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カウコンフォートを考える2 —子牛のコンフォートとはー
広大 FSC 報告,4:31-36.2007 解説 カウコンフォートを考える2 —子牛のコンフォートとはー 木場有紀1・Anne Marie de Passile2・Jeff Rushen2・谷田 創1 1 広島大学大学院生物圏科学研究科附属瀬戸内圏フィールド科学教育研究センター 2 カナダ農業・農産食料省の太平洋農業・農産食料研究所 何が子牛にストレスを与えるのか? いずれかとなる。乳頭哺乳の場合、子牛はミルクを飲み終わ 子牛にストレスを与える要因として、1)不適切な初乳の給 った後、ミルクが出なくても 5〜10 分間吸乳行動を継続する。 与、2)吸乳行動の剥奪、3)低い哺乳量、4)単飼が挙げられ Veissierら4) によると、乳頭による哺乳はバケツでの飲乳に る。これらのストレス要因を極力取り除くことが、子牛のコン 比べて、子牛をリラックスさせ、休息時間の増加をもたらすこ フォートに寄与するだけでなく、育成率の向上、ひいては経 とがわかっている(図1)。 営の改善にもつながる。そこで本解説では、これらのストレス 図1.乳頭哺乳及びバケツ哺乳後の休息時間の比較 要因を一つずつ取り上げてみたい。 40 適切な初乳給与の重要性 35 受動免疫期間に子牛に初乳を与えることが、子牛の健康 を保つための重要な要因であることは、これまでにも繰り返 1) し主張されて来た 。受動免疫が不十分な場合、病気にかか 2) りやすく、死亡率が増加することが報告されており 、その他、 呼吸器系疾患、初産日齢が低下するという研究報告もある。 子牛が十分な免疫グロブリンを吸収できない場合、増体量 30 ìÞì™öMìÞ 25 ÉoÉPÉcöMìÞ 20 15 10 5 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 ããâaå„ÇÃåoâ½éûä‘ (ï™) 及び飼料効率の低下、死亡率及び治療費の増加によって、 子牛 1 頭あたり約 2500 円の経済的損失が見積もられている 3) 。 ミルク給与後に、乳頭を吸わせ続けると、血中のインスリン 確実に免疫を移行させるためには、子牛の出生後なるべく 濃度とCCK(Cholecystokininコレシストキニン:主として消化 早く、十分な初乳を与えることが重要である(生後 6 時間以 管で分泌されるホルモン。満腹感を脳のニューロンに与える 内に 4〜6ℓ を給与する)。また、効果的に初乳の哺乳を行うた 信号物質と考えられている)の濃度が増加することが報告さ めには、給与量だけでなく「質」のチェックも重要である。つま れている 5) 。インスリンの働きにより哺乳後の消化が促進さ り、母牛から直接飲ませる場合には、十分量の免疫グロブリ れ、CCKには子牛をリラックスさせる効果があるため、バケツ ンが確実に含まれているということを確認し、初乳をバケツ 哺乳よりも伏臥休息をより早くとるようになる。また、吸乳行 で給与する場合には、バクテリア混入のチェックを行うなど、 動自体が子牛の行動要求を満たす役割を持つ。これらのこと 衛生状態に配慮することが必要となる。 を考えると、バケツ哺乳よりも乳頭による哺乳の方が子牛に とっても生産者にとってもメリットが高いと考えられる。 適 切な子牛の哺乳技術—吸乳行動欲求を満たすことの重 要性 適切な哺乳量とは 子牛を哺乳する場合、母牛による自然哺乳、乳頭による哺 北アメリカでは日本と同様に、子牛の体重の 10%のミルク 乳、バケツから直接飲乳させる方法の 3 つが考えられるが、 を給与することが一般的であったが、最近ではその量を増や 乳牛の場合は、乳頭による哺乳またはバケツによる飲乳の している酪農家がしだいに増えつつある。 広大 FSC 報告,4:31-36.2007 通常の制限哺乳(体重の 10%哺乳)を行わない場合、 まう 9) 。不断哺乳の子牛の場合は日増体量が良好な上、離 FlowerとWeary6)の研究によると、乳量は制限せず 8 週齢ま 乳後には、通常哺乳の子牛のスターター摂取量に素早く到 で 1 日 2 回母牛から吸乳させると、バケツ哺乳(1 日 2 回体 達し、さらには上回ることも分かっている9)。子牛の食欲に応 重の 10%哺乳)に比べて乳摂取量と増体量がそれぞれ 2 倍 じた哺乳を行うことによって、子牛の免疫システムが補強さ に増加することがわかっている(図 2)。疾病の発生はいずれ れるという予測を支持する報告10)や、哺乳量を増加させるこ の処理においても認められていない。 とで、初泌乳期の乳生産量が増加するという長期的利益も 報告されている11)。 