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携帯電話技術発展の歴史と展望

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携帯電話技術発展の歴史と展望
携帯電話技術発展の歴史と展望
History and view of technological development in portable phones
森島
光紀
Morishima
Mitsunori
今日の「ケータイ」の基礎を作り出した約100年の歴史、技術の発展過程、技術の系統化(技術発達と社
会・文化・経済の関わり)、日本のオリジナル技術の強み等の調査報告とその課題と考察を述べる。誰でも使
用できる制約のない、人間性重視の、使いやすく、安全で、安心な「わがままなユビキタス通信システム・
端末」の開発推進が重要である。
This report is the result of an investigation of 100-year history of a basis for today’s portable phones,
technological development process, the systematic survey of technology (the interaction of technological
development with society, culture, economy), advantage of Japan’s unique technologies, and describe the
pertinent issues and considerations. What really matters is the technology development for a “self-willed
ubiquitous communication system and terminal” which is usable by anyone without any restrictions, oriented for
human nature, easy to use, safe and untroubled.
キーワード:ケータイ、技術の系統化、自動車電話、携帯電話、小型・軽量化、高密度実装
1
なり、自主技術開発中心で発展してきた。「志田林
はじめに
携帯電話に代表される移動通信は、ビジネス、生
活、遊びを大きく変え、生活必需品として進化して
いる。日本の携帯電話はインターネット接続、カメ
ラ実装、おサイフケータイ、ナビゲーション、放送
との連携等で世界をリードし、「ユビキタス移動通
信時代」を迎えている。移動通信技術の発展と社
会・文化・経済の関わり等の「技術の系統化の調査・
研究」
、世界に誇れる「携帯文化」、携帯電話の「日
三郎」はマルコーニの無線通信に 10 年先駆けて
1885 年、隅田川での導電式無線実験に成功、電気
学会を設立し、「無線通信の実用化,更に光通信・
録音・録画等のシステムの実現」を予想した。1896
年、無線通信の研究が、逓信省の研究機関で開始さ
れた。1925 年、八木秀次・宇田新太郎の「八木・
宇田アンテナ」の発見は世界的な発明であった。国
産の「36式無線電信機」が、日露戦争で大活躍し
た(写真 1)。
本オリジナル技術の強み」などを紹介する。
空中線切替器
さらに携帯電話は国民の 1 人に約 1 台まで普及し
水銀開閉
たが、普及につれて、さまざまな社会問題も引き起
こしている。
「ユビキタス移動通信時代」を推進す
感応線輪
印字器
るための将来の課題と考察を述べる。
2
公衆移動通信の発展経緯
コヒーラ・デコヒーラ検波
火花間隙
電鍵
実験段階の「無線の黎明期」、音声中心の自動車
電話の「第一世代のアナログ化」
、携帯電話・低速
データ通信の「第二世代のデジタル化」
、マルチメ
ディア・高速データ通信の「第三世代パーソナル化」
の発展に分類した。
① 無線の黎明期:外国技術導入の有線通信とは異
周波数切替蓄電器
写真 1 36式無線電信機(記念艦三笠所蔵・提供)
1912 年、携帯電話の祖先の「TYK(鳥潟・横山・
北村)式無線電話」が発明された(写真 2)。
された通信自由化により、NTT以外の新規参入会
社による自動車電話が開始された。1986 年、航空
機電話、1987 年、日本初の「携帯電話」
(体積 500cc、
重量 750g)サービスが開始された。1991年、
「世
界最小最軽量のアナログ携帯電話」が導入された。
