
認知症受容度を構成する項目の回答分布をみると、「認知症になっても、その人の意思
をできる限り尊重してあげたい」が92.7%と高いものの、一方で、認知症に対して怖いと
感じる人は4割を占め、接し方が分からないと感じる人は3分の2と尐なくなかった。本間
(2001)の地域住民を対象とした意識調査でも、老年期痴呆に対する理解不足により、地
域住民が不安を抱いていることが報告されている。小澤ら(2007)の中学生以上の地域住民
を対象とした調査で、認知症の人との関わり方に困惑していることが明らかになった。
Crispら(2005)の一般住民の調査においても、他の精神障害より認知症の人に対しては話し
にくい、あるいは認知症の人は一般の人とは違う感情を持っていると認識しているなど、
認知症に対する理解が十分ではないことが報告されている。これらの知見から、認知症の
人を受け入れその意思を尊重する意向はもっていても、認知症についての具体的な理解や
認知症の人に対する接し方の知識がないと、不安感は解消されないと考えられる。認知症
に対する理解や望ましい関わり方に関する知識を普及させ、認知症に対する不安を軽減さ
せるための取組みが必要であろう。
なお、家族が認知症になったら、近所の人の協力を求めるため、周りに知っておいてほ
しいという意向は回答者の8割以上で受け入れられ、6割強の人が自分が認知症になった場
合自宅で生活を続けたいとの意思を表明している。このことから、認知症の人を支えてい
くうえで、近隣の協力に肯定的な傾向があることが推察できる。
次に、重回帰分析の結果、認知症の人との関わり、認知症に関する情報に接する頻度、
認知症に関する主な情報源のうち「講演会・勉強会・講座」が、認知症受容度に対して有
意な関連を示した。
認知症の人との関わりの経験についてであるが、統合失調症等の精神障害の分野におい
て、障害を持つ人との接触体験と肯定的態度には密接な関連があることや(Readら1999、
45
黒田2001、北岡(東口)2001、Ayら2006)、高齢者の分野でも、児童と高齢者との交流が多
いほど肯定的な老人観を児童が抱いていること(中谷1991、中野ら1994、藤原ら2007)が
報告されている。今回、認知症受容度においても類似の結果が得られ、認知症の人との関
わりがある人において、認知症受容度が高いことが示された。今後、地域住民の認知症の
人に対する受容的な態度を促進するためには、認知症の人との交流が行われる機会を増や
していくことが求められよう。
認知症に関する情報に接する頻度については、「週に数回」「月に数回」と回答した人
は「年に数回」「まったく見たり聞いたりしない」と回答した人に比べ、認知症受容度が
有意に高かった。より多く情報に接することにより、認知症に関する理解が深まると思わ
れる。
認知症に関する主な情報源のうち「講演会・勉強会・講座」が「新聞」や「医療機関」
と比べ、認知症受容度との関連が強いことが明らかになった。情報源としてテレビを挙げ
た人が最も多かったが、テレビは比較的受動的な情報源である(本間2001)。講演会・勉強
会・講座から情報を得る方がより能動的であり、認知症受容度を高めることに結びつきや
すいといえる。今後、地域住民が参加しやすい講演会等の学びの機会を増やすことが求め
られる。
3)追跡調査
「認知症受容度」を用いて認知症サポーター養成講座の効果検証を行った。講座受講者
において、認知症受容度は、講座受講前に比べ講座受講後に有意に上昇し、講座受講3ない
し6か月後の時点では講座受講後より低下するものの、講座受講前に比べると有意に高い状
態を保っていた。精神障害分野においても、講座や教育プログラムの実施が、偏見の軽減
(Schulzeら2003、山口ら2007、Mannら2008、Spagnoloら2008)、あるいは否定的な態度
の変化に有効であったことが指摘されている(荒井2004、Esslerら2006)。また、介入直後
には偏見が軽減されても、数ヶ月以上が経過した追跡時点には介入の効果が尐なくなった
という報告がある(Schulzeら2003、山口ら2007)。認知症に関する啓発活動の効果を調べ
た本研究においても、これらの先行研究と一致した結果が得られた。
精神障害への態度研究では、好意的な態度と障害を持つ人との接触体験が関連すること
が指摘されている(Readら1999、黒田2001、Ayら2006)。追跡調査のデータからは、認知
症の人との関わりの有無別にみて認知症受容度に有意差は認められなかった。しかし、認
知症に関する情報に接する頻度、および主な情報源と認知症受容度の変化の交互作用には、
有意な効果が見出された。つまり、普段の生活の中で、認知症に関する情報に触れる機会
が多い人、講演会、医療・福祉機関から情報を得ている人では、講座受講前から認知症受
容度が高く、時間の経過に対する変化が尐ないことが明らかになった。
講座を受講した後に別の認知症に関する啓発イベントに継続的に参加した人では、参加
していない人と比べ認知症受容度が有意に高いことも明らかになった。認知症に関する啓
発イベントに参加した人は、講座受講前から認知症受容度が高く、その後も高い状態が保
46
たれていた。したがって、養成講座修了後もさまざまな形で啓発活動を継続しながら認知
症サポーターの参加を促していくことは、認知症受容度を高い状態に保つために有効な手
段のひとつでありうる。
追跡調査時点で養成講座の効果を尋ねたところ、7割以上の人が、「地域で認知症の人の
見守りが大事だと思うようになった」、「認知症の情報について関心を持つようになった」
と答えており、主観的な回答ではあるが意識変化という面で認知症サポーター養成講座の
効果が示された。また、これらの変化に否定的な答えを寄せた2割強の人では、講座受講前
に比べ追跡調査時点での認知症受容度の増加が認められず、これらの人には養成講座の効
果が持続していないことも明らかになった。行動面の変化として、身近な認知症の人への
対応の変化やボランティア活動への参加といった変化が見られた人の割合は尐なかったが、
こうした変化があったと述べた人は、講座受講前から追跡時点にかけて高い認知症受容度
を示しており、認知症の人への好意的な態度が積極的な関わりに結びつく可能性を示して
いるといえよう。
4)今後の認知症に関する啓発活動のあり方への検討
今後、地域で認知症の人に対する理解を深めるための啓発活動の重要性がますます高ま
っている中、本章で行った二つの調査から、認知症の人に対する態度を受容的なものにす
るためには、認知症の人との関わりの経験および認知症に関する情報に接することが重要
であることが示唆された。
全国の2,000人を対象に、全家連が行った精神病等に対する意識調査では、精神障害者に
対するイメージが変化した人のうち8割以上はプラスイメージに変化し、プラスに変化した
契機として接触体験が最も多くあげられており、次は情報提供であったことが示されてい
る(川村ら1999)。認知症の人との関わりの経験は、認知症に対する漠然とした不安が解消
される契機になると考えられる。認知症においても接触体験ならびに認知症に関する情報
伝達がプラスイメージへの変化の要因と考えられる。接触体験ができなくても、抽象的な
内容で情報を伝えるのではなく、具体的な情報提示が重要である。認知症の問題を自分の
問題として考えてもらう体験や正しい知識の情報伝達への工夫が求められる。
5)限界と課題
最後に、本研究の限界としていくつかの点をあげる。第1に、今回開発した認知症受容度
尺度は地域住民の横断的調査では、Cronbachα信頼性係数が0.585と高くなかったため、尺
度を構成する項目の内容をさらに検討する必要がある。第2に、認知症受容度を従属変数と
する重回帰分析のR2値は高くなかった。認知症の人に対する態度に関連する他の要因を加
えた研究を継続する必要がある。第3に、追跡調査に関しては、認知症サポーター養成講座
を受講した人々だけを対象としており、対照群を設けた比較検討は行っていない。また、
追跡調査時点は講座受講から3ないし6か月後というように追跡期間に幅があり、どれくら
いの期間で養成講座の効果が減退するのかを分析することができなかった。実践的には、
47
養成された認知症サポーターが実際に地域で何らかのサポート活動に従事しながら活躍で
きる場を作りだしていくことも、大きな課題だといえよう。第4に、特定の地域および限ら
れた調査対象者で任意抽出を用いて調査を行ったことから、得られた知見を一般化するに
は至らない点があげられる。
注
注1) 『折り梅』は、2001年松井久子氏製作・監督の映画。認知症の母を抱えた夫婦とそ
の子供2人の家族の葛 藤 と 再 生 を 描 い た 。
注2) 映画『折り梅』の原作となった『忘れても、しあわせ』、日本評論社(1998)の著者、
小菅もと子氏の講演
第2章小括
第2章では、認知症啓発活動の実施地域A市の地域住民を対象とした認知症の人に対する
態度調査を行った。「認知症受容度」尺度を用いて、これから認知症に関する啓発活動へ
の参加が可能と思われる3つの地域住民の集団(老人クラブ会員、市民祭りの参加者、講座
受講者)において、認知症受容度との関連要因を明らかにした(地域住民の調査)。その
うち、講座受講者に関しては、講座受講前、講座受講後、受講後3ないし6か月の3つの時点
において認知症受容度の変化を追跡調査し、講座の効果を検証した(追跡調査)。
3つの地域住民からの調査では、認知症の人との関わりがある人や認知症に関する情報に
継続的な形で接する人において認知症受容度が高かった。認知症に関する正しい情報に接
する機会を増やし、認知症の人との接触体験の場を作り出すことが必要であることが分か
った。追跡調査からは、講座受講者は3か月以上経過しても講座受講前より認知症受容度が
有意に高く、認知症サポーター養成講座の効果が確かめられた。特に、講座受講後に認知
症啓発イベントやボランティア活動に参加した人は、講座受講前から追跡時点にかけて高
い認知症受容度を保持している傾向が認められた。追跡調査を通じて、認知症サポーター
養成講座が有効であること、特にさまざまな形で認知症に関連する啓発活動を継続してい
る人にとってはより有効であることが明らかになった。
本調査は、今後のA市における効果的な啓発活動のための方向性を示したことに意義があ
る。本章の結果分析により「認知症受容度」尺度を信頼性係数を高めることが課題として
浮かびあがった。次章では、尺度の妥当性や信頼性の確保に配慮して、有用性の高い尺度
を改めて作成するとともに、認知症の人に対する態度の規定要因として他の変数を加えて
調査を行った。
48
第3章
認知症の人に対する態度尺度と認知症に関する知識尺度の開発
前章の地域住民の調査で用いた認知症受容度尺度のCronbachα信頼性係数が0.585であ
ったことで、尺度の改善を図るために改めて認知症の人に対する態度尺度を作成すること
にした。本章では、認知症の人に対する態度尺度とともに認知症に関する知識尺度を作成
を行い、両尺度の妥当性と信頼性について検討する。
さらに、前章の調査から、認知症の人に対する態度に関連する他の要因を加えて研究を
行う必要が認められた。そのため、本章では認知症の人に対する態度に関連する要因とし
て認知症の人との関わりに加え、「認知症に関する知識」「高齢者イメージ」を想定し、
仮説検証を行う。
1.研究目的
前章の調査から認知症の人に対する受容的な態度を高めるためには、認知症の人との関
わりや認知症に関する情報に接することが重要であることが明らかになった。しかしなが
ら、前章で使用した認知症受容尺度は、構成項目を再検討する必要性が認められた。よっ
て、本章では、認知症の人に対する受容の程度を含めた認知症の人に対する態度を測る尺
度を、改めて作成することにした。さらに、開発した尺度を用いて、認知症の人に対する
受容的な態度を高める重要な要因として、認知症に関する知識と高齢者に対するイメージ
を想定した。前章で認知症の人との関わりや認知症に関する情報に接する頻度が重要であ
ることが示されたので、そのことを踏まえた上で、以下の2つの仮説を設けて、認知症の人
に対する態度との関連要因を明らかにすることを目的とした。
Jordan(1971)は、態度に関わる要因として、態度の対象に関する事実に基づく情報量い
わゆる知識を指摘している。高齢者に対しては、加齢に関する知識が乏しいほど、エイジ
ズムすなわち差別が強いことが報告されている(原田2008)。統合失調症に対する態度に
関する調査では、統合失調症の心理社会的要因(psychosocial factor)に関する知識を持って
いる人ほど、肯定的な態度を示す傾向があると報告されている(Readら2001)。しかし、生
物学的要因を支持する人々で精神障害者に対する社会的距離が大きいことを示した研究も
ある(Matthiasら2005)。さらに、Angermeyerら(2006)の1990年から2004年の間の精神障
害者に対する3,651件の文献を検討した態度研究からは、うつ病に関する知識向上のための
介入評価に関しては一部の地域ではその効果が認められているが、ある地域では薬物治療
に対する抵抗が増しており、必ずしも知識の増大がうつ病に対する肯定的な態度に影響を
与えるとは言えないことが明らかにされている。このように知識の内容によって肯定的な
態度に正または負の関連がみられる。認知症に関する先行研究の知見からは、認知症の症
状やその対応方法に関する知識不足が認知症に対する不安を増していることが想定される。
そのため本研究では、認知症の人に対する肯定的な態度を規定する要因として、認知症の
症状に関する知識に着目する。そこで、第1の仮説は、『認知症の症状、とくに行動・心理
症状やその対応方法についての知識があるほど、認知症の人に対する肯定的な態度を示す』
49
とした。認知症の行動・心理症状(BPSD:behavioral psychological symptoms of dementia)
とは認知症の人にみられる知覚、思考内容、気分または行動の障害による症状と定義され
ている。この仮説を検証するため、分析に「知識」を加えて態度との関連を検討した。現
在まで認知症の人に関する態度尺度および認知症の行動・心理症状の理解を重視した知識
尺度が開発されていないことから、改めて認知症の人に対する態度尺度とともに、認知症
に関する知識の尺度を作成する必要があった。本研究においては、新たに開発した尺度を
用いて、認知症の人に対する態度と認知症に関する知識との関連を明らかにすることにし
た。
先行研究によると、中学生の高齢者イメージに関する調査では、高齢者になると多かれ
尐なかれ認知症になると思う生徒が半数近く存在しており(平川ら2009) 、高齢者と認知症
を同じように受け止めていることが想定できる。認知症の多くが高齢者であることから、
認知症の人への態度は、高齢者イメージとの関連があるのではないかと思われる。高齢者
に対する否定的なイメージやエイジズムは認知症の人に対する軽視の風潮や差別の主な要
因と推定される。認知症高齢者は精神障害に対する偏見とともにエイジズムに対する偏見
に曝される二重の危険(double jeopardy)をもっていると指摘されている
(WHO-WPA2002)。そのため、高齢者イメージが認知症の人に対する態度に関連してい
るかを検証する必要がある。よって、第2の仮説は、『「高齢者イメージ」が肯定的である
ほど、認知症の人に対する肯定的な態度を示す』とした。
2.調査対象者および方法
1)調査内容
(1)認知症の人に対する態度尺度の作成
本研究における認知症の人に対する態度尺度は、認知症の人に対する肯定的ないし否定
的感情とともに、受容的または拒否的な行動の傾向を測定するための尺度である。
Kada(2009a)やNorgergyら(2006)が行った認知症の人に対する態度の研究は形容詞を
用いた認知症の人に対するイメージの傾向を把握した研究である。O’Connorら(2010)が開発
した認知症の人に対する尺度(Dementia Attitude Scale)はアルツハイマー型認知症に限ら
れた尺度であり、因子分析を行った結果、「認知症の知識(10項目)」(dementia knowledge)、
「社会的満足(10項目)」(social comfort)の2つの因子が抽出されている。また、因子負荷量が
0.4以下の項目が多尐含まれおり、認知症の人に対する感情や行動傾向を表す項目はなく、
アルツハイマー型認知症に対する認識の側面に限定した尺度である。この尺度は「態度」
と「知識」が分離されておらず、本研究とは異なる視点から作成された尺度である。
このように、認知症の人に対する態度の先行研究は、形容詞を用いたイメージ研究やア
ルツハイマー型認知症に限られている。また、認知症の人に対する感情や行動傾向を含め
た態度研究には至っておらず、こうした観点から認知症の人に対する態度とその関連要因
を検討した研究はない。そのため尺度作成にあたって態度研究の多くを占める精神障害者
に対する態度調査を参考にした。
50
統合失調症などの精神障害に対する態度調査(岡上ら1986、大島1992、池田ら1999、北
岡(東口)2001、深谷2004)、精神障害者に対する社会的距離およびスティグマ(黒田2001、
Crispら2005、 Kingら2007、望月ら2008、半澤ら2008)、障害者(児)に対する態度調査(生
川1995、豊村2004、松本ら2009、豊村2009)など、参考になると思われるさまざまな文献
を収集し検討を行った。これらの研究で用いられた質問紙では、精神障害者や障害者(児)
に対する差別、同情、不安、受容、否定的な見方、地域社会での交流、社会的な評価など
の項目があげられており、その中から認知症の人に対する態度に適切であると思われる項
目を、尺度の定義に照らして抽出し、文言を検討した。
以上の手続きを経て態度尺度に関する15項目を設定した。各項目の適切さに関しては認
知症のケアに携わっている専門職とともに検討を重ね、内容的妥当性を高めた。回答選択
肢は「全く思わない」「あまり思わない」「ややそう思う」「そう思う」の4件法とした。
(2)認知症の関する知識尺度の作成
国外の研究では、認知症に関する知識を測定する尺度の開発が進められている一方で、
日本では一般市民における認知症に関する知識を測定した研究は極めて尐ない。
Gilleardら(1994)は認知症に関するクイズ形式のスケールを開発した。Araiら(2008)は一
般の人々を対象とし、認知症の症状を含む医学的知識とその関連要因を調べた。アルツハ
イマー型認知症は認知症の最も一般的な原因であるため、アルツハイマー型認知症に関す
る知識の現状を検討した研究は多く報告されている(Dieckmannら1988、Werner2001、
Ayalonら2004、杉原ら2005、Carpenterら2009)。これらの研究では、アルツハイマー型認
知症に関する一般的な知識、中核・周辺症状、治療など医学的な知識を取り上げて、認知
症に関する知識とその関連要因を検討している。
本研究における認知症に関する知識尺度は、認知症に関する一般的な知識(3項目)とと
もに、認知症の症状、とくに行動・心理症状および症状の対応方法(12項目)から成る尺
度とした。一般的な知識に関しては、認知症の症状を理解するために必要な知識と考えら
れる3項目を加えた。項目作成にあたって、認知症の症状に関する成書(日本老年精神医学
会2005、山口2009、日本認知症ケア学会2008)や論文(杉原ら2005、Ayalonら2004、Arai
ら2008)を参照し、内容的妥当性の確保に努めた。各項目の適切さに関しては、認知症の
ケアに携わっている専門職らとともに検討を重ね、内容的妥当性を高めた。回答選択肢は
「そう思う」「そう思わない」「分からない」の3件法とした。
(3)
調査項目
認知症の人に対する態度、認知症に関する知識とともに、高齢者イメージを質問した。
高齢者イメージの研究は、SD法を用いた研究が多く見られ、イメージ分析は因子分析に
おける因子負荷量を求める方法がよく用いられている。高齢者イメージの測定は、保坂ら
(1988)、中谷(1991)、中野ら(1994)、古谷野ら(1997)、藤原ら(2007)を参考にし、12の形
容詞対とした。高齢者イメージは、12個の形容詞対とした。回答選択肢は形容詞対XとYに
51
ついて「とてもX」、「ややX」、「どちらでもない」、「ややY」、「とてもY」の5件
法で求めた。
さらに、質問紙の基本属性は、回答者の性別・年齢のほか、①認知症の人との関わりの
有無、②認知症の人との関わりの内容、③認知症についての関心の有無、④認知症に関す
る主な情報源、⑤認知症に関する情報に接する頻度、⑥認知症の人との同居の有無、⑦家
族構成で構成した。
2)調査対象と倫理的配慮
本研究の対象者は、A大学の1年生49人、2年生64人、B大学の1年生125人、合計238人であ
った。調査は2010年4月に実施し、対象となった学生全員から回答を得た。また、調査開始
前に、学生全員に口頭にて調査の趣旨を説明し同意を得た学生からのみ回答をもらった。
調査票は、個人が特定されないように無記名とした。
3)分析方法
分析対象者の基本特性については、度数分布を用いて、それぞれの項目における割合(%)
を示した。
態度尺度においては、逆転項目の処理を行い、肯定的であるほど点数が高くなるよう各
項目に1点から4点を付与し、合計得点を求めた。構成概念妥当性を検討するために、まず
探索的因子分析(主因子法)を行い、次に負荷量が0.3以下の1項目を除き、14項目を用いて
確認的因子分析を行い、データに対するモデルの適合度を調べた。さらにIT相関分析を行
い、合計得点と各項目間の相関係数を確認した。因子分析およびIT相関分析の結果、1項目
は不適切だと判断し、最終的に14項目からなる尺度として分析を行った。知識尺知識尺度
は「正答」を1、「誤答」と「分からない」を0とし、15点満点とした。また、IT相関分析
を行った。信頼性については,両尺度において内的整合性を測るCronbachα信頼性係数を
求めた。
高齢者イメージは各形容詞対についての回答に、ポジティブなイメージほど点数が高く
なるよう1点から5点を付与し、合計点数を求めた。また、因子分析を行い、因子の解釈と
命名を行った。因子の抽出は主因子法、因子軸の回転はプロマックス法を用いた。
次に、認知症の人に対する態度に関連する要因を明らかにするために、認知症の人に対
する態度を従属変数とし、性別、認知症の人との関りの有無、認知症についての関心の有
無、認知症に関する情報に接する頻度、認知症に関する知識得点、高齢者イメージ得点を
独立変数とし、重回帰分析を行った。
統計学的有意水準をp値5%とし、分析にはSPSS17.0J for window、Amos17.0を用いた。
3.結果
1)分析対象者の基本特性(表3-1)
対象となった学生の内、認知症の人との関わりがある人は238人の中63人であった。具体
52
的に関わりの内容をみてみると、「身近(近隣、知人、友人)に認知症の人がいて関わり
がある(あった)」10人、「身内(同居家族、同居ではない家族、親族)に認知症の人が
おり、介護をしている(いた)」39人、「仕事として認知症の人に関わっている(いた)」
2人、「ボランティア活動で関わっていたことがある(あった)」8人、「その他」3人であ
った。
2)認知症の人に対する態度尺度の記述統計とIT相関分析(表3-2)
IT相関分析を行った結果、Pearsonの相関係数は0.680から0.114であった。相関係数が低
い項目は「認知症の人を支えるには、いろいろな人の力をかりるのがよい」であった。こ
の項目を除いた場合、残りの項目のIT相関係数はすべて0.4以上を示した。
全体的な傾向として、否定的な態度を示す項目より肯定的な態度を示す項目において、
より高い平均値が示された。項目別の平均値は、「認知症の人と喜びや楽しみを分かち合
える」3.50点、「認知症の人も周りの人と仲よくする能力がある」3.40点などが3点を上回
っていた。「認知症の人はいつ何をするか分からない」は2.16点、「認知症の人は周りの
人を困らせることが多い」2.06点であった。
表3-1
分析対象者の特性分布
n=238
n
性別
年齢
認知症の
(%)
n
男性
96 (40.3) 認知症
女性
10歳代
(%)
テレビ
220 (92.4)
142 (59.7) に関す
新聞(記事)
105 (44.1)
170 (71.4) る主な
映画、ドラマ、小説
92 (38.7)
20歳代
58 (24.4) 情報源2)
ラジオ
30歳代以上
10
講演会、勉強会、講座
30 (12.6)
過去にあり
39 (16.4)
家族、親戚
67 (28.2)
24 (10.1)
友人、知人
19
(8.0)
医療・福祉機関、役所
19
(8.0)
インターネット
37 (15.5)
人との関わ 現在あり
(4.2)
4
(1.7)
りの有無1)
なし
認知症に
ない
ついての
どちらかといえばない
関心の
どちらかといえばある 112 (47.3) 認知症
週に数回以上
ある
57 (24.1) に関す
月に数回
106 (44.7)
65 (27.4) る情報
年に数回
95 (40.1)
ほとんど見たり、聞い
23
(9.7)
3
(1.3)
13
(5.5)
1)
有無
174 (73.1)
9
家族構成1) 一人ぐらし
親と子のみ世帯
(3.8)
59 (24.9)
その他
131 (55.3) に接す
34 (14.3) る頻度1)
三・四世代
その他
7
(3.0) 認知症の
の有無
有効回答者:237
2)
複数回答
53
(1.7)
13
(5.5)
たりしない
現在同居中
人との同居 過去に同居あり
1)
4
なし
222 (93.3)
表3-2
全く
あまり
やや
思わない 思わない そう思う
認知症の人も周りの人と仲よくする能
力がある
普段の生活でもっと認知症の人と関
わる機会があってもよい1)
認知症の人が困っていたら、迷わず
手を貸せる
認知症の人も地域活動に参加した
方がよい
認知症の人は周りの人を困らせるこ
とが多い
認知症の人はわれわれと違う感情を
持っている
認知症の人と喜びや楽しみを分かち
合える1)
認知症の人とちゅうちょなく話せる1)
家族が認知症になったら、世間体や
周囲の目が気になる
家族が認知症になったら、近所づき
あいがしにくくなる
認知症の人が自分の家の隣に引っ
越してきてもかまわない
認知症の人を支えるには、いろいろ
な人の力をかりるのがよい1)
認知症の人はいつ何をするかわから
ない
認知症の人とは、できる限り関わりた
くない
そう思う
n=238
平均値2) IT相関
(1~4)
分析
5(2.1)
25(10.5) 77(32.4) 131(55.0)
3.40
0.424**
5(2.1)
61(25.7) 111(46.8) 60(25.3)
2.95
0.486**
3(1.3)
62(26.1) 123(51.7) 50(21.0)
2.92
0.419**
3(1.3)
37(15.5) 108(45.4) 90(37.8)
3.20
0.485**
6(2.5)
45(18.9) 145(60.9) 42(17.6)
2.06
0.502**
2.92
0.452**
67(28.2) 103(43.3) 50(21.0)
18(7.6)
2(0.8)
13(5.5)
86(36.3) 136(57.4)
3.50
0.564**
2(0.8)
73(30.8) 117(49.4) 45(19.0)
2.86
0.553**
52(21.8) 86(36.1) 78(32.8)
22(9.2)
2.71
0.498**
59(24.8) 113(47.5) 51(21.4)
15(6.3)
2.91
0.531**
4(1.7)
42(17.6) 99(41.6) 93(39.1)
3.18
0.579**
1(0.4)
15(6.3)
3.57
0.114
19(8.0)
2.67
0.597**
52(21.8) 139(58.4) 36(15.1)
2.16
0.544**
3.00
0.680**
69(29.1) 152(64.1)
認知症の人の行動は、理解できない 32(13.4) 114(47.9) 73(30.7)
11(4.6)
56(23.5) 135(56.7) 39(16.4)
15項目の合計得点の平均値(±S.D.)
