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小児の気管切開管理 - 神奈川県立こども医療センター
気管切開とは? 気管切開のこどもたちを地域で支えるために 気道管理の方法のひとつ 気管の一部に孔を開けて換気の出入り口にする 切開孔より上の気道障害に影響されない呼吸が可能 神奈川県立こども医療センター患者家族支援部 星野陸夫 (新生児科) 器具によって人工的な気道を維持する (渋滞している幹線道路を迂回するバイパス) 気管切開が効果のある病変部位と状態 ①上気道の狭窄・閉塞 カニューレ位置より上で渋滞 舌やのどの運動麻痺 声帯の麻痺 声帯付近の狭窄 のどの構造の弱さ etc. 気管切開の現状(ちょっと古い) 2007年日本小児科学会に報告したこども医療センターのデータ ②上部気管の狭窄・閉塞 ③その他の理由 ちょうどカニューレ付近で渋滞 気道の渋滞以外の原因の場合 気管の狭窄 気管の構造の弱さ 気管手術後 腫瘍や炎症の慢性化 etc. 人工呼吸管理目的 飲み込みの問題 etc. 新規気管切開(年齢群)の年次推移 気管切開の理由 66%が気道の渋滞回避目的 50 21 1歳未満 1-3歳未満 3-6歳未満 6-12歳未満 12歳以上 40 30 16 67 214 35 16 20 上気道閉塞 声門下狭窄 気管狭窄・軟化 喉頭軟化・狭窄,他 呼吸管理目的 手術目的 誤嚥 27 32 10 0 -1989 1990-1994 1995-1999 2000- 上気道閉塞を理由とした症例の多くは重症中枢神経障害を伴っていた。 声門下狭窄を理由とした症例の多くは長期呼吸管理の合併症と思われた。 呼吸管理目的35例のうち16例は在宅人工呼吸または入院呼吸管理中だった。 手術目的16例のうち15例は頭蓋または顔面手術,1例は気道異物除去を行っていた。 誤嚥を理由とした21例のうち18例は一期的に喉頭気管分離を行っていた。 気管切開症例の発達予後 気管切開孔の閉鎖48例(208例中 23%) 喉頭気管形成術 28 3 10 65 48 208 カニューレ抜去後に自然閉鎖 89 ほぼ正常 軽度障害 重度障害 判定不可 不明 23 38 • 喉頭気管形成術を行った23例中の10例(43%)が気管切開孔閉鎖できた • 閉鎖年齢は手術目的の術後閉鎖を除き,中央値6歳11ヶ月(8ヶ月∼15歳6ヶ月) 発達は原疾患に左右されており,発達良好であれば全例で言語獲 得(リーク発声を含め)できていた。 日常のケア 死亡41例の死亡原因と死亡場所 7 2 16 肺炎,その他の呼吸障害 中枢性換気障害 突然死 腕頭動脈瘻 その他 多臓器不全 3 41 8 気管に穴が開いている・・・と言う事より、 そこにカニューレが入っているためにケアが必要! 心不全 2 • Yガーゼ交換 • 切開孔周囲の皮膚清浄 • 固定ベルト周辺の皮膚ケア • 気道(カニューレ内)吸引 • 人工鼻による加湿 • カニューレ交換 大量吐血 1 不明 1 8 突然死8例のうち5例は自宅死亡,残り3例は入院中で,1例は夜間在宅人 工呼吸症例が日中に呼吸停止,2例は気道病変の急激な悪化に伴うものと 思われた。 他施設 自宅 2 6 自宅でのカニューレトラブルが誘因となって死亡した1例を除き,明らか な気管切開トラブルが原因の死亡例は認めなかった。 院内 33 気管切開の日常管理(人工鼻装着) 気管切開の日常管理(頚部清拭) 人工鼻の必要性 皮膚のかぶれや褥瘡を予防するためにも、毎日の頚部清拭は大切 だが、固定ベルトを外して皮膚を清浄する事は思いの外たいへん な作業で、できれば二人以上の人手を確保する事が望ましい。 • • • 異物の侵入を防ぐフィルター 小さな子どもほど使用するカニューレが細く・短いので、詰まり 易く抜けやすい。