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9.利己的遺伝子とゲーム理論

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9.利己的遺伝子とゲーム理論
9.利己的遺伝子と ゲーム理論 (「ケイン生物学」第 35,36,38,42 章,「生態学入門」
第 3,4,6 章)
【1】グループ選択と個体選択
(1)進化の単位
動物の形質や行動を研究する方法の 1 つは,その形質や行動が,その個体の生存や繁
殖成功度に有利かどうかを判断することである.
→ 集団にとって有利かどうかではなく,個体にとって有利かどうか.
(グループ選択
group selection)
(個体選択
individual selection)
例えば,
「ハクセンシオマネキは鋭いハサミを持っているが,相手を殺すほどの争いはし
ない.相手を殺すほどの争いは種の絶滅につながるからだ」,
「なわばりによる密度調節は,
集団にとって適応的であるために進化した」というのは,グループ選択的解釈.
このような「集団にとって利益になる」という考えは,現在でも広く受け入れられてい
る考え方であるが,進化的に解釈すると間違いであることが判る.
(2)グループ選択に対する反証
① 理論的反証:集団のために自ら進んで子供の数を制限するような利他的な性質は不安定
で進化しない.
→ なぜなら,もし,より多くの子供を残す突然変異が生じたら,その遺伝子の頻度が増
加し,子供の数を制限する利他的な個体と入れ替わってしまう.→ 結果的に,自然界
では,最も多くの子供を残せる産仔(卵)数が進化する.
② 実験による反証
例:Lack らによるシジュウカラの研究
親烏はもっと多くの卵を産卵できるのに,多くは8
9卵を産む.なぜなら,その卵数
の時,最も多くの子が残せるからだ.
実際には,最適ヒナ数より少し小さい値を示す → おそらく過大な投資は親烏の生存率
や次回の産卵数に影響する → 生涯の総生産ヒナ数を最大にするように産卵数が進化した.
※性比の進化(フィッシャー性比やハミルトン性比)も個体選択を支持している.
【2】血縁選択(kin se1ection)と包括適応度(inclusive fitness)
(1)ハタラキバチは非適応的か?
個体選択の考えでは,ミツバチの不妊カースト(ハタラキバチ)などが説明できない.
-1-
なぜなら,ミツバチでは,女王バチのみが産卵し,女王バチの姉妹や子であるハタラキバ
チは産卵しない.
ミツバチなど膜翅目昆虫の特殊な繁殖様式(半倍数性)の結果,姉妹間の血縁度(0.75)
は母子間の血縁度(0.5)よりも高くなる.したがって,雌は子を残すよりも,同数の姉妹
を残す方が自分の遺伝子を多く残すことができる→ 利他行動が進化する.
・血縁選択
利他者がC人の子供を犠牲にすることによって,血縁度rの受益者の子供
をB人増やせるとして,0.5 x C < 0.5 x B x rなら利他行動が進化する.
例:自分の生命を投げ打っても,2人以上の兄弟姉妹,あるいは4人以上の孫,あるいは
8人以上のいとこを助けることができるなら,自分の遺伝子をより多く残すことができる.
→ 血縁者間の利他行動の実例:警戒色,警戒声など
※このように個人だけでなく,血縁者までを考慮した適応度を包括適応度(inclusive fitness)
という.
(2)非血縁者間の利他行動
・非血縁者間でも利他行動が進化する.
① 相互利他行動(互恵的利他行動)
恩返しがある場合
チスイコウモリで餌(血液)を他個体に吐き与える行動.吐き与える餌がわずかでも相
手個体の生存に大きく寄与する.このように,ある利他行動による受益者の利益が,援助
者の出費より大きい場合,自分の行ったことに対するお返しがある期間中は,どちらも共
に得をする.
(問題点)
「いかさま師」を如何に防ぐか? → 相手に頻繁に出会い,相手の行動を覚えて
おくことができる(お返しをしない個体には,二度と手助けしない).
② ゲーム理論による解釈
例えば,動物が相手を殺すほどの争いをしない理由はゲーム理論によって解釈できる.
例えば,争いを好む個体(遺伝子)をタカ派,争いを避ける個体(遺伝子)をハト派とす
ると,場合によってはハト派の方が総合得点(適応度)が高くなる.
・タカ派
相手がハト派のとき(10点),相手がタカ派のとき(−5点)
・ハト派
相手がハト派のとき(2点),相手がタカ派のとき(0点)
-2-
ただし,総合得点は頻度依存的(タカ派とハト派の割合で異なる)ため,例えば,ハト
派ばかりの集団では,タカ派が有利となる.したがって,タカ派やハト派の個体(遺伝子)
が集団からいなくなることはない(タカ派やハト派の性質は程度の変化はあっても残る).
③ 相互扶助行動と個体の利益
例えば,群れ形成のようにお互いに利益がある場合は,血縁でなくても利他行動(協力
行動)は進化する.
【3】利他行動と操り(manipu1ation)
・包括的適応度を最大にする利他行動のみ進化する.
例外:カッコウのヒナを育てるホオジロ(托卵)など
カッコウのヒナを育てることは,ホオジロにとっては適応的でない(自分の遺伝子頻度
を下げる行動である).これは単なる寄生の一種で,利他行動とは異なる.→ カッコウが
ホオジロを操作している(操っている)と考えられる.
その他の例:
① 蚊に刺されると,掻きむしった結果,自分を傷つけてしまう(ウイルスがヒトを操作し
て,感染の機会を増やす).
② インフルエンザウイルスは,咳やくしゃみを宿主にさせて感染の機会を増やす.
③ ある種の吸虫に感染したカタツムリは,枝先に移動するようになる.その結果,吸虫の
次の宿主である鳥に捕食されやすくなる.
④ フクロムシは宿主であるイソガニの繁殖を阻害し(寄生去勢),より多くの栄養を自分
に回させる.
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