体重の 10%哺乳の子牛、不断哺乳の子牛そして子豚、子羊 ÇPìÝÇQâÒïÍãçÇ©ÇÁãzìÞ (豚、羊は母牛からの不断哺乳である)を比較すると、不断哺 ÉoÉPÉcöMìÞ 乳において飼料効率(増体量/摂取量)が高くなることが報 告されている12)。我々は本稿において、不断給餌を推奨する 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 ことを意図しているのではないが、既述の研究結果は子牛の 欲求に見合うだけのミルクを給与する、つまり不断哺乳が本 kg 来の哺乳方法に最も近く、制限哺乳は幼畜の成長を阻害す る要因にもなり得るということを示唆しているのではないかと 考えられる。体重の 10%以上のミルクを与えると、下痢や疾 病の増加を招くと危惧する声を聞くことが多いが、しかし、そ ê€éÊó Å^ìÝ ëùëÃó Å^èT 図 2.母牛からの吸乳区及びバケツ哺乳区の 乳摂取量及び増体量の比較 の科学的な裏付けとなる研究報告はない。むしろ、子牛が下 痢をするのは、代用乳の品質が悪いことや、不適切な希釈 液を用いることが起因している場合が多く、量そのものが影 響しているとは考えにくい。また、子牛の呼吸器系及び消化 上記の実験では、母牛からの吸乳が乳摂取量及び増体量 を向上させた可能性も考えられる。しかし、人工乳頭による 不断哺乳区と通常の哺乳量(1 日 2 回体重の 10%をバケツ 哺乳)区を設け、子牛の乳摂取量と増体率を比較すると、い ずれも不断哺乳区の方が高いこともわかっている7、8)。 Applebyら7)によると、生後 2 週間の日増体量は、乳頭通 常量哺乳区の子牛の 0.4kg/d未満に対して、乳頭不断哺乳 区の子牛では 0.85kg/d、生後 2 週間から 4 週間ではそれぞ れ 0.58kg/d及び 0.79kg/dと、いずれも乳頭不断哺乳区の 方が好成績である。Jasper and Weary8)の実験においても同 器系の疾病は、畜舎が清潔に保たれていない(敷料の適切 な交換だけでなく、天井及び壁の清掃・洗浄も含む)、すきま 風が吹き込むまたは換気が不十分であるなどの不適切な畜 舎構造によって引き起こされる。 不断哺乳の子牛が通常の 2 倍のミルクを必要としたという ことは、体重の 10%を哺乳する従来の方法では子牛は常に 空腹状態にあることを示しており、さらに、制限哺乳では飼料 効率も低下してしまう。以上のことから、従来常識とされてい た哺乳量の目安を見直し、増加させることには一考の余地が あると考えられる。 様に、37 日離乳時の日増体量が乳頭不断哺乳区の子牛で 0.78 kg/dと、乳頭通常哺乳区の 0.48kg/dを大きく上回るこ とが分かっている。いずれの実験においても、乳頭不断哺乳 区の子牛は通常哺乳区の子牛に比べて、ほぼ 2 倍のミルク を消費した。 一般には、子牛がより早い段階でスターター摂取量を増加 させるよう、哺乳量を制限しなければならないと考えられて いる。確かに、生後 5 週間にわたる制限哺乳はスターター摂 取量を増加させるが、この方法では日増体量は制限されてし 離乳前の子牛の飼育方法(単飼 vs 群飼) 離乳前の子牛を単飼することの長所としては、1)疾病と飼 料給与の管理が容易であること、2)健康状態と飼料摂取量 のチェックが容易であること、3)クロスサッキングを防止でき ることが挙げられる。一方、群飼することの長所は、1)子牛 の社会的接触の要求を満たせること、2)1 頭あたりの運動ス ペースを増加できること、3)自動哺乳装置を導入できれば管 理の省力化につながる、などである。 乳頭式の自動哺乳装置を導入すれば、健康状態と飼料摂 広大 FSC 報告,4:31-36.2007 取量の自動モニタリングができるだけでなく、摂取乳量が増 るとともに、クロスサッキングがしばしば飲尿につながるから 加し、摂取回数も増加するためにクロスサッキングを低下さ である。 せることが可能となるので、単飼管理の長所をそのままに、 栄養(ミルク)の摂取を目的としない吸乳行動(ドライサッ なおかつ群飼管理の長所を活かすことが可能となる。200 頭 キング)は母牛と共に飼育されている子牛でも見られる正常 の子牛を 100 頭ずつ群飼と単飼群に分けて比較した研究で な行動である。この行動は、主にミルク摂取後に短時間行わ は、両区の間で増体量や健康状態には有意な差は認められ れる(図 6)14,15)。また、子牛がミルクを味わうことでさらに吸 なかったが、コンピュータ管理の自動哺乳装置を導入した群 乳行動を誘発することも明らかとなっている。これらは子牛の 飼群の方が、バケツで哺乳する単飼群に比べて、管理時間 生存を保証するための、最適な生物学的システムである。子 が 3 分の 1 に短縮され、大幅な省力化につながることも明ら 牛は、このシステムを通して、母牛から最後の1滴までミルク かとなっている13)。また、自動哺乳装置では、クロスサッキン を吸い続けるので、成長率と生存率が向上すると考えられ グの発生率も 24 時間に 1 回(10 頭群)と低レベルであった。 