0.781
p<0.01
1)
有効回答者:237
2)
点数が高いほど肯定的な回答になる。
8(3.4)
44.1(±5.6)
15項目のCronbach α係数
**
n(%)
認知症の人に対する態度尺度の記述統計とIT相関分析
54
3)認知症の人に対する態度の因子分析(表3-3・表3-4・表3-5)
認知症の人に対する態度尺度を構成する15項目について主因子法によって因子分析を行
った結果、「認知症の人を支えるには、いろいろな人の力をかりるのがよい」の因子負荷
量はいずれの因子に対しても0.3以下であった。そこで、この項目を削除し、改めて14項目
を用いて因子分析を行った結果、4因子が抽出された。それぞれ「寛容」(5項目)、「拒否」
(4項目)、「距離感」(3項目)、「親近感」(2項目)と命名し、認知症の人に対する態
度の下位尺度とした。累積寄与率は60.6%であった。14項目の合計得点の平均値(±S.D.)
は40.5(±5.6)であり、Cronbach α信頼係数は0.793であった。4因子それぞれの平均値(±
S.D.)は、「寛容」16.2(±2.5)、「拒否」9.9(±2.2)、「距離感」8.5(±2.1)、「親近感」
5.8(±1.2)であった。
上記解析に基づいてデータの適合度を確かめるために確認的因子分析を行った。その結果、
モデルの適合度はGFI=0.914、AGFI=0.873、RMSEA=0.075、χ2=163.504となった。
55
表3-3
認知症の人に対する態度の因子分析の結果 (15項目)
因子負荷量
拒否
寛容
距離感
親近感
認知症の人の行動は、理解できない
.707
.298
.463
.049
認知症の人は周りの人を困らせることが多い
.654
.177
.385
.132
認知症の人はいつ何をするかわからない
.627
.234
.371
.144
認知症の人とは、できる限り関わりたくない
.605
.472
.427
.304
認知症の人と喜びや楽しみを分かち合える
.248
.657
.259
.310
普段の生活でもっと認知症の人と関わる機会があってもよい
.251
.597
-.004
.400
認知症の人も地域活動に参加した方がよい
.187
.576
.087
.326
認知症の人も周りの人と仲よくする能力がある
.220
.534
-.029
.318
認知症の人が自分の家の隣に引っ越してきてもかまわない
.287
.452
.380
.420
認知症の人を支えるには、いろいろな人の力をかりるのがよい
-.126
.203
-.066
-.005
家族が認知症になったら、近所づきあいがしにくくなる
.456
.131
.789
.019
家族が認知症になったら、世間体や周囲の目が気になる
.461
.073
.768
.025
認知症の人はわれわれと違う感情を持っている
.392
.258
.484
-.224
認知症の人が困っていたら、迷わず手を貸せる
.192
.377
.035
.724
認知症の人とちゅうちょなく話せる
.243
.544
.176
.648
因子寄与率
57.8
因子抽出法: 主因子法
回転法: Kaiser の正規化を伴うプロマックス法
56
表3-4
認知症の人に対する態度の因子分析の結果 (14項目)
因子負荷量
寛容
拒否 距離感 親近感
(5項目) (4項目) (3項目) (2項目)
認知症の人と喜びや楽しみを分かち合える
.693
.221
.272
.251
普段の生活でもっと認知症の人と関わる機会があってもよい
.596
.235
.008
.377
認知症の人も周りの人と仲よくする能力がある
.562
.178
-.035
.244
認知症の人も地域活動に参加した方がよい
.556
.183
.092
.312
認知症の人が自分の家の隣に引っ越してきてもかまわない
.467
.278
.390
.391
認知症の人の行動は、理解できない
.299
.714
.447
.027
認知症の人はいつ何をするかわからない
.221
.655
.369
.150
認知症の人とは、できる限り関わりたくない
.454
.616
.434
.305
認知症の人は周りの人を困らせることが多い
.214
.607
.395
.094
家族が認知症になったら、近所づきあいがしにくくなる
.122
.476
.794
.017
家族が認知症になったら、世間体や周囲の目が気になる
.100
.456
.769
-.004
認知症の人はわれわれと違う感情を持っている
.233
.402
.452
-.236
認知症の人が困っていたら、迷わず手を貸せる
.397
.180
.065
.750
認知症の人とちゅうちょなく話せる
.560
.232
.196
.625
16.2
9.9
8.5
5.8
各因子の平均値(±S.D.)
(±2.5) (±2.2) (±2.1) (±1.2)
各因子のCronbach α係数
0.699
14項目の合計得点の平均値(±S.D.)
0.730
0.691
40.5(±5.6)
14項目のCronbach α係数
0.793
累積寄与率
60.6
因子抽出法: 主因子法
回転法: Kaiser の正規化を伴うプロマックス法
57
0.665
表3-5 認知症に対する態度項目(14項目)の確認的因子分析結果(標準化推定)n=235
寛容
認知症の人と喜びや楽しみを分かち合える
.630
普段の生活でもっと認知症の人と関わる機会があってもよい
.617
認知症の人も地域活動に参加した方がよい
.570
認知症の人も周りの人と仲よくする能力がある
.550
認知症の人が自分の家の隣に引っ越してきてもかまわない
.495
拒否
認知症の人の行動は、理解できない
.697
認知症の人とは、できる限り関わりたくない
.653
認知症の人はいつ何をするかわからない
.623
認知症の人は周りの人を困らせることが多い
.604
距離感 親近感
家族が認知症になったら、近所づきあいがしにくくなる
.800
家族が認知症になったら、世間体や周囲の目が気になる
.777
認知症の人はわれわれと違う感情を持っている
.450
認知症の人とちゅうちょなく話せる
.805
認知症の人が困っていたら、迷わず手を貸せる
.624
因子間相関
寛容
寛容
―
拒否
距離感
拒否
距離感 親近感
.444*** .144
―
.662*** .365***
―
親近感
***
.742***
.079
―
p<0.001 欠損値除き
○ χ2=163.504(自由度=71、0.1%水準で有意である)
○ GFI(適合度指標 Goodness of Fit Index:通常0から1までの値をとり、モデルの説明力の目安
となる。1に近いほど、説明力のあるモデルといえる)=0.914
○ AGFI(修正適合度指標 Adjusted Goodness of Fit Index:値が1に近いほどデータへの当ては
まりがよい。GFIに比べAGFIが著しく低下するモデルはあまり好ましくない)=0.873
○ CFI(比較適合度指標 Comparative Fit Index:値が1に近いほどモデルがデータにうまく適合
している。0.90が一応目安となる)=0.890
○ RMSEA(平均二乗誤差平方根 Root Mean Square Error of Approximation:モデルの分布と真
の分布と乖離を1自由度あたりの量として表現した指標、一般的に0.05以下であればよくあて
はまりがよく、0.08以下であればモデルがデータをよく説明していると判断し、0.1以上であれ
ばあてはまりが悪いと判断する)=0.075
(小塩真司(2009)『SPSSとAMOSによる心理・調査データ解析』東京図書より抜粋)
58
4)認知症に関する知識尺度の記述統計とIT相関分析(表3-6)
知識尺度の合計得点の平均値は9.7(±3.1)であり、15項目のCronbach α信頼性係数は
0.714であった。15項目を用いてIT相関分析を行った結果、Pearsonの相関係数は0.577から
0.317であり、すべての項目で0.3以上の数値が得られた。「日時や場所の感覚がつかなく
なる症状がでる」、「不安や混乱を取り除くには、なじみのある環境作りが有効である」、
「介護者の関わり方により、症状が悪化したり、よくなったりする」は正答率が8割弱であ
った。「認知症はさまざまな疾患が原因となる」、「認知症の症状の進行を遅らせる薬が
ある」については、正答率がそれぞれ45.4%、37.4%と半数未満であった。
59
表3-6
認知症に関する知識尺度の記述統計とIT相関分析
n=238
そう思う
そう思わない
分からない
IT相関
n(%)
n(%)
n(%)
分析
147(61.8)
45(18.9)
46(19.3)
0.394**
日時や場所の感覚がつかなくなる症状がでる
196(82.4)
17(7.1)
25(10.5)
0.317**
認知症はさまざまな疾患が原因となる
108(45.4)
56(23.5)
74(31.1)
0.390**
15(6.3)
187(78.6)
36(15.1)
0.322**
20(8.4)
165(69.3)
53(22.3)
0.437**
179(75.2)
14(5.9)
45(18.9)
0.543**
89(37.4)
55(23.1)
94(39.5)
0.392**
119(50.0)
16(6.7)
103(43.3)
0.550**
159(66.8)
15(6.3)
64(26.9)
0.554**
193(81.1)
7(2.9)
38(16.0)
0.503**
193(81.1)
11(4.6)
34(14.3)
0.422**
151(63.4)
25(10.5)
62(26.1)
0.577**
31(13.0)
116(48.7)
91(38.2)
0.446**
133(55.9)
16(6.7)
89(37.4)
0.437**
17(7.1)
163(68.5)
58(24.4)
0.420**
認知症の人は、自分の物忘れにより不安を感
じている
脳の老化によるものなので、歳をとると誰もがな
る
認知症は、昔の記憶より、最近の記憶のほうが
比較的保たれている
認知症の人は、急がせられたり、注意を受けた
りするときは混乱を感じる
認知症の症状の進行を遅らせる薬がある
認知症の人のうつ状態は、自信を失いやすい
状態であることを表している
不慣れな場所に不安を感じると徘徊を生じや
すい
不安や混乱を取り除くには、なじみのある環境
作りが有効である
介護者の関わり方により、症状が悪化したり、よ
くなったりする
認知症の人に対して説得や叱責、訂正など
は、攻撃的な言動を招きやすい
幻覚・妄想に対しては、否定して修正を図るこ
とが効果的である
認知症の物盗られ妄想の相手は、身近にいる
人が対象となることが多い
早期の段階から、身の回りのことがほとんどでき
なくなる
9.7(±3.1)
15項目の合計得点の平均値(±S.D.)
0.714
15項目のCronbach α係数
**
p<0.01
注)太字:正答
60
5)高齢者イメージの回答分布および因子分析(表3-7・表3-8)
高齢者イメージの回答分布をみてみると、全体的にポジティブな形容詞の方に回答の割
合が高くなっていた。とくに、「優しい」、「温かい」、「話しやすい」では、「やや」
と「とても」の割合を合わせると7割以上であり、相対的に高い評定が得られた。
高齢者イメージの因子分析の結果3因子が抽出され、「情緒的側面」(5項目)、「活動
的側面」(4項目)、「評価的側面」(3項目)と命名した。累積寄与率は59.9%であった。
12項目全体のCronbach α信頼係数は0.839であり、3因子それぞれのCronbach α信頼係数
は0.813、0.717、0.633であった。「活動的側面」「評価的側面」より「情緒的側面」にお
いて高齢者に対するポジティブなイメージが高かった。
表3-7
高齢者に対するイメージの回答分布
とても
やや
暗い
0.8
6.3
不幸な
0.0
劣った
(%)n=238
どちらで
やや
とても
35.3
46.6
10.9
明るい
5.9
49.2
39.9
5.0
幸福な
0.8
9.7
39.9
34.0
15.5
優れた
頑固な
2.9
16.8
29.4
34.9
16.0
柔和な
不自由な
3.8
14.7
27.7
35.7
18.1
自由な
消極的
2.1
18.5
50.0
18.9
10.5
積極的
落ち着きのない
0.0
5.9
25.6
39.1
29.4
落ち着きのある
不活発な
5.9
23.1
41.2
22.7
7.1
活発な
厳しい
0.8
3.4
20.2
44.5
31.1
優しい
冷たい
0.0
0.4
14.7
46.6
38.2
温かい
話しにくい
0.4
3.8
25.2
43.7
26.9
話しやすい
愛想のない
0.0
3.4
39.7
38.7
19.3
愛想のよい
もない
61
表3-8
高齢者イメージの因子分析の結果 (12項目)
情緒的側面
活動的側面
評価的側面
平均値1)
(5項目)
(4項目)
(3項目)
(1~5点)
冷たい―温かい
.830
.294
.446
4.2(±0.7)
厳しい―優しい
.805
.255
.473
4.0(±0.8)
話しにくい―話しやすい
.744
.451
.322
3.9(±0.8)
愛想のない―愛想のよい
.599
.325
.328
3.7(±0.8)
落ち着きのない―落ち着きのある
.501
.045
.451
3.9(±0.8)
消極的―積極的
.318
.746
.375
3.2(±0.9)
不活発な―活発な
.227
.690
.332
3.0(±0.9)
暗い―明るい
.475
.533
.334
3.6(±0.8)
不幸な―幸福な
.448
.491
.453
3.4(±0.6)
頑固な―柔和な
.481
.297
.631
3.4(±1.0)
不自由な―自由な
.259
.417
.622
3.5(±1.0)
劣った―優れた
.346
.378
.567
3.5(±0.8)
19.8(±3.1)
13.2(±2.5)
10.5(±2.3)
0.813
0.717
0.633
各因子の平均値(±S.D.)
各因子のCronbach α係数
12項目の合計得点の平均値(±S.D.)
