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レポートはこちら - Morgan Stanley
2016 年 6 月
グローバル債券市場レポート
本書はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのグローバル債券運用部門が作成したレポートを邦訳したものです。また、2016 年 5 月現在の
筆者の見通しおよび見解に基づくものであり、市場および経済状況の変化により必ずしも実現されるとは限りません。また、特に断りのない限り時点は
2016 年 5 月末現在です。
来るべき利上げに備える
1.アウトルック





世界経済が比較的低迷していることを勘案すれば、連邦準備制度理事会(FRB)はあらゆ
る手段を用いて、金利がハト派的な利上げの道筋をたどるよう誘導するものと思われる。こ
れまで FRB は 2016 年の利上げ回数が 2 回にとどまるとの予測を示してきた。だが 6 月の
雇用統計を受けて、年内の利上げは 1 回だけになる可能性も出てきた。国債利回りが低水
準にあることは明白だが、短期金利の道筋に関わりなく、国債利回りを最近のレンジから抜
け出させる足元の起爆剤を見出すことは困難だ。
FRB が利上げに踏み切っても、ハイイールド債や非エージェンシー・モーゲージ証券などス
プレッド商品の多くは、こうした動きを耐え凌ぐことができると思われる。現在の低利回り環境
に照らし、金利上昇を「アウトキャリー」することを模索する戦略を引き続き選好する。
新興国資産は 2016 年に 1-2 度の追加利上げが行われることには対処できるとみられる。し
かしながら、それよりもタカ派的なサプライズに対しては依然脆弱であろう。そうした政策サプ
ライズが、米国や世界経済の成長見通しの上振れではなく、切迫するインフレ懸念の高まり
を反映する場合には、とりわけそのように言えそうだ。新興国債券は依然として実質ベース
で魅力的な利回りを提供しているうえ、キャリーとスプレッドの圧縮も見込まれる。米金利が
上昇しても、これらがバッファーとなる可能性がある。
5 月にクレジット市場は下値堅めの展開となったものの、バリュエーションは、依然として適正
な水準にある。ECB や各国の中央銀行の資産買い入れに支えられ、テクニカル的な状況
は依然堅調である。資産買い入れプログラムの直接的な影響は受けないクレジット市場につ
いても、ポートフォリオのリバランスが好影響を及ぼすと見込まれる。
エージェンシー・モーゲージ担保証券(MBS)は、現在のキャリーがわずかなものに過ぎない
ことに照らせば、上下いずれの方向であれ、金利が大幅に変動した時のダウンサイド・リスク
は、非対称的に大きいとみられる。このため、現在はクレジット関連モーゲージ証券のリター
ン・プロフィールのほうが、リスク調整後ベースでより妙味がある。2015 年末から 2016 年初め
にかけてスプレッドがワイド化したことを考えると、尚更である。欧州では、英国と欧州周縁国
における過去 1 年間のスプレッド拡大が、2016 年に魅力的な買い機会を提供していると考
える。
1
アウト ル ック
金利および為替見通し
新興国市場見通し
クレジット市場見通し
証券化商品市場見通し
2
市場サマリー
先進国債券市場
新興国債券市場
1)米ドル建て新興国債券
2)現地通貨建て新興国債券
3)新興国社債
社債市場
証券化商品市場
1
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
5 月の大半を通じ、市場のリスクは低下を続けた。原油価格は
戦略を引き続き選好する。FRB は金利の正常化には慎重に臨む
短期的に 1 バレル当たり 50 ドルに上昇、2 月に付けた底から
ことを言明し、年内の利上げは 2 回、50bps にとどまるとの予
90%近く反騰した。世界の金融情勢は引き続き緩和基調にあり、 測を示した。FRB が利上げに踏み切っても、ハイイールド債や
今や米金融情勢は、初めて市場に動揺が広がった 2015 年 8 月
非エージェンシー・モーゲージ証券などスプレッド商品の多く
の直前以来の緩和水準に近付いている。イエレン FRB 議長に
は、「ハト派的な利上げの道筋」を耐え凌ぐことができると思
よれば、最近の金融情勢の緩和を受けて、FRB にとって利上げ
われる。今年、金融市場に影を投げかけてきたもう 1 つの問題、
に踏み切りやすい状況が整ったものの、6 月の雇用統計が雇用
ブレグジット(Brexit)の行方も 6 月には判明する。国民投票
の大幅な減速を示唆する内容となったことで、6 月から 7 月に
の結果は依然極めて不透明ながら、「残留」判断が下れば、市
かけての利上げ期待が冷や水を浴びせられた。
場のリスク回避センチメントが一段と晴れるとも思われる。現
事実、FOMC(連邦公開市場委員会)メンバーは最近のコメン
トで、市場は 6 月の利上げの確率を過小評価していると強調し
た。FRB が 6 月もしくは 7 月の利上げに備えるよう、市場を促
在のところ、世論調査や市場では「残留」派が優勢だが、6 月
の米雇用統計の不振など、ファンダメンタルズ動向からすれば、
最近の上昇は不適切とも見える。
すにつれ、市場はそうした展開を徐々に織り込んでいった。し
かしながら、発表された経済統計が示唆するファンダメンタル
金利および為替見通し
ズ的背景は良く言ってまちまちで、このため、利上げに踏み切
るための決定的な条件はまだ出揃っていない。
世界経済が比較的低迷していることを勘案すれば、FRB はあら
ゆる手段を用いて、金利がハト派的な利上げの道筋をたどるよ
米国の短期金利は、FRB 関係者の発言に沿って上昇傾向をたど
