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1 第 3 回 企業の課題を有価証券報告書から分析する 1. はじめに 富士

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1 第 3 回 企業の課題を有価証券報告書から分析する 1. はじめに 富士
第3回
企業の課題を有価証券報告書から分析する
1. はじめに
富士フイルムホールディングスと IHI の2社を中心に、有価証券報告書に記載されている「対処
すべき課題」について、どのような内容の記述がなされているかを検討する。このうち富士フイル
ムホールディングスは、主力商品である銀塩フイルムの需要が急減するなど企業の収益構造の抜本
的な改革が迫られる一方、IHI は、過年度決算の訂正に関連し、同社株式は、札幌・東京・大阪・
福岡の各証券取引所により、内部管理体制について改善の必要性が高いと判断され、特設注意市場
銘柄への指定を受けるなどの不祥事を経験した。対処すべき課題の検証を通じて両社の課題への取
り組みを報告する。
2.富士フイルムホールディングス
富士フイルムホールディングスの沿革を簡単に紹介しよう。
同社は、1934(昭和9)年 1 月、写真フイルム製造の国産工業化計画に基づき、大日本セルロイド(現
ダイセル化学工業)の写真フイルム部の事業一切を分離継承して設立された富士写真フイルムが前
身。戦後の混乱期を経て、フイルム事業を核に成長を続けた。
1962(同 37)年には、英国ランクゼロックス社との合弁により、富士ゼロックスを設立した。その
後、同社は子会社になった。
2006(平成 18)年に全ての営業を富士フイルムに承継する新設分割を行い、持株会社である富士フ
イルムホールディングスに移行した。主力事業の先細り懸念から、事業の再編成を断行するための
布石を打った。
医薬事業への本格進出へ向けて、富山化学工業の増資を引受けるとともに、株式公開買付けによ
り連結子会社とした(第1【企業の概況】2【沿革】参照)。
株式を証券取引所に上場している会社等は、有価証券報告書を毎決算期末後 3 ヵ月以内に内閣総
理大臣に提出することが義務付けられている(金融商品取引法第 24 条第 1 項)。有価証券報告書に
記載される内容は、
「当該会社の商号、当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他
事業の内容に関する重要な事項その他公益又は投資者保護のために必要かつ適当なものとして内閣
府令で定める事項」(同)とされている。
このうち、「対処すべき課題」(有価証券報告書の第一部【企業情報】第 2【事業の状況】3【対
処すべき課題】)には、「最近日現在における連結会社(略)の事業上及び財務上の対処すべき課題
について、その内容、対処方針等を具体的に記載すること。なお、基本方針を定めている会社につ
いては、会社法施行規則(平成 18 年法務省令第 12 号)第 118 条第 3 号に掲げる事項を記載するこ
と(企業内容等の開示に関する内閣府令「第二号様式」(有価証券届出書)の記載上の注意(32)
対処すべき課題、「第八号様式」(有価証券報告書)の記載上の注意(12)対処すべき課題)と規定
されている。
会社法施行規則第 118 条第 3 号の規定
株式会社が当該株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針
(以下この号において「基本方針」という)を定めているときは、次に掲げる事項
イ 基本方針の内容の概要
ロ 次に掲げる取り組みの具体的な内容の概要
(1)当該株式会社の財産の有効な活用、適切な企業集団の形成その他の基本方針の実現に資
する特別な取り組み
(2)基本方針に照らして不適切な者によって当該株式会社の財務及び事業の方針の決定が支
1
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配されることを防止するための取り組み
ハ ロの取り組みの次に掲げる要件への該当性に関する当該株式会社の取締役(略)の判断及
びその理由(略)
(1)当該取り組みが基本方針に沿うものであること。
(2)当該取り組みが当該株式会社の株主の共同の利益を損なうものでないこと。
(3)当該取り組みが当該株式会社の会社役員の地位の維持を目的とするものではないこと。
次に、富士フイルムホールディングスの業績の推移から検討してみよう。
図表1は 2001 年度(2002 年 3 月期)からの売上高と営業利益の推移を示している。2008 年度以降
の業績の悪化はリーマンショックによる景気の全般的な後退によってほぼ説明できるが、同社にと
って大きな転機となったのは、2005 年度の急速な業績の悪化である。同年度の売上高は前年比 5.5%
増となったものの、営業利益は同 57.2%減と大幅な落ち込みとなった。
同年度の減益の背景を探ると、イメー
図表 1 富士フイルムホールディングスの業績の推移
ジングソリューション部門( 主に一般消
費者向けにカラーフィルム、デジタルカ
メラ及び現像プリントサービス等) にお
ける構造改革実施に伴う費用の発生に
加え、主要原材料価格の上昇、新製品や
新規事業の創出に向けた研究開発費の
増加、ドキュメントソリューション部門
( 業務用分野向けにオフィス用複写機・
複合機、プリンターの開発、製造、販売
等)における基幹情報システムの稼働や
海外販売体制の強化に関連する一般管
理費の増加などが原因と説明されてい
る(第 2【事業の状況】1【業績等の概
要】参照)。
(eol から作成)
図表2は同社の事業部門別営業利益
率の推移を表したものである。2000 年
図表 2 富士フイルムホールディングスの事業部門別営業利益率
ごろから普及し始めたデジタルカメラ
%
の影響などから同社の主たる収益源だ
ったカラーフィルムが販売不振に陥り、
同部門のイメージングソリューション
部門が、2004 年度から営業赤字に転落
したことが読み取れる。その後も不振が
続いたことから、2005 年度の大胆な構
造改革へとつながったと推測される。
図表3は最近 5 年間の業績の推移を
みたものである。2007 年度までの業績
の回復が著しいこれはそれまでの大手
術の効果が徐々に表れてきたものと思
われる。
(eol から作成)
2
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図表 3 富士フイルムホールディングスの業績の推移
科目名