そのためカニューレはしっかり強く留めておき たいが、小さな子どもほど皮膚も弱いので、強く留めると皮膚を 痛め易いと言うジレンマが生じる。 • 高額:1個400-1200円 カニューレの固定・清拭にはそれぞれに様々な工夫を凝らしている。 加湿器:湿度を逃がさない(受動的加湿) 紙製/スポンジ製:薬剤(塩化カリウムなど)が染み込ませてある 洗浄すると加湿能力が保証できない 着けていると鬱陶しいと言うだけでなく、 気持ちを惹こうとして人工鼻を外す子も多い。 子どもが人工鼻を外さないように、これまたいろいろと工夫している 気管切開の日常管理(気道吸引) 1. 必要な物品 • • 1. 必要な物品 • • • 電動吸引器:メンテナンス、洗浄など 消耗品:吸引カテーテル、アルコール綿、洗浄水、保存容器 2. 手技の習得 • • • 気管切開の日常管理(カニューレ交換) カニューレ 固定ベルト 自己膨張式バッグ 2. 手技の習得 カテーテル先端の清潔操作(医学的概念の理解) 正しい吸引操作(ルーチンにはShallow法を基本) 乾式保管 • • 気道吸引は痰の喀出を医療的ケアとして行うものだが、 素早い入れ替え操作 カニューレ先端の清潔操作 カニューレ交換はいつでも・どこでもできるように準備が必要 咳をするのと同等の行為なので日常生活行為そのもの。 気管切開管理上問題となる合併症と対策(基本は予防) 主な気管カニューレの特徴と使い分け 材質 価格 特徴 ポーテックス 塩ビ 硬め きつめ 償還価格内 シェア高い シャイリー 塩ビ 硬め ゆるめ 償還価格内 小児用スタンダード 塩ビ 中間的 フレックス 償還価格内 可変長(最大長60mm) シリコン 柔らかめ フレックス 償還価格外 可変長(最大長75mm) ウルトラ・トラ キオフレックス アジャスト フィットNEO 素材感 曲がり角 1.周術期:出血、感染、気胸 2.遠隔期 (1)気切孔周囲肉芽:皮膚保清(治らなければ軟膏処置・外科治療) (2)気管粘膜傷害(出血、肉芽) 1) 吸引長さ制限:ルーチン吸引はカニューレ先端まで 2) カニューレ先端当たり防止:ガーゼ枚数、カニューレ変更 3) 薬液吸入 4) 外科治療 • こども医療センター耳鼻咽喉科では第一選択はポーテックスだが、シャイリー(翼部分を含め (3)感染 :監視培養 • 曲がり角の関係で、ポーテックスは気管前壁に、シャイリーは気管後壁に肉芽を生じやすい。 (5)カニューレ閉塞:人工鼻加湿 小児用設計)に変更する事も多い。 • 可変長カニューレは柔らかく曲がり角もフレックスなので肉芽を作りにくいが、可変コネク ター部が緩んでカニューレ抜去につながりやすいため、在宅ではなるべく使わない。 • シリコン製カニューレに変更する事で気管内肉芽の改善する場合もある。 (4)固定ベルトによる頚部皮膚びらん:予防的工夫、褥瘡対応 (6)気管腕頭動脈ろう (7)呼吸状態の急変(カニューレトラブル) 気道の解剖と気管切開(気管腕頭動脈ろう) 呼吸状態の急変時は、カニューレトラブルを疑う (喀痰による閉塞 または 半抜去) 腕頭動脈 ・ 対処方法の第一は、気管カニューレの抜去 ・ できるだけ患児を落ち着かせる ・ 可能であれば速やかに新しい気管カニューレを再挿入 (挿入困難な場合は1サイズ細い気管挿管チューブを使用) 舌 甲状軟骨 声帯 食道 輪状軟骨 気管腕頭動脈ろう 胸郭扁平化を起こすと、腕頭動脈とカニューレに 挟まれた気管前壁が、胸骨と椎骨の間で逃げ道を 無くして長期の動脈拍動で圧迫されて穿破する 喉頭 気管軟骨 胸骨 腕頭動脈 気管 椎骨 ・ 病院に行くまでの時間的余裕がない場合もある ・ 救急隊にも十分な対処は望めない 急変の原因がカニューレトラブルであれば,その場でカニューレを 入れ替えることができれば緊急回避できる可能性が高い 気管カニューレの長さはどうやって決めていますか? • • • • 学校の先生/看護師さんからの質問 カニューレはメーカーにより太さと長さの規格があります. 