っている。だが、長期債利回りは一向に上昇の気配を見せない。
我々は、リスクフリーの長期債は大幅に売られるリスクがある
と引き続きみている。悲観一色だった年初の状況から経済見通
しが明るさを増すにつれ、リスク資産は安値から回復したが、
米 10 年債利回りはさほど上昇していない。同市場は概ねテク
ニカル要因によって支えられていると思われる。米国のファン
ダメンタルズは今も相対的に安定しているにもかかわらず、金
利のリスクプレミアムの指標であるタームプレミアムは、低下
している。事実、タームプレミアムの変化が、年初来の価格変
う誘導するだろう。このことは、市場が積極的に米短期債の再
評価を進めた場合には、実際の利上げの道筋が失望を呼びかね
ないことを示唆している。長期債はグローバル・リスクプレミ
アムに関わるテクニカル要因を大きく織り込んでいるもようだ
が、そうした要因が反転すれば、利回りは押し上げられる。こ
うした動向と市場の現状に照らして、米国のデュレーションを
引き続き小幅アンダーウェイトとする。さらに、インフレ連動
債(TIPS)を通じたインフレに対する現在の市場のプライシン
グは、インフレ上昇の可能性を過小評価していると考えられる
ため、インフレ連動債をオーバーウェイトとする。
動の大半を説明している。こうした状況を説明する要因の 1 つ
と考えられるのが、日銀によるマイナス金利の導入以降の長期
ECB による継続的な資産買い入れにより、ユーロ周縁国の実質
利回りの低下を受けて、投資家がデュレーションの代替を模索
金利は引き続き低下に向かうと予想する。ECB の目的は、イン
し、そのことが世界的なリスフリー金利の低下をもたらしたこ
フレ期待を上向かせるべく、必要な金融および経済のリバラン
とだ。
スを実現することにある。以上の観点から、これまで通りイタ
リアとスペインのインフレ連動債を選好し、ユーロ圏のデュレ
その結果、リスクフリー金利はテクニカル的な巻き戻しに極め
ーションを引き続き基本的にニュートラルとする。
て脆弱になっている。世界的にファンダメンタルズが回復に向
かうなら、とりわけそう言える。例えば財政出動への依存度が
オーストラリアとニュージーランドは、中国関連コモディティ
高まれば、シナリオは変わる可能性がある。日本の安倍晋三首
の低迷を主因とする景気減速と成長鈍化への配慮から、金融緩
相はすでに、消費税引き上げを先送りするとのシグナルを送っ
和を維持すると考える。乳製品価格の低下が続いていることに
ている。これが一段の財政出動の前触れとなることもあり得る。 照らせば、ニュージーランド国債は市場をアウトパフォームす
る可能性がある。同国国債はオーバーウェイトを維持する。
財政出動に伴ってインフレ期待が上昇し、日本の長期利回りが
押し上げられれば、他のリスクフリー金利の上昇を招く可能性
新興国資産は、大幅な下落を経て投資価値が上昇し始めている。
もある。
中国経済の成長への依存度の高い他の多くの新興国とは対照的
今年上期に数々の市場を不安に陥れた様々な懸念が、6 月に一
に、メキシコは米国経済が回復すれば、ファンダメンタルズの
段と薄れることを期待したい。利上げのリスクにさらされてい
改善が見込まれる。このため、新興国の中ではメキシコ国債を
るとはいえ、金利上昇を「アウトキャリー」することを目指す
より強気にみている。中欧の債券も、最近のアンダーパフォー
2
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
マンスにもかかわらず、依然魅力的だ。ブラジルに対し、戦術
ドルの安定は人民元にとって好都合で、中国当局は一息つける。
的にポジティブなスタンスを取る。
当局は対米ドル相場の安定を維持しつつ、対通貨バスケットで
通貨ポジションについては、FRB がドル高阻止を望んでいるこ
とから、足元で米ドルは軟調に推移するとみている。ただし
FRB が利上げを再開するに伴い、下期にはドルは堅調に推移す
ることも考えられる。ノルウェー・クローネ、ロシア・ルーブ
ルなど、割安感の出ている通貨にエクスポージャーを追加する。
人民元を切り下げることが可能となる。我々は、2016 年の中国
の「公式な」成長率は 6.5%に減速し、「実際の」経済成長率
は 5.5%近辺にとどまるとみている。人民元を対通貨バスケッ
トで管理する態勢に徐々にシフトすることにより、中国が G20
の議長国となっている今年一杯、元の急落リスクは抑制されよ
う。
新興国と先進国の成長較差が縮小傾向にあり、グローバル
新興国市場見通し
金融危機以降、ファンダメンタルズも弱まっているが、それ
年初、金融市場は波乱含みのスタートを切ったにもかかわらず、 でも新興国経済は 10-15 年前に比べて依然健全な状態にある。
最近のエネルギー価格の反発、ドルの安定、中国のハードラン
総じて対 GDP 比率でみて対外債務が低下し、変動相場制度が
ディング懸念の後退を踏まえ、引き続き慎重ながらも楽観的な
導入され、外貨準備高増大の形でバッファーが厚みを増してい
スタンスを堅持する。6 月から 7 月にかけて FRB は利上げに動
る。概ね堅固で強健な資本力を誇る銀行システムに支えられて、
く公算があるが、先進諸国が総じて緩和的な金融政策を採って
現地通貨建て債券市場が成長を遂げた結果、かつて経済に深刻
いることと、中国経済の失速懸念の緩和が、6 月から 2016 年第
な打撃を及ぼした海外資本の調達リスクも限定されている。た
3 四半期にかけて、引き続き資産価格を突き動かす原動力にな
だ、バリュエーションが極めて魅力的とは言えず、ファンダメ
るものと思われる。4 月の好パフォーマンスの牽引役となった
ンタルズの改善見通しも明確ではない中で、新興国が経済的課
