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公設試の新たな挑戦 - 産学官の道しるべ

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公設試の新たな挑戦 - 産学官の道しるべ
2012
11
Journal of Industry-Academia-Government Collaboration
Vol.8 No.11 2012
特集
http://sangakukan.jp/journal/
公設試の新たな挑戦
■変革する公設試の新たな挑戦
■高知県工業技術センター 地域資源活用し、地域企業と新製品を開発
■山口県産業技術センター 企業訪問重視し、個別の試験依頼に応える
■富山県工業技術センター ものづくり支援の“守り”と“攻め”
■福岡県工業技術センター 機械電子研究所 自立した開発型企業の育成と地域発展
●都市と企業が表裏一体で成長する時代の終焉
20 年後のモノづくりのまちを支えるための人材育成
●仙台印刷工業団地協同組合がインキュベーション施設を運営
産学官11月号.indb
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巻 頭 言
文理共鳴―文理の対話と連携
山内 進… ……… 3
特 集 公設試の新たな挑戦
変革する公設試の新たな挑戦
高知県工業技術センター 山口県産業技術センター 富山県工業技術センター 福岡県工業技術センター 機械電子研究所
地域資源活用し、地域企業と新製品を開発
―竹を原材料にした自動車ハンドルを例に―
企業訪問重視し、個別の試験依頼に応える
ものづくり支援の“守り”と“攻め”
自立した開発型企業の育成と地域発展
都市と企業が表裏一体で成長する時代の終焉
CONTENTS
林 聖子… ……… 4
西内 豊… ……… 8
山田隆裕… …… 10
榎本祐嗣 / 土肥義治… …… 12
神谷昌秀… …… 14
20 年後のモノづくりのまちを支えるための人材育成
山﨑 朖… …… 16
仙台印刷工業団地協同組合がインキュベーション施設を運営
笠間 建… …… 19
東工大の特許で戸建て住宅の制振装置を事業化
熱の新技術、新製品を追い求めて
地域の新たな発展に大学の力
奈良女子大学・地域貢献事業の取り組み
野口正春… …… 22
… …… 24
鍜治幹雄… …… 26
産総研の東日本大震災復興支援
第 1 回 産業技術連携推進会議による被災地企業の支援 清水聖幸 / 善波 崇… …… 29
連載
JST 復興促進センター 被災地発イノベーションに向けて(後編)
企業の要望に沿って申請課題を磨く
独立行政法人科学技術振興機構 JST 復興促進センター… …… 32
地域で頑張る信用金庫
西武信用金庫
相模原市藤野地区特産ユズの残渣を商品化
視点 / 編集後記
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菊地博道… …… 37
… …… 39
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巻
頭
言
■文理共鳴―文理の対話と連携
山内 進
やまうち すすむ
一橋大学長
日本語が乱れていると最近よく言われる。確かに、うーんと思ってしまうことも多いが、今
まで聞いたことはないにしても、
「なるほど」と思わせるような斬新な言葉もある。斬新な言
葉というのは新しい創造的概念であったり、言葉の新しい組み合わせや用法であったりする。
言葉の乱れが指摘されるのは、
この新しい組み合わせや用法の場合であろう。
新しいのか間違っ
て使っているのか境界があいまいだからである。
私は最近、
言葉の新しい組み合わせとして
「文理共鳴」
をよく使っている。
「共鳴」
というのは、
広辞苑では「物理系が外部からの刺激で固有振動を始めること。特に刺激が固有振動数に近い
振動数を持つ場合を指す。共振」
「転じて、他人の思想や意見に同感の念を起すこと」と書か
れている。要するに、純粋に物理的現象の説明か、単に人が人に共感するという意味しか出て
いない。しかし、これは、すでに一般的に使われている言葉だけを説明するという辞書の限界
であろう。
私は共鳴という言葉を、物理的現象というよりも、社会的な現象として、それぞれ独自性を
出しながら、相互作用によって新しい果実や成果を生みだす、という意味で使うことは可能だ
と思う。
「文理共鳴」とは文理の相互作用である。
似た言葉に文理融合がある。だが、それは文理の区別をなくする、文理を一体化する、とい
うことであろう。文理を融合的に理解し、研究や現実世界に貢献することは、むろん可能だし、
そのような人材を育成することは大切である。しかし、その一方で高度に専門化した学術世界
の中で、文と理の人材が自己のそれぞれの専門に磨きをかけ、その能力を徹底的に鍛えながら、
互いに巧みに連携することによって融合以上に大きな成果を挙げる、という方法もあってよい
のではないかと思う。むしろ、その方が自然で、効果的であろう。問題は文理対話能力の育成
である。
文理対話能力をもった理系の人材が社会を考えて科学技術を推進し、文理対話能力をもった
文系の人材がその産業化と社会化を進める。それぞれの人材が対話し、連携することで、科学
技術は科学の世界にとどまらず、社会的課題を解決することに向かう。これが高等教育の目指
すべき方向であろう。これまで日本は、科学技術には資金を投下するが、その社会化にはあま
り金をかけないという方針をとってきたように思う。産業界も似たようなものかもしれない。
しかし、せっかくの巨大な投資を生かすには、文理対話能力、課題解決力をもった国際的な理
系・文系人材を育てることが大切である。それが、日本と世界に真に豊かな果実をもたらすこ
とになると私は思う。
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特集
公設試の新たな挑戦
変革する公設試の新たな挑戦
地域の中小企業への技術指導等を通して、地域産業の振興に大きな役割を果たして
きた公設試験研究機関は、環境が激変する中で、求められるニーズが変化している。
新たな公設試の挑戦とは?
■はじめに
公設試験研究機関(以下「公設試」
)は、明治時代に設置が始まり、その後、
都道府県立等による整備が進み、地域に立地する中小企業等(以下「中小企業」
)
への技術指導等を通して、地域産業の振興へ寄与してきた** 1。中小企業や公設
試等を取り巻く外部環境は、グローバル化、新興国市場の拡大、地球温暖化、東
日本大震災、タイの大洪水、少子高齢化、リーマンショックや円高等、近年大き
林 聖子
はやし せいこ
財 団 法 人 日 本 立 地 セン
ター 立地総合研究所 主任研究員
く変化している。
このような状況に直面する中小企業、
すなわち公設試のユーザー
が求める公設試へのニーズや、社会が求める公設試へのニーズが以前とは変化し
ていると想定される。従来、公設試は中小企業への技術指導や技術面の支援が中
心であったが、近年は中小企業のイノベーション創出への支援も求められるよう
になっている。企業や社会のニーズに対応するために、いくつかの公設試は変革
し、新たな挑戦が見受けられる。
そこで本稿では、ユーザーや社会のニーズが変化する中で、変革する公設試の
状況や新たな挑戦についてレビューし、考察することを目的とする。なお、本稿
では主に工業系公設試を対象とし、本稿で用いるイノベーションは、新たな経済
的等の価値を創造することとする** 2。
■公設試の概況
1. 国の科学技術政策における公設試
1995 年に施行された科学技術基本法では、自治体は科学技術の振興に関して
国の施策に準じた施策や地域の特性を生かした自主的な施策を策定し、実施する
責務を有することが記された** 3。第 1 期科学技術基本計画
(1996 〜 2000 年度)
で公設試は 8 カ所表出され** 4、第 2 期計画(2001 〜 2005 年度)では見出し
を含め 2 カ所取り上げられた。第2期計画では公設試には地域の特性に根差し
た産業の発展への貢献が望まれ、そのための基礎的・先導的研究の成果の技術移
転の促進、成果の企業化等に向けた取り組み強化が掲げられ** 5、公設試へは従
来からの技術指導や支援だけでなく、
企業の事業化支援や新商品開発等、
イノベー
ション創出までを支援することが期待された。第 3 期計画(2006 〜 2010 年度)
では公設試の表出は 1 カ所となり** 6、第 4 期計画(2011 〜 2015 年度)** 7
になると公設試の記載は無くなり、
「地方公共団体や大学、公的研究機関」等の
表現が用いられており、科学技術基本計画の中にも、公設試への期待等の変遷が
見てとれる。
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特集
2.地域科学技術振興における公設試
(1)新設・再編
公設試の新設や再編を見てみると、高度技術での地域振興が掲げられたテクノ
ポリス構想の中核研究機関として、1986 年北海道立工業技術センターが函館に
公設民営で新設** 8 されている。一方、1984 年から 1993 年までに 30%の公設
試で、地場産業支援部門の整理・統合、先端技術領域へのシフト等の再編が行わ
れている** 9。
(2)予算・職員数・技術相談件数
文部科学省調査によれば、自治体の科学技術関連予算は 2001 年度から 2009
年度までの間で約 24%減少し、その中で大きな割合を占める公設試の予算は、
この間に約 34%と大きく減少している** 9。工業系公設試全職員数も、2005 年
度を1とすると 2009 年度は 0.97、
同様に技術系職員は 0.93 と減少している** 9。
2007 年問題で多数の退職者が出ながらも、補充が無い公設試も存在する。一方、
工業系公設試の技術相談件数は約 14 万件程度増加しており、予算と職員数が減
少する中、業務量は増えている** 9。
(3)ミッションと業務時間
2005 年末から 2006 年にかけて日本立地センターが実施した公設試へのアン
ケート調査では、ミッションの1位は「技術指導・技術相談」
、費やしている業
務時間の 1 位は「その他(行政対応、予算要求、単独研究等)
」
、産学官連携は
80.6%が実施していた** 1。公設試が政策の変遷の中で、産学官連携へ業務時間
の多くを投入して取り組んでいることが見受けられる。
■変革する公設試の新たな挑戦
1.自治体直営公設試
近年、ユーザーである中小企業を取り巻く環境変化により、ユーザーから公設
試へのニーズが多様化しており、各公設試ではそれらを踏まえ、世界の市場変化
や動向を俯瞰し、地域の産業構造を鑑みながら、地域の強みと公設試自らの強み
を生かせる方策や工夫を打ち出しているところがある。以下に、特徴的な事例を
挙げてみる。
・神 奈川県産業技術センターでは、民間企業出身者をトップに招聘(しょう
へい)後、公設試挙げての営業活動を行い、ユーザーのニーズを重視する「も
のづくり技術支援強化 3 年・3 倍増活動(3・3 活動)」(2003 〜 2005 年度)
に取り組み** 10 ** 11、技術相談・依頼試験収入・受託研究収入がいずれも
目標値を超えた。次に「ものづくり技術支援質的レベル倍増活動 (QL2 活動 )」
(2006 〜 2008 年度)に取り組み、現在は企業が取り組む技術開発から商
品化までを総合的に支援する、オンリーワン技術を支えるナンバーワン公
設試を目指し、「ものづくり支援グレードアップ ONE-ONE 活動」(2009
年度から)を実施中で、売上高相当額等の目標値を公表している** 12 ** 13。
・富山県工業技術センターでは、「ものづくり産学官協働バトンゾーン形成研
究会」** 14 を開催し、地域産業の強みを連携融合により、一層の強化を目指
している。
・高知県工業技術センターでは、
所長が経営方針として「売れてなんぼ」を掲げ、
昨年度は公設試の“活動の源は企業現場にあり”という方針のもと、延べ約
1,700 社を訪問している** 15。また、地域企業と地域資源である竹を活用し
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た竹製ハンドルの研究開発に取り組み、地域企業がトヨタ自動車の T1 と開
発して製品化し、高級車へオプション搭載されている** 16。
・福岡県工業技術センター** 17 は、研究職のキャリアパスとして県庁での政策
立案、ふくおか IST での新たな研究開発のプロジェクトメイキングや研究会
のコーディネート等、文部科学省や九州大学への派遣も含め、研究職がさま
ざまなポジションを経験することで、地域産業振興をけん引する研究職を育
成している** 18 ** 19。近年、同センター機械電子研究所では、自立した開発
型企業を育成し、地域を発展させることを目途に、日々企業との共同開発に
取り組んでいる。
2.公設民営公設試
前掲した函館に立地する北海道立工業技術センターは、開設当初より民間出
身の研究職が多く、地域企業のニーズに対し一貫した支援を実施するとともに、
都市エリア事業や知的クラスター創成事業等の中枢として地域の産業をけん引
している** 8 ** 13 ** 20 ** 21。
3.地方独立行政法人化
2003 年に地方独立行政法人法が制定された。この前後から、公設試では予算・
人員の減少という厳しい状況に直面している。一方、
業務量増加という現状の中、
いくつかの公設試では地方独立行政法人化(以下「地独化」
)の検討が始まり*
* 22
、2006 年東京都と岩手県の公設試が全国で初めて公設試として地独化した。
現在表1のように公設試 9 機関が地独化している** 23。
表1 地方独立行政法人公設試の設立時期・タイプ・分野
法人名
設立時期
(2012 年4月 10 日現在)
タイプ
分野(定款より)
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
2010 年 4 月
一般地方独立行政法人(非公務員型) 農業、水産業、林業、工業、食品産業、環境、地質及び建築
地方独立行政法人青森県産業技術センター
2009 年 4 月
一般地方独立行政法人(非公務員型) 工業、農林畜産業、水産業及び食品加工
地方独立行政法人岩手県工業技術センター
2006 年 4 月
特定地方独立行政法人(公務員型)
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
2006 年 4 月
一般地方独立行政法人(非公務員型) 産業技術
地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所
2012 年 4 月
一般地方独立行政法人(非公務員型) 産業技術
地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所
2012 年 4 月
一般地方独立行政法人(非公務員型) 環境、農林水産業及び食品産業
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
2008 年 4 月
一般地方独立行政法人(非公務員型) 工業、工業技術
地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
2007 年 4 月
特定地方独立行政法人(公務員型)
産業技術
地方独立行政法人山口県産業技術センター
2009 年 4 月
特定地方独立行政法人(公務員型)
産業技術
工業技術
出典:http://www.soumu.go.jp/main_content/000120155.pdf 各公設試のホームページから編集
** 22
公設試の地独化では、意思決定の迅速化、柔軟な制度設計、柔軟な予算運用、
柔軟な人材確保、外部資金獲得のしやすさや管理法人の実施等がメリットとして
挙げられる** 24。一方、企業会計方式による財務会計システム等の導入コストや
ランニングコストの発生、事務量の増加等のデメリットがある。次に、特徴的な
取り組みをみてみる。
・地方独立行政法人大阪市立工業研究所** 25 は、大阪市から人件費と施設改修
費について運営費交付金が交付され、それ以外の試験研究経費や活動費や機
器装置の導入等は全て自前で賄っている。そのため、外部の大型競争的資金
獲得は、組織的な戦略で積極的に行っている。地独化により、部を超えた横
断的で組織的、時限的なチームを編成して緊急テーマ等を研究するプロジェ
クト研究を実施したり、企業の研究企画から製品化までの一貫支援を行う等、
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受け身ではなく、公設試から企業への積極的な働き掛けを行っている。
