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約40年間の作物栄養学研究を振返って

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約40年間の作物栄養学研究を振返って
( 1 )
肥料科学,第31号,1∼74(2009)
約40年間の作物栄養学研究を振返って
但野 利秋* 目 次
はじめに
1 北海道大学入学,農学部卒業から北海道大学農学部作物栄養学講座へ
の助手としての赴任まで
2 水稲における鉄過剰障害発現機構とその対策に関する研究
3 比較植物栄養に関する研究
4 国際共同研究「インドネシアにおける水田および畑地の農業生態学的
研究」
(1979∼1981)
5 作物における低リン土壌耐性とリンのリサイクル利用法
6 作物におけるアルミニウム障害と耐性の機構ならびにリンとアルミニ
ウムの相互作用
7 タイおよびマレーシアの沿岸域に分布する低湿地土壌に関する国際共
同研究(1983∼1991)
8 中国三河平原の塩類土壌地帯における国際共同研究(1990∼1999)
9 ジャガイモそうか病の制御に関する土壌肥料学的研究
10 作物の生産機能に関する研究
11 東京農業大学での塩生植物に関する研究
おわりに
引用文献
*
北海道大学名誉教授
Toshiaki TADANO : Reminiscences of My Lifework on Plant Nutritional Studies for Forty
Years
( 2 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
はじめに
私は大学卒業後北海道立農業試験場に勤務したのち,昭和43年(1968年)
より母校である北大農学部に帰って,その後32年間にわたって奉職した。さ
らに,北大を定年退職後は東京農業大学で6年間嘱託教授として勤務した。
約40年にわたる研究生活における私のライフワークともいうべき研究テー
マは,「不良土壌における食糧生産の向上のための基礎になる作物栄養学研
究」であった。不良土壌と一口に言ってもいろいろな不良土壌があるが,私
が対象とした不良土壌は,水田における鉄過剰土壌,リン欠乏土壌,酸性土
壌,熱帯泥炭土壌,塩類土壌などである。この間,1979年より2000年にいた
るまで文部省海外学術調査と学術振興会の拠点大学方式を組合せた国際共同
研究や文部省の創成的基礎研究の中の国際共同研究に合計22年間にわたって
参加させていただき,インドネシアの赤黄色ポドソール性土壌からなる鉱質
酸性土壌地帯,タイ・マレーシアの低湿地に分布する熱帯泥炭土壌地帯,中
国の黄河下流域に分布する塩類土壌地帯で研究を行うことができたことは,
大変幸運なことであった。これらの国際共同研究の現場で不良土壌を対象と
する共同研究を実施すると同時に,現場で見いだした研究課題のなかで現場
では実施困難な課題は研究室に持ち帰って研究を行うことを原則としていた
ので,研究室での研究を現場の問題から遊離することなく進めることができ
たからである。ここに紹介する私のライフワークとしての研究の成果はささ
やかなものではあったが,これを読む若い研究者の方々が,私が何を考えて
「不良土壌における食糧生産の向上のための基礎になる作物栄養学研究」を
実施してきたのかについて少しでも参考にしていただければ,それに越した
喜びはない。
北 海 道 大 学 入 学,農 学 部 卒 業 か ら 北 海 道 大 学 農 学 部
作 物 栄 養 学 講 座 へ の 助 手 と し て の 赴 任 ま で
私の学生時代の経歴は,後に北海道大学農学部作物栄養学講座の教授を
1 北海道大学入学,農学部卒業から北海道大学農学部作物栄養学講座への助手としての赴任まで
( 3 )
勤めることになった人間としては少なからず変わっている。私は,昭和30年
(1955年)に北海道大学理類に入学した。その後,当時の制度にしたがって,
教養学部で一般教養を1年半勉強した後に農学部の農芸化学科を選択して進
学した。農芸化学科に進学した主要な理由は,化学が好きであったからとい
う単純な理由による。したがって,当時の私にとって進学する学科は農学部
の農芸化学科でも,理学部の化学科でも,工学部の応用化学科でもいずれで
もよかったのである。しかし,私はあまり悩むこともなく農学部の農芸化学
科を選択した。その理由は,食べ物の化学を学んでみたい,そしてその分野
の仕事をライフワークにしたい,というような考えを漠然とはしていたが持
っていたからである。
農芸化学科に進学して,準備されていた多数の必修科目や選択科目を大い
に楽しく勉強した。その中で,食品化学の講義を担当されていた中村幸彦先
生の講義に大変魅力を感じたので,4年になる時に食品化学講座を選択して,
そこで卒論研究を実施することにした。食品化学講座に移行して与えられた
卒論研究テーマは,
「ラットリバー・ミトコンドリアの分離法の確立」とい
うテーマであった。食品化学講座において上記のテーマで研究を開始し,ゼ
ミにも出席していろいろと様子が判ってくるにつれて,この講座に移行した
のは間違いではなかったかということを強く感じるようになった。その理由
は,中村幸彦先生が講義で力を入れて話されていたことと,研究室で行って
いた研究内容が全く異なっていたことによる。私が食品化学講座に移行した
のは完全に私の考えで決めたことであったので,このように考えたのは私の
全くのわがままであり,当時の食品化学講座の先生方には責任が全くないこ
とで,大変申し訳ないことであった。しかし,そのような次第であったので
意欲的な研究はできなかったが,卒業論文の方は早めに仕上げて提出し,昭
和34年(1959年)3月に無事卒業することができた。
農芸化学科を卒業する以前に,土壌肥料学講座を担当されていた石塚喜明
先生にお会いしてお話を伺う機会があった。一年間にわたって,アメリカの
コーネル大学を始めとする各地を訪問して帰国直後の先生からいろいろなお
( 4 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
写真1 恩師,石塚喜明先生
話をお聴きすることができて,大変大きな刺激を受けた。何日か考えた後,
石塚先生の研究室を訪問して,「私は食品化学講座での卒論研究を終了しま
したが,今後は土壌肥料学講座で勉強をしたいので,4月から土壌肥料学講
座に移って研究生として勉強をさせていただけないものでしょうか。」と大
胆なお願いを申し上げた。先生は,中村先生とも相談をしなければならない
ので,しばらく待つようにとおっしゃって下さり,数日後に先生は私を呼び
出して,
「中村先生の了解も得たので,土壌肥料学講座の研究生として受け
入れることにした。しっかりと学問をするように。
」とおっしゃって下さっ
た。私は3年の時に土壌肥料学の講義を受けていたが,私と土壌肥料学の密
接な関係はこのようなことから始まったのである。
そのような次第で,昭和34年(1959年)4月より土壌肥料学研究室での研
究生生活が開始された。当時の土壌肥料学研究室は,石塚喜明教授の下に,
佐々木清一助教授,田中 明講師,高岸秀次郎助手が教官団を構成し,大学
院博士課程には臼杵督郎さん,広瀬 晃さん,都留信也さんの3氏が,修士
課程には関矢信一郎さん,藤田脩一君(同期)の2氏が在籍していた。この
他に会社派遣の研究生として,昭和28年卒業の平野欣哉さんが在籍しておら
れた。また,北大との交換教授制度のもとに米国マサチューセッツ州立大学
から Professor Mack Drake が研究室に1年間滞在して時々大学院生向けの
講義を行っていた。田中 明先生は,この年の4月の日本土壌肥料学会に
1 北海道大学入学,農学部卒業から北海道大学農学部作物栄養学講座への助手としての赴任まで
( 5 )
おいて,「水稲葉の栄養生理学的研究」という課題で学会賞を受賞された直
後であった。研究室では毎日のように活発な意見交換がなされており,時折,
午後3時頃に石塚先生を囲んでお菓子をつまむコーヒーブレークのようなひ
と時がもたれた。石塚先生は昭和33年(1958年)4月から35年(1960年)3
月にかけて日本土壌肥料学会の会長を勤めておられたので,石塚研究室の活
性はこの時期に最も高かったのではないかと思われる。私が研究生として在
籍した1年間の土壌肥料学研究室は実に充実しており,その後の私の研究生
活に対して大きな影響を与えてくれた貴重な時期であった。
昭和35年(1960年)4月から北海道に採用されて,北海道立農業試験場北
見支場(現北海道立北見農業試験場)の土壌肥料科で研究員としての生活を
開始した。北海道大学の土壌肥料学研究室を去るに当たって,石塚先生から
「これからは,農業の最前線に出ることになるので,実際の農家圃場を詳細
に観察することによって,北海道の農業の実態を理解し,それを研究に反映
させるように努力しなさい。
」という有難い激励のお言葉をいただいた。北
見支場の土壌肥料科の人員構成は最初の1年は長谷部俊雄科長と2人だけ
であり,2年目から3人になるという少人数であったので,新入りながら多
数の研究課題を受け持った。当初の主要な研究課題を挙げると,石塚喜明先
生の設計のもとに昭和34年(1959年)から開始されていた「畑作物の長期連
輪作試験」を初期の3年間担当したこと,いくつかの委託試験を担当したこ
と,私の希望で「甜菜の栄養生理に関する研究」を開始したこと,ならびに
北見・網走地方の各地で実施した各種の現地圃場試験を担当したことなどが
ある。現地圃場試験を実施するために北見・網走地方の各市町村を訪れて現
地の農業を観察したり,各地の農業改良普及員や農家の方々と意見交換をし,
実際に普及員や農家の方々に手伝っていただきながら圃場試験を実施した経
験は,昭和43年4月に北海道大学に帰った後に開始した東南アジア諸国や中
国での国際共同研究において大変役立つ経験であった。
道立農業試験場に勤務してから3年経過後の昭和38年(1963年)4月
に,石塚先生から米国マサチューセッツ州立大学農学部の Department of
( 6 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
写真2 Professor Mack Drake
(米国・マサチューセッツ州立大学の研究室にて)
Agronomy(1964年より Department of Soil Science and Plant Nutrition と
改称)の Professor Mack Drake の研究室に修士課程の学生として留学しな
いかというお話があり,その年の8月に北海道庁より渡航旅費を支給してい
ただいて渡米し,9月より同大学大学院農学研究科の修士過程に入学した。
修士論文の研究テーマは「オオムギ切断根によるK吸収に及ぼす Ca 塩の効
果」という課題で,いわゆる Viets 効果と呼ばれていた Ca 塩によるK吸収
促進効果の機構を解明することを目的とした研究であった。この研究成果は
1965年3月にフィラデルフィアで開催された米国植物生理学会で口頭発表し,
Plant Physiology に投稿して掲載されている1)。マサチューセッツ州立大学
はボストンから内陸に向かって自動車で約4時間で到着する四季のどの時期
をとっても美しい景色の大学街アマーストにある。そこに住む人々も大変親
切な人が多く,私は渡米する前年の3月に結婚をしたので,単身で渡米した
後,半年後に妻を呼び寄せて,マサチューセッツ州立大学に所属する妻帯大
学院生用のアパートに部屋を借りて生活をした。マサチューセッツ州立大学
からフェローシップを支給していただいて充分快適な生活を送ることができ
1 北海道大学入学,農学部卒業から北海道大学農学部作物栄養学講座への助手としての赴任まで
( 7 )
写真3 田中 明先生
(右側:奥様,左側:但野)
た。通常は大学院の講義と研究で多忙な毎日ではあったが,休日には稀にア
マースト近郊を始めボストン,メイン州や時にはニューヨークやワシントン
にまで足を伸ばして博物館訪問や観光旅行をしながら充実した楽しい2年間
を過ごした。
昭和40年(1965年)6月に無事修士の学位を取得し,同年7月に帰国して,
北海道立北見農業試験場と改称した出発前と同じ試験場で研究生活を再開し
た。この時期には,「甜菜の加里栄養に関する研究」,「小麦の収量と収量構
成要素の改善に関する研究」や「畑作物に対する有機物施用効果に関する研
究」などを行いながら,北見・網走地方の各地で農業改良普及員の方々と一
緒に農家圃場の各種調査を精力的に実施した。
昭和42年(1967年)4月のある日,北海道大学農学部の田中 明先生か
ら会いたいので,都合のつくできるだけ早い時期に札幌に出て来て北大の
研究室に来てほしいというお手紙をいただいた。田中 明先生は,昭和
37年(1962年)から41年(1966年)までフィリッピンにある国際稲研究所
(IRRI)に出かけて,植物生理部長として多収水稲の生理生態学的特性に関
する研究を始めとする多くの研究成果を挙げられ,ミラクルライスと呼ばれ
た IR-8 の作出に対しても貢献をされた先生である。そこで,ただちに時間
を作って,北大農学部の田中先生の研究室を訪問した。田中先生のお話とい
うのは,この年の4月から北大農学部に作物栄養学講座が新設されて,田中
( 8 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
先生がその講座の教授に就任したので,講座の助手として道立北見農試から
転勤してくれないか,ということであった。もし,私が田中先生の要請を受
けたいと思うなら,道立農業試験場の上層部の方々に私を割愛してくれるよ
うに依頼したいとも述べて下さった。私はアメリカ留学から帰国して間もな
い時期であったので,北海道や道立農業試験場に対して恩返しをしなければ
ならない義務があるが,北大での仕事を通して北海道や道立農業試験場に対
して恩返しをすることも可能であろうと考えて,田中先生の要請を有難く受
けることを希望しますと回答した。当時の道立北見農業試験場の場長は故中
山利彦氏であった。中山利彦場長にもいろいろとご配慮をいただき,私は昭
和43年(1968年)4月1日より北大農学部農芸化学科作物栄養学講座の助手
として転勤した。
水 稲 に お け る 鉄 過 剰 障 害 発 現 機 構 と そ の 対 策 に
関 す る 研 究
北大農学部作物栄養学講座に助手として赴任した後,田中 明先生と最初
に相談したことは,私自身の研究課題を何にするかという問題であった。田
中先生は,「昭和42年4月に作物栄養学研究室が新設された当初から助手に
採用した山口淳一君は,私(田中先生)が IRRI で研究を行った4年間のう
ちの後半2年間北大農芸化学科から来てもらって,水稲における乾物生産
と呼吸の関係について研究を行ってもらったので,作物栄養学研究室におい
ても「作物の乾物生産」を中心とした研究を担当してもらうことにしている。
貴君(私)には「作物の無機栄養」を中心とした研究を担当してもらいたい。
特に,貴君個人の研究課題としては,現在熱帯地域の水稲栽培において重大
な問題になっている水稲の鉄過剰障害2),3)の発現機構とその対策に関する研
究に取組んでもらいたい。
」という希望を述べられた。私は,もともと「作
物の無機栄養に関する研究」を担当することを希望していた上に,特に,そ
の当時から国際的に研究が開始されはじめていた「作物の不良土壌耐性」に
強い関心を持っていたので,先生のご提案を喜んでお受けして,
「作物の無
2 水稲における鉄過剰障害発現機構とその対策に関する研究
( 9 )
写真4 八郎潟干拓土壌における水稲の鉄過剰障害
機栄養に関する研究」を担当しつつ「水稲における鉄過剰障害発現機構とそ
の対策に関する研究」に取組むこととした(写真4)。
水稲の鉄過剰障害に関する研究を開始するに当たって,最初に実施する
べき課題として考えたことは,培養液の Fe2+ 濃度がごく低濃度である場合
と鉄過剰障害が発現するほど高濃度である場合に,水稲による鉄の吸収と
体内分布がどのように異なるのかという基本的な研究であった。この研究
を実施した結果,鉄濃度が0.1ppmFe2+ という低濃度である場合には,鉄
吸収は根の代謝活性と結びついた積極的機構によって行われるのに対し,
300ppmFe2+ という高濃度である場合には,鉄吸収は水吸収の増加にともな
って増加することを明らかにした4)。さらに,根の代謝を阻害すると培養液
の Fe2+ 濃度が低い場合には鉄吸収が著しく低下するのに対し,Fe2+ 濃度が
高い場合には鉄吸収は逆に著しく増加することも明らかにした。この結果は,
培地の Fe2+ 濃度が高い場合には水稲根は水に溶存して蒸散流にしたがって
水とともに根細胞内に侵入しようとする Fe2+(2価鉄)を排除する機構を
保持することを示唆している5)。
( 10 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
写真5 八郎潟酸性硫酸塩土壌における水稲の鉄過剰障害に及ぼす酸性矯正と加里施与の効果
(左から−Lime−K区,−Lime+K区,+Lime1−K区,+Lime1+K区,+Lime2−K区,
+Lime2+K区)
当時,水田土壌の還元状態が進行する条件で水稲の加里栄養状態が劣悪で
