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(図表27~30以外)

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(図表27~30以外)
欧州 3 ヶ国の医療・介護分野における公的制度
の最新動向と民間保険市場の現状
目
次
Ⅰ.本稿の狙いと構成
Ⅳ.フランスの医療・介護分野における公的制度と
Ⅱ.民間保険の役割と位置づけ
民間保険市場
Ⅲ.イギリスの医療・介護分野における
Ⅴ.ドイツの医療・介護分野における公的制度と
公的制度と民間保険市場
民間保険市場
Ⅵ.まとめ
主任研究員 長岡繁樹 主任研究員 細田道隆 研究員 江頭達政
要
約
Ⅰ. 本稿の狙いと構成
本稿では、欧州 3 ヶ国の医療・介護分野における民間保険市場の役割と動向について現状分析することを
目的とする。分析対象のイギリス、フランスおよびドイツは欧州の中でも民間保険市場の規模が比較的大き
いと考えられるためである。分析は各国別に行うこととするが、民間保険市場について分析するためには、
当然のことながら各国の公的制度の現状および改革動向について把握することは不可欠である。このため各
国ともまず公的制度の概観から行うこととする。なお、使用している文献、各種統計データは 2000 年 8 月時
点で入手可能なものであり、統計データ年については 1998 年のものが中心となっているが、国により新旧の
差がある。
Ⅱ. 民間保険の役割と位置づけ
欧州 3 ヶ国とも医療制度は国家の制度として確立されているので、民間保険の機能はいずれの国でも補完
的なものとなっている。しかし、民間医療保険の位置づけは国によって異なっている。この点を公的制度と
の接点を示しながら明らかにする。高齢者介護に関わる社会保障制度については、各国とも独自の制度と
なっており、任意の民間介護保険は、フランス、ドイツが比較的普及している状況である。
Ⅲ. イギリスの医療・介護分野における公的制度と民間保険市場
まず、医療・介護分野における公的制度の現状と最近の改革動向について概観する。その後、民間保険市
場の役割と動向について分析する。
Ⅳ. フランスの医療・介護分野における公的制度と民間保険市場
まず、医療・介護分野における公的制度の現状と最近の改革動向について概観する。その後、民間保険市
場の役割と動向について分析する。
Ⅴ. ドイツの医療・介護分野における公的制度と民間保険市場
まず、医療・介護分野における公的制度の現状と最近の改革動向について概観する。その後、民間保険市
場の役割と動向について分析する。
Ⅵ. まとめ
欧州 3 ヶ国の民間保険市場の現状について総括する。
38
Ⅰ. 本稿の狙いと構成
Ⅱ. 民間保険の役割と位置づけ
1. 本稿の狙い
1. 公的医療制度と民間医療保険
本稿では、欧州 3 ヶ国の医療・介護分野におけ
詳細は各国別分析に譲るが、まず、公的医療制
1
る民間保険市場 の役割と動向について現状分析す
度と民間医療保険との関係を明確化するため、各
ることを目的とする。分析対象とするイギリス、
国の概況について簡単に整理してみる。
フランスおよびドイツの 3 ヶ国は欧州諸国の中で
イギリスの医療制度は、全国民を対象とした国
も人口規模および経済規模が大きく、民間保険市
民保健サービス(National Health Service: 以下、
場も比較的発達していると考えられるためである。
「NHS 」という。)と呼ばれる公的医療制度が基本
ただし、欧州 3 ヶ国の公的医療制度は財政基盤が
となっており財源は税金である。ただし、患者は、
税方式か社会保険方式かの相違はあるものの原則
救急医療を除いて予め指定された一般家庭医
として全国民を対象としており、国家の社会保障
2
制度の一環として確立されている。従って、現状
診療を受けねばならず医療機関への自由なアクセ
においては民間保険は機能的にはあくまで公的制
スはない。患者の自己負担部分は少ないが、高度
度を補完するものとして位置づけられており、市
先進医療を初めとする私費医療や個室ベッドなど
場規模は損害保険、生命保険分野と比較して大き
のアメニティ部分は対象外である。民間医療保険
くない。ただし、各国とも高齢化の進展と医療技
は、これら公的制度でカバーされない部分を担保
術の進歩等に伴う医療費の増大を抑制するため過
したり医療機関への自由なアクセスを可能とする。
去幾度となく医療制度の改定を行ってきたところ
フランスの医療制度は、全国民を対象とした社
であるが、早急かつ抜本的な解決は依然として困
会保険制度となっている。イギリスと異なり医療
難な状況である。従って、今後民間保険部門の機
機関へのアクセスは自由であるが、患者の自己負
能・役割が見直しされることも十分考えられると
担部分は平均的にみて治療費の 30%程度と高い。ま
ころである。このような観点から、本稿では、ま
た、私費医療や個室ベッド等のアメニティ部分は
ず各国の公的医療制度および高齢者に関わる社会
カバーされない。民間医療保険は、患者自己負担
保障制度のうち概ね日本の公的介護保険制度に該
部分を初めとして公的医療保険でカバーされない
当する制度(以下、「公的介護制度」という。)につ
部分を担保するが特に眼科と歯科が中心となって
いて現状と改革動向について概観したうえで、民
いる。
間保険市場の役割と動向について現状分析を試み
(General Practitioner:以下、「GP」という。)の
ドイツの医療制度は、原則として全国民を対象
る。
としているが、一定所得以上の勤労者、自営業者
等は任意被保険者として公的医療保険に加入する
2. 本稿の構成
か民間医療保険に加入するかの選択権を有してい
本稿の構成としては、まず、欧州 3 ヶ国の医
る。この結果、全国民の約 90%が公的医療保険に、
療・介護分野における公的制度と民間保険制度と
約 10%が民間医療保険に加入している。民間医療保
の関係を図示することにより民間保険市場の役割
険の給付内容は公的医療保険による給付内容と同
と位置づけを明確にする(第Ⅱ章)。 次いで、イ
等以上であることが条件となっている。公的医療
ギリス、フランスおよびドイツそれぞれについて、
保険の加入者の医療機関へのアクセスは比較的自
公的医療・介護制度の現状と最近の改革動向につ
由であるが、民間医療保険の加入者の場合、病院
いて概観した後、民間保険市場(医療・介護)の役
や医師の選択は全く自由となっており、自己負担
割と動向について分析する( 第Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ章)。最
額の設定も契約により保険会社と取り決めること
後に、欧州 3 ヶ国の民間保険市場の現状について
ができる。この公的医療保険代替型の民間医療保
総括する(第Ⅵ章)。
険を完全保険と呼んでいる。公的医療保険ではカ
バーされない私費医療や歯科治療の自己負担額も
民間医療保険でカバーされるが、このような民間
医療保険を部分保険と呼んでいる。ドイツの場合、
39
イギリス、フランスと異なり公的制度代替型の民
始され、介護認定された高齢者は保有資産と関係
間医療保険(完全保険)が存在していることが特徴
なく一定の介護給付(施設介護は現物給付、在宅介
的である。
護は現物もしくは現金、およびその組み合わせ)が
3 ヶ国の公的医療制度と民間医療保険との関係を
受けられるようになった。
単純化し模式図にまとめたのが《図表1》である。
民間介護保険は、イギリスが 1991 年から、フラ
ンスが 1986 年から、ドイツが 1978 年から発売さ
2. 公的介護制度と民間介護保険
れている。イギリス、フランスの場合は公的制度
公的介護制度は各国とも独自の制度となってい
と独立して販売されているが、ドイツの場合、
る。まず、イギリスの場合は、NHS 病院介護(原則
1995 年から公的介護保険が開始されたことに伴い、
自己負担なし)、在宅介護(原則、全額自己負担。
民間医療保険加入者(ドイツ全人口の約 10%)は自動
ただし、自治体により取扱が異なる。)、施設介護
的に民間医療保険会社の介護保険に加入すること
3
(原則、全額自己負担。ただし、ミーンズテスト の
が義務づけられていることが特徴的である。
結果により自治体からの補助も可能。)の3通りあ
Ⅲ. イギリスの医療・介護分野における公的制度
るが、NHS 病院介護を除いて、一定の資産金額を保
と民間保険市場
有する高齢者の場合には全額自己負担となる。
フランスの場合は、医療保険の一部として給付
1. 本章の要約
される場合と社会福祉制度として給付される場合
が並列する体系となっている。高所得高齢者の場
イギリスの公的医療制度は NHS と呼ばれ、税金
合には介護給付はなく、老齢年金金庫からの補助
を財源として運営されている。国民は NHS 制度の
等しか受けられない。
下、原則として無料で医療サービスを受けること
ドイツの場合には、1995 年に介護保険制度が開
ができる。しかし救急医療を除き、国民はあらか
《図表 1》欧州 3 ヶ国における公的医療制度と民間医療保険との関係 ( 部分が民間保険)
おおおお
給付
給付
給付
民間保険
民間保険
民間部分保険
私費診療・差額ベッ
私費診療・差額ベッド
差額ベッド
ド等
等
歯科輔綴
民
間
公的医療保険 公的医療保険 公的医療保険
保
NHS 国民保健サービス
・全国民が対象 ・一定所得以上の
険
・保険者の選択不可 勤労者や自営
・医師の選択自由 業者は任意
・全国民が対象 ・保険者の選択
・自己負担なし 可能
・医師の選択不可 ・医師の選択
民間保険
比較的自由
自己負担部分のカバー
完
全
保
険
イギリス 所得 フランス 所得 ドイツ 所得
40
じめ登録した GP の診療を受けねばならず、GP の紹
部と8つの地方事務局で構成)と保健当局4(全国に
介を得て初めて病院をベースとする専門医の治療
約 100 ヶ所)に大別される。前者は NHS 政策の策定
を受けることができる仕組みとなっている。
および調整、医療資源の確保と地方の保健当局へ
この NHS が提供する医療サービスに国民が満足
の適正配分などが主たる任務であり、後者は住民
する限り、民間医療保険の必要性は低い。しかし
の保健サービスのニーズを把握するとともに GP、
現実には NHS の制度が利用病院を制限し、また簡
病院などと協力して保健サービス計画を策定した
単な手術でも数週間待たねばならないという点に
り、病院や GP と契約を交わし、医療サービスを住
国民は不便さを感じている。この不便さを避ける
民のために購入している。
ために一部の国民が民間病院を利用し、さらにこ
の費用をまかなう目的から民間医療保険が購入さ
(2) 医療サービスの内容
れている。
① 家庭保健サービス(第一次診療)
この民間医療保険は主に非営利民間健保会社か
すべての国民は自分の GP を選んであらかじめ登
ら 提 供 さ れ 、 主 要 な 商 品 と し て PMI(Private
録し、救急医療を除いて、普段は GP の診療を受け
Medical Insurance) お よ び 低 所 得 者 層 向 け の
なくてはならない。すなわち、開業医である GP と
HCP(Health Cash Plan)がある。
病院は明確に区別されており、GP はゲートキー
イギリスにおける公的介護制度には、NHS 病院介
パーの役割を果たし、医療費抑制に資することが
護、在宅介護、そして施設介護の 3 通りが存在す
期待されている。なお、診療費は原則、無料と
る。1993 年から実施されたコミュニティ改革によ
なっている。薬剤費は一部自己負担がある。
り、施設介護および在宅介護に関する権限と責任
② 病院および専門医サービス(第二次診療)
は国から地方自治体に移った。地方自治体が責任
を負う公的介護制度の財政基盤は地方税、利用者
国民は、GP の紹介を通じて、病院をベースとす
負担および国庫補助金であるが、ほとんどは補助
る専門医(Profession)の治療を受けることができ
金により運営されている。
る。個室や小部屋を備えている病院もあり、この
NHS 病院介護には自己負担がないが、在宅介護お
場合は、差額が徴収される。また、私費診療を希
よび施設介護は一部の地方自治体による負担を除
望する患者用に私費ベッドがある NHS 病院や NHS
き、介護サービス利用者の自己負担となっている。
外部の民間病院5 もある。この場合には、入院費、
この費用をまかなうための民間介護保険が 1991 年
診療費は全額自己負担となる。
より発売されている。1997 年の契約件数は 23,000
③ NHS の財源
件程度と市場規模は依然として小さいが、この数
年特に一時払い契約による民間介護保険の伸び率
NHS の財源は、イングランドの場合、税金 81.6%,
が高い。
患 者 自 己 負 担 2.1%, 国 民 保 険 料 か ら の 拠 出 金
12.6%、その他 3.7%となっている(1997 年時点)。
2. 公的医療・介護制度
2-1 公的医療制度
④ 診療報酬
イギリスの医療制度は、1946 年に制定された国
病院医師の場合には医師の格付けに応じて給与
民 保 健 サ ー ビ ス 法 (NHS 法 、 National Health
は保健当局から支払われる。独立採算制の NHS ト
Service Act of 1946)に基づき確立されており、
ラスト病院の場合はある程度の裁量の余地がある。
予防やリハビリを含んだ包括的な医療制度である。
また、GP の場合には登録患者数に応じた人頭報酬
以下、NHS の組織と運営、医療サービスの内容およ
が基本であるが、さらに、基本給、出来高部分、
び改定動向について述べる。
費用部分が加算される。
(1) NHS の組織と運営
⑤ 医療供給体制
NHS は保健省( Department of Health) により
イングランドにおける医療供給体制の動向は、
運営されており、組織として、NHS 管理運営部(本
下記《図表2》の通りである。病院医師および GP
41
《図表2》 イングランドにおける医療供給体制の推移
1993 年
1994 年
1995 年
1996 年
1997 年
①病院平均病床数(千床)
219
212
206
199
n.a.
②入院待ち患者数(千人)
995
1,065
1,044
1,048
1,158
③病院の医師数 (人)
43,801
44,657
n.a
n.a
n.a.
④GP 数 (人)
28,460
28,735
28,869
n.a
n.a.
⑤看護・助産職員数(人)
366,237
353,128
n.a
n.a
n.a.