・地方独立行政法人山口県産業技術センターでは、企業のニーズ、シーズの発掘
から事業化に至るまでの一貫したプロジェクトマネジメント体制を同センター
内に構築し** 26、
産学公連携室を新設してコーディネータ(プロジェクトマネー
ジャー、サブマネージャー)を配置し、対応している。また、従来の依頼分析
に加え、オーダーメード試験も始め、地域企業のニーズに応えている。
■考察とまとめ
公設試は、ユーザーである中小企業からの技術相談等が増加している。一方で、
予算や職員数は減少している。このような状況の中で、公設試は従来通りの取り組
みでは企業等のニーズに対応することは難しく、社会の変化に応じた変革が求めら
れていると考えられる。自治体直営の場合には運用面や予算面での柔軟性が希薄で
あるが、それでも高いパフォーマンスを挙げている公設試があり、民間的な経営戦
略やユーザーである企業側に立ったサービスの導入や各種工夫がなされており、そ
れらが重要であることがうかがえる。多様化する中小企業のニーズ対応には、公設
試の従来からの機能に加え、運用面や予算面の柔軟性、研究職のモチベーション等
の向上が必要で、そのためには地独化が 1 つの方策であると考えられる。
変化の激しい時代において、ユーザーである中小企業のニーズが多様化し、海
外展開も加速化する現在、公設試は自らが変革し、新たな挑戦によって、中小企
業のイノベーション創出を支援し、持続可能な地域イノベーションシステムの核
の1つとして地域産業をけん引していくことが期待される。
●引用・参考文献
**1:林聖子.公設試における産学官連携による地域振興.産業立地.2006,Vol.45,No.4,p.9-17.
**2:林聖子,
田辺孝二.地域中小企業のイノベーション創出を促進する仙台堀切川モデルの考察.産学連携学.2010,
Vol.7,
No.1,
p.31-41.
**3:
“科学技術基本法”.e‐Gov.http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=4&H_NAME=&H_NAME_YOMI=% 82% a0&H_
NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=H07HO130&H_RYAKU=1&H_CTG=28&H_YOMI_
GUN=1&H_CTG_GUN=1,(accessed2012-10-11).
**4:
“科学技術基本計画”.文部科学省.http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kagaku/kihonkei/honbun.htm,(accessd2012-10-11).
**5:
“第 2 期科学技術基本計画”.科学技術政策.http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/honbun.html,
(accessd2012-10-11).
**6:
“(別紙)科学技術基本計画”.文部科学省.http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/06032816/001/001.pdf,
(accessed2012-10-11).
**7:
“科学技術基本計画 平成 23 年 8 月 19 日閣議決定”
.文部科学省.http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/
detail/__icsFiles/afieldfile/2011/08/19/1293746_02.pdf,(accessd2012-10-11)
.
**8:林聖子, 田辺孝二.公設試を核とする地域イノベーション・コアシステム.研究・技術計画学会第 24 回年次学術大会.2009.
**9:文部科学省.地域イノベーション推進のために公設試験研究機関が果たすべき役割に関する検討会報告書.2011.
**10:唐澤志郎.公設試技術経営戦略―産学公連携コーディネート機能強化とものづくり技術支援強化 3 年・3 倍増活動.産業立地.
2006,Vol.45,No.4,p.24-28.
**11:鴨田秀一 , 唐澤志郎 , 林聖子.<座談会>企業ニーズをどうつかむ?.産学官連携ジャーナル.2007,Vol.3,No.7.P.6-13.
**12:
“ものづくり支援活動”
.神奈川県産業技術センター.http://www.kanagawa-iri.go.jp/post33project/post33prj_top_ch.html,
(accessed2012-10-11)
.
**13:林聖子,田辺孝二.中小企業のイノベーション創出への公設試の果たす機能の拡充について.産学連携学会第 10 回大会講演予稿集.2012.
**14:
“ものづくり産学官協働バトンゾーン形成研究会”
.富山県工業技術センター.http://www.itc.pref.toyama.jp/information/
kenkyukai.html,
(accessed2012-10-11)
.
**15:
“所長挨拶”
.高知県工業技術センター.http://itc.pref.kochi.lg.jp/modules/about/index.php?id=17,
(accessed2012-10-11)
.
**16:
“情報プラットフォーム”
.高知県産業振興センター.http://www.joho-kochi.or.jp/johosi/1202/kogyogijutu-center.html,
(accessed2012-10-11)
.
**17:福岡県工業技術センター.http://www.fitc.pref.fukuoka.jp/,
(accessed2012-10-11)
.
**18:久保善博.
福岡県における産業振興政策と連携した公設試改革と研究職のキャリアパス形成.
産業立地.
2006,
Vol.45,
No.4,
p.41-45.
**19:世利桂一.福岡県公設試験研究機関職員としてのキャリアパス.産業立地.2006,Vol.45,No.4,p.46-47.
**20:宮嶋克己.公設民営の公設試が核となった函館地域での都市エリア事業.産業立地.2006,Vol.45,No4,p.29-33.
**21:宮嶋克己.先進事例 北海道立工業技術センター-全国唯一の「民営」で函館の産業の高付加価値化に貢献.産学官連携ジャーナル.
2007,Vol.3,No.7,p.14-16.
**22:林聖子, 田辺孝二.公設試の地方独立行政法人化に関する一考察.研究・技術計画学会第 27 回年次学術大会.2012.
**23:
“地方独立行政法人の設立状況(平成 24 年 4 月 1 日現在)
”
.総務省.http://www.soumu.go.jp/main_content/000120155.
pdf,
(accessed2012-10-11)
.
**24:
「京都市産業技術研究所の在り方検討委員会」報告書.2012.
**25:大阪市立工業研究所.http://www.omtri.or.jp/,
(accessed2012-10-11)
.
**26:
“山口県産業技術センター 中期計画”
.山口県産業技術センター.http://www.iti-yamaguchi.or.jp/_common/pdf/2009040102.pdf,
(accessed2012-10-11)
.
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特集
公設試の新たな挑戦
高知県工業技術センター
地域資源活用し、地域企業と新製品を開発
―竹を原材料にした自動車ハンドルを例に―
産業基盤の弱い地域で、公設試験研究機関はどう地域の企業の活力を高めていくの
か。ひとつの道は、地域の資源に着目し、地域企業との密接な連携でオリジナルな
製品を開発することである。
■クライアントは誰か、公設試は何をすべきか
数年前、全国の公設試験研究機関(以下「公設試」
)の機関長会議において、
県庁(知事部局)も公設試のクライアントであり、公設試に対して非常に厳しい
見方をしていること、さらには公設試の敵は県庁である、といった指摘や意見が
西内 豊
にしうち ゆたか
高知県工業技術センター
所長
あった。公設試のサバイバルがその会議のメインテーマであった。
このように、全国的に県庁組織の中で公設試に対する厳しい見方があるのに加
え、高知県の産業は厳しい状況にある。本県の製造品出荷額は 4,700 億円弱で
全国最下位である。当センターは、
「売れてなんぼ」の研究開発の実践をモットー
とし、現場主義を徹底させ、地域産業界にとって「真に必要不可欠な公設試」に
なることを追求している。地域の産業界との絆を深めることは当然のことである
が、県庁の主管部局と一体となり、施策に技術を反映させる研究開発の推進を目
指している。
現在、当センターは、地域企業の維持存続を図るために研究開発よりも技術支
援の方にウエートを高くおいている。しかし、本県の現状を打破するためには創
造価値の高い研究開発も同時に求められている。以下、当センターが地域資源を
活用し、地域企業と共に取り組んだ、イノベーションを目指す研究開発の事例を
紹介する。
■自動車産業創出への挑戦
取り上げる事例は竹製の自動車ハンドルである。地域企業などが共同
で設立した新会社である株式会社ミロクテクノウッド(高知県南国市)
と当センター、竹の素材生産業者が連携して開発し、2011 年にトヨタ
車のレクサスに日本産の竹を使用した世界初の自動車ハンドルとして装
備された。
きっかけは 1998 年にさかのぼる。株式会社ミロク銃床(現・株式会
社南国ミロク=高知県南国市)は銃床の加工に長年の経験と実績を持っ
た企業であるが、加工時に発生する端材を新規分野に展開したいと考え
ていた。自動車内装材に木材を使えないかと検討していた東海理化販売
日本産の竹を使用した世界初の自動車ハンドル
株式会社(現・東海理化クリエイト株式会社=愛知県名古屋市)と思惑が一致し、
両社が共同でレバースイッチの開発に取り組むこととなった。当センターは木材
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特集
の工業材料化を図るため、乾燥後の残留応力除去技術の開発など、品質
管理について徹底した技術指導を行った。その結果、自動車内装材のス
ペックをクリアし、レバースイッチのノブの木質化に成功した。
そして、1999 年にミロク銃床の親会社である株式会社ミロク製作所
と東海理化、東海理化販売株式会社が設立したのが、自動車の木製内装
部品の開発・製造のミロクテクノウッドである。本命は純木製ハンドル
で、技術開発が始まった。自動車ハンドルは安全性を確保するためには
非常に厳しい性能が要求されるが、当センターや地域の他の複数の企業
原竹の分割作業
が緊密な連携を築き、さまざまな課題を克服して 2000 年にはトヨタ・アリスト
などの車種への装備が実現した。
■絆から創造された竹の自動車ハンドル
自動車メーカーからは、常に新しい素材や技術を求められている。竹を素材と
するハンドルの開発は、トヨタ側の「環境性能」と「和のテイスト」を演出した
いという要望に応えたものである。ミロクテクノウッドと当センターで竹ハンド
ルの開発をスタートさせたのは 2006 年。その開発がうまくいき、2011 年のレ
クサスへの装備に至ったのである。
本開発製品は“つながりが生み出した製品”とも言える。ミロクテクノウッド
の他に、原竹の素材生産業者、竹材加工企業、県外の自動車部品メーカー、さら
に庁内外の行政機関も積極的な支援の輪に加わり、これら関係機関の“絆”によ
りさまざまな課題を解決していった。
竹のような自然資源を産業に利活用する場合の課題は、原竹の安定供給に尽き
る。竹材の伐採や搬出には竹林所有者間の合意形成、竹林の栽培管理等多くの課
題を抱えている。放置竹林から栽培竹林への発想の転換が求められる。このよう
な課題解決には民間企業独自で行うことは困難であり、行政機関の手厚い支援が
求められる。本県の竹資源量は全国 11 位、特徴的な地域資源とは言い難いが、
竹の特性を最大限に活かした技術開発および官民一体となった支援が事業化につ
ながったと言える。
■まとめ
上述の一連の研究開発には地域の自然資源の他に、固有技術や国等の研究資金
を積極的に活用したが、目標達成に向けてこれらの資源をうまく取りまとめて
いった人的資源の存在が最も大きかったと思われる。当センターの研究員は、技
術開発だけでなく、積極的に企業間の連携コーディネートを果たした。公設試の
活動をダイナミックに、またグローバルに展開していくためには、研究員のコー
ディネート能力の向上が重要である。
現在、これまでの研究開発で創出された自動車関連産業における製品出荷額は
30 億円以上、従業員も 200 名を超えるまでに成長した。革巻き加工や竹材加工
等の周辺産業も広がり始めている。高知県の産業振興、県勢の浮揚を目指し、ハ
ンドル以外の新たな技術開発への挑戦が今も続いている。
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特集
公設試の新たな挑戦
山口県産業技術センター
企業訪問重視し、個別の試験依頼に応える
公設試験研究機関は地方独立行政法人という組織形態になるとどう変化するのか。
自立的な運営が可能になったのを機に、山口県産業技術センターは企業訪問強化な
どに取り組んだ。
2009 年 4 月に発足した地方独立行政法人山口県産業技術センターは、この 4
月で 4 年目に入った。発足当初は、リーマンショックにより景気が大きく落ち
込んだ時期であり、県内企業も生き残りをかけて、さまざまな取り組みを進めて
いた。県内企業の素早い業績の回復を支援するため、法人化したセンターは、第
