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石油産業におけるエネルギー損失最小化技術動向 (主として分離工程
石油産業におけるエネルギー損失最小化技術動向 (主として分離工程)に関する調査 ㈱コスモ総合研究所:田中 祐二、○大田 毅、三村 幸弘、浅川 透 1.調査の目的 1.1 調査の背景 我が国の石油産業は、従来から世界最高水準の省エネルギー技術を開発してきた。しか し、国内人口減少および若者の自動車離れといった社会構造の変化、地球温暖化に端を発 するCO2 の発生のより少ない燃料への転換および自動車燃費の改善等により石油製品の需 要が減退している。このため、製油所の稼働率が年々低下し、製油所の省エネルギー化お よびコストダウン強化の障害となっている。一方、中国・インド等海外では省エネルギー の進んだ大型の最新鋭製油所の新設および既設製油所の増強が進んでおり、我が国の製油 所において、競争力ある精製コストの確保のためには、製油所の稼働率低下を補完する、 更なる省エネルギー技術の導入が求められている。 1.2 調査の目的 本調査では、経済産業省およびNEDOが策定した「省エネルギー技術戦略2011」(平成 23年3月)、これまでJPECやNEDO で実施した石油精製に関する省エネルギー技術開発お よび調査成果を踏まえ、欧米研究機関での先進的な研究事例を調査し、我が国石油産業が 低炭素社会構築に貢献し得るよう、新たな技術開発テーマを探索することを目的とする。 2.調査の内容 2.1 国内外の文献・特許調査 最新のエネルギー損失最小化技術として、石油留分の分離プロセスに関する情報を収集 し、対象とする留分および分離の条件等についてとりまとめる。 2.2 国内外のヒアリング調査 得られた文献・特許情報に加え、国内外の関係機関にヒアリングすることにより、石油 産業におけるエネルギー損失最小化技術の応用事例、あるいは将来に適用可能となり得る プロセス技術について調査を行う。 3.調査の結果 最近 10 年間で、欧米においては「プロセス強化(Process Intensification:PI) 」とい う言葉が頻繁に使用されようになった。 「プロセス強化」の定義は、各国および各組織によ ってまちまちであるが、 英国ニューカッスル大学の A. Harvey 教授は、 ①初期投資の削減、 ②省エネルギー、③原料コストの削減、④プロセスの柔軟性強化、⑤プロセスの安全性強 化、⑥品質に対するさらなる注目、⑦環境へのやさしい対応、の 7 点を挙げている。 欧米では、エネルギー損失最小化(省エネ)は「プロセス強化」技術の1つとして取り 上げられており、省エネは「プロセス強化」抜きでは語れない状況にある。 このような状況を踏まえて、欧州における分離工程に関する調査を実施した。 -300- 3.1 文献および特許検索 (1)検索方法 文献および特許検索対象期間を 2000 年 1 月から 2011 年 12 月までとし、検索対象技術 を①石油産業においてプロセス強化に寄与する分離工程に係る技術、②前項の技術の組み 合わせおよびその制御に関する技術とした。 これらの検索データベースとして Ei Compendex®および Google Scholar 等を利用した。 文献検索ではこれに加えて、直近 2 年間のプロセス強化の関連会議についても情報収集 した。 特許検索では、IPC(国際特許分類)を用い、さらに絞り込みを行った。WIPO(世界知 的所有権機関)が設定したIPCを基準に作成された技術分野に関し、本調査の対象となる出 願特許について、文献検索結果等を踏まえて公開サイトにて特許予備検索を行った結果よ り、3種類のIPC(B01D、C07CおよびC10G)を用いた。 (2)検索対象としたプロセス技術および会社 表 1.検索対象としたプロセス技術 検索深度 検索は一次検索および二次検索の二 段階で実施した。一次検索は石油精製 の分離に関する単位操作をキーワード プロセス技術 蒸留(Distillation) 分離(Separation) 吸着(Adsorption) 一次検索 凝縮(Condensation) 抽出(Extraction) 吸収(Absorption) 垂直分割型蒸留塔(Dividing Wall Column) 内部熱交換型蒸留 (Heat Integrated Distillation Column) 反応蒸留(Reactive Distillation) 抽出蒸留(Extractive Distillation) 吸着蒸留(Adsorptive Distillation) 反応吸着(Reactive Adsorption) 二次検索 反応凝縮(Reactive Condensation) 反応抽出(Reactive Extraction) 反応吸収(Reactive Absorption) ヒートポンプ(Heat Pump) 膜分離(membrane) 膜浸透気化分離(membrane pervaporation) 超臨界分離(Supercritical Separation) として用いた。