(注 1)
入院待ち患者数は毎年 3 月末現在、
(注 2)
n.a.はデータなし
(出典) 医療経済研究機構 イギリス医療関連データ集 1999 年版
とも増加傾向にあるが、看護婦や病院ベッド数は
サービス格差が生まれ以下②で述べるとおり労働
減少傾向にあり、入院待ち患者数は依然として高
党政権による改革で廃止されることとなった。
次に、地区保健当局の役割の変更についてであ
い水準で推移している。
るが、従来は地方保健当局みずから、NHS 病院を経
(3) NHS 改革の動向
営しサービス提供をおこなっていた。本改革では
① 保守党サッチャー政権による NHS 改革(1991 年改
サービス供給者間および購入者間の競争を促進す
革)
ることを狙いとして、従来の直営方式を改め、地
区保健当局の役割を病院(NHS 病院または民間病院)
1990 年成立した「1990 年 NHS およびコミュニ
6
テ ィ ケ ア 法 」 (NHS and Community Care Act of
を選択して契約を結ぶサービスの購入主体へとそ
1990:以下、コミュニティケア法と略す。)に基づ
の役割を改めた。
き、翌年、改革が実施されたが、1948 年 NHS 制度
② 労働党ブレア政権による NHS 改革(1998 年改革)
創設以来の大改革であった本改革は、病院サービ
スに可能な限り市場メカニズムを導入することで、
ブレア政権による NHS の改革の理念は、NHS 内部
医療費の抑制と医療の質の向上を狙ったものであ
での競争からパートナーシップによる協力システ
る。主な改革内容を列記すれば、以下の通りであ
ムへの転換である。また、入院待ち患者数の削減
る。
のために新たな予算の追加も実施している。主な
a. 住民の GP 選択の弾力化
改革内容を列記すれば、以下の通りである。
b. 薬剤処方に関する標準的予算制度の導入
a. 保健医療サービスと社会サービスのパートナー
シップによる共同事業化
c. GP ファンドホルダーの創設
b. プ ラ イ マ リ ・ ケ ア ・ グ ル ー プ (Primary Care
d. 地区保健当局の役割の変更
7
e. トラスト病院 の創設
Group)の創設
c. NHS トラストの改革
f. 60 才以上の高齢者に対する民間医療保険の
d. NHS の情報化推進
保険料控除制度の創設
このうち、c の GP ファンドホルダーおよび d の
このうち、b のプライマリ・ケア・グループの創
地区保健当局の役割の変更について簡単に述べる。
設、d の NHS へのアクセス向上、情報化推進につい
まず GP ファンドホルダーとは予算管理権を持つ GP
て簡単に述べる。まず、プライマリ・ケア・ グ
のことであり、GP の中から選定され病院および専
ループの創設である。これは、GP ファンドホル
門医サービス、処方薬剤の費用などの予算を自ら
ダーが、当初目論んだ効率化促進に反しサービス
管理し、病院と個別交渉により直接契約すること
格差という弊害を生んだため、これを 1999 年 4 月
ができるというものである。この制度の狙いは GP
までに廃止し、代わりに、GP とコミュニティ看護
が病院選択においてコストインセンティブを持た
婦で構成されるプライマリ・ケア・グループを創
せるため、病院サービスの購入費につき一定の財
設するというものである。プライマリ・ケア・グ
8
源を管理させる仕組みであったが 、他の GP との
ループは、担当人口数に応じた単一の予算を管理
42
し、その枠内で薬剤費も含めて病院診療、コミュ
在宅介護に関する権限と責任を地方自治体に一元
ニティ・ケア・サービスを購入する。
化、②地方自治体の社会サービス部によるコミュ
次に、NHS の情報化推進である。これは、 看護
ニティケアの年間計画の策定、③民間活力の導入
婦が24時間対応で患者の健康上の相談に電話で
と地方自治体の機能分化、④要介護者の介護プラ
対応する「NHSダイレクト」の創設や、GP と病院
ンを作成するケアマネージャー職種の新設(社会
とをオンラインで結ぶ情報システム「NHSネッ
サービス部内に設置)の4つであり、方向性として
ト」を 2002 年までに全国展開するという計画であ
は、高齢者の病院の長期入院や施設福祉を減らし、
る。なお、BUPA, Norwich Union 等非営利民間健保
民間部門を活用した在宅介護サービスを充実させ
会社と民間保険会社では既に健康相談等のダイレ
ようというものであった。財政基盤は、地方税、
クトサービスを加入者に提供しており、公的部門
利用者負担および国庫からの補助金であるが、ほ
が民間部門を追随している形となっている。
とんどが補助金により運営されている。
なお、特に重要な柱である③について具体的に
③ 労働党ブレア政権による NHS 改革プラン(2000 年
説明すると次の通りである。まず、サービスの提
改革)
供者はこれまでの地方自治体中心から、民間事業
2000 年 7 月、ブレア政権は「NHS 改革プラン」
者も積極的に活用することとし、民間サービス活
(The NHS Plan: A Plan for Investment. A Plan
用促進の観点から、1993 年から 4 年間、国から地
9
for Reform) を発表した。同政権は、本プランは
方 自 治 体 に 「 特 別 移 行 補 助 金 」 (Special
NHS 創設以来過去 52 年間において最大の改革であ
Transitional Grant) を支給する。地方自治体は
り、21 世紀に向けて NHS をより優れた制度に導く
予算管理部門とサービス提供部門を分離し、予算
ための改革プランであるとしている。このプラン
管理部門は、民間事業者を含めたサービス提供者
を計画通り実施するためには毎年の予算措置、法
の中から、質とコストの両面で優位な業者と契約
律改正等が不可欠である。本プランのうち主なも
しなければならないというものである。この結果、
のは以下の通りである。
施設介護サービスおよび在宅介護サービスとも民
a. 2000 年から 2010 年にかけて、ベッド増床 7000、
間営利業者のウェイトが伸びてきている。
病院新規建設 100 カ所を初め NHS 関連設備に対
(2) 家族・ボランティア中心の在宅介護
して設備投資を行う。このため、設備投資予算
は年率で 6.3%増を見込む。
1995 年現在、イギリスの 65 才以上の要介護者数
b. 7500 名にのぼる専門医の採用、2000 名の GP の
は 295 万人といわれており、うち、施設入居者は
増員、2 万人の看護婦増員等を含む NHS 医療従事
48 万人のため在宅の要介護者は 247 万人と推定さ
者増員のための予算措置を講ずる。
れている。また、1995 年現在、コミュニティケア
c.NHS 病院医師に対するコンサルタント契約方式の
法に基づく在宅ケアの受給世帯は約 61 万人であり、
導入および GP に対する医療の質に基づいた契約
また NHS による在宅看護サービス派遣事業で約 53
方式の導入
万人がサービスを受けている。従って、大半の要
d. 患者の保護と選択肢の拡大
介護の高齢者は家族もしくはボランティア等によ
e. 2005 年末までに、外来患者の待機期間を最長
る介護を受けているものと考えられる。実際、イ
3 ヶ月に、入院患者の待機期間を最長 6 ヶ月まで
ギリスにおいては、570 万人(うち、男性 240 万人、
にそれぞれ短縮する。
女性 330 万人)ものケアラーが存在すると言われて
おり、4割が親の介護、2割が配偶者の介護を
2-2 公的介護制度
行っているものとみられている。
(1) コミュニティケア改革
ブレア政権は、1999 年 2 月、「ケアラーズのため
イギリスにおける公的な介護制度の枠組みは、
の国家戦略」(Caring about Carers: A National
1990 年に成立したコミュニティケア法に基づき、
Strategy for Carers)10 を発表し、①ケアに従事し
1993 年より実施されたコミュニティケア改革に
た期間について年金期間として参入する、②2005
よっている。この改革の柱は、①施設介護および
年までにケアラーへの手当を週 50 ポンドにする検
43
討を開始する、③ケアラーが仕事に復帰するため
府改革案のポイントは三点である。
の支援を拡充する、④ケアラーが休暇をとれるよ
一点目は、現在、ナーシングホーム12 で実施され
うに特別の財源を手当するなどを提案した。④に
ている身体介護(ナーシングケア)を 2001 年 10 月
ついては 1999 年度予算において、今後 3 年間で 1
までに無料化する。ただし、ホテル代(宿泊代およ
億 4000 万ポンド計上されることとなった。
び食事代)と洗濯などのパーソナルケア部分につい
ては、ミーンズテストに基づき入居者が一定割合
(3) 高齢者介護に関する NHS プラン
を負担する。このために必要な法律改正を行う。
1998 年 3 月、王立委員会( Royal Commission)か
二点目は、レジデンシャルホーム13に入居する際
ら高齢者介護の財政方式のあり方を初めとする総
の現在の厳しい入居条件を緩和するというもので
括的な提言が政府に対してなされた。この提案の
ある。現在は、持ち家のある人は入居前に持ち家
うち一部については、上記(2)で述べた「ケアラー
を売却しない限り入居できないが、これを改め入
ズのための国家戦略」により既に実施の方向で動
居してから 3 ヶ月以内に売却するかしないか(売却
きだしているところであるが、2000 年 7 月、ブレ
しない場合は自宅に戻り在宅介護を選択すること
ア政権により最終的な政府改革案が発表された
となる)の意志決定をすればよいことに改める。現
(The NHS Plan :The Government’ s response to
在は、一旦入居してしまえばその後、リハビリ等
11
the Royal Commission on Long Term Care) 。 政
で自宅での生活が可能となっても、戻る家がなく
《図表 3》高齢者ケアの種類と自己負担(1995 年現在)
ケアの種類
①家族介護
ケアを担当する主体
利用者の自己負担
家族、隣人
---------------
②病院ケア、GP によ NHS
NHS は原則自己負担なし
るケア
③在宅ケア
原則、全額自己負担である。ただし、一部
○ サービス購入者
地方自治体の社会サービス購 の自治体によっては、無料ないし一部自己
負担のところがあり統一されていない。収
入部門
入にリンクしたミーンズテストがある。
○ サービス提供者
地方自治体の社会サービス提
供部門、民間事業者
(地方自治体 56%、民間 44%)
④施設ケア
○ サービス購入者
原則、全額自己負担である。ただし、ミー
地方自治体の社会サービス購 ンズテストの結果によっては、自治体から
の補助を受けることもできる。補助は保有
入部門
○ サービス提供者
NHS,
資産のランク別に異なる(全国一律)。
地方自治体、民間事業 1 万ポンド以下:
自己負担なし
1 万ポンド超 1.6 万ポンド以下:
者
○入居者
自治体と利用者の
共同負担
レジデンシャルホーム 29 万人
ナ―シングホーム
12 万人
NHS その他
7 万人
1.6 万ポンド超:
全額自己負担
(民間施設 83%、地方自治体
11%、NHS6%)
(出典) 医療経済研究機構 イギリス医療関連データ集 1998 年版等を基に安田総合研究所作成
44
社会問題化していたが、この点が改善されること
げ、両保険商品を対比する形で市場規模や商品内
となる。この改革は 2001 年 4 月より実施される。
容等について概説する。
三点目は、在宅介護に係わる費用の利用者負担
なお、イギリスでは、一般的に民間医療保険お
割合の決定方式を統一化するというものである。
よ び 民 間 介 護 保 険 の LTCI(Long Term Care
在宅介護に係わる費用の利用者負担については、
Insurance) を 合 わ せ て 健 康 保 険 ( health
従来各自治体により年収の査定方法とか負担割合
insurance ) あ る い は 医 療 保 険 ( Medical
の決定方法が不統一であり、利用者の間で不公平
Insurance)と呼んでいる。
感があつた。この点を改めるため 2001 年 4 月まで
に 、 統 一 基 準 (statutory guidance on how care
(1) 市場規模
charges)を作成する予定である。
① PMI
1998 年における PMI の保険料は 20 億 4,200 万ポ
3. 民間保険市場
ンドである。生命保険料の 873 億 3,100 万ポンド、
3-1. 民間医療保険市場
損害保険料の 358 億 400 万ポンドと比較すると、
2-1 の公的医療制度において詳述したようにイギ
その市場規模は小さい。
リスの国民は NHS 制度の下、原則として無料で医
② HCP
療サービスを受けることができる。NHS が提供する
医療サービスに国民が満足する限り、民間医療保
《図表4》が示すように、HCP の市場規模は、
険の必要性は低い。しかし現実には NHS の制度が
PMI の市場規模の 15%程度と PMI と比較してもさら
利用病院を制限し、また簡単な手術でも数週間待
に小さい。1999 年における契約件数は、PMI の 347
たねばならないという点に国民は不便さを感じて
万 2 千件に対し、HCP は 311 万 7 千件と拮抗してい
いる。この不便さを避けるために一部の国民が民
る。契約件数ではほほ同数の HCP 市場が保険料の
間病院を利用し、さらにこの費用をまかなう目的
規模において PMI 市場を大きく下回るのは、HCP が
から民間医療保険が購入されている。
低所得者層をターゲットとしているため、1 契約毎
の保険料が低額となっているからである14。
民間医療保険の代表的な商品として挙げられる
のは PMI(Private Medical Insurance)である。
次に PMI に類似する商品で低所得者層をターゲッ
(2) 市場参加者と業績動向
トとしている HCP(Health Cash Plan)がある。PMI
① PMI
および HCP の商品内容については、後述する。こ
1997 年時点のイギリスにおいて 27 社が PMI を販
のほかにも歯科治療のみを対象とする Dental Plan
売しており、この他に一部のロイズシンジケート
や癌などの重い病気にかかった場合に保険金が支
も取り扱っている。
《図表5》が示すように PMI 市
払われる Critical Illness という保険も販売され
場は寡占化の状態にあり、大手5社のシェアは合
ている。本節ではイギリスの民間医療保険市場に
計で 85%に達する。
その中で非営利民間健保会社15 が市場全体のおよ
おける主要な商品である PMI および HCP を取り上
《図表4》民間医療保険市場における PMI、HCP の位置づけ(1998 年)
非営利民間健保会社、
年間収入保険料
対前年増率
保険会社数
生命保険
238
87,331 百万ポンド
15.1%
損害保険
656
35,804 百万ポンド
2.4%
PMI
27
2,042 百万ポンド
3.8%
HCP
38
313 百万ポンド
8.7%
(出典) ABI,“Insurance Statistics Yearbook 1988-1998”
,1999.他を基に安田総合研究所作成
(注)
非営利民間健保会社、保険会社数のみ PMI は 1997 年、HCP は 1999 年のデータ
45
そ 50%を占め、残りのシェアを保険会社が分ける形
《図表5》PMI 保険料シェア(%)
となっている。最近の動きとしては大手保険会社
1992 年
1997 年
BUPA
45
39
PPP
30
28
Norwich Union
3
7
Prime Health ( Standard
3
6
WPA
6
5
Guardian Health(Orion)
2
3
BCWA
2
2
他
10
10
合計
101
100
による PMI 市場への参入が顕著であり、例えば
シェア第 2 位の PPP は 1998 年にイギリスの大手保
険会社 Guardian Royal Exchange に買収されてい
る16 。また、中堅の Prime Health は同様にイギリ
スの大手保険会社の 1 社である Standard Life に
Life Healthcare)
買収され、現在は Standard Life Healthcare に名
称を変更している。
しかしその一方で市場参入しても採算がとれず、
PMI 市場から撤退した保険会社もある。ドイツの最
大 手 保 険 会 社 Allianz 傘 下 の 中 堅 保 険 会 社 の
Cornhill は Johnson Fry Healthcare を 1993 年に
(出典) ABI,“Information Sheet-Private
買収する形で PMI 市場に参入した。ところが 1998
Medical Insurance”
.