1 期の中期計画(図1)に示すとおり、
「技術支援の充実」
「研究開発の促進」
「産
学公連携の強化」の 3 つを重点目標に掲げ、
「ものづくりのパートナー、もっと
山田 隆裕
やまだ たかひろ
地方独立行政法人
山口県産業技術センター
理事長
迅速に、もっと地域貢献」の旗印の下、役職員一丸となって、法人化の特性を活
かした組織や制度の大幅な改革に取り組むとともに、これまで以上に県内企業か
ら信頼される「存在感」のある公設試験研究機関(以下「公設試」
)を目指して
業務運営を進めてきた。
(地独)山口県産業技術センターの重点的な取り組み
公設試の強み (face to faceコミュニケーション)
1.技術支援の充実
● 企業訪問による技術課題の把握
● 機動的で効果的な課題解決支援
● 技術者養成の効果的な実施
中堅・中小
企業
3.産学公連携の強化
「企業の想い(新技術・新製品開
発)を、形(ビジネスモデル)に」
の実現に向けて��公��業
などの活用←プロマネ体制
� 業 化
�ンリー�ン技術
�ンリー�ン製品
�ベル�ップ
2.研究開発の促進
●企業ニーズを踏まえた
重点的な技術開発の実施
●情勢の変化への戦略的かつ柔軟な対応
��産業省
文部科学省
���� ���� �
製品化
研究
●産業技術センターでは製品開発プロセスの
ニーズ志向
内、主に実用化研究の実施
●戦略の見える化
→ 技術戦略(ロードマップ)の策定
●地域イノベーションの加速化
→ 文部科学省地域イノベ-ション戦略支援プロ
グラム「やまぐちグリ-ン部材クラスタ-」
産学公共同研究
�学・��、 � 公設試
支援機�(���)、企業
�部��の��
実用化研究
企
業
��研究�
�学・��
��研究�
��的研究 (※1)
��研究 (�学・��研究�)
※1) ・・・中小企業が将来必要とする技術
図1 地方独立行政法人化した山口県産業技術センターの重点的な取り組み
■技術相談が大幅に増加
法人化によって大きく進展させようとしたのは、企業との関わりである。特
に、これまでセンターを利用したことのない企業の掘り起こしを中心とした企業
訪問の強化である。
「企業との絆」を強め、企業ニーズを素早く把握して、
「一緒
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特集
に、地域でのものづくりを加速させよう」というメッセージを地域に発信するた
めのものであり、その中から事業化につながる成果も生まれている。
「自由降下
式救命艇用衝撃緩和座席の開発(写真1)
」がその 1 つである*1。2010 年度には、
われわれが今後進むべき方向を技術戦略ロードマップとして策定し、その普及と
ブラッシュアップのため、さらに企業訪問を強化している。
法人化後、技術相談室と産学公連携室を新設した。技術相談室は、多様化する
技術相談に、迅速かつ的確に対処するとともに、相談窓口を一元化するのが狙い。
先の企業訪問強化と相まって、
2011 年の相談件数は目標値を大きく上回る 3,690
件となった。これらの相談業務の中からは、
「生き残りをかけて新製品・新技術
を創りたい」
という企業の強い想いがわれわれに伝わってくる。この想いを形
(ビ
ジネス展開までのシナリオ)にし、それを実現するために、企業と一緒になって
国や県の提案公募を獲得することは、法人化した公設試の大きな役割であると考
えている。
また、センター職員と一体となって企業との連携をコーディネートする民間出
身のエキスパートを中心としたプロジェクトマネジメント体制を新たに構築し、
その要員を新設した産学公連携室に配置して、技術ニーズ・シーズの発掘から事
業化までを支援している。これにより、受託研究の件数、特許の共同出願件数、
開発した新製品・新技術の事業化件数ともに、法人化前に比べて大幅に増加した
が、一方、課題も見えてきた。それは、自前のコーディネーターだけでは、県内
企業の多様な想いに対応しきれないということだ。このため、他機関のコーディ
写真1 成 果事例「自由降下式救命艇用
衝撃緩和座席の開発」
* 1
企業訪問から産(
(株)ニシエ
フ)学(山口大学等)公(山口
県産業技術センター)の連携に
発展した取り組みで、30 メー
トル以上の高さの船舶から海面
に突入する際に搭乗者が受ける
衝撃を緩和して、安全な脱出を
実現するための衝撃緩和座席の
開発である。現在、この座席を
搭載した救命艇は国内外に拡販
され、第4回中国地域産学官連
携功労者表彰共同研究・技術移
転 功 労 賞(2010 年 6 月 ) を
はじめ、さまざまな賞を受賞し
ている。
ネーターとの連携を進めている。将来的には、自前の体制を強化し、ものづくり
企業に対する「中核的技術支援拠点」を目指したい。
■自立的な運営
企業の新たな事業展開に向けて、地域におけるイノベーションを加速化させる
ため、現在、
文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラム「やまぐちグリー
ン部材クラスター」を中核機関として実施している。公設試が中核機関となるこ
とにより、開発した大学のシーズを、素早く地域のものづくり企業の事業化につ
なげている。これも法人化によって可能となった。この取り組みに、構築したプ
ロジェクトマネジメント体制の主力を傾注し、地域での事業化やベンチャー企業
の立ち上げ等の成果が挙がっている。今後は、環境・新エネルギー分野などの成
長が見込まれる分野においても同様の加速化を図る必要があると考えている。
このほか、法人化により、自律的な運営が可能となり、企業の利便性が向上し
た。その 1 つがオーダーメード試験である。この試験は、人的にも装置的にも
当センタ-で可能な試験は、
企業の要望に沿って全て実施するというものであり、
企業には大好評である。
日本のものづくりは厳しい状況下にあるが、当センターは、取り組みの「見え
る化」を積極的に進めるとともに、われわれの強みである「県内企業との絆」の
さらなる強化を図るため、
企業との「face to face」のコミュニケーションをトッ
プ・プライオリティーとする業務展開を実施する。今後とも各方面の絶大なるご
支援をお願いしたい。
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特集
公設試の新たな挑戦
富山県工業技術センター
ものづくり支援の“守り”と“攻め”
製造業が集積している割に産学官連携の結集が課題とされる地域で、新産業創造に
向けてどう取り組むか。県の研究開発施設が整備されたのを機に、産学官の融合を
目指す。
3,000 メートル級の立山連峰を背に、水深 1,000 メートルの富山湾を抱くよ
うに肥沃(ひよく)な平野が広がる富山県。この高低差のパノラマは工業用水、
電力そして労働力にも恵まれ、軽金属やプラスチック、機械・電子、繊維、医
薬・バイオなどの製造業が発展してきた。特に素材・部品(基礎素材)の比率が
57.9%(全国平均 36.8%)と高い。それぞれの産業が有するコア技術は優れて
いるが、一方で成熟感もあり、新産業創出に向けた戦略が課題である。
榎本 祐嗣
えのもと ゆうじ
富山県工業技術センター
所長
■“守り”の戦略
富山県工業技術センターは中央研究所、生活工学研究所、機械電子研究所、知
的所有権センターおよびものづくり研究開発センターの 5 組織で構成される。
職員は 58 人* 1。2013 年 3 月に創立 100 周年を迎える。
業務は依頼試験、設備利用など企業からの要望を受けた対応が、エフォートで
いえば 60%程度、研究開発が 30%程度、広報活動などその他が 10%程度である。
土肥 義治
“守り”の戦略とは、
企業からの要請を的確に受け止め最適な技術支援を行うこと、
このためにもシーズを発信できるポテンシャルを築くことにある。
図1に最近の活動状況をまとめた。職員数はここ 10 年、県の定員削減計画に
沿って漸減した。依頼試験件数もリーマンショック (2008) 以降漸減しているが、
これは北陸新幹線工事に伴う材料試験が工事の進捗(しんちょく)に伴って減っ
たことが主因である。2011 年の依頼試験・設備利用収入実績はリーマンショッ
ク前より 16%増えていて、件数は漸減しても内容は高度化している。中でも設
どい よしはる
富山県工業技術センター
企画管理部長
* 1
職員の内訳は、研究職 51 人、
総務職 5 人、嘱託 2 人。
備利用の件数が伸びている。これは企業の技術者自身が企業合目的の試験を行う
もので、依頼試験に比べ料金は安い。利用者への“How to”トレーニングに時
間が割かれるが、企業技術者のスキルアップにつながる。
研究に関しては、研究職
員 1 人当たり平均 2 件ほど
の課題を抱えている。特に
シーズ発信力の強化を目指
して科学研究費や研究成果
最適展開支援プログラムな
ど外部資金の獲得を要請し
ている。科学研究費の採択
率(採択件数 / 研究職員)
は 15%である。
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図 1 活動状況 左 ) 設備利用・依頼試験および研究職員数の推移、右 ) 研究件数の推移
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特集
■富山県ものづくり研究センターの活動、“攻め”の戦略
**
1
■公的外部資金による研究等
(サポイン、JST等)
■企業との共同研究等
富山県は第 2 次産業のウエートが高い「ものづくり県」として、日本海屈指
■大学や他機関との共同研究
三橋浩志
, 松原宏 , 輿倉豊.日
■県単独予算による研究
本における地域イノベーション
システムの現状と課題.文部科
学省科学技術政策研究所 第3
調査研究グループ,2009.
の産業集積を形成している。しかし数年前の全国調査では、
「製造業に比して研
究開発特化度が低い」
「クラスター形成による地域力の不足」と指摘された** 1、2。
産学官連携による地域力の結集の必要が浮き彫りになった。
**2
松 島 克 守, 坂 田 一 郎, 濱 本 正
明.クラスター形成による「地
域新生のデザイン」
.東大総研,
2005.
折しも、2009 年度、科学技術振興機構(JST)の「地域産学官共同研究拠点
整備事業」への採択を受けて 26 機種の先端研究機器の導入が決まり、さらに経
図1 活動状況 左)設備利用・依頼試験および研究職員数の推移,右)研究件数の推移
済産業省の地域企業立地促進等共用施設整備費補助金ならびに電源地域産業関連
施設等整備費補助金に県予算を加え、電波暗室棟と
開発支援棟(企業ならびに研究開発スペース)が完
ものづくり�業��の��
成した。そして、2011 年富山県ものづくり研究開
発センターが発足した。このセンターは図2に示す
ように、4 つの運営方針を掲げている。
研究開発プロジェクトの推進
■ �県等の研究�発�ロ��ク��の������
■ 共同研究��ー�を��した研究�発�ロ��ク�の��
■ ����合による���ー�の��
�����加�による�もの�く�バ�ン�ーン研究��を��
異分野・異業種交流の促進
■バ�ン�ーン研究�による�業���
�����加�を��、���の����、
�ロ��ク�� (������ーマを���)
1.先端設備の開放
実践的なものづくり人材の育成
■ ���設備による�度���材の��
��������研�、�度ナノ�ク�材��研�
■ 共同研究��による企業の
�����の��
■ ��研究����等の��
���研究�を�てる�など
��業���合研究�、機�����、���県や���の公設試等
■ ��インターン���の��
�大学生、��生の��
設備は基本的に大学や企業の研究者・技術者に開放し、
先端設備の開放(26設備を整備)
自身で設備を利用することを原則としている。「依頼試
�����電波���
電子機器の電波の
発生状況や外部電
波による影響を評価
する試験環境設備
験」での対応は高度なスキルを必要とする 4 機種に限定
加工例
��精�切削加工機�
ナノ~マイクロメータ
オーダの形状精度の製
品や金型等を加工する
5軸ナノ切削加工機
している。個々の機器について基本研修、応用研修を開
催し、利用の普及を図った。発足から 1 年半で受講者は
延べ 409 名。
加工例
����摩擦��接合装置�
アルミニウム等を摩擦熱で
柔らかくして接合する装置
表面加工の例
2.研究開発プロジェクトの推進
「研究成果最適展開支援プログラム」や「戦略的基盤技
試作した凹構造
���イオンビーム加工機�
�ナノイン��ン��ン�装置�
イオンビームを照射して、材料表面に
微細形状加工などを行う加工観察装置 ナノレベル単位の立体構造をもった金型を
材料に押しつけて微細形状を転写する装置
ナノファイバー不織布
��レク�ロ��ニン�装置�
ナノファイバーの不織布を作る装置
図2 図2
ものづくり研究開発センターの機能
ものづくり研究開発センターの機能
術高度化支援事業」など外部ファンドの採択を受け、産
学官協働で拠点スペースや機器を活用して、試作品レベルのものづくりを目指している。
2011 年度、26 件のプロジェクトを実施。
3.異分野 ・ 異業種交流の促進
異分野・異業種交流・協働による新たな開発課題の発掘を目的とした「バトンゾーン研
究会」を立ち上げ、現在 5 分野 12 テーマが活動している。バトンゾーンは、「産学技術移
転を促進する仕組み」として丸山瑛一博士(理化学研究所)が提案した考え方** 3。当セ
ンターでは技術移転を目指すプロジェクトフォーメーションを行う前段階の研究会にこの
**3
丸山瑛一監修,理化学研究所知
的財産戦略センター編.産学技
術移転の新モデル「バトンゾー
ン」
.日刊工業新聞社,2009.
