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ベトナム
January 2012
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ベトナム
ベトナム政府は、表現の自由、結社の自由、平和的な集会の自由を組織的に弾圧してい
る。政府の政策に疑問を呈したり、役人の汚職を暴いたり、一党支配に対し民主的な代
案を求める独立したライター、ブロガー、人権活動家などが、警察の嫌がらせやプライ
バシー侵害の監視にさらされている。更に、弁護士へのアクセスを許されないまま長期
間隔離拘禁されたり、あいまいな内容の治安関係容疑で長期間にわたり投獄される傾向
がさらに顕著になってきている。
警察は、自白を獲得するため、容疑者を頻繁に拷問している。強制立退や土地収用に反
対する市民の抗議運動を、警察が過度な暴力で弾圧するケースも見られた。2011 年にハ
ノイ市とホーチミン市で起きた反中国デモは強制解散させられ、参加者は脅迫や嫌がら
せを受けたり、数日間拘束されたりした。
2011 年 1 月の第 11 回ベトナム共産党大会と 5 月の(官製)議会選挙により、共産党と
政府の今後 5 年の指導層が決定された。両期間中、同国の根深い人権問題を改善すると
いう真摯な姿勢はまったく見られなかった。公安省ほか強硬派の強い支持を受けたグエ
ン・タン・ズン首相は、7 月に政権 2 期目に入った。
反体制派の弾圧
2011 年中は政治裁判と逮捕が多発した。これは、ベトナム政府が民主運動「アラブの
春」のアジア到来を懸念するなどしたことから、弾圧に拍車がかかったとみられる。
2011 年初めから 10 カ月間で、少なくとも 24 人の人権活動家が投獄された。1 人を除く
全員が、「反政府プロパガンダ」(刑法第 88 条)容疑か、「国家統一毀損」(刑法第
87条)容疑、あるいは「政権転覆」(刑法第 77条)容疑で有罪判決を受けている。
こうした定義の曖昧な条項が、過去 10 年間に何百人もの非暴力活動家を投獄するため
に適用されている。更に 2011 年中に、少なくとも 27 人の政治活動家・宗教家が逮捕さ
れた。ディウ・カイ(Dieu Cay)のペンネームで知られるブロガー、グエン・バン・ハ
イ(Nguyen Van Hai)は 2010 年 10 月以来隔離拘禁されており、ほか 2 人のオンライン
・ライター、グエン・バー・ダン(Nguyen Ba Dang)とファン・タィン・ハイ(Phan
Thanh Hai)も 2010 年以来、裁判なきまま拘禁され続けている。
2011 年 4 月には、全国の注目を浴びていた著名な弁護士のクー・フイ・ハー・ブー博士
が反政府プロパガンダ罪で有罪となり、7 年の刑を言い渡された。その後判決は、控訴
審でも維持された。
5 月にベンチェ省人民法廷は、キリスト教メノナイト派牧師ズォン・キム・カイ
(Duong Kim Khai)とホアハオ教徒トラン・ティ・トゥイ(Tran Thi Thuy)など、非暴
力的な「土地所有権」活動家 7 人に政権転覆容疑で有罪判決を下し、長期刑を言い渡し
た。
当局はインターネット上で政府を批判した人びとへの嫌がらせや尋問を続けており、拘
禁されたり投獄されたりした人もいる。2011 年 1 月、人権活動ブロガーのホー・ティ・
ビック・クゥォン(Ho Thi Bich Khuong)が逮捕された。5 月には民主活動家のグェン・
キム・ニャン(Nguyen Kim Nhan)が、反政府プロパガンダ容疑で逮捕されたが、これ
は同様の容疑で服役・釈放されてから 5 カ月後のことだった。8 月にはブロガーのルー
・バン・バイ(Lu Van Bay)がインターネット上に民主主義を求める記事を掲載したた
め、4 年の刑を言い渡されている。同じく 8 月にはブロガーのファム・ミン・ホアン
(Pham Minh Hoang)も政権転覆罪の容疑で 3 年の刑に処された。
