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Agilent 7700 ICP-MSとMS用多変量解析 ソフトウェア Mass Profiler
Agilent 7700 ICP-MS と MS 用多変量解析 ソフトウェア Mass Profiler Professional を利用した、貯蔵温度および容器に起因 するワイン中微量金属成分の分析 アプリケーションノート 食品安全 著者 概要 Helene Hopfer and Susan E. Ebeler ICP-MS は、ワインに含まれる 20 種類以上の微量金属の分析が可能で、容器および貯蔵 Department of Viticulture and Enology の条件が及ぼす影響を検証することができます。容器や貯蔵の条件の違いにより、5 種 University of California-Davis 類の微量金属元素について検出下限 (LOD) が 0.001 から 0.044 ug/L、定量下限 (LOQ) が Davis, CA USA Jenny Nelson Agilent Technologies, Inc. 5301 Stevens Creek Blvd. Santa Clara, CA USA 0.003 から 0.057 ug/L の違いが見られました。これらの値は、容器のタイプ (バッグイン ボックスとコルクまたはスクリューキャップで密閉されたボトル) による金属成分の違い で、大きな差が出ることが分かりました。 はじめに 実験手法 ワインの金属成分は、原料のぶどうや、ぶどう栽培およびワイン 化学物質および標準試料 醸造により取り込まれます (参考文献 1)。現在行われている研究 全ての溶液は、Milli-Q (Millipore) を用いて抵抗 >18 MΩ•cm で調 のほとんどは、ワインの原産地域特定のための元素のプロファイ 製しました。 リングに焦点が当てられています。しかし、以前の研究では、ぶ どう畑の土壌の微量元素のプロファイルと、その土壌で栽培さ 薬品/標準溶液 購入先 れたぶどうから作られたワインとの相互関係は乏しく、ワイン製 高純度硝酸 Fisher Scientific 造および貯蔵の過程の中で何らかの変化が起きていることが考え Claritas PPT グレード内部標準溶液 Mix 1 SPEX CentriPrep られます (参考文献 2)。 Claritas PPT Grade マルチエレメント 検量線標準液、溶液 2A および 3 SPEX CentriPrep エタノール、200プルーフ GoldShield これは、ワイン製造の過程において、ぶどうがステンレスやオー ク材、ガラスなど他のものと接触するためであり、特別に驚くこ とではありません。また、希土類元素は、ガラスのボトル、樽、 ステンレスタンクの違いにより濃度が異なることが分かっていま 測定条件 す (参考文献 3)。しかし、いずれの文献にも貯蔵の条件の詳細に 本研究は Agilent 7700x ICP-MS を用いて測定を行いました。装置 ついては明記されていません (ガラスボトルの種類、樽の古さや の設定条件を表 1 に示します。 種類、洗浄方法など)。上記の結果は、貯蔵の違いによるワイン 含有元素のプロファイルを示唆しています。 表 1. ICP-MS 装置パラメータ条件 また、これら以外の要素もワイン中微量元素のプロファイルに影 RF 出力 1550W 響する可能性があります。本アプリケーションノートでは、ワイ キャリアガス流量 1.03 L/min 1.1 L/min ンの容器および貯蔵温度が赤ワインの含有元素プロファイルに及 ネブライザガス流量 ぼす影響について検証します [1]。ICP-MS を用い、20 以上の微 ネブライザタイプ マイクロミスト 量金属元素を定量しました。Mass Profiler Professional ソフトウ サンプリング深さ 10 mm エアを用い、微量元素の統計解析を行い、容器と貯蔵条件の違 スプレーチャンバ温度 2 °C いによるマッピングを試みました。結果では、ワインの貯蔵温度 は容器の種類に比べさほど影響はなく、スクリューキャップで密 ORS3 コリジョンセルガス流量 (He) 4.3 mL/min、 75As および 78Se では 10 mL/min 栓されたワインには、スズが多く検出されました。 定量された同位体 51V、52Cr、55Mn、56Fe、57Fe、58Ni、 59Co、60Ni、63Cu、66Zn、75As、78Se、 111Cd、117Sn、118Sn、119Sn、120Sn、 133Cs、205Tl、208Pb Sweep 回数/繰り返し 2 100、3 回繰り返し サンプル サンプル前処理 市販のカリフォルニアセントラルコースト産の 2009 年カベルネ・ ワインサンプルは参考文献 [1] で紹介された手順に沿って準備し ソーヴィニヨンを 12 種類の測定に用いました。