年における成績は契約件数 3,250 件、収入保険料
(注) 数字の端数処理により、1992 年の合計は
1,200 万ポンドを挙げるにとどまり、PMI 保険市場
101%となっている
におけるシェアは 1%にも満たず、1999 年 12 月を
もって PMI 市場から撤退した17。
《図表6》HCP 保険料シェア(%)
な お 、 PMI 市 場 で 最 大 の シ ェ ア を 有 す る
BUPA(The
British
United
Provident
Association)は 1947 年に設立された非営利民間健
(%)
(%)
41
38
The
おいて第 6 位にランクされている。契約者は世界
Association
180 ヶ国に及び、民間医療保険を中心とする契約者
Westfield
9
9
数は 400 万人に達する(その中でイギリス国外の契
Leeds Hospital Fund
8
7
約者は 100 万人を占め、スペインに子会社を持つ
Medicash
5
5
ほか、香港、アイルランド、タイ、などに事務所
Health Shield
5
4
を設置している)。また、イギリス国内では 4 万人
Manchester
のスタッフを抱え、36 の病院、34 の健診センター
Fund
4
4
(health screening centre)そして 233 のケア
Birmingham Hospital Fund
5
4
他
25
30
合計
100
100
ホーム を運営している。
② HCP
&
Saving
1999 年
保会社であり、1998 年のイギリス損害保険市場に
18
Hospital
1992 年
Salford
(出典) Laing and Buisson, “ Private Medical
1999 年時点のイギリスにおいて 38 社が HCP を
Insurance-Market
販 売 し て お り 、 中 で も 最 大 手 の The Hospital
Sector
Report
2000”,2000.
Saving Association がおよそ 40%のシェアを握っ
ている。この The Hospital Saving Association
による合併の動きも、目立ってきている。
19
を初めとした非営利民間健保会社 が依然として市
場全体の 80%程度のシェアを占めているが、1994
(3) 契約件数、収入保険料、支払保険金、損害率
年以降の PMI 市場の保険料伸び悩み、および PMI
① PMI
と HCP のパッケージ化進展という理由から、PMI 市
《図表7》は PMI の契約件数、収入保険料、支
場最大手の BUPA や大手保険会社による HCP 市場へ
払保険金、そして損害率の推移をまとめたもので
の参入が盛んとなっている。
ある。1980 年代から 1990 年代初めにかけて、企業
また近年、競争力強化のための HCP 事業者同士
が従業員に対する福利厚生として PMI を採用する
46
《図表7》PMI の契約件数、収入保険料、支払保険金、損害率
契約件数
年間収入保険料
年間支払い保険金
損害率(%)
(千件)
(百万ポンド)
(百万ポンド)
1987 年
2,590
711
581
81.7
1988 年
2,809
819
689
84.1
1989 年
3,085
951
812
85.4
1990 年
3,296
1,107
980
88.5
1991 年
3,288
1,279
1,123
87.8
1992 年
3,337
1,459
1,195
81.9
1993 年
3,347
1,540
1,216
79.0
1994 年
3,340
1,605
1,284
80.0
1995 年
3,366
1,695
1,369
80.8
1996 年
3,392
1,845
1,479
80.2
1997 年
3,424
1,968
1,561
79.3
1998 年
3,512
2,042
1,679
82.2
1999 年
3,472
2,173
1,794
82.6
(出典) Laing and Buisson,“Private Medical Insurance-Market Sector Report 2000”
,2000.を基
に安田総合研究所作成
行動が続いたことから、契約件数の増加と共に保
10% の 差 が 収 益 率 に 直 接 反 映 す る 訳 で は な い と
険料も高い伸び率を示した。この高い伸び率は
Laing and Buisson は説明している20。
1993 年まで続き、保険料は 2 桁の伸び率を維持し
ていたが、翌年から 2.5%の保険料税が導入された
(4) 商品内容
ことも影響し、1994 年以降伸び率は低下している。
① PMI
PMI は一般的に急性(acute)の怪我、病気に関
結果として PMI 保険料は 1987 年から 1999 年の
間に約 3.1 倍となったが、保険金も同様に増加し
する契約者の負担をカバーする21。主な担保内容は、
ており、この間の損害率はほぼ 80%を上回ったまま
《図表9》が示すとおりであるが、保険金支払い
で推移している。
対象となる具体的な費用としては外来診察、入院
時に生じる以下の費用がある。
② HCP
1990 年代後半における PMI の契約件数が横這い
a. 内科医、麻酔医、外科医などの診察費用
であったのに対し、HCP の契約件数は 1995 年から
b. 看護費、施設費、手術費などの入院費用
1999 年にかけておよそ 7%増加している。さらに
c. 理学療法、化学療法、放射線療法などの治療費
用
1987 年から 1999 年までの長い期間をとると、この
間に HCP は収入保険料、支払保険金ともおよそ 5
d. 薬剤、手当用品、レントゲンその他検査費用
倍と大きな伸び率を示している。その結果、損害
e. 訪問看護費、外来診察費用
率は 1988 年から 1990 年代初めにかけて悪化した
現在イギリスで販売されている PMI は担保範囲
ものの、その後は 70%前半で落ち着いている。
に従い、以下の3種類に大別できる。
このように HCP の損害率は PMI の損害率を 10%程
・ マキシマム:入院費用および外来診察費用の全
度下回っている。しかし、PMI は企業契約が全体
額担保
の 64%を占めるのに対し、HCP に関しては 74%が個
人契約であるため、契約締結、保険金支払い、契
・ スタンダード:入院費用全額担保、ただし利用
約管理に関する経費率は HCP の方が高く、損害率
病院の範囲に制限があり、また外来診察にも制
47
《図表8》HCP の契約件数、収入保険料、支払保険金、損害率
契約件数
年間収入保険料
年間支払い保険金
損害率(%)
(千件)
(百万ポンド)
(百万ポンド)
1987 年
2,754
66
47
71.3
1988 年
2,545
68
56
81.9
1989 年
2,920
86
71
83.0
1990 年
2,932
99
78
78.4
1991 年
2,954
115
87
75.3
1992 年
2,991
134
99
73.8
1993 年
2,999
157
113
71.9
1994 年
2,960
178
128
72.0
1995 年
2,916
234
173
73.7
1996 年
2,945
269
191
70.8
1997 年
2,993
288
205
71.1
1998 年
3,040
313
222
71.0
1999 年
3,117
332
242
72.9
st
(出典) Laing and Buisson,
“Health Cash Plan-Market Sector Report 2000 1 Edition”
,2000.を基に安田総合
研究所作成
限が加わる
費用を除き、NHS と比較して特別な治療内容、方法
・ ベーシック:入院費用全額担保、外来診察費用
をカバーしているわけではない。NHS の制度は利用
病院を制限し、また簡単な手術でも患者は数週間
は原則不担保
待たねばならないという不便さを抱えている。先
具体的な商品内容は個別の非営利民間健保会社、
述したようにこれらの不便さを避けるために民間
保険会社あるいは商品毎に多種多様であり、外来
病院が利用され、さらにその費用をまかなう目的
22
診察費用を不担保としている会社もある 。また契
か ら PMI が 購 入 さ れ て い る 。 Standard Life
約者が自由に利用病院を選択できるという基本契
Healthcare は PMI について「提供する PMI が契約
約に対して、会社の指定病院から選択というオプ
者の民間病院の利用を可能とし、入院待ち、不便
23
ションが付加されることもある 。契約期間は一般
な予約時間、不明確な治療開始時期、そして見舞
的に1年間であるが、通常は自動継続されている。
い時間制限などのストレスから契約者を開放す
る」と説明している25。
なお、イギリスの公正取引庁(The Office of
Fair Trading:OFT)は 1999 年 11 月に PMI などの
② HCP
健康保険は内容がわかりにくく商品同士の比較が
困難であり、また利用可能な病院や専門医の情報
PMI が基本的に民間病院の利用を可能にし、民間
が不足していると指摘し、健康保険業界に改善を
病院で負担した診察、治療費用の支払いをカバー
求めた。その後公正取引庁は健康保険市場のモニ
しているのに対し、HCP は基本的に治療費そのもの
タリングを継続しているが、2000 年 7 月に「問題
を負担するわけではなく、被保険者が入院したり
の全てが解消された訳ではないが、一定の成果は
手術を受けたことに対して一定額の保険金を支払
24
う仕組みになっている。換言すると、PMI が治療に
あがっている」と公表した 。
要し、被保険者が実際に支出した費用自体を保険
PMI は NHS 病院と競争関係にある民間病院の利用
金として支払うのに対し、HCP は入院などの事実に
を目的として購入されているが、支払い対象とす
対して一定額の見舞金を保険金として支払う内容
る費用は高度先進医療や個室ベッド代など一部の
となっている。HCP は被保険者が支出した費用全額
48
《図表9》PMI と HCP の商品内容比較
PMI
PMI
PMI
マキシマム
スタンダード
ベーシック
HCP
10∼80 ポンド
入院時専門医費用
担保
担保
担保
定額支払い
/入院 1 日
10∼80 ポンド
民間病院入院費用
担保
担保
担保
定額支払い
/入院 1 日
外来診察費用
担保
限定担保
理学療法に対して
原則不担保
一時金支払い
不担保(民間病院
NHS 利用の場合の
担保
キャッシュバック26
担保
担保
と同様の取り扱
い)
70∼550 ポンド
外来専門医費用
担保
(consultation)
担保
担保
支払い限度
/1 年間
歯科・眼科
外来診察費用
治療費用
担保
30∼240 ポンド
一般的に不担保
一般的に不担保
支払い限度
/1 年間
家庭医による
軽微な手術
一時金
一時金
一時金
不担保
不担保
不担保
不担保
(minorsurgery)
妊娠
100∼800 ポンド
/1 人
st
(出典)Laing and Buisson,
“Health Cash Plan-Market Sector Report 2000 1
(注)
Edition”
,2000.
HCP は外来専門医費用および歯科・眼科治療費用に関しては契約者が負担した費用の一定割合を
保険金として支払う。
ではなく、その一部をカバーすることになるが、
Laing and Buisson によると PMI と HCP の商品内
その代わり保険料も PMI の数分の一と負担が軽く
容がお互いを補完すると考える契約者も多いとい
なっている。
う28 。このこともあり非営利民間健保会社および保
ここ数年、HCP の商品内容の改善が相次いでおり、
非営利民間健保会社、保険会社は企業、団体向け
険会社は PMI と HCP をパッケージ化した商品の販
売を開始している。
の商品開発や担保範囲の拡大に努めてきた。担保
範囲拡大の例としては、骨折事故保険金、事故死
(5) 販売網
亡保険金、さらに葬式費用保険金の導入などがあ
① PMI
る。また、これに対して PMI も HCP の商品内容を
PMI は主に非営利民間健保会社、保険会社の営業
27
一部担保範囲に取り入れてきている 。
職員(direct sales force)を通じて販売されて
従来、PMI が裕福な高所得者層をターゲットとし
いる。しかし近年、ブローカーや代理店などの仲
ているのに対し、HCP は低所得者層をターゲットと
介業者(intermediary)による取り扱いが増加して
していた。両商品はターゲットが異なるため、市
いる。特に企業契約においてこの傾向が顕著であ
場において棲み分けが行われていた。しかし、
り、現在企業契約に関しては保険料の 40%から 50%
49
を仲介業者が扱っている。
売の取り組みが行われている。
多くの非営利民間健保会社、保険会社が電話に
Laing and Buisson は長期的には商品内容、保険
よる契約を取り扱っているが、正式な書類を受け
料の点で HCP の PMI 類似化が進む可能性があると
付けるまでの仮契約として行われていることが多
指摘している31。
い。
3-2 民間介護保険市場
② HCP
(1) 市場規模と市場参加者
PMI とは極めて対照的に HCP はその殆どが電話や
民間介護保険は 1991 年に発売が開始された。現
郵便を用いたダイレクト販売であり、仲介業者の
在 20 社足らずの、非営利民間健保会社および保険
29
販売シェアはわずかに 2%程度と推定されている 。
会社が扱っており、1997 年の契約件数はおよそ
これは何よりも個人契約が中心のため 1 件当たり
23,000 件、収入保険料は約 2 億ポンドとなっている。
の保険料が少額にとどまり、代理店手数料も魅力
民間介護保険保険料のボリュームは PMI や HCP
を欠くからである。
の保険料と比較しても小さいが、その伸び率は高
現時点でインターネットを通じた販売は極めて
く、《図表10》が示すように、1995 年から 1997
少ないが、HCP は契約申し込み内容を審査するアン
年の間におよそ 4 倍に成長している。
ダーライティングを必要としないため、インター
20 社ほどが参入する市場において、1992 年 1 月
30
ネット販売は今後有望であるという意見もある 。
より販売を開始した、民間介護保険の最大手の PPP
が 1999 年末において 52% のシェアを握り、上位 2
社が 85%のシェアを占めている32。
以上民間医療保険市場の代表的な商品である、
PMI、HCP の市場規模や商品内容を概説した。先述
販売チャネル別では、非営利民間健保会社、保
したように PMI と HCP は所得対象別に棲み分けが
険会社の営業職員の他、独立金融アドバイザー33 や
行われていたが、最近ではパッケージ化による併
代理店が民間介護保険を取り扱っている。
《図表10》民間介護保険契約件数と保険料
平準払契約件数
平準払契約保険料
一時払契約件数
一時払契約保険料
1995 年
5,809 件
4,473 千ポンド
3,295 件
43,900 千ポンド
1996 年
9,089 件
7,279 千ポンド
7,548 件
124,729 千ポンド
1997 年
11,537 件
9,593 千ポンド
11,387 件
186,923 千ポンド
(出典) ABI,
“Information Sheet-Long Term Care”,1999.
《図表11》年齢別介護資金対応
年齢/方法
65 才
15-19 才
20-24 才
25-34 才
35-44 才
45-54 才
55-64 才
住宅売却
24
24
25
25
34
28
30
預金取り崩し
21
33
19
24
25
29
27
貯蓄、投資
29
27
21
24
18
14
7
保険加入
33
50
43
39
32
18
11
子供/親類
3
5
4
4
5
5
3
公的制度
20
26
35
32
38
41
41
なし
1
―
1
1
1
1
4
分からない
8
1
0
1
0
2
4
(%)
34
(出典) ABI,
“Information Sheet-Long Term Care”,1999.