のは主にモメンタムと資金流入の増加であり、このため上昇は
題に対処し、投資家の幅広い信頼を取り戻すには、構造改革に
調整に見舞われやすい。5 月に市場が下落し、パフォーマンス
改めて取り組む必要がある。
が低迷したことが、このことの証左である。新興国市場が続伸
し、より長続きする影響を及ぼすためには、新興国市場の経済
ファンダメンタルズが改善する必要がある。現段階では少なく
クレジット市場見通し
とも最悪期は過ぎたとみられるものの、この見通しが実現する
6 月は、マクロ経済上の一連の展開が、資産価格のパフォーマ
かどうかは、来るべき英国民投票で英国の EU 残留が決定され
ンスを決定することになりそうだ。これらの展開はいずれも、
るかどうかにかかっている。
広範なシステミック・インプリケーションを持つ可能性がある。
新興国資産は、2016 年に 1、2 度の追加利上げが行われること
には対処できよう。しかしながら、それよりもタカ派的なサプ
ライズに対しては、依然脆弱であろう。そうした政策サプライ
ズが、米国や世界経済の成長見通しの上振れではなく、切迫す
るインフレ懸念の高まりを反映する場合には、とりわけそのよ
うに言えそうだ。しかしながら世界全体としてみれば、インフ
レ環境は相対的に良好との考えは変わらない。エネルギー価格
の物価への圧力が弱まると思われる中では、尚更である。我々
は原油価格はすでに底入れし、2016 年下期には緩やかに回復す
るとみており、この予想が正しければ、コモディティ価格の下
落に端を発するデフレ圧力は、和らぎ始めるはずである。
まず挙げられるのが、6 月 15 日に予定されている FOMC。今年
初となる利上げへの期待感が高まることもあり得る。加えて、
英国で 6 月 23 日に EU からの離脱の是非を問う国民投票が実施
される。投票の行方によっては EU 全体にシステミックな影響
を及ぼしかねない。大半の世論調査では、僅差で残留派が優勢
なようだが、結果は依然不透明だ。さらに、スペインでは過半
数を握る内閣の成立をかけて、今年 2 回目の選挙が行われる。
ECB による社債買い入れプログラムの執行状況が、クレジット
市場のパフォーマンスのカギを握ろう。同プログラムは 6 月に
開始が予定されている。結局のところ、クレジット市場全体へ
の影響は、プログラムの最終的な規模と、社債買い入れの責任
を担う各国の中央銀行による執行にかかっていよう。
全般的に、2016 年から 2017 年にかけてブラジルとロシアのネ
ガティブな影響が弱まるにつれ、新興国の成長は緩やかに回復
すると予想している。中国については、中期的には成長減速が
続こうが、足元では小幅な回復が見込まれる。財政出動、預金
準備率の引き下げ、利下げなどの大胆な措置が講じられている
にもかかわらず、経済成長が上向いてこないことは意外だ。米
5 月にクレジット市場は下値堅めの展開となったが、バリュエ
ーションは依然として適正な水準にある。ECB や各国の中央銀
行の資産買い入れに支えられ、テクニカル的な状況は依然堅調
である。資産買い入れプログラムの直接的な影響は受けないク
レジット市場についても、ポートフォリオのリバランスが好影
響を及ぼすだろう。世界的な低利回り環境において、クレジッ
3
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
ト・スプレッドが、引き続き投資家にインカム・ゲインを提供
だが、最近、スプレッドのボラティリティが高まっていること
しうる魅力的な機会を創出している。
や、今後、新規オリジネーションや発行が増加する見通しを踏
まえ、需給ダイナミクスに幾分の懸念が残る。さらに、2015 年
証券化商品市場見通し
エージェンシーMBS はアンダーウェイトを継続する。金利は
概ねボックス圏で推移し、エージェンシーMBS は現在の金利
ボラティリティの低下環境において好調に推移するとみている
にもかかわらず、このようなスタンスを取る。エージェンシー
MBS は年初来、好パフォーマンスを記録しているだけでなく、
過去数年の水準と比べても堅調に推移している――金利ボラテ
ィリティが相対的に低かったことがその背景にある。しかしな
がら、過去のスプレッドや利回りとの比較で、MBS には割高
感が出ていると思われる。現在のキャリーがわずかなものに過
ぎないことに照らせば、上下いずれの方向であれ、金利が大幅
に変動した時のダウンサイド・リスクは、非対称的に大きいと
考えられる。加えて、現在はクレジット関連モーゲージ証券の
リターン・プロフィールのほうが、リスク調整後ベースでより
妙味がある。2015 年末から 2016 年初めにかけてスプレッドが
ワイド化し、キャリーが拡大していることを考えると、尚更だ。
から 2016 年にかけてオリジネーションされた CMBS について
は、ここ数年にわたる不動産価格の高騰が懸念要因となる。こ
うした状況に照らし、新発案件よりも、発行後時間が経過して
いる CMBS を選好する。後者は直近の不動産価格上昇の恩恵を
享受できるのに対し、前者は組み入れ物件のバリュエーション
が幾分高くなっている懸念があることによる。より直近に発行
された CMBS については、資本ストラクチャーの上方を選好す
る。これらの資産は最近のスプレッドのワイド化に伴い、魅力
的なスプレッドを引き続き受け取れると同時に、一層の構造的
信用補完の恩恵を享受できるとみられるためである。2016 年に
も CMBS 市場のボラティリティは高止まりしそうだ。それにも
かかわらず、CMBS は引き続き魅力的な利回りを提供するのみ
ならず、市場ファンダメンタルズの改善からメリットを受ける
との考えは変わらない。以上により、CMBS のオーバーウェイ
