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企画書 - 専修大学ネットワーク情報学部ローカルコミュニティ

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企画書 - 専修大学ネットワーク情報学部ローカルコミュニティ
企画書
2010 年 7 月 作成
プロジェクトメンバー
リーダー:杉井 里沙
サブリーダー:本間 小百合
メンバー:吉田 友里恵
中江 將吾
佐藤 善幸
三沢 慎吾
眞山 和姫
本村 悠樹
土岩 亮吾
芦沢 正太
永井 勇樹
担当教員:小林 隆
‐目次‐
1.プロジェクト目標
2.問題点
2.1 大学教科書
2.2 ネットワーク情報学部の現状
3.解決策
4.電子教科書『TextremeS』
4.1 電子教科書 TextremeS の特徴
4.2 実例
4.3 シリーズ化
5.ビジネスモデル
5.1 ビジネスの概要
5.2 ビジネスモデル
6.スケジュール
6.1 現在までの活動状況
6.2 今後の活動の見通し
6.3 年間スケジュール
7.付録
7.1 事業背景
7.2 解決すべき著作権問題
7.3 セキュリティについて
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1.プロジェクト目標
当プロジェクトは、「大学生という立場だからこそ見つけられる問題、解決できる問題は
ないだろうか?」という起案者の考えのもとに発足したプロジェクトである。
今回、当プロジェクトで取り上げた問題は「大学の教科書」の問題である。日頃、友達
や周りの人との会話の中で耳にする“教科書って高いのに使わない”という声。これが、今の
大学生が学習する上で直面している問題ではないだろうかと考えた。そこで、現在の教科
書の問題や教科書周辺の現状を調査し、学生にとって理解しやすい理想の教科書とは何な
のかを考える。加えて、学生・教員・出版社など教科書に関わるすべての人々が喜び、満
足する仕組みを提案する。現実的で今すぐ普及できるものを提案し、最終的には専修大学
で実際に取り入れてもらえるような教科書ビジネスを企画することを、当プロジェクトの
目標とする。
2.問題点
2.1 大学教科書
(1)現在の大学教科書
「教科書」は、授業を受ける・勉強をするにあたって重要となる教材である。小学校か
ら高校まで当たり前のように教科書を購入し、授業を受けていた。では大学も同じかとい
うと、そうではないのが現状である。
小・中・高等学校の学校教育においては、国民の「教育を受ける権利」を実質的に保障
するため、全国的な教育水準の維持向上・適切な教育内容の維持などの要請がされている。
そのため、文部科学省による教科書検定が行われている。これは、民間で著作・編集され
た図書について、適正審査に合格しなければ教科書として扱うことができないというもの
である。ところが大学では教科書検定が行われず、教員が指定した書籍がそのまま教科書
として扱われる。これにより、自由なものを教育現場で扱えるという利点がある。しかし
その半面、教科書検定が行われないために助成金が出ないのである。
大学の授業では、教員が教科書を授業のテキストとして指定するものもあるが、受講者
全員が指定された教科書を購入しているわけではない。そこには、高校までの教科書と違
う、大学教科書の問題点がある。
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(2)大学教科書の問題点
高校までの教科書と大学の教科書を比べて決定的に異なる点は「価格」である。上で述
べたように、大学で使用する教科書は教科書検定が行われず助成金が出ないこともあり、
1冊 3000 円程度の高価なものが多い。色々なことにお金がかかる大学生活の中で、1冊
3000 円の教科書を年間に何冊も購入することは非常に負担となっている。また、ページ数
が多いため重くかさばることも問題となる。高校までは、教室に自分の机があり、教科書
を机に置いておくことができたが、大学には自分の机などない。毎日授業で使用する教科
書を自宅から持ってこなくてはいけない。大きな荷物を背負ってキャンパス内を歩いてい
る学生は多いが、遠くから何時間もかけて重くかさばる荷物を背負って通学するのは非常
に大変であり、こういった「重い」、「かさばる」といった物理的な問題も大きな問題であ
る。これらの問題が弊害となり、教科書を購入しない、あるいはできないといった現状が
あると言える。
さらに、教科書の内容にも問題がある。大学の授業で指定される教科書は、専門書が多
い。そのため内容が難しく、学生は教科書だけでは内容が理解できない。知識の少ない学
生が読むための「基本的な内容」が現行の教科書には書かれていないからである。
また、この教科書を読むと何に役立つのかといったメリットや目的が分かれば、必要性
を感じて読む人は増える。しかし現状では、「教科書が将来的にどのように役に立つのか」、
「読むとどんなことが身につくのか」といった点が学生には分からない。そのため、教科
書の必要性が分からず購入しないのである。
教科書を購入しない理由は教科書だけの問題ではない。授業での教科書の使い方にも問
題がある。教科書を指定していても、その教科書を十分に活用していない授業は少なくな
い。授業で使用する教科書として指定されているにもかかわらず授業でほとんど使用され
ない、教科書の順序とは違う順序で授業が進められるため混乱する、授業内容と教科書の
内容にずれがある、というのが現状である。とは言え、授業の形式が悪いわけではない。
根本にあるのは、指定する書籍の内容が「専門的すぎる」ということであり、現在の教科
書が授業に柔軟に対応できるようなものではないということにある。
使うかわからない教科書にお金は払えない、授業内容との関連性が低い教科書は買う必
要がない。学生がそう考えてしまうのは、ある意味当たり前である。
以上のような問題から、現在の大学の授業では教科書が十分に活用できているとは言え
ず、効果的に学習できているとは言い難い。
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2.2 ネットワーク情報学部の現状
(1)授業形態
現状の問題を改善すべく、ネットワーク情報学部の授業形態について調査を行った。現
在のネットワーク情報学部で開講されている専門科目には色々な形態があるが、調査の結
果、多くの授業がスライドや配布資料をベースに進められていて、指定された教科書に沿
って進められている授業は、専門科目全体の 25%程度であるということが分かった。
(2)教科書の購入状況
表:ネットワーク情報学部 2010 年度
教科書を指定されている主な専門科目
教科書購入状況
(情報提供元/履修者数:ネットワーク情報学部教務課、教科書購入数:専大書房)
※専大書房で教科書を購入すると、上の表で表示されている定価の 5%OFF の価格で購入できる
上の表は、ネットワーク情報学部 2010 年度の専門科目で教科書が指定されている授業の
履修者人数と、教科書が専大書房で購入された数量を一覧にしたものである。実際には、
購買会でも販売されているものがあったり、先輩から譲り受けたり、Amazon などのネット
書店で購入する人もいるため、保有率はもう少し高いと考えられる。この表を見て分かる
ように、全体的に教科書の購入率が高いとは言えず、中には極端に低いものもある。購入
率が高い教科書は、授業で使用する頻度が高い、あるいはレポートの執筆・テストでの持
ち込み等で必要になるものである。逆に購入者が少ない、あるいは購入者がいない教科書
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としては、指定しているにもかかわらず授業で教科書を全く使用しないこと、価格があま
りにも高いといったことが購入されない理由として考えられる。購入率が高い教科書につ
いても、価格に満足して購入している人はほとんどいない。多くの人は単位のためにやむ
なく買っているのである。学生の教科書購入時期について、専大書房に話を聞いたところ、
専門科目や一般教養などの教科書が売れる時期は大きく2つあるという。1つは、授業が
始まる4月である。そしてもう1つは、試験期間が近い7月である。授業で必要なければ
教科書は買わないつもりであったが、期末試験あるいは期末のレポートで教科書が必要だ
と分かり、7月に購入するという学生が多いと考えられる。
(3)教科書を指定しない授業
調査の結果、ネットワーク情報学部で教科書を指定している授業は全体の 25%程度であ
ることが分かった。つまり教科書を指定しない授業は、ネットワーク情報学部の専門科目
全体の約 75%を占めている。では、いったいなぜ授業で教科書を指定しない教員が多いの
だろうか?これについて調査した結果、いくつかの理由があることが分かった。前提とし
て、ほとんどの教員に共通するのが「教科書に指定できるような良い書籍がない」という
ことである。教科書にしたい書籍があれば指定したいが、該当するものがない。となると、
自分自身で教科書を書くしかないのだが、書けない理由がある。
まず挙げられるのが、ネットワーク情報学部の専門科目で扱う内容は移り変わりが激し
く、最先端の内容を授業で扱うには書籍化は難しいということである。現在の教科書は、
書こうと思ってから実際に書籍が出版されるまでに時間がかかる。そのため、いざ授業で
使用しようと思った時にはすでに内容が古いといった事態が生じてしまう。「情報」という
分野はものすごいスピードで発展していくため、最先端の内容を扱うためには手軽に簡単
に作成できるスライド(パワーポイントなど)を使用せざるを得ないということである。
他に挙げられるのが、教員にとって教科書を執筆する時間を作るのは難しいということ
である。教科書を執筆するためには、関連する専門書を数十冊から数百冊読む必要があり、
非常に手間と苦労がかかる。教科書というのは教員の業績が形として残せるものなので、
書くからにはより質の高い教科書を執筆したいと思うものである。
他に、学生の経済状況を考慮して教科書を指定しない教員もいる。著作権法の許す範囲
内で教科書をコピーして配布資料として配り、学生の金銭的負担をなくそうと考えている
心やさしい教員である。
これらの理由を見て分かることは、ほとんどの教員は「教科書があったほうがいい」と
考えているということである。書きたいけど書けない。そういった現状をどうにかして解
決する手段はないだろうか?