呼称を使い、
バトンゾーンペア(連携の組み合わせ)を意識した活動の定着を目指している。
2012 年度、この研究会から 9 件が研究開発テーマ化して新規スタートした。
4.実践的なものづくり人材の育成
大学・企業の若手研究者から未来のものづくりを担う小中学生までを対象に人材育成に
取り組んでいる。活動の 1 つとして、県内企業・大学・工業技術センターが参画し企業の
若手技術人材育成のための「若い研究者を育てる会(通称:若研)
」がある*2。会の発足
以来 25 年間に実施した研究テーマ数は 159、育った企業研究者・技術者は 314 名、特許
は 16 件、実際に製品化に至った事例もある。
* 2
これは若い企業技術者が当セン
ターの機器を活用してものづく
りに取り組み、実験から成果発
表、特許化や論文作成まで研究
者としての素養を磨くことを目
的とするプログラム(期間は 1
~ 3 年)である。
■そして、これからも
企業のさまざまなコア技術と数あるナノテクの中から特選したものを融合し、
産学官の知恵で味付けする。こうした新技術レシピづくりを“攻め”の術として、
より高い視野を見渡す“守り”の術と絡め、富山発ものづくりを展開してゆくこ
とになる。
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特集
公設試の新たな挑戦
福岡県工業技術センター 機械電子研究所
自立した開発型企業の育成と地域発展
製造業を取り巻く環境は厳しさを増している。国内、海外市場ともに独自技術の獲
得がますます重要となってきた。自立した開発型企業を育成することを通じて地域
を発展させることが、公設試験研究機関の使命である。
■激変する九州の地域産業
九州における製造業のけん引役は、素材産業から家電、半導体、そして現在は
自動車産業となった。アジアに近いことから、自動車分野の企業もアジアとの関
係が非常に強く、
近年その環境は激変している。厳しい環境でも地域企業が維持・
神谷 昌秀
こうや まさひで
福岡県工業技術センター
機械電子研究所 所長
発展するには、内需だけでなく、狙いを絞り込んだグローバル展開、強みとなる
独自技術の獲得がますます重要となってきた。
■公設試験研究機関の役割の変化
環境が激変する中で、公設試験研究機関(以下「公設試」
)の使命は、行政機
関として地域の企業や産業を先導し、発展させることである。従来どおりの業務
だけでなく、新たに求められる課題に的確に対応し、常に企業の発展を意識した
有効な支援が必要だ。そのためには、さまざまな対応業務の中で研究開発支援を
柱にし、自立した開発型企業を少しでも多く地域に育成することが重要になった
と感じている(図1)。
1.研究開発と人材育成
企業の競争力となる独自技術の獲得は、その源泉となる研究開発とこれを担う
人材が重要である。企業自らが自助努力で行うより、多様に準備された支援事業
を活用し、大学や公設試、企業等と連携し合い、互いの
強みを発揮し合って Win-Win の成果を得る方がより
効率的だ。同時に人材育成もできる。
2.役割を担い合う連携体制
現在、産学官連携活動は非常に活発となったが、その
成果が社会で明確になる確率はまだ低い。体制や目標が
不十分であったり、研究自身が目的化している場合も多
く、もっと実践的でなければ真の活性化は難しく、努力
も報われない。研究開発プロジェクトは優秀な大学研究
者を中核とする場合が多いが、大学が製品化・事業化ま
でを担うことは現実的ではない。事業化できるのは企業
のみであり、大学は有効な基礎技術を提供し活用される
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図1 研究開発ステージと役割分担
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特集
ことで社会貢献し、評価されるべきだ。各機関の使命や強みを互いに十分に理解・
活用し、研究開発ステージに応じた役割分担を確実に行うことが最大のポイント
だ。
3.公設試に期待される総合的な支援力
事業化には技術開発の他にも、応用展開力やマーケティング、販路確保など、
必要となる要素が非常に多い。中小企業だけでは困難も多く、これを総合的に支
援できるのは、財団等の行政支援機関、特に、開発と支援業務を事業化まで実践
できるのは公設試しかない。地域企業の実状を熟知し、企業に最も近い機関とし
て総合的な支援がさらに必要だ。全てを実践できなくても、連携体制の中核を担
い、自立した開発型企業を少しでも多く育成することで、地域発展につなげたい。
■総合的支援の実践例(工事請負から、製品開発・普及企業へ)
鉄道レールに信号ケーブルを取り付ける工事(写真1)を行っている株式会社
昭和テックス(福岡県古賀市)から、
「ケーブルの脱落がなく、何か良いはんだ
材はないか」との相談があった。従来のはんだ材に代わる適切な材料がなかった
ため、新しいはんだ材を開発することになった。合金設計や溶解・凝固シミュレー
ション、試作、評価実験などを繰り返し、大学の協力も得ながら、環境に優しく
低温接合でもより高い接合力があるはんだ材を開発した。また、振動による脱落
をなくすため、接合部の応力シミュレーションを行い、脱落基点となっていた応
力集中部をなくした形状へ変更することにより、耐久性が 3 倍以上に向上した。
この結果を基に JR 九州での実証試験を経て、本格導
入が始まり、現在多くの鉄道事業者による実証試験や
採用が拡大している。全く新しい技術・製品となった
ため、複数の特許化を行い、中小企業優秀新技術・新
製品賞なども受賞した。
従来の工事受注に加え、現在はケーブルやはんだ材
の生産、供給、各工事業者への普及・教育訓練などへ
も事業拡大し、今年度はこれまで控えていた新卒の採
用を大量に行った。また、国内だけでなく、アジア展
開も視野に入ってきた。
この支援は、当研究所が主導的役割を担った。技術
2 課、6 名の職員が分担し、企業との試作・実証試験を
強力な連携体制で行うことで、効率的に事業化できた。
写真1 鉄道レールに取り付ける信号ケーブル端子
このような総合的支援は、大学ではなかなか難しい、そもそも大学本来の使命で
もない。企業が発展するまでには解決すべき要素が多く、全てを解決できなけれ
ば実現しない。職員1人の対応では厳しく、必要な技術やスキルを持つ職員が複
数、組織的に連携することで、実現へ向けた進展が望める。このような支援が行
えるのは、公設試以外にはない。日常の技術相談業務であっても、常に企業発展
を視野に入れ、
しっかりとした産学官連携体制で事業化までを総合的に支援する。
このことが、地域の競争力となり、地域の発展につながる開発型中小企業を多
く育成することになると考えている。
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都市と企業が表裏一体で成長する時代の終焉
20 年後のモノづくりのまちを支えるための人材育成
企業が生産拠点の立地をグローバルに選択する時代。モノづくり企業はいつまで都
市や地域を支え続けられるのか? この地域的な課題への対応策を検討してきた北
九州活性化協議会は、その 1 つの方策として産学連携による人材育成に着目した。
■地域連携型教育システムの構築を目指す
経済のグローバル化を背景に生産拠点の最適地化の動きが中小企業にまで及び
山﨑 朖
つつあり、都市と企業が表裏一体で成長したかつての関係が断ち切られ始めてい
やまさき あきら
る。1901 年国営八幡製鐵所の建設以降、わが国の産業史を飾ってきた鉄都北九
北九州地域産業人材育成
フォーラム事務局/公益
財団法人北九州活性化協
議会 専務理事/九州工
業大学産学連携推進セン
ター 特任教授
州は、産業の構造転換、空洞化などの曲折を経て、今また、グローバル化と少子
高齢化を背景に新しい構造問題に直面している。
20 年後の北九州地域経済の環境は? モノづくり企業はいつまで都市や地域
を支え続けられるのか?――ということが論じられるようになっている。
鉄冷えの時代に誕生し、北九州地域の活性化に取り組んできた公益財団法人北
九州活性化協議会が中心となって、
この地域的な課題への対応策を検討してきた。
そして、その 1 つの方策として「中堅・中小企業の経営力強化のための人材育
成が必須であり、産学連携による地域連携型教育システムの構築が必要である」
ということが提示された。
これを踏まえ、大学界、産業界、地域社会が連携・協働して産業人材育成の地
域システムづくりを目指す「北九州地域産業人材育成フォーラム」が 2011 年5
月に発足し、産業人材育成フォーラム事業は、北九州市の「成長産業戦略推進会
議」の重点事業に採択された。
■青少年育成から社会人教育まで 地域の中堅・中小企業の経営力強化や次世
代のイノベーターの育成を目的とした産業人
材育成事業は、大学におけるキャリア形成に
とどまらず、社会人のスキルアップ・リカレ
ント教育や青少年の育成に至るまで、
各段階、
各分野において取り組まねばならないもので
ある。フォーラムの事業体系は、以下に示す
ように大学生、社会人、青少年を対象にする
3 つのプログラムで構成されている。
①新規産業人材のキャリアアップと雇用機
会創出を目的とする「高度人材育成プロ
グラム」
産業人材育成フォーラム事業の体系
産業人材育成
��ーラム
地元大学の
コンソーシアム
地元企業の
アライアンス
産業人材育成事業
�������ププロ�゙�ク�
地域連携型
・ 長期インターンシップ
・ インターンシップ
PBL型インターンシップ
プログラム
・ 共同研究型インターンシップ
・ 海外インターンシップ
産業人材育成プラットホーム
・ 現場 ・技術者 ・経営者
・ 制度・事業・支援システム
�� ��
���
���
��人
北九州
ドクターチャレンジ
ドクターチャレンジ
プログラム
プロジェクト
��人
MBA活用プログラム
MBA活用プログラム
MBA活用プログラム
��人
産学�連携の
事業化シス�ム
地域クラスター�成
���シス�ム化�
産業人材��
ものづくり教育
理数教育支援プログラム
理数教育支援プログラム
プログラム
・
・
・
・
実践的産学連携の推進
大学の地域連携の推進
中堅・中小企業の強化
地元への就職拡大
�
�
��
�
��
�
�
㩿ዊ䊶ਛ䊶㜞䋩
㩿ዊ䊶ਛ䊶㜞䋩
㩿ዊ䊶ਛ䊶㜞䋩
北九州の課題解決
・ 20-40才の人口増加
・ 産業基盤の強化・革新
・ 産業の空洞化対応ほか
②地域企業の中核専門人材の育成と経営・
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Vol.8 No.11 2012
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管理者の育成を目的とする「社会人育成プログラム」
③産学連携による早期工学教育の環境づくりを目的とする「青少年育成プログラム」
■ Win-Win のインターンシップ
地域の理工系学生の社会人基礎力の向上と中堅・中小企業の高度人材採用機会
の創出を目的に実施する「地域連携型インターンシップ」はフォーラムの中核事
業である。
地域の各大学はいろいろな形でインターンシップを実施している。しかし、運
営システムは未整備で、受け入れ企業の確保等多くの課題を抱えている。一方、
地域の中堅・中小企業に対する学生の関心は薄く、企業の意向に反して卒業生の
地元就職率は 1 割程度の状況にあり、大学と中堅・中小企業の間に、双方のニー
ズを踏まえた有効なコミュニケーション機能をつくることが求められていた。
そこで、フォーラムの地域調整機能と事業開発機能を駆使して、中堅・中小企
業を対象にした地域一体型のインターンシップ事業を開発し、実践的な交流機能
を地域システム化することで、この地域課題の解決に取り組むこととした。
初年度(2011 年度)は、九州工業大学(九工大)と北九州市立大学(北九大)
の2大学と連携し、企業 42 社、学生 63 人の登録を得て、地域一体型インター
ンシップ事業を実施した。初めての試みでシステム設計も不完全な環境の中で、
関係機関の連携や大学の既存システムとの折り合いを付け、一定の成果と今後の
可能性を確認しておおむね計画通りに事業を終了した。
メインの研修と合わせて、Win-Win の効果を創出するためのサポート事業の
開発、研究も行い、1 年間に 11 の事業を体系的に実施する「地域連携型インター
ンシップ」のビジネスモデルの基本形を構築した。また、インターンシップの運
営実務をマニュアル化し、関連資料・書式等と共に CD-ROM に収録した「地
域連携型インターンシップガイド CD」も製作し、事業の拡充に大いに活用して
いる。
2年目の本年のインターンシップ事業は、九工大と北九大に西日本工業大学と
北九州工業高等専門学校を加え、国立、公立、私立、高専と環境を異にする4校
体制で実施した。昨年の経験も踏まえ、大学
や企業内の運営体制の改善、整備も進み、学
高度人材育成プログラム
生は 2.5 倍の 156 人、企業は 1.5 倍の 63 社
が登録して、大きな成果と新たな研究課題も
インターンシップ
研究プロジェクト
残して2年目の事業を終えた。
研修型 IS
今後は、フォーラム事業の企画・開発機能
である「インターンシップ研究プロジェクト」
において、企業の課題解決や研究開発等を
テーマとした「実践型インターンシップ」や、
研 �����
修 登録ベース
型 42社
IS 63人
�����
実
践
型
IS
�ロー�ル
人���
���ー�シ���
2 校
留学生IS
実践型IS研究
・ PBL型IS
・ 共同研究型IS
・ 海外IS
開発
モデル化
マニュアル化
登録ベース
63社
156人
4 校
地域
システム
化
実践型
���ー�シ���
グローバル人材育成のための「海外インター
ンシッププログラム」等、企業の経営ニーズ
に対応したインターンシップ機能の開発と事
・対象企業:240社
・連携校 :3大学1高専
ISの有効性
の分析
サブ事業
システム
・セミナー
・工場見学
地
域
連
携
型
イ
ン
タ
|
ン
シ
ッ
プ
インターンシップ
ガイド
CD-ROM
業化を進めていく。 17
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■ステークホルダーの機能をつなぐ フォーラムの事業運営は、ステークホルダーの機能をつなぎ、産学連携による
運営システムを構築して、
これを地域事業として実施することを基本にしている。
事業を協働実施する組織等は、3つの理工系大学・高専をベースとして、地域
の中堅・中小企業を中心とした産学官民の産業人材育成にかかるステークホル
ダーである。
高度人材育成プログラムではフォーラム事務局のコーディネートのもとに、4
校の学生支援部門と地域企業が連携、協働してインターンシップ事業を一体的に
運営する。
社会人育成プログラムでは、MBA などの
各大学の専門機能や制度を活用し、中小企業
産業人材育成フォーラムの運営体制
の中核専門技術者を対象にした社会人ドク
地域社会が一丸となって産業人材を育成する地域システム創り
ターの取得促進や、経営者を対象にした経営
学講座などの実践的プログラムを企画し、地
推 進 会 議
域と大学の双方が共に発展する好循環を生み
企業A
また、青少年育成プログラムは、次世代の
����������
企業B
企業D
連携
協働
企業C
イノベーターの育成を行う北九州イノベー
ションギャラリーと理数教育支援拠点の形成
を目指す九工大の理数教育支援センターを中
心に、地域における早期工学教育のソリュー
九工大
西工大
北九大
企画部会
協働
企業部会
出す環境を構築していく。
大学E
高専
連携
支援
・ 高度人材育成プログラム
・ 社会人育成プログラム
・ 青少年育成プログラム
北九�����業������
��北九��
ション機能の構築を目指す。
こうした事業を円滑に進めるためのフォーラムの組織体制の特徴は、大学の学
長等関連機関の長で構成する「推進会議」と学部長等の事業部門長および有志企
業で構成する「企画部会」のタテ型の運営体系と、研究・開発機能として4つの
テーマ別研究プロジェクトを組織している点である。
また、本年中には、フォーラム事業を CSR(企業の社会的責任)の視点から
協働する有志企業で組織する「企業部会」を編成し、企業ニーズを踏まえた事業
実施と企業負担金による自立的事業運営の環境づくりを行う。
■人づくりのまち=北九州
大学での学びと企業での体験とをしっかり連動させ、産学連携による実践的な
キャリア教育である「コーオプ教育(Cooperative Education)
」を導入する大
学も生まれている。産学連携による人材育成は今後さらに重要な国づくり、地域
づくりのテーマになってくるものと考える。北九州市は、製鉄、セラミックス、
メカトロ・ロボット、化学、半導体、自動車、情報、環境など各分野の大企業が
生産拠点を置き、その裾野に広がる高度な技術と人材は多様を極める。こうした
地域資源を生かし、地域ぐるみで産学連携の可能性を探求し、
「人づくりのまち」
を北九州市に冠することができるよう事業の拡充を図っていきたい。
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仙台印刷工業団地協同組合が
インキュベーション施設を運営
仙台印刷工業団地協同組合が昨年 2 月に開設したユニークなビジネス・インキュ
ベーション施設。クライアントの「コトづくり」までも支援し印刷業の付加価値
をつけるのが狙いだ。その背景は?