2006/3
売上高
営業利益
営業利益率
経常利益
経常利益率
当期利益
当期利益率
2007/3
2008/3
2009/3
2010/3
2,667,495
2,782,526
2,846,828
2,434,344
2,181,693
70,436
113,062
207,342
37,286
-42,112
2.64
4.06
7.28
1.53
-1.94
79,615
103,264
199,342
9,442
-41,999
2.98
3.71
7
0.38
-1.93
37,016
34,446
104,431
10,524
-38,441
1.38
1.23
3.66
0.43
-1.77
1.9
1.7
5.4
0.6
-2.2
72.65
67.46
205.43
21.1
-78.67
25
25
35
30
25
ROE
1 株利益
(百万円、%、円)
1 株配当(累計)
(同社『有価証券報告書』第一部【企業情報】第 1【企業の概況】1【主要な経営指標等の推移】から作成)
以上のような業績の推移を念頭に置きながら、富士フイルムホールディングスの【対処すべき課
題】を見てみよう。
図表 4 富士フイルムホールディングスの「対処すべき課題」
年
2004/03
対処すべき課題の概要
同社グループが展開しているさまざまな事業分野において、通信技術や IT 技術の急速な進歩により、デジタル
インパクトと呼ばれる大きなパラダイムの転換が進んでいる。このような経営環境の変化に的確に対応し、新たな
成長軌道に乗せるために、創立 75 周年を迎える平成 21 年3月期に向け、~新たなる出発~ をテーマに、中期
経営計画「VlSl0N75」を策定し、その実現に向けた取り組みをスタートさせた。
この「VlSl0N75」では、「新たな成長戦略の構築」「経営全般にわたる徹底的な構造改革」「連結経営の強化」を
基本戦略として、具体的には、以下の重点課題にグループを挙げて取り組む。
・経営資源の重点配分により、成長事業のさらなる拡大と収益基盤の強化を図る。
・研究開発体制の再構築と研究開発投資の増強・重点化により、将来を担う新規事業を創出する。
・中国及びエマージング市場における生産、販売、サービス活動を強化し、ブランドイメージ向上と事業規模の
拡大を目指す。
・生産、販売・流通、購買にわたるプロセス全てにおいて、体制の見直しと再編及び効率化の追求による思い切
った構造改革を実行し、競争優位を確保する。
・グループ一体となった競争力の強化と成長のため、連結ベースでの事業管理を強化する。
・コンプライアンスとリスクマネジメントの一体的な推進を中心とする適切な内部統制や、より積極的な環境問題
への対応を中心として、企業の社会的責任(CSR)を全うする。
2005/03
前年度ほぼ同じ内容のため、詳細は省く。
2006/03
急速にデジタル化が進展するなど当社を取り巻く事業環境が大きく変化する中、イメージング分野における事業
環境の変化が当初想定していた以上のスピードで進んでいることなどに対応し、イメージング分野での抜本的構
造改 革と、経 営 資源集 中による既存 成長 分野・新規事 業分野の拡大 加速を主たる内容とした中期経営計 画
「VISION75(2006)」を平成 18 年4月に新たに策定した。「VISION75」で掲げた基本戦略を軸に据え、具体的には
以下の重点課題に取り組む。
平成 18 年 10 月からの持株会社化を契機に連結経営をさらに強化し、当社グループ全体として企業価値の最
大化を図る。
2007/03
(1) 当面の対処すべき課題の内容
3
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平成 19 年3月期においては、イメージング分野を中心とする構造改革の完遂、成長事業分野への積極的な設
備投資や M&A による事業拡大、研究開発の中核拠点となる「富士フイルム先進研究所」の設立、持株会社体制
への移行並びに東京ミッドタウン新本社への富士フイルムホールディングス、富士フイルム及び富士ゼロックスの
3社の本社機能集結による連結経営強化のための土台整備などを推進した。これまでのところ中期経営計画に沿
ってほぼ順調に進展してはいるが、VISION75(2006)の戦略をさらに強力に推し進め、今後の成長をより確実なも
のにし、「第 二 の創 業」を成 し遂 げていくことを目 指し、今 般 中 期 経 営 計 画 VISION75(2007)として見 直した。
VISION75(2007)では、「成長戦略のさらなる推進」「強靭な企業体質の実現」をテーマに、VISION75(2006)で掲げ
た重点事業分野への投資を強化していくとともに、グループ全体を対象としたコスト改革「スリム&ストロング活動」
による製造原価や販売費及び一般管理費の低減、シェアードサービスの具体化による間接部門の共有化・効率
化・機能強化などを迅速果断に進めていく。
(2) 会社の支配に関する基本方針について
① 同社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針
株主から経営を負託された取締役会は、その負託に応えるべく、平素から財務及び事業の方針を決定するにあ
たり、中長期的な視点に基づく持続的な成長を通じて、企業価値及び株主共同の利益の確保及び向上を図ること
がその責務であると考えている。他方、財務及び事業の方針の決定に関する支配権の交代を意図する者(以下
「買収提案者」という。)が出現した場合には、そのような者を受け入れるか否かの最終的な判断は、株主に委ねら
れるべきものと考えている。しかしながら、買収提案者の行う提案が企業価値を最大限に反映しているものか否か
を適切に判断することは必ずしも容易ではない。したがって、取締役会は、買収提案者の提案について、その提案
がなされた時点における株主が十分な情報と相当な検討期間に基づいた適切な判断(インフォームド・ジャッジメ
ント)が行えるように、必要な情報の提供と相当な検討期間を確保するための合理的なルールを予め策定し、これ
によって、株主が同社の企業価値の最大化された利益を享受できるようにすることが、取締役会の責務と考えて
いる。もとより、かかるルールは、取締役が自己の保身を図るなど、取締役会による恣意的判断の入る余地のな
い公正で透明性の高いものでなければならないと考えている。
② 基本方針の実現に資する取組み
同社は、上記基本方針の実現のために、前記「(1) 当面の対処すべき課題の内容」に記載の中期経営計画
