Comments
Description
Transcript
メッシュ鏡面の特徴 実験室でのRF性能測定 野辺山45m電波望遠鏡を用
第31回NROユーザーズミーティング 野辺山4455mm電波望遠鏡を用いた4433GGHHzz帯における 金属メッシュ鏡面のRRFF性能測定 亀谷和久((東京理科大))、坪井昌人((JJAAXXAA//IISSAASS)) Abstract 宇宙空間において電波の送受信を担う大口径アンテナを実現するためには、軽量かつ観測周波数において十分な反射性能を持つ鏡面が不可欠である。これを満たす材料として、通信衛 星やスペースVLBI観測衛星の大型展開アンテナでは、金属細線を用いて織られた金属メッシュ鏡面が利用される。我々は、スペースVLBI観測衛星ASTRO-Gの主鏡面として用いられる予定 であった金属メッシュ鏡面素材の43GHz帯(波長7mm)における反射率、透過率、およびオーム損失の各成分を実験室において精密に測定してきた。今回、同じ金属メッシュ鏡面素材につい て、国立天文台野辺山45m電波望遠鏡のビーム伝送系第5鏡にこの金属メッシュを貼付してSiOメーザー(43GHz)の天体観測を実行した。この観測によりメッシュ無しの場合に比較してピー ク温度の低下とシステム雑音温度の増加が検出され、これらから実験室では測定できなかった空に終端された散乱成分とメッシュによる損失に起因するフィード効率の低下を測定することが できた。さらに金属メッシュ鏡面の張力や回転角度に対するこれらの成分の依存性も測定することができた。 金属メッシュアンテナの用途と感度 メッシュ鏡面の特徴 宇宙機において大型アンテナを用いる場合、軽量かつ軌道上で展開できるという条件 を満たす方式として、通信衛星と天文観測衛星のどちらにおいても金属メッシュ鏡が採用 されている(例:きく8号、はるか)。アンテナの感度は一般にG/Tsysで評価されるが、このう ちGはシステム毎に一定であるのに対して、 Tsysは下記のように観測対象、損失、受信機 雑音によって変動する。天文観測の場合には通信衛星の場合よりも損失によるTsys増加 が顕著になる。従って、天文観測に供するためには特に低損失のアンテナ開発が不可欠 となる。本研究では、これまで金属メッシュ鏡が天文観測に使われた前例のないミリ波 (43GHz帯)における金属メッシュ鏡面のRF性能を精密に測定した。 本研究で測定の対象とした金属メッシュ鏡 面は、金メッキを施したモリブデン線を右図のよ うに編み上げて形成されている。このようなメッ シュ鏡面の場合、金属板で反射面を構成する 場合には見られない次のような性質がある。 (1)メッシュの隙間から電波が透過することによ る損失がある。 (2) メッシュの金属線間の接触抵抗等による損 失(オーム損失)がある。 HALCA衛星の大型展開アンテナ(LDR)で用い られた金属メッシュに対する測定(22GHz)では、 (2)の損失が無視できない可能性が指摘されて おり[1]、より高周波数であるミリ波では注意を要 する。 TA*: 観測対象のアンテナ温度 Tamb: 環境の温度 TRX: 受信機雑音温度 eτ: 損失 損失とTsysの対応例 Loss Tsys (Case1) Tsys (Case2) 0 dB x 2.7 53 K x 1.2 350 K 0.1 dB 60 K 357 K 1 dB 140.5 K 437.5 K Case2 Kamegai et al. 2013, PASJ, 65, 21 検出器としてASTRO-‐G用冷却LNAとホーンアンテナを利用して、金属メッシュからの反射 の熱放射を常温と液体窒素温度で2温度較正しながら測定した。下記の2通りの測定から、 オーム損失成分(α)、吸収率(β)、反射率(γ) を算出した。測定周波数は43 GHz帯(41-‐45GHz) である。測定はメッシュ鏡面の張力、回転角、表裏を変化させた32通りについて行なった。 ① 透過を常温吸収体(HOT)で終端して測定 T1 = (α+β)THOT+γTCOLD ② 透過を液体窒素温度吸収体(COLD)で終端して測定 T2 = αTHOT+ (β+γ)TCOLD なお、α + β + γ = 1 である。 終端のための 電波吸収体 透過率(β) ① メッシュのオーム損失(α) ② 反射率(γ) Radiometer テスト体 (金属メッシュ) LN2 表面 裏面 LN2 ↑メッシュの座標系と回転角θの定義。回転角が0°のときの 反射率が大きい面を表面とした。 (α) (β) (γ) ↑測定装置の構成 ↑メッシュ張力に対する反射率(γ)、透過率(β)およびメッシュの オーム損失成分(α)の測定結果。右パネルは表面が反射面、左 パネルは裏面が反射面の場合を示す。 ■金属メッシュによるシステム雑音温度の増加 この金属メッシュを使用する場合のシステム雑 音温度Tsysは次式のように表される。 