石油精製や石油化学に おける分離工程のエネルギー最小化技 術に関して、2008 年にオランダのエネ ルギー研究財団 ECN が中心になって 作成した欧州のプロセス強化ロードマ ップ“European Roadmap for Process intensification“に記載されている技 術の中からキーワードを抽出した。石 油精製に関するプロセスに注目したと ころ、垂直分割型蒸留塔に代表される 先進型蒸留塔の他、反応蒸留のように 反応と蒸留が複合化された技術等が取 り上げられており、左表に示すとおり この中から二次検索のキーワードを抽 出した。 各プロセス技術に対する会社別の技 表 2.検索対象とした会社 ExxonMobil, BP, Shell, ConocoPhillips, Chevron, Total(IFP) AkzoNobel, LyondellBasell, BASF, Dow Chemical, 化学会社 DuPont, INEOS Honeywell UOP, Uhde, Linde, KBR, URS Corporation, Foster Wheeler, Fluor, Sulzer エンジニアリング会社 Chemtech, Haldor Topsoe, CDTECH, Lummus, Koch-Glitsch, Montz 石油会社 術開発動向を把握す るため、会社名によ る文献検索を実施し た(表 2 参照) 。対 象とした会社は、前 述のプロセス強化ロ ードマップに記載さ れている各プロセス技術の検討担当会社、国内有識者のヒアリング情報等をもとに選定し -301- た。 (3)検索結果 特許および文献に関する一次検索の結果、石油会社ではExxonMobil, Shell, Totalの文 献・特許の検出数が多く、化学会社ではDuPont, Dow Chemicalが、エンジニアリング会社 ではUOPの検出数が多いことが判明した。 二次検索で絞り込みを行った結果、膜分離に関 する文献・特許が多く、垂直分割型蒸留塔、反応蒸留、抽出蒸留、反応抽出、反応吸収、 ヒートポンプおよび超臨界抽出に関する文献・特許が検出された。また主要な分離技術で 表 3.本調査の特許検索における主要分離技術の検出数と検出率 プロセス技術 垂直分割型蒸留塔 反応蒸留 抽出蒸留 合計 対象技術の 検索対象会社の B/A(%) 全検出数A 検出数B 376 238 63.3 521 138 26.5 514 228 44.4 1411 604 42.8 ある垂直分割型蒸留塔、 反応蒸留および抽出蒸 留では、全特許出願数の うち平均40%以上が今 回の調査で検出された ことより(表3参照)、 概ね特許からの技術動 向が把握できたと考えられる。 以上の文献・特許検索および直近2年間のプロセス強化会議資料により検出された主なエ ネルギー損失最小化技術について概要を示す。 3.2 主なエネルギー損失最小化技術概要および開発動向 (1)垂直分割型蒸留塔(Dividing Wall Column:DWC) DWCは図1に示すとおりの蒸留塔内部に分離壁を設置して、通常は2塔以上必要となる3 留分以上の分離を1塔で分離することにより、蒸留塔の建設コストと運転コストを削減する という技術である。 図 1.DWC の塔内写真 1) 図 2.Montz が提供した DWC の累計実績推移 1) この技術は1985年、ドイツのBASF により初めて商業化された。このBASFとエンジニ アリング会社のMontzがDWCの分野ではリーディングカンパニーとなった。図2に示すよう にMontzが係わったDWC の累計実績推移より、着実に増加していることがわかる。 開発当初、DWCの分離壁は塔壁に溶接するように設計されていたため、蒸留塔建設・改 造のために長時間要していた。1996年にMontzが分離壁を塔壁に溶接せずに固定する設置 -302- 技術を開発したことによりDWC の建設コストや建設期 間を削減し、導入実績が増加したといわれており、海外を 中心に現在140基以上の商業プラントが設置されている。 製油所への導入事例としては、ExxonMobilのFawley 製 油所(英国)にあるミックスキシレン蒸留塔、CEPSAの Algeciras 製油所(スペイン)のパラフィン/イソパラフ ィン/イソヘキサン蒸留塔が挙げられ、これらはいずれも 既設蒸留塔の改造によって導入されている。