VISION75 に基づく諸施策に取組み、同社の企業価値及び株主共同の利益の向上に努めている。
③ 基本方針に照らして不適切な者によって同社の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止する
ための取組み
1.株式の大量買付けに関する適正ルール(「株主意思確認型」買収防衛策)導入の目的
上記のとおり、同社は、同社に対する買収提案を受け入れるか否かの最終的な判断は、株主に委ねられるべき
ものであると考えている。その場合に、株主がインフォームド・ジャッジメントを行えるようにするための適正ルール
の導入が必要であると考え、同社は、平成 19 年3月 30 日開催の取締役会において、買収提案者が具体的買付
行為を行う前に経るべき手続きを明確かつ具体的に示した「株式の大量買付けに関する適正ルール(「株主意思
確認型」買収防衛策)」(以下「本ルール」という)の導入を決定した。本ルールは、代替案の検討を含め、取締役
会が買収提案を検討するために必要な情報と相当な期間を確保することにより、買収提案が行われた時点にお
ける株主が、その買収提案に関しインフォームド・ジャッジメントを行えるようにすること、かつ、当該判断が公正で
透明性の高い手続きに基づき行えるようにすることを目的としている。
2.本ルールの概要
同社の株券等を 15%以上取得しようとする者(買収提案者)が本ルールに定める要件(必要情報の提出と検討
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期間の待機)を遵守するときは、同社は、対抗措置である新株予約権の無償割当ての可否につき、その時点にお
ける株主の最終判断を求めるため、株主意思の確認手続きを行う。同社取締役会が、当該買収提案につき、同
社の企業価値及び株主共同の利益の最大化に資すると判断した場合は、株主意思の確認手続きに進むことはな
い。対抗措置である新株予約権の無償割当ての実施は、株主意思の確認手続きの結果、新株予約権の無償割
当てに関し株主の賛同があった場合、又は本ルールに基づく手続きが遵守されない場合に限られる。
3.本ルールの有効期間
本ルールの有効期間は施行日(平成 19 年3月 30 日)から3年間とし、その更新については当社の社外取締役
及び社外監査役の意見を尊重したうえで、取締役会の決議をもって行う。
4.株主への影響
・本ルール導入時に株主に与える影響
本ルールの導入時点においては、新株予約権の無償割当ては行われないで、株主の権利に直接具体的な影
響が生じることはない。
・新株予約権の無償割当てにより株主に与える影響等
同社取締役会が新株予約権の無償割当ての決議において設定する割当期日の最終の株主名簿又は実質株
主名簿に記載又は記録された株主に対し、その保有する同社普通株式1株につき同社取締役会が別途定める新
株予約権割当個数をもって新株予約権が無償で割り当てられる。仮に、新株予約権を保有する株主が、権利行
使期間内に、所定の行使価額相当の金額(発行される同社普通株式1株当たり1円)の払込みその他新株予約
権の行使に係る手続きを経なければ(同社が新株予約権の取得の手続きを取り、新株予約権の取得の対価とし
て新株予約権を保有する株主に同社の普通株式等を交付する場合を除く。)、他の株主による新株予約権の行
使により、その保有する同社株式が希釈化されることになる。
④ 前記②及び③の取組みが会社支配に関する基本方針に沿うものであり、株主の共同の利益を損なうもの
ではないこと、会社役員の地位の維持を目的とするものではないこと及びその理由
1.前記②の取組みについて
前記②の取組みが、上記の基本方針に沿い、株主共同の利益を損なうものではなく、また取締役の地位の維持
を目的とするものではないことは、中期経営計画 VISION75 に基づく諸施策の内容から明らかであると考える。
2.前記③の取組みについて
買収提案を受け入れるか否かの最終的な判断は、公正で透明性の高い株主意思の確認手続きを通じて、買収
提案が行われた時点における株主に委ねるべきとの基本方針に沿って本ルールは設計されており、株主共同の
利益を最大限に尊重するものといえる。加えて、本ルールは、同社取締役会が企業価値及び株主共同の利益の
最大化のために代替案を検討しうる機会を確保するとともに、株主にインフォームド・ジャッジメントの機会を確保
する仕組みになっている。買収提案がなされた場合の本ルールに基づくこれらの手続きは、事前に客観的かつ具
体的に定められており、極めて透明性の高い制度設計となっている。更に、本ルールは、取締役会の恣意的判断
で株主意思の確認手続きを阻止したり、手続きの進行を遅延させたりできないような仕組みとなっており、取締役
が自己の地位を維持することを目的として買収防衛策を発動することができないように設計されている。
2008/03
(1) 当面の対処すべき課題の内容の概要は次のとおり。
原材料価格の高騰や円高進行などにより、同社グループの経営環境は厳しさを増している。今般、中期経営計
画 VISION75(2008)として見直し、成長戦略をさらに加速させるとともに、スリム&ストロング活動をより強力に推し
進めていくことで、今後の成長をより確実なものとし、企業価値のさらなる向上を目指す。その一つとして、平成 20
年3月より子会社とした富山化学工業を足がかりに医薬品事業に本格参入した。同社の優れた創薬力やノウハウ
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と、富士フイルムが長年培ったナノテク等の独自の技術を組み合わせ、「異業種連携による新薬創出モデル」を実
現する。加えて、同社の財務力、海外販売ノウハウ、人材などの強みを投入することで、スピード感を持って新薬
開発に取組み、大きなシナジーを生み出していく。
(2) 会社の支配に関する基本方針についてについては前年度の同じ内容のため割愛する。
2009/03
(1)当面の対処すべき課題の内容
同社グループは、中期経営計画 VISION75 の基本戦略に基づき、イメージング分野を中心とした構造改革を実
施するとともに、成長が期待される重点事業分野を定めて経営資源を集中させ、これらの事業を大きく伸ばしてき
た。しかし、世界的な経済環境の悪化により、同社グループの業績は一転して急激に悪化し、今後も厳しい状況
が続くと思われる。
まず、強靭な企業体質を構築するために、グループ全体・全事業を対象に、聖域を設けることなく、構造改革を
平成 21 年度より集中的に断行するとともに、徹底したコスト・経費削減を実施していく。具体的には、①間接部門