少数民族活動家もまた逮捕と投獄に直面している。1 月にランソン省裁判所は、タイ族
のブロガー、ヴィー・ドゥック・ホイ(Vi Duc Hoi)に反政府プロパガンダ罪で 8 年の
刑を科し、4 月の控訴審で 5 年に減刑した。3 月にはアンジャン省で、少数民族クメー
ル・クロム族団体の構成員で土地所有権活動家のチャウ・ヘン(Chau Heng)が、器物
損壊と公共秩序かく乱罪で、2 年の刑に処された。ザライ省人民法廷は 4 月、山岳民族
のプロテスタント信者 8 人に「統一政策の妨害」を違法とする刑法第 87 条違反で、そ
れぞれ 8 年〜12 年の刑を言い渡している。
表現・集会・情報の自由
ベトナム政府は、独立系あるいは民間の国内メディアを認めず、報道機関とインターネ
ットを厳しく規制。ベトナムの著者、出版物、ウェブサイト、インターネット利用者の
うち、反政府的文書を掲載したり、国家安全の脅威と見られたり、国家機密を暴露した
り、「反動」的とみなされると刑法が適用される。政府は政治的に敏感な問題を扱うウ
ェブサイトへのアクセスを遮断し、インターネットカフェのオーナーには、利用者のオ
ンライン上の活動を監視・保存するよう義務づけている。また、独立系ブロガーやオン
ライン上で政府を批判する人びとには嫌がらせや圧力を加えている。
8 月にハノイ市で行われた反中国デモは強制的に解散させられた。中国大使館付近とホ
アンキエム湖周辺を平和的に行進したデモ参加者たちは、脅しや嫌がらせ、逮捕などに
さらされた。新聞やテレビ局などの政府報道機関は、デモ参加者の否定的なイメージを
流し続け、「反動主義者」のレッテルを貼った。
宗教の自由
ベトナム政府は宗教的行為を、法律や登録義務、嫌がらせ、監視を通じて規制。宗教団
体は政府登録を強いられ、政府運営の管理機関の下での活動を義務づけられている。政
府は、多くの政府系の教会や寺院に礼拝を認める一方で、「国益に反する」「国家統一
を損なう」「治安さく乱を引き起こす」「分裂の種となる」などと恣意的にみなした宗
教活動の一切を禁じている。
地方警察は、未認可のホアハオ教団体が創始者フイン・フー・ソーの命日に法事を営む
のを禁じ続けている。5 月と 8 月の仏教徒のお祭りの際、ダナン市警察はザックミン
(Giac Minh)寺とアンクー(An Cu)寺へのアクセスを遮断、信徒を脅迫した。両寺院
とも未認可のベトナム統一仏教教会に加盟している。
プロテスタント教会のグェン・チュォン・トン(Nguyen Trung Ton)牧師は、1 月に逮捕
されたが容疑は不明だ。カトリックの一宗派ハ・モン信徒活動家の山岳民族 3 人(ブレ
イ Blei、フォイ Phoi、ディンプセ Dinh Pset)は 3 月に逮捕されている。カオダイ教活動
家 2 人(グェン・バン・リア Nguyen Van Lia とトラン・ホアイ・アン Tran Hoai An)は
4 月と 7 月に逮捕された。4 月にはまたプロテスタント教会のグェン・コン・チン
(Nguyen Cong Chinh)牧師が逮捕され、「国家統一毀損」容疑で起訴されている。ま
た、ブロガーのレー・バン・ソン(Le Van Son)とター・フォン・タン(Ta Phong
Tan)を含む、ハノイ市とホーチミン市のレデンプトール会所属のカトリック教徒少な
くとも 15 人が 7 月、8 月、9 月に逮捕されている。
7 月に著名な宗教指導者で民主活動家でもあるグェン・バン・リー(Nguyen Van Ly)神
父が、 健康上の理由による約 16 カ月の仮釈放/自宅軟禁の後、刑務所に再拘禁された。
リー神父は以前に刑務所内で脳梗塞を起こしたために部分麻痺を患っており、その健康
状態が深刻に懸念される。
刑事司法制度
警察による拷問がベトナム全域で報告されている。時には、暴行の結果死に至ることも
ある。2011 年初めの 10 カ月間で少なくとも 13 人が、警察の拘禁下で死亡した。