(注) 複数回答のため合計が 100%をこえる
50
以上
《図表11》はイギリスにおける介護資金の手
類される。
当方法に関するアンケートの回答を年齢別に分類
したものである。この回答によると 44 才以下の回
a. 従来型平準払保険(traditional insurance)
答者は「保険加入」を最も多く選択し、それに対
保険料は年齢、性別、そして健康状態によって
して 45 才以上の回答者は「公的制度」を最も多く
決定される。保険事故発生以前に被保険者が死亡
選択している。
した場合、保険料の返戻は行われない。このため
中年層あるいは若年層の回答者が高年齢化する
に近年、一時払投資ボンドの加入が増えていると
中で、また公的介護制度を含めた社会環境の変化
いう意見もある35。
の影響を受けて、これらの層が対応方法を将来変
b. 一時払投資ボンド(single premium investment
化させる可能性はあるものの、少なくとも現時点
bond)
においては 44 才以下の年齢層の民間介護保険に対
契約者は一時払いで投資ボンドを購入し、保険
する期待が極めて大きいことが分かる。1997 年時
料は投資ボンドから毎月充当される。解約を自由
点の民間介護保険加入者の年齢別分類を見ると、
に行うことが可能であり、介護保険のみの全額あ
61 才から 80 才までの年齢層が 75%を占め、50 才以
るいは一部解約も可能である。
下の契約者はわずか 2%を占めるに過ぎないが、中
契約件数に関しては平準払保険と一時払投資ボ
年層および若年層の民間介護保険に対する関心、
ンドが半数ずつ分け合うが、保険料ベースで見る
期待の高さを考慮すると、今後加入率の向上およ
と、一時払い投資ボンドがおよそ 95%占めている。
び加入年齢層の多様化が予測できる。
Ⅲ. フランスの医療・介護分野における公的制度
(2) 商品内容
と民間保険市場
① 担保内容
1. 本章の要約
イギリス市場で販売されている民間介護保険は、
保険契約時に決められた所定の日常生活における
フランスの医療制度は、わが国同様「国民皆保
行動(Activities of Daily Living:ADL、入浴、
険の原則」のもと、「高福祉高負担」が特徴である
着替え、手助けなしの食事などの行動)が不可能
と言える。フランスの国民一人あたりの医療費、
となった時に保険金支払いが行われる。
および医療費の対GDP比は英国より遙かに高い。
この日常生活における行動の具体的な基準、内
(《図表 12》)イギリスの制度が租税を財源とする
容などは個別の非営利民間健保会社、保険会社あ
NHSを理念としたのに対して、フランスの制度
るいは商品毎に大きく異なる。イギリス保険協会
は国民連帯の理念のもと、社会保険を基盤として
(Association of British Insurers : ABI) は 、
いる。戦前から発展した共済制度が、現在の医療
保険会社と協力してこの ADL の標準的な基準の作
制度の基礎となっているが、それは職域単位で構
成に向けた取り組みを行っている。
成されるものであった。そのため、職域ベースの
支払い対象となる具体的な介護サービスは幅広
様々な制度が複雑に入り組んだ「モザイク」状の
く、介護道具・機器の設置、階段リフトやハンド
体系(《図表 13》)となり、社会保障制度の一本化
ルなどの取り付け、さらに理学療法や言語療法の
を難しいものにしている。民間医療保険は、公的
費用などが対象となっている。
医療保険の自己負担部分を補完する役割があり、
免責条項を設けている保険会社もある。一般的
職域ベースで一定規模の普及が見られる。
には、アルツハイマーを除く精神・神経疾患、ア
また、介護制度は 1997 年に独立した制度が創設
ルコール・薬物乱用、故意の事故および自殺、エ
されたが、あくまで低所得者のみを対象としたも
イズ、戦争危険などが代表的な免責条項である。
のであり、高齢者福祉制度の一部分に過ぎない。
フランスの高齢者福祉制度は、社会保障制度(医
② 保険種類
療保険・老齢年金)と社会扶助制度( 高齢者扶
イギリスで販売されている民間介護保険は、掛
助・障害者扶助)が並列する体系となっており、
け捨て型の従来型保険と一時払い投資ボンドに分
制度間の調整が不十分で、統一性に欠けるものと
51
《図表 12》医療費比較(1997)
対GDP比(%)
一人あたり医療費(円)
フランス
9.6
276,583
イギリス
6.8
179,307
(出典) 週刊社会保障編集部編「欧米諸国の医療保障」
(法研、2000)
《図表 13》職種別社会保障給付比較
自営業者
被用者
疾病
出産
非農業
農業
無職者
医療給付
現金給付
医療給付
現金給付
障害
老齢
寡婦
労働災害・職業病
失業
家族給付
(出典) 藤井良治・塩野谷祐一編「先進諸国の社会保障⑥フランス」
(東京大学出版会、1999)
なっている。民間介護保険は 1986 年に発売開始さ
d’ assurance maladie:CPAM)」が保険給付を行って
れたが、家族介護が基本にあるため、あまり普及
いる。また、疾病金庫は職域ベースで分断されて
しておらず、保険会社側も積極的に販売していな
いる。同様に、社会保障制度の中核をなす「全国
い模様である。
老 齢 年 金 金 庫 ( caisses nationale d’ assurance
フランスの社会保障制度は、きわめて複雑な体
vieillesse:CNAV」も職域ベースで分断されてい
系であり、制度としての統一性には欠けていると
る が 、「 全 国 家 族 手 当 金 庫 ( caisses nationale
言える。
d’ allocations familiales:CNAF)」は一本の制度
である。このことが、社会保障制度の統合を難し
2. 公的医療・介護制度
いものにしている要因となっている。
2-1 公的医療制度
(2) 被保険者
前述のように、フランスの医療制度は社会保険
制度を基盤にしている。戦前から発展した共済制
基本的に全国民を対象とするが、職域ベースで
度が基礎となり、現在の職域ベースでの医療制度
「 一 般 制 度 ( 民 間 商 工 業 の 被 用 者 : régimes
が出来あがったのであるが、きわめて複雑な体系
général)」、「特別制度(鉱夫、船員、国鉄職員等
となっており制度間の統一は難しいものとなって
特殊職域の被用者:régimes spéciaux)
」
、
「その他
いる。
の制度(農業:régimes agricoles、自営業者等:
régimes non salariés)」という3つのカテゴリー
(1) 保険者
に分かれている。これにより、全国民の 99%がカ
バーされている。
フ ラ ン ス の 医 療 制 度 で は 、「 疾 病 金 庫
(caisse)」と呼ばれる組織が保険者となっている。
(3) 保険料率
金庫には国、地方、県の3レベルが存在し、県レ
一般制度(民間商工業)における保険料率は、
ベルの「初級疾病保険金庫(caisses primaires
52
《図表 14》一般制度における保険料率の経時的変化
被保険者(%)
雇用者(%)
合計(%)
1976
1.5
2.5
4.0
1984
5.5
12.5
18.0
1987
5.9
12.5
18.4
1991
6.8
12.6
19.4
1992
6.8
12.8
19.6
1997
5.5
12.8
18.3
1998
0.75
12.8
13.55
(出典) 医療経済研究機構資料を基に安田総合研究所作成
ここ 20 年間で大幅に上昇した。被用者保険料率は、
後者は保険診療と自由診療の両方が認められてい
1976 年に 1.5%であったが、1991 年には 6.8%ま
る。
で引き上げられた。しかし、被用者負担を軽減す
病床数は減少傾向にある一方で、医師数、看護
る目的で 1998 年からは 0.75%と大幅に引き下げら
婦数は増加させすぎため、現在では減少させつつ
れている。
ある。
こ れ に 対 し て 、 雇 用 者 保 険 料 率 は 1976 年に
(6) 医療制度改革の動向
2.5%であったが、現在 12.8%となっており、被用
者より遙かに大きい割合を負担している。
(被用者
医療政策を経時的に見ると、80 年代の後半まで
負担と雇用者負担を合計した保険料率は、1976 年
は需要側中心の医療費適正化対策が実施されてき
の 4.0%から 1992 年には 19.6%まで上昇したが、
た。フランスの場合、疾病金庫は国とは独立した
現在は 13.55%まで引き下げられている)
組織であるという強い理念があり、収支相当原則
が厳しく適用された。そのため、保険料率の増大、
(4) 給付
あるいは自己負担割合を増加させることが中心で
医療給付は償還制度であるという点が最も大き
あった。その結果として、自己負担部分を保障す
な特徴である。すなわち、患者は医療機関や薬局
る民間保険を成長させ、民間保険に加入できる人
に一度全額支払いをし、後に疾病金庫から医療保
とできない人との間で、医療機関へのアクセスに
険でカバーされる分の償還を受けるのである。ま
大きな差をもたらして逆に国民の間の公平性を損
た、給付内容についても、上述の職域ベースで差
なってしまったという反省があった。
また、医療地図36 (病床規制)と地域医療計画 37
が見られる。
さらに、医療給付の特徴として、自己負担が大
を導入して医療資源の規制を行ったが、既存の不
きいことが上げられる。医師診療報酬の 30%、一
平等が解消されない病床規制となってしまい、高
般薬剤の 35%、入院日額のうち 70 フランが自己負
医療費地域と低医療費地域という二重構造を残し
担となっており、この部分を補完する役割を担っ
てしまった。これを防ぐために、公的病院に関し
ているのが民間保険会社の医療保険ということに
ては総枠予算制38 という手法を導入し、一応の抑制
なる。
効果は得られた。しかし、実際に行われている医
療の内容に基づいてバジェティングが実施されて
いるわけではなく、これを改善するために、DRG39
(5) サービスプロバイダー
医療サービスプロバイダーへのアクセスは自由
が導入されている。
であり、患者は医師および医療機関を自由に選択
90 年代以降は、供給側中心の医療費適正化対策
することができる。病院は、公立病院と私立病院
へと変わっており、まず情報がない状況での医療
の比率が1対3であり、内科は公立病院が、外科
費適性化というのは無理であるということが強く
は私立病院が圧倒的に多い。医師は、セクターⅠ
認識されるようになった。また、関係者の責任の
とセクターⅡに大別され、前者は保険診療のみ、
明確化が求められるようになり、例えば保険者は
53
何をしなくてはいけないのか、医者は何をしなく
う位置づけにある。
てはいけないのか、患者は何をしなくてはいけな
(1) 保険者
いのかということが明確化された。1995 年にジュ
ペ厚生大臣によって改革プランが打ち出され、医
保険者は県であり、財源は租税 (県・社会扶
療保険制度の一本化と医療費の抑制を目指した。
助)および一般福祉税による。被保険者が居住す
すなわち、医療費予算の総枠規制を設けて、それ
る県があらゆる運営の主体となっている。
を超過した場合にはペナルティを課すというシス
(2) 被保険者
テムが導入された。また、各セクターの責任の明
確化を行い、医師は情報を提供する責任を負い、
介護給付制度の被保険者は 60 歳以上の高齢者で
医療標準に従うことが義務化づけられた。疾病金
あり、所得制限がある。単身者の場合は月の収入
庫は保険者機能を強化する責任が問われ、患者に
が 6,000 フラン(約 9 万円)以下、夫婦者の場合
関しても健康手帳の提示などが義務づけられた。
は月の収入が 10,000 フラン(約 15 万円)以下の
ものが給付対象となる。
2-2 公的介護(高齢者福祉)制度
(3) 給付
フランスの介護(高齢者福祉)制度は、社会保
障制度(医療保険 ・老齢年金)と社会扶助制度
介護給付は現物給付であり、要介護高齢者への
(高齢者扶助・障害者扶助)が並列する体系と
介護サービス提供者への報酬という形で支払われ
なっており、制度間の調整が不十分で、統一性に
る。介護サービス提供者は、配偶者以外の家族で
欠けるものとなっている。
もよく、背景に雇用創出という狙いもある。給付
上限額は月 5,595 フラン(約 8.5 万円)である。
従来、高所得者と低所得者とでは制度体系が異
なっていた。高所得者には介護給付制度自体適用
(4) 要介護区分
されず、老齢年金金庫からの補助と、障害者基本
法に定められた第三者補償手当による給付を受け
ADLは、以下の6ランクにレベル分けされる
るか、もしくは自己負担によることになる。高所
が、GIR1から GIR3 までの者が、かなりの介護を
得者は、ホームヘルプサービス提供組織と契約を
必要とみなされ給付対象となる。
締結したり、在宅付き添いサービスを受けること
(5) サービスプロバイダー
になる。在宅付き添いサービスの提供者は、配偶
者以外の家族であってもよい。
ホームヘルプサービスや在宅看護サービス、デ
一方、低所得者の場合は、全く異なる制度体系
イケアサービス(わが国の通所介護に相当)など
によってカバーされている。すなわち、1997 年に
を市町村福祉センター(centre communal d’ action
新設された介護給付制度と、障害者基本法に定め
sociale:CCAS)や民間非営利団体が提供している。
られた第三者補償手当、老齢年金金庫からの補助
また、高齢者施設としては、長期療養施設、老人
などである。したがって、「介護給付法」が 1997
ホーム(何らかの介助を必要とする人)、老人ア
年 1 月 24 日に施行されたが、これによってカバー
パート(わが国のケアハウスに相当・障害がなく
される高齢者福祉は、全体の一部分に過ぎないと
自立した生活を送ることができる人)などがある。
いう点に注意しなければならない。高所得者と低
近年、老人ホームを中心に民間営利団体の事業参
所得者の福祉制度が異なっている現状を改善し、
入が進んでいる。
ゆくゆくは制度を一本化する目的で新制度を立ち
(6) 高齢者福祉部門への民間セクター参入の動き
上げたものである。
介護給付制度は、施行法の正式名称を「要介護
フランスにおける高齢者福祉部門は、従来から
高齢者のための自立給付を定める法律の可決を前
公的機関や民間非営利組織によって運営される部
提として介護特別給付によって高齢者のニーズへ
分が大きかったが、近年民間セクターの参入を促
の対応を目指す 1997 年 1 月 24 日法」といい、将
進する法律が二つ採択された。
来高齢者福祉制度を統一するまでの暫定措置とい
一つは「個人による在宅サービス雇用促進を目
54
《図表 15》老年学的自立能力(AGGIR:Autonomie Gé rontlogique – groupe iso – resource)判定表
AGGIR 基準
状態
GIR1
寝たきりの状態で、精神的にも障害がある。
GIR2
寝たきりの状態ではあるが、完全な精神的錯誤の状態にあるわけではない。
GIR3
精神状態としては問題ないが、一日のうち何度かは身体活動の介助を必要とし、排泄処理
も完全な状態ではない。
GIR4
以下の2グループに分けられる。
① 移動に関して何らかの問題が無いわけではないが、屋内の活動に関しては問題がない。
② 移動に関しては問題ないが、その他の身体活動や食事に関して介助を必要とする。
GIR5