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(4)スライド・配布資料ベースの授業の問題
スライドや配布資料をベースにした授業では、資料をもとに教員が口頭で説明するとい
った方法で授業を進めることが多い。こういった授業には、教科書がないことによる問題
がある。教科書というのは、授業中に使うことはもちろん、授業後の復習や内容整理など
にも使われる。では、スライドをベースにした授業では、どのように復習や内容整理をす
るのだろうか。そう考えてみると、スライドは後から見返すのにはふさわしくない教材で
ある。スライドは、教員によっても違うが大半は授業内容の要点がピックアップされてい
たり、授業内容に関連する図が載っているものが多い。仮に授業を受けなかったとして、
後からスライドの資料だけをみても、何を言っているのかさっぱり分からないであろう。
こういった場合に、やはり教科書は必要になってくると考えられる。
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3.解決策
以上のような問題を解決すべく、4つの解決策を提案する。
①教科書の電子書籍化
教科書の根本的な問題として「高い」、「重い」、「かさばる」という問題があった。こ
れらを解決する方法として、今急速に進んでいる「電子書籍」を取り入れる。電子書籍
については、
「5.ビジネスモデル」で詳しく触れることにする。教科書を電子化するこ
とにより、紙の書籍に比べて出版の費用を減らすことが可能となり、教科書が高いとい
った問題を解決できる。何冊も教科書を持ち運ぶ必要がなくなり、教科書本体の問題で
ある物理的な問題も解決できる。電子化することによって出版の手間が紙の書籍に比べ
て減るため、迅速な出版が可能となる。さらには、紙を使用しないことで環境面にもや
さしいといったメリットも存在する。
②授業内容を文章化した教科書を作る
ただ教科書を電子化するだけでは、専門的すぎるといった教科書の内容に関する問題
は解決できない。また、教科書を指定していない授業の問題を置き去りにしてしまう。
どの授業でも教科書は必要である。そこで、どのような授業でも対応できるような、学
生にとって理解しやすい教科書を新たに作ることを考える。
具体的には、授業内容をそのまま文章化して教科書にする。つまり授業の実況中継の
ような教科書を作ることにする。これによって、今まで専門的で理解しづらかった教科
書に比べて、授業内容だけを、授業の流れに沿って理解することができる。つまり、授
業内容と教科書の内容を完全に一致させることが可能となる。この教科書であれば、後
から見返しても話の流れが分かりやすく、学習効果を高めることができる。
教科書の執筆方法などについては後で詳しく述べるが、教員の負担は現行の教科書を
執筆するのと比べて圧倒的に軽い。そのため、今まで教科書を執筆できなかった教員で
も気軽に執筆でき、授業の理解度を高めることができる。
また、この解決策により「内容の移り変わりが多く教科書が書けない」という教員側
の問題を解決することができる。現在の紙の教科書から電子教科書にすることで、オー
サリングツール等で内容の改変が容易に可能となる。内容を改変しても、バージョンア
ップによるサポート等で購入者に最新の教科書を簡単に提供することができる。さらに、
授業内容を文章化しているため、内容の移り変わりによって話すことが変わった場合で
あっても、話す部分だけを追加する、あるいは書き換えればよいため、内容の改変にか
かる負担も少なくなる。
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一方で、授業内容を文章化することにより「学生が授業に出なくなるのではないか?」
という教員側の懸念もある。しかしこれについては、特に問題ないと思われる。授業内
容を文章化しているとはいえ、内容も理解度も実際の授業にはかなわない。また、学生
は決められた時間に授業があるから授業を受けている。授業が休講になった場合、本来
授業の時間であった 90 分間を、教科書を読んで過ごす学生はいるだろうか?間違いなく
ほとんどの学生は、そんな事はしないだろう。そういったことを考えると、「教科書=授
業の代わり」にはならないのである。
むしろ、教科書を読むことで実際の授業への関心が高まる可能性も考えられる。教科
書を読むことで、授業の雰囲気や話し方など、文面では分からないことを知りたくなり、
実際の授業への関心も高まるのではないか。これらの理由により、教科書を作ることで
授業の現状が変わってしまうといった問題は起こらないと考えた。
③応用的な知識を載せた教科書を作る
授業内容を文章化した教科書によって、授業で扱う内容を今まで以上に理解しやすく
なる。しかし、学生の中には授業で扱った内容以上に理解を深めたい学生もいる。そう
いった学生のために、もう1パターンの教科書を用意する。
具体的には、授業内容に加えそれに関連する応用的な知識を載せた、その分野をカバ
ーした情報量の多い教科書を作る。ただ情報を増やすだけでは現在の教科書と何も変わ
らない。そのため、授業内容に関連して応用的な知識を提供する。授業で扱う範囲は、
実際に学んで欲しい内容のほんの一部分である。教員にとっては、授業以外で学生自身
が予習・復習をすることによって授業内容以外の部分をカバーしてほしいと考えている。
そういった授業で扱えない部分を教科書でカバーすることによって、より理解を深める
ことができる。
②③の教科書の具体的な内容については「4.電子教科書『TextremeS』」で詳しく説
明する。
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④「新書」によるビジネスモデルを考える
学生にとって理想的な教科書を作ることによって、学生の購入率は高まる。しかし、
「専
修大学」という市場規模はとても小さいものであり、学生に満足されるだけでビジネス
として成功しないのが容易に想像できる。これでは実現ができない。
ここで考えられるのが、今回作成する教科書は学生以外でも気軽に読めるのではない
か?ということである。そこで、今ブームとなっている「新書」の概念を利用してビジ
ネスを展開することを考える。新書とは、安価で小型で気軽に読める内容の本のことで
ある。専門書のように分厚くて内容の濃いものではなく、小さくて分量も多くない。新
書が好まれている理由として「小さくて持ち運びに便利」「安い」といった理由が大半
を占めると想像できるが、実際はそうではない。新書が好まれる理由は「多岐にわたる
テーマで内容が豊富」「様々なジャンルの著者がいる」「最新の内容を扱っている」と
いったところにある。つまり新書は、当プロジェクトで作る教科書の「大学で用意され
ている様々な内容の授業を取り扱う」、「それぞれの専門分野を持つ教員」、「内容の
改変により更新された情報を提供可能」といった特徴とコンセプトがほとんど同じであ
る。
そのため、授業内容をカバーしたこの教科書は、新書として一般の社会人に売ること
で通勤などの空き時間に手軽に読んでもらえるはずである。新書は「安く、早く、ちょ
っと知る」ことができるため、授業内容をカバーした教科書は「新書」感覚で社会人に
も買ってもらうことができる。
また、応用的な知識を載せた教科書についても、ちょっと知りたいのではなく深く知
りたい社会人のためには非常に貴重な書籍となる。仕事で忙しく、学ぶ時間がなかなか
確保できない社会人にとって、応用的な内容が1つにまとめられている書籍はとても魅
力的である。
こういったところにビジネスの可能性を見出し、学生だけではなく一般の社会人に売
って利益を出すというビジネスモデルを考える。具体的なビジネスモデルは「5.ビジ
ネスモデル」で詳しく説明する。
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4.電子教科書『TextremeS』
現在、学生が感じている教科書周辺の問題点を、最先端の技術である電子書籍を用いて
解決していく。今回、我々が開発する電子教科書の名称を、TextremeS(テキストリームズ)
とする。これには、
Text(教科書)+extreme(最先端の)for S(専修大学)
:専修大学のための最先端の教科
書という意味が込められている。
以下、前章で問題点の解決策②、③として提案された電子教科書 TextremeS を詳しく説
明していく。
4.1 電子教科書 TextremeS の特徴
電子教科書 TextremeS の特徴として、以下の 3 つが挙げられる。
①授業をそのまま教科書にする
現在の大学教科書の大半は、難しい言い回しや専門用語が多く、教科書を読んでも内
容を理解するのが難しい。これに対して、大学授業は教員が事例や演習を織り交ぜて初
学者でも理解しやすいように工夫されている。このように、大学教科書と大学授業の内
