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生物の生態と自然環境
2016.10.13 生物の生態と自然環境 生物進化に必要な三つのしくみ 進化のしくみの3要素 1.変異(へんい,variation) 個体の持つ特徴に,ばらつきがあること. 2.遺伝(いでん,inheritance) 個体の持つ特徴が,子に伝わること. 担当:高見 泰興 質問:[email protected] レジュメ:http://www2.kobe-u.ac.jp/~takami/evol/ 3.淘汰(とうた,selection) 個体の持つ特徴に応じて,残す子の数に差があること. 1 2 生物の自己複製 2.生物進化に必要な3つのしくみ ・遺伝のしくみ ・無性生殖:体細胞を通じた自己複製 分裂(単細胞生物,イソギンチャクなど) 出芽(酵母菌など) 栄養生殖(ジャガイモ,ヤマノイモ(むかご)など) ・変異を生み出すしくみ ・有性生殖:生殖細胞を通じた自己複製 ・淘汰のはたらき 配偶子は減数分裂によって生じる 配偶子(卵と精子(または花粉)) → 受精 個体は死ぬが,自己複製を繰り返すことで 生物は存在し続ける 3 4 遺伝子 gene とは ・自己複製(繁殖)の過程で,親から子へと 伝わる生物の設計図. ・その実体は,DNA(デオキシリボ核酸)の 塩基配列. ・種Aの子は必ず種A ・親と子は似ている ・細胞の核に,染色体の形で含まれる. 遺伝子 gene 5 6 染色体 DNAの立体構造 ・基本的に偶数であり,同じ染色体が ペアになっている(相同染色体). ・相同染色体の片方は父親から,残り の片方は母親から受け継いだ染色体で ある. ・非常に大きな分子 ・ねじれたハシゴ状 ・二重らせん構造 (double helix) ヒトの染色体(男性,46本) ニラの細胞分裂の際にに見られる染色体 7 8 塩基 チミン : T アデニン: A グアニン: G シトシン: C DNAの構造 DNAの複製のしくみ (模式図) ヌクレオチド ・DNAの単位はヌクレオチドである. ・ヌクレオチドは4種類の塩基(T, A, G, C)の いずれかを含む ・ヌクレオチドは鎖状につながっており,特定 の塩基配列を形成する → 遺伝子 ・2本のヌクレオチド鎖が向かい合い, 塩基同士が結合して2本鎖を形成する. ・TはAと,GはCとのみ結合する(相補的). 9 遺伝のしくみ ・生物の持つ特徴は,遺伝子(生物の設計図) を通じて次の世代へ伝わる. ・遺伝子の実体はDNAであり,染色体の形で細胞の核 に含まれる. ・DNAは,半保存的複製により(ほぼ)正確にコピー される. ・ 親と子,同種の個体同士は,同じ遺伝子を共有しや 個々のヌクレオチド ヌクレオチド(塩基)の配列を保ったまま,複製できる 半保存的複製 10 2.生物進化に必要な3つのしくみ ・遺伝のしくみ ・変異を生み出すしくみ ・淘汰のはたらき すいので特徴が似る. 11 12 変異とは 変異の要因 (1)遺伝子のちがい(遺伝的変異) ・突然変異 ・組み換え 子に伝わる →進化に影響する (2)遺伝子以外のちがい(環境変異) ・成長によるちがい(例:大人と子供) 同じ種でも,個体によって特徴が異なる 親子は似ているが,違いもある. ・栄養状態によるちがい(例:やせと肥満) ・その他いろいろ. 子に伝わらない →進化とは無関係 13 14 DNAの塩基配列に生じる突然変異 染色体の乗り換えと遺伝子の組み換え substitution insertion deletion ・2本ある染色分体のうち,1本だけが乗り換えをする. DNA複製のミスによって生じる ・乗り換えの生じた染色体には,遺伝子の新しい組み合わせ ができる(組み換え) → 遺伝的変異. 15 16 遺伝的変異が生じるしくみ 1.突然変異 (1)DNA複製のミス ・半保存的複製の過程で,相補的でないヌクレオチド をつなげてしまうことがある. 設計図の写しまちがい ・DNAの長い鎖が,もつれたり絡まったりして, ヌクレオチドのつながる順序や方向が変化することがある. 設計図のページ順序入れ違い (2)外的要因 ・放射線や紫外線,化学物質,ウイルス等の影響でDNAが 破壊される. 2.組み換え 設計図の一部が紛失 ・配偶子を形成する過程(減数分裂)における 染色体の乗り換え. 設計図の新たな組み合わせ 2.生物進化に必要な3つのしくみ ・変異を生み出すしくみ ・遺伝のしくみ ・淘汰のはたらき 遺伝子(生物の設計図)に個体毎の違いが生じる 17 18 現実の個体数増加 個体数の増加 ネズミ算 ・1ペアが一度に6頭の子ネズミを生むと仮定する(個体数3倍). ・ 体重は30g で,年に1回繁殖すると仮定. ・60年後の個体数=4.2 × 1028頭,総重量=1.3 × 個体数 何らかの歯止めがかかる 1027kg ・ちなみに,地球の重量=6.0 × 1024kg 世代 あり得ない 個体数の増加は,様々な要因によって制限される (例)食物やすみかの量,捕食者,病気や寄生者等 資源の奪い合いや生き残りをめぐって,個体間の競争が生じる 19 競争の結果どうなるか 勝者:お腹一杯,マイホーム,健康 20 淘汰とは 生物個体の持つ特徴(形質)が その個体の適応度に影響すること ↓ 繁殖成功 