政治的・宗教的な理由で拘禁されている人びとや敏感とされる事件の被疑者は、取り調
べの際に拷問されたり、裁判に先立って隔離拘禁され、家族との面会や弁護士との接見
も許されないことも多い。ベトナムの裁判所は政府とベトナム共産党の厳しい支配下に
あり、独立性と公平性に欠ける。政治的・宗教的反体制派の人びとは、多くの場合、法
的手続の過程で法律専門家のサポートもなく裁判にかけられるが、これは公正な裁判に
関する国際基準に満たない。政治的に敏感な事件を引き受ける弁護士も、脅迫、嫌がら
せ、弁護士資格はく奪、投獄に直面している。
ベトナムの法律は、裁判なしの恣意的な「行政拘禁」を認め続けている。第 44 法令
(2002 年)と第 76 制令(2003 年)の下、反体制派や国家安全や公共秩序の脅威とみ
なされた個人は非暴力の活動家であっても、強制的に精神病院に入院させられたり、自
宅軟禁されたり、政府の「リハビリ/再教育」センターに拘禁される可能性がある。
非合法の薬物に依存する人びとは、政府の収容センターに拘禁されることがあり、そこ
でベトナムの薬物依存治療の主流である「労働療法」を受けることになる。2011 年初め
の時点で全国に 123 カ所の収容センターがあり、最年少で 12 歳の子どもを含むおよそ 4
万人が収容されていた。こうした拘禁はいかなる形式の適正手続や司法審査の対象にも
なっておらず、通常 4 年間程度は続く。労働義務などの収容センター規則に違反すれ
ば、警棒や電気棒で暴行され、食糧や水も与えられないまま懲戒房に監禁されてしま
う。カシューナッツの加工作業や、ジャガイモ、コーヒー豆栽培などの農作業、建設作
業、衣類縫製作業や竹、籐(とう)を使った製品製造などの強制労働の実態について、
元被拘禁者たちが証言している。ベトナムの法律により、こうした収容センターの製品
を扱う企業は税金控除を受けられる。強制労働の結果生産された製品の一部は、米国や
欧州などの海外で商品を販売している企業の物流システムに乗って流通している。
海外の主要アクター
ベトナムと中国の関係は複雑であり、国内政策、外交政策の両局面で主要な位置を占め
ている。ベトナム政府は、多くの活動家や一部の退役軍人により、国粋主義的理由から
増々批判されるようになった。これらの活動家たちは、南沙諸島および西沙諸島をめぐ
る領有権争いで、攻撃的な中国政府と比較してベトナム政府が弱腰だとして、政府批判
を強めている。2011 年、政府は高まる批判の声を消すのに躍起だった。
国際的には、中国の影響力を相殺すべく、米国・インド・日本、そして隣国である
ASEAN 加盟国との協力関係を強めている。
日本は対ベトナムで最大の二国間援助国として非常に大きな影響力を持つにもかかわら
ず、悪化を続けるベトナムの人権状況について、公の場での発言を控え続けている。
ベトナムと米国の関係は親密化し続けている。9 月にはニューヨーク市に新たなベトナ
ム領事館が開設され、ホーチミン市の米国領事館もアメリカン・センター開設により拡
張された。米国とベトナムは、多国間自由貿易協定 TPP への参加に向け現在交渉中の国
の一角でもある。
2010 年にベトナムを訪問した国連の独立専門家らが、1 月と 5 月に調査結果を発表。人
権および極度の貧困に関する国連特別報告者は、大方において前向きな報告書を発表す
る一方で、拷問等禁止条約(拷問及び他の残虐、非人道的なまたは品位を傷つける取り
扱いに関する条約)を含む主要な人権条約を批准し、施行するよう強くベトナム政府に
求めた。マイノリティーに関する国連特別報告者の発表した報告書はより批判的であ
り、ベトナムの若干の前進は認めながらも、宗教の自由に対する潜在的否定と、その他
の市民的権利に対する重大な侵害について懸念を表明した。同報告者はまた、ベトナム
訪問の際、政府の公的立場に一致する側面以外の全体像把握を妨げる障害があったと、
鋭く指摘した。
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