③ 第二世代のデジタル化:1993 年、
「デジタル携帯
電話」の導入、1994 年、端末の自由化で自由競争
時代に入った。1995 年、日本独自技術の PHS
(Personal Handy-phone system)電話、1999 年、携
写真 2 TYK 無線電話機(逓信総合博物館所蔵・提供)
その後 1940 年代、中波・短波帯の「無線電話」
帯電話のインターネット接続サービスが導入され、
2000 年、「カメラ付携帯電話」が登場した。
が国産技術で実用化された。
④ 第三世代パーソナル化:2001 年、
「第三世代携
② 第一世代のアナログ化:移動通信が一般に普及
帯電話」が世界で初めて導入され、移動通信が経済
してきたのは、第二次世界大戦後で、戦後の復興に
的な社会活動の効率化に不可欠な手段として認識
つれてどこからでも情報を伝達できる移動通信が
される時代になり、ユビキタス時代を迎えた(図1)。
警察、海運界などから要望され、超短波帯の警察無
歴史に残る産業技術史資料は産業技術史資料情
線の実用化後、人命の安全確保と運転効率の向上に
報センターのホーム頁を参照ください。
貢献する船舶電話、列車電話、情報伝達に便利なポ
http://sts.kahaku.go.jp/sts/set_brws_01.php?id=5018
ケットベル、自動車の普及により自動車電話が開始
3
された。1967 年、
「自動交換接続による都市災害対
策用可搬型無線電話システム」が開発された。1968
年、
「ポケットベル」の開始、1970 年、大阪万国博
覧会で日本電電公社から「日本初の携帯電話」が、
出展された。これらの技術が、携帯電話やコードレ
ス電話へ応用されている。1979 年、世界初の 800MHz
帯を利用する「自動車電話」(体積 7,000cc、重量
約 7kg)が、サービスされた(写真 3)。
携帯電話の技術発展
これまでの移動通信の技術開発テーマは、伝送品
質向上、大容量化、広域化、個人装備化、サービス
の多様化などである。具体的には、周波数有効利用
技術、無線機器技術、小型・軽量・経済化技術、実
装技術の開発が推進されてきた。伝送方式の変遷は、
モールス信号、アナログ方式、デジタル方式そして
インターネット、マルチメディア化へ、伝送メディ
アは音、データ、画像、映像へと進展している。
3.1
携帯電話の小型・軽量化の要因
移動通信の小型・軽量化は、多くの技術の組み合
わせの集積である。部品点数の削減、低消費電力化、
回路方式、高周波素子の小型化、実装技術、電池の
小型・高容量化、集積回路化、そして機構・音響部
品の小型化等が推進されてきた。各技術の仕様分配、
電磁干渉対策、熱、配置、製造技術、品質管理、検
査、環境等の総合技術の集結結果である(図 2)。
1980 年の最初の自動車電話機の部品点数は約
1,500、1989 年の携帯電話は約 900, 1991 年のアナ
ログムーバは約 400 に削減され、1980 年の部品点
写真 3 自動車電話・可搬型・携帯電話機(NTT ドコモ提供)
1980 年、コードレス電話、そして 1985 年に施行
数を 100 とすると最近の部品点数は約 20 以下に削
本が最も高い。携帯電話はいつでもどこでもサービ
減されてきた(図 3)
。
低消費
電力化
自動車電話
誕生:1979年
*大きい
*重い
*高価格
*音声のみ
回路方式
簡素化
②節電技術
②低電圧化
(12V→6V→2V)
①間欠動作化
①電力増幅器
の高効率化
実装技術
の進歩
高周波部品
の小型化
③3次元実装
②薄型射出成形
②多層基板
③ダイレクト
②筐体一体アンテナ ②表面実装
コンバージョン
(チップ部品)
②直接発信(無逓倍) ②高誘電体BPF
②モジュール化
(部品数の削減)
①IC化のし易い回路 ②SAWフィルタ
①高密度実装
①部品数の少ない回路 ①VCOの小型化
①放熱設計
小型・軽量化
インテグレーション技術 (仕様分配・電磁干渉・熱・配置・製造技術・品質管理・検査・環境
開発ニーズ
①乾電池
①真空管・トランジスタ・IC
①スイッチ・ボリューム電子化
②LSI・VLSI・MMIC
①表示・操作部品薄型化
*小型・軽量・ ①NiCd2次電池
パッケージ形状(小型・薄型化)
②NiMH電池
①DIP(Dual Inline) ピンピッチ ①マイク・スピーカ小型化
低消費電力
SIP(Single Inline) 2.54mm
化
②Liイオン電池
①QFP(Quad Flat)
②カラーLCD
SOP(Small Outline)
*経済化
