...

JA尾道総合病院の空調設備概要

by user

on
Category: Documents
31

views

Report

Comments

Transcript

JA尾道総合病院の空調設備概要
── 実 施 例 ──
JA尾道総合病院の空調設備概要
鹿島建設㈱ 中国支店 建築部 元 廣 壽 文
■キーワード/病院・空調設備・省エネルギー・免震構造
建物名称 JA尾道総合病院
1.はじめに
施工場所 尾道市平原1丁目
JA尾道総合病院は築後半世紀以上経過した既存病院
建 築 主 広島県厚生農業組合連合会
の建替計画として2009年9月に着工し,2011年3月に完
設計監理 大旗連合建築設計㈱
成を迎えた。既存病院から個室は66室増加し,合計ベッ
施 工 者 鹿島建設㈱
ド数は393床となる。高性能CT撮影装置の導入や手術室
敷地面積 12,145㎡
も6室から10室に増加したことにより,災害発生時に医
建築面積 18,074㎡
療機関を支援するための災害拠点病院として期待されて
延床面積 41,729㎡
いる。本稿では当病院における空調システムの概要につ
本
いて報告する。
附 属 館: 9,203㎡
館:27,543㎡
駐車場棟: 4,983㎡
2.建物概要
主要用途 病院
建物の構成としては,病院機能を要する本館と事務部
構 造 本 館 RC造(免震構造)
門の附属館に分かれ,別棟として駐車場となっている。
附属館 RC造,一部鉄骨造(耐震構造)
本館は免震構造,附属館は耐震構造となっており,両館
最高高さ 42.12m
につながる部分にエキスパンションジョイントを設けて
階 数 地下1階,地上8階,塔屋1階
地震時のクリアランスを確保している。
写真-1 建物外観
ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82
─ 10 ─
── 実 施 例 ──
病室についてはエアハンドリングユニットによる処理
3.空調設備概要
外気を,4床室はファンコイルユニットにダクト接続,
空調設備は熱源機による冷温水供給エリアと空気熱源
1床室は天井の制気口から吹き出している。
ヒートポンプパッケージによるエリアに分かれる。
・エアハンドリングユニット
3-1 熱源方式
本館共用部,診察室,病室
熱源は電気とガスの両エネルギーの併用を行ってい
・全熱交換器
る。ヒートポンプチラーは電力需要の平準化を目的に夜
附属館事務部門諸室
間運転対応とし,昼間は冷温水発生器を主運転としてい
る。手術室やNICUは専用の冷温水同時取出型空気熱源
4.特殊室の空調方式
ヒートポンプチラー系統とし,24時間・部屋ごとに冷暖
4-1 手術室廻り
房要求が異なっても対応可能なシステムとなる。
手術室やNICU,無菌室などは室負荷の処理と清浄度
・吸収式冷温水発生器 985kW×2台
の確保を目的に,HEPAフィルタを搭載したクリーン
・排熱回収型吸収式冷温水発生機 703kW×2台
パッケージエアコンを設置している。手術室は壁吸込天
・空気熱源ヒートポンプチラー 300kW×3台
井吹システム,その他の部屋は天井にHEPAフィルタ組
・冷温水同時取出型空気熱源ヒートポンプチラー み込型のクリーンパッケージエアコンを設置している。
150kW×2台
外気は外気処理用のエアハンドリングユニットから供給
している。
表-1 設計清浄度と換気回数
清浄度
室容積
外気量
クリーンパッケージ
設計循環量
class
㎥
㎥ /h
回 /h
NICU
10,000
224
700
20
無菌室
10,000
76
230
38
手術室 7
(整形外科)
1,000
162
730
66
室名
ファンフィルタユニット
HEPAフィルタ組込制気口
写真-2 冷温水同時取出型空気熱源ヒートポンプチラー
3-2 空調方式
AHU
ては図-2〜4を参照。
・空気熱源ヒートポンプエアコン(ビルマルチ)
廊下
手術室
R
図-1 手術室システム概要
診察室や検査室などの多様な運転状況が求められる部
室外機へ
空調方式は以下となる。各エリアのゾーニングについ
コイルユニット
屋には冷暖フリーを採用している。スタッフセンターや
事務諸室には冷暖切換を採用している。
・ファンコイルユニット
共用廊下,4床用病室には2管式のファンコイルユ
ニットを採用している。
・水熱源ヒートポンプエアコン
1床用病室には利用者の冷暖房要求に柔軟に対応でき
るよう,2管式で冷暖フリーな水熱源ヒートポンプエア
コンを採用している。
3-3 換気方式
本館の全域と附属館の一部はエアハンドリングユニッ
トにより処理した外気を供給するシステムとなってい
る。附属館の事務部門は全熱交換器による外気導入と,
写真-3 手術室クリーンエアコン⎝天井面⎠
一部は直接外気の導入を行っている。
─ 11 ─
ヒートポンプとその応用 2011.
10.
No.82
── 実 施 例 ──
供給センター
厨房
受付・薬局
救急
外来
(1)
放射線
(1)
放射線
(2)
内視鏡
放射線
(3)
本 館
附属館
図-2 1階平面図
化学療法
中央検査科
外来
(2)
健康管理センター
職員更衣室・食堂