ある場合には,しばしば水稲体の鉄含有率が上昇し,葉が褐変症状を呈する
赤枯れⅠ型と呼ばれる水稲生理病の症状を呈することが知られていた6)。私
が実施した研究で認められた水稲の鉄過剰症状においては,葉における褐変
症状の発現が普遍的な症状であったので,次に,水稲の加里栄養状態が鉄吸
収に及ぼす影響を検討した。その結果,水稲の加里栄養状態が低下する場合
には,水稲根の2価鉄排除能が低下するとともに,根の2価鉄酸化能も低下
する結果,水稲に鉄過剰障害が発生することを明らかにした7)。水耕条件で
認められたこのような現象は,加里供給力の低い八郎潟干拓土壌や美唄泥炭
土壌においても同様に認められた。すなわち,これらの土壌に対する加里供
給と酸性矯正によって土壌溶液の Fe2+ 濃度は低下しないにもかかわらず水
稲の鉄吸収は著しく低下し,加里無施与区で水稲葉に認められた鉄過剰症状
が解消されるとともに,水稲の生育も著しく改善された(写真5)
。
水稲における鉄過剰障害の発現が水稲の加里栄養状態によって上記のよう
に強く影響されるとすると,他の必須要素の栄養状態も鉄過剰障害の発現に
対して何らかの影響を与える可能性がある。特に,水田における土壌溶液
の Fe2+ 濃度と水稲の鉄過剰障害の発現との間には必ずしも正の相関がある
2 水稲における鉄過剰障害発現機構とその対策に関する研究
( 11 )
訳ではなく,土壌溶液の Fe2+ 濃度が300∼1,000ppm に達する場合でも鉄過
剰障害が発現する場合と発現しない場合がしばしば認められてきた8)ことは,
その可能性が大きいことを示唆する。すなわち,水稲の無機栄養状態が劣悪
になることによって根の2価鉄排除能や2価鉄酸化能が低下する場合には鉄
過剰障害が容易に発現し,無機栄養状態が正常であるために根の2価鉄排除
能や2価鉄酸化能が正常に機能する場合には鉄過剰障害は発現しないのでは
ないかと推定される。そこで,培養液の N, P, K, Ca, Mg, Mn 濃度をそれぞ
れ欠乏レベルまで低濃度にした区と完全区を設定して,これらの必須要素欠
乏区に0.1および100ppmFe2+ 処理を12日間加えて生育した水稲による鉄吸
収と根の2価鉄排除能および2価鉄酸化能を完全区のそれと比較した。この
研究の結果,水稲の2価鉄排除能はK欠乏によって著しく低下し,Ca, Mg,
Mn, P の欠乏によっても低下することと,根の2価鉄酸化能は Mg, Mn 欠乏
や高濃度の NaCl によって低下し,Kおよび Ca 欠乏によっても低下するこ
とを示し8, 9),そのような無機栄養状態による鉄過剰制御機能の変化が鉄過
剰障害の発現に対して大きな影響を与えることを明らかにした。別に,ケイ
酸の施与効果に関する研究を実施した結果,ケイ酸の施与は2価鉄排除能に
は影響を与えないが,2価鉄酸化能を強化する効果を持ち,その結果ケイ酸
の多量施与によって鉄過剰障害を抑制することが可能であることを明らかに
した9)。
次に,水稲の生育時期による鉄過剰抵抗性の変遷について検討を加え,根
の2価鉄排除能は生育初期に極めて小さく,分けつ後期から出穂期にかけて
大きく,出穂後ふたたび低下すること,根の2価鉄酸化能は生育初期に大き
く,生育が進むにつれて小さくなることを認めた。その結果,水稲の鉄過剰
抵抗性は,生育初期に小さく,分けつ後期から出穂期にかけて大きく,その
後再度低下することを明らかにした10)。さらに,2価鉄排除能は根中位部で
強く,基部でやや弱く,先端部では破壊されやすいと推定した11)。
以上の結果から,水稲の鉄過剰防止対策としては,⑴土壌溶液の Fe2+ 濃
度および硫化水素や有機酸など根の生育に対して有害な物質の濃度を低く維
( 12 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
持するための方策と,⑵水稲の生理状態を改善して,高 Fe2+ 濃度に対する
抵抗性を高めるための方策を採用するのが望ましいと結論した。すなわち,
鉄過剰防止対策として既に実施されている酸性矯正と排水は ⑴の効果を持
つとともに,根の生理状態を改善することによって ⑵の効果をも併せ持つ
ものであり,燐酸および珪酸カルシウムの施用も ⑴および ⑵の両方の効果
を持つ。経験的に鉄過剰対策として知られている加里多施の効果は,⑵に起
因するものであること示した。さらに,鉄過剰防止対策として,⑴塩成干拓
地の開田時における NaCl および MgCl2 の充分な洗脱と,⑵地上部重に対す
る根部重割合の高い品種を育成することが望ましいことを提案した9)。
昭和50年(1975年)にこれらの研究成果を「水稲の鉄過剰障害対策に関
9)
という課題名で取りまとめて北海道大学に提出し,
する作物栄養学的研究」
農学博士の学位を授与された。私は北海道大学農学部に助手として採用され
た1年後の昭和44年(1969年)4月に講師に昇任していたが,農学博士の学
位取得によって,昭和51年(1976年)5月に助教授に昇任した。
比 較 植 物 栄 養 に 関 す る 研 究
私が単独で実施した研究である「水稲の鉄過剰制御機構とその対策に関
する研究」と並行して,学生と一緒に行う研究として昭和47年(1972年)か
ら54年(1979年)にかけて「塩基適応性の作物種間差」,「重金属適応性の
作物種間差」
,
「アンモニア態および硝酸態窒素適応性の作物種間差」およ
び「耐湿性の作物種間差」からなる「比較植物栄養に関する研究」を実施し
た。
「塩基適応性の作物種間差」と必須元素としての重金属元素を対象とし
た「重金属適応性の作物種間差」に関する研究においては,低濃度および高
濃度培地に対する適応性,養分元素に対する要求性,低濃度培地からの吸収
特性,高濃度培地で生育する場合に発現される排除能を多様な作物種間で比
較することを目的として研究を実施した。有害重金属元素に関する研究にお
いては,生育障害が発現する体内含有率と有害元素に対する排除能の強弱の
作物種間差に重点をおいて考察した。いずれの研究も養分元素の欠乏と過剰
3 比較植物栄養に関する研究
( 13 )
に係わる作物の不良土壌耐性機構や有害重金属元素によって引き起こされる
不良土壌条件(ストレス)に対する耐性機構の基礎になる研究である。さら
に,この種の研究は与えられた土壌条件とそこに成立する植物相との関連を
理解する手がかりを与えるとともに,植物の適応進化の道程を考察するため
の資料をも提供する。また,農学的にみるならば作物栽培技術,特に培地管
理技術の向上にあたり,ともすれば個々の対象作物にとらわれて進められて
きた多くの研究成果を総合化し,理論体系として組み立てて行くための基礎
資料を提供する可能性を持っている。本研究はこのような考えのもとに17∼
20種の作物を供試して水耕条件で実施したものである。
「塩基適応性の作物種間差」に関する研究においては,先ず,K, Na, Ca,
Mg に対する選択吸収能には作物種間差が明瞭に存在することを示した12)。
次いで各種作物の Ca 適応性13),Mg 適応性14),K適応性15),Na 適応性16)に
ついて検討を加えて,各種作物の各塩基元素に対する適応性を分類するとと
もに,各元素に対する要求性の大小,低濃度培地からの吸収特性,高濃度培
地で生育する場合に発現される排除特性と過剰障害発現の難易を作物種間で
比較解析した。特に,Ca については Ca 欠乏症が発現する限界培地濃度に
種間差を生ぜしめる作物の属性について検討を加え,Ca 欠乏症発現限界培
地濃度の種間差は,根で吸収された Ca の成長葉への移行の難易,Ca の再
移動性および成長葉の欠乏症発現限界 Ca 含有率の種間差に起因することを
明らかにした17)。さらに,Li, Na, K, Rb 含有率の種間差を検討して,それぞ
れの1価カチオンに対する吸収能の発達度と吸収における拮抗関係を示し
た18)。
「重金属適応性の作物種間差」に関する研究においては,作物の生育にと
って必須である Mn19),Zn20),Cu21),Ni22)に関してそれぞれの重金属元素
が低濃度である培地に対する適応性とその生理的機構の種間比較を行うと
ともに,これらの元素が高濃度である培地や有害重金属である Cd20),Hg20),
Co22),Cr23)が高濃度である培地に対する耐性とその生理的機構の種間比較
をも行った。低濃度の必須重金属元素に対する適応性の種間差は,主に根に
( 14 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
よる吸収能と体内の低含有率耐性(養分要求性)の種間差の両者によって決
定されていると理解された。また,高濃度の重金属元素に対する耐性の種間
差は,必須重金属元素,有害重金属元素を問わず,それぞれの元素に対する
排除能と体内の高含有率耐性の種間差の両者によって決定されていると考え
られた。
「アンモニア態および硝酸態窒素適応性の作物種間差」と「耐湿性の作物
種間差」に関する研究は,「比較植物栄養に関する研究」の中でも重要な位
置を占める研究である。「アンモニア態および硝酸態窒素適応性の作物種間
24)
に関する研究では21種の作物種を供試して,それぞれ3mM NH4NO3
差」
を含む培養液からの両形態窒素の選択吸収能を種間で比較するとともに,
6mM NH4,6mM NO3 および3mM NH4NO3 を含む培養液に対する適
応性の種間比較を行った。その結果,各形態窒素に対する適応性をその
生育から,N源中 NO3-N の割合が増加するにともなって良好になる作物
種,NO3-N 区と NH4NO3 区の両区で良好な作物種,NH4NO3 区で良好な作
物種,NH4-N 区と NH4NO3 区で良好な作物種,N源中 NH4-N の割合が増
加するにともなって良好になる作物種,および全ての窒素形態区で良好な作
物種の6種に分類した(図1)
。さらに,NH4-N 区で生育が良好な作物には
NH4-N を選択的に吸収する作物が多く,NO3-N 区で生育が良好な作物には
NO3-N を選択的に吸収する作物が多いことを認めた。
25)
に関する研究では18種の作物種を供試して,低
「耐湿性の作物種間差」
O2 濃度耐性と高 CO2 濃度耐性にはそれぞれ大きな作物種間差が存在するこ
とを明らかにするとともに,各種作物の耐湿性は低 O2 濃度耐性と高 CO2 濃
度耐性の積との間に高い相関を持つことを明らかにした。したがって,耐湿
性に種間差をもたらす主因は,培地の低 O2 濃度と高 CO2 濃度に対する耐性
の種間差であると考えられた。
3 比較植物栄養に関する研究
図 1 NH4 -N, NH4NO3 -N, NO3 -N に対する適応性の模式図
( 15 )
( 16 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
国 際 共 同 研 究「イ ン ド ネ シ ア に お け る 水 田 お よ び
畑 地 の 農 業 生 態 学 的 研 究」(1979∼1981)
昭和54年(1979年)より3年間にわたって国際共同研究「インドネシアに
おける水田および畑地の農業生態学的研究」が実施され,田中 明先生の推
薦を受けてそのメンバーの一人として私も参加した。この国際共同研究は文
部省海外学術調査と日本学術振興会から支援を受けて,日本学術振興会の拠
点大学である東京農業大学・総合研究所所長・杉 二郎先生と東京大学・高
井康雄先生のご尽力のもとに設立されたプロジェクトである。調査・研究は,
インドネシア・スマトラ南部のランポン州の農業地帯を調査対象とし,この
地域の水田および畑地の農業生態学的特性を明らかにして,インドネシアに
広範囲に分布する類似した土壌および気候地帯における農業生産性を向上す
るための方策を提案することを目的として実施した。
本国際共同研究の日本側組織は,愛媛大学・浅田泰次先生(植物病理学)
をプロジェクト・リーダーとして,竹中 肇(土地利用学),津野幸人(作
物学)
,蜷木 翠(土壌学)
,大屋一弘(土壌学)
,谷 利一(植物病理学)
,
佐藤敏郎(農業水利学)
,富田正彦(土地利用学)などの諸先生が共同研究
者として参加した。私は作物栄養学研究者として参加した。共同研究の開
始2年目からは,吉田富夫先生(土壌微生物学)も参加した。インドネシア
側研究者としては,ボゴール農科大学の Professor Soeratno Partoatmodjo
(Director of the Center for Natural Resources Management and Environmental Studies)をリーダーとして,ランポン大学農学部の Ir. Subli Mujim
(植物病虫学),Ir. Ahmad Badaruddin(植物病理学),Ir. Muhajir Utomo
(土壌学)
,Ir. Albert D. Sitrous(土壌学),Ir. Jamalam Lumbanraja(土
壌学)
,Ir. Zulkarnain Zubir(土壌学)
,Ir. Karden E. S. Manik(水利学)
,Ir.
Bustomi Rosadi(水利学)
,Ir. Agus Tagor Lubis(作物学)
,Ir. Hermanus
Suprapto(作物学)などが参加した。この国際共同研究の研究目的からみ
て当然のことであるが,日本から参加した研究者の専門分野は広範囲にわた
4 国際共同研究「インドネシアにおける水田および畑地の農業生態学的研究」
(1979∼1981) (
17 )
った。しかも,個性の強い教授,助教授が集まったため,国際共同研究のあ
り方などに関して忌憚のない極めて活発な意見交換が連日なされた。この時
に大まじめに交換した議論がその後に実施した国際共同研究において大変役
立つことになった。
私は,ランポン州に広く分布しており,インドネシアの他の地域にも広大
な面積で分布する赤黄色ポドゾール性土壌の作物生産性が低い原因はどのよ
うな理由によるのかを明らかにするための調査・研究を行うことにした。そ
のように考えて,自動車でランポン州の各地を訪問し,赤黄色ポドゾール性
土壌の農地から土壌と栽培されている水稲,陸稲,トウモロコシを採取して,
それぞれ分析に供した。さらに,代表的な赤黄色ポドゾール性土壌を用い,
水稲,陸稲,トウモロコシを供試して,酸性矯正の有無と3要素試験を組合
せて土耕試験を行った26)。その結果,赤黄色ポドゾール性土壌の養分的に最
も重要な作物生育制御要因はリン欠乏とアルミニウム障害を主体とした酸性
写真6 インドネシア・ランポン州における研究対象地域の畑作地帯の一風景
( 18 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
障害であることを明らかにした。
キャッサバはリン酸欠乏耐性も耐酸性もともに強い作物であると言われて
いる。赤黄色ポドゾール性土壌地帯では,水稲,陸稲,トウモロコシとキャ
ッサバが主要作物であるが,キャッサバの養分管理法に関する研究は極めて
少ない状況にあった。そこで,キャッサバを供試して,3要素試験とこの地
帯の野生地に旺盛に生育している雑草アラン・アラン(アラン・アランは現
地での俗称,学名:
)を3要素の代替え養分供給源とし
て施与した場合の施与効果を明らかにするために圃場試験を実施した27)。そ
の結果,キャッサバの低リン土壌耐性は一般の作物では最強であるイネより
強く,耐酸性はイネと同程度であるがトウモロコシよりはるかに強いことを
明らかにするとともに,キャッサバにおけるこの土壌の最も重要な生育制御
要因は窒素供給力が低いことにあることを明らかにした。キャッサバが保持
する極めて強い低リン耐性は,⑴キャッサバは挿木をして栽培するが,その
挿木中に含まれるリン酸が初期生育時に効率的に利用されること,⑵根のリ
ン酸吸収能が極めて高いこと,⑶吸収されたリン酸は地上部で機能した後,
塊茎に効率よく転流して塊茎の形成と肥大に貢献すること,および ⑷キャ
ッサバの生育期間が7∼10ヶ月と極めて長いことなどに起因すると推定した。
新鮮重として20 t/ha のアラン・アランには49kg N,27kg P2O5,117kg K2O
が含まれている。化学肥料の代替えとしてヘクタール当たりに上記の養分量
を含むアラン・アランをマルチとして施用することにより,N, P2O5, K2O を
それぞれ100kg/ha 施用した3要素区とほぼ等しい塊茎収量が得られた。こ
の結果は,キャッサバ栽培においては,雑草や有機性廃棄物を原料とした堆
肥を化学肥料とともに施用するのではなく,堆肥を化学肥料の代替え養分資
材として利用することによってほぼ満足しえる収量を得ることが可能である
ことを意味している。
5 作物における低リン土壌耐性とリンのリサイクル利用法
( 19 )
作 物 に お け る 低 リ ン 土 壌 耐 性 と リ ン の
リ サ イ ク ル 利 用 法
上記の海外学術調査・研究「インドネシアにおける水田および畑地の農業
生態学的研究」を実施した当時は,現地では,水田には少量の窒素肥料とリ
ン酸肥料あるいは少量の鶏糞しか施用されておらず,畑作物には化学肥料は
全く施用されていないのが実態であった。そのような地帯で調査を行い,土
耕試験を行った経験から,施肥歴のない,あるいは少ない地域においてはリ
ン欠乏が普遍的に重要な作物生育制御要因であることを痛感した。そこで,
この問題に対する対応法を見いだすために,北大の作物栄養学研究室におい