容にずれがあるのは、大学教科書が不特定多数の読者を想定して正確な知識を伝えるこ
とを重視するのに対して、大学授業の内容は目の前の学生を対象にして分かりやすさを
第一にしているからであろう。
しかし、学生にとって教科書は授業を理解するために不可欠なものであり、教科書と
授業内容に大きなずれがあることは好ましくない。授業が教科書と歩調を合わせて進ん
でいくこと、授業を聞き逃したら教科書を見れば内容を確認できることなどが必要であ
る。このことを実現するには、授業をそのまま教科書にすればよいのではないか、とい
う考えにたどり着いた。
ところで、代々木ゼミナール、東進ハイスクール、河合塾など、大手の大学受験予備
校では、予備校のカリスマ講師による授業が「実況中継型参考書」として出版されてお
り、多くの受験生に利用されている。実況中継型参考書では、実際に講師が授業を行っ
ている内容を、講師の普段の話し言葉で書いたものがベースとなっている。さらに、本
文の内容に関連する図や参考資料などを掲載し、一冊読めば話の流れや周辺知識が一気
に吸収できるため、学校で指定された無味乾燥な教科書を読むよりも理解しやすい。ま
た、予備校の授業に出なくとも、カリスマ講師の知識が得られ、自分のペースで着実に
理解していけることから、実況中継型参考書は多くの大学受験生に人気がある。
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図 4-1:実況中継型参考書の事例(転載:Amazon.com クリックなか見!検索より)
この実況中継型参考書を参考にして、大学の授業をまるごと教科書にする。すなわち、
教員が授業で話した内容をベースに、流れに沿って参考資料やスライド等の授業に関係す
る教材の内容を盛り込んでいく。本文は、教員の話し言葉と同じく「ですます調」にして
読みやすい文章にしていく。また、授業で話した内容だけだと不十分な場合もあるため、
編集段階で教員に補足してもらう。
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②初学者向けと好学者向けの2パターンの教科書
電子教科書 TextremeS では、学習者の目的に応じて2パターンの教科書を作成する。
1つは、初学者向けに授業を忠実に再現したスタンダード版である。授業中に教員が
話した内容の他に、レジュメや資料の抜粋なども含める。これにより、仮に授業を休ん
だとしても、そこで説明された内容をある程度理解することができる。スタンダード版
の分量は、実際に試作をした際、授業1回で新書 20 ページ分(約 12,000 文字)となっ
たため、授業 10 回では新書1冊分(約 200 ページ)となる。
もう1つは、さらに高度な学習をしたい好学者向けの、プロフェッショナル版である。
本文はスタンダード版と共通のものを使用し、それに以下の資料を付け加えた発展的な
教科書である。
・参考にした雑誌、新聞記事の全文
・参考文献(書籍、論文)の数ページ分
・特定の企業や団体に関わる実例やデータ
・教員が独自に作成した演習問題とその解答
・参考資料等から抜粋した演習問題とその解答
以上の資料は、授業内容をより十分に理解するために必要なものであり、大学の授業
ではレポート課題やゼミという形態で学ぶものである。ただ単位をとるためだけに授業
を受ける学生には不要であるが、当該分野の知識を真に理解したいと思っているモチベ
ーションが高い学生にとっては必須のものである。プロフェッショナル版の分量は、ス
タンダード版の3倍、新書3冊(600 ページ)以上にはなると考える。
③一般読者を対象とする読み物とする
一般に、大学の授業の受講者は 20 歳前後の若者であり、大半がその分野の知識を初め
て学習する初学者である。多くの教員は、学習者の知識レベルを測りながら、時代に合
ったトピックスを織り交ぜて知識を理解させようと努力する。
従って、授業をまるごと文章にした教科書は、学生だけでなくビジネスマン、主婦、
リタイアした中高年層などの一般読者にとっても、良い啓蒙書になると予想される。現
在、出版界で新書ビジネスが儲かっているが、電子教科書 TextremeS を一般読者に販売
することは、そのトレンドにマッチしていると言える。
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4.2 実例
ここでは、電子教科書 TextremeS の実例を示して、その内容を具体的に説明する。
(1)スタンダード版について
図 4-2 は、教員が話した言葉を全て文章にした編集前の原稿である。電子教科書
TextremeS は基本的には授業内容を忠実に再現すれば良いが、以下の理由により適切な編集
作業が必要となる。
①
間投詞や意味わからない指示語が多い。
②
文章の内容が不十分なところがある。
③
冗長な話、ジョーク等、授業内容に関係ない部分も含まれている。
以上の問題を改善した編集後の原稿を図 4-3 に示す。
図 4-2 編集前の原稿
図 4-3 編集後の原稿
編集前に比べると、話し言葉によって親しみやすさを維持しつつ、書き言葉の正確性を
盛り込んで文章がまとまり、読みやすくなっているのがわかる。図 4-3 のような本文以外
に、授業で使用したスライドや参考となる図を使用したものがスタンダード版となる。
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(2)プロフェッショナル版について
プロフェッショナル版はスタンダード版と共通の本文を使用する。プロフェッショナル
版では本文である授業内容の詳細説明や参考資料、関連書籍、演習問題とその解答等の本
文の内容の補足といった、理解を深めるための知識が盛り込まれている。スタンダード版
にプロフェショナル版の情報を付け加えることにより、一冊の本に数冊分の知識が詰め込
まれるというイメージを持っていただきたい。
応用的な知識を多く掲載したプロフェッショナル版は、専門分野に興味のある学生には
理解を深める教材となる。また、学生だけでなく、もっと深く知りたい社会人にとっても
貴重な書籍となる。仕事で忙しく、学ぶ時間がなかなか確保できない社会人にとって、応
用的な内容が1つにまとめられている書籍はとても魅力的である。
プロフェッショナル版に盛り込む参考資料や演習問題等は教員が選ぶ。授業を行う上で
参考にしたものや、理解する上で参考にするとよいものなどを、本文の内容に沿って盛り
込むとする。以下は、付加機能についての説明である。
【参考資料・関連書籍】
授業の内容をさらに発展させるための参考資料や関連書籍が見れるようにする。発展的
な内容や事例を知ることで、理解度を深める。
図 4-4 :参考資料イメージ図
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【演習問題とその解答】
授業内容で取り扱った内容の理解度を深めるために付加する演習問題を必要に応じて載
せる。演習問題を解くことでより一層知識も身につきやすく、実用的である。
演習問題の種類は以下の2つである。
・教員が参考資料等から抜粋した演習問題
・教員が授業にあわせて作成した演習問題
教員が演習問題を選ぶため、内容との関係性が強い。
図 4-5:演習問題イメージ図
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【動的資料】
興味・関心を深めるために付加する動的資料を必要に応じて載せる。動的資料としては
・参考ビデオなどの動画としての参考資料
・プログラミングの実行結果などの動的な参考資料
などが挙げられる。参考ビデオなどの動画としての参考資料は、文章や図の資料よりも視
覚的な情報が多く、文字に比べて興味・関心を引きだしやすい。
プログラム等の動的なものを実装するための知識は、ソースだけを見るのと、そのソー
スがどのように動いているかを見るのとでは理解度が異なってくる。どのように動くのか
という動的な資料を載せることにより、興味・関心もより一層高くなる。
図 4-6:動画資料イメージ図
【事例】
興味・関心をより一層深めるために、特定の企業や団体に関わる実例やデータを載せる。
基礎知識、応用知識を学ぶと、やはり気になるのが実際にどのように知識が活用されるの
か、という点である。事例を提示することで、より一層現実的になる。事例は教員が参考
としたものや、参考にしたらよいもの等、文章、動画の資料を選び、掲載する。
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4.3
シリーズ化
(1) 学生の現状
ネットワーク情報学部 3 年生 220 名にアンケート調査を行ったところ、現在勉強してい
ることが将来に役に立つと思うかという質問に対し、YES と答えた人は 109 名 NO、どちら
とも言えないと答えた人は合わせて 107 名であった。
現在の学んでいることが将来役に立つと思うか?
