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父 母 を 敬 愛 し 、 楽 し い 家 庭 を つ く ろ う と す る 心 情 を 育 て る

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父 母 を 敬 愛 し 、 楽 し い 家 庭 を つ く ろ う と す る 心 情 を 育 て る
道 徳
ワークシートに書かせた。
家族に大切にされていることに気付くこと
により、さらに自分が家族のために何ができ、
れるようにしたかったからである。
今後、どうかかわっていけばよいかを考えら
○保護者からの手紙
いてください﹂と依頼しておいた。それを当
の一か月前に保護者に﹁わが子への手紙を書
須輪知子
道徳授業地区公開講座で実施する授業だっ
たので、保護者にも授業に参加してもらう、
家族は互いに支え合って生きていくのだとい
日まで預かり、授業の﹁終末﹂に教師から手
よい機会であると考えた。そこで、授業実施
う自覚の不足も一因であろう。親子の愛が盲
でき
目 的 な 溺 愛 に な っ た り、 わ が ま ま な 愛 情 に
渡した。
られることが理想である。
資料の概要
児童に、父母の愛とはどんなものかを知ら
せたいと考えたからである。
なったりせず、信頼と敬愛の関係にまで高め
東京都台東区立石浜小学校教諭
父母を敬愛し、楽しい家庭を
つくろうとする心情を育てる
はじめに
この期の児童は、学校生活に慣れ、行動範
囲が広がり、いた ず ら も 多 く な る 。 一 方 、 社
会性や思考能力が 発 達 し 、 視 野 が 拡 大 す る と
ともに、内省する 心 も 育 っ て い る 。
指導の工夫
日ごろ、子ども た ち は 父 母 の こ と を ﹁ 病 気
になると心配してくれる﹂﹁家族のために働
ろうとする態度を育てることが大切である。
⋮⋮﹂に迫るために、次のような工夫をした。
い﹁ 父 母・ 祖 父 母 を 敬 愛 し、 協 力 し 合 っ て
という児童の実態を考慮に入れ、本時のねら
﹁親から何かをしてもらうことへの喜びは
感じるが、家族の一員として協力的でない﹂
び太が、自分の名前の由来や、自分への両親
び太の誕生日に両親が喜んでいる場面、③の
本資料は、①のび太が母親にしかられ、自
分は大切にされていないと感じる場面、②の
この時期に、父母・祖父母への敬愛の念を
深めるとともに、 家 庭 生 活 に 積 極 的 に か か わ
いてく れる ﹂な どと考えている。﹁ 少しでも
の願いや思いを聞く場面、④今、自分が両親
●出典 ﹁ぼくの生まれた日﹂
︵文溪堂﹃4年
生のどうとく﹄︶
ている場面の四つで構成されている。
に喜んでもらうにはどうしたらよいかを考え
○ワークシートの活用
に大きな夢や期待を託してくれたりしている
日常よくしかられる主人公であるが、両親
が自分の誕生を心から喜んでくれたり、自分
ことを実感できるように、中心発問を設定し、
はしない ﹂﹁約束 は守れない﹂など、自己中
という意識が薄い。これは、子どもたちに、
心的なことが多く 、 自 分 も 家 族 の 一 員 で あ る
し現実に は﹁ 口答えをする﹂﹁頼ま れたこと
楽をさせてあげた い ﹂ と も 思 っ て い る 。 し か
3
2
家庭愛
第4学年
1
道徳と特別活動 2004/3 ● 26
● 道徳実践例
4 学習指導案
○主題名 父母の愛
○本時のねらい 父母,祖父母を敬愛し,協力し合って楽しい家庭をつくろうとする心情を育てる。
〈4−⑶家庭愛〉
【展 開 例】
導入
学習活動
主な発問と児童の心の動き
指導上の留意点
⑴ 自分の家族
○ 「家族っていいなあ。」と思うのは,どんなと
・日常生活の中で感じ
について話し
きですか。
合う。
ていることを発表で
きるようにする。
⑵ 「 ぼ く の 生
まれた日」を
○ パパとママに叱られたのび太くんは,どんな
ことを考えたでしょうか。
・しかられて悲しく悔
しい気持ちになった
読んで話し合
・パパもママもぼくのことなんか嫌いなんだ。