て昭和55年(1980年)に実施した「低リン酸培養液濃度が初期生育に及ぼす
28)
に関する研究をさらに発展させて,
「植物の低リン土
影響の作物種間差」
壌耐性とその生理的機構に関する研究」を実施することにした。
1)
植 物 の 低 リ ン 土 壌 耐 性 と そ の 生 理 的 機 構
昭和55年(1980年)に実施した「低リン酸培養液濃度が初期生育に及ぼす
影響の作物種間差」に関する研究は「比較植物栄養に関する研究」の中の1
課題として行った研究である。しかし,この研究は「植物の低リン土壌耐性
とその生理的機構に関する研究」の出発点にあたる研究であるので,本章で
論じることにする。
28)
は11種の
「低リン酸培養液濃度が初期生育に及ぼす影響の作物種間差」
作物を供試して,作物における低リン濃度耐性を比較するとともにその生理
的機構を解明することを目的として水耕培養法で実施した研究である。この
研究により,作物の低リン濃度耐性を強,中,弱の3種に分類した(図2)
が,このような低リン濃度耐性は,つまるところ ⑴それぞれの作物の地上
部が正常に生育するために必要なリン要求性と,⑵根によるリン吸収能なら
びに地上部移行性によって構成される要求部位に対するリン供給能によって
決定されており,それぞれの機能にはかなり大きな種間差が存在するために,
作物の低リン濃度耐性にも大きな種間差が生じることになると理解された。
( 20 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
1)リン濃度適応性
第1群(広域適応性)
:イネ
第2群(低・中濃度適応性)
:トウモロコシ,アズキ
第3群(中・高濃度適応性)
:コムギ,オオムギ,ダイズ,サイトウ,ジャガイモ
第4群(高濃度適応性)
:ビート,トマト,ハクサイ
2)低リン濃度耐性
強:第1群と第2群
中:第3群
弱:第4群
図 2 初期生育における各種作物のリン濃度適応性と低リン濃度耐性(模式図)
図3に初期生育時のイネ,コムギ,トマトが正常に生育するために要求され
る地上部 P 含有率の種間差を示した。最大の生育を示す区の90%の生育を
するために要求される地上部 P 含有率は,イネでは約0.2%であるのに対し,
コムギでは0.4%,トマトでは0.7%であり,その種間差は著しく大きい(図
3)
。
海外学術調査・研究「インドネシアにおける水田および畑地の農業生態学
的研究」が終了した後,最初に実施した作物の低リン耐性に関する研究は,
「北海道における作物の VA 菌根菌感染状態」に関する研究であった29)。こ
の研究は,現在山形大学農学部で植物栄養学研究室の教授を勤めている俵谷
5 作物における低リン土壌耐性とリンのリサイクル利用法
( 21 )
図 3 イネ,コムギ,トマトにおける地上部リン要求性の比較
(最大の生育を示した区の生育量を相対生長量=100とした。)
圭太郎氏の修士論文研究として実施したものである。この研究により,北海
道各地の畑作地帯および草地より採取した各種の畑作物,牧草,野草の根に
おける VA 菌根菌(現在ではアーブスクラー菌根菌と呼ばれる)の感染率
には大きな種間差が存在し,感染率はトウモロコシ,アズキ,ダイズ,ホワ
イトクロバー,サイトウなどで高く,ビート,タマネギ,ジャガイモで低い
ことを示した。また,低リン火山灰土に−P 区と+P 区を設けて6種作物を
栽培し,両区における菌根菌の感染率を比較した結果では,感染率は生育の
進行にともなって上昇するが,すべての作物で−P 区で+P 区より上昇する
ことを認めた。したがって,作物がリン不足土壌で生育する場合のリン吸収
において,根に対する内生菌根菌の感染が重要な役割を果たしていることは
明らかであると考えられた。俵谷氏は,山形大学に採用された後,現在にい
たるまで内生菌根菌の感染によるリン吸収促進機構に関する研究を実施して
おり,多くの研究成果を挙げている。次いで,圃場で生育するサツマイモと
( 22 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
ジャガイモの低リン土壌耐性を比較して,低リン耐性はサツマイモでジャガ
イモより高いことを示し,その主因は,サツマイモでジャガイモより ⑴根
の伸長量が多いこと,⑵内生菌根菌の感染率が高いこと,⑶生育期間が長い
ために生育期間中に吸収するリン量が多く,さらに吸収した単位リンの循環
利用効率が高いこと,⑷塊茎のリン要求性が低いことによることを明らかに
した30)。
土壌中には難溶性の無機態リン酸化合物とともに有機態リン酸化合物が含
まれている。土壌中における全リン含有率に対する両形態リンの含有率割合
は土壌の有機物含量によって異なり,それぞれ20∼80%,80∼20%であると
言われる。植物根は酸性ホスファターゼ分泌能を保持しており,この酵素を
分泌して根圏に存在する有機態リン酸からリン酸を解離して根で吸収すると
考えられている。したがって,根の酸性ホスファターゼ分泌能は植物の低リ
ン土壌耐性を支配する重要な生理的機構のひとつである。
そこで,リン不足条件で根から分泌される酸性ホスファターゼ分泌能の作
物種間比較研究を実施した31)。この研究においては,ダイズ,ルーピン,ア
ズキ,イネ,コムギ,ダイコン,キャベツ,トマト,ビートからなる9種
の作物が低リン濃度培地と標準リン濃度培地(3ppm P)で生育する場合に,
根からの酸性ホスファターゼの分泌が種によってどのように異なるかを調べ
るとともに,細胞壁に局在する酸性ホスファターゼ活性をも比較した。この
実験においては作物種によって培地の低リン濃度に対する耐性が異なるので,
標準リン濃度区の生育量に対する低リン区の相対生育量が60∼80%になるよ
うに低リン濃度区の P 濃度を種によって0.05∼0.5ppm P に変化させて各種
作物を栽培した。根から分泌された酸性ホスファターゼの活性はすべての作
物で低リン濃度区で標準リン濃度区より上昇し,特にルーピンで著しく上昇
して20倍に達した(図4)。さらに,低リン濃度区での分泌活性はルーピン
で最も高く,トマトでそれに次いだ。細胞壁吸着性の酸性ホスファターゼ活
性も全植物において低リン濃度区で標準リン濃度区より上昇した。ルーピン
は低リン土壌で生育する場合でもリンを効率的に吸収し,生育が良好な植物
5 作物における低リン土壌耐性とリンのリサイクル利用法
( 23 )
■ 標準リン濃度区
□ 低リン濃度区
( )内の数値は低リン濃度区で酸
性ホスファターゼ活性が増加した
割合(倍率)
図 4 各種作物の根から分泌される酸性ホスファターゼと100mM NaCl で溶出される細胞壁吸着性
酸性ホスファターゼの活性に及ぼすリン処理の影響
である32)。したがって,上記の結果はルーピンの高い低リン土壌耐性の生理
的機構のひとつとして根の酸性ホスファターゼ分泌能が強いことが関与して
いることを示唆している。なお,トマトにおいては酸性ホスファターゼ分泌
能が高いにもかかわらず,この作物の低リン土壌耐性が低いことは一見矛盾
しているようにみえる。このような見かけ上の矛盾があるために,低リン土
壌耐性における根の酸性ホスファターゼ分泌能の役割に疑問を投げかける意
見もあるが,トマトにおいては酸性ホスファターゼ分泌能が高いが,体内の
リン要求性がそれ以上に著しく高いことがこの作物の低リン土壌耐性を低く
しているのである(図3参照)
。このように,各種のストレス土壌耐性の機
構を理解する場合には,耐性の生理的機構を構成するすべての機能の関係を
総合的に考察しなければならないのである。
植物がリン不足条件で生育する場合には,根からクエン酸,リンゴ酸,シ
( 24 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
ュウ酸などの有機酸を分泌することも知られている。リン欠乏条件で誘導さ
れる根の有機酸分泌能の発現は,根圏土壌中に存在するリン酸鉄,リン酸ア
ルミニウム,リン酸カルシウムなどの難溶性無機リン酸化合物の鉄,アルミ
ニウム,カルシウムと分泌された有機酸がキレート化合物を形成することに
よって,リン酸を解離溶出させ,根によるリン酸吸収を促進するという結果
をもたらす。Onthong と Osaki は,タイに分布する強度に風化が進んだ数
種の土壌(Typic Paleudults および Typic Haplorthods)に濃度を異にする
クエン酸およびシュウ酸を添加することによって,鉄,アルミニウム,カル
シウムの溶出とリン酸の溶出が起こることを確認した33)。
2)
分 泌 性 酸 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ の 機 能 と そ の 持 続 性
酸性ホスファターゼの分泌が植物による有機態リンの吸収のために役立っ
ているかどうかを明らかにするために,ルーピン根から分泌された酸性ホス
ファターゼを,土耕条件で栽培した低リン耐性が弱いビートとトマトの根圏
に添加して,リン吸収が増加するか否かを検討した。すなわち,プラスチッ
ク容器にリン欠乏土壌を詰めた後,リンを施用しない−P 区,−P 区にルー
ピンの根から分泌された酸性ホスファターゼ粗酵素液を施用した−P・酵素
(H2PO4)
添加区,100kg P2O5/ha 相当量の Ca
2 を施与した100 P 区の3区を
設定して,ビートとトマトを栽培した。−P・酵素添加区にはルーピンの根
から分泌された酸性ホスファターゼを含む水溶液を2日に1回少量ずつ根圏
に注入した。ビート,トマトともに−P 区に比べて粗酵素液を加えることに
34)
。この結果は,根による酸
よりリン吸収,乾物重ともに増加した(図5)
性ホスファターゼの分泌は有機態リンの吸収を増加させることを立証すると
ともに,作物根の酸性ホスファターゼ分泌能を強化した場合には,リン吸収
にとってプラスに作用することをも示している。
そこで,ルーピン根分泌性酸性ホスファターゼの基質特異性を調べた。そ
の結果,本酵素は核酸系の基質やピロリン酸などをよく分解し,イノシトー
ル態のリン酸やリン脂質に対する分解能は低く,糖リン酸に対してはまった
く分解能を示さなかった35)。土壌に含まれる有機態リン酸の組成を考えると,
5 作物における低リン土壌耐性とリンのリサイクル利用法
( 25 )
図 5 低リン耐性が弱いビートとトマトのリン吸収と生育に対するルーピン根分泌性酸性ホスファ
ターゼ粗酵素液の施与効果
核酸系の形態で含まれるリン酸をよく分解することは効果的な特性ではある
といえるが,イノシトール態のリン酸に対する分解能が低いことは効果的で
あるとは言えない。しかし,他の植物ではあるが,イノシトール態のリン酸
を分解する別の酵素であるフィターゼの分泌もすでに明らかにしており36, 37),
このようなフィターゼ合成と分泌に係わる遺伝子を導入することによって,
通常の酸性ホスファターゼ機能とフィターゼ機能の両者を同時に発現する植
物を作出することが可能であると考えられる。次いで,土壌抽出液中におけ
る酸性ホスファターゼの安定性を検討した。ルーピン根から分泌された酸性
ホスファターゼを土壌の水抽出液と混合して静置した場合,25℃でもその活
性の半減期は約14日であり,分泌性酸性ホスファターゼの活性は根から分泌
された後かなりの期間にわたって持続すると考えられた38)。さらに,土壌系
で生育したルーピン根圏における酸性ホスファターゼの分布特性についても
明らかにした39)。
3)
酸 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ 分 泌 能 を 利 用 し た リ ン の リ サ イ ク ル
利 用 の 可 能 性
ところで IFDC-TVA(1979)の推定では,リン酸質肥料の主要な原料で
ある燐鉱石資源の現在の技術で採掘できる量は世界全体で約360億トンであ
( 26 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
り40, 41),技術の進歩によって採掘可能量は増加するとしても,その量を当時
の世界全体としての1年当たり生産消費量で割って算出した燐鉱石資源の寿
命は約150年程度であると推定されていた。この推定寿命は燐鉱石の採掘技
術の進歩によって延長することができるが,人口が増加して食糧生産に対す
る需要が増加するにともなって短縮されることになると同時に,リン酸質肥
料を全く使用して来なかった,あるいは少量しか使用して来なかった多数の
発展途上諸国がリン酸質肥料を使用し始めることによっても短縮されるので,
その寿命は推定されている程長くはないと思われる。さらに,燐鉱石資源の
ような重要な資源については,その枯渇年度がほぼ正確に推定されるように
なった時点で価格が急速に上昇するのが一般的であり,燐鉱石資源を持たな
い貧困国ではそれを輸入することもままならない状況に立ち至ることが予測
される。実際,燐鉱石の価格は近年早くも上昇しはじめている。したがって,
燐鉱石資源の寿命がそれほど長くはないという問題は人類の将来にとって極
めて重要な問題であり,リン資源の効率的なリサイクル利用法の開発が急務
であると考えるにいたった。リン資源のリサイクル利用法を開発して,それ
を実用化することによって,有限なリン資源の寿命を飛躍的に延長すること
が可能だからである。リン資源のリサイクル利用法としては,下水汚泥に含
まれるリン酸をリン酸マグネシウムアンモニウムとして回収し,肥料として
利用する方法が既に開発されている。しかし,各種の未利用有機資源を堆肥
化して含有する有機態リン酸を効率的に吸収利用したり,我が国のように農
地に長年にわたって過剰のリン酸質肥料を施与してきたために,農地土壌中
に蓄積した有機態リン酸を効率的に吸収利用することを可能にする作物根の
機能を強化することも,リン資源のリサイクル利用にとって重要な方法であ
る。そのような考えのもとに,植物根が保持する酸性ホスファターゼ分泌機
能を強化することによって,堆肥や未利用有機資源に含まれている有機態リ
ン酸や土壌に蓄積した有機態リン酸からリン酸の解離を促進し,効率的なリ
ンのリサイクル利用法を開発することを最終的な目的とする研究を開始する
ことにした。
5 作物における低リン土壌耐性とリンのリサイクル利用法
( 27 )
そのための最初の研究として,分泌性酸性ホスファターゼが下水汚泥のよ
うな有機資材に含まれる有機態リン酸化合物を分解する能力があることを確
認するための研究を実施した。すなわち,有機態リン酸化合物を多量に含む
下水汚泥を供試して,これにルーピン根分泌性酸性ホスファターゼ粗酵素液
を添加して有機態リン酸からのリン酸解離能を調べた。その結果,下水汚泥
に含有される有機態リン酸からこの酵素の添加によってリン酸が解離されて
溶出することを確認した39)。したがって,下水汚泥に含まれる有機態リン酸
中のリン酸は根分泌性酸性ホスファターゼの機能によって解離されて,植物
によって吸収利用されると結論した。
4)
分 泌 性 酸 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ タ ン パ ク 質 の 特 性
植物のリン吸収を促進する機能を持つ根分泌性酸性ホスファターゼの合成
分泌機能を低リン土壌耐性の弱い作物に導入することができれば,導入した
作物の低リン土壌耐性を強化するとともにリン鉱石資源を効率的に循環利用
するために大きな役割を果たし,将来の食糧生産に対して重要な貢献をする
ことが期待される。そこで,分泌量,活性ともに極めて高いルーピン根の分
泌性酸性ホスファターゼタンパク質の特性について詳細な研究を行った。
まず,ルーピンを水耕培養法によってリン欠如培養液で生育させ,根から
培養液に分泌された酸性ホスファターゼタンパク質を精製した。等電点電気
泳動による解析の結果,根および葉には10種類前後の酸性ホスファターゼの
存在が確認されたが,分泌された酸性ホスファターズの主体は1種類であっ
42)
。この1種類の酸性ホスファターゼを電気泳動的に単一に精
た(写真7)
製した。この酵素タンパク質の分子量は,SDS−PAGE による変性条件での
解析では72kDa であり,Bio-Gel P-200を用いて非変性条件で解析した場合
には140kDa であった。この結果は,この酵素タンパク質が2つの同じ構成
単位からなることを示している。精製した分泌性酸性ホスファターゼについ
て,その酵素化学的性質を調べた。pI は4.7,最適 pH は4.3であった。こ
の結果は,リンが不足しやすい酸性土壌で本酵素が効率的に機能することを
示唆する。また,この酵素は糖タンパク質であり,p- ニトロフェニールリ
( 28 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
写真 7 等電点電気泳動後の酸性ホスファターゼ活性染色の結果
レーン1は根からの粗分泌物,レーン2は根の粗抽出物,レーン3は葉の粗抽出物
ン酸を基質とした時の Km 値は0.027mM であった。さらに,広範囲な pH
や温度に対する安定性が非常に高いという性質を持っていた。pH や温度に
対する安定性が高いことは,多様な土壌条件や温度条件で長期間にわたって
機能するために有利な特性である。
5)
分 泌 性 酸 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ の 合 成 と 分 泌 誘 導