TRX + α Tamb + β Tback + γ TCBR Tsys = γ TRX: 受信機雑音温度[K], Tamb: アンテナの物理温度[K], Tback: アンテナ後方からの放射温度[K], TCBR: 宇宙背景放射による寄与 = 2.7 [K] 【第1項】受信機雑音温度と反射率γの寄与 ASTRO-Gの場合、受信機雑音温度TRX < 60Kと測定さ れている。これを60Kと仮定すると、測定された反射率γに より、この項は65-79Kと見積もられる。 金属線太さ 30μm 織り方式 シングルサテン 織り密度 28ゲージ(間隔0.9mm) 野辺山45m電波望遠鏡を用いた測定 上述の実験室での測定では、空に終端された散乱成分や望遠鏡のフィード効率に金属 メッシュ鏡面のRF性能が与える影響を測定することはできない。これらを測定するために、 国立天文台野辺山45m電波望遠鏡を用いた測定を2013年6月に行なった。 ■測定 望遠鏡のビーム伝送系の金属鏡の一つにビームを覆うように金属メッシュを貼付して観測 を行う。このとき、望遠鏡のフィード効率ηを、η = 1 — ζ — κ (ζ = α + β、 κは空に終端され た散乱成分)とし、望遠鏡の物理温度Tambが大気温度Tatmと同じ(Tamb = Tatm)と仮定すると、 チョッパーホイール法で校正された後のアンテナ温度Tcは、受信機出力で測定されたアンテ ナ温度TAを用いて下式で表される。 TA TC = −τ κ + ηe ここで、野辺山45m望遠鏡のフィード効率 η=0.9 (Ukita & Tsuboi 1994)、43GHzにおける τ ≤ 0.1 を仮定 すると、κを見積もることができる。 次に、Tamb = Tatm に加えてκが十分小さいと仮定す ると、金属メッシュによるTsysの増加分ΔTsysは、ηの減 少分Δηを用いて、下式で表される。 ⎡ 1 1⎤ τ Tsys = e (TRX + Tamb ) ⎢ − ⎥ ⎣ η +η η ⎦ この式からΔηを見積もることができる。 今回の観測では、45m望遠鏡のビーム伝送系第五 鏡に金属メッシュを貼付し、SiOメーザー輝線(SiO J=1-‐0 v=1 @43.122 GHz, v=2 @ 42.821 GHz)の天体観 測を行なった。メッシュの張力は350/500/700 [gf/m]、 メッシュ面の回転角度は45度刻みで測定した。 1.0 1.0 0.9 0.8 0.8 0.7 0.7 0 0.6 45 0.5 90 0.4 135 張力[gf/m] 350 0.5 500 0.4 700 0.3 0.2 0.1 0.1 0.0 0.0 300 100 200 回転角度 [deg] 回転角度[deg] 180 0.3 0.2 0 【第3項】透過率βによる増加 この項はアンテナ後方にあるものの放射温度に比例す る。後方に地球がある場合(Tback=300K)、システム雑音温 度を14-33K増加させるのに対し、後方が宇宙背景放射の みの場合(Tback=TCBR=2.7K)、0.12-0.30Kの増加となる。 ↑野辺山45m電波望遠鏡によって観測された SiOメーザのスペクトル例。赤線は金属メッ シュを第五鏡に貼付して観測したもの。灰色 線は金属メッシュ無しのもの。 0.9 0.6 【第2項】オーム損失成分αによる増加 この項はアンテナの物理温度に比例する。ASTRO-Gの 軌道上でのアンテナ物理温度は最大490Kと推定され、 こ の場合Tsysを22-103K増加させると見積もられる。 以上より、第2項および第3項の寄与によりシス テム雑音温度は少なくとも22K増加し、全体で 90-185Kと見積もられる。 金メッキモリブデン線 [1] 花山ほか, 電機情報通信学会論文誌, B-II, vol. J76-B-II, No.4, pp. 268-276 (1993) → 天文観測の方が損失のTsysへの寄与が大きい 実験室でのRF性能測定 金属線 κ Case1 Δη Case1: 天文観測の場合 → TA* 3 K Case2: 通信衛星の場合 → TA* 300 K 本研究に用いたASTRO-G大型展開アンテ ナ用金属メッシュの拡大写真。赤線と緑線は それぞれ1本の金属線の織りパターンを示 す。 本研究に用いた金属メッシュ鏡面仕様 300 225 270 315 400 500 600 Tension [gf/m] 700 0.0 0.0 -‐0.1 -‐0.1 -‐0.2 -‐0.2 -‐0.3 -‐0.3 0 -‐0.4 45 -‐0.5 90 張力[gf/m] -‐0.4 350 -‐0.5 500 -‐0.6 700 -‐0.7 Δη Tsys = TA* + Tamb(eτ-1) + eτTRX κ アンテナのシステム雑音 (Tsys) 0.9mm -‐0.9 -‐0.9 -‐1.0 -‐1.0 300 200 回転角度 [deg] 300 180 -‐0.7 -‐0.8 100 135 -‐0.6 -‐0.8 0 回転角度[deg] 225 270 315 400 500 600 Tension [gf/m] 700