以下の通り、 ました。1 % 硝酸にて 1:3 に希釈し、エタノール濃度を 4 % まで 10 °C、20 °C、40 °C と 3 種類の貯蔵温度と 4 種類の容器タイプ 抑えました。ワインは密栓されたものから直接採取され、揺れに を検証しました。 よってワインが密栓に触れないように注意しました。 1. 0.75 L グリーンガラスボトルに天然コルクで密閉したもの (24 × 49 mm AC-1 グレード、ACI コルク、フェアフィールド、 CA) データ測定 2. 0.75 L グリーンガラスボトルにスクリューキャップで密閉し たもの (アルミ Stelvin キャップ 30 × 60 mm、Federfin Tech S.R.L.、トロレッモ、イタリア、28.6 × 2 mm スズ- ポリ塩化 ビニリデン (PVDC) ライナー、Oenosea、シャゼ、フランス) ヒートマップ分析を含む統計解析を行いました。 Agilent MassHunter ソフトウエアを用いてデータ測定を行い、 Mass Profiler Professional ソフトウエアにて主成分分析 (PCA) と 3. バッグインボックス (3 L DuraShield 34ES、Scholle Packaging、ノースレーク、IL) 全てのサンプルを 6 か月間、直立の状態で貯蔵しました。図 1 に 使用したサンプルをまとめます。 6 ヶ月貯蔵 スクリューキャップで密栓されたボトル (ハイフィルレベル) スクリューキャップで密栓されたボトル (ローフィルレベル) 天然コルクで密栓されたボトル (AC-1 グレード) 10 ° C で保存 20 ° C で保存 40 ° C で保存 3 L バッグインボックス 図 1. サンプルと貯蔵温度 3 結果と考察 内部標準溶液を 1 % 硝酸にて 1 μg/L に希釈し、T コネクタにて 接続してサンプルと同時にネブライザに注入しました。内部標準 溶液には 6Li、 45Sc、 72Ge、 89Y、 115In、 159Tb、 209Bi の元素が含 微量元素の定性と定量 まれていました。7 つのサンプルブランクを分析し、IUPAC に定 測定された元素は全て 0.1 から 500 μg/L の 5 点濃度のマトリク められている手順に従って検出限界 (LOD) と定量下限 (LOQ) を算 スマッチ溶液 (1 % HNO3 および 4 % エタノール) で作成した検量 線から定量されました。図 2 に検量線の例を示します。R2 出しました。LOD および LOQ、検出下限 (DL) を表 2 に示します。 (相関 係数) は 0.999 以上でした。ワインは 3 回繰り返して分析され、 0.5、1、10 μg/L の範囲でスズ (Sn) をスパイク添加したワインサ ンプルも品質管理用サンプル (QC サンプル) としてシーケンスに 追加しました。 51 V [He] ISTD:45Sc [He] ×101 y = 0.0428*x + 3.6717E-004 3 R = 1.0000 DL = 0.00367 ppb BEC = 0.00657 ppb Cr [He] ISTD:45Sc [He] y = 0.0559*x + 0.0115 3 R = 1.0000 DL = 0.03619 ppb BEC = 0.206 ppb 51 V 118 Sn [He] ISTD:115In [He] y = 0.042*x + 7.4020E-004 3 R = 1.0000 DL = 0.02657 ppb BEC = 0.1763 ppb ×101 52 Cr 1 200 400 濃度 (ppb) 0 600 63 Cu [He] ISTD:45Sc [He] y = 0.0785*x + 0.0968 3 R = 1.0000 DL = 0.02675 ppb BEC = 1.259 ppb 400 600 400 600 濃度 (ppb) ×101 63 208 Cu Pb 比 比 2 200 208 Pb [He] ISTD:209Bi [He] y = 0.0158*x + 0.0012 R = 1.0000 1 DL = 0.005502 ppb BEC = 0.07546 ppb ×101 0.5 1 0 200 400 濃度 (ppb) 600 Sn 1 1 0 118 比 2 比 2 比 2 52 ×101 0 200 濃度 (ppb) 図 2. 5 元素の 0.1〜500 μg/L の濃度範囲の検量線 (n = 3)。 4 0 200 400 濃度 (ppb) 600 表 2. 5 元素の検出下限 (LOD)、定量下限 (LOQ)、検出限界(DL)。単位は µg/L (n = 7)。 