仙台印刷工業団地協同組合(以下「組合」
)は新事業創出支援施設である「イ
ンキュベーションセンター FLight」
(以下「FLight」
)を運営している。18 社が
集まる仙台印刷工業団地のノウハウを活用して、地域資源を利用したさまざまな
ビジネスや新分野へのチャレンジ、最終的には「売れる商品づくり」を支援する
ことを目的としている。
■東北大と将来の戦略を研究
笠間 建
かさま たける
仙台印刷工業団地協同組合
インキュベ ーションセン
ター FLight
シニアマネージャー
組合は日本で初めての印刷工業団地として、1963 年に宮城県仙台市東部の六
丁目地区に設立された。高度経済成長期を経て、量的拡大と印刷技術に磨きをか
け、1990 年代からはホームページ作成など、各社さまざまな分野で事業の拡張
を図ってきた。しかし 2000 年代になると、急速な IT 化、ネットワーク化によ
り単純な印刷物は国内外との競争にさらされ、
「モノづくり」に加え、クライア
ントの事業の「コトづくり」を支援するという印刷業の付加価値向上の視点が必
要と認識された。
そのような中、2005 年に東北大学大学院経済学研究科地域イノベーション研
究センターと共同で、仙台印刷工業団地の将来戦略を考える研究を開始。2007
年に報告書「仙台印刷工業団地協同組合のクラスター化に向けて」がまとまり、
これをベースに「ビジネスデザインセンター」
(以下「BDC」
)構想が始まった。
その目標は組合員である各社や組合(産)が、外部の学術機関(学)
、公的なビ
ジネス支援機関(官)などと連携し、バリューチェーンの中心に位置する「マー
ケティング」支援機能に磨きをかけ、ビジネスの「川上から川下まで」をワンス
トップで支援することである。
おおむね 2015 年に構想達成を目標に進める中、2010 年に仙台市「インキュ
ベーションマネジメント事業」の採択を受けた。仙台市の支援の下、BDC 構想
の一部「地域の起業家を支援する機能」の具体化として、FLight を 2011 年 2
月に開設するに至った。
■ FLight の機能
FLight は必要な機能を厳選し、コンパクトに機能設計した。
1.施設・場の提供(図 1)
①セッションラボ
「共有デスク」
、1坪程度の「ブース」
、3 坪から 7 坪程度の「ルーム」の 3
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施設・場の提供
種類から構成されたオフィススペースである。構想段階から従業員雇用段階ま
で、さまざまなステップに対応できるようにした。
「卒業」した企業を含め、
IT 関係や旅行業、海外進出支援、作曲業など、さまざまな業種が入居。
インキュベーションセンター
“FLight”
(1)セッションラボ(印刷団地組合会館内)
ブース
共有デスク
ルーム
(2)ワーク
ガレージ
(3)テストフィールド
図1 施設・場の提供
②ワークガレージ
工業専用地域の 80 坪、250 坪の 2 棟の空き工場を、FLight の「工房」と
して 1 棟ごと貸し出している。現在デザイナーの工房と古民家再生に関する
会社が入居。
③テストフィールド
展示会や販売会、仙台市内で震災復興を目的とした施設「東北ろっけんパー
ク」での出店等の情報提供により、入居者が「テストフィールド」を持って商
品ブラッシュアップが可能となる仕組みを構築している。
2.起業家の育成支援事業
入居者とは概ね月一回程度のミーティング、情報交換を実施。事業上のアドバ
イスや、公的支援の利用についての情報提供等を行っている。
3.ビジネス支援機関とのネットワーク
クリエーティブ産業振興を担う近隣のインキュベーション施設「TRUNK(協
同組合仙台卸商センター)
」
との連携のほか、
公益財団法人仙台市産業振興事業団、
東経連ビジネスセンターと連携協定を締結している。さらに 2012 年度より仙台
市「東北復興創業スクエア事業」を組合として受託し、入居者はもとより地域の
さまざまな要支援企業への多角的な支援に関わっている。
4.仙台印刷工業団地の機能強化とブランディング
FLight が存在することによって、組合員各社の「モノづくり」と「マーケ
ティング」
、そして「クリエーティビティ」が融合し、仙台印刷工業団地の付加
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価値が向上することを目指している。2011 年には組合員各社スタッフ向け研修
「FLight ビジネス塾」も実施(写真 1)
。
写真1 FLight ビジネス塾
■東日本大震災がきっかけの起業も
FLight 稼働から約 1 カ月後、東日本大震災が発生した。津波の到来こそなかっ
たものの、いくつかの組合員の建物が使用不能となり、当初 FLight として使用
予定の工場やその一部を組合員の使用に切り替えている。
また、
「ワークガレージ」
が立地する一帯が復興住宅等の再開発地域となっており、FLight のモノづくり
支援機能を再検討中である。
一方で、震災後に東京から仙台に移住して起業した入居者や、震災後の交流人
口活性化を目指した旅行会社の入居など、
「震災がきっかけの起業」も見受けら
れる。
■今後は「外に出る」支援へ
前述のように仙台地域では震災関連の起業が増えつつあるので、こうした復興
の過程で生まれるさまざまなシーズをどう支援していくのか、その手法について
現在も手探りである。今後は被災地のビジネス支援機関の役割として、より「外
に出る」支援機関への脱皮、すなわち当初の BDC 構想に立ち返りが必要になる
だろう。
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東工大の特許で戸建て住宅の制振装置を事業化
東京工業大学の特許を導入し、戸建て住宅の制振装置を事業化した。新規事業を
志向する企業が基礎研究と実験データを蓄積する大学と連携し、かつ、技術の評
価・認定を行う官の制度を有効に活用した成功例である。
東海 EC 株式会社は昭和 31 年創業で、電気工事ならびに FA 制御
野口 正春
のぐち まさはる
東海 EC 株式会社
環境・エネルギー事業本部
営業部長
盤の設計・製作を行ってきたが、8 年ほど前から住宅分野へ進出した。
当時の商材は木造住宅の接合部分に取り付ける耐震・制振装置(製品
名:「パワーガード」
、写真1)であり、主に旧耐震基準で建築された
木造住宅の補強に用いるものであった。従来の壁補強(筋交い)より
安価・短工期であったため、地元の愛知県ではいち早く補助金対象と
なり、200 棟以上の住宅に補助金を受けて施工された。平成 18 年 8
月から新築専用の「パワーガード」の開発・販売を開始し、現在まで
に全国で 4,500 棟以上の新築住宅に採用されている。 写真1 パワーガード施行例
本稿では、
東京工業大学(以下「東工大」
)の笠井和彦教授の技術(特
許)を導入した新型の制振装置について紹介する。
■耐震と制振の違い
耐震とは、
「住宅の地震動(エネルギー)に対抗する剛性」を言い、
制振とは「地
震動(エネルギー)を一部吸収して、
建物の変形を抑制するシステム」と言える。
ここで注意すべきは、
「耐震性のない建物に制振は効かない」という点である。
建物が地震動によって破壊されないためには、
建物がうまく揺れる
(基礎から入っ
た地震動がトップまで上がった後、もう一度基礎から地面へ返す)ことが必要で
あるため、耐力壁および接合部が有効に機能する必要がある。その上で、制振装
置により建物の変形を抑制して建物の損壊を軽減(財産保持性の向上)するとい
うのが基本である*1。
* 1
余談であるが、本年 5 月にオー
プンした『東京スカイツリー』
にも法隆寺の五重塔と同じ「心
柱(しんばしら)
」が採用され
ている上、心柱と構造物の間に
巨大な制振装置が設置されてい
る。制振は、数百年前から使わ
れているハイテク技術なので
ある。
(参考ホームページ:日
建 設 計 http://www.nikken.
co.jp/ja/skytree/structure/
structure_04.php)
■特許第 4139901 号のライセンス
「パワーガード」のテストで既知であった一般財団法人建材試験センター(以
下「建材試」
)の紹介により、笠井教授を紹介されたのがきっかけである。笠井
教授は住宅制振構造研究会を主宰されていた。偶然にも当社で考えていた「壁型
の制振装置」とほとんど同じコンセプトの制振装置を既に笠井教授のグループが
開発、試験をしていることを知り、当社の社長・役員と共に東工大を訪問し、平
成 19 年 11 月に特許使用契約を締結した。
ただし、東工大の開発した K 型ブレースは鋼材を溶接した一体型で、現場へ
の運搬および取り付けが困難なため、
「性能を落とさずに分解して梱包・運搬が
可能となるように改造」し、また「異なる内法高さに対応するアジャスト機能を
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付加」した(写真2)
。同時に最重要である「鋼材ダンパー部分へよ
り一層の剛性と靱性を持たせる設計変更」
も行った。
特に鋼材ダンパー
の設計変更において、東工大の知見が不可欠であった。
平成 20 年 5 月より予備試験(静的 2 回、動的 1 回)を行い、同
年 8 月に建材試において壁倍率の評価試験を受けた。本格的な鋼材
ダンパーでの壁倍率認定申請は、過去に事例が無かったため、国土交
通省への申請に手間取ったが、建材試の支援により、平成 21 年 1 月
28 日に大臣認定(壁倍率 3.9 倍 FRM-0265)を取得した。
笠井教授の技術(特許)は、K 型の制振装置で K の中央部分に制
振デバイスを置き、幾何学的に最善のエネルギー吸収を図るものであ
る。壁倍率とは直接関係ない。
写真 2 内法高さの異なる構面に取り付けた K 型ブレース
当社において壁倍率を取得した理由は、
「現状、制振を評価する法令が存在し
ない」ため製品の性能と信頼性を対外的に証明するためである。
■大学の研究成果を活用する
当社の事業は、
「中小工務店向け制震システムの全国展開事業」として平成 19
年 12 月 20 日に経済産業省(中部経済産業局)の新連携支援の認定を受けた。
市場開拓および研究開発費の支援があり、K 型ブレースの試験を受けられたこと
は幸運であった。また、笠井教授のグループが開発していた K 型ブレースが当
社の目指していたものに近かったことで、当社自身が一から研究・開発する必要
が無かったため、時間・マンパワー・コストを相当節約・短縮できたと考えてい
る。開発費および展示会等への出展等の経費を勘案すると、現段階では大成功と
は言えないが、
各制度ならびに各機関の英知をうまく活用できたと判断している。
■高まる耐震への関心
戸建て住宅の当社のブランド「LC ハウス」の加盟店は、募集開始 2 年で 15
社。制振装置の販売開始は、平成 21 年 1 月末。当初は価格面で
なかなか理解が得られず苦戦したが、昨年の東日本大震災以降は
構造へお金を掛ける意識が出始めていること、長期優良住宅をは
じめ一定の耐震構造を持つものに対しては、使用条件を緩和する
などの施策をとったため採用が増えている。これまでは月平均 4
棟前後であったが、本年 10 月以降は、大手ビルダーが標準採用
を決めたため、約 3 倍になる見込みだ。
進行中の「住宅制振構造研究会」において、来年には『制振設
計マニュアル』が策定され、品確法上で「制振」を評価すべく国
土交通省へ話を上げる予定になっている。
各ハウスメーカーとも、
「法令で制振を評価する」ことを目指して互いに協力している。
左から東工大 笠井和彦教授、松田和浩助教、坂田弘安教授
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熱の新技術、新製品を追い求めて
服部ヒーティング工業株式会社(大阪市)の服部榮市社長は、創業以来 40 年余
り、遠赤外線のヒーターなど「熱」に関する研究、製品開発を続ける“発明家”。
大学との連携、学生支援なども続けている。
大阪市都島区に本社のある服部ヒーティング工業
株式会社の設立は 1969 年。今日まで一貫して取り
組んでいるテーマは「熱」である。遠赤外線がまだ
注目されていなかった時代に、その極めて精密な発
熱体およびその応用機器の研究開発に取り組み、そ
の後、多くの先駆的な製品を世に送り出してきた。
研究開発優先のファブレス(自社で生産設備を持
たない)経営が原則だが、発熱エレメントなど重要
代表取締役社長
服部榮市 氏
部品と一部の OEM 品は自社内で生産している。
創業者で現在も代表取締役社長である服部榮市氏
は小さいころ体が弱く、火鉢にあたるなど温かくす
ることで助けられた。
「将来、
“熱”で社会のために役に立ちたい」という夢を抱
いていた服部氏は、30 歳のとき、勤めていた抵抗器メーカーを辞めて起業した。
その人生は、熱の可能性を追い求めた発明家のそれである。
■遠赤外線の波長測定装置の普及がきっかけ
同社の沿革から主な製品を拾ってみよう。
1970 年 1 月 バイク用ハンドルヒーターの発売(電気式では世界初)
1975 年 1 月 超精密遠赤外線発熱体を完成
1980 年 4 月 遠赤外線サウナを発売(世界初)
1984 年10 月 耐熱性遠赤外線放射塗料を提携企業と共同開発(特許取得)
1987 年11 月 温灸器「ハットリ Q」を完成させ、医療機器認定を受ける
1988 年10 月 超精密遠赤外線発熱体の特許取得
1993 年11 月超精密温度分布理化学用ホットプレート 1 号機を大手企業に OEM 納入