43.6(±6.4)
12項目のCronbach α係数
0.839
累積寄与率
59.9
因子抽出法: 主因子法
1)
回転法: Kaiser の正規化を伴うプロマックス法
最もポジティブな選択肢が5点、最も否定的な選択肢が1点となるようにスコア化した。
6)認知症の人に対する態度とその関連要因(表3-9)
認知症の人に対する態度の合計得点およびその下位尺度をそれぞれ従属変数とし、分析
対象者の特性、認知症に関する知識、高齢者イメージを独立変数とする重回帰分析を行っ
た。また、高齢者イメージの因子分析の結果得られた3因子である「情緒的側面」、「活動
的側面」、「評価的側面」のうちどのような因子が認知症の人に対する態度に関連してい
るかを明らかにするため、高齢者イメージ合計得点のほか3因子をそれぞれ順番に独立変数
に投入して分析した。表3-9ではR2が有意な分析に注目し、有意なβ値を示した箇所を太文
字で示した。
態度合計得点を従属変数とした重回帰分析では、性別、認知症の人との関りの有無、高
齢者イメージ合計得点が有意な関連を示した。高齢者イメージの因子分析の結果に基づい
62
て3因子それぞれを独立変数として順番に投入した分析の結果では、「評価的側面」のみが
有意な関連を示した。
認知症の人に対する態度の4因子(下位尺度)のうち「寛容」に対しては、性別、認知症
についての関心の有無、知識合計得点、高齢者イメージ合計得点が有意な関連を示した。
高齢者イメージの3因子を独立変数として順番に投入した分析の結果では、「寛容」に対し
て「評価的側面」が有意な関連を示した。「拒否」に対しては、認知症の人との関わりの
有無が有意な関連を示した。「親近感」に有意な関連を示した変数は、高齢者イメージ合
計得点であり、高齢者イメージを構成する3因子のうちでは「評価的側面」のみが有意な関
連を示した。
63
表3-9
認知症の人に対する態度に関連する要因
n=233
合計得点
寛容
拒否
距離感
親近感
(14項目)
(5項目)
(4項目)
(3項目)
(2項目)
β
p値
β
p値
-.172
.011
-.153
.018
-.127 .067
-.146 .037 -.009 .901
.136
.038
.078
.214
.135
.044
.080
.232
.092
.166
関心の有無
.092
.196
.138
.043
.015
.835
.044
.548
.056
.442
頻度2区分4)
.009
.891
.088
.170 -.057 .407
-.017 .810 -.004 .955
知識合計得点
.057
.389
.189
.003
.042
.535
-.142 .040
.035
.603
高齢者イメージ合計得点 .149
.019
.151
.013
.085
.188
-.004 .953
.233
.000
1)
性別
関わりの有無2)
3)
R
2
***
0.116
性別1)
0.187
***
β
p値
0.054
β
*
p値
β
p値
0.072 **
0.045
-.174
.011
-.155
.018
-.129 .065
-.146 .037 -.012 .860
.142
.031
.084
.183
.138
.041
.079
.239
.104
.122
.091
.207
.137
.047
.014
.846
.043
.558
.057
.439
頻度2区分4)
.004
.955
.083
.201 -.059 .389
-.016 .816 -.013 .855
知識合計得点
.066
.327
.197
.002
.047
.496
-.141 .040
.046
.500
情緒的側面
.085
.182
.090
.141
.039
.552
-.023 .722
.182
.005
関わりの有無2)
関心の有無
R
3)
2
***
0.101
性別1)
0.173
***
0.048
0.046
0.051
-.171
.012
-.152
.020
-.125 .071
-.147 .035 -.007 .924
関わりの有無
.133
.044
.075
.235
.131
.051
.083
.218
.087
.198
関心の有無3)
.090
.211
.136
.050
.016
.829
.043
.562
.053
.473
頻度2区分
.010
.883
.089
.172 -.054 .428
-.019 .787 -.002 .977
知識合計得点
.057
.393
.190
.004
.037
.586
-.137 .047
.034
.620
活動的側面
.096
.134
.089
.146
.105
.105
-.052 .428
.157
.017
2)
4)
R2
0.103***
性別1)
0.172***
0.057*
0.048
0.043
-.170
.011
-.152
.018
-.127 .068
-.145 .038 -.007 .919
関わりの有無
.130
.046
.071
.250
.133
.048
.077
.250
.086
.199
関心の有無3)
.084
.233
.130
.054
.011
.877
.043
.554
.044
.542
頻度2区分
.012
.857
.091
.152 -.057 .412
-.014 .839 -.002 .977
知識合計得点
.062
.346
.194
.002
.046
.502
-.144 .036
.045
.509
評価的側面
.191
.002
.197
.001
.068
.293
.077
.226
.001
2)
4)
R2
*
0.130***
0.203***
0.051
.234
0.051
p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
1)
性別:女性=0、男性=1
2)
認知症の人との関わりの有無:なし=0、あり=1
3)
認知症についての関心の有無:なし=0、あり=1
4)
認知症に関する情報に接する頻度:年に数回およびまったくなし=0、月に数回以上=1
64
0.069*
4.考察
1) 認知症の人に対する態度尺度・認知症に関する知識尺度の作成
本研究は、認知症の人に対する肯定的ないし否定的感情の強さおよび受容的または拒否
的な行動の向きの程度を測定することが可能な尺度の作成を試みた。IT相関分析や因子分
析の結果を基に、1項目を除いて改めて因子分析(主因子法)を行った結果、4因子(「寛
容」「拒否」「距離感」「親近感」)が抽出され、それぞれの因子負荷量はいずれも0.4以
上であった。14項目を基に確認的因子分析を行うと、モデルの適合度は、GFI=0.914、
AGFI=0.873、RMSEA=0.075と良好な数値が得られ、モデルの当てはまりの良好性(構成
概念妥当性)が示された。14項目のCronbach α信頼係数は0.793であり、十分な内的整合
性が得られた。
次に、知識尺度の作成については、先行研究において一般市民の多くが認知症について
の不安を抱いていることが報告されており(本間2001、Crispら2005)、認知症の行動・心
理症状やその対応方法についての具体的な知識が十分普及していないと考えられる。本研
究では、認知症の症状に関する知識の増加は、認知症に対する不安が軽減し、認知症の人
に対する肯定的な態度につながると想定した。そのため、本研究における認知症に関する
知識尺度は、認知症の行動・心理症状および症状に対する対応方法に焦点を当てて作成し
た。 IT相関分析の結果、いずれの項目も相関係数が0.3を上回っており、尺度の一次元性
が確かめられた。さらに、15項目のCronbach α信頼係数は0.714となり、信頼性を示す数
値として問題がないと考えた。また、態度尺度、知識尺度のいずれも、関連文献を参照す
るとともに、認知症のケアに携わっている人らとともにグループ検討を重ねたことにより、
複数の専門家による評価に基づく内容的妥当性も確保されたと考える。
以上より、本研究で作成した認知症の人に対する態度尺度、認知症に関する知識尺度は、
いずれも妥当性と信頼性が支持されたといえる。
2) 認知症の人に態度に関連する要因
本研究では、認知症の人に対する態度と関連する要因として、認知症に関する知識と高
齢者イメージを想定し、検討を行った。
第1の仮説である「態度」に対する「知識」の関連については、態度の合計得点に対して
は、有意な関連は認められず、下位尺度である「寛容」に対してのみ有意であった。本研
究では、認知症の症状、とくに行動・心理症状および症状の対応方法を中心とした知識尺
度を作成した。統合失調症の原因として心理社会的要因を重視する人々は、この疾患を持
つ人に対して肯定的な態度を示す傾向があることが報告されている(Readら 2001)。しかし、
生物学的要因を支持する人々で精神障害者に対する社会的距離が大きいことを示した研究
もある(Matthiasら2005)。このように知識の内容によって肯定的態度に対し正または負
の関連がみられる。「寛容」の5項目は、「認知症の人と喜びや楽しみを分かち合える」、
「普段の生活でもっと認知症の人と関わる機会があってもよい」、「認知症の人も周りの
人と仲よくする能力がある」などで構成されており、認知症の人と感情や行動を共有し、
65
認知症の人を受け入れようとする概念を表している。認知症に伴う行動・心理症状やその
対応方法に関する知識を持つことによって、認知症に対する漠然とした不安が軽減され、
認知症の人に対してより寛容になれると思われる。認知症の人に対して寛容な態度をとる
ためには、認知症に関する情報の習得、特に認知症の行動・心理症状やその対応方法に関
する知識が重要であることが示唆された。
第2の仮説である「態度」に対する「高齢者イメージ」の関連については、態度合計得点
および下位尺度である「寛容」、「親近感」に対して高齢者イメージ合計得点が関連を示
した。高齢者イメージの3因子をそれぞれ独立変数に投入した分析では、3因子のうち「評
価的側面」だけが態度合計得点および「寛容」、「親近感」に対して有意な関連を示した。
「評価的側面」のネガティブなイメージに結びつく形容詞である「頑固な」、「不自由な」、
「劣った」は、高齢者に対するステレオタイプやエイジズムを連想させる言葉であり、「柔
和な」、「自由な」、「優れた」は高齢者に対するポジティブなイメージを表す言葉とい
える。「評価的側面」のイメージがポジティブな場合に、認知症の人に対しても、寛容に
なり、親近感を持ちやすいのではないかと考えられる。認知症のほとんどが高齢者である
ことを考えると、高齢者に対する肯定的な評価が認知症の人に対する肯定的な態度に結び
つきやすいと思われる。
態度の合計得点と「寛容」に対しては性別が関連しており、女性の方が肯定的な態度を
示した。一般市民の精神障害者に対する態度には性別の差は認められず(岡上ら1986、池
田ら1999)、学生を対象としたこころの病に対する態度調査においても性別の差はみられ
なかった(山口ら2010)。学生を対象とした障害児者に対する態度調査では、男性より女
性の方が受容的な態度を示した(北星2004)。大学生を対象とした高齢者に関する意識調
査では、男性が女性より老人への差別感が強かった(辻2001)。つまり、先行研究におけ
る障害者や高齢者に対する態度と性別の関係についての知見は、必ずしも一致した見解が
得られていない。本調査は、男性より女性で認知症の人に対する肯定的な態度の得点が高
かった。しかしながら、今回の調査対象者であるA大学は女性が8割弱であり、社会福祉専
攻の学生が大部分であった。またA大学の学生には2年生が含まれており、2年生の場合には
1年間の教育を受けたことが影響している可能性がある。さらに、B大学は社会福祉専攻と
スポーツ科学専攻の学生が並存しており、男女の割合は半々であった。今回、男性より女
性で肯定的な態度が強かったのは、大学および専攻の差異に基づく学生の意識や勉学動機
の違いが影響した可能性がある。
高齢者や障害者との接触体験と肯定的態度との関連はさまざまな領域の研究から報告さ
れている。高齢者と交流が多いほど肯定的な老人観を示し(中谷1991、中野ら1994、藤原
ら2007)、障害を持つ人との接触体験と肯定的態度には密接な関連がある(Readら1999、
黒田2001、北岡2001、Ayら2006)。今回の調査もこれらの研究と一致した結果が得られた。
認知症の人との関わりの経験がある人では、認知症の人に対してより肯定的な態度がみら
れた。態度のなかで、関わりは「拒否」と関連を示し、認知症の人との関わりを持つこと
により、認知症の人に対する拒否の感情が緩和される可能性が考えられる。
66
今後の課題としては、調査対象者が学生に限られているため、他の集団や地域において、
今回開発した尺度を用いて研究を拡大する必要がある。
第3章小括
第3章では、認知症の人に対する態度尺度と認知症に関する知識尺度を作成するとともに、
認知症の人に対する態度に関連する要因を明らかにした。態度尺度は認知症の人に対する
感情と行動の傾向を測定するための尺度であり、知識尺度は認知症の症状、とくに行動・
心理症状やその対応方法を測定することに焦点を当てた尺度であった。大学生238人を対象
に自記式質問紙を用いて調査を行い、尺度の妥当性と信頼性について検討した。
態度尺度の内容的妥当性を高めるために、認知症ケアの仕事に関わっている複数の専門
職の意見を求めた。構成概念妥当性の検証は、確認的因子分析の手法を実行し、モデルの
当てはまり具合を確認した。認知症の人に対する態度尺度は、「寛容」、「拒否」、「距
離感」、「親近感」の4因子から構成された。その結果、GFI=0.914、AGFI=0.873、
RMSEA=0.075と良好な数値が得られ、尺度のあてはまりが良いことが確認された。信頼性
については、Cronbachα信頼性係数により内的整合性を確認した。α係数は0.793であり、
十分な信頼性を有していることが確認された。知識尺度の内容的妥当性の検証は、認知症
の症状に関する論文などを参照にするとともに、認知症ケアの仕事に関わっている複数の
専門職の意見を求めた。Cronbachα係数は0.714であり、内的整合性が確認された。
認知症の人に対する態度に関連する要因の分析では、「知識」と「高齢者イメージ」に
着目して検討を行った。認知症に伴う行動・心理症状やその対応方法に関する知識は、認
知症の人に対する肯定的な態度を形成する一助になることが見出された。また、高齢者に
対するポジティブなイメージが認知症の人に対する肯定的な態度に関連していることが明
らかになった。
本研究の結果から、認知症の人に対して肯定的な態度をとるためには、認知症に関する
知識や高齢者に対するポジティブなイメージが重要であることが分かった。また、「認知
症の人に対する態度尺度」と「認知症に関する知識尺度」の妥当性と信頼性の検討を行い、
有用であることが確かめられた。次章では、この尺度を用いて、地域住民と介護職員を対
象とした調査を行い、それぞれの特徴を浮き彫りにするとともに、両群の共通点および相
違点の検討について考察する。
67
第4章
認知症の人に対する地域住民と介護職員の態度調査
本章では、前章で開発した態度尺度と知識尺度を用いて地域住民と介護職員を対象に、
認知症の人に対する態度の実態を把握し、その関連要因を明らかにする。第1節では、地域
住民における認知症の人に対する態度を把握し、その関連要因を検討するとともに、今後、
認知症に関する啓発活動のあり方を提示する。第2節は、質の高いケアを行うための条件を
検討するため、介護職員を対象に、認知症の人に対する態度および介護の仕事に対する心
境に関連する要因を分析する。第3節は、認知症の人に対する態度において、地域住民と介
護職員の両群の相違点および共通点を明らかにする。
第1節
認知症の人に対する地域住民の態度調査
1. 調査対象者および方法
調査はS市M区の地域住民を対象とした。調査地域の大阪府内のS市M区は、2010年6月現
在、人口158,275人、65歳以上の高齢者数は36,060人、高齢化率は22.8%であった。
2010年4月住民基本台帳の一部の写しの閲覧の許可を得て、乱数表を用いて階層別無作為
抽出法で住民基本台帳から1,016人を抽出した。自記式調査票を用いた郵送調査を行った。
調査は2010年5月末に始まり、6月8日の時点に督促状を発送し、6月末までに実施した。1,016
人のうち339人から回答が得られた(回収率33.4%)。
調査の目的と方法、個人情報への配慮、調査票の管理と処理などについては、大阪府立
大学人間社会学部・大学院人間社会学研究科研究倫理委員会の承諾を得た。調査の際に、
調査は無記名式で行い、個人の特定を行わないこと、研究目的以外には使用しないことを
明記し、協力が得られる場合には調査票を無記名で返送するよう依頼した。
2. 調査内容
前章で開発した認知症の人に対する態度尺度と認知症に関する知識尺度を用いた。その
際、態度尺度の因子分析およびIT相関分析の結果から、「認知症の人を支えるには、いろ
いろな人の力をかりるのがよい」の1項目は不適切だと判断し、新たに1項目「認知症の人
に、どのように接したらよいか分からない」を追加した。認知症の人との関わり困難を感
じる人が尐なくないことが報告されており(小澤ら2007)、認知症の人との接し方に関する
項目を組み入れた。
そのほか、前章で用いた項目である高齢者イメージ(12項目)、性別、年齢、家族構成、
認知症の人との同居の有無、認知症の人との関わりの有無とその内容、認知症についての
関心の有無、認知症に関する主な情報源、認知症に関する情報に接する頻度をたずねた。
地域で認知症の人を支えていくことの重要性および認知症に関する講演会への参加意向
に関する項目(3項目)とともに、地域住民のさまざまな思いを把握するために、自由記述欄
を設けて回答してもらった。
68
3. 分析方法
分析対象は339人のうち、全項目の2割以上に記入漏れがあり、認知症の人に対する態度、
認知症に関する知識、高齢者イメージの項目についてほとんど回答していない7人を除く
332人とした。
分析対象者の基本属性、認知症に関連する項目、地域で認知症の人を支えていくことの
重要性および認知症に関する講演会への参加意向に関する項目については度数分布を調べ
た。
認知症の人に対する態度は逆転項目の処理を行い、態度が肯定的であるほど点数が高く
なるよう各項目に1点から4点を付与し、合計得点(15点から60点)を求めた。認知症に関す
る知識は「正答」を1点、「誤答」と「分からない」を0点とし、15点満点とした。両尺度
ともIT相関分析を行うとともにCronbach α信頼性係数を求めた。高齢者イメージは最も
ポジティブな選択肢が5点、最もネガティブな選択肢が1点となるようにスコア化し、各項
目は1点から5点までの回答分布とし、合計得点(12点から60点)を求めた。
分析対象者の基本属性および認知症に関連する項目別に認知症の人に対する態度、認知
症に関する知識、高齢者イメージの得点平均値に差があるかどうかを調べるため、t検定
または一元配置分散分析を用いて検定を行った。さらに、認知症の人に対する態度に関連
する要因を検討するため、認知症の人に対する態度の合計得点を従属変数として重回帰分
析を行った。その際、態度を構成する15項目を肯定的な態度(7項目)と否定的な態度(8項目)
に分けて下位尺度とし、肯定的な態度と否定的な態度の合計得点を従属変数とした重回帰
分析を行った。本研究における態度の操作的定義に照らし合わせてみると「肯定的な態度」
と「否定的な項目」に2区分できる(図4-1-1)。
統計学的有意水準を5%未満とし、分析にはSPSS17.0J for windowsを用いた。
感情
肯定的な感情
否定的な感情
受容的な行動傾向 肯定的な態度
行動傾向
否定的な態度
拒否的な行動傾向
図4-1-1 分析における認知症の人に対する態度の2区分
69
4. 結果
1) 分析対象者の基本属性および認知症に関連する項目(表4-1-1・表4-1-2)
性別は女性が68.1%を占めた。年齢別にみると、60歳代が30.4%と最も多く、70歳代
17.5%、50歳代が17.2%と50歳代以上が全体の71.4%であった。家族構成は親と子のみ世
帯が45.8%と最も多かった。
認知症の人との同居の有無については、過去と現在を含めて同居「あり」が14.7%を占
めた。認知症の人との関わりの有無では、過去と現在を含めて「あり」が42.8%を占め、
そのうち「身内(同居家族、同居ではない家族、親族)に認知症の人がおり、介護をしてい
る(いた)」が最も多く56.9%であった。認知症のついての関心の有無については「ある」
と「どちらかといえばある」を合わせると84.1%であった。認知症に関する主な情報源は
テレビが最も多く85.7%であり、新聞(記事)64.1%、映画・ドラマ・小説46.2%の順で
あった。認知症に関する情報に接する頻度は「年に数回」が最も多く45.8%であった 。
表4-1-1
性別
年齢
性別、年齢、家族構成の回答分布
n=332
n
%
男性
102
30.7
女性
226
68.1
無回答
4
1.2
20歳代
23
6.9
30歳代
30
9.0
40歳代
40
12.0
50歳代
57
17.2
60歳代
101
30.4
70歳代
58
17.5
80歳代以上
21
6.3
2
0.6
一人暮らし
20
6.0
夫婦のみ
112
33.7
親と子のみ世帯
152
45.8
三世代
33
9.9
四世代
2
0.6
その他
8
2.4
無回答
5
1.5
無回答
家族構成
70
表4-1-2
認知症に関連する項目の回答分布
n=332
n
%
9
2.7
40
12.0
275
8
82.8
2.4
64
19.3
78
23.5
183
55.1
7
2.1
29
20.1
82
56.9
28
19.4
ボランティア活動で関わっている(いた)
4
2.8
その他
1
0.7
認知症の人との同居の
現在同居中
有無
過去に同居あり
なし
認知症の人との関わりの
無回答
現在あり
有無
過去にあり
なし
無回答
認知症の人との関わり
の内容
身近(近隣、知人、友人)に認知症の人がいて、関りがある
(あった)
身内(同居家族、同居ではない家族、親族)に認知症の人
がおり、介護をしている(いた)
仕事として認知症の人に関わっている(いた)
認知症についての
ある
132
39.8
関心の有無
どちらかといえばある
147
44.3
どちらかといえばない
40
12.0
8
2.4
5
1.5
ない
無回答
認知症に関する
テレビ(ニュース、情報番組等)
282
85.7
主な情報源
新聞(記事)
211
64.1
(複数回答)
映画・ドラマ・小説
152
46.2
(有効回答者数=329)
ラジオ
31
9.4
講演会・勉強会・講座
36
10.9
家族・親戚
79
24.0
友人・知人
109
33.1
医療機関・福祉機関・役所関係
78
23.7
インターネット
17
5.2
4
1.2
29
8.7
その他
認知症に関する情報に
週に数回以上
接する頻度
月に数回
123
37.0
年に数回
152
45.8
19
5.7
9
2.7
ほとんど見たり、聞いたりしない
無回答
71
2)
地域で認知症の人を支えていくことの重要性および講演会等への参加意向
(表4-1-3)
回答者の88.0%の人が認知症の人を地域で支えていくことが大切であると回答した。認
知症についての勉強会や家族会などに参加したいと思う人は43.1%であった。また、認知症
の介護やケア、ボランティアなどの講習会への参加意向がある人は41.9%にとどまっており、
半数近くが参加する意向がないと回答した。
表4-1-3
地域で認知症の人を支えていくことの重要性および講演会等への参加意向の回答
分布
n=332
n
%
292
88.0
認知症の人を地域で支えていくことが大切であると思い
大切であると思う
ますか
思わない
29
8.7
無回答
11
3.3
認知症についての勉強会や家族会、意見交換会、講演
参加したいと思う
143
43.1
会などを開催したら、参加してみたいと思いますか
思わない
177
53.3
12
3.6
無回答
認知症の介護やケア、ボランティアなどの講習会を開催
参加したいと思う
139
41.9
したら参加されますか
思わない
179
53.9
14
4.2
無回答
3)認知症の人に対する態度(表4-1-4)
認知症の人に対する態度尺度を構成する15項目の合計得点の平均値(±S.D.)は39.8点(±
6.5)、Cronbach α係数は0.834であった。肯定的な態度を構成する7項目の合計得点の平均
値 (±S.D.)は、20.7点(±3.5)であり、否定的な態度を構成する8項目の合計得点の平均値
(±S.D.)は、19.0点(±4.0)であった。IT相関分析では、すべての項目において0.4以上の
数値が得られた。
項目別の平均値は「認知症の人も周りの人と仲よくする能力がある」が最も高く3.19点
であり、「認知症の人が困っていたら、迷わず手を貸せる」3.16点、「認知症の人と喜び
や楽しみを分かち合える」3.04点、「認知症の人も地域活動に参加した方がよい」3.02点
で、3点を上回った項目は4項目であった。「認知症の人は周りの人を困らせることが多い」
は最も低く1.95点であった。
72
表4-1-4
認知症の人に対する態度の回答分布
全く
n(%)
あまり
やや
思わない 思わない そう思う
認知症の人も周りの人と仲よく
する能力がある
普段の生活でもっと認知症の
肯
定
的
な
態
度
人と関わる機会があってもよい
認知症の人が困っていたら、迷
わず手を貸せる
認知症の人も地域活動に参加
した方がよい
認知症の人と喜びや楽しみを
分かち合える
認知症の人とちゅうちょなく話
せる
認知症の人が自分の家の隣に
引っ越してきてもかまわない
認知症の人は周りの人を困ら
せることが多い
認知症の人はわれわれと違う感
情を持っている
家族が認知症になったら、世間
否 体や周囲の目が気になる
定 家族が認知症になったら、近所
的 づきあいがしにくくなる
な 認知症の人にどのように接した
態 らよいか分からない
度 認知症の人の行動は、理解で
きない
認知症の人はいつ何をするか
わからない
認知症の人とは、できる限り関
わりたくない
p<0.01
IT相関
(1~4)
分析
53(16.0) 146(44.1) 127(38.4)
3.19
0.435**
18(5.5)
136(41.2) 131(39.7) 45(13.6)
2.62
0.532**
2(0.6)
48(14.5) 176(53.2) 105(31.7)
3.16
0.533**
5(1.5)
64(19.5) 179(54.6) 80(24.4)
3.02
0.516**
9(2.7)
68(20.7) 154(46.8) 98(29.8)
3.04
0.620**
6(1.8)
93(28.2) 146(44.2) 85(25.8)
2.94
0.721**
24(7.3)
116(35.5) 103(31.5) 84(25.7)
2.76
0.462**
4(1.2)
51(15.4) 200(60.4) 76(23.0)
1.95
0.457**
34(10.4)
2.61
0.438**
38(11.5) 129(39.1) 128(38.8) 35(10.6)
2.52
0.516**
42(12.7) 162(48.9) 103(31.1)
24(7.3)
2.67
0.466**
27(8.1)
84(25.3) 131(39.5) 90(27.1)
2.14
0.611**
19(5.8)
114(34.7) 143(43.5) 53(16.1)
2.30
0.659**
9(2.7)
84(25.6) 169(51.5) 66(20.1)
2.11
0.592**
2.75
0.713**
39(11.9) 157(47.9) 98(29.9)
41(12.4) 182(55.2) 91(27.6)
39.8 (±6.5)
0.834
15項目のCronbach α係数
1)
平均値1)
5(1.5)
15項目の合計得点の平均値(15点から60点)
**
そう思う
n=317
点数が高いほど肯定的な回答になる。
73
16(4.8)
4) 認知症に関する知識(表4-1-5)
認知症に関する知識尺度を構成する15項目の合計得点の平均値(±S.D.)は9.7点(±3.7)、
Cronbach α係数は0.818であった。IT相関分析では、すべての項目において0.3以上の数
値が得られた。
項目別の平均値は「日時や場所の感覚がつかなくなる症状がでる」、「認知症は、昔の
記憶より、最近の記憶のほうが比較的保たれている」、「不安や混乱を取り除くには、な
じみのある環境作りが有効である」、「介護者の関わり方により、症状が悪化したり、よ
くなったりする」の項目では4分の3以上の正答率を示した。「認知症はさまざまな疾患が
原因となる」、「認知症の人のうつ状態は、自信を失いやすい状態であることを表してい
る」、「不慣れな場所に不安を感じると徘徊を生じやすい」、「幻覚・妄想に対しては、
否定して修正を図ることが効果的である」の項目の正答率は約5割であった。
74
表4-1-5
認知症に関する知識の回答分布
認知症の人は、自分の物忘れにより不安を
感じている
日時や場所の感覚がつかなくなる症状がで
る
認知症はさまざまな疾患が原因となる
脳の老化によるものなので、歳をとると誰もが
なる
認知症は、昔の記憶より、最近の記憶のほう
が比較的保たれている
認知症の人は、急がせられたり、注意を受け
たりするときは混乱を感じる
認知症の症状の進行を遅らせる薬がある
認知症の人のうつ状態は、自信を失いやす
い状態であることを表している
不慣れな場所に不安を感じると徘徊を生じ
やすい
不安や混乱を取り除くには、なじみのある環
境作りが有効である
介護者の関わり方により、症状が悪化したり、
よくなったりする
認知症の人に対して説得や叱責、訂正など
は、攻撃的な言動を招きやすい
幻覚・妄想に対しては、否定して修正を図る
ことが効果的である
認知症の物盗られ妄想の相手は、身近にい
る人が対象となることが多い
早期の段階から、身の回りのことがほとんど
できなくなる
n=331
そう思う
そう思わない
分からない
IT相関
n(%)
n(%)
n(%)
分析
177(53.3)
52(15.7)
103(31.0)
0.493**
275(82.8)
18(5.4)
39(11.7)
0.497**
168(50.6)
61(18.4)
103(31.0)
0.422**
41(12.3)
233(70.2)
58(17.5)
0.301**
14(4.2)
251(75.6)
67(20.2)
0.470**
233(70.2)
27(8.1)
72(21.7)
0.612**
193(58.1)
21(6.3)
118(35.5)
0.502**
171(51.5)
29(8.7)
132(39.8)
0.549**
170(51.2)
39(11.7)
123(37.0)
0.561**
259(78.0)
10(3.0)
63(19.0)
0.571**
259(78.0)
12(3.6)
61(18.4)
0.636**
223(67.2)
21(6.3)
88(26.5)
0.606**
30(9.1)
170(51.4)
131(39.6)
0.590**
212(63.9)
17(5.1)
103(31.0)
0.570**
29(8.7)
214(64.5)
89(26.8)
0.608**
9.7(±3.7)
15項目の合計得点の平均値(0点から15点)
0.818
15項目のCronbach α係数
**
p<0.01
注)太字:正答
75
5) 高齢者イメージ(表4-1-6)
高齢者イメージを構成する12項目の合計得点の平均値(±S.D.)は39.3点(±6.9)であり、
Cronbach α係数は0.896であった。項目別の平均値は「厳しい―優しい」、「冷たい―温
かい」、「話しにくい―話しやすい」において3.5点以上を示した。一方、「消極的―積極
的」2.86点、「不活発な―活発な」2.89点では3点を下回った。
表4-1-6
高齢者イメージの回答分布
とても
やや
暗い
1.8
18.2
不幸な
0.9
劣った
(%)
どちらでも
平均値1)
やや
とても
51.2
23.3
5.5
明るい
3.12
9.1
60.0
25.8
4.2
幸福な
3.23
2.1
14.6
53.2
26.4
3.6
優れた
3.15
頑固な
4.6
23.7
35.0
31.0
5.8
柔和な
3.10
不自由な
2.7
18.2
34.3
33.4
11.2
自由な
3.32
消極的
4.6
24.1
55.5
12.5
3.4
積極的
2.86
落ち着きのない
1.8
7.0
41.5
39.9
9.8
落ち着きのある
3.49
不活発な
3.7
27.7
47.9
17.4
3.4
活発な
2.89
厳しい
1.5
5.8
40.5
42.4
9.8
優しい
3.53
冷たい
0.3
4.0
35.7
46.3
13.7
温かい
3.69
話しにくい
0.9
8.5
39.3
37.8
13.4
話しやすい
3.54
愛想のない
0.9
10.1
47.3
32.6
9.1
愛想のよい
3.39
ない
12項目の合計得点の平均値(12点から60点)
(1~5点)
39.3(±6.9)
12項目のCronbach α係数
0.896
1)
最もポジティブな選択肢が5点、最も否定的な選択肢が1点となるようにスコア化した。
76
6)認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージ(表4-1-7)
分析対象者の基本属性および認知症に関連する項目別に、認知症の人に対する態度、認
知症に関する知識、高齢者イメージの合計得点の平均値を比較した。認知症の人に対する
態度では、年齢、認知症の人との同居の有無、認知症の人との関わりの有無、認知症につ
いての関心の有無、認知症に関する情報に接する頻度で有意差が見られた。認知症に関す
る知識では、性別、年齢、認知症の人との関わりの有無、認知症についての関心の有無、
認知症に関する情報に接する頻度で有意差が見られた。高齢者イメージでは、性別、年齢
で有意差が見られた。
表4-1-7
認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージ(t検定および
一元配置分散分析)
態度の
知識の
合計得点 検定
(15~60)
性別
男性
39.2
女性
40.1
20歳代
合計得点
高齢者イメージ
検定
合計得点
(0~15)
n.s.