の大幅スリム化、②研究開発の効率化・重点分野へのシフト、③フォト事業の徹底的なスリム化、④デジタルカメラ
事業の抜本改革、⑤ドキュメント ソリューション部門の経営革新活動の強化を柱とする構造改革を行い、グルー
プ全体で大幅な固定費削減・資産圧縮を図る。平成 21 年度において約 1,450 億円の構造改革費用が発生する見
込み。
さらに、「メディカルシステム・ライフサイエンス」「グラフィックシステム」「ドキュメント」「光学デバイス」「高機能材
料」といった、今後も市場成長が期待される重点事業分野に経営資源を集中的に投入するとともに、新興国にお
いて販売を拡大しシェアアップを図る等、成長戦略を再構築していく。同時に、変革リーダーの育成をはじめとした
人材戦略を強化するとともに、経営資源の重点化を実現するために ROA などの資産効率の指標を各事業の評価
基準として導入する等、同社グループが今後継続して成長していくための基盤も構築していく。
(2)会社の支配に関する基本方針については、前年度と同じ理由により割愛する。
2010/03
(1)当面の対処すべき課題の内容
同社グループは、イメージング分野を中心とした構造改革を実施するとともに、成長が期待される重点事業分野
を定めて経営資源を集中させ、これらの事業を大きく伸ばしてきた。しかし、平成 20 年秋以降の世界的な経済環
境の悪化により、同社グループの業績は一転して急激に悪化し、厳しい状況が続いている。
強靭な企業体質を構築するため、グループ全体・全事業を対象に、聖域を設けることなく、構造改革を集中的に
断行するとともに、徹底したコスト・経費削減を実施している。「メディカルシステム・ライフサイエンス」「グラフィック
システム」「ドキュメント」「光学デバイス」「高機能材料」「デジタルイメージング」は、今後も市場成長性が高く、市場
でのポジション・技術力・商品力等のグループの競争優位性が高い事業分野であり、これらを重点事業分野として
引き続き経営資源を集中的に投入していく。さらに、新興国において拡販を推進しシェア拡大を図る等、成長戦略
を再構築している。特に、メディカルシステム・ライフサイエンス事業は、経営資源の戦略的集中投入により、事業
規模を大幅に拡大することで、同社グループの基幹事業に育成していく。また、今後市場の拡大が見込まれるデ
ジタルプリンティング分野については、グループの技術・販路・ブランド等のリソースを結集し、当社グループの中核
事業のひとつとして強化していく。技術優位性が高い高機能材料事業においては、顧客ニーズの把握に努め、先
進・独自の技術を活かして顧客ニーズに応えることで、既存事業の周辺領域へ展開するとともに、将来成長が期
待される新規分野での事業基盤を構築していく。 これらの経営施策を遂行することで、同社グループは中長期的
な成長を確実なものとし、企業価値のさらなる向上を目指す。
(2)会社の支配に関する基本方針については、前年度ほぼ同じ内容のため、省略する。
(同社『有価証券報告書』第一部【企業情報】第 2【事業の状況】3【対処すべき課題】から作成)
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富士フイルムホールディングスは、少なくとも 2003 年度の時点で、主力商品の銀塩フイルムの
将来性に疑問を持ち始めていたと思われる。同年度に策定された中期経営計画「VISION75」は、
創立 75 周年を迎える 5 年後を視野に、~新たなる出発~ をテーマに掲げて、
「新たな成長戦略の
構築」「経営全般にわたる徹底的な構造改革」「連結経営の強化」の 3 つの基本戦略を打ち出した。
しかし急速なデジタル化の進行に直面し、2005 年度には、先に策定した中期計画を改め、新たに
中期経営計画「VISION75(2006)」を策定した。イメージング分野の抜本的な構造改革と、経営
資源集中による既存成長分野・新規事業分野の拡大に一層力を入れ始めた。
2006 年度からは、対処すべき課題の内容は 2 本柱の構成になった。まず、(1)当面の対処すべ
き 課 題 は お お む ね 前 年 度 ま で の 記 述 と 同 じ だ が 、 中 期 経 営 計 画 を 再 度 見 直 し し 、「 VISION75
(2007)」とした。その骨子は「成長戦略のさらなる推進」
「強靭な企業体質の実現」をテーマに「第
二の創業」を成し遂げていくというもの。2 つの目の柱である(2)会社の支配に関する基本方針
については、同年度から、株式会社が当該株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在
り方に関する基本方針(以下この号において「基本方針」という)を定めているときは、会社法規
則第 118 条第 3 号に掲げる事項を記載することとされたことからを記述されるようになった。
その内容は、同社に対して買収提案がなされた場合はその検討及び交渉に必要な情報と相当な時
間を確保するとともに、濫用的な買収を抑止し、同社の企業価値・株主共同の利益の確保及び向上
を図るための合理的な枠組みが必要であるとして、「株主意思確認型」買収防衛策を導入したこと
を説明している。
2007 年度には、
「中期経営計画 VISION75(2008)」として見直し、成長戦略をさらに加速させる
とともに、スリム&ストロング活動をより強力に推し進めていくことで、今後の成長をより確実な
ものとし、企業価値のさらなる向上を目指す方針を打ち出した。2 つ目の柱である会社の支配に関
する基本方針については、前年度と同じ内容である。
2008 年度は、リーマンショックによる世界同時不況の発生による深刻な影響から抜け出すため、
まず、強靭な企業体質を構築することを目的として、グループ全体・全事業を対象に、聖域を設け
ることなく、構造改革を平成 21 年度より集中的に断行するとともに、徹底したコスト・経費削減を
実施していくとした。会社の支配に関する基本方針については、前年度と同じ内容である。
2009 年度においても、同社
の基本戦略には大きな変化
%
はなく、引き続き成長戦略を
継続していくと説明してい
る。しかし、収益力は、ひと
まず最悪期を脱したものの、
依然として十分な水準であ
るとは言えない。
図表5は富士フイルムホ
ールディングスの連結売上
高営業利益率の推移を表し
たものである。最盛期の 1980
年代後半に 17%台を誇った営
業利益率は今や見る影もな
くなっている。収益力の向上
は今後も同社にとっての最
eol から作成(後半ページ「付 4」を参照)
大の課題といえよう。