上記により単一に精製した分泌性酸性ホスファターゼから抗体を調整し,
ウエスタンブロット法によって分泌性酸性ホスファターゼの合成部位を調査
した結果,このタンパク質の合成部位は茎および葉ではなく,根であること
と,根における合成はリン欠乏によって誘導されることを明らかにした43, 44)。
別に行った個体レベルでの研究の結果から,+P 区から−P 区に移植して生
育を継続した場合に起こる地上部 P 含有率の低下と分泌された酸性ホスフ
5 作物における低リン土壌耐性とリンのリサイクル利用法
( 29 )
ァターゼの活性の上昇との間には対応関係があり,本酵素の分泌がリン欠乏
によって誘導されることが明瞭に示された(図6)43)。
次に,根における酸性ホスファターゼの集積部位を抗原抗体反応を用いて
調べた。主根では,分泌性酸性ホスファターゼは表皮と内皮の細胞の表面に
局在した45)。一方,側根においては,+P 区では分泌性酸性ホスファターゼ
の分泌が抑制され,特に表皮細胞に多量集積したのに対して,−P 区では表
皮細胞における集積が認められず,細胞壁と細胞間隙に集積が認められた。
この結果は側根のすべての組織で分泌性酸性ホスファターゼが合成されてい
ることを示している。しかし,−P 区の側根における分泌性酸性ホスファタ
ーゼの集積が+P 区のそれに比べて少なかったことを,分泌性酸性ホスファ
ターゼが低リン条件で多量分泌されるという結果(図4)と合わせて考え
ると,−P 区の側根において本酵素の集積量が+P 区より少なかったことは,
ルーピンがリン不足条件で生育する場合に,根細胞内で酸性ホスファターゼ
が合成された後,ただちに効率よく根外に分泌されることによると考えるこ
図 6 ルーピンにおける−P 処理区の地上部 P 含有率(■)の処理開始後日数の経過
に伴う変遷と+P(●)および−P(○)培養液で生育した個体の根から分泌さ
れた酸性ホスファターゼの活性
( 30 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
とができる。
ルーピンの根から分泌される酸性ホスファターゼの分泌部位を調べるため,
リン充足条件下で無菌培養したルーピンを−P 処理および+P 処理を加えた
寒天培地上に移植して,根が平板に伸長するように生育させ,48時間および
72時間培養した後に植物体を取り除いてから,培地に分泌された酸性ホスフ
ァターゼの活性染色を行った46)。48時間および72時間の両区ともに−P 区で
顕著な酸性ホスファターゼの分泌が認められた。さらに,根の全域に蛍光が
認められたことから,酸性ホスファターゼは根の全域から分泌されることが
明らかになった。また,蛍光の強度は48時間より72時間で高いことから,こ
の酵素の分泌はリン欠乏の強度に対応して次第に高まることが確認された。
さらに,酵母や大腸菌と同様に,高等植物においても根において培地の低リ
ン酸濃度を感知して酵素タンパク質を培地に分泌する分子的システムが存在
することを示唆する実験結果をも得た46)。
6)
分 泌 性 酸 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ の 遺 伝 子 解 析
ルーピン根から分泌された分泌性酸性ホスファターゼタンパク質を精製し
て,N-末端アミノ酸配列を決定し,さらに,lysylendopeptidase および臭
化シアン処理により部分分解して生じた短いペプチドの部分アミノ酸配列を
決定した。これらの情報をもとに,数段階の処理を経てリン欠如処理を行っ
たルーピンの根に由来する RNA から2種類の酸性ホスファターゼの cDNA
を単離した。単離した2種類の cDNA を LASAP 1 と LASAP 2 と命名して
塩基配列の解析を行った。LASAP 1 は2,187bp からなり,638アミノ酸をコ
ードするひとつの長い ORF(Open Reading Frame)を有した43)。LASAP
2 は1,541bp からなり,462アミノ酸をコードするひとつの長い ORF を有し
た44)。
細胞内で合成されるタンパク質がどこで機能するかについては,当然成熟
タンパク質の構造にも依存するが,特に分泌性のタンパク質についてはシグ
ナルペプチドに一定の性質があるといわれる。この性質を基にして,相同性
が高い酸性ホスファターゼ遺伝子の塩基配列から推定されるアミノ酸配列を
5 作物における低リン土壌耐性とリンのリサイクル利用法
( 31 )
用いて PSORT prediction program47)によるタンパク質の細胞内局在部位予
測を行った44)。LASAP 1 は膜および小胞体に親和性が高く,おそらく細胞
内外の生体膜に局在するものと思われた。一方,LASAP 2 は outside に行
く可能性,すなわち細胞外に分泌される可能性が0.82と高かった。LASAP
1 と LASAP 2 の生理的意義を考察するためのひとつの手がかりとして,こ
れらの mRNA の発現量を調べた44)。LASAP 1 の mRNA の発現量は−P 区
で+P 区より増加したが,根と葉で比較すると両者間に大差なく,構成的に
発現した。一方,LASAP 2 の mRNA の発現量は−P 区の根においてのみ
強く発現し,根分泌性酸性ホスファターゼの分泌活性が−P 区のみで高まる
という結果と一致した。これらの結果と他の植物や微生物の酸性ホスファタ
ーゼに関する情報をも総合して,LASAP 2 は根分泌性酸性ホスファターゼ
の遺伝子であり,LASAP 1 は細胞膜および細胞壁結合型の酸性ホスファタ
ーゼであると結論した44)。図7に分泌性酸性ホスファターゼと細胞膜・壁結
分泌性酸性ホスファターゼ
細胞膜・壁結合型酸性ホスファターゼ
図 7 分泌性酸性ホスファターゼと細胞膜・壁結合型酸性ホスファターゼの役割を示す模式図
( 32 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
合型酸性ホスファターゼの役割を模式的に示した。分泌性酸性ホスファター
ゼは根の細胞内で合成された後根外に分泌され,根圏に存在する有機態リン
酸化合物からリン酸を解離し,根はそのリン酸を吸収利用する。一方,細胞
膜・壁結合型酸性ホスファターゼは細胞膜と細胞壁に局在しており,土壌溶
液に溶解している有機態リン酸化合物が根による水吸収にともなって発生す
るマスフローによって細胞壁および細胞膜に達した時に有機態リン酸化合物
からリン酸を解離して,それを根細胞が吸収するという機構で機能している。
本研究においては,坂井洋士君,小沢研二君,和崎 淳君(現広島大学准
教授),中国からの留学生であった李 明剛君(現中国・南海大学教授)そ
の他の院生諸君に研究の各段階で大学院の修士あるいは博士論文の研究とし
て精力的に活躍してもらった。さらに,私が北海道大学を定年退職した後も
和崎 淳君が中心になって引続き研究を継続して LASAP 2 遺伝子をタバコ
に導入することに成功し,それを栽培して有機態リン酸化合物からのリン吸
収の増加とそれにともなう生育の促進を確認している。
作 物 に お け る ア ル ミ ニ ウ ム 障 害 と 耐 性 の 機 構
な ら び に リ ン と ア ル ミ ニ ウ ム の 相 互 作 用
1)
作 物 に お け る ア ル ミ ニ ウ ム 障 害 と 耐 性 の 生 理 的 機 構
アルミニウムは酸性土壌で土壌溶液中に溶出して作物に酸性障害をもたら
す最も重要な元素である。pH5.5以上の土壌ではアルミニウムは殆ど溶出し
ないために,作物にはアルミニウム障害は発生せず,酸性障害も起こらない
が,pH5.5以下の土壌,特に5.0以下の土壌ではアルミニウム耐性の弱いオ
オムギやビートのような作物では激しいアルミニウム障害が発生する。ア
ルミニウム耐性には大きな作物種間差が存在することや,アルミニウム障害
は先ず根の伸長阻害として発現されることについては,これまでの多くの研
究から充分に知られていたが,アルミニウム障害の機構や耐性の機構につい
ては世界各地の研究者から多数の仮説が提唱されており,1980年代には定説
が存在しなかった。そこで,最初にアルミニウム耐性を異にするイネ,エ
6 作物におけるアルミニウム障害と耐性の機構ならびにリンとアルミニウムの相互作用
( 33 )
ンバク,ダイズ,サイトウ,オオムギの5種の作物を供試して,根先端部位
におけるアルミニウムの集積と根の伸長阻害との関係を検討することを目的
として,「アルミニウムによる作物根の伸長阻害と根先端近傍におけるアル
ミニウムの集積」に関する研究を実施した48)。その結果,アルミニウムによ
る根伸長阻害度から判断した根のアルミニウム耐性はイネ>エンバク>ダイ
ズ,サイトウ>オオムギの順であり,地上部の生育もそれと対応した。アル
ミニウムは根の表面に多量沈積するために,根全体を平均した Al 含有率と
根伸長阻害度との間には相関が全く存在しなかったが,X線マイクロアナラ
イザーで測定した先端2mm の部位の皮層中央,内皮および中心柱における
Al の集積は,耐性の弱いオオムギで多く,サイトウ,ダイズでそれに次ぎ,
エンバク,イネではきわめて少なく,細胞分裂域の根組織内に対する Al の
侵入の難易と Al による根の伸長阻害度とはよく対応することを初めて明ら
かにした。さらに,オオムギのようなアルミニウム耐性の弱い作物では,2
ppm 程度の低 Al 濃度でも10日間の処理によって根先端近傍の組織と細胞が
崩壊し,皮層および内皮に多量の Al の侵入とKの漏出が起こることを示し
た。これらの結果より,アルミニウム耐性に大きな作物種間差が存在する理
由は,根の細胞膜や細胞壁のアルミニウム耐性に大きな種間差が存在するこ
とにあるのではないかと推定した。
+
+
(OH)2+,Al
(OH)
次いで,Al3+,Al
2 ,AlSO4 ,Al-F complex ions の毒
性を比較し,AlSO4+と Al-F complex ions の毒性は Al3+より著しく小さく,
2+
+
(OH)
,Al(OH)2+の毒性は Al3+>Al
(OH)2+>Al
(OH)
Al3+,Al
2 であるこ
とを明らかにした49)。さらに,pH4.0で0.05mM という低 Al 濃度培養液で
生育したオオムギにおける Al 処理開始後1時間から24時間にかけての根先
端細胞の構造異常化の進行を電子顕微鏡的に観察した50)。生成して間もない
根冠分裂細胞の構造は処理開始後1時間以内に形態変化を起こし,表皮細胞
でも12時間以内に同様な形態変化を起こした。Al 処理によってもたらされ
る形態変化としては,小胞数の増加,原形質表面の奇形化,原形質内構造の
変化,小胞体の肥大化,細胞壁の厚みの増大などが認められた。Al 処理開
( 34 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
始後12から24時間を経過すると,上記の構造変化が促進されるとともに,根
冠分裂細胞や皮層,中心柱の細胞の液胞の肥大化が促進された。根冠分裂細
胞におけるアルミニウム障害が根冠分裂細胞に Al イオンが接触した場合に
1時間以内のごく短時間で発現することを明らかにしたことは重要な知見で
ある。
2)
リ ン と ア ル ミ ニ ウ ム の 相 互 作 用
培地の Al 濃度とP濃度は共存する Al/P 比と pH よって影響を受け,作
物の生育もそれによって強く影響を受ける。土壌系での作物生育に及ぼす
pH の影響をより解析的に理解するために,
「Al-P 系水耕液における作物生
育に対する pH の影響」に関する研究を実施した51)。その結果,30ppm Al
相当量の Al(SO
2
4)
3 に異なる濃度の NaH2PO4 を添加することによって Al/P
比を変え,さらに pH を変えることによってリン酸アルミニウムの沈殿の組
成を変えた平衡培養液の溶存 Al 濃度は pH の上昇にともない低下し,Al/P
モル比=10/1,2/1,3/2で Al 濃度が0.2ppm になる pH は,それぞれ5.5,
5.0,4.5であって,P添加量の増加にともなって低下した。一方,溶存P
濃度は pH の上昇にともなって低下し,ある pH で最低となり,それより高
い pH で再度上昇した。P濃度は Al/P 比=3/2>2/1>10/1であって,Al/P
比の上昇にともなって低下した。また,P濃度が最低になる pH は Al/P 比
=3/2では4.5,2/1では5.0,10/1では5.0∼5.5であり,Al/P 比の上昇にと
もなって上昇した。Al/P 比を異にする培養液でアルミニウム耐性を異にす
るイネ,サイトウ,ダイズ,オオムギを栽培した。Al/P 比を異にする培養
液でこれらの作物が生育する場合,低 pH 域ではアルミニウム耐性の弱い
作物は Al 障害のため生育不良になり,耐性の強い作物は生育が良好であり,
高 pH 域では培養液の Al/P 比が高い場合に全ての作物でP欠乏のために生
育が劣り,Al/P 比の低下によってどの作物も健全に生育すると理解された。
なお,この実験において,高 pH 域で培養液の Al/P 比が高い場合のP濃度
は0.02ppm 以下であり,アルミニウムが共存しない低リン培地に対する耐
性の強い作物でもリン欠乏のためにその生育が低下するレベル(図2参照)
7 タイおよびマレーシアの沿岸域に分布する低湿地土壌に関する国際共同研究(1983∼1991) (
35 )
のP濃度28)であった。
pH4.1で3レベルの Al 濃度処理を加えた水耕系でナタネとトマトとを培
養し,同時に3レベルの pH 処理を加えた圃場で両作物を栽培して,両者の
結果を比較した52)。水耕系の Al 処理区における生育は Al 濃度の上昇によ
って両作物ともに著しく阻害され,両作物間に差がなかったが,圃場の低
pH 区における土壌溶液の Al 濃度は水耕系の Al 処理区より高かったにもか
かわらず相対生育量(pH6.2区=100)はナタネでトマトより3∼4倍高かっ
た。水耕系における Al 処理区の相対 P 吸収量(-Al区=100)もナタネとト
マトで大差なかったが,圃場の低 pH 区ではナタネでトマトより3∼6倍高
かった。両作物の根による有機酸分泌量を調べた結果では,クエン酸分泌量
がナタネでトマトより多く,ナタネの分泌量は Al 濃度が上昇するにともな
って増加するのに対し,トマトでは Al 処理間に差がなかった。150μM Al
を含む培養液に200μM クエン酸を添加することによって,培養液のモノマ
ー Al 濃度は1/7に低下し,モノマー Al 濃度の低下によってナタネの根の伸
長阻害は軽減された。また,Al とPの両イオンを含む培養液のP濃度は添
加クエン酸濃度の上昇によって上昇し,そこに生育したナタネのP含有率も
上昇した。このような現象は土壌系で作物が生育する場合におこることであ
り,根から分泌されたクエン酸が稀釈される水耕系ではおこらないと考えら
れる。したがって,これらの結果は圃場におけるアルミニウム耐性とP吸収
能がナタネでトマトより高い一要因として,ナタネにおいては根から根圏へ
のクエン酸の分泌が Al によって促進されることをあげることができると結
論した。
タ イ お よ び マ レ ー シ ア の 沿 岸 域 に 分 布 す る 低 湿 地
土 壌 に 関 す る 国 際 共 同 研 究(1983∼1991)
1)
タ イ 国 の 内 陸 お よ び 沿 岸 域 の 塩 性 土 壌 に 関 す る 比 較 農 業
生 態 学 的 研 究(1983∼1986)
昭和58年(1983年)より昭和61年(1986年)までの4年間にわたって国際
( 36 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
共同研究「タイ国の内陸および沿岸域の塩性土壌に関する比較農業生態学的
研究」が実施され,メンバーの一人として私も参加した。この国際共同研究
は昭和54年(1979年)より3年間にわたって実施された国際共同研究と同様
に文部省海外学術調査と日本学術振興会から支援を受けて,拠点大学である
東京農業大学総合研究所所長・杉 二郎先生と東京大学・高井康雄先生のご
尽力のもとに設立されたプロジェクトである。
この国際共同研究における日本側組織は東京大学・高井康雄先生(土壌
学)をプロジェクト・リーダーとし,タイ国沿岸域の調査グループには久馬
一剛(土壌学)
,甲斐秀昭(土壌微生物学)
,米林甲陽(土壌学)
,岡崎正規
(土壌学)
,長野敏英(農業工学)
,鈴木邦雄(植物分類学)などの諸先生が
共同研究者として参加した。私は作物栄養学研究者として参加した。タイ側
組織は,Kasetsart University の Prof. Sorasith Vachrotayan(土壌学)が
代表者となり,沿岸域からは Prince of Songkhla University の Assoc. Prof.
Prasat Chitapong(植物分類学)および若手講師の Mr. Chairatna Nilnond
(土壌学)
,Mr. Somsak Maneepong( 土 壌 学 ),Mr. Wichai Pantanahiran
(土壌学),Miss. Nipa Panapitukkul(土壌学)
,タイ国土地開発省の Dr.