敗者:はらぺこ,宿無し,病気 ↓ 繁殖失敗 競争の結果,次世代に残せる子の数に違いが生じる 適応度 21 自然淘汰と適応進化の例:工業暗化 限られたハチを めぐる競争 適応度=1 適応度=0 適応度=3 × × 高い適応度をもたらす形質が 世代を重ねるごとに増加する:適応進化 22 実験:明色型と暗色型を木に止まらせて鳥に食われるかどうかを調べた 19世紀前半まで,イギリスでは オオシモフリエダシャクBiston betulariaは 白色型がほとんどだった. → シラカバBetulaやブナの白い樹皮に 適応していた しかし,19世紀後半の工業化により, 樹皮が黒くなるにつれ,黒色型の頻度が 増加した. → 突然変異で生じた黒色型の適応度が 高まり,黒い樹皮に対する適応進化 が生じた. 23 ・汚れた森では暗色型 (melanic) が,そうでない森では明色型 (typical) が 食われにくかった. ・どちらの環境でも木の幹 (trunk) よりも枝の付け根 (limb joint) に止まっ た方が食われにくかった. 24 淘汰のかたち 平均 淘汰selectionという言葉について ・自然界において,生物と環境とのかかわり合いで 生じる淘汰を,特に「自然淘汰natural selection」と 呼ぶ. キリンの数 首が長い方が 適応度が高い 首の長さ 適応度 ・Selectionを「選択」と訳し,「自然選択」と呼ぶ 場合も多い(どちらも間違いではないが,choiceと混 同しないように注意). 次の世代 形質値 例)キリンの首の長さ 方向性淘汰 平均:長くなる 25 26 淘汰のかたち 淘汰のかたち 平均 平均 キリンの数 キリンの数 首が適度な長さの時 適応度が高い 首が長い,もしくは短い時 適応度が高い 首の長さ 適応度 次の世代 形質値 例)キリンの首の長さ 適応度 首の長さ 次の世代 形質値 例)キリンの首の長さ 安定化淘汰 分断化淘汰 平均:変らない ばらつき:小さくなる 平均:変らない ばらつき:二山型 27 28 身近にある淘汰と生物進化: 人為選抜(人為淘汰)と品種改良 身近にある淘汰と生物進化: 薬剤耐性菌の出現 コメの収穫量に変異がある (遺伝的変異) 病原菌 (薬剤耐性に変異がある) 薬剤を投与 (淘汰) よい形質を持つ個体を選抜する(淘 汰) その個体の種をまく (次世代へ遺伝) 薬剤耐性菌 再び増殖 (薬剤耐性が遺伝) 収穫量の高いコメの品種を作り出すことができる 病原菌を減らそうとしたにも関わらず,結果として薬剤耐性菌が増える 29 30 身近にある淘汰と生物進化: 自然淘汰と適応進化を 理解する上での注意点 なぜ成人病がなくならないのか 成人病はヒトの生命を脅かす 自然淘汰によって,それを克服できるようになっても 良いのではないか?(薬剤耐性菌のように) しかし,現実には成人病は増え続けている ある人の一生 0歳: 誕生 25歳: 結婚 30歳: 第一子誕生 50歳: 糖尿病発病 発病の有無は,子が産まれるか 否かに影響しない 子の一生 成人病は,ヒトの繁殖終了後に生じるので, ヒトの適応度(残せる子の数)を低下させない. →自然淘汰が働かないので,成人病を克服するような進化は起こらない 1.自然淘汰に目的は無い ・突然変異は,ランダムに起こる. ・自然淘汰は,ランダムな変異の中から, その時点で適応度の高いものを選ぶ. 例えば, 黒い樹皮上で暗色型の適応度が高くても・・・ 暗色型の突然変異が優先的に生じるわけではない. 暗色型の突然変異が生じなければ,暗色型は進化しない. 31 自然淘汰と適応進化を 理解する上での注意点 32 動物の進化と系統樹 2.進化は進歩ではない ・現生の生物は,すべて進化の最先端にいる. ・進化の方向は, 単純な生物(下等)→ 複雑な生物(高等) とは限らない. つまり, ・進化は枝分かれの過程である. ・複雑な構造が単純化する(退化)することもある. 退化も進化の1つの形である. (例)寄生虫,ヒトの尻尾 33 34 自然淘汰と適応進化を 理解する上での注意点 2. 生物進化に必要な3つのしくみ:まとめ 3.適応進化は万能ではない ・生物のデザインは必ずしも完璧ではない. ・突然変異によって生じ得ないデザインは, 進化しない. 例えば, ヒトに第3の手があると,きっと便利(適応度が高い)だが,そ のような変異は生じなかったので,ヒトに第3の手は進化しなかっ たと考えられる. 35 ・生物は自己複製を繰り返し,DNAの塩基配列として記録された遺伝子を次 世代へと伝える. ・個体変異は,遺伝子の違いである遺伝的変異と,それ以外の環境変異に よって生じる. ・遺伝的変異は進化に寄与するが,環境変異は子へ伝わらないので進化に寄 与しない. ・遺伝的変異は,DNAの複製ミスや損傷による突然変異と,減数分裂(配偶 子形成)の際の組み換えによって生じる. ・生物の個体数の増加は,様々な要因によって制限されるので,限りある資 源や生き残りをめぐって個体間の競争が生じる. ・競争の結果,個体の形質に応じて,次世代に残す子の数(適応度)に差が 生じる(=自然淘汰). ・自然淘汰にはさまざまな形があり,その形は環境によって決まる. ・自然淘汰によって,環境に適した特徴を持つ個体が増加する(=適応進 化).適応進化が起こるか否かは,遺伝的変異の有無に依存する. 36