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3.IHI
まず、IHIの沿革を簡単に紹介しよう。同社は明治 22 年有限責任石川島造船所として設立され
た。その前身は、嘉永6年ペルリ渡来を動機として隅田河口の石川島に幕命により創設された造船
所である。昭和 20 年に石川島重工業と改称、同 35 年に播磨造船所を合併し,商号を石川島播磨重
工業とした。その後も造船、機械各社を合併する一方、宇宙航空事業を日産自動車から譲り受ける
など事業領域の拡大が続いた。
図表6はIHIの最近 5 年間の業績の推移を表したものである。IHIの最近 5 年間の業績の推
移をみると、この間に経常損益段階で 2 度、当期損益の段階で 2 度赤字に転落している。その原因
を同社の有価証券報告書から探ってみよう。
図表 6 IHIの連結経営指標等 (百万円、円、%、倍、人)
回次
第 189 期
第 190 期
第 191 期
第 192 期
第 193 期
決算年月(平成)
18 年 3 月
19 年 3 月
20 年 3 月
21 年 3 月
22 年 3 月
売上高
1,127,075
1,221,016
1,350,567
1,388,042
1,242,700
15,908
△8,732
△30,812
13,521
33,027
5,283
△4,593
25,195
△7,407
17,378
純資産額
169,237
227,047
234,406
205,950
227,065
総資産額
1,461,796
1,536,078
1,542,295
1,489,342
1,412,421
130.36
144.70
149.96
130.96
144.66
3.93
△3.46
17.18
△5.05
11.85
11.58
13.82
14.26
12.89
15.02
3.27
△2.41
11.66
△3.60
8.60
株価収益率
95.00
―
11.23
―
14.43
営業活動によるCF
3,498
36,086
3,339
△17,638
76,708
投資活動によるCF
3,386
△57,374
46,789
△41,727
△62,754
財務活動によるCF
△12,743
13,030
△48,786
42,812
△1,800
137,382
129,939
130,428
107,720
124,870
23,364
23,190
23,722
24,348
24,890
経常損益
当期純損益
1株当り純資産額
1株当り当期純損益額
自己資本比率
自己資本利益率
現金及び現金同等物
の期末残高
従業員数
(同社『有価証券報告書』第一部【企業情報】第 1【企業の概況】1【主要な経営指標等の推移】から作成)
(注)1
売上高には、消費税等は含まれていない。
2
平均臨時従業員数については、従業員の 100 分の 10 未満であるため記載していない。
3
金額及び比率は単位未満を四捨五入表示している。
4
純資産額の算定にあたり、平成 19 年3月期から「貸借対照表の純資産の部の表示に
関する会計基準」(企業会計基準第5号)及び「貸借対照表の純資産の部の表示に関
する会計基準等の適用指針」(企業会計基準適用指針第8号)を適用している。
5
CFはキャッシュフローの略。△は赤字。
図表7は同社の有価証券報告書に記載されている業績の推移の記述から筆者が作成したものであ
る。
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図表7 IHIの最近 5 年間の業績の推移
決算期
18 年 3 月期
要点
概要
3.5%の増収、159 億
当年度の受注高は前年度比 5.7%増の1兆 2255 億円となった。売上高は前年
円の経常利益、52
度比 3.5%増の1兆 1270 億円、当年度末の受注残高は、前年度末比 7.3%増の 1
億円の利益
兆 5300 億円となった。損益面については、営業利益が 217 億円、経常利益が
159 億円、当期純利益が 52 億円。
19 年 3 月期
営業利益は前年度
当年度末の受注残高はエネルギー・プラント事業、航空・宇宙事業を除いて増
比 28 億円増の 246
加し、前年度末比 10%増の1兆 6804 億円となった。損益面は、特許使用権及
億円、当期純利益
び一部の長期前払費用の償却費計上区分を従来の営業外費用から営業費用
は前年度比 105 億
に変更したことが営業損益の悪化要因となったものの、船舶・海洋部門の損益
円増の 158 億円
改善等により、営業利益は前年度比 28 億円増の 246 億円、上記費用計上区
分の変更等に起因する営業外損益の改善により、経常利益は前年度比 56 億
円増の 215 億円、宇宙開発事業関連資産評価損を計上したものの、土地等売
却益が増加したことや減損損失が減少したこと等により、当期純利益は前年度
比 105 億円増の 158 億円となった。
20 年 3 月期
10.6%の増収、308
当年度の受注高は、前期比 14.4%増の1兆 5565 億円となった。売上高は、前
億円の経常損失、
年度比 10.6%増の1兆 3505 億円となった。また、当年度末の受注残高は、前
当期純利益は 251
年度末比 6.7%増の1兆 8193 億円となった。損益面については、エネルギー・
億円
プラント事業の大幅な業績悪化により、営業損失が 168 億円、経常損失が 308
億円となり、当期純利益は固定資産売却などにより 251 億円となった。
21 年 3 月期
2.8%の増収の1兆
当年度における受注高は、前期に大型プラントの受注があったこともあり、前期
3880 億円、135 億円
比 24.4%減の1兆 1767 億円となった。売上高は、一部の機種で景気後退の影
の経常利益、当期
響を受けたものの、前期比 2.8%増の1兆 3880 億円となった。損益面は、資機
純損失は 74 億円
材価格の上昇に加え、円高や景気後退による減益はあったものの、前期に業
績が大幅に悪化したエネルギー・プラント事業の回復などにより、営業利益は
256 億円、経常利益は 135 億円となった。特別損益として、土地の売却に伴う
固定資産売却益の計上や、回収が困難と見込まれる債権に対する貸倒引当
金繰入額などの損失を計上した結果、当期純損失が 74 億円となった。
22 年 3 月期
10.5%の減収の
当年度における受注高は、前期比 17.5%減の 9704 億円となった。売上高は、
9704 億円、144.3%