トを堅持する。但し、ボラティリティが高まっていることと、
同セクターには時価への値洗いリスクがあることを考慮して、
オーバーウェイト幅は管理可能な水準にとどめる。
足元ではエージェンシーMBS は引き続き堅調なパフォーマン
欧州では、2015 年に英国と欧州周縁国でスプレッドが拡大して
スが期待できようが、クレジット関連 MBS との比較では、エ
おり、このことが 2016 年に魅力的な投資機会を提供している
ージェンシーMBS は妙味に乏しい。以上によりエージェンシ
とみている。ECB は長期にわたり金利を低位に据え置き、さら
ーMBS はアンダーウェイトを継続する。しかしながら、その
なる景気刺激策を導入する方針を改めて強調した。イングラン
高い流動性と分散化効果により、エージェンシーMBS は、信
ド銀行(BoE)も、2016 年の利上げ計画を先送りする意向を固
用状況に対する感応度の高いポートフォリオを補完することが
めたもようである。欧州の不動産市場は依然、金融危機からの
できよう。
回復途上にある。特に、不動産価格が今でもピークを大幅に下
我々の見解では、非エージェンシーMBS は、依然として相対
的に安定性が高く、魅力的な債券クラスの 1 つである。魅力的
なキャリー、ファンダメンタルズの改善、ネット・ベースでの
供給減少を背景に、非エージェンシーMBS セクターのオーバ
ーウェイトを維持する。非エージェンシーMBS のスプレッド
は、米国債利回りに対して投資適格級で 200-300bps 超、非投
資適格級で 275-325bps に達している(損失調整後ベース)。
回る水準にとどまっている欧州周縁国については、なおその感
が強い。ECB の刺激策が、不動産価格上昇を後押しすると期待
される。原油価格の下落も、大半の欧州市場にとって下支え要
因となるはずだ。借り手が住宅ローンを組む余裕が拡大するこ
とも、プラスに働く。ファンダメンタルズの改善とスプレッド
水準の拡大を踏まえて、引き続き欧州の住宅ローン債権担保証
券(RMBS)と CMBS 市場を選好する。
米国経済が堅調で、住宅ローン金利が依然として低く、住宅取
得能力が過去平均を上回っている状況などから判断し、住宅市
場の見通しは引き続き明るいとみている。供給面では、2016 年
に非エージェンシーMBS の残高は 600 億-700 億米ドル減少す
ると予想される。また新規発行額は 200 億-300 億米ドル前後
にとどまる見通しである。
商業用不動産ローン担保証券(CMBS)については、慎重なが
らもオーバーウェイトとしている。商業用不動産のファンダメ
ンタルズは米国経済の堅調さと足並みを揃えて改善を続けると
思われ、それに伴って CMBS も好パフォーマンスが期待される。
4
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
図表 1:資産別 年初来リターン(%)
原油(ブレント)価格は 48 米ドルから 50 米ドルに回復。FRB
の政策に対する高い感応度を背景に、メキシコ、コロンビア、
33.3
ブレント原油
南アフリカを筆頭に、新興国通貨が最大の下落を記録した。
14.5
金
8.5
円(対米ドル)
BofA ML 米国ハイイールド
8.1
JPM現地通貨建て EM国債
7.7
JPM米ドル建て EM国債
6.9
先進国債券市場
米国では、FOMC が 4 月の会議の議事録を公表した。議事録で
5.4
ドイツ10年国債
はタカ派的なトーンが示された。ほとんどの参加者が、経済指
5.3
バークレイズ米国投資適格社債
標が下期の成長加速と労働市場の状況改善、インフレ率上昇と
英国10年国債
5.3
米国10年国債
4.8
整合性のとれるものであるかぎり、6 月の利上げが妥当だとみ
S&P/LSTA レバレッジド・ローン
4.5
ていた。経済指標については、4 月の非農業部門雇用者数は、
スペイン 10年国債
4.3
4.0
予想の 20 万人の増加に対し 16 万人の増加にとどまった。3 月
GSCIソフト・コモディティ
日本10年国債
4.0
の数値も 21 万 5,000 人増から 20 万 8,000 人増に下方修正された。
3.8
失業率は引き続き 5.0%となり、コンセンサスの 4.9%を上回っ
S&P500
3.6
た。時間当たりの平均賃金は 2.5%増加した。ISM(サプライマ
バークレイズ欧州投資適格社債
3.1
ユーロ(対米ドル)
2.5
イタリア 10年国債
2.4
センサス予想の 51.4 を下回った。第 1 四半期の GDP 成長率は
2.3
前期比 0.8%に上方修正されたが、コンセンサス予想の 0.9%を
BofA ML 欧州ハイイールド(コンストレインド)
BofA ML 米国モーゲージ・マスター
MSCI先進国株式
2.1
MSCI新興国株式
1.9
銅
ネジメント協会)発表の 4 月の製造業指数は 50.8 に低下、コン
下回った。4 月の総合 CPI は 1.1%、コア CPI は 2.1%だった。
-0.2
ユーロ圏では、ECB が 3 月の政策理事会の議事録を公表した。
-1.1
ユーロ・ストックス(米ドル)
米ドル指数
メンバーは市場ベースのインフレ期待が依然低迷していること
-2.8
を認識している。ECB 理事の多くが、インフレを目標レンジに
-3.6
ユーロ・ストックス(ユーロ)
日経225
-20
-8.7
-10
戻すべく一段の努力を行うことを望むとともに、最近の忍耐強
0
10
20
30
40
上記は米ドル・ベース。出所:トムソン・ロイター、データストリーム
い姿勢はこの目標から逸脱していると受け止められるべきでは
ないと感じている。経済指標を見ると、5 月のユーロ圏製造業