8.9
(12~60)
**
37.6
10.1
40.0
42.7
9.9
42.8
30歳代
41.1
9.6
41.3
40歳代
38.7
10.3
38.4
50歳代
40.4
60歳代
40.1
9.7
38.8
70歳代
38.8
9.2
37.7
80歳代以上
36.2
6.7
37.2
認知症の人との
なし
39.5
同居の有無1)
あり
41.8
認知症の人との
なし
37.6
関わりの有無1)
あり
42.5
認知症についての なし
36.3
2)
40.4
年齢
関心の有無
あり
認知症に関する情 少ない
3)
報に接する頻度
*
多い
p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
38.4
*
*
10.8
9.6
10.1
***
9.0
**
n.s.
***
10.6
***
8.1
41.4
8.8
**
39.4
38.8
39.5
40.2
39.2
***
10.7
n.s.有意差なし
1)
あり=過去または現在あり
2)
なし=「どちらかといえばない」と「ない」 あり=「どちらかといえばある」と「ある」
3)
少ない=年に数回およびほとんど見たり、聞いたりしない、多い=月に数回以上
77
40.4
39.2
9.9
***
検定
39.8
38.9
**
*
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
7)認知症の人に対する態度に関連する要因(表4-1-8)
表4-1-7の分析を踏まえて、認知症の人に対する態度に関連する要因を総合的に検討する
ために、認知症の人に対する態度の合計得点とその下位尺度である肯定的な態度や否定的
な態度の合計得点を従属変数とし、重回帰分析を行った。その際、表4-1-7の分析結果、認
知症の人に対する態度に関連が見られた変数とともに、認知症に関する知識の合計得点、高
齢者イメージの得点得点を独立変数に用いた。従属変数である態度の合計得点とその下位
尺度である肯定的な態度や否定的な態度の合計得点に関しては、いずれも得点が高いほど
肯定的な態度を示すように処理した。
重回帰分析の結果、態度の合計得点に有意な関連を示した変数は、年齢、認知症の人との
関わりの有無、認知症について関心の有無、認知症に関する知識の合計得点、高齢者イメージの
合計得点であった。肯定的な態度と否定的な態度の合計得点において共通に有意に関連した
変数は、認知症の人との関わりの有無、認知症についての関心の有無、高齢者イメージの
合計得点であった。認知症に関する情報に接する頻度、認知症に関する知識の合計得点は
肯定的な態度に対してのみ有意な関連を示した。年齢は否定的な態度に対してのみ有意な
関連を示した。
表4-1-8
認知症の人に対する態度(合計得点・肯定的な態度・否定的な態度)に関連する
要因
n=295
態度の合計得点
肯定的な態度の
否定的な態度の
(15項目)
合計得点(7項目)
合計得点(8項目)
β
p値
β
p値
β
p値
-.124
.020
-.091
.079
-.121
.032
-.043
.463
-.026
.644
-.034
.587
.327
.000
.248
.000
.292
.000
.135
.012
.116
.028
.121
.034
情報に接する頻度の2区分3)
.105
.054
.115
.031
.074
.199
認知症に関する知識の合計得点
.137
.011
.278
.000
-.017
.768
高齢者イメージの合計得点
.209
.000
.169
.001
.189
年齢1)
2)
認知症の人との同居の有無
認知症の人との関わりの有無2)
認知症について関心の有無
R
*
2)
2
0.273
***
0.289
***
0.165
p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
1)
20歳代=0、30歳代=1、40歳代=2、50歳代=3、60歳代=4、70歳代=5、80歳代以上=6
2)
なし=0、あり=1
3)
認知症に関する情報に接する頻度:年に数回およびまったくなし=0、月に数回以上=1
78
.001
***
5.考察
1)認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージの実態
認知症の人に対する態度を構成する項目の回答分布では、「認知症の人も周りの人と仲
よくする能力がある」、「認知症の人が困っていたら、迷わず手を貸せる」、「認知症の
人と喜びや楽しみを分かち合える」において8割以上の人が肯定的な回答を示した。一方、
地域住民の3分の2は認知症の人にどのように接したらよいか分からないと回答し、普段の
生活で認知症の人と関わる機会については、半数近くの人が関わりを求めておらず、認知
症の人とは、できる限り関わりたくないと回答した人も3割近くを占めた。認知症の人を尊
重し、受け入れようとする姿勢はみられるものの、認知症の人との直接的な関わりに関し
てはためらいを感じていることが窺える。認知症の症状や症状への対応方法についての理
解不足による不安感が反映された結果であると考えられる。今後、認知症の人との正しい
関わり方についての知識を組み入れた啓発活動が必要だといえよう。
認知症に関する知識の回答分布では、「日時や場所の感覚がつかなくなる症状がでる」、
「認知症は、昔の記憶より、最近の記憶のほうが比較的保たれている」といった中核症状
に関する知識の正答率は75%以上を占めた。認知症の見当識障害や記憶障害に関する知識
は、他の医学的な知識や周辺症状に関する知識より比較的に正答率が高いことが報告され
ている(杉原ら2005;Ayalonら2004)。最近、認知症のことをメディアで取り上げること
が多くなっており、認知症の見当識障害や記憶障害に関する知識は一般の人々に普及して
いると思われる。しかし、認知症はさまざまな疾患が原因であることや、うつ状態、徘徊、
幻覚・妄想といった症状やその対応方法に関する正答率は半数近くで、認知症の症状、と
くに行動・心理症状やその対応方法に関する知識が低いことが確認された。認知症の症状
やその対応方法に関する知識の欠如から、認知症の人に対する適切なケアが行われず、症
状を悪化させる可能性がある。そのため、認知症の症状やその対応方法に関する知識を普
及させる啓発活動が望まれる。
高齢者イメージは、「冷たい―温かい」、「話しにくい―話しやすい」、「厳しい―優
しい」など情緒的な側面を表す項目に関しては、ポジティブな評価が多かった。活動的な
側面を表す項目である「消極的―積極的」、「不活発な―活発な」に関しては、やや否定
的な評価が多かった。高齢者イメージに関する研究でも高齢者の活動性に関するイメージ
得点は、他のイメージの側面より低い傾向が見られている(保坂1988;中野ら1994;古谷
野ら1997;藤原ら2007)。今回の地域住民を対象とした調査でも同様の結果が得られた。
2)認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージに関連する要因
分析対象者の特性別に認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージ
の得点平均値を比較した分析では、性別に関しては、知識とイメージに有意差が見られ、
いずれも女性で得点が有意に高かった。これまでの研究をみると、介護職員を対象とした
調査で男性より女性において認知症に関する知識が高い傾向が見られた(Turnerら2004)。
一般の人々を対象とした認知症に関する知識の理解度の調査でも、男性より女性で知識が
79
高いことが報告されている(Araiら2008)。男性より女性の方が介護に関わることが多い
ため、女性の方が認知症についての知識を持っているのではないかと考えられる。また、
高齢者イメージに関しては、「活動性」を表すイメージには性差があることが報告されて
いる(中野ら1994;古谷野ら1997;藤原ら2007)。老いについての評価も男性の方がネガ
ティブにとらえる傾向が強いことが示されている(堀1996)。本研究でも、男性より女性の
方がポジティブな高齢者イメージを持っていた。女性より男性は生産性を重視する傾向が
あり(古谷野ら1997)、職業から切り離された定年退職後の高齢者にネガティブな評価をす
る(堀1996)といったこれまでの研究と共通する結果が得られた。
年齢に関しては、態度とイメージにおいて、年齢が低いほど肯定的である傾向がみられ
た。統合失調症等の精神障害に対しては、年齢が高い人で否定的な態度が強いという報告
(岡上ら1986)、高齢になるほど肯定的な傾向が見られるという報告(全家連1998)がある。
高齢者イメージについては、児童を対象とした調査では低学年で肯定的なイメージが強い
ことが報告されているが(中野ら1994;藤原ら2007)、中高年の調査では年齢差は認めら
れていない(古谷野ら1997)。このように、態度とイメージの年齢差に関しては知見が一
致していない。第2章で分析した地域住民の認知症の人に対する受容的態度の得点は、年齢
が50歳以上の人が49歳以下の人より高かったが、調査対象のサンプリングの仕方によって
年齢と認知症の人に対する態度との関連の仕方も異なってくると考えられる。一方、知識
得点に関しては40歳代と50歳代で最も高かった。40歳代と50歳代は親の介護に関わり始め
る年齢層であるため、認知症についての知識も中高年で高い傾向がみられたと思われる。
中高年で認知症に関する知識が高いことが他にも報告されている(Araiら2008)。
認知症の人との同居の有無は、態度に対してのみ有意に関連し、認知症の人との関わり
の有無は、態度と知識に有意に関連した。関わりの経験があることで、その対象に対し肯
定的な態度を示すことがいくつかの領域で報告されている。児童や小・中学生は、高齢者
と交流が多いほど肯定的な老人観を示し(中谷1991;中野ら1994;藤原ら2007)、精神障
害を持つ人との関わりの経験と肯定的な態度には密接な関連がある(Readら1999;黒田
2001;北岡2001;Ayら2006)。今回の調査もこれらの研究と一致した結果が得られた。認
知症の人との関わりの経験が、認知症の人に対する肯定的な態度や認知症に関する知識の
高さと関連があることが分かったが、肯定的な態度や知識をもっているから認知症の人と
関わる機会があったのか、関わる機会があったから肯定的態度や知識が得られたのかとい
った因果関係は定かではない。しかし、関わりのある人のうち身内に認知症の人がおり介
護をしている(していた)人が6割弱を占めていることを考えると、関わりの体験が契機と
なって肯定的な態度や知識が高まった可能性が強いといえる。
認知症についての関心の有無および認知症に関する情報に接する頻度に関しては、態度
と知識に有意差が見られた。認知症についての関心と認知症に関する情報を求めることは
密接な関連がある。ある事柄に関心を示し、それに関連する情報に接することは知識を高
めるとともに肯定的な態度にもつながると考えられる。
80
3)重回帰分析による認知症の人に対する態度に関連する要因
本研究は、認知症の人に対する地域住民の態度の関連要因として、認知症の人への関わ
りの経験のほか、認知症に関する知識、高齢者イメージを想定し、対象者の特性に関する
変数とあわせて独立変数に投入し、認知症の人に対する態度を従属変数とする重回帰分析
を行った。
認知症の人に対する態度およびその下位尺度である肯定的な態度と否定的な態度の合計
得点に関連を示した変数は、認知症の人との関わりの有無、認知症についての関心の有無、
高齢者イメージの合計得点であった。
前述のように、ある対象に対して肯定的な態度を示すためには、関わりの経験が重要で
あることが先行研究により示されている。今回の研究でも一致した知見が得られ、態度の
合計得点およびその下位尺度で肯定的な態度と否定的な態度においても有意な関連が見ら
れた。認知症の人との関わりの経験により認知症の人に対する態度の向きは肯定的になる
ことが考えられる。認知症の人との関わりの機会を持つことが重要であることが示された。
関心についての先行研究としては、男子の大学生では、高齢者に関心がある者は高齢者
の有能性に対して高く評価しており、老人問題を扱う授業を受けた者が高齢者の活動や自
立性を高く評価するということが報告されている(保阪1988)。地域住民に認知症のことを
自分の問題として認識してもらうためには、認知症について関心を呼び覚ますことが重要
ある。
高齢者イメージに関しては、多くの認知症の人は高齢者であることから、高齢者イメー
ジが認知症の人に対する態度にも関連を示したと思われる。認知症高齢者は精神障害に対
する偏見とともにエイジズムに対する偏見に曝される二重の危険(double jeopardy)をも
っていると指摘されている(WHO-WPA2002)。本研究によって、認知症の人への否定的
な態度とネガティブな高齢者イメージとが関連していることを実証的に示すことができた。
認知症の人に対する一般の人々の態度を肯定的なものへと変えていくためには、高齢者イ
メージの向上も重要だと考えられる。
認知症に関する情報に接する頻度は、肯定的な態度の合計得点のみ有意な関連を示し、
認知症に関する知識の合計得点は、認知症の人に対する態度と肯定的な態度の合計得点に
有意な関連を示した。態度は学習によって後天的に獲得されると報告されている(Sherifら
1945)。Jordan(1971)の研究では、態度に関わる要因として知識の重要性が指摘されてい
る。精神遅滞の出現に関する知識がある方が、精神遅滞者に対し好意的な態度を示した(生
川1955)。高齢者に対しては、加齢に関する知識が乏しいほど、エイジズムすなわち差別が
強いことが報告されている(原田ら2008)。言いかえると、高齢者差別をなくすためには
加齢に関する知識を普及させることが重要となる。全家連の全国2,000人を対象にした精神
障害者に対する意識調査では、精神障害者について最初に持ったイメージがどのように変
化したかという質問について、プラスへの契機で接触体験の次に多かったのが情報の習得
であった(全家連1998)。このように知識は態度の形成に影響を与える要因だと考えられる。
認知症の人に対する態度に関しても今回の結果から同様の知見が得られ、とくに認知症に
81
関する情報に接する頻度が高い人および認知症に関する知識の合計得点が高い人は、認知
症の人に対し、より肯定的な態度を示すことが明らかになった。認知症に関する情報に接
することや認知症についての知識を持つことは、否定的な態度を緩和するより、肯定的な
態度の向上へより影響していると考えられる。
本研究の結果を踏まえ、認知症の人を理解するための有効な啓発活動を展開するには、
認知症に関する知識、とくに行動・心理症状やその対応についての知識の普及が重要であ
ると考えられる。知識の普及とあわせて、地域において認知症の人との関わる機会を増や
していくことも重要だと考えられる。認知症の人との関わりに関しては躊躇する人が多く
見られたことから、自然な形で交流が可能な触れ合いの場の提供や認知症の人をボランテ
ィアとしてサポートする体験を広げるなどの工夫が必要である。また、地域住民における
高齢者へのポジティブなイメージを高めて、エイジズムを無くしていくことも、認知症の
人への肯定的な態度を普及させるために必要だと考えられる。
4) 限界および課題
今回の調査における質問紙回収率は33.4%と低かった。回答者は女性が約7割、50歳以上
の人が7割以上、認知症についての関心がある人が8割弱を占め、認知症に関心がある人々
に回答が偏った可能性がある。したがって回答者の認知症の人に対する態度得点の分布は、
一般住民のそれよりも高い可能性がある。今後、調査対象者を増やすとともに、一般住民
の実態をさらに検討していくこと、また異なる集団や地域と比較することが課題である。
82
第2節
認知症の人に対する介護職員の態度調査
第4章の第2節では介護職員を対象とし、認知症の人に対する態度および介護の仕事に対
する心境に関連する要因を明らかにし、よりよいケアを行うための条件を検討することを
目的とする。
1.調査対象者および方法
WAM-NETから大阪府内に所在する347ヶ所の特別養護老人ホームのうちからランダム
に200ヶ所を抽出し、調査の協力依頼をした。その結果、64施設から返事があり、そのうち
48施設から協力可能との回答を得た。48施設に郵送で調査票を送り、介護職員に配布して
もらった。その結果、44施設の2,224人のうち1,087人の介護職員から回答が得られた(回収
率48.9%)。調査票の回答は無記名式で行い、回収の際には本人が封筒に入れ密封したうえ
で施設の担当者に提出してもらい、施設単位で回収した。調査は2010年6月半ばから7月初
旪までに実施した。
大阪府内の特別養護老人ホーム347施設
ランダムに200施設抽出し、協力依頼
200施設のうち64施設から返事あり
協力不可能な施設:16施設
協力可能な施設:48施設
最終的に44施設の2,224人の介護職員のうち、
1,087人から回収(回収率48.9%)
図4-2-1 調査対象者の選定
2. 調査内容
調査票は2種類(調査票A・B)とした。調査票Aでは、施設概要について、施設全体を把
握している人に記入してもらった。調査票Bは、介護職員を対象としたものである。調査票
Aには、開設後年数、入所者数、要介護度別の人数、施設入所者の平均要介護度、介護職員
の人数、利用者職員比、居室の数、ユニットケアの導入状況、ユニットケアの導入期間、1
ユニットあたりの利用者数をたずねた。
83
調査票Bは、介護職員の特性に関する項目、認知症の人に対する態度(15問) 、認知症に
関する知識(15問)、高齢者イメージ(12問)から構成される。職員の特性は、性別、年齢、
介護の仕事の経験年数、最終学歴、雇用形態、職場以外で認知症の人との関わりの有無お