2%
YES
47%
51%
NO
図 4-7:将来性についてのアンケート結果
学生の約半数が、現在勉強していることが将来に役に立たないと回答しているのである。
その理由として、現在勉強している内容が専門的すぎる、どう役立つのかが見えないとい
った意見が出ている。将来、現在学んでいることが役に立つとは思えないと感じている学
生が多いようだ。
(2) 解決策としてのシリーズ化
このような問題点に対する解決策として、書籍のシリーズ化を考案する。電子教科書
TextremeS は個々の教科書は授業に依存したもので、授業は通常レベル別に分かれている。
例えば、ネットワーク情報学部だと1年次では各コースの元となる基礎的な内容を一通
り学ぶため、1年次に受講した授業の位置づけは「基礎」となる。2年次ではコースに分
かれてそれぞれの専門科目を学ぶため、2年次の授業の位置づけは「応用」となる。そし
て、3年次では1,2年次で学んだことを活かしていく、すなわち「発展」という位置づけ
となる。
大学の授業というのは学部、学科、専攻やコースという括りがあるように、授業ごとに
も関連性がある。その中には基礎→発展と縦につながる授業もあれば、類似した内容が横
につながる授業もあり、様々である。このような授業の関連性を生かし、教科書同士のつ
ながりからシリーズという括りで提案する。
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関連性のある書籍を読み進めることによって、一つの学問を追求していく事が出来ると
考え、そのための機能として、運営サイトでは書籍同士の関連性を表す機能を作成する。
また、全体の視覚化だけでなく、その教科を学ぶ意義や位置づけの紹介、短期・長期的
な将来性の紹介を運営サイトで行う。
学生もその勉強が自分に必要だと感じることが出来た時、急に勉強する気になるもので
ある。そして吸収も早い。学生が自分で今学習している勉強が必要だと気づく機会を作る
ことにより、学生の学習意欲の向上にもつながる。そのためには、勉強していることが今
後どのように活用できるのか、また専門分野の中でどの段階の内容を勉強しているのかを
視覚化して伝えることが必要であると考えた。
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5.ビジネスモデル
5.1 ビジネスの概要
【概要】
今までの大学教科書とは違う、学生にとって理解しやすい理想の教科書である「電子教
科書 TextremeS」を作成し販売する。読みやすく低価格であることを特徴とし、教科書の保
有率を上げることで学習の効率化につなげる。また、興味を持った人や学ぶ意識の高い人
のために、授業では扱えない内容を盛り込んだ深く学ぶことができる教科書も作成し販売
する。また、学生だけでなく一般の社会人でも読めるような書籍として販売する。教科書
の販売以外でも、教科書から派生した講演会などの事業を考え「教科書」に関わる多くの
人が満足するような教科書ビジネスを展開していく。
【なぜこのビジネスは成功するのか】
今の教科書は売れていない。しかし、電子教科書 TextremeS は売れる。電子教科書
TextremeS は、授業内容をそのまま文章化した教科書である。内容は、今の教科書と比べて
格段に理解しやすい。極端な話、これを持っていれば単位が取れる。なおかつ、今の教科
書と違って価格がとても安い。こういった安くて理解しやすく単位が取れる教科書を、学
生が買わないはずがない。そのため、電子教科書 TextremeS は学生の購入率 80%を可能に
する。これで専修大学に電子教科書 TextremeS が普及する。
しかし、学生に売るだけでは儲からない。大学の授業は、様々な専門的な分野を初学者
である大学生に学んでもらうために行われているため、これを文章化した教科書も非常に
理解しやすい。こういった「安い」、「様々な分野」、「初学者向けの内容」というのは、今
ブームとなっている「新書」のコンセプトと同じである。つまり、電子教科書 TextremeS
は一般の人にも読んでもらうことができる。
だが、電子教科書 TextremeS は一般に売り出せるだけのブランドがない。しかし教科書
そのものは、専修大学の教員の授業の体系である。そこで、専修大学と連携して、専修大
学のブランドを利用してビジネスを行う。新書は、有名なものだと発行部数が数十万部・
あるいは数百万部などのベストセラーもあるが、電子教科書 TextremeS はそこまでは売れ
ない。しかし専修大学のブランドを利用することで、年間 1000 冊なら売れる。年間 1000
冊売れれば、ビジネスとしては成功する。なぜなら、電子教科書 TextremeS は紙の書籍と
違って印刷代・紙代・取次代などの変動費がかからないため変動費が少なく、1冊あたり
の利益が多いからである。そのため、世の中に知れ渡りたくさん売れれば売れるほど利益
が出る。よって、一般の人が買ってくれるようになることで、このビジネスは成功するの
である。
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5.2 ビジネスモデル
◆事業名
「大学の授業内容を文章化し電子化する大学教科書出版」とする。
また、事業背景(出版業界の現状・電子書籍の動向)については、付録として紹介する。
◆事業内容の概略
自社の簡単な事業内容である。詳しくは、事業内容の項で説明する。
・教科書制作の提案
教員への教科書作成の依頼
・教科書の制作
授業の文章化・文章の編集・電子書籍化
・サイトの運営
運営サイトによる授業や教科書の紹介、アフターサービスの提供
・講演会
書籍を読んで感銘を受けた人に対する教員の講演
◆目標
・ 業界初の電子書籍の教科書販売
・ 分かりやすい教科書出版 No.1 =
授業内容を書籍化した教科書
・ 購入者数
<スタンダード版>
学生へは1冊につき 100 人 / 年、その他(社会人など)には 900 人 / 年
合計 1000 冊 / 年
以上を売る
<プロフェッショナル版>
スタンダード版の購入者の2割の購入率(アップグレード率)を目指す
つまり、200 冊 / 年
以上を売る
・ 実際に専修大学で使われるような教科書ビジネス
20
◆顧客ターゲット
主なターゲットとなる顧客は
・
専修大学の学生
・
通勤時間などを有効に活用したい一般の社会人
とする。電子教科書 TextremeS によって、大学生が抱えていた教科書の問題を解決するこ
とができる。加えて、電子教科書 TextremeS を「新書」という形で世の中に流通させ、通
勤時間などを有効に活用したいと考えている一般の社会人もターゲットとする。
また、主なターゲット以外の購入者として以下のような顧客が考えられる。
・
他大学の教員
他大学の教員というのは、自社で作った教科書を他大学の教科書として採用してもら
う、ということである。専修大学を見ても、他大学の教員の執筆した書籍を教科書とし
て利用している授業は少なくない。こういったことから、自社で作った教科書が魅力的
で、かつ学生のニーズが高ければ他大学でも採用してもらえる。採用してもらえば、受
講生数百人が購入者となるため大きな収益となる。こういった動きが活発になれば、他
大学へ事業を拡大していくことも考えられる。
大学の教員は他の目的として、他の教員の授業への関心によって教科書を購入するの
ではないかと考えられる。教員の授業はある意味「聖域」のようなもので、他の教員が
踏み込むことはしない。言い方を変えると、他の教員がどんな授業をやっているかは分
からないということである。教科書として提供されれば、他の教員がやっている授業の
内容を知ることができるため、同大学の教員はもちろん、同分野を専攻している他大学
の教員も購入したいと考えるのではないか。仮に、教員が購入するのが当たり前になれ
ば「教科書の質」も上がってくる。ここでいう「教科書の質」とは情報量を増やしたり
専門性を高めることではなく、「授業の質」である。これによって大学の授業の価値が
どんどん上がっていくといった仕組みが出来上がれば素晴らしいことである。
・
リタイアした中高年層
リタイアした中高年層は、第2の人生を歩み出すために何をしようか考えている人が
多い。そういった人に、電子教科書 TextremeS を読んでもらってはどうだろうか?リ
タイアした中高年層の人たちはモチベーションが高い、つまり勉強がしたいのである。
そういった人たちに電子教科書 TextremeS で勉強してもらい、そこから広がる講演会
などに参加してもらうこと、さらにそこから大学院という道を用意することで、第2の
人生を歩み出すことができる。中高年層は学位に興味があるため、このような道に進む
きっかけとして電子教科書 TextremeS を利用してもらえればいいのではないか。
21
・
専修大学に進学希望・あるいは進学が決まっている高校生
専修大学に進学しようと考えている学生にとって、大学の授業とはどのようなもの
なのか、どのような分野があるのか、などと気になるものである。こういった学生が
電子教科書 TextremeS を読むことで、授業の雰囲気こそ分からないものの、どのよう
な内容の授業であるのかが分かる。つまり、電子教科書 TextremeS は高校生にとって
も読む価値のある教科書である。電子教科書 TextremeS を高校生が読んでくれれば、
大学の志願者の増加にもつながるため、大学側にとっても価値のあることである。
また、専修大学に進学が決まっている高校生については、大学の入学事前学習のよ
うな形で電子教科書 TextremeS を利用することができる。
22
◆既存の教科書との差別化
【顧客価値】
<専修大学の学生>
・今まで以上に効果的な学習が可能となる
・金銭的な負担が減る
<通勤時間などを有効に活用したい一般の社会人>
・手軽に読めるため、少しの時間を有効活用できる
・様々な分野について「安く、早く、ちょっと知る」ことができる
【教科書の価値】
<スタンダード版>
・紙の教科書よりも安い
・さらに、現在普及している電子書籍の価格の相場よりも安い
・従来の教科書より、授業内容の理解度が高くなる
<プロフェッショナル版>
・従来の教科書よりも詳しい