PMI は 51.5 となり、4 月の 51.7 を下回ったものの、コンセンサ
ス予想の 51.5 と一致した。2016 年第 1 四半期のユーロ圏 GDP
2.市場サマリー
5 月は米国、英国、欧州全般に、イールドカーブが横ばいとな
った。FRB が市場予想よりもタカ派的なスタンスを示したこと
により、米ドルは主要通貨に対して値上がりした。
成長率は前期比 0.5%に下方修正され、速報値通り 0.6%と予想
されていたコンセンサスを下回った。5 月のユーロ圏インフレ
率は-0.1%となり、4 月の-0.20%を上回った。
英国では、イングランド銀行が賛成 9、反対 0 で金融政策の維
持を決定した。金融政策は全般的には中立的。金融政策決定会
5 月に米 10 年債利回りは 1bp 上昇、2 年債-10 年債のイールド
合は、EU 離脱の是非をめぐる英国民投票にまつわる不透明感
カーブは 9bps フラット化した。ユーロ圏の債券利回りは低下
から、今後数カ月間、経済指標の解釈にはリスクがあると改め
した。独 10 年債利回りは 13bps 低下した。独 2 年債利回りも
て言及した。経済指標については、4 月の総合 CPI は 0.3%とな
3bps 低下し、一段とマイナス圏に沈んだ。アイルランド、イタ
り、3 月の 0.5%、コンセンサスの 0.5%をともに下回った。3 月
リア、スペインの 10 年債利回りは 12-21bps 低下した。ポルト
の失業率(3 カ月平均)は 5.1%と横ばいだった。第 1 四半期の
ガルの 10 年債利回りは 10bps 低下、ギリシャの 10 年債利回り
GDP 成長率は前期比 0.4%と速報値通りとなり、コンセンサス
に至っては 131bps 低下した。支援プログラムについての欧州
と一致した。4 月の英国の製造業 PMI は 49.2 にとどまり、3 月
諸機関との協議が成功裏に終了したことが好感された。今や債
の 50.7 から低下、コンセンサス予想の 51.2 も下回った。
務削減の可能性について、議論が進み始めている。日本の 10
年債利回りは 3bps 低下した。
5 月に米ドルは主要通貨に対して上昇した。ユーロは対米ドル
日本では、日銀は 5 月には会合を開かなった。日本は 5 月に開
催された G7 の議長国を務めた。G7 では各国首脳が、あらゆる
政策――金融、財政政策、構造改革――を総動員して景気改善
で 2.8%、英ポンドは 0.9%、日本円は 3.8%とそれぞれ下落した。
5
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
に取り組むことを強調した。経済指標では、5 月の製造業 PMI
図表 3:対米ドルでの月次為替変化
は 47.6 となり、4 月の 48.2 から低下した。4 月の全国コア CPI
(プラス:上昇、マイナス:下落)
(食品およびエネルギーを除く)は 0.7%となり、3 月の水準か
英国
ら横ばいとなって、コンセンサスの 0.7%とも一致した。2016
シンガポール
年第 1 四半期の GDP 成長率は前期比 0.4%となり、コンセンサ
ス予想の 0.1%を上振れした。2015 年第 4 四半期の GDP は-
0.3%から-0.4%に下方修正された。
-0.9
-2.4
ユーロ
-2.8
ロシア
-2.9
ニュージーランド
-3.1
ポーランド
-3.1
ハンガリー
図表 2:主要国の国債利回り
国
2年債
利回り
( %)
オーストラリア
ベルギー
1.67
-19
5年債
利回り
( %)
1.83
当月
変化
( b ps)
10年債
利回り
( %)
-23
2.30
当月
変化
( b ps)
-21
-0.44
0
-0.23
-9
0.67
-17
0.61
-8
0.74
-14
1.32
-19
-0.38
-3
-0.10
-11
0.41
-12
カナダ
デンマーク
当月
変化
( b ps)
-3.2
インドネシア
-3.4
スイス
-3.4
スウェーデン
-3.6
日本
-3.8
ノルウェー
-3.9
カナダ
-4.1
韓国
-4.4
チリ
フランス
-0.39
-4
-0.10
-10
0.63
-16
ドイツ
-0.48
-3
-0.29
-9
0.27
-13
アイルランド
-0.36
-3
-0.08
-10
0.76
-21
イタリア
-0.04
-4
0.39
-10
1.49
-13
日本
-0.23
0
-0.23
-3
-0.11
-3
オランダ
-0.47
-6
-0.31
-8
0.51
-16
ニュージーランド
2.10
2
2.17
-9
2.61
-24
ノルウェー
0.54
-34
0.62
-23
1.50
-13
ポルトガル
0.69
-19
1.92
-10
3.16
-10
スペイン
-0.06
-5
0.58
-11
1.59
-12
スウェーデン
-0.60
0
-0.18
-12
0.51
-12
スイス
-0.82
0
-0.74
-4
-0.32
-8
英国
0.43
-10
0.90
-8
1.43
-17
米国
0.88
10
1.37
8
1.85
1
-4.5
オーストラリア
-4.9
ブラジル
-4.9
マレーシア
-4.9
メキシコ
-7.0
コロンビア
-7.8
南アフリカ -9.4
-10
-8
-6
-4
-2
0
月次変化率(%)
出所:Bloomberg
新興国債券市場
新興国国債市場の上昇は 5 月に腰折れした。季節的に商いが閑
散となる夏場に備えて投資家が利益確定に動いたことによる。
米 FRB の金融政策に対する期待感の変化や、EU 離脱の是非を
問う英国民投票を巡る不透明感を踏まえて、投資家がポジショ
出所:Bloomberg
ン調整を行ったことも、そうした流れを助長した。中でも最も