よびその内容、認知症の人との同居の有無、取得している資格の種類、職場以外で認知症
に関する情報源、介護の仕事に対する心境をたずねた。
3. 分析方法
分析対象者は認知症の人に対する態度15項目、認知症に関する知識15項目、高齢者イメ
ージ12項目をすべて回答した1,065人とした。
介護職員の特性については度数分布を調べた。認知症の人に対する態度尺度は逆転項目
の処理を行い、点数が高くなるほどポジティブな回答になるように各項目に1点から4点を
付与し、合計得点を求めた(15点から60点)。認知症に関する知識尺度は「正答」を1点、「誤
答」と「分からない」を0点とし、15点満点とした。態度尺度と知識尺度と両方ともIT相関
分析を行った。高齢者イメージは各形容詞対についての回答に、点数が高いほどポジティ
ブなイメージになるよう1点から5点を付与し、合計得点を求めた(12点から60点)。
介護職員の特性および施設の特性別に認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、
高齢者イメージの得点平均値に差があるかどうかを調べるため、t検定または一元配置分
散分析を行った。さらに、認知症の人に対する態度に関連する要因を検討するため、認知
症の人に対する態度の合計得点、その下位尺度である肯定的な態度、否定的な態度の合計
得点を従属変数とし、介護職員の特性および施設の特性を独立変数として、一括投入し、
重回帰分析を行った。地域住民と介護職員の両群の比較を行うため、今回の介護職員の分
析においても同様の分析方法を用いた。
また、ケアの質を高めるためには、認知症の人に対する態度とともに、介護の仕事に対
する心境が重要な要因の一つであると考え、介護職員の特性と介護の仕事に対する心境と
の関連性を検討するためにχ2検定を行った。
統計学的有意水準を5%未満とし、分析にはSPSS17.0J for windowsを用いた。
4. 結果
1) 介護職員の特性に関する項目(表4-2-1)
分析対象の介護職員のうち「女性」が66.0%であった。年齢は、「20歳代」が最も多く
37.4%、「30歳代」は30.0%で、全体の約7割が39歳以下であった。介護の仕事の経験年数
は「3年以上」が67.9%であった。最終学歴は「高校」が32.1%と最も多く、次に「専修(専
門)学校」が28.5%であった。雇用形態は「正規職員」が74.0%であった。職場以外で認
知症の人との関わりが「あり」の人は575人(54.2%)であった。そのうち、「身近(近隣、
知人、友人)に認知症の人がいて、関わりがある(あった)」が165人(28.7%)、「身内(同居
家族、同居ではない家族、親族)に認知症の人がおり、介護をしている(いた)」275人(47.8%)、
「ボランティア活動で関わっている(いた)」97人(16.9%)、「その他」38人(6.6%)であ
84
った。認知症の人との同居の有無では「あり(過去・現在)」の人は16.6%を占めた。取得
している資格は「介護福祉士」が60.0%と最も多く、次は「ホームヘルパー2級」が46.7%
を占めた。職場以外で認知症に関する情報源は「テレビ」が84.0%と最も多く、「新聞(記
事)」53.6%、「講演会・勉強会・講座」32.1%の順であった。介護の仕事に対する心境
は「やりがいがある」42.1%、「楽しい」22.5%とポジティブな回答が64.6%であった。
2) 認知症の人に対する態度(表4-2-2)
態度の合計得点の平均値(±S.D.)は45.6点(±5.5) であり、肯定的な態度を構成する7項
目の合計得点の平均値 (±S.D.)は23.8点(±2.9)、否定的な態度を構成する8項目の合計得
点の平均値(±S.D.)は21.8点(±3.5)であった。Cronbach α信頼性係数は0.792であった。
「肯定的な態度」の7項目の平均値はいずれも3点を上回っており、「ややそう思う」と「そ
う思う」を合わせて7割以上の人がポジティブな回答を示した。「否定的な態度」の8項目
のうち7項目で平均値が3点を下回っていた。「家族が認知症になったら、世間体や周囲の
目が気になる」、「家族が認知症になったら、世間体や周囲の目が気になる」に「そう思
う」と「ややそう思う」と回答した人は約4割を占めた。「認知症の人は周りの人を困らせ
ることが多い」「認知症の人はいつ何をするか分からない」に「そう思う」と「ややそう
思う」と回答した人は7割を占めた。IT相関分析を行った結果、Pearsonの相関係数は0.685
から0.386であった。
3) 認知症に関する知識(表4-2-3)
知識の合計得点の平均値(±S.D.)は12.0点(±2.4)であり、Cronbach α信頼性係数は
0.675であった。15問のうち9問の正答率は8割を上回っていた。
「認知症の人のうつ状態は、
自信を失いやすい状態であることを表している」は53.8%と最も低い回答率を示した。「認
知症の症状の進行を遅らせる薬がある」の正答率は59.2%であった。IT相関分析を行った
結果、Pearsonの相関係数は0.518から0.269まであった。
85
表4-2-1
介護職員の特性に関する項目の回答分布
n
性別
年齢1)
n=1065
%
n
男性
362 34.0 取得して 介護福祉士
女性
703 66.0 いる資格 ホームヘルパー1級
10歳代
23
2.2 の種類5)
ホームヘルパー2級
%
637 60.0
19
1.8
495 46.7
20歳代
398 37.4
ホームヘルパー3級
14
1.3
30歳代
320 30.0
介護支援専門員
90
8.5
40歳代
187 17.6
社会福祉士
43
4.1
50歳代
108 10.1
社会福祉主事
60歳代以上
24
2.3
152 14.3
その他
59
5.6
87
8.2
介護の仕事
1年未満
119 11.2
資格を持っていない
の経験年数1)
1年以上3年未満
221 20.8 職場
テレビ(ニュース、情報
3年以上5年未満
196 18.5 以外の
番組等)
5年以上10年未満
365 34.4 認知症に 新聞(記事)
564 53.6
10年以上
159 15.0 関する
227 21.6
最終学歴
中学
職場以外で認知
4.3 情報源6)
ラジオ
26
2.5
高校
342 32.1
講演会・勉強会・講座
338 32.1
専修(専門)学校
304 28.5
家族・親戚
160 15.2
短大
174 16.3
友人・知人
294 27.9
大学以上
195 18.3
医療(福祉)機関・役所
157 14.9
インターネット
245 23.3
256 24.3
その他
雇用形態2)
46
映画・ドラマ・小説
884 84.0
4
0.4
正規職員
778 74.0
介護情報誌・専門雑誌
非正規・非常勤
140 13.3
その他
パート・アルバイト
133 12.7 介護の仕 やりがいがある
443 42.1
あり(過去・現在)
575 54.2 事に対す 楽しい
237 22.5
症の人との関わり なし
486 45.8 る心境
の有無3)
7)
苦しいことが多い
11
1.0
232 22.0
やる気がしない
14
1.3
認知症の人と
あり(過去・現在)
176 16.6
何となく勤めている
88
8.4
の同居の有無4)
なし
883 83.4
辞めたい
39
3.7
無回答を除いて%を示した。
1)
無回答=5、2) 無回答=14、3) 無回答=4、4) 無回答=6、5) 複数回答、有効回答者=1061、
6)
複数回答、有効回答者=1053、7) 無回答=12
86
表4-2-2
認知症の人に対する態度の回答分布
全く
思わない
認知症の人も周りの人と仲よく
する能力がある
普段の生活でもっと認知症の
肯 人と関わる機会があってもよい
定 認知症の人が困っていたら、迷
的 わず手を貸せる
な 認知症の人も地域活動に参加
態 した方がよい
度 認知症の人と喜びや楽しみを
分かち合える
認知症の人とちゅうちょなく話
せる
認知症の人が自分の家の隣に
引っ越してきてもかまわない
認知症の人は周りの人を困ら
せることが多い
認知症の人はわれわれと違う
感情を持っている
家族が認知症になったら、世
否 間体や周囲の目が気になる
定 家族が認知症になったら、近
的 所づきあいがしにくくなる
な 認知症の人にどのように接した
態 らよいか分からない
度 認知症の人の行動は、理解で
きない
認知症の人はいつ何をするか
わからない
認知症の人とは、できる限り関
わりたくない
3(0.3)
20(1.9)
あまり
やや
思わない
そう思う
p<0.01
平均値 IT相関
分析
271(25.4) 749(70.3)
3.66
0.436**
202(19.0) 420(39.4) 423(39.7)
3.17
0.485**
42(3.9)
5(0.5)
69(6.5)
472(44.3) 519(48.7)
3.41
0.507**
7(0.7)
90(8.5)
479(45.0) 489(45.9)
3.36
0.469**
1(0.1)
52(4.9)
360(33.8) 652(61.2)
3.56
0.508**
3(0.3)
51(4.8)
338(31.7) 673(63.2)
3.58
0.488**
54(5.1)
231(21.7) 347(32.6) 433(40.7)
3.09
0.591**
20(1.9)
267(25.1) 659(61.9) 119(11.2)
2.18
0.474**
213(20.0) 531(49.9) 214(20.1) 107(10.0)
2.80
0.386**
208(19.5) 384(36.1) 382(35.9)
91(8.5)
2.67
0.575**
215(20.2) 468(43.9) 322(30.2)
60(5.6)
2.79
0.574**
237(22.3) 572(53.7) 242(22.7)
14(1.3)
2.97
0.510**
168(15.8) 547(51.4) 316(29.7)
34(3.2)
2.80
0.537**
2.23
0.427**
3.33
0.685**
52(4.9)
284(26.7) 581(54.6) 148(13.9)
443(41.6) 543(51.0)
70(6.6)
9(0.8)
45.6(±5.5)
15項目のCronbach α係数
1)
そう思う
n=1065
(1~4)1)
15項目の合計得点の平均値( (15点から60点)
**
n(%)
0.792
点数が高いほど肯定的な回答になる。
87
表4-2-3
認知症に関する知識の回答分布
認知症の人は、自分の物忘れにより不安を
感じている
日時や場所の感覚がつかなくなる症状がで
る
認知症はさまざまな疾患が原因となる
脳の老化によるものなので、歳をとると誰もが
なる
認知症は、昔の記憶より、最近の記憶のほう
が比較的保たれている
認知症の人は、急がせられたり、注意を受け
たりするときは混乱を感じる
認知症の症状の進行を遅らせる薬がある
認知症の人のうつ状態は、自信を失いやす
い状態であることを表している
不慣れな場所に不安を感じると徘徊を生じ
やすい
不安や混乱を取り除くには、なじみのある環
境作りが有効である
介護者の関わり方により、症状が悪化したり、
よくなったりする
認知症の人に対して説得や叱責、訂正など
は、攻撃的な言動を招きやすい
幻覚・妄想に対しては、否定して修正を図る
ことが効果的である
認知症の物盗られ妄想の相手は、身近にい
る人が対象となることが多い
早期の段階から、身の回りのことがほとんど
できなくなる
n=1065
そう思う
そう思わない
分からない
IT相関
n(%)
n(%)
n(%)
分析
792(74.4)
146(13.7)
127(11.9)
0.430**
977(91.7)
49(4.6)
39(3.7)
0.269**
787(73.9)
140(13.1)
138(13.0)
0.372**
91(8.5)
878(82.4)
96(9.0)
0.311**
20(1.9)
1002(94.1)
43(4.0)
0.339**
938(88.1)
53(5.0)
74(6.9)
0.508**
631(59.2)
140(13.1)
294(27.6)
0.477**
573(53.8)
168(15.8)
324(30.4)
0.518**
892(83.8)
83(7.8)
90(8.5)
0.460**
977(91.7)
34(3.2)
54(5.1)
0.424**
963(90.4)
33(3.1)
69(6.5)
0.496**
821(77.1)
122(11.5)
122(11.5)
0.518**
49(4.6)
896(84.1)
120(11.3)
0.437**
694(65.2)
213(20.0)
158(14.8)
0.448**
46(4.3)
934(87.7)
85(8.0)
0.405**
12.0(±2.4)
15項目の合計得点の平均値(0点から15点)
0.675
15項目のCronbach α係数
**
p<0.01
注)太字:正答
88
4) 高齢者イメージ(表4-2-4)
高齢者イメージの合計得点の平均値(±S.D.)は39.6点(±5.9)であり、Cronbach α信頼性
係数は0.839であった。活動的な側面を表す形容詞である「不自由な―自由な」、「消極的
―積極的」、「不活発な―活発な」に関しては、平均値が3.0点を下回った。情緒的な側面
を表す形容詞である「厳しい―優しい」、「冷たい―温かい」、「話しにくい―話しやす
い」、「愛想のない―愛想のよい」に関しては、平均値が3.5点を上回った。
表4-2-4
介護職員における高齢者イメージの回答分布
とても
やや どちらでもない やや
(%) n=1065
平均値1)
とても
(1~5)
暗い
0.3
10.9
54.8
28.3
5.7
明るい
3.28
不幸な
0.9
10.6
66.6
16.7
5.2
幸福な
3.15
劣った
0.8
9.8
51.9
28.5
9.1
優れた
3.35
頑固な
3.8
5.1
40.9
23.3
6.9
柔和な
3.05
不自由な
4.3
28.1
44.6
17.6
5.4
自由な
2.92
消極的
3.0
32.8
51.6
10.0
2.5
積極的
2.76
落ち着きのない
2.3
12.8
48.3
28.7
8.0
落ち着きのある
3.27
不活発な
2.4
32.2
49.6
13.0
2.8
活発な
2.82
厳しい
0.5
4.9
36.7
37.0
20.9
優しい
3.73
冷たい
0.2
1.5
29.7
43.7
25.0
温かい
3.92
話しにくい
0.2
4.0
34.5
42.3
19.1
話しやすい
3.76
愛想のない
0.1
3.8
48.4
35.1
12.6
愛想のよい
3.56
12項目の合計得点の平均値(合計(12点から60点)
12項目のCronbach α係数
39.6(±5.9)
0.839
1)
最もポジティブな選択肢が5点、最も否定的な選択肢が1点となるようにスコア化した。
5) 介護職員の特性および施設の特性別にみた認知症の人に対する態度、認知症に関する
知識、高齢者イメージ(表4-2-5)
介護職員の特性および施設の特性別に認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、
高齢者イメージの合計得点の平均値を比較した。男性より女性、介護の仕事に対する心境
がネガティブよりポジティブな人、職場以外で認知症の人との関わりがない人よりある人、
ユニットケアの非実施施設の職員より施設全体でユニットケアを実施している施設の職員
で、態度の合計得点が高かった。男性より女性、年齢が低いより高い人、介護職の経験年
数が5年未満より5年以上の人、非正規職員より正規職員、介護の仕事に対する心境がネガ
ティブよりポジティブな人、施設の平均要介護度が4以上より4未満の施設の職員で、知識
の合計得点が高かった。介護職の経験年数が5年以上より5年未満の人、介護の仕事に対す
る心境がネガティブよりポジティブな人で、高齢者イメージの合計得点が高かった。
89
表4-2-5
介護職員の特性および施設の特性別にみた認知症の人に対する態度、認知症に関
する知識、高齢者イメージ(t検定および一元配置分散分析)
態度の
性別
知識の
高齢者イメージ
合計得点 検定 合計得点 検定
合計得点
(15~60)
(12~60)
(0~15)
男性(n=362)
45.0
女性(n=703)
46.0
12.1
39.6
10歳代(n=23)
44.7
9.7
42.4
20歳代(n=398)
46.2
11.6
40.0
30歳代(n=320)
45.3
40歳代(n=187)
44.9
12.2
39.3
50歳代(n=108)
45.2
12.7
38.9
60歳代以上(n=24)
46.8
12.8
39.8
介護職の
5年未満(n=536)
45.3
経験年数
5年以上(n=524)
45.9
最終学歴
中学(n=46)
年齢
雇用形態
対する心境
n.s.
n.s.
11.7
12.2
11.3
**
***
***
39.5
39.2
40.0
13.6
39.1
45.4
11.1
40.1
高校(n=342)
45.6
12.0
39.6
専門(専修)学校(n=304)
45.6
短大(n=174)
45.3
12.0
39.8
大学以上(n=195)
45.8
12.2
39.5
非正規職員1) (n=273)
45.2
正規職員(n=778)
45.7
介護の仕事に ネガティブ(n=373)
2)
**
43.5
ポジティブ(n=680)
n.s.
n.s
***
46.7
職場以外で認 あり(n=575)
46.4
知症の人との なし(n=486)
44.6
12.0
11.6
n.s.
**
12.1
11.7
12.1
11.8
39.6
39.5
**
12.1
*
39.4
37.8
検定
n.s.
n.s.
*
n.s.