51V 52Cr 63Cu 118Sn 208Pb LOD* 0.001 0.007 0.044 0.018 0.001 LOQ† 0.003 0.023 0.14 0.057 0.003 DL‡ 0.036 0.027 0.027 0.006 0.004 * LOD = 3.14*sd (標準偏差) † LOQ = 10*sd ‡ DL は Agilent ICP-MS MassHunter Workstation ソフトウエア (v. A.01.02) により 算出された値です。 容器および貯蔵温度による微量元素濃度の違い スクリューキャップで密閉されたサンプルのみ Sn のレベルの上 昇が見られました。これは、スズがスズ-PVDC ライナーから貯蔵 表 3 にある通り、V、Cr、Pb、Cu、Sn の 5 種類の元素は、容器 されているワインに浸透したためだと考えられます。これは、暖 と貯蔵温度により大きな違いがでました。バックインボックス められた際に起こる体積膨張のためにライナーにワインが接触し は、一番低い微量元素濃度を示しました。ボトルサンプルでは、 てしまうためと考えられ、この効果は貯蔵温度が 40 ºC の時に顕 バッグインボックスサンプルよりクロムの濃度が高く、これは、 著に見られました。低温で貯蔵されたワインでは、ライナーにワ サンプルがボトルに移し替えられる前に 2 日間ステンレスのボト インが触れないため、Sn がどのようにして浸透するかは定かで ルに保管されていたためだと考えられます。 はありません。 Sn のレベルは、高温でスクリューキャップで密閉されたボトル で高く、V と Cu のレベルは温度が上がるほど減少しました。Cu 容器タイプと貯蔵温度による Pb レベルの違いが見られ、特にハ イフィルスクリューキャップにて 10 ºC で保管した際は高いレベ のレベルの減少は、天然コルクとバックインボックスの場合にも ルとなりました (表 3)。これらの違いは容器タイプの違いと、温 見られました。ハイフィルとスクリューキャップで密閉されたボ 度変化による金属錯体形成によるものと見られます。 トルサンプルでは、V、Cu および Sn が全ての貯蔵温度について 高い濃度となりました。全ての元素はそれぞれの規制値を下 回っていました。 表 3. 容器のタイプおよび温度により元素の濃度が大きく異なる (p〜0.05)。 51V 52Cr 63Cu 118Sn 208Pb 10 °C 14.8 14.1 21.1 0.1 4.3 20 °C 15.4 14.7 22 0.0 4.5 40 °C 13.9 14.1 11 0.0 4.6 10 °C 15.5 22 84.1 0.8 5.4 20 °C 15.6 22.3 59.8 0.6 5.2 40 °C 13.1 18.4 28.5 0.4 4.5 ローフィルスクリューキャップ 10 °C 15.5 22.7 41.5 6.0 5.1 20 °C 15.7 23 50.5 8.7 5.5 バッグインボックス 天然コルク 40 °C 15.3 22.7 33.8 12.3 5 ハイフィルスクリューキャップ 10 °C 34.7 22.9 152.7 6.3 8.8 20 °C 22.1 22.1 68.7 8.3 6.5 40 °C 20.4 22.5 50.2 16.0 6.4 5 図 3 のヒートマップと図 4 のグラフにある通り、20 種類の元素 のインジケータになり得ます。ヒートマップで大きく見られた違 が容器タイプと温度の違いによりモニターされました。これらの いは、3 温度とも同様にバッグインボックスとハイフィルスク 元素の濃度パターンは、ボトルへの注入方法と温度管理の経歴 リューキャップでした。 バッグインボックス 20 °C 10 °C 40 °C ローフィル スクリューキャップ 天然コルク 10 °C 20 °C 40 °C 20 °C 10 °C 40 °C ハイフィル スクリューキャップ 10 °C 20 °C 51 V He 52 Cr He 55 Mn He 56 Fe He 58 Ni He 59 Co He 63 Cu He 66 Zn He 69 Ga He 75 As He 78 Se He 111 Cd He 118 Sn He 133 Cs He 205 Tl He 208 Pb He 図 3. 貯蔵温度および容器のタイプ別に分類された元素のヒートマップ、青 = 低濃度、黄色 = 中濃度、赤 = 高濃度 Log 2 に規格化されたカウント 2 1 0 -1 -2 バッグイン ボックス 天然 コルク ローフィル ハイフィル スクリュー スクリュー キャップ キャップ 10 °C バッグイン ボックス 天然 コルク ローフィル ハイフィル スクリュー スクリュー キャップ キャップ バッグイン ボックス 20 °C 天然 コルク ローフィル ハイフィル スクリュー スクリュー キャップ キャップ 40 °C 図 4. 