②BGA(Ball Grid Array)0.65mm
②CCDカメラ
*ヒューマンイ
注:
CSP(Chip Size)
①第1世代
③MCM(Multi Chip Module
②薄型部品(高さ4mm以下
ンターフェー
②第2世代
③第3世代
ス
②音声符号化コーデック
*高品質
電池の小型化・ 能動デバイス・ 機構・操作・
*周波数有効
部品の小型化
高容量化
集積回路化
利用
るが、パソコンを介してである。そのパソコンの携
帯化を米国のメーカーは PDA(Personal Digital
Assistance)に求めた。しかし,期待したほど大き
な市場を得られなかった。毎日友人とメールを交換
しネットから情報を得ている日本の若者と米国顧
客では大きな違いがある。
4.1
日本が成功した訳
日本の携帯電話事業者は,プロバイダとしての
様々なサービスを開始するとともに,開発したコン
情報サービスサイトに提供し,情報コンテンツの配
100
リード部品
80
部品点数%(1980=100%)
ない。インターネットアクセスは米国が圧倒してい
パクト HTML(Hyper Text Markup Language)技術を
図 2 移動端末機の小型・軽量化の諸要因
表面・リード部品
1980
信を積極的に働きかけた。この結果,インターネッ
トランジス タ
1983
トという巨大な情報ネットワークを生かした様々
表面部品
60
超小型パッケージ(CSP)
40 マ ルチチッ プモ ジ ュ ール
20
スを享受できる。パソコンと違い故障や不具合は少
1991
1997
1993/1994
1998-2005
なサービスやビジネスモデルが登場することにな
IC
1985
1987
った。今や,携帯電話事業者は最大のプロバイダに
1989
LSI
もなっている。
1995
VLSI
4.2
移動通信発展の特徴と「携帯文化」
0
100
1000
電話機の容積(cc)
10000
移動通信発展の特徴は社会、経済活動の複雑化、
効率化、高度情報化にともなって、社会活動や社会
図 3 自動車・携帯電話機の装置容積と部品点数
3.2
の要求により多様な移動通信が発展し、携帯電話と
インターネットの融合により世界に誇る「携帯文
携帯電話の節電技術
現在の第三世代の重量・容積は第一世代と比較す
化」を生み出したことである(表 2)。
ると、約 1/70 に減少、消費電力は節電技術により
送信時間で約 2 倍、
待受時間は約 40-60 倍増大した。
携帯電話の節電技術要素は、システム、装置、デバ
イスに、さらに技術要素に小分類される(表 1)。
表 1 自動車・携帯電話の節電技術要素
技術大分類
システム
装置
デバイス
4
技術要素
システム制御
機能ブロック制御
動作モード制御
通信方式制御
待ち受け制御
スリーブ・サスペンド制御
インベンドモード制御
アナログ半導体
デジタル半導体
表示
モータ・アクチュエータ
全般
*機器の動作電圧
の低電圧化
*送信パワー
コントロール技術
の採用
*デバイスの低
消費電力化
(LSI微細化技術)
世界に誇れる携帯文化が生まれた
携帯電話のインターネット対応比率は 94%で日
表 2 移動通信発展の特徴と携帯文化
時期 発展段階 利用者・特徴 普及の原因
1948∼ 特殊用
*海上、警察、通話
1979∼ 業務用、
*会社幹部、
1995
*通話
「第1
世代」
1996∼ パーソナル用
*個人(若者)、
1999
*通話、データ
「第2
世代」
2000∼ 高度利用
*誰でも、
*マルチメデア化
第3
世代
*高齢化・少子化
*グローバル化
携帯文化
*安全・生命支援・ 「移動通信文化確立のスタート」
自動車普及
*ステータスシンボ *移動通信の利便性認知
ル:移動中通信
* 新 規 参 入 許 可 、 *親指文化(ポケットベル)
端末自由化
*利便性・効率化、 「ビジネスの利便性文化の確立」
コードレス化
* 若者が 利用 を 促 *ビジネス・生活・遊びが変わる
進(自分専用)
*いつも誰かといっ *携帯文字・シンボルが生まれる
しょにいたい
* 携 帯 が よ り 小 さ 「人間本質の“友文化”の確立」
く、より軽く、安く
*パーソナル化・多 *携帯エンターテインメント
様化
*IT革命・インター *位置情報(安全・安心・迷惑)
ネット全盛
* 充 実 す る 非 音声 *モバイルオフィス:銀行・コンビニ
サービス
*災害・遠隔医療・ 「安全・安心なパーソナル文化の
在宅介護支援
確立」
要望:*パーソナル化(一人1台) *多様化 *モビリティの拡大 *ユビキタス
5