Pisoot Vijarnsorn(土壌学)など10数名の研究者が参加した。別に,タイ国
東北地方のコンケンで内陸部に分布する塩性土壌の研究グループがコンケン
大学の先生方と共同研究を実施していた。このグループには木村真人,足立
忠司,後藤逸男,根本正之などの諸先生が参加しており,時折相互に訪問を
して研究現場の視察と意見交換を行い,時には共同研究も実施した。
沿岸域の調査グループは,タイ国最南端の沿岸域に位置するナラティワ県
に生成した熱帯泥炭土壌地帯および酸性硫酸塩土壌地帯を研究の対象とした。
当時,東南アジア諸国においては沿岸域に広く分布している熱帯泥炭土壌地
帯の農業利用を推進しつつあった。また,沿岸域に生成集積している熱帯泥
炭土壌を農業利用するために排水をすると,泥炭の分解が促進され,泥炭が
消失した後には酸性硫酸塩土壌が出現するという困難な問題が存在した。し
たがって,グループ全体として取組んだ主要な研究課題は,持続性のある熱
7 タイおよびマレーシアの沿岸域に分布する低湿地土壌に関する国際共同研究(1983∼1991) (
37 )
帯泥炭土壌の利用を可能にする農業のあり方を明らかにすることと,すでに
泥炭が分解されつくしてしまった地帯では pH2.5∼3 の酸性硫酸塩土壌が露
出しているので,酸性硫酸塩土壌地帯で農業を行うことを可能にするための
方法を開発することであった。
沿岸域のグループ全体としてのこのような目的のなかで,私は熱帯泥炭土
壌を農業利用する際には,泥炭の分解を可能なかぎり抑制する方法を採用
するべきであるので,湛水条件で栽培をする水田農業が最も望ましいと考
え,湛水条件で水稲を栽培する場合に必要な研究として,先ず,熱帯泥炭土
壌における養分的にみた生育阻害要因に関する研究を中心として研究を実施
した。熱帯泥炭土壌の作物生育阻害要因に関する研究として最初に取組んだ
研究は,実際に農地として利用されている熱帯泥炭土壌地帯から泥炭土壌と
そこに栽培されている陸稲およびトウモロコシを採取して両者の無機栄養状
態を分析・調査することであった53)。熱帯泥炭土壌地帯には水田が造成され
てはいなかったために,水稲を採取することはできなかった。それに引き続
いて代表的な熱帯泥炭土壌を採取し,水稲,陸稲およびトウモロコシを供試
して各種の養分欠如区を設定した土耕試験を行った54, 55)。これらの調査・研
究結果から,熱帯泥炭土壌の養分的にみた生育阻害要因は,多量要素ではK
欠乏が最も重要な要因であり,それに次いでP欠乏>N欠乏であった。また,
微量要素では Cu 欠乏が最も重要な要因であり,B欠乏と Zn 欠乏がそれに
次ぐことを推定した。K欠乏は泥炭土壌に共通した特性である。以上の結果
は,熱帯泥炭土壌を農地として利用する場合には,化学肥料あるいは堆肥の
施用によって必要とされる多種類の養分を適切に施用する必要があることを
意味している。
ところで,熱帯泥炭土壌には多量のフェノール化合物が溶存していること
が知られている。このフェノール化合物が泥炭中に含まれる Cu と複合体を
形成して Cu を不可給態にすることが泥炭土壌で Cu 欠乏が発生しやすい原
因ではないかと考えて,深い熱帯泥炭土壌が大面積で分布する地帯の中央部
を流れるように排水用に建設された運河から泥炭層より流出した水を採取し
( 38 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
図 8 脱塩水系列と泥炭排水系列における pH 処理と Cu 濃度処理が水稲根の伸長に
及ぼす影響(処理期間:15日間,処理開始時の根長:8.1m/pot)
□:脱塩水系列,■:泥炭排水系列
て,水稲を供試して水耕試験を実施した。泥炭層から流出した運河水を分析
した結果,運河水にはフェノール化合物が含有されていることを確認した56)。
処理としては図8に示すように脱塩水系列と泥炭排水(運河水)系列を設定
し,泥炭排水の pH が4.2であったことから,両系列に pH 処理として4.2区
と5.5区を設定して,これに Cu 処理として0,0.05および0.5ppm Cu 区の
3区を組合せた56)。なお,0.5ppm Cu 区は Cu 過剰障害が発現する区という
ねらいをもって設定した区である。Cu 過剰障害の場合には根の伸長阻害が
起こるので,処理の影響は水稲根の伸長によって判定した。水稲根の伸長
は,脱塩水系列では pH4.2,5.5区ともに0および0.05ppm Cu 区で正常で
あり,0.5ppm Cu 区では Cu 過剰障害のために阻害された。一方,泥炭排
7 タイおよびマレーシアの沿岸域に分布する低湿地土壌に関する国際共同研究(1983∼1991) (
39 )
水系列における根の伸長は,pH4.2区では0および0.05ppm Cu 区で阻害さ
れ,Cu 過剰レベルである0.5ppm Cu 区では伸長阻害が軽減された。さらに,
pH4.2区の0ppm Cu 区で認められた根の伸長阻害は pH を5.5に上昇する
ことによってやや改善されたが,pH5.5区の0ppm Cu 区における根の伸長
は完全には正常にならず,Cu 濃度を0.05および0.5ppm に上昇することに
よって改善され,0.5ppm 区で最大になった。泥炭排水系列の pH4.2区およ
び pH5.5区の0ppm Cu 区で認められた根の伸長阻害と,これらの区におけ
る根の伸長阻害が Cu の添加によって改善されることは,泥炭排水に含まれ
るフェノール化合物に毒性があることを示唆している。さらに,脱塩水系列
の0.5ppm Cu 区では Cu 過剰障害によって根の伸長阻害が起こるのに対し,
泥炭排水系列の0.5ppm Cu 区では根の伸長が0および0.05ppm Cu 区より
良好であることは,Cu がフェノール化合物と複合体を形成する結果,Cu 過
剰障害が抑制されることを示しており,運河水を用いた場合に起こる根の伸
長阻害はフェノール化合物によるものであることはこの事実からも立証され
た。上記の研究の実施に当たっては,現地で水稲種子を播種して苗を育成す
ることからはじめて,その苗を15日間にわたって水耕培養しなければならな
かった。そのため,10月中旬から12月下旬まで70日間にわたって現地に長期
滞在して,大学の若手講師であった Mr. Chairatna Nilnond や Mr. Wichai
Pantanahiran と一緒に自動車で約2時間をかけて大面積の熱帯泥炭の中央
部から運河水を Hatyai にある Prince of Songkhla University のガラス室に
運んで,連日暑いガラス室で一緒に培養液の交換や pH 調節などの作業を行
いつつ水耕実験を行った。国際共同研究においては現地の若手研究者といつ
も一緒に行動して多数のよい思い出を共有したが,この経験は特によい思い
出になっている。この研究は,タイにおける国際共同研究の終了後にタイ南
部とマレーシアで引続いて実施された共同研究の中で,マレーシアに分布す
る熱帯泥炭地帯で継続して実施することになる。
( 40 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
写真 8 マレーシアの熱帯泥炭地帯の写真
2)
タ イ 南 部 と マ レ ー シ ア に お け る 沿 岸 域 低 湿 地 の 土 壌
生 態 系 の 特 性 と 利 用 可 能 性(1987∼1991)
タイ国南部の沿岸域で実施した上記の国際共同研究に引き続いて昭和62
年(1987年)より5年間にわたって「タイ南部とマレーシアにおける沿岸域
低湿地の土壌生態系の特性と利用可能性」に関する研究を実施した。この共
同研究における日本側組織は,京都大学・久馬一剛先生をプロジェクト・リ
ーダーとし,共同研究者としては米林甲陽(土壌学)
,岡崎正規(土壌学)
,
長野敏英(農業工学)
,鈴木邦雄(植物分類学)の諸先生と私が引続き参画
し,和田英太郎(生態学)
,原 徹夫(植物栄養学)
,金子伸弘(昆虫学)
の3先生などが新たに参入した。なお,私はこの共同研究期間中の昭和64年
(1989年)に北海道大学農学部作物栄養学講座の教授に就任した。タイ側の
リーダーは1983年から参加していたタイ国土地開発省(DLD)の Dr. Pisoot
Vijarnsorn(土壌学)が,マレーシア側のリーダーはマレーシア農業研究開
発研究所(MARDI)の Dr. Zahari Abu Bakar が勤め,それぞれ約10名の
研究者が共同研究者として参画した。
7 タイおよびマレーシアの沿岸域に分布する低湿地土壌に関する国際共同研究(1983∼1991) (
41 )
写真 9 マレーシアの熱帯泥炭土壌地帯で栽培されている野菜の葉にみられる激甚なクロ
ロシス
マレーシアの泥炭土壌はタイと比較すると集積深度がはるかに深く,広大
な面積で本格的な熱帯泥炭土壌が分布していた。日本側研究者はマレーシア
南部のポンティアンにある MARDI の泥炭研究所を拠点として熱帯泥炭土
壌に関する研究を継続して実施した。マレーシアでは泥炭土壌がタイにおけ
るより高い頻度で農地として利用されていたが,泥炭土壌で栽培されている
野菜類,トウモロコシ,コーヒー,グアバなどの葉にかなり激甚なクロロシ
スが発生していることを観察したので(写真9)
,それらが栽培されている
泥炭土壌と栽培植物の葉を採取して分析に供した57)。その結果,マレーシア
の熱帯泥炭土壌では,N, P, K, Mg, S, Fe, Mn, Cu, Zn およびBが欠乏してい
る可能性が高いと推定した。
次に,MARDI の優秀な若手研究者 Kamarudin Ambak 氏とともにポン
テイアンにある泥炭研究所の圃場に Cu, Zn, B, Fe, Mn, Mo からなる微量要
素を一括して施与した区と施与しない区を設定し,これら両区に炭酸カルシ
ウム施与量:0,4,8,12,18,28,40t/ha の7区を組合せて,トウモロコ
( 42 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
図 9 熱帯泥炭土壌における酸性矯正と微量要素施与がトマトとトウモロコシの全乾物
重と果実あるいは子実収量に及ぼす効果
7 タイおよびマレーシアの沿岸域に分布する低湿地土壌に関する国際共同研究(1983∼1991) (
43 )
シとトマトを供試して圃場栽培試験を実施した58)。両作物ともに微量要素施
与系列では炭酸カルシウム施与による土壌 pH の5.0∼5.3以上への上昇によ
って,生育と収穫部位収量は改善されて最大に達した。しかし,微量要素無
施用系列では,炭酸カルシウム施与によって酸性矯正を行っても生育は両作
物ともに不良である上に,トマトでは激甚な不稔が発生して果実収量はゼロ
であり,トウモロコシの場合にも不稔率が45∼96%に達した(図9)
。不稔
発生区における地上部の Cu およびB含有率は欠乏をもたらすレベルの低含
有率であったことから,不稔は Cu 欠乏,B 欠乏あるいはその両者によって
もたらされたと推定した。先に記載したように,熱帯泥炭土壌地帯の持続的
農業利用法としては,この土壌を湛水して水田として利用するのが最も望
ましい方法であるが,その場合,水稲に不稔が発生するために,水稲収量
が極めて低くなることが以前から問題になっていた。そこで,Kamarudin
Ambak 氏に熱帯泥炭土壌を持って1年間日本にきてもらって,北大農学部
のガラス室において,水稲とオオムギを供試して熱帯泥炭土壌で作物に不稔
をもたらす原因となる微量要素欠乏を特定するための土耕試験を行った。水
稲とともにオオムギを供試した理由は,オオムギが不稔障害を被りやすい代
表的な作物であることによる。この土耕試験の結果,オオムギでは -Cu 区
に100%,-B 区に99%の不稔が発生し,水稲では-Cu 区に53%の不稔が発生
したが,-B 区では標準区と同レベルの不稔率であった59)。タイ南部のナラ
テイワに分布するフェノール化合物濃度の高い泥炭を供試し,微量要素を一
括して添加した区と無添加区を設定して水稲を用いて実施したポット試験に
おいてもマレーシアの泥炭土壌と同様な結果が得られた60)。
京都府立大学の米林教授は,タイ南部および半島マレーシアに分布する
熱帯泥炭土壌に含有される全フェノール酸含有率は0.05∼0.19 mM であ
り,主要フェノール酸として p-Hydroxybenzoic acid, Vanillic acid, Vanillin,
Protocatechuic acid, Syringic acid, p-Coumaric acid, Ferulicacid などが含
まれることを明らかにした61)。そこで,泥炭土壌の平均的 pH4.2と同一 pH
で異なる濃度の p-Hydroxybenzoic acid がイネ,トマト,コムギ,トウモ
( 44 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
図10 イネ,レタス,トマトの生育に及ぼす5種のフェノール酸の影響
ロコシ,ダイズの生育に及ぼす影響に関する水耕実験を行った。これらの
作物に及ぼす p-Hydroxybenzoic acid の悪影響は特にトマトにおいて著し
く,0.05 mM で強度の生育障害がもたらされ,他の作物に対しても0.25
∼0.5 mM で明瞭な生育障害が発生した61)。0.2 mM の p-Hydroxybenzoic
acid, Vanillic acid, Syringic acid, p-Coumaric acid, Ferulic acid がイネ,レ
タス,トマトの生育に及ぼす影響に関する水耕実験の結果では,毒性は
Ferulic>p-Coumaric>Syringic>Vanillic>p-Hydroxybenzoic acid の 順 で
61)
。さらに,水耕法でイネを収穫期まで生育させて,生育の
あった(図10)
全期間にわたって0,0.10,0.25,0.50mM の p-Hydroxybenzoic acid を
処理した場合の生育は,p-Hydroxybenzoic acid の濃度の上昇によって低下
したが,不稔率の上昇は起こらなかった。以上の結果は,熱帯泥炭土壌に含
まれるフェノール酸は作物の生育に対して悪影響を及ぼすが,不稔の原因物
質ではないことを示している。したがって,熱帯泥炭土壌で水稲を栽培する
場合に問題になる不稔は,主に Cu 欠乏によってもたらされ,B 欠乏によっ
てもそれより軽度ではあるがもたらされると結論した。熱帯泥炭土壌に含ま
れるフェノール酸は作物の生育低下の一原因になる61)とともに,土壌中で
7 タイおよびマレーシアの沿岸域に分布する低湿地土壌に関する国際共同研究(1983∼1991) (
45 )
Cu と Complex を形成56)して Cu を不溶性にすることによって Cu 欠乏を誘
発する原因になると考えられた。これらの研究は,熱帯泥炭土壌で水稲を栽
培する場合に問題になる不稔多発の原因を解明した研究として,高く評価さ
れている。
熱帯泥炭土壌は pH3.9∼4.4の強酸性であるが有機化合物が多量含まれて
おり,それらがアルミニウムと complex を生成するために,アルミニウム
障害は起こらないと考えて問題にされてこなかった。しかし,pH3.9の熱帯
泥炭土壌に3レベルの AlCl3 を加えてから適量の脱塩水を加えて5日間放置
して平衡に達した後,オオムギの種子を播種してから11日目のオオムギ根の
長さを測定した結果,根の伸長は土壌溶液の Al 濃度の上昇にともなって強
く阻害された62)。熱帯泥炭土壌で認められたアルミニウムによる根伸長阻害
度は,褐色低地土に AlCl3 を加えて測定したアルミニウムによる根伸長阻害
度より大きかった。この結果は,熱帯泥炭土壌においてもアルミニウム障害
が存在することを明瞭に示している。おそらく,熱帯泥炭中に含まれるある
種の有機化合物とアルミニウムの複合体は強い毒性を持っていると推定され
る。
研究の実施年度は数年後になるが,熱帯泥炭土壌地帯の持続的農業利用
法において,水稲とともに重要な植物であるサゴヤシがタイ南部の泥炭土
壌,酸性硫酸塩土壌,砂質ポドゾール性土壌などの貧栄養土壌に生育する場
合の栄養特性に関する研究63)や,これらの土壌によく適応して生育してい
る多数の野生植物の栄養特性に関する研究64)を研究室の大崎 満氏(現北
大教授)や渡部敏裕君(現北大助教),松本美奈子さんが中心になって実施
した。さらに,渡部敏裕君は,酸性硫酸塩土壌や泥炭土壌によく適応して生
育する
,泥
炭土壌や鉱質強酸性土壌によく適応して生育する
などの植物がアルミニウムによって生育と N, P,
K, Ca, Mg の吸収が促進されることを示し,その生育促進の生理的機構を検
討した65- 67)。
( 46 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
中 国 三 河 平 原 の 塩 類 土 壌 地 帯 に お け る 国 際 共 同
研 究(1990∼1999)
1)
創 成 的 基 礎 研 究「中 国 三 河 平 原 の 塩 類 土 壌 地 帯 に お け る
生 態 系 の 劣 化 と 修 復」
(1990∼1994)
マレーシアに出かけて熱帯泥炭土壌に関する研究を行っていた平成元年
(1989年)の8月に,東京大学名誉教授で学士院会員の田村三郎先生がマレ
ーシアに出張して共同研究を実施中の我々研究者グループの研究現場を訪問
されて,共同研究の実施状況を視察された。その際,私に「中国の塩類土壌
地帯で国際共同研究を開始したいと考えているので,その共同研究に参加す
る気はないか」という質問をされた。私は,塩類土壌の改良法,作物の耐塩
性に関する研究や塩類土壌地帯における食料生産については以前から注目し
ており,昭和58年(1983年)以来,世界的に実施されている「植物の耐塩性
とその生理的機構」に関する研究の成果を取りまとめていた68-70)。そのよう
な考えを持っていたので,当時参加していたタイ,マレーシアにおける共同
研究が終了する1992年3月までは,東南アジアと中国を対象とした2つの国
際共同研究に参加することとし,それ以後は中国における塩類土壌の農業利
用に関する研究に集中したいと申し上げた。
マレーシアから帰国後,1ヶ月も経過しないある日,田村先生から私の研
究室に直接電話があり,「9月14日から約10日間中国の河北省と山東省を訪
問して,黄河下流域の塩類土壌地帯を北から南まで自動車で廻り,各地の研
究所を訪問して,日中共同研究を実施する際の相手方研究所を決定したいの
でその視察に参加してほしい」ということであった。話が急展開することに
は少々驚いた。後に判ったことではあるが,田村先生は物事を決定する際に
は相当な熟慮の上に決定されるが,一度決定するとその行動は極めて迅速な
先生であるので,このような急展開は田村先生の面目躍如たるものがある出
来事であった。9月14日からの中国河北省訪問には,田村三郎先生をリーダ
ーとして東京大学の松本 聰先生,山崎素直先生,岡山大学の足立忠司先生
8 中国三河平原の塩類土壌地帯における国際共同研究(1990∼1994) (
47 )
写真10 田村三郎先生
(中国科学院石家庄農業現代化研究所・南皮農業生態試験場の