基本的には太さを基準に選びそれにより長さが決定します. 気管構造異常がないかぎり分岐部にぶつかる事はありません. 吸引の深さもカニューレの長さにより決まります. • • 吸引カテーテル先端がカニューレからわずかに飛び出る程度を基本にします. カニューレ長6cmであれば吸引の深さは6+2=約8cm(カニューレ外部長は約1.5cm) 1.5cm 6cm 気管肉芽はどうしてできてどうやって管理・治療するのですか? • • • • • • 肉芽は慢性的な炎症の結果盛り上がってくる異常組織です. 炎症の原因は物理刺激、化学刺激、生物学的刺激など様々です. カニューレ先端が粘膜を擦ることによる物理刺激でも発生します. 多くはカニューレ先端が同じ場所に当たらないようにすると治ります. • • カニューレの長さを変えると刺激箇所が変わるため肉芽が治りやすくなります. 同じ長さのものでもメーカーを変えると湾曲角が違うため当たる場所が変わります. 異常組織のため出血し易いですが大出血する事はあまりありません. • 逆に少量の出血が続く場合には肉芽(またはその前段階)が出来ている可能性も考えられます. 炎症止めの吸入薬を使う事もあります. カニューレ抜去時にはどうすればよいでしょうか? • • • • • • • まずは自分たちがあわてない. 次に児童(生徒)を落ち着かせる. カニューレが気管切開孔付近に残っていたら取り除く. 気管切開孔が狭そうだったら指で優しく拡げてあげる. • 分泌物が吹き出してくる場合には気管切開孔周辺を優しく拭き取ってあげる.. • 状況によっては抜けてしまったカニューレをそのまま使ってもいいかも知れません. 可能であれば新しいカニューレを再挿入する. 以上の事を行いつつ救急要請・病院への連絡をする. あわてず対処できるように日頃から防災訓練(イメージだけでも)する. FAQ(その他) 【いちばん困る質問】 カニューレ抜去してどのくらいの時間的な余裕がありますか? なかなか試す機会に恵まれないので本当の事はわからない。 • • • • • 気管切開が必要になった理由を考え直してみる。 上気道か、気管切開孔に気道開通できていればなんとかなる アクティブな気管病変がある場合にはちょっと注意 • • • • 気管切開孔造設から時間が経つほど危険は減少する。 気管切開孔周辺がしっかりしているほど危険は減少する。 児童(生徒)を落ち着かせる事ができれば危険は減少する。 指で切開孔を拡げれば時間を稼げるかも知れない。 • • 活動中の反り返りは大丈夫ですか? • 程度によると思いますので多少の注意は必要になるかも知れません. 気管切開孔が閉じやすい児と閉じづらい児がいるのはなぜでしょうか? • 皮膚や筋肉、他周辺組織の様子によります.多くの場合に高年齢ほど、気切手術から時間経過し ているほど気切孔はしっかりしています. カニューレ抜去事例を教えてください. • 学校での抜去事例は少ないと思います.本人が周辺を掻いた時などに誤って引っ掛けてしまう事 はありました. プールの水が跳ねて気管切開孔に入っても大丈夫ですか? • • • 完全水没しなければあわてる必要はありませんが医師と連絡を取り相談してください. 砂粒が粘膜を傷める事の方が厄介です. 水遊びや砂遊びの際にはバンダナなどで気管切開を保護してください. 永久気管孔の吸引ではカテーテルをどのくらい挿入してよいですか? • 基本的には孔周囲を拭えばいいかも知れませんが、吸引する場合には数cmでいいと思います. 気管切開と腕頭動脈の位置関係を教えてください.