また、米国最 大の独立系石油精製会社のValero Energyは、2011年末ま でに、リフォーメートからの脱ベンゼン用スプリッター4 基をDWC に改造している。これらのDWCは塔内に分離 壁を1枚設置し、3留分に分離させるプロセスである3)。 現在は、図 3 に示すように複数の分離壁を塔内に設置 し、4 留分以上に分離する DWC が開発中である。また 図 3.開発中の 4 留分留出 DWC DWC を反応蒸留、共沸蒸留および抽出蒸留と組合せた ハイブリッド化の研究開発も進められている。 模式図 2) 表4に文献および特許から得られたDWCの省エネルギ ー効果を示す。既設の2塔式蒸留塔を1塔のDWCに変更することにより、15~44%のエネル ギー削減ができるとしている。また3塔式の蒸留装置を1塔のDWCに統一し、複数の分離壁 を設置すれば約50%のエネルギー削減が達成でき、DWCとヒートポンプを組合せることに より、さらに40%以上のエネルギー削減が可能となるとしている。 表 4.文献および特許から得られた DWC のエネルギー削減率 資料 プロセス 塔頂液 C4,C5混合物からのC4異性体 i-ブタン の分離 直留ナフサの分離 i-ペンタン 文献 軽質分解 FCCナフサスプリッター ガソリン 改質ガソリンの分留 ※2 アルキルベンゼンの製造 エチルベンゼンの製造 クメンの製造 FCCガソリンからのC6留分の 特許 異性化 DWCからの留出油 サイドカット液 塔底液 従来の技術 エネルギ削減率(%) ※1 n-ブタン C5 2塔式蒸留 26.5 C7+ 重質分解 ガソリン 2塔式蒸留 サイドストリッパー 付きの1塔式 20.5 C8+ 3塔式蒸留 ベンゼン ベンゼン ベンゼン C5- n-C5/C6 中間分解 ガソリン SC1:ベンゼン SC2:トルエン トルエン エチルベンゼン クメン C6 アルキルベンゼン ポリアルキルベンゼン シメン C7+ C5- C6 C7+ 2塔式蒸留 2塔式蒸留 2塔式蒸留 2塔式蒸留 サイドストリッパー 付きの1塔式 一般的な抽出蒸留 装置 ヒートポンプを使用 しないDWC C5/C6 C4混合物からのブタジエン回 A:ブタン 抽出溶剤 1,3-ブタジエン B:ブテン (N-メチルピロリドン) 収※3 ヒートポンプとDWCを組合せた i-ブタン n-ブタン C5+ C4留分の分留 ※1:エネルギー削減率は主としてリボイラー負荷から計算した。 ※2:4留分分離プロセス(SC1:上段のサイドカット、SC2:下段のサイドカット) ※3:DWCを抽出蒸留に用いる場合には塔頂から2留分が回収される。 34 分離壁1枚 38.9 分離壁2枚 49.5 24 27~44 15~18 37 18 15~30 40~66 (2)内部熱交換型蒸留塔(Heat Integrated Distillation Column:HIDiC) HIDiCの基礎概念は1970年代前半に米国ノースウェスタン大学のRichard Mah教授によ り空気分離等深冷蒸留分離を対象として発表された(概念図は図4参照)。我が国ではNEDO のニューサンシャイン計画の一環として「広域エネルギー利用ネットワークシステム」プ -303- ロジェクトが1993年から2000年まで実施され、 その後も開発が継続されている。 HIDiC は海外ではオランダのデルフト工科大 学およびエネルギー研究財団ECN を中心に開 発されている。HIDiC の内部構造としてはアニ ュラーシーブトレイ型、二重管型、プレートフィ ン型およびプレートパッキング型の検討がなさ れている。このうちプレートパッキング型が HIDiCの高効率化を達成させるものと期待され 図 4.HIDiC のプロセス概念図 4) ている。HIDiCは、現在商業プラントの実績は ないものの、DWCと同様に反応蒸留や抽出蒸留 とを組合せたハイブリッド化の検討もなされている。 (3)反応蒸留 現在200基を超える商業スケールの反応蒸留装置の多くは、操業開始後20年未満である。 CDTECHは反応蒸留プロセスを供給するリーディングカンパニーであるが、製油所に関 連した反応蒸留ライセンスとしては、C4混合物からのブタジエン等の水素化プロセス、FCC ガソリン等の脱硫プロセス、ETBEおよびTAME等のエーテル合成プロセス等が挙げられる。 また、今後の反応蒸留の応用分野としては、前述のDWCとのハイブリッド化以外にも図 5に示すように、抽出蒸留と組合せたハイブリッド技術の開発が進められている。 図5.