・授業内容に関連した情報が体系的にまとめられている
<共通>
・電子化によるメリット
顧客目線 : 劣化しない、廃版がない、重くない、持ち運びが端末一台で済む
教員目線 : 出版の迅速化、出版費用の削減
自社目線 : 教科書執筆の負担減、内容の改変の容易さ
・電子化ならではの表現方法・操作性・視覚性の実現
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◆提供方法
紙の書籍から電子書籍へと変わるため、提供方法についても大きく変える必要がある。
ここでは、今回のターゲットや市場にふさわしい提供方法を考える。
電子教科書 TextremeS は「配信」という形で電子データとして提供する。DVD などの電
子媒体にして提供する方法も考えられるが、そうすると紙の書籍と同じく配送や取次、書
店に費用が発生してしまうため、電子出版のメリットを活かせる「配信」という形をとる。
電子書籍を読む上で大事なのが、電子書籍を読むための「端末」である。現在市場に出
回っている電子書籍端末だと、Amazon の「Kindle」や Apple の「iPad」などがある。今回
作成する電子書籍は、「iPad」あるいは「iPhone」、「iPod Touch」用で作成する。理由は
①
iPad であれば様々な操作性や視覚性が実現され、柔軟な書籍を作ることが可能であ
る。
②
カラー表示が可能である。
③
名古屋文理大学情報メディア学科で 23 年度の新入生に iPad を無償で配布する動き
などから、今後大学を含め日本で普及する可能性が高い。
などである。iPhone、iPod Touch についてはすでに日本で普及しているため、今すぐでも
この2つの端末での利用は現実的である。また iPad についても、2 3年後には日本でも普
及し、多くの学生が所持していると言った状況が想定される。また 2 3年後に、電子書籍端
末が高いと言った理由で所持していない学生がいても、大学で授業を受ける上で無くては
ならないものだと気づき購入することは必至である。携帯電話が無くてはならないものと
なり、普及していったのと同じである。実際、携帯電話は端末代が 5 万円もするのに、必
ず無くてはならないことから高くてもためらわずお金を出してしまう。
次に考えるのが、電子書籍を見るためのアプリケーションである。今回は iPad を利用す
るため、Apple が iPad 用の電子書籍アプリとして無料で提供している「iBooks」を利用す
る。iBooks を利用する最大の理由は、
「自社の作る電子教科書 TextremeS を世間に知っても
らう」ことにある。iBooks は現在、アメリカの電子書籍市場で 22%のシェアを獲得してい
る。そのため、iBooks で電子書籍を提供すれば、一般の社会人にも売れやすい。また、既
存のアプリを利用することで、アプリの開発にかかる費用もなくなる。ユーザ側にとって
も、電子教科書 TextremeS を読むためにわざわざリーダーアプリをインストールするのは
面倒である。また、iPad を所有している人は iBooks をインストールしている人が多い。そ
のため、面倒なく電子教科書 TextremeS をダウンロードすることができる。
現在の iBooks では、自社の作る教科書で実現したい機能を搭載していない部分がある。
また、日本の iBooks では現在有料での販売は行われていない。しかし、ここ最近の電子書
24
籍は目覚ましく発展しており、日本での電子書籍の普及に向けての日本語・縦書き・ルビ
などの対応も進められ、自分たちがやろうとしている機能が実現できるようになることが
容易に考えられる。有料販売についても年内には開始が予定されている。そんな電子書籍
の未来に向けてではないが、主にプロフェッショナル版は柔軟な操作性や視覚性を実現し
た教科書となっている。プロフェッショナル版は、スタンダード版が普及してきて、かつ
電子書籍で様々なことを実現できるようになる 2 3年後をめどに販売を開始する。
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◆事業内容
【教科書制作の提案】
今回の事業は、専修大学の授業を対象に教科書化を進めていく。始めは専修大学の
中でも人気のある授業を対象に授業の文章化を行っていく。これが宣伝効果にもなり、
電子教科書 TextremeS が認知されてきたところで他の授業の文章化を行っていき、
最終的には約 1000 タイトルの教科書を出版する。
対象範囲は専修大学であるため、1 人 1 人に提案して回るのではなく、教員たちに集
まってもらい合同説明会のような形で教科書化の提案を、営業もしくは社長自らが行
う。ここでは、この企画のメリット(教員の負担・学生のニーズ・大学の宣伝効果な
ど)をしっかりと伝えていく。
【教科書の制作】
電子教科書 TextremeS は、以下のような流れで制作を行っていく。
①授業の録画
まず教科書執筆の前段階として、授業の録画を行う。この時、教員の話・板書・
演習の様子といった執筆する際に必要となる教科書構成要素の記録をする。
機材は録画・録音機器といった撮影後にデータとして保存し、後で繰り返し確認
できるものを使用する。機材の台数や設置場所については、教室の形や大きさ、授
業形態、履修者数、さらには学生の静寂さといった判断材料により異なる。そのた
め、授業にあった配置や台数により録画お行う。録画作成は担当教員ではなく、学
生アルバイトとして雇ってやってもらう。
②録画した授業の話を文字に起こす
学生アルバイトが、録画した授業の話を一字一句漏れがないように文字に起こ
すという単純作業である。アルバイトの学生がその科目を履修済みであれば、仮
に音声が聞き取れなかった場合にも知識でカバーして書くことができる。そのた
め、アルバイトはその科目を履修済みである学生が望ましいが、履修していない
学生でも PC を使用して文字を打ち込むことができれば特に問題はない。実際の作
業としては、録画した授業を何度も聞き返して文字にすることになるため、なか
なか根気のいる作業である。しかし同時に、文字に起こしている本人の理解度は
かなり高くなる。そのため、面倒な作業ではあるが給料ももらえて充実した学習
にもなり、いわば一石二鳥の仕事である。
③教員の編集
アルバイトの学生が授業を文章に起こしてくれたものを、教員がチェックする。
話し言葉の中には文章化にふさわしくない表現もあるため、教員自らの判断で編
26
集をしてもらう。また、裏話のような売り物にできないような話があった場合も
この段階で編集する。さらに、授業を文字に起こしたものに加えて、授業で使用
したスライドや参考となる図も盛り込みながら構成していく。この作業は、1か
ら教科書を執筆する手間に比べれば何てことない作業である。また、自分の授業
内容が文章化されたものを見ることで、授業の反省にもつながり、授業のクオリ
ティ向上につながる。
④プロの編集者による編集
教員の編集により内容が決まったところで、ここからプロの編集者による編集
作業である。ここでは文章の校正・レイアウト以外に、面白い読み物にするため
の編集作業をしてもらう。
基本的に学生の参加率も高い人気授業については、授業内容が面白いというこ
とであるためそのまま文章化しても問題はない。しかし、言い方はあまり良くな
いが、出席を取っているにも関わらず参加率が低い授業は、学生にとって魅力的
ではない授業内容であると考えられる。こういった授業をそのまま文章化するだ
けでは、面白い教科書にはならないのかもしれない。そこで、プロの編集者の力
を借り「書籍」としての戦略を組み入れる。内容を入れ替えるなどの大々的な編
集は教員も怒ってしまうが、マイナーチェンジを教員と相談しながら行うことに
より、面白い教科書にしていく。章ごとのサブタイトルについては、シラバス通
りでは一般の社会人にとって分かりづらいサブタイトルとなってしまう。かとい
って興味を引くようなサブタイトルにすることだけを考えると今度は学生にとっ
て分かりにくいものとなってしまう。こういったことを考慮し、教員と編集者で
相談してサブタイトルをつける。
こういった編集の有無は、学生への調査や実際の授業の様子などから判断して
いくことになる。
⑤電子書籍化
編集したものは、iBooks の「ePub」という国際的な電子書籍フォーマットで電
子書籍化する。ePub への変換は、Apple が指定する仲介業者を介して行う。
⑥オーサリング
情報の発展に伴う授業内容の変更などに応じて教科書の内容を改変する。内容
の改変は、マイナーな改変については教員自身に行ってもらう。ここで毎回編集
者を介入させないのは、迅速な内容の改変が実現できないからである。しかし 1
∼2 年ごとの大改訂であれば、編集者と相談して内容の改変を行っていく。
オーサリングについては、元のファイルで編集し、変換して、確認するという
繰り返しでは非常に手間がかかる。そのためオーサリングツールは、変換などの
作業の手間が掛からず、教員にも簡単にできるものを用意する必要がある。
27
【教科書の販売】
教科書の大まかな提供方法については、前で述べている提供方法のとおりである。
ここでは、具体的にどのように販売していくのかについてまとめる。
①
電子教科書 TextremeS(スタンダード版)を iBook Store で配信する。運営サイ
トでは、教科書を読むための iBooks をインストールしてもらうように促す。
② 電子教科書Textremes(プロフェッショナル版)については、iBook Storeからダ
ウンロードしてもらうか、既にスタンダード版に支払っている料金に上乗せして
アップグレードという形をとる。アップグレードは、運営サイトから行えるよう
にする。
③
電子教科書 TextremeS の内容の改変が行われた場合、バージョンアップをして
いく。これも運営サイトから行えるようにする。対象の教科書を購入されてい
る人にはバージョンアップの通知をし、バージョンアップをしてもらう。基本
的にバージョンアップは無料である。そのため、運営サイトからでもバージョ
ンアップが可能になる。大改訂である場合は、大きなバージョンアップとして