船舶・海洋事業及び物流・鉄構事業が堅調に推移したものの、エネルギー・プ
増の経常増益の 330
ラント事業および機械事業などで減収となったため、前期比 10.5%減の 1 兆
億円、当期純利益
2427 億円となった。一方、利益面では、エネルギー・プラント事業、物流・鉄構
は 173 億円
事業の採算性が改善したことなどにより、営業利益は前期比 83.6%増の 471 億
円、支払利息などを差し引いた経常利益は前期比 144.3%増の 330 億円、特別
損益でGXロケットに係るプロジェクトの中止による損失などを計上した結果、当
期純利益は 173 億円となった。
(同社『有価証券報告書』第一部【企業情報】第 2【事業の状況】1【業績等の概要】から作成)
IHIの「対処すべき課題」の概要は図表8のとおりである。図表8を基に各年度の対処すべき
課題を整理すると、次のようになる。
2005 年度(平成 18 年 3 月期)は、2 年前に策定した「経営方針 2004」に基づき、収益性の改善
を最優先した。その柱となったものは、①営業力の強化、②収益重視の受注、③コストダウンの徹
底、④受注工事の採算向上であった。
国内橋梁の受注活動に関して公正取引委員会より独占禁止法違反の審決を受けた。同社グループ
は、コンプライアンスの徹底を経営の最重要課題と位置づけ、実効性のあるコンプライアンス体制
を構築していくという課題に直面した。
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2006 年度は、平成 18 年 11 月に公表した「グループ経営方針 2007」に基づき、平成 19 年度から
平成 21 年度までの3ヵ年において「エネルギー・環境」「ロジスティックス」「輸送・原動機」「セ
キュリティ(安全・安心)」の4つの戦略事業領域を策定した。また、商号をIHIに変更した。ブ
ランド戦略の強化を図ることが狙いである。
2007 年度は、事業の選択と集中を進めるとともに、グローバル市場における競争力を強化し、グ
ループ各社が一体となって収益向上に取り組む体制を構築していくこととした。また、同社は、平
成 20 年 4 月 18 日に臨時株主総会を開催し、平成 19 年 3 月期決算の訂正の概要、過年度決算の訂正
に至った経緯、調査の結果、今後の対応について報告するという事態に直面した。
この過年度決算訂正に関連し、同社株式は、札幌・東京・大阪・福岡の各証券取引所により、内
部管理体制について改善の必要性が高いと判断され、特設注意市場銘柄への指定(平成 21 年 5 月に
解除された)。さらに、証券取引等監視委員会から内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、同社の有
価証券報告書等に虚偽記載があったとして、同社に対し課徴金納付命令を発出するよう勧告があっ
た。コーポレート・ガバナンスの更なる強化と再発防止策の実行と内部管理体制の徹底という新た
な課題が生じた。
2008 年度は、4 つの戦略事業領域を中心に、事業の選択と集中を進めるとともに、グループ各社
が一体となって収益向上に取り組む体制を構築してきた。
「エネルギー・環境」・・・・・・LNG貯蔵設備、ボイラ、原子力などの事業
「ロジスティックス」・・・・・・比較的需要が底堅い業界に注力
「輸送・原動機」・・・・・・・・航空機エンジン市場
「セキュリティ(安全・安心)」・・障害物検知装置や抗体医薬向けプラント
グローバル市場での取り組みを強化するため、同社は、平成 20 年7月の米州統括会社設立に続き、
平成 21 年 4 月にはアジア総支配人を配置した。さらに、競争力の源泉である「ものづくり力」を強
化するため、平成 21 年 4 月にものづくり改革推進本部を設置した。
2009 年度は、平成 21 年 5 月に中長期の成長に向けた施策の基本方針として「IHIグループビ
ジョン」を定め、次の 5 事業領域を、主導的な事業とした。
「資源・エネルギー」・・・・・・・発電プラント、LNGの貯蔵プラント、原子力
「船舶・社会基盤・セキュリティ」・ワクチン製造、交通安全支援システム
「産業機械・システム」・・・・・・生産・物流設備需要の獲得
「回転・量産機械」・・・・・・・・車両用過給機・圧縮機等
「航空・宇宙」・・・・・・・次世代航空エンジン、ロケットエンジンの開発
さらに、平成 21 年 11 月に、平成 22 年度を初年度とする今後3ヵ年の中期的な経営計画である「グ
ループ経営方針 2010」を策定した。平成 24 年度の具体的な経営指標の目標として、連結売上高1
兆 4000 億円程度、連結経常利益 600 億円、有利子負債残高 4000 億円未満、設備投資・研究開発投
資 2000 億円(3 ヵ年合計)を掲げた。
同社グループの共通の課題への対応策として、平成 22 年 4 月に 3 つの新組織を設置した。新組織
を核とした営業力の強化を目指す。
「グローバル戦略部」・・・・各事業のグローバル化推進と効率的な運営
「総合営業部」・・・・・事業横断的な営業力の強化
「新事業推進部」・・・・新事業のインキュベーションの強化・スピードアップ
IHIの過去 5 年間の対処すべき課題を概観して言えることは、機械・造船の総合メーカーとし
て、事業領域が拡大しすぎたことの反省に立ち、選択と集中を進めようとする中で、独禁法違反に
みられるコンプライスの欠如、過年度決算の修正によるコーポレート・ガバナンスの不在が相次い
で明らかになったことである。従業員がグループで約 2 万 5000 人という巨大企業だけに、高い技術
力を持ちながらも同社が目指す事業構造の転換や永年の課題である収益力の向上への道のりはなお
不透明である。
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図表 8 IHIの対処すべき課題の概要
決算期
18 年 3 月期
概要
同社は、平成 16 年 8 月に公表した「経営方針 2004」に基づき、当期までの 2 か年を経営再建期間と
位置づけ、収益性の改善を最優先にした経営施策の着実な実行に努めるとともに、企業としての成長
と収益確保に向けての施策も併せて実施してきた。今後も、営業力強化と収益重視の受注、調達費削
減を中心とするコストダウンの徹底のほか、受注工事の採算を向上させるためのプロジェクト管理の改
善など、競争力の強化と収益性の向上を推進する施策を継続的に実施し、企業体質を強化していく。
また、不採算・低収益事業の縮小・整理と重点事業の拡大・強化など事業構造の改革も引き続き実行
していく。