外来
(3)
外来
(4)
図-3 2階平面図
1床室
スタッフセンター
4床室
N
図-4 6階平面図
凡例
ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82
空気熱源ヒートポンプ(冷暖切換)
ファンコイルユニット
空気熱源ヒートポンプ(冷暖フリー)
水熱源ヒートポンプ
─ 12 ─
── 実 施 例 ──
4-2 サーバ室
医療施設において情報システムは患者の生命に直結す
る非常に重要なラインとなる。これらを管理するサーバ
室の空調方式について説明する。サーバ室の空調はホッ
トアイル(サーバの排熱を集める場所)とコールドアイル
(空調機からの冷気を集めてサーバが吸引する場所)を明
確に分けることが効率的であるとされている。既存病院
のサーバ室温度測定結果(図-6)から,UPS上部がホッ
トアイルとなり,サーバ前面がコールドアイルとなるこ
とが見て取れる。新設サーバはラック全域にUPSが配置
していることから,ホットアイルとなるサーバラック上
部に空調機吸込口を配置,コールドアイルとなるサーバ
前面に吹出口を設けている。また,機器異常時停止を想
定し空調機は2系統に分割している。
ホットアイル
コールドアイル
:サーバ前面側
サーバラック
図-5 サーバ室施工図
写真-4 サーバ室ダクト⎝天井施工前⎠
(℃)
40
サーバ前面
35
設定値 23℃
30
温
度
UPS上部
サーバ後面
25
20
5:43'
8/04 11:23'
8/04 0:03'
8/04
8/03 18:23'
7:03'
8/03
8/03 12:43'
1:23'
8/02 19:43'
8/03
8:23'
8/02
8/02 14:03'
2:43'
8/02
8/01 21:03'
9:43'
8/01
8/01 15:23'
4:03'
7/31 22:23'
8/01
日
7/31 16:43'
5:23'
7/31 11:03'
7/31
7/30 23:43'
土
7/30 18:03'
6:43'
7/30 12:23'
1:03'
7/30
7/29 19:23'
7/29 13:43'
7/29 8:03'
7/29 2:23'
7/30
UPS上℃
後面℃
7/28 20:43'
9:23'
7/28 15:03'
3:43'
7/28
7/27 22:03'
7/28
7/27 16:23'
15
7/27 10:43'
前面℃
図-6 既存病院サーバ室温度測定
─ 13 ─
ヒートポンプとその応用 2011.
10.
No.82
── 実 施 例 ──
5.熱源機械室の換気方式
本建物の熱源機械室は附属館の地下1階に配置され,
本館の地下と附属館の地下が同一空間としてつながって
いる。さらに本館の地下1階は高さ約2.4mの免震ピッ
トとなっており,外気と比べて夏季は涼しく・冬季は暖
かい,比較的安定した環境となっている。いわばクール
&ホットチューブである。
この免震ピット内の空気を熱源機械室の排気ファンで
ローラーが
可動
引き込み,機械室の換気に利用している。免震ピットへ
の外気供給口は本館周辺の免震クリアランスがその役
目を果たすこととなる。これにより給気ファンの風量
は20,600㎥/hから12,000㎥/hに低減,電気容量は11kW
写真-5 冷温水配管免震架台
から3.7kWまで低減し,常時運転する送風機の省エネル
ギー化をはかることができた。(図-7参照)
吊材が可動
6.免震構造に対応した設備配管
建物が免震構造であるため,本館の地下1階の免震
ピットには防振ゴムによる免震装置が設けてある。この
免震装置は地震の際に最大で横方向(X,Y)に550㎜,
縦方向(Z)に50㎜の挙動が予想されている。当然設備配
管もこれに追従して可動することが求められる。そのた
め,配管の支持が免震装置下部(地球側)から免震装置上
部(建物側)に切り替わる部分にフレキシブル継手と配管
用の免震架台を設けている。免震架台はローラーによる
可動タイプと吊材のエキスパンションによる可動タイプ
写真-6 給水配管免震架台
に分かれており,配管の重量と重要性などで仕様を分別
している。また,地震時には免震装置の上下での挙動差
が生じるため,免震装置下部(地球側)で支持している配
地震時
550㎜動く
管は免震装置上部(建物側)の構造体と横550㎜,縦50㎜
以上のクリアランスを確保している。
7.おわりに
新JA尾道総合病院は,平成23年5月初旬に入院患者
の引越しを完了し,外来患者受付を開始している。本物
件での取り組みが,今後需要が高まることが予想される
配管は
免震装置下部⎝地球側⎠で支持
医療建築の参考になれば幸いである。
最後に,計画から完成に至る間にお世話になりました
建築主様,設計事務所,協力会社の皆さまに,心より深
写真-7 配管と建物のクリアランス
く御礼申しあげます。
2FL
本 館
附属館
給気ファン(容量小)
外気
1FL
免震
クリアランス
熱源機械室
免震ピット
附属館B1F
図-7 熱源機械室の給排気方式
ヒートポンプとその応用 2011.10.No.82
─ 14 ─
Fly UP