n.s
***
40.5
n.s
39.8
39.3
n.s
関わりの有無
認知症の人と あり(n=176)
46.1
同居有無
なし(n=883)
45.5
施設の平均
4未満(n=533)
45.6
要介護度
4以上(n=490)
45.4
ユニットケア
一部実施・非実(n=758)
45.2
の実施の有無 施設全体で実施(n=265)
*
p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
1)
46.5
n.s
n.s
**
12.1
12.0
12.2
n.s
***
11.7
12.0
12.0
39.5
39.6
39.4
39.6
n.s
39.4
39.5
n.s
n.s
n.s
n.s.有意差し
パートとアルバイト含めた非正規と非常勤
2)
ネガティブ=苦しいことが多い、やる気がしない、何
となく勤めている、辞めたい、ポジティブ=やる気がある、楽しい
90
6) 認知症の人に対する態度(合計得点・肯定的な態度・否定的な態度)に関連する要因
(表4-2-6)
認知症の人に対する態度の合計得点およびその下位尺度(肯定的な態度の合計得点・否定
的な態度の合計得点)をそれぞれ従属変数とし、介護職員の特性、認知症に関する知識の合
計得点、高齢者イメージの合計得点、施設の特性を独立変数とし、重回帰分析を行った。
従属変数である態度の合計得点とその下位尺度である肯定的な態度や否定的な態度の合計
得点に関しては、いずれも得点が高いほど肯定的な態度を示すように処理した。
年齢が低い人、仕事の経験年数が5年以上の人、職場以外で認知症の人との関わりがある
人、介護の仕事に対する心境がポジティブな人、認知症に関する知識の合計得点が高い人、
高齢者イメージの合計得点が高い人、施設全体でユニットケアを実施している施設の職員
において、態度の合計得点および肯定的な態度の合計得点が高いという関連が認められた。
仕事の経験年数が5年以上の人、職場以外で認知症の人との関わりがある人、介護の仕事
に対する心境がポジティブな人、高齢者イメージの合計得点が高い人において、否定的な
態度が低いという関連が見られた。
7)介護の仕事に対する心境別にみた介護職員の特性(表4-2-7)
上記の重回帰分析の結果から、認知症の人に対する肯定的な態度に関連する要因として、
介護職員の仕事に対するポジティブな心境が重要であることが明らかになった。介護の仕
事に対するポジティブな心境は、仕事を続けていくための重要な要因の一つであるため、
仕事に対する心境に関連する要因を検討することとした。仕事に対するネガティブな心境
とポジティブな心境別に介護職員の特性と施設の特性を検討した。表4-2-7には有意差がみ
られた特性のみ示した。
「ポジティブな心境」群に比べ「ネガティブな心境」群には次のような特徴が見られた。
男性、30歳代の人、仕事の経験年数が5年以上の人、正規職員、態度の合計得点の低得点群、
知識の合計得点の低得点群、高齢者イメージの合計得点の低得点群、ユニットケアの非実
施のそれぞれの割合が高かった。
91
表4-2-6
認知症の人に対する態度(合計得点・肯定的な態度・否定的な態度)に関連する
要因
n=966
態度の合計得点
肯定的な態度の
否定的な態度の
(15項目)
合計得点(7項目)
合計得点(8項目)
β
p値
β
p値
β
p値
性別1)
-.057
.050
-.044
.133
-.054
.081
2)
-.099
.003
-.109
.001
-.066
.060
.079
.013
.067
.034
.069
.041
.016
.621
-.020
.547
.042
.228
.118
.000
.065
.036
.131
.000
認知症の人との同居の有無
-.009
.768
.020
.528
-.031
.351
介護の仕事に対する心境7)
.221
.000
.223
.000
.163
.000
認知症に関する知識の合計得点
.185
.000
.288
.000
.052
.101
高齢者イメージの合計得点
.274
.000
.229
.000
.242
.000
施設の平均要介護度
.001
.966
.004
.876
-.002
.954
ユニットケアの実施の有無9)
.087
.003
.059
.040
.088
.004
年齢
仕事の経験年数3)
4)
雇用形態
職場以外で認知症の人との関わり5)
6)
8)
R2
***
0.236***
0.244***
p<0.001
1)
女性=0、男性=1
2)
10歳代=0、20歳代=1、30歳代=2、40歳代=3、50歳代=4、60歳代以上=5
3)
5年未満=0、5年以上=1
4)
パートとアルバイト含めた非正規と非常勤=0、正規職員=1
5)
なし=0、現在または過去にあり=1
6)
なし=0、過去にありおよび現在同居中=1
7)
0.145***
ネガティブな回答(苦しいことが多い、やる気がしない、何となく勤めている、辞めたい)=0、
ポジティブな回答(やるきがある、楽しい)=1
8)
4未満=0、4以上=1
9)
一部実施・非実施=0、施設全体で実施=1
92
n(%)
表4-2-7 介護の仕事に対する心境別にみた介護職員の特性
介護の仕事に対する心境1)
χ2検定
ネガティブな
ポジティブな
心境(n=373)
心境(n=680)
男性
141
(37.8)
219
(32.2)
女性
232
(62.2)
461
(67.8)
10歳代
8
(2.1)
15
(2.2)
20歳代
135
(36.2)
261
(38.6)
30歳代
136
(36.5)
180
(26.6)
40歳代
53
(14.2)
131
(19.4)
50歳代
35
(9.4)
73
(10.8)
60歳代
6
(1.6)
16
(2.4)
5年未満
160
(43.0)
371
(54.7)
5年以上
212
(57.0)
307
(45.3)
79
(21.2)
190
(28.4)
正規職員
293 (78.8)
478
(71.6)
態度の合計得点
低得点群(15-43)
189
(50.7)
184
(27.1)
(15-60) の3区分
中得点群(44-48)
108
(29.0)
246
(36.2) 63.546***
高得点群(49-60)
76
(20.4)
250
(36.8)
知識の合計得点
低得点群(0-11)
157
(42.1)
224
(32.9)
(0-15)の3区分
中得点群(12-13)
109 (29.2)
232
(34.1)
高得点群(14-15)
107
(28.7)
224
(32.9)
高齢者イメージ
低得点群(12-36)
180
(48.3)
181
(26.6)
合計得点(12-60)
中得点群(37-41)
112
(30.0)
235
(34.6) 55.920***
の3区分
高得点群(42-60)
81 (21.7)
264
(38.8)
ユニットケアの実施
非実施
の有無(3区分)
性別
年齢
仕事の経験年数
雇用形態
*
非正規およびパート・アルバイト
260
(71.6)
407
(62.8)
一部実施
21
(5.8)
61
(9.4)
全体で実施
82
(22.6)
180
(27.8)
3.352*
12.883*
13.175***
6.471**
8.743*
8.935*
p<0.05、 p<0.01、 p<0.001
1)
**
***
ネガティブな心境=「苦しいことが多い」、「やる気がしない」、「何となく勤めている」、「辞めたい」
ポジティブな心境=「やるきがある」、「楽しい」
93
5.考察
1) 認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージの実態
認知症の人に対する態度尺度は肯定的な態度7項目、否定的な態度8項目、合計15項目か
らなる。
肯定的な態度の回答分布をみてみると、「認知症の人も周りの人と仲よくする能力があ
る」、「認知症の人と喜びや楽しみを分かち合える」、「認知症の人とちゅうちょなく話
せる」では「ややそう思う」と「そう思う」を合わせると約95%を占めた。介護職員は介
護やケアに関する知識や技術が要求される立場にあり、認知症の人と感情や行動を共有し
ようとする傾向が窺われる回答である。否定的な態度の回答分布をみてみると、近隣関係
を表す項目では家族が認知症になった場合、周囲の目が気になると回答した人は4割ほどで、
また、近所づきあいがしにくくなると回答した人は約35%を占めた。認知症の人と仕事上
の関わりについては受容的な態度が示されたものの、近隣関係に対しては消極的な態度の
人もみられた。これは、社会における認知症の人に対する偏見が存在することを意識した
結果であろう。また、7割近くの職員が認知症の人は人を困らせることが多い、あるいはい
つ何をするか分からないと回答した。実際のケアにおける認知症の中核・周辺症状から生
じる対応の困難さが反映された結果であると考えられる。
認知症に関する知識の合計得点の平均値をみると、15点満点で12点であった。介護職の
仕事を担うためには一定の知識が求められるため、多くの項目で高い正答率が示されたの
は当然であるといえる。「認知症の症状の進行を遅らせる薬がある」59.2%、「認知症の
人のうつ状態は、自信を失いやすい状態であることを表している」53.8%、「認知症の物
盗られ妄想の相手は、身近にいる人が対象となることが多い」65.2%と、これら3項目は、
他の項目と比べ正答率がやや低かった。介護職員に対しても薬に関する知識の普及が必要
だと考えられる。また、うつ状態や物盗られ妄想は認知症の初期段階で多く発症する傾向
がある(山口2009)。施設に入所している人の多くが重度であるため、初期段階でよく見ら
れる症状に関する知識の正答率は他の知識よりも低い傾向がみられたのかもしれない。
高齢者イメージでは、「冷たい―温かい」、「話しにくい―話しやすい」、「愛想のな
い―愛想のよい」など情緒的なイメージでは3.5点以上を示し、活動的なイメージを表す「積
極的―消極的」、「不活発な―活発な」、「不自由な―自由な」では3点を下回った。高齢
者の精神的な面を支える立場でもある介護職員にとって、高齢者とコミュニケーションを
交わす場面が多いことから、高齢者の情緒的なイメージはポジティブな回答が多かったこ
とは十分考えられる。また、特別養護老人ホームでは、入所者の多くが要介護者であるた
め、高齢者の活動的なイメージの評価が否定的になったものと考えられる。
2) 認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージに関連する要因
介護職員の特性別、及び施設の平均要介護度とユニットケアの実施の有無別に、認知症
の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージの合計得点の平均値を比較した。
性別に関しては、男性より女性の方が態度の合計得点と知識の合計得点の両方とも、有意
94
に高かった。一般市民の精神障害者に対する態度の調査では性別の差は認められず(岡上ら
1986、池田ら1999)、学生を対象としたこころの病に対する態度調査においても性別の差は
みられなかった(山口ら2010)。学生を対象とした障害児者に対する態度調査では、 女性の
方が男性より受容的な態度を示し(豊村2004)、放射線技師を対象とした認知症の人に対す
る態度の調査では、女性の方が男性に比べ肯定的な態度を示した(Kada2009a) 。大学生を
対象とした高齢者に関する意識調査においては、男性の方が女性より老人への差別感が強
かった(辻2001) 。このように態度の調査において性差に関しては、必ずしも一致した知見
が得られていないが、女性の方が男性より肯定的な態度を示す研究はいくつかあり、今回
の調査も先行研究の一連の結果と同様の傾向を示したといえる。また、介護職員の調査で
は、男性に比べ女性において、認知症に関する知識が高い傾向がみられている(Turnerら
2004)。一般住民を対象とした調査でも女性の方が男性より認知症に関する知識が高かった
(Araiら2008)。大学生を対象にした調査でも男性は女性よりHIV感染経路に関する知識が
尐なかった(飯田2010) 。男性より女性の方が病気や介護に関する知識が高い傾向が見られ
ることが多い。介護や病気については、男性より女性の方が関心が高く介護や病気に関す
る知識の習得も男性より女性の方が熱心なのではないかと考えられる。
年齢に関しては、年齢が高いほど知識の合計得点が高い傾向が見られた。40歳から64歳
までの中高年で認知症に関する知識が高いことが報告されている(Araiら2008)。一般住
民とは異なり介護職員は、年齢を重ねることにより経験が豊富となり、年齢とともに認知
症に関する知識が蓄積される可能性は十分考えられる。
介護職の経験年数に関しては、経験年数が5年以上の人で知識が高い傾向が見られた。こ
れは年齢とも関連があり、年齢と経験の積み重ねを通じて知識が豊富になることを裏づけ
る結果となった。一方、高齢者イメージに関しては、経験年数が5年以上の職員より5年未
満の方で高齢者イメージがややポジティブであった。重度の認知症高齢者と接する機会が
多くなるにつれ、高齢者を思い浮かべる際に、元気な高齢者ではなく、介護を必要とする
高齢者のことが高齢者のイメージと重なってくるのではないかと考えられる。
雇用形態では、正規職員が非正規職員より知識の得点が有意に高かった。正規職員の方
が勤務先の費用で研修などに行く機会が多いことが報告されている(亀山ら2010)。正規職
員は非正規職員と比べ、長年の勤務経験を持っている人が多く、また研究会など知識を習
得できる機会が多いことから、非正規職員より認知症に関する知識を持っている可能性が
あるといえる。
介護の仕事に対する心境がネガティブな職員と比べ、ポジティブな職員の方が、態度、
知識、高齢者イメージの合計得点が有意に高かった。利用者とのコンフリクトが仕事のス
トレスと関連があることが報告されている(松井2004)。介護職員の仕事へのポジティブ
な意識が認知症の人への態度に反映される可能性が考えられる。さらに、仕事に対して意
欲的または積極的であるということは、認知症に関する知識を高めるとともに、高齢者に
対するポジティブなイメージを高めることが考えられる。知識習得は自らの意思や動機づ
けが必要な作業であり、仕事へのポジティブな心境が知識習得をすることにつながると考
95
えられる。
職場以外で認知症の人との関わりがない職員と比べ、関わりがある職員の方が認知症の
人に対する態度の合計得点が高かった。ある集団や対象に対し、関わりの経験により肯定
的な態度が示されることが報告されている。児童や小・中学生と高齢者との交流(中谷1991、
中野ら1994、藤原ら2007)、精神障害者との接触体験(Readら1999、黒田2001、北岡2001、
Ayら2006)と肯定的な態度に関連がある。介護職員の場合、仕事として認知症の人と常に
関わりをもっているが、職場以外で認知症の人との関わりの経験がある職員の方が、より
肯定的な態度を示した。仕事としての関わりのみならず、私生活上での身内の介護やボラ
ンティア活動などで認知症の人との関わりを持つことが、介護職員の認知症の人に対する
態度に好影響をもたらした可能性が考えられる。
ユニットケアの非実施の職員と比べ、施設全体でユニットケアに取り組んでいる施設の
職員の方が、認知症の人に対する態度の合計得点が有意に高かった。ユニットケアの導入
前後において、介護スタッフに生じるストレスの影響について検討を行った結果、環境移
行後には、情緒的消耗感の減尐(田辺ら2005)、介護否定感(バーンアウト)の低減(張ら2008)
の報告がある。また、ユニットケア導入後、介護職員と利用者とのコミュニケーション量
の増加、意欲の向上などの改善が見られたことが報告されている(山口2006)。このよう
にユニットケアの実施による効果を実証した研究はいくつかあるが、ユニットケアが認知
症の人に対する職員の肯定的な態度に結びつくことを示した研究はなかった。
3) 重回帰分析による認知症の人に対する態度に関連する要因
認知症の人に対する態度の合計得点を従属変数とした重回帰分析の結果において、有意
な関連を示した独立変数について、関連の強さをベータ値の大きさによってみると、関連
の強い順に、高齢者イメージがポジティブなこと、介護の仕事に対する心境がポジティブ
なこと、認知症に関する知識が高いこと、職場以外で認知症の人との関わりがあること、
年齢が低いこと、施設全体でのユニットケアの実施、仕事の経験年数が5年以上であった。
高齢者に対するポジティブなイメージと認知症の人に対する肯定的な態度との間に最も
強い関連が見られた。専門職の老人観はサービスの質に影響し、ポジティブな老人観はサ
ービスの質の向上、ネガティブな老人観は質の低下を招くと報告されている(Coe1967)。
肯定的な態度と否定的な態度それぞれを従属変数とした分析では、否定的な態度に最も関
連が強い変数は高齢者イメージであった。高齢者に対するネガティブなイメージは、認知
症高齢者と接する時に、感情や行動傾向において否定的な形で表現されやすいと考えられ
る。本調査の結果は、高齢者に対するイメージの向上が認知症の人に対する否定的な態度
を軽減し肯定的な態度につながることの裏づけとなった。
次に、介護の仕事に対する心境については、介護の仕事に対する心がけが前向きである
職員の方が認知症の人への態度が肯定的であった。Zimmermanら(2005)は、仕事に対す
る満足度が高い介護スタッフにおいて、認知症のケアに対するより肯定的な態度がみられ
ることを報告している。介護職員の仕事へのモチベーションを高めるためには、介護職の
96
仕事に肯定的なイメージを持ち、有能感を持って仕事に臨むことを確立することが重要で
あることが報告されている(堀田2009)。本研究からも仕事に対する前向きな態度は、認知
症の人のケアを行う場面において、認知症の人に対する肯定的な態度に結びついているこ
とが示された。質の高いケアを行うためには介護職員の仕事に対する前向きな姿勢が重要
である。
認知症に関する症状やその対応方法に関する知識が高い職員で、認知症の人に対する行
動傾向や感情にも肯定的な傾向が見られた。ナーシングホームと病院のスタッフを対象と
し、認知症のケアとその関連要因を検討した結果、老年学および認知症のケアに関する養
成を受けた人の方が受けない人に比べ、認知症のケアに対して態度が肯定的であった(Kada
ら2009b)。また、質の高いケアを行うためには、介護者の知識および認知症のケアに対す
る好意的な態度が重要であることがあげられている(Chodoshら2006)。大学生を対象とした
調査では、HIV感染経路に関する知識が尐ないほど偏見が強いことが示唆された(飯田2010)
。
これらの知見からも、知識と態度は密接な関連があり、知識はよりよいケアを目指すため
の重要な要件だといえる。肯定的な態度と否定的な態度それぞれを従属変数とした分析で
は、認知症に関する知識は肯定的な態度にのみ関連を示し、否定的な態度との関連は示さ
れなかった。認知症に関する症状やその対応方法に関する知識は、否定的な態度を緩和す
るより肯定的な態度の向上を促進する可能性があると考えられる。認知症の人に対する肯
定的な態度を養成するためには、認知症に関する知識、とくに症状やその対応方法に関す
る知識の形成が必要であることが分かった。知識の内容は時代とともに変化するため介護
職員にとって認知症の症状やその対応方法に関する最新の知識が得られるような情報提供
の充実が望まれる。
職場以外で認知症の人との関わりに関しては、関わりがあることと認知症の人に対する
態度が関連していることが明らかとなった。前述のように、接触体験が肯定的な態度と密
接な関連があることに関する報告は多くある。先行研究では、学生や一般住民を対象とし
た態度研究が多く、介護職員を対象とした認知症の人に対する態度とその関連要因を検討
した研究はない。職場以外の認知症の人との関わりと介護職員になったきっかけとの関連
や職場以外のどのような関わりが認知症の人に対する肯定的な態度の形成に役割を果たし
たかについては、今後の検討課題であると思われる。今回の調査から、常に認知症の人と
の関わりをもつ介護職員においても、仕事以外で認知症の人との関わりをもつことが認知
症の人に対する良好な態度につながることが示された。
年齢については、年齢が低いほど、認知症の人に対して肯定的な態度を示した。一元配
置分散分析の結果から読み取れることは、20歳代と30歳代は全体の7割近くを占め、60歳代
以上を除いた他の年齢層に比べ態度の合計得点がやや高い傾向が見られた。重回帰分析の
結果、年齢が低いほど肯定的な態度が示されたのは、20歳代と30歳代の影響が反映された
結果だといえる。
ユニットケアの実施の有無別については、ユニットケアを実施している施設の職員で認
知症の人に対する態度も肯定的であった。ユニットケアは主に認知症高齢者のケアの質を
97
高めるために導入されたものである。前述のようにユニットケアの実施は、サービスの質
の向上および利用者のQOLの向上において有効があることが報告されている。本調査の結
果は、ユニットケアを実施している施設で働く職員の方が、一部実施および非実施の施設
で働く職員より、認知症の人に対する態度が肯定的であること示し、利用者へ向かう職員
の態度という観点からもユニットケアの有効性を実証したものといえる。
仕事の経験年数については、5年未満より5年以上の職員が肯定的な態度を示した。仕事
の経験が長くなるにつれ、認知症の人との接触体験の蓄積により、認知症の人をより理解
しようとする姿勢が表れた結果であると考えられる。
4) 介護の仕事に対する心境に関連する要因
重回帰分析の結果から、認知症の人に対する肯定的な態度と仕事に対するポジティブな
心境の間には正の関連が見られた。認知症のケアにおけるサービスの質を高めるためには、
認知症の人に対する肯定的な態度とともに、介護の仕事に対するポジティブな心境を促進
する必要があると考え、介護職員の仕事に対する心境に関連する要因を明らかにした。主
な要因として「認知症の人に対する態度」「高齢者イメージ」「認知症に関する知識」と
「ユニットケアの実施」が見出された。
認知症の人に対する否定的な態度と介護の仕事に対するネガティブな心境は、前述の重
回帰分析の結果と照らし合わせてみると、相互に影響し合っていることが推定できる。仕
事に対する後ろ向きな姿勢と認知症の人に対する拒否的な態度が、認知症のケアの質を低
下させる可能性があることが分かった。
次に仕事に対する心境と関連が強い変数は高齢者イメージであり、仕事に対するネガテ
ィブな心境をもつ職員において、高齢者にネガティブなイメージを持つ人が多く見られた。
高齢者イメージの向上を促すことが、介護職員にとって重要であることが明らかになった。
高齢者に対する否定的なイメージは、高齢者を排除する構造を形成し差別や虐待に転化す
る可能性もある。質の高いケアを行うためには、介護職員の研修において「老いること」
を学ぶ機会を設けるなど、老年学に関する知識を育成することが有効だと考えられる。
介護の仕事に対する心境がネガティブな人では、認知症に関する知識の合計得点の低得
点群の割合が高かった。認知症に関する知識、とくに行動・心理症状やその対応方法に対
する知識は、介護職員の仕事に対する姿勢と関連があることが確認された。認知症に関す
る知識の向上は介護職員の仕事に対するポジティブな考え方を促進することにつながると
思われる。
介護の仕事に対する心境がネガティブな人では、ユニットケアの非実施施設の職員の割
合が高かった。ユニットケアといった施設の環境的な側面が、施設で働く介護職員の仕事
に対する心境にも影響していると考えられる。認知症高齢者のケアにおいてユニットケア
の有効性が改めて示されたといえる。
さらに、男性、30歳代、仕事の経験年数が5年以上の人、正規職員において、介護の仕事
に対する心境がネガティブな傾向が見られた。仕事に対する前向きな姿勢を促進するため
98
には、これらの要因が複合的に関連しあっていることを考慮する必要性が示された。
5)限界および課題
協力を依頼した200施設のうち44施設の介護職員が分析対象となり、認知症ケアに対する
意識が高い施設に偏った可能性がある。今回の調査で得られた知見を一般化するためには、
さらに研究の蓄積が必要である。また、本調査は横断的研究であるため、変数間の関連性
しか検討できないという限界がある。認知症の人に対する態度が形成されるプロセスにア
プローチし、因果関係を究明することが望まれる。
さらに、認知症ケアへの自己評価、介護負担および介護によるストレスなど、他の変数
を加えた認知症の人に対する態度の研究をさらに推進していく必要があると考える。
99
第3節
地域住民と介護職員の比較
第4章の第3節では、第1節と第2節の結果に基づき、認知症の人との関わり方が異なる地域
住民と介護職員の認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメージを比較
し、共通の要因および相違する点を検討するとともに、認知症の人に対する態度を向上す
るための共通の条件を探ることを目的とする。
1.分析方法
地域住民と介護職員の間で、基本属性および認知症の人に対する態度、認知症に関する
知識の正答率、高齢者イメージの各項目および合計得点の平均値を比較し、t検定およびχ
2
検定を行った。また、地域住民と介護職員の基本属性別に、認知症の人に対する態度およ
びその下位尺度である肯定的な態度と否定的な態度の得点平均値に差があるかどうかを調
べるために、t検定または一元配置分散分析を行った。
次に、地域住民と介護職員の認知症の人に対する態度に関連する共通の要因および相違
する点を検討するために、認知症の人に対する態度およびその下位尺度である肯定的な態
度と否定的な態度の合計得点を従属変数とし、地域住民と介護職員の間に共通する項目で
ある性別、年齢、認知症の人との関わりの有無(職員の場合は職場以外の関わりの有無)、
認知症の人との同居の有無、認知症に関する知識の合計得点 、高齢者イメージの合計得点
を独立変数とし、重回帰分析を行った。さらに、全サンプルを合わせて重回帰分析を行っ
た。その際、上記の独立変数に地域住民・介護職員を独立変数に加え、地域住民または介
護職員に属することが、他の要因を調整しても認知症の人に対する態度に差をもたらして
いるかどうかを調べた。
2.結果
1) 地域住民と介護職員の基本属性(表4-3-1)
性別と認知症の人との同居の有無には地域住民と介護職員の間に有意差が見られなかっ
た。年齢は、地域住民は60歳代以上が54.5%、介護職員は20歳代が37.5%、30歳代が30.2%
であった。認知症の人との関わりの有無(介護職員にとっては仕事以外での関わり)は、
地域住民は「あり」が43.7%、介護職員は「あり」は54.2%であった。
2) 地域住民と介護職員の認知症の人に対する態度(表4-3-2)
地域住民と介護職員における認知症の人に対する態度の15項目および合計得点を比較す
ると、いずれも介護職員の方が有意に高かった。
100
表4-3-1 地域住民と介護職員の両群間の基本属性の比較
地域住民
性別
年齢
認知症の人との関わりの有無
n
%
n
%
男性
102
31.1
362
34.0
女性
226
68.9
703
66.0
10歳代
0
0.0
23
2.2
20歳代
23
7.0
398
37.5
30歳代
30
9.1
320
30.2
40歳代
40
12.1
187
17.6
50歳代
57
17.3
108
10.2
60歳代以上
180
54.5
24
2.3
なし
183
56.3
486
45.8
あり
142
43.7
575
54.2
なし
275
84.9
883
83.4
あり2)
49
15.1
176
16.6
1)
認知症の人との同居の有無
*
介護職員
p<0.05、**p<0.01、***p<0.001 n.s.=not significant
1)
介護職員の場合は、職場以外の関わりあり
2)
過去または現在あり
101
χ2検定
n.s.
***
**
n.s.
表4-3-2
地域住民と介護職員の認知症の人に対する態度の各項目の平均値1) の比較
地域住民
介護職員
n=332
n=1065
認知症の人も周りの人と仲よくする能力がある
3.19
3.66
***
普段の生活でもっと認知症の人と関わる機会があってもよい
2.62
3.17
***
定 認知症の人が困っていたら、迷わず手を貸せる
3.16
3.41
***
的 認知症の人もどんどん地域活動に参加した方がよい
3.02
3.36
***
な 認知症の人と喜びや楽しみを分かち合える
3.04
3.56
***
態 認知症の人とちゅうちょなく話せる
度
認知症の人が自分の家の隣に引っ越してきてもかまわない
2.94
3.58
***
2.76
3.09
***
肯定的な態度(7項目)の合計得点(7点から28点)
20.7
23.8
***
認知症の人は周りの人を困らせることが多い
1.95
2.18
***
認知症の人はわれわれと違う感情を持っている
2.61
2.80
**
2.52
2.67
**
2.67
2.79
*
2.14
2.97
***
2.30
2.80
***
2.11
2.23
*
認知症の人とは、できる限り関わりたくない
2.75
3.33
***
否定的な態度(8項目)の合計得点(8点から32点)
19.0
21.8
***
肯
否 家族が認知症になったら、世間体や周囲の目が気になる
定
家族が認知症になったら、近所づきあいがしにくくなる
的
認知症の人に、どのように接したらよいか分からない
な
認知症の人の行動は、理解できない
態
度 認知症の人はいつ何をするかわからない
合計得点(15点から60点)
*
39.8(±6.5) 45.6(±5.5)
p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
1)
回答分布は1点から4点まであり、点数が高いほど肯定的な回答になる。
102
t検定
**
3) 地域住民と介護職員の認知症に関する知識(表4-3-3)
地域住民と介護職員の認知症に関する知識の15項目の正答率および合計得点の平均値を
比較すると、12項目の正答率および合計得点に関しては、地域住民と比べ介護職員の方が
有意に高かった。残りの3項目では有意差が見られなかった。
表4-3-3 地域住民と介護職員の認知症に関する知識の各項目の正答率の比較
(%)
地域住民
介護職員
n=332
n=1065
認知症の人は、自分の物忘れにより不安を感じている
53.3
74.4
***
日時や場所の感覚がつかなくなる症状がでる
82.8
91.7
***
認知症はさまざまな疾患が原因となる
50.6
73.9
***
脳の老化によるものなので、歳をとると誰もがなる
70.2
82.4
***
75.6
94.1
***
70.2
88.1
***
58.1
59.2
n.s.