iBook Store で再度ダウンロード(有料)してもらうように促す。
【サイトの運営】
運営サイトでは、授業や電子教科書 TextremeS の宣伝・シリーズ化についての案内、
アフターサービス(プロフェッショナル版へのアップグレード・内容の改変によるバ
ージョンアップ)、講演会についての情報提供などの読者サービスを主に行っていく。
また、プロフェッショナル版で参考にしている書籍の紹介をし、Amazon などのネット
書店で購入できるように促していく。
学生には、運営サイトを通して電子教科書 TextremeS を購入してもらう。授業と教
科書の対応付けや、将来性などを明記して学生に必要性を感じてもらうことで、購入
につなげていく。
一方、一般の社会人はここから電子教科書 TextremeS を購入してもらうわけではな
いが、アフターサービスや講演会情報を得るために運営サイトを利用してもらう。
【講演会】
電子教科書 TextremeS を読んで感銘を受けた、主に一般の社会人・リタイアした中
高年層に対して教員による講演会を開催する。新書によるビジネスでも、著者による
講演などは行われている。また大学でも週末などに講演会が開催されることがある。
自社でも講演会を開いて講演会収入を得る。
28
◆課金モデル
【教科書の価格】
スタンダード版
:
800 円
プロフェッショナル版
:
2500 円
アップグレード版
:
1700 円
とする。
スタンダード版を買った人は、プロフェッショナル版へのアップグレードを負担なく
1700 円でできるようにする。
【価格の背景】
・学生の予算
学生にとって、現在の教科書は高いと感じている。紙の教科書の相場は 2000~
3000 円であるため、少なくとも 2000 円以下にする必要がある。ネットワーク情
報学部3年生を対象にアンケート調査を行った。意見としては、1000 円以下でな
いと買わないといった意見は多かったものの、3000 円までなら出せる、あるいは
3000 円以上でも買う、といった意見もあった。アンケートの結果として、教科書
にお金を出せる価格の平均はおよそ 1500 円であることが分かった。よって学生の
予算はおよそ 1500 円である。
また、興味の持てる分野であれば、多少高くても購入するということも分かっ
た。そのため、クオリティの高いプロフェッショナル版のような教科書のニーズ
も少なからずあるだろう。
・一般の社会人の予算
一般の社会人は、学生に比べればお金を持っている。しかし「新書」であると
考えると、予算は今の新書の相場である 800 円から 1000 円程度である。また、
必要と感じる専門書であれば高くても購入してもらえることが推測されるため、
3000 円くらいは出せるだろう。
【決済方法】
・クレジット払い
・銀行口座からの引き落とし
を用意する。
基本的には、クレジットカードで支払いをしてもらうつもりだが、学生の中にはク
レジットカードを持っていない人も多くいる。クレジットカードがないために教科書
が買えないと言った事態は避けなければいけない。そのため、銀行口座からの引き落
としもできるようにする。運営サイトでは会員登録をしてもらい、その中でクレジッ
トカードの情報や、銀行の口座番号を登録してもらう。
29
◆大学との連携
このビジネスは、大学と連携し「専修大学」というブランドを活用したビジネスを展
開できるようにする。大学と連携することで、以下のような大学を介したビジネスの展
開が考えられる。
①
大学のブランドを利用した宣伝を行う
専修大学の名前を利用して、ホームページや広報誌などで宣伝活動を行う。
②
一般の社会人に教員の講演会を開く
教科書を読んで感銘を受けた一般の社会人を対象に、大学のキャンパスを利用
して講演会を開く。講演会に参加する人は、一般の社会人のほかにリタイアした
中高年層も考えられる。中高年層に対しては、大学と提携して講演会から大学院
を勧める。これは大学院の志願者数の増加につながるため、大学にとってのメリ
ットとなる。
③
学内外のイベントで教科書を宣伝する
学内外のイベント時に、電子教科書 TextremeS のパンフレットを配布するなど
して電子教科書 TextremeS の宣伝を行う。
教科書の宣伝になることはもちろん、大学の宣伝にもなるため大学にとっての
メリットとなる。
④
大学で教科書を導入してもらう
自社の教科書ビジネスを大学で正式に取り入れてもらうことも視野に入れる。
実現すれば、学生の購入意識も高まる。また、この動きが専修大学の取り組みと
してマスコミなどに取り上げられれば大学の宣伝効果にもなり、大学にとっての
メリットとなる。
⑤
専大出版局を通じて他大学へ宣伝してもらう
専修大学の組織の中にある「専修大学出版局」は大学出版部協会に所属してい
る。そのため、この事業を他大学に広めようと思った場合に大学出版部を通じて
他大学に宣伝することができる。
こういった連携により自社だけでなく、専修大学の知名度・価値が上がり志願者数の
増加にもつながるというメリットがある。そのため、自社と大学との Win/Win の関係を
築くことができる。
30
◆宣伝・広告
教科書が世の中に知れ渡るために宣伝や広告、また学生や一般の社会人がより購入し
たくなるような販売促進の方法を考える。
【宣伝・広告】
宣伝・広告としては、以下のようなものを考える

運営サイトによる授業・教科書の紹介

運営サイトによる講演会の情報提供による講演会の告知

大学との協力により、学内外でのイベントでパンフレット等を配布
また、専修大学というブランドを活用しての宣伝活動

教科書の冒頭に、運営サイトへのリンクを載せる

教科書の最後に、同シリーズの教科書の宣伝を載せる

その他の広告
【販売促進方法】

立ち読みサービス
ネットで配信をする場合、実際の書店と違って立ち読みができない。そのた
め、ネット上で立ち読みができるようにし、販売を促進する仕組みを考える。
立ち読みサービスにより目次と最初の数ページ程度を見れるようにすること
で、教科書の雰囲気をつかむことができ、購入に迷うことが少なくなる。

将来性を明確にする
教科書のシリーズ化とも関連するが、運営サイトで教科書となっている授業
の分野における短期的・長期的な将来性などを明確にする。これによって必要
性を感じてもらい、購入につなげていく。

アフターサービスの提供
アフターサービスにより1冊の教科書を長く使用することができるため、よ
り購入しやすくなる。
31
◆ビジネスフロー図
ここまでのビジネスプランを図にしたものが、以下のものである。
32
◆組織体制
この事業を行うための組織体制は以下のようになる。
「営業部」
・電子教科書 TextremeS の作成依頼
・電子教科書 TextremeS の宣伝・広告等の検討
必要な人員:営業
「編集部」
・電子教科書 TextremeS の編集
必要な人員:編集者、学生アルバイト
「管理部」
・総務
・経理
・サイトの運営
必要な人員:社長(総務兼)、経理、サイト運営者
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◆売上計画
売上計画であるが、主な売上は電子教科書 TextremeS スタンダード版、電子教科書
TextremeS プロフェッショナル版の売上である。その他に講演会による売上もある。
【電子教科書 TextremeS スタンダード版】
スタンダード版の売上数は、目標の項でも挙げたように
学生へは1冊につき 100 人 / 年、その他(社会人など)には 900 人 / 年
合計 1000 冊 / 年
以上を売る
と考える。
また、出版する教科書の数であるが、専修大学で行われている授業は、語学系の教
養科目を除くと全部で約 1400 科目ある。このうちの約 1000 科目を対象とする。
初年度は、1000 科目のなかでも人気のある授業を対象に電子教科書 TextremeS と
して販売していく。
年々、他の授業についても教科書化していき、5年以内に 1000 科目全ての教科書
化が完了する予定である。
【電子教科書 TextremeS プロフェッショナル版】
プロフェッショナル版については
スタンダード版の購入者の2割の購入率(アップグレード率)を目指す
つまり、200 冊 / 年
以上を売る
と考える。
売上冊数に関しては、教科書の販売を開始したばかりは一般の社会人の認知度が低
いため、900 冊も売れないだろう。年を重ねて徐々に認知度が高まってきたところか
ら、年間 900 冊が一般の社会人に売れるようになる。
【講演会】
講演会による収入は、プロフェッショナル版を購入した人の 2~3 割からを見込ん
でいる。よって、50 人 / 冊 が講演会に参加する。また、受講料は、1回 3000 円
とし、講演内容は全5回で完結される。講演会は、はじめは全科目の約 2~3 割程度
で開催し、徐々に増やしていく。
34
◆要員計画
この事業を行うために必要な要因は以下のようになる。
・社長(総務兼)
・営業
… 扱う教科書 100 冊につき1名
・編集者
… 制作する教科書 20 冊につき1名
・サイト運営者
・経理
…
…
1名
経営が安定してくる 3 年目から雇用
(3 年目までは社長が兼任)
・学生アルバイト
…
教科書 1 冊につき1名
◆費用計画
この事業を行うための主な支出は以下のようになる
【人件費】
・社長
…
350 万円 / 年
(月給 約 30 万円)
・営業
…
250 万円 / 年
(月給 約 21 万円)
・編集者
…
350 万円 / 年
(月給 約 30 万円)
・経理
…
300 万円 / 年
(月給 約 25 万円)
・学生アルバイト
…
4 万円 / 科目
(1回分 約 3000 円)
・講演料(教員)
…
10 万円 / 5 回
(1回分 2 万円)
【その他】
・印税(教員)
…
スタンダード版:価格の 10%
プロフェッショナル版:価格の 20%
※プロフェッショナル版の場合、参考書籍の著者も含めて分割する
・Apple への手数料
…
書籍の売り上げの 30%
(iBook Store で販売する場合は、30%の手数料を Apple に支払う)
・宣伝費
…
初年度:300 万円
2 年目以降:扱う書籍の数×10 万円 / 年
とする。