のび太の心情に共感
う。
・いつもしかられて嫌になっちゃうな。
できるようにする。
・パパやママは,ぼくのことをどう思っている
のだろう。
展
開
○ のび太くんの誕生を喜んでいるパパやママを
・周りの人が,誕生を
見て,のび太くんはどんな気持ちになったで
喜んでくれているこ
しょう。
とに気付くことがで
・ぼくの誕生を喜んでくれて,うれしい。
・パパやママは,大切にしてくれそうだ。
きるようにする。
◎ 病室の外の廊下で,パパとママの話を聞いて
・のび太の気持ちを考
いたのび太くんは,どんな気持ちだったでしょ
えられるように場面
うか。
絵を提示し,ワーク
・「のび太」という名前には,パパやママの願
シートに記入できる
いが込められているんだ。
ようにする。
・自分のことをとても大切にしてくれているこ
とがよく分かった。
⑶ 今までの自
○ 家族のために何かをしようと思うことがあり
・日常生活の中で,家
分の生活を振
り返って考え
ますか。
・進んでお手伝いをするようにしたい。
族について改めて見
つめ,自分がどのよ
る。
・自分でできることは,自分でやり,迷惑をか
うにかかわれるか思
けないようにしたい。
い起こさせるように
したい。
終末
⑷ 保護者から ○ うちの人からの手紙を渡します。
の手紙を読む。
27 ● 道徳と特別活動 2004/3
・家族の愛情に気付か
せたい。
なってほしくてしかったんだ。
T 皆さんは家族のために何かをしてあげた
いと思ったことがありますか。
らなかった。
C パパもママもぼくをかわいがってくれそ
うだな。
C お手伝いをして、お父さんとお母さんを
ゆっくり休ませてあげたいです。
授業の記録
︿導入﹀
T 廊下でパパとママの話を聞いていたのび
太くんは、どんな気持ちだったでしょう。
︿終末﹀
C
もっとお手伝いや片付けなどをして、パ
パとママが喜んでくれるようにしたいです。
けでも、してあげたいです。
︵ワークシートに書いた後︶
C
ぼくは、言っているのと全部が反対でど
うしよう。でもこれからは協力して、いい
子になろう。
T
では最後に、おうちの人が皆さん宛に書
いてくださったお手紙を渡します。読み終
とお母さんに抱っこしてもらって、退院で
C
両親はぼくが何もできないから嫌いなん
だ と 思 っ た け ど、 本 当 は ぼ く に い い 子 に
わった後、どんなことを感じたか話してく
ださい。︵読み終わって、児童が挙手︶
C 両親ばかりでなく、お兄ちゃんまでがぼ
くが生まれてくるまで神様にお祈りしてく
れ、生まれたとき、すごく喜んでくれてう
れしい。
きたことを知りました。お母さんが苦労し
C
ぼくが生まれてくるときは、元気がなく
泣くことができなかったなんて。お母さん
C ぼくが生ま
れたことを喜
が退院する日まで保育器に入れられ、やっ
んでくれて、
C ︵ い つ も 明 る く、 や ん ち ゃ なA 男 が 目 を
うるませながら、小声で︶ぼくも○男くん
ました。
さんをあまり苦しませてはいけないと思い
てぼくを生んでくれたことを知って、お母
たなんて、知
んでくれてい
C ぼくの誕生
をあんなに喜
よかった。
う。
なったでしょ
C
ぼくの名前には、パパとママの願いが込
められていたんだな。
T ﹁家族っていいなあ。﹂と思うのは、どん
なときですか。
板書
︵中心発問︶
C
がっかり。や る 気 が な く な る よ 。
T
のび太くんの 誕 生 を 喜 ん で い る パ パ や マ
マ を 見 て、 の び 太 く ん は ど ん な 気 持 ち に
C ちゃんと後で ︵ 勉 強 を ︶ や る の に 。 信 用
してほしいよ。
C
悲しいし、悔 し い 。
T
パパとママに し か ら れ た の び 太 く ん は 、
どんなことを考 え た で し ょ う 。
C
お誕生の日に 、 お 祝 い を し て く れ ま す 。
︿展開﹀
C
病気のとき、 看 病 し て く れ ま す 。
C
困ったことが あ る と 、 心 配 し て く れ ま す 。
C 悲しいことが あ っ た と き 、 慰 め て く れ る