移動や食事、衣服の着脱に関しては問題ないが、部分的に身支度や食事、家事準備に介助
を必要とする。
GIR6
日常生活に何ら支障がなく、自立して生活している。
的とした 1996 年 1 月 29 日法」である。従来市町
ある。また、民間医療保険の加入先を見ると、全
村福祉センターやNPOに独占されていた分野に、
体の 48%が非営利民間健保会社であり、18%が保
民間企業も許可を受けることによって参入できる
険会社、15%が相互扶助組合となっている。
1999 年における健康保険の正味収入保険料 520
ことを定めたものである。
もう一つが「1996 年 4 月 24 日付けオルドナンス
億フランであり、これは全種目(生命保険および
」であり、これは公立・私立病院が「社会法」も
健康保険)保険料の 9.2%を占めている。販売チャ
しくは「障害者基本法」に定める福祉医療サービ
ネルは、専属代理店が約 50%と最大であるが、低
スを提供することを許可したものである。すなわ
下傾向にある。次いで、保険会社従業員とブロー
ち、病院が老人ホームやケアハウスなどを経営す
カーがそれぞれ約 20%を占めている。これ以外で
ることが可能となったのである。この背景は、既
注目されるのが銀行チャネルであり、1997 年にお
設過剰病床を福祉施設に転化することを認めたと
けるシェアは 2%に過ぎないが、ここ 5 年間で 5%
いうことである。
までシェアをのばすであろうと Datamonitor 社は
40
これらの新法によって、フランスの高齢者向け
予測している。また、保険会社別のマーケット
施設は民営化が進むものと予想されるが、フラン
シェアは《図表 16》の通りであり、上位5社で全
ス政府による許認可といった一定の規制の下で、
体の過半数を占めている。
市場化されていくものと思われる。
医療費支出の内訳で見ると、1998 年におけるフ
ランスの総医療費は 7,350 億フランであり、社会
3. 民間保険市場
保険からの給付が 75%、自己負担が 13%、民間医
3-1 民間医療保険市場
療保険からの給付が 13%(共済:7%、民間保険会
(1)市場規模
社:3%、相互扶助組合:2%)となっている。
さらに、医療費支出の内訳を細目別に見てみる
上述のように、フランス国民の 99%が公的医療
41
保険の給付を受ける一方で、全国民の約 85% が民
と下表のようになっている。この表からもわかる
間医療保険にも加入している。民間医療保険の内
ように、民間医療保険の占める割合が大きいのは、
訳は、60%が団体医療保険、40%が個人医療保険
「眼鏡」および「歯」であり、「病院」や「開業
である。これには歴史的な背景があり、元来フラ
医」、「薬」などは大部分が社会保険給付でカバー
ンスの医療保険は職域をベースにしてお互いの共
されている。
済制度で始まり、その当時は自己負担がゼロで
(2) 商品内容
あった。それが 1945 年以降、疾病金庫という形で
統合され、既得権(自己負担ゼロ)をどのように
民間医療保険に対する契約者のニーズは、次の
守るかが課題となり、労働協約の中で自己負担分
三点に大別される。すなわち、①患者の選択肢
を補完する民間制度が発達してきたという経緯が
(個室ベッドなど)を拡大するもの、②高度先進
55
《図表 16》1998 年フランス民間保険会社収保ランキング(医療保険のみ)
保険会社名
収入保険料(億フラン)
マーケットシェア(%)
1,166
19.8
Groupama
677
11.5
CNP IAM
495
8.4
AGF Iart
465
7.9
GAN Incendie Accidentes
283
4.8
その他
2,804
47.6
合計
5,890
100.0
AXA Collectives
(出典) Datamonitor 社資料を基に安田総合研究所作成
《図表 17》1998 年フランス医療費支出(細目別)
眼鏡・
コンタクト
義歯
社会保険
民間医療保険
自己負担
歯
開業医・
薬
病院
0%
20%
40%
60%
80%
100%
(出典) フランス保険協会資料を基に安田総合研究所作成
医療のような大きなリスクに備えるもの、③患者
険始期から二年経過後は保険料変更ができないと
自己負担部分を補完するものである。
いう法律が制定された。AXA 社では、特に歯科保険
具体的な商品内容はほぼ民間保険会社共通で、
における審査基準を厳しく設定していたが、この
①個室ベッドの利用に対する給付など入院時の選
ために販売状況が不振となり、現在では審査の一
択肢を拡大する保険、②診療・薬剤費に限り自己
部を代理店にまかせるなど基準を緩和している。
負担部分を補填する保険、③義歯、眼鏡、コンタ
(3) 民間保険会社によるマネージドケア実験
クトレンズなど公的医療対象外のものをカバーす
る保険などがある。患者自己負担部分を補填する
フランス政府は、民間保険会社に対してマネー
商品は、入院費用については全額を、入院以外の
ジドケア実験への取り組みを命じており、AXA 社は
費用については半額をカバーし、残りは患者自己
南仏で実験を開始している。具体的には、歯科治
負担が残ることになるが、前出の細目別医療費支
療の医療費を抑制するためのケーススタディを実
出表からもわかるように、フランス民間医療保険
施しており、日常的予防に注力することによって
の主商品は「義歯・眼鏡・コンタクトレンズ」の
トータルとしての医療コストが削減できるか調査
自己負担部分をカバーする商品であり、日本とは
している。
また Groupama 社も、特定の眼鏡販売店と提携し、
大きく異なる点でもある。
また、医療保険市場では逆選択の問題が内在し
提携店での購入時には 15%のディスカウントを行
ている。公的医療では診療対象外のものについて
うといった契約形態をとって、トータルとしての
も、民間医療保険ではカバーしており、加入者は
医療費支出を抑制するようにつとめている。いず
最も腕がよい医師に診てもらおうとするインセン
れの場合においても、アメリカ型マネージドケア
ティブがはたらく。そのため、民間保険会社では
とは多少性質が異なっており、医療費抑制の強制
保険期間を短期で設定していたが、保険会社は保
力がそろほど大きいものではない。
56
3-2 民間介護保険市場
会社が保険者である医療保険に加入している。た
フランスにおける民間介護保険市場はそれほど
だし、任意被保険者を認めた結果、ごくわずかで
あるが無保険者が発生している44。
大きくなく、これから成長が見込まれる分野であ
るとの見方が強い。1999 年現在、フランス国内で
一方、高齢者介護については 1995 年より介護保
42
の民間介護保険市場は総保険料 が約 10 億フラン
険制度が導入されたが、公的医療保険に加入して
であり、個人契約が約 25 万件、団体契約が同様に
いる人は自動的に各介護金庫内に設けられた介護
約 25 万件である。
金庫が保険者である介護保険に加入し、民間保険
1986 年に AGRR 社が初めて民間介護保険を販売開
会社の医療保険に加入している人は自動的に当該
始し、現在でもマーケットシェアの約半数を占め
保険会社の介護保険に加入することが義務づけら
ている。AGRR 社が成功した要因は、民間介護保険
れることとなった。
最古の会社であるという点以外に、女性顧客の開
このように、ドイツの場合は、公的制度の枠組
拓を行った点にある。商品内容は、免責期間が1
みの中に、民間保険会社が組み込まれている点が
∼3年間であり、ADL を3∼4のカテゴリーに区分
特徴的である。ただし、これは、公と民との競争
して保険金を年金給付するものである。他の民間
を促すという観点よりも、並存を目指すという観
保険会社では、AXA 社、Groupama 社が主要な介護
点にたっているものと考えられる。
保険販売会社である。
今後、医療保険分野において民間部門の役割が
フランスにおいて民間介護保険が浸透しない理
さらに高まるかどうかは今後の公的部門の改革動
由はいくつか考えられる。サービスプロバイダー
向に大きく依存するものと考えられる。ドイツの
にアソシアションのような NPO が多く、しかも1
医療・介護制度を簡単にまとめたのが《図表 18》
時間あたりの支払いが約 50 フランと安価なため、
である。
民間企業が参入するには厳しい環境である。また、
フランスでは住宅政策というものが社会保障制度
2. 公的医療保険・介護保険制度
の中にしっかり位置づけられており、在宅での生
2-1 公的医療保険制度
活を可能にする制度体系となっていたことなどが
ドイツの医療保険は、1883 年、
「労働者の医療保
挙げられる。
険に関する法律」に基づいて成立した世界最古の
公的介護保険制度の改正により、民間介護保険
社会保険制度である。社会的連帯の理念のもと過
市場が影響を受けることは確かであるが、介護需
去、幾多の改革を経て今日の制度として定着して
要がなくなることはなく、民間保険会社が市場
きた。既述の通り、一定所得以上の被雇用者、自
ニーズに沿った商品開発を行う動きが見られる。
営業者、公務員等は加入義務がなく任意被保険者
として取り扱われている。任意被保険者に該当す
Ⅴ. ドイツの医療・介護分野における公的制度と
る人は公的医療保険か民間医療保険のいずれかを
民間保険市場
選択することができる。このため、ごく一部に無
保険者の層も発生している。以下、公的医療保険
1. 本章の要約
の概要と改定動向について述べる。
ドイツにおける公的医療制度および公的介護制
度とも社会保険として運営されている。公的医療
(1) 公的医療保険制度の概要
保険制度は、一定の所得以下(1999 年現在、旧西ド
① 連邦政府と州政府の関係
イ ツ 地 区 が 76,500 マ ル ク 、 旧 東 ド イ ツ 地 区 が
ドイツは米国同様、連邦国家であり州の権限が
64,800 マルク)の被雇用者は強制加入であるが、一
強いといわれているが、医療に関しても同様であ
定の所得を超える被雇用者、自営業者等は任意被
る。連邦政府は医療保険の枠組み的法律と政令を
保険者となり、公的医療保険または民間の医療保
制定する。州政府は関連法令の認可・施行をする
43
険(完全医療保険 )のいずれかを選択することがで
と共に保険者である疾病金庫や保険医協会を監督
きる。現在、約 90%の国民が疾病金庫が保険者であ
している。さらに、医師の教育・研修、民間病院
る公的医療保険に加入し、約 10%の国民が民間保険
の設立認可の権限を有し、大學病院等の公立病院
57
《図表 18》ドイツの医療・介護制度概念図
医療保険 加入者
公的保険
介護保険 加入者
7300 万人
疾病金庫
7210 万人
疾病金庫内の介護金庫
X
720 万人
810 万人
民間医療保険会社
民間医療保険会社
強制民間介護保険)
・ 一定の年収以上の勤労者、自営業者、
・ 疾病金庫の加入者は介護金庫の介護保
専門的職業人は公的保険か民間保険
(完全医療保険)のいずれかを選択でき
民間保険
(完全医療保険、
る。
険に加入しなくてはならない。
・ 民間医療保険会社に加入している人は
同一の会社で介護保険に加入しなくて
・ 特定の公務員は民間保険しか加入でき
はならない(強制民間介護保険)。
ない。
民間保険
(部分医療保険、
民間医療保険会社 890 万人
民間医療保険会社
54 万人
付加的介護保険)
民間生命保保険会社
8 万人
(注 1) 加入者数は 1998 年 12 月末現在の数
(注 2) 強制民間介護保険の被保険者数は 810 万人となっているが、これは民間完全医療保険の加入
者 720 万人に加え、公的医療保険加入者のうちの任意被保険者の一部 90 万人が加入している
ためである。
(注 3) 一旦、民間医療保険を選択した場合は、原則として公的医療保険には戻れないことになって
いる。
(出典)Munich Re 社の資料に基に安田総合研究所作成
③ 被保険者
を運営している。
一定の収入以下の被雇用者およびその家族、失
② 疾病金庫(保険者)
業者、学生、芸術家・作家、年金受給者は強制加
公的医療保険の保険者としては地域、企業等の
入となる。一定の収入以上の被雇用者、自営業者
区分により8種類の疾病金庫があり、全ドイツで
等は任意被保険者といい、公的医療保険か民間保
は 1998 年末現在、合計 434 の疾病金庫がある。そ
険会社の医療保険のいずれかに加入することとな
の内最大のものは地区疾病金庫 AOK である。各疾
る。
病金庫は被保険者側と使用者側の同数の代表者に
よって運営委員会が構成され、給付の種類、範囲、
④ 保険料率
保険料の額、医療機関への支払期日などが決定さ
保険料率は疾病金庫間で若干の違いがあるが、
れる。従って、保険料や保険の給付内容は疾病金
1998 年末現在、概ね 11%∼14%の間に収斂している。
45
庫間で僅かながら異なっている 。被保険者は疾病
同一の疾病金庫においてはすべての加入者が同一
46
金庫を自ら選択することが可能である 。なお、各
の保険料率となっている。すなわち現役の勤労者
疾病金庫間でリスクの低い若年層を勧誘する動き
も年金生活者も同一レートである。被雇用者の保険料
が多いと言われているが、疾病金庫間で財政面で
は原則労使折半となっている。
の格差が生じないようリスク調整の仕組みが導入
されている。
58
⑤ 診療報酬制度
改革がすすめられた。以下、最新の改定動向とし
外来診察費については、総額予算が毎年保険医
て、1998 年 11 月制定された「公的医療保険連帯強
協会と疾病金庫連合会との間の交渉により取り決
化法」と 2000 年 1 月より実施された「医療保障改
められている。合意された金額に基づき各疾病金
革 2000」について述べる。
庫は保険医協会に四半期ごとに報酬を支払う。保
① 公的医療保険連帯強化法による改革
険医協会は固定点数単価表に基づき各保険医に配
分することとなる。入院医療費にかかわる診療報
この法律は 1999 年より施行されているが、その
酬総額については病院協会と疾病金庫連合会との
主な内容は a.被保険者の自己負担、給付内容の見
間で交渉される。診療報酬費は細分化された入院
しと b.予算制による医療費抑制の2点である。
医療費日額制度により決定されるが、一部、外科
まず、a.被保険者の自己負担、給付内容の見直
部門については包括払い制度や特別報酬制度も併
しについては、薬剤の自己負担額を包装の大きさ
用されている。
に応じて 9∼13 マルクから 8 ∼10 マルクに引き下
薬剤については参照価格が設定されている薬と
げること、歯科補綴の保険給付の復活、疾病金庫
それ以外に分かれている。参照価格を超える薬の
における保険料率引き上げと自己負担額増加との
場合は、超過分は患者の自己負担となる。なお、
連動廃止等である。
次に b.予算制による医療費抑制については、外
すべての薬剤について包装の大きさに応じた定額
来診療費、入院診療費、薬剤費について分野別予
の自己負担がある。
算を復活し、診療報酬総額を基礎賃金の上昇率の
範囲に押さえること、薬剤費については予算額を
⑥ 開業医(一般医、専門医)と病院勤務医
超過した場合は、予算額の 5%を限度に保険医に対
医師は開業医と病院勤務医に大別される。病院
して償還請求を行う等である。
勤務医は専門医のみであるが、開業医は一般医と
専門医に分かれる。従来は、被保険者はまず一般
特に、歯科輔綴の保険給付復活は民間医療保険
医にかかり、さらに専門的な診療が必要な場合に
(部分保険)の普及にブレーキをかけるものとみら
は専門医を紹介してもらっていたが、チップカー