機能性溶剤を用いた反応抽出蒸留プロセスフロー図(a)、 金属-結合基溶剤と回収オレフィンAの錯体(b) 5) (反応蒸留と抽出蒸留の組合せによるハイブリッド化) (4)まとめ DWCは1985年、ドイツのBASF により初めて商業化された。現在は製油所を始めとして 140基以上の商業プラントが導入されている。現在は、塔内へ複数の分離壁を設置し、4留 分に分離するDWCが開発中であり、反応蒸留、共沸蒸留および抽出蒸留と組合せたハイブ リッド化プロセスの研究開発も進められている。 HIDiCはオランダのデルフト工科大学およびエネルギー研究財団ECNを中心に開発され ており、プレートパッキング型がHIDiCの高効率化を達成させるものと期待されている。 現在200基を超える商業スケールの反応蒸留装置の多くは、操業開始後20年未満であり、 製油所向けの反応蒸留技術としては、水素化、脱硫、エーテル合成等多岐にわたっている。 今後の反応蒸留の応用分野としては、DWCとの組合せによるハイブリッド化以外には抽出 -304- 蒸留との組み合わせが挙げられる。 3.3 欧米のプロセス強化技術開発動向 (1)欧州のプロセス強化技術開発動向 英国マンチェスター大学の“The Centre for Process Integration”は、 蒸留分離プロセスの省エネルギー を進めるためのエネルギー分析に 関する基礎研究および情報の共有 を目的としたコンソーシアムであ り、石油メジャーも含め、現在16社 がメンバーとなっている。 同じく英国のニューカッスル大 図 6.マンチェスター大学の蒸留塔エネルギー分析 の概念図 6) 学は英国で最大のプロセス強化ラ ボであり、英国政府の支援を受けた 国内プロセス強化研究情報コンソーシアム“PI Network”(1999年設立、350メンバー) の本部でもある。 同大学では、装置の小型化による反応効率向上、低消費エネルギー型反応器の研究を行 っている。化学や医薬向けプロセスに加え、バイオディーゼル製造プロセスであるエステ ル化反応の高速化にも取り組んでいる。 ドイツ・ドルトムント工科大学のGorak 教授は、欧州PI 技術ロードマップの責任者の一 人であり、欧米の蒸留研究分野で、現在最も影響力を有する一人と言われている。 Gorak 教授は反応蒸留の権威であり、その下で160名の研究者が40の産学共同プロジェク トを実施している。連携相手は、欧州だけなく米国の企業や大学も加わっている。 図7.DMC製造のハイブリッド蒸留プロセスフロー図7) 同教授の研究室では、炭酸プロピレンのエステル反応によるジメチルカーボネート (DMC)の製造技術として、分離膜併用反応蒸留システムの研究に取り組んでいる(図6 参照)。DMC はアルキル化やポリカーボネート製造反応に使うほか、既存のガソリン添加 剤用に欧州で使用されているMTBE に変わる低有毒性のオクタン化向上剤として期待さ れている。 オランダでは、石油産業や化学産業の国際化が進んでおり、オランダ政府はEU 政策と -305- 連動し、持続可能な技術の研究を促進するために2010年にサステナブル・プロセス技術研 究所(The Institute for Sustainable Process Technology:ISPT)を設立している。本調査期 間中には、2012年から立ち上げる新規プロジェクトの選定を終え、概要が公開された。 図8.ハイブリッド型DWC 8) このプロジェクトの中で AkzoNobel は、「先進蒸留技術」に関する研究メンバーになっ ている。第一世代と呼ばれる分割壁 1 枚の DWC を更に低エネルギー化することを目的 に、ハイブリッド型の反応型 DWC、抽出型 DWC、共沸型 DWC の研究に取り組んでい る(図 8 参照)。 エネルギー研究財団ECNが取り組んでいるナノ細孔分離膜HybSi(ヒプシ)やthermo acoustic heat-pump(熱音響ヒートポンプ)も、ISPTプロジェクトの研究テーマとして採 択された。 (2)米国のプロセス強化技術開発動向 米国における蒸留・分離に関するプロセス強化研究は、米国化学工学会の分離分科会が 国の政策提言や産官学研究の司令塔を担っており、その中核メンバーとして、民間コンソ ーシアムのFractionation Research Incorporated(FRI)が第一に挙げられる。FRIは蒸留塔 のトレイと充填物に関する世界屈指のコンソーシアム研究所であり、1952年に設立されて いる。 会員数は現在72 社であり、世界をリードする石油精製、 石油化学、化学、エンジニアリング企業で構成されてい る。日本からは、日揮、千代田化工、東洋エンジニアリ ング等のエンジニアリング会社が参加している。 FRI の工業規模の試験用蒸留塔はオクラホマ州立大 学の構内に設置されている。