1995 年 6 月 家庭用遠赤外線暖房機を製作
1996 年10 月 業務用ストレートパーマ用ヘアアイロンを開発
2000 年 9 月 遠赤外線調理プレートを完成
1975 年当時、遠赤外線の波長を計測できる装置は、外国製が通産省工業技術
院(当時)などにあるだけだった。
「共同研究していた工業技術院の研究者に、
開発した超精密遠赤外線発熱体を計測してもらい、そのデータを持って大手家電
メーカーなどに売り込んだ」
(服部氏)
。大手造船企業に遠赤外線ヒーターを納入
したこともあった。
その後、東京都など自治体の公設試験研究機関や産業支援機関が装置を導入。
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さらに、国内の計測機器メーカーが開発に乗り出した。遠赤外線の測定装置を作
るためには、熱が均一の発熱体が必要。それを作れる同社に注文があった。
「波
長の測定装置が広まったことが、遠赤外線製品の需要拡大のきっかけになった」
(同)と言う。
独創的な技術は、遠赤外線ヒーターに限らない。同社のバイク用ハンドルヒー
ター、遠赤外線放射塗料、ストレートパーマ用ヘアアイロンなどは新しい市場を
創出してきた。特許 10 件、同出願中 3 件、実用新案 28 件、同出願中 10 件な
ど豊富な知的財産はそれを裏付ける。
■立命館大学に実験室
服部氏が、アイデアの源泉の 1 つとして選んだのが大学の知見。立命館大学
が 1997 年に「びわこ・くさつキャンパス」
(滋賀県草津市)に開設したレンタ
ルラボ「産学官連携ラボラトリー」の第一期として入居し、今日までこの“実験
室”で大学との共同研究を続けている。
他の大学との共同研究を行ったこともあったが、服部氏は立命館大学と馬が
合ったのか、2001 年 4 月、立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)に「服部
榮市国際学生奨学金」を設置、
10 年間にわたり留学生らを資金面で支援した。
「自
社の倉庫を作るより、外部の人材に投資したい。留学生が帰国して、日本で学ん
だことを広めてもらうほうがいい。そうすることが“友達”を増やすことにつな
がる」というのが服部氏の信念だ。
■輻射温調装置に賭ける
現在、服部氏は遠赤外線を使った「輻射温調装置」
(特許取得済み)という新
しい技術を、
製品にすることを探っている。この技術は、
空気を閉じ込めた缶(円
柱、薄い箱型など)の中を 3 層にしたもの。各層の間に微細な穴を開け、表面
に遠赤外線を放射する塗料を塗る。下に熱源を置くと、一番下の層が約 100 度、
真ん中の層が 50 ~ 70 度、上の層が約 30 度になる。
「エアコンと異なり、遠赤
外線の暖気が足元に残り、人体には理想的なヒーターになるのではないか」と服
部氏は考えている。
連携して事業化を目指す企業を新聞広告で募ったり、立命館大学の学生に本特
許活用のアイデアを募集したりした。立命館大学からは 9 月末、
「遠赤外線サウ
ナマシーン」
「住宅建材組み込み型遠赤外線ヒーター」
「円柱型遠赤外線湯沸かし
器」などの学生のアイデアが寄せられた。
企業、大学等とのさまざまな形態の連携を駆使し、輻射温調装置の事業化を探
るとともに、企業としての勝ち残りの戦略を練るつもりだ。
(本誌編集部)
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地域の新たな発展に大学の力
奈良女子大学・地域貢献事業の取り組み
奈良女子大学の社会貢献事業は 10 年目を迎えている。「文化・歴史・自然環境」
「人
づくり、健康づくり」
「科学技術振興」の 3 分野でさまざまな事業を行ってきた。
地域とのつながりは強くなり、より実践的な教育の場にもなっている。
■はじめに
奈良女子大学の地域貢献事業は、2003 ~ 2004 年度に文部科学省の公募に採
択された地域貢献特別支援事業「奈良の豊かな文化・歴史遺産と自然を生かした
<明日の奈良づくり>」
(全学的な 10 事業)を地域貢献に熱意ある教員を中心に、
奈良県、奈良市と連携し実施したのが始まりである。その後 2005 年度からは、
鍜治 幹雄
かじ みきお
奈良女子大学 社会連携
センター長、教授
社会連携センターが資金的援助を含め取りまとめ役として事業を引き継ぎ、毎年
7 ~ 10 テーマを実施し現在に至っている。事業は「文化・歴史・自然環境」
「人
づくり、健康づくり」
「科学技術振興」の 3 つのくくりのもとに、地域のニーズ
を大学の教育・研究とかみ合わせ、双方の交流・連携を促進するべく活動を展開
している。
■まちづくり支援など7テーマで実施
上記 3 つの柱を基本に、
毎年テーマの検討・改善を進め、
2011 年度は次の 7 テー
マを実施した。以下、各テーマにつき簡単に紹介する。
1.文化・歴史・自然環境
(1)古代奈良を中心とした歴史的文化遺産のデータ化
「古代」
「奈良」をキーワードとし、地域の社寺等所蔵の貴重な文化財を、関
連自治体・団体等と協力して「デジタルアーカイブ」としインターネットで国
際的に公開するとともに、
「万葉・古代文学」の舞
台について、地誌的データ抽出と GIS を活用した
図像的再構成を、それぞれ継続的に行っている。
・主な活動=木津川流域寺院の縁起絵巻のデジタル化/山
城郷土資料館特別展「木津川ものがたり」への協力/「蟹
満寺縁起絵巻」の撮影・公開/「日本霊異記」について
の研究体制と情報提供システム構築への取り組み
(2)まちづくり支援事業
奈良女子大学周辺の「ならまち」および「商店街」
のまちづくりを支援し、地域と大学が一丸となっ
たまちづくりを展開している(写真1)
。
・主な活動=「チャリティーイベント」
(4 月・6 月)/「24
時間テレビ」
(8 月)/「あるくん奈良 まちなかバル」
(5
月・10 月)/「地蔵盆」
(7 月)/「わらべうたフェス
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写真1 まちづくり支援事業(チャリティーイベント)
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タ」
(10 月)/「はじまりは正倉院展」
(11 月)/「M-house project」
(11 月)/「奈
良コン きたまち編」
(2 月)
(3)紀伊半島の生物資源保全事業
紀伊半島における森林・河川・沿岸域の生態調査を行い、奈良県・奈良市・
和歌山県の協力のもと、生物資源の保全に貢献する。また自然環境保全の重要
性を地域の子どもたちに認識させる環境教育を実施し、地域社会の環境保全の
意識向上を目指す。
・主な活動=小・中学生向け「東吉野村野外体験実習」/第 11 回共生科学研究センター
シンポジウム/第 15 回紀伊半島研究会シンポジウム/衛星データに基づいた紀伊半島
の森林特性調査/紀伊半島沿岸域の生物保全に関する調査
2.人づくり・健康づくり
(1)知る・学ぶ・伝える equality
男女共同参画の根幹である equality(平等=全ての人が等しく尊重される
こと)の実現を目指し「多様な個性の尊重」についてのさまざまな話題を連続
講座の中で提供する。初めて知ったこと(知る equality)
、関連する問題や背
景について学んだこと(学ぶ equality)
、各自が大切にされる社会に向け自分
が毎日の生活の中でできること(伝える equality)を次の講座参加者に持ち
帰ってもらうことを目指す。
・主な活動=「どん底からの独立物語―世界一貧乏な社長」/「自分を好きになることか
ら始めよう」/「デート DV から学ぶ―非権力的な関係」/「介護について考え、語り
合い、出会うためのネタ帳」/「私が尊敬する祖国の女性」
(2)健康なら 21Step アップ事業
奈良県ならびに市町村が推進する「健康なら 21
計画」と連携して、身体運動を通じて「健康づく
りによる地域の活性化」に貢献するため、幼児か
ら高齢者までさまざまな世代を対象とした運動プ
ログラムを開発し、それらの普及にかかわる指導
者の育成を進める(写真2)。
・主 な活動=地域の運動指導者への講習会開催/<フォ
ローアップ研修会>ボランティア指導者へ 4 回の研修
会/<指導者サロン>指導者の情報交換促進や、体力
測定・体操の相談・指導/学生による地域住民への運
動指導「ブリッジテラス」開催
(3)次世代自立支援の子ども学
子ども学は「子どもの生きる現場」から始まる。
写真2 健康なら 21Step アップ事業による運動プログラム
未来の社会のありようは、次世代を担う子どもたちがどのように生き、育つか
にかかっている。しかし今日、その子どもたちの育ちが種々の危機にさらされ
ている。この現状を踏まえ、次世代の子どもの自立と、それを支える大人への
支援について、さまざまな角度から現実の問題を提起し、議論し、提案を発信
している。
・主な活動=子どもの<こころ>と<からだ>をみつめて―公開連続セミナー/子ども学
実践フォーラム「奈良の明日をつくる保育」―幼保合同研修講座/若草中学校区連携プ
ロジェクト―本学校区の地域教育再生に関し幼保小中教育機関連携支援
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3.科学技術振興
(1)奈良女子大学サイエンス発信広場
―奈良を理科・数学(算数)大好き日本一に―
奈良女子大学および周辺地域に会場を設定し、
理学部各学科の特色を生かしつつ、理学部が有す
るさまざまな資源を用いて、小中学生・高校生お
よびその保護者に科学の面白さを伝え、次の活動
により、特に教育面での地域社会への貢献を目指
す(写真3)。
・主 な活動=算数・数学大好き教室(数学科)/物理で
世界をのぞいてみよう―物理スクール in Nara(物理
科学科)/続 化学大好きプロジェクト Nara(化学科)
/生物学体験教室(生物科学科)/メディア・サイエ
写真3 サイエンス発信広場
ンス・ラボ(情報科学科)
■地域と双方向の連携交流
成果の第 1 に、地域とのつながりが強化されたことが挙げられる。各テーマ
とも地域の自治体、諸関係団体、商店街等と「今までにはみられなかった双方向
の連携交流」が進んだ。事業の進展にこのつながりは必須であった。第 2 には、
事業を通じて本学の教職員・学生が、正規の授業では得難い体験ができたことで
ある。例えば「まちづくり」
「健康」
「サイエンス」等では、学生が地域をフィー
ルドとして、より実践的な教育の場を持つことができた。加えて地域の人々に対
し、本学の持つ教育資源等により、テーマに応じた啓蒙的教育が行えたことも挙
げられる。さらに第 3 には、
本学の教育・研究を地域に広く広報できたことである。
例えば「アーカイブ」
「男女共同参画」等では、本学の特徴を生かした広報活動
につながっている。
本年度で事業がスタートして 10 年目を迎える。その間、時の流れに応じた軌
道修正を行いつつ、3 つの柱をしっかりと見据えて活動を続けてきた。地域の相
互理解・交流には「継続は力なり」とのとおり、じっくりと取り組むことが必要
であると考える。今後とも本学の教育・研究を柱に、地域のニーズをよく考慮し
て、互いを尊重して地域を新たに発展させるべく地域への貢献を進めていきたい。
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連載
第1回
産総研の東日本大震災復興支援
産業技術連携推進会議による被災地企業の支援
東日本大震災後、産業技術総合研究所や各都道府県の公設試験研究機関が実施し
た、被災地復興支援や放射線対策は多岐に渡る。この中から本稿では、全国の公
設試のネットワークを持つ産業技術連携推進会議の活動による被災地企業への技
術支援を紹介する。
■はじめに
産業技術連携推進会議(以下「産技連」
)は、国の先端技術を各地域にあまねく
伝播させ、わが国の均衡ある産業発展を目的に、昭和 29 年に設立された、経済産
業省(以下「経産省」
)―産業技術総合研究所(以下「産総研」
)―公設試験
研究機関(以下「公設試」
)による連絡組織である*1。産総研は、経産省と共に産
清水 聖幸
しみず きよゆき
独立行政法人
産業技術総合研究所
イノベーション推進本部
産学官連携推進部長
技連の事務局を担当していることに加え、今回震災で必要とされた放射線計測の
研究、地域企業との共同研究を通じた地域の産業振興も行っている。この役割や
善波 崇
特徴を活かした被災地企業の支援活動と成果について、3 回に渡り紹介する。
第 1 回は、被災地の公設試が、地元企業への依頼試験、開放機器利用、技術
相談等の技術支援の実施が不可能となった期間に、他県の公設試が代わって受け
入れ、企業の生産活動の復旧を手助けし、サプライチェーンの回復に貢献した事
例を報告する。
■東日本大震災による各公設試被害状況と、被災企業からの公設試への要望
東日本大震災の地震・津波により、被災各県の公設試も大きな被害を受けた。
東日本大震災による各公設試の被災状況
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ぜんば たかし
独立行政法人
産業技術総合研究所
産学官連携推進部
産学・地域連携室
(現所属 : 企画本部 総合
企画室)
* 1
会長には産総研野間口有理事
長、議長に経産省産業技術環境
局長が就任している。加盟機関
は 公 設 試、 産 総 研 に 加 え、 経
産省、地方自治体を含む 147
機関(公設試機関 93 含む)で
あ り、 構 成 員 は 延 べ 約 9,400
人 に 上 る。http://unit.aist.