れる。
ド(医療保険カード)の導入により、現在では 60%の人
② 医療保障改革 2000
が最初から専門医の診察を受けていると言われて
いる。この結果、一般医と専門医との間で競争が
医療保障改革 2000 の原案は連邦保健相フイッ
生じ、一般医の数は減少している。 一方、一般
シャーが中心にまとめたものであり、当初15項
医医療の強化策を打ち出している連邦政府は、疾
目にのぼる改革項目があった。しかしながら、保
病金庫を財源として、一般医になるための継続教
険医協会、病院協会、製薬会社等の反対が厳しく、
育を病院で実行している。医療保障改革 2000 にお
病院診療報酬における DRG の導入など一部の実施
いても、一般医の役割強化を打ち出している。
にとどまり、当初案通りの改革は実現しなかった。
今回の改革の目玉は、医療費抑制に効果がある
なお、病院へのアクセスは緊急の場合を除いて、
総予算制の導入(連邦および州レベルで疾病金庫の
原則開業医による紹介が必要となる。
予算の伸び率を被保険者の収入の伸び率以内に押
さえるもの)、薬剤のポジティブリストの作成によ
(2) 改定動向
ドイツの医療保険制度は、医療機関の選択が比
る保険薬の制限および病院の財政方式の改革(州と
較的自由であり、医師の数も欧州主要 3 カ国の中
疾病金庫による二元財政から疾病金庫による一元
で最も多く 、さらに薬剤の使用も比較的制限が少
財政方式へ変更することにより病院の需要計画と
ないといわれている。このため、医療費コストの
投資計画の整合性を図る)の3つを柱とし、保険者
増加に歯止めがかからず、過去、頻繁に改革がお
である疾病金庫の医療供給サイドに対する関与権
こなわれてきた。最近の 10 年でみても、1989 年の
を大幅に拡大させる点にあったが、今後の課題と
医 療 保 険 改 革 (GRG) 、 1993 年 の 医 療 保 険 構 造 法
して継続的に議論されることとなつた。
47
以下、今回、連邦議会で承認された a.病院医療
(GSG)、1997 年には、第三次医療保険改革と次々と
59
費における DRG の導入と b.医師の数抑制について
べる。
述べる。
(1) 被保険者
まず、a.病院医療費における DRG の導入である
が、現在、ドイツにおける病院医療費支払い方式
ドイツ介護保険は、医療保険をベースに制度化
はケース毎包括支払い(Fallpauschalen)および特
されており、被保険者についても原則として医療
別給付(Sonderentgelte)と日額支払いおよび診療
保険の被保険者の適用範囲に対応している。すな
科別の組み合わせとなっている。この現行方式で
わち、多少の例外はあるが、公的医療保険の加入
は、内科領域がカバーされておらず、また合併症
者は公的介護保険に、民間医療保険の加入者は民
や併発症の考慮がされていないといつた批判がか
間介護保険にそれぞれ加入することになっている。
ねてよりあった。そこで、今回、医療費抑制の観
すなわち、高齢者のみならず、障害者や難病患
点から病院の全医療に対して DRG が導入されるこ
者、末期癌患者なども一定の要介護状態にあれば、
ととなったものである。
介護給付を受けることができる。しかし、一方で
次に、b.医師の数抑制であるが、ドイツでは医
後述の要介護認定が要件となるために、虚弱高齢
師の数が年々増加し続けており、勤務医も含めた
者や軽度の要介護者は対象から除外され、また、
医師の総数は 1998 年末現在 29 万人にのぼり 8 年
痴呆性高齢者も対象とならない点が日本における
前と比較して 6 万人の増加となっている。患者数
介護保険制度と異なる点である。
が横這いにもかかわらず、このまま、医師の数が
(2) 保険者
増加すれば医療保険の財政難は明白である。この
ため、2002 年初頭までに、医師の必要量に関する
公的介護保険の保険者は「介護金庫」である。
規制を決定することが定められた。
医療保険の保険者である「疾病金庫」が、介護金
庫を兼ねており、疾病金庫の職員が介護金庫の業
2-2 公的介護保険制度
務も行う。ただし、財政的には介護金庫と疾病金
1980 年代以降、北欧先進諸国を中心として高齢
庫は明確に区別されている。
者の介護に関する施策がとられてきたが、ドイツ
では従来から家族介護が根強く、介護対策は比較
(3) 要介護概念と区分
的遅れていた。しかしながら、長年に及ぶ議論を
介護保険法において、要介護状態は、介護頻度、
へて、1995 年から公的介護保険が導入されること
介護時間等により3段階の介護度に区分されてい
となった。1995 年 4 月から在宅介護給付の支給が、
る(《図表19》参照)。要介護認定の基準および介
1996 年 7 月から施設介護給付の支給がそれぞれ開
護度区分は、在宅介護、施設介護とも同じである。
始された。以下、公的介護保険の概要について述
《図表 19》要介護度区分
介護度
介護度Ⅰ
(中度の要介護状態)
介護度Ⅱ
(重度の要介護状態)
介護度Ⅲ
(最重度の要介護状態)
基準となる介護分野および頻度
基準となる介護時間
基礎介護のうち2つ以上の活動について、
最低1回の援助を必要とし、さらに週に数
1日に最低 90 分
回の家事援助を必要とする状態
基礎介護について、1日3回以上の援助を
必要とし、さらに週に数回の家事援助を必
1日に最低 3 時間
要とする状態
基礎介護の分野について、夜間も含めて 24
時間体制の援助を必要とし、さらに週に数
回の家事援助を必要とする状態
(出典) 先進国の社会保障④ドイツ(東京大学出版会、1999 年)
60
1日に最低 5 時間
(4) 要介護認定
(6) 介護施設、介護報酬
介護金庫では、要介護有無および介護度に関す
介護金庫は、要介護者のニーズに応じた介護
る専門的な審査をメディカルサービス
サービスを提供するため、介護施設との間でサー
(Medizinischer Dienst der Krankenversicherung:
ビス供給契約と報酬契約を結ぶ。契約に際しては、
以下「MDK」という)に委託している。MDK の審査
介護サービスの質の確保のため、介護施設要員の
では、まず医師が家庭もしくは施設を訪問して面
資格等について審査が行われる。
接調査を行う。その調査結果と既往病歴や主治医
介護施設は、MDK 作成の介護プランや、要介護者
の診断書をもとに、要介護有無および介護度につ
および家族のニーズを考慮しながら介護を行い、
いて介護金庫に報告する。
介護金庫から報酬協定に基づいた費用が支払われ
介護金庫は、MDK の報告に基づいて要介護認定の
る
決定を行い、結果を申請者に通知する。介護金庫
(7) 保険料
の決定に不服がある場合は、異議申し立てを行う
48
ことが出来る 。その再決定にさらに不服がある場
介護保険の財源は、賦課方式によって徴収され
合は、社会裁判所に提訴することが出来る。
る保険料によって賄われている。保険料率は全国
一律で、現在は 1.7%である。
(1997 年 7 月 1 日
(5) 保険給付
∼)
在宅介護では、現物サービス給付と現金給付の
(8) 保険給付の現状
いずれかを選択することが出来る。現金給付の場
合は、現物サービス給付の半分程度の水準となっ
1999 年 6 月末現在、公的介護保険受給者は約
ている。また、支給限度額の範囲内で、現物と現
170 万人、民間介護保険受給者は約 10 万人であり
金の併用も可能である。なお、当初の予想に反し
合計 180 万人が保険給付を受けている。うち、在
て、現状は現金給付を選択する者が大半を占めて
宅介護 127 万人、施設介護 53 万人であり、男女別
いる。このため、介護金庫の財政は、1998 年まで
に見ると、女性が圧倒的に多く、全体の三分の二
は黒字となっていたが、現物給付を希望する人の
を占めている。さらに、年齢別に見ると、75 歳以
割合が次第に増加し、ついに 1999 年には赤字に転
上の受給者が全体の三分の二を占めている。
落した模様である。
また、受給者の選択した給付を見ると、現金給
一方、施設介護では、現物給付が認められるの
付が 85%と圧倒的に多く、現物給付が 10%、両者
みである。全体的に、給付限度額の水準は低いた
の混合給付が 5%となっている。従来、ドイツでは
め、要介護度が重くなるにつれて自己負担費用も
家族による在宅介護のウェイトが大きく、介護保
大きくなる傾向にある。
険制度創設後も、これまでと同様に家族介護を継
続して現金給付を選択したケースが多いことを示
《図表 20 》介護度別給付金額上限表
介護度
在宅介護
施設介護
現物給付(60 円換算)
現金給付(60 円換算)
介護度Ⅰ
750 マルク( 4.5 万円)
400 マルク(2.4 万円)
介護度Ⅱ
1,800 マルク(10.8 万円)
800 マルク(4.8 万円)
介護度Ⅲ
2,800 マルク(16.8 万円)
特に過酷なケース
3,750 マルク(22.5 万円)
1,300 マルク(7.8 万円)
介護度Ⅰ
2,000 マルク(12.0 万円)
介護度Ⅱ
2,500 マルク(15.0 万円)
介護度Ⅲ
2,800 マルク(16.8 万円)
特に過酷なケース
3,300 マルク(19.8 万円)
(出典) ドイツにおける介護保険と消費者契約(国民生活センター、1999 年)
61
しているが、最近は徐々に現金給付のウェイトが
5.9%、98 年 4.6%と比較的好調である。これは、保
下がりつつある。
険料調整条項による保険料引き上げ、被保険者数
の増加特に公的医療保険における給付内容の見直
(9) 介護施設の現状
し(歯科保綴給付の廃止)による部分医療保険の加
介護サービスを提供する介護施設は、介護保険
入者増が特に寄与していると考えられる。
制度導入後、急速に増加している。1997 年度にお
なお、経営の健全性確保の観点から、民間医療
いて、介護金庫と給付契約を締結している介護施
保険会社は他の保険種目を兼営することが認めら
49
設数は、在宅介護施設が 11,000、部分入所施設 が
れていない。また、約款上の保険料調整条項に基
6,000、完全入所施設が 7,000 となっている。
づき、引受実績に応じた保険料調整を行うことが
これらの介護施設を経営主体別に見ると、非営
認められており、安定的な引受体制の確保が図ら
利福祉団体が最も多く、約半数を占めている。つ
れている。
いで民間施設が多く、公立は最も少ない。ドイツ
(2) 保険会社と業績動向
では、2人以上の介護専門職がいれば介護施設を
設立することが出来る。民間施設は、比較的従事
1998 年現在では、民間医療保険会社のうちドイ
者数の少ないところが多く、5人以下の施設が約
ツ医療保険協会に加盟している会社は 51 社50 であ
半数を占める。一方、非営利福祉団体施設及び公
る。このうち上位 10 社で全体のシェアの 85%をし
立施設は、比較的規模の大きな施設が多い。
めており、寡占化がすすんでいる。1998 年の収保
ランキングは《図表 22》の通りである。民間医療
3. 民間保険市場
保険会社が引き受ける保険は公的保険の代替型で
3-1 民間医療保険市場
ある完全医療保険と公的医療保険を補完する部分
ドイツの民間医療保険市場について、以下(1)市
医療保険の二つに大別されるが、完全医療保険 64%、
場規模、(2)保険会社と業績動向、(3)商品内容、
部分医療保険 15%、その他 21%となっている。保険
(4)販売チャネル、(5)医療費抑制策の順に整理す
種目別の保険料ウェイトは《図表 23》の通りであ
る。
る。医療保険全体の損害率・事業費率推移は《図
表 24》の通りであるが、最近の収支残は安定的に
(1) 市場規模
推移していることがうかがえる
ドイツにおける民間医療保険の 1998 年保険料は
なお、ドイツ医療保険協会は、標準保険約款の
378 億マルクと、生保・損保を含む全保険料収入の
作成、参考料率の算出、医師会や歯科医師会との
16.3%を占めている。単種目としては自動車保険、
交渉により診療報酬規定の作成等を行っている。
生命保険に次いで大きい種目である。これは既述
(3) 商品内容
の通り、ドイツにおいては、民間保険会社が医療
制度の中に組み込まれているためである。
まず、公的医療保険代替型の完全医療保険につ
ここ最近の伸び率はドイツ保険協会のデータに
いて給付内容とその特徴について公的医療保険と
よると、保険業界全体の伸び率が、97 年 2.4%、98
対比しながら述べる。次いで部分医療保険につい
年 2.0%と低調なのに対して、医療保険分野は 97 年
て述べる。
《図表 21》民間保険市場における医療保険の位置づけ(1998 年)
保険会社数
年間収保
前年増率
生命保険
123
1,026 億マルク
5.4%
損害保険
710
929 億マルク
-2.0%
医療保険
97(51)
380 億マルク
4.6%
(注)
医療保険会社数のうち(
(出典) German
Insurance
)内はドイツ医療保険協会加盟会社数
Association:
Industry Summary 1998
62
The
German
Insurance
《図表 22》1998 年民間医療保険会社収保ランキングおよびマーケットシェア(保険料単位 百万マルク)
保険会社名
引受保険料
マーケットシェア(%)
①DKV
5,321.2
14.4
②Debeka
5,032.9
13.2
③Vereinte
4,771.0
12.9
④Central
1,970.3
5.1
⑤Signal
1,863.9
5.0
⑥Continentale
1,804.3
4.9
⑦Bayerische Beamtenkran
1,783.4
4.8
⑧Barmenia
1,505.6
3.9
⑨DBV-Wintherur
1,410.9
3.8
⑩Nova
1,081.5
2.9
51 社合計
37,900.0
100.0
(注)
収保には介護保険保険料含む
(出典) DKV 社資料を基に安田総合研究所作成
《図表 23》1998 年民間医療保険種目別保険料 (保険料単位:百万マルク)
保険料
増収率(%)
構成比(%)
被保険者数(千人)
完全医療保険
24,038
5.1
63.6
7,206
部分医療保険
5,584
6.0
14.8
8,905
強制介護保険
4,203
-0.8
11.1
7,206
就業不能保険
1,700
2.9
4.5
2,462
入院日額保険
1,500
-1.7
4.0
8,560
その他
759
1.7
2.0
-------
合計
37,786
4.1
100.0
--------
(出典) Verband der privaten Krankenversicherung “ Private Health Insurance Fact
and Figure 1998/99 ”
《図表 24》民間医療保険の損害率・事業費率推移 (単位%)
年
損害率
管理費率
契約費率
収支残率
1990 年
84.95
3.84
10.47
0.74
1991 年
85.17
3.93
10.84
0.06
1992 年
84.71
3.99
10.99
0.31
1993 年
82.27
3.80
9.97
3.96
1994 年
80.53
3.68
9.26
6.53
1995 年
78.68
3.76
8.61
8.95
1996 年
77.74
3.58
8.13
10.55
1997 年
79.60
3.42
9.13
7.85
1998 年
79.19
3.37
9.31
8.13