厳しい打撃を受けたのが現地通貨建て新興国債券。新興国の株
価下落に伴って、対ドルで新興国通貨が下落したのに加えて、
投資家が FRB による利上げが近づいている可能性を織り込ん
だためだ。新興国社債は、高利回り・低格付け資産に牽引され、
好調に推移した。対照的に、新興国ドル建てソブリン債の価格
は小幅下落。投資家が小口の流動性の低い資産の利益を確定し、
長期デュレーションの資産のポジションを縮小したことが背景
にある。エネルギー価格は回復を続け、原油価格は年初来高値
を更新、原油輸出国を後押しした。その他の国・地域について
は、個別材料と政治的な展開が逆風となった。
トルコでは、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領がアフ
メト・ダウトオール首相を更迭し、さらに政治権力を強化した。
政情不安が投資家のセンチメントに重くのしかかり、株式市場
からの資金流出と通貨下落を招いた。投資家にとって明るい材
料は、副首相のメフメト・シムシェキ氏が留任したことだ。シ
6
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
ムシェキ氏はかつてより後退したとはいえ、依然市場寄りの立
は州・市当局が同じく国際債券市場で資金調達を行った。エネ
場をとり、エルドアン大統領の政策とバランスを取っている。
ルギー価格の上昇を受けてエクアドルやイラクなどの産油国の
ブラジルでは、弾劾決議案が議会を通過し、ジルマ・ルセフ大
債券が恩恵を享受した一方、トルコ、南アフリカ、ブラジルで
統領の職務が停止された。ミシェル・テメル副大統領が大統領
は政治的な展開が足枷となった。投資適格国の債券を中心に、
代行に就任した。ルセフ政権の目標よりも大幅なプライマリー
長期デュレーションの資産は、市場全体をアンダーパフォーム
財政赤字を容認し、より柔軟な財政措置を可能にする法案を成
した。投資家が FRB による利上げの可能性を織り込んだこと
立させて、早くも政治手腕を発揮することに成功した。残念な
による。
がら、その直後、テメル大統領代行が任命したばかりの企画相、
ロメロ・ジュカ氏が職務を外れた。ジュカ氏はラバ・ジャット
2)現地通貨建て新興国債券
作戦と呼ばれる汚職捜査を妨害したとの報道を受けて、公職か
5 月に現地通貨建て新興国国債は JP モルガン GBI-EM グロー
ら身を退いたのである。南アフリカでは、ゴーダン財務相が国
バル・ディバーシファイド・インデックスで 5.44%下落した。
家歳入庁より訴追される可能性があるとの報道を受けて、資産
新興国通貨は対米ドルで 4.87%下落し、新興国債券のリターン
価格が下げ圧力を受けた。この出来事は、予想に反してムーデ
は現地通貨建てで-0.57%となった。南アフリカ、メキシコ、
ィーズによる格下げが回避されたというポジティブなサプライ
コロンビア、トルコなどの高ベータ国が市場全体をアンダーパ
ズを帳消しにした。ムーディーズは南アフリカの外貨建て国債
フォームした。フィリピン、ロシア、ポーランド、ルーマニア、
格付けを Baa2 に維持したが、見通しをネガティブに据え置い
ペルーが相対ベースでアウトパフォームした。現地通貨建て債
た。フィリピンでは、ダバオ市の市長で反既得権益層の姿勢を
券の好パフォーマンスと、通貨下落が小幅にとどまったことが、
鮮明にしていたロドリゴ・ドゥテルテ氏が大統領に選出された。 パフォーマンスを下支えした。
ドゥテルテ氏は汚職一掃を掲げ、既得権益層の政治家に対する
有権者の反感に乗じた形。選挙戦中の激しい言動にもかかわら
3)新興国社債
ず、大統領就任後は、ドゥテルテ政権はアキノ現大統領の最も
新興国社債の 5 月のリターンは、JP モルガン CEMBI ブロー
重要な経済政策――インフラ支出の拡大、海外直接投資の引き
ド・ディバーシファイド・インデックスで 0.21%となった。5
上げ――を踏襲するとみられている。
月を通じて高利回りで質の低い社債が投資適格社債をアウトパ
よりポジティブなニュースは、フィッチによるハンガリーの対
フォームした。地域別では、アジア(インドネシア)、欧州
外クレジットの格付けが、BB+から投資適格級(BBB-)へ
(ルーマニア、ウクライナ)、中東(バーレーン、クウェート)
引き上げられたことだ。ムーディーズとスタンダード・アン
の社債が、アフリカ(南アフリカ)、ラテンアメリカ(ブラジ
ド・プアーズはハンガリーの格付けを引き続き投資適格以下に
ル、コロンビア、ジャマイカ、メキシコ)の社債をアウトパフ
据え置いているが、投資家は、来年にはこれらの格付け機関も
ォームした。
フィッチと同様の措置を取るとみている。一方、ムーディーズ
はバーレーンの格付けを Ba2 に、オマーンを Baa1 に、サウジ
アラビアを A1 に引き下げるなど、中東数カ国の格付けを引き
下げた。原油価格の下落が政府財政に及ぼすとみられる影響を
勘案したことによる。サウジアラビアは推定 150 億ドルに上る
起債の準備を始めた。カタールは 90 億ドルのユーロ債発行に
踏み切った。これらは産油国が歳入減少を補うため、国際市場
で資金調達を行った直近の例である。
1)米ドル建て新興国債券
5 月の米ドル建て新興国国債・準国債市場のリターンは JP モル
ガン EMBI グローバル・インデックスで-0.30%となり、年初
来のパフォーマンスは 6.91%となった。アルゼンチン国債は、
4 月に国際債券市場に復帰したことが好感され、引き続きポジ
ティブなセンチメントから恩恵を享受した。国に続き、5 月に
7
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
図表 4:新興国国債のスプレッド変化