試験用蒸留塔を図9に示す。 低圧塔2基と高圧塔1基を有し、リボイラー2基およびコン デンサーは低圧塔、高圧塔の両方に利用可能である。米 国では、この他にもテキサス大学オースチン校の (Process Science & Technology Center:PSTC)で分 離技術の発展、プロセスの最適化・制御および安全等に 図9.FRI試験用蒸留塔の全景 9) 関して産学協同のコンソーシアムのプロジェクト運営が なされている。 -306- (3)まとめ 欧米の研究は、コンソーシアムによる研究運営が最近のトレンドである。英国ではマン チェスター大学のThe Centre for Process Integration、ニューカッスル大学に本部を置く プロセス強化研究情報コンソーシアムPI Networkがその例である。ドイツ・ドルトムント 工科大学では160名の研究者が40の産学共同プロジェクトを実施している。オランダでは EU政策と連動し、持続可能な技術の研究を促進するために2010年にISPTが設立された。 蒸留塔のトレイおよび充填物に関しては、米国のFRIやテキサス大学オースチン校PSTC でのコンソーシアム研究に集約され、世界のエンジニアリング会社で技術展開されている。 3.4 欧州、米国および我が国の技術開発ロードマップ (1)欧州の技術開発ロードマップ 欧州では2003年3月に、“The vision for 2025 and beyond, European Technology Platform for Sustainable Chemistry“を取りまとめ(図10(a)参照)、2025年に向けた化 学産業のサステナブル・ビジョンが示された。次いで2005年11月には、今後20年の化学分 野の技術課題と戦略的研究計画を盛り込んだ“Sustainable Chemistry Strategic Research Agenda”を取りまとめた。この中ではプロセス強化技術の重要性についても記載されている (図10(b)参照)。 (a) (b) (c) (d) 図10.欧州のプロセス強化技術開発ロードマップ 欧米を含め、現時点ではプロセス強化について最も具体的に将来技術を整理した公的な 資料と言える“European Roadmap for Process Intensification”は、2007年12月に本編と付 属編2部として公開された。ゴールビジョンとして、2030年までにPI 技術だけで20%の省 エネルギー化を達成すると謳われている(図10(c)参照)。 さらに、2011 年7 月に出されたフォローアップ報告書 ”Research Agenda for Process Intensification Towards a Sustainable World of 2050”では、2050年の社会の在り方を想定 し、バックキャスト法により、各産業分野での目標を設定し、その実現に必要と考えられ る技術開発の方向性が盛り込まれた(図10(d)参照)。 (2)米国の技術開発ロードマップ -307- 米国では 1990 年代後半より、産業界が独自に 20 年後の 2020 年を目指した技術ロード マップの検討を始めていた。米国化学会(American Chemical Society)と米国化学工学 (a) (b) (c) (d) (e) 図11.米国の技術開発ロードマップ 会(American Institute of Chemical Engineers )、米国化学研究委員会(Council for Chemical Research)、米国材料技術研究所(Materials Technology Institute)の 4 つの 組織が共同で、The Vision 2020 運営委員会を 1996 年に立ち上げ、2020 年に向けての米 国の研究ロードマップ“Technology Vision 2020: The US Chemical Industry”をとりまと め、2000 年に公開した(図 11(a)参照)。 米国化学工学会が中心となって2000年に出した”Vision 2020: 2000 Separations Roadmap”では、長期的なプロセス技術の開発方向性についてとりまとめを行っており、欧 州の技術ロードマップは、米国のそれを参考に、技術要素や地球温暖化対策、資源問題と 化石エネルギーから再生可能エネルギーの普及促進、2000年代からの新興国の台頭等、社 会的な背景も踏まえ、新たにとりまとめている(図11(b)参照)。 産官学が総がかりで策定したものには、2000年にエネルギー省と米国石油協会 API が 共同で2020 年の石油精製業の在り方をとりまとめた”The Technology Roadmap for the Petroleum Industry”がある。