る。 先述の最適哺乳量とも重複するが、群飼の場合、哺乳量 及び哺乳回数を増加させることが群飼を成功させる鍵となる ようだ。自動哺乳装置を用いた群飼の子牛に対して、不断哺 乳区と制限哺乳区を設けてミルクの摂取量を比較した結果、 不断哺乳群の子牛は制限哺乳群の子牛に比べて約3倍量 のミルクを摂取した(図 3)9)。また、制限哺乳の子牛は、与え られたミルクは 1 回で飲んでしまい(朝晩 1 回ずつ給与のた め、計 1 日2回)、ミルクが給与されないのにも関わらず、何 度も装置を訪れ、乳頭を吸乳した。また、穀類を食べるため に装置を訪れる回数が増加した(図 4)。一方で、不断哺乳の 子牛は何度も装置を訪れてミルクを飲み、穀類フィーダーへ はほとんど入らなかった(図 5)。制限哺乳の子牛は不断哺乳 哺乳開始後の経過時間(s) の子牛に比べて、自動哺乳装置内でより多くの時間を費やし 図 6.哺乳と吸乳行動との関係 たが、3 分の 1 の量のミルクしか飲むことができなかった。ま た、不断哺乳は、自動哺乳装置における子牛同士の押しの け合いを減少させる効果もあった。従来の子牛の体重の 10%を哺乳する方法では、子牛は常に空腹なので、頻繁に 自動哺乳装置を訪れるようになり、自動装置をめぐって頻繁 に押しのけ行動をするようになる。その結果、制限哺乳の子 牛では伏臥休息に費やす時間が1日につき1時間も短縮さ れた。この休息時間の低下が、飼料効率の低下につながっ ていることも考えられる。 群飼と子牛の異常行動 群飼すると子牛のクロスサッキングが増加するおそれがあ る。クロスサッキングの問題点は、された個体が損傷を受け つまり、子牛というものは生存率を高めるために、吸乳行動 への強い欲求を生得的に持っているのである。この強い欲求 を無視、または阻害すると、クロスサッキングが発生する。こ の 行動欲求を満たすためには、人工乳頭が有効である。実 際に、群飼の子牛に対してバケツフィード後に人工乳頭を吸 わせるだけで、クロスサッキングが減少することがわかって いる(図 7)16)。 広大 FSC 報告,4:31-36.2007 クロスサッキングの発生率(%) 乳頭無し 乳頭有り 5) de Passillé, A. M. B., Christopherson, R., Rushen. J., 1993. Nonnutritive sucking by the calf and 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 postprandial secretion of insulin, CCK, and gastrin. Physiol. Behav. 54:1069–1073. 6) Flower, F., Weary, D. M., 2002. The effects of early separation of the dairy cow and calf. Anim. Welfare, in press. 12:3: 339-348. 7) Appleby, M.C., Weary, D.M., Chua. B., 2001. 午後の給餌後 図 7.クロスサッキングの発生率 Performance and feeding behaviour of calves on ad libitum milk from artificial teats. Appl. Anim. Behav. Sci. 74:91-201. まとめ 子牛に哺乳中または哺乳後に吸乳行動をさせると、消化率 及び休息時間を増加させ、クロスサッキングを予防すること が可能である。また、哺乳量を増加させることで、子牛の成 長率と飼料効率が高まり、免疫システムを強化することで健 康の向上にもつながる。そこで、小頭数のグループ(6〜10 頭) に対して、コンピュータによる自動哺乳装置を用いることで、 子牛管理が省力化できるとともに、子牛のコンフォートと生産 成績が向上すると考えられる。 8) Jasper, J., Weary. D. M., 2002. Effects of ad libitum milk intake on dairy calves. J. Dairy Sci.85: 3054-3058. 9) Borderas, T. F., Rushen, J., de Passillé A. M., Feeding behaviour and response to weaning of calves fed limited or ad libitum milk using an automated feeding system. ISAE North American Regional Meeting. June 7-8, 2006 Vancouver, Canada. 