(出典) Verband der privaten Krankenversicherung “Private Health Insurance Fact
and Figure 1998/99”
63
① 完全保険の給付内容
d. 配当金の支払い
法律上、民間保険会社が販売する代替型医療保
配当金の支払は民間保険の特徴の一つである。
険の給付内容は公的医療保険の給付内容と同等か
一定期間、保険金の支払いのない契約者には相当
それ以上の内容でなくてはならない。民間保険の
なリベートが支払われる。このリベート制度があ
最大の特徴は病院は外国でも自由に選択できかつ、
るために、少額の医療費なら請求しないというイ
医者も選択できる点である。なお、民間医療保険
ンセンティブが働いていると考えられる。
と公的医療保険の給付内容比較を《図表 25》にま
③ 部分医療保険
とめた。
完全医療保険に加入している人は、公的医療保
② 完全医療保険の特徴(公的医療保険との比較)
険より給付内容が広いカバーを得ているため、通
a. リスクの選別
常さらに民間保険に加入することはない。従って、
自営業者、高額所得を得る被雇用者は、民間医
部分医療保険に加入する人はほとんどが公的医療
療保険に加入するか公的医療保険に加入するか選
保険に加入している人々であり、何らかの給付内
択ができる。ただし、民間保険会社の場合、リスク選
容の不足部分を民間保険で補うために加入してい
別を行うので、既に病気の人は加入できないこと
る。1998 年現在、約 440 万人が病院での選択給付
もありえるので、 このような場合は公的医療保険
(差額ベッドなど)を対象とした入院費用保険に加
に加入するしかない。公務員については、国家が
入している。また、歯科補綴などを目的とした外
伝統的に医療費の一部を負担しているため、完全
来保険は、近年急激に加入者が増加し約 450 万人
医療保険ではなく差額の部分についてのみ担保す
が加入している。ただし、1999 年の公的医療保険
る部分医療保険を民間保険会社で手当することと
連帯強化法によって、歯科補綴が復活したことか
なる。
ら、1999 年以降、補完的外来保険の加入者数は激
b. 保険料
減するものと見込まれている。
保険料については、自営業者は全額自己負担で
民間保険会社としては、公的保険に加入してい
ある。また、年金受給者が民間保険に加入するこ
る人々のうち本来なら民間保険に加入できる高額
とも可能であるが、この場合にも、全額自己負担
所得層の約 600 万人を工作のターゲットとしてい
となる。被雇用者は労使折半での支払いとなるが、
ると言われている。
仮に公的医療保険に加入した場合の法定保険で支
(4) 販売チャネル
払うであろう保険料が上限となる。保険料の算定
民間最大手保険会社 DKV によれば、完全医療保
は、性別、加入時の年齢、加入時の健康状態によ
険および部分医療保険とも同社専属代理店が最大
りアンダーラィテイングされる。
なお、保険会社は一度引き受けたら、その後、
の販売チャネルであり、ついでブローカー、同社
どのような健康状態の変化があろうと半永久的に
グループ内の生保会社ハンブルグマンハイマーの
保険を引き受けなくてはならない。加入者の保険
代理店、銀行の順となっている。銀行のシェアは
料は終身にわたって同一であるべきという考え方
5%未満である。業界全体でみても、専属代理店
であり、老化したり健康状態が悪化しても保険料
チャネルが主力となっているものと思われる。
アップはしないのが原則である(保険期間は終身、
(5) 医療費抑制策
保険料は平準保険料)。
最近注目すべき動きとして、大手医療保険会社
なお、一旦民間保険に加入した人は公的保険に
が医療費抑制の観点から、医療の供給システムに
逆戻りすることは、逆選択防止のため禁止されて
自ら関与する動きがでてきている。本来、損害率
いる。
が悪化した場合には、保険料調整条項に基づき保
c. 料率調整
険料アツプを図ることは制度上可能であるが料率
予定損害率が 10%を超えた場合には、州政府の認
アツプには自ずと限度がある。すなわち、新規加
可により料率調整を行うことができる。この場合、
入者を増やすためには公的医療制度と比較して保
全年齢層にほぼ一律の値上げが実施される。
64
険料および保障内容両面で魅力あるものに維持し
可能となる見通しである。
ておくことが不可欠であり、この観点から増加傾
3-2 民間介護保険市場
向にある医療費抑制にみずから関与しようとして
民間介護保険の商品内容、主な保険会社と市場
いるものと考えられる。以下、ドイツ最大手の DKV
規模等について以下、(1)強制民間介護保険と(2)
の動きについて述べる。
付加的介護保険に分けて概要を整理した。
① 病気マネジメント(Disease Management)
(1) 強制民間介護保険
DKV では、糖尿病に関するデータベースを構築し
① 商品内容
ているが、このデータを活用して糖尿病患者に対
する情報提供を行い、患者が適切な治療を受ける
介護保険法では、民間完全医療保険に加入して
よう誘導している。糖尿病の場合、不適切な治療
いる者に対して民間医療保険会社の取り扱う介護
を受けた場合、併発症などを引き起こし、余分な
保険への加入を義務づけている。この保険を強制
治療費が嵩むといわれており、病気マネジメント
民間介護保険とよんでいる。これに加え、医療保
の徹底は医療費の削減に効果的であると考えてい
険会社および生命保険会社が販売している付加的
る。
介護保険があり、加入は任意である。
強制民間介護保険は、公的介護保険とセットに
② ケースマネジメント( Case Management )
なっており、介護保険法の中に位置づけられてい
DKV のケースマネージャーは、患者から診療に関
る。この保険は全社共通の保険で、保険料、給付
する個別の相談に応じているが、医師の適切なる
内容とも同一である。強制民間介護保険の保険者
選択を支援することにより、二重医療や過剰診療
は、共同で「介護プール」を設立し、全社間の財
を回避させようとしている。
政調整を行っている。
保険会社と加入者との保険契約においては、既
③ 医師ネットワークとの提携
往症のある者や要介護状態にある者を拒絶しない
医療の効率化を図るためには、誤った治療や二
ことや、性別や健康状態によって保険料格差を設
重治療等を排除する必要があるが、そのためには
けないこと、被保険者の子供は保険料負担なしで
医師間において患者の治療に関する情報交換が極
加入させるといった条件が設けられている。
めて重要である。このような観点からパイロット
保険料は加入時年齢による定額保険料で、年齢
プランとしてメディネットベルリン 2000 とよばれ
が高くなるほど保険料も高くなる。介護保険法施
る医師のネットワークが設立されている。これは
行時点(1995 年 4 月 1 日)にすでに民間医療保険
医師自らが設立したネットワークであり、ベルリ
に加入していた者が、民間介護保険に加入する場
ンの専門医、家庭医など約 100 人が参加している。
合には、その保険料は公的介護保険の最高額
ネットワークの構築により、医師間の情報交換を
(1998 年:月額 107 マルク)を超えてはならない
促進させ、各症状に対する治療については治療基
という配慮がなされている。
準を用いることとしている。これにより、医療
要介護認定および介護度基準は公的介護保険と
サービスの質の向上と医療の無駄を省くことが可
同一である。ただし、要介護認定審査は、民間医
能となるとしている。
療保険協会の小会社である Medic Proof51 が行う点
DKV は 99 年 10 月よりこのパイロットプランに参
が異なる。保険給付も、公的介護保険と同じ基準
加することにしたが、今後、実践に向けた有益な
で行われるが、すべて現金給付である。在宅で介
情報、データを整備するとともに、長期的観点か
護サービスを受けたり、施設介護を受けた場合に
ら保険料値上げに歯止めをかけることを目的とし
は、償還払いが行われる。
ている。すなわち、正式な実施時期は不明である
が、民間保険会社がネットワーク化された医療機
② 主な保険会社と市場規模
関と個別に複数の慢性病を患った患者に対する治
ドイツ医療保険協会加盟の保険会社は基本的に
療に関して管理医療導入の契約を締結することが
すべて強制介護保険を取り扱っている。引受トッ
65
《図表 25》 ドイツ公的医療保険と民間完全医療保険給付比較
給付内容
民間完全医療保険
公的医療保険
可能(範囲は公的規定により
通
院
治
療
①医師の自由選択
可能 (注 1)
定められているが、地域内
での自由である)
②歯の治療
可能 (注 1)
可能
可能
③入れ歯
可能 (注 1)
ただし 50%の自己負担あり
(注 2)
可能
入
院
治
療
①一般的な病院給付
の
他
の
治
療
ただし自己負担あり
(注 2)
②選択給付(一人部
可能 (注 1)
不可
可能 (注 1)
不可 (注 2)
①温泉治療・リハビリ
不可
可能 (注 3)
②予防
可能
可能 (注 4)
自己負担なし
自己負担あり
可能
可能ただし自己負担あり
屋・二人部屋使用)
③チーフ医師による治
療
そ
可能 (注 1)
③薬
④補助具
(注 2)
緊急時の場合は、社会福祉
⑤海外治療
可能 (注 1)
協定のある国での治療が可
能(注 2)
(注 1) 契約条件により給付範囲と自己負担を決定する。
(注 2) 民間の部分医療保険に加入することにより担保範囲を拡大することが可能。
(注 3) 温泉クア療法は四年に一回でかつ、一回あたり三週間が限度。一日あたり25マルクの自
己負担あり。
(注 4) 35才以上の成人は二年に一回の定期健診、20才以上の女性は子宮ガン検診、40
才以上の男性は前立腺ガンの検診などがある。
(出典) DKV 社資料に基に安田総合研究所作成
プは 17%のシェアをもつ Debeka であるが、上位 10
(2) 付加的介護保険
社では 72%のシェアがあり上位社への集中が進んで
① 商品内容
いる。強制介護保険は損害率が低く保険会社の資
任意加入の付加的介護保険には、医療保険会社
本の増強に貢献しているが、保険料は低下傾向に
の「介護手当保険」と「介護費用保険」、生命保険
ある。1998 年の業界全体の保険料伸び率は前年比
会社の「介護年金保険」がある。
マイナス 0.9%であったが、1999 はさらにマイナス
「介護手当保険」は、介護度に応じて、一定限
幅が広がるとみられている。このため、保険料収
度内で約定日額の 25∼100%を支給するものである。
入全体に占める強制介護保険の割合が 10%を下回る
「介護費用保険」は、約定限度額の範囲内で介護
可能性もあるとみられている。上位 10 社の保険料
に要した費用の 80%を支給するものである。公的
ランキングは《図表 26》のとおりである。
介護保険導入後は、限度額を設定せず、実際に要
した介護費用と公的介護保険給付との差額の 80%
までを補填するという商品も売り出している。
66
《図表 26》1998 年民間医療保険会社強制介護保険収保ランキング(保険料単位百万マルク)
保険会社名
引受保険料
マーケットシェア
(%)
①Debeka
698.2
16.7
②DKV
518.7
12.4
③Vereinte
506.2
12.1
④Central
223.5
5.4
⑤Signal
209.1
5.0
⑥Continentale
200.2
4.8
⑦DBV-Winterthur
187.4
4.5
⑧Bayerische Beamtenkrankenk
178.3
4.3
⑨Barmenia
167.8
4.0
⑩Nova
108.5
2.6
4,173.0
100.0
51 社合計
(出典)
Zeitschrift Versicherungswesen Oktober 1999
また、「介護年金保険」は、約定限度額の範囲内
トップは約7万件の保有契約を有する Bayerische
で要介護状態に応じて年金を支給するものであり、
Beamtenkrankenk(医療保険業界第7位)である。同
販売件数は伸びていない。1985 年の発売開始以来、
社はドイツで最初に介護保険を発売した会社とし
1998 年末で約 8 万件の契約件数がある。
て知られている52 。業界全体の保険料規模に関する
医療保険会社による付加的介護保険としては、
データは不明であるが、医療保険業界全体の保険
公的介護保険が導入された 1995 年以前に既に 40
料の 1%未満と推定され、業界にとって主力商品で
万件の販売実績がある。その後 1995 年以降は約 13
はない。
万件の契約が販売され累計ベースでは 53 万件の販
Ⅵ. まとめ
売実績がある(1998 年末現在)。付加的介護保険の
アンダーラィティングは各社によって異なるが、
以上の通り、欧州主要3ヶ国の民間医療・介護
保険解約規定やそれに伴う返還保険料規定等は業
保険市場について、公的制度と対比させながら分
界統一基準となっている。
析を行ってきた。各国の民間保険市場の役割はい
付加的介護保険に加入している人は比較的年収
ずれも公的制度を補完するものであるが、その市
が高く、強制民間介護保険加入者であることが多
場規模や発展の度合いは各国の歴史的な事情によ
い。また強制民間介護保険と付加的介護保険とは、
り異なっている。すなわち、市場規模についてみ
同一の保険会社に加入する人がほとんどである。
ると、医療保険および介護保険ともドイツ、フラ
公的介護保険では施設介護費用のコストをすべて
ンス、イギリスの順に大きい。ドイツでは、民間
まかなうことはできないため、潜在的には付加的
保険会社が公的保険代替型の医療保険(完全保険)
介護保険へのニーズは高いものと考えられる。し
を取扱っていることおよび 1995 年の公的介護保険
かしながら、ドイツ国民は、年収の約 40%を種々
制度導入以降は、強制介護保険も取り扱っている
の社会保険料として負担しているため、さらに任
ことがドイツの市場規模を大きくしている理由で
意で介護保険料を支払うのは負担感があるものと
ある。
プレーヤーについてみると、ドイツは医療、介
考えられる。
護とも民間保険会社のみであり、各社とも医療保
② 主な保険会社と市場規模
険および介護保険の両方を取り扱っている。介護
付加的介護保険の引受はドイツ医療保険協会加
保険を含む医療保険マーケット全体では上位 10 社
盟のすべての会社によって行われている。引受
が 85%のシェアを占めており寡占化が進んでいる。
67
フランスの場合は、非営利民間健保会社、民間
バー新報、2000)
保険会社および相互扶助組合の3形態のプレー
・ イギリス医療保障制度に関する研究会「イギリ
ヤーが存在し、非営利民間健保会社が最も多く全
ス医療関連データ集(1999 年版)」(医療経済研
体の 48%のシェアを占めている。これは民間医療保
究機構、2000)
険が職域をベースとした共済制度から始まったと
・ 武川正吾・塩野谷祐一編「先進諸国の社会保障
いう歴史的な経緯に基づくものである。医療保険
①イギリス」
(東京大学出版会、1999)
については上位5社が全体の過半数を占めており
・ 松 渓 憲 雄「 イ ギ リ ス の 医 療 保 障 」( 光 生館、
寡占化が進んでいる。介護保険については、1986
1998)
年に最初に介護保険を発売した AGRR 社がマーケッ
・ Laing and Buisson,
“Health Cash PlanMarket Sector Report 2000 1st Edition”
,2000.