この中には、各精製装置の省エネルギー化の対策として、IT の導入や熱処理プロセスを置き換える分離膜プロセスの導入等が盛り込まれている(図 11(c)参照)。 2005年4月には、分離や蒸留プロセスのハイブリッド化に向けた研究開発の方向を示し た ”Industrial Technologies Program (ITP)–Hybrid Separations/Distillation Technology: Research Opportunities for Energy and Emissions Reduction”がとりまとめ られた。ハイブリッドシステムの研究開発ニーズのランキングと研究の優先順位を提唱し、 さらに、蒸留塔関連機器のニーズと研究の優先順位をとりまとめており、DOE のハイブリ ッド蒸留研究支援プログラムの基盤となっている(図11(d)参照)。 2007年10月には、石油産業を含む産業界全体の技術ロードマップとして、「エネルギー 多消費型プロセス産業の産業技術プログラム研究計画”The Industrial Technologies Program Research Plan for Energy-Intensive Process Industries”が発表され、この中に は、石油精製プロセスに関わる分野として、Energy Intensive Processes (EIP) が設けられ、 -308- 先端ガス分離技術やハイブリッド蒸留技術、エネルギー多消費型プロセス変換技術につい て中期のロードマップが示されている(図11(e)参照)。 (3)我が国の技術開発ロードマップ 経済産業省は、2010年6月に「技術戦略マップ2010」をとりまとめ、この中で石油等の 化石燃料の安定供給確保とクリーン化として、2030 年までの技術ロードマップを提示した。 「技術戦略マップ2010」に続き、2011年3月には「省エネルギー戦略2011」を策定した。 この「省エネルギー戦略2011」の中では、我が国の省エネ技術を包括して、東京大学生産 技術研究所の堤教授らが推進する「エクセルギー損失最小化技術」を重要な技術開発の一 つとして新規に盛り込んだ。同技術はさらに四つの適用分野に分けられ、その適用分野の 一つが省エネ型製造プロセスであり、その中に「石油化学プロセス」が例示されている。 次に、我が国において次世代製油所プロセスがどのように検討されるべきか、そのロー ドマップ案を作成するにあたり、これまで紹介し た欧米の技術開発等を参考にして、製油所におけ るプロセス強化に必要な技術要素について検討し た。 今回の調査により、製油所の分離工程に先進型 蒸留、複合分離技術等分離ハイブリッド化技術の 導入を推進することが分離工程のおけるプロセス 強化を実行する上で不可欠な技術開発要素の選択 肢であると考えられる。 この蒸留・分離ハイブリッド化技術を導入する 図12.次世代石油精製プロセスの要素 に際し、原料の詳細分析および複雑な反応解析がで きれば、数値流体力学(CFD)により反応場の設 技術選択肢 2005年 2010年 2015年 2020年 2025年 2030 年~ 我が国の省エネルギーロードマップ 新・国家エネルギー戦略(2006) (ローリング) Cool Earth エネルギー確信技術計画(2008) エネルギー政策 低炭素社会づくり行動計画(2008) 将来枠組み(ポスト京都) 京 都議定書 グリーンサステイナブル分野 革新的省エネ型化学分離プロセス CO2等の分離回収 技術戦略マップ エネルギー分野 2010 産業プロセスの省エネ化 高度分離・処理技術の導入・普及 産業プロセスでの高効率利用 石油精製プロセス、コンビナート高度統合化 など エクセルギー損失最小化技術 セメント製造、ガラス製造プロセス 省エネ型 製造プロセス 省エネルギー 戦略2011 石油化学、化学品製造プロセス コプロダクション 2005年 2010年 2015年 2020年 2025年 2030 年~ 次世代製油所の技術開発ロードマップ 産業界の横断的参画 アカデミアの貢献 製油所向け プロセス 強化研究 基礎研究 ベンチ試験 パイロット試験 現地実証試験 次世代石油精製プロセス技術要素 図13.次世代製油所の技術開発ロードマップ -309- 計の最適性が向上し、効率よく石油化学原料やクリーンな燃料を生産することが期待され る。このためペトロリオミクスの技術展開等によるCFD技術の構築により、エネルギー消 費を削減するプロセス設計が有効となる。 