ので、いいなと 思 い ま す 。
C お母さんは、洗濯や掃除、弟の面倒をみ
たりなど大変なので、せめて弟のおもりだ
5
道徳と特別活動 2004/3 ● 28
▲
● 道徳実践例
保護者に道徳授業の積極的な公開を
◆家庭愛の指導について
してもなかなかできない自分に気付くことが
家庭愛の内容は,家族愛と家庭愛とに分け
できたのではないかと思われる。
て考えることができる。すなわち,昭和52年
の学習指導要領には次のようにある。
◆感涙にむせんだ保護者からの手紙
4−⑶家庭愛の指導では,終末の部分で保
「家族の人々を敬愛し,よい家庭を作ろうと
護者からの手紙を子ども一人一人に手渡すこ
する。(低学年においては,父母などに対し
とが多い。その手紙を読んで,保護者の子ど
て感謝の念や親愛の情をもつことを,中学年
もへの純粋な愛に,子どもははっとさせられ
においては,家族の一員としての役割を果た
すことを加え,高学年においては,更に,家
る。
・展開の後段で,資料を通して家庭愛につ
族の立場を理解し,楽しい家庭にしようとす
いて学んでおり,肉親が登場することに
ることを加えて,主な内容とする。)」
よって,一層身近なものとしてとらえる
さて,現在の学習指導要領の中学年の内容
ことができる。
は「父母,祖父母を敬愛し,家族みんなで協
・肉親の話は体験に根ざしており感動的で
力し合って楽しい家庭をつくる。」である。
前半が家族愛であり,後半が家庭愛である。
ある。
この事例のA男は,未熟児で生まれて保育
後半の「家族みんなで協力し」とは,家庭に
器に入れられ,生死の間をさまよったのかも
おける自分の役割を果たしてよい家庭や楽し
しれない。そのような実際のことを母親から
い家庭をつくることである。
聞かされることにより,今さらながら家族の
須輪先生は,展開後段の価値の一般化のと
ころで「家族のために何かをしようと思うこ
子どもに対する愛情の深さを知ることになる。
そこのところに着目した須輪先生の指導が,
と」を問うている。家族愛を指導するという
子どもの心を揺さぶったのである。
立場からは,もう一歩踏み込んで「家族のた
同時に,道徳の授業を保護者に公開して,
めに何かをしようとして,できなかったこと
一緒に心を育てる大切な機会となったといえ
はないか」と問うことにより,そうしようと
よう。
29 ● 道徳と特別活動 2004/3
(本誌編集委員会)
と 同 じ で︵ 未 熟 児 で 生 ま れ ︶
、すぐに保育
やっと生まれていたことが分かりました。
察
器に入れられました。体にチューブをつけ、
それなのにぼくは親にわがままを言って困
らせてばかりで⋮⋮。
︵涙を流し、絶句︶
まとめ
本授業は、漫画﹁ドラえもん﹂をもとにし
た 資 料 で あ り、 児 童 も 楽 し み に 待 っ て い た 。
いた子どもたちも、中心発問のあたりから日
資料の前半は、の び 太 の 行 動 に 大 声 で 笑 っ て
ごろの自分の行動 と 置 き 換 え 、 真 剣 な 面 持 ち
でのび太の心情を 考 え て い た 。
かし、一人一人の児童に父母を敬愛する念を
終末は、教師の説話、児童の作文、録音テー
プなど、いずれの方法にすべきか迷った。し
育てるためには、 わ が 子 の 誕 生 に ま つ わ る 苦
心や名前の由来、 家 族 の 限 り な い 愛 情 な ど が
良の方法であると考え、本時のような展開を
つづられた保護者 か ら の 手 紙 を 読 む こ と が 最
試みた。親からの手紙を読んでいる児童の目
にはうっすらと涙 が 光 っ て い た 。
A 男が母親から の 手 紙 を 読 み 終 え 、 感 想 を
述べているうちに 、 感 き わ ま っ て 大 つ ぶ の 涙
を流し、絶句。そ し て 泣 き じ ゃ く る 姿 に 教 室
は一瞬、静まり返った。やがて、子どもたち
も教師も保護者も思わず涙し、まさに﹁父母
の愛﹂にふさわしい授業の幕切れとなった。
考
6
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