51.5
53.8
n.s.
51.2
83.8
***
78.0
91.7
***
78.0
90.4
***
67.2
77.1
***
51.4
84.1
***
63.9
65.2
n.s.
64.5
87.7
***
9.7(±3.7)
12.0(±2.4)
***
認知症は、昔の記憶より、最近の記憶のほうが比較的保
たれている
認知症の人は、急がせられたり、注意を受けたりするとき
は混乱を感じる
認知症の症状の進行を遅らせる薬がある
認知症の人のうつ状態は、自信を失いやすい状態である
ことを表している
不慣れな場所に不安を感じると徘徊を生じやすい
不安や混乱を取り除くには、なじみのある環境作りが有効
である
介護者の関わり方により、症状が悪化したり、緩和したり
する
認知症の人に対して説得や叱責、訂正などは、攻撃的な
言動を招きやすい
幻覚・妄想に対しては、否定して修正を図ることが効果的
である
認知症の物盗られ妄想の相手は、身近にいる人が対象と
なることが多い
早期の段階から、身の回りのことがほとんどできなくなる
合計得点の平均値(0点から15点)
***
p<0.001、n.s.=not significant
103
χ2検定
4)地域住民と介護職員の高齢者イメージ(表4-3-4・図4-3-1)
地域住民と介護職員の高齢者イメージの12項目および合計得点を比較すると、「頑固な
―柔和な」、「消極的―積極的」、「不活発な―活発な」の3項目に関しては、有意差が見
られなかった。「不幸な―幸福な」、「不自由な―自由な」、「落ち着きのない―落ち着
きのある」の3項目に関しては、地域住民の方が介護職員に比べ有意に高かった。「暗い―
明るい」、「劣った―優れた」、「厳しい―優しい」、「冷たい―温かい」、「話しにくい―話しやすい」、
「愛想のない―愛想のよい」の6項目に関しては、介護職員の方が地域住民に比べ有意に高かっ
た。高齢者イメージの合計得点には両群に有意差がみられなかった。
表4-3-4
地域住民と介護職員の高齢者イメージの各項目の平均値1) の比較
地域住民
介護職員
n=332
n=1065
暗い―明るい
3.12
3.28
**
不幸な―幸福な
3.23
3.15
*
劣った―優れた
3.15
3.35
***
頑固な―柔和な
3.10
3.05
n.s.
不自由な―自由な
3.32
2.92
***
消極的―積極的
2.86
2.76
n.s.
落ち着きのない―落ち着きのある
3.49
3.27
***
不活発な―活発な
2.89
2.82
n.s.
厳しい―優しい
3.53
3.73
***
冷たい―温かい
3.69
3.92
***
話しにくい―話しやすい
3.54
3.76
***
愛想のない―愛想のよい
3.39
3.56
***
合計得点の平均値(12点から60点)
p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
*
1)
39.3(±6.9) 39.6(±5.9)
n.s.=not significant
回答分布は1点から5点まであり、点数が高くなるほどポジティブな回答になる。
104
t検定
n.s.
非
常
に
や
や
も
い
え
な
い
ど
ち
ら
と
や
や
非
常
に
暗い
明るい
不幸な
幸福な
劣った
優れた
頑固な
柔和な
不自由な
自由な
消極的
積極的
落ち着きのない
落ち着きのある
不活発な
活発な
厳しい
優しい
冷たい
温かい
話しにくい
話しやすい
愛想のない
愛想のよい
地域住民 介護職員
図4-3-1 地域住民と介護職員の高齢者イメージの平均評定値
105
5) 認知症に関する主な情報源(表4-3-5)
認知症に関する主な情報源は、地域住民と介護職員両群とも「テレビ」が最も多く8割以
上であった。「講演会、勉強会、講座」、「インターネット」から情報を得る割合は、地
域住民に比べ介護職員の方が高い傾向がみられた。
n(%)
表4-3-5 地域住民と介護職員の認知症に関する主な情報源(複数回答)
地域住民
介護職員
(n=329)
(n=1045)
テレビ(ニュース、情報番組等)
282
(85.7)
884
(84.6)
新聞(記事)
211
(64.1)
564
(54.0)
映画、ドラマ、小説
152
(46.2)
227
(21.7)
ラジオ
31
(9.4)
26
(2.5)
講演会、勉強会、講座
36
(10.9)
338
(32.3)
家族、親戚
79
(24.0)
160
(15.3)
友人、知人
109
(33.1)
294
(28.1)
医療・福祉機関、役所関係
78
(23.7)
157
(15.0)
インターネット
17
(5.2)
245
(23.4)
4
(1.2)
11
(1.1)
その他
6) 地域住民および介護職員における認知症の人に対する態度(肯定的な態度・否定的な態
度)の合計得点の特性別の比較(表4-3-6)
地域住民では、認知症の人に対する態度およびその下位尺度である肯定的な態度の合計
得点は、認知症の人との関わりの有無、認知症の人との同居の有無、認知症に関する知識
の合計得点3区分別、高齢者イメージの合計得点3区分別で有意差が見られた。否定的な態
度の合計得点は、認知症の人との関わりの有無、認知症の人との同居の有無、認知症に関
する知識の合計得点3区分別で有意差が見られた。
介護職員においては、認知症の人に対する態度および否定的な態度の合計得点は、性別、
認知症の人との関わりの有無、認知症に関する知識の合計得点3区分別、高齢者イメージの
合計得点3区分別で有意差が見られた。否定的な態度の合計得点は、年齢、認知症の人との
関わりの有無、認知症に関する知識の合計得点3区分別、 高齢者イメージの合計得点3区分
別で有意差が見られた。
106
107
7) 認知症の人に対する態度(肯定的な態度・否定的な態度)に関連する要因(表4-3-7)
従属変数である態度の合計得点とその下位尺度である肯定的な態度や否定的な態度の合
計得点に関しては、いずれも得点が高いほど肯定的な態度を示すように処理した。
独立変数のうち、性別、年齢は調整変数とみなし、それ以外の変数の従属変数に対する
関連の強さをベータ値でみると、以下のことが明らかになった。
認知症の人に対する態度の合計得点を従属変数とした分析では、関連が有意な変数をベ
ータ値が高い順にみると、地域住民では、認知症の人との関わりの有無、高齢者イメージ
合計得点、 認知症に関する知識の合計得点であった。介護職員においては、高齢者イメー
ジ合計得点、認知症に関する知識の合計得点、職場以外での認知症の人との関わりの有無の
順であった。
肯定的な態度の合計得点を従属変数とした分析では、関連が有意な変数をベータ値が高
い順にみると、地域住民では、認知症に関する知識の合計得点、認知症の人との関わりの有
無、高齢者イメージ合計得点、介護職員では、認知症に関する知識の合計得点 高齢者イメ
ージ合計得点、職場以外での認知症の人との関わりの有無の順であった。
否定的な態度の合計得点を従属変数とした分析では、関連が有意な変数をベータ値が高
い順にみると、地域住民では、認知症の人との関わりの有無、高齢者イメージ合計得点で
あった。介護職員では、高齢者イメージ合計得点、職場以外での認知症の人との関わりの
有無の順であった。
全サンプルを対象とした分析では、3つの分析のいずれにおいても、地域住民と比べ介護
職員の方が認知症の人に対し肯定的な態度を示した。
108
表4-3-7
認知症の人に対する態度に関連する要因(重回帰分析)
従属変数:態度の合計得点(15項目)
地域住民(n=301)
介護職員(n=1053)
全サンプル(n=1354)
β
p値
β
p値
β
p値
.028
.600
-.064
.023
-.038
.098
-.082
.119
-.073
.011
-.069
.015
.370
.000
.145
.000
.183
.000
認知症の人との同居の有無3)
-.044
.458
-.015
.617
-.017
.498
認知症に関する知識の合計得点
.183
.001
.214
.000
.203
.000
高齢者イメージ合計得点
.200
.000
.326
.000
.263
.000
―
―
―
―
.256
.000
1)
性別
年齢2)
認知症の人との関わりの有無
3)
4)
所属
R2
0.232***
0.190***
0.301***
従属変数:肯定的な態度の合計得点(7項目)
1)
性別
.000
.987
-.060
.034
-.040
.075
-.065
.208
-.070
.015
-.065
.020
.289
.000
.083
.007
.123
.000
認知症の人との同居の有無3)
-.023
.688
.010
.737
.005
.842
認知症に関する知識の合計得点
.325
.000
.309
.000
.308
.000
高齢者イメージ合計得点
.154
.003
.280
.000
.220
.000
―
―
―
―
.240
.000
年齢2)
認知症の人との関わりの有無
3)
4)
所属
R2
0.257***
0.194***
0.319***
従属変数:否定的な態度の合計得点(8項目)
性別1)
.042
.454
-.052
.077
-.028
.255
-.076
.167
-.057
.057
-.058
.057
.329
.000
.159
.000
.190
.000
認知症の人との同居の有無3)
-.039
.531
-.032
.307
-.030
.263
認知症に関する知識の合計得点
.016
.780
.082
.006
.064
.015
高齢者イメージ合計得点
.188
.001
.282
.000
.240
.000
―
―
―
―
.216
.000
年齢2)
認知症の人との関わりの有無
3)
4)
所属
R2
***
0.136***
0.121***
0.187***
p<0.001
注)いずれの合計得点においても、得点が高いほど肯定的な態度を示すように処理した。
1)
女性=0、男性=1
2)
10歳代=0、20歳代=1、30歳代=2、40歳代=3、50歳代=4、60歳代以上=5
3)
なし=0、現在または過去あり=1(介護職員の場合は、職場以外での関わりあり)
4)
地域住民=0、介護職員=1
109
3.考察
1) 地域住民と介護職員の認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、高齢者イメー
ジの比較
認知症の人に対する態度の15項目および合計得点において、地域住民と介護職員両群と
も全体的に肯定的な態度を示したが、二つのグループを比較すると、地域住民より介護職
員の方が有意に高かった。
一般の人々を対象とした調査では、認知症に対して怖いというイメージを抱いている人
が尐なくなく(本間2000)、他の精神障害者と比べ認知症の人とはコミュニケーションが難
しいまたは予測がつかないなど(Crispら2005) 、認知症の人に対する否定的な見方が存在
することが報告されている。具体的な事例(ビニエット)を取り上げてアルツハイマー型
認知症に対する感情的な反応をみた研究では、全体的に否定的な感情より肯定的な感情を
示した人の割合が高く、同情や助けてあげたいといった感情が7割を超えていた(Wernerら
2004)。認知症のケアに携わっているスタッフを対象にした認知症のケアに対する態度の調
査では、認知症の人と感情を共有し理解することが重要であると指摘されている。また、
認知症の人の能力を認めるなどパーソンセンタードケアリングに関連する11項目のうち6
項目において9割以上の人が肯定的な回答を示した(Kadaら 2009b)。
これらの報告や今回の調査結果を総合すると、一般の人々は認知症になることへの怖さ
や不安が見られるものの、認知症の人に対しては同情やコミュニケーションの困難さを感
じている人が多いと考えられる。それに比べ、介護職員はケアの提供者として認知症の人
を理解し、感情や行動を共有することに努めている人が多いと思われる。今回の地域住民
と介護職員の比較から、認知症の人との関わりに関する項目において両群に開きが見られ、
地域住民の半数近くが認知症の人との関わりを望まず、接し方が分からないと回答した。
また、認知症の人の能力を認め、感情を共有できるといった項目に関して地域住民より介
護職員においてより肯定的な回答が見られた。介護職員は質のよいケアを行うための訓練
や研修の積み重ねがあり、職業的倫理観をもち、それが反映された結果であるといえる。
認知症に関する知識の15項目のうち12項目で地域住民より介護職員の方で有意に高い得
点が得られ、合計得点も有意に高かった。介護負担の予測要因の一つとして認知症の症状
への対応に関する知識が尐ないことがあげられている(IPA2002) 。認知症の症状への対応
に関する知識においては、地域住民と介護職員の間に10~30%の正答率の開きが見られた。
認知症の症状やその対応方法に関する知識の向上は、認知症から生じる症状への理解を深
めることにつながると考えられる。地域住民においても、認知症の症状やその対応方法に
関する知識の普及が求められる。ところで、「認知症の症状の進行を遅らせる薬がある」、
「認知症の人のうつ状態は自信を失いやすい状態であることを表している」、「認知症の
物盗られ妄想の相手は、身近にいる人が対象となることが多い」に関しては、地域住民と
介護職員の間に有意差がみられなかった。地域住民と介護職員の4割近くの人は、認知症の
症状を遅らせる薬の存在に関する知識がなかった。薬に関する知識は、より専門的な知識
であり、地域住民のみならず介護職員においてもまだ普及していないことが明らかになっ
110
た。また、地域住民および介護職員の3割ないし4割の人がうつ状態や物盗られ妄想に関連
する適切な知識を持っておらず、他の知識の正答率と比べ低い傾向が見られた。うつ状態
と物盗られ妄想は、認知症の人の置かれている状況や周囲の人との人間関係などを考慮し
た対応方法が必要であるため、その症状や対応方法に対して具体的な知識をもっている人
が尐なかったと考えられる。認知症の症状についての事例やその対応方法などを通じて、
より具体的な知識の伝達方法が求められる。
高齢者イメージの12項目のうち9項目においては地域住民と介護職員に有意差が見られ、
合計得点では有意差が見られなかった。情緒的な側面を表す「厳しい-優しい」、「冷た
い-温かい」、「話しにくい-話しやすい」に関しては、地域住民より介護職員の方がポ
ジティブな傾向がみられた。地域住民に比べ介護職員は、高齢者とコミュニケーションの
機会を多く持ち、高齢者の人と常に接しているため、高齢者の情緒的なイメージに対して
はポジティブなイメージの方向に近づくのではないかと思われる。一方、「不幸な-幸福
な」、「不自由な-自由な」、「落ち着きのない-落ち着きのある」に関しては介護職員
より地域住民においてポジティブな傾向がみられた。施設の入所者の多くが重度の要介護
者の人であり、体の不自由な人に接することが多いことから、高齢者に対しても不自由で
不幸なイメージが優勢であったと考えられる。
2)
地域住民と介護職員における認知症に対する態度に関連する要因
まず、認知症の人に対する地域住民と介護職員の態度のそれぞれの特徴を浮き彫りにし、
両群における認知症の人に対する態度に関連する要因の相違点について検討する。
地域住民の場合は、態度の合計得点および否定的な態度に対して、認知症の人との関わ
りの有無が最も強い関連を示した。地域住民の4割近くの人に認知症の人との関わりの経験
がみられた。ある対象との関わりの経験は肯定的な態度の形成に重要であることが報告さ
れている(中谷1991;中野ら1994;Readら1999;北岡2001;黒田2001;Ayら2006;藤原ら
2007)。地域住民にとっての認知症の人との関わりの体験は、認知症の人に対する偏見や否
定的な見方を軽減する契機になると思われる。普段認知症の人との関わる機会が尐ない地
域住民にとって認知症の人との関わりの経験が認知症の人に対する否定的な態度を改善す
る可能性が示された。
これに対して、介護職員の場合は、態度の合計得点および否定的な態度に対して、高齢
者イメージが最も強い関連を示した。職業として要介護者に常に接しており、認知症に関
する知識が高い介護職員にとっては、高齢者に対するネガティブなイメージそのものが認
知症の人に対する否定的な態度を規定している可能性がある。認知症は加齢とともにリス
クが高くなる傾向があることが、他の精神疾患との違いであるため、認知症の人に対する
態度とエイジズムには相関があると考えられる。高齢者に対するポジティブなイメージの
形成が認知症の人に対する否定的な態度を防ぐための一つの条件であろう。そのことを考
慮した介護職員の研修会や養成が必要であると思われる。「老いること」の学習を通じて、
老年学全般についての知識を学び、老いることの積極的な意味を考えたり、老化による心
111
身の変化などの知識を深めることが求められる。
次に、地域住民と介護職員両群の共通点について述べる。肯定的な態度の関連要因では、
認知症に関する知識が最も強い関連を示した。今回用いた認知症に関する知識尺度は、主
に認知症の症状、とくに行動・心理症状およびその対応方法からなる尺度である。認知症
の行動・心理症状に関する理解を深めることは認知症の人に対する肯定的な態度に繋がる
といった仮設を実証した結果であり、認知症に関する啓発活動の対象である地域住民を含
め、ケアに携わっている介護職員にとっても、認知症の行動・心理症状やその対応方法に
対する知識を持つことが重要であると考えられる。認知症から生じる症状やそれに対する
対応方法の理解が一層深まることは、認知症の人を受容することにつながると思われる。
ところで、精神障害者に対するスティグマと差別の解決に向けて、効果的な治療、雇用や
サポートの促進、メディアの役割の重要性などがあげられている(WHO2005)。地域住民
と介護職員の両群の認知症に関する情報源として最も多かったのはテレビであった。テレ
ビは受容的な情報源であるが(本間2000)、認知症のことをメディアで取り上げることが多
くなっており、認知症に関する知識がある程度普及してきたともいえよう。認知症の人に
対する肯定的な態度を醸成するためには、認知症に関する正しい情報をいかに伝えるかが
今後の課題である。
以上のことから、認知症の人に対する肯定的な態度の形成要因として、認知症の人との
関わりの経験、認知症の症状やその対応方法に関する知識、高齢者のポジティブなイメー
ジが重要であることが明らかになった。
なお、全サンプルを対象とした分析において、他の独立変数を調整しても地域住民に比
べ介護職員がより認知症の人に対して肯定的な態度を示した。介護職員は、知識や技術の
みならず、利用者との信頼関係を築くこと、喜びや不安に共感すること、生活を支えるこ
となど、さまざまな力量が求められる。介護職につくための必要な知識や技術および専門
職としての価値観や職業倫理観が認知症の人に対する肯定的な態度の形成に寄与している
ことが考えられる。
第4章小括
本章では、地域住民と介護職員を対象に認知症の人に対する態度の実態を把握し、その
関連要因について考察するとともに、両群の共通点および相違点について論述した。両群
とも認知症の人に対する態度の合計得点とともに「肯定的な態度」と「否定的な態度」を
従属変数とした重回帰分析を行った。
地域住民の場合、認知症の人を尊重し、受け入れようとする姿勢はみられるものの、認
知症の人との直接的関わりに関しては、ためらいを感じている人が尐なくないことが見出
された。日常的な交流の機会や自然な形で認知症の人との接触体験を持つことが重要であ
ることが分かった。認知症の人との関わりがある人、認知症について関心を有する人、高
齢者に対してポジティブなイメージを持つ人は、認知症の人に対する態度が肯定的であっ
た。接触体験や認知症についての関心を持つことは認知症の人を理解することにつながる
112
と考えられる。加えて、高齢者に対するポジティブなイメージの形成も重要であることが
分かった。さらに、認知症に関する情報に接することや認知症に関する知識を持つことは、
認知症の人に対する肯定的な態度の向上と結びついていることが見出され、認知症に関す
る知識の重要性が改めて示された。
次に、介護職員を対象に、認知症の人に対する態度および介護の仕事に対する心境に関
連する要因を明らかにした。高齢者イメージがポジティブな人、介護の仕事に対する心境
がポジティブな人、認知症に関する知識が高い人、ユニットケアに取り組んでいる施設の
職員において、認知症の人に対する態度の合計得点が高かった。要介護者と接している時
間が長い介護職員にとっては、高齢者に対するポジティブなイメージが認知症の人に対す
る肯定的な態度につながる可能性が考えられる。認知症に関する知識は「肯定的な態度」
のみに関連が見られた。認知症の人に対する肯定的な態度を強めるためには、認知症に関
する知識、とくに症状やその対応方法に関する知識が重要である。継続的な形で知識の習
得が可能な体制づくりが求められる。仕事に対する心境に関連する要因の分析では、認知
症の人に対する態度と高齢者イメージ、ユニットケアの実施の関連が有意であった。介護
職員の調査の結果から、ケアの質を高めるためには、仕事に対する前向きな姿勢とともに、
認知症の人に対する肯定的な態度を考慮する必要があることが明らかになった。またユニ
ットケアの有効性が示された。
最後に、地域住民と介護職員における認知症の人に対する態度、認知症に関する知識、
高齢者イメージの比較を行った。地域住民と介護職員両群とも、肯定的な態度の関連要因
では、認知症に関する知識が最も強い関連を示した。認知症の行動・心理症状に対する理
解を深めることは、認知症の人に対する肯定的な態度の形成に重要であると考えられる。
両群における認知症の人に対する否定的な態度の関連要因には違いが見られ、地域住民は
認知症の人との関わりの有無が、介護職員は高齢者イメージ合計得点が最も強い関連を示
した。地域住民にとっては、認知症の人との接触体験を通じて、認知症の人に対する否定
的な見方が軽減されると推定される。介護職員においては、ネガティブな高齢者イメージ
が、認知症の人に対する否定的な態度を作り出す可能性があることが分かった。地域住民
に比べ介護職員が認知症の人に対してより肯定的な態度を示したことについては、介護職
につくために必要な知識や技術以外に職業倫理観が認知症の人に対する肯定的な態度の形
成に寄与していることが考えられる。
113
終
章
認知症の人のQOLの向上を図るには、認知症の人が地域社会との継続的な関わりを持つ
ことを可能にすることと、質の高いケアを実現することが必要である。そのためには地域
社会の人々、ケアに従事する人々の認知症の人に対する態度が受容的、肯定的なものであ
ることが要請される。しかし認知症の人に対する人々の態度に関する研究は、内外の文献
を渉猟しても未開拓の領域である。認知症の人に対する態度を測定する尺度は開発途上に
あり、これまで認知症の人に対する態度に関連する要因はほとんど明らかにされていない。
