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達磨さんが転んだ、米は再びドル安に転じたか
リサーチ TODAY 2016 年 2 月 19 日 達磨さんが転んだ、米は再びドル安に転じたか 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 円高が進み、一時円は110円台の水準になった。筆者が為替について長らくストーリーラインとしてきたの は、「達磨さんが転んだ」に例えることだった。これは、戦後の為替の5年、10年といった中期トレンドの転換 のきっかけはすべて米国にあり、ゲームの「ルール」を決める「鬼」としての主導権はいつも米国にあったこと の例えだ。今回の円高も結局は米国によるもので、日本はさらなる円高のリスクを抱える状態にあるが、米国 が完全に為替政策を転換したとまではいいにくい。2000年代以降を振り返れば、下記図表内の⑥の2007年 以降、米国が大恐慌以来のバランスシート調整に陥って、異例な量的緩和であるQE1、QE2、QE3を用いて 自国通貨安の政策を取ったことが円高につながった。一方で2012年後半以降、米国でバランスシート調整 が進展し、自国通貨政策が転換したことから、⑦の為替の転換が生じた。2012年後半以降の円安基調の背 景にはこうした事情があり、アベノミクスは丁度、米国経済の回復、為替政策の変化に重なっていた。しかし、 仮に2016年以降米国が景気後退に陥り、再び金融緩和策を採用して、利下げや極端にはマイナス金利策 も含めたQE4を取ると、図表⑦になる前に戻って円は80円割れという円高になってしまう。米国という「鬼」は 「達磨さんが転んだ」で振り向いてドル高から転換してしまったのだろうか(図表内⑧)。 ■図表:円ドル為替推移 (円/ドル) 400 ②1971年8月 ニクソン・ショック 350 ④1985年9月 プラザ合意 ①1949年~ GHQ、ドル円交換レートを 1ドル=360円に決定 300 ⑦2013年~ 米国金融緩和縮小に 250 ③1978年~ カーター政権ドル防衛策、 ボルカー・FRB議長による インフレ対応高金利政策 200 150 (⑧2016?) 100 ⑤1995年~ ルービン財務長官による ドル高政策 50 ⑥2007年~ サブプライム問題顕現化、 ドル安転換 (暦年) 0 49 54 59 64 69 74 79 84 89 94 99 04 09 14 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 今週、四半期毎に改訂している『内外経済見通し』を発表した1。今回の特徴は、米国の見通しを大幅に 1 リサーチTODAY 2016 年 2 月 19 日 下方修正させたことだ。その結果、米国の金融政策については、本年内の利上げなしと判断した。米国の 10年長期金利は年初の2.2%程度から足元では1.7%程度と0.5%低下している。日本の長期金利も日銀 のマイナス金利導入でマイナスまで低下したが、その低下幅は米国には及ばない。今後、仮に日銀がもう 一段のマイナス金利を導入しても、米国の低下幅を超えることは容易でない。為替市場とはあくまでも二国 間の相対関係のなかで決まるものだが、経験則的に円ドルレートは、米国サイドに主導権がある。今回の 日本のマイナス金利策に効果がなかった訳ではない。むしろ米国長期金利の低下圧力の方がより大きく、 影響がより強いのだと考えるべきだろう。従って、米国が本当に景気後退に至り、QE4(マイナス金利2)とな れば円ドルは80円割れに戻り、アベノミクスが振り出しに戻る可能性もある。問題は、米国が本当に景気後 退に陥るかである。下記の図表はFSI(金融ストレス指数 3 )と企業業況を用いた景気後退モデルである。 2016年4月の景気後退確率は13%で、2016年初から景気後退確率は高まってはいるがまだ水準は低い。 米国景気は確かに減速にしているが、後退にまで至る状況ではないというのが我々の現段階の認識だ。 ■図表:米景気後退確率 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 (年) (注)1.FSI(Financial Stress Index)、フィラデルフィア連銀製造業景況指数を用いて、景気後退確率を推計。 各変数の景気後退に対する先行期間を踏まえ、3 カ月先の確率を推計するモデルとした。McFadden の決定係数 は 0.56。 2.網掛けは景気後退期。 (資料)NBER、クリーブランド連銀、フィラデルフィア連銀よりみずほ総合研究所作成 米国の景気減速で米長期金利低下が続く中で、いくら日本が金利を引き下げても金利差で円高圧力を 防ぐのは困難だ。2012年から3年間で50円の円安が進んだが、米国が金融緩和を行い振り出しに戻れば、 80円割れも生じうる。ただし、先述の試算のように、米国が減速しても後退しないなら、せいぜい半値戻しの 100円程度が限度であろう。筆者の現段階の評価は、まだ米国は明確にドル安に転じてはいないが、当面 は円高水準を試すというものだ。今後、為替ゲームの参加者にとっては「鬼」である米国の顔色をうかがう状 況が続くだろう。 1 「2015・16・17 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 2 月 16 日) イエレン FRB 議長は今年、2 月の議会証言で、2010 年に FRB がマイナス金利の可能性を議論したことを認めたものの実施には 至らなかったと証言している。 3 FSIとは株式市場、インターバンク市場、クレジット・債券市場などを代表する 16 の金融指標を合成したもの。FSIが上昇すると、 金融市場の安定性が低下し、金融市場にストレスが蓄積されていることを示す。 2 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2