当期において、国内橋梁の受注活動に関して公正取引委員会より独占禁止法違反の審決を受け
た。同社グループは、この事態を真摯に受け止め、コンプライアンスの徹底を経営の最重要課題と位置
づけ、実効性のあるコンプライアンス体制を構築していく。具体的には、コンプライアンス専門部署を独
立組織とし、「コンプライアンス統括室」として再編したほか、社内コンプライアンス委員会の運営を充実
させるとともに、内部監査の強化と併せて、内部通報制度の改善、独占禁止法遵守を徹底するための
社内教育の拡充などの施策を強力に進めていく。
19 年 3 月期
同社グループは平成 18 年 11 月に公表した「グループ経営方針 2007」に基づき、平成 19 年度から
平成 21 年度までの 3 ヵ年において「エネルギー・環境」「ロジスティックス」「輸送・原動機」「セキュリティ
(安全・安心)」の 4 つの戦略事業領域を中心に利益の柱となる事業(強化事業)への経営資源の集中
をスピードをもって進め収益性を高めるとともに、新規事業の創出にも取り組んでいく。さらに、この4分
野に包含されない事業については、選択と集中を一層進め、収益性の向上を図っていく。「グループ経
営方針 2007」に沿った経営をすることにより、収益性の高い企業グループとして成長することを目標と
するとともに、グループの財務体質改善についてもあわせて取り組んでいく。 また、コンプライアンス、
安全をはじめとする社会的責任を果たしつつ、グループの各事業が、営業力の強化、マーケティング
力・研究開発力の強化、設計・生産・調達・据付・建設にわたる技術力・管理能力の強化のための施策
を実施することにより、グローバルに競争力を持つグループに変革していく。
同社はこのたび、グループ全体でより先進的なグローバルブランドへの成長を目指すために、商号を
当社の略称として広く認知されてきた「IHI」に変更し、グループ全体のブランド戦略を強化することとし
た。商号変更は、事業構造改革に向けた強い意思を込めたもので、新しい社名のもと、グループ全体
の企業価値向上に努めていく
20 年 3 月期
同社グループは、平成 18 年 11 月に策定した「グループ経営方針 2007」に基づき、事業の選択と集
中を進めるとともに、グローバル市場における競争力を強化し、グループ各社が一体となって収益向上
に取り組む体制を構築していく。輸送・原動機分野においては、成長を続ける航空機エンジン市場にお
いて主要メーカーの地位を確立すべく、技術力・生産力を強化していく。環境対策需要及びグローバル
市場での需要が高まっている車両用過給機、陸舶用原動機、農機・小型原動機などの事業を強化して
いく。ロジスティクス及び社会・産業基盤の分野においては、システム・エンジニアリング及びキーとなる
主要製品の生産を鍵とする次世代の生産・物流システムの提案に取り組むとともに、橋梁・交通・船
舶・海洋など社会基盤を形成する分野において、選択と集中を図りつつグローバルに事業を展開する。
エネルギー・環境分野においては、ボイラ、原子力、LNG 貯蔵設備などの事業について技術的優位
性を発揮できる機種への絞込み、徹底した選別受注とリスク管理強化による収益性の回復を最重要の
課題として取り組む。同社は、平成 20 年 4 月 18 日に臨時株主総会を開催し、平成 19 年 3 月期決算
の訂正の概要、過年度決算の訂正に至った経緯、調査の結果、今後の対応について報告した。この過
年度決算訂正に関連し、同社株式は、札幌・東京・大阪・福岡の各証券取引所により、内部管理体制
について改善の必要性が高いと判断され、特設注意市場銘柄への指定を受けた。また、証券取引等
監視委員会から内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、同社の有価証券報告書等に虚偽記載があ
ったとして、同社に対し課徴金納付命令を発出するよう勧告があった。当該内容については、重要な後
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発事象に記載している。同社グループは、この事態を厳粛かつ真摯に受け止め、コーポレート・ガバナ
ンスの更なる強化と再発防止策の実行と内部管理体制の徹底に向けて、グループ一丸となって全力を
尽くしていく。
21 年 3 月期
同社グループは、平成 18 年 11 月に策定した「グループ経営方針 2007」に基づき、事業の選択と集中を
進めるとともに、グループ各社が一体となって収益向上に取り組む体制を構築してきた。今後は、不透
明な経済情勢の中で収益性を高めるため、諸費用の削減や定期点検・短納期工事の取り込み、為替
リスク管理の強化、資機材調達における円高メリットの活用並びに受注前審査と受注後の管理強化な
どに取り組んでいく。エネルギー・環境分野においては、LNG貯蔵設備、ボイラ、原子力などの事業に
ついて技術的優位性を発揮できる機種への絞込み、徹底した選別受注とリスク管理強化による収益性
の回復を引き続き最重要の課題として取り組んでいく。ロジスティックス及び産業基盤の分野において
は、比較的需要が底堅い業界に注力分野を絞り込んでいく。橋梁、船舶・海洋など社会基盤を形成す
る分野においては、選択と集中を図りつつグローバルに事業を展開していく。その一環として、平成 21
年 5 月 18 日付けで、㈱栗本鐵工所及び松尾橋梁㈱の橋梁・水門及びその他鋼構造物事業を、平成
21 年 10 月1日(予定)を目処として同社の完全子会社において統合することに関して、3 社間の基本合
意に至った。輸送・原動機分野においては、現在の経済環境下で一時的な落ち込みはあるものの、航
空機エンジン市場において主要メーカーの地位を確立すべく、技術力・生産力を強化していく。また、環
境対策需要及びグローバル市場での需要が高まっている車両用過給機、陸舶用原動機などの事業を
強化していく。セキュリティ(安全・安心)分野においては、障害物検知装置や抗体医薬向けプラントな
ど安全・安心な社会を実現する事業に取り組んでいく。グローバル市場での取り組みを強化するため、
同社は、平成 20 年7月の米州統括会社設立に続き、平成 21 年 4 月にはアジア総支配人を配置した。
今後は、これらの拠点を活用し、さらなる成長を目ざして体制を整備していく。さらに、競争力の源泉で
ある「ものづくり力」を強化するため、平成 21 年 4 月にものづくり改革推進本部を設置し、グループ内資
源の最適活用など、「ものづくり」の総合力を再構築するべく努めていく。 当社グループは、これまでビ
