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歯根端切除術による難治性根尖性歯周炎の救済の可能性 - So-net
歯根端切除術による難治性根尖性歯周炎の救済の可能性 (共済立川病院歯科口腔外科 笠崎安則先生) (社)土浦石岡歯科医師会 比企利枝子 柴沼博之 高木幸江 平井 豊 町田政道 平成 25 年 8 月 22 日(木) 、難治性根尖性歯周炎に対し、外科的救済法として歯根端切除術 や意図的再植術を行い、高い成功率を示している共済立川病院歯科口腔外科を見学してき ました。 臨床の中で、根管治療が長期にわたりながらも、瘻孔や痛みが消失しないケース、根充は 的確、レ線像も良好にもかかわらず、病変に縮小が見られず、苦しんだ経験は誰もが一度 はしていることではないでしょうか。 この報告がそういう先生方の一助になれば幸いです。 始めに笠崎先生の難治性根尖性歯周炎の病因論を紹介しますと、大きく 3 つに分類してお ります。 ① 根管に由来する細菌感染の残存 ② 歯根囊胞そのものが細菌感染源となっている ③ 根尖部の感染歯質として感染セメント質(壊死セメント質)や感染象牙質が細菌の 培地となっている 多くの場合は①ですが、それでは高いレベルの根管治療を行えばすべての病変が治癒する かと云えばそうとはいえないとのこと。多数の歯根端切除術の術中所見や経過観察の知見 から②、③が原因となっている症例もあり、今回はその中から二人の方の笠崎安則先生に よる手術に立ち会わせて頂きました。 症例1 三角穴口腔用ドレープ 男性 43 歳 12345 歯根端切除術 病歴 2012 年 3 月 A 大 1回目 歯根端切除術実施 2012 年 12 月 B 大 2回目 歯根端切除術実施 三角穴口腔用ドレープ(手作りのディスポの滅菌紙)[顔にかけるもの・ 鼻の部分を三角形にくりぬき、オトガイ部に粘着テープで固定する。 オートクレーブで滅菌したもの] 粘着テープ 1 難抜歯用セットを使用 ・メス ・ タービンバー、JET カーバイドバー、ストレートラウンドバー(HPNo.4 ラウンドバー) ・ 鋭匙 ・ エキスカ(大き目のもの)囊胞剥離 ・ ハサミ ・ 骨ヤスリ ・ 持針器 ・ 針付縫合糸 SF18-40SN(18mm弱弯角針)(日本腸線)ソフトナイロン 4-0緑 ・ シリンジ ・ 三角穴口腔用ドレープ ・ ゴム手袋 ・ その他 ・ 12345 歯根端切除 上顎両側の口腔前庭にガーゼを入れる→口唇が開いて視野が広くなる。創からの出血が喉 にたれるのを防ぐ。 術前 → 術直後 → 術後1年 平成 27 年 6 月に笠崎先生から術前、術直後と 1 年後の写真を送って頂きました。 2 「術後 1 年のデンタル X 線写真を見ていただきますと、嚢胞腔の縮小および骨増生が 確認できます。症状なく術後経過は良好です。」(笠崎先生のコメント) 浸麻を2回する。1度目は歯肉上に2度目は歯肉剥離後に骨膜に麻酔する。麻酔が良く効 き術中に痛がることが少ない。 歯肉剥離した状態:根尖近くに穿孔があり、メタルが露出していた。 メタルが露出していてもスーパーボンドによって逆根充は OK 摘出された歯根嚢胞 囊胞を除去したら、ここからが治療が始まる。 カーバイドバー HP No4 ラウンドバー(松風)を使用 3 歯根端切除 外科用バキュームに代える。 カーバイドバー(横目の無いもの)を使用。切断面が滑沢となる。 1 GP のオーバーフィリングあり GP の突き出しは生体に大丈夫というのは嘘 なぜなら GP の成分は樹脂・パラフィン・酸化亜鉛だから 2 根面にメタルの削片をばら撒きたくないので周りにガーゼをあてておく タービンの小ラウンド型のダイヤモンドバーでメタルを削る。皿状に削っていく。 超音波ダイヤモンドチップにて逆根用窩洞形成をする。 オサダの歯根端専用のバーにはダイヤモンドが付いている。 (ST37-90) 根尖の GP を除去した。 (根尖がきれいな場合は 1.5mm 汚い場合は 5mm まで中に入れる) 3 4 以前に2回歯根端切除術をしているが、失敗して病巣ができた。 原因:歯根端を切断しただけで、逆根充をしていなかったため。 