貯蔵温度および容器のタイプ別に Log2 に規格化された強度 (各線は各元素を表す) 6 40 °C 主成分分析 2 10 °C 20 °C 40 °C Mass Profiler Professional ソフトウエアを用い、5 種類の元素に ついて、サンプルの類似点と相違点をグラフ化する主成分分析 1 PC 2、17.2 % 因子寄与 (Principal Component Analysis: PCA) を行いました。最初の 2 つの 主成分 (PC) は、全体の 93.2 % の寄与が見られ、PC 1 では 76.0 %、 PC 2 では 17.2 % となりました。 サンプルは PC 1 に沿って容器タイプによって分別され、バッグ インボックスサンプルは PCA バイプロットの左側、天然コルク 密閉ボトルの隣に配置されました (図 5 参照)。2 つの密閉スク スクリューキャップ、 ローフィル 天然コルク スクリューキャップ、 ハイフィル 0 -1 バッグインボックス -2 -4 リューキャップ (ハイおよびロースクリューキャップ) はバイプ -2 0 2 4 PC 1、76.0 % 因子寄与 ロットの中央および右側に配置されました。PC 2 は、貯蔵温度 図 5. PCA バイプロット。容器タイプ別 PC 1 と温度別 PC 2。 の温度の違いにより分別されました。よって、PCA 分析は 4 つの 容器タイプに分類され、ワインサンプルの容器の違いを元素の濃 度パターンにより予想することができます。 1 図 6 に、異なるサンプルの PCA ローディングプロットを示しま す。原点から各元素の距離は、元素が容器タイプまたは貯蔵条 52 0.5 PC 2、17.2 % 因子寄与 件と関係があるかないかを示しています。今回の場合、5 元素全 てが深く関与していることが分かりました。 図 7 のベン図は、5 元素がそれぞれ大きく異なることから、貯蔵 条件よりも容器のタイプが元素成分を決定する上で一番影響を 及ぼすことを示しています。 118 0 Cr He Sn He 63 Cu He 208 -0.5 51 Pb He V He -1 結論 -1 -0.5 0 0.5 PC 1、76.0 % 因子寄与 図 6. PC 1、PC 2 について貯蔵と容器の違いによる元素成分を表した PCA ローディングプロット。 ICP-MS にてワインを分析し、ワインの容器や保管方法など外因 性因子によりワイン中の含有元素のプロファイルが異なることが 分かりました。容器のタイプが PC 1 に影響を及ぼし、貯蔵温度 は銅の濃度に大きく影響を及ぼすことが分かりました。更に、製 p(Corr) (容器 - 温度) 0 エンティティ p(Corr) (容器) 5 エンティティ 造と貯蔵段階ごとに詳細に分析することで、ワイン製造過程によ る元素成分の影響をより明確に把握することができます。 0 5 0 0 0 0 0 p(Corr) (温度) 0 エンティティ 図 7. 容器のタイプが、温度または容器・温度より、元素成分に 影響を及ぼすことを示すベン図。 7 1 参考文献 1. H. Hopfer, et al.,“ Profiling the trace metal composition of wine as a function of storage temperature and packaging type” , J. Anal.At.Spectrom., 28, 1288-1291 (2013). 2. V. F. Taylor, et al.,“Multielement analysis of Canadian wines by inductively coupled plasma mass spectrometry (ICP-MS) and multivariate statistics” , J. Agric.Food Chem., 51, 856-860 (2003). 3. E. C. Rossano, et al.,“Influence of winemaking practices on the concentration of rare earth elements in white wines studied by inductively coupled plasma mass spectrometry” , J. Agric.Food Chem., 55, 311-317 (2007). 詳細情報 本書に記載されたデータは典型的な結果です。アジレントの製品 とサービスの詳細については、アジレントの Web サイト (www.agilent.com/chem/jp) をご覧ください。 www.agilent.com/chem/jp アジレントは、本文書に誤りが発見された場合、また、本文書の使用により付随的 または間接的に生じる損害について一切免責とさせていただきます。 本資料に記載の情報、説明、製品仕様等は予告なしに変更されることがあります。 アジレント・テクノロジー株式会社 © Agilent Technologies, Inc. 2013 Printed in Japan August 1, 2013 5991-2570JAJP