圃場で,中央:田村三郎先生,右:劉 毛雨研究員(現教授)
)
と私の合計5名が参加した。我々は1台の自動車を借り上げて,中国科学院
国際合作局の案内のもとに北京から南下して黄河下流域南部まで4つの研究
所を訪問し,それぞれの地域で1日間の現地視察と半日間の意見交換会を行
った。当時,中国では現在のように立派に舗装されている道路は北京や上海
のような大都市中央部でしか建設されていなかった。したがって,全く舗装
されていない悪路の中の実質9日間の行動日程でこのような視察と意見交換
会を繰り返したのであるから,午前8時出発,午後7―8時ホテル帰着とい
う強行日程を連日繰り返し,日本側の意見交換は移動中の自動車の中で行う
というような,文字通り休む暇のない視察旅行であった。しかし,田村先生
を中心とする5名の国際共同研究に対する熱意は極めて高かったので,視察
旅行は大変楽しい雰囲気で行われ,最終的に中国科学院石家庄農業現代化研
究所の支場である南皮農業生態試験場を拠点として共同研究を行うことに決
定した。
以上のような準備過程を経て,文部省創成的基礎研究「東アジアにおけ
る人間活動に基づく生態系の劣化と修復」(代表者:田村三郎先生)の一グ
ループとして日中共同研究「中国三河平原の塩類土壌地帯における生態系の
劣化と修復」が中国科学院・石家庄農業現代化研究所を中国側共同研究組織
として黄河下流域の塩類土壌地帯で平成2年(1990年)より平成6年(1994
( 48 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
写真11 強度の塩集積土壌,塩生植物しか生育できない
年)まで5年間にわたって実施された。日本側組織は東京大学・松本 聰先
生(土壌学)を代表とし,山崎素直(分析化学)
,武田和義(作物育種学)
,
一前宣正(雑草学)
,稲永 忍(作物学)
,高橋英紀(農業気象学)の諸先生
と私が参加した。中国側組織は全員が中国科学院・石家庄農業現代化研究所
の研究員であり,田 魁祥先生を代表とし,劉 孟雨,毛 仁剣,毛 学森,
雷 玉平,超 達城,李 登順の諸先生を中核としてその他多数の方々が参
加した。
先ず最初に,塩類濃度がさまざまに異なる2ha の塩類土壌に冬コムギの
種子を播種した圃場から,登熟中期のコムギ植物を生育を異にする12箇所
から採取するとともに,それぞれのコムギ採取場所から60cm の深さの土壌
を検土杖で採取して分析に供した。コムギは各採取地点とも4m2 の面積か
ら採取した。コムギの全乾物重は土壌の塩含量が0.1%以下では正常であり,
0.2%では正常値の50%以下に低下し,それ以上の塩含量では30%以下であ
った71)。生育低下の主因は Na 含有率の上昇に起因することは間違いないが,
生育症状から Fe 欠乏が,植物体の分析結果から Zn, Cu, Mn 欠乏が生育低
下の一因になりえると判断された。
次に,塩類土壌地帯から塩含量を異にする塩類土壌を2m の深さで撹乱
8 中国三河平原の塩類土壌地帯における国際共同研究(1990∼1994) (
49 )
しない方法で採取して,それを試験場内の圃場に作成した2m の深さの幅
2m,長さ5m の枠,72個に詰めた。枠に詰めた72個の土壌の塩レベルを前
もって分析しておいた塩含量に基づいて4レベルに分け,それぞれの塩レベ
ルに地下水灌漑処理として無処理,1,200,2,400 t/ha の3処理と施肥処理
として無肥料,N+P,N+2P の3処理を組み合わせた36処理区を2反復で
設定した。これらの枠に研究対象の塩類土壌地帯で栽培面積が最も多い冬コ
ムギを栽培した。冬コムギの子実収量は土壌の塩レベルの上昇によって減少
し,地下水灌漑量の増加によって増加し,NとPの施与量の増加によって増
加した72, 73)。NとPの施与効果はコムギ体内のNとP含有率の上昇が Na 含
有率耐性(体内の Na 含有率の上昇に対する耐性)を強化することに起因す
ると考えられた73)。さらに,塩含量を異にする土壌に冬コムギを栽培した場
合の1m 土層からの脱塩量に対する地下水灌漑と施肥の効果は,地下水灌
漑では地下水中の塩が添加されるために,施肥では肥料塩が添加されるため
に複雑であった74)。しかし,土壌にもともと含まれていた塩含量の影響は明
瞭であり,1m 土層からの地下水灌漑による脱塩量は土壌の塩含量が高い
ほど増加することを明らかにした。この結果はあるレベルの塩を含む地下水
灌漑の脱塩効果は土壌の塩含量が高いほど大きいことを示したものであり,
塩含量の高い塩類土壌の脱塩において地下水灌漑は特に大きな効果をもつこ
とを明瞭に示した。飼料用ビートのような耐塩性の強い作物の栽培と地下水
灌漑を組合せることにより,1m 土層からの脱塩量はさらに増加すると考
えられる。
調査地域の塩類土壌は,歴史的に250年に一度の頻度で起った黄河の氾濫
によって陸地が渤海に進出した結果生成されたものである。そこで,地下
水位と地下水の Na, K, Ca および Mg 濃度が海岸からの距離によってどのよ
うに変動しているのかを明らかにするために,海岸からの距離0.1 km から
90 km の位置の井戸水の地下水位と水質を測定した。地下水の Na 濃度から
判断した海水が地下水の水質に及ぼす影響は海岸から75 km の地点でも明瞭
であり,48 mM の Na 濃度が検出された71)。地下水灌漑を行うに当たって,
( 50 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
Na 濃度があまりにも高い地下水の利用は望ましいことではない。地下水灌
漑に用いる井戸水の水質分析を定期的に行ないつつ,少なくとも表層 1 m
の土層の平均塩濃度より低い塩濃度の地下水を灌漑するべきであると提唱し
た。
また,渤海沿岸地域に分布する塩類土壌地帯に生育する塩生植物,
などが良好な生育を示している土壌の塩含量を測定
して,それぞれの塩生植物が良好に生育することができる塩含量の範囲を
比較するとともに,各植物の Na, K, Ca, Mg 含有率を比較した71)。
,
,
は典型的な Na 集積植物であるのに
対し,他の多くの植物は Na 排除植物であり,
などは Ca 集積植物である
と判断された。上記の3種の Na 集積植物と
(Na 排
除植物)は土壌の塩含量が1.2%という著しい塩集積土壌においても生育す
る特性を保持したが,他の Na 排除型塩生植物は塩含量0.9%以下の土壌で
生育するという差異が認められた。
のような強度の Na 集積植
物における Na と Cl の生育促進作用の有無に関する研究は今後の課題であ
ると思われた。
2)
創 成 的 基 礎 研 究「中 国 黄 准 海 平 原 に 分 布 す る 塩 類 土 壌 地 帯 に お
け る 環 境 に 調 和 し た 持 続 的 生 物 生 産 技 術 の 開 発」(1995∼1999)
平成7年(1995年)3月に文部省創成的基礎研究「東アジアにおける人間
活動に基づく生態系の劣化と修復」が終了した後,引く続き同年4月より文
部省創成的基礎研究「東アジアにおける地域の環境に調和した持続的生物生
産技術開発のための基盤研究」
(代表者:東京大学・佐々木恵彦先生)が発
足した。この創成的基礎研究の一グループとして日中共同研究「中国黄准
海平原に分布する塩類土壌地帯における環境に調和した持続的生物生産技術
8 中国三河平原の塩類土壌地帯における国際共同研究(1990∼1994) (
51 )
の開発」が,引続き中国科学院・石家庄農業現代化研究所を中国側共同研究
組織として黄河下流域の塩類土壌地帯で平成7年(1995年)4月より平成12
年(2000年)3月まで5年間にわたって実施された。日本側組織は私が代表
者になり,山崎素直,岡崎正規,高橋英紀,藤山英保,山田 智,斉藤 寛,
長堀金造,赤江剛夫,三野 徹の諸先生が参加し,さらに協力研究者とし
て「砂漠化防止」チームの代表であった武田和義と研究者メンバーであった
一前宣正の両先生が参加した。中国側からは引続き田 魁祥先生が代表にな
って,劉 孟雨,耿 清国,劉 小京,雷 玉平,趙 連城,毛 仁剣,孫 家霊,張 秀明の諸先生を中核とする中国科学院石家庄農業現代化研究所の
研究員が熱意をもって参加した。
この共同研究における日本側研究者の研究課題は,私が総括と「飼料用ビ
ートの塩除去能の評価」ならびに「塩類土壌で選抜されたコムギ品種の耐塩
写真12 塩含量0.2%の塩類土壌における飼料用ビートの生育
飼料用ビートの生育は旺盛である。Na 含有率は地上部で4.6%,根部で
5.9%であり,いずれも土壌の塩含量の上昇によって上昇した。
( 52 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
性と耐乾性の評価」を担当し,山崎素直教授が「耐塩性植物に含有される特
異的物質の同定,定量および生理的意義の解明とその利用法の開発」,岡崎
正規教授が「土壌中における水と塩類の挙動の解析」ならびに「地下水灌漑
の評価」,高橋英紀助教授が「塩類集積が冬コムギ畑の水分収支に及ぼす影
響の解析」ならびに「新設運河を用いた導水による地下水涵養の評価」,武
田和義教授が「コムギ・オオムギ・リクトウの耐塩性品種の選抜」,一前宣
正教授が「牧草・ワタ・アスパラガス・果樹の耐塩性品種の選抜」,藤山英
保教授が「持続的作物生産における塩と養分の相互作用」
,斉藤 寛教授が
「耐塩性選抜果樹の無機栄養状態の解析」,山田 智助教授が「持続的作物肥
培管理法」ならびに「黄河の水質調査」
,長堀金造名誉教授と赤江剛夫・三
野 徹の2教授が「内蒙古自治区河套灌漑区における土壌凍結にともなう水
と塩類の移動機構の解明ならびに塩害制御法の開発」を担当した75)。いずれ
800
塩 除 去 量(kg/ha)
700
600
Total
NaCl+Na2SO4
500
400
300
200
KCl+K2SO4
MgCl2+MgSO4
100
0
CaCl2
0 0.1 0.2 0.3 0.4
土壌の塩含有量(%)
図11 飼料用ビートの収穫期における塩除去量
(Kと Ca 塩は除去塩に含めない)
8 中国三河平原の塩類土壌地帯における国際共同研究(1990∼1994) (
53 )
の課題も塩類土壌地帯における持続的作物生産技術の開発のための基礎研究
として重要な課題である。
「飼料用ビートの塩除去能の評価」に関する研究においては,耐塩性が
強くバイオマス生産量の多い飼料用ビートを栽培して,塩含量を異にする
塩類土壌からの塩除去能を評価した。1m 土層の平均塩含量が0.10,0.15,
0.21,0.27,0.38%である土壌からの NaCl,MgCl2,Na2SO4,MgSO4 の4
種の塩の合計吸収量は,生育量が土壌の塩含量の増加によって低下するため,
0.21%区で最大の735kg/ha に達し,土壌の塩含量の増加にともなって緩や
かに減少した(図11)76)。この結果から0.3%の塩含量の土壌に飼料用ビート
を栽培することによって0.1%以下の塩含量にするために必要な飼料用ビー
トの作付け回数を試算すると,約30回の作付けが必要であるという試算がな
りたつことを示した。
山崎素直教授が中心になって実施した「耐塩性植物に含有される特異的物
質の同定とその生理的意義」に関する研究では,塩類土壌から多種類の植物
や作物を採取してそれらに含有されるグリシンベタイン濃度を調査した。そ
の結果,高濃度のグリシンベタインを集積する植物は一般に Na 含有率が高
く,グリシンベタインを集積しない植物は Na 含有率が低いことを認めた77)。
また,耐塩性の強いオオムギ品種は耐塩性の弱い品種より高濃度のグリシン
ベタインを含有することを確認した。さらに,150mM NaCl を含む培養液
にグリシンベタイン添加区と無添加区を設定して,耐塩性の弱いサイトウの
生育に及ぼすグリシンベタイン添加の効果を調べた結果,グリシンベタイン
の添加により耐塩性が強化されることを明らかにした78)。サイトウに対する
グリシンベタイン添加による耐塩性の強化は,グリシンベタインによって
Na 排除能が強化され,その結果 Na 吸収が低下することによると考えられ
た。
武田和義教授は,第1期の創成的基礎研究の実施期間中に岡山大学資源生
物科学研究所より多数のコムギ品種,オオムギ品種およびリクトウ品種を導
入して,塩類土壌の圃場で選抜を繰返した。この選抜研究により第2期であ
( 54 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
る本共同研究期間中に耐塩性をもつ多収性コムギ品種として2品種,耐塩性
のビール用オオムギ品種として6品種,食用オオムギ品種として1品種,飼
料用オオムギ品種として1品種,耐塩性のリクトウ品種として2品種を選抜
した79)。この成果は半乾燥地帯に分布する塩類土壌地帯における持続的食糧
生産に対して極めて大きな貢献をなすものである。そこで,この選抜試験で
選抜されたコムギ品種,A115と A109の種子を北大の作物栄養学研究室に持
ち帰って,それらの耐塩性と耐乾性を北海道の代表的冬コムギ品種である
チホクと比較する研究を実施した。耐塩性は A109>A115>チホク,耐乾性
は A115>A109>チホクであり,選抜試験によって選抜されたコムギ品種は
耐塩性と耐乾性の両耐性を兼ね備えていると結論した80)。さらに,耐塩性の
弱いイネと強いオオムギの耐塩性の生理的機構を比較した81)。根の ATPase
活性は,オオムギにおいては高 NaCl 濃度培地で生育する場合でも高く維持
されるのに対し,イネでは NaCl 濃度の上昇によって急速に低下した。その
結果,高 NaCl 濃度培地における根から地上部への Na の移行性はイネでオ
オムギより上昇し,葉の Na 含有率もイネでオオムギより上昇した。イネ
の根細胞膜から分離した ATPase 活性は培地の NaCl 濃度と等濃度の NaCl
によって阻害されなかったことから,NaCl 濃度の上昇によるイネの根の
ATPase 活性の低下は,高 NaCl 濃度による ATPase の合成阻害あるいは膜
機能阻害に起因すると考えられ,オオムギではそのような阻害が起こらない
と考えられた。
中国科学院の耿 清国教授は,本研究で対象としたシルト含量の多い塩類
土壌地帯における地下水の塩濃度と地下水位が表層土壌の塩集積に及ぼす影
響を調査して,表層土壌の塩集積は地下水位が2.5m より浅い場合に明瞭に
認められ,地下水の塩濃度の上昇にともなって増加することを示した82)。地
下水の塩濃度が著しく高い場合には,地下水位が2.5∼3.0の場合でも表層土
壌に軽度の塩集積が起こることから,安全性をみて判断すると,表層土壌に
塩集積をもたらさない地下水位は3.5m 以下であると結論した。
半乾燥地帯の塩類土壌で地下水灌漑を長年にわたって継続すると,深層ま
8 中国三河平原の塩類土壌地帯における国際共同研究(1990∼1994) (
55 )
での地下水位の低下が起こるため,新たに旱魃問題が浮上する。共同研究期
間中に本共同研究が対象とする塩類土壌地帯の近傍に位置する滄州市の飲料
水と工業用水を供給するために,塩類土壌地帯の中央部に25km2 の面積の貯
水池が構築された。そして,黄河から貯水池の間に運河を新設して,黄河下
流で比較的水の多い冬季に黄河からその運河を経由して導水が開始された。
運河は土壌表面から素掘りで構築したため,運河からの漏水による運河周辺
農地への地下水涵養が期待された。運河から30m 離れた地点の農地の地下
水位を連続的に測定した結果,地下水位は運河に地下水を導入した直後の時
点で0.6∼3.6m 上昇した83)。地下水位の上昇深度は,その時点での農地の地
下水位が低い場合に大きく,高い場合に小さかった。この結果にもとづいて,
半乾燥地帯の塩類土壌地帯においてしばしば深刻な問題になる,地下水灌漑
に起因する地下水位の低下による旱魃問題を解消する方法として,運河の構
築による運河周辺農地の地下水涵養法を提案した。このような方法は塩類土
壌地帯にとどまらず,地下水灌漑を行っている半乾燥・乾燥地帯全域に共通
した地下水涵養法である。
さらに,1999年8月に黄河中流域の蘭州から下流域までの黄河の水質を
調査した。Na 濃度は中流域の中で上流に位置する蘭州近辺では12-25ppm
であったが,中流域の塩類土壌地帯である内モンゴル自治区の包頭近辺で
は,塩類土壌地帯の農地に黄河の河川水を導入して灌漑した灌漑水の排水
が黄河に還流されるために133-206ppm に上昇し,下流域の龍門峡近辺では
90-1060ppm とさらに上昇することを確認した84)。黄河河川水の Na 濃度は,
河川水の農地への灌漑が活発に行われる夏季に上昇し,灌漑が行われない冬
季には低下するので,この調査で認められた Na 濃度は黄河河川水の最高濃
度に近いと考えられるが,それにしても高すぎる。夏季における黄河河川水
の塩濃度を低く維持するための対策が必要であろうと提言した。なお,10年
間にわたる本共同研究の期間中に黄河下流域の全域で地下水灌漑が活発に行
われた結果,地下水位が低下して塩類土壌の面積が著しく低下したことも本
共同研究の重要な成果のひとつとして挙げることができる。
( 56 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
なお,私は平成8年(1996年)より15年(2003年)まで日本学術振興会・
未来開拓学術研究推進事業の中に設置された複合領域「アジア地域の環境保
全」研究推進委員会(委員長:川那部俊哉先生)の委員を勤めて,この研究
領域に採択された国際共同研究「中国西南部における生態系の再構築と持続
的生物生産性の総合的開発」の研究推進担当者として研究の推進のために協
力した。この研究は,中国西南部の広西壮族自治区,貴州省,雲南省に広く
分布する閉鎖的な山岳地帯における少数民族の長期間にわたる人間活動によ
る環境の劣化に焦点を当て,広西壮族自治区大化県七百弄郷の山岳地帯を
研究の対象として,①森林生態系が保持する環境保全機能の解明,②人口密
度が低かった時代に存在した食糧生産を始めとする人間活動と自然生態系の
共存原理の解明,③人口の増加に伴って顕在化した環境問題,④近年の商業
化によってもたらされた環境問題,⑤人口の増加と商業化によってもたらさ
れた環境問題に対する対応策の提示,⑥自然生態系の保全と人間の健全な生
存が両立しえる持続的なシステムのあり方に関するモデルの提案,を目的と
して1998∼2002年までの5年間にわたって実施したものである。日本側の研
究組織は,北海道大学大学大学院農学研究科・出村克彦教授(農業経済学)
を代表者として,北海道大学・波多野隆介(土壌学)
,信濃卓郎(作物栄養
学)
,中世古公男(作物学)
,岩間和人(作物学)
,大久保正彦(家畜飼養学)
,
石井 寛(林政学),新谷 融(造林学),笹 賀一郎(造林学),黒河 功
(農業経営学)
,山本美穂(農業経営学)
,(松田従三(バイオエネルギー工
学)
,高橋英紀(農業気象学),王 秀峰(土地利用学),橘 治国(衛生工
学)
,東京大学・八木久義(森林土壌学),丹下 健(森林生態学),九州大
学・金澤晋二郎(土壌微生物学)
,広島大学・安藤忠雄(植物栄養学)
,三重