go.jp/col/sgr/
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図1 東日本大震災による各公設試の被害状況
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浸水や建屋の崩壊、機器の破損に見舞われた上、公設試職員は県職員として一般
被災者に対する支援(支援物資配送仕分け、遺体安置所受付管理、避難者収容施
設の運営管理等)に追われた。機器の点検校正等も行えず、研究開発はもちろん
通常実施していた企業向けの依頼試験等の技術支援サービスが長期にわたり実施
不可能となった(図1)。
一方、被災地の企業は、生産設備や計測器のズレ等により、すぐに生産を開始
することができず、生産体制の早急な復旧のため、震災直後は企業から被災地の
公設試に対して計器・器具の貸し出し要請が殺到した。深刻であったのは、公設
試の業務がストップした結果、被災地の工業製品の出荷時に添付される製品分析
や性能の証明ができなくなり、中小企業の生産と製品出荷に多大な影響が出たこ
とである。既にマスコミ等で紹介されているように、今回の被災地域にはわが国
の主要産業である自動車・工作機械・電気製品・医療機器に不可欠な部材を供給
する中小企業が数多く立地しており、震災後かなり早い時期からサプライチェー
ンに大きなダメージが生じ始めていた。
■産技連による、被災地公設試の支援
産総研では上記の状況を踏まえ、産技連加盟機関によって被災地企業の支援を
行う方針を立て、3 月 22 日、産技連事務局から加盟公設試等へ支援の要請(被
災地企業の依頼試験・開放機器利用・技術相談の受け入れ、および計器・器具等
の貸し出しへの協力依頼)を行った。
その結果、産技連加盟機関である公設試から即座に次々と支援の意思表明が
あった。そして、関東・東北の公設試を中心に、北は北海道から南は九州に至る
までの公設試が、被災地の企業から依頼試験 1,473 件、技術相談 2,304 件、開
放機器利用 868 件の依頼を受け入れた(平成 23 年 3 月から平成 24 年 1 月まで
の集計結果、図2)
。特に、山形県と東京都は非常に多くの依頼を受け、東京都
立産業技術研究センターは全体の7割以上を引き受けた。
(依頼試験・技術相談・開放機器利用合計4645件)
平成24年2月1日
 東北・関東の公設試が中心、特に東京都立産業
技術研究センターと山形県工業技術センターが支
援(関西、中国、四国、九州地方の公設試も支援)
<産技連事務局が仲介>
●福島県ハイテクプラザからの魚捕獲支援要請(岩
手県水産技術センターが対応)
●宮城県産業技術総合センターからの「光造形によ
る試作支援」、「三次元座標測定など7つの精密測
定」等
依頼数
189件
引受数
586件
955件
274件
1217件
689件
��地からの依頼に対����
����公設試
北海道、千葉県、東京都、新潟
県、静岡県、福井県、滋賀県、
京都府、和歌山県、鳥取県、島
根県、広島県、山口県、徳島県、
愛媛県 等
1551件
233件
3349件
引受側都道府県
引受数<100件
引受数100~500件
引受数>500件
依頼元
図2 都道府県別引受状況
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通常、県予算で設立・運用されている公設試は、他県のしかも初めて依頼を受
ける企業に対しては、真意の確認や信頼性を確かめるため、公設試訪問を課す場
合が多い。そのため、たとえ最初の1度だけの訪問であっても、遠方の公設試を
訪問することは時間とコストがかさむため諦めてしまう中小企業も少なくない。
しかし、今回の支援において支援側の公設試は、被災地企業からの依頼に対し
て最大限対応した。また他県の企業からの依頼に対しては、通常 1.2 倍から2倍
の料金を課す県が多く、料金改定は議会マターである。しかし、ほとんどの県は
特例として、被災地企業に対して県内企業と同一料金への減免措置を実施、東京
都立産業技術研究センターにおいては、約 1 年間都内企業向け料金を半額にす
る等、県を越えた支援を行う動きがみられた。
このような支援は研究開発の領域にまで及んだ。例えば福島県の工業系公設試
である福島県ハイテクプラザでは、調査船が沈没して研究試料となる魚の調達が
できなくなった。産技連事務局より対象の魚種の捕獲支援要請を行ったところ全
国の水産試験場が支援の手を挙げた。その中から、津波で大きな被害を受けた岩
手県水産技術センターが、少しでも支援の恩返しがしたいということで、被災者
支援のために約半数に減った職員が、
難を逃れた調査船を使って対象魚種を捕獲・
提供した。
■まとめ
産技連は、そのネットワークを活用し、被災地公設試に対する他県公設試によ
る支援体制を早急に整えることで、被災地企業の復興およびサプライチェーンの
回復に貢献できたと考えている。速やかな支援を可能とした遠因は、産技連の各
技術部会および地域部会、各部会参加の分科会研究会等、さまざまな機会で所長、
管理職、職員のあらゆる層が、互いを知っていたからに他ならない。
3 月 12 日、山形県知事が被災地支援を表明した直後、山形県工業技術センター
武田公治所長が宮城県産業技術総合センター鈴木康夫所長と福島県ハイテクプラ
ザ黒澤茂所長(いずれも肩書きは当時)に電話、山形県工業技術センターが、両
県の企業の依頼試験、
開放機器利用を全面的に受けることを申し出て、
各県のウェ
ブサイトにその旨を表示する等、素早い対応があったことを付け加えたい。
このような県組織を越えた支援では、単なる協定などではなく、お互いをよく
知っていて、
「A 所長、B 研究員を助けなければ」という気持ちや、あるいは「C
所長、助けて欲しい」という率直な意見を言える関係を、国と県、県と県の職員
同士が築いておくことが重要である。
昨今、国の地域向け事業、とりわけプラットホームを形成していたクラスター
事業が縮小・廃止されており、国と県、県と県の職員のネットワークを形成する
基盤となる共同研究や共同事業が大幅に減少している。しかし、科学技術は性格
上、目的や性質が変化しながら研究者や技術者を介して発展していく。今後の科
学技術の地域振興への活用はもちろん、今回の震災の経験からも、国-地域間お
よび地域-地域間の連携強化はますます必要であると確信している。
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連載
後編
JST 復興促進センター 被災地発イノベーションに向けて
企業の要望に沿って申請課題を磨く
JST復興促進センターが推進している事業の1つ、復興促進プログラム(マッチン
グ促進)は、技術的課題を抱える被災地企業と、その解決に役立つと思われる技
術を持つ大学等が連携して応募する。その「課題」作成は、盛岡、仙台、郡山の
3つの事務所にいるマッチングプランナーが企業を回ってニーズを発掘すること
から始まる。
独立行政法人
科学技術振興機構
JST 復興促進センター
前号に引き続き科学技術振興機構(JST)の JST 復興促進センターの事業のう
ち、復興促進プログラム(マッチング促進)の取り組みを紹介する。このプログ
ラムの要はニーズとシーズのマッチング、事業化に長けた 18 名のマッチングプ
ランナー。岩手県盛岡市、宮城県仙台市、福島県郡山市の 3 つの事務所で精力
的に被災地を飛び回っているマッチングプランナーとその活動の一部を、担当す
る研究開発課題の内容を通して紹介する。
■マッチングプランナーの活動 ―郡山事務所に見る―
●福島県初の拠点
JST 復興促進センター郡山事務所は、福島県で初めての JST の
拠点であり、知名度をどう高めるかが課題である。マッチングプ
●郡山事務所
ランナー(MP)7人中 4 人は首都圏、関西、九州から赴任した
者なので、
県・市・大学等のコーディネーター(CD)と連携を取り、
企業へのアクセス等に努めている。
福島県は海岸地域の復旧の遅れだけなく、東京電力福島原子力
発電所の事故により放射性物質汚染のために警戒区域や避難指示
石川 安則 MP
奥本 武城 MP
鴨志田 敏行 MP
日下 尚司 MP
松島 武司 MP
山口 一良 MP
渡邉 博佐 MP
丹野 史典 MS
遠藤 和也 調査員
区域等があり、これらの地域は当然ながら、その周辺地域でも産
業、特に農業の復旧が現在もできていない。
【活動現状】
収集した情報(企業からの相談=ニーズ)を MP 間で共有し、
その分野に応じて適任の MP が担当、フォローしている。企業の
要望を丁寧に聞き、基本的には企業要望に沿って対応している。
申請するには納得できる課題の筋立てにする必要があるため、
MP(申請者の 1 人でもある)が企業・アカデミアと論理立てた
話し合いを行っている。ストーリーや金額面などで納得しない企
業の場合はその調整に MP は苦労している。
【マッチング促進への申請まで】
MP:マッチングプランナー
MS:マッチングスタッフ
課題を作り込む方法には以下のようなパターンがある。
・産学で検討していた課題を申請:JST 復興促進プログラムタイプⅠ・Ⅱの第
1 回募集にはこのタイプの申請が多かった。茨城県の株式会社フルヤ金属つ
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くば工場と独立行政法人産業技術総合研究所の高性能有機 EL 燐光材料の開
発、福島市にある G&G サイエンス株式会社と静岡県立静岡がんセンター
との肺がん治療薬の新規なコンパニオン診断薬の開発などがその例である。
・企業にニーズがあるもののアカデミアとのつながりがない場合、あるいは
アカデミアのシーズを被災地復興に生かしたいが、企業を知らない場合の
課題の申請:地域の CD や MP の活動により第 2 回募集には多数の申請が
あった。
・MP が発掘したシーズを企業等とマッチングした申請:JST が過去に採択し
たシーズ発掘試験、A-STEP 探索タイプの課題を調査し、島根大学のセシ
ウム吸収(取り込み)の低い稲の課題を見つけた。島根大学、福島県農業
総合センター、JA そうまとのマッチングを行い、マッチング促進可能性試
験に申請・採択されて実証試験を開始することになった。
(JST 復興促進センター郡山事務所長 堀尾拓也
マッチングプランナー 奥本武城)
■復興促進プログラム(マッチング促進)の採択課題の紹介
海藻製品を対象とする非破壊品質検査装置の開発
企業:重茂漁業協同組合(岩手県宮古市)
研究機関:岩手県水産技術センター(岩手県釜石市)
ワカメ養殖は三陸沿岸の主要産業の 1 つで、岩手、宮城両県の
●盛岡事務所
生産量は全国の 70%のシェアを持っていた。その養殖施設が東
日本大震災で大きな打撃を受けた。残った施設の修理や新設施設
で生産量は 7 割程度にまで回復してきている。
ワカメは藻体重量の 85 ~ 95%が水分なので腐りやすく、ま
た物理的にも傷みやすい。そのため、ワカメ藻体の採取後、速や
安保 繁 MP
石川 理 MP
貫洞 義一 MP
藤澤 久一 MP
藤澤 立見 MP
赤坂 弘 MS
かに湯通し処理と塩漬け、さらに加圧脱水を施し、藻体の含水率
を重量の 55 ~ 60%にまで低下させる必要がある。保存性を高
めたものを規格の段ボール箱に収め、
漁連規格製品(塩蔵ワカメ)
として出荷している。
この処理が不適切であると、早い段階から微生物の繁殖による
劣化や変色が発生し、返品され、最終的には廃棄処分となる。震
災後の平成 23 年は加工設備不足の影響で 30%程度が返品された。
MP:マッチングプランナー
MS:マッチングスタッフ
現在、加工条件の管理によって含水率などを調整し、最終的な品質評価は検査
員による目視と触感で行っている。
「ダンボール箱のワカメの含水量を、開封し
ないで検査ができないだろうか」重茂漁業協同組合(以下「重茂漁協」
)は、こ
うした悩み、課題について岩手県水産技術センターに相談していた。ワカメ加工
の研究実績がある同センターが、本マッチング促進プログラムのこと知り、当盛
岡事務所の同プログラム説明会に参加した。
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生産者
(加工者)
重茂漁協
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ᬌᩏ࡮಴
岩手漁連
ᵹㅢ⽼
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○
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加工指導に
フィードバック
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信頼性の高い
製品流通
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話を伺い、
「これまでにない装置を開発しよう」ということになったが、問題
は技術である。センターとともに調べた結果、マイクロ波照射センシング法(マ
イクロ波の減衰率や透過時間遅延による計測)
による非破壊測定技術に着目した。
この技術は、木材加工品の品質格付け、製鉄で使う石炭の付着水分計測、製茶製
造ラインの水分管理などさまざまな分野で活用されている。だが、塩蔵ワカメや
昆布などの海藻製品は形状、密度、成分特性、含水率などの複雑な条件が壁とな
り、測定ができなかった。
重茂漁協と岩手県水産技術センターを中心に、マイクロ波センサーでシステム
開発のできる静岡県のマイクロメジャー株式会社と岩手県工業技術センターにも
-1-
参画していただき、上記の技術的課題に挑戦し、封をした箱の中の海藻製品につ
いて、含水率の設定基準値で良否を判定できる連続式の非破壊水分検査装置の開
発を目指すことになった。
この検査装置の開発により、申請漁協のみならず、全国のワカメ養殖漁協でも
全数出荷検査でき、
水分不良による返品を減らせることに貢献できると確信する。
(JST 復興促進センター盛岡事務所 マッチングプランナー 藤澤立見)
高効率・高精度・高速リチウムイオン電池充放電検査装置開発
企業:凌和電子株式会社(宮城県仙台市)
研究機関:長岡技術科学大学(新潟県長岡市)
被災地仙台市に工場を持つ、創業 40 年の凌和電子株式会社は、各種の制御装