日本オリジナル技術
携帯電話の日本オリジナル技術の強みは、特にイ
ンターネット接続携帯やカメラ付携帯のほかに、高
密度実装技術、ポリマー電池、リチュムイオン電池、
そのためには、プライバシー・セキュリティ・認証
積層チップセラミックコンデンサ、極薄基板、カラ
対策を含めた高速の第四世代
ー液晶のバックライト用白色発光ダイオード、デジ
る。
タルカメラ等である(図 4)。
(2)新たなアプリケーションやコンテンツビジネス
3)
の開発が重要であ
で更なる付加価値を高め、ユーザの要求に答える。
① 陸上公衆通信だけでなく、ITS(高度道路交通
システム)利用の道路交通、鉄道、海上、航空や放
送を含めた全システムの融合化を図る。
②
災害、防犯、過疎地、少子高齢化社会、環境
保全を支援する通信の確立。
(3) 世界基準を定め、多数の国と連携して世界の標
準規格の推進に更に貢献する。
(4) 官(国と地方公共団体の連携)・民間(国民・利
図 4 携帯電話の日本オリジナル技術の強み
用者)
・産業界・学会・大学の協調と競争を推進す
2)
る。
6
将来の課題と考察
国立科学博物館の平成 17 年度の系統化調査を実施
した。本文はその要約である。
以上述べてきたように日本の携帯電話は、1979
〈参考文献〉1)森島光紀:”移動通信端末・携帯
年に自動車電話としてスタートし、小型・軽量の携
電話技術発展の系統化調査“報告, Vol.6,March
帯電話、インターネット接続の多機能携帯電話とし
2006 国立科学博物館
て進化したが、種々な問題(ケータイ中毒、迷惑メ
2)科学技術白書、文部科学省、平成 17 年版
ール・電話、運転中の事故、電磁波、対電子機器、
マナー、デジタルカメラによる盗み取り万引き等)
森島
の対策が重要である。最後に将来の課題を考察する。
技術士(電気・電子部門)
(1) 誰でも使用できる制約のない人間性重視、使い
森島技術士事務所 所長、
国立科学博物館 産業技術史資料情報センター
主任調査員(移動通信技術)
連絡先 e-mail:[email protected]
やすく、安全・安心な「わがままなユビキタス通信
端末」の開発推進。人と人から、人とモノ、モノと
光紀(もりしま
みつのり)
モノの通信と情報の共有の推進が期待される。
1860 1870 1880 1890 1900 1910 1920 1930 1940
1950
1960
無線の翠明期
(実験段階)
八
木
・
宇
田
ア
ン
テ
ナ
の
発
明
1
9
3
0
1990
古
賀
・
R
カ
自由化
(:IDO, DDI)
(デジタル・
携帯・低速
データ)
端末自由化1994
1953 自
動
車
︶
ト
水
晶
振
動
子
の
発
明
3
0
M
H
z
警
察
無
線
2000
第二 第三
世代 世代
1985通信
1
9
4
8
︵
﹂
敵
艦
見
ゆ
1980
(アナログ・自動車電話・音声)
1
9
2
6
ッ
ク
ス
ウ
エ
ル
電
磁
波
理
論
1
9
1
2
マ 信 T
ル 濃 Y
コ 丸 K
モ 無
線
ニ
無 ル 電
線 ス 話
実 信
験 号
﹁
志
田
林
三
郎
・
水
面
で
導
電
式
無
線
実
験
ー
マ
1
9
0
5
ー
1
8
8
5
ッ
1
8
6
4
1
8
9
5
1970
第一世代
1946,150MHz
手動交換自動
車電話(米)
船舶電話 1979
1986航空機電話(2004停止,衛星
1967,都市災害無線電話
)
ディジタル自動車・携帯電話
(第2世代):音声・低速デー
タ (1993)
ポケットベル(無線呼出)
1992,デジタル
GSM電話(欧)
1
9
7
0
大
阪
万
博
携
帯
http://www.tele.soumu.go.jp/j/
アナログ自動車電話(第1世代)
発、
1968
信システム
system/ml/fourth.htm
列車電話
1960,400MHz自動車電話開
1964,150MHz
自動交換自動
車電話(米)
目標の 100Mbps 高速移動通
(1999停止、衛星通信ヘ)
1957近鉄1960 JR
1958
無線呼出(米)
(パーソナ
ル・高速
データ・ユ
ビキタス)
3) 第四世代:2010 年に実現
高速通信(第
3世代)
音声・高速
データ (2001)
1993, TDMA
電話(米)
1980
アナログ/デジタルコードレス
1995
1976
PHS電話
衛星移動電話
図 1 公衆移動通信発展経緯
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