大学・小畑 仁(植物栄養学)などからなる多分野の先生によって構成され
た。一方,中国側の研究組織は,広西壮族自治区科学技術庁の蘇 湘群氏を
代表とし,広西農業科学院,広西林業科学院,広西畜牧研究所,大化県政府,
七百弄郷政府の多数の研究者と行政官から構成された。研究の狙いは閉鎖的
な山岳地帯の集落を小地球に見立てて,そこでの人間活動と環境保全の関係
9 ジャガイモそうか病の制御に関する土壌肥料学的研究
( 57 )
を解析し,両者が持続的に両立しえる持続的システムのあり方を考察し提案
しようとする極めて今日的かつ野心的な研究であり,参加者全員の絶大な努
力によって貴重な成果を挙げた。私はこの日中共同研究の立案と推進役を勤
めたが,具体的な研究を実施した訳ではないので,研究の具体的内容につい
ては省略する。
ジ ャ ガ イ モ そ う か 病 の 制 御 に 関 す る 土 壌 肥 料 学 的 研 究
ジャガイモ栽培地帯ではジャガイモの栽培頻度が増加するにともなっ
て Streptomyces scabies を病原菌とするジャガイモそうか病の発病が増
加して,塊茎の品質を大きく低下させるため,北海道のみならず世界各
地のジャガイモ栽培地帯で緊急に解決しなければならない大きな問題にな
っている。ジャガイモそうか病発病土も不良土壌であり,ジャガイモそう
か病はその不良土壌におけるストレス問題であるので,大学院生であった
牛木 純君(現北海道農業研究センター研究員)の博士論文研究課題とし
て,ジャガイモそうか病の発病を生態的に抑制する方法を見いだすことを
目的とした研究を農水省北海道農試の早川嘉彦氏の協力を得て実施するこ
と と し た。 先 ず 最 初 に, 6 種 の 病 原 菌,
お
よび
の増殖に対する53種の薬用植物の根の水抽
出液の抗菌活性を対峙培養法で調査した。その結果,ジャガイモそうか病
の病原菌である
に対して
の根抽
85)
出液が最も強い抗菌活性を持つことを明らかにした 。そこで,北大農学
部生態学研究室の田原哲士教授の協力を得て,
の根に含まれて
に対して抗菌活性を示す物質を検討した結果,抗菌物
質として geraniin を同定した86)。さらに,
とジャガイモを混植
することによってもジャガイモそうか病の発病をある程度抑制することが可
能であることを示した。
別に酪農学園大学の水野直治教授や東京農業大学の吉田穂積助教授と共
( 58 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
同研究を行い,ジャガイモ塊茎が生長する部位の土壌 pH を4.5以下にし
て,その部位の土壌溶液中アルミニウム濃度を0.3ppm 以上にすることによ
ってジャガイモそうか病を強く抑制することが可能であることを明らかにし
た87, 88)。すなわち,ジャガイモそうか病の発病土に対して過リン酸石灰と硫
酸加里は表層土壌に施肥し,硫酸アンモニウムのみを塊茎形成部位に施肥す
ることによって,ジャガイモ塊茎が生長する部位の土壌 pH が4.5以下に低
下し,その結果アルミニウム濃度が上昇するため,無病に近い健全イモを生
産できることを示した。北海道の黒ボク土にはジャガイモそうか病を誘導す
る性質をもつ土壌と抑制する性質をもつ土壌が存在するので,その原因を検
討した89)。その結果,シュウ酸可溶性アルミニウムに対するピロ燐酸可溶性
アルミニウムの比が0.3-0.4以下でかつアロフェン含量が3%以上であるア
ロフェン質黒ボク土はジャガイモそうか病を誘導する性質を持ち,両者の比
が0.3-0.4以上でかつアロフェン含量が2%以下の非アロフェン質黒ボク土
はジャガイモそうか病を抑制する性質を持つことを明らかにした。ジャガ
イモそうか病の発病を誘導する性質をもつアロフェン質黒ボク土では pH が
4.5∼5.5になっても溶出するアルミニウム濃度が低いのに対し,発病を抑制
する性質をもつ非アロフェン質黒ボク土では溶出するアルミニウム濃度が
0.3ppm Al 以上の濃度に上昇することが,ジャガイモそうか病を抑制する
原因であることを明らかにした。
10 作 物 の 生 産 機 能 に 関 す る 研 究
以上に記載した研究内容は,私が個人として実施した研究あるいは大学院
生や学生にテーマを与えて実施した研究ならびに他機関の研究者と共同研究
として実施した研究であって,その研究の実施に私が深くかかわった研究の
内容である。これらの研究のうち私が助手,講師,助教授時代に作物栄養
学研究室で実施した研究の多くは教授であった田中 明先生と相談の上研
究内容を決定した。また,私が教授になってから深くかかわった研究のなか
で,研究室の教官に参加してもらって院生や学生に実施してもらった研究も
11 東京農業大学での塩生植物に関する研究
( 59 )
多い。私が教授を勤めた昭和64年4月から平成12年3月までの12年間の研究
室の教官組織は,私と山口淳一助教授(私の後任教授),大崎 満助手(平
成10年より生物資源生産学専攻助教授として作物栄養学研究室で研究を実施
した。現教授)
,信濃卓郎助手(現北海道農業研究センター根圏域研究チー
ム長)の4名で構成されていた。この期間中に実施した研究課題には,これ
までに記載した研究課題以外に研究室の各教官が中心になって私と緊密に打
合せをしながら院生や学生と一緒に実施した研究も多数あった。それらの研
究課題は「作物の生産機能に関する研究」として大きくまとめることができ
る。これらの主要研究課題名と中心になって研究を実施した研究者名につい
ては,以下に簡潔に記載するに留める。
大崎 満氏は,⑴多収作物における生産機能の解析90-94),⑵作物の生産
性における Rubisco 集積の意義92, 95, 96, 99-101),⑶作物の生産性におけるクロ
ロフィル集積の意義92, 95, 99-102),⑷窒素集積と関連する生産性決定要因の解
析97, 98, 103, 104)などの研究を中心になって実施し,大崎 満氏と大学院博士課
程の院生であった中村卓司君(現作物研究所研究員)は,作物の生産性にお
ける炭素・窒素の相互関係105-111, 116, 117)に関する研究を中心になって実施した。
信濃卓郎氏は,⑴各種作物の転流過程における炭素化合物と窒素化合物の再
編成112-115, 118-120)と⑵作物の生産効率121-125)に関する研究を中心になって実施
し,大崎 満氏と信濃卓郎氏は,根部生育の意義に関する研究126-128)を中心
になって実施した。
11 東 京 農 業 大 学 で の 塩 生 植 物 に 関 す る 研 究
私は平成12年(2000年)3月に北海道大学を定年退職した。昭和43年
(1968年)から北大農学部作物栄養学研究室で仕事をしてきたので,実に32
年間にわたって北大で教育・研究生活を送ったことになる。さすがに最終講
義を終えた時には感無量であった。定年退職後1年間は,我が国の未利用有
機資源の資源化を促進することを目的とする日本有機資源協会の設立の下準
備のために,アメリカのワシントン,ニューヨーク,ボストンを訪問してア
( 60 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
メリカにおける未利用有機資源の堆肥化やバイオガス化の実態を調査すると
ともに,ドイツのハノーバーで9月に開催された未利用有機資源の生物処理
に関する国際シンポジウムに出席したり,トルコのイスタンブールで10月に
開催された国際水処理学会に参加したりして過ごした。
8月のある日,東京農業大学の吉羽雅昭教授より電話があり,来年4月よ
り東京農業大学の世田谷キャンパスにある生物応用化学科の植物生産化学研
究室(旧植物栄養学研究室と旧肥料学研究室を合併した研究室)に嘱託教授
として来てくれないかという打診の電話があった。私は北大現職時代の疲労
からようやく回復しはじめており,まだ学生達と一緒に研究を行う余力は充
分にあると感じていたので,このお誘いを受けることにした。私の長男夫婦,
次男夫婦がともに東京に住んでいることも好都合であった。そのような次第
で,平成13年(2001年)4月より東京農業大学生物応用化学科・植物生産化
学研究室で嘱託教授として勤務を開始した。私が就任した年度の植物生産化
学研究室の教員組織は,麻生昇平教授・武長 宏教授・吉羽雅昭教授・前田
良之助教授(現教授)・樋口恭子講師(新任,現准教授)と私の6名で構成
されていたので,他の研究室と比べて充実していた。しかし,私が赴任した
年度より吉羽先生は世田谷キャンパスに付置されている東京農大一高の校長
を兼務し,1年後に麻生先生が,2年後には武長先生が定年退職されたため,
3年目を迎える時には実質的に3.5名の教員構成となった。したがって,私
が担当した卒論学生数は初年度には3名であったが,2年目には8名に増加
し,3年目以後は8∼10名になり,さらに2年目からは修士課程の院生が増
え,4年目からは博士課程の院生も増えて来て,結構忙しい毎日を送ること
になった。ただし,担当する卒論学生や院生の数が増えるために忙しくなる
ことは楽しいことでもあり,私は東京農大で多数の若者達と一緒に研究を行
った平成19年(2007年)までの6年間を今でも楽しく思い出している。
研究の内容として特筆すべきことは,「NaCl による塩生植物
(L.)Pall の生育促進作用の生理的機構」に関して一連の研究を行い,Cl が
重要な役割を担っていることを明らかにしたことである。NaCl によって塩
11 東京農業大学での塩生植物に関する研究
( 61 )
生植物の生育が促進されることは以前から明らかにされていたが,その生理
的機構は必ずしも解明されておらず,いろいろな説が提唱されていた。大学
院博士課程の院生であった森 伸介君は,中国の沿岸地域の塩類土壌地帯に
広く分布する
の生育に及ぼす NaCl 濃度の影響を検討して,生
育は NaCl 濃度の上昇にともなって200mM まで増加することを示し(図12),
その生育促進作用は主に光合成明反応のなかの Photosystem Ⅱの機能が高
濃度の Cl によって促進されることに起因することを明らかにした129)。さら
に,Cl は Photosystem Ⅱの機能促進を通して
の体内で硝酸の
還元反応を促進する機能をも合わせもつことを示し,この機能も NaCl によ
る生育促進作用の一因であることを示した130)。樋口恭子准教授と大学院修
士課程の金井雅武君が実施した「ヨシの茎基部における Na の逆流機構」に
関する研究も重要な成果を挙げた研究である131)。この研究においては,ヨ
シの茎基部では根で吸収して導管流に乗って上昇してくる Na+ を導管外に
排出させてそれを師管に取込み,根に逆流させる機能があることを明らかに
図12 の生育に及ぼす NaCl 濃度の影響
( 62 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
した。さらに,茎基部の導管と師管の間の柔組織細胞内に Na+ を特異的に
多量吸着する澱粉顆粒を形成することを認め,この顆粒が Na+ の導管から
師管への移動に関与すると推定した。
おわりに
私のライフワークである「不良土壌における食糧生産の向上のための基礎
になる作物栄養学研究」の内容を文章にしながら,問題の所在を見いだして
その問題の解決のために研究に没頭していた若い時代の自分を思い出した。
また,今になって欠落していた視点を見いだすこともあった。欠落していた
視点については今となってはどうしようもないので,後輩の皆さんの活躍に
期待するしか方法はない。私は石塚喜明先生や田中 明先生がいつも言われ
ていた「農業の現場から解決するべき重要な研究課題を見つけ出して,それ
を研究しなさい。
」という考えにしたがって研究生活を送ってきたが,その
意味でも国際共同研究の実施は大変有益であった。食糧問題と環境問題を中
心として,今後ますます農学分野での国際共同研究の重要性は増加すると思
われる。若手研究者の諸氏におかれては,積極的にそのような国際共同研究
に参加して,世界的な食糧問題や環境問題に対して可能な限りの貢献をして
下さることを期待する。
引用文献
1) T. Tadano J. H. Baker and M. Drake : Role of the accompanying anion in
the effect of calcium salts on potassium uptake by excised barley roots.
, 44, 1639-1644, 1969
2) A. Tanaka, R. Loe and S. A. Navasero : Some mechanisms involved in the
development of iron toxicity symptoms in the rice plant.
., 12, 158-164, 1966
3) A. Tanaka, R. P. Mulleriyawa and T. Yasu : Possibility of hydrogen sulfide
induced iron toxicity of the rice plant.
., 14, 1-6, 1968
4) 田中 明,但野利秋:水稲の鉄栄養に関する研究,第1報.鉄の吸収及び
体内分布に及ぼす培養液中鉄濃度の影響.日本土壌肥料学雑誌,40⑼,
引用文献
( 63 )
380-384,1969
5) 田中 明,但野利秋:水稲の鉄栄養に関する研究,第2報.水稲根の鉄排
除機能について.日本土壌肥料学雑誌,40⑾,469-472,1969
6) I. Baba, K. Inada and K. Tajima : Mineral nutrition and the occurrence
of physiological disease, The Mineral Nutrition of the Rice Plant, Johns
Hopkins, Baltimore, 1964
7) 但野利秋 , 田中 明:水稲の鉄栄養に関する研究,第3報.加里栄養が鉄
吸収におよぼす影響.日本土壌肥料学雑誌,41⑷,142-148,1970
8) 但野利秋:水稲の鉄栄養に関する研究,第4報.水稲の無機栄養状態が鉄
過剰吸収におよぼす影響.日本土壌肥料学雑誌,41⑿,498-501,1970
9) 但野利秋:水稲の鉄過剰障害対策に関する作物栄養学的研究.北海道大学
農学部邦文紀要,10⑴,22-68,1976
10) 但野利秋:水稲の鉄栄養に関する研究,第5報.生育にともなう鉄過剰症
抵抗性の変遷.日本土壌肥料学雑誌,45⑾,521-524,1974
11) 但野利秋:水稲の鉄栄養に関する研究,第6報.根の部位別水および鉄吸
収.日本土壌肥料学雑誌,46⑿,503-506,1975
12) 田中 明,但野利秋,石川和子:塩基適応性の作物種間差,予報.―比較
植物栄養に関する研究―.日本土壌肥料学雑誌,44⑺,269-272,1973
13) 田中 明,但野利秋,山田三樹夫:塩基適応性の作物種間差,第1報.カ
ルシウム適応性―比較植物栄養に関する研究―.日本土壌肥料学雑誌,44
⑼,334-339,1973
14) 田中 明,但野利秋,櫃田木世子:塩基適応性の作物種間差,第5報.マ
グネシウム適応性―比較植物栄養に関する研究―.日本土壌肥料学雑誌,
47⑻,361-366,1976
15) 田中 明,但野利秋,秋山由紀:塩基適応性の作物種間差,第6報.カリ
ウム適応性―比較植物栄養に関する研究―.日本土壌肥料学雑誌,48
(5,
6),175-180,1977
16) 田中 明,但野利秋,多田洋司:塩基適応性の作物種間差.第3報.ナト
リウム適応性―比較植物栄養に関する研究―.日本土壌肥料学雑誌,45⑹,
285-292,1974
17) 田中 明,但野利秋:塩基適応性の作物種間差,第2報.カルシウム欠乏
症発現限界培地濃度の種間差を生ぜしめる作物の属性―比較植物栄養に関
する研究―.日本土壌肥料学雑誌,44⑽,372-376,1973
18) 田中 明,但野利秋,多田洋司:塩基適応性の作物種間差,第4報.Li,
Na, K, Rb 含有率の種間差―比較植物栄養に関する研究―.日本土壌肥料
学雑誌,46⑵,33-37,1975
( 64 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
19) 田中 明,但野利秋,藤山英保:重金属適応性の作物種間差,第1報,マ
ンガン適応性―比較植物栄養に関する研究―.日本土壌肥料学雑誌,46⑽,
425-430,1975
20) 田中 明,但野利秋,武藤和夫:重金属適応性の作物種間差,第2報,亜
鉛,カドミウム,水銀適応性―比較植物栄養に関する研究―.日本土壌肥
料学雑誌,46⑽,431-436,1975
21) 田 中 明, 但 野 利 秋, 三 浦 周: 重 金 属 適 応 性 の 作 物 種 間 差, 第 4
報,銅適応性―比較植物栄養に関する研究―.日本土壌肥料学雑誌,49⑸,
361-366,1978
22) 田中 明,但野利秋,海老根愛夫:重金属適応性の作物種間差,第3報.
ニッケル,コバルト適応性.日本土壌肥料学雑誌,49⑷,314-320,1978
23) 田中 明,但野利秋,早川 修:重金属適応性の作物種間差,第5報.ク
ロム適応性―比較植物栄養に関する研究―.日本土壌肥料学雑誌,51⑵,
113-118,1980
24) 但野利秋,田中 明:アンモニア態および硝酸態窒素適応性の作物種間差
―比較植物栄養に関する研究―日本土壌肥料学雑誌,47⑺,321-328,1976
25) 但野利秋,切本清和,青山 功,田中 明:耐湿性の作物種間差―比較植
物栄養に関する研究―.日本土壌肥料学雑誌,50⑶,261-269,1979
26) T. Tadano, M. Ninaki, K. Oya, T. Yoshida, J. Lumbanraja, M. Utomo and
A. D. Sitrous:Investigation on nutritional factors limiting crop growth
in the red-yellow podzolic soils distributed in the Province of Lampung,
Indonesia. ⑴ Nutritional factors of the soils limiting the growth of main
cereal crops.
., 27⑵, 67-74, 1983
27) T. Tadano, M. Ninaki, K. Oya, T. Yoshida, J. Lumbanraja, M. Utomo and
A. D. Sitorus : Investigation on nutritional factors limiting crop growth
in red-yellow podzolic soils distributed in the Province of Lampung,
Indonesia. ⑵Nutritional factors of the soils limiting the growth of cassava
and effect of alang-alang application.