置や省力化機器、自動機システム、さらに磁性材料等の計測システムの設計製作
を行う中堅企業である。同社は、本課題の「電池の充放電検査装置」を早くから
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手掛け、その高いアナログ技術から、
国内で高いシェ
アを持っていた。ところが、競合他社がデジタル化
●仙台事務所
を進めた結果、同社は苦境に陥りつつあった。同社
が挽回策を検討し始めたちょうどその時、本マッチ
ング促進プログラムのことを知り、仙台事務所に申
請相談があった。
青山 勉 MP
磯江 準一 MP
菅野 幸一 MP
原田 省三 MP
同社の当初の開発目標は、挽回を焦る余り、他社
の後追いであった。しかし、当然、他社も進歩して
いくので、
「後追い」ではシェア回復は困難と、筆
者は判断し、同社に「まず市場が近い将来、何を望
んでいるのか、それに応え、かつ他社に差別化でき
る優位な目標とは何か」を考えてもらった。
藤田 慶一郎 MP
米倉 淳 MP
筆者は住友電気工業で、
黎明(れいめい)期にあっ
長橋 徹 MS
MP:マッチングプランナー
MS:マッチングスタッフ
た化合物半導体の結晶(ウエハ)の研究開発から事業化まで取り組んだ。技
術を実用化するためには ①数年後でも差別化できる、高い優位性を持つ目標
を立てる ②自社の強みを深化・発展させる ③“産”ではできないレベルを
創り出せる“学の人”と組む ④試作段階から、市場に参入する―が筆者の
経験則である。
同社に検討してもらった結果、高効率はもちろんのこと、大電流化で高精
度が重要になること、さらに高速にすると同社の強みが活かせることが分
かった。次にそれを達成するための抜本策を考えてもらった結果、デジタル
化をはじめとする回路の見直しに加えて、同社の強みである磁気計測技術を
生かしトランスも見直すことで他社と差別化でき、優位性を持つ性能が得ら
充放電検査装置の一例
れる見通しが得られた。そこで回路とトランスの専門家を全国の研究機関からリ
ストアップし、その研究内容を調べ上げた。そして技術課題に最も適したシーズ
を持つと思われる本命の研究者に、
体当たりでアタック。その熱意に負けたのか、
研究者たちはプロジェクトへの参加を快諾して、強力な研究体制が構築できた。
目指す充放電検査装置ができれば、リチウムイオン(Li)電池の量産(充放電
検査工程)における大幅な省エネや、ハイブリッド・電機自動車の Li 電池の開
発促進に貢献するだけでなく、その高効率電力変換技術を応用して、風力等の自
然エネルギーにも展開することが期待される。同じ境遇にある中堅企業の活性化
のモデルケースになってほしいと思っている。
(JST 復興促進センター仙台事務所 マッチングプランナー 藤田慶一郎)
ゲノム情報を活用した会津地鶏の生産効率の改善と 普及展開による地域経済の活性化
企業: 株式会社会津地鶏ネット(福島県会津若松市)
研究機関:(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所(茨城県つくば市)
平成 22 ~ 26 年度の 5 年間の、福島県の重点的・戦略的施策である「いきい
きふくしま農林水産業振興プラン」に取り上げられている「会津地鶏」は、震災
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前は年間約 3 万羽出荷されていたが、震災後は 1.5 万羽未満にまで激減し、回
復の兆しはまだ見られていない。震災前の水準にまで回復させるには、地鶏とし
ての特徴を備えた親鶏を早く育成し、地鶏生産を本格化させる必要がある。
×
純系会津地鶏
白色プリマスロック種
福島県農業総合センター
畜産研究所養鶏分場
が維持増殖
×
大型会津地鶏
ロードアイランドレッド種
株式会社
会津地鶏ネット
が生産
商業鶏「会津地鶏」
会津地鶏の交配様式
地域ブランド「会津地鶏」のロゴ
優良な親鶏のゲノム解析により、優良種を選抜し、その遺伝子を有するひなを
育成することが必要である。従来、その選抜に 7 ~ 8 年を要していたが、独立
行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の有するシーズを活用することで、種
の選抜に要する期間を大幅に短縮できる可能性がある。その結果、得られた親鶏
に卵を産ませ、ふ化、育成することになるが、育成期間(出荷週齢)も従来の
17 週間から 1 週間程度短縮しようとするものである。
優良種を短期間で選抜し、その親から生まれたひなの出荷週齢も短縮すること
が可能になる画期的な育種技術を完成させようとするものである。
MP は申請の相談を受け、参画機関 3 者の調整を行い、申請書に仕上げた。契
約作業も終え、研究がスタートした。
(JST 復興促進センター郡山事務所 マッチングプランナー 渡邉博佐)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
JST 復興促進センターは、東北経済連合会、自治体、大学等の地元関係機関と
の強い連携・協力のもと、MP が作り込んだ産学共同研究を推進することにより、
科学技術イノベーションによる被災地経済の復興に全力で取り組んでいる。3.11
から 1 年 8 カ月が経過したが、沿岸部を中心に本格的な復興はこれから。JST
復興促進センターは被災地の皆さんと共に、東日本大震災からの力強い復興と被
災地の新たな未来の創造を支援していきます。
― JST 復興促進センター副センター長 湯本禎永
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地域で頑張る信用金庫
西武信用金庫
相模原市藤野地区特産ユズの残渣を商品化
預金量1兆3,600億円余り(平成24年3月)を誇る有力信用金庫である西武信用
金庫(本店:東京都中野区)は、地域の大学等と企業との産学連携による研究開
発や事業化をサポートする取り組みにおいて、モデル的存在である。「西武ビジ
ネスフェア」など主要な事業を紹介する。
西武信用金庫は、都心部から多摩地区・埼玉県西南地域・神奈川県北部地域と
広域なエリアを事業区域としている。各種支援活動が実を結び、全国の信用金庫
菊地 博道
の中でもトップクラスの 70%の預貸率を誇っている。平成 23 年度より新中期
きくち ひろみち
経営計画を策定し、実効性のある「お客さま支援センター」の実現に向けて活動
独立行政法人科学技術振
興機構 産学連携展開部
調査役
している。
■大学等との産学連携活動
平成 19 年 4 月、東京大学と「地域産業の育成」を目的とした産学連携創出に
関する共同研究を開始、同年 7 月に東京家政学院大学、平成 20 年 12 月に東京
農工大学、平成 24 年 8 月に嘉悦大学、同年 9 月に啓倫学園とそれぞれ産学連携
協定を締結している。
中でも、パティシエ・調理師を養成する専門学校を経営する啓倫学園との協定
締結は全国でもまれなものである。
■イベントの開催
平成 12 年度より開催している「西武ビジ
ネスフェア」
(現在の名称は「ビジネスフェ
ア from TAMA」
)
(写真1)は、今年度で
13 回を数えるまでになっている。
第 13 回ビジネスフェア from TAMA
開催日時:平成 24 年 11 月 15 日(木)
開催場所:新宿 NS ビル(新宿区西新宿)
入場無料
出展者数:214 社・団体
昨年度は 229 の企業・団体が出展し、来場
者数 5,363 人、商談件数 1,306 件、産学官相
写真 1 昨年度のビジネスフェア 会場の様子
談件数 248 件と大変な盛況ぶりであった。
出展も産学官連携を意識して、業種別のコーナーのほか、27 の産学官連携コー
ナー(平成 24 年度予定)
を設置している。また、
平成 19 年度より開催している
「東
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京発!物産・逸品見本市」
も 6 回を数えている。この見本市でも同様の試みとして、
東京家政学院大学と国際製菓専門学校・国際パティシエ調理師専門学校(啓倫学
園)による「食に関する相談コーナー」を設置し、新メニューなど 23 件の相談
に応じた(平成 24 年度実績)
。
■ TAMA プロジェクト
地域の大学等と企業との産学連携による研究開発や事業化を強力にサポートす
る取り組みは、全国のクラスター事業の先駆け的・モデル的存在となっている。
平成 15 年度には、従来の産学官連携に加えて、西武信用金庫を中心とした出資
により TAMA ファンドを創設し、金融支援を充実したほか、販路開拓コーディ
ネーター等による海外展開を含めた販路開拓支援も充実させ、シームレスな事業
化への支援体制を整備し実績を挙げており、TAMA 協会の会員数は年々増加を
続けている。
平成 19 年度には「TAMA プロジェクト 広域的な産学官+金融の連携によ
る研究開発から製品化・販路開拓までの一貫した連続的支援体制の整備」が、第
5 回「産学官連携功労者表彰」で経済産業大臣賞を受賞した。
■事例紹介
相模原市藤野地区の特産品である「ユズ」は、
これまでにポン酢やワイン等の商品化を進めて
きたが、果汁を搾った後の残渣(ざんさ)は廃
棄するしかなかった。
ユズ残渣を有効利用しようと考えた藤野商工
会および有限会社ふじのは、東京家政学院大学
にユズの利用法に関する研究を依頼し、2 年間
の研究成果として、共同開発商品であるユズの
佃煮「ふじの煮」(写真 2)を平成 23 年に発
売した。
顧客である藤野商工会およびふじのと連携先
である東京家政学院大学を支援するため、西武
信用金庫は、各種イベントでの PR 活動などを
写真 2 ふじの煮
行った。
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視 点
ゲノムエンコード・プロジェクト
地域イノベーションシステムにおける公設試への期待
★無用の用と言われるように、一見すると無
★わが国の競争力強化には、持続可能な地域
用、無意味、無駄とみえる事柄にも、大事な
意味や価値が潜んでいることがある。それを
文字通りに印象付けたのが、ゲノムエンコー
ド・プロジェクトの発表だ。プロジェクトが
スタートしたのは、ヒトゲノムの解読が完了
した 2003 年。ゲノム上の遺伝子領域が 2%
に満たないことから、残る 98%の、俗にジャ
ンクと呼ばれた領域に 400 人を超える各国の
科学者が連携して探りを入れたところ、ゲノ
ムの 80%に機能が見いだされ、
「ジャンク」
が生命活動に満ち溢れた豊穣の海だったとい
うわけだ。産と学が連携して新しい価値の創
造を目指すときにも、
「無用」への感度を失っ
てはならないと思うが、それをあらためて想
起させる発表でもあった。生命は、真に示唆
に富む。
イノベーションシステムの構築が必要で、大企
業はもとより、中小企業等のイノベーション創出
がその鍵となる。公設試験研究機関(公設試)
のユーザーである中小企業等が、変化著しい
社会環境や拡大する新興国市場に直面する現
在、ユーザーから公設試へ求められる機能は多
様化している。公設試はこういったニーズにフレ
キシブルに対応し、技術面のみならず中小企業
等のイノベーション創出への応援機能や、自ら
の持続発展のための見える化機能等を果たすこ
とが重要である。公設試がプレイヤーである中
小企業等と共に地域イノベーションシステムの核
となって、地域の発展をけん引していくことが期
待される。公設試が求められる機能を十分に果
たすための 「ヒト・モノ・カネ」を確保できる予
算配分が望まれる。
田 清一 財団法人 京都高度技術研究所 産学連携事業部
谷
医工薬連携支援グループ プロジェクトディレクター
編 集 後 記
林 聖子 財団法人日本立地センター 立地総合研究所 主任研究員
「公設試」は県庁の敵か
「産業技術センター」とか「工業技術センター」と称している都道府県等の公
設試験研究機関。一般的に「公設試(こうせつし)
」と略して呼ばれる。技術面
で地域中小企業を支援する重要な役割があり、近年は、企業で活躍してきた人
がトップに就くことが少なくない。新しい試みも見られる。しかし、その役割
の割に評価されず、全体として規模が縮小しているという。問題は、公設試は
都道府県等の単なる出先機関の1つであり、所管する部(商工労働部、産業部
など名前はまちまち)は自分たちがコントロールできると信じていること。議
会を相手にして予算を確保しているのはわれわれである、という自負もある。
公設試が地方独立行政法人になっても、事情は同じ。だから、今号の特集記事
でも指摘されているが、
「全国の公設試機関長会議で、
“公設試の敵は県庁である”
という意見があった」ということになるのだ。公設試の役割について、県庁の
中枢に届くような情報発信が必要だ。
産学官連携ジャーナル(月刊)
2012 年 11 月号
2012 年 11 月 15 日発行
PRINT ISSN 2186 - 2621
ONLINE ISSN 1880 - 4128
Copyright ©2005 JST. All Rights Reserved.
(編集長・登坂和洋)
編集・発行:
問合せ先:
編集責任者:
〒 102-0076
東京都千代田区五番町 7
K’s 五番町
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FAX:
(03)5214-8399
独立行政法人 科学技術振興機構(JST)
産学連携展開部 産学連携グループ
高橋 富男
東北大学 高度イノベーション博士
人財育成センター
シニアエキスパート
JST 産学連携グループ
廣田、登坂
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産学官連携ポータルサイト
産学官の道しるべ
全て無料
http://sangakukan.jp/
http://sangakukan.jp/journal/
15
MOT
http://sangakukan.jp/shiendb/
DB
2,800
1,700
グループ
「産学官連携ジャーナル」は独立行政法人 科学技術振興機構(JST)が発行する
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