10) Drackley, J. K., 2003. Nutrition and Health During 引用文献 1) Davis, C. L., Drackley, J. K. 1998. The Development, Nutrition, and Management of the Young Calf. Iowa State University Press, Ames, IA. 2) Svensson, C., Lundborg, K., Emanuelson, U., Olsson, S-V., 2003. Morbidity in Swedish dairy calves from birth to 90 days of age and individual calf level risk factors for infectious diseases. Preventive Veterinary Medicine, 1777: 1-19. 3) Fowler, M., 1999. What is it worth to know a calf’ s Ig level?. Proc. 3rd Annual PDHGA National Conference, pp. 31-38, March 26-28, Bloomington, MN. Professional Dairy Heifer Growers Association, Stratford, Iowa, Fricke, P. 20. 4) Veissier, I., de Passillé, A. M., Després, G., Rushen, J., Charpentier, I., Ramirez de la Fe, A. R., Pradel, P., Does nutritive and non-nutritive sucking reduce other oral behaviors and stimulate rest in calves? J. Anim. Sci. 2002. 80:2574–2587. the Milk Feeding Period in Dairy Calves. Pages 33-46 in Proc. 23rd Annual Feed Ingredients Conference, Prince Agri Procucts, Inc., Rochester, Mn. 11) Krohn C. C., 2001. Effects of different suckling systems on milk production, udder health, reproduction, calf growth and some behavioural aspects in high producing dairy cows - a review. Appl Anim Behav Sci. 2;72(3):271-280. 12) Diaz, M. C., Van Amburgh, M. E., Smith, J. M., Kelsey, J. M., Hutten. E. L., 2001. Composition of growth of Holstein calves fed milk replacer from birth to 105-kilogram body weight. J. Dairy Sci. 84:830-842. 13) de Ondarza. 2003. Feeding calves milk replacer and calf starter with a computer feeder. Hoard’s Dairyman: Feb 24, p143. 14) Jung, J., Lidfors, L., 2001. Effects of amount of milk, milk flow and access to a rubber teat on cross-sucking and non-nutritive sucking in dairy 広大 FSC 報告,4:31-36.2007 calves. Appl Anim Behav Sci. 2;72(3):201-213. 15) Mayntz, M., Costa, pharmacologically R., induced 1998. changes Effect in of milk ejection on suckling in Bos taurus. Physiol. Behav. 65(1):151-6. 16) de Passille, A. M., 2001. Sucking motivation and related problems in calves. Appl Anim Behav Sci. 2;72(3):175-187.