さらに製油所におけるエネルギー使用量を正確に把握し、エネルギー浪費を最小限にで きるかといったエネルギー診断技術の利用も製油所へ蒸留・分離ハイブリッド化技術を導 入するために重要な選択肢と考えられる。 これら 3 つの技術要素を互いに連携して技術開発を進めることにより革新的な次世代製 油所に必要な技術が構築できると期待される。 このような技術要素の組み合わせにより研究ステージをラボ実験から、工業化プロセス 設計、ベンチスケール評価、パイロットスケール実証化試験を経て、商業化プラントの設 計に到達する。プロセス設計には、エンジニアリング会社、石油会社、アカデミアが一体 となっての議論が必須となる。 以上の検討を踏まえ、現行の経済産業省「技術戦略マップ2010」のグリーンサステイナ ブル分野とエネルギー分野における分離・回収技術開発、および「省エネルギー戦略2011」 のエネルギー損失最小化技術開発の項目と連動した「次世代製油所の技術開発ロードマッ プ(案)を図13に示す。 4.まとめ 文献・特許調査より、DWCおよび反応蒸留プロセスは既に製油所への導入が進んでおり、 現在は主として他の分離技術との組合せによるハイブリッド化プロセスの研究開発が進め られている。HIDiC は欧州ではオランダで高効率化に向けた技術開発が進められている。 欧米の研究は、コンソーシアムによる研究運営が最近のトレンドである。英国では二つ の大学を中心に、オランダでは政府主導のコンソーシアムが設立されている。蒸留塔のト レイおよび充填物に関しては米国のFRIやテキサス大学オースチン校PSTCでのコンソーシ アム研究に集約され、世界のエンジニアリング会社で技術展開されている。 欧米の石油化学産業の技術開発ロードマップの中で、プロセス強化技術は現行の省エネ ルギー技術をさらに進化する技術として、中核となっている。欧州は、2030年までのロー ドマップを運用中であり、さらに2050年までのビジョンの具体化にも着手している。一方、 米国で政府や産業界が提唱した技術ロードマップは、2020年を到達点として、2000年初期 に策定したものである。やや時間が経過したものの、その基本事項は、欧州の技術ロード マップに反映されるなど重要な役割を果たしている。 エネルギー政策は国の根幹であり、我が国の一次エネルギー需要において石油は引き続 き一定の規模を占めることから、 石油産業における更なるプロセスの高度化と強化を図り、 技術の着実な発展を確保するため、先進的技術開発テーマの創出と共に、研究体制、国の 関わり方について、議論が必要である。中でも、プロセス強化技術は国際的な研究が活発 になっており、省エネルギーでこれまで優位性を確保した我が国においても、更なるエネ ルギーの有効利用、効率化を目指すためには、中長期的な視点から研究を進める必要があ り、国際動向分析が必須である。 -310- 参考資料 1) B. Kaibel, “Unfixed dividing wall technology for packed and tray distillation columns”, IChemE, symposium series No. 152, (2006) 2)http://www.sintef.no/upload/Energiforskning/Arrangementer/TGTC09/A3_3_Halvors en.pdf 3) Omer Yildirim et al., “Dividing wall columns in chemical process industry: A review on current activities”, Separation and Purification Technology, 80, (3), 403–417, (2011) 4)http://www.nt.ntnu.no/users/skoge/prost/proceedings/distillation06/CD-proceedings/p aper016.pdf 5) Norbert J. M. Kuipers, ”Functionalised Solvent for Olefin Isomer Purification by Reactive Extractive Distillation”, IChemE, symposium series No. 152, (2006) 6) Process Integration Limited プレゼンテーション資料 7)ドルトムント工科大学 プレゼンテーション資料 8) http://members.chello.nl/a.kiss2/projects/DWC_apps.jpg 9) http://www.fri.org/public/Papers/AIChEFRI50Yrs.pdf -311-