宣伝費は、書籍の価格×販売部数の 10%が相場と言われている。
しかし、今回は主に大学と提携して宣伝を行うため、宣伝費は固
定費にしている。
・家賃
…
200 万円 / 年
・設備費
…
初年度:300 万円、2 年目以降:100 万円 / 年
※初年度には、運営サイトの開発費などの初期費用が含まれる
35
◆教科書 1 冊の内訳
スタンダード版とプロフェッショナル版について、5年間で売れる部数からそれぞれ
の価格の内訳を考えたところ、以下のようになる。
Standard
7%
1%
制作費用:編集費
制作費用:アルバイ
ト代
30%
52%
Appleへの手数料
教員への印税
自社の利益
10%
Professional
9%
0%
制作費用:編集費
制作費用:アルバイ
ト代
41%
30%
Appleへの手数料
教員・参考書籍の著
者への印税
自社の利益
20%
以上のように、1からの執筆を必要としない電子教科書 TextremeS は、制作費用の占め
る割合が小さい。価格の 30%が制作費用の相場と言われている出版業界と比べると、制作
費用がかからないということが分かる。また、制作費用は固定費であるため、部数が売れ
れば売れるほど利益が出やすい。
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◆収支計画表
費用計画をもとに、準備期間の1年間を含めて6年間の収支計画表を作成した。
収入と支出が重なるところが損益分岐点である。損益分岐点から、3年目を境に利益が
出ることが分かる。また、タイトルが増えてくると収入はどんどん伸びていくことが分か
る。
累積利益は、およそ4年目を境にプラスになることが分かる。4年目以降は、利益が急
激に伸びている。理由としては、変動費の少ない電子教科書 TextremeS は売れる部数が増
えることで、支出を抑えて利益を出すことができる。また、1から執筆する必要がないた
め、制作・編集費用などの固定費も非常に少ない。よって、数千部しか売れなくても利益
を出すことが可能である。加えて、扱う教科書の数が増えてくるため売上は急激に伸びて
いく。利益が4年目以降に急激に伸びるのはそのためである。
37
6.スケジュール
6.1 現在までの活動状況
当プロジェクトの現在までの活動状況は、以下のとおりである。
・
大学教科書とその周辺についての調査
・
現在の大学教科書の問題についての根本的な問題点を発掘
・
問題点から解決課題の抽出
・
解決課題を達成できるような新しい形の教科書のコンテンツ案の作成
・
教科書・電子書籍・著作権について調査
・
ビジネスモデルの考案
・
コンテンツ案に従って試作版の教科書を一部分だけ作成
・
パワーポイントでのプロトタイプ作成
6.2 今後の活動の見通し
今後の活動の見通しは、以下のとおりである。
・
様々なパターンの授業の教科書を作成
→情報系だけでなく、経済、経営、文学などの教科書コンテンツを作成する
⇒このコンテンツ案で教科書が実際にできるという根拠
・
教科書関連サービス運営サイトの開発
→電子教科書 TextremeS の宣伝、内容の改変によるアップグレード、
講演会の情報提供などの読者サービスを行うサイトを検討する
・
専大ベンチャービジネスコンテストでの入賞
→ビジネスモデルをさらに強化して第三者の厳しい評価を受ける
・
プロトシステムの開発
→iPad などの電子書籍リーダーを想定して、電子教科書 TextremeS の具体的な
仕上がりイメージを作成する
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6.3 年間スケジュール
現在までの活動と、今後の活動計画を含めた年間スケジュールである。
39
7.付録
7.1 事業背景
(1)出版業界の現状
国内の出版市場については、近年、販売価格・販売部数共に減少傾向にある。出版物の
販売金額はピーク時の 1996 年には 2.6 兆円あったが、2009 年は、1.9 兆円と、5 年連続
で前年を下回った。これに伴って、地方を中心に書店の数も減少している。
表:出版物の推定販売金額と推定販売部数の推移
(出典:社団法人全国出版協会出版科学研究所「2009 出版指標年報」、「出版月報 2009.01」)
昨今は「出版不況」といわれ、出版物の売り上げは伸び悩んでいる。「出版不況」の原因
として考えられる理由はいくつかある。まずは、「インターネットの普及による活字離れ」
である。最近の人はインターネットが普及してきたこともあり、本を読まない人が多くな
った。また、
「マンガ喫茶の増加」、
「レンタルコミックの普及」、「古本書店の増加」などに
よって新本の売り上げが伸びないというのも原因である。
こういった状況の中で登場した出版ビジネスとして「ネット書店」が挙げられる。ネッ
ト書店と言えば「Amazon」が有名であるが、ネット書店であれば近所の書店では置かれて
いない本が買えたり、購入者の声が聞けたりとメリットが多い。近所の書店では置くこと
ができない多くの本を売ることで、Amazon は利益を上げているのである。
そして最近登場したのが「電子書籍」である。ネット書店で利益を上げている Amazon
も電子書籍市場にいち早く参入し、電子書籍によるビジネスを展開している。アメリカの
Amazon の電子書籍の販売数は、すでに紙の書籍の販売数を上回っている。現在、電子書籍
市場の拡大によって出版業界はさらなる深刻な状況へともたらされている。
40
(2)電子書籍の動向
◆電子書籍について
そもそも電子書籍というのが世の中で意識され始めたのは 20 年ほど前からであり、ソニ
ーの小型電子書籍専用機器が発売されるなどの電子書籍の普及に向けた事業が始まった。
インターネットが普及してきた 2000 年代では、音楽などのデジタルコンテンツを利用した
ビジネスが展開されるようになった。書籍に関しても同じように、電子書籍として小説・
雑誌・マンガなどの電子書籍が登場した。2000 年代にはソニーや松下電器産業(現パナソ
ニック)が電子書籍専用端末を発売した。書籍の革命になるのではと注目されたが、出版
社が非協力的であったため、著作権が切れたいわゆる青空文庫を中心に扱うことしかでき
ず、新刊の書籍について扱うことはできなかった。コンテンツは紙の書籍に比べて安い物
の、期間限定での提供により、読者が読みたい時に読めないといった不満や、端末の価格
が高価である問題などから、普及するには至らず電子書籍関連の事業から手を引いたとい
う事実がある。
同時期に発展してきていたのが、携帯電話である。日本の携帯電話の多機能化が急速に
進み、電子書籍を携帯向けに配信するようになった。そして携帯電話の電子書籍市場はど
んどん拡大していく。以下の資料をみると、電子書籍の市場規模が年々大きくなっていく
中で、携帯電話向けの電子書籍の市場規模がどんどん増えている。08 年の携帯電話向けの
電子書籍の市場規模は、市場全体の 86%を占めている。一方の PC 向け電子書籍市場は 07
から 08 年で衰退している。
表:電子書籍の市場規模の推移(億円)(2002 年度~2008 年度)
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(出典:インプレス R&D)
こういったことから、PC よりも手軽な携帯電話での利用が多くなってきていることがわ
かる。しかしながら、画面の小さい携帯電話での電子書籍の可能性には限度があるのでは
ないか。
そんな中、再び電子書籍端末が世の中に現れる。今日の電子書籍ブームの発端になったの
が 2007 年にアメリカで発売された Amazon の「Kindle」、続いて登場したのが 2010 年 4
月に同じくアメリカで発売された Apple の「iPad」である。Kindle は電子書籍専用端末だ
が、今まで電子書籍端末とは違い利便性が向上し、何と言っても扱う書籍が新刊から豊富
に取りそろえている。一方の iPad は、電子書籍専用端末ではなく、様々な機能を搭載した
タブレット型コンピュータである。iPad 用の電子書籍アプリ「iBooks」は、今までにない
デザイン性と操作性を実現している。電子書籍を読めるだけでなく、インターネットやメ
ール、音楽プレイヤーとしても使えるため、現代人には親しみやすいものであると言える。
こういった新たな電子書籍(端末)の登場によって、電子書籍が日本国内で普及するのも
そう遠くはなくなった。
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◆電子書籍のビジネス
電子書籍の市場規模はどんどん拡大していくが、その背景にはいったいどのようなビジ
ネスがあるのだろうか。基本的な電子書籍のビジネスモデルについて調査した。
電子書籍を見るためには端末が必要である。そのため、魅力的な端末を作り上げて売れ
れば大きな利益となる。現在の電子書籍端末は操作性・視覚性にもこだわり、実際の書籍
を読んでいるような感覚で読書が可能である。電子書籍の制作費用は紙の書籍に比べて少
なく、実際の価格も紙の書籍より安い。そのため、一度購入して良さを感じた人は色々な
書籍を購入し続ける、つまり「客単価」が高くなる。また、今まで新聞や雑誌を定期購読
していた人にとっては物理的な問題などが改善されるため、非常に求めやすい。そのため、
新聞や雑誌の定期購読料は電子書籍ビジネスの大きな収益の1つとなっている。
また、電子書籍には様々な可能性がある。ネットからネットを通じて書籍を手に入れる
ことができるため、世界各国の書籍にもアクセスすることが可能である。今では絶版にな
って書店では手に入れられない古い書籍も電子書籍として数多く存在する。さらに電子書
籍ではフォントの変更やサイズの変更ができるため高齢者でも簡単に読むことができる。
音声読み上げなどの機能も実現できるため、視覚障害の人にも読書を楽しむことができる。
このように、電子書籍のビジネスは、今までの紙の書籍に多くの付加機能を実現できる
ことに加え、どこの書店でも価格が同じである紙の書籍と違って価格競争も行われるため、
様々な可能性があるビジネスであると言える。
電子書籍ビジネスのターゲットは誰なのだろうか。1つの大きなターゲットは「若者」