一応 GP が入っている。 成功率を高めるためには経過を追うことがもっとも大事である。1,2,3 年後の確認 根尖がきれいなのでこれ以上は掘らない 4 超音波ダイヤモンドチップで 口蓋側も露出させる。 逆根用窩洞形成 頬側根はきれいなので原因ではない 症状の原因:口蓋側の肉芽である。 5 探針で根管を探す。切断してあるので、すでに閉鎖しているのかもしれない。 1. カリエスチェック(赤い液)で染め出す 2. あまり染まらない場合はメチレンブルーで染める。 5 細菌培地となっている壊死性セメント質の性状について 歯としては、ボロボロ状である エキスカで除去する→軟象のように取れてしまう。→肉芽がある。 色が変わってボソボソしている。→これが感染源である。 壊死性セメント質を見分ける 3 つのポイント 色・軟らかさ・小さなひび割れの有無 色が汚くて、変色した中に白・白濁が見られる。軽く乾燥させると表面に小さい ヒビが入っているのを発見しやすくなる。 クラックを確認するためメチレンブルーで染めてみる。 再度カーバイドバーにて除去する。 5 の原因は根管ではないので、再根治しても治らない。 根尖の中が汚い(グレー色)ので 5mm まで超音波チップで入ってゆく さらに汚ければ根尖を切断するしかない。 根尖孔から 5mm 以上の汚い部分がある場合、または糊剤根充の場合は、歯根端の適応では なく上(歯冠)からはずして再根治する。 このケースは楕円形に GP が汚れて入っている。 疑わしきはすべて除去する。 はじめにエンドでいくか歯根端切除でいくかをよく見極めること。 白濁部分をお皿状に除去した。ここから先は止血が良くできるかどうかが重要である。 肉芽がまわりに残っていないか要注意。 ボスミンをガーゼに浸して歯根端部へ詰めて止血する。 上顎洞が抜けている場合は注射針で吸ってみる。 上顎洞は鼻腔側に約 8×4mm の自然孔があいている。開いていれば、シリンジを使い(押 す・引くで)確認できる大事な検査である。 ここがあいていると上顎洞炎は治りやすく、閉鎖していると炎症は引きにくい。 スーパーボンド 6 グリーンのエッチング剤(象牙質用)使用 スーパーボンドの混和材 ※注意 赤いエッチング材はエナメル質に使用。 まず 5 5 から は 5mm 以上窩洞形成しているので普通の筆積み法では中へは入っていかない。 スーパーボンドの混和材を注入する。 スーパーボンドはエッチングと吸水・乾燥の工程がとても重要。 ペーパーポイント No.50 を 4mmに切っておく。根管が長い場合は6mmぐらい。 スーパーボンドはケースごと冷蔵庫に入れて冷やしておき、ケースごと取り出して 使用する。 (ケースは手作りであった) 根尖部の上顎洞との穿孔部に注射針を挿入し、陽圧をかけると上顎洞から粘液状分 泌物が出てきたので自然孔が開いていることを確認。 エッチング: ペーパーポイントを使ってエッチング材をつける。(歯根膜にはつ けたくないため) 水洗 乾燥 :ブロアーを根尖より入れて乾燥する。 7 シリンジの先をプライヤーで曲げて丸くする。 パウダーと液の混和したものをシリンジで入れる。 その後、筆積みでのせる。 流れが良すぎてへこんでしまう(←収縮するから) スーパーボンドで根管の切断面のみ覆う。 クイックモノマー(4 滴)+スーパーボンドのキャタリスト(1 滴) を混和して使う。 次に 3 → 1 血液が付着してしまったら最初からやりなおし。 ペーパーポイントでエッチング材をつける シリンジで水洗する。15 秒から 30 秒 乾燥→ブロアーで(カメラのレンズ清掃用を改良したもの) 先に液を断面根尖孔に入れて置く(ペーパーポイントで) (液+パウダー)を先に入れると空気が残ってしまうので要注意) SB で逆根充 逆根用窩洞形成 次に 2 水洗:太いシリンジで 乾燥:ペーパーポイントで乾燥する エッチング:ペーパーポイントでエッチングする・ 水洗:太いシリンジで 乾燥: クイックモノマー(4 滴)キャタリスト(1 滴) シリンジ Disposable Needle(Terumo 1.0ml)スキンテスト用 研磨:表面の未重合層を除去するため 8 先ほど削ったバーよりも細いカーバイドバーで行う。 (太いバーだと削りすぎてしまう) 象牙質と SB 間に段差が無いように研磨する。 探針でさわってひっかかりがある場合はさらに研磨する(カーバイトバーにて) エンジンを使う場合はすべて注水下で 縫合:縫合糸はソフトナイロン(緩まない,ちくちくしない) 症例2 女性 2 歯根端切除術 Ⅹ-p で慎重に読影すること[①キレツの有無 ②副根管の存在、③壊死セメント層] 副根管のようなくぼみがある 根管が 100 号まで拡いているので、根尖をカットする 根尖のカット量は、通常は 1.5~2mm 副根管の確認 カリエスチェッカーにて染め出す 水洗 9 [キレツはない, 2 の前方に副根管があるのが原因である] 正根充をする Disposable Needle (短い方を使う)23G×1 Paper Point(50 番)を 3 分割にしておく GP は 120 号(根尖が 100 号まで拡大してあるから) ① ペーパーポイントで乾燥 ② エッチング材を塗布 ③ 水洗 ④ エアー乾燥 ⑤ (キャタリスト+クイックモノマー)+パウダーを混ぜたスーパーボンドペースト を入れて 1 剤として根管へ注入する ⑥ 主 GP を入れる ⑦ 回りにさらにスーパーボンドのペーストを注入する ⑧ アクセサリーポイントを回りに入れる(田植根充でよい) 予後の経過観察が大事である→成功率の向上に繋がる チャートを作って 3 年間追ってゆく(Ⅹ-p で) 嚢胞形成の 90%は根管に原因がある セメント質が嚢胞内に長期間存在すると表面に凹凸を形成、肥大して壊死セメント質とな り、細菌培地となってしまう。 根尖 3 ㎜以内に側枝がある 象牙細管が石灰化して、かつ滑沢で透明感があればそこには側枝や感染巣はない 正常象牙細管の断面はキラキラして、ひっかくとカリカリ感がある。 肉芽組織を徹底的に摘出するのは逆根時に浸出液を避けるため 一層ぬる液が多すぎると硬化後に段差ができるので注意。 10 "歯槽硬線" をキーワードとしている 歯槽硬線がなくて根尖に Lesion がある場合は失敗 (充填材か、壊死セメント質が原因) 歯根の周囲に歯槽硬線が伸びてくる事が重要。 メンブレンは大きな症例でもあまり効果がない 人工骨は使わないでやっているが、全く問題なく骨化している。 質問: アイオノマーセメントが逆根充材として勧め難い理由は? 歯質と接着していない。再発例をみた時、探針でひっかくとボロボロ していた。細菌培地になる可能性がある。 機械的強度が足りない 歯根に亀裂がある場合、抜去、スーパーボンドで封鎖、再植することは可能で しょうか? このような症例は当科では結構多いが、再発のケースも少なくないの で患者に十分なリスク説明が必要です。成功率50%と言っている。 術後 骨再生が起こらず、繊維性結合織になる理由は? 感染個所が残っているためです 感染培地がなければ一年以内で治癒に向かっているかどうかの判断が 可能です。その際歯槽硬線の出現が目安になります。 骨の再生が無くとも、臨床症状がなければ成功としている方もいます、 11 が、切開をすると炎症組織が見られるので失敗と考えています。 結合織はトンネル状に抜けた骨欠損があって口蓋から入ってくること が多いです。 SB での被覆範囲は露出象牙質を含めた切断面にする必要はありませんか? 感染象牙質が除去できれば象牙細管からの細菌漏洩はないので 露出象牙質まで SB で被覆する必要はありません。 断面象牙質の硬さ、色から正常であるかどうかを判断しています。 切断は横目のないフィッシャーバーを使用して滑沢な面にします。SBを 切断面だけに一層ぬるようにつけるだけでははがれてしまう危険性が高 くお勧めできません。切断面が感染源になりえると思われた場合は、お皿 状に削り根管も更に 1.5mm 削ってください。 参考サイト 予後の良い歯根端切除術 http://www.tachikawa-hosp.gr.jp/z-shika-2op.html 難治性根尖性歯周炎への対応 歯根端切除術による救済 http://www5.hp-ez.com/hp/shikontansetujojutu/page19 12