市場の超過リターンはプラスとなり、相対的に堅調だった。と
りわけ米国では、クレジット・スプレッドが 11bps タイト化し
米ド ル 建て
債券
ス プレッド
(bps)
当月変化
(bps)
現地通貨
建て 債券
利回り
(%)
当月変化
(bps)
ブラジル
418
17
12.4
36
コロンビア
297
19
7.9
-7
見通しが改善する可能性があることなど、明るい材料が増えた
ハンガリー
208
-1
2.6
18
ことを反映している。加えて、欧州でも個別材料が金融セクタ
インドネシア
282
7
7.9
15
ーに対するセンチメントの追い風となった。とりわけイタリア
マレーシア
227
11
3.8
1
メキシコ
304
18
6.2
35
ペルー
213
15
6.3
10
フィリピン
96
3
4.8
6
ポーランド
116
-6
2.5
8
たり極めて好調に推移した後、5 月はパフォーマンスが最も低
ロシア
245
-9
8.9
7
迷したセクターの 1 つとなった。一部の主要コモディティの価
南アフリカ
384
25
9.7
34
格下落が、引き金となった。
トルコ
308
27
9.6
53
米投資適格市場全体の供給は 1900 億ドルを突破、年初来の発
ベネズエラ
2933
75
–
–
行額が 7140 億ドルとなり、年初来での過去最高を更新した。
国
た。
米国、欧州ともに、金融セクターが産業セクターを顕著にアウ
出所:JP モルガン
トパフォームした。これは米金利が上昇すれば、中期的に収益
で政府が民間資金(経営体力の強固な銀行を含む)を利用して、
経営体力が弱まった銀行を支援する新たな基金の創設を提
案したことが、センチメントの改善に寄与した。このことは、
異例の環境を除き、規制当局がシニア債権者の救済に消極的な
ことを浮き彫りにした。一方、基幹産業セクターは 2 カ月にわ
2016 年 5 月末までに、すでに供給が過去 5 番目の水準に達して
おり、年間ベースで過去最高の発行額となった 2015 年の 1.3 兆
社債市場
2 カ月連続で力強い超過リターンとトータルリターンを記録し
ドルを突破する勢いである。欧州投資適格市場の発行額はそこ
まで例外的な規模ではなかった。特に、新規起債額の多くが満
期を迎えた債券の借り換えに向けられたことから、ネット・ベ
た後を受けて、グローバル・クレジット市場は 5 月に反落した。 ースの発行額はさほど大きくなかった。供給を牽引したのは産
米国および欧州の投資適格市場では同月、クレジット・スプレ
業セクターで、ECB による社債買い入れ開始を背景に、企業の
ッドが小幅拡大した。世界中のリスク市場でボラティリティが
財務部が低利回りでの資金調達に動いた形。米国では、FRB が
高まり、5 月前半にはグローバル株式市場が低迷したものの、
金融政策を引き締める前に、企業が資金調達を模索した。
後半に反騰して上げ戻す展開となった。コモディティのリター
ンは異例のばらつきをみせ、WTI の原油価格が続伸する一方、
鉄鉱石先物は 3 月から 4 月にかけての値上がり分をほぼ吐き出
した。クレジット市場のパフォーマンスは株式市場に追随し、
月前半の低迷が、月後半の回復により埋め合わされる格好とな
った。
欧州投資適格社債ベンチマークの超過リターンは、5 月にスプ
レッドが 5bps 拡大したことを反映して-22bps となり、米投資
適格市場をアンダーパフォームした。米投資適格ベンチマーク
はスプレッドが 2bps ワイド化し、超過リターンは-11bps とな
った。スプレッドがワイド化した一因は、プライマリー市場に
おける起債額が相対的に高水準だったことと、FRB の政策を中
心とするマクロ経済の不透明感にある。トータルリターン・ベ
ースでは、欧州投資適格市場が米投資適格市場を小幅アウトパ
フォームした。ベンチマークが高いリターンを上げ、パフォー
マンスを牽引した。BBB 格債は相対的に大規模な起債が行われ
たことを映して、超過リターンが最も低迷した。ハイイールド
8
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
図表 5:社債セクター別スプレッド変化
セクター
米ドル
スプレッド
水準
(bps)
フォリオからの償還金を再投資し、同ポートフォリオの規模を
約 1.75 兆ドルに維持した。
(bps)
ユーロ
スプレッド
水準
(bps)
(bps)
非エージェンシーMBS は 5 月に再びアウトパフォームした。5
当月
変化
当月
変化
インデックス水準
149
+3
128
+6
月にスプレッドは 25bps 前後タイト化した結果、年初来ではわ
産業(素材)
216
+11
150
+6
ずか 0-25bps ワイドな水準にスプレッドが縮小した。基本的
産業(資本財)
108
+2
96
+4
に、米住宅市場およびモーゲージ市場の状況は依然として明る
産業(消費財[市況]))
131
+6
121
+9
産業(消費財[非市況])
120
+7
102
+9
産業(エネルギー)
234
+2
131
+10
産業(テクノロジー)
138
+16
90
+5
32%値上がりした。とはいえ、2006 年のピーク水準は未だ 7%
産業(運輸)
135
+3
107
+8
下回っている。4 月の中古住宅販売は 1.7%増加、前年同月の水
産業(通信)
173
+8
130
+5
準を 6.0%上回った。失業率が 5%と低く、米 GDP が緩やかに
産業(その他産業)
121
-1
159
+5
成長している状況下、米国では引き続き、過去の水準と比べて
公益(電力)
132
-8
128
+7
住宅が極めて買いやすい状況にある。家計所得(中央値)に対