ジネスリスク管理体制の確立と運用、金融商品取引法に基づく内部統制システムの運用と評価、月次
業績把握の強化と適時開示体制の整備、事業体制改善モニター委員会によるモニタリングなどを通じ
て、リスク管理体制の強化、内部統制システムの確立など内部管理体制の強化に取り組むとともに、コ
ーポレート・ガバナンスの充実に努めてきた。平成 21 年度においても、これらの取り組みを継続するとと
もに、為替管理、建設機械事業において発生した貸倒引当金問題を教訓とした与信管理などビジネス
リスク管理体制の強化に取り組んでいく。
なお、当社は平成 19 年 3 月期に係る訂正有価証券報告書・訂正半期報告書を提出したことにより、
東京・大阪・福岡・札幌各金融商品取引所の審査を経て、当社株式が特設注意市場銘柄に指定され
た。かかる事態が生じた主たる要因は、売上・損益を工事進行基準により計上している工事において、
事業部門による工事原価総額及び工事収益総額の見積に誤謬が生じたこと、及び本社部門によるモ
ニタリング体制も万全ではなかったためであり、既に見積算定要領の明確化と徹底、財務部によるモニ
タリング体制の整備並びに該当工事を対象とした監査体制の整備を行ない、誤謬のみならず、役職員
の不正行為に伴い発生しうる同様な事例の発生を根絶するべく対応している。この結果、平成 21 年 5
月 12 日付けで特設注意市場銘柄の指定は解除されている。
同社グループの中長期的な成長に向けた施策として、平成 21 年 5 月に次期中期計画策定の基本方
針となる「IHIグループビジョン」を定めた。その中で、「IHIグループは、21 世紀の環境、エネルギー、産
業・社会基盤における諸問題を、ものづくり技術を中核とするエンジニアリング力によって解決し、地球
と人類に豊かさと安全・安心を提供するグローバルな企業グループとなる」という目指す企業像を明確
にするとともに、「資源・エネルギー」、「船舶・社会基盤・セキュリティ」、「産業機械・システム」、「回転・
量産機械」、「航空・宇宙」の 5 つの事業領域を定めた。今後、経済状況や各事業の競争力を見極めた
上で、平成 21 年度内には「グループ経営方針 2007」に続く次期中期計画を策定し、中長期の成長に向
けた施策を進めていくことにより、ステークホルダーからの期待に応えていく。
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22 年 3 月期
同社グループは、平成 21 年 5 月に中長期の成長に向けた施策の基本方針として「IHIグループビジョ
ン」を定め、「資源・エネルギー」、「船舶・社会基盤・セキュリティ」、「産業機械・システム」、「回転・量産
機械」、「航空・宇宙」の5事業領域においてそれぞれ集中と選択を加速し、主導的な事業を生み出して
いく旨を明確にしたことに続き、平成 21 年 11 月に、平成 22 年度を初年度とする今後3ヵ年の中期的な
経営計画である「グループ経営方針 2010」を策定した。
「グループ経営方針 2010」においては、具体的な経営指標の目標として、連結売上高1兆 4000 億円
程度、連結経常利益 600 億円、有利子負債残高 4000 億円未満(平成 25 年 3 月期末時点)、設備投
資・研究開発投資 2000 億円(3 ヵ年合計)を掲げた。これらを達成するために、特に原子力機器、フロー
ティングLNG貯蔵設備、車両用過給機等7事業を成長・注力機種として指定し、優先的に経営資源を
投入するなどして積極的な展開を図り、次世代の収益の柱とする。
これらの事業戦略の実施に当たっては、「パラダイムシフト」をキーワードとして最重要視している。従
来のビジネススタイルを根本的に見直し、スピード感をもって変革を進めていく。具体的には、ビジネス
モデルにおける「本体販売重視からライフサイクル重視へ」及び「国内中心からグローバル展開へ」、ま
た製品戦略としての「技術シーズ重視から市場ニーズ重視へ」を意識して諸施策を進めていく。
資源・エネルギー分野においては、新興国を中心とする発電プラントの拡大、LNGの需要増をにらん
だ陸上・海上の貯蔵プラントの拡大、原子力ルネッサンスに対応した原子力関連機器の供給体制強化
に取り組んでいく。船舶・社会基盤・セキュリティ分野のうち、船舶部門はエンジニアリング事業とライフ
サイクルビジネスの強化、社会基盤部門は新興国を中心とする新設需要と先進国を中心とする更新・
長寿命化需要の獲得、またセキュリティ分野ではワクチン製造、交通安全支援システムなどの新領域
に取り組んむ。
産業機械・システム分野は、中国をはじめとする新興国の産業の高度化に伴う生産・物流設備需要
の獲得を目指していく。
回転・量産機械分野は、車両用過給機・圧縮機等を中核に、中国を含む新興国でのボリュームゾー
ンへの量的拡大と、環境対応技術が競争優位となる欧州市場での需要獲得に取り組んでいく。
航空・宇宙分野は、次世代航空エンジンの開発と既存エンジンの整備事業の拡大、及び宇宙輸送シ
ステム分野への参入をにらんだロケットエンジンの開発受注を目指す。
一方、同社グループの共通の課題への対応策として、平成 22 年 4 月に設置した 3 つの新組織を核
として進めていく。まず「グローバル戦略部」を中心として、各事業のグローバル化推進と効率的な運営
を図っていく。次に、多様な製品・サービスを有する同社グループの強みをさらに発揮するために「総合
営業部」が中心となって事業横断的な営業力を強化していく。一方、「新事業推進部」が新事業のイン
キュベーションの強化・スピードアップを推進していく。
同社グループは、平成 20 年 2 月 9 日に、平成 19 年 3 月期に係る訂正有価証券報告書・訂正半期
報告書の提出に伴い、東京証券取引所より特設注意市場銘柄に指定されたが、関連業務プロセスの
改善、およびこれを担保する内部のモニタリング体制の整備に全力を注ぎ、その結果、平成 21 年 5 月
12 日付けで当該特設注意市場銘柄の指定の解除を受けた。これまでに確立させたビジネスリスク管理
体制および内部統制システムに満足することなく、これをより充実させ、かつ着実に運用していく。加え
て、平成 22 年 4 月に設置した CSR 推進部を中心に企業の社会的責任を一層果たす。
同社グループは、これらの施策を通して、企業価値の極大化とグローバルな企業グループへの進化
に取り組んでいく。
(同社『有価証券報告書』第一部【企業情報】第 2【事業の状況】3【対処すべき課題】から作成)
以上
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