である。携帯電話の電子書籍市場が大きくなっていった背景には、携帯電話の発展に伴う
デジタルコンテンツの登場に若者が興味を持ったことがある。若者は、デジタルコンテン
ツにお金を払うことを躊躇せず、そのため電子書籍市場も拡大していった。こういったこ
とから分かるのは、若者は「読書」というものに対しての形のこだわりはほとんどないと
いうことである。今まで読書をしなかった若者が、デジタル化された書籍の登場によって
読書をするようになれば、それはそれで良いことである。そのため、電子書籍端末が普及
することで若者が食いつけば、ビジネスとしての可能性は大きいと言える。紙の書籍を読
まない若者とは正反対の「紙の書籍を読んでいた中高年層」もターゲットとしてあげられ
るのではないだろうか。年を重ねていくと、老眼により近くのものが見えにくくなる。つ
まり、紙の書籍を読むのが困難になることにつながる。その点、電子書籍では文字を拡大
することが可能なので、中高年層の人たちにとっては読書がしやすくなる。また、視覚障
害者にとっては音声読み上げ機能が付いている電子書籍であれば読書を楽しむことができ
る。
書籍が電子化されるだけで、ビジネスとしての可能性は広がる。今後、電子書籍市場が
拡大していくことで、電子書籍のビジネスはより注目されていくだろう。
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◆電子書籍市場への参入
現在は、Amazon の「Kindle」や Apple の「iPad」など、電子書籍端末が登場し、電子書
籍市場は一気に拡大している。そんな中で、電子書籍市場に参入しようと考えている企業
がどのくらいあるのか、どういった企業でどういった事業を展開しようとしているのだろ
うか。まず考えられるのが、出版社の参入する動きである。2010 年 2 月 1 日には 21 の大
手出版社が、電子書籍市場がもたらす出版業界への影響に対応すべく「日本電子書籍出版
社協会」を設立した。これにより、出版社も電子書籍市場へと参入してくることがうかが
える。
出版社の動きは他にも見られる。電子出版の取引モデルが確立していない中、様々な問
題を検討し、電子書籍を普及させるために研究を行っていく「電子書籍を考える出版社の
会:eBP」が設立された。この会に参入している出版社な、主に専門書・実用書の出版社で
あるため、電子書籍の教育的な普及についても議論され、進んでいく可能性がある。
また、Kindle や iPad などに対抗すべく国内の電子書籍市場の主導権を握ろうと動いてい
る企業もある。国内最大級の電子書籍配信プラットフォームを構築するために、SONY・凸
版印刷・KDDI・朝日新聞社の 4 社が電子書籍配信事業を展開する会社を設立した。電子書
籍端末を提供することも決まっていて、日本の電子書籍市場が大きく動き出すかもしれな
い。
他にも、様々な形で電子書籍市場に参入してくる企業がある。電子書籍を読むために必
要なのが、電子書籍アプリである。Apple の iBooks が有名な電子書籍アプリであるが、現
在は多くの企業で電子書籍アプリの開発事業が進められている。また、電子書籍化を代行
で行うサービスや、電子書籍の販売まで代行で行うサービスも登場している。
このように、電子書籍という市場に参入してくる企業はとても多く、今後は日本でも急
激に電子書籍市場が拡大していくことが想定される。
◆電子書籍に関する国の動き
総務省ではデジタルネットワークにおける出版物の利活用推進懇談会が行われている。
豊かな出版文化を築くことを目標に、良質な出版物を生む人材が排出されやすい環境整備
を行っている。原口総務大臣は ICT タスクフォースなるものを提唱した。これは 2015 年ま
でに国内 4900 万世帯すべてに光高速通信網を利用してもらおうという構想である。現在利
用可能環境にあるのが全世帯の 90%だが、利用率はわずか 30%。そして環境も整っていな
い世帯が 10%ある。これらすべての世帯において、利用可能な環境整備を行い、利用率も
100%まで上げる。一斉に活動を行うので、業者間での競争が期待できる。そして、一斉工
事によるコストカットも期待できる。最終的には全国民が電子書籍を手にして快適な生活
を過ごせることが狙いである。この「光の道」を全国民に通すことにより、高速なアクセ
ス権利も保障される。
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また、ソフトバンクの孫社長は、光の道構想について自らの意見を発表している。
「学生 1800 万人に感動を与える教育を目指したい。教科書データベースはデータセンタ
ー、クラウド上で管理され、学生の情報端末へ送られる。電子教科書を実現することは、
ダムを建設する費用よりコストがかからない。NHK の豊富な教育資材を活かす他、高画質
な動画や画像による教育も期待される。好奇心を刺激してやる気をアップさせる狙いも期
待できる。デジタル情報革命により、人々の悲しみを失くし喜びを与えたい」と語った。
様々な電子出版物が出回れば、様々な種類のフォーマットが混在する。これらすべてに
対応すれば多大なコストが発生する。一方、市場で独占的地位を有する端末によるコンテ
ンツの囲い込みが心配されている。このような状況のもと、ファイルフォーマットにはコ
ンテンツのマルチメディア展開が容易になるように、一定の統一性、共通性が求められて
いる。つまりフォーマットの標準化(オープン化)である。現在最有力フォーマットとされて
いるのが iPad でも使用されている ePub では現在、日本特有のルビ・縦書きに対応出来て
いない。そこで日本語表記に係る中間フォーマットの確立を行う。これで多様なフォーマ
ットに変換対応可能となる他、無駄な対応期間やコストもかからなくなる。中間フォーマ
ットについてはシャープ社とボイジー社の協調により統一規格策定に向けた大きな一歩が
踏み出された。この中間フォーマットに対しては、出版社印刷会社から賛同・支援する声
が数多く寄せられた。統一規格が出来ることにより、電子書籍を長期保存させ、それを後
世へ繋ぎ、人々の知のインフラへ繋げることができる。
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7.2 解決すべき著作権問題
(1)プロフェッショナル版における参考資料の引用・転載の問題
電子教科書 TextremeS プロフェッショナル版では、各節ごとに参考資料として、ほかの
書籍の一部を引用または転載をする。その際、一部引用・転載する書籍に対して権利処理
が必要となる。
◆引用と転載の違い
引用とは・・・・公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合におい
て、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引
用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない(著作権法第 23 条)。つまり、
条件を満たせば、他人の著作物を合法的に無償で自由に使える。条件とは、
・引用する必然性があること
・引用部分が周りの文章に対して、従の関係にあること
・引用されていることが明確であること
・出典を明記すること
・引用部分の長さが必要最低限であること。
・引用部分は元の著作物から改変しないこと
である。
転載とは・・・・他人の著作物をほかの出版物にそのまま載せ、公開すること。なお、上
記の引用の条件を満たさずに著作物を無断で使用することは、複製権や公衆送信権などの
著作権侵害になる。転載する際は、著作権者に了解をとり、同意のもとで著作権料を払う
必要がある。
電子教科書 TextremeS の場合は転載であると考えられる。よって、電子教科書 TextremeS
に書籍の一部を転載する際は、著作権者に許可を取り、著作権者と交渉・同意ものとで使
用する。学術書の著者の中には1ページ程度なら暗黙の了解で引用してもよいという著者
もいる。
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(2)著作権料について
出版社は出版物など著作物の著者に対して、売り上げに応じて著者に対して印税を支払
う。著作者が 2 人の場合は、印税を 2 等分する。電子教科書 TextremeS の印税の場合も同
様である。プロフェッショナル版では多くの書籍を転載するため、転載した書籍の著者全
員に配分する。一部転載した書籍に発生する著作権料の計算方法は、印税×(転載した書
籍の分量/電子教科書 TextremeS 全体の分量)である。ただし、(1)のように著者によっ
ては無償で提供してくれる場合もあるので、著作権者と交渉するのは重要である。
(3)電子教科書 TextremeS における転載料の扱い
電子教科書 TextremeS プロフェッショナル版で必要となる転載料であるが、上での見解
のとおり、プロフェッショナル版の印税 20%を、教員と参考書籍の著者で分割するという
形をとる。
また、転載の許可についてであるが、どこの誰が書いたかもわからない書籍に転載され
るとなると著者も考えてしまう。しかし電子教科書 TextremeS のように、専修大学の教科
書として使用される書籍であれば、この条件で転載を許可してくれる著者は多いと考えら
れる。
7.3 セキュリティについて
iBooks の書籍は「ePub」というフォーマットで読むことができ、ePub には DRM という
著作権管理(利用や複製を制御・制限)をする技術が付加されている。アップル社の DRM
は独自のもので、書籍を購入するときには書籍を購入したユーザを特定するための情報が
Apple 社のサーバに送信され保存される。コピーなどして、書籍を他人の iPad に入れて読
もうとしても、ユーザの情報が Apple のサーバと一致しないので読むことはできない。ま
た iPad を複数台持っている人の場合には、ユーザの情報はどの iPad でも同じなので複数の
iPad で読むことができる。
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