トシェアの過半数を握っているのが特徴的である。
イギリスの場合は民間医療保険市場に非営利民
・ ABI .“ Insurance Statistics Yearbook1988-
間健保会社と民間保険会社の2形態のプレーヤー
1998”,1999.
が存在する。従来から BUPA 等の非営利民間健保会
・ ABI ,“ Information Sheet-Long Term Care ”,
社組織が圧倒的なシェアを持っていた。しかし最
1999.
近では民間保険会社の市場参入が顕著であり、民
・ ABI,“Information Sheet-Private Medical
間医療保険を代表する PMI 市場におけるシェアは
Insurance” ほぼ半々となっている。イギリスの場合、民間介
護保険はドイツ、フランスと比較してあまり普及
〈フランス参考文献〉
していないが、伝統的に家族およびボランティア
・ 医療経済研究機構編「フランス医療関連データ
組織による介護が多いことも一因と考えられる。
集【1999 年版】」(2000)
今後、民間保険市場がどのように発展していく
・ 藤井良治・塩野谷祐一編「先進諸国の社会保障
かは、既に何度か述べた通り、公的制度の改革動
⑥フランス」
(東京大学出版会、1999)
向によるところが大きく、具体的な予測は困難で
・ Federation Francaise des Societes d’
ある。ただし、各国とも高齢化に伴う医療費の増
Assurances,” FRENCH INSURANCE in 1999”
大傾向に関わらず財政面での制約があるため、今
・ Federation Francaise des Societes d’
後、公的部門のサービスは削減される可能性は高
Assurances,” Groupement des assurances de
いものと思われる。従って、民間保険市場の役割
personnes’ ,1999.
は各国の事情により程度の差こそあれ、方向性と
しては今後益々増大していくものと考えられる。
〈ドイツ参考文献〉
最後に 3 ヶ国の対比の参考用として、公的医療
・ 医療経済研究機構 「ドイツ医療関連データ集
制度 3 ヶ国比較(《図表 27》)、民間医療保険 3 ヶ
1999 年版」(2000.6)
国比較(《図表 28》)、公的介護制度 3 ヶ国比較
・ 小梛治宣著「ドイツにおける医療保障改革 2000
(《図表 29》)および民間介護保険 3 ヶ国比較(《図
の動向」(週刊社会保障,2000.4.3)
表 30)》を一覧表としてまとめた。
・ 大河内二郎著「2003 年より DRG に移行するドイ
ツ上下」(週刊社会保障,2000.2.14/21)
・ 土田武史著「混迷続くドイツの医療保険改革」
〈共通参考文献〉
週刊社会保障,2000.2.12)
・ 週刊社会保障編集部編「欧米諸国の医療保障」
・ 古瀬徹・塩野谷祐一編著「先進諸国の社会補償
(法研,2000.5)
④ドイツ」(東京大学出版会,1999)
・ 週刊社会保障編集部編「欧米諸国の医療保障」
・ 日本医療企画「医療白書 1999 年版」(1999.12)
(法研,1997.6)
・ 医療経済研究機構 「ドイツ医療関連データ集
1998 年版」(1999.6)
〈イギリス参考文献〉
・ 日本医療企画「医療白書 1998 年版」(1998.12)
・ 船場正富「英国コミュニティケア改革」(シル
・ 生命保険協会「欧州主要5カ国社会保障制度改
68
革の最近の動向」(1998.11)
ティブが働くこととなる。また、GP ファンドホル
・ 本沢巳代子「ドイツの実状に学ぶ介護サービス
ダーには、待ち時間の少ない病院と契約を結ぼう
質の評価のあり方」(1998.3)
とするインセンティブも働くため、入院待ち患者
・ 松本勝明著「社会保障構造改革ドイツにおける
の問題の解消も目的としていた。
取り組みと政策の方向」(信山社 ,1998)
9
・ ミューニック・リー社「セミナー資料介護保
保健省のホームページ
http:// www.doh.gov.uk
/nhsplan/nhsplan.htm.または http://www.nhs.uk/
険」(1997.6)
nhsplan (The Command Paper, 4818-Ⅰ)
・ Zeitschrift fur versicherungswesen,
“ Die PKV im Jahre 1998 ”,1999
10
Health Insurance Association of America,
らの検証」(シルバー新報、2000)。保健省のホー
“German Health Care ”,1992
ムページ http://www.doh.gov.uk/carers.htm
舟場正富「英国コミュニティケア改革7年目か
(visited Sep.2,2000)
11
1
本稿においては、民間保険市場という場合、イギ
保健省のホームページ http:// www.doh.gov
.uk/nhsplan/ltcindex.htm.(The Command Paper,
リスにおいては非営利民間健保会社と民間保険会
4818-Ⅱ)
社を含みフランスの場合は、共済、相互扶助組合
12
および民間保険会社を含む。ドイツの場合は民間
非営利組織を含めて民間で経営されているものが
保険会社のみを指す。
多い。
2
13
NHS の も と で は 、 開 業 医 で あ る 一 般 家 庭 医
ナーシングホームは常時看護ケア付きの施設で、
レジデンシャルホームは第二次大戦後まもなく
(General Practioner)は家庭医(Family Doctor)あ
制定された「国民扶助法」により規定されたもの
るいはかかりつけ医(Home Doctor)として位置づけ
で、我が国における養護老人ホームに相当する。
られている。一般家庭医の役割は、コミュニティ
地方自治体が設置するものが多いが、民間の営利
ケアのリーダーとして住民の疾病予防と治療サー
企業や非営利組織の経営するものもある。
ビスを担うことである。
14
3
資産調査のこと
PMI が 622 ポンドであるのに対し、HCP は 108 ポン
4
1996 年 4 月、従来の地区保健当局 10 カ所と家庭
ド で あ る 。 Laing and Buisson ,“ Health Cash
保健サービス当局 90 カ所が統合されて保健当局
Plan-Market Sector Report 2000 1st Edition ”,
(100 カ所)が誕生した経緯がある。
2000.
5
15
民間病院は営利企業の設立する営利病院と非営利
1999 年における契約 1 件当たりの年間保険料は
英 国 特 有 の 共 済 組 織 で 正 式 名 は Provident
の宗教団体、篤志団体等の設立する非営利病院に
Association という。
分かれる。
16
6
スの最大手保険会社 AXA の子会社 Sun Life and
National Health Service and Community Care
Guardian Royal Exchange は翌 1999 年にフラン
Act 1990(c19)
Provincial Holdings に買収されたため、PPP は現
7
在、AXA グループの一員となっている。
NHS 病院のうち一定の要件を満たすものは保健大
臣の承認を得て、地区保健当局から組織的に独立
17
し、公営企業体(NHS トラスト病院)として独立する
(visited Aug. 31, 2000)
ことが認められた。トラスト病院においては、一
18
定の条件付きであるが、病院の運営は理事会で決
めとして、子供用ホームや身体障害者ホームを含
めることができ、、独立採算性が認められた。
めたホームのイギリスにおける総称。
8
19
GP ファンドホルダーには、定額交付予算と実績
http://www.cornhill.co.uk/Press/release.他。
ナーシングホームやレジデンシャルホームを初
英国特有の共済組織で、正式名は Contributory
との差額について、予算科目間の流用、次年度へ
Scheme という。保険料から支払保険金および経費
の繰り越し、設備拡張のための使用が認められる
を控除した収支残の一部をヘルスケア、ソーシャ
ため、疾病の予防や薬剤の適正処方につとめると
ルケアのサービス提供者に対して寄付を行う点に
ともに、効率的な病院を選択するようなインセン
特徴がある。
69
20
st
Sector Report 2000 1
21
33
Laing and Buisson,
“Health Cash Plan-Market
Edition”
,2000.
Independent Financial Adviser(IFA) . イ ギ リ
スでは現在「金融サービスおよび市場法」
PMI は一般的に糖尿病や多発性硬化症、そして喘
(Financial Services and Markets Act)に 基 づ い
息のような慢性的疾病はカバーしない。しかし、
た金融監督制度改革が行われており、損害保険も
重篤な症状を安静化させる治療をカバーするする
含 め 全 て の 金 融・ 保 険 商 品 が 金 融 サ ー ビ ス 庁
商品もある。また、既往症についてはカバー対象
(Financial Services Authority:FSA)の監督対
から外されるが、加入後一定期間(普通は 2 年)
象となる。生命保険は年金保険、投資信託と共に、
治療を必要としなかった場合は、カバー対象化が
投資商品として、従来から監督を受けてきた。独
可能である。
立金融アドバイザーはこれらの投資商品を扱う資
22
外来診察に対しては国民の不満が比較的少ない
格を有し、契約者の代理人としてアドバイスを行
ことが理由と考えられる。例えば Norwich Union
い、あるいは複数の会社の商品の中から契約者の
は「契約者は外来診察に関しては、NHS が提供する
ニーズに最も適した商品を薦める義務を負う。
医療サービスに満足している」と説明している。
34
ただし同社は Medicentre を設置し、夜間や週末の
万人が住宅を売却している。The Times Weekend
診察を含めた便利な外来診察サービスを GP First
Money “ Long-Term Care Despair ”( 13 May
という商品で提供している(大人 1 名年間保険料
2000),2000.
120 ポンド子供 1 名 54 ポンド)
。
35
http://www.norwich-union.co.uk(visited Aug.
health5.html(visited Aug. 31, 2000)
31, 2000)
36
23
Standard Life Healthcare の Primecare Plus と
れぞれの地域の医療需要に応じた医療施設の種類、
いう商品では、全国の 550 を超える病院の利用が
規模、装備等を定めたもの。単なる規制手段にと
可能だが、利用病院を 110 に制限するオプション
どまるものではなく、医療機関設立の指針として
を 付 け る と 保 険 料 が 15% 割 引 さ れ る 。
の役割も有している。
http://www.standardlifehealthcare.com(visited
37
Aug. 31, 2000)
ビスの質および量の側面から管理を行い、医療資
24
The
Office
of
Fair
Trading ,“ Press
イギリスでは、介護費用の捻出のため、毎年 4
http://www.times-money.co.uk/insure/health/
全国を 284 の医療区と 21 の医療圏に区分し、そ
地方医療社会組織委員会の管理の下、医療サー
源の有効活用を図ろうとするもの。
Release(PN26/00)”(3 July 2000),2000.
38
25
院料の一定部分が医療保険から給付されていたが、
http://www.standardlifehealthcare.com
従来は入院定額方式がとられ、1日当たりの入
(visited Aug. 31, 2000)
患者を不当に長期入院させることによって収入を
26
Norwich Union が提供する PMI 商品の Fair +
上げようとするインセンティブが病院側に働く可
square は、NHS を利用して大人が入院した場合、1
能性があった。そのため、各病院の運営部と所轄
日につき 250 ポンドを保険金として支払う。ただ
監督局の協議によって予算策定を行い、厚生省の
し 年 間
承認を受けた上で決定した予算の枠内で病院運営
1
万 ポ ン ド の 制 限 が あ る 。
http://www.norwich-union.co.uk (visited Aug.
を行う方式に変更された。
31, 2000)
39
27
Laing and Buisson , “ Health Cash Plan-
Market Sector Report 2000 1
st
Diagnosis Related Group の略。「国際疾病分類
で1万以上ある病名を、マンパワー、医薬品、医
Edition”,2000.
療材料などの医療資源の必要度から、統計上で意
28
Id.
味のある 500 程度の病名グループに整理し、分類
29
Id.
する方法」をいう。
30
Id.
40
31
Id.
l'hospitalisation publique et privée. Ordonnance
32
Réforme
hospitalière
portant
sur
n° 96 346 du 24-04-1996.
http://www.longtermcare.co.uk(visited Aug.
41
31, 2000)
70
フ ラ ン ス 保 険 協 会 ( FFSA ) 1999 年 度 Annual
Report。
されたものの約3割が却下、もしくはより低い介
42
護度認定に修正されている。却下の多さに対応し
フ ラ ン ス 保 険 協 会 ( FFSA ) 1999 年 度 Annual
Report。
て、異議申し立ても多く、1995 年
43
ドイツの民間医療保険会社の引き受ける医療保
年 29 万件、1997 年 16 万件に上っている。そのう
険は、公的医療保険代替型の完全医療保険
ち 異 議 申 し 立 て が 認 め ら れ た も の が 、 1995 年
(Krankenheitsvollversicherung) と 公 的 医 療 保 険
43.2%、1996 年 51.7%、1997 年 18.8%である。介護
を補完する部分医療保険
保険導入初期の時点において、異議申し立てが認
(Krankenheitszusatzversicherung)に大別される。
められた割合が高いのは、MDK の審査が試行錯誤の
完全医療保険は法律により公的医療保険より保障
状況であつたためとされる。
内容が下回ってはならないとされている。
49
44
ショートケアの機能別に分かれ、一種類のみのケ
1998 年末現在、全ドイツで約 10 万人の無保険者
37 万件、1996
部分入所施設は、デイケア、ナイトケア、
が存在すると言われている。
アを行う施設が全体の三分の二を占めている。な
45
お、三種類のケアすべてを実施している施設も全
疾病金庫の給付内容は法律で規制されているが、
健康増進給付の有無、家事援助給付の有無など細
体の約 20%存在する。
かい点で各疾病金庫は独自の給付内容を決定して
50
いる。
保険協会に加盟している保険会社数は 53 である。
46
51
1993 年の医療保険構造法(GSG)により、疾病金庫
その後増加し、2000 年3月末現在、ドイツ医療
1994 年設立の民間企業。MDK が全国に 17 カ所あ
の選択権が拡大した。企業疾病金庫、同業疾病金
るのに対して、Medic Proof はケルンに本部がある
庫、地区疾病金庫、代替金庫のうち、いずれも原
のみである。介護認定に関して全ドイツの約 900
則として選択が可能となつた。被保険者は年に一
名の医師と契約している。年間約 10 万件の認定を
回所属する疾病金庫を変更することができる。
行っており、一件の認定に要する期間は平均約 20
47
日間である。
人口 10 万人あたりの医師の数は、イギリス 177
人(1994 年)、フランス 290 人(1995 年)、ドイツ
52
340 人(1996 年)とドイツが最も多い。3カ国とも
会社)は、1978 年ドイツ初の介護保険を発売した。
医師の数は増加傾向にある。
他社が民間介護保険に参入したのは 1985 年であり、
48
8 年間は同社の独占市場であった。
MDK による要介護認定の審査によって、介護申請
71
Bayerische
Beamtenkrankenkenk(ババリア保険
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