そのため、本研究では認知症の人に対する態度を測定する尺度を独自に作成し、開発した
尺度を用いて、地域住民や介護職員の認知症の人に対する態度を明らかにするとともに、
認知症の人に対する肯定的な態度を促進するための要因を検討した。
第1章では、国外における認知症の人の将来推計のレビューと国内の認知症対策の変遷に
基づき、全世界における人口高齢化とともに認知症の人の増加による共通の課題を示した。
認知症ケアに関する研究は、認知症の問題行動や介護者のストレス・介護負担などに焦点
が当てられてきたことを提示するとともに、認知症の人に対する否定的な見方の存在を明
らかにした。精神障害者や高齢者イメージに関連する要因を検討した研究は多く見られる
ものの、認知症の人に対する態度とその関連要因を検討した研究は極めて尐ないことを示
した。認知症の人に対する偏見や否定的な見方を軽減するためには、認知症の人に対する
態度に関連する要因を明らかにする必要があることを述べ、本研究の位置づけを確認した。
第2章では、作成した「認知症受容度」尺度を用いて、認知症に関する啓発活動に取組ん
でいるA市の地域住民における認知症の人に対する態度の現状を調べた。認知症に関する啓
発活動への参加が期待できる地域住民(老人クラブ会員、市民祭りの参加者、認知症サポ
ーター養成講座受講者)に対して、認知症受容度とその関連要因を明らかにした(地域住
民の調査)。調査の結果、認知症の人との関わりがある人および認知症に関する情報に接
する頻度が多い人において認知症受容度の得点が高かった。認知症に関する正しい情報に
接する機会を増やし、認知症の人との接触の場を作り出すことの必要性が見出された。
認知症サポーター養成講座受講者に関しては、講座受講前、講座受講後、受講後3ないし
6か月の3つの時点において、認知症受容度に関する質問紙に回答してもらい、その変化を
もとに講座の効果を検証した(追跡調査)。3ないし6か月経過時点においても、講座受講
前より認知症受容度は有意に高く、講座の有効性が明らかになった。また、認知症に関す
る情報に継続的な形で接する人々において認知症受容度の得点が高く、認知症に関する知
識習得が認知症の人に対する受容的な態度につながっている可能性が示された。
第3章では、第2章で使用した「認知症受容度」尺度をさらに改善し、「認知症の人に対
する態度尺度」を作成した。さらに「認知症に関する知識尺度」の開発を行い、両尺度の
信頼性と妥当性を検証した。第2章の調査から、認知症の人に対する態度に関連する他の要
因を加えて研究を行う必要が認められた。そのため、第3章では認知症の人に対する態度に
関連する要因として認知症の人との関わりに加え「認知症に関する知識」「高齢者イメー
114
ジ」を想定し、仮説検証を行った。本研究における「認知症の人に対する態度尺度」は、
認知症の人に対する肯定的ないし否定的な感情とともに、受容的または拒否的な行動の傾
向を測定するための15項目からなる尺度である。態度尺度の信頼性は内的整合性(Cronbach
α信頼性係数0.793)によって確認された。内容的妥当性に関しては、精神障害者などの態
度調査に関連する先行研究の検討および複数の専門職の意見を求めて確保した。認知症の
人に対する態度尺度は4因子(「寛容」「拒否」「距離感」「親近感」)によって説明され
ることが推定され、確認的因子分析を行い、モデルの当てはまり具合を調べ、構成概念妥
当性を確認した(GFI=0.914、AGFI=0.873、RMSEA=0.075)。「認知症に関する知識尺
度」は、認知症に関する一般的な知識とともに、認知症の症状、とくに行動・心理症状お
よび症状の対応方法からなる尺度である。知識尺度の内容的妥当性を先行研究および複数
の専門職の意見によって確保するとともに、内的整合性(Cronbachα信頼性係数0.714)に
より信頼性を確認した。開発した尺度を用いて分析を行った結果から、認知症の人に対す
る肯定的な態度には、認知症に関する知識や高齢者に対するポジティブなイメージが関連
していることが見出された。尺度の開発および分析を通じて、「認知症の人に対する態度
尺度」と「認知症に関する知識尺度」の有用性を検証した。
第4章では、認知症に関する啓発活動の対象となる地域住民、および認知症ケアにおいて
重要な役割を果たす介護職員を対象とし、認知症の人に対する態度およびその関連要因を
明らかにし、両群の比較を行った。本研究における態度の定義に照らし合わせてみると「肯
定的な態度」を表す項目と「否定的な態度」を表す項目に分けられるので、4章では、肯定
的な態度の向上に関連する要因と否定的な態度を軽減する要因を解明するため、認知症の
人に対する態度の合計得点およびその下位尺度である「肯定的な態度」と「否定的な態度」
の合計得点を従属変数とした重回帰分析を行った。
その結果、地域住民の調査からは、認知症の人との関わりについては躊躇する人が尐な
くない一方で、認知症の人との関わりの有無が認知症の人への態度と最も強く関連するこ
とが見出された。また、認知症に関する知識を持つ人や高齢者に対してポジティブなイメ
ージを持つ人において、認知症の人に対する態度が肯定的であった。認知症の人と関わる
機会を拡大し、認知症に関する知識を普及させるとともに、ポジティブな高齢者イメージ
を広めることが重要であると考えられた。
介護職員の調査からは、認知症の人に対する肯定的な態度に関連する要因の分析によっ
て、高齢者に対するポジティブなイメージや仕事に対する前向きな心境、認知症に関する
知識、職場以外での認知症の人との関わり、ユニットケアが重要であることが確認された。
また、介護の仕事に対するポジティブな心境は、認知症の人に対する態度、高齢者のポジ
ティブなイメージ、認知症に関する知識、ユニットケアの実施と正の関連が見られた。質
の高いケアのためには、認知症の人に対する肯定的な態度とともに、介護の仕事に対する
ポジティブな心境、高齢者に対するポジティブなイメージを高める必要がある。またユニ
ットケアの普及も重要だと考えられた。
地域住民と介護職員の比較からは、両群に共通する点として、認知症に関する知識が肯
115
定的な態度に最も強い関連を示しており、認知症の症状やその対応方法に関する知識を深
めることが、認知症の人に対する肯定的態度を向上させるために重要であると考えられた。
両群の相違点として、地域住民では認知症の人との関わりの無いことが、介護職員では高
齢者に対するネガティブなイメージが、認知症の人に対する否定的な態度に強い関連を示
した。なお、重回帰分析においてこれらの関連要因を調整しても、介護職員と地域住民の
認知症の人に対する態度には有意差が認められ、介護職としての職業的価値観が認知症の
人に対する肯定的な態度の形成に寄与していることが窺われた。
本研究の結果から明らかになった認知症の人に対する肯定的な態度形成に関わる重要な
要因に基づき、認知症に関する有効な啓発活動の推進方策や今後の研究課題を提示する。
認知症の人に対する肯定的な態度を形成するための重要な要因は3点すなわち認知症に関
する知識、認知症の人との関わりの経験、高齢者へのポジティブなイメージにまとめられ
る。
第1は、認知症に関する知識である。先行研究からは、人々が認知症という病気そのもの
に対しては不安を感じながらも、認知症の人に対しては同情やかわいそうだという感情を
持っている傾向が認められている。本研究により、認知症の人に対する肯定的な態度の形
成には、認知症という病態に対する理解とともに、認知症を抱えている人にどのように接
したらいいかなどの対応方法に関する知識の習得が必要であることが示された。現在、各
地域で認知症に関する講演会や講習会が開かれているが、興味がある人のみが集まってく
る可能性が高く、多くの一般の人の自発的な参加を求めることは容易ではない。知識の格
差を尐なくするためには、より多くの人に認知症に関する正しい知識を広めていくことが
重要であり、認知症という病気への知識や理解は、高齢社会を向けて必要不可欠と考えら
れる。広く一般市民における認知症の理解を促進するためには、行政やメディアの役割が
重要となる。認知症に関する情報源としてテレビや新聞などが最も多かったことから、認
知症についての関心を高めるためには、一般市民がよく接する情報源から情報提供を行う
ことが有効であると考えられる。また、長期的な視点から認知症を含め高齢者を地域や社
会で支えていくことの意義を学校教育に組み入れることも求められる。
なお、認知症の人への肯定的な態度を助長するには、どのような領域の知識をどのよう
な方法で普及するのが有効であるかについての研究が必要である。本研究により認知症に
関する知識と認知症の人に対する肯定的態度に有意な関連があることが明らかになったが、
その因果関係は明らかではないため、今後、対照群を設けた縦断的な介入研究が求められ
ている。
第2は、認知症の人との関わりの経験である。偏見を持たれやすい人々との接触体験は、
それらの人々へのイメージや態度の変化に最も有効であることが多くの先行研究から明ら
かになっており、本研究の結果からも認知症の人との接触体験がある人において、認知症
の人に対しより肯定的な態度を示すことが明らかになった。認知症の人と接することは、
認知症の人に対する肯定的な態度の向上や否定的な態度の解消の両方に働きかけること、
とくに否定的態度の緩和に関連が強いことが示された。認知症の人に実際に関わる機会を
116
通じて、人々の中に潜在化している認知症の人に対する不安や拒否的な態度が緩和される
ことにつながると考えられる。認知症の人と地域社会との関わりを一層深めていくために
は、認知症の人との接触体験はに欠かせないが、単に接するだけではなく、認知症の人と
の親和的な関係を形成することに寄与できるような接触場面を設けることが必要であると
考えられる。認知症の人との関わりの機会となるボランティア活動の普及や、啓発イベン
トに認知症の人を招いてその体験談を聴くことなどが考えられる。認知症の人とどのよう
な関わりを持つことが有効なのかといった点において、認知症の人との関わりの質に関す
る研究が待たれる。
第3は、高齢者へのイメージがポジティブであることである。人口の高齢化とともに認知
症高齢者の増加が予測されているなか、高齢者や認知症の人に対する否定的な見方を解消
することは重要な課題のひとつである。本研究により一般高齢者に対する否定的な見方や
エイジズムによって、認知症の人に対する差別や偏見が強まる可能性が考えられる。また、
老いについてネガティブな価値観を持つ人は、自分や家族の老いを受容するのが容易では
ないと思われる。年をとることは誰もが経験することであるため、一般の人々および介護
職員において、老いや高齢者に対する否定的な価値観を解消することが求められている。
学校教育および認知症ケアについての介護職員の研修においても、老年学全般に関する知
識とともに、高齢者に対しポジティブなイメージを持ってもらうための工夫が必要である
と考えられる。
介護職員の調査からは、質の良いケアを行うための条件に関して重要な知見が得られた。
上にあげた態度の形成の重要な3つの要因とともに、介護職員の仕事に対する前向きな姿勢
とユニットケアの実施に、認知症の人に対する肯定的な態度との関連が見られたことが特
筆すべき点である。本研究により、仕事への前向きな受け止め方が認知症の人に対する肯
定的な態度に密接に関連していることが実証された。さらに、施設の環境的要素を含むユ
ニットケアという条件が、認知症の人に対する肯定的な態度の形成に寄与している可能性
が示された。介護職にとって、自らの仕事をポジティブに受け止めることは、良質な介護
実践のために欠かせない条件である。介護の仕事に対するポジティブな心境には、認知症
の人に対する肯定的な態度、高齢者に対するポジティブなイメージ、認知症に関する知識、
さらにユニットケアの実施が密接に関連していることが本研究によって明らかになった。
今後、介護職員が自らの仕事をポジティブに受け止められるよう、介護の仕事に対する心
境の形成要因を探る研究も必要であろう。特別養護老人ホームの介護職員の仕事は、さま
ざまな背景を持つ人々に寄り添いながら、彼ら彼女らの生活を支えるものであり、専門性
の高い介護職であるためには、自らの仕事をポジティブに受け止め知識や技術を磨くとと
もに、人間を尊重する価値観を持つことが不可欠である。最後に、介護職員は仕事として
認知症の人にほとんど全員が関わっているにもかかわらず、とくに職場以外の私的生活領
域での関わりの有無が、認知症の人への態度と有意に関連していたことに注意を向けたい。
私的生活領域の関わりは、仕事としての認知症の人との関わり以上に、より親和的な関係
を形成することが可能であると考えられる。職場以外のどのような関わりが認知症の人に
117
対する肯定的な態度へつながるかについてのさらなる研究が必要である。
本研究では独自に認知症の人に対する態度尺度を開発し、認知症の人に対する感情や潜
在的な行動傾向を測定することが可能となった。認知症の人に対する地域住民と介護職員
の態度の現状を把握し、それぞれの特徴を見出すことができた。本研究により、認知症に
関する知識、認知症の人との関わりの経験、高齢者に対するポジティブなイメージが、認
知症の人に対する肯定的な態度に密接に関連していることが明らかになった。これらの結
果に基づき、認知症に関する地域住民への有効な啓発活動の条件について、また介護職員
のケアの質を高める条件について提言したところに本研究の実践的な意義が存在する。
118
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126
資料(調査票)
127
以下の質問に対してあなたにあてはまる番号に○をしてください(問 14 はチェック☑)。調査票は裏表4ページです。
問 1. 認知症という言葉を聞いたことがありますか。
1.はい
2.いいえ
問 2. 認知症の人との関わりをもったことがありますか。
1.現在あり
2.過去あり
3.ない → 問 4 へお進みください
問 3. 「ある」と答えた方に関わりの内容について、お伺いします(主なもの一つだけに○)。
1.身近(近隣、知人、友人)に認知症の人がいて、関わりがある(あった)
2.身内(同居家族、同居ではない家族、親族)に認知症の人がおり、介護をしている(いた)
3.仕事として認知症の人に関わっている(いた)
4.ボランティア活動で関わっている(あった)
5.その他(
)
問 4. 認知症の人と一緒に暮らしたことがありますか (1 つに○) 。
1.現在同居中
2. 過去に同居経験あり
3.同居経験なし
問 5. 認知症について関心がありますか(1 つに○)。
1.ある
2.どちらかといえばある
3.どちらかといえばない
4.ない
問 6. 認知症に関する情報源について、あてはまるものに○をしてください(○はいくつでも)。
1.テレビ(ニュース、情報番組等)
2.新聞(記事)
3.映画、ドラマ、小説
4.ラジオ
5.講演会、勉強会、講座
6.家族、親戚
7.友人、知人
8.医療・福祉機関、役所関係
9.インターネット
10.その他(
)
問 7. 問 6 の情報をどのくらい見たり聞いたりしていますか(1 つに○)。
1.週に数回以上
2. 月に数回
3.年に数回
4.ほとんど見たり、聞いたりしない
問 8. 現在のくらしについてお伺いします (1 つに○) 。
1.一人ぐらし
2.夫婦のみ
3.親と子のみ世帯
4.三世代
5.四世代
6.その他(
)
問 9. 認知症についての勉強会や家族会、意見交換会、講演会などを開催したら、参加してみたいと思いますか。
1.参加したいと思う
2.思わない
問 10. 認知症の人を地域で支えていくことが大切であると思いますか。
1.大切であると思う
2.思わない
問 11. 認知症の介護やケア、ボランティアなどの講習会を開催したら参加されますか。
1.参加したいと思う
2.思わない
128
問 12. 認知症に関する次の文章に対し、どのように思われますか。「1.そう思う、2.そう思わない、3.分から
ないい」のいずれかに○をしてください。
1)
認知症の人は、自分の物忘れにより不安を感じている
1.そう思う
2)
2.そう思わない
2.そう思わない
2.そう思わない
2.そう思わない
せっとく
3.分からない
3.分からない
3.分からない
3.分からない
3.分からない
しっせき
げんかく
2.そう思わない
3.分からない
もうそう
幻覚・妄想に対しては、否定して修正を図ることが効果的である
2.そう思わない
3.分からない
もうそう
認知症の物盗られ妄想の相手は、身近にいる人が対象となることが多い
1.そう思う
15)
2.そう思わない
認知症の人に対して説得や叱責、訂正などは、攻撃的な言動を招きやすい
1.そう思う
14)
3.分からない
介護者の関わり方により、症状が悪化したり、よくなったりする
1.そう思う
13)
2.そう思わない
不安や混乱を取り除くには、なじみのある環境作りが有効である
1.そう思う
12)
3.分からない
はいかい
1.そう思う
11)
2.そう思わない
不慣れな場所に不安を感じると徘徊を生じやすい
1.そう思う
10)
3.分からない
認知症の人のうつ状態は、自信を失いやすい状態であることを表している
1.そう思う
9)
2.そう思わない
認知症の症状の進行を遅らせる薬がある
1.そう思う
8)
3.分からない
認知症の人は、急がせられたり、注意を受けたりするときは混乱を感じる
1.そう思う
7)
2.そう思わない
認知症は、昔の記憶より、最近の記憶のほうが比較的保たれている
1.そう思う
6)
3.分からない
脳の老化によるものなので、歳をとると誰もがなる
1.そう思う
5)
2.そう思わない
認知症はさまざまな疾患が原因となる
1.そう思う
4)
3.分からない
日時や場所の感覚がつかなくなる症状がでる
1.そう思う
3)
2.そう思わない
2.そう思わない
3.分からない
早期の段階から、身の回りのことがほとんどできなくなる
1.そう思う
2.そう思わない
3.分からない
129
問 13. 認知症についての次の意見に対し、自分の考えに近い番号に○をしてください。
1)
認知症の人も周りの人と仲よくする能力がある
1.そう思う
2)
3.あまり思わない
4.全く思わない
2.ややそう思う
3.あまり思わない
4.全く思わない
2.ややそう思う
3.あまり思わない
4.全く思わない
2.ややそう思う
3.あまり思わない
4.全く思わない
2.ややそう思う
3.あまり思わない
4.全く思わない
2.ややそう思う
3.あまり思わない
4.全く思わない
2.ややそう思う
3.あまり思わない
4.全く思わない
2.ややそう思う
3.あまり思わない
4.全く思わない
2.ややそう思う
3.あまり思わない
4.全く思わない
3.あまり思わない
4.全く思わない
認知症の人はいつ何をするかわからない
1.そう思う
15)
2.ややそう思う
認知症の人の行動は、理解できない
1.そう思う
14)
4.全く思わない
認知症の人に、どのように接したらよいか分からない
1.そう思う
13)
3.あまり思わない
認知症の人が自分の家の隣に引っ越してきてもかまわない
1.そう思う
12)
2.ややそう思う
家族が認知症になったら、近所づきあいがしにくくなる
1.そう思う
11)
4.全く思わない
家族が認知症になったら、世間体や周囲の目が気になる
1.そう思う
10)
3.あまり思わない
認知症の人とちゅうちょなく話せる
1.そう思う
9)
2.ややそう思う
認知症の人と喜びや楽しみを分かち合える
1.そう思う
8)
4.全く思わない
認知症の人はわれわれと違う感情を持っている
1.そう思う
7)
3.あまり思わない
認知症の人は周りの人を困らせることが多い
1.そう思う
6)
2.ややそう思う
認知症の人も地域活動に参加した方がよい
1.そう思う
5)
4.全く思わない
認知症の人が困っていたら、迷わず手を貸せる
1.そう思う
4)
3.あまり思わない
普段の生活でもっと認知症の人と関わる機会があってもよい
1.そう思う
3)
2.ややそう思う
2.ややそう思う
認知症の人とは、できる限り関わりたくない
1.そう思う
2.ややそう思う
3.あまり思わない
130
4.全く思わない
問 14. 次は、高齢者一般についての質問です。あなたは「高齢者」という言葉を聞いて、どのようなイメージを
お持ちになりますか。左右の言葉をみて「とても、やや、どちらでもない」のうちの 1 つにチェック(☑)をし
てください。
記入例)
「好きな」と「嫌いな」をみて「やや好き」感じた場合
好きな
とても
やや
どちらでもない
やや
とても
□
☑
□
□
□
とても
やや
どちらでもない
やや
とても
嫌いな
1)
明るい
□
□
□
□
□
暗い
2)
幸福な
□
□
□
□
□
不幸な
3)
優れた
□
□
□
□
□
劣った
4)
柔和な
□
□
□
□
□
頑固な
5)
自由な
□
□
□
□
□
不自由な
6)
積極的
□
□
□
□
□
消極的
7) 落ち着きのある
□
□
□
□
□
落ち着きのない
8)
活発な
□
□
□
□
□
不活発な
9)
優しい
□
□
□
□
□
厳しい
10)
温かい
□
□
□
□
□
冷たい
11) 話しやすい
□
□
□
□
□
話しにくい
12) 愛想のよい
□
□
□
□
□
愛想のない
にゅうわ
が ん こ
あなたのことをお聞かせください。
問 15. あなたの性別は。
1.男性
2.女性
問 16. あなたの年齢は。
1.20 歳代
2.30 歳代
3.40 歳代
5.60 歳代
6.70 歳代
7.80 歳代以上
問 17. 認知症に関する思いなど自由にご記入ください。
ご協力ありがとうございました
131
4.50 歳代
謝辞
本論文の完成までには、多くの方々のお力をいただきました。黒田研二先生(大阪府立
大学)には、7年間ご指導していただきました。黒田先生のおかげで学ぶことの喜びや物
事を問い続けていくことの重要性を教えていただきました。この場をお借りして心から厚
くお礼申し上げます。これからも先生から教えていただいたことを忘れず、研究を続けて
いきたいと思います。また、中山徹先生(大阪府立大学)、児島亜紀子先生(大阪府立大
学)、東優子先生(大阪府立大学)には、学位論文審査において貴重なご指導とご助言を
いただきましたこと、心より感謝申し上げます。
本研究を進めるにあたり、ご協力くださいました増井香名子様(大阪府立大学大学院
人間社会学研究科)、鄭小華様(大阪府立大学人間社会学研究科 客員研究員)、橋本恭
子様(特別養護老人ホーム年輪)、下薗誠様(特別養護老人ホーム年輪)、大学生の皆様、
地域住民の皆様、特別養護老人ホームの介護職員の皆様に心から感謝申し上げます。大阪
府立大学の院生や先輩のみなさまには、色々アドバイスやサポートをいただきました。み
なさまの支えのおかげで本論文を完成することができました。 国際ロータリーの有田南
ロータリークラブの皆様、財団法人市川国際奨学財団の皆様にも厚くお礼申し上げます。
最後に、いつも私を支えてくれる家族に心から感謝しています。
132
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