., 27⑶, 166-174,
1983
28) 但野利秋 , 田中 明:低リン酸培養液濃度が初期生育に及ぼす影響の作物
種間差.日本土壌肥料学雑誌,51⑸,399-404,1980
29) 俵谷圭太郎 , 但野利秋 , 田中 明:北海道における作物の VA 菌根菌感染
状態.日本土壌肥料学雑誌,56⑵,141-146 , 1985
30) M. Djazuli and T. Tadano : Comparison of tolerance to low phosphorus
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,
引用文献
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several crop species under phosphorus-deficient conditions.
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the roots of several plant species under phosphorus-deficient conditions.
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38) H. Sakai and T. Tadano : Characteristics of response of acid phosphatase
secreted by the roots of several crops to various conditions in the growth
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42) K. Ozawa, M. Osaki, H. Matsui, M. Honma and T. Tadano : Purification
and properties of acid phosphatase secreted from lupin roots under
phosphorus-deficiency conditions.
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( 66 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
43) J. Wasaki, M. Omura, M. Osaki, H. Ito, H. Matsui, T. Shinano and T.
Tadano : Structure of cDNA for an acid phosphatase from phosphatedeficient lupin(
L.)roots.
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44) J. Wasaki, M. Omura, M. Ando, H. Dateki, T. Shinano, M. Osaki, H. Ito, H.
Matsui and T. Tadano : Molecular cloning and root specific expression of
scretory acid phosphatase from phosphate-deficient lupin(
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45) J. Wasaki, M. Ando, K. Ozawa, M. Omura, M. Osaki, H. Ito, H. Matsui and
T. Tadano : Properties of secretory acid phosphatase from lupin roots
under phosphorus-deficient conditions.
., 43(Special
Issue)
, 981-986, 1997
46) J. Wasaki, M. Omura, M. Ando, T. Shinano, M. Osaki and T. Tadano :
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and a key signal for the secretion from the roots.
L.)
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47) K. Nakai and M. Kanehisa : A knowledge base for predicting protein
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, 14, 897-911, 1992
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., 39⑴, 109-117, 1993
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pH の影響.日本土壌肥料学雑誌,52⑹,475-480,1981
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, 45⑷, 897-907, 1999
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引用文献
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54) C. Nilnond, S. Suthipradit, S. Kawaguchi, T. Tadano and H. Kai : Nutritional
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al.(Eds),217-224, 1987
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and Malaysia. K. Kyuma et al.(Eds)
, 350-357, 1992
58) K. Ambak, Z.A. Bakar and T. Tadano : Effect of liming and micronutrient
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in a Malaysian deep peat soil.
., 37⑷, 689-698 , 1991
59) K. Ambak and T. Tadano : Effect of micronutrient application on the
growth and occurrence of sterility in barley and rice in a Malaysian deep
peat soil.
., 37⑷, 715-724, 1991
60) T. Hara, P. Vijarnsorn, T. Tadano : Crop nutrition on tropical peat soils. ⑷
The effect of the application of lime and mironutrients on the growth and
occurrence of sterility of rice plants in peat soils of southern Thailand.
Coastal Lowland Ecosystems in Southern Thailand and Malaysia. K.
Kyuma et al.(Eds),375-379, 1992
61) T. Tadano, K. Yonebayashi and N. Saito : Crop nutrition on tropical peat
soils. ⑵Effect of phenolic acids on the growth and occurrence of sterility
in crop plants. Coastal Lowland Ecosystems in Southern Thailand and
Malaysia. K. Kyuma et al.(Eds)
, 358-369, 1992
62) T. Tadano and K. Ambak : Crop nutrition on tropical peat soils. ⑶ The
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Ecosystems in Southern Thailand and Malaysia. K. Kyuma et al.(Eds)
,
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( 68 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
63) M. Matsumoto, M. Osaki, T. Nuyim, A. Jongskul, P. Eam-on, Y. Kitaya,
M. Urayama, T. Watanabe, T. Kawamukai, T. Nakamura, C. Nilnond, T.
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64) M. Osaki, T. Watanabe, T. Ishizawa, C. Nilnond, T. Nuyim, C. Sittibush
and T. Tadano : Nutritional characteristics in leaves of native plants in
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65) M. Osaki, T. Watanabe and T. Tadano : Beneficial effect of aluminum
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70) 但野利秋:植物の耐塩性,熱帯農研集報,59,1-14,1987
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Liu and M. Y. Liu : Effect of salt content, irrigation and fertilizer on
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引用文献
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wild plants and crops sampled in Huang-Huai-Hai plain. Proc. ChinaJapan Joint Symposium : Development of Technology for Sustainable
Biological Production in Saline Soil Areas of Huang-Huai-Hai Plain in
China. T. Tadano and K. X. Tian(Eds.),158-162, 1999
78) S. Yamazaki, J. H. Zhang, N. Nishimura and T. Tadano : Physiological
roles of glycine betaine-relation to salt tolerance of plants. Proc. ChinaJapan Joint Symposium : Development of Technology for Sustainable
Biological Production in Saline Soil Areas of Huang-Huai-Hai Plain in
China. T. Tadano and K. X. Tian(Eds.),163-170, 1999
79) Kazuyoshi Takeda : Introduction and selection of crop varieties in
Huangtu Plateau and Huang-Huai-Hai Plain in China. Proc. International
Symposium : Can Biological Production Harmonize with Environment?―
Reports from Research Sites in Asia―. Tokyo, 359-360, 1999
80) T. Tadano and Y. Kawahara : Evaluation of salt and drought tolerances of
the selected wheat varieties in Huang-Huai-Hai plain, China. Proc. ChinaJapan Joint Symposium : Development of Technology for Sustainable
Biological Production in Saline Soil Areas of Huang-Huai-Hai Plain in
China. T. Tadano and K. X. Tian(Eds.),97-105, 1999
( 70 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
81) T. Nakamura, M. Osaki, M. Ando and T. Tadano : Differences in mechanisms of salt tolerance between rice and barley plants.
., 42⑵, 303-314, 1996
82) 耿 清国 : 中国黄淮海平原に分布する塩類土壌地帯における地下水位の制
御による表層土壌に対する塩集積防止法に関する研究.博士論文(北海道
大学),pp. 109,2000
83) H. Takahashi, M. Okazaki, T. Tadano, K. X. Tian and X. S. Mao : Evaluation of water introduction through canal for supplying groundwater in
Cangzhou district. Proc. China-Japan Joint Symposium : Development of
Technology for Sustainable Biological Production in Saline Soil Areas of
Huang-Huai-Hai Plain in China. T. Tadano and K. X. Tian(Eds.), 45-50,
1999
84) S. Yamada, M. Okazaki, S. Yamazaki, M. Y. Liu, T. G. Zheng, J. H. Zhang,
H. Saito and T. Tadano : Water quality of the Yellow River. Proc. ChinaJapan Joint Symposium : Development of Technology for Sustainable
Biological Production in Saline Soil Areas of Huang-Huai-Hai Plain in
China. T. Tadano and K. X. Tian(Eds.),66-72, 1999
85) J. Ushiki, Y. Hayakawa and T. Tadano : Medicinal plants for suppressing
soil-borne plant diseases. I. Screening for medicinal plants with
antimicrobial activity in roots.
., 42⑵, 423-426, 1996
86) J. Ushiki, S. Tahara, Y. Hayakawa and T. Tadano : Medicinal plants for
suppressing soil-borne plant diseases. II. Suppressive effect of
L. on common scab of potato and identification of the active
compound.
., 44⑵, 157-165, 1998
87) 水野直治,吉田穂積,牛木 純,但野利秋 : アロフェン質黒ボク土における
ジャガイモそうか病発生に対する施肥法の影響.日本土壌肥料学雑誌,68
⑹,686-689,1997
88) N. Mizuno, H. Yoshida, and T. Tadano : Efficacy of single application of
ammonium sulfate in suppressing potato common scab.
., 46⑶, 611-616, 2000
89) M. Mizuno, H. Yoshida, M. Nanjyo and T. Tadano : Chemical characterization of conductive and suppressive soils for potato scab in Hokkaido,
Japan.
., 44⑶, 289-295, 1998
90) M. Osaki, K. Morikawa, M. Yoshida, T. Shinano and T. Tadano : Productivity of high-yielding crops. I. Comparison of growth and productivity
among high-yielding crops.
., 37⑵, 331-339, 1991
引用文献
( 71 )
91) M. Osaki, K. Morikawa, T. Shinano, M. Urayama and T. Tadano :
Productivity of high-yielding crops. II. Comparison of N, P, K, Ca and Mg
accumulation and distribution among high-yielding crops.
., 37⑶, 445-454, 1991
92) M. Osaki, K. Morikawa, M. Matsumoto, T. Shinano, M. Iyoda and T.
Tadano : Productivity of high-yielding crops. III. Accumulation of
ribulose-1, 5-bisphosphate carboxylase/oxygenase and chlorophyll in
relation to the productivity in high-yielding crops.
.,
39⑶, 399-408, 1993
93) M. Osaki, Y. Fujisaki, M. Matsumoto, T. Shinano and T. Tadano : Productivity of high-yielding crops. IV. Parameters determining differences of
productivity among field crops.
., 39⑷, 605-615, 1993
94) M. Osaki, T. Shinano, M. Matsumoto, J. Ushiki, M. Mori-Shinano, M.
Urayama and T, Tadano : Productivity of high-yielding crops. V. Root
growth and specific absorption rate of nitrogen. S
., 41
⑷, 635-647, 1995
95) M. Osaki, M. Yoshida, T. Nakamura and T. Tadano : Accumulation
of ribulose-1, 5-bisphosphate carboxylase/oxygenase in potato plants
and nitrogen distribution in each organ during growth in relation to
productivity.
., 39⑷, 595-603, 1993
96) M. Osaki, T. Shinano and T. Tadano : Effect of nitrogen application on the
accumulation of ribulose-1, 5-bisphosphate carboxylase/oxygenase and
chlorophyll in several field crops.
., 39⑶, 427-436, 1993
97) M. Osaki, T. Nakamura and T. Tadano : Production efficiency of nitrogen
absorbed by potato plant at various growth stages.
.,
39⑷, 583-593, 1993
98) M. Osaki, M. Matsumoto, T. Shinano and T. Tadano : Parameters determining yield of field crops in relation to the amount of nitrogen absorbed.
., 40⑴, 19-28, 1994
99) M. Osaki, M. Iyota and T. Tadano : Productivity of maize related to
the contents of ribulose-1, 5-bisphosphate carboxylase/oxygenase,
phosphoenolpyruvate carboxylase, and chlorophyll in individual leaves of
maize.
., 41⑵, 275-283, 1995
)
M. Osaki, M. Iyota and T. Tadano : Ontogenetic changes in the contents
of ribulose-1, 5-bisphosphate carboxylase/oxygenase, phosphoenolpyruvate carboxylase, and chlorophyll in individual leaves of maize.
( 72 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
., 41⑵, 285-293, 1995
)
M. Osaki, M. Iyota and T. Tadano : Effect of nitrogen application and
sink manipulation on the contents of ribulose-1, 5-bisphosphate carboxylase/oxygenase, phosphoenolpyruvate carboxylase, and chlorophyll in
leaves of maize during the maturation stage.
., 41⑵,
295-303, 1995
)
S. Damdinsuren, M. Osaki and T. Tadano, : Quenching of chlorophyll a
fluorescence by oxygen in normal air in higher plant leaves.
., 41⑶, 529-537, 1995
)
M. Osaki, J. Shirai, T. Shinano and T. Tadano : 15N-Allocation of 15NH4-N
and 15NO3-N to nitrogenous compounds at the vegetative growth stage of
potato plants.
., 41⑷, 699-708, 1995
)
M. Osaki, J. Shirai, T. Shinano and T. Tadano : Effects of ammonium and
nitrate assimilation on the growth and tuber swelling of potato plants.
., 41⑷, 709-719, 1995
)
M. Osaki, T. Shinano and T. Tadano : Carbon-nitrogen interaction in field
crop production.
., 38⑶, 553-564, 1992
) M. Osaki, S. Yamada and T. Tadano : Effect of sink manipulation on
nitrogen accumulation and distribution among organs of Gramineae and
Leguminosae.
., 41⑴, 33-44, 1995
)
M. Osaki, H. Ueda, T. Shinano, H. Matsui and T, Tadano : Accumulation
of carbon and nitrogen compounds in sweet potato plants grown under
different nitrogen application rates.
., 41⑶, 547-555,
1995
)
M. Osaki, T. G. Zheng, K. Konno, M. Okumura and T. Tadano : Carbonnitrogen interaction related to P, K, Ca, and Mg nutrients in field crops.
., 42⑶, 539-552, 1996
)
T. Nakamura, M. Osaki, T. Shinano, and T. Tadano : Difference in system
of current photosynthesized carbon distribution to carbon and nitrogen
compounds between rice and soybean.
., 43⑷, 777-788,
1997
) T. Nakamura, M. Osaki, T. Koike, Y. Hanba, E. Wada, and T. Tadano :
The effect of CO2 enrichment on carbon and nitrogen interaction in
wheat and soybean.
., 43⑷, 789-798, 1997
)
T. Nakamura, T. Koike, T. Lei, K. Ohashi, T. Shinano and T. Tadano : The
effect of CO2 enrichment on the growth of nodulated and non-nodulated
引用文献
( 73 )
isogenic types of soybean raised under two nitrogen concentrations.
Photosynthetica, 37⑴, 61-70, 1999
) M. Osaki, T. Shinano and T. Tadano : Redistribution of carbon and
nitrogen compounds from the shoot to the harvesiting organs during
maturation in field crops.
., 37⑴, 117-128, 1991
) T. Shinano, M. Osaki and T. Tadano : Comparison of reconstruction of
carbon and nitrogen compounds during germination between Gramineae
and Leguminosae.
., 37⑵, 249-258, 1991
) T. Shinano, M. Osaki and T. Tadano : Effect of nitrogen application on
reconstruction of nitrogen compounds during the maturing stage in
several field crops.
., 37⑵, 259-270, 1991
) T. Shinano, M. Osaki and T. Tadano : Comparison of reconstruction of
photosynthesized
14
C-compounds incorporated into shoot between rice
and soybean.
., 37⑶, 409-417, 1991
)
M. Osaki, A. Koyanagi and T. Tadano : Behavior of carbon from sucrose
and asparagine after introduction to flag leaf of rice plant during
ripening.
., 38⑶, 527-535, 1992
) M. Osaki, A. Koyanagi and T. Tadano : Behavior of carbon from asparagine, aspartic acid, glutamine and glutamic acid after introduction to flag
leaf of rice plant during ripening.
., 38⑶, 537-543, 1992
) T. Shinano, M. Osaki and T. Tadano :
14
C-Allocation of
14
C-compounds
introduced to a leaf to carbon and nitrogen components in rice and
soybean during ripening.
., 40⑵, 199-209, 1994
)
M. Osaki, D. Matsumoto, T. Shinano and T. Tadano : 14C-Behavior of 14C[U]
-sucrose,
14
C-[U]-asparagine, and
14
C-[U]-serine introduced to the
flag leaf of rice and sorghum plants during ripening.
.,
40⑷, 637-646, 1994
) M. Osaki, D. Matsumoto, T. Shinano and T. Tadano : Effect of nitrogen
source and light conditions on
-asparagine, and
plants.
14
14
C-behavior of
14
C-[U]
-sucrose,
14
C-[U]
C-[U]-serine introduced to leaf of rice and sorghum
., 41⑴, 65-73, 1995
)
T. Shinano, M. Osaki, K. Komatsu and T. Tadano : Comparison of production
efficiency of the harvesting organs. I. Growth efficiency of the harvesting
organs.
., 39⑵, 269-280, 1993
) T. Shinano, M. Osaki and T. Tadano : Comparison of production efficiency
among field crops related to nitrogen nutrition and application. Plant and
( 74 )
約40年間の作物栄養学研究を振返って
Soil., 155/156, 207-210, 1993
) T. Shinano, M. Osaki and T. Tadano : Comparison of production efficiency
of harvesting organs among field crops. II. CO2 assimilation and reassimilation in the harvesting organs.
., 41⑴, 21-31, 1995
) T. Shinano, M. Osaki and T. Tadano : Comparison of growth efficiency
between rice and soybean at the vegetative growth stage. Soil Sci. Plant
Nutr., 41⑶, 471-480, 1995
)
T. Shinano, M. Osaki and T. Tadano : Problems in the methods of estimation
of growth and maintenance respiration.
., 42⑷,
773-784, 1996
)
T. Shinano, M. Osaki, S. Yamada and T. Tadano : Comparison of root
growth and nitrogen absorbing ability between gramineae and leguminosae
during the vegetative stage.
., 40⑶, 485-495, 1994
)
M. Osaki, M. Matsumoto, T. Shinano and T. Tadano : A root-shoot
interaction hypothesis for high productivity of root crops.
., 42⑵, 289-301, 1996
)
M. Osaki, T. Shinano, M. Matsumoto, J. Ushiki, M. M. Shinano, S. Yamada,
M. Urayama and T. Tadano : Relationship between root activity and N, P,
K, Ca, and Mg contents in roots of field crops.
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11-24, 1997
) S. Mori, M. Yoshiba, and T. Tadano : Growth response of
(L.)Pall to graded NaCl concentrations and the role of chlorine in
growth stimulation.
., 52⑸, 610-617, 2006
) S. Mori, N. Kobayashi, T. Arao, K. Higuchi Y. Maeda, M. Yoshiba and
T. Tadano : Enhancement of nitrate reduction by chlorine application in
(L.)Pall.
., 54⑹, 903-609, 2008
) M. Kanai, K. Higuchi, T. Hagihara, T. Konishi, T. Ishii, N. Fujita, Y.
Nakamura, Y. Maeda, M. Yoshiba, and T. Tadano : Common reed
produces starch granules at the shoot base in response to salt stress.
, 176, 572-580, 2007
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