公益(ガス)
151
-7
115
+7
する住宅取得コスト(中央値)を算出した全米不動産協会
公益(その他公益)
158
-7
107
+7
金融(銀行)
131
-2
121
+1
金融(証券)
162
-4
141
+15
金融(金融会社)
162
-3
94
+5
回っている。3 月の月収に占める住宅ローン返済額の比率(い
金融(保険)
161
+0
267
+15
ずれも中央値)は 14.8%となり、2 月の 14.4%、2015 年 3 月の
金融(REIT)
171
-4
146
+7
14.4%から上昇した。住宅ローンのパフォーマンスも依然堅調
金融(その他金融)
244
+3
173
+16
である。4 月の新規デフォルト発生率はなお低下して年率
出所:バークレイズ
い。3 月には、全米住宅価格が前月比 0.7%値上がりし、2015 年
の水準から 5.2%上昇した。全米住宅価格は 2012 年の底から
(NAR)の住宅取得能力指数によれば、住宅の購入しやすさ
(アフォーダビリティ)は、過去 20 年間の平均をほぼ 10%上
0.69%にとどまり、3 月の 0.77%、2015 年 4 月の 0.83%をともに
下回った。失業率が低く、経済がゆるやかな改善に向かってお
り、住宅価格がおよそ 10 年前の住宅ローン危機から依然回復
証券化商品市場
5 月はエージェンシーMBS が続伸した。モーゲージ債のクレジ
を続けている今、モーゲージ関連クレジットのパフォーマンス
は引き続き改善が期待できよう。
ット・スプレッドは引き続きタイト化したが、2015 年末の水準
5 月に CMBS のスプレッドは拡大し、2016 年初来、パフォーマ
と比べれば、依然概ねワイドな水準にとどまっている。5 月に
ンスが最も低迷したセクターの 1 つとなった。AAA 格 CMBS
は米国債利回りが幾分上昇したものの、エージェンシーMBS
のスプレッドは 5 月におよそ 2bps 縮小、年初来では 15bps ほど
にとって最適なレンジ内にある。エージェンシーMBS のデュ
タイト化した。BBB 格スプレッドは 5 月に 15bps ワイド化し、
レーション延長リスクはさほど大幅に上昇しておらず、期限前
年初来では引き続き 185bps 程度ワイドな水準にある。年初 5 カ
償還リスクもさしたる脅威とはなっていないようである。エー
月間の CMBS の新規発行額は 250 億ドル近辺となり、引き続き
ジェンシーMBS の対米国債スプレッドの大半はこのオプショ
予想を下回る水準にとどまった。年初、我々は 1000 億ユーロ
ナリティに起因していることから、現在の金利の安定がエージ
超の CMBS が今年満期を迎えて借り換えの必要があることから、
ェンシーMBS の追い風となり、デュレーションが等しい米国
2016 年の発行額は 1,000 億-1,200 億米ドルに達すると予想して
債をアウトパフォームした。バークレイズ米国 MBS インデッ
いたが、この予想を 600 億-700 億ユーロに再度引き下げる。
クスは 5 月に 0.14%上昇、年初来 5 月末までのリターンは
貸し手が証券化 CMBS の新たな買い手を見出していることが、
2.28%となった。5 月に米財務省金利は売られ、10 年債利回り
この背景にある。2015 年および 2016 年には、全体として
が 1bp 上昇、2 年債利回りが 10bps 上昇して、イールドカーブ
CMBS のスプレッドが大幅にワイド化した結果、商業用ローン
は横ばい化した。カレントクーポン物(新発物)エージェンシ
債権の証券化によるファイナンスの効率性が低下した。基本的
ーMBS の対米国債スプレッド(線形補完後)は 2bps タイト化
に、CMBS のパフォーマンスは引き続き健全だ。4 月に商業用
して 5 月末に 100bps となった。30 年物住宅ローン金利は 2bps
不動産価格はほぼ横ばいとなり、過去 12 カ月間では 7%値上が
上昇して 3.65%となったが、依然として過去最低に近い水準に
りした。商業用不動産価格は過去 3 年にわたり年間 10%近い上
とどまっている。FRB は引き続きエージェンシーMBS ポート
昇を記録、今や 2007 年 8 月のピークを 23%上回っている。価
格の変動性の高まりや、需給ダイナミクスは引き続き多少懸念
9
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
されるが、CMBS 市場の裏付けとなる不動産市場のファンダメ
ンタルズは安定しているように見受けられる。
ECB が金利を低水準に据え置くとともに、資産購入プログラム
の拡大に取り組むことを改めて確認したことに後押しされ、5
月に欧州の ABS スプレッドはタイト化した。スプレッドは 5
月に 5-15bps タイト化したが、それでも英国の RMBS を筆頭
に、ECB の買い取り対象となっていない資産のスプレッドは年
初来ではなお大幅にワイド化したままだ。一方、ECB の買い取
り対象となっている ABS は、年初来 5-10bps タイト化した。4
月の ECB による欧州 ABS の買い入れ額は 1 億ユーロ弱に減速
した。現在、ECB による欧州 ABS の保有残高は 190 億ユーロ
となった。5 月に欧州の ABS 発行額はスローダウンし、合計で
68 億ユーロ近辺にとどまった。2016 年初来の新発債の発行額
は合計 361 億ユーロとなり、2015 年 5 月までの 353 億ユーロの
発行ペースを幾分上回った。
10
グローバル債券市場レポート
2016 年 6 月
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